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「これが私の生きる道!運命編6.5アスランの結婚式編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-11 14:32/2006-06-12 00:25)
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(一月八日正午、南米某国のジャングルの奥地)

「ミネルバ」と「アマテラス」が沈没寸前の被害
を受け、モビルスーツ隊に多数の損害を出した翌
日、バジルール大佐(戦時昇進)率いる特殊対応
部隊は、南アメリカ共和国軍が選抜した精鋭モビ
ルスーツ部隊を援軍として搭載して、共産党ゲリ
ラ「輝ける道」の本拠地に 大攻勢をかけていた

「輝ける道」は、表向きは国際資本に搾取される
人民を救うために、共産主義政権の樹立を目指し
ている事になっていたが、その活動資金集めのた
めに、麻薬の密売と支配地域内にある宝石鉱山の
開発、木材の伐採と外国人資産家や会社経営者の
誘拐などを生業としていて、組織の幹部連中は現
状に十分満足していた。
始めは貧しい境遇に生まれた彼らも、金の魔力で
心を腐らせてしまったのだ。
現状で、十分に豊かな暮らしが出来る彼らは、別
に革命など成功しなくても良いのだ。
いや、むしろ革命など成功したら、面倒くさい政
治の仕事を行わなければならない。
そうなれば、今度は自分達が批判されるであろう

国民全員が納得する政治など不可能。
これが、革命活動を通じて彼らが学んだ現実であ
った。
そんな理由から、彼らは反政府活動を商売として
認識していた。
田舎の貧しい少年・少女を口車に乗せて、騙して
連れてきて軍事訓練を受けさせる。
そして、訓練を終了した彼らが、駒として幹部の
指示で動き資金を稼ぐ。
彼らには、「明日の革命政権実現への大切な資金
」と説明して小額を渡し、実際には自分達が贅沢
な生活を送る資金に化ける。
かつて、自分達が批判した資本家といや、それ以
下の存在になっている事に自分達は気が付いてい
なかった。
いや、気が付きたくなかったのかも知れない。

先の大戦時に、国を失った南アメリカ合衆国政府
とプラントからモビルスーツ運用技術を得た彼ら
は、自己の利益を守るために、この二年間、厳し
い戦いを繰り広げていた。
最初は、ゲリラ達が地の利とモビルスーツという
兵器の特性を生かして、優勢に戦いを進めていた

モビルスーツは性能が良くて、パイロットの腕が
良ければ少数でも驚異的な威力を発揮する。
プラントや日本経由で「センプウ」を手に入れて
、運用に成功した彼らは、初期の頃には討伐にき
た南アメリカ合衆国軍を逆に壊滅させる事さえあ
ったのだ。
南アメリカ合衆国は、国を回復させたばかりで戦
力が完全に回復していなかった。
特にモビルスーツが、世界各国で運用され始めた
時に国が無かった事は致命的で、大西洋連邦に抵
抗運動を繰り返していた独立派の将兵に、戦後国
に戻ってきた地球連合軍将兵を加えて、残りは訓
練途上の若年兵という有様であった。
戦後、世界各国の援助は再建したパナマのマスド
ライバーに集中して、自分の国の事は自分でやら
なければいけなかったのだ。

 「そんなわけで、俺達の主力は、大西洋連邦で
  はとっくに引退している(ストライクダガー
  )の改良機というわけさ。あれなら安い資金
  で大量に揃えられるからな。さすがに、プラ
  ント、オーブ、日本の技術提供を受けて、改
  良は加えてあるが」

南アメリカ合衆国軍モビルスーツ隊隊長エドワー
ド・ハレルソン少佐、通称「切り裂きエド」が、
「ミカエル」モビルスーツ部隊隊長レナ・メイリ
ア少佐に、南アメリカ合衆国の厳しい現実を説明
した。

 「十機の(ストライクダガー)でゲリラの討伐
  に向かったら、五機の(センプウ)に待ち伏
  せされて、全滅なんて事は珍しくなかったん
  だよ」

 「先の大戦時も、(センプウ)のせいで大西洋
  連邦を含む、地球連合各国は大変な目にあっ
  たけど、今度は南アメリカ合衆国軍が酷い目
  にあっているのね」

 「正直、ばら撒き過ぎだとは思ったんだが、当
  時は猫の手も借りたくてな」

 「簡易生産タイプがほとんどで、フェイズシフ
  ト装甲装備機が、ごく少数なのは救いなのか
  しら?」

 「性能に差はそれほど無いんだ。むしろ、整備
  性が良すぎてな。ゲリラにピッタリの機体な
  んだよ。高温多湿のジャングルでも、故障が
  少ないし」

「センプウ」が世界中で使われている理由は、性
能が良いだけではない。
フェイズシフト装甲装備の機体は、先進国が生産
と配備を行い、後進国や抵抗運動を行っていると
ころには、フェイズシフト装甲を使用していない
簡易量産タイプを回していた。
フェイズシフト装甲を装備していなくても、機動
性や火力は変わらないし、整備性も悪くなく、戦
時中は、多数のストライクダガーが餌食にされて
いた。

 「メイドインジャパンの魔力か」

 「何にせよ。出撃よ」

 「お任せあれ。お姫様」

 「おだてても何も出ないわよ」

レナ少佐とエドワード少佐は、格納庫内の自分の
機体に搭乗してから出撃命令を待っている。

 「どうやら、艦砲射撃が始まったようね」

 「見た目は派手なんだけど、効果が不明だから
  な」

 「ジャングルだからね」

先の大戦時に、エドワード少佐は、大西洋連邦軍
を脱走して、南アメリカ合衆国軍の独立闘争に身
を投じていた影響で、彼が援軍として同行し始め
た時に、エドワード少佐を裏切り者扱いする大西
洋連邦軍人が多数存在した。
エドワード少佐にしてみれば、国を占領した大西
洋連邦軍の方がよっぽど悪人なのだろうが、人の
考えというものは人それぞれなので、どうしよう
もなかったのだ。

だが、フラガ少佐やレナ少佐が、積極的に彼と接
したうえに、彼自身が、戦っている時以外は気さ
くで陽気な人物だったので、次第にそういう陰口
は成りを潜めていった。
軍人は、命をかけて一緒に戦っていると、仲良く
なれるものでもあるようだ。

 「レナ少佐、エドワード少佐。出撃だ」

 「了解です」

特殊対応部隊司令官兼「アークエンジェル 」艦
長の、バジルール大佐から命令が入る。    

 「レナ・メイリア、(ウィンダム特火タイプ)
  出るわよ」

 「エドワード・ハレルソン、(センプウ改ソー
  ドスペシャル)出るぞ!」

二人が「ミカエル」を発進すると、続いて彼らの
部下達が出撃する。
エドワード少佐を含む南アメリカ合衆国軍のパイ
ロット達は、プラントから購入した高価な「セン
プウ改」を使用していた。
本当は、「(ウィンダム)を提供しましょうか?
」と大西洋連邦政府に打診されていたのだが、大
西洋連邦に借りを作るのは真っ平という政府の方
針で、その話はお流れになっていた。

 「南米では、(ウィンダム)の調子が今ひとつ
  ね」

 「(センプウ改)は調子いいぜ」

 「(ウィンダム)を設計した連中は、南米で使
  うなんて考えていないのね」

 「いや、考えてはいるだろうさ。頭が良いから
  な。でも、長時間高温多湿の気候に晒される
  と、どうなるのかまでは、想像できなかった
  んだろうな」

それを予想して、オーブとプラントからの技術を
元に、独自の技術と企業共同体の技術までもプラ
スして「センプウ」の設計をプロデュースした自
衛隊の真田技術一佐は、天才に値する技術者なの
であろう。
一方、オーブのカザマ常務は自分を酷使して、家
庭を顧みさせなかった日本企業の事をどこかで恨
んでいて、その技術の応用に積極的ではなかった
ために、同じ様な仕様の「M−1」を開発しなが
ら、「センプウ」に敗北を喫する事になったのだ

だが、彼は「M−1」の失敗を生かして、「ムラ
サメ」の開発に成功していて、真田技術一佐も「
ハヤテ」の開発に成功していた。  

 「俺の(センプウ改ソードスペシャル)はご機
  嫌だぜ。性能も(ウィンダム)に引けを取ら
  ないしな」

 「ザフト軍のカザマ司令が率いている(ミネル
  バ)搭載の新型モビルスーツ(インパルス)
  の武装を参考にしているのよね」

 「そうだ。15メートル対艦刀×1、15メー
  トルビームランス×1、ビームブーメラン×
  2、ビームライフル×1、光波シールド×1
  で俺の特性を生かす武装配置になっている」

 「私とは逆のタイプか・・・」

 「男と女は、無いものを求め合うものなんだぜ
  」

 「それって、一般論?口説き文句?」

 「それは、戦いが終わってから考えてくれ」

エドワード少佐の指摘通りに、ゲリラの本拠地上
空ではモビルスーツ戦が始まっていて、先に戦場
に到着していたフラガ少佐が、「ウィンダムガン
バレルタイプ」を駆使して、既に数機の「クライ
シス」や「センプウ」を落していた。

 「相変わらず見事な腕前ね」

 「(黄昏の魔弾)や(黒い死神)や(変態仮面
  )と戦って生き残っているんだ。当たり前だ
  ろう」

 「私も生き残ったわよ」

 「真相を知っているぞ。(黒い死神)に敗北し
  て捕まったらしいな」

 「カザマ君には勝てないわよ」

 「しかも、彼と仲良く遊んでいるらしいな。俺
  には信じられない」

毎年恒例になった温泉旅行には毎年多数の人が参
加していて、その人数は増える一方であった。
そして、レナ少佐とマリューは、毎年参加してい
る口だ。 

 「あなたは、敵になった事がないんだから、仲
  良くして損は無いわよ。私も、今は敵ではな
  いから気にならないし」

 「面白そうな男だな」

 「ここが片付いたら、次はスエズの予定だから
  会えると思うわよ」  

 「自分の国が片付いたら、国際協力のためと自
  国の栄誉を担って世界に進出か」

 「ここで、戦死しなければね」

 「きつい一言で」

 「来たわよ!」

数機の「センプウ」と「クライシス」が、二人を
目指して接近してくる。

 「エミリアとやらの援助機体!」

 「フェイズシフト装甲装備機よ」

 「倒せるのか?レナ少佐」

 「復活した(乱れ桜)の勇姿を良く見ておきな
  さい!」

レナ少佐は「ウィンダム特火タイプ」の両肩に装
備している小型ミサイルパックと12.7mmガ
トリング砲を無造作に乱射し始める。
すると、フェイズシフト装甲を装備していない機
体は爆散して、装備している機体もその攻撃の激
しさに動きを止めたところを、ビームライフルと
ビームサーベルで止めを刺されていった。

 「なるほどね。上手い手だ。ならば、俺も!」

エドワード少佐は、その二つ名の通りに装備して
いる対艦刀やビームブーメランで、無造作に敵を
切り裂き始めた。
敵モビルスーツは、ビームライフルで狙ってくる
が、驚異的な反応速度でかわすか、光波シールド
を発生させてビームを弾いてしまう。

 「全く歯が立たん!(切り裂きエド)、(乱れ
  桜)、そして・・・」

少し離れた地点では、フラガ少佐の「ウィンダム
ガンバレルタイプ」が、例のアヤの機体を参考に
急遽開発された「大気圏用ガンバレル」を四基装
備して、多数の敵機を地獄に叩き落していた。

 「動きが読めない!」

 「助けてくれーーー!」

ガンバレルは、不規則な動きをしながら目標に接
近して、ビーム砲とミサイルを発射する。

 「このままだと全滅だぞ!書記長殿!応答して
  ください!」

ゲリラのモビルスーツ隊の隊長の叫びも空しく、
ゲリラ達は急速に数を減らしつつあった。


 「おい!クルトさんよ!どうなっているんだよ
  !」

「輝ける道」の指導者であるホセ・エメロンは、
この状況を許せないらしく、エミリアチルドレン
の一人であるクルト・ヴァインを厳しく問い詰め
ていた。 

 「我々は、確実に援助を行ってまいりました。
  何か文句でも?」

 「大西洋連邦の部隊が、出張ってくる話は聞い
  てなかったぞ!おかげで、二年も優勢に戦っ
  ていた俺達が、このままでは全滅だ!」

 「それは、目立ち過ぎたあなた方の責任ですよ 
  。私は知りません」

 「ふざけるな!」

ホセが激怒しながら、クルトに銃を向けようとし
た瞬間、クルトは持っていた銃でホセを銃殺した
。  

 「みんな、良く聞け!ホセ書記長は名誉の戦死
  を遂げられた。残った我らも、南アメリカの
  市民達に共産主義革命を目指した我々の覚悟
  を見せるべく、最後の一兵まで戦うのだ!」

 「「「「「おーーー!」」」」」

 「(無知で単純な連中だな。真の共産主義を行
  えるほど、人はまだ進歩していないのに。旧
  ソ連や北朝鮮は共産主義ではない。それを利
  用した独裁国家にしか過ぎない)」

クルトはそんな事を考えながら、自分の「クライ
シス」に乗り込み、一機でも多くの敵を倒すべく
、突撃を開始した。

 「邪魔だ!どけい!」

クルトが、進路を塞いだ一機の「ウィンダム」を
、ビームサーベルで切り裂きながら指揮官機を探
していると、対艦刀で「クライシス」を袈裟斬り
にした一機の「センプウ改」を見つけた。 

 「悪いですが、死んでもらいますよ」

 「本当に悪い事だな」

 「全てはエミリア様のために!」

クルトは「クライシス」のビームサーベルを抜い
て「センプウ改ソードスペシャル」に斬りかかっ
てきた。

 「腕は良さそうだが、経験値はどうかな?」

エドワード少佐は、腰に装着されているビームブ
ーメランを時間差で二つとも投げつけた。

 「このくらいの事!」

「クライシス」がビームサーベルで切り払うと、
次は巨大な対艦刀が、自分目掛けて飛んできた。

 「連続で攻撃か!」

 「違うね」

 「何!」

巨大な対艦刀を切り払って空いてしまった胴体部
分に、エドワードはビームランスを突き入れた。

 「まさか・・・。ナチュラルに負けるなんて・
  ・・」

 「歴戦のエースの経験値を舐めた罰だな」

 「ふっ。エミリア様、お先に・・・」

クルトの「クライシス」は、落下してから地面で
爆発した。

 「ここでも、エミリア様ね。嫌な話だぜ」

エドワードが戦場を見渡すと、敵のモビルスーツ
部隊はほぼ壊滅していて、南アメリカ合衆国軍の
地上部隊が、残存勢力の掃討を行っていた。

 「お疲れ様。敵の親玉を殺ったのね」

 「まあね」

 「しかし、胸糞の悪い光景ね」

ゲリラの基地では、降伏した年端もいかない少年
・少女が容赦なく殺されていく光景が見えていた

 「俺達の国では、ゲリラには容赦しないのが鉄
  則だ」

 「そして、彼らは死んで英雄になって、また貧
  しい村や町の少年・少女がゲリラに志願する
  のね」

 「少しづつ経済状態が良くなってはいるが、完
  全に解決するには何百年もかかるだろうな。
  そして、その間に多数のゲリラが殺される。
  だが、殺さなければ国が持たない」

 「共産左派ゲリラと言ったって、一部の幹部が
  麻薬や宝石の密売で儲けているだけでしょう
  ?」

 「小さい組織では、真面目に革命を目指してい
  る闘士も多いのだが、大きいところは大半は
  そうかな?」

 「真面目に革命闘争ね。どちらにしても、いい
  迷惑ね」

 「そうだな。だから、俺はこの戦争が終ったら
  、農場経営者にでもなるつもりなんだ。金は
  それなりに貯まったし、退役時に一時金や年
  金も出るから」

 「それが良いのかもね。私は農業も嫌いじゃな
  いわよ」

 「こらーーー!人の男を口説くなーーー!」

突然、一機の「ウィンダム」が、上昇してきて二
人の間に割って入った。

 「あれ?ジェーン・ヒューストン大尉?」

 「そうよ!いくら嫁き遅れでも、人の男を口説
  かないでいただけませんか?レナ少佐殿!」

 「えっ!二人って付き合っていたの?」

嫁き遅れと言われた事よりも、二人が付き合って
いた事の方が、レナ少佐には衝撃的であった。

 「以前は付き合っていたが、俺が大西洋連邦軍
  を脱走してからは、音信不通だった」

 「何で連絡をくれなかったのよ!私、あなたに
  会いたくて、モビルスーツの機種転換訓練ま
  でしたのに・・・」

 「俺は国のためとはいえ、軍を脱走した身だ。
  連絡を取れば、君にも迷惑がかかると思って
  ・・・」

 「私は連れて行って欲しかったのよ!」

 「すまない。君を危険な目に合わせたくなかっ
  た。この戦争が終って、二人共生き残ってい
  たら結婚しないか?農場の奥さんでも良いな
  らだが」

 「耕運機や作業用モビルスーツの操縦なら任せ
  てよ」

 「そうだな。せっかくだから、大規模農園にす
  るか」

 「そうしましょう」


 「私も農園の奥さんで良いから・・・」


 「「「隊長!おめでとうございます!」」」

 「「「おめでとう!」」」

レナ少佐の願いも空しく、二人の結婚が決まり、
先程の殺伐とした雰囲気が収まって、両軍の兵士
からおめでとうの声が届いてきた。

 「お二人さん。おめでとう」

 「フラガ少佐、ジェーンが着任した事を、黙っ
  ているなんて酷いよ」

 「昨日、ここに来た謎の補充兵は彼女だったん
  だよ。そこで、相談を受けてな」

 「そうだったんですか」

 「エド、黙っててごめんね」

 「気にしなくていいさ」

 「エドワード少佐、婚約指輪はどうするんだ?
  」

 「うーん、急いで買わないとな」

 「急がなくても大丈夫よ。これから、暫らくは
  一緒なんだし」

南米のゲリラ討伐をひとまず終了させた「アーク
エンジェル」と「ミカエル」はスエズ攻略作戦の
援護を行う事になっていたが、予想外の事態のせ
いで作戦の開始時期が不明になったので、休暇は
取り易くなると思われる。

 「外国で綺麗な奴を買ってやるよ」

 「楽しみね」

 「さて、戦勝祝賀会と婚約祝いパーティーをや
  ろうぜ。(アークエンジェル)に、準備がで
  きているから」

 「「はい」」

フラガ少佐の言葉で、特殊対応部隊所属の全モビ
ルスーツ隊のパイロット達がパーティーに出席す
べく、急いで母艦に帰っていったが、レナ少佐だ
けは一人で呆然としていた。

 「あれ?ここ数週間、結構感じ良かったよね。
  私また駄目駄目?」

 「(駄目駄目ですね)」

あの世から、誰かの声が聞こえたような気がした
が、レナ少佐がチャンスを逃した事だけは、事実
であった。

 「誰か、嫁に貰ってよーーー!」

レナ少佐は、差し迫る三十路の恐怖を振り払うべ
く、絶叫するのであった。


(同時刻、インド洋海中「ノーチラス」艦内)

 「事情を聞かせて貰えませんか?アヤ様」

 「そうよ。私を差し置いて男と付き合うなんて
  ズルイわよ!」

 「そういう事ではないのですが・・・」

昨日の戦闘が終了したあと、アヤは塞ぎ込んで部
屋に閉じこもってしまったので、ミリアとクロー
ドは様子を見にきたのだ。
勿論、ミリアに止めを刺そうとした、ディアッカ
への絶叫の事情を聞くのが一番であったが。 

 「どうもこうも、偶然出会ったから利用して情
  報を集めていただけです。昨日の件も、ミリ
  アを助けるために、声を出しただけです。ク
  ロード様、他に何か?」

クロードとアヤの関係はかなり複雑だ。
クロードは子供の頃から、ミリアと一緒に育って
きたアヤをミリアの次の地位にいると考えていて
、アヤに様を付けて呼んでいるが、アヤは自分は
召使に過ぎず、エミリアの仕事の補佐を行うクロ
ード達を様付けで呼んでいたので、お互いに様付
けで呼ぶような状況になっていた。
だが、ここのところの戦闘で実績を示したアヤは
、ミリアの副隊長的な地位にいると認識されてい
て、全員がアヤ様と呼ぶようになっていたのだ。

 「ですが、アヤ様の存在が敵にバレてしまいま
  した。これから、どうなさるおつもりで?」

 「敵なら全てを倒します」

 「躊躇いはないのですか?」

 「ありますけど。それは、ディアッカに対して
  だけです」

 「正直に話していただいて、ありがとうござい
  ます。では、彼の対応は他の者に任せます。
  あなたは、カザマを倒す事に専念して下さい
  」

 「そうですね。私は、カザマを討つ。ただそれ
  だけです」

 「ディアッカ・エルスマンを倒す刺客を用意し
  なければ・・・。では、失礼します」

クロードは、先に部屋を出て仕事に戻ってしまっ
た。

 「ねえ。本当に良いの?」

 「利用した男にまだ情が残っているだけよ。女
  の武器を使っただけだから。そんな事よりも
  、私達には大切な使命があるでしょう」

 「そうね・・・」

ミリアはまだ言いたい事があったようなのだが、
黙ったまま、部屋を出てしまった。

 「ディアッカ、ごめんなさい。私にはあの娘を
  見捨てるなんて出来ないし、あなたを討つ事
  もできない。裏切った報いは私が受ける。あ
  なたに討たれても恨まない。だから、生き残
  ってね・・・」

アヤは、ベッドに泣き崩れるのであった。


(同時刻、「ミネルバ」艦内の司令官私室)

昨日の戦闘で大損害を受けた二隻の艦艇は、機関
部本体への致命的な損傷と誘爆を避けるために、 
物理的に閉鎖してしまったので、浮力を失ってし
まって、海賊の本拠地である無人島の砂浜に乗り
上げてしまっていた。
本当なら、白兵戦でもありそうなのだが、何故か
海賊のアジトは無人で自爆すらしなかった。

 「自爆しなかった理由は簡単だ」

 「嫌がらせですか?」

 「カザマ司令は、話が早くて助かる」

一時間ほど前に、極秘裏に高速ヘリで島に到着し
たミナ様とカガリから、内密な話があるという事
なので、俺の私室で話を進めていたのだ。

 「大洋州連合と領有権で揉めている島に、地下
  式の巨大な基地ですものね。よくこんなもの
  がどちらにもバレずに建造できましたね」

 「そこにも、ユウナとキスリングが一枚噛んで
  いたのだ。島への哨戒時刻を教えたり、物資
  を都合したり。まあ、そういう事だ」

この基地は、むしろ自爆してくれた方が良かった
のだ。
どちらも、兵力と補給物資を送るだけで、重要拠
点に変貌してしまうという事実は、二国間の無駄
な争いを生む土壌にしかならなかった。

 「オーブは国土が狭いからな。防衛上の観点か
  ら見て、この島が欲しいのは事実だが、大洋
  州連合と揉めてしまったら意味が無い。現に
  、各坐している二隻の艦艇だけで、外務省に
  抗議が入っているそうだ」

 「文句を言われても、動かせませんからね」

 「応急処置で五日。オーブに戻して一週間。沈
  まなかったのが不思議だ」

 「最新鋭艦ですし、機関部の閉鎖が早かったか
  らですよ。アーサー副司令とトダカ司令に感
  謝ですね」

 「カガリには、勿体無いくらいの優秀な男だな
  。トダカ少将は」

 「悪かったな!」

俺達の話に加われないで、俺が出したお茶を啜っ
ていたカガリが始めて声をあげた。

 「トダカ少将ですか?」

 「キスリングの後釜だ。あの男もそれなりに優
  秀だったのだから、欲をかかなければ良かっ
  たのに」

 「そうですよね」

キスリング少将は、先の大戦で行われた「オノゴ
ロ島決戦」で無難に指揮をこなし、それなりの戦
果をあげていた男だった。
俺は嫌われていたので好きでは無かったが、あて
にはできるタイプの指揮官であったはずだ。
それが、どう間違えてしまったのだろうか?

 「セイラン家の派閥の軍人は、アスハ家の派閥
  に鞍替えするか、中立的な立場になった者達
  が大半でな。キスリングは、ユウナを操って
  いた男の指示で、我々とアスハ家の軍部への
  過干渉を防ぐための派閥を形成していたらし
  い。今回の、海賊討伐の戦力を増強する案の
  足を引っ張ったものの正体はこれだ」

 「全てを知っていて、俺達を生贄に捧げたと?
  」

 「いや、大半は知らなかったらしい。アスハ家
  の横槍で過剰戦力が派遣されると税金の無駄
  遣いになる。お金持ちの首長家の指示に素直
  に従うな。キスリングが言い回って、賛同者
  を集めたようだ」

 「おかげで、この大損害ですか?戦死者への補
  償や遺族年金を考えると、かえって高くつき
  ましたよ」

 「そうだな。護衛艦四隻とモビルスーツ十七機
  で、戦死者が五百名近いからな。名前だけと
  はいえ、軍のトップである私への風当たりも
  強い。私は、宇宙軍しか把握していないのに
  な」

 「そこで、責任を取って地球上のオーブ本国軍
  の最高指揮権をカガリちゃんに譲ると?」

 「そういう事だ。ウナトの奴!セイラン家の生
  き残りに成功しおったわ!」

 「十年かけて代表首長の任に就くはずが、数ヵ
  月後ですものね。強力な支配体制は無理です
  か?」

 「外交のブレーンがいないから、ウナトに頼ま
  ねばならない。軍事的には、地上軍はアスハ
  家の牙城になった。おかげで、私が代表では
  あるが、集団指導体制に近いものになってし
  まっている」

 「それで、宇宙軍はどうなさるおつもりで?」

 「どうもこうも、ギナに任せるしかあるまい」

 「大丈夫ですか?」

 「沢山のブレーンを付けるから、大丈夫だと思
  いたい・・・」

 「思いたいですか・・・」

広大な宇宙にギナ少将が放し飼い状態。
世界の平和に憂慮すべき項目が加わった。

 「カザマ、ギナの補佐をしてくれないか?待遇
  はできる限りの事をするから」

 「こら!カザマを引き抜くな!ミナの元に行く
  前に、こちらが先だろうが!」

俺達の話を聞きながらお茶請けの羊羹を食べてい
たカガリが、ミナ様に文句をいい始める。

 「お前のところには、人材が揃っているだろう
  が」

確かに、カガリの元には人材が揃っている。
軍では、アスラン、トダカ少将、キサカ少将(昇
進予定)、ハワード三佐、ホー三佐、アサギと特
にモビルスーツ部隊関連の人材が多い。
すでに、世界中でモビルスーツが主力兵器となり
つつある現在では、その意義は非常に大きかった

Nジャマーが完全に除去されても、戦場で携帯し
てきたNジャマーを作動させれば状況は同じだし
、フェイズシフト装甲と光波シールドの類のせい
で、遠距離からのミサイル攻撃も以前ほどの威力
を無くす事が容易に予想できる。
そして、これから先、大規模な戦争が起こりにく
くなる事も関係していた。
治安維持にその目的をシフトするであろう軍にお
いて、二十メートル近い金属の巨人は、存在する
だけでも心理的に効果があるからだ。   

 「軍部だけではない。経済的なブレーンとして
  カザマ常務も存在する。次期モルゲンレーテ
  社社長に一番近い男と彼の部下達が、技術的
  ・経済的な問題に力を貸してくれるのだ。少
  しは、恵まれている自分に感謝するんだな」

 「えっ!親父ってそんなに偉いんですか?」

日頃は女性陣(特に母さん)に頭が上がらない四
十代後半の男の真の実力を、俺は把握していない
ようだ。
身内ゆえに、大した事はないと感じてしまうらし
い。

 「カザマ常務はモルゲンレーテ社だけでなく、
  その取引先の多数の企業と政治家・官僚に顔
  が利くからな。ウナトほどではないが、先の
  大戦で技術供与の橋渡しや、兵器の共同開発
  を行っていた理由で外務官僚にも知己が多い
  。カガリは大儲けをしたんだぞ。私はただの
  技術者だと思って放置していたのだが、ウズ
  ミにしてやられてしまった」

家ではイジケスペースを持っていて、自家用車す
ら買って貰えない親父は、確かに世界各国で顔が
広い。
もしかすると、自分の親父は物凄く大物なのかも
知れない。

 「ミナ様、高級車の一台でも買ってやったら、
  派閥を鞍替えするかも知れませんよ」

 「そんなもので済むなら安いものだがな」

ミナ様は、俺の忠告を冗談だと思っているようだ

 「話は変わりますが、現在、ウナト様は何をし
  ているのですか?」

 「様々な用件の後始末とユウナの葬儀の準備だ
  」

 「まだ死んでませんけど」

ユウナの生け捕りか殺害に失敗した事が確認され
たので、彼は当然まだ生きているはずだ。

 「公式的には死亡扱いにするらしい。つまり、
  これから出現して何かを口走るユウナは、偽
  者だという事だな」

 「段々、可哀想になってきましたよ」

 「セイラン家を守るためだ。仕方があるまい」

オーブを統治する五大氏族の闇は俺の予想を超え
て、相当に深いらしい。

 「ユウナはセイラン家の跡取りだったし、オー
  ブ軍少将でもあった。それなりの規模で葬儀
  は行うだろうしな」

 「ミナ様も大変ですね」

 「そう思ったら引き抜きに応じてくれ」

 「だから、勝手に引き抜くなって!うっ!」

 「どうしたの?カガリちゃん」

 「具合でも悪いのか?」

突然、カガリの具合が悪くなったらしく、彼女は
洗面所に向かって走り出してしまった。

 「気持ち悪いの?シホに見せようか?」

 「おい、これってもしかしたら・・・」

 「もしかもクソも、もしかですよ」

 「とにかく、医務室だな」

俺とミナ様は、カガリを連れて医務室に直行した


 「妊娠二ヶ月ですね」

医務室で怪我人を見ていたシホは、思わぬ来客に
驚きながらも、カガリを診察して妊娠の兆候を発
見した。

 「おめでたいですけど、まずいですよね」

 「まずい・・・」

 「どうしましょうか?」

 「まずは報告だ」

医務室の怪我人達に緘口令が敷かれ、カガリは空
いていた士官用の私室で横になっていた。

 「カガリ!大丈夫か!」

「アマテラス」で復旧作業を指揮していたアスラ
ンが、血相を変えて飛び込んできた。

 「大丈夫か?ではないわ!このバカ者が!」

 「ミナ様・・・」

 「未婚のアスハ家の姫を妊娠させて!不祥事だ
  ぞ!」

 「すいません」

 「まあまあ、生まれてくる子供に罪はありませ
  んよ」

 「部外者だからお気楽だな」

 「婚約者同士なんだから、構わないと思います
  が」

 「子供を作るのは結婚してからにしてくれ!緘
  口令は敷いたが、情報が流失するのは時間の
  問題だ。さて、どうしたものか」

ミナ様が真剣に悩んでいる横で、アスランはカガ
リの手を握りつつも、深刻な表情をしていた。

 「アスラン」

 「何ですか?」

 「ちゃんと、やる事はやっていたんだな」

 「ヨシさん、そういう事を言っている場合では
  ・・・」

 「細かい事を気にしすぎなんだよ。結婚式をや
  ればいいんだよ」

 「結婚式ですか?」

 「昔の日本では、(できちゃった婚)なるもの
  が流行ってな。新郎妊婦で式をあげたものさ
  」

 「うーん。それしかないか・・・」

 「有名人で妊娠の事実を隠して、早産だったと
  言って誤魔化した人がいたそうですよ」

 「その方向で調整する・・・」

その後、極秘裏にウナト代表と連絡を取ったミナ
様は、緊急で結婚式を挙げる事を決定したのであ
った。


 「明後日ですか?」

 「そう、明後日だ」

 「早過ぎですよ!」

その日の夕方、アスランとカガリの結婚式は、一
月十日午前十一時からと決定されたのだが、当然
、準備などできていないはずである。
きっと、皆が死に物狂いで動くのであろう。

 「大体、お前達が子供を無計画に作るからだろ
  うが!文句を言うな!」

 「まあまあ、子供に罪はありませんから」

 「カザマも、物分りの良いオヤジのような発言
  をするな!」

 「それで、これからどうすればよろしいので?
  」

 「緊急で世界各国の要人達に招待状を送った。
  パーティーの準備、警備の準備、カガリのド
  レス、アクセサリー、スタイリストの手配、
  司会者の選定・・・。うきぃーーー!」

 「あっ、ミナ様が壊れた・・・」

ミナ様は、一日半で国家行事規模の結婚式プラン
を形にしなければならないので、頭の中がパンク
してしまいそうなようだ。

 「(ミネルバ)と(アマテラス)の要員は、こ
  のまま迎えの輸送ヘリでオーブ本国に直行だ
  !」

 「俺達もですか!」

 「万が一にも式に遅れたら大変だ。オロファト
  のホテルで待機だ」

 「(ミネルバ)を放っておけませんよ」

 「カーペンタリアから、護衛のモビルスーツ隊
  と応急修理のための人員が間もなく到着する
  。カザマはクライン家の婿なのだから、絶対
  に出席だ!」

 「はいはい。わかりましたよ」


その後、俺達はわけのわからないまま、ミナ様に
拉致同然でオロファトに連行されて、ホテルに閉
じ込められた。

 「(ミネルバ)が心配ですね」

 「そうだね」

アーサーさんも共に連行された口なので、「ミネ
ルバ」が心配で堪らないらしい。

 「エイブス班長に任せるしかありませんよ」

 「だよね」

「ミネルバ」から連行されたメンバーは、俺、ア
ーサーさん、コーウェル、ディアッカ、リーカさ
ん、シホ、シン、ルナマリア、ステラ、レイ、メ
イリンとお馴染みのメンバーであった。
当然、「ミネルバ」の防御機能は機能していない
ので、心配でたまらないのだ。

 「シン達は、何故招待されたのかな?」

 「シンは、オーブ軍認定のエースですし、レイ
  はデュランダル外交委員長の代理だそうです
  。デュランダル外交委員長はどうしても、日
  程の調整がつかないそうで」

 「シホ君は?」

 「マッケンジー財団の会長と社長の代理です。
  マッケンジー会長とラスティーも、この動乱
  のせいで分刻みのスケジュールを強いられて
  いますから」

 「ステラとルナマリアとメイリンは?」

 「ステラは俺の妹ですから。ルナマリアとメイ
  リンは・・・」

 「二人は?」

 「パーティーには、美女が沢山いた方が良いか
  と」

 「カザマ君、あのね・・・」

 「冗談ではありませんよ。アスハ家の結婚披露
  パーティーが冴えなかったら、あとで大問題
  ですから」

とりあえず私服に着替えてから、ホテルの最上階
の喫茶室でくつろいでいた俺達は、それぞれに会
話をかわしていた。
シンとレイは、大量のサンドイッチやスパゲッテ
ィーを注文して食べていたし、ルナマリア、メイ
リン、ステラの三人は、ハーブティーとクッキー
を堪能しながら楽しそうに話していた。

 「若い連中は、立ち直りが早いね」

 「死んだ人の事を忘れてはいけませんが、引き
  ずってもいけません」

 「でも、リーカさんは落ち込んでいるね」

 「列機の仲間を失いましたからね。でも、大丈
  夫ですよ。ほら」

リーカさんは、コーウェルに慰められていて、時
折楽しそうに笑みを浮かべるようになっていた。

 「意外な組み合わせかな?」

 「軍人なんて、近場でくっつくものですよ」

 「カザマ君と私は違うじゃないか」

 「ああ、いきつけの本屋の店員さんでしたっけ
  ?」

 「そうだよ」

 「近場である事には、変わらないではありませ
  んか」

 「カザマ君は、どうなんだい?」

 「押しかけ女房的要素が強いかと・・・」

 「誰も信じてくれないと思うよ。それ」

 「アスランは、ラクスと付き合いが長いから信
  じてくれましたよ」

 「そのザラ一佐は、何をしているのかな?」

 「カガリちゃんの調子が今ひとつなんで、大忙
  しです」

 「同情するね」

 「でも、アスランよりもディアッカですよ。問
  題なのは」

ディアッカは、どんよりと曇ったような表情を浮
かべて一人で下を向いたままテーブルに座ってい
た。
その異様な雰囲気に、誰も声を掛けようとしない

どうやら、日頃とのギャップの差が激しすぎて怖
いらしいのだ。

 「俺が話を聞いてきます」

今までは、そんな余裕が無かったので放置してい
たが、このままでは大変な事になると判断した俺
は、ディアッカを連れて自室で話を聞く事にした

 「何で俺が用事があるのか、わかっているな?
  」

 「はい」

 「事情を聞こうか」

ディアッカは、ササキ大尉の妹との間に起こった
出来事を事細かに話した。

 「そうか。辛いな」

 「はい・・・」

 「それで、どうする?」

 「どうするって、何がですか?」

 「あのな。俺は指揮官権限で、お前を解任でき
  るんだよ。お前も、好きな女を討てないだろ
  う?だから、他所に転任した方が」

 「待ってください!俺はやれますよ!」

 「でも、彼女との対決は避けられないぞ。俺達
  も、手を抜いたら即戦死だ。そんな状況で、
  お前を使うリスクも存在するわけだ。お前一
  人の問題なら許可するが、(ミネルバ)全体
  の事を考えると」

 「俺が討ちます!」

 「お前がか?」

 「俺が愛した女の始末は、自分でつけます。誰
  の手もわずらわせません。次の戦闘では、彼
  女を討つ事を第一目標に動きますから、転任
  だけは勘弁して下さい」

 「その選択は辛いぞ」

 「覚悟はできています」

こうして、ササキ大尉の妹を討つ事を宣言したデ
ィアッカは、表面上は元気になったのだが、まだ
何かわだかまりがあるようであった。
それでも、俺はディアッカを信じてみる事にした
のであった。 


 「アスラン様、親戚一同の代表の方が披露パー
  ティーの事でお聞きしたい事があると」

 「アスラン様、衣装合わせの時間です」

 「アスラン様、出入りの宝石商が、結婚指輪の
  デザインの事で相談があると」

 「アスラン様、役場に提出する婚姻届けの記入
  を」

 「アスラン様、アスハ家の結婚時の風習のご確
  認を・・・」

 「アスラン様、お父上のザラ閣下が、至急アス
  ラン様を出せと激怒されております。レーザ
  ー通信室の方へ・・・」

 「アスラン様、ウズミ様が重要なお話があると
  ・・・」

 「うがーーー!」

アスランがアスハ邸に戻ると、恐ろしいほどの量
の仕事が彼を待っていた。
「できちゃった婚」なので、父親のザラ前国防委
員長は、大激怒で出席のための準備に追われ、引
退して田舎の島で晴耕雨読の生活を送っていたウ
ズミ元代表も、突然の事で混乱しているらしい。
勿論、カガリに全く責任が無いわけでもなかった
のだが、悪阻で体調がいまいちの彼女を責めるわ
けにもいかず、その責と結婚式の準備の仕事は、
アスランが一人で背負うシステムになっていた。

 「アスラン様、私はアスラン様の味方でござい
  ますよ。あの小さかったカガリ様が、結婚し
  て母親になるなんて、マーヤは感激でござい
  ます」

 「マーヤさんは、カガリの準備の方を頼みます
  ね」

 「はい、ドレスやら、スタイリングやら、アク
  セサリー類の準備はお任せ下さい。マーヤは
  嬉しくて嬉しくて」

 「そうですね」

アスランは引き攣った笑いを浮かべながら、マー
ヤの話を聞いていた。

 「アスラン様、どの用件から片付けますか?」

 「しまった!」

先程の用件は何一つ解決していなかったので、ア
スランは更なる混乱に陥ってしまう。

 「分身できないかな?俺・・・」

 「現実逃避はよろしくありませんよ」

アスランは、アスハ家の執事に注意を受けたので
、現実に立ち戻る事にする。

 「父上の激怒は後回しだ。式の事が優先だ」

あとで利子が積もって大変な事になるのはわかっ
ていたが、式の準備を最優先にする事にして行動
を開始する。

 「さらに額が後退しそうだ・・・」

鏡を見たアスランの表情は冴えなかった。


(一月十日午前11時、結婚式会場)

 「ハウメアの神の前で宣誓を・・・」

オーブの多数の人達の努力によって、結婚式は予
定通りに始まったが、
心なしか、出席者の顔が疲れ果てているように感
じるが、それはまぎれもない事実だ。
特にミナ様は、ほとんど寝ていない様子で立った
まま居眠りをしているようだ。

 「ユウナの葬式は後日って事かな?」

 「そうだね。結婚式の後の葬式ならすぐでも構
  わないと思うけど、逆は無理だからね」

借り物の衣装を身につけた俺とアーサーさんは、
結婚式の進行を眺めながら、小声で会話を続けて
いた。

 「汝、アスラン・ザラは、カガリ・ユラ・アス
  ハを妻とし、生涯愛し続ける事を誓いますか
  ?」

 「誓います」

 「汝、カガリ・ユラ・アスハは、アスラン・ザ
  ラを夫とし、生涯愛し続ける事を誓いますか
  ?」

 「誓います」

今日のカガリは、ウェディングドレス姿で大変美
しいのだが、参加者一同が式の準備に間に合った
事に感激してしまっていて、あまり注目されてい
なかったようだ。

 「馬子にも衣装か・・・」

 「腹減ったなーーー」

 「えい!」

 「いて!」

カガリは式の最中にも関わらず、俺の小声に反応
して落ちていた小石を投げつけてきたが、俺はそ
の攻撃をかわしたので、代わりに後ろにいたシン
に直撃した。
どうやら、今日は都合良く体調が万全であるらし
い。
そして、カガリの行動を咎める元気のある参加者
も、ここには存在しなかった。

 「ヨシヒロさん、酷いですよ」

 「かわせないお前に問題がある」

 「見えない物をかわせませんよ」

 「見えない物をかわしてこそのエースだ」

 「本当ですか?」

 「本当だ。理屈では説明できないが、歴史上に
  登場したエース達は、殺気のようなものを感
  じる事ができたらしい。第六感という奴だな
  」

 「にわかに信じられません」

俺とシンが話している内に、アスランとカガリは
指輪の交換と誓いの口付けを終了させて式は滞り
なく終了した。


 「うわーーー!ご馳走ですね!」

 「恥かしいから綺麗に食えよ」

 「わかってますよ」

俺の忠告を聞いているのか?いないのか?わから
なかったが、シンは出された料理に集中し始めた

結婚式を終えた俺達が、披露パーティー会場であ
る高級ホテルに移動すると、立食形式の披露パー
ティー開始される。

 「やっぱり、金持ちの家の飯は違うな」

 「・・・・・・・・・」

バカなシンは放っておいて、俺は今日の主賓を探
し出して挨拶をしておく事にする。

 「お二人さん、おめでとう」

 「「ありがとうございます」」

二人はパーティー用の礼装に着替えていて、来客
に挨拶をしに回っているようだが、アスランはと
もかく、カガリの礼儀正しさに疑問を感じつつも
、更に話を進める事にした。

 「どうしたの?畏まって」

 「公式の席だからな」

 「ふうん」

 「(馬子にも衣装)だと。あとで覚えておけよ
  」

 「うーん、いつもの感じが出てていいね」

 「日本語はわかるんだ。意味を知らないわけな
  いだろうが」

 「俺としては、褒めてるんだけど」

 「褒め言葉になってない」

 「やはり、急に直すのは難しいか・・・」

カガリとアスランは他の招待客に挨拶に行ってし
まう。

 「よう、足は付いているようだな」

 「俺は元気だよ」

同じく、モルゲンレーテ社社員を多数出席させる
ために、無理のし通しだった親父が、俺に話しか
けてきた。

 「大変だったらしいな。キスリングのバカも一
  枚噛んでいたらしいが」

 「そこまで、バカな人だとは思わなかった」

 「人は自分の居場所が無くなると思うと、無理
  をするものだ」

 「左遷される予定だったの?」

 「いや、自分が勝手にそう思い込んでいただけ
  だ。地球本国軍はアスハ派の牙城で、宇宙軍
  はサハク派の本拠地でもある。セイラン派の
  彼は焦ったんだろうな。まあ、奴がモビルス
  ーツ部隊の運用に向いていない事は事実だっ
  たが」

 「確かにな。でも、組織運用者としてはそれな
  りに実績のある人だったじゃないか」

 「だが、キサカ少将とトダカ少将よりは下だ。
  下から後輩が迫ってきて自分を追い抜いてい
  く恐怖を感じていたのかも知れないな。まあ
  、小物だったんだな」

 「奴の所為で、無駄に死ななくても良い部下が
  確かにいたんだ。ぶん殴ってやりたい心境だ
  ね」

戦死者がゼロになる事はなかったのだろうが、彼
が最初から攻撃に加わる事を認めてくれれば、最
低でも半数の人間は死ななくても良かったのだ。
特に、シエロとテルには、若い連中のお守りを頼
んでいたので、俺が死なせてしまったような部分
もあるのだ。
シエロの代わりにルナマリアが「アビス」に乗っ
ていれば、戦死したのは彼女であっただろうし、
テルはステラを庇って戦死してしまった。
戦闘直後、泣きじゃくる彼女を慰めるのが大変だ
ったのだ。

 「キスリング少将はどうなるんだ?」

 「軍事裁判で銃殺が決定している。自分が一番
  積極的にユウナと手を組んで利益を得ようと
  行動していたのに、いざ捕まると部下に押し
  付ける気満々でな。心象が悪すぎた」

 「あまり可哀想ではないな」

 「まあ、犯罪者の事なんてどうでもいいさ。バ
  カはバカなりに、息子が無事に帰ってきたの
  だから」

 「バカで悪かったな」

口調はぞんざいだが、俺の事を心配してくれたら
しい。
世間の親子というものも、我々と同じなのだろう
か?

 「そう言えば、車を買ったんだって」

 「そうなんだよ。キラとレイナが買ってくれて
  な。頼りになる義息子だ」

 「調子が良いよな」

 「何とでも言え。俺は、楽しいカーライフが確
  保できれば、それで大満足だ」

 「まあ、ご機嫌ならそれでいいか」

親父も、他所の人のところへ挨拶に行ってしまっ
たので、キラとレイナを見つけて話かけてみる。

 「親父、ご機嫌だな」

 「気合い入れて、高級車を買ってあげたからね
  」

 「おかげで、週末は休めるようになりました」

 「今まで大変だったからな」

何のことは無い。
キラが便利だったから使っていただけで、重要度
の低い仕事を他の人にふるようにしたら、キラも
それほど忙しく無くなったようなのだ。

 「トールとミリィとサイとカズイか。カガリち
  ゃんと同年代でカガリちゃんが代表の座に就
  いた頃には、要職に就いている可能性が高い
  から招待したのかな?」

 「カガリってそこまで考えているんですか?」

 「ウズミ様が考えているんだ。一見、引退した
  ように見せても、色々動いているのさ」

 「そうですよね。カガリじゃあ、まだそこまで
  は」

自分の姉だか妹だか知らないが、キラはかなり失
礼な事を言っていた。
最も、本人は全く知らないのだが。

 「ところで、カナとニコルは?」

 「アルバイトですよ」

 「アルバイト?」

 「ピアノとバイオリンの演奏ですよ」

キラが指差した方向には、正装をしてピアノを弾
くニコルと、バイオリンを演奏しているカナが見
えた。

 「へえ、上手いものだな」

 「ニコルはプロですし、カナも練習はしていた
  から」

ニコルは、ユニウスセブン追悼式典の歌を作曲し
ていたので、世界中の要人に顔を知られていて好
都合だったらしい。
アスハ家の顔の広さを十分にアピールできるから
だ。

 「さて、次は・・・」

会場を見渡すと、世界中から多数の要人が集まっ
ていて、楽しそうに話しながらも、情報交換に余
念がなかった。
まだ、世界の紛争は、完全に終結していなかった
からだ。

 「レイは、デュランダル外交委員長の代理か」

正装したレイは礼儀正しく、父親の代役を立派に
こなしていたし、アーサーさんは、各国の駐在武
官との情報交換を行っていた。

 「俺も仕事をするか」

俺は、ザラ前国防委員長とウズミ前代表のいる場
所に行く事にする。

 「お久しぶりです」

 「この前は、大変だったな」

 「災難だったな。カザマ司令」

俺の読み通り、二人は引退はしていても、情報を
集める事だけは欠かさずに行っていたようだ。
さすがに、国の要人になる人物は一味違う。

 「何とか生き残れましたよ」

 「君に死なれたら、ラクス嬢の怒りを買ってし
  まうからな」

 「確かにな。更に、カザマ常務の怒りを買うの
  は得策ではないな」

 「ところで、何を話していたのですか?」

 「アスランの不始末を、ウズミ殿に謝っていた
  ところだ」

 「私はそれほど気にしていないな。さすがに、
  最初は驚いたが」

 「でしょうね」

 「まあ、孫が生まれるのだ。楽しみである事だ
  けは確かだな。しかし、あのカガリが母親に
  なるとはな」

 「それは、私も楽しみだ。ついでに、もう二〜
  三人生まれてくれると、ザラ家本家も絶えず
  に済むのだがな」

やはり、ザラ前国防委員長は、ザラ家の跡取りが
欲しいらしい。  

 「二人の子供の数は運次第ですかね」

 「そうだな。運命次第だな。ところで、カナー
  バ議長から、君にプラントの最新情報を教え
  るように言われていてな」

 「何かありましたか?」

 「例の、ユニウスセブン落下テロ未遂事件の首
  謀者が、捕まったのだ」

 「へえ、誰なんですか?」

 「最高評議会議員のアルシア・ハーバートだ」

 「確か最強行派の方ですよね?」

 「最近、彼は、議会でも浮いていてな。同じ強
  行派でも現実路線を貫く、エザリアとも縁を
  切って独自に動いていたらしい」

 「実行犯のサトウ隊長に、武器を回していたの
  も彼ですか?」

 「そうだ。軍事工廠の支持者に手を回して横流
  ししたらしい。詳しくは、今日の夕刊でとい
  うところかな」

 「最後まで教えて下さいよ」

 「冗談だよ。アルシア議員は、エミリアとも繋
  がっていた。彼は、目的達成のために、エミ
  リアを利用していたつもりのようだが、実際
  に利用されていたのは彼の方だったというわ
  けだ」

 「コーディネーター至上主義の彼にしたら、衝
  撃の事実ですね」

 「取調べでも、その事実は決して認めていない
  ようだ」

 「まあ、人の考えはそれぞれですからね。でも
  、プラントが落ち着いたのはいい事ですよ」

 「宇宙に関しては、少数の海賊や不穏分子のみ
  になったというのが実情かな?地球でも、南
  北アメリカ大陸と中国大陸とアジアが落ち着
  いていて、オーブの混乱ももう少しで解決す
  る。残りは、アフリカ・中東・ヨーロッパ・
  ロシアのみだな」

 「ようやく、半分ですか」

 「現時点では、ユーラシア連合軍の奇襲によっ
  てスエズを失い、エジプトとトルコ・シリア
  ・ヨルダンが占領されている。地中海もユー
  ラシア連合の制海権で、クレタ島を基点に補
  給路が確保されているようだ」

 「それって負けてますよね」

 「向こうは、用意周到に攻撃を仕掛けてきたの
  だ。有利で当然だろう。そして、各国の混乱
  も彼らに味方をした。だが、体勢を整えた各
  国は、新国連軍を創設してこの事態に対応す
  るらしい。今までは、エジプト国境でバルト
  フェルト司令官とアフリカ共同体のケストル
  中将が持久戦を仕掛けていたが、各国の支援
  体制が整い次第、占領地とスエズ運河の奪還
  作戦を行う予定のようだ。イスラム連合も、
  サウジアラビアとイラクに全軍を集めている
  し、自衛隊の特殊対応部隊がバクダッドに助
  っ人で入っているからな」

 「我々は、バルトフェルト司令官の援護ですか
  ?」

 「だろうな。新型機を受け取ってからになると
  思うが」

 「新型機ですか」

 「応急修理が終ったら、カーペンタリアに入港
  して本格的に修理を行い、新型機の受領と訓
  練を行って欲しいとの事だ」

 「そして、その後は一隻でアフリカか中東行き
  ですか?」

 「いや、(アマテラス)と合流して貰う。更に
  、派遣艦隊を編成して中東に派遣する事にな
  ったのだよ」

 「中立国のオーブがですか?」

 「今更、そんな事を言ってはおれまい。ここで
  戦力を出さないで、商売だけをしていたら、
  オーブは世界の嫌われ者になってしまう。私
  の考えとは合わないが、現代表はウナトだし
  、彼の考えは正しいのだろう。(スサノオ)
  と(タケミカヅチ)を中心にした機動艦隊を
  派遣する」

 「指揮官はトダカ少将ですか?」

 「そうだ。そして、参謀長はハミル准将だ。彼
  は、昼行灯などと噂される人物だが優秀な男
  だ。キスリングの徹は踏むまい」

 「(アマテラス)の艦長と指揮官の座が空きま
  すね」

 「それは、カガリがやるそうだ。ついでに、オ
  ーブ派遣艦隊の指揮官も兼任する。まあ、別
  行動が多いから独自に動く事が多いが」

ウズミ様の言葉に俺は、衝撃を受けてしまった。
いくらなんでも、妊娠しているカガリを戦地に派
遣するなんて正気の沙汰ではなかったからだ。

 「いくら何でも無謀ですよ」

 「他に適任者がいない」

 「ミナ様はどうなんですか?」

 「宇宙の事もあるし、オーバーワークで倒れて
  しまう。あれを見たまえ」

ミナ様は会場の端で椅子に座りながら爆睡してい
た。
どうやら、重要な仕事を終えた安心感で眠気を抑
えられなかったようだ。

 「ここ二日間、徹夜だったからな。カガリが原
  因の一端でもある事だし、悪くて頼めない」

 「ですね・・・」

 「そういう事なので、頼んだぞ」

いきなり、ウズミ様に何かを頼まれてしまうが、
それが何なのか、誰に頼んでいるのかが理解でき
ない。

 「誰にですか?」

 「カザマ君、君に決まっているじゃないか」

 「私はザフト軍の将兵ですが」

 「なら、ザラ家存続のために二人を頼むぞ」

 「それって公私混同ですよ」

 「違うな。私は既に民間人なので、個人的なお
  願いにしか過ぎない」

 「私もそうだ」

 「・・・・・・・・・」 

結局、既に引退したはずの二人の元要人兼父親に
、カガリとアスランの事を頼まれてしまうのであ
った。


 
 「本当に引退してるのか?あの二人は」

俺が、文句を言いながらワインを飲んでいると、
突然、ステージ上の司会者がマイクで話し始めた

 「ご出席の皆さん。新郎・新婦の共通の友人で
  いらっしゃいます。ラクス・カザマ様からお
  祝いの言葉が届いています」

 「あれ?ラクスからか?」

 「みたいですね」

あらかた飯を食い終わったシンが、俺に話しかけ
てくる。

 「クライン家の影響力維持のためには必要な事
  か」

 「ラクス様は、出席は不可能ですからね」

 「だな」

出席者全員が、正面のスクリーンに注目すると、
映像が繋がってラクスが映し出される。

 「こんにちは。カガリさん、アスラン。ご結婚
  おめでとうございます。私はご覧の通り移動
  が困難ですので、映像でのご挨拶とさせてい
  ただきます。私と新郎のアスランとは、元々
  婚約者の関係にあった事は皆さんご存知だと
  思いますが、彼はとても優しくて、電子ペッ
  トのハロのプレゼントを気に入ったと申しま
  したら、毎月、色々な色のハロをプレゼント
  してくれました・・・」

 「「「(それは、やり過ぎだろう)」」」

出席者達の心が一つになる。

 「更に、アスランはとてもシャイな方で、手の
  甲にしかキスをしてくれた事がありませんで
  したが、今思えば、カガリさんとの出会いを
  予感していたのかも知れません」

 「「「(いや、キスくらいしとけよ。婚約者な
  んだから)」」」

また、出席者達の心が一つになった。

 「そんな関係が続いていた時に、私は運命の方
  と知り合いました。ニュース映像で見た方を
  、アスランの教官にとお願いして、後に、ア
  スランにも会わせてくれるようにとお願いし
  たのです。こうして、始めてあった私とヨシ
  ヒロは、身も心も結ばれたのです・・・」

 「ブーーー!」

 「汚いな。ヨシヒロさん」

 「すまん」

飲んでいたワインをシンに噴出してしまった俺は
、謝りながらもラクスの久々の暴走に焦燥感を募
らせていた。
ラクスのスピーチはどんどん脱線していき、カガ
リとアスランを放置して、俺との出会いから交際
途上編に突入した。

 「私は世界の平和を祈るために、各地でコンサ
  ートを開催しておりましたが、終ったあとは
  、愛しいあの方の元へ直行いたしました。既
  に、その時には、お二人はお互いを意識され
  ていたようです・・・」

 「まずいな・・・」

俺が周りを見渡すと、各国の要人の目が俺かアス
ランに向いていた。
ラクスのスピーチにあまり出てこないカガリと、
スピーチの最初でヘタレキャラである事が暴露さ
れたアスランは、呆然とした表情でスクリーンを
眺めていた。

 「思えば、あの最終決戦のあと、不思議な赤ん
  坊の泣き声がしたのでその方向に船を進める
  と、大破した(ジン検砲望茲辰織茱轡劵蹐
  ・・・」

 「二人の話があまりないな」

 「ですね」

スピーチの内容は、「結婚式と新婚生活編」に進
んでいき、出席者は何とも言えない表情をしなが
ら話を聞いていた。
さすがに、プラントで大きな影響力を持つラクス
に物申すわけにはいかないようだ。
彼女の凄いところは、影響力はあるのに公職に就
いた事が一度もない事であり、彼女自身は、引退
した一歌手に過ぎない事だ。

 「ザラ前国防委員長は・・・」

俺が、ザラ前国防委員長の方を見ると、「そんな
前から謀っていたのか!聞いてないぞ!」という
感じの、激怒の表情をしたザラ前国防委員長と、
俺を哀れみの視線で見つめるウズミ様が見えた。

 「カザマ司令、二人の事をくれぐれも頼むぞ」

 「お任せ下さい!」

他に選択肢もあろうはずもなく、俺はザラ前国防
委員長の個人的な頼みとやらを引き受けるしかな
くなっていた。

 「私は帰ってくるヨシヒロのために、和食の腕
  に磨きをかけ・・・」

ラクスの当事者無視のスピーチはまだ続いていた
・・・。


 「あれ?シンは?」

 「トイレですかね?」

 「ルナもいないな」

 「あーーー!抜け駆けだ!」

俺がメイリンとステラと話をしている間に、シン
とルナマリアが姿を消していた。

 「子供じゃないんだから、その内戻ってくるさ
  」

 「探しに行きます!」

 「ステラも行く!」

 「それは、止めておきな」

 「どうして?ヨシヒロ」

 「シンは、決めたと言っていたからな。邪魔し
  ても無駄なのさ」

 「えっ!」

 「シン、ルナを選んだの?」

 「別の用件かも知れないし、少し待っていなよ
  」

俺は二人に諭してその場で待たせる事にした。


 「シン、話って何?」

シンは、今がチャンスだと思っていた。
パーティー会場には、多数の出席者がいたうえに
、各人がバラバラになって他の人と話していたの
で、一人でいたルナマリアを誘い出す事は容易で
あった。
あとは、勇気を持って告白するだけだ。

 「これを受け取ってくれないか」

ホテルの庭園にルナマリアを誘い出したシンは、
常に用意していた指輪をポケットから取り出して
、ルナマリアの前に差し出した。

 「つい最近まで迷ってというか、よくわからな
  かったんだけど、俺が好きなのはルナなんだ
  。俺と付き合ってくれるかい?」

 「えっ!あっあの・・・」

ルナマリアは、ものすごく嬉しかったのだが、緊
張して萎縮してしまう。
思えば、始めて会ったのは、先の大戦時に父親に
付いてオーブに行った時の事だ。
あの頃は、大人の年上の男性だったカザマ隊長に
目が行っていて、お子様のシンにそれほど興味が
無かったうえに、アカデミー入学の話をしたら、
バカ呼ばわりされて喧嘩になってしまったのだ。

 「悔しかったら入学してみなさいよ」

この一言でシンはプラントにあがり、実戦を経験
していたうえにカザマ隊長から基礎を学んでいた
彼は、優秀な成績を維持し続けていた。
いや、何だかんだ言ってもシンは努力を続けてい
たのだ。
日頃はバカな事ばかりしていても、大事な時には
頼りになる男。
これがシンへの評価であり、ルナマリアはそんな
彼に次第に魅かれていった。
更に、先の最終決戦時に人手が不足した本国の防
衛を担っていた時に事件は発生した。
海賊の襲撃があって、まだ腕が未熟だった自分は
、シンにすんでのところで助けられたのだ。

 「ルナに手を出すな!」

この一言に自分は完全に参ってしまったのだ。

 「シンに絶対に付いていく」 

そう決断した自分は、同じく懸命に努力を続け、
苦手だった料理も習い、ついに赤服を着て卒業す
る事ができたのであった。
それから、自分はシンを追いかけ続けていた。

 「あのね。嬉しいんだけど、私でいいの?私、
  ステラほど女らしくないし、料理も下手だし
  」

 「俺はそう思わないけど」

シンも、始めてルナマリアと会った時の事を思い
出していた。
事情があって日頃の言動が少し幼かったステラと
違い、歳相応の普通の女の子。
これが、ルナマリアの第一印象であった。
その直後に喧嘩をして、自分がプラントへあがる
要因を作ったのも彼女ではあったが、友達として
付き合ってみると、日頃の勝気な態度の片隅に見
せる女らしい部分に、少しトキメク自分が確かに
存在した。
それでも、メイリンとステラも自分に好意を抱い
ている事に気が付いていたので、それが決定打に
なる事はなかったのだが、彼女が、「インパルス
」のパイロットに任命された事で自分の気持ちは
大きく変わっていた。
始めは、最新鋭機を任された事で、我先に前線に
飛び出すだろうと考えていたのだが、ルナマリア
はシンとコンビを組んでお互いをサポートする事
を重視した。
単純な色気のない理由ではあったが、ルナマリア
のそういう女らしい配慮に自分は魅かれていった
のかも知れない。
これが、ステラだとお互いに最大限の技量を発揮
して、ツートップで前線に出るような関係になっ
ていたのだろう。
わずかな差ではあると思うのだが、シンにとって
は決定的な差だったのだ。

 「公私共に、お互いをサポートする関係も良い
  な」

そう考えるようになると、三人娘の中でルナマリ
アの言動が非常に気にかかるようになった自分が
存在していたのだ。

 「でも、努力してちゃんと作れるようになった
  じゃないか。それに、ステラは何て言うかな
  。妹みたいな存在なのかな」

シンがオーブ軍のパイロット試験に合格した時、
周りに同年代の人など全くいなかったのだが、唯
一の例外がモルゲンレーテ社の食堂でアルバイト
をしていたステラであった。
つい嬉しくなって、話しかけてから友達になった
ステラを、マユに重ねて見ていたのかも知れない

 「だからさ、俺が一人の女の子として好きなの
  はルナなんだ。メイリンも可愛いとは思うん
  だけど、恋愛感情はない」

 「シン、ありがとう。私もシンの事が好き。ね
  え、シンが指につけてよ」

 「ああ」

シンはいつかは左手の薬指にはめる事を願いつつ
、他の指に指輪を付けてあげた。

 「綺麗ね」

 「結構奮発した」

 「みたいね。ねえ。今までは、なかなかできな
  かった恋人同士のキスをして」

 「思えば、最初のあれは酷かった」

 「あれは、仕方がなかったのよ。だから、今回
  はちゃんとして」

 「ああ、喜んで」

披露パーティーに人手が集中して、人気の無いホ
テルの庭園内でシンとルナマリアの影は一つにな
った。


 「「ただいま、戻りました」」

 「早かったのかな?遅かったのかな?」

シンとルナマリアは三十分ほどで戻ってきたのだ
が、いなくなる前と後では様子がまるで違ってい
た。
二人は仲良く手を繋ぎ、ルナマリアの指には指輪
が光っていたのだ。
シンは無事に告白を成功させたようだ。

 「お二人とも、幸せにな」

 「「はい」」

俺から言う事はこれくらいしかなかったのだが、
メイリンとステラには、言いたい事があるようだ

 「シンは、もう選んでしまったのね」

 「ごめん、メイリン」

 「あのね。メイリン」

 「別にいいわよ。シンよりも格好良い男は、他
  に沢山いるから」

 「メイリン・・・」

 「さーて、お化粧でも直してこようかな。良家
  の男をゲットするわよ!」

メイリンはそう言い残して化粧室に行ってしまっ
たが、泣き顔を誰かに見られたくないのであろう

 「シン、ルナと付き合うの?」

 「ごめんね。ステラ」

 「シンはルナが好きなの?」

 「ああ、そうだ。俺はルナが好きだ」

シンは決意して、真実をステラに告げた。

 「わかった。じゃあ、私とシンは友達。これで
  いいよね?」

 「うん。始めて会った日から、俺達はずっと友
  達だ」

 「ありがとう。正直に話してくれて」

ステラも居た堪れなくなったのか、人気のないと
ころに向かって走り出してしまったので、俺は追
いかける事にした。
このところ、ステラには色々な事が立て続けに起
こったので、心配だったのだ。

 「ステラ、良く耐えたな。偉いぞ」

俺は、ステラが立っていた人気の無い通路で慰め
の言葉をかけた。

 「お兄さん。私、フラられちゃった」

 「いつもはヨシヒロなのに、お兄さんかい?」

 「ヨシヒローーー!」

ステラは俺にすがりついて泣き始めてしまう。

 「シンもバカだよな。俺がシンなら、ステラを
  選ぶのにな」

俺は、多少反省していた。
賭けの事もあったが、積極的だったメイリンや、
純粋にシンへの好意を表していたステラと違って
、シンへの好意をなかなか表に出せなかったルナ
マリアを後押しした結果が、こうなってしまった
のだから。

 「ステラはいい女だから、すぐにいい人が見つ
  かるさ」

 「本当に?」

 「ああ、俺が保障する」

 「ありがとう」  

ステラは一泣きして気が晴れたのか、俺と会場に
戻る事にした。
すると、既にメイリンが戻ってきていて、二人を
からかっている。

 「シン、お姉ちゃんの料理は危険よ。気をつけ
  なさい」

 「私が失敗するのは、始めて作るお菓子だけよ
  」

 「確かにそうだな。特にクッキーとシュークリ
  ームは酷かった」

 「無駄にダイエットしたしね」

 「悪かったわね」

 「シン、私に乗り換えてもいいわよ。待ってる
  から」

 「良家の男はどうしたのよ!」

 「メールアドレスはゲットしたわよ。恋人がい
  ないっていうから」

 「へえ、誰なの?」

 「えーとねー。アーガイル海運の跡取り息子」

 「サイさんじゃないの。先日、ヨシヒロさんの
  実家で会っているでしょうが!」

サイは顔も良いし、頭も良いし、家も金持ちでモ
テる要素満載なのだが、あのメンバーに嵌まると
、没個性状態になって目立たなくなってしまうの
だ。

 「最悪、同年代のイケてる友達を紹介して貰え
  ば」

 「しっかりしてるわね。メイリン」

 「フラれた以上、新しい恋を探すのよ!」

メイリンがそう宣言した横で、サイがステラと楽
しそうに話していた。

 「へえ、海が好きなんだ。俺もまだ新入りだか
  ら、研修で輸送船に乗せられてね。大きな船
  だから、景色が綺麗なんだよ。でも、長時間
  眺め過ぎると怒られるけど」

 「ステラも、(ミネルバ)から見える海が好き
  」

 「ちょっと!抜け駆けはなしよ。ステラ!」

 「・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・」

メイリンの早い立ち直り具合に、シンとルナマリ
アは言葉が出ないようだ。

 「まあ、完全には立ち直っていないと思うけど
  、きっかけがあるのは良い事だと思うよ」

こうして、ドタバタした結婚式は終わりを告げて
、アスランとカガリは晴れて夫婦になったのであ
った。 


翌日、俺達はセイラン家の葬式に借り出されてい
た。
ユウナはオーブ軍少将だったので、軍で葬儀を執
り行う事になって、俺達も出席させられていたの
だ。
本当は出たくないのだが、仕事なので仕方がない

 「本人は生きているのに、公式には死亡が確定
  か。悲惨な話だな」

オーブ軍将校が棺を背負っているが、中身は当然
空っぽで、事情を知る人達には、戦場で出会った
ら殺して判別不能になるまで死体を処分するよう
にとの通達が出ていたのだ。
ユウナ・ロマ・セイラン少将は軍の任務中に事故
死。
これがオーブの見解であり、世界各国の政治家達
もそれを了承していた。

 「おや?あの若い女性は?」

ウナト様と彼の奥さんの横に一人の若い女性が見
えた。
若くて美しい人だ。

 「良家では良くある話ですよ。当主の若い息子
  が、綺麗なお手伝いさんに手を付けるって奴
  です」

 「アスランみたいだな」

 「違いますって・・・」

アスランが事情を知っていて説明してくれたのだ
が、ユウナはセイラン家で働いていたお手伝いさ
んを妊娠させていたらしいのだ。
そこで、ウナト様は養子を取る話を止めて、彼女
の正妻としての地位を認めて、孫をセイラン家の
跡取りとして育てる決心をしたらしい。

 「ユウナのバカな行為のおかげで、セイラン家
  本家の血筋が絶えないで済むか。皮肉な話だ
  な」

 「そうですね」

 「でも、アスランは新婚旅行もなしで葬式の準
  備だったのか。大変だな」

 「落ち着いたら行きますよ」

 「子連れになってしまうけどな」

 「それも、楽しそうですよ」

オーブ滞在四日目はユウナの葬式で終了してしま
い、明日は、応急修理が終った「ミネルバ」と合
流してカーペンタリアに向かう事になっていた。
愛機を失った俺に、新型機が回されるらしいのだ

兵器を喜ぶのは不謹慎かも知れないが、いつも新
型機と聞くと、多少ワクワクしてしまう自分がい
た。
そして反対に、おかしな使い勝手の悪い機体は、
ごめんだという冷静な軍人である自分も存在して
いた。


 「お手数をおかけして、申し訳ありませんでし
  た」

翌日の早朝、俺達は高速ヘリで「ミネルバ」が各
坐している無人島に戻る事になったのだが、見送
りに来てくれたアスランが、心底すまなそうに謝
りだした。

 「始めは驚いたけど、俺はこれで良かったと思
  っているんだ」

 「どうしてですか?」

 「数日前に悲しい出来事があった記憶を、上手
  く薄めてくれたからな。誤魔化しかも知れな
  いが、人は生きていかなきゃならないから」

 「そう言っていただけるとありがたいです」

 「何にせよ、すぐに合流して中東行きだ。死な
  ないように仲良くやろうぜ」

 「ええ。そうですね」

 「みんな、元気でな」

俺達は、見送りに来てくれた人々に挨拶をしてか
ら、高速ヘリに乗り込んだ。
これからの予定は、「アマテラス」を旗艦として
「タケミカヅチ」と「スサノオ」を従えた派遣艦
隊が出撃して、俺達と合流する事になっていた。
更に、カーペンタリアからも、潜水艦隊が出撃し
て中東に出向く事になっていたので、先に出発し
た自衛隊の航空護衛艦隊主体の極東連合軍艦隊と
赤道連合軍艦隊、大洋州連合軍艦隊、西アジア共
和国軍艦隊と総出でユーラシア連合軍と対決する
事になっていた。
更に、大西洋連邦軍大西洋艦隊がイギリス各地の
港に停泊していて、フランスのロリアンを拠点と
するユーラシア連合大西洋艦隊と睨み合いを続け
ていた。
予定では、中東と北アフリカの占領地を奪還後に、
地中海艦隊の撃破と制海権を奪取を行って、柔ら
かいわき腹であるイタリア方面から攻め上る事に
なっていたが、あまり陸戦は行わずに、各国にカ
ウンタークーデターを起こして貰う事が前提にな
っていた。
大西洋連邦情報部の調べでは、ユーラシア連合の
クーデター政権は、フランスとロシア連邦以外の
国では人気がなかったので、力を見せ付けれは容
易にひっくり返せるとの認識らしい。
そして、クーデター時に海外を遊説中で無事だっ
たアデナウアー外相に臨時大統領地位に就いて貰
って、戦後に選挙を行う方向で話が纏まっていた
。講和文書に降伏の字を入れず、各国に与えた被
害のみを賠償する。
領土の割譲等はなし。
随分、甘い条件のような気がするが、世界一の大
国である大西洋連邦もエミリアを逃がしたという
弱みを持っていたし、厳しい降伏条件を突きつけ
て第二のエミリアが誕生したら大変な事になって
しまうので、このような甘い条件になったようだ

このように、世界を敵に回して完全に包囲網を敷
かれる事は予想済みであっただろうに、彼らとエ
ミリアは何を考えているのだろうか?
始めから勝てない戦いを挑む彼女達の意図は何な
のか?
幾つかの疑問を胸にしまいながら、俺達はカーペ
ンタリアに入港した。
コズミックイラ74、一月十五日の事であった。


        (おまけ)

俺の名前はムラクモ・ガイ。
世界で最高の傭兵と称される男だ。
ちなみに、「ピンクの死神」と呼ばれる事が増え
てきたのだが、それはあのクソ女の所為なので禁
句になっている。
くれぐれも使わないでくれ。
中国大陸で多数の実績をあげた俺は、ユーラシア
連合軍のスカウトの目に留まり、破格の給料で働
く事になった。
ここは、ロシア連邦領の基地らしいのだが、目隠
しをされて入国したので詳しい事はまだわからな
い。
まだ、完全に信用されていないのに情報収集を行
う事は危険な行為だからだ。
まずは、仕事をこなして信用を得る事が大事なの
だ。
そんなわけで、俺は沢山の若者達の選抜と訓練を
行っていた。

 「6番、8番、16番、17番は合格だ。残り
  はもういい」

 「ガイ大佐、次の二十名です」

 「よし!始め!」

俺の任務は、極秘裏に開発された新型量産モビル
スーツのパイロットを選抜する事であった。
基本的なモビルスーツの操縦過程を終えた若者達
の技量を見極めて合格を出し、それが終ったら彼
らを引き連れて機体を受領する。
予定ではそうなっていたが、候補生の数が多くて
、一日で終るようなものではなかった。

 「なかなか、真の合格者というのはいないな」

 「(ディスパイア)は高性能ですが、人を選び
  ますからね」

俺に付けられた若い男性士官が、仕方がないとい
った表情で事情を説する。
どうやら、このモビルスーツがエミリア達の秘密
兵器であるようだ。

 「俺に乗りこなせるのかな?」

 「ガイ大佐なら100%の性能を引き出せるで
  しょう」

 「そうか」

 「我々が責任を持って調整しますから」

その後、夕方になってしまったので、選抜試験を
終了させてから、秘密の格納庫に案内された。

 「これが(ディパイア)です」

 「(ストライク)に似ているな」

 「同系統機です。ただ、比べ物にならないほど
  の高性能機ですが」

 「武装は地味だな」

 「ナチュラルの我々では、複雑な武装システム
  を持った機体では不利になってしまいますか
  ら」

 「そうかもな」

 「次の特徴としまして、行動パターン用の高性
  能OSを積んでいまして、並のパイロットで
  も容易に80%までの性能を引き出す事が出
  来ますが、とりあえずは技量の優れたパイロ
  ットに回して、100%に近い性能を発揮し
  て貰おうと思っています」

 「そのための選抜試験か」

 「はい。ところで、乗ってみますか?」

 「いいのか?」

 「ガイ大佐の機体ですので。装甲はオーブから
  手に入れた、Vフェイズシフト装甲を装備し
  ています」

 「面白そうだな」

俺は、「ディスパイア」に乗り込んでから機体を
機動させた。

 「うむ。悪くないな」

 「夜ですが、飛行して貰っても構いませんよ」

 「そうか!」

俺は「ディスパイア」を高速で飛行させながら、
様々な動作を行う。
やはり、量産機ながら恐るべき性能だ。

 「パイロットの腕がよければ100%を超える
  性能を発揮する機体か。面白い!」

この時、俺は気が付くべきだったのだ。
笑いと驚きの声が混じったものが、無線に入って
いた事を・・・。

 「さて、自室で戦術の研究をするかな」

 「さきほどの稼動時の映像が、このディスクに
  入っています」

 「俺が、これを持って逃げるとは考えなかった
  のか?」

 「ええ。私の勘ですけど」

 「ありがとう」

俺は自室に戻って、ディスクを機動させるとピン
クに色がついた「ディスパイア」が高速飛行を続
けていたのだ。
こいつは、まさしく俺の機体の飛ばし方と同じだ

 「(ディスパイアルージュ)だと!」

どうやら、俺の噂を聞いた技術者が気を効かせて
設定をしたらしい。
再び始まるピンクの時間に頭が痛くなってくる。

 「ふふっ、そういう事かい!またこの色なのか
  ・・・」

俺のテンションは下がりそうになるが、再び気力
を振り絞っていつもの台詞を口にした。

 「どちくしょう!カザマとあのクソ嫁め!覚え
  てやがれよ!」


 「ガイ大佐、気合が入っていますね」

 「スカウトして正解だったな」

ガイの絶叫はロシアの大地に木霊するのであった


          あとがき

次回は新型機を出そうと思います。
まだ、全然考えていませんけど。
更新時期は不明です。                 


    

 


  

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