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「これが私の生きる道!運命編7新しき剣編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-18 00:15/2006-06-21 18:52)
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(一月十六日、カーペンタリア基地内の食堂内)

昨日の深夜にカーペンタリア基地に寄港した俺達
は、とりあえず睡眠を取ってから、基地司令との
面会を果たす事になっていた。
早朝の食堂内では、夜勤任務を終えた者や、これ
から任務に就く者達でごった返していたので、新
参者の俺達は、端っこで静かに朝食を取る事にし
たのだが、メニューを選ぶのが面倒くさかったの
で、全員がトーストとサラダとスクランブルエッ
グで統一したのに、シンは相変わらずの量を盛り
上げて、美味しそうに食べていた。

 「新型機ですか?」

シンは大量の飯を喰らいつつも、新型機の情報に
興味があるらしく、俺に質問をしてきた。

 「そうだ。噂では五機あるそうだ。俺達に全部
  がまわされるかは不明だが、最低でも二〜三
  機はまわってくるだろうな」

 「パイロットは考えているのですか?」

 「ああ、考えてるよ」

 「誰なんですか?」

 「内緒」

 「教えてくれてもいいじゃないですか」

 「実際に見てみないとわからないんだよ。機体
  の特徴とかで候補を変える予定だから」

 「見てからのお楽しみですか」

 「そういう事だ」

実際に何機がまわってくるかも不明だし、どんな
機体かもわからないので、現物を見てからの方が
良いのだが、シンとレイを最大の候補にあげてい
る事は事実であった。
現実問題として、「インパルス」と「カオス」が
、二人の反応速度に付いていけなくなっていたの
だ。
十六歳で伸び盛りの若者達は、短期間に恐ろしい
までの成長を遂げていて、あと二年もしたら、俺
ではシンとレイに勝てなくなるだろう。
もうすでに、アスランやディアッカにも、純粋な
反応速度では勝てなくなっている自分が存在して
いたのだ。
まだ、模擬戦をすれば辛うじて勝てるのだが、そ
れは、今までに培った経験がものを言っているに
過ぎず、それもアスラン達が熟練の域に達すれば
、追いつかれてしまうだろう。
更にSEEDを発動されてしまったら、絶対に勝
利は不可能であった。
戦術的にや戦略的には対応可能だが、一対一で戦
いを挑まれたら、倒されないように逃げ回るのが
精一杯であろうと思われる。
俺のパイロットとしての寿命はあと十年弱残って
はいるが、一パイロットとしての能力は落ち続け
るか現状維持で、指揮官として部下の統率にあた
る戦いが、今後の主流になると思われた。
この動乱が、モビルスーツに乗って最前線に乗り
込む戦いをする、最後の機会になるだろう。
そして、数年後にはアスラン達も同じ運命を辿り
、シン達やその下の年齢の若いパイロット達に前
線を譲る事になるであろう。
悲しい事だが、それは仕方がない事であった。
そう思うと、三十歳でバリバリの現役を維持して
いるクルーゼ司令と、「ゴンドワナ」モビルスー
ツ部隊隊長であるクリアノス隊長は化物の域に達
していると思われる。
片や「戦うゴリラ」で、片や「出撃魔」である二
人の限界はいつ訪れるのであろうか?
あと数年であろう事は予想できるが、二人が大人
しく戦艦のシートに座って指揮を執る光景が全く
予想できずに、白髪混じりのジイさんになっても
、現役でモビルスーツに乗っているかも知れなか
った。

 「主だった者で挨拶に行くからな。勲章の授与
  もあるらしいから、シャンとしてろよ」

 「えっ!勲章ですか?」

 「申請していた奴だろうな。ネビュラ勲章かど
  うかは知らないが、何かしら貰えるだろう」

 「やったーーー!」

 「そんなに勲章が嬉しいか?俺は重いから嫌い
  だぞ。ネビュラ勲章は別物だけど」

 「俺って、子供の頃からあまり賞状やトロフィ
  ーを貰った経験がないんですよね。マユは、
  絵や作文で良く賞を取っていたのに」

 「あんな酷い報告書を書いている人間が、賞に
  縁があるとは思えない」

 「要点が伝わっていれば良いと思いますが・・
  ・」

 「小学生の作文のような文を書きやがって。(
  今日は、敵を倒しました)とか素で報告書に
  書くな。しかも、手直しを命じたらルナに押
  し付けただろう」

 「俺が自分でやりましたよ」

 「嘘つくな!とにかく、報告書くらいまともに
  書けるようになりやがれ」

 「了解であります!」

 「わかってるのかね・・・」

そんな話をしている間に、ほぼ全員が朝食を食べ
終わって、食後のコーヒーを楽しんでいたが、ル
ナマリア、メイリン、ステラの三人は、机の上に
カードのような物を並べて会話に夢中になってい
た。

 「ステラ、そのカードは何だ?」

 「名刺。オーブで懇親会の時に貰った」

 「懇親会?」

 「アスランさんとカガリ様の結婚式のあとに開
  かれたアレですよ」

 「ああ、あの二次会のか」

メイリンの説明で思い出したが、二人の結婚式に
出られなかった多数の世界各国の若手軍人や政治
家、官僚、経済人などを無下にするのはどうだろ
うか?というミナ様の発案で、明日の世界各国の
要職に就くであろう、彼らを集めて懇親会を開き
、アスランとカガリが顔を出して挨拶をしたので
あった。

 「俺達は忙しかったから参加しなかったけど、
  シン達は出たんだよな」

シン、レイ、ルナマリア、メイリン、ステラが出
席してミナ様に女性比率が多い事をあとで褒めら
れた事を思い出した。
他国の参加者は、圧倒的に野郎ばかりであったか
らだ。

 「それで、名刺ね」

 「ステラ、モテモテでしたよ。沢山の男性にか
  しずかれて、ケーキを取って貰って、お茶を
  注いで貰って」

 「(執事カフェ)?」

国に戻れば期待の若手出世株達である彼らも、若
い女性には弱いらしかった。
どうやら、日頃のプライドを捨てて、ステラを落
しに掛かったらしい。

 「ステラは、天然で守ってあげたくなるタイプ
  じゃないですか。その上、スタイルは良いし
  可愛いし」

 「そうだな。そのギャップに男は萌える。同じ
  男として理解できるな」

 「ですよね」

 「そうだな」

突然、ディアッカとコーウェルが、会話に加わっ
てきて俺に賛同した。

 「メイリンも、沢山名刺を貰えたか?」

 「ステラほどではありませんけど、それなりに
  」

 「ツインテールが萌えるからな。更に髪を下ろ
  しているところを見てしまったら、男はイチ
  コロだな」

 「ですね」

 「俺もそう思う」

 「はあ・・・。そうなんですか」

再び、ディアッカとコーウェルが賛同し、メイリ
ンが「この人達は何を言っているんだろう?」と
いう表情で返事をしていた。

 「ステラは、モルゲンレーテ社常務の義娘だか
  ら、その点も人気の一つだろうけどな。エリ
  ートってのは嫌だねえ」

 「まあ、そう言うなよ。彼らにしてみたら、モ
  ルゲンレーテ社次期社長候補の義娘を嫁にで
  きれば、この上なく有利になれると思ってい
  るのだろうから」

何百年経っても、エリート達の家柄重視のシステ
ムに変更はないらしい。
一般家庭から努力して出世した者達にとって、良
家の娘を嫁に貰ってその家の援助を受ける事は、
更なる出世に繋がり、良家の家のご令息達も、家
の更なる発展を目指して、良縁を探しているのだ
ろう。
ミナ様は合コンのような席を設けて、その橋渡し
をしたと思われる。
だが、車を娘の恋人にねだって買って貰った親父
の援助などたかが知れていると思うのだが、周り
の連中はそうは考えていないようだ。

 「コーウェルは参加しなかったな」

 「リーカさんとデートに出かけてましたよ」

 「おい!ディアッカ!」

 「あれはデートじゃないのよ!お土産を選んで
  貰っただけで・・・」

 「二人っきりでですか?」

 「他に付いてくる人がいなかった」

 「みんな都合が悪くてね」

 「他の誰かを誘わなかったんでしょ?」

 「さて、それはどうかな?」

 「どうかしらね?」

二人にはぐらかされてしまったので、俺はステラ
が貰った名刺を手にとって眺めてみると、オーブ
のみならず、世界各国の若手エリート達の名前が
書かれていた。

 「オーブの大手商社の係長に、参謀本部勤務の
  一尉、財務省の係長に、五大氏族に入ってい
  ない首長家の息子か。他にも、日本の駐在武
  官の一尉と、外務省の二等書記官ね。他の国
  の連中も似たような奴が多いな」

何気なく裏を見ると、プライベートのメールアド
レスと、「ステラさん、今度綺麗な海が見えるレ
ストランでお食事でもいかがですか?」というメ
ッセージが手書きで書かれていて、念のために、
他の名刺を裏返して見ると、「わが国の海はそれ
は綺麗ですよ。今度、是非いらして下さい。お待
ちしています」などと、全ての名刺に手書きで書
かれていた。 

 「大人気だな。ステラは」

 「ステラ、誰か気になった人はいるか?」

 「良く覚えてない。ケーキが美味しかった」

 「駄目だこりゃ」

 「全員、撃沈か。邪念で女を口説くとこんなも
  のかな?」

 「私も印象に残った人はいませんでしたよ」

 「何でだろうね?」

 「カザマ。お前も含めて、俺達は全員エリート
  なんだぞ。最新鋭艦を擁した精鋭部隊の指揮
  官にその部下達。ザフト軍の中でも、成績優
  秀なスペシャリストが集められているんだ。
  あんな並の連中では、メイリンの記憶に残る
  はずがないだろうが」

 「俺ってエリートなの?」

コーウェルが俺をエリート呼ばわりするのだが、
自分では、いまいちピンと来ない。

 「アカデミーを赤服を着て卒業した上に、同期
  で出世頭のお前がエリートでないとしたら、
  どこにエリートが存在するんだよ。しかも、
  ラクス様と結婚しているし」

 「うーん」

 「本当に実感がないのか?」

 「ない!」

 「アホだ。こいつ」

 「アホで悪かったな!お前はどうなんだよ!」

 「同じく赤服を着てエースパイロットとして活
  躍したうえに、財務省の採用試験にも合格し
  て財務官僚になった俺を、エリートと呼ばず 
  に何と呼ぶ!」

 「国民の血税がなんたらとか言って、戦場跡で
  ゴミを拾ったり、備品の無駄遣いがどうとか
  、電気はちゃんと消せとか、水は大切にしろ
  だとか五月蝿い男だ。赤い小役人だな」

 「赤い小役人って言うな!しかも、後ろの二つ
  は言ってない!」

 「お前、暇そうじゃん。エリートって忙しいん
  だろう?」

 「カザマ君、コーウェル君は、オーブでの戦い
  で頑張ったじゃないの。そんな事を言ったら
  可哀想よ」

 「おお!リーカさんの姉さん女房発言か?」

 「さて、どうかしらね?」

 「どうだろうな?」

 「また、はぐらかされた・・・」

 「でも、サイと海の話をしている時は楽しかっ
  た」

ステラの印象に残ったのは、サイだけらしい。
彼は余計な野心がないだけに、普通に話しかけて
きたのであろう。

 「うーん。可能性がありそうなのは、サイくら
  いかな?」

 「ですね」

 「ステラ、その名刺の話を親父にするなよ」

 「どうして?」

 「レイナはキラとあれだし。カナもニコルとア
  レなんだ。ここで、ステラが沢山の男に言い
  寄られた話をしたら、頭の血管が切れてしま
  うぞ」

 「うん。わかった」

 「誰かと付き合いだしたら、俺にだけこっそり
  と教えてくれよ」

 「ヨシヒロにだけ?」

 「母さんとレイナとカナは、すぐに気が付くさ
  。親父は、五月蝿いだけだから放置だ」

 「うん。わかった」

そんな話をしているうちに約束の時間が迫ってき
たので、俺達は、司令官室に行く事にした。
艦の主要メンバーと勲章が授与される人の名簿を
貰っていたので、それらの人達を引き連れて、司
令室のドアをノックする。

 「おお、カザマ司令か。入りたまえ」

 「失礼します」

部屋に入ると、先の大戦の時にスクリーンでのみ
で見た事のある、中年の司令官が俺を出迎えてく
れたのだが、その横にありえない人物が立ってい
た。

 「えーと、野暮用ができたので失礼します」

 「カザマ君、久しぶりなのにつれないな」

 「あの・・・。クルーゼ司令がなぜここに?」

 「転任だ。君達の新型モビルスーツも持ってき
  ているぞ」

 「はあ、そうなんですか」

 「君も聞いていると思うが、ユーラシア連合の
  クーデター政権打倒のために、ザフト軍もカ
  ーペンタリアから潜水艦隊とモビルスーツ隊
  を出す事になったのだ。私は潜水艦隊司令兼
  現地でのザフト軍総司令官の任に就く事にな
  っている」

 「ザフト軍の責任者ですか?」

 「そうだ」

 「本国艦隊の方は大丈夫なんですか?」

 「陽動をかけてきた海賊の討伐はひと段落つい
  た。戦力の回復と再配置もひと段落ついたの
  で、ユウキ総司令が再び指揮を執るそうだ。
  下にアデス副司令とイザークもいるから、心
  配は無用だ」

 「イザークですか?」

 「例のユニウスセブンの事件のあとに落ち込ん
  でいたから、下に置いてモビルスーツ隊の指
  揮を任せていたのだ。始めは元気のなかった  
  イザークも、最近では大きな声をあげられる
  までに回復してな。エザリア国防委員長が、
  (クルーゼ司令のおかげで、イザークは元気
  になりました。お礼を兼ねて、地球で大暴れ
  して下さい)と仰って下さったのだ」

 「おい、それって」

 「しっ!」

小声で何かを言おうとしたコーウェルを制しつつ
も、簡単に事情が理解できてしまった。
多分、イザークはクルーゼ司令の暴走に巻き込ま
れて悲鳴をあげていたのであろう。
そして、アデス副司令のように、胃を悪くでもし
たら大変だと思ったエザリア国防委員長が、己の
権力を使って息子から遠ざけたものと思われる。
表面上は栄転に近いものだし、モビルスーツで思
うがままに戦えるクルーゼ司令に、不満など存在
しないのであろう。

 「あの。それは良いのですが、総司令官なら幕
  僚がいると思うのですが、どこにいるのです
  か?」

 「私一人での着任だ」

 「アデス副司令を引き抜かなかったのですか?
  」

 「アデス副司令が、(私は宇宙戦闘が専門で、
  地上ではクルーゼ司令の足を引っ張ってしま
  います。ここは、経験豊富なカザマ司令にお
  願いしてはいかがでしょうか?)と忠告して
  くれたので、それに従う事にしたのだ」

 「はあ・・・(謀られた!)」

アデス副司令は自身の胃袋を守るために、俺を犠
牲にしたらしい。
そして、今頃はイザークと安堵の表情を浮かべて
いるのであろう。

 「潜水艦隊の指揮は、ベテランのバルトス司令
  に一任して、私は(ミネルバ)から全モビル
  スーツ隊を統率する事にする。地上軍の方は
  、バルトフェルト司令を副総司令に任命して
  任せるさ。性格はともかく、能力はある男だ
  からな」

二人の仲の悪さは相変わらずのようだが、お互い
の能力は認め合っているみたいなので、責任を分
担して事態に対応する事にしたらしい。
ビクトリア基地を出発して、アフリカ共同体とマ
ダガスカル共和国の軍勢と共同して、リビアとエ
ジプトの国境から侵攻するバルトフェルト司令と
、各国の艦隊と共同して紅海から侵攻してスエズ
を陥落させる我々とでは、指揮の統一が難しいの
で妥当な意見だと思える。

 「カザマ君は、私の補佐をしてくれれば良い。
  期待しているぞ」

 「お任せ下さい」

それはつまり、「私は突撃するので、あとの事は
任せたぞ」という事を意味していた。
付き合いが長いので、全てがわかってしまう自分
が少し悲しかったが、仕事だと思って割り切る事
にする。

 「ですが、乱戦になると思われますので一人で
  は危険です。シン達を預けますので、思う存
  分使ってください。まだ未熟な点はあると思  
  われますが、現地に到着するまでに鍛えてい
  ただければ光栄です。派遣艦隊の雑務は、私
  とコーウェルとアーサー副司令で行います」

 「そうか。そちらの方が都合が良いかな」

俺は最高速度で計算を行って、自身の精神を保つ
方法を考え出す事に成功していた。
アデス副司令やイザークのように、まともに考え
ると精神をやられるので、お任せして補佐に徹す
るのが賢いやり方であり、俺の意見にアーサーさ
んとコーウェルは不満げな表情を浮かべたが、あ
と数日もすれば、俺に感謝するようになるだろう

そして、シン達は生存率をあげるために、思う存
分鍛えて貰えば良いのだ。
シンはバカだから気が付かないと思うし、レイは
顔見知りらしいので大丈夫だろうし、ステラは天
然なので気が付かないと思われるし、ルナマリア
も結構いい性格をしているので大丈夫だと思われ
た。
本当にそうかはわからないが、そう思う事にした
のだ。

 「さて、エザリア国防委員長から勲章を預かっ
  て来たので、授与式を行うとするかな。今は
  こんな状態なので、あとで正式な授与式を行
  うらしいが」

そう言いながら、クルーゼ司令が預かってきた勲
章を取り出した。

 「まずは、カザマ司令にネビュラ勲章を授与す
  るものとする」

 「俺がですか?申請していませんが」

 「君達の部隊は観艦式襲撃事件以来、各地で活
  躍していたからな。ここ数ヶ月で、これほど
  の敵を撃破した部隊は、ザフト軍に存在しな
  いのだよ。だから、指揮官の君にネビュラ勲
  章の授与が決まったのだ」

 「ありがたく頂戴しますよ」

俺は、勲章の類は基本的に重くて嫌なのだが、こ
のネビュラ勲章だけは別物と捉えていた。
理由を聞かれると困ってしまうのだが、前回貰っ
た時に、大感動した気持ちが忘れられなかったの
だろう。

 「ちなみに、ミゲルとハイネとグリアノス隊長
  と他数人が貰っているから、多少、ありがた
  みが薄れたかも知れないな」

 「何気に失礼な事を言ってますね」

 「ネビュラ勲章の性格が変わってしまったのだ
  。これからは、大きな戦乱は起こらないであ
  ろうとの観点から、審査基準を敵の多数撃破
  の他に、ザフト軍に貢献した人物と世界の安
  定に活躍した人物という曖昧な基準が加わっ
  たらしい。更に、対象者も艦船の指揮官や補
  給担当者などにも広げたようだ」

 「なるほど。そうですか」

 「そこでだ。アーサー副司令、君にネビュラ勲
  章を授与する。理由はカザマ司令に代わって
  (ミネルバ)の指揮を見事に執った事を考慮
  されてだ」

 「あっ、ありがとうございます!」

アーサーさんは、予想外の出来事に声を裏返しな
がら、勲章を受け取っていた。

 「次は、ディアッカ・エルスマン、シン・アス
  カ、ルナマリア・ホークにネビュラ勲章を授
  与する」

 「「「ありがとうございます」」」

この三人は俺が申請を出していたので、順当な結
果であると言えた。

 「うーーーん」

 「どうした?ディアッカ」

 「嬉しいんですけど、イザークに何を言われる
  か・・・」

最近、表面上は元気になってきたディアッカが、
奇妙な心配をしていた。

 「イザークは貰えなかったんですか?」

 「規定にわずかに届かずに、他の勲章が授与さ
  れた」

 「大丈夫だよ。イザークが張り合っていたのは
  アスランだけじゃないか」

 「本当ですか?」

 「多分・・・」

イザークは、以前ほどではないがプライドが高い
事は事実であり、ディアッカもその事を心配して
いるようだ。

 「これで、ネビュラ勲章は最後になるな。マッ
  ド・エイブス班長、君にここ数年の実績を評
  価してネビュラ勲章を授与する」

 「えっ、私がですか?」

 「アマルフィー技術委員長から申請があがって
  いて、議会がそれを承認した。遠慮なく受け
  取ってくれ」

 「ありがとうございます」

 「おめでとうございます」

 「ありがとう。カザマ司令」

日頃は目立たないが、俺にとってエイブス班長は
得難い人物であり、カザマ部隊の影の功労者であ
った。
先の大戦時に、未熟な整備兵が整備した「ジン」
でヒヤっとさせられたり、死にかけた事もある俺
にとって、「アークエンジェル」と「G」を大し
た不都合もなく維持したエイブス班長は信頼すべ
き人物であり、「ミネルバ」と新型機部隊を任さ
れた時に、整備責任者の一番の候補にあげたのは
彼であった。
彼はモビルスーツの整備のみでなく、技術的な事
にも詳しく、稼働率をあげたり整備性を上げる細
かな改良等を常に行って、それをレポートとして
上にあげていたので、アマルフィー委員長は、技
術者の独りよがりを解決してくれる人物として、
かなり頼りにしているようであった。
更に、部下を育てる能力にも長けた人であったの
で、彼の指導を受けた部下達は各地で活躍をして
いて、本当はアカデミーの教官として転任する予
定だったものを、新型機の、特に「インパルス」
に不安を覚えた俺が、かなり強引に引き抜いてい
たのだ。
昔の俺は、他の整備兵が整備した機体なら主要部
分に必ずチェックを入れていたのだが、エイブス
班長の整備した機体ではOSのチェックしかした
事がなかった。
「彼の整備にミスなどありえない」俺はそう考え
ていたからだ。

 「次に、レイ・デュランダルとステラ・カザマ
  とリーカ・シェダーに・・・」

結局、レイとステラはネビュラ勲章に届かなかっ
たようで他の勲章を貰っていたが、戦死したパイ
ロット達にも勲章が出ていて、リーカさんがシエ
ロやテルの分を貰っていた。
死んだ人間に勲章など無意味かも知れないが、何
もないよりはマシだと俺は思っていた。

 「家族や恋人に、お土産と一緒に送ってあげな
  いとね」

 「手紙を書いたので一緒にお願いします」

 「噂通りに律儀なのね」

 「習慣ですよ」

 「さて、勲章の授与も終えたし、新型モビルス
  ーツを見に行こうか」

俺とリーカさんの静かな雰囲気の会話を打ち破る
かのように、クルーゼ司令が場所の移動を宣言し
た。

 「新型機ですか?」

この人は基本的にゴーイングマイウェイなので、
素直に話に乗っておく事にする。  

 「五機全部が(ミネルバ)で運用されるのだ」

 「そいつは景気が良い話ですね。エイブス班長
  、大丈夫ですか?」

 「見てから判断させて貰いますよ」

 「そうですか」

 「では、出発だ!」

クルーゼ司令は、俺達を引きずるような勢いで、
特別格納庫に向けて歩き出していた。
司令官室を出るときに、クルーゼ司令の勢いに押
されて存在感が希薄だった基地司令の顔が安堵の
表情をしていたのは、いつのも事なので気になら
なかった。
どうやら、俺は完全に麻痺しているらしかった。


 「ここが新型機の置き場所だ。早速、入る事に
  しよう」

クルーゼ司令の案内である格納庫の前に到着した
のだが、入口に数人の歩哨が立っていて、警備は
厳重なようであった。

 「ご苦労」

クルーゼ司令が歩哨に声を掛けると顔見知りなの
か、すぐに横にどいて扉のスイッチを入れる。
電動の扉が開いてからクルーゼ司令が中に入って
行き、俺達も敬礼をしながらそれに付いて行った

 「この格納庫の中のモビルスーツは、全てが新
  型機で本国から輸送されてきたものだ。今ま
  では、海賊の跳梁で輸送できなかったのだが
  、昨日、ようやくここまで運び込めてな。ス
  エズ派遣艦隊の旧式機と交換する予定だ」

格納庫内には、「アビス」が数機と「バビ」「ア
ッシュ」「ザクウォーリア」「ザクファントム」
「グフ」が合わせて数十機も見えた。

 「すごい数ですね」

 「(アビス)は指揮官機として、(アッシュ)
  は(グーン)と(バビ)は(ディン)と(ザ
  ク)や(グフ)は(ジン)(シグー)(ゲイ
  ツ)と交換する予定になっている。交換した
  旧式機は、予備機になるかアフリカ共同体と
  イスラム連合に売却される予定だ。まあ、売
  却とは言っても、格安なので譲渡に近い形だ
  な」

ユーラシア連合軍にスエズを奇襲されて、構成国
が数ヵ国占領下にあるイスラム連合と、構成国内
で内乱が多発しているうえに、国境で小競り合い
を続けているアフリカ共同体は、失ったモビルス
ーツを完全に補充する事が不可能だったので、こ
のような援助が行われていた。
各国の援助で、何割かの部品の工場と組み立て工
場は稼動していたのだが、生産数がまだ少なく、
自国で作れない部品も多数あったので、急激な損
失を埋められないでいた。
そこで、大西洋連邦や日本、プラント、オーブが
援助を行っていたのだ。

 「そして、新型機はここにある」

新型機は一番奥に置かれているのだが、三機ほど
見覚えのある機体があった。 

 「五機中四機が(G)ですか」

 「(G)は高性能機の象徴みたいなものだから
  な。まず一機目は(ディスティニー)という
  機体だ」

 「頭部に機銃があるのは基本ですね。両腕に光
  波シールドと通常のシールドが装備されてい
  て、肩にはビームブーメランですか?」 

 「ビームブーメランは、ビームソードとしても
  使用可能だ」

 「両手の手の平の発射口は、ビーム砲ですか?  
  」

 「短距離ビーム砲を装備している」

 「そして、背中に長距離ビーム砲と大型ビーム
  ソードが装備されていて、腰の後ろにもビー
  ムライフルですか。エネルギーをバカ食いし
  て、稼働時間が短そうですね」

 「実は(G)四機は、核動力が前提の機体だっ
  たのだが、条約で禁止されているからな。更
  に(ディスティニー)に至っては、ミラージ
  ュコロイドすら装備される予定だったのだよ
  。背中のスラスターから放射してジャミング
  効果を持たせる予定だったのだが、取り外し
  てしまった」

 「つまり、あの背中のごちゃごちゃした部分は
  ?」

 「ただのスラスターになってしまった」

 「つまりエネルギーをバカ食いする、高性能な
  だけの新型機って事ですか?」

 「使いこなせれば、単純な機体だけに最強とも
  言えるがな」

 「運用が難しいですよ。稼働時間が短いのでし
  ょう?」

 「実は、君にはまだ話していなかったのだが、
  (ミネルバ)の修理と平行してデュートリオ
  ン照射装置の増設工事を行っている。これで
  、三機同時のエネルギー補給が行えるから、
  多少はマシになると思う」

 「そういう事はもっと早く話して下さいよ」

 「運用方法としては、アフリカで頑張っている
  (ミネルバ)級二番艦(ヴィーナス)とコン
  ビを組んで、最前線で敵の戦線に穴を開ける
  事が任務になるだろうな」

「ミネルバ」級二番艦「ヴィーナス」は、正式に
は「改ミネルバ」級戦艦と呼称されるもので、「
インパルス」の発進装置を持っていなかったが、
始めから三基のデュートリオンビーム発射装置を
装備していると聞いた事があった。

 「俺もそろそろロートルなのに、きつい任務で
  すね」

 「私よりも八歳も若い君が、そんな事を言うの
  か?」

 「もう二年もしたら、シン達に勝てなくなりま
  すよ」

 「本当にそうかな?では、次の機体を紹介しよ
  う。これは、量子通信システムを利用したハ
  イドラグーンを装備した(レジェンド)とい
  う機体だ」

 「(プロヴィデンス)に似てますね」

 「後継機だからな。ちなみに、背中のハイドラ
  グーンは、上部の大型の二基がビームスパイ
  クを装備していて近接戦闘も可能になってい
  るうえに、小型の八基と合わせて固定ビーム
  砲としても使用可能になっている。ハイドラ
  グーンは、大気圏では使用不能だったのだが
  、例の敵の装備の解析で使用可能になった」

 「仕様書を今見ていますが、ハイドラグーンへ
  の推進剤供給装置の整備がやっかいです」

エイブス班長が、手持ちの端末で「レジェンド」
のデータを見ながら、整備面での欠点を述べた。

 「そうか。困ったものだな」

 「何とかやってみますよ」

 「お願いしますね」

 「次は(スーパーフリーダム)と(ナイトジャ
  スティス)だ」

 「ぶっちゃけ、(フリーダム)と(ジャスティ
  ス)の後継機ですよね?」

 「ぶっちゃけるとそうだ。(スーパーフリーダ
  ム)には、ハイドラグーンが装備されている
  が、(ナイトジャスティス)にそれほど大き
  な違いはないな」

 「両機とも難物ですね。(スーパーフリーダム
  )はハイドラグーンと多数の砲等が、(ナイ
  トジャスティス)は背中の(ファントム01
  )の整備がやっかいです。でも、核動力でな
  いだけマシですけど」

 「最後の一機は(G)ではありませんね」

そのモビルスーツは、両腕に三角形の厚みを持っ
たシールドが装着されていて、シールドの先端か
ら二門の砲口が飛び出していた。

 「何とも不思議なモビルスーツで・・・」

 「変型モビルスーツで、(ムラサメ)と(ハヤ
  テ)を圧倒する新型量産機の試作機という話
  だ。先のオノゴロ島決戦でシン・アスカ君が
  乗っていた(シップウ)を参考にムーバブル
  システムを採用していて、MA体型時に腕だ
  けを動かしたり、足だけを展開させてガウォ
  ーク体型を取る事が出来るらしい。腕のムー
  バブルフレームも自在に動かせるそうだ」

 「ガウォーク体型ですか。マニアックな単語を
  知ってますね」

 「武装はムーバブルシールドの先端にビーム砲
  と105mmレールガンが一門ずつ搭載され
  ているので、左右で二門ずつと腹部にビーム
  砲を装備している。あとは、ビームサーベル
  が二本でこれは連結が可能らしいな」

 「防御が弱くありませんか?」

 「ムーバブルフレームには(ゲシュマイディッ
  ヒ・パンツァー)が装備されていて、それが
  壊れても対ビームコーティング装甲とVフェ
  イズシフト装甲が装備されている。三重の防
  御で安心だろう?」

 「(安心だろう?)と聞くと言う事は私専用で
  すか?」

 「そうだ。機動性はMA体型になればナンバー
  ワンだし、通信機器は強化されているし、稼
  働時間が一番長いのだ。指揮を執るにはうっ
  てつけだな」

 「それで、この機体の名前は何ですか?」

 「(ギャプラン)というらしい」

 「わかりました。エイブス班長、どうですか?
  」

 「四機の整備性は最悪ですが、このモビルスー 
  ツは大丈夫そうですね。変型機は慣れてきま
  したから」

やはり、整備班長をエイブスさんにして正解だっ
たようだ。
他のおかしな人に任せて、「稼働率が悪くて半分
しか出撃できません」とか言われたら大変な事に
なってしまうからだ。

 「クルーゼ司令、整備兵の増員はできますか?
  」

 「可能だ」

 「では、お願いします。運用方法とパイロット
  を発表する。(ディスティニー)はシン、(
  レジェンド)はレイ、(ナイトジャスティス
  )はディアッカ、(スーパーフリーダム)は
  クルーゼ司令にお願いします。残りの機体は
  、(セイバー)はリーカさん、(インパルス
  )はステラに任せる事にする」

 「カザマ君、(ガイア)はどうするのかね?」

 「実は、バルトフェルト司令に譲渡する事がい
  つの間にか決まっていまして、昨日の内に運
  び出されてしまいました」

 「あの男に必要な機械は、コーヒーメーカーだ
  けだと思っていたがな」

 「(ガイア)は飛べませんからね。戦力ダウン
  にはなりませんよ」

 「まあ、仕方がないか。副総司令が、古いモビ
  ルスーツに乗っているというのも何だしな」

 「確か(ラゴゥ)でしたっけ?」

 「噂によると、一緒に乗っていた副官がお休み
  中で、仕方がなく(バクゥ)に乗っているら
  しい」

 「アイシャさんがですか?」

 「産休を取っているらしい。それで、急遽(ガ
  イア)が必要になったらしい。公私混同も甚
  だしいな」

 「何だ。知ってるじゃないですか。相変わらず
  情報が早いですね」

 「まあな」

公私混同という点では、クルーゼ司令も同じよう
な気がしたが、それを口に出さないのが大人とい
うものだ。

 「クルーゼ司令にシン、レイ、ステラ、ルナを
  任せますよ。俺とディアッカとリーカさんで
  、全体の指揮を執ります」

 「そうかね。悪いな」

 「俺達って、クルーゼ司令の指揮で戦うんです
  か?」

 「そうだ。お前達は俺が教官を務め、部下とし
  て使ってきたからな。たまには、違う指揮官
  の命令で戦う事も良い経験になるだろう」

 「それもそうですね」

シンは基本的に単純でバカなので、俺の言う事を
素直に受け取ったようだ。
クルーゼ司令は好きにさせておくに限る。
それが、ここ数年で会得したクルーゼ司令の暴走
対策であった。
俺が視線をディアッカとリーカさんに向けると、
二人は事情を察していたので、即座に賛同の表情
をしてくれた。

 「五機で手強そうな敵の抵抗を排除して、その
  あとをカザマ君指揮のモビルスーツ隊で突撃
  させれば勝利は容易いな」

 「(はりま)(すおう)(アマテラス)もいま
  すからね。精々派手にやりましょうかね」

 「そうだな。これで、暫らくは大きな戦乱は起
  こらないからな」

 「エミリアが根こそぎ集めて、俺達で倒します
  からね。案外それが目的だっりして」

 「まさかな。ありえないな」

 「そうですよね」 

そんな話をしている間に、時間は簡単に夕方にな
ってしまい、多少の事務仕事を行ってから今日の
仕事は終了したのであった。


 「さあて、いくら入っているのかな?」

ザフト軍の給料は、十五日締めの十五日支給とい
うありえないシステムになっていて、どうやって
査定をしているのか不思議でたまらなかったが、
出来高払いの短期集中コースを卒業して、実戦に
出ていた連中も正式に任官するか、予備役に編入
されて民間人になってしまったので、給料にそれ
ほどの差はなくなっていた。
俺は、指揮官としての給料の他に結婚していたの
で、扶養家族手当が付いて結構な金額になってい
た。
出生率の低下に悩むプラントでは、独身者の社会
的地位が低く見られる傾向があって、いい歳をし
て独り者の人は同じ仕事をしていても待遇面で損
をするシステムになっていた。
更に子供が生まれると、かなりの金額の養育手当
てが付いて来るので、その差が広がる傾向になっ
ていたのだ。
「子供は宝」これがプラントの基本姿勢である。
あと一ヶ月もすると、俺も双子の父親になるので
、かなりの額の養育手当てが付く事になっていた

同期で結婚もしていないハイネやコーウェルに比
べると格段の待遇の差で、同じ命を張るにもやり
がいが出てくるというものだ。
ちなみに、以前ラクスに「給料をいくらか入れよ
うか?」と相談した事があるのだが、「ヨシヒロ
は司令官格で、後輩に見栄を張らなければいけな
い時もあるのですから、気にしないで下さい」と
言われ、自分の妻の可愛さに感動してしまったの
だが、冷静に考えると、プラントでも有数の資産
家であるクライン家の財産に比べたら、俺の給料
なんて小銭以下の金額でしかないのだ。
俺の給料なんかなくても生活が十分に成り立つわ
けで、結婚記念日と誕生日のプレゼントや、デー
トに出かけた時の資金を出すくらいで、俺の給料
全部小遣い生活は、はや三年目に突入していた。

 「さあて、いくらかな」

俺はカーペンタリア基地内のATMで残高照会を
すると、いつもより多額の金額が入っていた。

 「あれ?何でこんなに?」

端末を操作して内訳を見ると、いつもの給料の他
に「出産準備費用」の名目でいくらかの金額が振
り込まれていた。

 「ああ、そう言えばそんな手当てがあるって話
  を聞いた事があったな」

その時にラクスにどうしようかと聞いたのだが、
「ご自由に使って下さい」と言われた記憶がある
ので、素直に頂戴する事にした。

 「次は、(レース配当金)?ああ!シン争奪レ
  ースのか!」

シン争奪戦レースは、ふざけた事を真面目にやる
というコンセプトで、多数の人が参加して社会的
地位の高い人が高い金額を賭けていたので、かな
りの配当金になるはずなのだが、予想よりもかな
り低い金額しか振り込まれていなかった。

 「四万5千アースダラーか。意外と少ないな?
  どうしてなんだろう?」

 「理由を教えてあげようか?」

 「クルーゼ司令ですか?いきなり後ろに立たな
  いで下さいよ。心臓に悪いですよ」

 「理由を知りたくないかね?」

 「知りたいです」

 「では、付いてきたまえ」

俺はクルーゼ司令の後ろを付いて行く事にした。


 「では、まず乾杯だな」

 「あの、なぜに乾杯なんですか?」

 「クルーゼ隊の同窓会を兼ねてだ」

 「二人しかいませんけど・・・」

俺はクルーゼ司令にバーに連れてこられて、乾杯
をしたのはいいのだが、彼は物凄く高い酒を注文
していた。
クルーゼ司令の奥さんの尻に敷かれっぷりはザフ
ト軍でも有名で、小遣いに不自由している彼がこ
んなに高い酒を頼んでも大丈夫なのかと心配して
しまう。

 「あの、小遣いは大丈夫なのですか?」

 「全く心配ない」

 「それは凄いですね」

 「なぜなら、カザマ君の奢りだからだ」

 「サラリととんでもない事を言ってますね」

 「賭けに勝った君は大金を所持しているはずだ
  。一方、私は今月はコーヒー一杯すら飲めな
  い悲惨な状態だ。イスラムの世界では、貧し
  い者に金を持っているものが金を恵む習慣が
  あるそうではないか。そこで、いきなり現金
  では気が引けるので、奢って貰う事にしたの
  だよ」

 「本当に気が引けてます?」

 「一応、言ってみただけだ」

 「・・・・・・・・・」

 「それで、賭け金が少ないわけはだな」

 「わけは?」

 「ブルゴーニュ産の42年ものの赤が飲みたい
  な」

 「わかりましたよ!」

俺が高いワインを瓶ごと注文すると、クルーゼ司
令は遠慮なくグラスに注いで飲み始めた。

 「やはり美味しいな。雨上がりの草原を若い少
  女が駆け抜けていく感じの味だな」

クルーゼ司令はわけのわからない評価をしながら
、美味しそうにワインを飲み干していた。

 「俺には美味しいか、不味いかでしか判断が付
  きません」

 「日々、勉強だよ。カザマ君」

 「それで、どうして配当金が少ないのですか?
  」

 「理由は簡単だ。ビックリ要素で第二次募集を
  掛けたのを覚えているか?」

 「ええ」

 「それに、タリアが3000アースダラーを賭
  けていてな。君の三倍の配当金をせしめたわ
  けだ」

 「タリアさん、お金を持っているじゃありませ
  んか」

 「働かずに給料を貰える身分だからな」

全部で三人の子供を生んだタリアさんは、長期の
産休と育休を取っていたのだが、国の研究機関が
出生率上昇の研究をするための研究協力を要請し
たために、彼女は働かずに食える身分になってい
た。
戦場に出て戦死でもされたら研究対象がいなくな
ってしまうので、職場復帰の話は立ち消えになっ
て、週に二〜三回検査を受けるだけでザフト軍の
給料が貰えるようになっていたのだ。
この時代、男女の給料格差はなく、結婚していて
レイを除いても、三人の子供がいるタリア艦長の
給料は、戦場で命を張っている俺達よりも高給だ
った。

 「タリアさんにしてやられた!勝負強い人だな
  」

 「だが、君が大金をせしめた事実に変わりはな
  い。次は、この幻の芋焼酎を飲みたいのだが
  ・・・」

 「500アースダラーの焼酎を、気軽に頼まな
  いで下さいよ」

 「おお!いいところに来てくれた。シン・アス
  カ君、ルナマリア・ホーク君」

 「げっ!シンとルナか!」

バーの入口にはシンとルナマリアが立っていて、
クルーゼ司令がおいでおいでをしていた。

 「あれ?クルーゼ司令とヨシヒロさんだ。何を
  しているのですか?」

 「カザマ君の奢りで、酒を飲んでいたところだ
  」

 「普通は、年上のクルーゼ司令が奢るのではあ
  りませんか?」

 「シン・アスカ君。物事を一方的に考えるのは
  よくないな。確かに、私は年上で結婚してい
  て子供もいる存在なので、給料は多く貰って
  はいる。だが、奥さんに取り上げられて、少
  ない小遣いでやりくりしている身分だ。一方
  、カザマ君は結婚してはいるが、奥方はプラ
  ントでも有数の資産家であるクライン家の一
  人娘だ。家に金など入れないで給料全額が小
  遣いという許しがたき存在なのだ。そこで、
  私がその不公平を是正すべく、高い酒を飲ん
  でいるのだよ」

多少酒が入って酔っ払っているクルーゼ司令が、
おかしな理屈を並べ立てながら、バーテンダーが
持って来た芋焼酎をコップに注ぎ始めた。

 「もう頼んだのですか?」

 「さあ、みんなで乾杯だ」

 「私達もよろしいのですか?」

 「何しろ今日の原資は君達の・・・」

 「わーーー!乾杯しましょう!」

 「そうだな」

 「「「「乾杯!」」」」

俺はクルーゼ司令にしてやられてしまった。
あの計算高いクルーゼ司令が、賭けの事を漏らす
はずかないのだ。
きっと、仮面の下ではほくそえんでいると思われ
る。

 「お前達はデートか?」

 「ええ、酒でも飲もうかと思いまして」

 「そうか。まあ飲めや」

 「「ありがとうございます」」

 「ありがとうございま〜す」

 「悪いわね。カザマ君」

いつの間にか、空のグラスを持ったリーカさんと
コーウェルが自分の分の焼酎を注いでいた。

 「コーウェル!猫なで声で(ありがとうござい
  ま〜す)なんて言うな!気色悪いわ!リーカ
  さんは、どうしてここに?」

 「給料日だから飲んでいる」

 「コーウェル君の付き添い」

 「それで、俺にたかるの?」

 「俺はクルーゼ司令の言葉に感動した。お前は
  恵まれ過ぎているから、天罰を喰らいやがれ
  。俺は(美少年)の大吟醸を瓶ごとね」

 「そうね。羨ましい境遇よね。私は、五十年熟
  成の特製ウィスキーをお願い」

 「さりげなく高いものを頼まないでくれ!生ま
  れてくる子供のミルク代が・・・」

 「そんなものを出しているとは思えないぞ」

 「今日はとことん飲みまくるぞ!カザマの奢り
  で」

 「えへへ、ご馳走様です」

 「悪いわね。これも運命よ」

 「少しは遠慮しやがれ!」

俺の絶叫をよそに、クルーゼ司令達は高級な酒を
ガブ飲みして、俺の給料は一晩で消滅したのであ
った。
そして、翌日・・・。

 「新生クルーゼ隊の諸君!では、早速訓練開始
  だ!」

 「「「「おーーー!」」」」

翌日、クルーゼ司令達は二日酔い一つしないで、
元気に訓練を開始した。

 「・・・・・・・・・」

 「さーて、(セイバー)の慣らし操縦でもしよ
  うかしら」

 「今日は、(ザクウォーリア)で軽く訓練して
  、午後は書類整理だな。スエズ派遣艦隊全体
  の事務仕事とは、俺のスキルを生かせる天職
  だ」

クルーゼ司令は、シン達の訓練に没頭する事を宣
言して、派遣艦隊全体の業務を俺達に任せきりに
していた。
別にその事に文句はなかったが、あれだけの酒を
飲みまくって、二日酔いの人間が一人もいない事
の方が悲しかった。

 「何で二日酔いの人間が一人もいないんだよ!
  」

 「高い酒って最高だな。二日酔いしないから」

 「カザマ君、また奢ってね」

 「そう何度も奢れません!」

結局、シン争奪レースの配当金はクルーゼ司令の
陰謀なのか、ほぼ全額が飲み代に消えてしまった
事を記しておく。

 「タリアさんにも、たかって下さいよ!」

 「カザマ君、私が今まで生き残ってこれたのは
  、(君子危うきに近寄らず)を実践したから
  なのだよ」

 「カザマ、俺にそんなおっかない事はできない
  」

 「レイの母ちゃんは怖いですから」

 「よく知らない人だから」

こうして、カーペンタリア基地の日々は過ぎてい
くのであった。


(一月二十二日午前九時、カーペンタリア基地内
 )

 「新生クルーゼ隊の諸君!今日も張り切ってい
  くぞ!」

 「「「「おーーー!」」」」

新型モビルスーツで訓練を開始してから五日。
明日は艦隊を出撃させて、オーブ艦隊との合流を
目指す予定になっていた。

 「新型機の訓練は大丈夫なのかね?」

潜水艦隊を指揮するバルトス司令が心配になった
らしく、幕僚を連れて俺達の様子を見に来ていた

クルーゼ司令は、スエズ派遣艦隊の総司令官なの
だが、シン達の訓練に没頭して派遣艦隊の業務は
俺とアーサーさんとコーウェルが取り仕切ってい
たので、余計に心配だったのだろう。

 「モビルスーツに関しては、一流の能力を持つ
  方ですから大丈夫ですよ」

実は、シン達の仕上がりを全く確認していなかっ
たので、多少不安な点はあるのだが、そう答えて
おかないと、バルトス司令が胃を痛めてしまう可
能性があったのだ。
バルトス司令は優秀な指揮官なのだが、アデス副
司令と同じタイプの人間なので、クルーゼ司令に
相当面食らっているらしい。

 「潜水艦隊の指揮は一任して貰えるらしいから
  不安はないのだが、モビルスーツ隊はどうな
  るのかね?」

 「私とディアッカとリーカさんで、指揮を執る
  ので安心して下さい」

 「クルーゼ総司令は、何をするのかね?」

 「新型機三機を含む、五機の特務隊で敵に突撃
  します」

 「北アフリカの地上軍は?」

 「バルトフェルト副総司令が指揮を執ります」

 「バルトフェルト司令か君が総司令でも、何も
  問題はないと思うのだが・・・」

 「そう言われるとそうかも知れませんね」

 「・・・・・・・・・」

俺の答えで何かを悟ったのか、バルトス司令は幕
僚を連れて引き揚げてしまった。

 「気にし過ぎると胃を痛めるのに」

 「お前ほどに悟れる人間は、そういないんだよ
  」

 「悟ってなんていないさ。慣れだよ」

 「アデス副司令の方が付き合いが長いだろうが
  。彼は本国艦隊で伸び伸びと任務に就いてい
  るらしいぞ」

 「イザークは?」

 「あいつも、伸び伸びとジュール隊の指揮を執
  っているらしい」 

 「さて、(ギャプラン)で訓練を・・・」

 「誤魔化すなよ」

 「カザマ司令はいるか!」

 「誰だ?」

俺とコーウェルの会話に、突然一人の男が割って
入ってきたのだが、その無礼な態度に怒ったのか
、コーウェルが不機嫌そうな声で名前を尋ねた。

 「補充兵だ。(カオス)のパイロットのマーレ
  ・ストロードだ。カザマ司令は知っているよ
  な」

 「ああ、せっかく候補から外したのに」

 「へん、司令官になって偉そうになったな。昔
  は俺の部下だった癖に、クライン派に取り入
  って出世街道をばく進中だものな」

 「別に取り入ってはいないがね」

 「モビルスーツの訓練をさぼってラクス嬢の尻
  を追いかけていた効果があったというわけだ
  」

 「言いたい事はそれだけか?今までの経緯はと
  もかく、今は俺が上官だ。早速(カオス)に
  搭乗して訓練に参加して貰おうか。正式な紹
  介はお昼にしよう」

 「了解だ。司令官殿」

マーレは捨て台詞を吐くと、格納庫に向かって歩
き出した。

 「失礼な奴だな」

 「彼はプラント生まれで、純粋培養のエリート
  さんだ。アカデミーでも二期上だったかな?
  俺のように家族がナチュラルだったり、外国
  に住んでいたコーディネーターを一段低く置
  いて差別する癖があってな。勿論、ナチュラ
  ルは小動物以下の存在だと思っている。コー
  ウェル、お前は生粋のプラント出身者で、両
  親もコーディネーターだから仲良くして貰え
  るぞ」

 「条件に当てはまって光栄だが、俺はあいつが
  嫌いになった。俺は友達は選ぶんだよ」

 「そうか。しかし、今頃何しに来たんだ?」

 「さてね?ぶっつけ本番で自信があるんだろう
  」

 「困った事になったな」

 「シン、レイ、ステラ、クルーゼ司令は嫌われ
  るな」

 「レイとクルーゼ司令がか?」

 「奴は政治的には、最強硬派に属しているから
  な。デュランダル外交委員長の義息子のレイ
  と、強硬派ながら現実路線を取っているザラ  
  前国防委員長とエザリア国防委員長の派閥に
  属しているクルーゼ司令は裏切り者扱いなん
  だよ。例のユニウスセブン落下テロの時に、
  (落ちていれば問題が解決したのに)と公言
  して、けん責処分を受けていたはずだ」

 「そんな奴を地球に派遣するなよな」

 「まったく、誰の陰謀なんだか・・・」

こうして、「ミネルバ」は新たな火種を抱えてし
まう事になるのであった。

  


 「マーレ・ストロードだ。俺の足を引っ張るな
  よ」

昼食の時にマーレは自己紹介をしたのだが、その
内容は最悪のものであった。
彼の辞書には、協調性とかチームワークという言
葉は存在しないらしい。

 「昔と変わらないな」

 「お褒めに預かり光栄だな」

 「褒めてねえよ」

先の大戦時に、助っ人として各地を転戦していた
時、一週間だけ彼の下で働いた事があったのだが
、彼は日本出身の俺が気に入らなかったらしく、
敵戦力を撃破する際の囮にされた事があったのだ

当然、頭にきた俺は上層部に転属願いを出して、
すぐに他の部隊に転属してしまったのだが、二つ
名を持つ凄腕のパイロットに、指揮官としての資
質を疑われたという噂が全軍に広がり、彼は評価
を落してしまったらしい。
当然、彼は俺を恨んでいると思われた。

 「他国との共同作戦が多いのに、あの男をまわ
  すかね」

 「要注意人物だな」

コーウェルと要注意だと相談したはずなのだが、
後日、彼があのような事件を起こすとは、この時
は想像だにしていなかった。


 「マーレさん、(カオス)の調整は終りました
  か?」

 「ああ、大丈夫だ」

格納庫内でエイブス班長の声をバックに「カオス
」の調整を終えた俺は、細かい操作の確認をしな
がら、様々な事を考えていた。

 「(ディアッカ・エルスマンを暗殺せよか。
  難しい注文だよな)」

プラント本国でユニウスセブン落下未遂テロの支
援を行った最強硬派のシンパが摘発された時に、
マーレは候補者リストに入ってはいたが、証拠不
十分で逮捕はされなかった。
現時点では、大人しくしているしかないと考えた
彼ではあったが、逮捕を免れた同士から突然連絡
を受ける。

 「依頼人は明かせないが、ディアッカ・エルス
  マンの暗殺に成功したら、モビルスーツを含
  む多数の援助を約束してくれるらしい」

 「本当か?」

 「本当だ。条件は、彼を戦場で殺す事のみだそ
  うだ」

何となくいけ好かない依頼であったが、今は力を
蓄える時だ。
そう判断して、俺は依頼を受ける事にした。

 「ディアッカ・エルスマンか。恨みはないが死
  んで貰うぞ。ナチュラルを滅ぼし、コーディ
  ネーターの新たな世界を作る礎となって貰お
  う」

こうして、一週間のカーペンタリア滞在で出発準
備を終えた俺達は、潜水艦隊と共に出撃してオー
ブ艦隊との合流を目指すのであった。
果たして新型機の運用は成功するのか?
スエズ決戦の行く末はどうなるのか?
それはまだ誰にもわからなかった。


           あとがき

次回はスエズ運河決戦編です。
最近、「Z」のDVDを借りて見たところ、
ギャプランが格好良過ぎたので、主人公の新型機
にしてしまいました。


 


 


 

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