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「退屈シンドローム 第2話(涼宮ハルヒの憂鬱+ドラえもん)」

グルミナ (2006-07-02 20:31)
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 涼宮ハルヒがそのエキセントリックな自己紹介でクラス全員のハートをあらゆる意味で鷲掴みにしてから、三日が経とうとしていた。 

 その間ハルヒは別に問題行動を起こす事も無く、割と大人しく一見無害な女子高生の猫を被っていた。たまに僕に殺気混じりに向けてくる念力でも使えそうな視線は何とかして欲しい所ではあるが。だから僕が何したって言うのさ。

 ちなみにその間僕は何をしていたかと言えば、一日目に取り敢えず友達でもつくり、二日目に何となく仮入部でもしてみて、そして三日目にハルヒに捕まった。

 友達と言うのはたまたま席の近かったキョンと谷口、そしてキョンと同じ中学出身の国木田であり、昼休みに一人で弁当をつついていた所に国木田が話しかけてきたのが付き合いの始まりだ。別に独りで飯喰う事に苦痛を抱く程柔な神経はしていないが、やはり食事は皆で食べる方が楽しい。

 二日目の仮入部では射撃部にお邪魔してみたのだが、規定発射弾数の60発を一時間弱で一発残さず当て尽くした段階で飽きた。形骸化したスポーツに用はないのだよ。

 ……別に一年目は基礎体力づくりと聞いて怖じ気づいた訳ではない。無いと言ったら無い。

 そして三日目、つまり今日は漫研にでも行ってみようかと新生活に期待を寄せる一般的な高校新入生を無難に演じておこうと脳内議会での評議の末に可決した僕だった訳だが、教室を出た瞬間にハルヒに拉致られた。どうやら待ち伏せされていたらしい。

 ブレザーのネクタイを犬の鎖よろしくしっかりと握り締め、ハルヒは大股で僕を連行していく。珍獣を見るような周囲の視線が何気に痛い。見物料とるぞ。

 階段を一段飛ばしでひたすら上り、屋上へのドアの前まで来て漸くハルヒは僕のネクタイを開放した。

 屋上へのドアは施錠されているらしく、四階より上の階段は殆ど倉庫代わりになっている。美術部のものらしいカンパスや石膏の胸像、演劇部のものだと思われる背景や衣装や西洋剣、RPGに出てきそうな妖刀っぽい刀や魔導書っぽい本など用途の分からない謎アイテムの数々。それらが無秩序に積み上げられていて、正直狭い。そして薄暗い。

 こんな所に連れ込んで僕をどうしようと言うのだろうか。

「いい加減に正体を見せなさい!」

 白い食指を僕の鼻先に突きつけ、ハルヒは開口一番にそうのたまった。いやだから正体って何さ。

「恍けたって無駄よ! あんたが普通の人間じゃないって事はお見通しなんだから!!」

 一体何の根拠があって断言しているのかは解らないし興味も無いが、僕の眼を真直ぐに見つめるハルヒの黒い瞳に揺るぎは無い。

 というか、そんなに僕って変人に見えるのだろうか? 一度谷口にでも訊いてみた方が良いかもしれない。キャラの修正の為に。

「……まぁ良いわ。どうせ今日は宣戦布告するだけのつもりだったし、この位で引き下がってあげる」

 僕の鼻先に突きつけていた食指を収め、ハルヒは踵を返して階段を下り始めた。結局何がしたかったのだろうか。

 四階の床に足を付けたその瞬間、ハルヒは何かを思い出したように僕を振り返った。

「絶対に尻尾を掴んでやるわ。首を洗って待ってなさい!」

 怒号するように鋭く一喝し、ハルヒは階段の向こうへと消えていった。どうやらハルヒの中では僕は完全に最優先解明対象のアンノウンに位置づけられてしまっているらしい。別に嬉しくはないが。


 ● ● ●


 ハルヒとの衝撃のファースト・コンタクトから一週間が経過し、その頃にはクラスの男子の大半が「触らぬ神に祟り無し」の格言を暗黙のルールとしてその精神に刻み込み、そして忠実に守るようになっていた。

 しかし女子の中には入学早々クラスから孤立しつつあるハルヒを何とか調和の輪の中に入れようと奮起するチャレンジャーもまだ存在していて、アプローチを仕掛けては敢え無く撃沈されている。

「そーいやキョン。お前、この前涼宮に話しかけてたな」

 すでに恒例となりつつあるキョン達との昼食タイム、ゆで卵の輪切りを箸で持ち上げながら何気なくキョンに問う谷口。キョン、いつの間にそんな事してたのさ?

「確か朝のホームルーム前だったから、野比はまだ教室に来てなかったんだよ」

 国木田のフォローに僕は得心した。成る程、自慢出来ない事だが僕は遅刻常連だから見逃していても仕方無い。明日からはもう少し早起きしてみようか。

 僕は白飯の上に載る焼き鱈子を解しながら左で苦い顔をしているキョンを盗み見た。その顔から察するに、大方地の利を活かして美少女クラスメイトとお近づきになっとくのもいいかなとか何となく考えてみて自己紹介の時のアレ辺りを話のネタに話しかけてみたら完膚無きまでに返り討ちにされましたと言った所だろうか。

 キョンを一般的な男子高校生と仮定して即興で構築した脳内シュミレーションをつらつらと語ってみたら、何故か三人とも大口を開けて固まってしまった。何、何か変な事言った?

「いや、お前の推理がピンポイント過ぎて驚いちまっただけだ。……お前実はエスパーか?」

谷口が何やらアホな事をのたまっているが、僕にその類いの才能が無いのは5年前に立証済みだ。

「……まぁ兎に角、もしあいつに気があるんなら、悪い事は言わん、やめとけ。涼宮が変人だってのは充分解ったろ」

 ゆで卵を咀嚼しながら、谷口はそう言ってキョンに箸を突きつける。

「中学で涼宮と三年間同じクラスだったからよく知ってるんだがな、あいつの奇人ぶりは常識を逸している。高校生にもなったら少しは落ち着くかと思ってたんだが全然変わってないな。聞いたろ、あの自己紹介」

「あの宇宙人がどうとか言うやつ?」

 焼き魚の切り身から小骨を取り除く作業に集中していた国木田が口を挟んだ。谷口は唐揚げを口の中に放り込みながら肯定し、口の中に唐揚げを頬張りながら話を続ける。

「中学時代にも訳の解らん事を言いながら訳の解らん事を散々やり倒してたな。有名なのが校庭落書き事件」

「何だそりゃ?」

 聞き覚えの無い言葉にキョンが首を傾げる。僕の記憶回路にも該当する項は無い。

「石灰で白線引く道具があるだろ。あれ何つうんだっけ? まぁ良いや。兎に角それで校庭にデカデカとけったいな絵文字を書きやがった事がある。しかも夜中の学校に忍ぶ込んで」

 その時の事を思い出したのか、谷口はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた。

「驚くよな。朝学校に来たらグラウンドに巨大な丸とか三角とかが一面に書きなぐってあるんだぜ。近くで見ても何が書いてあるのか解らんから試しに校舎の四階から見てみたんだが、やっぱり何が書いてあるのか解らんかったな」

「あ、それ見た覚えあるな。確か新聞の地方欄に載ってなかった? 航空写真でさ。出来損ないのナスカの地上絵みたいなの」

 国木田が得心したようにそう言うが、生憎と僕の方には覚えが無い。

「載ってた載ってた、中学校の校庭に描かれた謎のイタズラ書き、ってな。で、こんなアホな事をした犯人は誰だって事になったんだが……」

「その犯人があいつだったって訳か」

谷口の言葉をキョンが引き継ぐ。

「本人がそう言ったんだから間違いない。当然、何でそんな事をしたんだってなるわな。校長室にまで呼ばれて、教師総掛かりで問い詰められたらしい」

「何でそんな事したんだ?」

「知らん」

 キョンの問いにあっさり答え、谷口は白飯を頬張った。

「とうとう白状しなかったそうだ。だんまりを決め込んだ涼宮のキッツい目で睨まれてみろ、もうどうしようもないぜ」

 嘆息混じりの谷口の言葉には、僕もそれなりに同意出来る。殺気混じりのハルヒの眼光は、心臓が弱い奴なら寿命が縮んでもおかしくはない程度には精神の健康に良くないと言えるだろう。でも仮にそうだとするとハルヒの殺人視線に結構頻繁に晒されている僕の寿命は実は冗談抜きで危機一髪という事になりかねないから、この仮定は些か大袈裟だったと保身の為にフォローを入れてみる。

「一説によるとUFOを呼ぶ為の地上絵だとか、或いは悪魔召喚の為の魔法陣だとか、または異世界への扉を開こうとしてたとか、噂は色々とあったんだが兎に角本人が理由を言わんのだから仕方が無い。今もって謎のままだ」

 谷口の話に適当に相槌を打って聞き流しながら、話の流れからすっかり聞き手に廻っていた僕は何となくその当時のハルヒに思いを馳せてみた。真っ暗の校庭に真剣な表情で白線を引いているハルヒの姿が鮮明に想像出来る。

 多分ハルヒは本気でUFO或いは悪魔または異世界への扉を呼び出そうとしたのだと思う。もしかしたら一晩中、中学の運動場で頑張っていたのかもしれない。だけどその一方で、自分の努力が無駄に終わってしまう事も理解し覚悟していたのではないか、と根拠も無く思った。

 ハルヒの行為を谷口達は馬鹿にしている。そしてそれは一般的な感性の持ち主の視点から見れば当然の事かもしれない。

 だけど僕は、何かの為に何処までも一生懸命に走っていけるハルヒの事を、少しだけ羨ましく思ってしまった。


「俺だったらそうだな、このクラスでもイチオシはあいつだな、朝倉涼子。俺の見立てでは一年の女の中でもベスト3には入るね」

 思考の海に埋没していた意識を現実を浮上させてみたら、何時の間にか谷口の話題はハルヒから離れて一年の女子評論へと移っていた。他人の女子談義なんか聞いていても退屈なだけだし正直興味も無いが、突発的に話題を振られても困るので取り敢えず話半分に聴いておく。

 朝倉涼子。今やクラスの女子の中心に君臨している件の女子生徒は、ハルヒとは別の意味で目立つクラスメイトだった。

 まず第一に、谷口が薦めるだけあって美人である。いつも微笑んでいる雰囲気はきっと魅力なのだろう。

 第二に、性格も多分良好である。前述のハルヒに話しかけるチャレンジャーの中の唯一の生き残りが彼女である。幾らぞんざいにあしらわれてもそれでもめげずに話しかけるその不屈の闘志は尊敬に値する。凄いって事さ。

 第三に異性同性問わずに人気がある。新学期が始まって十日でクラスの中心人物になりおおせてしまっている実績から、人を惹きつけるカリスマ性も持ち合わせている事が伺える。我がクラスの委員長は最早彼女で疑いは無いだろう。

 即興で思い浮かぶ程度に利点を並べてみれば、朝倉は確かにガールフレンドには最適だろう。非の打ち所無いし。

 だけど、僕は正直言って朝倉の事は好きになれそうにない。常に浮かべている微笑みは仮面じみた不気味さがあるし、非の打ち所の無い性格も作り物めいた違和感がある。優等生としてプログラムされたロボット。本人には大いに失礼極まりない表現だが、僕が朝倉に抱く印象としてはそれが一番妥当だろう。

 まぁ、僕は別に彼女と接点をつくる予定は全く無いから僕が彼女をどう思おうと彼女が僕をどう思おうと、どうでも良い話ではあるんだけどね。


 ところで、一週間前のハルヒからの一方的な宣戦布告以来訊いておこうとは思っていたが気がつけば忘却の彼方に放り投げていた事柄を唐突に思い出したので、未だに女子評論に熱弁を振るっている谷口の話を止めて訊いてみる事にした。

「ねぇ谷口、僕って普通の男子高校生だよね?」

「はぁ?」

 谷口は僕の唐突な問いに何を今更と言いたそうな表情を浮かべ、

「お前を普通と定義しちまったら世界中の男子高校生を変人と言わなきゃならんだろうが」

 やれやれと大仰に肩を竦ませながらそんな有り難いお言葉を仰ってくれた。うん谷口、君取り敢えず判決死刑ね。


---あとがきーーー
 グルミナです。不定期とか書いておきながら早速『退屈シンドローム』第2話をお届けしてみます。
 今回の話の流れは本編準拠、というか殆ど原作丸写しの感が否めませんね。物足りないと感じてしまわれたら申し訳ありません。
 これからどんどんのび太を暴れさせていこうと思います。

>高道さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 原作片手に早かったり遅かったり消失したりしながら書いていきますので、気長にお付き合いをお願いします。

>樹影さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 戯言シリーズとのクロスですか。似せたつもりはなかったのですが、というか件のシリーズを読んだ事が無いので何とも言えないのですが、何やら皆さんの反応を見ていると結果的にフェイントを賭けてしまっていたようで申し訳ありません。
 のび太の性格ですが、これは某所のラブひなクロス作品のやさぐれのび太の影響を多大に受けて誕生したグルミナなりにやさぐれのび太なのです。……どこが?という質問は無しの方向でお願いします。
 通りすがりの正義の味方チームもとい初代のび太の愉快な仲間達の登場予定ですが、今とところはメインで関わらせるつもりはありません。ただスネ夫だけは色々と出張ってくるかもしれません。

>皇 翡輝さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 期待して頂いて光栄です。頑張ります。

>蓮葉零士さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 キョンにはしっかりと登場して頂きましたのでご安心を。
 のび太の射撃道入り断念の理由はこんな理由ではないかと思って冒頭に入れてみました。ウチの高校にも射撃部があるのですが、一年生はまず基礎体力づくりだそうでw

>rinさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太は一般人の領域を逸脱しない程度に変人を地でいかせようと思っています。尤も、非日常の仲間入りの可能性も時と場合によっては否定出来ませんが。
 普通人はキョンだけで充分だと思ったり思わなかったり。

>良介さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太は今まで身を置いていた環境が環境ですからね。ハルヒの見えざる食指が動いても確かに不思議ではありませんね。

>名前がない程度の(略さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 長門の扱いについては今のところ保留です。朝倉の方は、……裏ヒロイン?(ヲイ

>ショウゴさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太以上に人生経験の濃い人間は流石にいないでしょうね。さっそくハルヒに絡まれたのび太ですが、どうなる事やら……w

>剣さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 ハルヒのドラえもんクロスは探してもどこにも無かったので、じゃあ自分で書いてしまえと思い立って筆を執ってみました。

>D,さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 確かにのび太は超能力者には出会ってませんでしたね。自分で超能力者になった事はありますけど。

>なみれい。さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 のび太は今まで「異邦人」として非日常な方々に関わっていましたから、日常の中のイレギュラーとしての非日常を全く知りませんからね。ある意味初体験と言えますね。

>HEY2さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 キョンには原作通り重要な役を立ち回ってもらうつもりです。

>maktさん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 長門はともかく、みくるには過剰反応を示しそうですねのび太は。

>田端さん
 はじめまして、読んで下さってありがとうございます。
 主人公は『いーちゃん』ではありません。
 正主人公のキョンはやはりクロスでも外せないでしょうねw

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