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「NARUTO 九房武芸帖 (NARUTO×いろいろ)」

こるべんと (2006-07-07 09:21/2006-07-07 11:18)
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幕間 『眠れる九尾と天才少年』


翌日、『第6演習場・兵の原』は熱気と興奮に包まれていた。
何しろ、初めて個人的な実力が試される日が来たのだ。皆、準備運動をしたり教科書で確認したりと落ち着かない様子だ。
そんな中で、ナルトだけはのんびりとしていた。演習と言ったって、はっきりいって『お遊び』レベルなのだし、本気を出すまでも無いと確信しているからである。

「ナルト、えらく余裕のようだが?」

「ん?え〜と・・・油女シノだっけか?お遊びにどうして本気になる必要があるんだってばよ」

サングラスの向こうの瞳が、少し光ったように見えた。
ナルトはシノと議論できる希少価値の高い人物だ。

『蟻の巣と隠れ里の構築関係』という題目で議論し、講義を2時間も費やした記録は、教師たちも感嘆してしまうほどの熱い戦いだった。

「小さな虫は、時に獰猛な獣を倒す力を有している。舐めていると・・・」

「シノ、グンタイアリみたいな輩がこのクラスのどこにいるってんだ?平和ボケした土地には、ぼんくらの芋虫しか存在しないってばよ」

「アゲハチョウのごとく、羽ばたこうとする者は少ないか」

「それどころか、卵から孵る気配すらねぇよ・・・・」

「お前はさしずめ、小さな虫を狩るカマキリと言ったところか」

「それ、褒めているつもりなのか?」

やがて、イルカが笛を吹いて集合の合図を送ると、全員、走ってやってきた。
人数がそろったことを確認すると、イルカは備え付けの黒板を背に説明を始めた。

「今日は、皆も待ちに待った白兵戦演習を行う。これからくじを引いてもらって、それぞれ同じ番号を引いたクラスメートと組んで、先生のところまで報告に来てくれ。」

差し出された箱の穴に手を入れ、それぞれ緊張した面持ちでくじを引く。
配られた番号に一喜一憂しながら、作業は順調に進んでいく。
ちなみに、ナルトの手には4番のくじが握られていた。

「全員組んだかー?そのペアになった相手が、今日の演習の相手だ」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」

「文句を言わない!!次はルールの説明に移る。今回は、個人能力を測るためにある程度の攻撃を許可している。常識として、演習では極力急所への攻撃を避けること。主に、金的や延髄への攻撃だな」

「また、武器の使用は許可しない。これは、以前同じような演習を行って、事故が起こったためだ。そのようなことを避けるため、また、お前たちがどれだけ鍛えているかを見るためでもある」

「「「はーーい」」」

全員が納得して散らばろうとしたとき、ナルトがおもむろに手を上げた。

「先生、俺だけペアがいないんだけど?」

「ん?ちょっとくじを見せてくれ・・・おっ!!やったな、エキビジョンマッチ出場決定だ」

その言葉を聞いて、全員がナルトに注目した。
エキビジョンマッチでは先輩の下忍か、中忍と戦うことが出来る。もっとも、それは挑んだところで負けることが分かっているので、大抵の者はあきらめて棄権するか、命知らずにも突っ込んでいって洗礼を受ける羽目になる。
これに限っては、武器や術の使用が許されているため大怪我をすることも多い。
今のところ、死者が出たことは無い。今のところは・・・・・
だが、今回の相手はあのナルトだ。殺し屋という噂でやって来たが、実際に戦うところを見るのは今回が初めてとなる。

「あいつ、本当に殺し屋なのかな?」

「さあな、いずれにせよこれではっきりするだろ」

「出て行ってくれないかしら・・・!!あいつが来てから、何か気分悪いのよね!!」

「そうよ!!何かっていうとサスケ君と喧嘩するし!!」

周囲から聞こえてくる声には一切耳を貸さず、ナルトはイルカから説明を受けていた。

「エキビジョンマッチの場合、ある程度の武器の使用は許されている。手裏剣や術は当然のこと、自前の武器も。が、しかし!!」

「俺のは駄目なんだろ?」

すると、イルカは声を潜めて話し出した。

「あたりまえだ!!火影様から話は聞いているが、今回は命を狙われる状況なんてほとんどありえないんだからな。絶対に使用するな!!」

「善処しよう・・・・保障はできかねるが」

「半殺しまでは許す・・・・・」

「お安い御用だってばよ!!」

嬉々とした表情を浮かべて歩いていくナルトに、イルカは胃が爛れそうなほどのストレスと不安を感じずにはいられなかった。

「よし、それじゃあ第一組、犬塚キバVSうちはサスケ!!試合時間は3分だ」

「「「「キャァァァァァア!!サスケくーん、頑張ってぇぇぇぇ!!」」」」

早速女子の集団から、黄色い声が上がった。
うちはサスケ。今期アカデミー生のトップで、NO.1ルーキーの称号を与えられているほど上位の成績を収めている。授業中には教師が求めた以上の回答を出し、戦闘訓練でもその才能の片鱗を見せる。しかも、そのクールな性格が女子に受けて、その人気を独り占めしているのだ。
その個人主義も女子には定評があるが、男子にしてみればおもしろくない。
そんな中で、サスケを眼中に置いていないのは、ナルトやネジぐらいのものだった。
あとは陰で悪口を言うか、諦めの入ったいわゆる『事なかれ主義』な連中だけで、ますますサスケの人気は上昇していくのだ。
キバとサスケの一戦は、サスケの勝利に終わった。
赤丸とのコンビネーション攻撃で、連続攻撃の嵐を見舞ったキバだったが、変わり身の術で隙を衝かれて攻撃を許し、あえなく撃沈されてしまった。

「「「かっこいいー!!サスケくーん」」」

「「「サスケくーん」」」

「はあ・・・やっぱ敵うわけないよ」

「何やってもこなす、天才君だからなぁ〜」

女子の賞賛と男子の羨望。その眼差しの中で、一人嘲笑っていたのはナルトだった。
裏社会で生きてきたナルトは、サスケのようなタイプの末路をよく知っていた。
自分勝手に行動して敵の罠に掛かり、仲間も一緒に巻き込んで死ぬ。協調性ゼロのぼんくらなど、脅威でもなんでもない。
そもそも、こんな実力でNO.1を語るなどネジに失礼ではないか?
その視線に感づいたサスケは、鋭い眼差しでナルトのところへ来た。

「何?天才君・・・・」

「ふん・・・殺し屋だか何だかしらねぇが、いい気になってんじゃねぇぞ。ドベが」

ナルトは自分にとって、プラスになる授業以外全てサボっていた。そんなことに時間を割いているよりも、腕が鈍らないように、さらに強くなるために訓練していたほうがよかったからだ。
おかげで通知表は、ダントツのドベの烙印を押されている。
サスケの台詞に、ナルトはますます嘲笑いの表情を浮かべた。

「お前、とことん坊っちゃんだな?お前なんか問題にもしちゃいねーよ、このぼんくらスケコマシ!!」

「てめぇ・・・!!」

「ん?!何かお気に触りましたか?お坊ちゃまくん?」

まさに一触即発の事態に、イルカは慌てて二人を引き離した。
『実力の高いこの二人を争わせると、殺し合いに発展しかねない』というのが、イルカの教師としての見解だった。
ほぼ全ての科目において、完璧に近い成績を収めるサスケと、戦闘訓練および、それに関係する講義にしか興味を示さないナルトは、かなり対照的な存在だった。


ドベなんて本来気にかけるものでもないが、ナルトに関してはまったく別と言ってよかった。
以前、屋外で武具投擲演習を行ったとき、サスケは十枚の手裏剣を全て的に命中させた。
だがそれに対して、ナルトは手裏剣の全てを人体の急所に命中させたばかりか、『車剣』ではなく『短刀』を使用したのだ。
『車剣』はいわゆる車輪型の刃を有するもっともポピュラーな武器だ。それゆえに、誰が投げても的に刺さりやすい。
しかしナルトが使用した『短刀』の方が、はるかに使いにくくまた殺傷能力が高い。
『車剣』は的に刺さりやすいが、回転しながら飛ぶため威力は分散されるばかりか簡単に防がれてしまう。対して『短刀』は、目の前で『線』から『点』に変化するため極めてかわしにくい。そうとうの熟練者でなければ扱うことなどできない代物なのだ。
自尊心の人一倍高いサスケにとって、武具で自分に勝るナルトの存在はまさしく目の上のたんこぶだった。

『ふん・・・ドベにも取り柄があったか』

『だまれ、自称“天才少年”。ていうか“自画自賛”の“勘違い少年”?』

『なっ・・!!てめぇ!!』

いとも簡単に挑発にのったサスケは、怒りに任せて手裏剣をナルトに向かって放った。
が、手裏剣はいとも簡単にナルトの指に防がれたばかりか投げ返され、逆にサスケの肩に深く突き刺さった。
この件はすぐに火影の耳に入り、二人は牢に一週間軟禁となった。
以来、常に冷戦状態という最悪の仲になっている。

「はあ・・・・お前たち、頼むからこれ以上俺のストレスを悪化させないでくれ!!」

イルカは突如、胃の辺りを押さえて崩れ落ちた。よく見ると、少し涙目になっている。

「わかりました、土井せんせー!!一年は組、全員でカバーします!!」

「それは一体誰だ!!ナルト、お前はどこからそんな知識を得ている?!」

「お残しはゆるしまへんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「ナルト・・・俺をいじめて楽しいか?」

「ええ、とっても!!」


ちなみにこのときほぼ全員が、ナルトの背後に『そばかすメガネの少年』と『割烹着のおばさん』の姿を見たという。
そうこうするうちについにナルトの出番が回ってきた。
相手は一陣の風と共に現れた――餡団子の串を両手に持って。


第五章 『憂いと憤りと情けなさと』


みたらしアンコは、過激な性格で有名な特別上忍だ。
男性の忍者を軽く凌駕するスタミナと体術。そして、元三忍・大蛇丸の弟子という事実。
アカデミーのくノ一クラスにも時々、教師として顔を出していたが、その厳しさは並大抵のものではなかった。
全員が静かになった演習場で、二人は初顔合わせとなった。
イルカも戸惑っていた。毎年、ランダムに選出されるエキビジョンマッチの相手は、原則として上忍クラスの参加は認められないはずだからだ。

「あ・・あの!!どうして、特別上忍のあなたがここに来ているんですか?!」

「ちょっと・・・あたし先日までは中忍だったのよ?昨日の今日で昇格しちゃたから、上層部からアカデミーまで伝達が追いつかなかったのよ。まあ、あたしはおかげでちょうどいいサンド・・もとい、昇格記念をゲットしたわけよ〜」

イルカは頭を抱えた。いくら伝達が遅れていたとはいえ、これではあんまりだと思ったからだ。
そして、たどり着いた答えは、わざと伝達を遅らせてアンコをぶつけてきたというものだった。
あからさまに攻撃を加えられないのなら、講義中の事故を装えば良いという姑息な手段でナルトを潰しに掛かったのだ。
こんな心配をよそに、肝心の二人は話を進めていた。

「君が今回、幸福のチケットをゲットした候補生君?あたしはみたらしアンコ。よろしくね」

「幸福?地獄への片道切符の間違いじゃないのか?ビッチ・・・」

その言葉に、生徒全員が息を呑んだ。あからさまな挑発をして、自分の命を縮めているようにしか見受けられなかったからだ。
アンコはナルトの発言に、ニッコリ笑って答えた。

「ふ〜ん、君は元気がいいのねぇ。でも!!」

アンコはホルスターからすばやくクナイを抜くと、ナルトに向かって本気で放った。
クナイはナルトの頬をかすめ、赤く切れ目を残して後ろの的に命中した。

「あんたみたいな子が真っ先に死ぬのよねぇ。真っ赤な血をぶちまけて♪」

「駄犬にかぎって吠えたがる・・・・とっとと抜けってば。くされアマ・・・・」

興味津々なアンコに対して、明らかに小ばかにしたような態度をとるナルト。
取り残されそうになったイルカは気を取り直し、試合開始を宣言した。

「そ・・それでは、エキビジョンマッチ・ナルトVSみたらしアンコ、始め!!」

イルカの号令と同時に、二人は一気に距離をつめた。

ギィィィィィィィン!!ガキィィィィィィッ!!

止まったところを見ると、お互いの首にクナイの切っ先を当てていた。

「ふ〜ん、噂どおりの実力者らしいわね。だけどそんなことじゃあたしには勝てないわよ!!」

「うるさい・・・すぐに終わらせてやるってばよ!!」


ドスッ!!


アンコがガードする暇も与えず、ナルトは鳩尾を思いっきり蹴り飛ばした。
不意を衝かれた攻撃に防御する暇も無かったアンコは、3メートルほど吹っ飛んだばかりか、その激痛にすぐに立ち上がることが出来なかった。

『な・・・なんてやつなの!!あと少しバックステップが遅れていたら、内臓破裂で病院に運ばれているわ!!』

ナルトは腕を一瞬引っ込めると、袖口からクナイを取り出し、まだ動けない相手に向かって放った。
アンコは間一髪攻撃を避けると、時間を稼ぐために煙玉を投げて煙幕を張った。
負けるわけにはいかない、自分は伝説の三忍の直弟子なのだから。

『これでいくらか回復ができるはず!!忍術を完全に知らないのなら、これで幾分かダメージを与えることもできるわ!!』

「ふん・・・!!俺も舐められたもんだってばよ・・・」

アンコの考えは読めていた。煙幕を張った状態で一旦距離をとり、回復をしながら少しずつ攻撃を仕掛けてダメージを蓄積させていく。そして、隙が出来たところで術を放ち、一気に勝負を決めるつもりなのだ。

「時間もないことだし、これで終わらせてやる・・・!!」


             BLAM!! BLAM!! 


大きな銃声が辺り一面に鳴り響いた。
と、一番前で見ていた生徒の唇に、何かの液体が跳ねた。舌で舐めてみると、それは鉄の味がした。
それが晴れると、アンコが右肩と腿を撃たれて血だらけで横たわっていた。その激痛に、歯をくいしばって耐えているのが表情で見て取れる。
ナルトの右手の中には、黒く光る拳銃が一丁握られていた。

「I‘m Singing in the Rain〜♪!!」

ナルトはアンコの顔面を爪先で思いっきり蹴っ飛ばした。
鮮血が地面に飛び散り、折れた歯がころころと転がった。
そして馬乗りになり、拳骨を作って思いっきり殴りつける。
鼻骨が折れまぶたは腫上がり、意識がなくなるくらいのダメージが容赦なく続く。

『ひ、ひでぇ・・・・あそこまでやるか?!』

『こ、殺されるんじゃないの?』

『女相手に顔面蹴り上げるって・・・・・普通じゃねぇよあいつ!!』

生徒たちは目の前で繰り広げられる一方的な攻撃に目を背け、ナルトの狂気に恐れを抱いた。
恐怖が支配する演習場で身じろぎしなかったのは、日向の二人ぐらいのものだった。サスケでさえ脂汗を浮かべている。
何人かの生徒がイルカをチラチラと見た。
この「凄惨な暴行」を止めるべきはずの立場にいる彼らの教師は、見せたことのない厳しい瞳で殴られるアンコを見つめているだけで止める気配はいっこうに見られなかった。
10班担当の上忍・マイト・ガイも同様だった。
と、一人が群集から進み出てナルトの肩に手を置いた。

「そこまでにしておけ。そろそろ整形手術で戻らない範囲に及びそうだ」

ネジの一言にナルトは拳を降ろし、胸倉を掴んで無理やり起こした。

「まだやるか?」

「あたしの負け・・・降参するわ・・・」

地獄のような激痛に脂汗を浮かべながら、アンコは何とか話すことができた。

「ど・・どうして?あたしの気配がわかったっていうの」

ナルトは溜息をつくと、蔑むような瞳を向けてアカデミー生にも聞こえる声で話だした。

「忍者ってのは馬鹿しかいねぇのか?チャクラを使いこなせるのは、自分たちだけだと思って相手を舐めてかかってくる。チャクラってのはなちょっとした使いかたをすれば、レーダーみたいに対象の居場所を特定できるようになるんだってば」

「くっ・・・あんた、死ぬのが怖くないの?命知らずに突っ込んできて・・!!」

ナルトは一瞬きょとんとした表情を浮かべると、いきなり腹を抱えて大笑いしだした。

「くっ・・・くっくっくっ・・はぁ――はっはっはぁ!!どうやら、平和ボケした国の軍人って奴は心が腐っちまったらしいなぁ?」

「俺が戦場において望むものは、破壊と制圧。それに、破格の報酬――他の一切に興味はない。妥協もしない。戦場で愛やヒューマニズムなんてものは、刃と魂を腐らせる不純物にすぎない。俺はな、自分がいつまで地獄の釜底で踊っていられるのか、それ以外に興味はないんだってばよ!!――あんた、あの大蛇丸の直弟子のくせに、そんなこともしらねぇのか?」

そのひとことに、アンコは凍りついた。ナルトは自分のことを知っていて、このエキビジョンマッチに参加してきたのだ。
その表情に満足したのか、ナルトは集団の外へ出て行った。
ネジもそれに習うように出て行こうとしたが、リーに肩を掴まれた。

「離せ・・・」

「ネジ、どうしてもっと速く止めないんですか?!ガイ先生もです!!」

「リー。エキビジョンルールは、どちらかが負けを認めるまで勝敗を決しないことになっている」

「あれは一方的な暴行です!!そんなことがアカデミーで認められていいと思っているんですか?!ネジ、答えてください!!」

その言葉にネジは小さく笑った。
すると、馬鹿にされたと思ったかリーは拳を握ると、胸倉を掴んでネジを殴り飛ばした。
慌ててテンテンが止めるが、リーはなおも殴りかかろうとする。それを止めたのは直属の上司であるマイト・ガイの大きな手だった。
ネジは立ち上がるとリーを真っ直ぐに見つめた。

「リー、俺は以前言ったはずだ。『現実を見ろと』・・・今の試合がその現実だ。ナルトから話を聞いて、俺はもう一度自分自身を見つめなおすことが出来た」

「そして、俺たちの『正義』がまったく通用しないということを知った。お前にはまだ分からないかもしれない。だが、これだけは覚えておけ。戦場で言う強者とは、ナルトのような奴のことを言うのかもしれないんだ」

「そんなの・・・・そんなこと認めません!!認められるわけが無いじゃないですかぁぁぁぁぁ!!」


去っていくネジの背中に、リーはただ叫ぶしかこと出来なかった。


放課後、校舎にはナルトを探すヒナタの姿があった。今日は午前中で講義が終了したので、まだ日も高く時間はたっぷりある。だからこそ、ナルトを探し出して用件を伝えなければ。
校舎裏まで来ると、誰かが話している声が聞こえた。隠れて近づいてみると、イルカとナルトが二人で話し込んでいた。

「ナルト!!どうしてあんな真似をしたんだ!!」

イルカは、こめかみに血管を浮き上がらせ本気で怒っている。当人のナルトにそれを気にするそぶりは無く、淡々と話している。

「あの女が、俺のこと舐めていたから。顔見たときから、好奇心満々ですって隠さずに出てきたし」

「だからって!!相手を殺すつもりだったのか?」

「そうでもしないと判断が出来ないくらい、あの女は真剣じゃなかった。先生もそれが本音だから止めなかったんだろ、海野イルカ――鉄(くろがね)の夜叉って呼んだほうがいいか?」

「・・・・いつ調べた?」

「ここに来る前にシステムに侵入して分かった。つーか、ここのハッキング防止システムって穴だらけだってばよ」

「お前そんなことまで出来るのか?なんでもありだな〜、という冗談はここまでにしてここからは元特別上忍として質問させてもらおうか」

イルカはナルトの話に耳を傾けることにした。今は教える立場にいるものとして、ナルトの今言ったことには理由があると判断したからだ。
ナルトも話を再開した。

「殺気を放つまで、あの女は真剣になろうとはしなかった。一撃もらって、今度は三忍の直弟子のプライドを守るために攻撃を仕掛けてきた。訓練中に最初から真剣になれない奴は、戦場じゃただの足手まといにしかならない」

「そのとおりだ。誰にでも言えることだが、下手な実力者ほどそういう悪循環に嵌まりやすい。そして大抵の場合、お前がして見せたように敵に徹底的に嬲られ尊厳まで奪われる」

「まあ、あの女なら噛み千切って反撃かますだろうけどな。んじゃ」

ナルトは言い残してイルカに背を向け、校門の方へ歩いていった。
ヒナタもそれを見て、同じ方向へ走っていった。


元特別上忍・海野イルカ。『鉄の夜叉』という弐名にふさわしく、武具を使用した多彩な攻撃を使い、高ランクの任務を達成してきた凄腕の忍者である。
そんなイルカが教師を始めたのは、ある任務がきっかけだった。
ある日、密書奪取を命じられたイルカは、敵国の忍者から必死に逃れていた。
セオリーどおりの展開をするのなら、ここは無駄な戦闘を避けて防御に徹し、仲間の救援を待つというのが正解だ。
ところが、一緒に任務に就いていたチームのリーダーが、何を考えたか自ら敵陣に突っ込んでいったのだ。
これがきっかけとなり、木の葉まであと数キロの地点で、ついに本格的な戦闘になってしまった。
今ひとつのチームを担っていたイルカは、仲間の一人を密書と共に伝令として向かわせ救援を要請した。
その後到着した暗部の援護により、その場を凌ぐことは成功した。
しかし、敵陣に攻撃を仕掛けたチームは全滅、結果的には失敗に終わったといってよかった。
イルカはこの任務で、一つの疑問にぶつかった。
それは、実力者であるはずの上忍が、どうしてあんな無謀な行動に出たのかということだ。
調べてみるととんでもない事実が発覚した。全滅したチームのリーダーは、上層部に裏金と女を掴ませ、その見返りに上忍の地位を手に入れたのだ。
この1件が発覚した後、イルカは特別上忍の地位を退き、アカデミーの一教師として未来の忍者を育成することにした。
本当の実力者を育て、適切な判断のできる忍者にしてやりたいというのがイルカの夢だ。
そのためには、戦闘系の教科を中心に学ばせたいと考え、何度も上層部へ嘆願書を提出しているのだが、ほとんど請合ってもらえていないのが現実だ。
皆、大戦で実質的な勝利者になったことをいいことに、怠惰な日常にどっぷり浸っている。
そして、その惰性の安息を失いたくないと子供のように喚いているのだ。
死ぬのがそいつらだけならいいが、そこに非戦闘員や子供たちまで巻き込むのは勘弁してもらいたいというのがイルカの本音でもある。

「ふふ・・・現実的な少年だな。それに、実力も備わっている」

「あっ!!ダンゾウ様、いつのまに?!」

右顔面を包帯で隠した黒衣の男性に、イルカは慌てて頭を下げた。
ダンゾウ――彼こそは大戦時に勇名を轟かせ、暗部養成施設『根』の創始者にまでなった忍者である。里内では生粋の武闘派として有名で、今でも彼を支持する忍者が数多く存在する。また、若かりし頃には三代目火影とその座を争った仲でもある。

「イルカよ・・・わしは、今でも後悔しておる。猿飛にもっと厳しく接し、己が意見を通すべきであったとな。そうすれば、あの少年があんなひどい目にあうことも無かったと思うのだ」

「心中お察しします・・・」

ダンゾウはその合理主義と武闘派路線が原因で、里の要職に就くことができなかった。
だがそれは、里の未来を考える男の不器用な性格からくるものだった。大戦に勝利し、惰性の安息を貪る里にダンゾウは日ごろから危機感を抱いていた。いくら平和になったとはいえ、戦争の火種は今でもくすぶっている。ならば、それに対していつでも火消しができるように、たゆまぬ訓練と強靭な精神を培うべきだと常日頃から三代目に進言していた。
だが、初代や二代目から『平和の大切さ』を教えられた三代目は、里に戦乱を思い起こさせるような法律や訓練を実行させたくなかった。それも、里を愛するが故の行動だった。
しかし、今回はそれが裏目に出た。三代目はナルトがひどい目にあっていることを知りながらも、罰則を強化し掟を破ったものを厳しく処罰しなかった。いや、できなかった。
常に里を憂いできたダンゾウは、三代目やご意見番を激しく非難した。

「貴様!!なぜ、掟を破った者たちを処刑しない!!」

「ダンゾウよ、厳しく取り締まったところでそれが何になる?!里にとって九尾の妖狐は共通の敵、その憎しみの炎をたやすく消せるはずがあるまい!!」

「学ばかりのインテリは黙っていろ!!貴様に意見など求めておらんぞ、ホムラ」

「ダンゾウよ、おぬしの言うことも一理ある。じゃが、里と一人の命を天秤にかけるなどできると思うのか?」

「コハル、幼児の命を貴様はみすみす犠牲にしろというのか?!答えろ、猿飛!!」

しかし、三代目は何も答えることなく黙って立ち去ってしまった。
その背中にダンゾウは、呪いでもかけるかのように暴言を吐いた。

「いいだろう・・・逃げるがいい、この負け犬が!!貴様は必ず後悔するぞ、ナルトが敵となって帰ってきたなら、そのときがこの里の終焉だ!!」

ダンゾウはその光景を思い出し、すこし不機嫌になった。
そして、日当の中を歩くナルトの背中に心の中で声をかけた。

『許してくれとは言わん。お前の思うがままに行動するがいい。このような隠れ里、滅んでも惜しいとは思わぬわ・・・』


ちょうど同じ頃、火影も水晶玉を通して演習場の騒ぎを見ていた。
鬼のごとく相手を嬲り命を刈り取ろうとするあの姿は、きっとアカデミー生には悪魔の所業に見えたことだろう。
だが、一度戦場に出ればそこにはルール無用の殺戮地帯が広がっている。
そんな場所に送り出して、今の木の葉忍軍の中でも正気のまま生還できる者たちがどれだけいるだろうか。
裏社会に生きる者たちにとって『強者』とは、平気で女子供を殺しても正気を保っていられるほど『狂った人間』のことを指すといっても間違いではないかもしれない。
ダンゾウの言うとおり自分は逃げ出したのだ。
『里のため』と大義名分を振りかざし、本気でナルトを守ろうとはしなかったあの自分の愚かさが今のような状況を作ったのだ。
愛弟子が里に反逆行為をしたときも、自分から手を下すことが出来ず他の弟子の心を傷つけてしまった。
自分はどこまでも愚かな存在だ。ならば今度こそその過ちを正さなければならない。
火影はデスクの上の電話から受話器をとると、内線からホムラに繋いだ。

「わしだ、ホムラ。アンコの容態はどうじゃ・・・そうか、無事ならば問題ない。あとで見舞いに行こう」

「それから、後でダンゾウを呼んでくれんか。あやつの力が必要になった・・・そうじゃ、ダンゾウを要職に就ける。ん?いや・・・問題はわしにある。急がねばならんのだ、忍が本当の遺物になる前に手を打たねばならん。もう、遅すぎるかもしれんがのぉ・・・・」


夜の帳の降りた森の中で、リーは一人太い丸太を蹴りつけていた。
さっきから何千回と続けているが、それでも今朝のあの光景が脳裏に焼きついて離れない。
飛び散る鮮血と禍々しい狂気を含んだ空気。
人間を殴りつける鈍い音。
リーには貫きたい忍道がある。それは、体術だけでりっぱに戦いぬくことが出来ると証明することだ。
そのためにたくさんのことを学び、生かすために任務と訓練に明け暮れてきた。
それなのに、あの少年はそれを否定する行動をとったのだ。
相手を徹底的に暴力で痛い目に合わせ、止めを刺すようなまねを平気でやる。
リーは温厚で基本的には戦いを好まない。
だが、自分にとって大切なものを守るときには、本気になって戦える強い意志を持っている。
その意思を真っ向から打ち砕かれるようなナルトの闘いに、リーは憤りと戸惑いを隠せなかった。
単にナルト一人の問題なら、ここまでイラつくことはなかっただろう。
しかし、自分が絶えず目標にしてきた少年がナルトのいる岸辺に行ってしまったのだ。
これが憤らずにおられようか!!
不安をぬぐうように訓練を続けていると、後ろの方で自分が慕う男の声がした。

「不安か?リーよ」

「が・・ガイ先生!!な、なにをしに来たんですか!!」

リーは背中を向けたまま答え、また訓練を再開した。
ガイに対する憤りもまた同様だったからだ。

「・・・・あの子、ナルト君が怖いか?リー・・・」

「!!」

自分の心の中を見られたような師の言葉に、リーは大きな瞳をさらに大きく見開いた。
体が恐怖に怯えるように震える。

「・・・・っ!!」

教え子の尋常ならざる姿に、さしものガイもまずかったかと焦りを感じた。
無理も無いことだろう。リーのように優しい心をもつ者ほど、得体の知れない恐怖に直面したときの不安は計り知れないほど大きいのだ。

「・・・そのとおりです・・・ナルト君が怖くてたまらないんです!!」

肩を抱きながら崩れ落ち、丸太に額を当てながら涙を流した。

「先生の言葉を聞いてから、僕は自分の忍道を貫くために一生懸命努力してきました。だんだん、ネジにも勝てるようになってきて自信もついてきました・・・なのに!!」

「少しも動けなかったんです!!僕は、恐怖に屈してしまったんです!!」

ガイの表情が険しくなる。
今日の出来事がここまで教え子の心に傷を作っていたことに、なぜ今ごろまで気づくことが出来なかったのか。いまさらながら、自分自身が情けなくなった。
こんなに悔しい思いをしたのは、ガイ自身、リーをはげましたあのとき以来だった。

「僕はこの先どうしたらいいんですか・・・・教えてください、ガイ先生!!」

「リーよ・・・お前はあの子の何を知っているんだ?あの子を全てが分かった上で、その恐怖と憤りを感じているのか?」

苦しむ教え子に対して、ガイは敢えて厳しい言葉を投げかける。
苦しみの瞬間にこそ、成長するきっかけが眠っていると知っているからだ。


大きな月がその光を放つ真夜中、リーとガイは昔語り合った岩場に腰掛けていた。

「あの子はなぁ、この世の地獄と呼ばれる名も無い貧民街で育った。そこで、生き抜くために日々殺し合いをしてきたらしい」

リーは無表情なナルトの横顔を思い出して、また少し震えた。
ガイは話を続けた。

「リー、お前に想像できるか?カビの生えたチーズの欠片、くさったハムの塊で腹を満たすために鉄パイプで頭を殴り、ビール瓶で相手の腹を抉る日々の恐ろしさと辛さが・・・」

「・・・・・そんなことのために・・・・彼はそうまでして・・・」

あの無表情なくらい瞳の奥に、どれだけの悲しみが隠されているのかリーには想像もつかなかった。
育ってきた環境が原因であんなふうになってしまったのだとしたら、一体どこに救いがあるというのだろう。

「泣いていても誰も救ってはくれないことを、あの子はもう身をもって理解しているんだろう。だからこそ、強者について一つの答えを見出すことが出来た」

「先生・・・僕は・・・」

「『体術の力で立派な忍者になれることを証明したい』なら、『強者』という存在への答えはその先に必ずある!!自分の信じる道をこれからも突き進め、そして俺が笑っていられるほど強くなれ!!」

「は・・はい!!」


今日のことは、それぞれの心に一つの楔を打ち込んだ。
それが、彼らの人生にとってこれからどのような意味をもたらすことになるのか。
それがわかるのは、まだまだ先のことだ。


                      あとがき!!


 今回も予定通り、2本立てでお送りすることが出来ました!!ありがとうございます。

 さて、次回の掲載は少し時間をおくことになりそうです。大学の研究室にこもってレポートを書き上げないといけないので・・・・

 レス返しです!!

 
 影那様>
 ガンカタですか?そうですね、ああいう戦い方もナルトには似合っていると思います。
 ただ、ここのナルトは拳で戦うときには別の格闘技を使用します。
 
 ヒント:『我が(  )は無敵なり!!』

 これをナルトなりに改良しています。


 ジェミナス様 吹風様 樹海様>
 サスケは本当に自分本位で、恵まれていることを知らない世間知らずですからねぇ。第2部でサスケが再登場しましたが、怒りがこみ上げてきました。


 レスをくれる皆様、ありがとうございます。
 これからもよろしくおねがいします!!

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