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▽レス始

「これが私の生きる道!運命編6オーブ暗闘編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-06 23:00/2006-06-07 21:15)
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(コズミックイラ74一月一日、ニューギニア
 近海)

十二月二十六日に「重慶」を出発した「ミネル
バ」と「アマテラス」は、かなりの高速で航行
を続けていて、オーブまであと半分の距離を超
えたところまで進んでいた。
俺達が向かうオーブでは、海賊の襲撃が頻繁ら
しいのだが、ここ数日は、軍が密かに護衛に就
いている事もあって鳴りを潜めているようだ。
だが、完全に壊滅させたわけではないので、ま
だ注意が必要らしいが。

 「「「新年明けましておめでとうございます
  」」」

 「おめでとう。三人とも良く似合うな」

ルナマリア、ステラ、メイリンは振袖を着て艦
内を挨拶して回っていて、整備兵や警備兵の野
郎連中には受けが良いようだった。

 「ご褒美にお年玉だ。中身は少ないけどな」

俺はポチ袋に100アースダラーを入れて三人
に渡した。

 「「「ありがとうございます」」」

 「しかし、あれだな。ステラは母さんから送
  って貰ったのはわかるけど、ルナとメイリ
  ンはどこから調達したんだ?」

 「カザマ司令のお母さんが貸してくれました
  」

 「初耳だ」

 「優しいお母さんですね」

 「男の俺には何一つ送って来ない。冷たいバ
  バアだ」

 「そんな事を言うと、罰が当たりますよ」

ステラは水色、ルナマリアは赤、メイリンには
若草色の振袖を送ってきた癖に、俺には爪楊枝
一本送って来ない。
あきらかに、俺は差別されている。

 「俺はイケメンじゃないからな」

 「おや、三人とも似合ってるな。女性の着物
  姿というのは綺麗なんだね。感動したよ」 

 「へぇー。ジャパニーズ着物ガールズか」

交替の時間になったので、ブリッジにアーサー
さんとコーウェルが入ってきて、口々に感想を
述べた。

 「もう、交替の時間ですか」

 「もう少しあるけどね」

 「じゃあ、振袖タイムも終わりですね。着替
  えて来ます」

 「ところで、誰が着付けをしたんだ?」

 「ステラがやった。お母さんから説明書を貰
  ったから」

 「それで、出来るステラが凄いけど」 

 「シンとレイには見せたのか?」

 「「「はい!」」」

 「じゃあ、大丈夫か」

三人の様子を見る限り、シンはまだ告白をして
いない様子だ。
さすがの俺も、いい加減にイライラしてくる。

 「じゃあ、俺も下がりますよ。書類の整理と
  (グフ)の調整がありますので」

 「そうだね。カザマ君は忙しいからね」

 「コーウェルは暇そうでいいな」

 「俺は日々血税の無駄遣いがないか、目を見
  張らせているんだよ」

 「中国大陸では、例の(クライシス)の残骸
  しか拾えなかったからな。それも、デュラ
  ンダル外交委員長がカオシュン経由で宇宙
  に上げてしまったし。それで、水道の水量
  をチェックしたり、人のいない部屋の照明
  を消して回っているのか?」

 「そんな事をするか!俺は節約主婦かっての
  !」

 「じゃあ、何をしているんだ?」

 「色々だ」

 「本当は暇なんだろう?」

 「・・・・・・。ぶっちゃけるとな」

コーウェルは副官に任命されてはいるが、ほと
んど仕事がなかった。
戦闘時もアーサーさんが一人で指揮を執るし、
モビルスーツ部隊も、俺かディアッカがいれば
十分なのだ。
わざわざ、コーウェルにお伺いを立てる必要は
なかったのだ。

 「金勘定や物資の管理も主計兵がいるし・・
  ・。俺の得意分野なのに・・・」

 「(ザク)に乗るか?」

 「訓練はしているさ。シュミレーションは全
  部の機体を制覇した。(インパルス)は難
  しかったけど、何とか乗りこなせるように
  なったし」

 「お前・・・。最近、存在感が薄いばかりで
  なく、仕事もなかったのか」  

 「ほっとけ!」

コーウェルの叫びも空しく、「ミネルバ」は何
のトラブルも無く、順調に航海を進めていた。


(一月二日午前十時、オーブ首長国連合首都「
 オロファト」市内)

 「お客さん、どこまで?」

 「ここから二キロメートルを真っ直ぐに進ん
  でから、客を拾ってくれないか。待ち合わ
  せをしているんだ。後の目的地はその時に
  告げる」

紫色の髪の青年は、かねてからの指示通りにタ
クシーに乗り込んだ。
今日彼は、自分を援助してくれているエミリア
の代理人と初めて会うので、慎重に事を進めな
ければならない。
もっとも、オーブでの経歴が既に終っていて、
親にも見放されている自分を監視する人などは
ほとんどいないのだが。

 「まあ、それももうすぐさ」

先の大戦のオノゴロ島決戦後にユウナの運命は
大きく変わっていた。
戦闘前には、常に上層部と掛け合って必死に戦
力を蓄えたり、効率的に部隊を運営しようと拙
いながらも努力し、戦闘時も出撃はしなかった
が、格納庫などで部下を叱咤激励して回ってい
たカガリが株を上げてミナに続いて実質的な軍
のナンバー2と目されるようになったのに対し
て、部下を差別して取り扱ったうえに、階級が
下の者と賭けをして負けた挙句、パンツ一丁で
基地のグランドを走り回ったうえに、戦闘時に
は、怖がって基地の奥に引っ込んでいたユウナ
は大きく株を下げて、セイラン家が軍への影響
力をほとんど失ってしまう要因を作ってしまっ
た。
父親のウナトは、別に軍にそれほどの影響力が
なくても、政権を運営できる力量を持っていた
のだが、仕事が面倒くさくなったのは事実であ
り、ウナト自身も息子に期待しなくなっていた
のだ。
一応彼はオーブ軍少将なのだが、無任所将軍の
彼にする事は無く、軍からも、「別に来なくて
も結構です」と言われていたので、無為の日々
を過ごしていた。
そんな時に、ユウナはエミリアの使いという男
達からの接触を受けて、様々な支援を受けてい
たのだ。

 「お父上を見返したくありませんか?我々と
  組めばそれが可能です」 

 「父上はオーブの代表首長だ。足を引っ張る
  わけには・・・」

 「大丈夫ですよ。各国の政治家達を御覧なさ
  い。どう転んでも良いように様々な勢力と
  結んでいます。あなたが我々と組んで、父
  上が困る事はありませんよ。成功すれば、
  アスハ家とサハク家を没落させて、セイラ
  ン家の栄光が代々続きますし、万が一失敗
  しても、ウナト様も欲のある一人の人間で
  す。権力を使って自分を庇うでしょうし、
  当然、あなたも庇って誤魔化す事になりま
  す。だから、どう転んでもあなたに損はな
  いですし、我々は懸命に努力して成功させ
  ますから。あなたは力を蓄えてから、クー
  デターを起こして代表首長の座に就き、ユ
  ーラシア連合と手を組んで影響力の拡大を
  図ります」

 「二国で世界を敵に回すのかい?」

 「オーブがこちらに付いてくれれば、地政学
  的に赤道連合と大洋州連合もこちらに付く
  というか、敵にはなりませんよ。それに、
  プラントを引っ張り込みます」

 「プラントをかい?」

 「誰が彼らに水や食料を運んでいると思って
  いるんですか?」

 「確かにそうだね」

 「他の物も運ばないといけませんから、安全
  保障上カグヤのマスドライバーが使えない
  事は、プラントにとっては大損害です。カ
  リフォルニアのマスドライバーは自国のコ
  ロニーへの輸送で手一杯ですし、パナマは
  稼動を再開させたばかりで、まだ輸送量も
  いまいちです。そして、コロニーはプラン
  トだけではないのです。他国は当然、自国
  のコロニーを最優先します。そうしなけれ
  ば、その政治家は失格ですからね」

 「プラントがこちらに付けば、南アメリカ合
  衆国、イスラム連合、極東連合、アフリカ
  共同体、マダガスカル共和国がこちらに付
  く可能性が高いと?」

 「さすがですね。ユウナ様は」

 「恐ろしい事を考えるんだね」

 「宇宙の化物も、水や食料が無いと生きてい
  けませんから。プラントの食料自給率は、
  まだ100%に届いていません。そして、
  プラントが現実路線を選ぶ可能性は非常に
  高い」

 「大西洋連邦、西アジア共和国、中国は負け
  組みに転落か」

 「要は我々が勝てばいいのですよ。勝てば正
  義です。それは、ユウナ様が一番ご存知で
  しょう?」

 「まあね」

ユウナという男は決してバカではなかった。
父親の期待を一身に受けて、最高の教育を施さ
れていて、人が聞けば驚くような高レベルの学
校を優秀な成績で卒業しているのだ。
ただ世間を知らな過ぎるし、自分が5大氏族の
出である事を鼻に掛けている部分があって傲慢
であった。
そして、与えられた課題を無難にこなす事は得
意であったが、自分で考えて物事を実行する事
が苦手だったのだ。
特に、ピンチになるとうろたえたり、舞い上が
ってしまって、おかしな命令を出すところが、
軍人としても、政治家としても致命的であった
。  

 「それで、手を貸す見返りは?」

 「ユーラシア連合の現政権を認めて、自由貿
  易を認める事です」

 「今もオーブやスカンジナビア王国経由で貿
  易は行っているじゃないか」

 「あくまでも、民生品のみです。これを資源
  や軍需品にも広げて欲しいのです」

 「そのくらいなら構わないけど、上手く事が
  進んだらという条件が付くな」

 「我々はそのために、努力をさせていただき
  ます」

こうして、ユウナはこの男の口車に乗って、エ
ミリア達に手を貸す事にした。
失敗しても、責任を取らなくても良い。
この部分に共感するところが、ユウナの人間と
しての限界であった。

協力を引き受けた彼が第一に始めた事は、自分
の子飼いになりそうな船会社を見つける事であ
った。
エミリアの部下が調べてきた会社の経営者と面
談して、利益で味方に引きずり込み、違法であ
る軍需物資を積み込ませてからユーラシア連合
領の港に運び込ませていた。
普通は、新国連の査察が入るものなのだが、悪
事に加担しているのがオーブの現代表の息子で
ある事を見抜けなかったために、多くの軍需物
資がユーラシア連合領のシベリア基地に流れ込
んでいて、新型量産機や試作機の材料になって
いた。
次に、エミリアの部下の紹介で仲間にした海賊
に自分の会社と関係ない会社の商船を襲撃させ
て、その積荷を買い取ってユーラシア連合に密
輸する行為を繰り返していた。
もっとも、ユウナは顔を貸してお墨付きを与え
ているだけで、実際の行動は彼らが行っていた
が。

 「こうして、蓄えた資金で軍人を買収して手
  駒を増やす。軍人にも欲深い連中は多いで 
  すからね」

ユウナは彼の言葉に従って、金銭に困っていた
軍人や弱みを持つ軍人を、巧みに仲間に引きず
り込んでいた。
人に言われた事は確実に素早くこなす。
ユウナ・ロマ・セイランの面目躍如であった。

そんな事を始めてから数ヶ月、ユウナは初めて
エミリアの代理人とやらに会う事になったのだ
が、その手順は慎重を期すものであった。 

 「始めまして。私クロードと申します。以後
  お見知りおきを」 

事前の手筈の通り、タクシーに乗り込んできた
クロードが、ユウナに丁寧に挨拶をする。

 「手を貸して貰えて感謝するよ。君は優秀な
  んだね」

 「私よりも優秀な人は多数いますよ」

 「謙遜だね」

タクシーが一軒のカラオケボックスに到着する
と、二人はタクシーを降りて受付を済ませてか
ら、ある部屋に入って話を進める事にする。

 「カラオケボックスが密談場所か」

 「防音は完璧ですし、意外性を狙っています
  から」

 「なるほどね」

 「まずは、計画が順調である事をお祝い申し
  あげます」

 「ありがとう」

 「ですが、やっかいな連中が来ます」

 「ザフト軍の(ミネルバ)かい?」

 「そうです」

 「対策はあるのかい?」

 「情報を上手く流す事に成功しまして、オー
  ブに派遣された特殊対応部隊の艦艇は二隻
  のみです。自衛隊の(はりま)と(すおう
  )は中東に回される事になりました。所詮
  は海賊だし、援軍も大した事はないから二
  隻で十分だ。おかげで、敵は二隻の艦艇と
  三十機あまりのモビルスーツのみです。我
  々は、海賊の戦力と援軍を合わせて百機近
  いモビルスーツと六隻の潜水艦を集めてい
  ます。海賊の情報を流して、二隻が攻撃を
  仕掛けてきたところを包囲殲滅します。そ
  うすれば、当面の驚異は去り、あなたも決
  起し易くなるでしょう」 

 「(アマテラス)はアスハ派の巣窟だからね
  。沈んでくれればありがたい」

 「こちらとしても、邪魔な(ミネルバ)が沈
  んでくれれば、ありがたい」 

クロードは、始めはたかが一隻の戦艦とたかを
くくっていたが、朝鮮半島、中国大陸と邪魔さ
れてきたので、ここで始末しておこうと考えて
いたのだ。
 
 「それで、仕掛けは間に合うのかな?」

 「大丈夫ですよ。一週間もすれば、連中の最
  後が拝めますから」

 「それは楽しみだね。アスハ派の有力幹部を
  多数殺害できて、宇宙を拠点にしているサ
  ハク家の連中は手も足も出ない。父上も私
  の覚悟を見れば、全面的に協力してくれる
  だろう。僕の勝ちは確実だね」

 「そうですね」

 「ああ、久しぶりに気分が良いな。一曲歌う
  か」

その後、機嫌が良くなったユウナは、最新ヒッ
ト曲を熱唱してから帰途についた。

 「お兄様、バカは帰った?」

 「ちょっとおだてたらご機嫌だったね」

 「本当にクーデターなんて成功すると思って
  いるのかしら?」

 「俺は、全ての情報を与えているつもりなん
  だけど、彼が都合良い情報しか頭に入れな
  いから」

 「要は、特殊対応部隊の二隻が落とせればオ
  ーケーなのよね」

 「そういう事。ミリアも一曲歌うか?」

 「そうね」

五日前にオーブに密入国してから、アジトに篭
りっぱなしであったので、ミリアはここぞとば
かりに、何曲もの歌を歌っている。

 「アヤはどうしたんだ?」

 「買物だって」

 「女って生き物は買物が好きだな」

 「私も色々頼んでいるし」

 「そうかい」

実は、アヤはネットカフェでディアッカとメー
ルのやり取りをしていたのだが、その事は二人
だけの秘密であった。

         アヤへ

 俺は元気だけど、アヤに会えないのは辛いな
 。部下の女性パイロットが正月だから、振袖
 を着ていたんだけど、アヤの方が良く似合う
 んだろうな。今度機会があったら見せてくれ
 よ。軍機等もあってなかなかメール出来なく
 てごめんな。じゃあ、またメールするから。   

             ディアッカより

 
        ディアッカへ

 今日もお嬢様はご機嫌斜めだけど、私は元気
 にやっているわ。振袖か。実は浴衣とか振袖
 とかは、着た事がないのよね。 是非、機会
 があったら着てみたいな。その時は、ディア
 ッカは似合うって褒めてくれるかな?私もあ
 なたに会いたいな。じゃあ、またメールする
 ね。 
                アヤより


お互いに秘密を守るために、外部から発進する
短いメールのみが二人を繋ぐ絆であったが、そ
の絆は何よりも太いものであった。
だが、これから二人に降りかかる悲劇的な展開
を予想できる者は、まだ一人もいなかった。


(一月五日、オノゴロ島秘密ドッグ内)

長い航海を終え、ようやくオーブに到着した俺
達は、ウナト代表の出迎えを受けた。

 「久しぶりだね。カザマ司令」

 「お久しぶりです。代表自らのお出迎え感謝
  します」

 「実は、重要な話があってな。すぐに会議を
  始めたいんだ」

 「当然、内容は秘密ですよね」

 「副司令と君だけの参加にしてくれないか?
  」

 「了解です」

俺とアーサーさんは、すぐに対策会議を開始す
るために、案内された会議室に入った。
会議室の外には銃を持った兵士が構えていて、
盗聴対策も万全な部屋で行われる事になってい
た。

 「やあ、親父じゃないか」

 「モルゲンレーテ社常務取締役のカザマです
  。よろしく」

 「ザフト軍特殊対応部隊司令官のカザマです
  。よろしく」

一応、正式な挨拶くらいはしておく事にする。

 「お前が来てもなーーー」

 「どういう事だよ!」

 「ラクスが来てくれれば良いのに。孫が待ち
  遠しいな」

 「もう、シャトルには乗せられないから、あ
  きらめろ」

 「母さんが二月に入ったら世話に行くそうな
  んだよ。俺も会社を休んで行こうかな」

 「役員がおいそれと休むな」

 「あーあ、キラにこれ以上仕事を押し付ける
  と、母さんが怒るからな」

 「どうせ、コキ使ったんだろう」

 「(ムラサメ)の時にちょっとだけだぞ」

 「信じられないな」

そんな話をしていると、ウナト様、カガリ、ミ
ナ様、キサカ准将などのオーブの政治家と軍人
の重鎮達が中に入ってくる。

 「では、会議を始めるか」

 「ゲストがいるのだよ」

 「誰ですか?」

ウナト様の言葉で会議室のドアが開き、四十代
半ば位の男性と、デュランダル外交委員長が入
室してくる。 

 「また無理難題ですか?」

 「多分、無理ではないと思うが・・・」

デュランダル外交委員長が口をつぐむので、俺
は再び不安になってしまう。 

 「時間も無い事だし、会議を始めよう」

ウナト様の開会宣言で、VIPばかりが集まっ
た重要会議が始まった。

 「会議の議題は、海賊退治の事だ」

 「そんな話は何回もしただろうが。いちいち
  、そんな事で私を宇宙から呼ばないで欲し
  いな」

宇宙で海賊退治を行っている、ミナ様から不満
の声があがった。
彼女は忙しい身の上なので当然であろう。

 「今日は、海賊に手を貸している連中の正体
  が割れたから、そいつらの報告をしようと
  思う。まずは、これを見てくれ」

ウナト様がモニターのスイッチを入れると、い
くつかのグラフが表示された。

 「まずは、海賊の日にち別の被害数を表した
  クラフで、次は積荷の種類別のグラフだ。
  そして、最後は被害を受けた会社別のグラ
  フがこれだ」

 「うーん、軍需物資が多いな」

 「プラントからオーブ経由で南アメリカ合衆
  国行きの荷と、アフリカ共同体とイスラム
  連合行きの積荷が狙われている。つまり、
  例のエミリア達が、戦力を派遣している国
  への物資が集中して襲撃されているのだ」

 「敵の食料を一石奪う事は、十石分の損害を
  与える事に等しいですか?」

昔少しだけ読んだ事のある孫氏の内容を思い出
す。

 「カザマ司令は鋭いな。そういう事だ」

 「つまり、奪われた荷はエミリア達に渡って
  いると?」

 「会社別のグラフを見てくれ。ゼロでは無い
  が、損害の少ない会社が数社あるだろう?積荷
  が襲撃された数日後に、彼らの船便が増え
  ているんだ」

 「奪った荷は彼らの船で、ユーラシア連合に
  輸出される。しかも、軍需品だから密輸扱
  いでって事ですか?」

 「書類上は、民生品として輸出されている」

 「確認はしないんですか?」

 「ある人物の横槍が入って不可能だ」

 「それって、誰ですか?」

 「会社別のグラフを見てみろ。我々と仲が良
  い会社と、アスハ家と仲が良い会社の被害
  が大きい」

 「じゃあ、犯人はウナト様ですか?」

ミナ様の指摘を受けて、俺はウナト様犯人説を
うちあげた。

 「まあ、はずれではないな」

 「えーーー!そんな!」

アーサーさんの驚きの声とともに、全員の視線
がウナト様の方を向いた。

 「ハズレではないですか。セイラン家の誰か
  が犯人という事ですか?」

 「そうだ。犯人はユウナのバカだ!」

ウナト様が珍しく声を荒げて、その事実を口に
した。

 「ユウナ様ですか。正直、久しぶりに聞く名
  前ですね」

 「あまりにバカが目立つから、少将の地位の
  まま放っておいたんだ。まさか、こんなバ
  カな事をするとは思わなかった・・・」

 「しかし、ここ数日で急にわかったのですか
  ?」

 「情報源は彼だ。彼はアーガイル海運の会長
  で、ファルハ・アーガイル会長だ。カザマ
  司令には、サイ君の父上と言った方が通り
  が良いかな?」

 「始めまして。息子がお世話になっています
  」

 「ただ、温泉で遊んでいるだけですけど」

 「いえいえ、跡取り息子であるサイがあれだ
  けのメンバーとプライベートで遊べるとい
  う事が凄いのです。その縁を提供してくれ
  たあなたに感謝していますよ」

 「彼はキラ達の面倒を良く見ていますからね
  。優秀な息子さんじゃないですか」

 「まだまだですよ」

 「それで、情報源はアーガイル会長だそうで
  ?」

 「ええ、簡単な事ですよ。潰れかけていた船
  会社が、ユウナ様と接触した直後に大量の
  仕事が舞い込み、景気が良くなる。いくら
  何でも話が上手すぎです。それに、その会
  社にはおかしな連中が出入りしていると評
  判ですから」

オーブでは、海賊関係の話は報道規制が敷かれ
ているので、あまり伝わってはいないのだが、
当の船会社達は、独自に情報を集めるほどに敏
感に反応しているようだ

 「ユウナ、海賊、エミリアの仲間達。繋がっ
  た彼らが何を目指しているのか・・・」

 「それは、キサカ准将の報告を聞いてから考
  えよう」

 「では、報告します。軍内部では問題児達ば
  かりが数十人集まって、定期的に会合を繰
  り返しています。果たして、何を目論んで
  いる事やら。実はその船会社経由で資金も
  流れ込んでいるようでして、憲兵は収賄事
  件として調べ始めていたのですが・・・」

 「クーデター計画でもしているのですかね」

 「多分、そうだろうな」

 「でも、随分あっさりと漏れるものなんです
  ね」

 「悪いが、ユウナの力量ならその程度だ」

 「悔しいが、否定は出来ないな」

ミナ様の容赦ない一言を、ウナト様は素直に認
めてしまう。

 「普通なら逮捕して終わりのところなのに、
  わざわざ会議を開くところを見ると、特別
  な事情がおありなのですか?」

 「この件は内密に処理したいのだよ」

 「虫の良い意見ですね。現代表の息子のクー
  デター計画を内密に処理するんですか?」

 「現代表の息子のクーデター計画だからこそ
  、内密に処理するのだよ」

 「それで、デュランダル外交委員長のお出ま
  しですか?」

 「プラントとしては、オーブの混乱は座視で
  きない事態でね。事件を公にして処理をも
  たつかせでもすると、プラントの生命線で
  ある、マスドライバーからの輸送に影響が 
  出ないとは言い切れないからな。そこで、
  プラントは今回の事件の解決に協力して、
  秘密を守ろうという事になったのだよ」

 「またまた。どうせ、ヨップ隊長が掴んで来
  たのでしょう?今回の事件の真相を。そし
  て、オーブに大きな貸しを作っておこうと
  いう事ですよね?」 

 「ウナト殿!わかってはいるとは思うが、大
  失態だぞ!」

カガリは、大声でウナト様の責任を追求し始め
た。
海賊達は秘密を守るために、かなりの数の船員
を殺害していて、その犠牲者は3ケタに達しよ
うとしているのだ。
彼女の性格からして、絶対に許せない事なのだ
ろう。   

 「そうですね。一般庶民からの意見を言わせ
  て貰いますと、ユウナ様の罪は極刑ものだ
  という事を理解しておいて下さい」

 「モルゲンレーテ社としましても、政府から
  の補償はして貰っていますが、高価な原料
  や部品に大量の損失を出しているうえに、
  (ムラサメ)の生産に大きな遅れを出して
  います。例の日本から輸入している、特殊
  金属部品の輸送の遅れは致命的です。無論
  、オーブでも生産可能な品ですが、せっか
  くコスト削減のために費やした努力が全て
  水の泡です。第一、部品の内製率に目を瞑
  って、兵器生産のコスト削減を指示したの
  はあなたなのですよ。ウナト代表」

親父の怒りのボルテージは相当なものらしい。
オーブの現代表に食って掛かっているのだから

 「アーガイル海運や他社としましても、隠す
  のは限界なのです。保険会社が勘付き始め
  まして、保険料の値上げを示唆し始めてい
  ます。もし保険料が値上がりすれば、中継
  貿易が世界で一番盛んなオーブの経済がど
  うなるのか。それがわからぬウナト代表で
  もありますまい」

サイの親父さんは、オーブの主要な船会社の総
意を代表してこの場に出席しているようだ。

 「皆さんの意見は拝聴しました。結論から言
  えば、私はこの件を処理してから代表を辞
  任する事をここに宣言します。後任はミナ
  殿、あなたが最有力でしょうな」

 「本気か?ウナト殿!」

ミナ様は突然の事で珍しく動揺しているようだ

ウナト政権はあと十年は安泰。
これが、世間の認識だったからだ。

 「セイラン家は、どうなさるおつもりですか
  ?」

アスハ家、セイラン家、サハク家の三家で、持
ち回りで代表首長を務めて一家の独裁を防ぎ、
オーブの硬直化を防ぐ。
これが、オーブ5大氏族達の共通した意見であ
ったはずだ。
もしそこから、セイラン家が抜ける事になると
、そこに入る家を決める過程で大きな混乱が起
こる可能性があるが、ウナト様の息子はユウナ
一人だ。
さすがに、彼の息子を表舞台に出すのは難しい
し、彼はまだ独身だ。
更に、このままでは結婚も出来なくなる事は決
定だろう。

 「親戚筋の家から養子を取る。その義理の息
  子の代表首長就任は無いが、その子供に期
  待する事にするよ。ユウナは一生厳しい監
  視を付けて軟禁状態にする。せめて、殺さ
  ないのが親の私に出来る唯一の事だ。無論
  、我侭である事はわかっているが・・・」

監視を付けられて、一生軟禁される生活ほど辛
いものはない。
多分、家族と世話人以外との接触もないであろ
うから、死刑の方が幸せなのかも知れない。
生きてさえいれば。
親のエゴでユウナは、抜け殻のような後半生を
送る事が決定したのだ。

 「でも、変ですね」

 「何がだ?」

俺が疑問の声をあげると、ミナ様がそれに反応
した。

 「あっさりと、全容が解明した事がです」

 「オーブの力を侮って貰っては困る」

 「ですが、タイミングが良すぎです。ユウナ
  は、始めから捨て駒だったのかも知れない
  」

 「そう言われると、そうかもしれないな。ふ
  っ、憐れな男だな。ユウナは」

 「それで、これからどうするんですか?」

 「まず、密輸容疑で船会社を押さえ、同時に
  軍の不穏分子を収賄の容疑で拘束する」

 「ユウナはどうするんですか?」

俺はもうユウナに様を付ける事を止めにしたが
、誰もそれを咎めなかった。 

 「同時に拘束して、全容を吐かせるさ。それ
  から、(ミネルバ)と(アマテラス)を急
  行させて海賊を殲滅させる」

 「まあ、妥当なところですかね」

 「全ての行動は連続して行わないと上手くい
  かないので、(ミネルバ)と(アマテラス
  )の補給と修理が完了して、(ザク)と(
  センプウ改)の水中用武装パックの搬入と
  テストが終るまでは、休みなどを取りつつ
  奴等を油断させておいてくれ」

 「水中用武装パックですか?」

 「今までの目撃談を推察するに、使用モビル
  スーツは(グーン)(ゾノ)(カイオウ)
  (ディープフォビトゥン)が二十機ほどら
  しい」

 「(ミネルバ)には(ザク)が二機と(セン
  プウ改)が五機のみですよ。(アビス)を
  入れて水中戦が考慮できるモビルスーツは
  八機という事ですね。それで大丈夫ですか
  ?」

 「今回は(アマテラス)に(センプウ改)を
  十機積んで行くし、護衛艦を四隻連れて行
  くから、その艦上にも二機ずつ搭載して合
  計十八機だ。質・数ともに優勢だから大丈
  夫だ」

俺はカガリの説明を聞いて安心したのだが、後
日に自分の判断の甘さで、大ピンチに陥る事に
なってしまったのであった。


 「これが、水中用武装パックなのか?」

 「M−1用の水中戦パックを改良したものだ
  。元のパックは不採用機の物だから、試作
  品しか無くてな」

オノゴロ島の秘密ドッグで、俺達は親父から水
中用武装パックの説明を受けていた。 
水中用武装パックと言う名前だが、ぶっちゃけ
水中バイクとその付属品に見える。

 「そんな物で大丈夫なのか?」

 「(センプウ改)と(ザク)に使えるように
  手直しはしてある。武装は高速誘導魚雷が
  二門と、リニアレールキャノンが二門で、
  オマケで高周波振動刃を先端に搭載したロ
  ングランスを装備している。こいつは、フ
  ェイズシフト装甲を突き破れるうえに、水
  中でも使用可能だ」

これらの装備の原型は自衛隊が開発したもので
、あのサーペントテールのメンバーが実戦テス
トを行ったと噂されるものであった。

 「エ○ァのプログナイフのようなものか?」

 「お前いくつだよ・・・。まあ、似たような
  ものだが。理論的には、攻撃力に特化した
  フェイズシフト装甲かな?なので、やたら
  にエネルギーを食うから、(カイオウ)対
  策の武装なんだ。宇宙や空中では、ビーム
  サーベルの方が楽だからな」

数百年前の古典アニメの装備を引き合いに出す
息子と、実際にそれに似た物を開発してしまっ
た自分にあきれながらも、その通りである事を
認めしまう父親がいた。

 「何で(カイオウ)を海賊が持っているんだ
  よ。あれは、ある意味最強の水中用モビル
  スーツだぜ」

自衛隊が開発・量産・配備をした水中用モビル
スーツ「カイオウ」は、手や足が存在しないが
、フェイズシフト装甲完備で高速機動性能に優
れていた。
目的に突撃して、直前で発生させたビームブレ
ードで敵艦を切り裂く。
倒すには、大量の魚雷かレールガンを叩きつけ
るか、ゼロ距離でビーム兵器を使用するしかな
かったのだ。
水中でビーム兵器を使うと効率的でないし、威
力も有効範囲も限定されてしまうのだが、相手
はフェイズシフト装甲なので、仕方がなかった

 「フェイズシフト装甲完備、水の抵抗を考慮
  した流線的なフォルム、足元には強力なス
  ラスター。この三つしか特徴がないし、手
  や足すら無いんだ。技術力があれば、どこ
  の国や企業でも量産が可能だ。こいつのせ
  いで、オーブ軍の警備艇や小型潜水艦が数
  隻沈められているからな。対抗策が揃うま
  で、戦時でもないのに非効率な船団護衛を
  オーブ近海で行っているんだよ。その手間
  たるや大変なものさ。他国の政府も気が付
  いてはいると思うが、オーブ発の株式相場
  の下落やら、不景気の始まりはごめんらし
  くて、暖かく見守ってくれているのさ」 

 「それで、水中用武装パックの取り付けはい
  つ終るんだ?」

 「明日の朝には終わるさ。後は実際に動かし
  て調整するだけだ」

 「ふうん。じゃあ、明日は訓練だな。(ミネ
  ルバ)に水中戦のエキスパートなんて存在
  しないからな」

 「搭乗員割りはどうしますか?」

最近、ご機嫌な事が多いディアッカが、俺に聞
いてくる。

 「(アビス)はシエロに任せるよ。経験者だ
  からな。(センプウ改)はリーカさん、テ
  ル、ステラ、バークレイ、ギャボットの五
  名で、俺とディアッカは(ザク)に乗るか
  な」

結局、中国大陸での戦いで補充されたパイロッ
トの内、継続して「ミネルバ」に補充されたメ
ンバーは二名のみであった。
デュランダル外交委員長が言うには、エジプト
周辺の戦いが激しいらしく、パイロットが不足
しているからとの事らしい。

 「せめて、あと二人、パイロットを回してく
  れればな。デュランダル外交委員長もケチ
  だよな」

 「ケチで悪かったね」

 「あれ?いらしたのですか?」

噂をすれば何とかで、俺の後ろにデュランダル
外交委員長が立っていた。

 「いらしたさ。ケチな男ですまなかったね」

 「ははは、聞こえてましたか」

 「私は、エザリア国防委員長の代理人の立場
  なのでね。パイロットの人数に責任は持て
  ないが、カザマ司令がケチババアと言って
  いた事だけは伝えておこう」

 「ババアは余計ですって。しかも、言ってな
  いし」

 「そうだったかな?」

 「自分の考えを俺の意見にしないで下さいよ
  。娘さんと引き離された事を、そんなに恨
  んでいるのですか?」

 「ああ、日々成長していく可愛いレミの姿が
  見られないとは、一生懸命仕事をして報告
  をしても、年増のカナーバ議長とエザリア
  国防委員長の顔しか拝めないし、別にそれ 
  ほど見たいものでもないし・・・。最近、
  タリアも冷たいしな」

 「危険な発言ですね・・・」

 「本人に漏れなければ、どうという事はない
  さ。事実だしな」

 「・・・・・・・・・」

 「さて、私は次の仕事先に向かうかな」

そう言いながら秘密ドッグをあとにするデュラ
ンダル外交委員長の背中には、哀愁が漂ってい
た。

 「俺も十年後には、ああなるのかな?」

 「覚悟しておけよ。ヨシヒロ」

いつのまにか隣りにいた親父に肩を叩かれた俺
は、どう答えて良いのかわからなかった。 


 「カザマ君、実家に帰ってあげなさいよ。留
  守番くらい私達がするから。それに、ステ
  ラも連れていってあげなさい」

 「その通りだよ。お母さんと会うのは久しぶ
  りなんだろう?」

水中用武装パックの取り付けと調整を終えた俺
達は、夜に交替で半分ずつが上陸する事になっ
たのだが、リーカさんとアーサーさんに譲られ
た俺が初日に上陸する事になった。

 「では、遠慮なく行きますね」

 「前の時と同じで近いからね。緊急時にも駆
  けつけ易いだろう?」     

 「そういえば、そうですね。ステラ、母さん
  のところに行くぞ」

 「うん。ステラ、早くお母さんに会いたい」

 「シンはどうする?家族はプラントだしな」

 「どうしましょうかね。どこかで飯を食うか
  な」

 「シン、一緒に家に行こう」

 「えっ、いいの?ステラ」

 「いいよね?ヨシヒロ」

 「そうだな。まだオノゴロ島の復旧は完全じ
  ゃないから、店なんてそんなにないぞ」

オノゴロ島は、先の大戦時に行われた攻防戦で
廃墟とハゲ山になってしまって、現時点での復
旧率は六割程度という有様であった。
しかも、モルゲンレーテ社社員と島民の住居が
最優先だったので、昔ラクスとデートしたショ
ッピングモールや中心街、マリューさんと行っ
た高級レストランも再開していないらしい。

 「じゃあ、お邪魔させていただきます」

 「私も行きます!」

 「ルナも上陸組だったかな」

 「はい!そうです」

 「レイは?」

 「デュランダル外交委員長と待ち合わせて、
  夕食だそうです」

 「親子だから当たり前か」

 「メイリンは?」

 「当然、私も行きます!」

 「ヨウランとヴィーノは?」

 「整備班のお休みは明日になっている。水中
  用武装パックの調整があるからな」

シンの質問に俺が答えてあげる。

 「ディアッカも来るだろう?多分、アスラン
  やニコルも来てると思うよ」

 「当然、行きますよ。シホちゃんはどうする
  のかな?」

 「だから、シホちゃんって呼ばないでよ。行
  きますよ」

 「じゃあ、出かけるか」

俺達は、集団で秘密ドッグを出てから車に乗っ
て、俺の実家に向けて出発する。
ドッグ近くのモルゲンレーテ社のビルは、復旧
されていて綺麗なものであったが、周りの森林
地帯は黒焦げのままで、今にも焦げた匂いが漂
ってきそうであった。
そして、多数の残骸がまだ残っているようだ。

 「まだ完全に復旧していないんですね」

 「もう数年はかかるだろうな」

わずか数分で、事前に聞いていた社宅の前に到
着するが、住所は以前のままのようだ。

 「でも、家がでかくなっているな」

 「あれ?表札を見て下さいよ」

ディアッカの指摘で表札を見ると、そこにはニ
コルとキラの名前が入っていた。

 「入り婿かな?」

 「一緒に住んでいるだけですよ。両親が生活
  の拠点を、オロファト周辺に変えてしまっ
  たので」

 「僕は貧乏学生ですから」

 「キラとニコルか!」

 「約一年ぶりですね」

 「そうだな。けど・・・。精悍になったとい
  うか、やつれたというか・・・」

ニコルは少し大人っぽくなっている程度だった
が、キラは目の下に隈を作って、痩せてしまっ
ていた。

 「キラ、大丈夫か?」

 「多分大丈夫です。カレッジの学生、モルゲ
  ンレーテ社の開発課長、オーブ軍技術二佐
  の三足の草鞋生活が厳しいだけですから・
  ・・」

 「過労死するなよ」

 「神に祈って下さいよ」

 「・・・・・・・・・」

その後、キラの案内で家に入ると、見慣れた仲
間達が広いリビング内で寛いでいた。

 「みんな元気そうだな」

 「そうですね。死に掛けてるのはキラくらい
  ですね」

ミリィが辛辣だが、事実に近い事を言っている

 「俺達はもうカレッジを卒業したんですけど
  、キラは卒論が書けないから今年に延びた
  んですよ。まあ、キラがカレッジに通う必 
  要なんて、ないのかもしれませんけど」

 「だよな。モビルスーツの開発までしている
  男だからな」

 「お兄さんからも、お父さんに言ってよ。こ
  のままだと、キラが過労死しちゃう!」

キッチンからお菓子とお茶を運んできたレイナ
が心配そうな顔をして俺に頼み込んできた。
どうやら、俺との再会よりもキラの健康状態の
方が重要らしい。
何か無性に寂しさを感じてしまった。

 「キラは優秀だからな。与えられた仕事を完
  璧に期限内にこなすものだから、つい仕事
  を頼み過ぎてしまうらしい」

 「アスランに頼めば良いのに。機械工作は得
  意だろう?」

 「俺も忙しいんですけど・・・。それに、俺
  のは趣味程度のものですから」

アスランがカガリを伴って入ってきたので、話
をふってみたが、アスランも断りを入れるほど
、キラのスケジュールは殺人的らしい。

 「話は変わるけど、トールとミリィは就職し
  たんだよな?」

 「モルゲンレーテ社で平社員ですよ。一応、
  技術課ですけど」

 「私は総務ですから。完全に畑違いですね」

 「カズイは?」

 「僕は院生コースに進んで、そのままカレッ
  ジの研究所勤務の予定です」

 「フレイとサイは?」

 「サイはお父さんの跡を継ぐので、お父さん
  の会社に就職しましたよ。肩書きは社長室
  長だったかな。フレイは今年卒業ですから
  」 

 「フレイは卒業したら、プラントに上がるか
  らな」

 「フレイは本当に変わったわね。昔はコーデ
  ィネーターが苦手だったのに。まさか、そ
  のコーディネーターと婚約するなんて・・
  ・」

 「ここに、らしくないコーディネーターがい
  るからね。印象が変わったんじゃないの?
  」

 「それって俺の事か?」

 「兄貴以外に誰がいるのよ」

オードブルの大皿を持ちながら、カナがリビン
グに入ってきた。

 「母さんは?」

 「料理を作成中よ。そろそろ来ると思うけど
  」

 「ステラ、女らしくなったわね」

突然、顔を出した母さんは、俺を完璧にスルー
してステラを抱きしめた。

 「お母さん、ただいま」

 「おかえりなさい。ステラ」

 「あれ?可愛い息子である俺に、何か一言は
  ?」

 「あら、いたの?」

 「酷っ!格好良くて、出世した息子がここに
  いますよ」

 「息子なら、キラとニコルの方が格好良いか
  ら」

 「俺の地位ってそんなもの?しかも、まだ息
  子じゃないだろうが!キラとニコルは」

 「世の中ってそんなものよ」

 「ちぇっ!どうせ俺なんて・・・」

以前にどこかで聞いたような台詞を耳にしなが
ら、俺は部屋の隅でいじけ始める。

 「おや、俺の定位置にヨシヒロがいる」

親父は部屋の隅でよくいじけているらしく、自
分の定位置を完全に覚えていた。 

 「親父と俺が同等の地位か・・・」

風呂上りらしく、Tシャツと短パン姿で缶ビー
ルを持ちながらリビングに入ってきた親父が、
俺に悲しい現実を告げるのであった。

家訓その一、カザマ家の男は、社会的地位と家
での地位が反比例する。
この悲しい事実が確認された瞬間であった。


 「それじゃあ、再会を祝して乾杯!」

 「「「「「乾杯!」」」」」

その後、サイとイザークに貰った大型のバイク
に乗ったフレイが登場して、パーティーが始ま
った。

 「そのバイク良いなーーー」

 「私のはイザークが貰った商品ですけど、買
  うと高いですよ」

 「いくらなの?」

 「これ、特別バージョンで四万アースダラー
  です」

 「車が買えるな」

 「あのコスプレコンテストの一位の商品だっ
  た車は10万アースダラーもするそうです
  。超高級車ですね」

 「あっ!でも、俺の車もそれくらいするな」

 「自分で買ったんですか?」

 「ラクスとお義父さんに貰った」

 「この庶民の敵がーーー!」

俺はいきなり親父に拳骨を喰らった。

 「痛いな!何するんだよ!」

 「サラリーマン生活二十年以上の俺が、自分
  で車を持てずに、社用車とレンタカーで済
  ませているのに生意気だぞ!」

 「どうせ、週末しか乗らないからそれで十分
  です。維持費がかかるでしょうが」

 「母さん、車買ってよーーー。社員割引が効
  くんだよーーー」

 「駄目です!」

 「ケチババア・・・」

 「何ですってーーー!」

珍しく親父が反抗して始まった夫婦喧嘩を尻目
に、トール達が悲しい表情をしていた。

 「どうしたんだ?」

 「苦労して役員になっても、車一つ買えない
  なんて・・・」

 「いや、うちは特殊だから。キラは車持って
  るだろ?」

 「はい」

 「キラは金持ちだから、高級車を持ってます
  よ」

レイナと休みの日に出かけるために購入したら
しいのだが、肝心のキラが忙し過ぎて、レイナ
が密かに乗り回している程度のようだ。
勿論、親父にバレると大変なので、近所に駐車
場を借りて置いてあるようだが。

 「アスランもカガリに買って貰ったじゃない
  」

 「おお!仲間だな。アスラン。同じマスオさ
  ん同士頑張ろうな」

 「ヨシさん、どう頑張るんですか?」

 「さあ?カガリちゃんは、車の運転なんてし
  ないでしょう?」

 「そうだな。運転手がいるからな。アスラン
  と二人きりの時は、アスランが運転するし
  」

カガリが自分で操縦できて、ライセンスを持っ
ているのは、モビルスーツだけのようだ。
さすがに、お姫様は一味違う。

 「ニコルは?」

 「実は持ってるんですよね。車が無いとコン
  サートの時とかの移動が辛いから、買って
  しまいました。車は、本島に置いてありま
  すけど」

オロファト周辺で音楽家としての仕事もしてい
るニコルは、音楽事務所の駐車場を借りて車を
維持しているらしい。 

 「サイは車持ってるか?」

 「ええ、そんなに高いやつじゃありませんけ
  ど。初任給でローンを組んで買いましたよ
  」

本当は、サイの親父さんと会った事を話たかっ
たのだが、それは、重要機密に属するものなの
で、話題にしない事にする。
だが、サイの表情を見ると事情は察しているよ
うだが。

 「カズイは?」

 「僕はバイクですよ。まだ学生ですし」

 「トールも、ローンでも組んで買ったら?」

 「そうしようかな」

 「買ったらドライブに連れて行ってね」

 「勿論さ。ミリィ」

 「相変わらず仲のよろしい事で」

 「シホは車持ってるか?」

 「家に数台あるので、好きなのに乗ってます
  」

 「おお!ブルジョアだな」

 「ラクスの家の方が、お金持ちなんですけど
  ・・・」

 「俺は知りませーーーん!」

 「ディアッカは?」

 「俺も家の車にたまに乗る程度ですよ」

 「シンはバイクを持ってたよな」

 「ええ、あまり乗りませんけどね」

シンはバイクをアカデミーを卒業する間際にバ
イクを購入したのだが、訓練が忙しいのと、誰
を後ろに乗せるのかで争いが絶えなかったので
、あまり乗っていないようだ。

 「レイは物凄い高級車を買ったよな」

 「印税王ですからね」

 「でも、デュランダル外交委員長に貸してい
  るみたいですよ」

プラント最高評議会外交委員長の要職にはある
が、四人の子供を養うデュランダル外交委員長
と、一人身で実家で生活しながらも、書いた曲
の印税で金を持っているレイ。
彼は多少世間に疎いところがあって、贅沢な暮
らしはしないのだが、父親に頼まれてお金を貸
してあげたりしているらしい。
レイは驚くほどの孝行息子であった。

 「デュランダル外交委員長には出来た息子が
  いていいなーーー!車欲しいなーーー!ヨ
  シヒロが買ってくれないかなーーー!」

母さんとの喧嘩を奇跡的に無傷で終了させた親
父が、いつ用意したのかわからないが、車のパ
ンフレットを持って俺に接近してくる。

 「俺、金ないよ」

 「どうせ、給料は全部小遣いなんだろう?」

 「ギクっ!」

 「俺なんて全額家に入れて、少ない小遣いを
  やりくりしているんだぞ。日本人の亭主っ
  て悲しいよな。辛いよな」

 「俺もそうだよ」

 「本当か?」

 「うん、本当」

俺は嘘を付いて親父の追求を逃れる事にする。

 「おい!キラ」

 「何ですか?」

 「親父に車を買ってやれ。その代わり、過酷
  な労働条件を改めさせるんだ。車一台で楽
  になるなら安いものだろう?」

俺はキラを呼び寄せて、車を買ってあげるよう
に小声でアドバイスをした。
キラはOS関係の特許を沢山持っているので、
金を持っていたのだ。
ただ、レイナに管理させているという弱点を抱
えていたが。
そういうところは、母さんの血筋らしい・・・

 「お兄さん、それナイスアイデアね。やっと
  週末に、デートに出かけられる」  

俺達が車の話をしている横で、母さんはステラ
と話をしていた。

 「ステラ、シン君と上手くいってる?」

 「なかなか先に進まない」

 「うーん、ルナマリアさんとメイリンさんか
  。二人とも可愛いからね。でも、ステラに
  負ける要素はないんだけどね」

ルナマリアとメイリンがシンを挟んで話をして
いる横で、母さんはシンを観察しているようだ

 「頑張って、アタックしなさい」

 「うん、わかった」

ステラはシンの元に行き、再び四人で話を始め
た。

 「あれ?等距離に見えるけど、シン君はもう
  選んでいるのね。なるほど。そういう事か
  」

 「何を選んだんだ?母さん」

キラに車を買って貰える事になり、ご機嫌な親
父が母さんに話しかける。

 「シン君が好きな娘の話。もう三人の中から
  選んでいるみたい」

 「誰なんだ?俺にはわからない」

 「あなたには、わからないでしょうね」

 「ステラか!あのクソガキめ!いや、でもス
  テラを選ばないとは!」

 「どっちなのよ・・・」

 「複雑な心境だな。選ばれても選ばれなくて
  も。ところで、誰なんだ?」

 「それは、教えられません」

 「ケチババア」

 「何ですってーーー!」

再び、夫婦は不毛な喧嘩を始めるのであった。


(翌日、オノゴロ島近くの海域)

翌日、俺達は調整を終えた水中用武装パックの
慣らし運転と、あまり経験のない水中戦の訓練
を、このあまり人が来ない海域で行っていた。
当然、目立つ「ミネルバ」はまだ修理中で、こ
の海域をたまたま航行している事になっている
護衛艦隊に引き揚げて貰いながら、細かな調整
を行いつつ、訓練を続行するのであった。

 「意外と癖がなくて動かしやすいな」

 「そうですね」

「ザク」で水中を移動しながら、ディアッカと
感想を話している横で、リーカさん達が「セン
プウ改」を滑らかに動かしていた。

 「まあ、順調かな」

 「オーブ軍の連中もまあまあですね」

 「コーディネーター士官達かな?」

オーブ軍は俺達との共同作戦を考慮して、コー
ディネーター仕官や腕の良い連中を集めて回し
ているようで、ザフト軍パイロットと遜色のな
い腕前をしている。

 「中でも、あの(センプウ改)は良い腕をし
  ているな。誰だろう?」

 「カザマ司令!久しぶりーーー!」

同じく、久しぶりに会ったホー三佐は無駄に元
気だった。

 「ホー三佐か。どうりで腕だけは良いと思っ
  た」

 「だけは余計だーーー!」

 「今回のオーブ軍水中用モビルスーツ隊の指
  揮を執るのはホー三佐?」

 「正解だーーー!」

 「昨日、うちに来れば良かったのに」

 「格闘王兼指揮官の俺は忙しいのだ。今回の
  準備もあったからな。戦勝祝賀会には参加
  させて貰うさ」

 「それは楽しみだな。ところで、アサギは?
  」

 「コードウェル一尉は(タケミカヅチ)級二
  番艦の(スサノオ)のモビルスーツ隊の隊
  長に就任した。今回は、モビルスーツ隊の
  訓練が忙しいから不参加だ」

 「アサギ、出世したなー」

 「俺もこれが終ったら、(タケミカヅチ)に
  戻らないといけないんだ。結構忙しいくて
  、鍛錬の時間が取り難い」

 「ホー三佐がいるなら少し安心だな」

 「潜水艦に乗ったつもりで安心してくれ」

 「それ、安心できるのか?」

 「沈んでも浮かんでくる。安心しろ」

その後、夕方まで訓練をした俺達は、明日の出
発に備えて、オノゴロ島のドッグに戻るのであ
った。


(同時刻、大洋州連合所属の無人島内基地)

この島は、大洋州連合領の無人島という事にな
っているが、オーブも領有権を主張していると
いう、世界中でよくあるトラブルに巻き込まれ
ている島である。
オーブは海賊のアジト候補に何回かあげた事も
あるのだが、複雑な事情を抱えている島なので
、今までに何回も調査にストップが入ってしま
って、詳しい調査ができなかったのだ。
どこの国でも、役人という人種は事なかれ主義
で、オーブ軍がこの海域をウロウロしていると
、せっかく仲が良い二国間の関係を壊してしま
う可能性があると、外務省から抗議が入ってい
るらしい。
外務省はセイラン家の牙城で、ユウナもかなり
顔が利くので、クロードはその状況を利用して
巧みにオーブの足を引っ張っていた。
だが、その状況もそろそろ限界であろう。
外務省の態度に疑問を感じたウナト代表が、極
秘裏に大洋州連合首相と会談して、領土問題を
棚上げしてこの島の調査を行う事に決定したか
らであった。
既に、オーブ領の他の島には調査の手が及んで
いたので、この島くらいしか残っていなかった
のも現実であったが。

 「うーん、意外と設備が整っているんだね」

 「我々の力を信じていただけましたか?」

 「信じるに値するね」

ユウナは「翌日に拘束されますよ」というクロ
ードの忠告に従って、この無人島基地に潜水艦
で逃げ込んでいた。

 「それにしても、凄い数のモビルスーツだね
  」

 「(クライシス)が七十二機ありますので、
  (ノーチラス)級潜水艦六隻に搭載して、
  海賊を攻撃し始めてから奇襲をかけます。
  敵は(ミネルバ)に新型機を含めて十二機
  〜十五機程度で、オーブ軍も三十機は積ん
  でいないでしょうね。海賊達の戦力は、(
  グーン)と(ゾノ)が五機ずつで、(カイ
  オウ)が十二機用意してあります。彼らが
  、倒すのに時間がかかる(カイオウ)を攻
  撃している隙に、七十二機の(クライシス
  )で攻撃をかければ・・・」

 「楽しみだね」

 「昔のお仲間ですが、よろしいので?」

 「本国からの命令とはいえ、所属を簡単に変
  えるような男など死んでくれた方が清々す
  る。二年前の屈辱は決して忘れないさ。親
  子して僕の足を引っ張るカザマめ!絶対に
  殺してやる!そして、婚約者でありながら
  、私を裏切ったカガリと、その恋人である
  アスラン・ザラとその周りの連中どもめ!
  私が代表になったら粛清してやるからな!
  」

ユウナは日頃見せない狂気を声をあげながら、
恨みある人達への復讐を誓うのであった。

 「ああ、取り乱してすまなかったね。僕は部
  屋で休ませて貰うよ」

 「おい!ユウナ様を部屋に案内しろ」

クロードの指示で、従兵がユウナを個室に案内
するために歩き出した。

 「ふん、苦労知らずのボンボンめ!明日(ミ
  ネルバ)を落したら、囚われの小鳥になる
  のをわかっているのかな?」

クロード自身はオーブに対する工作はこれが限
界だと思っていた。
大国とはいえ、混乱していた中国とは違ってオ
ーブの政権は安定していたからだ。
クロードも最初は、赤道連合のアチェ族などの
少数民族を使って、独立紛争でも起こそうかと
思っていたのだが、どうしても規模が小さくな
ってしまうし、簡単に鎮圧される可能性が高い
ので迷っていた。
そんな時、無能を曝け出して無聊を囲っていた
ユウナの情報に接したのだが。
詳しく調べてみると、意外と頭も悪くないので
的確なサポートと指示をあたえればオーブを混
乱させる事が出来るかも知れないと思ったのだ
。 
それに、彼はカザマとアスハ家の人間が自分を
陥れたと思い込んでいた。
人は復讐を誓うと通常の能力を超える力を出せ
る。
その事を知っていたクロードは、彼を利用する
事に決めて接近してみると、話に上手く食いつ
いてきたので、後は上手く指示を出して、オー
ブを混乱させていただけなのだ。
彼は、父親が自分を認めてくれない事に腹を立
てていたので、父親の立場も考えずに、上手く
カモフラージュして発覚する時期を伸ばしてい
った。
向こうも、まさか現代表の息子が犯人だとは思
わなかったようが、それも昨日までのようだ。
優秀なオーブの情報機関が全容を掴んでしまっ
たらしい。
元々、財団の情報機関を大きくしただけの組織
なので、国家規模の情報機関と競り合うのが間
違っているのだ。
我々は細かく素早く動くのに向いている。
本当はもう少し隠せたのだろうが、もう隠す必
要もないだろう。
限りある戦力でやっている我々に無駄は許され
ないのだから。

 「ユウナはユーラシア連合に逃がして、現地
  で亡命政権を樹立させる。親子で争う中立
  国オーブ。だが、息子はユーラシア連合と
  の同盟を結ぶ。これで、また大混乱だな。
  海賊はもう潮時だろう。今までに運び込ん
  だ物資の量を考えれば十分に黒字だからな
  」

利用し尽した海賊達は見捨てて、自分達は次の
戦場に向かう。
クロードの胸の中で冷たい計算は終了して、い
つもの普通の青年の顔に戻るのであった。


 「おや?あの娘は誰だい?」

 「ミリア様の護衛をしているアヤ様です」

 「へえ、綺麗な女性だね」

 「あの、手を出すのは止めた方が・・・」

 「話かけるだけさ」

ユウナは自分の立場も忘れて、基地内の廊下を
歩いていたアヤに声をかけた。

 「今晩は。アヤさん」

 「ユウナ様ですか?」

アヤはクロードからユウナの事を聞いていたの
で、それを思い出したようだ。

 「知っていて貰えたとは光栄だね。アヤさん
  、これから僕の部屋でワインでも飲みませ
  んか?」

 「はあ、ここにワインなんてあるのですか?
  」

 「クロード君に頼めば大丈夫だよ」

 「(何をバカな事を言ってるのよ!クロード
  様がこの基地を整備するのにどれだけ苦労
  したのか知っているの?このバカボンボン
  が!)」

皮肉にも、エミリアは自分の子供達には厳しい
教育を施していたので、ユウナのような地位や
権力に胡坐をかくような連中が大嫌いだったの
だ。
ミリアも字は下手だし絵も駄目だったが、大西
洋連邦で最高学府と呼ばれている所を十五歳で
卒業していたし、厳しいモビルスーツの搭乗訓
練に耐えて、それなりの腕を身に付けていた。
さすがに、ザフト軍のエースクラスに勝つこと
は出来ないが、一般兵士なら倒せるほどの実力
を持つまでに至っていたのだ。
それなのに、この目の前のバカは、自分を何様
だと思っているのだろう。

 「私は仕事がありますので」

 「それは、部下に任せたまえ。僕は君が気に
  入った。婚約者にしてあげよう。次期オー
  ブ代表首長の婚約者だよ。ファーストレデ
  ィーってやつだね。さあ、部屋でワインを
  飲もうよ」

 「いえ、そんな地位の高い方と私とでは釣り
  合いませんよ」

 「僕が良いって言ってるんだから、大丈夫だ
  って。さあ・・・」

ユウナが自分の手を掴んできたので、ついカッ
となってしまった。

 「さわらないで!」

アヤは渾身の力でユウナの顔面を殴りつけてし
まい、ユウナは鼻血を出しながら気絶してしま
う。

 「しまった!やっちゃった」

 「大丈夫ですよ。死ななければ」

 「クロード様に何て言おう」

 「だから、大丈夫ですよ。ペットがお痛をし
  たら、罰を与えるものです。クロード様の
  ユウナへの気持ちなんて、そんなものです
  よ。では、こいつは部屋に閉じ込めておき
  ますから」

警備兵は、ユウナを背負って部屋に向かって歩
き出した。

 「はあ、私って何をやっているんだろう?」

アヤは自己嫌悪に陥ってしまう。

 「ここじゃあ、メールもできないし。ディア
  ッカ、会いたいよ・・・」

アヤの声は誰にも届く事はなかった・・・。


(一月七日早朝、オノゴロ島沖)

 「ユウナの拘束に失敗したって?」

 「偽者にすり替わっていたそうだ」

 「あのバカに似た人がいたんだ」

 「監視は遠くからだからね。病気のふりをし
  て、ベッドに潜り込んでいたらしい」

 「原始的な手を使いますね。それで、他の連
  中はどうだったんですか?」

 「一人残らず逮捕されたらしい。ユウナはエ
  ミリアの仲間が逃がしたらしいね」

 「困ったバカ野郎だな」

俺達は捕まったメンバーの供述によって判明し
た島に向かって出港していた。
予想通りに、海賊達のアジトは微妙な位置にあ
る無人島だったので、「アマテラス」と護衛艦
四隻と共同して逮捕と殲滅に向かうらしい。
海賊は推定で二十機前後らしいので、これで十
分というのがオーブ軍首脳部の見解で、先の大
戦時に一番仲の悪かったキスリング少将が、「
戦力を増強し過ぎると、大洋州連合にあらぬ疑
念を抱かせる事になる。情報部の報告は信頼に
値するし、我々が援護に行けるだろうから」と
主張したので、そのままの戦力で海賊の討伐に
向かう事になったのだ。

俺はエミリア達が使用している「クライシス」
部隊の存在を危惧していたのだが、朝鮮半島・
中国大陸で確認された所属不明の潜水艦が六隻
で一隻に十二積んでも七十二機程度。
しかも、全機を中国で失っているので、安心だ
しパイロットもいない。
だから、戦力にはならないだろうと言われてし
まったので、反論ができなかったのだ。

 「そんなに心配かい?」

 「ええ、今回は(はりま)と(すおう)がい
  ません。俺の予測が当たっていたら全滅で
  すよ」

 「この近辺にオーブ軍艦隊はいるのかな?」

 「確か、第二機動護衛艦隊が訓練を行ってい
  たと記憶しています」

バート・ハイムが味方の存在を思い出してくれ
たようだ。

 「うーん、そうか。メイリン、第二機動護衛
  艦隊の指揮官は誰だ?」

 「キスリング少将です」

 「よりにもよって一番仲の悪い同士か・・・
  」

 「どうする?」

 「要請を出しておきましょう。やらないより
  はマシでしょうから。それと、アサギにも
  私信扱いで通信を出しておきましょう」

 「それしかないかな」

俺とアーサーさんは不安を隠せないまま、海賊
のアジトである無人島に向かうのであった。


(一時間後、第二機動護衛艦隊旗艦「スサノオ
  」艦内)

 「キスリング少将、ザフト軍のカザマ司令か
  ら要請が入っています」

 「ふん!あの若造か。何と書いてある」

 「海賊のアジトには多数の戦力が隠されてい
  る可能性がある。援軍をお願いしたい。以
  上です」

 「我々は訓練で忙しいし、あの海賊の戦力は
  二十機程度だ。臆病風に吹かれおって。あ
  のバカの息子だから仕方がないかな」

キスリング少将は以前、「キスリングのバカは
モビルスーツの何たるかを理解していない」と
カザマ常務に批判された事があるので、彼の事
を嫌っていて、先のオノゴロ島決戦では、手柄
を横取りされたから、未だに昇進できないと考
えていたので、カザマ司令の事も大嫌いなので
あった。

 「失礼します!」

 「コードウェル一尉か。何かね?」

 「私にも私信扱いで救援要請が入っていまし
  て・・・。せめて、近海に移動して事態の
  変化に備えてはいかがかと」

 「必要ない!」

 「どうしてですか?」

 「そんな命令は受けていないからだ」

 「訓練は事前に報告すれば自由に行えるはず
  です。(アマテラス)と護衛艦もいるので
  すからここは・・・」

 「コードウェル一尉、君の上官は誰だね?」

 「キスリング少将閣下です」

 「では、訓練を続行したまえ」

 「了解です・・・・・・」

アサギは、救援要請が現実のものとなった時に
一秒でも早くたどり着くための準備をするくら
いしかできなかった。


(三時間後、海賊のアジトの無人島近海)

 「この島ですか」

 「大洋州連合との領有権が、解決していない
  島だそうです」

 「嫌な島にアジトを作りますね」

 「軍は近寄りませんからね。今回は特別許可
  らしいですよ」

 「敵モビルスーツ隊の反応です。推定で二十
  機以上!機種は(グーン)(ゾノ)(カイ
  オウ)です!」

メイリンの報告で、一気に「ミネルバ」艦内は
緊張に包まれる。

 「水中用戦闘が可能なモビルスーツは全機出
  撃だ!」

 「「「「「了解!」」」」」

 「シン、ルナ、レイ。お前達は、状況が変わ
  ったら出撃するんだ!それまで、待機して
  いろ」

 「「「了解!」」」 

俺の指示で「ミネルバ」からは、「アビス」、
「ザク」二機、「センプウ改」五機が出撃して
、「アマテラス」と護衛艦からは「センプウ改
」十八機が出撃する。

 「(グーン)五機、(ゾノ)五機、(カイオ
  ウ)十二機です」

 「二十二機対二十六機か」

「ザク」を操作しながらディアッカからの報告
を聞いていると、オーブ軍の「センプウ改」が
高速魚雷で一機の「グーン」を仕留めたようだ

 「おお!やるね。俺も・・・」

俺も高速魚雷を発射するが、それは簡単にかわ
されてしまった。

 「移動先を予想して発射か。難しいね」

 「俺も当たりません」

 「シエロは?」

シエロは「アビス」をMA体型に変型させてか
ら、高速魚雷を放って二機の「グーン」を同時
に仕留める。

 「(アビス)の天下だな」

 「ですが、(カイオウ)は強敵ですよ」

まだ、「カイオウ」を倒せた者はいないばかり
か、一機の「センプウ改」が逆に切り裂かれて
爆発してしまう。

 「オーブ軍の機体か・・・」

 「こちらに向かって来ます!」

「センプウ改」を撃破した「カイオウ」が、俺
の「ザク」を新しい標的に選んで突撃をかけて
くる。

 「抵抗がないから速いな」

「カイオウ」は俺が回避をしても、すぐに進路
を調整して俺に近づいてくる。

 「直前でかわすしかないのか」

俺は高周波振動刃を装備したランスを構えなが
ら、直前で「カイオウ」の攻撃をかわしながら
、右脇を斬りつけた。   

 「効果あったか?」

「カイオウ」は致命的な損傷を受けたらしく、
水圧で縮んでから爆発してしまった

 「みんな。ランスの攻撃は効果あるぞ!交錯
  する間際に横を斬りつけろ」

 「「「「「了解!」」」」」

ようやく戦況が動き始めた時に、「ミネルバ」
から衝撃的な報告が入ってきた。

 「カザマ司令、(クライシス)の部隊だ。数
  は七十機前後」

 「出せる戦力は全て出して下さい。それと、
  (アマテラス)と護衛艦も入れて輪形陣を
  作って時間を稼いで下さい。救援要請も忘
  れずに」

 「了解した」

 「シエロ!何人欲しい?」

 「二人で何とかします」

 「バークレイ、ギャボット。シエロの指揮下
  に入れ」

 「「了解です!」」

 「エイブス班長!」

 「何ですか?」

 「(センプウ改)を飛行パックモードに戻す
  時間はどれくらいかかりますか?」

 「五分でやります!」

 「三分!」

 「四分で!」

 「じゃあ、四分で。リーカさん、テル、ステ
  ラ。水中用武装パックの自爆モードをセッ
  ト!目標は(グーン)か(ゾノ)で。排出
  したら、(ミネルバ)に戻るぞ!」

 「「「「了解!」」」」

ディアッカを含めた五人が、水中用武装パック
の自爆装置をセットしてから、それぞれの目標
に叩きつけた。

 「うーん、二機破壊、一機損傷か。(ミネル
  バ)に上がるぞ!」

水中用武装パックを廃棄した俺達は、緊急推力
で「ミネルバ」に上がってから、格納庫に機体
を置いた。

 「アーサーさん、戦況は?」

 「七十機を越えるモビルスーツ隊を(インパ
  ルス)二機と(カオス)一機と(ムラサメ
  )八機で押さえている。押さえきれていな
  いけどね」

アーサーさんの指摘通り、「ミネルバ」と「ア
マテラス」が横並びになってから、その周りを
四隻の護衛艦が守っているのだが、既に一隻の
護衛艦は沈没寸前であった。

 「援軍はどれくらいで来ますか?」

 「推定で45分です」

 「わかりました。全火器開放!タンホイザー
  の発射許可を与えます。必要に応じて発射
  して下さい」

 「混戦だから使えないよ」

 「味方が壊滅すれば使えますよ」

 「それって・・・」

 「今回は覚悟して下さいね」

 「ステラ!三式長距離狙撃銃を持って(ガイ
  ア)で出撃!(センプウ改)の準備ができ
  たら、そちらに乗り換えろ」

 「了解!」

 「リーカさんとテルは(センプウ改)の準備
  ができ次第出撃して下さい」

 「わかったわ」

 「了解だ!」

 「アーサーさん、コーウェルを出して下さい
  」

 「俺も出撃なんだろう?」

コーウェルは、既にパイロットスーツに着替え
ていた。

 「すまんな」

 「艦で死ぬか、モビルスーツのコックピット
  で死ぬかの差だけだよ」

 「(ザク)で出てくれ」

 「了解だ!司令殿」

 「シホはいますか?」

 「ここにいますよ」

同じく、パイロットスーツを着たシホが俺の目
の前に立っていた。

 「怪我人が沢山出そうなのに悪いな」

 「戦闘が終ったら看ますよ」

 「(ザク)の準備ができ次第頼む」

 「了解です」

 「俺は(グフ)で出る。細かい手順は省略す
  るからな」

俺はいきなり「グフ」を機動させてから、急い
で出撃した。

 「邪魔だーーー!」

出撃後、目の前を塞いだ二機の「クライシス」
をビームガンで蜂の巣にしてから戦場を見渡す
と、レイの「カオス」はササキ大尉の妹と戦っ
ていて、シン達は懸命に「クライシス」の数を
減らそうとしていた。
一方、オーブ側を見ると、ハワード三佐とアス
ランの「ムラサメカスタム」が奮戦していたが
、既に二機の味方が落されたようだ。

 「アスラン!生きているか?」

 「大丈夫です。ですが護衛艦(ムラクモ)と
  (アキサメ)が沈没です」

 「わずか十分でか・・・。ハワード三佐、生
  きているか」

 「俺は畳の上で死ぬ予定なんだよ!」

 「何人だよ?あんたは」

 「オーブ人さ!」

ハワード三佐は軽口を叩きがらも、隙を見せた
「クライシス」を背部のビーム砲で撃ち落して
いく。
彼は初めて会った時と比べると、格段に技量を
上げていた。

 「カザマ司令!(センプウ改)と(ザク)の
  準備が出来たそうだ」

 「ありがたい。これで、一息つける」

ステラは「ガイア」から「センプウ改」に乗り
換え、リーカさんとテルが同じく「センプウ改
」で出撃した。
コーウェルとシホはガナー装備の「ザク」で出
撃して格納庫の上に上がって射撃を開始する。

 「(ミネルバ)に攻撃を仕掛けてくる敵の意
  図を挫けばそれで良い!無理に敵を落そう
  とするな!援軍を待つんだ!」

俺達は「ミネルバ」に攻撃を仕掛けてきた「ク
ライシス」の攻撃を阻害しながら、時を稼ぎ続
けた。

 「シエロ!水中はどうなっているんだ!」

 「バークレイ機、ギャボット機。反応ロスト
  です!」

シエロからではなく、メイリンから衝撃的な報
告が入ってくる。

 「何が起こっているんだ?」

 「司令、私だけになってしまいました。(デ
  ィープフォビトゥン)五機が援軍に加わっ
  て大苦戦です。残存は(ゾノ)二機と(カ
  イオウ)八機です」

 「味方の残存数は?」

 「オーブ軍の残存数は十二機です」

 「六機もやられたのか?」

 「我々は罠に掛けられたようです。敵の攻撃
  が急に鋭くなりました。例の薬剤が使われ
  ている可能性があります。敵の意図は我々
  の壊滅にあるのかも知れません。これより
  、ホー三佐と共同して生き残りを図ります
  」

先の大戦でササキ大尉が使用した強化人間用の
薬剤は、短時間では驚異的な能力を発揮するが
、薬が切れてしまえば、簡単に撃破されてしま
う。
だが、使い捨ての海賊達なら惜しくはないので
あろう。 

 「是非、そうしてくれ。援軍到達予定時刻ま
  であと二十八分だ」

 「長いですね」

 「長いよな」

俺達の生き残りへの、短くて長い時間が始まる
のであった。


(同時刻、シン視点)

ちょうど同じ頃、シンはルナマリアと死角をカ
バーし合いながら、懸命に「ミネルバ」への攻
撃を防いでいた。

 「レイはどこにいるのよ?」

 「あの空間認識能力者との一騎討ちで精一杯
  だ!」

 「しつこい女ね!きっとブスよ!」

 「レイが一機の敵に抑えられているから、分
  が悪すぎだ」

 「そうでなくても、五対一に近いくらいの戦
  力差があるのに!」

 「とにかく、(ミネルバ)への攻撃を防げ、
  絶対に沈めさせるな!」

 「難しい注文ね」

二機の「フォースインパルス」が懸命に敵機の
攻撃を防ぎながら、一機、また一機と「クライ
シス」を落していくのだが、焼け石に水の状態
で、攻撃は一向に止む気配はなかった。

 「ちくしょう!援軍よ早く来い!」

シンの叫びも空しく、援軍が到着する気配はま
るでなかった。


(十分前、オーブ軍第二機動護衛艦隊旗艦「ス
 サノオ」格納庫内)

 「キスリング少将の命令が出た時に、すぐに
  飛び立てるように発進準備を完了させなさ
  い!発進命令が出たら、一秒でも早く目的
  地に飛び立つ事!私に質問する時間があっ
  たら手を動かしなさい!」

 「「「「「了解です!」」」」」

アサギは救援要請を受けてから、一秒を惜しむ
ように格納庫内で発進準備の指示を出し続けて
いた。
本当は、キスリング少将の許可を得なければい
けないのだが、上申に行かせたタカマチ二尉が
戻って来ないので、焦りから準備だけなら構わ
ないと判断したからだ。
多少拙速ではあったが、同軍の仲間と自分の婚
約者と友人達の命がかかっているのだ。
もし、命令違反を咎められたら自分一人が処罰
を受ければ良い。
そう考えて発進準備に集中していた。

 「これはどういう事だね?」

 「援軍の発進準備です」

よりにもよって、一番嫌な男が格納庫に降りて
きてしまったらしい。
そして、隣りにすまなそうな顔をしたタカマチ
二尉が立っていた。

 「私はそんな命令は出していないがな」

 「私の判断です」

 「なるほど。この艦隊では一尉の君が一番偉
  いのだな。私は始めて知ったよ」

 「タカマチ二尉を上申に向かわせたはずです
  が」

 「貴重な意見には感謝するが、私の見解は少
  し違うのだよ」

 「この近辺に他に味方は存在しませんが」

 「(スサノオ)は就役間もないので練度が低
  い。援軍に出ても返り討ちにされてしまう
  。危険は避けるべきだな」

 「ですが、(アマテラス)と精鋭モビルスー
  ツを失う事がオーブにどれだけの損失をも
  たらすか。(ミネルバ)が沈めば、プラン
  トとの関係も・・・」

 「我々は軍人だからな。政治の事は知らない
  な」

 「くっ!」

アサギは怒りを自分の胸の内に収める。
キスリング少将こそ、昔はセイラン派の将校と
して幅を利かせていた男であったのに、自分の
事を棚にあげて、心にもない発言をしたからだ

彼が、オーブ軍に四人しかいない少将の地位に
就けたのも、セイラン家の権勢を利用してのも
のだったからだ。
オーブ軍中将もカガリとミナだけだったので、
キスリングは出世頭のはずなのだが、彼はまだ
不満があるようだ。

 「第一、トダカの判断ミスの尻拭いを、私が
  する必要はないからな」

 「(本音はそれね!)」

戦後、セイラン家が軍部をあまり当てにしなく
なってから、キスリングの影響力は小さくなる
ばかりであり、中将に昇進させなかったウナト
の事もかなり恨んでいるようであった。
更に、カガリが有能なトダカ准将を引き立て始
めた事にもかなりの不安も抱いていたようなの
だ。
中国大陸では、一時的に少将の地位にも就いて
いたので、昇進させて機動部隊を一つ任せよう
かという話も出ていて、自分が地位を追われる
のではないかとも思っているようだ。

 「トダカ准将のミスの責任を部下にも負わせ
  るのですか!それも、死でもって!」

実は、海賊の調査をしたのが自分だったために
、派遣戦力を増やすように進言したトダカ准将
の意見にも強行に反対したらしいのだ。
他にも、確定ではないが黒い噂もあったのだが

 「では、討伐艦隊壊滅の責任は閣下がお取り
  になって下さい」

 「私の責任ではないな。参謀長のハミル准将
  が反対したからな」

 「あなたという人は!」

キスリングはトダカ准将を始末して、ハミル准
将に罪を擦り付けようとしているらしい。
その卑劣な態度に腹が立ってくる。

 「上官に対する口の利き方がなっていないな
  。婚約者のコーディーネーター士官がどう
  なろうと構わないではないか。新しい名家
  の男を紹介してやるから」

 「キスリングーーー!」

 「待ちたまえ。コードウェル一尉」

突然、後ろから男性の声で静止が入った。

 「ハミル准将!」

 「私の責任にしないで下さいよ。私は賛成し
  たではありませんか」

 「早くブリッジに戻りたまえ!」

 「それが、命令は聞けないんですよ。キスリ
  ング元少将閣下」

 「どういう事だ!」

 「今本国から通信が入りまして、例の捕まっ
  た将校達が自白したそうです。(俺達の親
  玉はユウナとキスリングだ)と」

 「そんな事知るか!私を陥れる罠だ!」

 「ご自宅から多額の現金と金塊が出たそうで
  す。わかり易い構図ですね。次期政権のオ
  ーブ軍最高司令官ですか。もう少し、欲を
  かいた方がよろしくないですか?」

 「・・・・・・」

 「でも、ようやく理解できましたよ。何故、
  こんな地点で演習を行ったのか。ユウナの
  指示で際どい距離に待機して、(待機して
  いましたが、援軍に間に合いませんでした
  )という事にして自分の容疑をかわそうと
  したんですね。まあ、浅知恵ですけどね」

 「私は知らん!」

 「弁明は、取り調べと軍事法廷の時にどうぞ
  。憲兵!キスリングを独房にご案内だ」

二人の憲兵がキスリングの両脇に立ってから、
独房に向けて歩き出した。

 「ハミル准将・・・」

 「第二機動護衛艦隊司令官代理として命令す
  る。一秒でも早く救援に向かえ!無駄な時
  間を使ってしまった」

 「了解です!」

 「オーブ五大氏族か・・・。彼も普通の金持
  ちの家に生まれていれば、楽しい人生を送
  れたのかも知れないし、それに振り回され
  る高級軍人もいなかったかも知れないな・
  ・・」

アサギが部下達を引き連れて出撃したあとに、
ハミル准将は誰に話すでもなくそう呟くのであ
った。


(同時刻、「アマテラス」艦内) 

 「アマギ三佐、状況はどうだ?」

 「陽電子砲、連装ビーム砲、レールガンは健
  在ですが、ミサイル発射管は残存六基で5
  0%の損害で、対空機銃も45%の損害で
  す。その他、艦内の損害多数で戦死者十一
  名と負傷者が二十二名出ています」

 「酷いものだな。護衛艦艇の方はどうだ?」

 「生き残りの二隻の内、(ハルカゼ)は小破
  程度の損害ですが、(ハルツキ)は時間の
  問題です」

 「二十分で三隻の護衛艦が沈むのか・・・」

既に沈んだ二隻の艦艇からゴムボートで乗組員
が脱出していたが、「クライシス」は彼らにま
で攻撃を加えていた。
本当は救助してあげたいのだが、動きを止める
と自分達まで沈んでしまう可能性があった。

 「連中に武士の情けはないようだな」

 「所詮は戦闘人形ですよ。命令通りにしか動
  かない。だから、備品扱いなんです」

 「嫌な時代になったな」

 「ですね」

 「アマギ三佐、最悪の事態になったら、(ミ
  ネルバ)を逃がして我々が盾になるぞ。ザ
  ラ一佐達も(ミネルバ)に任せよう」

 「そんな・・・・・・」

 「元々この件はオーブの問題で、(ミネルバ
  )は援軍に過ぎない。それなのに、沈めて
  しまったらオーブ軍の恥になる。更に、カ
  ザマ司令のお父上はモルゲンレーテ社の重
  鎮だ。彼がオーブのためにどれだけ尽くし
  てくれたか。そんな彼の息子を戦死させて
  しまったら、彼に申し訳がたたない」

 「そうですね。子供も生まれるそうですし」

 「私の子供達には父親の記憶があるが、彼の
  子供に父親の記憶がないなんて可哀想では
  ないか」

 「わかりました。私も最後までお付き合いさ
  せていただきます」

 「そうだな。脱出も難しいか」

 「可能性は低いですね。ゴムボートの上でビ
  ームで蒸発なんて嫌ですよ。それなら、船
  の中で死にたいです」

トダカ准将とアマギ三佐は自分達が盾になると
いう悲壮な覚悟をするのであった。


(同時刻、カザマ視点)

 「何!撤退しろだって!」

 「そうなんだよ。(アマテラス)が盾になる
  から、パイロットだけは回収してくれと」

 「不許可です!今(アマテラス)との連携を
  崩したら、(ミネルバ)も沈んでしまいま
  すよ」

トダカ准将の好意はありがたいが、俺の言った
事も事実なのだ。
このまま、防御をしながら援軍を待つ。
これが一番損害が少なく戦闘を終了させる手だ
と俺は確信いていた。

 「カザマ司令、ザラ一佐を連れて退却したま
  え。今、君達とザラ一佐を失うわけにはい
  かないんだ」

 「好意は嬉しいですけど、アスランが素直に
  引くわけがないでしょうが」

 「ええい!埒があかない。こうなれば!」

突然、アスランの乗っている「ムラサメカスタ
ム」の動きがシャープになって、悪鬼のごとく
敵を倒し始めた。

 「よし!SEEDが発動したな。アスラン!
  (アマテラス)を頼んだぞ!」

俺は起死回生の一撃を放つべく、モビルスーツ
隊の隊長機を探し始める。
いつものドラグーン装備機は幹部ではあるが、
隊長ではないはずだ。
本命は、ディアッカがいつも追い回しているカ
スタム機の方だろう。

 「ディアッカ!挟み込むぞ!時間がない。素
  早くやる!」

 「了解です!」

「グフ」とセイバーで「クライシス」のカスタ
ム機を挟み撃ちにして攻撃を開始するが、段々
動きが良くなっているようで、なかなか致命傷
を与えられないでいた。

 「左肩におかしな紋章をつけやがって!」

俺は「グフ」のビームソードを抜いてから、隊
長機に斬りかかり、右腕を斬りおとす事に成功
する。

 「アズラエル家の紋章をバカにするな!」

 「どうせ、今日で絶える血筋だ。覚悟しろ!
  」

俺は日頃の誓いを破って、女を殺す決意をする

 「させるかーーー!」

ミリアの「クライシス」は左腕のシールドを捨
ててから、ビームサーベルを抜いて俺と斬り結
び始めた。

 「腕はまあまあだな。だがな!」

俺は更にビームソードで胴体を薙ぎ払ったが、
斬り口が浅くて致命傷ではなかったようだ。

 「ササキ大尉の妹には劣るな」

ディアッカが今まで倒せなかったのは、逃げに
終始していたからであろう。
今日は数の優位で油断していたようだ。

 「ディアッカ!」

 「はい!」

多数の護衛の「クライシス」を排除しながら、
隊長機の後ろにつけたディアッカが、ビームサ
ーベルを抜いて止めを刺そうと接近する。

 「覚悟!」

 「しまった!やられる!」

後ろのディアッカの攻撃に対応できなかったミ
リアが覚悟を決めたところで、「セイバー」の
無線に信じられない人物の声が入ってきた。

 「ディアッカ!やめて!」

 「えっ・・・。何でアヤが・・・?」

 「お願い。殺さないで!」

 「そんな・・・。バカな・・・」

 「今だ!」

 「しまった!ディアッカ!動け!」

突然、動きが止まってしまった「セイバー」に
、俺の気持ちが向いている内に、隊長機は虎口
を脱してしまい、反対に俺達が、十数機の「ク
ライシス」に囲まれてピンチに陥ってしまう。
どうやら、俺の賭けは失敗に終ったようだ。

 「何でアヤが・・・・・・」

 「ディアッカ!動け!」

俺は「セイバー」を庇いながら、懸命に反撃を
試みるが、状況は厳しくなる一方であった。

 「そんなバカな事って・・・」

 「クソ!こんな時に!」

状況は完全に不利になってしまった。
例の隊長機の「クライシス」は脱出に成功して
、後ろで十機ほどの護衛を引き連れながら指揮
を執っているようだ。
もう、攻撃するチャンスは巡ってこないであろ
う。
そして、ササキ大尉の妹はレイと一騎討ちを繰
り広げていて、戦力の少ない我々を不利に追い
やっていた。
更に、「ミネルバ」はシホとコーウェルの「ザ
ク」が、懸命にオルトロス放って敵の接近を防
いでいるようであったが、敵の数が多過ぎて苦
戦しているようであった。
最後にリーカさんも、テルとステラを引き連れ
て、小隊単位で戦っていたが、同じく少数の不
利に泣かされていて、落されないようにするの
が精一杯であった。

 「おい!ディアッカ!死ぬぞ!」

未だに、動きがいまいちのディアッカを護衛し
ながら、敵と戦うのも限界になってきた。

 「ええい!荒療治だ!」

俺は、「セイバー」を下の無人島の密林に蹴り
落した。

 「あとは運次第だな」

俺は一人で「グフ」を巧みに操って「クライシ
ス」部隊と交戦を再開するが、数が多過ぎてど
うにもならない。

 「一旦位置を変えて・・・。しまった!」

わずかに隙を見せてしまったために、「グフ」
の背中のスラスターにビームが命中してしまう

 「胴体への直撃はないか!」

背中の飛行パックとスラスターをビームが掠り
、「グフ」は浮力を失って煙をあげながら、デ
ィアッカが落ちた無人島に向かって落下してい
った。

 「飛行パックの強制解除!各部スラスターの
  逆噴射用意!」


俺は止めを刺そうとする「クライシス」のビー
ムをかわしながら、手馴れていた墜落時の衝撃
の緩和策を取りながら、無人島に不時着する。

 「駄目だ!動かない!」

不時着した俺は、瞬時に「グフ」を降りてから
密林へ走り出すと、一機の「クライシス」がビ
ームを撃ち込んできて、「グフ」は爆発してし
まう。

 「短い付き合いだっけど、命拾いしたぜ。相
  棒!」

俺は爆発した相棒に別れを告げてから、ディア
ッカの様子を見に行く事にする。

 「ディアッカ!生きているか?」

ジャングルに横たわったっままの「セイバー」
の緊急ハッチを開けると、ディアッカはまだ放
心したままであった。
俺は上空から見えない密林に「セイバー」を蹴
り落したので、止めを刺されなかったようだ。
あの時は、そんな事を考えている余裕が無かっ
たので、今になって冷や汗が出ているが。

 「おい!しっかりしろ!」

 「何でアヤが・・・」

 「代われ!俺が乗る!」

俺は放心したままのディアッカを降ろして密林
に避難させてから、「セイバー」を再起動させ
た。
ディアッカとあの女に、何があったのかは知ら
ないが話は後だ。

 「(セイバー)!再び行くぞ!」

俺は無人島のジャングルを「セイバー」で飛び
立つのであった。


(同時刻、シン視点)

 「えっ!ディアッカ隊長とカザマ司令が落ち
  た!」

 「爆発は確認されていないから、生きている
  可能性は高いけど・・・」

 「どうしましょうか?」

 「とりあえず、私が指揮を執る。そういう決
  まりだし」

 「わかりました」

リーカは戦力を「ミネルバ」周辺に集めて時間
稼ぎに終始するが、二機が抜けた事で被害が増
え始めてきた。

 「きゃあーーー!」

 「ステラ!大丈夫か?」

 「右足全損。まだやれます」

 「無理しないでよ」

 「大丈夫です・・・」

 「危ない!」

ステラが「センプウ改」のバランサーを調整し
ている隙をついて、「クライシス」がビームラ
イフルを放ったが、それをテルの「センプウ改
」が自分の身で防いだのだ。
テルの「センプウ改」は小爆発を繰り返しなが
ら、海に落下して大爆発を起こした。

 「テル・ゴーン!」

 「そんな・・・」

 「ステラ!動きなさい!テルの犠牲を無駄に
  しないで!」

 「はい!」

 「今・・・、テル・ゴーンが逝ったのか?」

 「シエロ!どうしたの?」

 「(アビス)もボロボロでな。最後のお別れ
  の挨拶さ・・・」

 「バカ!脱出しなさい!」

 「悪いけど、選んでくれたお土産を彼女に渡
  してくれよ・・・」

 「バカ!早まるな!」

 「結構楽しかったぜ。リーカ」

それから十数秒後に「アビス」は一機の「ディ
ープフォビトゥン」を道連れに爆発して、無線
が切れてしまった。
もっとも、それは後でホー三佐から聞いた事な
のだが。

 「(アビス)、シグナルロストです」

メイリンから冷静な声で報告が入る。

 「シエロ!テル!この大バカが!」

リーカさんは、日頃からは信じられないほどの
大声をあげながら、「クライシス」を立て続け
に撃ち落していくが、更に犠牲は増えていった


 「ちぇっ!キリがねえぜ!」

オルケロスを発射していたコーウェルの「ザク
」の右足に「クライシス」のビームが直撃して
バランスを崩してしまう。

 「コーウェルさん!」

 「シホ!俺は赤服だ!心配ご無用!」

コーウェルは体勢を倒しながらも、巧みにオル
トロスを振り回して、自分を撃った「クライシ
ス」をオルトロスで撃ち抜くが、反動を吸収し
きれずに海に落下してしまった。

 「コーウェルさん!」

 「大丈夫だって。俺は赤服・・・おわっ!」

自分に一機の「カイオウ」が接近してきている
事に気が付いたコーウェルは、反射的にオルト
ロスの銃口を「カイオウ」にくっつけてから、
ゼロ距離で射撃した。

 「うわっーーー!」

コーウェルの「ザク」は「カイオウ」の爆発に
巻き込まれて、海流にシェイクされてしまった
が、フェイズシフト装甲が幸いして無事である
ようだ。

 「コーウェルさん、大丈夫ですか?」

 「シホ!俺は赤服なんだ!カザマのお守りに
  比べればこのくらい」

 「それ三度目です・・・」

コーウェルは虎口を脱したが、「ミネルバ」の
ピンチは解決していなかった。


 「駄目です。着艦します」

レイの「カオス」はアヤと互角に戦っていたが
、今回はミリアの命令で援護に入った「クライ
シス」のビームを喰らって、飛行不能になって
しまった。

 「これで、残りは五機か。オーブ組も四機の
  みね」

戦況は芳しくなかった。
水中はシエロの死を賭した奮戦で、全モビルス
ーツ隊を全滅させる事に成功していたが、残存
機数はホー三佐を入れてわずか五機のみになっ
ていて、援軍は不可能であったし、「ミネルバ
」と「アマテラス」は満身創痍で浮力を保てな
くなったので、近くの無人島に乗り上げる事に
なっていて、護衛艦群は既に全滅していた。

 「向こうはまだ四十機以上いるわね」

あの戦力差でこれだけの損害を与えた事は凄い
のだが、モビルスーツのエネルギー残存量やパ
イロットの疲労度を考えると、状況は絶望的で
あった。

 「ザラ一佐も限界か」

急に動きが良くなって獅子奮迅の働きをしてい
たアスランも、疲労で動きが少し鈍くなってい
た。

 「援軍到着予定時刻まで何分?」

 「五分です」

 「五分も持たないわよ」

 「ちくしょう!」

 「シン!踏ん張れ!あの力を発動させるんだ
  !」

「セイバー」に再搭乗してリーカさん達に合流
した俺は、シンの最後の力に賭ける事にした。

 「あの力ですか?」

 「好きな娘に告白もしないで死ぬか?その娘
  も守れずに死ぬか?その娘が死ぬのを指を
  くわえて見ているか?さあ、どうなんだ?
  」

 「俺は・・・。ここで死ねないんだーーー!
  」

シンは生涯で三度目のSEEDを発動させてか
ら、「クライシス」隊に突撃をかけた。

 「ルナ!援護を頼む」

 「わかったわ」

 「言い出しっぺも行くぜ!」

俺とルナはシンの両脇に移動してから、「クラ
イシス」を攻撃し始めた。
敵は「窮鼠猫を噛む」の状態で反応が鈍い。
どうやら、咄嗟の事態に対する対処が苦手なよ
うだ。

 「たった三機よ!撃ち落しなさい」

 「ここは私が!」

アヤは四基のハイドラグーンで攻撃を仕掛ける
が、あの「インパルス」のパイロットは何かが
変だ。
まるで、動きが予想されているかのように、次
々に攻撃がかわされていく。

 「当たらない!何て奴なの!」

 「俺の弟子は優秀だろう」

俺はビームサーベルを抜いて、アヤの「クライ
シス」の左腕を斬り落した。

 「やはり、ドラグーンに集中している時は動
  きが鈍いな」

 「ええい!」

アヤはハイドラグーンを俺の前に出して逃走を
図るが、俺は「セイバー」を変型させて追撃を
かけ始めた。
隣りでは、シンがミリアの「クライシス」を追
いかけ始めていて、邪魔に入った「クライシス
」はルナマリアと共同で撃破していく。

 「いいコンビだな」

 「よそ見をしている場合か!」

 「相性がいいからな」

俺は「セイバー」の機首に装備されている二門
のビーム砲と76ミリ機銃を連射して、立て続
けにハイドラグーンを撃破していく。

 「なぜだ?」

 「大気圏でドラグーンを飛ばすんだ。軽く作
  るから柔なんだよ。だから、対ビームコー
  ティング装甲なんだろう?」

数を増やしたために、小型化したハイドラグー
ンは、一箇所に攻撃を集中させると、簡単に撃
破されてしまった。

 「ちいっ!」

 「アヤ、撤退だ」

突然、クロードから無線が入ってきた。

 「どうしてですか?勢いがあるのは今だけで
  す。ここは、踏ん張って撃破させて下さい
  」

 「ゲームオーバーだ。オーブ軍の救援が来た
  。数は五十機を越えるそうだ。海賊達も全
  滅したしね。引き揚げておいで」

 「了解しました」

こうして、救援はギリギリで間に合って、俺達
は全滅だけは間逃れたのであった。


(同時刻、「ノーチラス」艦内)

 「まあ、こんなものかな。暫らく(ミネルバ
  )を動けなくして、戦力を削っただけでも
  良しとするか」

 「勝てるんじゃなかったのかい?」

 「物事には、順序というものがあります。こ
  こは確実に撤退して、ユウナ様には亡命政
  権を樹立して貰わないと」

 「それで、僕は何処に行くんだい?」

 「カイロから飛行機でパリに飛んで貰います
  。そこで、宣言をしていただければ」

 「オーブの政権を取ったら、世界を半分ずつ
  だよね?」

 「そうです。(そんな事無理に決まってるだ
  ろうが。このバカ王子が)」

 「楽しみだね。(オーブの支配権を樹立する
  まで、精々援助して貰うさ。世界を半分な
  んて不可能に決まってるけどさ。バカを演
  出するのも疲れるよ)」

こうして、四十三機の「クライシス」隊を収容
した「ノーチラス」級潜水艦部隊は、一路中東
に向けて出発するのであった。


(一時間後、「ミネルバ」格納庫内)

 「ふー。命拾いしたな」

俺が無人島に置いてきたディアッカを回収して
から、「ミネルバ」を着艦して「セイバー」を
降りると、みんなの表情は暗かった。
パイロットの戦死者が四名で「ミネルバ」の乗
組員も十八名が戦死して、負傷者も多かったか
らだ。

 「初めて大忙しですね。嬉しくありませんけ
  ど」

シホは出撃で疲れた体を押して、医務室で治療
を始め、残りの連中もそれぞれの任務に就いて
いたのだが、ディアッカは相変わらず、抜け殻
のような表情で「セイバー」の点検を行ってい
た。

 「あとで事情を聞くか・・・」

多数の仲間を失い、全員が悲しみを隠しながら
任務に就いていたうえに、「ミネルバ」と「ア
マテラス」は無人島に乗り上げて、自力航行は
修理をしなければ不可能で、モビルスーツの稼
動機も少なかった。
戦況が厳しくなるなか、俺達はどうなってしま
うのであろう?
それは、まだ誰にもわからなかった。


         あとがき 

次回は後日談とシンの告白の話とガイの事を書
きます。
多分ですけど。


 


 

  

 


   


 

 

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