第三章 『アカデミー!!』
ナルトが転校してきてから、一ヶ月が経過しようとしていた。
最初のうち遠巻きに見ていた他の生徒たちも、だんだんナルトの人となりが見えてきて安心して話すようになった。刺激しなければ暴力を振るうこともないし、中々おもしろい奴だということが分かったからだ。
しかし、気に入らない教師や生徒との仲は最悪だった。以前ヒナタをいじめていたのを咎められた3人組の親たちが乗り込んでくると、逆に殺気を放って脅迫し里から追い出してしまったし、陰険な教師をノイローゼにし、アカデミーをやめてさせてしまうなど数え上げればきりがない。
それに、ナルトを推薦してよこした狼主は、
『ナルトに危害を加えるものがあれば、それを排除する権利を与えるべし。これを無視し、あえて逆らうというならば、不本意ながら我々との全面戦争を覚悟していただきたい』
と忠告の手紙まで付けて来たため、うかつに手を出すことも出来ず、ナルトを憎む連中は歯軋りして悔しがっていた。
だが、それはナルトの心情の表れでもあった。自分にとって敵と判断した存在は、誰であっても目の前から排除し、切磋琢磨し理解しあえる存在には心を開く。そうでなければ、日向宗家嫡子と仲良くすることなどない。
その条件に当てはまったのは、去年唯一の卒業生チームの班員であり、ヒナタの従兄弟でもあるネジだけだった。
あの現場に居合わせたリーやその仲間のテンテンも実力者ではあったが、いかんせん『人を殺す』という覚悟が感じられなかったので今回はパスした。
ヒナタに連れられてきた従兄弟を見て、ナルトは最初怪訝な顔をした。
「そいつが、お前の従兄弟?俺、この前会ったぞ」
「え?本当、ネジ兄さん」
「ああ、俺の班員と言い合っていたのを止めたんだが・・・」
「で?こいつ、強いのか?」
「そ・・それは・・「木の葉において日向は最強・・・その身に刻んでやる!!」ね・・ネジ兄さん!!」
言うが速いか、ネジは白眼を発動させ連撃を叩きこんだ。
空を切り裂くような掌打を、ナルトは見事に同じ掌打で防いで見せた。
「ふっ・・実力は本物のようだな?」
「へっ!!お前こそ、容赦しない攻撃だな。気に入ったってばよ!!」
ナルトにとって、これが最初にできた里での『友達』だった。
またネジにとっても、ナルトの存在は貴重だった。裏社会に生き、多くの任務をこなしてきたナルトの経験論は、単調な任務の日々を送っていたネジに新鮮な空気を運んできてくれた。
アカデミーの教師や上忍にも、3人が修行している風景は有名だった。
あの引っ込み思案で博愛主義のヒナタが、自ら進んで修行をしているのだからそれも当然のことだろう。
いつものように演習場で白兵戦の訓練を行っていた。
太陽がちょうど南中に来た頃、ナルトは大きく伸びをした。
「今日はここまでにしよう。明日の白兵戦訓練には、これぐらいの仕上げで充分だってば」
「そうだね。ネジ兄さんも、明日は任務でしょう?」
「いや。その訓練に、俺たちも参加することになってな。明日の任務は、休止ということだ」
「んじゃ、俺と一戦やるか?」
「そ・・それがいいと思う。ナルト君、きっと体力有り余ってるだろうし・・・」
「ヒナタ様、俺に死ねと仰いますか?」
帰り道、ナルトはヒナタと一緒に茶通りを歩いていた。
優しく清楚なヒナタが、一介の殺し屋と歩いている姿はアカデミーの生徒にとって、まさに『美女と野獣』だった。
屋敷のすぐ近くまで来たとき、ナルトがおもむろに言った。
「ヒナタ。明日の演習が終わったら、俺の家に来ないか?」
「へ?!・・・な、ナルトくんの・・・?」
「ああ。引越しの荷解きも終わってすっきりしたからな。お前さえよければ・・「ついて行きます!!たとえ地獄の果てまでも!!」 そ・・そうか・・・」
とりあえず了承して二人は別れた。
ヒナタは、自室に入ってからもしばらく興奮が治まらず、顔を真っ赤にして枕を抱えてごろごろと転がっていた。それを見た妹――日向ハナビは、姉が乱心したと恐れおののいていた。
さて、夕食の席。ヒナタは父ヒアシに許可を得ようと、話すタイミングを見計らっていた。
「さて・・・ヒナタ、明日は白兵戦の演習だったな?」
「ほう。ヒナタ様もその時期になったか。兄さん、懐かしいじゃないか?」
この二人――ヒアシと弟ヒザシは、その昔『木の葉の白い双子悪魔』と恐れられ、その研ぎ澄まされた柔拳奥義をもって、数々の戦を征してきた兵である。
特に『木の葉の黄色い閃光』――うずまきカヤクとは親友で、ナルトの顔に残るその面影に懐かしさを感じていた。
「そういえば何時だったかな?あの事件を起こしたのは」
「ん?ああ!!カヤクが教師を叩きのめした・・・でも、あれは兄さんが先に言い出したんじゃ」
「私が?!そんなばかな・・・「あ・・あの!!お、お父様・・お話があります!!」ん?な、何だヒナタ」
ヒナタは心を落ち着けて、ゆっくりと話し出した。
「あ・・あの・・明日の演習が終わったら・・と・友達の家に泊まってきたいのですが。よ・・よろしいでしょうか?」
「ヒナタ様の友達というと、山中や春野か?」
「う・・ううん。な・・ナルト君の家に・・」
その言葉の響きに、ヒアシは目の前が一瞬真っ暗になり、続いて涙で何も見えなくなっていた。
「ひ・ひ・・ヒナタァァァァ!!お前は・・・・お前は嫁入り前だというのに!!」
ヒアシは血の涙を流しながら、どこからともなく一振りの太刀を取り出し、額に白い布を懐中電灯と一緒に巻きつけ、その白刃をひらめかせて高らかに宣言した。
「むはははは!!八つ○様の祟りを、あの小僧に思い知らせてやるわぁ!!」
「兄さん、落ち着け!!」
「叔父上!!お気を確かに!!」
「父上!!」
「お父様!!」
家族が止めるまもなく、怒れる当主は廊下へ飛び出し・・・・何者かに頭を強打されて倒れた。
何事かと緊張してみれば、右手にハンマーを握り左手でヒアシを引きずりながら、ヒナ母――日向アカネが座敷へ入ってきたではないか。
そして、微笑を浮かべながらヒナタの肩に手を置いた。
「ヒナタ・・・あなた、その人のところへ行ってどうしたいの?」
「へ?!・・・そ・・それは・・・」
「あなたぐらいの年になれば、興味が湧いてくるのは分かるわ。でも、それであなたの人生が180℃転回してしまうかもしれない。その人に、そういう責任能力があるのかしら?」
「あうう・・・・」
ヒナタは黙ってしまった。母が言っていることは正論だったし、知っていることは会話したこと以外何も知らないのだ。
『な・・・ナルト君に限って。で・・でも・・・』
もじもじして下を向いてしまった娘に、アカネは優しく声をかけた。いじめたくて、こんなことを言っているわけではない。我が子の恋愛を見守ってあげたいからこそ、間違いが無いようにしたい。
「それじゃあ、明日その人を屋敷へお招きしなさい。私とお父様とで実際に会って、それからになさい」
「は・・・はい・・。わかりました、お母様」
その夜、寝室で布団に入ったヒナタは心配で溜息をついた。
突然、こんなことになるなんて思っても見なかった。自分の気持ちにうそは無いつもりだし、これからもそれは変わらないと思う。
自分には、まだ、経験も実力も足りないからこそナルトに一歩でも近づきたいと頑張っている。
それは同時に、ナルトが抱える痛みを少しでも自分に分けて欲しいと思っているからだ。
『考えていても始まらないよね。明日・・・ナルト君を二人に会わせるしかないんだから・・・』
そのころ、ヒアシは大量出血によって涅槃へ旅立とうとしていた・・・・
と思ったら起き上がって大きく伸びをし、軽く体操を始めた。
アカネが手ぬぐいを持ってヒアシに話しかけた。
「運命でしょうか。あの子がカヤク君の息子に恋をするなんて」
「ふふ・・・・そう言い切っても過言ではないかもしれん。なにしろ、あの事件からもうじき10年になるのだから」
ヒアシは目を閉じてあの夜の忌まわしい出来事を思い出した。
ヒアシとヒザシが駆けつけたとき、ヒナタは震えながらそこにうずくまっていた。
娘の無事を確かめると同時に無法者の顔を見る。
覆面の下から出てきたのは、和睦の調印にサインしたあの雲隠れの忍頭だった。
「兄さん!!これを見ろ!!」
「むっ・・・・こ・・これは!!」
忍頭は胸元に一通の書状を隠し持っていた。それには、この不届き者が誰の指示でこんなことをしたのかが克明に記されていた。
ヒアシは唇を強く噛み、握り締められた拳の隙間からは赤い血がポタポタと落ちた。
「ヒザシ・・・首謀者たちを捕らえ、引っ立ててこい!!」
「はっ!!ご命令どおりに!!」
ヒアシの動きはすばやかった。首謀者たちは逃げるまもなくあっという間に一網打尽にされて、暗部の手に引き渡され翌朝、処刑場の露と消えた。
事件の首謀者。それは、なんと日向一族の長老たちだった。
長老たちは日ごろから自分たちに反抗的なヒアシに対し、何かしらの策を講じて目に物見せようとしていた。
そこで目を付けられたのが、愛娘であるヒナタだった。
実を言うと、ヒナタには女子としては肉体的に決定的な失陥があった。母親の胎内でなんらかの事故があったのか、子宮が機能しないというのだ。
赤子を生むことが出来ないのなら用は無いということで、ヒアシに対する精神的なダメージの意味も込めてヒナタを雲隠れに売ろうとしたのだ。
処刑場で首を刎ねられる直前まで長老は、ヒアシや他の一族郎党らに怨みつらみを吐き続けていたという。
この後、ヒアシは一族のあり方に対して抜本的な改革を行い、宗家と分家の隔たりを排除することを決定した。これにより、長きにわたって続けられてきた同族争いは終焉を迎えたのだった。
「子をなすことが出来なかろうと、我が愛娘に変わりは無い・・・・」
「はい・・・・きっと、ナルト君ならあの子を幸せにできますわ」
「うむ、そうだな・・・・」
一族にもナルトの過去の話は届いていた。
聞くだけならばただの乱射魔(アッパーシューター)だが、凄惨な生き地獄と隣り合わせの生き様を知っていればそんなことは言えない。
空の真上に浮かぶ満月を眺めながら、二人はにこやかに微笑むカヤクの顔を思い浮かべていた。
「でも、連れてきたらジェノサイドするぞ」
「あなた、また殴られたいですか?」
「いいえ・・・」
あとがきです!!
翌日に続編投稿ができました。遅筆なわたしにこんなことができるなんて、奇跡としか言いようがないと思います。一応バイオレンス表示をしておきましたが、これくらいだとどうなのでしょう?
では、レス返しです。
ジェミナス様>
はい、スタイリッシュかどうかわかりませんがナルトはとにかく銃を撃ちまくります。体術をなぜ使うのか、どのような技を持っているかもおいおい作中に書き下ろそうと思います。
TLI様>
スレきっています!!我が家のナルトは最強主義なので、火影なんてものともしません。
ご感想ありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします。
次回はまた2本立てを考えています。他の下忍’Sも何人か顔出しします。
引き続き、アドバイス等お待ちしております!!