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「これが私の生きる道!運命編8スエズ運河開放作戦編(後編) (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-25 02:32/2006-06-26 21:59)
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(決戦開始三十分前、プラント軍事工廠内)

スエズ派遣艦隊への補充モビルスーツと、地中海
の制海権奪取作戦への補充モビルスーツを送り出
し、ヨーロッパ開放作戦用のモビルスーツの戦力
の生産と、騒乱集結を見越しての開発機種統合を
行っていたアマルフィー技術委員長は、ここ数日
自宅に帰っていなかった。
あまりに忙しくて、そんな余裕がなかったからで
ある。
今も、現場からあがってきた新型機や量産機のレ
ポートを眺めながら、遅めの昼食を一人で取って
いた。

 「お久しぶりですね。アマルフィー技術委員長
  」

 「何年ぶりですかね?真田一佐」

先の大戦時に、「カイオウ」の図面を持ってきて
くれたり、最終決戦時に技術交流をした真田一佐
が、再び自分を訪問してくれたのだ。 

 「予定にはありませんよね?」

 「内密の話ですから」

 「内密ですか?」

 「あとで、デュランダル外交委員長からも、話
  があると思いますが・・・」

 「話がですか?とりあえず、座ってください」

 「ありがとうございます」

アマルフィー技術委員長は、ソファーの椅子に座
った真田一佐に、自分で紅茶を淹れて振舞った。

 「早速、お話に入ります。戦後を見越して、民
  間用のモビルスーツ開発計画に手を貸してい
  ただきたいのです」

 「民間用ですか?」

 「元々は、ジョージ・グレンが木星探査で使用
  した作業用の強化アームを改良して軍事用に
  転用したのがモビルスーツの走りです。まあ
  、こんな事はアマルフィー技術委員長には釈
  迦に説法ですが。民間用のモビルスーツの共
  通規格を開発して、戦後の軍事費圧縮の余波
  を受ける、技術開発の停滞を防ごうというわ
  けです」

 「それは私達も考えていますし、極東連合独自
  で行わないのですか?」

 「そうすると、オーブや大西洋連邦に勝てませ
  んよ」

 「勝てないのですか?」

 「大西洋連邦は、この騒乱で出る犠牲に目をつ
  むり、新型の軍用機開発を縮小して、ストラ
  イクダガーを改良した作業用のモビルスーツ
  を開発して量産に入っています。 オーブも
  旧式機である(M−1)をもとに、同じ様な
  作業用モビルスーツを開発して同じく、量産
  を開始しています」

 「素早い動きですね」

 「呑気ですね、アマルフィー技術委員長は。こ
  の騒乱で損害を受けた、南アメリカ合衆国、
  イスラム連合、中国大陸、朝鮮半島、アフリ
  カ共同体、そして、ユーラシア連合の復興に
  これらのモビルスーツが供与される予定なの
  ですよ。我々の縄張りが侵されているのです
  よ。それについて、どうお考えなのですか?
  」

 「いや、退役させたジンの改修でどうにか・・
  ・」

 「場当たりで改良した、ジンのメンテは大変そ
  うですね。欲しいと思ったお客さんにリース
  するなり、販売するなりするとして、アフタ
  ーサービスは誰がするのですか?修理と補修
  の部品は統一できていますか?今すぐ数を揃
  えられますか?」

真田一佐の質問に、アマルフィー委員長は答えを
出せずにいた。
自分は兵器の開発ばかりを考えていて、戦後のプ
ランを全く考えていなかったのだ。
そもそも、軍事費の縮小を見越して開発機種と生
産機種の統合を行っていたのに、その開発で得ら
れる技術開発の肩代わりを、民生品で行うための
準備をほとんど考えていなかったのだ。
「ジンを民間に転売すれば何とかなるだろう」と
考えていた自分が甘かったらしい。
これは、由々しき事態だと思われた。

 「せっかく独立を果たしても、経済で負けたら
  大変な事になりますよ。ただの資源供給地に
  逆戻りです。多数の優秀な技術者や研究者が
  いるのだから、技術立国としての存在感を示
  さないと」

 「ですが、モビルスーツとはいえ、民生品に我
  々が口を出すのは・・・」

 「大西洋連邦では、ロゴスの方々が暗躍して統
  一規格を決定するために国内の企業を纏めま
  した。オーブでは、モルゲンレーテ社が舵を
  執って、国内のメーカーと赤道連合、大洋州
  連合、アフリカ共同体、イスラム連合の企業
  に誘いをかけて、規格の統一を目指していま
  す。日本は、(センプウ)の成功でいい気に
  なった大企業が、てんでバラバラに違う規格
  の機体をを開発して失敗目前でしたので、再
  び統合機種の開発を行う事が決定しました。
  プラントも各企業にバラバラに開発させて、
  市場で敗北しますか?」

真田一佐の話を纏めると、大西洋連合は国内の企
業体と軍の技術部が協力して、ストライクダガー
を基本とした民生機の統一規格を開発して、戦後
に世界各国に売り込みを図るつもりらしい。
オーブも、赤道連合と大洋州連合と手を組んでM
−1を基本とした統一規格を開発して、アフリカ
共同体やイスラム連合を引きずり込もうとしてい
たが、そのシェアを奪おうとする大西洋連合と熾
烈な競争を開始したという話だったのだ。

 「つまり、日本も単独では間に合いそうもない
  ので、共同で開発してシェアを分け合おうと
  ?」

 「材料と技術力はプラントが一流で、品質管理
  はうちの得意分野です。成功すれば、アジア
  圏はもちろんの事、南米やイスラム連合にも
  まだ食い込める余地があるはずです。マダガ
  スカル共和国も引きずり込めば、アフリカで
  も優位に立てる可能性があります。我々が開
  発するのは、統一した規格とその雛形になる
  一号機の開発ですから。ここで、規格競争に
  勝利できれば、二十年は優位に立てるはずで
  す。各社が独自に開発するのは、そのあとで
  すね」 

 「そうやって、軍事技術の停滞を防ぎ、周辺技
  術の底上げを行っておけば、万が一の時にも
  安心というわけですか」

モビルスーツが開発できる企業を多く持っておけ
ば、有事の際に多数の量産に答えられるし、民間
機でも、パイロットライセンスがある人が増えれ
ば、彼らは短期間で軍人に仕上がるはずなので、
予備士官制度とともに、軍の人減らしが始まる各
国の軍事関係者にとっては、救いになるはずであ
った。

 「これからは数年に一度、一機種の新規開発が
  限界ですからね。昔ほど民生技術と軍事技術
  の境目がなくなった以上、民生品の開発で進
  歩していかないと、数年後の新型機開発が無
  駄になってしまいます」 

 「確かにそうかも知れません・・・」

プラントでは、生産モビルスーツの選定が行われ
、数種類の機種が生産中止に追い込まれていた。
「ジン」は元々生産中止機種で、残存する機体が
「ハイマニューバ二型」に改修されていただけで
あったし、「シグー」と「シグーディープアーム
ズ」も生産が中止されて、「ザク」に切り替わっ
ていた。
「ゲイツ」も全機が「ゲイツR」に改良されて配
備されていたが、生産は中止されていて、これも
「ザク」に交換されつつあった。
更に、「バクゥ」は改良されて生産は続行し、「
ラゴゥ」は試作品が十二機のみ生産されて、生産
中止が決定していた。
「ディン」と「ディンカスタム」は、全機が「バ
ビ」に交換される予定で生産も中止され、「ザウ
ート」と「カズウート」の生産も中止されていた

最後に、「グーン」と「ゾノ」も生産中止で、全
機が「アッシュ」と切り替え予定であった。

 「ザフト軍は、モビルスーツが多機種ですから
  」

 「補給と整備の負担が大変そうですね」

 「それで、機種の統合を行っています」

 「減ってますか?」

 「旧式機は部品のみ生産で、新型機の機種も統
  合しました」

結局、新型機達も運命が大きく分かれる事になっ
ていた。
「インパルス」は運用の複雑さから、現行で使用
されている二機のみの運用とし、「カオス」と「
ガイア」は試作機のみで、「アビス」だけが一部
のエース専用の指揮官機として、生産される事に
なっていた。
「ディスティニー」「レジェンド」「スーパーフ
リーダム」「ナイトジャスティス」が量産などさ
れるわけもなく、期待を込めて送り出した「ギャ
プラン」も量産化は見送られていた。
始めは、その高性能ぶりに軍事工廠のスタッフは
大喜びだったのだが、パイロットの技量に比例し
て性能が急激に変化するという欠点が発覚して、
量産機としては不向きと判断されたのだ。
「誰もがカザマ司令のように動かせない」これが
反対意見を述べた、軍事工廠技術者の発言であっ
た。

 「(ザクファントム)も先週で量産を中止しま
  した。(グフ)を量産すれば良い話ですから
  。同時期に量産機候補として数機が生産され
  た(ドム)も、バルトフェルト司令の元にま
  わしていますが、生産自体は中止です。その
  後継機である(リックディアス)は、最高評
  議会の指示でマダガスカル共和国に売却され
  ました。(ゲイツ)の後継機として開発され
  た(ゲルググ)も、三機のみの生産でアイマ
  ン司令にまわしていましたが、重力下での性
  能低下を解決できず、これも生産中止です」

 「そんなに、沢山の開発を一度にですか・・・
  」

真田一佐はあきれてしまった。
多分、優秀なコーディネーター故に起こった悲劇
なのだろう。
優秀な技術者ばかりなので、ナチュラルの数分の
一のスタッフでモビルスーツを開発できてしまう
のだろうが、同じ様な性能のモビルスーツが団子
状態で存在する事になってしまったようだ。  

 「更に、形式番号は付いていませんが、強襲用
  モビルスーツの(ケンプファー)と要塞攻略
  用のモビルスーツの(ジオ)がありまして」

 「どこを強襲して、どこの要塞を落すのですか
  ?」

 「なので、試作機が一機のみで開発中止です」

 「凄いですね。それで、あれは?」

真田一佐が、事務所の窓から見える黒いモビルス
ーツを指差しながら、アマルフィー技術委員長に
質問をした。 

 「あれは、ある方からの依頼で生産した新型モ
  ビルスーツです。単純な作りなのですが、高
  性能で次期量産モビルスーツの最大の候補で
  すね。まさか、素人の発案が一番まともだっ
  たとは困った話です。まあ、こいつの配備が
  決まったら、暫らくは新型機の開発には、数
  年がかかるのが主流になると思いますよ。兵
  器の開発には時間が掛かるのが定番ですし、
  かなりのアイデアが、ここ数年で出尽くしま
  したからね」

 「そうですね」

モビルスーツという兵器は、ここ数年で数十年分
くらいの進歩を遂げてしまったようで、これから
は、各国も数年に一度新型機に変えられたら、ペ
ースが速い方に分類されるであろう。   

 「ところで、この騒乱が終ったら、大規模な軍
  縮があるという噂ですが、本当のところはど
  うなのですか?」

 「あるらしいです。つまり、損害を回復させる
  資金が厳しいので、ついでに軍縮をしてしま
  えと」

 「新国連で全国家が軍縮に同意すれば、国民へ
  のいいわけも立ちますか」

 「戦争には飽き飽きしていると思いますから、
  軍縮に反対する人は少ないでしょう。今度は
  、ユーラシア連合や東アジア共和国のような
  ズルをさせなければいいのですから」

 「そうなると、旧式モビルスーツは民間や途上
  国に転売され、先進国は新型の高性能機で統
  一されるわけですね」

 「オーブの(ムラサメ)、極東連合の(ハヤテ
  )大西洋連邦の(クライシス)です」

 「(クライシス)ですか!」

 「戦場で鹵獲した機体が高性能だったらしく、
  (ウィンダム)を改修するらしいです。それ
  に、(ウィンダム)の生産ラインで量産が可
  能ですから。犯罪者にパテント料を払う必要
  はないわけですから、彼らは儲けましたね」

今頃ロゴスの連中は開発資金を節約できたと、大
喜びをしているだろう。
この機体で繋いで、これから数年掛けて本格的に
モビルスーツの開発を行うものと思われた。 

 「どこの国も余裕がないのですね」

 「騒乱だとは言い張っていますが、戦争ですか
  らね。こう立て続けだと、辛いと思いますよ
  」

 「限りある戦力で、速やかに終らせるべくって
  奴ですね。でも、オーブには驚きました。戦
  力の派遣も然る事なら、あの大型空母が二隻
  ですものね」

 「相当無理をしているようですから。ここで恩
  を売って、戦後の商売をやり易くするみたい
  ですよ。タケミカヅチ級二番艦(スサノオ)
  は、建造資金のかなりの部分が五大氏族の私
  財から出ています。それでも足りずに、中立
  貿易で出た利益を全て注ぎ込んで、(どうせ
  軍縮で、新造艦など建造できなくなるだろう
  )と言って、数年分の予算を前借しているそ
  うです」

 「そこまでして、先日の護衛艦四隻とその乗員 
  達の損失はつらいですね」

 「最高級の親不孝ですね。ウナト代表は、親と
  してはどうにか助けたい心境なのでしょうが
  、代表としては、今すぐにでも絞め殺したい
  心境だと思いますよ」

冷静な政治家としてのウナト代表は、ユウナ一人
の命でセイラン家が保てるなら、安いと考えてい
るのであろう。
親としては、複雑な心境なのだろうが。

 「そんなわけで、これからの我々は大変ですよ
  。少ない予算で、最大の成果ってやつを求め
  られます」 

 「そう言われると辛いですね。最高評議会を辞
  めて民間に転職しましょうかね」

 「オーブのカザマ常務みたいに、高額な給料が
  貰えますしね」

 「評議会議員は名誉職なので、給料が安いので
  す。元々、資産家が多いので気にする人は少
  数ですが」

 「自衛隊一佐の給料も安いですよ。責任の重さ
  に釣り合いません」

 「はあ、転職しようかな。カザマ常務みたいに
  」

 「楠木重工に誘われているけど、あの二人がい
  るからなぁ。モルゲンレーテ社が誘ってくれ
  ないかな」

二人は、「隣りの芝生は青い」という言葉通りに
、カザマ常務の事を羨ましがるのであったが、彼
がここ最近でやっと自家用車を手に入れられるよ
うになった事を知らなかったようであった。
こうして、技術者達は戦後を見越して、新たな戦
争の準備を始めるのであった。  


(同時刻、ウラル山脈要塞内エミリアの個室)

新国連軍のスエズ攻略部隊が侵攻を開始して、攻
撃まであとわずかのとの情報に、基地内は大騒ぎ
であったが、エミリアはいつもの通りに仕事を済
ませて、自室で紅茶を飲んでいた。
すでに予想できている事なので、驚くに値しなか
ったようだ。 
ユーラシア連合クーデター政権が派遣した指揮官
達は動揺していたが、エミリアは動じていなかっ
たので、下士官や兵達は、自分達の直属の上官よ
りも彼女の事を高く評価しているようであった。

 「スエズはどのくらい持つかしら?」

エミリアは、定時報告にきたハウンとアキラに紅
茶を淹れてあげながら、二人の意見を聞いて見る
事にした。

 「一日持てば万々歳ですね」

 「同じくそう思います」

二人は紅茶を飲みながら、自分の得意分野の知識
を総合して答えを出した。

 「(デストロイ)を五機も出して?あれほどの
  破壊力を秘めた機体を五機も提供してしまっ
  たから、アラファスが怒っていたわよ」

 「(デストロイ)は先年に亡くなった、ジブリ
  ール氏の遺産ですからね。私が手直しをして
  何機か作らせましたが、鈍重なので、弱点を
  突かれたら簡単に撃破されてしまいますよ」

 「そうかしら?火力が凄いから、近づく前に撃
  破されてしまいそうだけど」

 「高性能機の一撃で沈みますよ。冷静な指揮官
  ならすぐに気が付くでしょう」

 「(ザムザザー)と(ゲルスゲー)は、見掛け
  倒しなのはわかるけど」

 「それも、戦前にアズラエル財団とジブリール
  財団によって計画されて、図面が残っていた
  ものに僅かに手を加えただけです。モビルス
  ーツの機動性に、MAでは歯が立たない。こ
  れが現実です」 

 「それで、モビルスーツの方は大丈夫なの?」

 「各地でのパイロットの選抜は終了しています
  し、フランス軍とロシア軍の精鋭部隊の収容
  も終了しています。彼らは、我々の賭けに乗
  ってくれるそうですよ」

 「それは良かったわ。地獄への片道切符なんだ
  けどね」 

エミリア達は、最後の準備に追われていた。
「スエズが落ちて、地中海を失っても大丈夫です
。フランス本土は一時的に敵の手にゆだねる事に
なりそうですが、ウラル要塞に全軍が立て篭もっ
て損害を与え続ければ、彼らはナポレオンやヒト
ラーの二の舞になります。敵が大損害を受けたと
ころで、講和をすればよろしいでしょう」と説得
して、クーデター政権の閣僚や、負けると更に落
ちぶれる事が決定しているフランス系とロシア系
の軍人を引きずり込む事に成功していた。
よくよく考えると、かなり後ろ向きの戦法なのだ
が、追い詰められた彼らは、それに気が付いてい
ない様子であった。
エミリア達の巧みな誘導で、彼らは自ら「窮鼠猫
を噛む」状態にさせられていた。  

 「(ディスパイア)と(ハイペリオン)の大量
  配備で、ウラル要塞に侵攻した新国連軍を粉
  砕します。ロシア連邦の寒さはモビルスーツ
  の稼働率を落とし、広い大地は補給を滞らせ
  ます。少数の特殊部隊を配置して、補給部隊
  を襲わせますし、Nジャマーは撤去させてい
  ませんので、コーディネーター達は、自分で
  自分の首を絞める事になります。最終的な勝
  利は難しいでしょうが、大量の損害を出せる
  でしょう」

 「あなたも色々とご苦労様でした。モビルスー
  ツの開発が忙しかったでしょう?」

 「ほとんどが現行機の改良か、図面が残ってい
  た機体の改良だったのでそれほどは。ここの 
  工員達に量産させて、モビルスーツの生産に
  慣れさせる事が重要でしたからね。ただ、技
  術者としての人生を賭けた(フォールダウン
  )が、敵のモビルスーツ隊を粉砕してくれれ
  ば満足です」

 「ミリアとアヤの責任は重要ですね」

 「最悪、クローン兵に乗って貰いますが」

 「ミリア様とアヤ様なら大丈夫だろう?」

 「大丈夫だとは思うが、戦場では何が起こるか
  わからない。万が一の処置だ」  

 「なるほどね」

資産運用と資金管理が仕事のアキラには、モビル
スーツの事はよくわからないらしく、適当に返事
をしている様子であった。 

 「ことここに至っては、資金もそれほど必要な
  いですからね」

モビルスーツの開発は終了し、量産と兵士の訓練
資金とウラル要塞の維持費は、ユーラシア連合政
府に出させていたので、多少の資金の余裕が存在
していた。
それに、あとで払う予定のお金は元々払うつもり
もなかったからだ

 「ロゴスの幹部からふんだくってやりましたよ
  。今頃は、寒空の下でホームレスですかね」

 「ムルタを裏切った報いね。向こうは理不尽だ
  と思うだろうけど、お互い様よね」

 「アズラエル理事を、あっけなく見捨てた報い
  です」

 「私が彼らなら同じ事をしたかも知れないけど
  、私は彼らではないから」

 「そうですね。そうだ、まだ現金化していない
  金塊や宝石があるのですが、いかがいたしま
  しょうか?もう現金化は不可能ですし、誰か
  に渡すのも惜しいですし」

 「あなたに任せます。隠しておけば良いでしょ
  う」

 「わかりました」

こうして、三人は話を終えたのであったが、エミ
リアの指示に従って、本当に財宝を隠したのかは
不明であり、これが後世で「エミリア資金」とし
て伝説になるのであった。
後世の歴史研究家は、「使い切ってしまったから
存在しない」とか、「ウラル山脈の奥深く眠って
いる」「ある田舎の寒村に眠っている」「フラン
スの銀行の地下金庫に眠っている」「黒海のある
海域に眠っている」など様々な説が出されたが、
確証は得られずに「エミリア資金詐欺」なども多
発して、その度に世間を騒がせる事になるのであ
った。


(同時刻、デブリ帯内「マーキュリー」艦内)

 「はあ、暇だな。カザマとハイネは大活躍だっ
  てのに」

ミネルバ級三番艦「マーキュリー」とエターナル
級二番艦「ホープ」を指揮するミゲル・アイマン
は暇を持て余していた。
ここ数日、海賊など全然現れずに所定のコースを
偵察するか、訓練をするのみだったのだ。

 「アイマン司令、(ボルテール)と(ルソー)
  の反応があります」 

「マーキュリー」の索敵担当士官が、報告を入れ
てきた。 

 「あいつらも暇なんだな」

 「みたいです」

 「通信でも入れて暇を潰すか・・・」

 「賛成です」

通信士官がボルテールに連絡を入れると、ブリッ
ジで同じく暇そうにしているイザークが、スクリ
ーンに映し出された。

 「イザーク、暇か?」

 「暇ですが平和です」

 「お前、クルーゼ司令に使われていたらしいな
  」

 「聞かないで下さいよ。俺がどれだけ苦労した
  か」

 「カザマは、その何倍も付き合っているんだぜ
  」

 「それだけで、尊敬に値します」

 「俺も短期間だったけど、おかしな人だったか
  らな」

 「モビルスーツ隊の指揮官は俺なのに、誰より
  も早く出撃するし、アデス副司令に言っても
  、彼の胃潰瘍を悪くさせるだけだし・・・」

 「今は元気一杯らしいぜ。アデス副司令は」

 「俺も元気一杯ですよ。暇なのが辛いですけど
  」

 「だからと言って、地球に降りてしまうとクル
  ーゼ司令が総司令官だぜ」

 「訓練でもしましょうか?新型機の(ゲルググ
  )を見せて下さいよ」

 「宇宙での性能は凄いんだけど、重力下ではい
  まいちらしいな。俺は良くは知らないけど」

 「俺の愛機は、ようやく(グフ)に変わったの
  に・・・」

イザークは、ミゲルから貰った試作機の「グフ」
の設定を変えて、白い色に変えていた。
量産機の「グフ」はフェイズシフト装甲機なので
、色を変えようがなくて困っていたところに、ミ
ゲルが自分の「グフ」をくれたのだ。

 「拗ねるなよ。あとで乗せてやるから」

 「ありがとうございます」

こうして二人は暇を潰すために、共同で訓練を開
始するのであった。


(同時刻、ポートサイド周辺、「レセップス」艦
 内)

 「さあて、出撃命令を出すとしようかな」

 「やはり、自ら出撃なさるので?」

 「クルーゼだって出撃しているからね。僕にも
  意地ってものがあるんだよ」

 「そんな意地は無用だと思います。カザマ司令
  がどれほど苦労しているか」

 「それは大丈夫だよ、ダコスタ君。彼は君より
  図太いから」

 「それは言えてますね」

二人がそんな話をしていると、格納庫から出撃準
備完了の報告があがってきた。

 「それじゃあ、(レセップス)は任せるからね
  」

 「行ってらっしゃい」

ダコスタ副司令の見送りを受けて格納庫に降りる
と、すでに「ガイア」の調整は終っていて、その
赤い機体を誇示していた。
以前は黒い機体だったのだが、バルトフェルト司
令に合わせて調整をしたら、赤くなってしまった
らしい。

 「バルトフェルト司令、新型機で良かったな」

 「そうだね、嬉しいね。前に乗っていたのが、
  美少女ってのがまた良い」

 「不謹慎な話だね。ラクス様の義妹に向かって
  」

 「褒めているんだけど・・・」

バルトフェルト司令は、格納庫内で眼帯をした女
性パイロット達に話しかけられた。
彼女達は、プラント本国から新型機を伴って援軍
に参上している、ヒルダ、マーズ、ヘルベルトの
三人であった。

 「新型機の(ドム)はどんな感じかな?」

 「飛べないけど、性能はピカ一だ。何で、開発
  中止になったのか理解できないな」

 「飛べないからだろ。(ザク)より(センプウ
  改)を好むベテランは多いからな」

マーズは無条件に「ドム」を気に入っているらし
いが、ヘルベルトはそうでもないようだ。

 「ラミネート装甲を装備して、強制冷却装置を
  背負ったら飛べなくなったんだよね。飛行用
  のスラスターと推進剤が積めなくて」

「ドム」の基本コンセプトは、ビーム兵器を根本
的に解決する事で、そのためにラミネート装甲が
装備されていた。
弱点である実体弾の防御は、光波シールドに任せ
て、モビルスーツの主力兵器である、ビーム兵器
を無力化しようという事なのだが、大西洋連邦が
開発して、ササキ大尉達が乗っていた「ロングダ
ガー」のカスタム機と、日本が開発した「ジンプ
ウ」と同じ運命を辿り、開発が中止される事にな
っていた。
結局、コストと整備性を我慢できるほどの性能を
発揮できなかったのだ。

 「不採用機でも、俺達はご機嫌だからそれでい
  いのさ」

 「そうそう、あれが出来ればな」

 「(センプウ)でやった時は不完全だったから
  ね」

 「あれって何かな?」

 「お楽しみだよ。さあ、出撃だ!」

 「「おう!」」

バルトフェルト司令の疑問は晴れなかったが、「
レセップス」から「ガイア」と「ドム」が出撃し
て、残りの艦艇からも多数のモビルスーツ隊が多
数出撃していた。
ザフト軍からは、「バクゥ改」「ラゴゥ」「ディ
ンカスタム」「バビ」「ゲイツR」「センプウ改
」「ザクウォーリア」などが出撃し、アフリカ共
同体からは、「センプウ」の現地生産機や、「ス
トライクダガー」の改良機、「ジン」、「シグー
」「ディン」「デュエルダガー」「バスターダガ
ー」などの外国からの供与機も多数見えた。
一方、マダガスカル共和国は、「センプウ改」と
「ザクウォーリア」で統一されていた。
マダガスカル共和国軍は、軍縮で予備役に入った
ザフト軍将兵の有力な再就職先であり、プラント
製モビルスーツの購入相手でもあったからだ。
マダガスカル共和国軍は、自国かプラントの人間
に指揮官や将校をやらせて、下士官や兵は他国か
らの出稼ぎ組みの傭兵が多数を占めていた。
防諜上危ない点があるのだが、多数の自国民を軍
人にできないお国事情なので、この方法がまかり
通っていたのだ。
アフリカ共同体やイスラム連合の出身者が、高額
な給料に釣られて入隊しているので、士気と技量
はなかなかに優秀であった。
「同じ仕事をするなら、給料が高い方が良い」と
いう理由で競争率が高くなり、優秀な軍人が入っ
てくる要因になっていた。
それに、帰化してしまえば将校になれるので、自
分の子供をコーディネーターにしたい人は、そう
してしまう事が多くなっていた。

 「多数のモビルスーツ隊が絶景だね」

 「ハイネ・ヴェステンフルス、ただ今参上!」

「ガイア」を変形させて、砂漠を爆走していたバ
ルトフェルト司令の上を大きな影がよぎり、上空
を見ると、「ヴィーナス」が最前線を目指して高
速で飛行していた。

 「相変わらずの素早さだな。ハイネ」

 「カザマには負けてられませんよ。ハイネ隊、
  全機出撃だ!」

 「「「「「おーーー!」」」」」

ハイネはモビルスーツ隊を全機発進させた。
「ヴィーナス」搭載のモビルスーツ達は前部で十
三機で、「グフ」が五機、「センプウ改」が四機
、地球で補充した「バビ」が三機であった。
アフリカの内戦鎮圧で、「クライシス」と戦闘を
行って数人の犠牲を出していたので、「バビ」が
補充されたのと、ハイネが「グフ」を部下に譲っ
て、新型機に乗っている点が以前との相違点であ
った。

 「君も新型機かい?」

 「ギリギリで間に合いました」

 「あとで見せて欲しいから、戦死しないでくれ
  よ」

 「お任せあれ」

そう言うと、ハイネは部下を引き連れて前線に向
かって飛んで行ってしまった。
バルトフェルト司令が一見したところ、あれは、
開発が中止された「マラサイ」という機体だった
はずだ。
特に特徴がないのが特徴の機体で、左肩にスパイ
クと「グフ」が使用しているビームガンを装着し
ていて、右肩に対ビームコーティングシールドを
装備していたはずであった。
そして、装備武器はビームライフルとビームサー
ベルが二本で、「グフ」に毛が生えたような性能
では採用する意味がないと判断されたらしい。

 「何でまた試作品ばかり・・・。プラントは大
  丈夫なのかね」

 「壊れるまで使ってデータを取って来いだとさ
  。壊れたら、現行機を使えば良い事だからだ
  そうな」

バルトフェルト司令の声が「ドム」に乗ったヒル
ダに届いたので、詳しい事情を話してくれた。
彼女達もそう言われて、地球に降りてきたらしい

 「何はともわれ、突撃開始だ!」

 「「「了解!」」」

こうして、バルトフェルト司令指揮のモビルスー
ツ隊は、スエズ運河に突撃するのであった。 


(一月二十九日午後一時四十二分、スエズ防衛陣
 地上空)

 「凄い防御陣ですね」

 「これを抜くのは大変だな」

スエズ運河南方からモビルスーツ隊で侵攻した我
々を、広大な防御陣が待ち構えていた。
情報では聞いていたのだが、これほどのものだと
は思わなかったのだ。
ユーラシア連合は、イスラム連合の駐留部隊に奇
襲をかけてスエズ運河を奪取したあと、運河を中
心とした広大なスペースに升目をふり、その一つ
一つの陣地に戦車、装甲車、高角砲、ビーム砲、
小型陽電子砲、ミサイルランチャー、鹵獲したり
ジャンク屋から非合法で購入したと思われる飛行
不能なモビルスーツなどを配置して、コンバット
ボックスを多数形成していた。
そして、その上空を「ハイペリオン」「ストライ
クダガー」「クライシス」などが我が物顔で飛び
回っていた。

 「敵味方の判別が難しいですね。識別装置を付
  けておいて正解でした」

 「我々はまだ良い。赤道連合と大洋州連合の部
  隊に少数の(ストライクダガー)の改良機が
  あるだけだからな。スエズ運河の西岸から押
  し寄せる、アフリカ連合主体の部隊と、東岸
  から押し寄せるイスラム連合軍主体の部隊は
  混乱してしまう可能性があるぞ。識別装置は
  搭載させたとはいえ、僅かな躊躇が戦死に繋
  がるのがモビルスーツ戦だからな」

 「という事は、我々が頑張るしかないと?」

 「そういう事だ」

 「一番槍ですよ。嬉しいですか?」

 「これは、少しまずいかも知れないな」

 「わかっているとは思いますが・・・」

 「了解した。さあ、新生クルーゼ隊の諸君!突
  撃開始だ!」

 「「「「おーーー!」」」

 「何で僕がこんな危険な事を・・・」

約一名、やる気のない奴がいたが、クルーゼ司令
の「スーパーフリーダム」が、正面の固定砲台や
「ザウート」を砲撃で一掃してから、突撃を開始
した。
途中、「ハイペリオン」や「クライシス」が妨害
に入るが、レイの「レジェンド」とキラの「ムラ
サメハイドラグーン試作機」(面倒くさいのでム
ラサメカスタムと呼称)がハイドラグーンを飛ば
して、難なく排除してしまった。
光波シールドで防いでいない部分からの攻撃で、
「ハイペリオン」のパイロット達は動揺している
ようだ。

 「どんどん行くぞ!」

クルーゼ司令は、最近命中率が落ちつつある背中
のビーム砲やレールガンを地上の固定武装や動き
の鈍いモビルスーツ専用と割り切って、ハイドラ
グーンで空中のモビルスーツを仕留めてした。
シンは、「ディスティニー」で縦横無尽に攻撃を
仕掛けてその破壊力を存分に発揮し、ルナマリア
とステラの「インパルス」がその護衛に就いて、
討ち漏らしを仕留めていた。
クルーゼ司令の思惑通りに事は進み、敵のコンバ
ットボックスに穴が開き始めていた。

 「よし、ザフト軍のモビルスーツパイロットの
  諸君!モビルスーツの本家が、俺達である事
  を世界に示す最大のチャンスだぞ!労を惜し
  むなよ!」

 「全軍突撃だ!穴を広げるんだ!」

 「我々も続くわよ!」

クルーゼ司令達の後方に位置していた俺達も、モ
ビルスーツ隊を率いて突撃を開始すると、更に防
御陣の穴が広がり、その隣りでも、精強なモビル
スーツ隊を持っている極東連合軍やオーブ軍のモ
ビルスーツ隊が、敵の陣地に食い込み始めた。
だが、ユーラシア連合軍の「ハイペリオン」隊は
ベテランのパイロット達が操縦しているらしく、
前に進めば進むほど、犠牲が増え続けていた。
ここで負けると、本土に王手がかかる彼らは必死
のようだ。
クーデター政権の主要メンバーである、フランス
系やロシア系の連中は気に食わないが、現時点で
は反乱を起こしても成功しないであろうし、本国
に家族が住んでいる手前、降伏ならともかく、反
乱などもっての他であった。
自分達は、支持していない連中の命令で、家族や
国のために死んで行くのだ。
これほどの茶番はないであろう。

 「立ち塞がるものは全て粉砕しろ!」

攻撃開始から一時間、中央部隊の進撃は予定を上
回る速度で進んでいた。


 「クーちゃんとシンちゃんは凄いね。あと、ヨ
  ッちゃんも」

ザフト軍のモビルスーツ隊の隣りで、マリア達は
「リックディアス」を飛行させながら、敵陣を突
破していた。
「リックディアス」は「ドム」の改良機で、飛行
性能を持たせる事に成功した初めての重モビルス
ーツであった。
装甲は、フェイズシフト装甲に戻していて、タナ
カ少佐とリサ少佐の機体の色は黒が主体であった
が、マリア少将の機体のみが、Vフェイズシフト
装甲を装備していて、自分の二つ名の通りに赤い
色に設定を調整していた。 

 「あの、クーちゃんって誰ですか?」

 「タナカ少佐、クルーゼ司令の事に決まってい
  るでしょ」

 「リサちゃん、正解!」

 「勘弁してくださいよ。国際問題になります」

 「フレンドリーに行こうよ。マダガスカル軍じ
  ゃないんだから」

 「向こうと連絡が取れませんからね」

 「同じところを攻撃しているのに、広すぎて見
  えないよ」

下らない事を話してるので、隙だらけかと思いき
や、立ち塞がった三機の「ハイペリオン」を一人
が一機ずつクレイビームバズーカで仕留めてから
、地上のミサイルランチャーに、背中に装備した
ビームブーメランを投げつけた。

 「リサちゃん、上手になったね」

 「あれだけつき合わされればね・・・」

マダガスカル共和国軍少将の地位にあるマリアは
、お飾りと宣伝の要素が強かったので、通常業務
がほんとど存在しなかった。
たまに広報の方から依頼を受けて、パイロット募
集のポスターのモデルをしたり、イベントに参加
したりというのが主な仕事で、残りは新型機のテ
ストパイロットか訓練を行うのみであったのだ。
当然、タナカ少佐とリサ少佐もそれに付き合わさ
れて、毎日のように訓練を重ねていた。
才能があったとはいえ、二十代半ばを過ぎてから
モビルスーツに搭乗したリサは、マリアに鍛えら
れてなかなかの腕前に成長していた。
マリアは日頃はアレでも、訓練は容赦しない性格
だったのだ。
一方、タナカ少佐は、大西洋連邦MAのパイロッ
ト経験者だったうえに、コーディネーターでもあ
るので、その実力をいかんなく発揮していた。

 「でも、ジョセフィーヌちゃんがいないから、
  つまらないな」

 「お嬢、この乱戦で、あんな得物を振り回せる
  わけがないしょうが」

リサは三人になった時にだけに使う、昔からの渾
名である「お嬢」で呼びながら、マリアにツッコ
ミを入れた。
ジョセフィーヌとは、マリアが愛用している三式
長距離狙撃砲改兇了であり、通常は二つに分割
してリサの「リックディアス」の背中に装着され
ていたのだが、乱戦には不向きな装備なので置い
てきてしまっていたのだ。

 「パトリシアちゃんは元気一杯なのに」

 「お嬢、パトリシアってもしかして・・・」

 「うん。この子の名前なの。可愛いでしょう?
  」

 「馬じゃないんだから・・・」

リサのボヤキは誰にも聞かれる事はなかった。


(同時刻、東岸侵攻部隊)

 「イスラム連合の諸君!アラーの神は、君達の
  勇姿を見守ってくれているぞ!さあ、今こそ
  命をかける時だ!」

 「「「「「「おーーー!」」」」」

「はりま」と「すおう」を先頭に、イスラム連合
軍、西アジア共和国軍極東連合陸軍の突撃が開始
されて一時間、相羽三佐がともに戦っているイス
ラム連合のパイロット達に檄を入れていた。

 「相羽、お前の家は曹洞宗じゃなかったか?」

 「いいんだよ。ノリだよノリ」

最前線で「ハイペリオン」隊と交戦しながら、石
原二佐が疑問を投げかけるが、相羽三佐の答えは
適当そのものであった。

 「それはいいが、抵抗が強いな」

 「この戦力ではな。俺達とバルトフェルト司令
  の部隊で戦力を引き付けて、中央の精鋭モビ
  ルスーツ隊で司令部を落すのが作戦の基本案
  だからな」

極東連合軍はともかく、西アジア共和国とイスラ
ム連合のモビルスーツは旧式機が多かったので、
数では有利だったのだが、少数の「ハイペリオン
」に足を止められて思うように前進できずにいた

 「俺達と違って陸さんは、(センプウ供砲世
  らな。(ハイペリオン)とそう性能が変わら
  ない」

極東連合軍における「ハヤテ」の優先順位は、一
位が特殊対応部隊で、二位が機動護衛艦隊、空軍
部隊の順番となっていて、陸軍部隊はまだ「セン
プウ供廚鮖箸辰討い拭
それでも、世界の平均から見れば、高性能機であ
る事に変わりはなかったのだが。
ユーラシア連合の「ハイペリオン」も、モビルス
ーツでは初めて光波シールドを装備するなど、高
性能ではあったのだが、先の大戦では大西洋連邦
のように数を揃える事ができずに、戦況を変える
事ができなかったのだ。
「遅れてきた傑作機」これが軍事関係者の評価で
あった。
そして、新型機の開発は思うように進んでおらず
、ユーラシア連合軍技術部の将校たちは、エミリ
アの威光を受けたクーデター政権の命令によって
、ウラル要塞用のモビルスーツの生産に従事させ
られていた。

 「西岸の様子はどうなんだろうな?」

 「向こうも、精強なのはバルトフェルト司令指
  揮下の部隊のみだ。マダガスカル共和国軍は
  、強いが数が少ないからな」

 「運河の地中海口で待機している艦隊からの艦
  載機が来たらつらいな」

 「もう来ていらっしゃるよ。ここが踏ん張り時
  だぜ。数は俺達の方が有利なんだから。時間
  をかけても確実に数を減らして一歩でも前進
  する」

 「そうだな」

数の有利を生かして、僅かずつではあるが前進を
続ける東岸部隊であったが、敵の抵抗はいまだに
衰えずにいた。


(同時刻、西岸攻撃部隊視線)

 「マーズ、ヘルベルト。あれをやるよ!」

 「了解!」

 「本当かよ」

 「「「ジェットストリームアタック!」」」

三機の「ドム」は掛け声とともに、地上防御陣の
「ザウート」や各種砲台を無慈悲に破壊していき
、そのあとを味方のモビルスーツ隊が付いてくる
という状態になっていた。

 「でも、あれだな。飛べないのは辛いな」

 「マーズ、贅沢言うんじゃないよ!」

 「俺もそう思うぜ。上空にいる方が有利っての
  が戦術的なセオリーだぜ」   

西岸部隊は、「ディン」「ディンカスタム」「セ
ンプウ改」で「ハイペリオン」隊に立ち向かい、
残りのモビルスーツ隊で防御陣の破壊と突破を試
みていた。
戦況はこちらが有利ではあったが、上からビーム
を撃たれるかもしれないという状況は好ましくな
かった。

 「バルトフェルト司令はどこにいる?」

 「僕はここにいるよ」

MA体型で疾走して敵の「シグー」を切り裂きな
がら、バルトフェルト司令が返事をした。
空中のモビルスーツ隊はともかく、地上の防御陣
には多数のザフト・旧地球連合製のモビルスーツ
が配備されていた。
どうやら、ジャンク屋から購入したようだ。

 「中立を語るのは結構だが、ジャンク屋達は仲
  間の行動の統制を行ってくれないと困るな」

 「無理を言うんじゃないよ。元々アウトローの
  自由人の集まりなんだ。埃を持ってやってい
  る奴らもいるが、(金のためには決まりなん
  てクソ喰らえ)なんて連中も多いのだから」

 「まあ、兵器の拡散防止策は戦後に任せるとし
  て、我々は目前の敵を撃破しなければな」

 「そうだね」

「ガイア」と「ドム」は連携して目前の敵を撃破
し始めた。  
地上は大分優勢であったが、空中は決定力不足が
響いて、思ったほどの進撃速度を出せないでいた

 「パンチが弱いんだよね」

 「バルトフェルト司令!後方から艦船の反応が
  二つ現れました。いかがいたしましょうか?
  」

 「ダコスタ君、予定より早いけど、聞いている
  だろう?それに(アークエンジェル)は、昔
  一緒に戦った仲ではないか」

 「すいません。あっ、向こうから連絡が来まし 
  た」

 「繋いでくれ」

 「始めまして。大西洋連邦特殊対応部隊司令兼
  (アークエンジェル)艦長のナタル・バジル
  ール大佐であります。すぐにモビルスーツ隊
  を発進させたいと思うのですが」

 「早速、頼むよ。多少有利だが、決定力不足で
  生ぬるい状況が続いているんだ。識別装置の
  周波数は聞いているかな?」

 「はい。聞いています」

 「では、それでお願いするよ」

 「わかりました」

通信が切れるとすぐに、「アークエンジェル」と
「ミカエル」からモビルスーツ隊の発進が確認さ
れた。

 「南アメリカ合衆国軍と共同でこちらにも口を
  出すのか。大西洋連邦も、世界一の大国の地
  位を維持したいらしいね」

大西洋連邦は、大西洋艦隊と太平洋艦隊の八割の
戦力を統合して大艦隊を編成して、ユーラシア連
合軍大西洋艦隊と北海艦隊とにらみ合いを続けて
いて、一国で一方面を担当しているのだが、更に
援軍をこちらに派遣してきたようだ。
バルトフェルト司令は、送るとは言われていたの
だが、本当に来るとは思っておらず、戦闘終了後
に顔だけ見せると予想していたのだ。

 「数は、(ウィンダム)と(センプウ改)が合
  計で三十機あまり。エース専用のカスタム機
  が三機か。数は少ないが、質は重視している
  らしいな」

「ウィンダムファントム搭載機」「ウィンダム特
火タイプ」「センプウソードスペシャル」が先頭
に立ち、「ハイペリオン」を蹴散らすと、空中モ
ビルスーツ隊の進撃速度があがった。
フラガ少佐は、特許権で未だに揉めているファン
トム重力下仕様を十基装備した「ウィンダム」に
乗り換えて戦場に登場し、残りの二人は以前のま
まの機体を使っていた。
ちなみに、「白鯨」ことジェーン・ヒューストン
大尉は、通常の「ウィンダム」を使っていたので
、それほど目立たないようだが、腕は一流なので
行動はかなり目立っているようだ。

 「特に腕の良いのが四人か。敵じゃなくて良か
  った良かった」

 「良かったじゃないよ。さあ、進撃再開だ!」

 「それじゃあ、行きましょうかね」

 「「「ラクス様のために!」」」

 「何なんだい?いきなり三人で」

三人の叫び声にバルトフェルト司令は驚いてしま
う。

 「世界の安定のために、我々はラクス様の指示
  で動いているのさ。そして、生まれてくるお
  子様達が、次世代の平和を担う」

 「個人崇拝は危険だと思うよ。僕はクライン派
  だけど、その考えに共鳴しているのであって
  、ラクス嬢に共鳴しているわけではない。し
  かも、ザフト軍の軍人なら、とりあえずは上
  官である、僕の指示で動いて欲しいな」

 「だから、敵を撃破しているじゃないか。さあ
  、時間の無駄だからとっとと行くよ!」

 「「おおーーー!」」

三機の「ドム」は、バルトフェルト司令を置いて
前線に出てしまった。

 「何か個性的な連中ばかりで疲れるよね」

バルトフェルト司令はそう呟くのだが、自分も十
分に個性的である事には気が付いていなかった。


 「ファントムの調子は上々だね。ザフト軍やオ
  ーブ軍に先を越されてしまったけど」

今までは、ガンバレルで我慢していたのだが、高
性能で数が積めるファントムに装備が変わって、
フラガ少佐はご機嫌であった。
南米のゲリラ討伐を終えてから、急遽補給されて
組み立てと試験を泥縄式に行った割には、ファン
トムは正常に動いてくれていた。

 「後ろがガラ空きだぜ!」

「ハイペリオン」は、光波シールドで防御しよう
とするが、ファントムはシールドが守れない後ろ
や横から攻撃を加えられて簡単に撃破されていた

一部のエースや熟練者なら、ファントムの動きを
読んで回避や防御が可能なのだが、そんな人間は
それほど多くはいなかった。

 「どうにかなりそうかな?」

フラガ少佐が、指揮官の観点で戦場を見渡すと、
「ウィンダム」隊の参戦で、少しずつではあるが
、優勢になりつつあるようだ。 
あとはこの状態を維持していけば良いのだ。

 「他の連中は・・・。エドワード少佐は凄いな
  」

「センプウソードスペシャル」は、接近戦を挑み
、「ハイペリオン」を無慈悲に切り刻んでいた。
その二つ名の通りに、機体にオイルが飛び散って
いて、沢山の兵士を斬り捨てた武士のように見え
る。
そして、ジェーン大尉はエドワード少佐の援護に
あたっていた。
本当は所属が違うので、規則違反であるのだが、
そんな事を咎める野暮な人間は、一人もいなかっ
たのだ。

 「仲良き事は美しきかな。でもな、レナ少佐は
  な・・・」

 「どちくしょう!私ばかり、何でいつも一人な
  のよ!」

レナ少佐は、「ウィンダム特火タイプ」が搭載し
ている小型ミサイルとガトリング砲を乱射して、
怯んだ敵をビームライフルとビームサーベルで仕
留めていた。  
単純な手ではあるが、単純ゆえに恐ろしい破壊力
を発揮していたのだ。

 「コラーーー!逃げるな!良い男なら捕虜にな
  りなさいよ!」

レナ少佐の気迫に押された、一部の敵モビルスー
ツが逃げ出し始めた。

 「・・・・・・。あー、レナ少佐の部下達に告
  げる。敵の追撃は適当にやって彼女をフォロ
  ーするように」

 「「「了解です・・・」」」


多少、敵と彼女の部下達に同情しながらも、フラ
ガ少佐は自分の職責を果たすのであった。
攻撃開始から二時間あまり、西岸の戦況も攻撃軍
有利で進んでいた。


(同時刻、スエズ防衛軍臨時司令室)

ユーラシア連合スエズ防衛軍は、地下に設置され
た臨時司令室で全軍の指揮を執っていた。
地下司令部は、先の大戦の終戦直後に着工されて
最近完成したもので、地下50メートルの地点に
設置されていた。
司令部では、数十人のオペレーターや管制官が各
部隊と連絡を取りながら、中央の巨大な地図に駒
を動かして、戦況が一目でわかるようになってい
た。

 「東岸はコンバットボックスの15%を喪失、
  24%に損害を出しています」

 「西岸は18%を損失、26%に損害です」

 「中央は20%の喪失と28%の損害です」

 「中央が厳しいな」

 「最精鋭部隊ですからね」

防衛隊司令官とオブザーバーとして呼ばれたクロ
ードが、神妙な顔をしながら戦況を分析していた

 「夜までもてば、明日の朝日が拝めるのだが」

 「どちらにも、集団で夜戦を行える能力はあり
  ませんからね。それでなくても、同じ種類の
  機体が混在して大変なのですから」

 「モビルスーツの支援に感謝していますよ」

 「ジャンク屋ほどバラバラな組織はありません
  。組合を作ったマルキオの手腕には感心しま
  すが、私が少しつつけば、お金のために無茶
  をする連中は多数いるのですよ」

 「地上のモビルスーツ隊のパイロット達は、訓
  練生が大半で技量は並以下ですが、固定砲台
  よりは役に立ちます」

 「可哀想に。使い捨てですか?」

 「国のために命を張って貰っているだけですよ
  。あなたも同じ様な事をしているのでしょう
  ?」

 「否定はしませんね。さて、追加を投入します
  か」

 「このタイミングでですか?」

 「敵は(勝てそうだ、何とかなりそうだ)と思
  っています。そこに(クライシス)部隊と(
  デストロイ)をぶつけます」

 「心理的には、正しいのかな?」

 「これ以上不利になってから投入しても無意味
  ですし、始めから投入すると、稼働時間が持
  ちません。全力で三時間です。試作品を無理
  して量産したので、そのあとの整備に半日か
  かる事を考えると、今しかありませんね」

 「それでも、恐ろしい威力を発揮するのだろう
  ?」

 「それは、保障します」

 「では、出撃だ」

 「(クライシス)部隊とともに出撃させます。
  (ザムザザー)と(ゲルスゲー)で左右の敵
  を防ぎ、五機の(デストロイ)で一気に中央
  の敵軍を粉砕します。艦隊を壊滅させれば、
  敵は引き揚げるはずです」

 「それが妥当かな」

 「引き揚げなくても、翌日までに整備してどち
  らかの敵軍に使用すれば、引き揚げる可能性
  は更に増すでしょう」

 「では、お願いしようかな」

 「お任せ下さい。では、(デストロイ)の格納
  庫に向かいます」 

クロードは、(デストロイ)(ザムザザー)(ゲ
ルスゲー)の発進の指揮を執るべく、特設格納庫
に向かってしまい、残された司令官と参謀長が会
話を始めた。

 「彼らが手を貸してくれるのはありがたいが、
  そのせいで、ユーラシア連合は滅亡への道を
  辿っているような感じがする。複雑な心境だ
  な」   

 「では、降伏しますか?」

 「それもどうかな?最後まで戦って降伏するの
  は仕方がないが、現時点で降伏しても納得し
  ない部隊があるはずだし、地中海艦隊も我々
  の裏切りをなじるだろうな。損害が許容量を
  超えて、連中が再戦を期して引き揚げてから
  にしないと、同士討ちの可能性がある。そう
  しなれば更に犠牲が増えるだろう。私のキャ
  リアはこれで終わりだろうが、せめて最後く
  らいは自分の意見を通させて貰おう」

 「そうですね。降伏したのに、発砲なんてした  
  ら大変な事になりますしね」 

 「悲しいかな。私はフランス系将校だが、主流
  派の人気がないのだよ。追い込まれなければ
  、降伏なんて聞き入れて貰えないさ。命令で
  戦っている他国の兵士達には気の毒だが」

 「頑張っているのは、フランス系とロシア系の
  将校のみですか。そうですね。私はオランダ
  系の将校ですが、生き残るという目標だけで
  すね」

 「そうか。なら信頼できるかな」

 「それで結構ですよ」

 「それにな。(デストロイ)で勝てる可能性も
  捨てきれないぞ」

 「まともな軍人なら、新兵器で勝つなんて幻想
  は持たないものです」

 「プラントは、モビルスーツで判定勝ちに持っ
  ていったぞ」

 「あれは、反プラント理事国の各国を結集させ
  た外交的な部分が大きいですね。勿論、モビ
  ルスーツも要因ではありますが、それだけで
  はありません。そして、自国の凋落を防ぐた
  めに、エミリアのような毒婦を信用した現ク
  ーデター政府の愚かさが、現騒乱の敗因と分
  析します」

 「まだ負けていないけどな。だが、私もあの女
  は信用できない。一見、温和でカリスマのよ
  うなものを備えているが、目の奥に危険なも
  のを感じた」

 「会った事があるのですか?」

 「あるさ。私はフランス系将校だからな」

 「私も会ってみたいものですね」

 「40過ぎのおばさんだぞ。つまらんぞ」

 「そういう意味で言ったわけではないのですが
  ・・・」

二人が話し込んでいる間に、(デストロイ)の発
進準備は確実に進んでいた。 


(同時刻、特設格納庫内)

司令部とともに地下に建設された特設格納庫で、
クロード達が(デストロイ)(ザムザザー)(ゲ
ルスゲー)(クライシス)の発進準備を整えてい
た。

 「クロード様、生体CPUなのですか・・・」

 「薬を投入して能力を上げろ!今日明日もてば
  いいんだ」

 「ですが、本当に二日しかもちませんよ」

 「どうせ、廃棄予定の失敗作だ。薬で強化しな
  ければ、(デストロイ)の性能を発揮しきれ
  ん。いいからやれ!」

 「了解しました」

クロードの部下達は、生態CPU達に薬物を注射
してから、「デストロイ」のパイロット席に押し
込んだ。

 「わかっているな!情報を良く見て将官が座上
  している艦船を優先的に撃破しろ。その前に
  邪魔するモビルスーツは適当に蹴散らして時
  間を稼がせるな」

クロードの命令に生体CPU達は首を縦に振った

 「よーし!(デストロイ)発進だ!新国連軍だ
  か知らないが、死のダンスを踊りやがれ」

 「生体CPUとのコンタクト開始。シンクロ率
  91.57%起動正常。戦術コンピューター
  同調開始。成功。エネルギー伝導率正常値で
  す。(デストロイ)起動します」

 「(ザムザザー)と(ゲルスゲー)も起動成功
  。向こうは、通常のパイロットなので、特に
  異常はありません」

 「ミリア様から連絡が入りました。(クライシ
  ス)隊発進しました」

 「キスリング少将から最終暗号文です。(ワレ
  、サイゴノトツゲキヲカンコウス。ブウンチ
  ョウキュウヲイノラレタシ)以上です」

 「(ミネルバ)の諸君!これで、チェックメイ
  トだ!お前達も適当なところで引き揚げろよ  
  。事前の情報通りに潜水艦を準備しているか
  らな。俺達の決戦はウラル要塞なんだ。ここ
  で死ぬなよ」

 「わかりました」

 「「「了解です!」」」

クロードは、(デストロイ)の起動をバックアッ
プした部下達に最後の脱出を指示してから、自身
もこの場を離れるのであった。
これから、ヨーロッパ各地を回って色々と準備を
しなければいけないからだ。 

 「さて、どのような結果が出るのやら」

クロードは小型のボートで地中艦隊の空母を目指
す事にした。
その空母から高速ヘリを飛ばして、ヨーロッパ本
土に渡るためである。
こうして、スエズ運河に彼の最後の罠が張り巡ら
されたのであった。 


(同時刻、カザマ視点)

 「右に(ストライクダガー)が一機。左に「ハ
  イペリオン」が二機。ええい!こっちだ!」

俺は左に「ギャプラン」を寄せてからモビルスー
ツ体型に変型して、両腕にビームサーベルを持た
せてから、二機の「ハイペリオン」を切り裂いた

敵は自分達を狙ってくるとは思わなかったようで
、反応がワンテンポ遅れたようだ。

 「更に!」

狙われないで安心していた「ストライクダガー」
も後ろからビーム砲で撃ち抜いた。
戦場では、油断している奴が悪い。
ただ、それだけの事だ。

 「実戦だとえげつないわね」

 「酷い言われようだな。補給に戻りますから、
  あとはヨロシク」

 「わかったわ」

「セイバー」に乗ったリーカさんに補給する旨を
言ってから、俺は「ミネルバ」に帰艦した。
結局、デュートリオンビームでエネルギーは補給
できても、推進剤や弾薬、ビーム用の重金属ペレ
ットの補給はでないので、常に三分の一の機体が
補給に戻り、残りの三分の一が補給を気にしなが
ら戦い、最後の三分の一が普通に戦っているとい
う状態であった。
戦況は、我々が少しずつ押していたのだが、まだ
予断は許されない状態であった。

 「エイブス班長!ヨウラン!ヴィーノ!補給を  
  頼むぞ!」

 「ヨウラン!ヴィーノ!」

 「「了解です!」」

艦に戻った俺は、二人に補給の指示を出してから
、食堂で何かを飲む事にした。
「ミネルバ」艦内は、被弾したりエネルギーが母
艦までもたないザフト軍モビルスーツも着艦して
いて、大喧騒状態に陥っていたのだ。
食堂に入ると、小数ながら他の艦のパイロット達
が軽食や水分補給を行っていた。

 「おや?これはこれは。われらが司令官どので
  はありませんか」

 「落とされたのか?」

疲れている時に、一番聞きたくない声が聞こえた
ので、つい嫌味で応酬してしまった。

 「ご心配ありがとうぞざいます。補給ですよ」

 「別に心配していないけど」

 「私の技量を信じていたただきまして、ありが  
  とうございます」

お互いにちぐはぐな会話を続けながら、どうしよ
うかと迷っていると、「カオス」の補給終了の連
絡が放送で流れた。

 「では、お先に」

マーレが先に食堂を出たので、安心して飲み物を
飲んでいると、二十分ほどで「ギャプラン」の整
備完了の連絡も流れた。

 「さて、行きますか」

俺が格納庫に戻ると、「ギャプラン」が俺の目の
前で出撃してしまった。

 「ええっ!どういう事なんだ?」

俺は近くにいたヨウランとヴィーノに問い質すし
た。

 「カザマ司令は、(ミネルバ)艦内で指揮に専
  念なさるとの事で、代わりに自分が乗るよう
  に命令を受けたと・・・」

 「確認はしたのか?」

 「忙しくて・・・」

 「すいません・・・」

 「もういい!それで、(カオス)は大丈夫なん
  だな?」

 「整備は終了していますが、(カオス)で大丈
  夫ですか?」

 「二回だけ乗った事がある。大丈夫だ。(セン
  プウ改)は、乗機の損害が大きい他艦のパイ
  ロットに貸してしまったからな。予備機はも
  うないのだろう?」

 「ありません」

実は、新型機の予備部品のスペースを確保するた
めに、二機の(ザクウォーリア)を潜水艦隊の方
に譲渡してしまっていたのだ。

 「では、(カオス)で行く」

 「起動兵装ポッドは使えるんですか?」

 「子供の頃に、初めて買ってもらったラジコン
  のように動かせるさ」

 「・・・・・・」

 「飛べてビームライフルとビームサーベルが使
  えれば問題ない!」

俺は一番操作が苦手な「カオス」で出撃して、マ
ーレの追撃を開始したが、その直後に衝撃的な報
告が入ってきた。

 「カザマ司令!前線に巨大なMAらしきものが
  現れました。数は五機です。恐るべき火力で
  、我々は後退を余儀なくされています」

 「カザマ司令へ、新国連軍艦隊総旗艦(あかぎ
  )からの緊急報告です。(ワレ、コウホウカ
  ラノキシュウヲウケル。モビルスーツガ80
  キアマリト、オオガタセンスイカンヲ10セ
  キイジョウカクニンス)以上です」

 「ちっ!立て続けかよ。違うな、連動している
  のだろうな」

俺は、後ろで糸を引いている者の存在を僅かなが
らに自覚しながら、事態の解決策を模索していた

このまま奴の思うとおりに動いたら、オーブの二
の舞になってしまう。

 「ザフト軍モビルスーツ隊司令官カザマより全
  機へ。敵の策は追い詰められたがゆえの最後
  っ屁だ。数はこちらが三倍なんだ。もう少し
  踏ん張れば、敵の限界が先に訪れる。もう少
  し気合いを入れろよ!」  

 「「「了解です!」」」

部下達に気合を入れてから前線に到着すると、五
機の巨大なMAが驚異的な破壊力を示していた。
このまま奴らを前進させたら、「ミネルバ」や「
アマテラス」が沈んでしまう可能性があった。

 「分担して敵に当たる。シン、クルーゼ司令、
  レイが各一機ずつ対応する事」

俺がクルーゼ司令に指示を出すと言うおかしな状
況になっているが、緊急事態なので仕方がないと
思うことにして、次の指示を出した。

 「ルナとステラで共同して一機を確実に落せ!
  」

 「「了解しました!」」

 「カザマ君、キラ君は補給に戻っていて絶望的
  だぞ。(タケミカヅチ)への奇襲部隊に対応
  する事になるだろうから」

結局、ハイドラグーン小隊も補給の頻度を考える
と、常に二機しか展開していない状態であった。
ハイドラグーンを重力下で使用するために、推進
剤の搭載量を減らして軽量化を図った結果、推進
剤は背中の供給装置から、そのつど補充する事に
なっていたので、その整備を定期的に行わないと
すぐに壊れてしまうし、重力下では空中に停止す
るだけで推進剤をバカ食いするので、推進剤の補
充も頻繁になっていた。
更にキラは、「ムラサメカスタム」の補給のため
に、わざわざ「タケミカヅチ」に戻っていたのだ

 「残りは俺とディアッカで・・・」

 「後方から(クライシス)部隊が来襲です」

 「ディアッカ!このデカブツに対応する者以外
  を率いて、奴らを潰せ!いいか、お前の躊躇
  や情けが、俺達を殺す事になると言う事を頭
  の隅においておけよ」

 「わかりました。確実にアヤは殺します」

 「では、頼むぞ」

 「カザマ君、私は?」

 「もう一人、隊長がいます。それを討ってくだ
  さい」

 「任せといて」

ディアッカとリーカさんは、部下を率いて「クラ
イシス」部隊に攻撃を開始した。

 「さあ、全員生き残れよ!」

こうして、スエズ攻防戦は最終局面を迎える事に
なったのであった。


 


(同時刻、「タケミカヅチ」格納庫内)

 「とにかく、こいつが切り札になる可能性が高
  いんだ!補給と整備を急がせろ!」

カザマ技術一佐は、珍しく大声で整備兵達に指示
を出していた。
艦隊は、後方からの奇襲で大混乱に陥っていた。
モビルスーツ隊の数にそれほどの差はなかったの
だが、一つの集団になって突撃を掛けてきている
敵と違って、各艦隊をバラバラに防衛していた味
方モビルスーツ隊の対応が遅れて敵の突進を許し
てしまっていた。
各国の艦隊は、恐ろしい量の対空火器やミサイル
などを発射して、集団の外円に位置している「ス
トライクダガー」などを叩き落していたが、逆に
反撃を食らって損傷したり、当たり所が悪くて沈
む艦艇が続出していた。
更にザフト軍潜水艦隊は、ノーチラス級高速潜水
艦隊との交戦を開始していたが、お互いに同数程
度の損害を出していて、こちらも決着に時間がか
かりそうであった。  

 「カザマ技術一佐、全部終らなくても良いです
  。出させて下さい!」

 「キラ・・・。いや、ヤマト技術二佐、それは
  あまりに危険だ」

 「何時間も戦うわけではありません。三十分も
  動かせればいいんです」

 「でもな。他の味方もいるから」

 「時間がありません!行きますよ!」

 「キラ・・・」

 「僕は、レイナも生まれてくる子供も、カガリ
  も、トダカ少将も死なせたくありません。行
  かせてください!」

 「そこまで言うなら行け!」

 「ありがとうございます!」

 「キラ、必ず帰ってきてね」

 「大丈夫だよ。子供の命名権は僕にあるのだか
  ら」

 「そうね。良い名前を考えてね」

 「任せてよ。それに、結婚式も挙げないとさ。
  それでね・・・」

キラは、用意していた指輪をレイナの薬指にはめ
た。

 「ありがとう」

 「この戦いが終わったら式を挙げよう」

 「うん」

キラとレイナは口付けをかわし、その様子を見て
いた整備兵たちが、外の喧騒を一瞬忘れて盛大な
拍手をした。

 「うううっ、何も言えない・・・」

カザマ技術一佐は、キラの言葉に感心していたの
で、「不謹慎だぞ!」「うちの娘になんて事を!
」という感情を内心に隠しながら、複雑な表情を
していた。

 「では、行きます!」

 「任せたぞ」

 「はい!」

キラは、最低限の整備と補給を終えた「ムラサメ
カスタム」を緊急で発進させて、敵部隊に突撃を
開始した。

 「死なせたくない者の中に、俺が入っていない
  ・・・」

 「お父さんが、日頃苛めるから」

 「天罰っすよ」

カザマ技術一佐の涙に同情する者は一人もなく、
レイナと部下の整備兵に鋭い指摘を受けるのであ
った。

 


 

 「今日は時間を掛けていられない!邪魔する奴
  は全て討つ!」

キラは、SEEDを久しぶりに発動させて、MA
体型のまま背中のビーム砲で、二機の「ストライ
クダガー」のコックピットを撃ち抜くと、瞬時に
モビルスーツ体型に変型して、ハイドラグーンを
展開させた。

 「落ちろ!」

一瞬で、五機以上のモビルスーツが叩き落され、
敵の足が止まってしまう。
後方の赤道連合と大洋州連合の艦隊を余裕で突破
できて、勢いに乗りかけたところでキラに阻まれ
てしまったのだ。

 「邪魔をするな!」

 「何者だ!」

 「一般庶民のコーディネーターの癖にデカイ口
  を叩くな!僕は、次期オーブ代表のユウナ・
  ロマ・セイランだ!」

 「寝言は寝てから言えーーー!」

キラが再びハイドラグーンを発動させて、ユウナ
を討とうとするが、周りでユウナを守っていた「
クライシス」がわが身を犠牲にしてそれを阻んで
しまう。

 「卑怯な。自分で戦え!」

 「僕は、五大氏族出身の貴族なんだぞ!一般庶
  民なんて相手にするか!カガリ、出て来いよ
  。僕との一騎討ちを所望する。僕は君に手袋
  を投げたんだよ。まさか、断らないよね。コ
  ロコロと思想を変える、卑怯者のアスハ家の
  当主でも」

 「カガリを出せるわけがないだろうが!この、
  わからず屋がーーー!」

キラは再びユウナを討とうとするが、またも周り
のモビルスーツが犠牲になって攻撃を防いでしま
った。

 「こうなれば、全滅させる!」

 「待て!」

突然、キラの無線にカガリの声が入った。

 「勝負を受けよう。先日、事故死したユウナの
  名前を語る偽者め!この手で討ち取ってくれ
  る!」

 「いいね。それでこそカガリだ。その猪武者ぶ
  りに今日は感謝だ」

カガリが一騎打ちを受けたために、戦場の動きが
止まってしまい、敵軍・オーブ軍の全モビルスー
ツ隊がカガリの到着を待つというおかしな状態に
なっていた。
カガリは総司令官なので、キラも独断でユウナを
討つ事ができなくなっていたのだ。

 「アスランにバレたら大変だ。ていうか、絶対
  にバレる」

キラは親友が卒倒する光景を思い浮かべながら、
カガリを待ち続けるのであった。


 「カガリ様、危険ですからやめて下さい」

 「そうよ。あなた一人の体じゃないのよ。アス
  ランが聞いたら卒倒するわよ」

 「すまないな。でも、これだけは引けないんだ
  」

格納庫内でパイロットスーツに着替えたカガリが
愛機の調整を続けていて、その横でカザマ技術一
佐とレイナが止めに入っていた。

 「キラに討たせれば済む問題なんですが・・・
  」

 「ユウナを狂わせた原因が私にもあるなら、せ
  めて自分で討たなければと思ったんだ。昔は
  あれでも優しくてな。遊んで貰った事もある
  し・・・」

 「わかりました。もう止めません、カガリ様の
  思う通りに」

 「すまないな」

 「ちゃんと無事に帰って来るのよ」

 「それは大丈夫だ。レイナの兄貴が師匠なんだ
  ぞ。ユウナなんかに負けないって」 

 「ヨシヒロですか?あのバカが当てになります
  か?」

 「当てにしている。もし、アスランがいなかっ
  たら、あいつを婿にしていたかも知れなかっ
  たから。でも、あいつには内緒にしておけよ
  」

 「わかりました」

 「では、行くぞ!」

調整が終わり二人が機体から離れると、カガリは
時間を惜しむかのように出撃した。

 「カガリ・ユラ・アスハ、(暁)発進する!」

カガリが乗った「暁」は、ユウナの「クライシス
」に向けて高速で出撃していった。 

 「(暁)だとビームが効かないのよね。結構強
  かよね。カガリも」

 「レイナ、世の中には(言わぬが仏)って言葉
  があるんだよ」

 「本当は(知らぬが仏)なんだけどね。そうか
  も知れない」

二人はそんな話をしながら、カガリを見送るので
あった。


 「ユウナ!私はここだ!尋常に勝負しろ!」

カガリがユウナと対峙したのを皮切りに、キラ達
と敵モビルスーツ部隊の交戦が再開された。
だが、キラの圧倒的な強さに、敵は一機また一機
と撃ち落されていく。

 「勿論さ。僕が惨たらしく殺してあげるよ。あ
  の宇宙の化物との子供がいるんだって?お腹
  を引き裂いて、引きずり出してあげようかな
  」

 「ユウナ・・・。お前、どうして・・・?」

 「僕が何をしたって言うんだ!僕と君は婚約者
  同士で僕が将来のオーブ代表。これで良かっ
  たじゃないか!それを邪魔したウズミ、カザ
  マ親子、アスラン・ザラ、そして隣りで戦っ
  ている化物のキラ・ヤマト。あいつらさえい
  なければ!そして、心変わりしたカガリ。君
  だよ。君が一番悪いんだよ!」

 「そうか。そこまで追い詰められていたのか・
  ・・。わかった。せめて私の手で・・・」

 「思い上がるんじゃないよ!僕に勝てると思っ
  ているのか!」

ユウナとカガリは、お互いにビームサーベルを抜
いて斬り結び始める。
ユウナも、「暁」にビーム砲が効かない事は理解
しているようだ。

 「何!なんで、ユウナがこんなに強い?」

 「それはね。僕がオーブの代表に相応しい人物
  だからだよ」

勿論そんな事はなく、本当はクロードに貰った薬
物が、効いていたからであった。
この薬は、効果が小さめだが副作用が少なく、長
時間効くという特徴を備えていて、ユウナをそれ
なりに強くしていた。
キスリングは、要はカガリが討てればそれで良し
と考えていたからであり、薬で壊れてしまったら
飾りとして使えなくなる可能性があったからだ。
キスリングは99%自分が死ぬと思っていたが、
万が一の可能性も捨てていなかったのだ。

 「ユウナがこんなに強いわけが・・・」

ユウナのモビルスーツの操縦の腕前は、「基本的
な操作はマスターしたが、実戦に出たら確実に戦
死するでしょう」というレベルであったらしい。
先の大戦時に、訓練時の様子をたまたま眺めてい
たカザマ司令が、「ユウナは、モビルスーツに乗
っている俺を怒らせない方が良い。十秒以内に殺
せる自信がある」と語っていた事からして、大し
た事がないのは事実なのであろう。

 「カガリ、どうした?自信がなくなったのかな
  ?」

 「ええい!」

 「(ごめんなさい。私が間違っていました。心
  を入れ替えてあなたの妻になります)と言っ
  たら許してあげてもいいんだよ。二人でオー
  ブを治めようじゃないか。子供はおろして貰
  うけどね。アスランは僕が縊り殺してあげる
  よ。ああ、愉快だなー」

味方のモビルスーツ隊が、キラ達の活躍で全滅寸
前にまで追い込まれているのに、ユウナは自信一
杯の発言を繰り返していた。
どうやら、薬の影響が別のところに現れているよ
うだ。
時間の経過とともに、各国の艦隊から援軍が駆け
つけて、ユウナのモビルスーツ隊は残り十機あま
りとなっていた。

 「もういい・・・」

 「何か言ったのかな?」

 「もういいって言ってるんだ!お前にこれ以上
  発言させては、かえってお前が可哀想だ!お
  前を討つ!」

カガリもキラと同様に、久しぶりにSEEDを発
動させてから、ユウナの「クライシス」に斬りか
かった。

 「あれ?何で急に強くなるんだよ!」

 「知るか!潔く討たれろ!」

 「ちょっ、ちょっと待って!」

 「今更、何だーーー!」

カガリは「クライシス」の両腕と両足を次々に斬
り落とし、頭部と胴体のみになったクライシスは
、バランスを保ちながら、何とか空中に浮いてい
た。

 「ウナト代表の命令だ。細胞一つ残すなだそう
  だ」

 「そんな!バカな!僕はセイラン家の跡取りで
  ・・・」

 「お前がいなくても、セイラン家は滅びない。  
  これで最後だ!」

 「ちょっと待ってよ!スイマセンでした。命だ
  けは・・・」

 「もう、遅い!」

 「そんな・・・。助け・・・あぎょびばぁーー
  ー!」

「暁」のビームサーベルでの一撃は、正確に「ク
ライシス」のコックピットを突き、数万度の熱に
焼かれてユウナは細胞一つ残さずにこの世から消
滅する。

 「ユウナ、何でこんなバカな事を・・・」

 「カガリ、大丈夫かい?」

結局、ユウナが率いていたモビルスーツ隊の内、
十機あまりが降伏して、戦闘は集結しつつあった

「クライシス」に乗っていたクローン兵は、命令
通りに最後まで戦ったのだが、傭兵達にはそこま
で付き合う義理がなかったからだ。
戦闘が終了したキラは、カガリが心配になって駆
けつけてきたようだ。

 「キラ・・・・・・」

 「大丈夫?」

 「大丈夫だ。オーブ軍将兵に告げる!ユウナの
  偽者を語った男は私が討ち取った!安心して
  くれ」

全員が事情を理解していたのだが、それを認める
わけにはいかいので、カガリは偽者を討ち取った
事を高らかに宣言した。
だが、その目からは涙が止まらないままであった


(同時刻、奇襲部隊旗艦「ノーチラス」艦内)

当初、潜水艦隊は十二隻の陣容を誇っていたが、
ザフト軍潜水艦隊との交戦で「ノーチラス」のみ
になっていた。
キスリングは独自のコネで、十数機の「カイオウ
」を手に入れて防御に回して奮戦していたが、ザ
フト軍水中モビルスーツ隊の「アビス」と「アッ
シュ」に討たれて、すでに数機を残すのみであっ
た。
そして、「ノーチラス」にも最後の時が訪れつつ
あった。

 「キスリング司令、損傷が大で排水が間に合い
  ません!」

 「そうか。最後の時まで少しあるのか。ユウナ
  はどうした?」

 「カガリに討たれました」

 「何をやっても駄目な奴だな。セイラン家に生
  まれたのが、奴の不幸だったのかな?」

 「カガリも有能だとは思えませんが」

 「そうだな。能力で言えばアレより優秀な奴は
  沢山いる。だが、カリスマだけは、努力では
  どうにもならない部分があってな。彼女には
  、有能な人間を惹きつける魅力があるようだ
  な」

 「そこまでわかっていて、どうして・・・?」

 「男の意地だ。セイラン家の派閥の力で出世し
  た俺は、アスハ家の派閥に移るのが嫌だった
  のだ。だから、バカながらもユウナを支える
  決心をしたのさ。バカなら裏から操るフィク
  サーの役目に付けると考えたわけだ。だが、
  それが失敗だったな。それとな・・・」

 「何ですか?」

 「俺は、カザマ親子が大嫌いなんだ。こればか
  りは感情の問題でどうにもならない。初めて
  親父の方に会った時、俺は航空機部長で、奴
  はモビルスーツ開発部の部長だった。彼はモ
  ビルスーツ量産の協力を要請してきたのだが
  、俺はそれを断った。すると、奴は俺を無能
  呼ばわりして左遷の原因を作ったのだ。確か
  に、向こうが正しかったさ。だが、俺は奴が
  嫌いだし、あとで会った息子も大嫌いだ。容
  姿は似ていないが、性格がそっくりだからな
  」

 「そうですか」

 「話したらスッキリした。さて、最後の時を静
  かに迎えるとしよう」

損傷と浸水が激しかった「ノーチラス」は、海底
深くに沈んでから圧潰した。
残った数機の「カイオウ」も降伏して、奇襲部隊
は全滅を遂げたのであった。   


(同時刻、カザマ視点)

 「なんちゅう火力なんだよ!わずかでも気を抜
  いたら・・・」

俺は慣れない「カオス」を操作しながら、「デス
トロイ」の攻撃をかわし続けていた。
予想を上回る強力な火力と防御力で、俺は時間を
稼ぐのが精一杯であった。
戦線もジリジリと後退を続けて、ミネルバまであ
と少しの距離にまで後退を余儀なくされていた。
あの艦を沈められたら大変な事になってしまうの
で、それだけは防がねばならない。

 「シン!」

 「もう少し待って下さい!」

シンは「ディスティニー」の機動性で「デストロ
イ」を翻弄しながら、少しずつ損傷を与えていっ
た。
ハイドラグーンと同じ原理で動いていると思われ
る、飛んでいた両腕をビームソードで叩き落して
から、後ろや横に回りこんで、長距離ビーム砲で
損傷を蓄積させていく。
その動きはすでに一人前の戦士のように見えた。

 「これで、最後だ!」

「ディスティニー」はデストロイの懐に入り込む
のと同時に、掌のパルマ・フィオキーナをコック
ピット部分に発射してパイロットの殺傷に成功し
た。
「デストロイ」は、操縦者を失ってゆっくりと地
面に倒れ込んだ。

 「よし!偉いぞ。シン」

 「次、行きます!」

シンが「デストロイ」を倒した数秒後、クルーゼ
司令も数基のハイドラグーンで別の「デストロイ
」に止めを刺し、「デストロイ」は派手に爆発し
た。

 「カザマ君、褒めてくれないのかね?」

 「ああ、偉いですね」

 「35年物の白が欲しいな」

 「はいはい!わかりましたよ!」

俺自身が苦しい戦いを続けているのに、それは関
係ないらしく、クルーゼ司令は俺に高い酒をねだ
って来た。

 「残り三機か・・・」

 「二機ですよ」

 「レイか!」

レイも「レジェンド」のハイドラグーンの乱れ撃
ちで、自分の担当の「デストロイ」を撃破してい
た。
多方面からの攻撃で、防御の手薄なところを狙っ
てハイドラグーンを侵入させたらしい。

 「別に俺は何もいらないですよ」

 「お前、金持ちだからな」

 「手助けしましょうか?」

 「正直、(カオス)だと辛い」

 「何で(カオス)なんですか?」

 「マーレの奴を軍法会議にかけてやる!」

 「じゃあ、行ってください」

 「くそーーー!絶対に許さん!」

俺は「デストロイ」の処理をレイに任せてマーレ
を追い掛ける事にした。 


 「レイさん、シンさん。あのデカブツの足を止
  める手伝いをして下さい」

 「それはいいですけど、マリア少将はどこです
  か?」

突然、二機の「リックディアス」が現れてシン達
に協力を申し入れてきたのだが、隊長であるマリ
アの姿がどこにも見えなかった。

 「それは秘密ですよ。我らが大将の実力を見て
  ください」

 「あと三十秒ね」

 「わかりました。レイ!行くぞ!」

 「おう!」

四機のモビルスーツは二機ずつで連動しながら、
「デストロイ」の動きを翻弄し続ける。
そして、約束の時間になると同時に、後方から強
力なビーム砲が発射されて、コックピットの後部
を撃ち抜いた。
パイロットが死亡した「デストロイ」は、糸が切
れたマリオネットのように倒れ込んでしまう。

 「うそ!」

 「何であんな距離から・・・」

 「しかも、あれは・・・」

 「そうでーす。破壊された(ザク)のオルトロ
  スを使いました」

 「(リックディアス)は、元々ザフト製のモビ
  ルスーツだからね。コネクターの規格が合っ
  ていたわけね」

マリアは密かに「デストロイ」の後方に回り、破
壊された「ザク」のオルトロスを結合して、狙撃
を敢行したのだ。
しかも、「赤い狙撃手」の名前に恥じず、一撃で
急所の破壊に成功していた。 

 「リサちゃん」

 「何ですか?」

 「動けない。エネルギーが切れちゃった・・・
  」

 「ああ、格好悪い・・・」

 「仕方がないじゃない!オルトロスのタンクは
  破壊されて残ってなかったのよ!」

 「はいはい、迎えに行きますからね」

 「待ってて下さいね」

 「うん。待ってる」

 「凄いのかバカなのか理解できない」

 「俺もだ・・・」

シンとレイが呆れている間に、クルーゼ司令は二
機目の「デストロイ」を撃破して、思ったほどの
戦果があがらない内に、「デストロイ」隊は全滅
してしまうのであった。

 「私達が活躍してない!」

 「あれは強すぎ。シン達が凄いの」

「デストロイ」を倒せなかったルナマリアとステ
ラが感想を述べたあと、「ミネルバ」隊は再び前
進を開始するのであった。


(三十分前、ディアッカ視線)

シン達が「デストロイ」に向かったのと同時に、
ディアッカはザフト軍のモビルスーツ隊を率いて
、ミリアが指揮する「クライシス」隊に攻撃を開
始した。

 「ディアッカ君、私は大将を討ち取るわよ」

 「任せます!」

 「みんな、行くわよ」

 「「「了解!」」」

リーカは、「グフ」で構成された精鋭部隊を率い
て、ミリアの「クライシス」を探し始める。

 「見つけたぞ!アヤ!」

ディアッカは目標のアヤの「クライシス」を発見
して突撃を開始する。

 「本当に好きだったのに!俺を騙しやがって!
  絶対に許さない!」

 「ディアッカ・・・」

この光景を見たら、クロードが「暗殺者は何をや
っているんだ!」と思うかも知れないが、二人は
戦場で再会を果たし、殺し合いを開始しようとし
ていた。

 「絶対に殺す!」

 「そう。あなたが私を殺すの・・・。いいわよ
  」

 「なっ、何を言っているんだ!」

 「私はあなたに殺されてもかまわない。カザマ
  を討つ事を目標にしてきたけど、疲れてしま
  ったわ。あなたが、幕を下ろしてくれると嬉
  しいな。私には、あなたを討つ事ができない
  から・・・」

 「なら、こっちに来いよ!俺がお前を守るから
  !絶対に命に代えても、全てを擲っても必ず
  守るから」

 「優しいね。ディアッカは・・・」

 「なら来いよ」

 「でも、それは駄目。テロリストの私といると
  あなたに迷惑が掛かるし、友人を置いていけ
  ない。死んでしまえばわからなくなるけど、
  生きている間はあの子を見捨てられない。私
  の唯一の友人だから」 

 「そんな・・・」

二人が戦場を外れて話をしている間に、戦いは激
しさを増していた。
「クライシス」が討たれ、「グフ」が討たれ、お
互いにモビルスーツが撃破されて、パイロット達
が戦死していく。
この当事者である自分が、ディアッカと幸せにな
って良いはずがない。
彼女はそう考えて、ディアッカの誘いを振りきっ
たのだ。

 「本当はあなたの元に飛び込んでいきたい。で
  も・・・」

 「それなら!」

 「サヨナラ、ディアッカ」

アヤはディアッカの側を離脱して、戦闘区域に向
けて飛んで行ってしまった。

 「ちくしょう!何でなんだよーーー!」

ディアッカの絶叫が、戦場に響き渡った。


 「おばさん、しつこい!」

 「ガキの癖に!」

追うリーカと追われるミリア。
腕の差があるので、ミリアが完全に逃げに徹して
いると、アヤの「クライシス」がミリア機に接近
してきた。

 「敵の隊長は?」

 「戦意は喪失させた・・・」

 「そう」

 「ディアッカ君を殺ったの?」

 「五月蝿い!私は今、機嫌が悪いんだ!」

アヤは十基にまで増やしたハイドラグーンを展開
して、「セイバー」への攻撃を開始した。

 「何!動きが読めない!」

 「落ちろ!」

 「しまった!」

アヤのハイドラグーンの攻撃は、「セイバー」の
頭部と左腕と右足を粉砕し、「セイバー」は地面
に落下して行った。

 「アヤって凄いわね」

 「次の敵は・・・」

二人が次の敵を探そうとすると、無線から連絡が
入ってきた。

 「アヤ様、ミリア様。クロード様からの引き上
  げ命令です」

 「どうして?まだ負けたわけじゃ・・・」

 「(デストロイ)隊は全滅です。そして、クル
  ーゼとカザマに裏をかかれました。そこにい
  るはずの自衛隊の(ハヤテ)隊と、オーブ軍
  のザラ一佐指揮の(ムラサメ)隊が東岸に移
  動していて、恐ろしい勢いで防御陣を突破し
  ているそうです。このままでは、総司令部の
  陥落も時間の問題かと・・・」 

 「負けか!予想はしていたけど」

 「おかしいわよ!エネルギーが持たないわ」

 「アヤ様、東岸部隊の陸上部隊には極東連合の
  部隊が存在していて、(センプウ供砲配備
  されています。多少稼動時間が落ちますが、
  バッテリーが使えない事はありません。オー
  ブ軍の(ムラサメ)のバッテリーも、配線を
  多少いじれば」

戦いを犠牲を少なく早く終らせるために、カザマ
司令の発案で、主力部隊だと思われている中央部
隊に強力な攻撃が集中している事が確認されたら
、「ハヤテ」と「ムラサメ」の部隊の七割を戦力
が一番乏しくて囮だと思われている東岸に移動さ
せて一気に本陣を落す。
これが作戦の骨格であった。
自衛隊の飯島三佐とオーブ軍のザラ一佐の率いる
モビルスーツ隊が東岸部隊に到着して、バッテリ
ーを補充。
しかる後に、石原二佐と協力して敵陣の突破に成
功したのであった。

 「このまま、地中海艦隊に合流して下さい。空
  母が拾ってくれます」  

 「悔しいけど引き揚げね!」

 「全軍撤退よ!」

ミリアの指示で、「クライシス」隊は引き揚げを
開始した。
それと同時に、総司令部の陥落が伝えられてユー
ラシア連合軍は艦隊に拾われて脱出した者、海に
出てからエネルギーが尽きて遭難した者、素直に
降伏した者、最後まで抵抗して討たれた者など多
様な反応を見せていた。

 「ディアッカ隊長、追撃は・・・」

 「リーカさんを救出してからだ・・・」

 「連絡が入りました。(セイバー)は大破状態
  ですが、リーカさんは軽傷だそうです」

 「そうか。良かった」  

だが、ディアッカの心は晴れなかった。
カザマ司令の言葉通りに、リーカがアヤに討たれ
るところだったのだ。
もう、悩んでいられる時期は終了したのかも知れ
ない。 

 「(討ちたくはないが、討つしかないのか?本
  当にこの手でアヤを討つのか。俺にできるの
  か?いや、やらなければいけないんだ)」

ディアッカは、悲壮な覚悟を胸に敵の追撃を開始
するのであった。


 


(三十分前、カザマ視点)

 「マーレの野郎!どこに行きやがった!」

俺は「ギャプラン」の機体コードを頼りに、マー
レを探索していた。
識別装置に示された場所は、すでに戦闘が終って
いて、多数のモビルスーツや砲台の残骸がわずか
に煙を上げている状態であった。

 「こんなところに何で?危ない!」

突然、残骸だと思っていた「ストライクダガー」
のビームライフルからビームが発射され、俺は反
射的に回避をした。

 「暴発か?」

 「違うさ。でも、さすがだな。ここで殺すのが
  惜しいくらいだ」

 「本当にそう思っているか?」

 「いや、テメエは死んでくれた方がありがたい
  な」

 「本心を明かしてくれてありがとう。理由を聞
  いても良いかな?」

 「俺はある人物の暗殺を依頼されている。だが
  、そいつが一人になる可能性が低すぎて、戦
  死に見せ掛けにくい。俺も捕まるのは嫌だか
  らな。そこで、司令ながらパイロットも務め
  ていて、前線を見渡しているお前を殺して、
  アーサーを司令にした方が仕事がやり易いと
  いうわけだ。わかって貰えたかな?」

 「そんな理由で俺を殺すのか。あのさ、今まで
  言わなかったんだけど、一ついいかな?」

 「何だ?」

 「お前って、最低のクソ野郎だよね」

 「二流コーディネーターの癖に生意気な!」

 「俺に、この前負けたじゃないか」

 「あれはモビルスーツの性能の差だ!今日は俺
  が(ギャプラン)で、お前が不慣れな(カオ
  ス)だ。俺の計算通りに死にやがれ!」

 「お前が死ね!被告人死亡で軍事法廷に告訴し
  てやる!」

俺達は「ギャプラン」と「カオス」をMAに変型
させてからドッグファイトを開始する。
「ギャプラン」の高速性能を知っている俺は、巧
みに旋回を繰り返しながら、その接近を許さない
ように飛び回るが、「ギャプラン」の高速性能に
は勝てそうになかった。

 「ならば、モビルスーツ同士で!」

俺は「カオス」をモビルスーツ体型に変型させて
、ビームライフルを連射するが、「ギャプラン」
のゲシュマディッヒ・パンツァーに逸らされてし
まった。

 「武器が効かないと大変だなあ。カザマ」

 「ご心配ありがとうよ!」

俺は、今までに一度しか起動させた事がない、起
動兵装ポッドをニ基とも発進させた。

 「ぎゃっはは。単純な動きだなあ。お前が空間
  認識能力に欠ける事くらい調査済みだぜ!」

 「そうかい!吠え面かくなよ!」

俺は「ギャプラン」の真正面から、二機の起動兵
装ポッドを突進させて、ビーム砲を乱射させる。

 「バカか!そんな物!」

マーレは「ギャプラン」のレールガンを発射する
が、俺は起動兵装ポッドの軌道をわずかに逸らし
て攻撃を回避した。
このくらいの単純な動きなら俺にでもなんとかで
きるのだ。

 「生意気なんだよ!」

マーレは逆上してレールガンを乱射するが、それ
を次々にギリギリでかわし続け、起動兵装ポッド
は「ギャプラン」の目前にまで接近した。

 「この距離なら!」

 「そうだな!」

俺は、「ギャプラン」がレールガンを発射した瞬
間に、起動兵装ポッドのミサイル発射口のみを開
けた。
「ギャプラン」のレールガンが、起動兵装ポッド
の内部を破壊し、一発も発射していなかったミサ
イルを誘爆させて、「ギャプラン」を巻き込んだ

いかに、Vフェイズシフト装甲機といえども、ノ
ーダメージでは無いだろう。

 「ううっ、このふざけやがって!」

爆炎の中から両腕のゲシュマディッヒ・パンツァ
ーが破壊され、各部の装甲が凹んでいる「ギャプ
ラン」が現れた。
よく見ると、関節やスラスターにも損傷を受けて
いるようだ。

 「カザマの野郎!絶対に許さん!」

だが、俺が何時までも正面にいるわけがなく、マ
ーレは「カオス」を見つけられないでいた。

 「どこにいやがる!」

 「ここだ!」

 「反応は上か!」

「ギャプラン」の上空にいた俺はビームサーベル
を両腕で持ち、スラスターを吹かしながら下にい
る「ギャプラン」に突撃をかけて、頭部の真上か
らビームサーベルを突き刺した。

 「勝負あったな!」

 「ふざけるな!一緒に死にやがれ!」

 「何!」

助からないと悟ったのか、マーレは「ギャプラン
」を「カオス」にしがみ付かせた瞬間に、「ギャ
プラン」は大爆発を起こした。

 「(マーレは誰を暗殺しようとしたのだろう?
  聞いておけば良かった)」

そんな事を考えている内に、俺の意識は混濁して
きて気を失ってしまった。 


 「アーサー副司令、(ギャプラン)と(カオス
  )の反応をロストしました」

 「ええっ!カザマ司令とマーレがかい?」

 「二機で戦場の外れにいたらしいのですが・・
  ・」

 「クルーゼ司令に緊急連絡だ!至急、付近を捜
  索させないと!」

ユーラシア連合スエズ防衛司令官は降伏し、残存
戦力も逃亡するか、降伏するか、撃破されたかで
戦場の砲火は小さくなりかけていた。
リーカさんの怪我も軽傷で、主要メンバーも全員
無事だったので、全員が安堵している時に最悪な
報告が「ミネルバ」に入ってきた。
意識を失った俺はこのまま死んでしまうのか?
怪我の程度は?
地中海艦隊撃破とジブラルタル占領とヨーロッパ
本土作戦を控えて、事態は更なる混迷を迎える事
になるのであった。


         あとがき

次回の更新時期は不明です。
話は後日談的なものにする予定です。

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