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「これが私の生きる道!運命編8.5カザマ入院編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-29 21:18/2006-07-04 21:43)
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(二月ニ日午前十時、スエズ運河上空「ミネルバ
 」艦内)

 「あの、本当に砲撃で吹き飛ばしても、よろし
  いのでしょうか?」

 「そうしなければ通れないのだ。仕方があるま
  い」

 「そうなんですけど・・・」

 「環境にはよろしくないがな。事実を知ったら
  、(緑豆)の連中が怒鳴り込んでくるやも知
  れぬ。タンホイザー起動。威力は最小値でや
  れよ。目標、座礁している輸送艦群。撃てぃ
  !」

「ミネルバ」に座上したクルーゼ司令の命令で、
タンホイザーが発射されて、スエズ運河内で座礁
していた輸送船が吹き飛ばされ、バラバラにされ
ていく。
スエズ運河はここ数百年で拡張されて、広くなっ
ていたが、その各所に老朽化した輸送船が沈んで
いて、通行が困難になっていたのだ。
ユーラシア連合駐留軍が、万が一、スエズ運河が
落ちた時のために、水道各所に用意させていたよ
うだ。
そのため、スエズ基地の修理と整備や、捕虜の管
理などと平行して、水道内の掃除という任務に「
ミネルバ」と「ヴィーナス」が借り出されていた

空を飛べるのと、火力に優れているという点が買
われたらしい。

 「あらかたバラバラに吹き飛ばして、通行に邪
  魔な残骸は、水中モビルスーツ隊に任せるさ
  」

 「我々も忙しいですけど、スエズ基地の方も大
  変そうですね」

 「捕虜の数がすごいそうだ。上手く選別して、
  正統ユーラシア連合軍を創設するらしい。武
  器はここにあるし、兵士と仕官は揃っている
  。上が優秀なら、すぐに機能するだろう」

 「ユーラシア連合軍は、同士討ちですか・・・
  」

 「今回の騒ぎの大元として、責任を取らねばな
  るまい。寛大な処置が約束されているとはい
  え、我々の被害が拡大し過ぎると、世論が騒
  ぐ可能性があるからな。彼らは、自身の名誉
  と正統性を主張するために、味方と剣を交え
  るのだ。無論、参加したくない者は、捕虜の
  ままらしいが」

正統ユーラシア連合軍は、クーデター時に、ユー
ラシア連合国外にいた政治家や官僚で組織された
、正統ユーラシア連合政府によって設立されては
いたが、宣伝用でお飾りの要素が強く、数も少数
であったのだが、今回のスエズ運河攻略戦で大量
の捕虜が出たという事で、急遽拡張が決まったよ
うだ。

 「正統ユーラシア連合軍ですか・・・。正統か
  。古臭い単語ですよね」

 「京都の八ツ橋屋のようなものだ」

 「八ツ橋って、何ですか?」

 「昔からある日本のお菓子の名前だ。古くから
  あるいくつかの販売店が、自分のお店が最初
  に販売したと言って、本家だの本舗だの元祖
  などと看板に書いていてな」

 「国とお菓子を、一緒にしない方が良いと思い
  ますが・・・」

 「似たような物だろう?どちらにしても、下の
  連中には迷惑な話だ。まあ、犠牲が減るとい
  う観点から見れば、賛成ではあるが」

この時期の、正統ユーラシア連合政府の政治家達
は、かなり焦っていた。
このまま、ヨーロッパ開放作戦などをまともに行
われたら、どの程度の被害が出るか予想できなか
ったからだ。
荒れた国土、多数の損害を出す軍、市民の死者と
避難民の大量の発生。
今回の戦争では、懲罰的な賠償などは発生しない
が、手助けをしてくれた各国の兵器が破壊された
り兵士が死ねば、その賠償を全てしなければなら
ない。
もし、この条件を飲まなければ、国土の割譲や海
外での利権の放棄など、国の根幹に関わる部分を
失う可能性もあったからだ。
あくまでも、自分達は、クーデターで奪われた国
を各国の協力で取り戻す、正統な政府である事を
前面に押し出したいのだ。
国が国土を失えば、国民は「自分たちは敗戦国な
のだ」と思い、その責任追求と不満は自分達に向
かうであろう。
そこで、軍を結成して、自分達が最前線で血を流
す覚悟である事を各国に伝え、軍の編成で時間を
使っている間に、ユーラシア連合クーデター軍内
の切り崩し工作を行う事にしたらしい。
クーデター政権内で主流派ではないドイツ、オラ
ンダ、ベルギー、イタリア、スペイン、ポルトガ
ル、ギリシャ、ポーランドや東欧各国出身の軍人
を戦場で装備ごと離反させて、フランス系とロシ
ア系のみを討てば、両軍とも被害を減らせると考
えて、積極的に動いているようだ。

 「討つ敵の数が減れば、味方の損害も減る。簡
  単な計算だ」

 「ええっ!クルーゼ司令は、そんなまともな事
  を考えていたのですか?」

 「君は、私をただの出撃魔や攻撃魔だと考えて
  いたのかね?」

 「考えていました」

 「・・・・・・・・・。まあ良い。それで、エ
  イブス班長と軍事工廠からの技術員で調査を
  している、あのデカブツについては、何か報
  告があがっているのかね?」

五機の「デストロイ」の内、二機は爆発せずに機
体が残ったので、各国の技術部の調査団が殺到し
ているらしい。
プラントの軍事工廠も、ビクトリア基地からと「
ミネルバ」のエイブス班長に協力を要請して、臨
時の調査団を派遣していたのだ。

 「はい。捕虜の証言から(デストロイ)と言う
  名前である事と、旧ブルーコスモス強硬派お
  得意の、薬物を使った強化クローン兵を乗せ
  ていた事はわかっています。そして、試作品
  であった事と、運用を誤って、思ったほどの
  戦果を出せなかったようですね」

 「運用を誤った?」

 「はい、(デストロイ)最大の弱点は、後ろで
  す。それを守備するための(クライシス)隊
  だったはずですが、わが軍のモビルスーツ隊
  に阻まれて、失敗したようですね。その後は
  、クルーゼ司令とレイで三機と、マリア少将
  が、後方からの狙撃で一機を倒していますか
  ら、この説は間違いではないと思います」

 「正面は、鉄壁の防御力と、恐るべき攻撃力を
  誇っていたからな。あの五機だけで、五十機
  を越えるモビルスーツを倒されてしまったし 
  、戦線も一時的ながら、後退せざるを得なか
  った。拠点防御などに使われたらことだな」

 「それも、大丈夫かと」

 「なぜだね?」

 「稼働時間がフルで三時間しかないそうです。
  その後、メンテに数倍の時間が掛かるとの捕
  虜の整備兵の証言も入っています。あの大き
  さの兵器は、存在するだけで大変ですからね
  。しかも、宇宙空間ならともかく、重力下で
  ですから」

 「そうです。アーサー副司令の言う通りですよ
  」

 「エイブス班長!」

声のする方を見ると、エイブス班長が調査を終え
て、報告にあがってきたところであった。

 「調査は終わったのかね?」

 「終わりましたよ。デカイだけで、大した新技
  術は使ってありませんでした。全部、既存の
  技術の応用ですね」

 「成果はなしか・・・」

 「ありましたよ。各国の技術部の連中も同じ事
  を言っていましたが、あれだけのデカブツを
  五機と、(ザムザザー)と(ゲルスゲー)を
  用意できるだけの生産施設を用意している敵
  は、驚異的であると言う事です」

 「つまり、長引かせるなという事か?」

 「元々の国力と生産力の差が隔絶しているので
  、一概にそうとは言えませんが、気を付けな
  さいと言うところですね」  

 「だが、スエズの整備が終わらねば前進もでき
  ん。スエズ基地を使える状態に持っていって
  、水路を通行可能にしてから、艦隊を無事に
  地中海側に通さねばならない。それから、キ
  プロス島とクレタ島を落し、マルタ島を落し
  てから、地中海艦隊をどうにかして、地中海
  の制海権を奪ってジブラルタルを落す。正統
  ユーラシア連合政府の工作が失敗したら、恐
  るべき手間と犠牲を出すだろうな」

 「ですね。イスラム連合軍の解放作戦も、トル
  コでストップですから」

 「やはり、トルコで止まるか」

 「国が二つに割れているので、大変な状態らし
  いですよ。イスラム連合も、火中の栗を拾い
  たくないそうです」

トルコという国は、昔から複雑な事情を抱えてい
た。
彼らの大半は、イスラム教徒であるのと同時に、
自分達がヨーロッパ人である事に誇りを持ってい
たために、旧EUに努力して加盟したという過去
を持っていたからだ。
先の対戦では、イスラム連合の分離独立運動に参
加せず、戦後に国民投票の末に、ギリギリの票差
でイスラム連合に加盟したという事情を抱えてい
た。
今回の、ユーラシア連合クーデター政権の侵攻時
にも、それを歓迎する者としない者で意見が割れ
、その時は、ユーラシア連合軍を受け入れるとい
う事で話が纏まったのだが、今回のスエズ運河喪
失でまた国内の世論が割れ、一部では武力衝突す
ら発生している状況らしい。
そのような状態なのに、イスラム連合の軍隊が国
内に入れば、更に混乱が大きくなってしまうとの
判断で、最低限の守備兵力を国境沿いに置いて、
ロシア連邦共和国と直接対峙する方針で話が纏ま
り、軍の移動を開始しているのだ。
イスラム連合軍が、ロシア連邦をけん制している
間に、ヨ−ロッパ本土を開放するのが、新国連軍
の作戦方針のようだ。

 「問題は山積みですね。こんな時に寝ていられ
  る、カザマ司令が羨ましいです」

 「状況が状況なので、仕方があるまい。あとで
  、30年物の白を提供して貰えば良いだろう
  」

 「あれ?35年物じゃないんですか?」

 「利息が付いたと思いたまえ」

 「そんな物ですか?」

 「貸しを作るという事はそんなものだ」

クルーゼ司令はそんな話をしながら、珍しく司令
官としての任務に没頭するのであった。


 「暇だなーーー」

ここは、スエズ基地にある軍専用の病院の一室で
ある。
マーレの裏切りによる交戦で負傷した俺は、他の
ザフト軍将兵の負傷者と纏めて、この病院に収容
されていた。
結局、「ギャプラン」の爆発に巻き込まれた「カ
オス」は、修理するより新規で生産した方が手間
が掛からないと言われるほどの損傷を受けて、廃
棄される事が決定していた。
そして、肝心の俺は、爆発時に体を激しくシェイ
クされて、あちこちにぶつけ、全身の打撲と切り
傷、左肩の亜脱臼などで全治二週間と診断され、
頭を打って気絶していたので、念のために頭部の
検査がてら入院させられていた。
本当は、「ミネルバ」の医務室で十分なのだが、
仕事の邪魔だとクルーゼ司令に言われて、入院さ
せられてしまったのだ。
どうやら、日頃、仕事を押し付けている俺に気を
使ってくれたらしい。
たまには休めという事なのだろう。
だが、暇でしょうがない事も事実であった。

 「おーい!カザマ、生きてるか?」

突然、病室にハイネとその部下達が乱入してきた

 「生きてるよ」

 「すまんすまん。霊安室を探してしまったよ」

 「そいつは、面倒な事をさせちまったな」

 「よく言うぜ、お前が死ぬわけないだろうが」

 「八十歳くらいで、大往生するさ」

 「しかし、死神から不死身に渾名を変えた方が
  良くないか?」

 「俺が決めた渾名じゃないからな。それは、外
  野で勝手にやってくれ」

 「それもそうだな。ところで、お前が退屈だろ
  うと思って、土産を持ってきたんだよ」

 「サンクス」

ハイネの部下達が、大量の雑誌類と世間で俗に言
うところのお見舞いセットを机の上に置いてくれ
た。

 「エッチなのはないの?」

 「イスラム教徒に見られたら、争いの原因にな
  るからな。お前の好きそうなゲーム関係やア
  ニメ関係の内容を充実させて置いた」

 「えらく気を使うものだな」

 「上からの通達だからな。他国の習慣や文化、
  宗教を考慮しないと、異国で屍をさらす可能
  性があるそうだ」

 「えーと、(第五次世界大戦DX)にハイネ・
  ヴェステンフルス、ミゲル・アイマン、ヨシ
  ヒロ・カザマの(グフイグナイテッド)が参
  戦。大西洋連邦軍のエース達との熱い戦いが
  展開される。通信対戦は、常時受付中か」

 「昔から不思議なんだが、どうやって調べてい
  るんだろうな。ゲーム会社は」

 「オタクは、己の欲望のために命は惜しまない
  そうだ。つまり、戦場で取材をしているジャ
  ーナリストの中の何人かは、ゲーム会社の社
  員なんだろうな」

 「俺には理解できない」

 「俺もできないさ。ところで、林檎でも剥いて
  くれよ」

 「俺はそんな事はできないぞ」

 「なら、お見舞いセットに入れるなよ。林檎を
  」

 「バナナとかを食えよ」

 「林檎が食べたいんだけど・・・」

 「お前な!」

 「あの、自分が剥きましょうか?」

ハイネと俺が言い争っていると、数人の部下の中
から身長が二メートル近い大男が前に出てきた。

 「ザンギエフ、大丈夫か?」

 「はい。日頃、やっていますので」

 「じゃあ、頼むね」

 「お任せ下さい」

林檎を受け取ったザンギエフは、大きな手で器用
に林檎を剥いて皿に載せてくれた。

 「上手いものだな」

 「林檎がウサちゃんだ。やるなお主」

特に指定したわけでもないのに、皮をウサギの耳
の形にカットして、目の部分もくり貫いてあり、
彼の器用さがうかがわれた。

 「子供の頃からやっていますから」

 「納得した」

暇だったので、ザンギエフの話を聞くと、彼はナ
チュラル両親と、コーディネーターの姉が二人の
五人家族であり、両親は、先祖代々の遺産を使っ
て子供達をコーディネーターにしていて、先の大
戦時に迫害を避けて地球からプラントに上がって
きたようだ。
そして、両親は共働きで姉達も働いていたために
、彼が、家の家事労働の一切を任されていたらし
い。

 「そんな境遇の君が、なぜにザフト軍へ?」

 「子供の頃から体は大きかったのですが、気が
  弱くてよく苛められていましたので、姉に鍛
  えて貰って来いと、アカデミーへの願書を出
  されてしまいまして・・・。専攻は、格好良
  いという理由でパイロットにされてしまいま
  した・・・」

 「そんな理由でパイロット?」

 「こいつ、体に似合わず器用だから、どんな機
  体でもすぐに乗りこなすんだよ。俺の(グフ
  )の現在のパイロットはこいつだ」

 「へえ、才能があるんだな」

 「在学中は大した事なかったらしい。アスラン
  達の裏同期だからな」

 「ああ、あの連中のか!」

アスラン達の裏同期とは、俺達がアカデミーを卒
業したのと同時に入学してきた連中で、次の年の
二月に臨時で入学してきたアスラン達に合流させ
ると、活躍する前に戦死してしまうだろうと、判
断された連中の事である。
結局、最終決戦直前まで訓練が延長されてから、
最終決戦時に投入されて、かなりの戦死者を出し
ていたと記憶している。

 「ところが、こいつは実戦で化けるタイプの人
  間だったんだよ。初めに見た時には、絶対に
  戦死すると思ったんだけど、鍛えると、ドン
  ドン強くなってな。最終決戦時も活躍して勲
  章を貰っている。そして、今では俺の右腕的
  存在だ。名前と見かけがコレだから、初対面  
  の人間はビビってしまうんだけど、優しいし
  、後輩の面倒見も良いから、俺は大助かりだ
  」

 「なるほどね」

確かに、名前が怖いし、体が大きいし、顔も厳つ
いので、初対面の人には厳しいのであろう。
ザンギエフという名前では、勝負を挑まれそうな
雰囲気だし、見かけはグリアノス隊長とためを張
れるほどだ。
だが、器用で料理も洗濯も掃除も得意で、趣味は
日曜大工と機械工作であるらしい。
アスランと同期なのに、すでに老成していて満点
パパのような男なのだ。

 「ザンギエフ、ハイネにこき使われていないか
  ?何なら俺のところに来ても・・・」

 「コラ!俺の隊のまとめ役を引き抜くな!」

 「まとめ役?」

 「後ろを見てみろよ・・・」

俺がハイネの後ろを見ると、彼に仕方がなさそう
に付いてきた他のパイロット達が、俺達との会話
にも加わらず、思い思いの事をしていた。
一人は、赤服を着崩して袖を捲り上げている男で
、大きな山刀の刀身に自分の顔を映しながら笑み
を浮かべていた。

 「あの、君は何を・・・?」

 「戦場の跡地でこいつを拾ってな。俺のコレク
  ションが一つ増えたんだよ。イギリスが敵じ
  ゃないから入手できないと思ったんだが、傭
  兵で所持していた奴がいたらしい。本物のグ
  ルカ兵の(山刀)ククリだぜ。しかも、こい
  つは実際に使用された形式がある。俺も、こ
  いつで敵兵をえぐってみたいな。えへへへ」

 「・・・・・・・・・。ハイネ君。彼は?」

 「ジャック・フリントンという名前で、通称(
  刺殺のジャック)と呼ばれている男だ。彼の
  (グフ)には、八本の(フォールディングレ
  イザー)とビームナイフが装備されていて、
  敵機のコックピットを、一撃で突き刺す戦法
  を得意としている。彼は特殊戦備回収班の一
  員だった男だ」

特殊戦備回収班とは、敵のモビルスーツの研究を
行う多ために、なるべく無傷で敵から奪う任務を
行っていた、凄腕のパイロット達の部隊であった
はずだ。
きっと、その二つ名の通り、コックピットを一突
きしてパイロットだけを刺し殺していたのであろ
う。
彼からは、並々ならぬ気配を感じた。  

 「遠距離から倒した方が良くない?」

 「カザマ司令さんよ、俺はその戦法で戦果をあ
  げているから、それで良いんだよ。あっ、そ
  うそう。マーレがバカな事をしたんだって?
  俺が相手だったら、コックピットから引きず
  り出して切り刻んでやったのに」

 「それは、どうも・・・・・・・・・」

次の男を見ると、緑服を折り目正しく着こなし、
何かをブツブツと唱えているアフリカ系の男がい
た。

 「我らがコーディネーターの神よ。戦場で命を
  落した同胞に安らぎが訪れん事を・・・」

 「彼は?」

 「コンガ・コンガというアフリカ共同体出身の
  コーディネーターだ。彼は、コーディネータ
  ーを創造した神の啓示を受けて、信者を増や
  しているらしい。普段は、至って普通の男な
  のだが・・・」

 「コーディネーターって、神が創ったの?」

 「少なくとも、彼はそう思っている」

 「カザマ司令、神は我々を見守ってくれていま
  すよ。さあ、共に信仰の道を歩みましょう」

 「えーと、俺は曹洞宗だから・・・」

 「それは残念です」

俺が断りを入れると、あっさりと引いてしまった

勧誘は、それほどしつこくないようである。

 「地球各地での迫害を乗り越え、我々が羽ばた
  けるのも神のおかげなのです。さあ、神に祈
  りを」

 「・・・・・・・・・」

そして、次は鏡で自分の顔を熱心に眺めながら、
髪型をいじっているている男と、上半身裸で、自
分の体を眺めている男がいた。

 「彼らは?」

 「オトマルク・ジーナスとサルトン・ジーナス
  の兄弟だ。優男の方が兄貴のオトマルクで、
  彼は鏡を眺めて髪形を維持する事が趣味で、
  弟のサルトンが肉体美を維持する事が趣味だ
  そうな」

 「よろしくお願いします。あっ、髪型がズレた
  」

 「ヨロシク。やはり、プロテインを変えたほう
  が良さそうだな」

 「よろしく・・・・・・・・・」

 「ザンギエフを加えて、以上五人が(グフ)に
  搭乗しているパイロット達で、ハイネ隊の固
  定メンバーだ」

 「えーと・・・」

自分の隊のメンバーを上回る変人集団ぶりに、俺
は言葉も出なかった。

 「だから、ザンギエフを引き抜いたら、マジで
  恨むからな」

 「ははは、了解」

確かに、唯一の常識人である彼を引き抜いてしま
ったら、ハイネ隊は崩壊の危機を迎えてしまうで
あろう。

 「腕は最高なんだけどね・・・」

 「はははは・・・」

 「カザマ君、元気?」

 「ヨッちゃん、大丈夫?」

 「お見舞いに来ました」

 「私もそうです」

 「今そこで三人に会ったのよ」

リーカさんがマリア少将達と共に、俺の病室に入
ってきた。

 「俺は、念のためって奴です。リーカさんこそ
  大丈夫ですか?」

 「(セイバー)は、部品が足りなくてまだ直ら
  ないけど、私も軽症だったからね。あの女め
  !次は必ず仕留めてやる」

 「そうですか・・・。ところで、コーウェルは
  どうしています?」

 「実質上のトップが、クルーゼ司令に戻ってし
  まったから、色々と忙しいのよ。思ったより
  は、真面目に仕事をしているらしいけど」

 「ヨッちゃん、お見舞いに来たよ。はい、お花
  」

だが、マリアが持ってきた花は、白と黄色の菊の
花であった。
彼女は、どうして、スエズの地でわざわざ菊を選
んだのであろう・・・?

 「あの・・・。タナカ少佐・・・」

 「えっ、どうかしましたか?」

俺は、日系人であるタナカ少佐の常識に期待して
いたのだが、彼は日本に住んだ事がないらしく、
何が間違いなのか気が付いていなうようだ。 

 「このお花、綺麗でしょ?」

 「ええ、綺麗ですね・・・」

俺が引きつった笑いを浮かべている横で、珍しく
ハイネが静かなままであった。
若い女性が二人もいるので、すぐに話しかけてく
ると思ったのだが。

 「ハーちゃん、今日は大人しいのね」

 「えーと、病室ですので・・・」

 「ハーちゃんとマリア少将って顔見知り?」

 「カザマ!ハーちゃんって呼ぶなよ!」

 「昔、傭兵をしていた時に知り合ったのよ。い
  きなりナンパしてきたの」

 「ふーん」

 「すいません。気の迷いでした」

ハイネの話を纏めると、昔カーペンタリアの傭兵
募集所で順番待ちをしていたマリアを、ハイネが
ナンパして撃沈したらしいのだ。
その後、マリアは、ジブラルタルの方が実入りが
良いと判断して移動し、その地でタナカ少佐やリ
サ少佐と出会い、その地での活躍で、マダガスカ
ル共和国のスカウトを受けたらしい。

 「移動したあとも、メールとかを沢山送ってく
  れたのよ。ハーちゃん情熱的なの。でも、ハ 
  ーちゃんは、お友達としか思えなくて」

 「すいません。友達で良いですから、周りにバ
  ラさないで下さい・・・」

ハイネにとっては、過去を知るマリア少将はジョ
ーカーであるらしかった。

 「ごめんね。私には、タナカ君がいるから」

俺が密かに横を見ると、タナカ少佐が顔を真っ赤
にしていた。
どうやら、二人はデキているようだ。

 「それで良いですから、本当に勘弁して下さい
  」

ハイネはこの話を早く終わらせて欲しくて、自分
がフラれた事を悲しむ余裕もないようだ。

 「こんちわ。暇なんで来ました」

 「お見舞いです」

 「ヨシヒロ、大丈夫?」

 「ヨシヒロさん、大丈夫ですか?」

その時、神の救いと思われる四人の少年、少女が
現れて、ハイネの顔に安堵の表情を浮かんだ。

 「ありがとうな。でも、抜け出してきて大丈夫
  か?」

 「警備と訓練と残骸の撤去を交代でやっていて
  、あとは暇です。ああ、旨い」

シンは、現在の状況を説明しながら、俺へのお見
舞いである、フルーツセット内のバナナを勝手に
食っていた。

 「勝手に食うんじゃねえ!」

 「痛っ!」

俺は、久しぶりにシンに拳骨を落した。

 「シン、お昼まで待てないの?」

 「十時のおやつの時間だから」

 「じゃあ、これを食べなさい。ステラと一緒に
  作ったから。本当は、ヨシヒロさんへのお見
  舞いなんだけど、多めにあるから大丈夫」

 「ありがとう。ルナ」

 「お見舞いか?ルナ」

 「ええ、クロワッサンをステラと一緒に作った
  んです。ヨシヒロさんもどうぞ」

 「ありがとうな」

俺が、ルナとステラから受け取ったクロワッサン
を食べていると、ハイネ達が羨ましそうな表情を
していた。

 「どうした?ハイネ」

 「お前の部下には、綺麗な女性パイロットが三
  人もいて不公平だ。俺の隊を見てみろ!むさ
  苦しい野郎ばかりだぞ!大体、先年のカオシ
  ュンの時も、マユラ達やシホと楽しそうに・
  ・・」

 「仕方がないだろうが!俺のせいじゃないし、
  お前の隊に、本当に女性パイロットを赴任さ
  せて大丈夫なのか?」

 「えっ!それは・・・」

ハイネが自分の部下達を見ると、戦利品の山刀を
うっとりとした表情で眺めるジャックと、意味不
明な祈りの言葉をあげているコンガ。
そして、鏡で髪型と上半身の筋肉を眺めているジ
ーナス兄弟が見えた。
大柄にも関わらず、申し訳なさそうに立っている
ザンギエフが、普通の人に見えるディープなメン
バーである。
なぜ、彼の元に変人ばかりが集まられたかと言え
ば、「ハイネなら何とかしてくれるであろう」と
いう、本国の評価のせいであるらしい。
彼の将来に、幸多き事を祈るのみである。 

 「俺、帰るわ・・・」

 「カザマ司令、お体を自愛して下さい」

 「さーて、ナイフのコレクションでも磨くかな
  」

 「神の教えを万人に広げなければいけません」

 「整髪スプレーが、なかったかな?」

 「新しいプロテインは、ここでは売っていない
  だろうな」

 「ヨッちゃん、私達も仕事だから」

 「クルーゼ総司令とアーサー副司令に、報告し
  ておきますね」

ハイネ隊の面々と、マリア少将達とリーカさんが
部屋を退出しようとしたのだが、ハイネが目ざと
くシン達に話しかけてきた。

 「よう。暫くぶりに見たら、逞しくなったじゃ
  ないか」

 「ヨシヒロさんには、まだまだと言われていま
  すけど」

 「教官殿は、満点を出さないので有名だからな
  」

 「レイもルナマリアも元気そうだな」

 「はい!」

 「はい」

 「ルナマリアは、シンと付き合い始めたんだっ
  て?」

 「情報が早いですね。ラブラブですよ」

 「ええ、まあ・・・」

嬉しそうにシンと腕を組むルナマリアと、恥ずか
しそうにそれを認めるシンを目の毒のように眺め
ながら、ハイネはステラに話をふった。

 「ステラ、悲しくはないのか?」

 「少し悲しいけど、シンとルナは友達だから」

 「そうか。でも悲しかったら俺の胸に飛び込ん
  でおいで!そして、新しい恋に生きるんだよ
  !ねっ、お兄さんもそう思うでしょう?」

 「とっとと、仕事に戻りやがれ!」

俺の投げたフルーツセット内にあったパイナップ
ルが、ハイネの顔面に直撃するのであった。


 「痛えな!カザマの野郎!覚えてろよ!」

ハイネが、奇跡的に無傷であった顔面をさすりな
がら、病院の通路を歩いていると、ジャック達が
話しかけてくる。

 「ハイネ。あの場面で、お兄さんはないと思う
  ぞ」

 「そうです。TPOをわきまえないと」

 「せめて、あとでこっそりとメモを渡すとか」

 「そうだな。それが良いよな」

 「まさか、お前達に常識を説かれるとは思わな
  かった。彼女もいない、一人身の癖しやがっ
  て」

 「俺はいるぞ。ナイフ愛好会のチャットで知り
  合った人だ」

 「神の道を理解してくれた、生涯の伴侶となる
  方がいます」

 「行きつけの美容院の美容師だ」

 「行きつけのトレーニングジムのインストラク
  ターだ」

 「そんなバカな・・・。俺は聞いていないぞ」

 「聞かれなかったからな」

ハイネは、こんな変人集団に彼女持ちがいるとは
思っていなかったらしく、今までに、全く彼女の
有無を聞いてこなかったのだ。

 「ザンギエフ、お前は俺を裏切らないよな?」

ハイネは、気が弱くて女性を口説けそうにないザ
ンギエフに最後の望みを託した。

 「すいません。アカデミーの後輩と付き合って
  います」

 「明るいお日様なんて大嫌いだぁーーー!」

ハイネは、ザンギエフ達の元を泣きながら走り去
ってしまった。

 「司令!」

 「放っておいてやれよ。ザンギエフ」

 「ハイネの運命は、神のみぞ知るです」

 「でも、失礼な話だよな。俺達が一人身だって
  勝手に思っていたんだから」

 「だよな」

 「それは置いておいて、帰ってきたら慰めてや
  ろうぜ」

 「そうだな」

 「そうですね」

 「「そうだな」」

何だかんだ言っても、ハイネは部下達に信用され
ているようであった。


 「おかしい。昔はブイブイ言わせていた俺が、
  こんなに、モテない君に落ちぶれようとは・
  ・・」

ハイネが、走るのを止めてあたりを見渡すと、そ
こは軍人用の喫茶スペースになっていた。
ザフト軍への割り当てになっているようで、何人
かの兵士達が楽しそうに話しながらお茶を飲んだ
り、軽食を食べている。

 「そろそろ、昼食だったよな。何かを食べるか
  。おや?あれは・・・」

ハイネは、赤髪でツインテールをした女の子の後
ろ姿を見つける。
それは、確か、ルナマリアの妹のメイリンであっ
たはずだ。

 「同じく、シンにフラれたショックはデカいは
  ずだし、周りに邪魔する者もいない。これは
  、チャンスだ」

 「やあ、久しぶり・・・」

 「メイリ〜ン!」

 「ヴィーノ、遅いよ〜」

 「ゴメンゴメン。整備が長引いてさ」

ハイネがメイリンに話し掛けようとすると、うし
ろからヴィーノが現れて、メイリンと楽しそうに
会話を始めた。

 「(セイバー)の部品がようやく搬入されてさ
  。チェックに時間が掛かってしまったんだ。
  午後から、本格的に修理を行う予定なんだよ
  」

 「ふ〜ん。大変なのね。じゃあ、これを食べて
  元気を出してね」

 「ありがとう。メイリン」

ヴィーノとメイリンは、手作りと思われるサンド
イッチやホットドッグを美味しそうに食べ始め、
メイリンはヴィーノに飲み物を渡していた。

 「味はどう?大丈夫?」

 「とっても美味しいよ。メイリン」

 「そう。良かった」

付き合い始めたばかりの恋人達の特有のオーラに
、ハイネの気持ちは更に沈んでいく。

 「こんちくしょーーー!青い海なんて大嫌いだ
  ーーー!」

ハイネは、再びその場を走り出してしまう。

 「あれ?何か聞こえなかった?」

 「気のせいよ」

 「そうかな?うん、そうだよな」

ヴィーノとメイリンは、再び二人だけの世界に没
頭するのであった。


 「ヴェステンフルス隊長ーーー!いたら返事し
  て下さいよ!」

 「ハイネ!仕事が溜まっているぞ!お前が決済
  しないと、どうにもならん。出てこいよーー
  ー!」

 「ハイネ!あなたを神の次に尊敬していまーー
  ーす。出てきて下さーーーい!」

 「彼女なんていなくても、バカにしないから出
  てこいよ!」

 「人間、独り身の時は誰にでもあるからさ!気
  にするなよ!」

ハイネ隊の面々は、隊長を探し続けたのだが、ハ
イネは夕方になるまで姿を現さなかったのであっ
た。


 「あーあ、退屈だな」

翌日、俺が雑誌を読みながら暇をつぶしていると
、今度はレイナ達が現れた。

 「あれ?今日は何?」

実は、入院初日にレイナ達は来てくれていたので
、今更な感じがしたのだ。

 「今日は、ご希望の人を連れてきました」

 「約束通りに叱ってやって下さいよ。ガカリ!
  入っておいで」

 「わかったよ・・・」

レイナとキラがカガリを呼ぶと、アスランに連れ
られたカガリが、申し訳なさそうに病室に入室し
てきた。

 「やあ、元気だったか?」

 「俺はね。カガリちゃんは、随分と危険な事を
  したそうで」

 「あれはな・・・。色々と考えた結果であって
  」

 「あのね。無茶・無謀・無分別・危険以外の何
  物でもないでしょうが!」

 「ユウナは、一騎討ちを望んでいたから・・・
  」

 「ユウナがそう思っていても、他の敵がいたで
  しょうが!それに、ユウナが嘘をつく可能性
  も高かったのだから」

 「すまん」

 「俺に謝っても意味が無い!オーブ軍の将兵に
  ちゃんと謝る事!特に、アスランに一番に謝
  る事!お腹の子供は、アスランの子供でもあ
  るんだから。無茶をしたから、危険だったん
  だろう?」

 「ああ」

あの一騎討ちのあと、カガリは緊張の糸が切れた
のか、「タケミカヅチ」格納庫内で倒れてしまい
、その知らせを聞いたアスランが、血相を変えて
駆けつける騒ぎになってしまったのだ。
結局、母子ともに無事だったのだが、少し間違え
れば大変な事になっていたはずだ。

 「アスラン、本当にゴメン」

 「いいよ。二人が無事ならそれで十分だ」

アスランは、カガリを優しく抱きしめていたが、
入院中の俺には目の毒でしかなかった。


 「相変わらず、ラブい事で。それで、ユウナは
  確かに死んだんだな?」

 「確かに討ち取った。それと、キスリングの死
  亡も確認されたそうだ」

 「あっさりと、見捨てられたか」

 「本当にすまない・・・」

 「まあ、過ぎてしまった事は仕方がないし、利
  点がなかったわけでもないし」

 「利点ですか?」

 「わからないか?アスラン」

 「ええ」

 「ユウナがやっていた事は公然の秘密で、護衛
  艦四隻と乗組員達とモビルスーツ隊。そして
  、今回の戦いでの犠牲を生む要因になってい
  たからね。それを、カガリちゃんが無理を押
  してでも討ち取ったという事実は、オーブ軍
  将兵のアスハ家支持を強くしてくれるさ。逆
  に、セイラン家は、キスリングの戦死で軍の
  基盤をほとんど失ってしまったからね。ウナ
  ト代表は、軍の支持がなくても大丈夫だけど
  、セイラン家の次の当主がそうとは限らない
  。長い目で見ると、その事が尾を引く可能性
  がある」

 「なるほど。そうなのか」

 「でも、無謀な事に変わりはないから、今後二
  度とモビルスーツに搭乗しないと誓う事」

 「もう、乗れないんだ。(暁)を取り上げられ
  しまったから」

 「取り上げられた?」

 「ハイドラグーンの搭載試験機にされて、キラ
  が乗る事になってしまった」

 「えっ!キラが乗るの?」

 「ええ。カザマ技術一佐の指示で」

あの反則な機体にキラが搭乗するらしく、正直、
敵に同情したくなってきた。 

 「ヨシヒロさんは、何に乗るんですか?」

 「厳しい質問を、ありがとうな。キラ」

 「えっ、そんなつもりは・・・」

 「俺の愛機はバラバラだからな。暫く、補充の
  (センプウ改)にでも乗るしかあるまい」

 「(センプウ改)ですか?」

 「あれは良い機体だぞ。性能・生産性・整備性
  すべて一流半という最高の傑作機だ。(ゲイ
  ツ)のみで、あれがなかったら、プラントは
  敗戦国になった可能性が高い」

 「ですが・・・」

 「俺は指揮官だからそれで良いの!」

 「そうは、いかんのだがな」

 「えっ!誰ですか?」

 「クルーゼ司令!」

俺の言葉を遮りながら、病室内にクルーゼ司令が
乱入してくる。

 「カザマ君、頼まれていた報告書が最高評議会
  経由で到着した。それと、人員交代の件だが
  ・・・」

 「キラ、アスラン、レイナ、カガリちゃん。悪
  いけど、軍機だから」

 「ああ、そうですね」

 「クルーゼ司令、では」

 「お兄さん、またね」

 「この礼はいつかするから」

四人は、俺の頼みを聞いてくれて、病室を退室し
てくれた。


 「やはり、狙いはディアッカですか」

 「プラント本国で、指示を出していた男を捕ら
  えて吐かせたそうだ」

俺は、入院初日にクルーゼ司令に頼みごとをして
いた。
先に、マーレが口走っていた、暗殺を頼まれた人
物の調査である。
先日、エミリアと繋がっていた最強硬派の連中と
マーレが繋がっていた事と、摘発を逃れていたグ
ループの一味からの告白で、ディアッカがターゲ
ットである事がわかったのだ。
 
 「どの道、交代要員は呼び寄せてありますから
  、明後日には交代です。拒否は許しません」

 「そうか。すでに決めていたのか」

 「あの戦いの詳細は、参加したパイロット達と
  リーカさんから聞いています。俺としては、
  彼は限界だと思います」

 「君らしくない言葉だな」

 「別に、クビとは言っていませんよ。しがらみ
  を捨てて、新しい任務についた方が彼のため
  だと考えただけです。もし、俺が彼の立場な
  ら討てませんよ。それを考えてあげられなか
  った俺の責任として、俺自身が引導を渡しま
  す」

 「そうか」

 「交代要員は、明後日の昼に到着すると聞いて
  いるのですが、随分と早いですね」

 「そうだな。どうやってくるのだろうな?」

四人が去って、クルーゼ司令と二人きりになった
病室で、俺達は相談を続けるのであった。


二日後、俺の傷は大体癒えて、あとは艦内で養生
しながら仕事をする事になったのだが、大切な仕
事を早めに終わらせておこうと、退院準備をしな
がら彼を呼びよせていた。

 「退院ですか。良かったですね」

 「まあな。実は大切な話があって、お前を呼ん
  だんだよ」

 「何ですか?改まって」

 「そろそろ、約束の時間だな・・・」

 「えっ、何がですか?」

突然、基地全域に空襲警報が鳴り響き、上空を見
ると、フライングアーマーに乗った一機のモビル
スーツが「ミネルバ」近辺に降りてきた。

 「登場が派手だね」

 「用事とは、あれの事ですか?」

 「この時間に現れるとは聞いていたが、新型モ
  ビルスーツ込みとはな」

二人で三十分ほどの時を、退院準備をしながら待
っていると、病室に一人の白い指揮官服を着た銀
髪の男が現れた。

 「(ミネルバ)モビルスーツ隊隊長兼ザフト軍
  派遣艦隊モビルスーツ隊隊長に任命されたイ
  ザーク・ジュールです。カザマ司令に、着任
  の挨拶に伺いました」

 「ご苦労さん。早速、引継ぎをしてくれ。ディ
  アッカは明日にここを立つからな」

 「了解です」

 「えっ?どういう事ですか!」

 「そのままの意味だ。考えてみたら、俺がその
  立場にいてもできない事を、お前に押し付け
  てしまった、俺の不徳の致すところだ。イザ
  ークと交代で、エルスマン隊隊長としての任
  に就いてくれ。今までご苦労だったな」

 「でも、俺は!」

 「情に流されてあの女を討てなかった。そのせ
  いで、リーカさんが二対一に追い込まれて怪
  我をした。それが現実だ。あの女は俺達で討
  つから、お前は全てを忘れて、宇宙で新兵の
  訓練にあたれ。旧ジュール隊は、イザークが
  練成途中だから、鍛えがいがあるぞ」

 「でも、あの女は俺が討つべき・・・」

 「討てなかったくせに、偉そうな事を言うな!
  お前は、心のどこかで引き分け状態で時を稼
  ごうと思っていなかったか?だがな。そんな
  お前の浅知恵は、戦場では通用しないし、お
  前は、結果的にあの女の策に嵌められて、戦
  力として機能していない。俺が、そんな甘え
  を許すと思っているのか?ステラ達がそのせ
  いで死んだりしたら、指揮官としても、兄と
  しても、俺はお前を許さないからな!」

俺が怒鳴りながらディアッカの胸倉を掴むと、彼
は驚愕の表情をしていた。

 「ヨシさん・・・」

 「あの女の事は忘れろ。始めは辛いと思うが、
  時間が解決してくれるさ。手は俺達が汚すか
  ら、恨んでくれても構わない。でも、シン達
  を巻き込まないでくれ。頼む・・・」

 「ヨシさん・・・。わかりました・・・。イザ
  ークと交代します・・・」

 「すまんな」

その後、退院した俺は、「ミネルバ」艦内でディ
アッカとイザークの交代を発表して、その日は送
別会と歓迎会を行ったのだが、ディアッカの表情
は、最後まで晴れなかった事を、俺は記憶してい
た。


 「イザーク、あとは任せた」

 「シン達に比べると技量が劣る。ヨシさんのよ
  うに、集団戦闘メインで鍛えてやってくれ」

 「わかったよ」

 「辛いだろうが、我慢してくれ」

 「お前の方が大変だろう。ようやく、クルーゼ
  司令と別れられたのに」

 「それを言うな!」

 「そうそう。それでこそイザークだ」

 「五月蝿い!とっとと行ってしまえ!」

 「へいへい」

ディアッカは、イザークと最後の会話をかわすと
、高速ヘリでビクトリア基地に向けて飛んで行っ
た。


 「新型機か」

 「開発中止機です。データを取って来いと」

 「部品はあるんですか?」

 「明日には届きます」

ディアッカがスエズを去ったあと、俺とイザーク
とエイブス班長は、イザークが持ってきた新型モ
ビルスーツを眺めていた。
彼は移動時間を短縮するために、モビルスーツで
大気圏突入用のフライングアーマーに乗って、直
接スエズに降りてきたのだ。
さすがに、これには俺も驚いてしまい、空襲警報
も流れて、他国の指揮官達に抗議されてしまった
のだが、後にこれは、通達が完全に回っていなか
ったという、多国籍軍ならではのミスである事が
発覚していた。

 「両肩に固定ビーム砲が一門ずつで、大型長距
  離ビームライフルを装備か」

 「MA体型時に下部に固定可能ですし、ビーム
  ナギナタも展開できるので、リーチで優位に
  立てます。普通のビームサーベルも膝のフー
  ド内に収めてあります」

 「スラスターも多いし、MA体型時には三門の
  ビームが撃てるのか。性能は良さそうだな」

 「(ギャプラン)の後継機ですから。ですが、
  同じく乗る人を選ぶ点が弱点となって、開発
  中止だそうです」

 「エイブス班長、整備は大丈夫そうですか?」

 「ヨウランとヴィーノに任せます。やっと一人
  前になりつつあるので」

 「そうですか。ところで、このモビルスーツの
  名前は?」

 「ZGMF−8999(ガブスレイ)です」

コズミックイラ・74二月七日、俺達は地中海に
向けて艦隊を発進させた。
戦局が混迷を極める中、俺達はどうなってしまう
のか?
それは、まだ誰にもわからなかった。


           あとがき

次は、ジブラルタル攻防戦です。 
   

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