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▽レス始

「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第六話 ふさがらない傷痕。逸らした現実 後編の1(SEED運命)」

ANDY (2006-06-18 01:46/2006-07-17 18:51)
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『罪を許す』と言う言葉がある。
 この言葉の中にある『罪』とは、『許す』とは何なのだろうか。
 ある学者は言う。人は生まれたその瞬間から罪を犯すことを義務付けられた存在である、と。
 ある聖職者は言う。人は全ての生き物の中で許すという崇高な行為を行うことのできる存在である、と。
 これらを踏まえ導く答えは、例えどのような罪を犯したとしても人は許すべきだ、と言うことなのだろうか。
 もしそうだというのならば尋ねよう。
 理不尽な暴力で蹂躙された男の嘆きは、子供の明日を護れなかった父親の怒りは、己が伴侶の現在を守れなかった夫の憎しみの果てに生じた怒りと憎悪は、果たして『罪』なのだろうか。
 もし、罪だというのならば、一体誰が『許し』を与えることが出来るのだろうか。
 為政者?聖職者?世界?それとも、セイギノミカタ?
 人が人に罰を与え、人が人に許しを与える、ということを軽々しく行うことこそ『罪』なのではないだろうか。
 では、この世に『許し』は存在しないのだろうか。
 その答えを、いつ人は手にすることが出来るのだろうか。


「なんという、何と言う腑抜け具合!!貴様らはそれでもザフトの者か!!」
 コックピットの中で、サトーは眼前の敵に向け怒声を放った。
 その怒声が聞こえたのだろうか、眼前のゲイツの動きが一瞬硬直した。
 その瞬間をサトーは逃さず、自機の武器である斬機刀でその胴を払った。
 ゲイツはかわす事ができずに、命と言う名の華を散らすのだった。
 その事実に、サトーは言いようのない苛立ちが胸にわくのを感じた。
 あまりにもこの部隊の錬度の低さに、プラントが事態を軽く見ているように感じてしまったからだった。
「貴様ら、それでもザフトの軍服を纏っているのか!その服に込められた思いを、願いを知らぬというのか!!貴様らに、その服を着る資格などない!!」
 そう叫ぶと、サトーは新たな華を散らすために自機のブースターを煌かせ、漆黒の闇を駆けるのだった。


「なんだ?あのゲイツたちの動きの悪さは?」
『どうも、恐慌状態に陥っているようだな』
 モニターに映る、まるでアカデミー生の様な動きをしているゲイツを眺めて洩らしたシンの言葉に、インフィの合成音が静かに答えた。
 その言葉に、シンはジュール隊はエリート部隊ではなかったのか、と疑問に思ってしまった。
 まさか、エリート部隊だからこそ将来性のある新人を集めて教育をしているのではないだろうか。と、仮説を立てるも、すぐにそんなことはないだろう、なかったら良いな〜、と思うことにしたのだった。
 仮にそうだったとしたら、あまりにもプラントの対応がまずいように思えるからだった。
 地球に住む数十億単位の命を賭けている作戦の癖に、あまりにも本腰を入れていないように錯覚してしまうからだ。
 いや、実際は上層部の一部は他人事としか考えていないのか?
 …………やめよう。無駄に悩んで精神的に疲労することに意味などないから、と結論付けて、シンはレイとルナマリアに通信を繋げることにした。
「二人とも、あともう少しで戦場だ。今回は、ブイ・フォーメーションで会場入りをする。前衛は俺とレイ、後衛はルナでいく。これは、俺とレイの機体が高機動戦用の仕様であり、ルナの機体が砲撃戦用だからだ。俺とレイが掻き乱した相手をルナが打ち落とし、ルナが怖じ気づかせた相手を俺とレイが落とす。基本はこれだ。で、戦闘中の指揮は基本的にレイで頼む。理由は、三人の中でレイが一番空間認識能力が高く、またアカデミーで指揮能力が一番だったからだ。何か質問は?」
『了解した。二人の命は俺が預かる』
『三番だったルナマリア了解!二人の後ろは任せなさい!』
「二番だった俺も、二人の命は預かる。では、最後に締めるぞ」
 そう言葉にすると同時に、三人の思考は切り替わる。
 生きるために人を殺す。守るために命を奪う。罪を犯し、苦しみを産まないために罪を背負うことを胸に抱き。
 そんな覚悟を胸に、三人は誓いの言葉を、戒めの言葉を口にする。
『『「死ぬな!!」』』
 その言葉を発すると同時に、三人の若き戦士は戦場へとその身を投げ入れるのだった。


「議長は落ち着いておられるのですね」
「ん?」
 緊張した空気が充満している艦橋で、タリアのどこか険の含まれた言葉が響いた。
 それをデュランダルは不思議なことを聞いたかのような心持で尋ね返した。
「ユニウス7が落ちる、と言う状況ですのにその落ち着きぶり。尊敬を通り越して少し……」
「異常に見えるかな?」
 言いがたい言葉を濁すタリアに、デュランダルは真剣な表情で見つめながら言葉を繋いだ。
「いえ。…………失言でした。ご容赦を」
「いや。かまわんよ。君にそう思われても仕方がないさ。私はある確信を持っているのだよ」
「確信、ですか?」
「ああ」
「議長、それは?」
 タリアとデュランダルの会話を聞くと話に耳にしていたカガリは、疑問を口にするとすぐに顔をしかめて慌てて口を押さえた。
 あまりにも自分の行動が破廉恥に思えてしまったからだった。
 だが、そのカガリの様子を気にした様子も見せずに、デュランダルは真剣な表情でその舞台俳優も、と言う声を響かせた。
「ええ。姫、私は今回の騒動の犯人グループの思想と、目的がおぼろげながら予想できるのですよ」
「な?!」
「ッ?!」
 衝撃の内容に、二人だけでなく艦橋につめていた全員の視線がデュランダルに集中した。
 その視線全てはこう語っていた。「信じられない」と。
「まず、犯人グループですが。八割がたコーディネイターでしょう。悲しいことですが」
「………それは、どうして?」
「姫はご存知かどうかはわかりませんが、かつて戦争終結と同時に、行方不明になった艦隊、またはMS部隊がいくつか存在して、そのうちの部隊であると思われる存在がユニウス条約調印式を妨害しようとし、護衛に当たっていた傭兵に排除されたという事実があるのですよ」
「な?!」
 語られた内容に、カガリは驚愕の表情を浮かべるが、タリアはそのことを知っていたのか、表情を変えずにデュランダルの言葉に耳を傾けていた。
「われらは便宜上、離反した者達を『過激派』『強硬派』または、『ザラ派』と呼んでいます」
「ッ!!議長!!」
 デュランダルから語られた聞き逃せない単語に、カガリは声を荒げてしまった。
 カガリは知っているから。彼が、未だに父親の呪縛にとらわれ悩んでいることを。
 だからこそ、デュランダルが軽く口にした言葉を聞き流すことは出来なかった。
 だが、そのような思いを知らないデュランダルに噛み付くのは、お門違いであるということもカガリはわかっていた。
 それでも、噛み付かずにはいられなかった。
 そんなカガリの内心を気にせず、デュランダルは言葉を続けた。
「あくまで便宜上です。ですが、『名はその存在そのものをあらわす』という言葉通り、彼らはみなある言葉を口にしていたのです」
「……」
「それは、『パトリック・ザラこそ正しい』と言う言葉を」
 その言葉に、今度は言う言葉がカガリの頭には思い浮かばなかった。
 なぜなら、その言葉は自分を、自分たちのかつて選んだ道を否定されるものなのだから。
「ですが、議長。何故、今回の事件を議長のおっしゃる存在が起こしたものだと思われるのです?」
 呆然としているカガリを目に収めながら、タリアは疑問を投げかけた。
「それは、こういう理由だよ。ユニウス7は我々コーディネイターにとってある種の信仰、またはそれに類するものにとっての象徴的役割を持っているのは、タリアも知っているだろう?」
「はい」
「それは、地球の方たちも同じようでね。まあ、我々とは内容は異なるようだが、何らかの意味を持っているということは条約の調印式の会場を同意したことからもわかるさ。さて、それを踏まえたうえで尋ねるが。まず、ユニウス7を動かそうと思う存在はどこから来ると思うかね?」
「?」
「マスドライバー施設は早々簡単に使えるものでもないし、第一地球から物資を打ち上げるのはあまりにも時間と労力、何よりも資金が掛かりすぎるので、建設的なものではない。では、どこで物資を手に入れるのが簡単か。それは、宇宙で受け取るなり購入するなりすればよいのだよ。地球から上げるよりも格安にすむ」
「ですが、人員だけを打ち上げた、とも考えられるのでは?それこそ道具類は先ほど議長がおっしゃられたように現地調達できるのですから」
「たしかに、それも考えられる。だが、それは低いだろう」
「なぜです?」
「ユニウス7が移動しているからだよ」
「?」
「アレだけの質量を動かすには、それなりの推進装置が必要だ。こう言っては何だが、地球にすんでいる方々がそのような装置に対してさほど精通しているとは思えない」
「それは、ですが」
「それに、そのような装置を設置するのはなかなか骨が折れるらしくてね。ザフトの特殊部隊出身ならば一部隊だけでも設置が可能らしいが、地球の方々では一艦隊ほどなくては出来ないそうだよ。さすがにそれだけの大所帯ならば、我々のレーダーにも何らか触れているはずなのだよ。それがなかった、と言うことは少数の、しかもユニウス7の監視網の存在を知っている者たちの犯行、と考えられないかね?」
「……」
「それに、ユニウス7を使う、と言うところも決めてだ」
 その言葉には、何か言いようのない重さが加わるのを艦橋にいる者達は感じた。
「ユニウス7は我々にとっては悲しみの象徴だが、地球側から見たらなかったことにしたい存在、なのだそうだよ。そんな存在を認識させるようなことを地球出身のものがするかね?他にも幾つか判断材料はあるのだが、おおむねこのような考察から、彼らはザラ派のものだと予想しているのだよ」
「では、目的の方は?」
「…………私の希望的予測も含まれているのだが、あえて口にさせてもらうと『地球滅亡』ではなく『戦争状態の復帰』ではないかと思うのだよ」
「!!!!」
 その言葉に、多くの者は電気を流されたような気にさせられた。
 戦争状態の復帰?正常な思考の持ち主とは思えない。
 そのような思いを浮かべているクルーを無視し、デュランダルの言葉は続く。
「今の世界情勢は、酷く危ういものだ。例えるならば『表面張力限界まで水を注がれたコップ』と言う言葉が当てはまる状態なのだよ。何らかのアクション一つですぐにこぼれてしまう、そんな薄氷の上を行進するかのような状況なのだよ」
 その事実は、少しでも軍、または政治に関わったものなら判る暗黙の了解であるが、改めて聞かされると、自分達が立っている世界のなんと脆弱なことか認識させられるものであった。
「ところで、姫、プラントの食料状況をご存知でしょうか?」
「え?その………」
 突如振られた話題に、先ほどまでの話題のことで飽和状態である思考では、咄嗟に応えることができずに、出る言葉は意味を成さないものであった。
 そんなカガリを礼儀よく無視し、デュランダルは言葉を続けた。
「残念ながら未だプラントは食料自給率が百パーセントではなく、その多くを地球の親プラント国家から輸入して賄っているのが現実なのです」
 その言葉は事実だが、真実ではなかった。
 なぜならば、もしかしたら食料状況はもう少しよくなっていてもおかしくなかったはずなのだから。ヴァレンタインの日に農業プラントであるユニウス7が核攻撃さえされなければ。
 プラントの独立にとって必須条件であった食料の自立化は、プラント理事国や地球軍にとっては好ましいものではなかった。そのため、当時独自に食糧生産研究をしていたユニウス7に向け、あのような愚行に走ったのだった。
 それを切欠に、地球とプラントの間で戦争が勃発してしまったのだった。
「もし、仮にユニウス7が地球にそのまま落ちてしまったら、どうなると思います?」
「…………地球、滅亡」
「いいえ。姫。人類滅亡、なのですよ」
「え?」
「先ほど申したとおり、プラントは食糧を地球から輸入しているのです。その地球が食糧を生産できないほどのダメージを受けた場合、我々はどうなると思います?そう。食料が十分にいきわたらないプラントでは、足りない食料事情のため餓死者が増加し、僅かな食料を求めて争いが起こり、いつしか相手を殺してでも食料を、と言う考えが蔓延するのは想像に難くありません。それは、当たり前なのですよ、姫。いくらコーディネイターといえども、人間なのです。三大欲求のうちの一つを克服することなど早々簡単に出来るものではないのですから」
「それは………」
「それらを踏まえたうえで、姫。彼らは、それを望むと思いますか?」
「え?」
「彼らの目的は、復讐です。地球に対してのね。そんな彼らが同胞を窮地に陥れるだけのことをするでしょうか?」
「え?」
「…………ッ?!まさか、落下自体がブラフだとでもおっしゃるのですか!!ですが、なぜ?!」
 デュランダルの言わんとすることに思い至ったタリアは、驚愕の声で尋ねるのだった。
 あまりにも常識では考えられない仮設であるからだ。
「先ほども述べたとおり、戦争状態のもどすためだろう。彼らにとっては、まだ、戦争は終わっていないのだろうね」
「そんな!そんなことをして、一体何が得られるっていうんだ!!」
「さあ?ですが、姫。不思議なことに、離反した者達の大部分に共通するものがあったのですよ」
「?」
「それは、彼らの身内にユニウス7の被害者がいた、と言うことなのですよ」
「え?」
「ある者は恋人を。ある者は子供を、両親を、兄を、弟を、姉を、妹を、己が伴侶を失っていたのですよ。そんなかれらにとって、今の世界はあまりにもやさしくなかったのでしょう」
「だ、だが!」
「ええ。確かに、彼らの行為はあまりにも身勝手です。ですが、そうでもしなくてはいたたまれない思い、と言うものもあったのでしょう」
 その言葉を否定するものをカガリは持っていなかった。
 感情では否定したいのだが、理性的に否定するだけの、その思いを論破するものを持っていないからだった。
 そんなカガリの内情を知らずか、デュランダルはなお言葉を続ける。
「話を戻しますが、彼らの目的は、戦争の再開であるのは確実でしょう。地球側も今回の事態を観測していますし、何よりプラントからも警告の知らせを送っていますので、今頃地上は非難している人たちで大変な状況になっているでしょう。ですが、全ての地上の方々が賄えるだけの数のシェルターが存在するのでしょうか?いえ、そんな数はないはずです。そして、もし、ユニウス7の一部でも地上に降り注いだ結果、シェルターに避難できなかった方々がどのような状況に陥るのかは、姫、想像できるのではないでしょうか?」
「そんな…………」
 デュランダルの語る未来図に、カガリは絶望しか感じることができなかった。
 ほんの僅かな欠片でも落ちてしまえば、いくばくかの人の命は無くなってしまうだろう。
 欠片が全て海に落ちる、などの幸運がない限り、確実に人の命はうばわれてしまう。
 奪われてしまった人たちは、一体その不条理を、無念を、怒りを、悲しみをどこに向けるのだろうか。
 簡単だ。自分たちから大事な人を奪い、悲しみを与えた相手に向けるに決まっている。
 そして、その相手は誰か、といえば、実行犯であり、実行犯の生まれ育ったプラントへもその憎悪の目が向くのは、過去の経験から考えても容易である。
 そうなってしまえば、順序は逆だが二年前の再来ではないか。
 そう考えた瞬間、カガリはデュランダルの言うことがやっと理解でき、そして犯人達のあまりにも深い憎悪と狂ってしまった考えに恐怖を覚えた。
「犯人達の望む未来が訪れるかどうかは、彼らの働きに掛かっているのです」
 デュランダルの視線の先には、戦闘により咲く火の華を抱えているプラントの一つであったユニウス7が存在していた。


「くそー!!そんな型遅れに乗ってるくせに!!」
 悪態を口にしながらディアッカはオルトロスの砲口を部下のゲイツRに斬りかかろうとしていた敵機であるジンに向け、その魔獣の咆哮を浴びせる様に放った。
 だが、部下を巻き込まないようにと思ったためか、ジンはその攻撃を危なげなく避けるとこちらに向けてビームを放ってきた。
「くそッ!!」
 その攻撃を小刻みに機体を動かすことで回避すると同時に、コックピットに警告音が鳴り響いた。
 モニターに促され見たそこには、一機のジンがすぐそこに迫り、手にした斬艦刀を振り下ろそうとしていた。
 どう考えても完全に回避することは不可能なタイミングに、ディアッカは心の中で今は地球にいるであろうある女性に向けて謝罪の言葉を向けた。
(悪ぃ、どうもここまでみたいだ。もう一回、あって話がしたかったぜ)
 そう思いながら、何とか相打ちに持ち込もうと考えたディアッカの耳に、ここ数年耳に慣れ親しんだ怒声が飛び込んできたのだった。
『この、腰抜けがーーーーーーーーーーー!!!』
 その声にそんな力があるのか、と錯覚しそうなタイミングで、迫っていたジンは腹部を貫通され爆発四散したのだった。
「イ、イザークか?!」
『貴様!!何を間抜けな行動を取ろうとしていた!!』
「い、いや。間抜けって…………」
『隊長、ディアッカさんへの説教は後ほど。まずは敵の排除を』
『ああ。そうだな。ディアッカ、今はシホに免じてやめておいてやる。それと、シホに礼を言っておけ』
「ああ。サンキュ、シホちゃん。お礼に今度デートしようぜ」
『結構です』
『貴様ァ!!』
 スピーカーから響く声に苦笑しながら、ディアッカは自機の周辺に浮かんでいる二機のザクに目を向けた。
 一体のザクは、青いパーソナルカラーのザクファントムであり、ウィザートはスラッシュで二基のガトリング砲が特徴である。ガトリング砲を放ちながら、手にしたビームアックスを振り回し敵を倒すその姿は、隊長と言う職についてもなかなか直らないイザークの荒い気性を表しているようであった。
 もう一体のザクも、同じパーソナルカラーだが、イザークのよりは少し色合いが濃い目であり、左肩に鳳仙花の紋章を入れたウォーリアータイプであるそれはブレイズウィザートを装備し、その手には先ほどジンを撃ち取ったであろうスナイパーライフルに似た少し大型の銃があった。パイロットであるシホの専攻分野であるビーム兵器開発の結果のそれは、貫通力の高いビームの弾丸を撃ち出せるもので、機体のエネルギーではなく取り外し可能のマガジンに込められた八発のパワーセルで打ち出すことが可能である。これは、ザクのビームマシンガンと基本は同じであるが、あちらは制度と威力を捨てる代わりに射速と弾数を得たのに対し、こちらは精度と威力を選んだ、という相反する存在である。
 スナイパーライフルを構えたザクは、縦横無尽に暴れている青いザクに襲いかかろうとしている不埒者に向けてその射撃を与えるのだった。
「まったく、俺にも活躍させろってな!!」
 二機の動きに触発されるように、ディアッカも先ほどまでとは異なり精彩に満ちた動きでジンに砲を向けその一撃で二機の敵機を葬るのだった。
『こいつらは俺達に任せて、工作部隊は早くメテオブレイカーを設置しろ!!』
『は、はい!!』
 イザークの指示に、ゲイツのパイロット達から慌てた返事が返るのを耳にして、ディアッカは苦笑を浮かべた。
 苦笑を浮かべながら、今まで浮かんでいた焦燥感が霧散していくのを感じるのだった。


 漆黒の闇を切り裂く、青い流星と、白い閃光が存在した。
 魔獣の咆哮が無音の闇に轟くと同時に、青い流星と、白い閃光が駆け抜け、去り行く後には命の華が咲いては散り逝った。
「ちぃ!やっぱり一人一人の錬度が高いわ!」
 そうぼやくと同時に、シンはインパルスの両手に装備させていた実弾使用のマシンガンを打ち放ち、斬りかかって来ていた敵機の両手とバランスを奪った。
 動きを奪われたそれを、魔獣の咆哮が容赦なく飲み込む様を見ることなく、シンは次の相手へと視線を移すのだった。
 何故実弾兵器を使用しているかと言うと、バッテリーの一部を使い放つビームライフルでは機体エネルギーを著しく減少させるだけなので、万が一不測の事態が起きたときに対応する余裕を持つための選択だった。
 もちろん、ビームライフルは腰にマウントされているのでいつでも使用可能だが、今はそのときではないので使用はされていなかった。
 マシンガン―27mm機甲突撃銃―の威力は未だ健在で、ジンH2型の装甲を難なく削り取り、噛み砕いていった。
 シンは、隣にいるレイのザクと後方にいるルナマリアのザクとでお互いの死角を補いながら、確実に敵の数を減らしていっていた。
 その連携具合は、まるで何年もともに戦場を駆けた熟練のように見えるものがあった。


『貴様らぁー!』
 怒声を上げながら、斧を振り回すその姿はまるで鬼神のようであった。
 イザークの少し先行しすぎる行動に呆れながらも、ディアッカは心配をしていなかった。
 それは自惚れかもしれないが、それだけイザークの腕を信じている現われだった。
 だからだろう。
 その動きに反応が遅れたのは。
 それは、最後の足掻きだろうか、イザークへと銃口を向けていた。
 下半身を切り裂かれたそのジンは、未だ爆発することなく存在していたが、いつ爆発してもおかしくない状態だった。
 せめて一矢報いようと言う気持ちが導いたのか、その僅かな奇跡に全てをかけた一撃を放とうとしていた。
 それを見たディアッカは、命中精度の低いビームマシンガンを投げ捨て、すぐにオルトロスを構えようとする。間に合わない。
 通信をつなげようとする。間に合わない。
 ディアッカの背に冷たい汗が流れるそのとき、ジンの腕が飛来した何かに斬り飛ばされた。
 武器を失ったジンに、ディアッカはオルトロスの一撃を与えてその存在を消すのだった。
 その爆発に気がついたイザークのザクが振り返るのを見ながら、ディアッカは何かが飛来してきた方向に目を向けた。
 そこにいたのは、二機の改造されたゲイツに守られるように接近している一機のザクだった。
 先ほどの飛来したのはビームトマホークか、と思うと同時に、あんなものを任意の場所にヒットさせるその腕前に驚愕せずにはいられなかった。
 そんな相手に通信を入れようとした瞬間、ディアッカの耳にこの場では決して聞こえてはならないはずの声が飛び込んできたのだった。
「前に出すぎだぞ、イザーク!!」
 その声を聞いた瞬間、ディアッカは戦場だというのに一瞬頭が白くなるのを感じてしまった。
『そ、その声は、アス……、いやアレックスか!!何故貴様がそんなのに乗っている!!』
 どうやらイザークも同じようで、声にどこか動揺の色が見れた。
『おいおい。それはまずいんじゃないの?』
 自身の動揺を隠すようにおどけた声を出すが、かつての同僚はやはりそのような軽口に飛びつくこともせずに真剣な声音を発するのだった。
「今は戦闘中だ!!後でいくらでも説明してやる!!」
『なにをー!!民間人の癖に!!』
『はぁ〜、やれやれ』
 かわっていない相手に、かつてのように沸点の低いイザークはすぐに激昂した顔をし、その様子をディアッカはシニカルな笑みを浮かべながら見るのだった。
 そんな二人の顔を無視し、アスランは戦場の空気に触れ戻りつつある勘に従い機体を動かしていた。
 自身の感覚がかつてのそれへと戻る様を感じていたのだった。
 そんなかつて同僚であった三機のザクに、一体のザクが接近してきた。
『隊長!ミネルバのMS部隊が戦闘に参戦します』
『…………なるほど、それはミネルバの機体か』
 シホの報告に、イザークは合点がいったという声を洩らすのだった。
『どうする?イザーク』
 これからの行動を尋ねる形で副官であるディアッカは尋ねた。
『よし!工作隊はメテオブレイカーの設置に専念しろ!俺とシホ、それにディアッカで一機たりともメテオブレイカーに近づけないようにする!!』
 そう指示を出すと、イザークのザクはバーニアを吹かし敵に向かっていった。
『了解。隊長、支援します!!』
『よし、シホは俺と一緒について来い!!ディアッカ、援護しろ!!』
『了解!』
『あいよ!』
 イザークの指示に従い、シホはライフルを構えイザークのザクに追随するように飛翔し、ディアッカはその二機の後方からオルトロスを放ちながらついていった。
 オルトロスの砲撃を回避しようとしたジンに、接近したイザークのザクはビームアックスを振ることでその命を奪う。その瞬間、一瞬だが機体が固まったイザーク機に敵のジンが群がろうとするが、その後ろに控えていたシホ機がライフルを撃つと同時にミサイルを撃ちだす事で迫っていた敵の命を確実に奪い去ってしまった。
 そんな三機の流れるような連携を見て、アスランは二年と言う時間の流れを感じずにはいられなかった。
 かつての同僚は、連携などと言うものをなかなかとろうとはせずに独断戦闘を好んでいたというのに、今では連携することでその力を十にも二十にも膨れ上げるようになっていた。
 それは、かつて自分が持っていたであろう場所がもうない、と言う事実をまざまざと見せつめられることでもあった。
 そのことに一抹の寂しさを感じているアスランの耳に、護衛としてついてきていたショーンから通信が入った。
『アレックス氏?』
「あ、ああ。すまない。メテオブレイカーは?」
『いくつか壊されましたが、残ったのは随時設置に取り掛かっています。我々はそれらを死守することが任務です。アレックス氏は工作隊の援護に』
 ショーンの言葉に、アスランは何かを言おうとしたが、それを遮るようにショーンの言葉は続いた。
『あなたの正体に興味はありません。が、今のあなたはオーブの民間人だ。出来るだけ自衛行動以外の武力行使は避けたほうが良いですよ』
 そういうと同時にショーンは通信を切るのだった。
 そのショーンのどこかドライな物言いに、アスランは何かを言いたかったがそれは今何の力も持たない戯言にしか過ぎない、と思い直し、言われたとおりにイザークの部下達のゲイツたちの設置支援に向かうのだった。


 自分と同じ思いを胸に、長き耐え難き時を過ごした仲間の命が消されるのを見つめサトーは咆哮をあげた。
「やらせはせん。やらせはせんぞー!!」
 それは、あまりにも理不尽な思いの叫びだったのかもしれない。
 だが、その叫びにこめられた思いは純粋で、純粋すぎるからこそ世界に対しての毒になってしまった思いの具現化であった。
 サトーは両腕に構えたマシンガンを打ちはなっている、トリコロールカラーのGタイプに向かって斬機刀を振り下ろしかかった。
 Gタイプは、こちらの動きに気づき迎撃の構えを取ろうとするも、同じくこちらの動きに気づいた仲間にその動きを制限され迎撃の構えをそう簡単に取れずにいた。
 なぜならば、Gに攻撃を仕掛けているものの気迫はまさに死を覚悟した者のそれ。その気迫ゆえに、そうやすやすと自由に動きを取れる、と言うものではない。
 動きを制限されたGに渾身の唐竹割を放つ。
 だが、それをGは両手のマシンガンをクロスにして構えることで受け止めてしまった。
 お互いの獲物を失うことになったそれに、相手の力量がなかなかのものだと思うと同時に、なぜ邪魔をするのか疑問に思い、サトーは国際救難回線で相手と接触を試みることにした。
「なぜだ、なぜそれほどの力量を持ちながらナチュラルに加担する!貴様もわれらと同じコーディネイターであり、ザフトの一員であろう!!」
『?!何を言ってやがる!!』
 返って来た声の若さに驚きながら、サトーは相手の蒙昧ぶりに怒りを感じた。
「何を、だと!貴様もザフトの一員ならば知っておろう!地球に住む者がいかに傲慢で、強欲で、自身の営利しか目的に持っていないかを!!」
『何を根拠にそんな事を!!』
 その声と同時に、インパルスはジンH2の斬機刀を押し返し間合いを取るように払いのけた。
 その瞬間、マシンガンの一つが銃身を切り裂かれ使い物にならなくなった。
 それを捨てると同時に、サイドアーマーからM71-AAK「フォールディングレイザー」対装甲ナイフを取り出すと同時に、また斬りかかって来た一撃を受け止めるのだった。
「根拠だと!貴様は、ザフトの前身である黄道同盟と言うものを知っているか!」
『知るか!!』
「自分の所属する組織の前身ぐらい知っておけ!!もともと我等は、不当な扱いを行うナチュラルたちに、我等は貴様達の家畜ではない、と言う当然の権利を勝ち取るため、自身の身を守るため、そして自由を得るために組織されたのが黄道同盟だ!!だが、卑劣なナチュラルたちは、我等の当然の主張を一笑に付し、あまつさえ武力を持ってそれを消そうとした!」
『それがどうした、ってんだ!!』
「CE61、当時委員の一人であったパトリック・ザラが反コーディネイター組織の人間に暗殺されかけた!だが、護衛についていたSPの働きで、一命を取り留めた。そのSPは我が無二の親友であり、私が唯一愛した女性の兄であった男だ!!」
『…………』
「そいつは、死ぬ直前、我にプラントの未来を託して逝ったのだ!その思いを受け継いだ私は、ザフトに身を置くのは当然の帰結であろう!!」
『それと今回の件が一体何の関係が有るってんだ!!』
 刃を逸らすことで拮抗状態を脱することに成功したインパルスは、残ったマシンガンをジンH2に向け発砲するが、その銃弾のこと如くを回避していった。
 何とかあてようと引き金を引き続けると、突如銃口から弾が出なくなってしまった。
 弾切れだ。
 それに慌てて予備の弾倉を取り替えようとした一瞬の隙に、またジンH2は斬りかかってくるのだった。
 弾切れを起こしたマシンガンを捨てると、インパルスはすぐ隣に浮いていた他のジンH2のものであった斬機刀を構えて切り結ぶのだった。
「当時我々は確かに武力の増強をしていた。だが、それは理不尽な暴力から身を守るための当然の権利としてのものだった!そして、我々は地球側に、我らは奴隷にあらず、人間だ、と主張した結果が、この無音の闇の中に浮かぶ悲しみの墓場よ!!」
『…………核での報復か』
「そして、その瞬間、我らは悟ったはずだ!奴らナチュラルは言葉を理解しようとはしない、力で全てを排除する『人間』と言う種に誕生した癌細胞である、とな!!そして、我らは我らの権利と自由、そして人類の明日を求めて戦った!戦って、戦って、幾度友が、仲間が死ぬ様を見ながらも、その先には我らの勝利と言う輝かしいものがある、と信じて、それだけを胸に我らは戦った!………なのに、今の世界はどうだ!!あれだけ多くの命を失ったというのに、あれだけ多くの命を奪ったというのに、勝者なきまま戦争は終結をし、あまつさえユニウス条約などと言う不当なものであの戦争がなかったかのように世界を再構成させた世界を、我は、我らは断じて認めん!!認めてしまったら、理不尽な力で奪われ、漆黒の闇の中に消えてしまった我が子たちに顔向けが出来ん!!」
 そう叫ぶと、ジンH2は強烈な蹴りをインパルスに放った。
 インパルスはその蹴りを受け、その場から離れた。
「だからこそ、我らは行動を起こした!ぬるま湯につかっている地球の者達に、まどろみの中に眠りこけているプラントの者達の目を覚ますために!戦争は、我らの宿願は未だに成就されていないと思い出させるためにだ!!」
『………今回の行動は、目覚まし代わりだって言うのかよ』
「ふん!目覚ましではない!!我らが聖戦の始まりの鐘よ!!」
『………ふざけんな!!』
 そう叫ぶと同時に、今まで防御に徹していたインパルスが攻勢に移った。
 斬機刀とナイフでの二刀を駆使し、サトーの乗るジンH2に鋭い斬撃を繰り出した。
 それをサトーはあるものはかわし、あるものは刀、あるいはシールドで防ぐも、攻勢に転じる機会をなかなか見出せずにいた。
「くぅ!なぜそうまで邪魔をする!!」
『うるせぇ!自分たちが引き起こそうとしている未曾有の大人災をそんなに誇り高く言い放つ口が喋るな!!』
「なんだと!なぜ分らぬ!!奴らを消さねばならぬという事を!!」
『理解してもらいたければ、子供なんて引き合いに出すな!この、バカ!!まだ、自分の怨嗟を晴らすためだ、って言う方が説得力があるわ!!』
「………我らの思いだけではなく、我が子達まで愚弄するか!!」
『は!お前がそうさせてるんだろうが!責任転嫁するんじゃねぇ!!』
 そう叫ぶと同時に放たれたインパルスの一撃は、サトーの斬機刀を根元から壊すことに成功するのだった。
 武器を奪われ、体勢を整えようとするサトーの耳に、インパルスのパイロットの声が響いてきた。
『あんたらの感じた悔しさ、悲しさ、怒り、何ていうものがわかる、何ていうつもりはない。俺は当事者ではないんだから、あんたらと同じ気持ちを共有することなんて出来るはずないんだからな。でもな、これだけはわかるんだよ!あんたらの愚行を見過ごせば、第二、第三のあんたらを生み出してしまう、ってな!俺は、そんな第二、第三のあんたらを生み出させないために、ここであんたらを斬る!!』
「何も知らない子供が!!」
『何も知らない子供でも、あんたらの起こした行動の結果がどういったものだか想像することはできるんだよ!!』
「黙れ!」
『いーや!黙らんね!!あんたらも本当はわかってるんだろう!!自分たちの行動では、新たな悲しみしか生み出さない、って言うことは!!』
「黙れといっている!!」
 激昂した声を上げながら、サトーは新たな刀を構えインパルスへと斬りかかろうと接近した。
 その様を見つめながら、シンはインパルスに迎撃の構えを取らせ、次の一撃で悲しみから逃げることができなかった男の魂を解放するために攻撃を加えようと心に決めた。
 そして、二機がお互いの一撃を決めようとしたその瞬間、漆黒の闇に、火神の一撃が轟いたのだった。


『No.12、設置完了!!』
『No,7、設置完了!!』
 無事に設置が完了したという報告を耳にしながら、ゲイルは自分の愛機を駆って、メテオブレイカーを破壊しようとするテロリスト達にその刃を振るっていた。
 だが、その心境は複雑なものであった。
 テロリスト達の動きが、自分たちと似通ったザフト式の動きであることもその要因のひとつであるが、もしかしたら自分も彼らの側にいたのではないか、と言う思いが浮かんでは消えていたからだった。
 血のヴァレンタインの悲劇を忘れたことはない。だが、どこかで今の世界を受け入れるために折り合いをつけてしまったのも事実だった。
 その過去が、少しゲイルから普段の精細さを奪おうとしていた。
 だが、その思いは今は必要ないと思い直し、ゲイルは自らに課せられた任務に当たった。
 任務と言うものがこれほどありがたい、と思えたことはなかった。
「いい加減、諦めろ!!」
 苛立ちを押さえるように叫びながら、マシンガンとビームライフルを撃ち放った。
 ビームと鉛弾の火線を潜り抜けてきた者には、両腰のエクステンショナル・アレスターを放ち、動きを止めると同時に盾として相手の火線にさらすように構え、投げはなった。
 その投げはなった相手に、相方のショーンの砲撃が確実に命を奪うのを確認しながら、マシンガンの弾倉を交換しながらレーダーを確認するのだった。
 メテオブレイカーをいくつか失ってしまったが、それでもまだ破砕するには十分な数が残っていることに安堵すると同時に、なんとしてもこれ以上奪われないようにと気を引き締めた時に、それは現れた。
『こちら、No.13。なんだ?レーダーに急速接近する反応―』
 その言葉を最後に通信が終了した。それと同時に、メテオブレイカーを設置しようとしていたゲイツとそれが炎の華へと変わったのは。
「なに?!」
 突如生じた爆発に驚きの声を上げると同時に、恐ろしいほどの威力を持ったエネルギーの奔流が新たにメテオブレイカー二機とゲイツを飲み込んでいった。
「何が起こってるんだ!」
『ゲイル、こちらの映像をそっちに送る。驚くなよ』
 ゲイルの苛立つ声に応えるショーンの声は、どこか硬さを感じさせるものであった。
 それに疑問を思いながら、ショーンの砲戦専用の機体であるそれの映像解析能力は高くそれから送られる映像をサブモニターで確認したゲイルは驚愕の声を上げるしかなかった。
「……何の冗談だか」
 サブモニターに映ったそれは、色と細かな形状は違うが、かつてザフトを恐怖で震撼させた機体に似ていた。
 その機体の名は、GATX-105ストライク。ザフトの名だたる兵士達を黄泉路へと送ったそれが再び現れたのだった。
 黒いストライクは、通常の機体が出せる以上の機動で飛び回り、その右手にある大型のビーム砲でメテオブレイカーを破壊し、背に背負った四つの物体、ガンバレルを縦横無尽に操り、辺りに死をばら撒いていた。
 その攻撃は見境がなく、ジュール隊のゲイツとテロリスト達のジンH2に等しく攻撃を与えていた。
「見境なしか!」
『というか、あちらにとってはザフト製のものは全て敵なんでしょうよ』
 ショーンとゲイルは迎撃の構えを取りながらそのような軽口を叩いていたが、その顔には緊張の色が濃く表れていた。
『あれは!?』
 そんな二人の耳に、今時分たちに課せられている任務である護衛対象のアレックスの声が耳に入ってきた。
 アレックスに説明するために、ショーンは回線を繋げた。
『見ての通りに、第三勢力、ボギー・ワンが現れたようですよ。アレックス氏、我々があれをここに近づけないようにしますので、その間に設置作業を急いでください』
『俺も一緒に―』
「一緒に戦う、とかっていう面白いことは口にしないでくれよ。あんたは民間人なんだからな。戦うのは俺達兵士の仕事さ!行くぞ!」
『そういうことですので、あなたはあなたの出来ることに全力で当たってください』
 何か言いたそうな顔のアレックスにそういうと、二人は暴れる黒いストライクへと向かっていくのだった。
「落ちろ!!」
 ゲイルはマシンガンとビームライフルの引き金を引くも、その攻撃をストライクは難なくかわしてしまった。
 そして、お返しにとライフルの銃口を向けようとしたその瞬間、ストライクは大きくスラスターをふかして飛び去るのだった。
 先ほどまでストライクがいた場所を、94mm高エネルギー収束火線ライフルより放たれた一撃が通り過ぎていった。
『勘がよろしいことで』
「なら、勘が鈍るように攻撃するだけだろう!!」
 必殺の一撃を避けられてしまったことに対して軽口を叩くことで何とか動揺を抑えようとするショーンに、ゲイルも威勢の良い言葉で自らを鼓舞し、ストライクへと向けてスラスターを全開にするのだった。
「おおぉぉ!!」
 接近しながらライフルとマシンガンを撃ち込むも、相手は難なく回避行動を取ってしまうことに恐怖を覚えてしまったが、それを打ち払うようにゲイルはマシンガンをストライクへと向けて放り投げた。そして、それがストライクの近くに到達した瞬間に、ライフルからビームを放ち爆発させ、即席の目くらましにしたのだった。
 微細ながら、相手の目を潰すことに成功したゲイルは、畳み掛けるようにエクステンショナル・アレスターを放った。有線とはいえ、その自由機動性はなかなかのその攻撃を避けれるはずはない、とゲイルが思った瞬間、コックピットにエクステンショナル・アレスター消失の報告が鳴り響いた。
 その事実に唖然としたその瞬間、ゲイルに向かって爆炎の向こうから黒い閃光が現れたのは同時であった。
 ゲイルは迎撃の構えを取ろうと、ビームサーベルを構えようとした瞬間、サーベルを掴むはずの左腕は宙を自由遊泳していた。
「な?!速い!!」
 愕然とそう呟くゲイルを嘲笑うかのように、ストライクはゲイルの腕を奪うだけで横を通り抜けていった。
 そのことに屈辱を感じたゲイルが機体を反転させ、追撃しようと動かした瞬間、衝撃が襲ってきた。
 コックピット内に鳴り響く警告音と自機の現状を知らせるレッドランプが、ゲイルの五感を暴力的に刺激した。
 ゲイルは自機の状況を確認して、愕然とした。
 頭部、右腕、両脚部消失と現れていたからだった。
 ゲイルは気づいていなかったが、ゲイル機の横を通り過ぎたストライクは、視線を合わせることなくガンバレルを起動させ、そのビーム砲でゲイル機のコックピットを狙い撃ちしようとしていたのだった。
 ゲイルが機体を反転させようとすぐに動かしたことと、ストライクが狙いをつけずに勘だけで射撃を行った結果、ゲイルは命を永らえることが出来たのだった。
 だが、そのような事実があったとしても、ゲイルの胸に到来するのは悔しさと無力感だけであった。
「くそったれ!!」
 攻撃力の無くなったMSのコックピットの中で、ゲイルの叫びは空しく拡散するのだった。

「ゲイル!!」
 自分の相方が瞬殺されたことに驚愕するも、すぐにショーンは相手との距離をとるためにスラスターを吹かし後退をし始めた。
 その際、ミサイル全弾を放ち、両腰の砲撃も行うのだが、あるものはかわされ、シールドで防がれ、バルカンで迎撃されるなど、これといって効果が望めなかった。
「なんてでたらめな!!」
 ショーンは苦いものを噛み締めるようにそう叫ぶも、ストライクに対して決定打どころか、一撃も加えることが出来ずにいることに恐怖を感じ始めていた。
 そんな恐怖を感じるのか、ストライクはこちらを馬鹿にするようなアクロバティックな機動も見せるようになった。
「ふざけるな!!」
 おちょくられていることに業を煮やしたショーンは、両砲門を連結させようとしたその瞬間、ストライクの両腰のレールガンの砲撃を食らってしまった。
 一撃目は左腕の肘間接部分、もう一撃は砲門の連結部分であった。その一撃のため、両砲門は使用不可になってしまった。
 そのことに驚いたショーンは何とか離脱しようとするも、ストライクはそのようなことを許す慈悲も見せずに接近し、まだ無事だった右腕と右脚を切り裂いたのだった。
「くぅぅ!!」
 その衝撃に苦悶の声を上げると同時に、ショーンは自分の人生がここまでだと諦念の思いをもったのだった。
 そして、ショーンが死と言うものを受け入れようとしたその瞬間、最近聞きなれた人物の声が耳に届いた。
『ケーラーーーーーーー!!』
 ストライクはその声に弾かれるように離脱をすると同時に、先ほどまでいた空間にビームの三連射が通り過ぎたのだった。
 そして、迎撃の構えをとるストライクに向かっていったのは、普段のトリコロールカラーではない、紅い装甲のフォースインパルスであった。
 その腕には、ライフルとテロリスト達が使っていた刀を持っていた。
 そして、その有り余る機動性を活かし、ストライクへと肉薄しようとする姿を眺めながら、ショーンは呟いた。
「…………九死に一生を得る、まさにその通りだ」
 そう呟くと、救難信号を発するようにボタンを押すのだった。
 そんなショーンたちを嘲笑うかのように、ユニウス7は未だにその体を誇示しているのだった。


 突如として現れた暴力的な光の奔流に、シンは何か既視感を感じた。
 それを裏打ちするように、光の根元から現れた機体を見た瞬間、シンは知らずに呟いていた。
「………ケーラ」
 その言葉にどのような思いが込められているのかは、発した本人であるシンもわからなかった。
 だが、言いようの無い感情が胸に湧くのを感じるのだった。
 そんなシンを無視するように、ストライクは、手当たり次第に攻撃を行い始めたのだった。
 そんなことに、シンは驚いてしまった。
 ケーラとはほんの僅かな会話しかしていなかったが、それでも高い知性を持つ人物だと思っていた。そんな人間が、メテオブレイカーを攻撃するとは信じられなかった。
 そして、その行為を見た瞬間、シンは傍に唖然とした状態で浮かんでいたジンH2を蹴り飛ばし、その反動を活かし、ストライクへと向かっていくのだった。
「VPS装甲の設定を変更!ソード用に切り替えだ!!」
『なぜだ?』
「ガンバレルの最大の弱点は、懐に入れば使えないって言うところだ!そこを突くためには、少しでも防御力が上がっている方が接近しやすい!!」
『了解』
 そうインフィニ説明すると、機体の色が青から赤へと変わっていくのだった。
 さらに加速を始めたインパルスの目に、ストライクが一機のゲイツを攻撃しようとする場面が目に付いた。
 それを見た瞬間、シンは全周波数で回線を開き、相手の意識をこちらに向けるために名前を叫び、攻撃を放つのだった。
「ケーラーーーーーーー!!」
 その行為が成功したのか、ストライクはゲイツから離れた。
 その後をシンは追うように、スラスターの出力を全開にするのだった。
「何で邪魔をする!!ケーラーーーーーー!!」
 右手に握っていた斬機刀を投げはなつと同時に、ビームサーベルを構えて斬りかかった。
『邪魔?邪魔じゃないさ。これが与えられた今回の任務なんでね!』
 その声に、ケーラは神経を逆なでするような声音でそう答えながら、同じくサーベルで切り払ってきたのだった。


 ユニウス7は未だにその様相を変えることは無かった。


―中書き―
 お久しぶりです。ANDYです。
 例のあれに出発する前に、書き上げることが出来ていた分だけ投稿させていただきます。
 今回は戦闘シーンがかなり多く難産でした。
 アイデアはポロポロ出るのに、それを文章化しようとすると中々出来ずに、時間ばかり掛かってしまいました。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 サトーさんの目的や思いは私のオリジナルでしたが、どうだったでしょう。
 共感できるけど賛同できない、と思っていただければよいのですが。
 今回の投稿で、しばらく投稿できないと思います。
 前回も報告したように、しばらく日本を出て中東のほうへと勉強に行ってきます。
 次に投稿できるとしたら、七月の終わりぐらいかもしれません。
 向こうで何を感じることが出来るか、まだわかりませんが、全力で学んでこようと思います。
 そして、向こうで学んだことをこの作品で生かせるようになればよいのですが。
 では、皆様、しばしのお別れでございます。
 もしかしたら、帰国の報告だけはすぐに短編か何かの形で投稿するかもしれません。
 それまでしばしのお別れです。
 では。


追伸:今回はレス返しを休ませていただきます。まことにすみません。

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