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「退屈シンドローム 第1話(涼宮ハルヒの憂鬱+ネタバレにつき未記入)」

グルミナ (2006-07-01 21:40/2006-07-08 15:44)
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 柄にも無い猛勉強の果てに県下で一番志願倍率の低かった県立高校に何とか滑り込んだ僕であるが、今この胸に懇々と沸き出す感情は合格への歓喜でも高校生活への期待や希望でも受験戦争の第一波を勝ち抜いた事への自画自賛でもなく、「後悔」の二文字だった。

 と言うのも今春から僕の新しい母校となったこの学校なのだが、これがえらい山の上に建っており、おかげで大汗をお供に延々と続く坂道を毎日登りながら登りつつ手軽なハイキングを毎日満喫するという素敵な日課を自動的に義務づけられしまった訳なのだ。

 何故この学校の志願倍率が県下最低なのか、受験の為に初めてこの坂道を登った瞬間に痛感した。

 成る程朝っぱらからこんな坂道を毎日三年間も登らされるなど普通の感性の持ち主なら土下座してでも御免被るだろうなと他愛も無い事をつらつらと思考の隅に羅列させながら、僕は額の汗を拭いながら眼下に拡がる街並へと一瞥を向けた。

 山の中腹から見下ろす街の景観は笑ってしまいたい細々とごった返していて、辛うじて視認出来る人の姿は豆粒よりも小さい、

 思わず「人がゴミのようだ!」と叫びたい衝動に駆られてしまった僕は、果たして疲れているのか病んでいるのか漫画の読み過ぎなのか。個人的には前者だと信じたい。

 どうでも良い事というかぶっちゃけただの戯れ言だが、僕が今眺めているこの景色は日本の中のほんの一部であり、その日本も地球から見れば、海面から突き出た僅かな地表の一欠片。そして地球もまた、この宇宙を巡る無限の星々の内の一粒に過ぎない。

 そう考えてみたら、人間一人ひとりの人生というのはきっと塵芥よりも無価値で他愛の無い存在でしかないと思う。そしてその日常も。

 毎日を楽しいと思っている人、退屈を嘆いている人、何の感慨も無く怠惰に生きる人や陰謀を企て野望に身を躍らせる人。人の数だけ人生が犇めき、人の数だけ日常が綴られる。

 極論を言ってしまえば、例えば宇宙人にさらわれてでっかい透明なエンドウ豆のサヤに入れられてる少女を救い出したり、レーザー銃片手に歴史の改変を図る未来人を知恵と勇気で撃退したり、悪霊や妖怪を呪文一発で片づけたり、秘密組織の超能力者とサイキックバトルを繰り広げたり、そんな所謂アニメ的特撮的物語顔負けの毎日を送ってる奴がいたとしても、一見一般人にとっては荒唐無稽なトンデモ世界だろうと実際にやってる方にしてみればそれがそいつの「普通の日常」なのだ。

 ……似たようなシュチュエーションに何度も遭遇しているような気がしないでもないが、それは取り敢えず置いておこう。

 星は廻り、日は昇り、昨日は過ぎ去り明日は来る。そして人々は「今日」を積み重ね日常を謳歌する。それぞれに相応な、小さな世界の中で。

 きっと宇宙人は未来人とは出会わないだろうし、未来人は超能力者とは遊ばないだろうし、超能力者は異世界人とは踊らないだろうし、異世界人は宇宙人を知らないだろう。

 何故なら宇宙人の日常は宇宙人によって象られ、未来人の日常は未来人によって彩られ、超能力者の日常は超能力者によって刻まれ、異世界人の日常は異世界人によって紡がれているから。そしてそれは僕達の日常もまた然り。

 だから例え僕の身近で宇宙人が買い物していたり超能力者が布団を干していたりサラリーマンが魔界から通勤してたりしたとしても、気付かない方がきっとお互いの幸せの為になると僕は思う。

 まぁ、戯れ言だけどさ。


 僕がこの街に越してきてから、三年の月日が経った。

 父親の異動の都合で生まれ育った練馬の町を離れて三年。大した感慨も感傷も浮かんでこないのは、それ以前の生活が異常に濃かった反動だろうか?

 7万年前の日本に家出して23世紀人の陰謀に巻き込まれたり、魔法の使える世界を作って魔界の軍勢に喧嘩を売ってみたり、銀河鉄道に乗り謎の寄生生物と宇宙の存亡を賭けて戦ったり、……うん、我ながら「何だこの混沌(カオス)は」と小一時間程問い詰めたくなるような無秩序さだな。

 物理法則? 何それ?

 そういう訳で宇宙人や未来人や妖怪や魔法や超能力やその他諸々の、所謂SFでファンタジーな皆々様方と時に友情を育み時に世界の命運を賭けて戦ったりしながらそれなりに平凡かつ平穏な少年時代を謳歌してきた僕だからこそ、サンタクロースの存在をいつまで信じていたかと聞かれれば、「今でも信じている」と胸を張って答える事が出来る。というか信じるも何も、実際に会った事があるのだから仕方が無い。

 しかし僕が最初からそんなSFとファンタジーを適当にブレンドしてサスペンスで味を整えたような出鱈目で非常識な生活を送っていたかと聞かれれば、少なくとも小学校の学年を幾つか上るまではそれなりに普通の生活を送っていたと思う。人生やり直そうと画策した事は何度かあるが。

 つまり何が言いたいかと言うと正直僕自身もよく分からなくなってきたのだが、前述の僕の不思議プロフィールは後天的に叩き込まれたという事であり、という事はつまり叩き込んでくれた元凶もとい何者かも存在するという事で、では一体誰がと記憶を更に掘り下げたりせずとも別に27に分裂したりしない極普通な僕の思考回線の総てがただ一人を挙げてくれる訳である。

 22世紀製の猫型ロボットを自称する、青いタヌキに。

 本人は最後まで猫だという主張を譲らなかったが、ごめん、やっぱりタヌキにしか見えなかった。

 そんな僕の本音を本人の前で言ってやったら、微妙にプライドの高いアイツは顔を林檎のように紅潮させて怒るだろうか? 怒るだろうなぁ……。


 ● ● ●


 学ランとブレザーの組み合わせはさして珍しくないのにブレザーとセーラー服の組み合わせはこの上無く奇妙に見えてしまうとはこれ如何に、などと壇上のヅラ校長の口から発信される催眠音波にやられて半分以上の機能の停止した脳細胞で自己問答している間にワンパターンで退屈な入学式はつつがなく終了し、僕はクラスメイトの波に乗り上級生の形式的な拍手に見送られながら配属された一年五組の教室へとぞろぞろと入った。

 担任の岡部なる若い教師のハンドボールやハンドボールやハンドボールについての熱い演説を聞き流しながら、僕は最低でも一年間はお付き合いする事になったクラスメイト達を横目で見渡す。

 一瞥した限りでは、この教室に顔見知りは皆無。人生初めての転校を経験した三年前のあの時に似た、何とも言えない寂しさが僕の胸の内に染みのように小さく拡がる。

 知らない世界に独り放り出されたようなこの孤独感は、何度経験しても慣れない。まだ二回目だが。

 そんなセンチメンタルな気分に僕が浸っている隙に岡部が語り飽きたのか、教室はいつの間にか自己紹介モードに入っていた。

 出席番号順に男女交互に並んでいる左端から一人ずつ立ち上がり、氏名出身中学趣味その他を適当に吐き出しながら、だんだんと僕の番に近づいてくる。

 この自己紹介なるありがちなイベントだが、これが僕にとっては厄介極まりない。

 前述したように中々愉快で奇抜なプロフィールを持つ僕ではあるが、僕自身に魔法や超能力やその他不思議特性があるかと聞かれれば、残念ながらどの才能も無い。というか、あってたまるか。

 寧ろ運動神経は昔も今も人並み以下だし、成績も赤点寸前を低空飛行。他人に自慢出来るものがあるとすれば、射撃とあやとり位のものだろう。あと寝付きの良さとか。

 ……さて、困った。

 灰色の脳細胞を総動員させて取り敢えず最低限の台詞を構築する僕を横目に、隣の奴が立ち上がった。

 長くて黒い髪にカチューシャをつけた、意志の強そうな大きくて黒い眼の女の子。整った目鼻立ちに不機嫌そうに眉を寄せ、口は固く引き結ばれている。

 えらい美人がそこにいた。生憎とご機嫌は斜めみたいだったが。

 美人さんは喧嘩でも売るような目つきで一度教室を見渡しながらゆっくりと口を開き、そして後々語り草となる言葉をのたまった。

「東中学出身、涼宮ハルヒ。ただの人間に興味はありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしの所に来なさい」

 この一瞬、間違いなく世界の時は凍り付いた。この教室限定で。

「……はぃぃい?」

 思わず素っ頓狂な間抜け声をあげてしまった僕を、一体誰が責められようか。いや、きっと責められない。しかし後々に僕が巻き込まれた騒動の数々を振り返ってみるとどうもこの時点で人生の選択肢を踏み外してしまったとしか思えないのはどうしたものだろうか。今更だけど。

 ハルヒと名乗った女の子は獲物を狙う猛禽のような目つきで再び教室中を見渡し、そして最後に僕をギロリと殺意二割り増しくらいで睨みつけ、傲然とした表情のままにこりともせずに着席した。僕が何をしたっていうのさ。

 教室には未だに沈黙の妖精が飛び交っている。

 当たり前だ。いきなり宇宙人だの未来人だのと電波な事を言われたら、きっと聖徳太子でもリアクションに困るだろうさ。

 ハルヒは憮然とした顔で頬杖をつき、怨敵をみるような目つきで黒板を睨みつけながら時々人をそれだけで喰い殺せそうな視線で僕を睨む。だから僕が何をしたっていうのさ。

 やがて体育教師岡部がためらいがちに次の生徒を指名して、白くなっていた空気の正常化と共にテンプレートな儀式が再開された。このまま有耶無耶になってしまえば良かったものをと微妙に本気で考えたりしたのは僕だけの秘密だ。

 自己紹介は残念極まりない事につつがなく進み、遂に僕の前の生徒が着席した。緊張の一瞬の御到来である。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。

 嘆息混じりに立ち上がった僕の顔を、ハルヒが穴でも空けそうな勢いで睨み上げている。どうやら本格的に目を付けられてしまったらしい。

「西中学出身、野比のび太。趣味は射撃と漫画評論です。あと昼寝とか」

 当り障りの無い台詞を何とか噛まずに言い終え、危機は過ぎ去ったと安堵の息を吐きながら僕は着席した。

「……絶対正体暴いてやる」

 隣のハルヒが何やら不穏な事を呟いているような気がするが、気のせいという事にして忘れたい。

 ……というか正体って何さ。


 という訳で、こうして僕は涼宮ハルヒと出会ってしまった。
 しみじみ思う。偶然って恐いね、と。


ーーーあとがきーーー
 はじめまして、グルミナと申します。
 本文章は涼宮ハルヒの憂鬱とドラえもんのクロスオーバーssなのですが、……無茶は充分承知しております。それでも書かずにはいられなかったのです。
 不定期連載になると思いますが、生暖かい目で見守って頂けると幸いです。

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