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▽レス始

「退屈シンドローム 第3話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2006-07-05 23:12/2006-07-05 23:28)
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 時が経つのは早いもので気がつけば桜の時期は過ぎ去り、五月になっていた。

 入学当初は初々しさ全開だった僕達新入生もゴールデンウィークが明ける頃には大概の者が学校に慣れ、それぞれの日常を機能させ始めていた。学校という視点から見てみれば最初の山場を漸く乗り切り、日常の空気を取り戻したと言った所だろうか。

 最近、僕の周りで小さな変化が起きた。

 一つ目の変化は、僕が少しだけ早起きして遅刻の回数が減った事。ホームルーム前に教室に辿り着き、教室の喧噪を眺めるという事もたまに出来るようになった。そしてその努力の甲斐あって、僕はもう一つの変化を見つける事が出来た。

 僕が気付いた二つ目の変化。ゴールデンウィークが明けた頃から、キョンがハルヒに話しかけるようになったのだ。最初の頃のハルヒも反応はキョンの話に興味を抱いていないように素っ気無かったのだが、日を重ねるにつれて二人の会話は次第にその長さを増し、ハルヒの態度も隣の僕が気付く程度に軟化してきていて、正直言えば見ていて微笑ましい。

 そういえばハルヒが髪を切ったのもこの頃だった。腰まで届きそうな髪が肩の辺りで切り揃えられていて、少しだけ勿体無いと思ってしまったのはハルヒには内緒だ。

 でも変わった事もあるという事は当然変わらなかった事もある訳で、その一つとして僕の正体解明と称するハルヒからのちょっかいが日常の一部として定着してしまった事が真っ先に僕の記憶スクリーンに浮かんでくる。どうもハルヒとしてはどうあっても僕を宇宙人か何かに仕立て上げたいらしい。

 ハルヒ曰くの僕の尻尾を掴むべく観察やら尋問やらを楽しそうに仕掛けてきて、決め台詞は「のび太の癖に生意気よ!」

 語呂が気に入ったらしく名前の方で呼び捨てである。まぁ、名字も名前も殆ど変わらないというのが僕の密かなコンプレックスな訳で、実の所どちらで呼ばれても大して変わらないんだけどね。

 そういう訳で、キョンが何かある度にハルヒに話しかけ、ハルヒが事ある毎に僕に突っかかり、そして僕がキョンに助けを求めるという、奇妙で滑稽な三角関係が気がつけばいつの間にか形成されていた訳である。

 つくづく思う。慣れって恐いね、と。


 ちなみに僕の個人的下馬評ではクラス委員長確実と思われていた朝倉涼子だが、案の定委員長に着任して名実共に五組の中心に収まった。しかも物好きな事に学年執行委員を兼任して、一年クラス委員長の総番的存在になると同時に末端とはいえ生徒会組織内部に食い込んでしまったのだから呆れたものである。

 ……学校征服でも企んでいるのだろうか?


 ● ● ●


「ちょいと小耳に挟んだんだけどな」
「どうせ碌でもない事でしょ」

「付き合う男を全部振ったって本当か?」
「何であんたにそんな事言わなきゃいけないのよ」

 最早恒例となりつつ朝のホームルーム前のキョンとハルヒの雑談。今日のお題はハルヒの恋愛話らしい。

「出どころは谷口? 高校に来てからまであのアホと同じクラスなんて、ひょっとしたらストーカーかしら、あいつ」

 肩にかかる黒髪を鬱陶しそうに払い、ハルヒは二人の様子をチラチラ伺う谷口に半眼を向ける。

 キョンは「それはない」とフォローを入れているけど、僕としてもその邪推は短絡的だと思う。

「何を聞いたか知らないけど、多分全部本当だから」
「一人くらいまともに付き合おうとか思う奴はいなかったのか?」
「全然ダメ」

 キョンの問いを嘆息混じりに一蹴するハルヒ。どうでも良い話だけど、どうやら彼女の口癖は「全然ダメ」らしい。

「どいつもこいつもアホらしい程まともな奴だったわ。日曜日に駅前に待ち合わせ、行く場所は半を押したみたいに映画館か遊園地かスポーツ観戦、ファーストフード店で昼ご飯食べて、うろうろしてお茶飲んで、じゃあまた明日ね、ってそれしか無いの?」

 成る程、それは確かに退屈極まりないと思う、定石過ぎて。キョンなら「それのどこが悪いんだ」とでも言いそうだと思ったが、案の定そう言いたそうな顔をしていたので口に出すのはやめておくけど。

「あと告白が殆ど電話だったのは何なの、あれ。そういう大事な事は面と向かって言いなさいよ!」
「……まぁ、そうかな。俺ならどっかに呼び出して言うかな」
「そんな事はどうでも良いのよ!」

 キョンの精一杯自分を偽っているようなフォローを「どうでも良い」の一言で一蹴し、ハルヒは歯痒さに耐えるように拳を握り締める。

「問題はね、下らない男しかこの世に存在しないのかどうなのって事よ。ほんと中学時代はずうっとイライラしっぱなしだった」

 ……僕もその「下らない男」の一人な訳だから、そろそろ見切りをつけてくれると僕としてはとても嬉しいんだけど?

 思わず本音を呟いてしまうと、ハルヒはあからさまに馬鹿を見る目をして言い放った。

「あんたは良いのよ、人間かどうかも怪しいし」

 いきなり出生を否定されたよ。

「そもそもあんたって本当に男なの?」

 性別まで疑われてるよ。

「……まぁ野比の本性はさておき、お前はどんな男なら良かったんだ? やっぱりアレか、宇宙人か?」

 助け舟を出したつもりなのか、キョンが話題の方向を修正するように口を挟んだ。でもハルヒの言葉を否定してくれないのはどういう事さ。そして何故に視線を逸らす?

「宇宙人、もしくはそれに準じる何かね。兎に角普通の人間でなければ男だろうが女だろうが」
「何でそんなに人間以外の存在にこだわるんだよ」
「そっちの方が面白いじゃない!」

 僕の愚痴をさらりと無視して、キョンとハルヒは再び二人の世界を作り出す。

 それにしても、「面白いから」ねぇ。確かに君達の様子をまだ伺っている谷口の正体が実は空飛ぶ仮面の正義の味方だったら面白いかもしれないし、学校掌握の野望に向かって着実に駒を進めているかもしれない朝倉が実は誰かの命を狙うターミネーターだったというビックリも別に在り得ない話という訳ではない。

 でも如何に奇抜な不思議特性を持ち合わせていても、だからと言ってそいつの性格や日常までが非凡だという保証が一体どこにあるって言うのさ。喩え正体が正義の味方だったとしても谷口は谷口だし、喩え要人暗殺の密命を帯びていたとしても朝倉という人格に変わりは無い。喩え君の目の前に何か非凡な性質が転がっていたとしても、それが必ずしも非日常に直結するとは限らない。結局の所ハルヒ、君の人生の彩りは畢竟君次第って事だよ。喩え宇宙人や未来人や超能力者やその他が君の前に現れたとしても、君が「つまらない」と思ってしまったら所詮その程度の価値しか見出す事は出来ない。そしてその逆もまた然りという事だよ。……まぁ、僕が言っても説得力の欠片も無いかもしれないけどさ。

「じゃあどうすれば良いって言うのよ!?」

 椅子を蹴倒しながら立ち上がり、ハルヒは僕の襟首を掴み上げた。教室に揃った全員が振り返るが、どうせ気にしていないだろうね。

「ハルヒ」

 僕は出来るだけ落ち着いた声でその名を呼び、ハルヒの黒い双眸を真直ぐに見上げた。締められている首が少し苦しいが、些細な問題だから今は気にしないで良いだろう。どさくさに紛れて普通に名前で呼んでいるが、ハルヒの方も僕の名前は呼び捨てだからおあいこだよね。

「君にとって「面白い」事って、何?」

 僕の問い掛けにハルヒは言葉を詰まらせ、悔しさを押し殺すように下唇を噛んだ。僕の襟首を掴んでいた指から、徐々に力が抜けていくのが分かる。

「……答えられないのなら、今はそれで良いよ。君にとっての楽しい事、面白い事、やりたい事、それを見つける事から始めれば良いんだから」

 半ば本心からのフォローを入れてみたが、ハルヒの表情は明るさを取り戻さない。

 ……ミスった。

 軽率な発言で地雷を踏んでしまった僕自身に、僕は呪いの言葉を吐きつけた。

 キャラにも無く饒舌に話し続けた挙げ句、調子に乗って余計な所まで踏み込んでしまった。

 謝った方が良いとは分かっているが、謝る理由も見つけられない。


 結局息せき切って駆け込んできた担任岡部の登場で、僕はハルヒに謝るきっかけを見失ってしまった。


 ● ● ●


 その後ハルヒに何の接触を果たす事も出来ずに時間だけが過ぎ去り、気がつけば一日が終わろうとしていた。

 通学路の坂道を下りながら明日こそは何かを言わねばと意気込んではみるが、では一体何を言えば良いのかと考えた段階でやはり思考が迷宮に入り込んでしまってどうしようもない。

 ……いくじ無しだなぁ、相変わらず。

 遠い昔に言われた科白を思い出し、全くもってその通りだと同意するが苦笑を浮かべる気力すらない。自分の情けなさに腹が立ってくる。

 そんな風に思考と自己嫌悪に埋没していて注意力が散漫気味になっていたからだろうか、僕が違和感に気付いた時にはもう遅かった。

 誰もいない。何も聴こえない。それまで多少なりとも雑踏としていた筈の人の群れは何時の間にか消え失せ、不気味なまでの静寂がこの世界を支配している。音という音が消え去り、人の気配の途切れた世界。僕はここにいる筈なのに、ここではない何処かに取り残されたような矛盾。ここはまるで……、

「鏡の中の世界……?」

 ほんの小さな呟きだった筈なのに、静まり返ったこの大気の中ではやけによく響く。

 刹那、太陽が爆ぜたような目の眩むような閃光と共に、突如世界の色彩が裏返った。黒が白に、白が黒に、まるで現像液で処理されたフィルムを覗いているかのように、総ての色が反転している。

 変化は一瞬で収まったが、元の色彩を取り戻した街の頭上に太陽の姿は無く、雲に似た暗灰色の何かが切れ目無く何処までも拡がっている。

「……どこだよ、ここ」

 寧ろ、何だ、と言うべきだろうか。別に誰かからの答えを期待して呟いた訳ではなかったが、返答は存外早く、そして意外な方向から返ってきた。

「閉鎖空間。我々の世界から隔絶された、もう一つの世界ですよ」

 唐突に響いた靴音と共に、柔らかなテノールの声が僕の鼓膜を打つ。何時の間にか僕の背後に、一人の男子高校生が立っていた。如才の無い笑み、柔和な目。黒い詰め襟の学生服に身を包んだ、どこかの歌番組にでも出ていそうなアイドル系爽やか青年。身長は、多分キョンよりも少し高い。

「我々の住む世界とは少しだけズレた所にある違う世界、とでも言いましょうか。貴方は次元の乖離に巻き込まれ、この閉鎖空間に迷い込んでしまった」

 暗灰色の空を見上げ、アイドルは詠うように言葉を紡ぐ。

「常人がここに入り込む事は滅多に無い筈だったんですが、どうやら貴方は中々運が悪いようですね。……野比のび太さん」

 何でも無い事のように、しかし確かに僕の名を呼び、初対面の筈のアイドル青年は掴み所の無い笑みを浮かべる。

「……君は、誰?」

 問い掛ける僕の声は、自分でも驚く程に冴え冴えと冷えきっていた。それも当然かもしれない。今まで初対面の誰かが僕の名を知っていた奴に出会った場合、大抵碌な事に鳴らなかったから。

 ……その筆頭が未来謹製の猫型タヌキだった訳だけど、あいつは唯一の例外という事で。

「ああ、そういえば名乗るのを忘れていましたね。これは申し訳ない」

 僕の言葉にアイドルは恍けたようにそう言って、胸に手を当て言葉を繋ぐ。

「僕は一樹。古泉一樹です。仕組まれた超能力者、とでも名乗っておきましょうか」

 古泉と名乗ったアイドルの言葉に呼応するように、赤い流星が灰色の空を斬り裂いた。


ーーーあとがきーーー
 グルミナです。『退屈シンドローム』第3話、今回は早くもSOS団参謀に登場して頂きました。
 そしてのび太の中での朝倉は、何だか変な方向に……。

>HAL21さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。

>蓮葉零士さん
 射撃はのび太の独壇場ですからね。きっと文化祭の出店では某webコミみたく伝説になる事でしょう。

>皇 翠輝さん
 す、スイマセン名前間違えて……(滝汗
 今回古泉にフライング登場してもらって、のび太には一足先に非日常へと帰還してもらいました。

>良介さん
 のび太は運動嫌いですから、たとえ熱烈な勧誘を受けても入部する事はなかったでしょうね。
 どれだけ逃げ切れるかについては、今後のお楽しみという事でw

>rinさん
のび太とハルヒは相容れないでしょうね。そしてのび太とキョンもまた。なんとなく似た者同士なキョンとハルヒに対して、のび太の性質は正反対でしょうから。

>kouさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太の知り合い、歴史上の大物とかもちらほらいますからね。宮本武蔵とか三蔵法師とか。
 青ダヌキの残したものについては、一つだけ考えています。

>D.さん
 いえいえキョンは主役級ですよ。今はまだ目立ってないだけで。

>HIROさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 スペアポケットは流石に出せませんね。何でもアリになってしまいますから。

>剣さん
 スネ夫はどちらかと言えば朝倉よりも古泉関係、鶴屋さん的なポジションにしようかと考えています。

>maktさん
 みくるに出会った時、のび太はどんな顔をするんでしょうね。

>名前がない程度の(略さん
 ゴメンナサイ、うちの朝倉さんはこんな人です。少なくとものび太にとっては。

>分裂夢さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太はハルヒを変える事は出来ないでしょうけど、キョンを支える事は出来ると思います。

>田端さん
 少なくとも二人ともSOS団入りは確実なのでご安心を。
 のび太の容姿は、少なくとも身長はキョンよりも低いでしょうね。

>HEY2さん
 いいえ、貴方は立派な勝ち組ですよ。何の、かは置いておくとして。

>JIUさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 「種まく者」については、長門の親玉の一部という事にしようかと思っています。長門が自分の話を信じさせる為に、「種まく者」の話を出すとか。

>龍牙さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
>長門をドラえもんに見立てての一発→これは一度考えたことがあります。そのうち小ネタで使うかもです。

>nagamonさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。

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