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「これが私の生きる道!運命編5.5中国での後始末とクリスマス編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-06-03 14:10/2006-06-06 23:48)
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(十二月二十三日午前十時、重慶郊外の戦場跡地
 )

 「そこに、例の新型量産機の残骸があるぞ!慎
  重に回収しろ!」

天下分け目の大決戦の翌日、俺達は総出で戦場跡
地の後始末と、敵モビルスーツの残骸の回収作業
を行っていた。
例の「ウィンダムもどき」は、エネルギー切れと
同時に全機が自爆を果たし、完全な機体が残って
いなかったのだが、朝鮮半島で回収した残骸と合
わせて、敵モビルスーツのデータを解析するため
の、重要な唯一の証拠であった。
そして、彼らの自爆に巻き込まれて二十機ほどの
味方が巻き込まれて損傷を負っていた。
「ハヤテ」「ムラサメ」「センプウ改」はフェイ
ズシフト装甲装備機であったので、パイロットに
死者は出なかったのだが、自爆に巻き込まれたほ
とんどの機体が中破と大破に近い損害を受けてい
て、パイロットが大なり小なり負傷して戦線を離
脱していた。

 「ザフト軍の損害は、(ザク)一機損失、(セ
  ンプウ改)八機損失で、パイロットの死者が
  六人で負傷者が三人か。こりゃあ、大損害だ
  な。指揮官失格かな?」

「グフ」で「ウィンダムもどき」の残骸を回収し
ながら、俺が独り言を呟いていると、アスランか
ら無線が入ってくる。

 「うちも似たようなものです。いきなり至近距
  離で自爆するものですから、起動不能になっ
  て地面に落下して、大怪我をしたパイロット
  が五人もいます。安全装置が無かったら即死
  でしたね。カザマ常務の先見の明に感謝です
  よ」

 「酷い話だな」

 「大破・全損十一機でパイロットは六名が戦死
  で五名が重症です。稼動機が七機ですから、
  全滅に近いですね」

 「うちは、(ミネルバ)組の損害が少なかった
  から」

 「パイロットに赤服しかいませんからね。普通
  なら、ありえませんよ」

「ミネルバ」搭載のモビルスーツで一番損害を受
けていたのが、例のドラグーンの自爆に巻き込ま
れた「カオス」で、次が地上艦隊に突撃をかけた
「インパルス」二機と「センプウ改」一機であっ
たが、その修理はもうすぐ終るらしい。
どうやら、我々には物凄い悪運が付いているよう
だ。

 「自衛隊組も大破・全損が十九機、パイロット
  の死者が十名で、負傷者が九名だそうです。
  最新鋭機部隊が半数になるなんて、恐ろしい
  敵ですよ。オーブ本国にも衝撃が走っていま
  す」

 「敵が国じゃないから、捕まえるのが困難だし
  な。ユーラシア連合のクーデター政府が隠れ
  蓑になっていて、連中の規模の把握が難しい
  」

 「フラガ少佐達が戦っている南米のゲリラ連中
  、朝鮮半島、中国大陸、南アジア地域の海賊
  達、アフリカ共同体に反旗を翻した親ユーラ
  シア連合派の連中、ユーラシア連合が、イス
  ラム連合を追い出したスエズ運河を死守する
  ために開始されたエジプト・トルコ戦線と全
  てに関与と援助がおこなわれていて、例の(
  ウィンダムもどき)正式には「クライシス」
  というらしいですけど、その残骸が多数回収
  されています。どうやら、(ウィンダム)の
  データが流用されていて、本家の物より性能
  が良いらしいですね。キラも量産機にしては
  、侮りがたい性能を持っていると昨日連絡し
  てきました」

昨晩キラは、朝鮮半島で回収された「クライシス
」の残骸と戦闘映像を元に分析したレポートを送
ってくれて、その性能の高さが白日の下に曝され
ていたのだ。

 「パイロットも大多数が例のクローンコーディ
  ネーターで、残りが脛に傷があるやつか、先
  の戦争で負け組みになったやつの生き残りと
  か、そんな連中ばかりだからな。エネルギー
  が完全に尽きると、自爆してしまうのには参
  ったよ。フェイズシフト装甲完備機でも、パ
  イロットが負傷して暫らく使い物にならなく
  なるし、モビルスーツも損傷大で部品取りに
  しか使えなくなってしまうし、本当に頭の痛
  い事ばかりだ」

俺達が話を続けている横で、劉将軍の部隊に所属
している軍人達が、降伏した捕虜達を連行してい
たり、戦場に遺棄されている兵器の回収を行って
いた。
時折、遠くから銃声や砲撃も鳴り響いているが、
これは逃亡したうえに、降伏を拒否した連中を討
伐している銃声であった。
可哀想だが、こちらに降伏しないで逃亡するよう
な連中は、犯罪者などである事が多いので、武器
を持たせたまま逃亡させるわけにはいかなかった
のだ。
万が一、「重慶」に逃げ込まれると治安の悪化を
招くので、降伏しなければ容赦なく皆殺しが原則
であった。
そして、戦場後での兵器の回収も重要であった。
これが不穏な連中に渡ると、新たな悲劇を招いて
しまうので、100%の回収率を目指して頑張っ
ていた。
さすがに、軍の人間だけでは手が足りないので、
ジャンク屋の連中や地元の住民がこの作業を手伝
っていた。
「自分達で持って帰って、修理して売りに行く手
間を考えると、我々に売った方が儲かりますよ」
と劉将軍が宣伝していたので、多数の地元の住民
達が、兵器の回収作業を手伝っていた。 
特に目ざとい建設業者などは、重機を持参して、
モビスルーツの残骸や部品を積極的に回収してい
た。
中でも、エネルギー切れだけで放置されたモビル
スーツや戦闘車両は高値で買い取って貰えるので
、見つけた住民達が大歓声をあげていた。
どこの国でも、一般庶民というのは逞しいものな
のだ。

 「連中の目的って何なんだろうね?戦闘データ
  集めかな?」

 「それもあるが、他に目的があるようだ」

 「ガイか!」

突然、無線にガイの声が入り、「重慶」の方向か
ら三機の「センプウ」が飛んでくる。
どうやら、その内の一機には、ガイが搭乗してい
るものと思われる。

 「おや?ガイ大佐殿は、部下を連れてのご視察
  ですか?お役目ご苦労様です」

 「アホ!茶化すな!」

 「冗談だよ。それで、他の目的って?」

 「あるらしいのだが、俺にも良くわからん。そ
  れを調べる仕事をお前の嫁に頼まれている」

 「依頼内容を話してしまって、大丈夫か?」

 「誰かに話すと気が晴れるのだが、機密を考慮
  してお前に話すのが適任だと思った。お前な
  ら漏らさないからな」

 「まあ、誰にも話さないけどさ・・・」

ガイはラクスに対して、何か含むところがあるよ
うであった。
それが何なのかは知らないが。

 「今日の俺の任務は、劉将軍の護衛でな」

 「えっ!その(センプウ)に乗ってるのか?」

 「当たり。私もなかなか上手だろう?実戦は無
  理だけど、飛ばすのは得意なんだよ」

東アジア共和国軍少将の頃、劉将軍が若い十代の
パイロット候補生に混じって訓練に参加して、パ
イロットライセンスを獲得した話は聞いていたが
、まさか、これほど綺麗に機体を飛ばす事が出来
るとは思わなかった。

 「腕の良さには感心しましたが、忙しいのでは
  ありませんか?」

 「全部部下に任せてある。私は彼らの仕事に対
  して、責任を取るだけだから」

恐らく、こんな事は彼くらいにしか言えないであ
ろう。
そして、部下達にとっても大きなプレッシャーに
なるであろうと思われる。
今自分達が失敗したり、悪事を働いた事がバレる
と、劉将軍が責任を取って辞めてしまい、再びこ
の国が混乱に陥る危険性があるからだ。
多分、劉将軍はあっさりと辞めて、自分の夢にま
い進してしまうであろうから。

 「孫将軍の配下の若い参謀達が降伏してきてね
  。優秀な連中だから、さっそく使っている。
  (中華連邦共和国)建国までに時間が無いわ
  、人材が足りないわで大忙しだからね」

 「昨日まで戦っていた連中を、いきなり使いま
  すか」

 「能力的には問題が無いから、特に言う事はな
  いね」

 「言われた連中の方が、驚愕していたがな。そ
  れに、連中も忙しい方が孫将軍を思い出すま
  い」

 「彼も素直に降伏してくれればね。国は奇麗事
  では運営出来ないから、彼向きの仕事が多数
  あったんだよね。本当に惜しい人材を亡くし
  た。おかげで、曹将軍、李将軍、蘭将軍の三
  つ巴の内戦を暫らく放置せざるを得ない。ア
  ルスター外務長官に文句を言ってやらないと
  いけないんだよ」

 「文句ですか?」

 「曹将軍と李将軍への援助を打ち切ってしまっ
  たので、本来なら滅亡確定だった蘭将軍が息
  を吹き返してしまったんだ。せめて、彼が滅
  ぶまでは面倒を見て欲しかった。エミリア達
  に追加援助を受けたくらいでは、巻き返せる
  はずがなかったのに・・・」

 「蘭将軍ですか。彼は確か、東アジア共和国政
  府首脳爆殺の実行犯だったと記憶しています
  が」

 「孫将軍にそそのかされてね。彼は師団長が精
  々の器の男だから。(私も頑張って勢力を広
  げて閣下の元に参上します。ですから、連中
  を倒して北京を制圧して下さい)と言われて
  いたらしいよ。実際には、曹将軍と李将軍に
  匿名で情報を流していて、北京周辺は大混乱
  に陥ったわけだ。自分がその他の地域を制圧
  した時に、混乱していた方が都合が良いと考
  えていたらしい。本当に恐ろしい男だよ。孫
  将軍は」

北部の三人の将軍は、国境沿いで小競り合いを繰
り返していて、毎日のように国境線が変わってい
るらしい。
「中華連邦共和国」へも不参加を表明していて、
このままでは国際的に孤立し、多大な戦力を維持
するために財政が悪化して税金が上がり、経済の
成長を阻害されて、多数の住民が逃げ出すであろ
うと予想されていたにも係わらずだ。
現に北京の金持ち達は、私財を持って満州共和国
や台湾に逃げ出しているという話を、昨日の夜に
聞いていた。

 「色々、仕事が増えてしまって大変なんだよ。
  でも、君達は今日でお役御免だから、安心し
  てクリスマスを楽しんでくれ」

 「明日からお休みですか」

 「正式には明日までの所属だから、明日は勲章
  の授与式に出てくれ。国はまだ建国していな
  いけど、勲章制度は無理やり作ったから。勲
  章自体も先週のうちに頼んでおいてね。スト
  ックがあるから、適当に渡す事にするよ。ガ
  イ大佐、君も貰えるからね。素直に貰ってく
  れよ」

 「はっ!ありがとうございます」

 「じゃあ、仕事に戻るから」

劉将軍は話を終えると、ガイを引き連れて仮設司
令部に戻ってしまった。
彼は、そこで孫将軍の旧支配地に対する、平定作
戦の指揮を行っていたからだ。
平定と言っても、孫将軍の部下でまともそうな将
軍達をそれぞれの場所に無事に帰還させて、自治
共和国を建国させていただけだが。

 「湖北・湖南省は陸将軍に任せて、、広東省・
  海南省・貴州省は甘将軍に任せるらしいです
  ね。そして、一番取り扱いが難しいのが、広
  西チワン族自治区です。ここは、漢民族では
  ない異民族の居住地域だから」

 「アスラン、漢民族なんて幻に過ぎん、中国に
  は何千もの民族と言語が存在していて、国を
  纏めるのがとても難しいんだ。中国の人々も
  (私は〜地域の出身です)と語る人は多いが
  、(自分は中国人です)なんて語るのは、外
  国に出た時だけなんだぜ。伊達に十五億人も
  住んじゃいないんだよ」

 「初めて聞きました」

 「三国志を知っているか?」

 「ええ、有名な話ですね」

 「劉備と孔明が始めて会った時に、筆談してい
  たって話を聞いた事があるか?」

 「えっ!そうなんですか?」

 「劉備は北方の人間で、孔明は南方の人間だ。
  あの狭い日本ですら方言が多数存在していて
  、同じ日本語とは思えないのに、広い中国大
  陸では尚更なんだろうな。北京語と広東語が
  なければお手上げだよ」

 「つまり、どういう事です?」

 「劉将軍は大変なんだよ。だから、忙しい中勲
  章の授与式を行うんだよ。少数の軍勢で多数
  の軍勢を撃破した功績を称えて、俺達助っ人
  外国人に勲章を授与するんだ。その意味がわ
  かるか?」

 「ええと、外国人でも功績を上げれば、厚く遇
  するという事をアピールするためですか?」

 「そういう事。劉将軍は国を立ち上げるのに、
  優秀な人材を多く必要としている。昨日みた
  いに、ただ戦っていればいいと言うわけでは
  ないからな。できれば、外国に出てしまった
  優秀な人達に戻ってきて欲しいんだろうな。
  だから、劉将軍とは思えないほどの残党狩り
  の厳しさだ。素直に降伏すれば捕虜と認める
  が、武器を持って逃げている連中は軒並み皆
  殺しにされているようだ。治安が良くなけれ
  ば、外国に出た連中は戻って来ないからな」

降伏した捕虜達はモビルスーツ部隊監視の下で、
自分達の捕虜収容所の建設を行っていた。
劉将軍の軍人達が建設している余裕はないし、身
元不明で何をやっていたのかがわからない連中が
多すぎて、調べてからでないと処遇すら決められ
ないのだ。

 「俺達は手伝わなくても、いいんですかね?」

 「自分の国の事は自分でやる。中国人はプライ
  ドが高いからな。劉将軍も、誰かに文句でも
  言われたのかな?まあ、お休みだから文句は
  ないけど」

 「朝鮮半島、カオシュン、成都、重慶と休みな
  しだったからな。人間は休まないとね」

 「ディアッカは、カオシュンで休んでいました
  よね」

 「シン達の犠牲になる事が多いからな。俺が休
  ませた」

 「ディアッカも大変ですね。中間管理職の悲哀
  ですか?」

 「アスランもそうだろう?」

 「えっ!別にトダカ准将は・・・」

 「カガリちゃんのお守りが、大変そうだなって
  言ってるんだ」

 「・・・・・・・・・」

 「アスランは、トダカ准将に不満がある」

 「シャレにならない事を言わないで下さい!俺
  達は上手くいってますよ!」

俺達が下らない事を話している間にも、作業は着
々と進んでいき、夕方まで総出で回収作業を続け
るのであった。


(十二月二十四日午前十時、「重慶」市内の講堂
 内)

 「ヨシヒロ・カザマ准将の功績を称えるために
  、勲一等(劉備)勲章を授与する」

クリスマスイブ当日、俺達は劉将軍から直接勲章
を胸に付けて貰っていたのだが、その勲章の名前
に呆れてしまっていた。

 「何故に、劉備なんですか?」

 「私が好きだからだよ」

 「もういいです」

俺が授与台を降りると、今度はシン達やアーサー
さんに勲二等「孔明」勲章を胸に付けていた。
勲章自体は腕の良い職人に任せたものらしく、細
かい細工が施されていて美しかったのだが、ネー
ミングはかなり適当な感じがする。

 「勲三等が(関羽)で四等が(張飛)で五等が
  (趙雲)ですよ。順番に納得がいかない連中
  がいるかも知れないし、魏や呉の武将も使え
  って言われそうですね」 

 「アスラン、そういう問題じゃないと思うけど
  ・・・」

どうやら、アスランは三国志が好きなようで、更
に蜀贔屓でもないらしい。

 「(陸遜)勲章ってないんですかね?」

 「ないだろう」

 「つまらないですね」 

 「詳しいね。アスラン」

 「昔、読んだ事があるんですよ。(三国志演義
  )」

 「俺もあるけどね」

そんな話をしていると、リーカさん達やシン達も
、壇上から降りてきた。

 「うわー!ヨシヒロさんって凄いんですね。勲
  章がこんなに沢山付いているなんて」

 「ヨシヒロ、凄い」

シンとステラが、俺を尊敬の眼差しで見つめてい
る。
日頃は重いので、勲章の類は一切付けていないの
だが、こういう式典の時には、全部付ける事にし
ているのだ。

 「まあな。各地を転戦して生き残った賜物だよ
  。外国の勲章も多いだろう」

 「私としては、そのネビュラ勲章に魅かれます
  ね。私も欲しいな」

 「ルナとシンは多分貰えると思うんだよ。審査
  に時間が掛かるから、黙っていたけどさ」 

 「本当ですか?」

 「艦船を沈めるとポイントが高いんだよね。シ
  ンとルナはほぼ確定だろうな。ステラも申請
  を出してはいるが微妙だな。モビルスーツの
  撃破数は一番なんだけどね。レイは今回、貧
  乏くじを引かせてしまったな。すまない」

 「いえ、カザマ司令は当然の事をしただけです
  。空間認識能力者同志を、ぶつけただけなの
  ですから」  

 「そう言ってくれると、ありがたいな」

 「へえ、それがネビュラ勲章か。初めて見たわ
  」

 「えっ、リーカさんは持っていないんですか?
  」

 「そんなにおいそれと貰える物じゃないから、
  見たことないわよ。噂によると、変人しか貰
  えないらしいけど」

 「うわっ、傷つくな」

 「クルーゼ司令、戦死したオキタ司令とあなた
  。他の人の事は知らないけど、変人揃いでし
  ょう」

 「アスランも持ってますよ。後、ハイネも持っ
  ています」

 「当たらずとも遠からずね」

 「俺だけは、まともじゃないですか。みんなも
  そう思うだろう?」

だが、全員が俺から視線を逸らした。

 「ちょっと待て!どういう事だ?確かにクルー
  ゼ司令は出撃マニアだし、亡くなったオキタ
  副司令は撃沈マニアで、アスランはハロマニ
  アで、ハイネは女性に節操がないけど、俺は
  普通に軍人として戦って、結婚もしている。
  決して変人ではない!」 

 「自覚がないのもね」

 「私もそう思います」

 「俺も」

 「俺は別にハロマニアではないんですけど・・
  ・」

 「訓練時にはサディストだ」

 「ヨシヒロは普段は面白い」

 「上官の内面についての発言は、控えさせて貰
  います」

 「ええと、ラクス様も退屈しないで良いと思い
  ますよ」

それぞれが、好き勝手な事を抜かすが、誰がどう
発言したのかが丸わかりだった。

 「ふん!どうせ俺は変人ですよ・・・」

俺が隅でイジケ始めると、リーカさん達が別の話
を始めた。

 「今夜はクリスマスイブだから、ドッグ近くの
  大会議室を借りてパーティーを行うのよ。た
  だし、独り者か恋人に会えない人限定でね」

 「アスランさんは、アスハ中将とデートですか
  ?」

 「まあな。シンはどうするんだ?」

 「えっ、俺は一人ですから。パーティーに出ま
  すよ」

 「お前・・・。バカだろう」

シンの恋人はいない発言で、ルナマリア、ステラ
、メイリンはがっくりと来ているようだ。 

 「それに、デートで行くようなレストランの食
  事じゃあ、腹が膨れませんし」 

 「わかったわ。じゃあ、シンとステラとルナと
  メイリンは参加ね」

 「あと、ヨウランとヴィーノもです」

 「(ミネルバ)組は全員参加ね」

 「自衛隊組は相羽三佐と早乙女二尉が抜けます
  。早乙女二尉の昇進祝い兼デートだそうで」

 「幸せそうで結構ね」

 「オーブ組は、アスランとカガリちゃんが抜け
  ます。アスラン、そうだよな?」

 「ええ」

イジケ状態から復帰した俺が、リーカさんにアス
ランの欠席を告げる。  

 「ほとんどの人が出席なのね。(重慶)じゃあ
  仕方がないけど」

 「あれ?ディアッカ隊長は?」

 「(重慶)の美女が、俺を呼んでいると言って
  いました」

先ほどまで、式典会場にいたディアッカは、そそ
くさと私服に着替えて出かけてしまったらしい。
俺が艦内に残るし、あらかじめ出かける事を聞い
ていたので、問題はなかったのだが。

 「どうせ、ナンパに失敗して戻ってくるわよ。
  じゃあ、準備を始めましょう」

 「私が料理を作りまーす」

 「ステラも沢山料理を作る」

 「私がケーキを」

 「「「駄目!ケーキは注文しました!」」」

ルナマリアの提案は即座に却下され、彼女も料理
を製作する事になった。
三人は美味しい料理を作ってシンの気を引く、良
いチャンスだと思っているようだ。 

 「シンとレイは飾りつけとか、テーブルの設置
  とかを願いね」

 「あの、少し買物に出て良いですか?」

 「あら、誰かにプレゼント?」

 「妹に、クリスマスプレゼントを買うのを忘れ
  てしまいまして。何日か遅れてでも、何もな
  いよりはマシかなと思いまして」

 「いいわよ。でも、なるべく早く戻ってきてね
  」

 「俺も、所用が」

 「お手伝いをサボると、夕ご飯抜きよ」

 「信用ないなーーー。俺」

こうして、俺とシンとディアッカは、「重慶」市
内中心部に出かけたのであった。


(同時刻、「重慶」市内中心部の高級マンション
  の一室)

一昨日の決戦のあと、工作員の手引きで「重慶」
市内に潜入したミリア達は、彼らの用意した高級
マンションの一室で、空港が再開するのを待って
いた。
「重慶」市内は、一昨日に近隣で戦闘が行われた
事を感じさせないほどの賑やかさで、外国人や外
資系企業の経営するお店が、多数商売を再開した
のでクリスマスムード一色であった。
当初は、クリスマス当日まで自粛するという案も
あったらしいのだが、中立都市「重慶」が無傷で
ある事をアピールするために、劉将軍が避難命令
と外出禁止命令を即座に解除したとの事であった

勿論、「重慶」の入口では厳重な警戒が敷かれて
いて、敗残兵が武器を持って市内に入ろうとする
のを取り締まっていたが。

 「街はクリスマスムード一色ね。みんな浮かれ
  ていたわよ」

アヤが買物を済ませてマンションに戻ると、ミリ
アは、日本酒を飲みながらスルメをかじっていた

 「十八歳の女の子がする事じゃないわね。頭が
  痛くなってくるわ」

 「外出できない時には、これが一番なのよ」

 「酒臭いわね」

アヤの指摘通りに、高級マンションの一室には酒
の匂いが充満していて、自分も悪酔いしてしまい
そうだった。 

 「アヤも一杯どう?」

 「日本酒は苦手。ワインかシャンパンが良い」

 「日本人なんだから、日本酒を愛しなさいよ。
  自分達の文化を卑下するのは、日本人の悪い
  癖よ」

 「そういう事じゃないんだけど・・・」

 「とにかく、私は飲み続けるからね。だって、
  外出できないし」

 「私は街に出て遊ぶわ」

 「ちくしょう!イケメンを見つけたら、デート
  に誘うのよ!」

 「何で、私が誘うのよ・・・」

ミリアのおかしな声援を背中に受けながら、アヤ
は街中に出かけたのであった。


(同時刻、「重慶」市内の宝石店の店内)

 「こちらは値打ち品ですよ。恋人さんも大喜び
  です」

何となく入店した宝石店で、ディアッカは店員に
積極的に指輪を勧められていた。

 「俺は一人身だぜ」

 「ですが、気になるお方がいる。違いますか?
  」

 「当たりだ」

 「クリスマスとかは関係なしに、プレゼントと
  してお勧めしています」

 「サイズがわからない」

 「違っていたらお取替えしますよ」

 「保険で買っておくかな」

 「ありがとうございます」

ディアッカは保険と言いながらも、ディアッカコ
ンピューターを駆使して予想したサイズの高額の
指輪を購入した。

 「いつか渡せるといいんだけどな。まさか、(
  重慶)にはいないだろうしな」

ディアッカが店を出て街中に消えたと同時に、今
度はシンが店内に入ってきた。

 「お客様。告白でもされるのですか?」

 「えっ!どうしてわかるんですか?」

 「商売柄、そういう事が予想できるんだろう?
  」

 「ええ、そうですよ。お客様」

 「ヨシヒロさん!どうしてここに?」

 「俺も買物だから」

 「お客様は、ご家族に贈り物ですか?」

 「店員さんは凄いね」

 「長年やっておりますので」

俺は久しぶりにオーブに行くので、母さんにアク
セサリーでも送ろうかと思って店を訪れていたの
だが、まさかシンがいるとは、予想だにしなかっ
た。 

 「四十代半ばの女性に送る物を選んでくれよ」

 「かしこまりました」

 「お母さんに贈り物ですか?」

 「ラクスがそうしろってさ」

 「見事に尻に敷かれていますね」

 「ほっとけ!お前はどうなんだ?三人の美少女
  のアタックを、ボケでかわすのに疲れたのか
  ?」

 「自分でも、わかってはいるんですよ。ハッキ
  リしないといけないのは・・・」

 「えっ!気が付いていたんだ」

 「当たり前でしょうが!」

 「それで、告白用の指輪を購入か。誰かは聞か
  ないけどさ」

 「絶対に聞いてくると思ったのに・・・」

 「どうせ、告白後にはイチャイチャしているだ
  ろうから、聞かなくてもすぐにわかるさ」

 「でも、一人に告白するって事は他の二人を傷
  つける事になるんですよね?」

 「それはそうだが、その考えは非常に傲慢だぞ
  。三人とも平等にものにするか、一人を選ぶ
  かのどちらかしか正解は無いだろうな。それ
  とも、他に好きな人でもいるのか?」

 「いいえ、三人の内の一人ですよ」

 「じゃあ、告白は早い内が吉だな。他の二人も
  若いんだから、早く他の人に目を向けた方が
  良いだろうし」

 「ヨシヒロさんって、まだ二十一歳ですよね?
  」

 「今日で二十二歳だ!」

 「発言がオジサンくさいですよ」

 「おバカなシンの癖に生意気な・・・」

 「その話はおいといて、告白するタイミングが
  難しいんですよね。あの三人といつも一緒に
  いるから、二人っきりになるのが難しくて」

 「呼び出せばいいだろうが。(○○、大切な話
  があるんだ。二人っきりになれる場所に行か
  ないか?)でいいじゃん」

 「経験豊富ですね」

 「いや、経験ないよ。あくまでも、一般論」

 「えっ!アカデミーで有名でしたよ。(撃墜王
  カザマ)の伝説は。門限を破って女性と夜を
  明かした挙句、徹夜明けで平気な顔をして講
  義に出て、居眠りをしていたという噂ですけ
  ど」

 「だから、俺は(素敵な一晩を明かしませんか
  ?)というのは得意だったけど、恋愛には疎
  いの。今までの恋愛系のお話は、ナンパマニ
  ュアルから抜粋したものか、友人達のお話が  
  メインなんだよ」

 「それでよくアスランさんから、ラクス様を奪
  えましたね」

 「ラクスの方から迫ってきたのが真相なんだよ
  ね。俺のどこが気に入ったのか、いまだによ
  くわからないけど」

 「容姿は普通ですものね。アスランさんは格好
  良いですけど」

 「だが、お前より背は高い」

 「すぐに追いつきますよ」

 「10cmは辛いだろう。告白もできないヘタ
  レのシン君」

 「指輪さえ用意しておけば、いつでも告白でき
  ますよ!」

 「さあて、本当にそうかな?」

 「焦らずに見ていて下さいよ」

 「秘密は厳守してやるよ」

 「言っておきますけど、どんな指輪を買うか見
  ないで下さいよ。宝石の誕生石や入れてもら
  うイニシャルでわかってしまいますから」

 「わかったよ。店員さんお勧めのアクセサリー
  は?」

俺は一足早く買物を済ませて「ミネルバ」に戻っ
たので、シンがどんな指輪を買って、誰に告白す
るのかは不明であった。
俺は、この事実が他所にバレると多数の外野が五
月蝿いので黙っている事にしたが、内心「ルナマ
リアでありますように」と願わずにはいられなか
った。


(夕方六時、「重慶」郊外の仮設基地内の大会議
 室内)

 「大体の準備は終ったかしら?」

俺達はリーカさんの音頭で、大会議室を借りて、
テーブルを設置して、ご馳走を多数並べて、大き
なケーキを注文した。
飲み物もアルコールは少量なら許可をしたので、
参加者は大喜びであった。

 「おい!本当に酒を飲ませて大丈夫なのか?」

 「俺達は、もう劉将軍の部下ではないからな。
  完全に休暇を楽しむ事にしたんだよ。勿論、
  デュランダル外交委員長が派遣した追加の連
  中が、警戒に就いているけどね。ちなみに、
  彼らは明日お休みだから」

信じられないという表情をしているガイに俺は詳
しく説明をしてあげた。
俺達はもう劉将軍の部下ではないので、プラント
本国に休暇の許可を貰っているのだ。
「重慶」郊外のこの基地も、多数のモビルスーツ
隊と警備兵に守られているので危険はないだろう
し、万が一の事があっても、追加で来た連中の内
無事だった五名が「センプウ改」で警備に就いて
いるので、心配はなかった。    

 「そう言うガイはどうしてここに?」

 「休みだからだ」

 「精鋭部隊を率いるお前がお休みなのか?」

 「戦闘が起こる可能性はゼロに近いからな。一
  流のプロの傭兵は、休みもちゃんと取るもの
  なのだ。無駄に毎日働いている連中は俺の能
  力の何分の一しかない無能な連中だ」

 「辛辣な一言をありがとう」

俺とガイが話していると、シン達が飾り付を終ら
せようとしていて、ルナマリアとステラとメイリ
ンが、食堂のコック達と作った大量の料理をテー
ブルに並べていた。   

 「もうすぐ、準備が終るな。俺は用事を済ませ
  てくるかな」

 「何の用事だ?」

 「ラクスとレーザー回線で通信してくる。今ま
  で、任務が忙しくて出来なかったから。ガイ
  も何か伝える事があるか?」

 「無粋だから邪魔しないし、お前の嫁は苦手だ
  」

俺は大会議室を出て、基地内部に設置されたレー
ザー通信室の入口のドアを開けた。
戦後、世界中でNジャマーの除去作業が始まった
のだが、数が多すぎるうえに、ユーラシア連合と
中国大陸での作業が中断してしまったので、未だ
に無線の調子はいまいちであった。
更に世界中の混乱も、Nジャマーの除去作業を延
期や中断させていたので、俺はラクスと話すのに
レーザー通信を使わなければならなかったのだ。

 「おや?石原二佐殿が先客か」

石原三佐は椅子に座って、モニター越しのマユラ
と楽しそうに話している。

 「邪魔して悪かったね」

 「もう終るからいいさ。マユラ、カザマだぜ」

 「あー!教官、久しぶり」

 「マユラも元気そうだな」

 「悪阻が酷いんですよ」

 「母親になるのって大変なんだな」

 「でも、楽しみですよ。女の子らしいんですけ
  ど」

 「もうわかるんだ」

 「ええ、病院で調べたんですよ。名前も、もう
  決めてあります」

 「どんな名前だ?」

 「ジュリ(樹理)にします」

 「そうか・・・。親友の名前を付けるんだな」

 「はい。私とアサギは幸せになったけど、ジュ
  リは・・・」

 「すまんな。頼りない教官で」

 「いえ!私達が生き残れたのは、教官のおかげ
  です。だから、教官のせいではありません!
  」

 「そうか。なら、マユラも気にするなよ。ジュ
  リも、お前が母親になる事に衝撃を覚えつつ
  喜んでいるさ」

 「一言余計ですけど、ありがとうございます」

 「それに、母親がメソメソしていると、胎教に
  悪い」

 「どこかのオバさんのような忠告ですね」

 「ほっとけ!」

俺とマユラが話を終えると、石原二佐が最後に別
れの挨拶をしてから通信を切った。

 「じゃあ、先にパーティー会場に行っているぞ
  」

石原二佐が退室した後に、俺はプラント本国のク
ライン邸に向けてレーザー通信を入れた。 

 「やあ、久しぶりだね。ラクス」

 「ヨシヒロも元気そうですね」

 「まあね。若い連中が多いから、大騒ぎさ」

 「私も順調ですよ」

ラクスの出産予定日は二月の末なので、もう八ヶ
月目に突入していて、お腹もかなり大きくなって
いた。
双子なので、お腹が余計に大きいように感じてし
まう。

 「子供達の名前は、考えて貰えましたか?」

 「考えたさ。古式の伝統に基づき、墨を摩って
  筆で半紙にしたためたあとに、密封して郵送
  したから。子供が生まれたら開封してくれ」

 「やはりこの子達が生まれるまでに、この戦争
  は終わりませんか?」

 「ラクス、これは戦争ではないんだよ。新国連
  や世界中の国の政治家が紛争・内戦・事変で
  あると言っているだろう」

 「あの、どうしてですか?」

 「戦争と認めてしまうと、経済に悪影響が出る
  からだ。今更、各国の生産体制を戦時体制に
  移行したくないのさ。経済が更に下向いてし
  まうし、兵器の生産は大して儲からない。特
  に今回は敵に高性能新型モビルスーツが多数
  登場していて、大西洋連邦で配備が始まった
  (ウィンダム)よりも高性能だ。だが、新型
  モビルススーツを開発して配備する前に戦闘
  が終ってしまう可能性があるので、ロゴスの
  皆さんも、損失の補充を行える程度の生産し
  かしてくれないだろうな。新型機は開発中の
  実験機の実戦配備が精々で、数で押そうとす
  ると思う。ザフトも、(ザク)(グフ)(バ
  ビ)(アッシュ)の生産で手一杯だろう。俺
  達の部隊の新型機は、例外に過ぎないのだか
  ら」

 「日本とオーブはどうなのですか?」

 「新型機は二年ほどで全軍に配備する予定だっ
  たらしい。まあ、平時の生産体制なんてそん
  なものさ。親父も(ムラサメ)の開発が終っ
  てからは、民生品の開発と量産で忙しいらし
  いから」

観艦式襲撃から始まる一連の事件を各国のトップ
は、戦争とは定義していなかった。
観艦式はテロで、その後のユーラシア連合と東ア
ジア共和国艦隊との戦闘は、テロリストの討伐と
位置づけていた。
更に、ユニウスセブン落下未遂事件もテロで、朝
鮮半島動乱と中国大陸の戦闘も全て内戦と定義づ
けられていた。
そして、残りの騒乱も内戦・テロの討伐であると
宣言している。
確かに、俺達が派遣された場所では大きな戦闘が
起っているが、南米はテロリストの討伐くらいし
か戦闘が起っていないし、北米は表面上は平穏だ

南米やアフリカで戦闘に参加している「クライシ
ス」は、精々二十機程度らしくて、旧式機装備の
アフリカ共同体と南アフリカ共和国が苦戦してい
るので、内密にフラガ少佐達やハイネが、援軍に
赴いているのが真相なのだ。
彼らとしては、二十機の新型機を倒すのに五十機
の損害を出す余裕がなかったからだ。
そして、アジアも朝鮮半島と中国は駄目だが、残
りの地域は大きな戦火に巻き込まれていない。
オーブ近海では、海賊の発生で積荷が奪われる事
件が多発しているが、オーブ政府は報道規制を敷
いてこの件を隠しているようだ。
本当は好ましくないのだが、中立国オーブの貿易
が阻害されている事が世界中に知られると経済の
悪化を招き、エミリア達の思う壺であるとロゴス
の面々は判断しているようだ。
彼らも報道規制ばかりでなく、自己の資金を出し
て株価や為替の相場を懸命に支えているのだから

経済で世界を影から支配していると、一部の情報
通からは批判される彼らではあったが、彼らがい
なくなれば世界は大混乱に陥るのも事実なのだ。
俺は必要悪に属する人々だと思っている。
軍隊と同じ性質のものだ。
劇薬と同じで効果はあるが、使いすぎると大変に
なってしまう類の物だと思う。

 「あと半年はかかるかもな。だから、子供達の
  写真を頼むよ」

 「はい、私の写真と一緒に送ります」

 「あれ?子供達に嫉妬したのかい?」

 「そんな事はありませんわ」

 「愛の質が違うでしょうが。親子愛と夫婦愛は
  並立するものなのだから」

 「では仰ってくださいな」

 「俺が愛している女性はラクスだけだよ」

 「よくそんな恥かしい事が言えるわね」

突然、ラクスの横にミユキちゃんを抱いたミサオ
さんが現れた。

 「あの・・・。どうして、ミサオさんが・・・
  」

 「亭主が留守の女性陣でクリスマスパーティー
  なのよ。小さい子供がいるから、お店は難し
  くてね。料理はクライン家御用達の高級店か
  らの出前なのよ」

 「高級ディナーですか。羨ましいな」

 「タリアもアビーもナターシャも出席している
  わよ。みんな、子供が小さいか妊娠中だから
  」

 「クルーゼ司令は本国艦隊でしたっけ?」

 「ユウキ総司令が裏方に回ったからね。先の観
  艦式で失った戦力の補充で大忙しみたいよ。
  うちのラウは戦力を細切れにして、各地の防
  衛に回す仕事が忙しいらしいわ。だから、ク
  リスマスも帰って来ずよ」

他にも、アデス副司令はクルーゼ司令の補佐で忙
しく、ミゲルもデブリ帯に潜伏する海賊達の掃討
で忙しかった。
ジローも、俺達にまわす新型機のテストで休みが
全く無いそうだ。
どんな機体なのかは、この事を前に教えてくれた
デュランダル外交委員長は教えてくれなかったが
・・・。

 「私達は独自に楽しむから、あなた達も楽しみ
  なさい。でも、浮気は駄目よ」

 「しませんよ!」

その後、ラクスと別れの挨拶をしてから、俺はパ
ーティー会場に戻っていった。
そして、俺の誕生日はクリスマスに紛れてわかり
難いのが特徴なのだが、無事に二十二歳になった
のであった。


(同時刻、ディアッカ視点)

 「俺って何をしているんだろう?」

もしかしたら渡せるかも知れないと思って指輪を
購入して、会えるかも知れないと思って街中を彷
徨っている。
アヤは雇い主と世界中を回っていると言っていた
ので、中立都市である「重慶」にいるかも知れな
いのだ。

 「俺って、こんなにバカだったっけな?」

素直にクリスマスパーティーに出席すれば楽しか
ったのだろうが、何故か、それができなかったの
だ。
自分の勘が街に出ろと告げていたからだ。

 「ヨシさんほどではないけど、俺にだって勘は
  ある!先の大戦を無事に生き残ったほどの奴
  が!」

そう呟きながらある一軒のブティックの前に視線
を向けると、探していた黒髪の女性がウィンドウ
の中を覗き込んでいた。

 「へへへ。神のいたずらなのか、偶然なのかは
  知らないが感謝だな」

ディアッカは静かにその女性に近づいていった。


(同時刻、アヤ視点)

 「あーあ。一人のクリスマスって最悪!」

酒に呑まれつつあったミリアを放置して街に出た
のは良かったのだが、アヤにはする事が無かった

「重慶」の外部は厳戒態勢ではあったが、市内は
平穏な状態が保たれ、沢山の家族連れや恋人同士
が楽しそうに街を歩いていた。

 「マンションに戻っても、完全に壊れた酔っ払
  いしかいないし・・・。どうしようかしら」

 「お嬢さん、一緒にお食事でもいかかがですか
  ?」

 「さあて、どうしようかしらね」

覗き込んでいたウィンドウに会いたかった人が映
っていたのだが、わざと答えをはぐらかす。

 「駄目か。他の女性にするか」

 「コラコラ。もう少し粘りなさいよ」

 「ナンパは数撃ちゃ当たるって考えでね。お久
  しぶり」

 「そうね。久しぶりかな?それで、どこに連れ
  てってくれるの?」

 「さて、どうしようかな」

 「考えてないの?」

 「会えるかわからないのに、レストランの予約
  は難しいだろう」

 「それもそうね」

 「当てはあるさ」

 「じゃあ、連れてって」

 「ご案内させていただきます。お嬢様」

二人は仲良く手を繋ぎながら、街中を歩き始める
のだった。  


 「それじゃあ、二人の再会に乾杯!」

 「乾杯!」

ディアッカが案内したお店は俗に言うところのフ
ァミレスであった。
高級店は事前の予約が無いと入れないので、苦肉
の策ではあったのだが、この店は日本資本のお店
で、意外とメニューが豊富であったのが救いであ
った。

 「結構、色々料理があるのね。ケーキも頼める
  し」

 「俺の上官殿のアイデアさ。ナンパした女性を
  なるべく楽しませるための、緊急マニュアル
  だそうだ」

 「不真面目な上司ね」

 「今は奥さんにべったりというか、尻に敷かれ
  ている。今度、子供も生まれるし」 

 「ふうん。どんな人なの?」

 「アヤと同じで、日系人さ。プラント国籍だけ
  ど。名前はカザマ司令だ」

 「へえ、同じ日系人なんだ(カザマの事か!)
  。どんな人?」

 「(黒い死神)と呼ばれるエースだ。日本から
  単身でプラントに上がって、アカデミーに入
  校して、優秀な成績で卒業した。当然赤服を
  まとっていて、先の戦争では開戦時から大活
  躍をしていた人だ。俺達の教官でもある。尊
  敬すべき人だな」

 「前のイメージと大分違うわね」

 「俺達を訓練したり、戦っている時は厳しい人
  だが、いつもは面白い人なんだ。捕虜になっ
  た身寄りの無い女の子を義理の妹として引き 
  取ったし、日本とオーブにも友達が沢山いる
  。敵だった大西洋連邦の兵士にも友達がいる
  んだよ。本当に不思議な人なんだ」

 「でも、彼が単身プラントに上がったのは、迫
  害を避けるためでしょう?確か、数年前の日
  本はそうだったはずよ。彼はナチュラルが憎
  くはないのかしら?」

 「それは俺も聞いた事がある」

 「それで、何て言ったの?」

 「確かに、プラントに上がった当時は、家族以
  外のナチュラルは信用できなかったそうだが
  、戦争が始まってから地球に降りてみると、
  それほど気にならなくなっていたそうだ。コ
  ーディネーターにもナチュラルにも、嫌な奴
  と良い奴がいると実感できたからと言ってい
  た」

 「ふうん。(やり難くなったわね。私がカザマ
  を殺すと、私が兄を殺されてカザマを恨んだ
  ように、奥さんと子供が私を恨むのね。憎し
  みの連鎖か・・・)」 

 「どうしたんだ?アヤ」

 「ううん。何でもない。さて、難しい話はこれ
  で終わりにして、楽しくやりましょう」

 「それもそうだな」

二人は安いワインと料理を食べたあと、メニュー
のケーキにロウソクを立ててクリスマスを楽しん
だ。
味は普通であったが、今日のクリスマスの出来事
は、一生忘れられない思い出になるだろうと、お
互いに思うのであった。


食事を終えた二人は、市内の中心部の公園を散歩
していた。

 「楽しかったわ。ありがとう。ディアッカ」

 「あれ?もう、帰るの?」

 「お嬢様が心配するからね」

 「あの大酒飲みの?」

 「今頃、酔っ払って前後不覚ね」

 「お世話も大変なんだな」

 「それもあるけど、ディアッカも門限というか
  、戻らないと行けないんでしょ?軍人さんは
  そうだって聞いた事あるけど」

 「そう言えば、そうだった。今何時かな?」

 「はい、時間にルーズな男は嫌われるわよ」

アヤはディアッカに腕時計を付けてあげる。

 「あれ?これって」

 「クリスマスプレゼントよ」

 「悪いな。サンキュー。実は俺もプレゼントを
  用意しているんだ」

 「何かしら?」

 「これだよ」

ディアッカは、ポケットにしまい込んでいた指輪
をアヤの指に付けてあげた。

 「ディアッカ、これって・・・」

 「俺達は会ってまもないけどさ。俺は、アヤを
  運命の人だと思っているんだ。だから、この
  戦いが終わったら、プラントに上がって来な
  いか?」

 「ディアッカ。あなた・・・」

 「勿論、返事はずっと後でいいからさ」

 「そういう事じゃない」

 「えっ」

 「私はまだ聞いてないわ」

 「あっ!そうだった。アヤ、好きだ。愛してる
  」

 「もう、デリカシーがないわね。私も好きよ。
  ディアッカ」

二人はお互いに気持ちを伝え合ったあとに、口づ
けをかわした。
この二人の恋がこの戦いの結末にどのような変化
をもたらすのかは、まだ誰にもわからなかった。


 「俺は作戦行動中の軍艦にいるから、連絡が取
  り難いんだよな。基本的に居場所は軍機だし
  」

 「私も世界中を回っているし、その場所もお嬢
  様次第だから」

二人はパソコンを利用したメールで定期的に連絡
をとる事にして、アドレスの交換をしてから帰途
についた。

 「これからの生活に張りが出そうだな。早速、
  メールでも送るか」

ディアッカは、帰り際にネットカフェに寄り道し
てから、「ミネルバ」に帰艦する。
例え、万が一の可能性しかなくても「ミネルバ」
の位置を特定されるような真似はしない。
これからは、寄港先でネット端末を探すのが一仕
事になりそうなディアッカであった。


 「ディアッカ。本当にありがとう。あなたの好
  意には答えられないかも知れないし、私はあ
  なたの敵だけど、私はあなたを殺させはしな
  いから。そう、カザマとその周りの連中だけ
  を殺して戦力の大半を奪えば、戦力の建て直
  しのために撤退するはず。そうすれば、あな
  たを殺さずに済むはずよ」

ディアッカと別れたあとの公園のベンチで、指に
はめて貰った指輪を眺めながら、アヤはその低い
可能性にすがって戦い抜く事を決意するのであっ
た。


十二月二十六日、俺達はオーブに向けて出発する
事になった。 
「重慶」周辺の惨敗兵の討伐と、治安の維持が確
保されたので、出発する事になったのだ。
ちなみに、自衛隊の連中はモビルスーツ隊の補充
のために、既にここを発って佐世保に急行してい
た。
今度のオーブでの海賊討伐は俺達と「アマテラス
」だけで行うらしい。
今度の件は何か複雑な事情があるようだ。 

 「残念だね。カザマ君なら、モビルスーツ隊を
  一任できそうなのに」

 「俺は東洋鬼ですよ」

 「古い言葉を知ってるね。私としては、優秀な
  らそれでいいんだけどね。部下を使いこなす
  のも、上官の器しだいってね」

 「ガイがいるじゃないですか」

 「カザマ君」

 「何です?」

 「耳を貸して」

俺が劉将軍に耳を貸すと、「彼はついに例のグル
ープにヘッドハンティングされた。エミリア達の
隠れ家を探し始めるそうだ」というような内容を
小声で話された。

 「そうですか。では、我々は我々の仕事をしま
  すかね」

 「そういう事だね。元気でいるんだよ」

 「元気なのが取り得ですから」

「ミネルバ」クルーと「アマテラス」クルーは
、劉将軍とに別れを告げてから、オーブへと出
発した。
表面上は平穏を保っているオーブは今、海賊騒
ぎで大変な事になっているらしい。
噂によると、オーブ政府内に海賊と内通してい
る人物がいるらしいのだ。
しかも、海賊なので、大戦力で討伐しようとす
ると姿すら見せないらしい。
俺達は任務の難しさを想像しながら、オーブに
向かうのであった。


          (おまけ)

俺の名前はムラクモ・ガイ。
世界でも最高の傭兵と称される男だ。
現在、俺は劉将軍指揮下の大佐として、精鋭モ
ビルスーツ部隊のパイロットを鍛える任務を行
っていた。
本来畑違いの任務なのだが、あのクソ女の命令
で始める事になってしまったのだ。
だが、若くて純真な部下達が俺を慕ってくれる
のは悪くない気持ちだ。
これだけは、あのクソ女に感謝しなければ。
天下分け目の大決戦を終えて、二十四日のクリ
スマスをカザマ達と楽しんだあとに、自室に戻
ろうとすると、一人の男が俺の帰りを待ってい
た。

 「何者だ?」

俺が咄嗟に銃を構えると、その男は両手をあげ
ながら俺に話しかけてきた。

 「怪しいですけど、ヘッドハンティングです
  」

 「確かに、怪しいな」

 「あなたの教官としての腕と、モビルスーツ
  パイロットとしての腕を見込んでです」

 「場所はユーラシア連合領の何処かか?」

 「そうです。詳しくはお引き受けしてくれな
  いと話せませんが」

 「条件によるな」

俺は、素早く報酬の話を要求する。
こういう時には、欲を出した方が向こうが安心
するからだ。

 「一日一万アースダラーです。必要経費も全
  て面倒見ます」

 「風呂敷を広げるのは結構だが、支払い能力
  はあるのか?」

 「ユーラシア連合政府と軍部がスポンサーで
  すから」

 「わかった。引き受けよう」

 「明日のお昼に街の外に迎えを出します」

 「わかった」

それだけを話すと、男は素早く姿を隠してしま
う。

 「あなどれない連中だな」

こうして、俺は新しい任務に就く事になった。


 「そうか。残念だな。君には残留して貰いた
  かったのだが仕方が無い」 

劉将軍に昨晩の話をすると、残念そうに許可を
出した。 

 「部下も残念がると思うよ」

劉将軍がそっとドアを開けると、「ガイ中隊」
の面々が聞き耳を立てていたのだ。

 「大佐殿!思い留まってくれませんか!」

 「大佐殿、残って下さい」

 「まだ、教わっていない事も多いですよ」

 「ガイ大佐がいなくなったら、我々はどうす
  れば・・・」

 「お前達・・・」

 「止めるんだ!お前達!ガイ大佐が困ってい
  るだろうが!」

俺が困惑していると、朱技術大尉が「ガイ中隊
」の面々を叱り付けた。

 「確かに、ガイ大佐がいなくなるのは悲しい
  事だ。それでも、俺達は、この部隊の栄光
  の礎を築いたガイ大佐の名を辱めないよう
  に、この部隊を守り続けないといけないん
  だ!」

 「そうだな。朱技術大尉の言うとおりだ」

 「俺達が頑張って、(ガイ中隊)の名前を辱
  めなければいいんだ!」

 「ようし!頑張るぞ!」

 「「「「おーーー!」」」」

 「これなら安心かな」

 「どういう事ですか?劉将軍」

 「うん。(ガイ中隊)を師団規模に拡大して
  、年明けに発足する(中華連邦共和国軍)
  に移籍させる事にしたんだよ。この中国大
  陸はまだ混乱していて問題も多いから、彼
  らが一国の利益のためだけでなく、この中
  国大陸全体のために動ける部隊にしようと
  目論んでいるんだ。今は四川自治共和国出
  身の軍人だけだけど、最終的には各国から
  選抜した軍人で、三個師団程度の規模にし
  たいんだ」

 「それは凄いですね」

 「ガイ大佐、名誉師団長の地位を空けておく
  から、いつでも戻ってきてくれよ」

 「ありがとうございます」

俺は柄にもなく泣きそうになりながら、劉将軍
の元を辞して、街の入口で待っている車に乗り
込んだ。

 「ウイグルを陸路で抜けてから、ロシア連邦
  領内で飛行機に乗り換える。少し長いぞ」

 「それも、仕事の内だ」

 「そうか」

男が車を出そうとすると、三十機ほどのピンク
のストライクダガーの改良機が上空を乱舞して
いた。
先の決戦終了後、朱技術大尉が、全ての機体を
全身ピンク色に塗装してしまったのだ。
更に、全機が「ラブラクス」とペイントされた
シールドを装備していた。
朱技術大尉が優秀であったために起った悲劇と
言えよう。

 「ガイ大佐ーーー!あなたの事は忘れませー
  ーーん!」

 「我らはこのピンク色に誓って日々精進しま
  ーーーす!」

 「ガイ中隊は永遠に不滅でーーーす!」

外部スピーカーでガイが特定される台詞が「重
慶」市内に木霊する。

 「お前、慕われてたんだな」

本来なら感動するシーンなのだが、ピンクのス
トライクダガーのインパクトのせいで、初めて
会った時には無骨そうだった男が肩を震わせな
がら、引き攣ったような笑い声を出していた。

 「プっ!ピンクの塗装で(ラブラクス)の文
  字。しかも部隊規模。絶対にこれはギャグ
  だ。あはは、あり得なさ過ぎだ」

 「えーい、またじゃないか!カザマの野郎と
  クソ嫁め!覚えてろよーーー!」

久しぶりのガイの絶叫が車内に鳴り響き、運転
手の男は笑い続けるのであった。 


結局、中華連邦共和国の治安維持用のモビルス
ーツ師団の所属機は、平和を愛するという理由
と、出身母体の「ガイ中隊」の隊員の希望によ
り、ピンク色がパーソナルカラーになり、この
部隊が活躍する度に、「ピンク師団」として、
世界各国に認知されていくのであった。

後日、その事を知ったガイは再び絶叫をあげて
いたらしいが・・・。 


          あとがき

意外と長くなってしまった。
短くしようと思ったのに・・・。
次回はある人物が再登場予定です。
誰だか、すぐにわかってしまいそうだけど。 


 

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