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▽レス始

「ジャンクライフ−第二部−3−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-07-15 00:23)
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天使。その存在を柿崎 めぐはずっと切望していた。この下らない世界から自分を解き放ってくれる存在。
この価値のない命に価値を与えてくれる存在。誰もを救う存在がいるとするならばそれは天使だと、めぐはずっと信じていた。
だって、信じなければやっていられなかった。信じなければ、この無価値で、生まれながらにしてジャンクな体をもつ自分が哀れで仕方が無かった。
望んで、望んで望んで望みきって、叶うはずが無いと思いながらも望んで、そして天使と出会うより先に、人と出会ってしまった。
価値の無い命に、価値があるとその人はいった。誰もがその命に価値が無いと言うのならば、自分だけは価値があると胸を晴れとその人はいった。
偽善の言葉。されど価値ある独善の言葉。それが善であると、価値があると、誰かが言うのであれば、それはその誰かの中では価値があり、善である。
救いは此処に。汝が罪は、汝が許せ。


ジャンクライフ−ローゼンメイデン−


何かを殴りなれていない人間が、初めて、ないしは久しぶりに何かを殴れば、逆に手のほうを傷めてしまう。
ジュンは痛む手をさすりながら、俯いて我が家への方向に歩いていた。
優を殴った。

『お前は、何様のつもりだ! 誰も望んでなんかいないのに、あいつらを戦わせようっていうのかよ!!』
『望む、望まないは関係ない。必要なことだ』

覚悟、領域。優の口から発せられた言葉を耳にし、理解したときにジュンに沸いたのは優に対する強い怒りだった。
まるで、全てを知る神の様に、傲慢に、それでいて威圧的に物を言う優に。
いや、それ以上に誰も望んでいないと知りながらも真紅達を戦うように仕向けると告げた優に、ジュンは心の底から腹が立った。
だって、そうではないか。戦いたくないと思っているものを無理やり戦わせる。
他の奴が言うのなら、やって見せろと、真紅達はそんな馬鹿げた事はしないと胸を張っていう事が出来る。
だがしかし、その言葉を口にしたのは樫崎 優である。
ジュンの中には、一種の信仰にも似た優への恐怖がある。その言葉を口にしたのが優だと言うだけで、ジュンの中にある真紅達への信頼の思いが揺らぐ。
もしかしたら、真紅達は優の口車に踊らされ、戦わされるのではないかと。
その恐怖が怒りへと変わり、怒りが想いへと変わる。

『覚悟? 領域? 必要? ふざけるな!!』
『ふざける? 』
『許さないぞ。僕は、あいつらを戦わせようとするなんて許さないぞ! やっと、水銀燈がいなくなって、戦わなくてよくなったんだから!!』

そう、やっと、唯一アリスゲームを遂行しようと動いていた水銀燈がいなくなったのだ。平和が訪れたのだ。
正直に言おう。ジュンの中では、水銀燈が破れた時点で、アリスゲームは終わりを告げていたのだ。
その証拠に、真紅達は水銀燈がいなくなってからは戦う事も無く、毎日をそれぞれが思うように、平和に暮らしている。

『それをお前は、壊そうって言うのか!!』

それがジュンの本心だった。
戦いによって片腕を失った時の真紅。戦う事に怯え、涙を浮かべる雛苺。そして、仲の良い姉妹である蒼星石と戦いたくないと訴え続けた翠星石。
やっと、その三人に笑顔が戻り、これからも騒がしくも不思議な人形との日々が続いていくというのに。
それを壊そうとする人間がいる。
優は、そんなジュンの様子を冷めた表情で眺め、そしてジュンが考えてもいなかった事を口にする。

『下らん。そうやってお前は目の前の平和を謳歌したいというのならば、そうすればいい。そして、やがて来る別れのときに涙の一つでも流していろ』
『なんだと!』
『ローゼンメイデンのドールは、ずっとこの時代に留まっているわけではない。どれほどの長さかは知らんが、いずれあいつらは、蒼星石は眠りにつき、次の時代へと行ってしまう。』
『それは……!!』
『お前はそれを許容できるか? 俺には出来ん。故に、アリスゲームを終わらせる』

なんという事は無い。優が言っていることはただ一言。大切な人とずっと一緒にいたい、ただそれだけの言葉である。
漠然と、今の状態が続いていくと考えていたジュンは、その言葉に己の今が確固たる碁盤で支えられているわけではないという事を知った。
物事は変わり行く。いつまでも同じではいられない。

『だからって、戦う事を望んでいないあいつらを戦わせるなんて間違ってる!』
『だからなんだ? 間違っていようがなんだろうが、己の望みが叶うのであればそれでよかろう』
『お前っ!!』

「いつっ」

いつしか、ジュンの手の甲はうっすらと赤みを帯び、腫れ始めていた。
ジュンはその痛みに思わず立ち止まり、そして最後の優の言葉を思い出す。

『失う痛みに比べれば、他者を屠る罪悪感など無きに等しい。いや、そんなものは感じぬものだ。お前も、失えば分かる』

そう言って、優は笑った。狂気を宿した瞳で、口には皮肉気な笑みを浮かべ、笑った。
その笑みが怖くて、ジュンは気がつけば駆け出していた。逃げるように、いや逃げる為に。
それが普通。狂人を前にして立ち向かうことができるのは、同じ狂人か、正義に狂った正義の味方ぐらいである。


「煮るなり焼くなり好きにすればいいのかしらーーーー!!」
「お前なんか煮てもおいしくないですぅ」
「焼いてもおいしくないのーー」

場所は桜田邸内のリビング。真紅、蒼星石、翠星石、雛苺のいつものメンバーの他に、帰ってきたジュンの目に飛び込んできたのは新たなドールの姿だった。
そのドールは、さぁ好きにしろと言わんばかりにリビングの床に仰向けに寝そべっている。

「お前ら、なにやってんだ?」
「あら、ジュン。お帰り」
「お帰りなのぉー」
「お帰りなさいジュン君」
「お、お帰りですぅ」
「あ、ああ。ただいま」

四人、いや四体の言葉に、ジュンは少し戸惑いながらも言葉を返し、再び床に寝そべる新たなドールに視線を向ける。
すると、そのドールの瞳は輝いていた。
ぴょこんっと勢いよく立ち上がると、手にしている小さな傘をぱっと広げてポーズを決める。

「私はローゼンメイデンが一の策士、金糸雀なのかしらーー!!」
「か、かなりあって、言うのか」

ジュンがそう言葉を返すと、金糸雀は興味深そうにジュンの顔をまじまじと眺め、そして

「ふふん」

と勝ち誇ったように笑ってみせる。

「みっちゃんの方が美人なのかしらーー!!」
「むっ。違うの! ジュンの方が美人なのぉー!!」

ジュンが馬鹿にされたと雛苺は認識したのだろう。見当違いなことで金糸雀と言い合いをはじめる。
それを呆れたように、それでいて微笑ましげに真紅達は眺める。
それに、その光景に、ジュンの心の中で先ほどの言葉が蘇る。
この光景が永遠に続くわけではない。いつかきっと、真紅達は去って行ってしまう。
優は、それが嫌だと言った。ならば、自分はどうなのだろう。

「……なぁ、しん」

慣れ親しんだパートナーの名前を呼ぼうとして、ジュンは真紅と喧嘩別れをした後だという事を思い出した。
ぐっと、口を噤み、そして優のドールである蒼星石に視線を向ける。
ジュンと蒼星石の交流はさほどあるわけではないが、短い付き合いでも蒼星石が戦いを好むような性格ではないという事ぐらいはわかる。
そんな蒼星石は、優に戦えといわれたら、姉妹と、いや例に挙げるとするならば翠星石と戦う事を良しとするのだろうか。
疑問が頭の中を占める。戦い、覚悟、領域。ぐるぐるとその三つの言葉が頭の中をめぐりにめぐって、ジュンは耐え切れなくてリビングから出た。
早足で階段を上り、自室へと駆け込み、鞄を投げ捨て、ベッドへとその身を投げる。

「……くそっ」

守りたいと思う。真紅を、翠星石を、雛苺を、守りたいとは思う。それは真実。それが本心。
なのにどうして、こんなにも釈然としない思いが自分の中で渦巻いているのか。
守る。ではどうする。戦う。では、あいつの思う壺だ。戦わない。では、守れない。
戦わせたくないという想いと、戦わねば守れないという想い。
ジュンは、自分がどうすればいいのかわからなかった。


それは、目覚めというよりは、引き上げられると表現したほうが正しい。
暗い海の底から、無理やり、こちらの意思など関係なく引き上げられる。

「……」

うっすらと瞳を開ける。まず最初に飛び込んできたのは、驚いた顔で自分を眺める女性の姿。

「は、ぁ」

呼気が漏れる。今まで幾度と無く、現世に覚醒してきたが、今回は勝手が違った。
いつものように眠りから覚めるような感覚ではなく、何かに絡められた心をゆっくりと開放していくような感覚。
ぐらぐらと視界が揺れる。

「天使、様?」

天使。天使? 
目の前の女性は何を言っているのだろうか。
自分は天使なのではない。自分を天使と評するなどおこがましい。
この女性の目には、背中の悪魔のような漆黒の羽が見えないのだろうか。

「大丈夫? 天使様!!」

違う、と言ってやりたいのに声が出ない。世界が揺れている。
体が勝手に動いて、目の前の女性に手を差し出す。
それは契約を求める仕草。
ローゼンメイデンが作りしドールは、ミーディアムといううマスターと契約を結ぶ事により力を得る。

「ここに、キスをしろってこと?」

――――て。

「苦しそう。それに、なんて皮肉。私にはもう、天使様はいらないのに」

―――めて。

「……天使は天使でも、愛のキューピットってことがありえるかも」

――やめて。

「そうよね! 進展のない私と優の仲を取り持つために来てくれたのよね天使様!!」

女性は、一人で勝手に、見当違いな推論を立てるとゆっくりと唇を契約の指輪へと近づけていく。
心が悲鳴を上げる。そこにキスをしていいのはお前なんかじゃない。
そこにキスをしていいのは、
私にキスをしていいのは、
私が契約すべき人間は

「ん」

女性の唇が指輪に触れる。女性の指に契約の指輪が浮かび上がる。

「貴方が、私の、マスタァ?」

違うと心が叫んでいる。
なのにも何が違うのかわからない。思い出せない。
悔しいのか、嬉しいのか、悲しいのか、それすらもわからずに、瞳から涙が零れ落ちる。

「私は、ローゼンメイデンの第一ドール」

誰かの顔が脳裏を過ぎる。
だが、それもすぐに消え去って、

「水銀燈」

彼女は再び、『今』に降り立った。


あとがき
今回は、いつもと比べて短めでお届け。と、いうか、今回のお話は幕間に当たるお話。
ジュンの成長へといたるための苦悩と、銀様復活のためだけ。
いや、もう銀様のためだけ(←ここ重要)のお話のようなもの。
てな訳で皆様。銀様復活でございます。
最後のほうにちょろっと出てきただけですが、復活は復活です。
え〜、皆さんお気づきだったでしょうが、銀様がいたころの執筆スピードと、銀様がいないときの執筆スピードは違います。
それはもう、55○のcmのような状態でした。
しかし、このたび銀様が復活いたしましたので、ちょっとは執筆スピードが上がると思います。
スキルさんの頭の中では、只今やっと銀様復活させる事が出来たよと、銀様復活祭の真っ最中です。
ここでほんの少し零れ話ですが、銀様復活はもっと、もぉぉぉっと後の予定でした。
それがなぜここまで早くなったのか。
それは水銀党諸君の切なる願いが天に届いたからでしょう。てなわけで、次回はもう少し早めにお届けできそうです。

Ps最近、メルブラにハマりました、更新が遅れたのはそのせいでもあります。
+某所で話題の小学三年生の恋愛マンガ(間違いではない)を買って、ハマってしまいました。
 皆さんも気が向けば探してみてください。ツンデレの素晴らしさを再認識できます。


>みゃまさん

正妻復活! 
ガクブルの展開が、これからの貴方を待ち受けている。
第一次シュ・ラーバ大戦! 君は生き延びる事が出来るか

>シヴァやんさん

>何か事態は混迷の様相を呈してきましたね。

そして、そこに正妻復活、しかも。目覚めた先は愛人の家。
はたして、この目覚めは遅すぎたのか、それとも早すぎたのか。作者にも分かりません。
ただ一つ言えることがあるとすれば、シュ・ラーバまで後もう少しになったよ!

>皇 翠輝さん

>逆に優が縊り殺す場面が頭に浮ぶんですが

そしてその後ろから、黒い影がプスッと!!
……キャー!

>kntさん

○月□日
かの英霊たるKOS-MOSさんによって発見されたといわれる新種の銀様を求めて、英霊の座に進入中。
最近は『にゃ〜ん』が合言葉の私を中心とする猫銀燈の勢力が衰退し、
KOS-MOSさん率いる『ハイル! 銀様』勢力が拡大している。というか、私も地味に参加している。
……というのはおいといて、
KOS-MOSさんは既に拗ね銀様を捕獲したようであり、いかにして拗ね銀様をあの英霊から奪還するかが今の目下の問題である。
幸いのところ、私が進入している事にはまだ気づかれていない模様。
しかし、英霊の座は広い。いったいどこに拗ね銀様はいるのだろうか……。

というわけで、まだ会えていません(涙)

>ジェミナスさん
基本的に優さんは、邪魔する奴は蹴散らすとか、黙らすとかではなく、抹消してやるという壊れた価値観を持つ危ない人です。
ジュン君は、その壊れた価値観、いわゆね暗黒面に誘われている状態。
若き空を歩く人は暗黒面に落ちるのか。ハラハラしながら見守っていてください。

>SHKさん
いや、呆れるよりもなによりも先に、照れ殺されるでしょう。

>R-44さん
ば、馬鹿! それは鎮痛剤じゃなくて、萌え促進剤だぞ! そんなものをしてしまったら、優(水銀燈仕様)から逃れられなくなるぞ!!

>(プスッ(禁断症状加速のため鎮静剤投与)

くそっ。遅かったか。だから、次回まで待ったほうがいいって言ったのに……。

>KOS-MOSさん
拗ね銀様の登場はもう少し先になりそうです。
ってか、その前に怒る銀様と、制裁(誤字に非ず)銀様が現れそうです。
それまで、今回の復活銀様祭分で次回まで耐えてください。

>深山さん
皆さん、銀様復活に明るい未来を予想しているようですが、残念です。
シュ・ラーバの足音はもうすぐそこまで

>樹影さん

>あの店におけるユウ(女装優)は他の人たちにどう思われているんでしょうか?

愛されています(笑)

>斬華さん

修羅場。シュ・ラーバ。修羅場。修羅場!

>なまけものさん

そうか! なにも男、女にこだわる必要なんか無かったんだ。
僕キャラがふたな●っていうのも、おうどu
:y=──( ゜д゜)─━・∵;; ターン

>慎哉さん

>嘘じゃないよね?(うるうる

スキル、嘘つかない。ただ、本当のことも言わない(ぇ

>GINさん

風邪は治りましたか?
スキルさんは、馬鹿は風邪引かないというありがたい諺どおりに風は引きません。
ええ。水銀馬鹿ですから(ぇ

>ミーハーさん

愛の力というよりも、アニメの展開の力で銀様復活です。
ただ、水銀党員全員の想いが、少し時間を早めてくれましたがね

>冬さん

日本に必要なのは、個人プレーだとか言ってみたり。ゴール直前で、パス回しを始めてるようじゃ、いつまでもたっても勝てませんよ。

>こるべんとさん

我々は、一人の英雄を失った。
これは敗北なのか? 否! 否である!!
ジュンはなぜ死んだ!!(←死んでない
数々のフラグを立てながらも、いっこうに回収する仕草を見せないからだ!!
我々は、我々水銀党
は、散りばめたフラグを回収することに全力を注ぐ!
たとえその先に、シュ・ラーバという辛い未来があろうとも、その先に明るい未来があると信じて!
銀の煌めきを持ちし、我ら水銀党に栄光あれ

立てよ、国民

ジーク・シルバー
ジーク・シルバー

ps壁掛けレリーフ。……そんなものなくたって、妄想だけで生きていける!(うわぁぁぁぁん)

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