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「これが私の生きる道!運命編5混迷の中国大陸編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-05-29 00:22/2006-05-30 21:47)
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(十二月十五日、四川自治共和国首都「成都」近
 郊)

一週間前にカオシュンを出港した俺達は、未だに
混迷を続ける中国大陸で、四川省を統治下に置い
ている劉将軍を援護すべく、ミャンマー経由でこ
の地に到着していた。  
旧四川省は険しい山々がそびえ立ち、決して豊か
な土地とは言えないところであったが、地元出身
の劉将軍が先の大戦で、モビルスーツ部隊の配備
と運用を任されたところから、運命が大きく変わ
っていった。
東アジア共和国軍では「ストライクダガー」をラ
イセンス生産する事で、モビルスーツの数をある
程度揃える事には成功していたが、それらのモビ
ルスーツは部品の精度や強度が不足していて稼働
率が低く、特に、背中に装備された飛行パックは
自殺兵器とまで言われ、ザフト軍のカザマ隊長に
「存在する意味の無い代物である」とまで評され
るまでの最悪な出来の物であった。
しかも、初期のモビルスーツはOSが不完成品で
、二人乗りという他国ではありえない代物でもあ
った。
ところが、前任者が更迭された余波で、若くして
責任者に就任した劉将軍は、その任に就くやいな
や、OSの改良やパイロットの訓練カリキュラム
の作成、戦術の教本の作成や、整備マニュアルの
整備などを成し遂げ、その稼働率と性能を大幅に
上げる事に成功し、先の最終決戦時には、ザフト
軍のモビルスーツ隊とそれなりに戦えるまでに育
て上げる事に成功していた。
だが、劉将軍にはまだ大きな不満があった。
それは、「ストライクダガー」の信頼性が上がっ
た最大の理由の一つが、大西洋連邦製の部品を使
用した事によるものであったからであった。

 「東アジア共和国の企業のみで、(ストライク
  ダガー)を生産できなければ、これからの戦
  争には勝てない・・・」

劉将軍は中国大陸の企業を回ったが、満足できる
部品を作り出せる企業に巡り会えないでいた。
頼りになる日本と台湾の企業は、とうの昔に国ご
と東アジア共和国を脱退して、独自にモビルスー
ツを開発する優秀さを見せつけていたのに、自分
達の国は満足な部品一つ作れないでいたのだ。
やはり、東アジア共和国を建国した時に、「自分
達は商売だけをして、利鞘を楽に稼ごう」という
ような意見が、中国政府の上層部で出たがために
、面倒くさい技術的なものを必要とする産業は構
成国に任せて、自分達は、プラントから輸入した
物資を売りつけたり、日本などが苦労して生産し
た工業品を転売して儲けるような奢った考えが蔓
延していたのが最大の理由であると思われた。
そのお陰で、作れるものは二流品ばかりで、高度
な技術を必要とするモビルスーツの部品の生産に
、苦労しているのが実情であった。 

だが、劉将軍は諦めなかった。
彼は食料生産量も低く、比較的貧しい人達が住ん
でいる四川省の地元企業に、厳しい技術指導と品
質管理を行い、最近では、モビルスーツの部品の
7割近くを量産できるまでになっていた。
始めは厳しい劉将軍を嫌っていた経営者達も、そ
の時の厳しい技術指導のお陰で、高付加価値のつ
いた民製品の生産にそれが生かせるようになって
、経済が低迷していた中国本土の中で、唯一成長
を続けるまでになっていたので、劉将軍に絶大な
信頼を寄せるまでになっていた。

だが、先月の東アジア共和国政府首脳の暗殺で、
劉将軍の運命は大きく変わってしまった。
中国国内は、各省の軍司令官が地元の行政府と財
界人と結託して独立を宣言してしまい、完全な内
乱状態になってしまったからだ。
各省で蜂起した軍閥の長は、兵と兵器を独自に集
めてその力を誇示し、中国大陸統一をを目指して
戦闘を繰り返していた。
数々の集合と離散と裏切りが、この一ヶ月近くで
繰り返されて、多数の将校や兵士や傭兵や民衆が
命を落とし、質を考慮しないで集めた犯罪者のよ
うな兵士達が勝者となった時は占領地で略奪と暴
行を繰り返し、敗北した時は軍服を脱ぎ捨てて逃
亡して、不穏な犯罪者となって地元の治安を悪化
させていた。

そして、四川省では、ミャンマーとベトナムとの
国境地帯に山賊のようなものが出現して、せっか
く上向きかけた経済状態が、再び悪化しそうにな
っていた。
地元の企業家達は、現地の軍司令官に取締りを懇
願したのだが、四川省の軍司令官は独立する度胸
もないほどの小心者で、「早く、内乱が終ってく
れればいいのに」などと、頼りのない事ばかりを
言う男だった。

 「このままでは、治安が悪化する一方だし、他
  省の軍閥に四川省が吸収されてしまう。ここ
  は、誰かに立ち上がってもらおう」

企業家達は、行政府の官僚と話し合ってこの事を
決め、地元出身で、自分達の恩人である劉将軍に
蜂起してもらう事を決めたのだ。

 「確かに、このままではまずいから、誰かが立
  ち上がって国を打ち立てた方が、貿易等も楽
  になると思うけど、その代表が私とはね。正
  直驚いたよ。でも、状況が落ち着くまでだよ
  。私は自分で、モビルスーツを一から製造で
  きる会社を設立するのが夢なんだから」

そう言いながらも劉将軍は、指導者に就任する事
を決意して、旧四川省に四川自治共和国を建国を
宣言した。
劉将軍はモビルスーツ隊を中心とした軍隊を整備
し、国境地帯の山賊を討伐して、旧雲南省を統治
する毛将軍と同盟を結んで、対ラオス・ミャンマ
ー・ベトナムとの貿易を復活させて、外貨を稼ぐ
事に成功していた。
この二省は、例外的に戦火に巻き込まれずに平和
を享受していたのだ。
だが、そのわずかな平和な時間も、終了しつつあ
った。
本拠地である香港の中立自由都市化に失敗して経
済力を落としつつある孫将軍が、中国大陸で唯一
中立都市化に成功していた「重慶」を占領すべく
、暗躍を開始し始めたのだ。
多分、この「重慶」占領が成功すれば、次は確実
に自分達であろう。
危機感を感じた劉将軍は、以前から懇意にしてい
た石原首相に援軍を要請し、それを受けた日本の
自衛隊、オーブ軍、ザフト軍の特殊対応部隊が派
遣される事が決定したのであった。

 「とまあ、劉将軍の事情はこんなものですね。
  昔は敵として戦っていた俺達が、アラモ砦の
  危機を救うべく、騎兵隊として派遣されるわ
  けですよ。ああ、中国絡みですから三国志で
  すね。(成都)を治めているのが劉将軍なん
  て、出来すぎだと思いませんか?」

 「そうだね。僕達は誰に相当するのかな?」

俺とアーサーさんは、報告書を眺めながら、世間
話に花を咲かせていた。

 「乱世の中国か。少しは、纏まってくれたのか
  な?」

 「えーとですね。チベットとウイグルは独立済
  みで、極東連合に加盟しています。次に、旧
  中国東北地方の三省は、満州共和国として独
  立済みで、やはり、極東連合に加盟していま
  す。まあ、満州は昔から、日本と台湾の投資
  が盛んでしたしね。そして、内蒙古自治州が
  、モンゴル共和国と合併して中国から離脱し
  ました。モンゴル共和国は、元々極東連合加
  盟国でしたので」

 「この三ヶ国が抜けても、広大な地域が残って
  いるね」

 「ええ、北京市周辺と河北省と山東省を治めて
  いるのが曹将軍で、彼は、(中華民国)の建
  国を宣言しています。彼は、自分こそ正当な
  中国の為政者だと演説していますね」

 「ここは、大西洋連邦のヒモ付きだったかな?
  」

 「ええ。ヒモ付きというか、援助を引っ張りだ
  していますね」

 「中国人は強かだね」

 「次は、山西省と河南省を拠点にする蘭将軍で
  す。彼は、情報部の調べでは、東アジア共和
  国政府首脳爆殺犯に二番目に近い男です」

 「一番は誰なんだい?」

 「孫将軍です。彼は情報部の出身で、汚れ仕事
  専門の男だったそうですよ。一番の黒星です
  ね。彼は」

 「話を戻すけど、蘭将軍はエミリアのヒモ付き
  だったよね?」

 「例の朝鮮半島で戦った(ウィンダム)に似た
  モビルスーツが、二十機ほど確認されたそう
  ですよ」

蘭将軍は、東アジア共和国政府首脳爆殺の実行犯
と目される男で、本来ならば、そのまま北京で中
国の臨時政府首相に就任する予定であったそうだ
が、彼の計画をいち早く察知した曹将軍にカウン
タークーデターを食らって北京を追われ、出身地
の山西省と河南省で勢力を維持するのが精一杯の
状態になってしまったらしい。

 「江蘇省と安徽省と浙江省を統治する李将軍に
  挟撃されて、滅亡の時期はもうすぐだろうね
  」

 「政府首脳を爆殺しているので大儀は無く、北
  京を押さえる事に失敗したので国力も無い。
  こんな状態では、エミリアからの援助があっ
  ても厳しいですね。曹将軍と李将軍は、その
  事を利用して大西洋連邦から援助を巧みにむ
  しり取り、共同で蘭将軍を討伐する予定だそ
  うです。条件は、支配地の二省を半分に分け
  る約束になっているそうですが、喧嘩せずに
  素直に分け合うものですかね?」

 「蘭将軍の支配地を巡って、また争いが始まる
  のか。困った話だね」

 「そして、問題の孫将軍です。広東省、海南省
  、貴州省、広西チワン族自治区を勢力化に置
  き、先日、湖北省と湖南省を統治していた黄
  将軍を討伐して、その支配地は六省にまで広
  がりました。エミリアが一番援助をしている
  と思われる軍閥の長です。実は、蘭将軍に援
  助をしている理由が、曹将軍と李将軍の勢力
  の拡大を遅らせるのが目的ではないかとの報
  告もありますしね」

 「北京を押さえる事に失敗した蘭将軍は、捨て
  駒にされたのかな?」

 「というよりも、始めから失敗する事が前提だ
  ったようですよ。それなりに自身が力を持っ
  ていた曹将軍と李将軍と違い、情報部所属で
  中佐でしかなかった孫将軍がここまで勢力を
  拡大出来たのは、エミリア達の援助によるも
  のだと思いますし、孫将軍の方が操りやすい
  と、エミリア達は思ったんでしょうね」 

孫将軍は情報部出身で、自分の派閥の戦力をほと
んど持っていなかったが、出身地の香港でエミリ
アの援助を受けて兵を挙げ、本来ならば、上司に
あたる各地の将軍達の弱点を情報面で突きながら
、勢力を拡大していた。

 「孫将軍の配下のモビルスーツ隊指揮官の中に
  金髪・碧眼の連中が多数いるそうです。日中
  戦争時と一緒ですね。派遣顧問団のような連
  中ですよ」

 「外見は、ユーラシア連合のクーデター政権が
  派遣した将校達でも、実際には、エミリアの 
  指示によるものって事かい?」

 「孫将軍の弱点は、頼りになる戦力がエミリア
  達の派遣した援軍のみで、勢力を拡大した時
  に吸収した連中の忠誠心が、あてにならない
  という欠点を抱えています。当然、傭兵達も
  それほどあてになるわけもなく、彼は勝ち続
  けないと、支配権を維持出来ないんですよ」

 「それで、(重慶)を攻略するのか」

 「香港からは、かなりの国の企業が逃げ出して
  しまいましたが、まだそれなりに貿易港とし
  て機能しています。東アジア共和国海軍の根
  拠地だったために、封鎖都市になってしまっ
  た上海と違って・・・」

上海は本来なら、李将軍の支配地内にあるのだが
、「我々東アジア共和国海軍は、今回の内乱では
、どの勢力にも手を貸さない」と宣言して、上海
に篭城していた。
当然、各軍閥の誘いを受けて、戦力を持って離脱
する将兵も多数存在したが、半数以上の将兵が残
存して上海の防衛に就いていたのだ。

 「でも、彼らはどうやって生活しているんだい
  ?」    

 「中国沿岸では、軍閥に合流しないで海賊家業
  を始めてしまった脱走兵が多数存在するので
  、中国沿岸での海賊の取締りと、各国の輸送
  船団の護衛を行って、報酬を得ているそうで
  す。もう、東アジア共和国中央政府からの物
  資や給料は、期待出来ませんからね」

 「海賊か」

 「孫将軍が裏で操っているという話ですよ」

 「自分が勝つためには、あらゆるものを利用す
  るのか。恐ろしいまでのマキャベリストだね
  」

 「そんなわけで、各地の軍閥達の唯一の貿易中
  継点である(重慶)を占領されてしまうと、
  各地の軍閥達の国力が、落ちてしまうんです
  よ。当然、孫将軍も国力を落としてしまいま
  すが、香港がありますし、他の軍閥達の被害
  の方が深刻なので、作戦を決行するそうです
  」

 「そして、劉将軍がそれを防ぐために、(重慶
  )に入るので、その援軍を我々がするわけだ
  ね」

 「結論を最初に言うと、そういう事です」

俺達が長い話を終えて外の風景を眺めると、「成
都」郊外の広大な基地が見え、その広い敷地内に
は臨時のドッグが建造されていて、先発していた
「アマテラス」と「はりま」と「すおう」がその
艦体を休めていた。
更に、多数のモビルスーツ隊が訓練をおこなって
いて、飛行パックを装備した「ストライクダガー
」の改良機が多数と「センプウ」が少数見えた。
どうやら、「センプウ」は一部の指揮官にのみ支
給されているようだ。

 「思っていたよりも、練度が高いですね」

 「そうだね。さすがは、元東アジア共和国軍一
  のモビルスーツの専門家と言う事か」

 「おや?あの部隊は・・・」

俺は三十機ほどの「ストライクダガー」の部隊を
見つけたのだが、その機体にはピンクのハートマ
ークがマーキングされていた。

 「誰かの特別部隊って事ですかね?」

 「趣味が悪いよね」

 「指揮官の顔が見てみたい・・・」

 「カザマーーーぁ!ここで会ったが百年目!い
  ざ、尋常に勝負だ!」

そのピンクのストライクダガー部隊の中から、一
機のピンク色のソードカラミティーが現れて、無
線で俺に勝負を挑んできた。

 「えーと、私に何か恨みでも?」

 「俺は、お前の嫁の被害者だ!失われたプライ
  ドを取り戻すために貴様を倒す!」

 「そうですか。妻のラクスが迷惑を掛けてしま
  ったようで、申し訳ありません」

 「素直に謝ってるんじゃねえーーー!」

突然、「ミネルバ」のブリッジに設置された正面
スクリーンにガイの絶叫した姿が映し出された。

 「あれ?ガイじゃないか。久しぶりだな」

 「久しぶりじゃねえ!俺がこの二年間、どれだ
  け苦労したと思っているんだ!」 

 「ラクスから、無料でモビルスーツを貰ったん
  でしょ。経費が掛からなくて、結構な事じゃ
  ない」

 「全然、わかっていない・・・。とにかく、そ
  の(腐れグフ)で出て来い!俺が圧倒的技量
  で負かしてやるから」

 「疲れてるから嫌だ。それに、劉将軍と会わな
  いと」

 「嫌だというのか?」

 「後にしろと言っている」

 「では、仕方がないな。お前、子供が生まれる
  そうだな」

 「良く知ってるな」

 「風花から聞いた。実は、俺はお前に隠してい
  た事があってな」

 「何だよ?隠し事って」

 「その二人の子供の父親は俺なんだ」

 「へっ?」

突然のガイの告白に「ミネルバ」のブリッジは静
寂に包まれ、俺は顔面蒼白になった。

 「冗談だろ?」

 「ああ、冗談だ」

 「なーんだ。冗談か」

 「冗談さ」

 「あはははははは」

 「はははははは」  

俺とガイはお互いに笑っていたのだが・・・。

 「エイブス班長、(グフ)を訓練用の装備で」

 「もう、準備していますよ」

 「ありがとうございます」

俺はパイロットスーツに着替えたあとに、駆け足
で格納庫に降りて、「グフ」を起動させて出撃し
た。

 「この野郎!この時期に、言って良い冗談と悪
  い冗談があるんだぞ!」

俺はビームガンを連射しながら、ガイの「ソード
カラミティー」に突撃を掛ける。 

 「戦場では、常に冷静さを保たなければな」

ガイが「ソードカラミティー」の対艦刀を抜いて
構えたので、俺も「グフ」のビームソードを抜い
て、真上から斬り落とした。

 「お前こそ、例の風花ちゃんの事だがな」

 「俺の娘だなんてネタは飽きたぞ」

 「ふん、光源氏計画を実行しようとしているロ
  リコン野郎が!」

 「俺はロリコンじゃねえ!」

俺達はお互いに逆上しつつも、冷静に機体を操り
、壮絶な格闘戦を継続していた。

 「これが、カザマ司令の実力か」

 「さすがは、教官殿」

模擬戦の様子を見学していたレイ達が、驚きの声
を上げる。
今更ながらに、自分達の恩師の実力を思い知らさ
れたからだ。

 「日頃はふざけた事ばっかり言っていても、実
  戦では人が変わったように戦うって、昔から
  有名だったのよ。(黒い死神)の異名は伊達
  ではないのよ」

 「そして、うちの司令と互角に戦う伝説の傭兵
  (ムラクモ・ガイ)か・・・」 

俺達は、くだらない事で罵りあいながら真剣勝負
を続けていたのだが、その会話の内容は、管制官
であるメイリンの機転でジャミングがかけられて
いて、外に漏れる事はなかったようだ。
結局、エネルギー切れ寸前で、お互いがコックピ
ットへの一撃を成功させて、以前と同じような終
り方をしてしまったのだが、初めて見る劉将軍や
ガイの部下達には、好評であった事だけは明記し
ておく。

 「俺の一撃の方が0.1秒速かったな。俺の勝
  ちだ」

 「バーカ!お前の一撃は急所をわずかに外れて
  いた。俺は瀕死ながらも死んでいなから、俺
  の勝ちだ」

 「アホか!瀕死だったら、機体の爆発に巻き込
  まれて戦死するだろうが」

 「そこは、天才的な俺の操縦で機体を引いてい
  るから、俺は傷ついていても、モビルスーツ
  の損傷はわずかなんだよ」  

 「そんなわけあるか!お前の機体は確実に俺が
  止めを刺した。爆散してお前は戦死だ!つま
  り、先に戦死したお前の負けなんだよ」

 「大体、悪趣味なピンクのモビルスーツに乗っ
  ているお前に、そこまで言われたくないわ!
  」

 「この野郎!俺が一番気にしていることを!お
  前のバカ嫁のせいで、俺がどれだけ苦労して
  いると思っているんだ!」

 「人の妻の事を悪く言うな!ラクスは可愛いし
  、俺の子供を生んでくれるんだぞ!」

 「確かに、外見が可愛い事は認めよう。だが、
  性格が悪すぎだ!」

 「お前、そこまで言うか?ロリコンの癖に!」

 「俺は、ロリコンじゃねえ!」

お互いの機体のエネルギーが尽きても、コックピ
ット内の非常用電源で会話が可能な無線で、俺達
は口汚く罵りあい続けるのであった。

 「これも、双方の名誉のためにカットね。あと
  で、カザマ司令に何かを奢って貰おうっと」 

二人の会話をカットしながら、メイリンは一人呟
くのであった。


 「やあ、良く来てくれたね」

基地内の司令官室で、俺達は、劉将軍から歓迎の
言葉を受ける。

 「命令なので来ましたが、少数の助っ人だけで
  、勝てるものなんですか?」

 「詳しい話は、他所でやろう。お腹が空いただ
  ろう」

 「はい!」

爆食王子のシンが大声で賛同したので、俺達は別
室に移動する事にした。

 「まあ、盗聴などを防ぐための部屋だと思って
  くれ」

俺達がある大型の会議室に通されると、既に自衛
隊組とオーブ軍組の連中が、席に座って待ってい
た。

 「カザマ、早く座れよ。腹が減った」

 「俺もお腹が空いたな」

 「ムラクモ・ガイとガチンコでやれば、腹も減
  るだろうな」

 「午後にでも勝負するかい?石原二佐」

 「それは、願ったり適ったりだな」

俺達が席に座ると劉将軍が指を鳴らし、その合図
で従兵達が沢山の中華料理を運んできた。

 「わあ、いただきまーす!」

シンはアカデミーで習った礼儀作法を完全に無視
して、物凄い勢いで料理を食べ始めた。

 「この、おバカが!」

 「痛いですよ。カザマ司令」

 「食うなとは言わないが、上品に食えよ。しか
  も、まだゲストが到着していないらしい」

 「今、到着したそうだよ」

劉将軍が言うのと同時に会議室のドアが開いて、
三人の男女が入ってきた。

 「カガリちゃん!じゃなくて、アスハ中将とア
  ルスター外務長官とデュランダル外交委員長
  ですか。何ともまあ・・・」

 「あまり嬉しそうではないね。カザマ司令」

 「どうせ、私に無理難題を押し付けるつもりな
  んだ。デュランダル外交委員長は」

 「それは正確ではないな。押し付けるのは、カ
  ナーバ議長なのだから」

 「うわっ!酷っ!それで、アルスター外務長官
  は、いかなる用件でここに?」

 「調整が主な仕事かな」

 「アスハ中将閣下は?」

 「仕事だ。ウナト代表に頼まれてな」

 「まあ、詳しい話は、食事をしながらにしまし
  ょう」

劉将軍の言葉で、全員が席に座って食事を始める

 「まず、何から話そうかな?」

 「(重慶)の情勢をお願いします」

 「孫将軍は先に占領した(長沙)に戦力を集め
  ている。例のエミリア達の部隊もそこにいる
  ようだ」

 「戦力はどの程度で?」

 「通常師団が二十個で、航空機が三百機だそう
  だ」

 「数が多いですね。それで、肝心のモビルスー
  ツ部隊は、どれほどなんですか?」

 「推定で五百機だ。これに、エミリア達の増援
  が加わるから、六百機に迫るかもしれない」

 「ええー!軍縮条約下でそんな数のモビルスー
  ツを揃えたんですか?」

アーサーさんがその数の多さに驚きの声をあげた

 「元々、質はともかく、東アジア共和国軍は大
  量のパイロットを育成していたんだ。なにし
  ろ、ザフト軍は強かったから、数で押そうと
  いう考えでね。パイロットは消耗品扱いだっ
  たんだよ。次に、内乱状態の中国には、多数
  の傭兵が入り込み、ジャンク屋も出入りして
  、モビルスーツの売買を行っているんだよ。
  高性能な機体を一機でも多く仕入れるために
  、金に糸目をつけないから、まあ、数が集ま
  ること」

 「それで、こちらはどうなんですか?」

 「通常師団が五個で、航空機が百機とモビルス
  ーツ三百機が精一杯だね」

 「半分以下ですか・・・」

それでも、モビルスーツ戦の大家というだけあっ
て、劉将軍の軍勢が装備するモビルスーツは、か
なり多かった。
しかも、四川省や雲南省では自然環境が厳しく、
戦車等の移動が困難なので、飛行可能なモビルス
ーツを主力戦力に、戦闘機等を補助戦力にあて、
歩兵は厳しい訓練をした半ば海兵隊や陸戦隊のよ
うな精鋭部隊と、拠点防衛用と治安維持用の部隊
が少数あるだけであった。
実は、用意した五個師団の戦力の大半は、「重慶
」を防衛している部隊が大半であったのだ。  

 「援軍が来るから、もう少し戦力差が縮まると
  思うよ」

 「援軍ですか?」

 「青海省を統治する馬将軍と、甘粛省と陝西省
  を統治する関将軍が援軍を送ってくれるそう
  だ。どちらも、自国の防衛に手一杯で、(重
  慶)を失うと打撃を受ける人達だ。ゆえに、
  信用できるというわけだね。これで、十個師
  団、航空機二百機、モビルスーツ四百機にな
  るから負けないとは思うよ」

 「関将軍は、援軍を送ったりして大丈夫なんで
  すか? 確か、エミリアから援助を受けてい
  る、蘭将軍の支配地と隣接していたような・
  ・・」 

 「曹将軍と李将軍が同時に兵を出して、蘭将軍
  を討伐するそうだ。さすがに、自分の事で精
  一杯だろう」

 「それと、福建省と江西省と統治している魏将
  軍はどうなんです?」

 「彼は台湾の援助を受けて、防衛で手一杯だ。
  逆に、彼が国を死守しているからこそ、孫将
  軍の戦力が、あれだけで済んでいるという考
  え方も出来るな」

 「複雑な事になっていますね。中国大陸は」

 「自分の国の事だけに、複雑な心境だね」

 「すいませーん!麻婆豆腐のお代わりくださー
  い!」

 「はあ、こいつは・・・」

劉将軍と真面目に状況の確認をしているのに、シ
ンは話も聞かずに飯を食っていたらしい。
俺は、シンのバカさ加減に頭が痛くなってくる。

 「話くらい聞いておけよ」

 「聞いてますよ。つまり、勝てばいいんですよ
  ね」

 「ぶっちゃけると、そうなんだけどね」

 「(インパルス)で頑張ります!」

 「その(インパルス)の事なんだが・・・」

 「デュランダル外交委員長、(インパルス)が
  どうかしましたか?」

 「(重慶)に補充のモビルスーツとパイロット
  と共に、コアスプレンダーの予備機が届いて
  いるんだよ」

 「予備機ですか。まさか、二機運用しろと仰る
  ので?」

 「正解だ。パイロットの人選は、君に任せるか
  ら」

 「ルナ、お前に決定だ」

 「ええっ!私ですか?」

俺からの突然の指名で、ルナマリアが驚きの声を
あげた。   

 「ルナはシンの次に適正があったから、当たり
  前の事だな。(重慶)で訓練を開始するから
  な」

 「頑張ります!」

 「後は、何かありますか?」

 「君達の所属の事なんだが」

 「劉将軍の指揮下に、一時的に転籍するんです
  ね。勿論、(はりま)(すおう)(アマテラ
  ス)も同様に」

 「そういう事だ。特にオーブは中立が建前だか
  ら、絶対に必要な処置だ」

 「それで、アスハ中将が来たんだ」

 「まあな。モビルスーツの補充と、必要な打ち
  合わせを兼ねてな」

 「アルスター外務長官はいかなるご用件で?」

 「この戦いのあとの事を話し合うためにな。こ
  の内戦で中国は、今まで貯めていた富を多数
  失い、国内の破壊と秩序の崩壊が深刻になっ  
  ている。もし、この国の1%の住民が難民に
  なったら十五億人の1%だから、1500万
  人だ。正直、こんな数の難民を受け入れる事
  の出来る国など存在しない。現に満州共和国
  では、数十万人もの難民の存在が深刻な社会
  問題に発展しているんだよ。今、世界各国の
  政治家達は戦々恐々の思いをしているのさ。
  エミリアが援助をしている孫将軍と蘭将軍を
  討ち、蘭将軍の支配地は曹将軍と李将軍で分
  け合い、孫将軍の支配地は二〜三人の将軍で
  分けてもらって、(重慶)は今までの方針を
  守って貰えるなら、劉将軍の統治下に入って
  貰おうという内容の話し合いを先ほど終えた
  ところなのだよ」

 「そうなんだ。それなりに統治は大変だろうけ
  ど、中立都市(重慶)が四川自治共和国の統
  治下に入れば、その利益は計り知れない。血
  を流した我々と、援軍を出してくれた馬将軍
  と関将軍への多少の優先権を認めてあげれば
  、それぞれの国内の人達も納得してくれるだ
  ろうしね」

 「(重慶)が中立都市のまま、四川自治共和国
  の統治下に入るんですか?」

 「勿論、今までの方針は変えないし、新国連の
  監視団を受け入れる用意もある。今、この都
  市を現在の戦力で守りきる事は不可能だし、
  援軍を送る我々に多少の利益がなければ、国
  内の人達も納得しないのさ。政治というのは
  複雑なものなんだよ」

 「それは、そうですよね。タダで血を流すよう
  な酔狂な方はいませんよね」

 「もし、(重慶)防衛に成功したら、国内の数
  箇所にマスドライバーと、オーブ近海にある
  ギガフロート的な施設を建造する計画を立案
  していてね。四川省には海は存在しないが、
  誰も住めないような広大な山々が多数存在し
  ているから。そのような土地を利用して宇宙
  との交易が独自に出来れば、海がない我々で
  も十分に発展可能だ。世界中のどの国も、宇
  宙から同じ距離にあるのだから」

この戦闘が終了すれば、上海や香港の自由貿易が
再開され、重慶の重要性が低下すると予想した劉
将軍は、次の手を考えているらしい。
多分、その計画には様々な困難が予想されるが、 
彼ならば何とかしてしまいそうな気がした。
背は170cm前後で、髪はボサボサで、垢抜け
ない三十代前半の平凡な容姿の男は、混乱する中
国大陸から現れた、新しいタイプの英雄であると
俺には思われた。

 「一時的ではありますが、配下に入りますので
  よろしくお願いします」

 「(黒い死神)を一時的とはいえ、配下に出来
  るなんて光栄だね。転籍組の全体的な指揮は
  長谷川海将補を中将に任命して任せるから、
  あとで相談しておいてね」

 「了解しました」

俺達は長い話し合いを終えて、ようやく食事にあ
りつこうと思ったのであったが・・・。

 「何もないね・・・」

 「本当だ。何もない・・・」

数十人分はあったと思われた料理は全て平らげら
れていて、テーブルの上には、空になった皿しか
残っていなかった。

 「お代わりはありますか?」

 「それが、あちらの方が全て平らげてしまいま 
  して・・・」

従兵が示した方向には、満足そうな顔をしたシン
がいて、デザートの杏仁豆腐を美味しそうに食べ
ていた。

 「あの、劉将軍。普通、中国の人って・・・」

 「そうなんだよ。料理は少し残る事を前提に出
  したつもりなんだけどね。まさか、あの量を
  食べてしまうとは・・・」

劉将軍、俺、長谷川海将補、太田一佐、高柳一佐
、石原二佐、相羽三佐、アスラン、ハワード三佐
、トダカ准将、アーサーさんはほとんど何も食べ
られなかったようで、シンを恨めしそうに見つめ
ていた。

 「「「「「シン!」」」」」

 「えっ、俺だけじゃありませんよ」

 「ルナやステラが食べる量なんて、たかが知れ
  ているだろうが!」

 「レイも沢山食べてましたよ」

 「レイは上品に食べていただろうが!そんなに
  食えるはずがない!」 

レイは家庭の教育方針で、いついかなる時も優雅
に上品に食事をする男なので、大食いだとは思わ
れ難かったのだ。
この時は、俺もその事をすっかり失念していて、
実はレイがシンと負けず劣らずの量の飯を食べて
いた事に気が付くのは、ずっとあとの事であった

 「お腹が空きましたね」

 「この基地の食堂でなら、何かを出せるんだけ
  どね。我が軍は飯が旨いので有名なんだよ」

 「食堂で何かを食べさせて下さい」

俺の言葉で飯にありつけなかった連中が席を立っ
て、食堂に向かって歩き出した。

 「デュランダル外交委員長とアルスター外務長
  官は、食べに行かないんですか?」  

 「私はちゃんと食べたからな」

 「カザマ君、外交に携わる者は、隙を見せない
  ものなのだよ」

 「はあ、そうなんですか」

 「君もまだ若いな」

 「ディアッカ、お前はお腹が空かないのか?」

 「俺か?俺はちゃんと食べたからな。アスラン
  は真面目過ぎなんだよ。話は要点をだけを聞
  けばいいんだよ」

 「ガイ!」

 「何だ?俺は不器用なお前とは違って、ちゃん
  と食べたぞ。残念だったな」

 「お前にお願いがあるんだよ」

 「何だ?」

 「俺はルナの(インパルス)への機種転換訓練
  の面倒を見る仕事が忙しいから、シンをお前
  に預ける。好きにしごいてやってくれ」

 「俺の訓練はハンパじゃないぞ。特に、その坊
  主はコーディネーターだから、(スーパーデ
  ンジャラスコース)になるが」

 「スーパーでもスペシャルでも何でもいいから
  、徹底的にやってくれ。多少の事では壊れな
  いから」

 「あの・・・。飯の事で恨んでます?」

 「シン、俺が、そんなに度量の小さい人間に見
  えるのか?」

 「見えます」

 「違う!断じて否だ!俺は、お前に現在の壁を
  突破して欲しいんだよ。それには、タイプの
  違う性格は捻くれていてロリコンだけど、腕
  だけは超一流のガイに鍛えて貰う事にしたん
  だ。わかるだろう?俺の麗しき師匠愛を。獅
  子は子供を谷に突き落として這い上がってく
  るのを待っているのさ」

 「だから、俺はロリコンじゃない!」

 「シン!頑張ってくれ!」

俺はガイの抗議を無視して、言いたい事だけを言
って、食堂に飯を食いに行く。

 「ああ、絶対に恨んでるな。ヨシヒロさん」

 「坊主、カザマへの恨みも込めて、たっぷりと
  しごいてやるからな。そう、正に死んだ方が
  マシだと思えるような、(スーパーデンジャ
  ラススペシャルハードコース)でな」

 「あの、コース名が増えてませんか?」

 「坊主の大好きなフルコースメニューで鍛えて
  やる。俺は、カザマのようには甘くないぞ」

 「ヨシヒロさんのしごきも、キツイので有名だ
  ったんですけど・・・」

 「所詮は学生のおママゴトさ。俺のしごきは実
  戦に即した、いつ怪我をしたり、死んでもお
  かしくない代物でな」

 「あの・・・。お手柔らかにお願いしますね」

 「無理だな!さあ、これから早速訓練の開始だ
  !例の(インパルス)とやらで模擬戦を行う
  ぞ。勿論、許可は貰ってあるからな」

 「そんな、バカなーーー!」

シンの絶叫は会議室内に響き渡ったのであった。


 
 「明日の朝にここを出て、(重慶)に直行だそ
  うです。荷物は解くなと言われました」

食事を終えた俺達は、幹部で集まって会議を行っ
ていた。

 「俺達の仕事は、例の部隊への対応が主任務だ
  から、劉将軍の直属部隊として配置されて、
  他所の上官の命令は、聞かなくても良いらし
  い」

 「そいつは、結構ですね。自分達の戦力の消耗
  を抑えるための、捨て駒にされるのは御免で
  す」

長谷川海将補と俺の言葉に全員が頷いた。
現在の中国の軍閥と呼ばれる連中は、半ば私兵的
な兵力を自前で養っている状態なので、無駄な消
耗を極端に嫌う傾向がある。
自分の戦力の減少は、即自分の支配権の減少に繋
がり、下手をすると、部下に下克上をされてしま
う可能性があったからだ。
現に、孫将軍は、この方法で短期間にのし上がっ
ている。

 「劉将軍の兵士には、ちゃんと給料が払われて
  いるし、衣食住完全保障で元東アジア共和国
  軍の兵士の割合が高いから、マシな連中と言
  えるんだろうけど、他の軍閥の兵士は酷いか
  らな」

他所の軍閥の兵士達は、質を考慮しないで、数を
集めただけの練度もモラルも低い、犯罪者もどき
や食い詰め者が多く存在していた。
彼らの待遇は直属の指揮官任せで、給料や補給物
資等の分配も指揮官の度量次第であったので、自
分のポケットに入れて私財を蓄えるような人物が
上官だと、その待遇が極端に悪くなる傾向があっ
た。
そして、待遇が悪い兵士は、戦地で略奪等を繰り
返すようになるので、その事が国土が荒廃に拍車
を掛けて難民を急増させていた。  

 「孫将軍は勝てて国土を統一できれば、それで
  良しと考えているようですね」

 「みたいだな。先に占領された湖南・湖北省の
  状態は最悪らしいから」

 「(重慶)も同じ状態になりますかね?」

 「間違いなくそうなるな。それを防ぐ俺達は、
  正義の味方でもあるんだよ」

 「劉将軍の第二直属師団指揮官であらせられる
  長谷川中将は、暑い正義の心をお持ちのよう
  ですね」

 「漢字が違うような気がする・・・」

 「気のせいですよ」

俺達は、劉将軍指揮下の第二の直属部隊という位
置づけがされていて、師団長が長谷川中将で参謀
長がトダカ少将になっていた。
最も、トダカ少将は「アマテラス」の艦長も兼任
してるので、二人が一緒に指揮を執る事はなかっ
たが。

 「(ミネルバ)艦長のアーサーさんが大佐待遇
  で、(はりま)艦長の高柳一佐も大佐待遇で
  、(すおう)艦長の太田一佐も同じか。俺は
  、モビルスーツ部隊の統率を行うから、准将
  待遇なんだね」

 「俺が中佐待遇で、相羽が少佐待遇だ。アスラ
  ンは大佐待遇か」

 「指揮官は別にして、他の連中には、そのまま
  の階級が使われているようだな」

 「面倒だからでしょう?」

 「ザフト軍には階級がないから、適当に決めて
  いるようだな」

 「えーと。ディアッカが中佐待遇で、リーカさ
  んが少佐待遇か。シエロとテル・ゴーンは大
  尉待遇で、シン達は全員中尉待遇ね」

 「他所で戦うとなると、色々面倒な事が増える
  んだな」

 「要は、今まで通りに戦えばいいんでしょう?
  俺は、石原中佐殿やザラ大佐殿には指示は出
  さないし」

 「ただ、一つだけ頼まれている事があるんだよ
  ね」

 「何ですか?」

 「(重慶)を守備していた地上部隊を援護をす
  る、モビルスーツが欲しいそうだ」

 「(ストライクダガー)部隊がいるじゃないで
  すか」

ディアッカの言う通り、地上部隊には飛行パック
が間に合いそうにない二十機ほどの(ストライク
ダガー)部隊と、拠点防衛にしか使い道がない(
ザウート)の部隊が配備されていると資料には書
いてあった。

 「強力なのが数機欲しいそうだ」

 「誰が出しますか?」

 「ルナが(インパルス)に乗るから(アビス)
  が余るんだよ。シエロに乗って貰って、ステ
  ラと組ませようと思う。後は、補充組のパイ
  ロット達に予備機の(ザク)に乗ってもらっ
  て対応する」

 「(ガイア)も飛べませんしね」

 「そういう事だな」

 「では、夕方になったので、打ち合わせは終了
  して、明日の出発に備えましょうかね」

 「そうだな。今日は早く寝てしまうか。どうせ
  、この基地に娯楽など存在しないし」

俺の進言を長谷川中将が受け入れたので、俺達は
会議を終了させてから、各自に指定された自室に
向かって歩き出した。

 「ヨシさん、シンが大変な事になっていますよ
  」

アスランの指摘で基地の上空を眺めると、シンの
「インパルス」がガイの乗っていると思われる「
センプウ」に追い回されていた。

 「向こうは旧式機なのにーーー!」

 「モビルスーツを外見で判断するな。こいつは
  、朱技術大尉謹製の(センプウ改)に匹敵す
  る性能を持つ機体だ。(センプウ改)は、ザ
  フト軍でもまだ主力機だろうが」

 「(インパルス)の方が性能が上なのに!」

 「腕の差だ。赤服だか何だか知らないが、戦場
  ではそんなものはクソの足しにもならん。戦
  場で全てを決めるものは腕のみだ」

 「クソーーー!」

シンの「インパルス」はガイの「センプウ」に軽
くあしらわれていた。
どうやら、初めて戦うタイプのパイロットである
事と、熱くなり過ぎるという悪い癖が同時に出て
いるので、そこを経験豊富なガイに突かれている
ようであった。

 「シンももう少し落ち着けば、ここまで苦戦す
  る相手でもないのに」

 「あいつが今まで、戦った事のある格上の相手
  は、俺とディアッカだけだからな。俺はシン
  に柔軟性を付けて貰いたいんだよ」

 「食事の恨みが原因ではないんですね」

 「いや、半分はそれなんじゃないのか?」

俺の後ろで、アスランとディアッカがかなり失礼
な事を言っているので、無視して話を進める事に
する。

 「ガイは、数多の実戦を潜り抜けていて、奇策
  や卑怯な手にも精通している。だから、俺に
  は無い部分も、シンには覚えて貰いたいんだ
  よ」

 「多少方向性は違うけど、似たような性格をし
  ていると思いますよ」

 「勝つために手段を選ばないところなんてソッ
  クリだよな」

 「あのね。君達・・・」

翌日の早朝に俺達は、「重慶」に向けて出発をし
た。
朝鮮半島に引き続き、あまり気が進まない任務で
はあったが、劉将軍の人柄とその志の高さが救い
ではあった。
「きっと、彼ならばこの国に安定をもたらしてく
れるであろう」そう信じて、俺達は旅立つのであ
った。


(十二月十六日、長沙北方百キロの地点)

 「ねえ、アヤ。最近、元気がないよ。どうした
  の?」

 「ううん。何でもないよ・・・」

香港に到着した私達は、先に入港していた「ノー
チラス級」潜水艦四隻の搭載機と、補給物資とし
て到着したモビルスーツを荷揚げしてから、一路
「重慶」を目指して進撃を続けていた。
本来ならばモビルスーツに負担が掛かるので、ト
レーラにでも載せて行きたいところなのだが、そ
れでは、時間が掛かり過ぎてしまうので、中継地
点を決めて、飛行しながら移動を開始していた。

 「中国大陸って広すぎ!勘弁してよ。もう、お
  尻が痛いわよ」

 「そうね・・・」

アヤはどんな話を振っても元気にならなかった。

 「ねえ、台湾で何かあったの?」

 「別に、何もないわよ」

 「本当に?」

 「本当よ」

子供の頃から親友兼姉妹のように育った二人は、
隠し事をした事が無かったのだが、アヤは今回初
めて彼女に嘘をついた。
まさか、敵のパイロットとデートをして、その相
手を好きになっただなんて、絶対に言えなかった
からだ。

 「(ディアッカ、私どうしたら良い?あなたを
  殺す事なんて、絶対に出来ないよ・・・)」

アヤはディアッカに買って貰ったオルゴールを眺
めながら、目的地に向けて、飛行を続けるのであ
った。


(十二月二十一日、「重慶」郊外の臨時駐屯地内
 )

 「ルナ!ソードに換装しろ!」

 「はい!メイリン!ソードシルエット射出!」

 「ソードシルエット射出します!」

俺達は「重慶」に到着してからというもの、訓練
漬けの日々を送っていた。
俺達は常に敵より少数で戦う事が多いので、頼り
になるのは、敵よりも優れた技量のみであったか
らだ。
「アフリカ戦線」「インド洋」「硫黄島」「オー
ブ」「最終決戦時」と、常に少数の我々が勝利を
掴んで来れたのは、その厳し過ぎるとまで評価さ
れた訓練の賜物であった。

 「カザマ司令!ソードに換装しました!」

 「大分、時間が縮まったが、まだシンよりほん
  の少し遅いな。わかっていると思うが、(イ
  ンパルス)最大の弱点は、換装時の無防備さ
  だ。タイミングと場所を良く見極めて、素早
  く換装する事。そして、戦況が変わったら、
  すぐに別のシルエットを呼び出して、換装す
  る事だ。この時も、敵に攻撃されないように
  注意しないといけない。わかったな?」

 「はい!」

 「よーし、今日はここまでだ」

 「ありがとうございました。教官殿」

 「ふふ、懐かしい響きだな。教官殿か」

 「そうですね。あの、シンは大丈夫なんでしょ
  うか?」

 「ガイはロリコンだけど、ホモではなかったと
  思うよ」

 「いえ、そっちの事ではなくて・・・」

 「ああ、訓練の事ね」

あれから数日、シンはガイから特別な個人指導を
受けていた。
どうやら、俺が忙しくてガイの相手をしてやれな
いので、ストレス発散も兼ねて相当に厳しくやら
れているらしく、シンは毎日くたくたになってい
るらしい。
だが、ガイは自分の部隊を訓練しながら、開いた
時間にシンを訓練しているので、正直ガイの方が
化物じみていた。

 「大丈夫だって。最近では、それなりに戦える
  ようになったって聞いているから」

 「そうですか。わかりました。シンにお菓子を
  作ってあげながら待つ事にします」 

 「えっ!お菓子を作るの?」

 「大丈夫ですよ。作り慣れたものしか作りませ
  んから」

 「ならいいんだけど・・・」

 「それでは、失礼します」

ルナマリアが「インパルス」を「ミネルバ」に着
艦させて、その素顔を赤服のパイロットから恋す
る乙女に変えたのと同時に、俺はついでに他の連
中を見て回る事にした。
俺は准将待遇で、助っ人組のモビルスーツ部隊の
責任者という事になっているからだ。
なにぶん、三ヶ国合同軍なので自衛隊組は石原二
佐に、オーブ組はアスランに任せてはいるが、細
かい状態をチェックしておかなければならないか
らだ。

 「石原二佐、調子はどう?」

俺は「グフ」を操って、自衛隊組のモビルスーツ
隊の訓練を監督している、石原二佐に声を掛けた

 「バッチリだと思うよ。前回のように、後ろか
  ら撃たれて撃墜される事態だけは避けないと
  な」

朝鮮半島の戦いで、「ハヤテ」に一つの欠点が見
つかったというか、かねてから指摘されていた欠
点を、敵に見破られていたからだ。
それは、MA体型時に、後ろからの攻撃に弱いと
いうものであった。
正面は光波シールドを張れるし武装もあるので、
最強といえる性能を発揮していたのだが、敵は攻
撃を巧みにかわしてから、即座に後ろ側に射撃を
加えてきたのだ。
先の戦闘では、オーブ軍の「ムラサメ」隊も同様
の被害を受け、合わせて十機近くが撃墜されてい
た。 

 「それらの対応を訓練をしているし、(ハヤテ
  )隊も増強しているから、以前のような事は
  ないと思うよ」

「はりま」と「すおう」は、「ハヤテ」を無理や
りに十八機も搭載して、合計三十六機も運用して
いた。

 「次は、アスランかな」

同じくアスランは、オーブ軍の「ムラサメ」隊の
訓練を監督していた。 

 「アスラン、調子はどうだ?」

 「自衛隊組と同じような事をしています」

 「そうみたいだな」

「ムラサメ」隊はMA体型に変型して、後ろから
の攻撃をかわす訓練をしていた。

 「うちも、無理やり十八機の(ムラサメ)隊を
  運用していますし、日本人って考える事が一
  緒なんですかね?」

「アマテラス」もトダカ少将の要請で、十八機の
「ムラサメ」を艦内に詰め込んで運用していたか
らだ。

 「数が多いほうが有利だからだろ。トダカ少将
  には、責任ってものがあるんだよ」

 「そうなんですよね」

 「アスランも一佐なんだから、結構重い責任が
  あるんだぜ」

 「少し気が重いですね。でも、カガリはもっと
  重い責任を背負って、頑張っているんですけ
  ど・・・。ヨシさんは、日頃はどうしている
  のですか?クライン家の婿なんだから、当然
  政治向きの仕事もあるんでしょう?」 

 「無いよ」

 「えっ!」

 「全く無い。全部、ラクスがやっているから。
  お義父さんも手伝ってはいるようだけど、基
  本的には、ラクスが一人でやっているな」

 「手伝わないんですか?」

 「頼まれれば手伝うけど、頼まれないから」

 「それって、冷たくありません?」

 「あのな、アスラン。いくら夫婦でも、踏み込
  んで良い点と、いけない点があるんだよ。俺
  はカザマ家の人間で、ラクスは俺の妻ではあ
  るが、クライン家の人間だ。カザマ家の事は
  俺がやり、クライン家の事はラクスがやる。
  これで、良いんだよ」

 「そうなんですか?」

 「だから、お前もカガリちゃんの責任の事は、
  隅に留める程度にしておいて、軍人としての
  責任を果たす事を第一に考えるんだな。もし
  、カガリちゃんが助けを求めてきたら、その
  時に助けてあげればいいんだから。自分が何
  でもやらないといけないなんて考えるのは、
  傲慢になった証拠だぞ。俺は会った事は無い
  けど、これから戦う孫将軍はそんなタイプの
  人間なのかも知れないな。(自分はこの国を
  統一して、強力な国家を建設しなければなら
  ない。そのためには、多少の犠牲が出るのは
  仕方がない)そんな考えをしているのかも知
  れないな。だから、あまり考えすぎるなよ」

 「はい」

 「それにさ。カガリちゃんの事なんだけど」

 「何ですか?」

 「また、観戦武官だなんて言って、(重慶)に
  止まっているじゃない。どうせ、クリスマス
  に、アスランと過ごそうとか考えているぜ。
  うん、間違いない」

 「やはり、そうですか。留守のキサカ准将は、
  書類の山に埋もれていますね。きっと」

 「こりゃあ、暫らくはカガリちゃんよりも、キ
  サカ准将の心配をしてあげたらどうだ?」

 「そうします」

俺とアスランは会話を打ち切ってから、自分の部
下の様子を見に行く事にする。

 「ディアッカ、様子はどうだ?」

 「補充組との連携も大分整ってきました」

 「そいつは結構」

デュランダル外交委員長は、「重慶」に「インパ
ルス」の予備のパーツとコアスプレンダーの予備
機を準備してくれた上に、十二名の緑服ながら、
ベテランのパイロット達を「センプウ改」と共に
派遣してくれていた。  
俺はその内の三名を、「ミネルバ」の予備機の「
ザク」に乗せてシエロとステラの下に回し、残り
の九名をディアッカとリーカさん達に指揮せてい
た。

 「俺は、例の女パイロットに付けねらわれる可
  能性があるからな。ザフト組の指揮は任せる
  ぜ。ディアッカ、リーカさん」

 「任せなさい」

 「任せて下さい。俺はまだまだ死ねませんから
  」

 「ディアッカがそんな事を言うとは、もしかし
  たら・・・」

 「そうね。もしかしたら・・・」

 「ようやくわかって貰えましたか」

 「見合いでもするのか?」

 「この戦いが終わったら、ナンパにでも出掛け
  るの?」

 「違ぁーーーう!」

 「例の脳内彼女か?」

 「ディアッカ君、可愛そうに・・・」

 「本当に怒りますよ・・・」

俺達の訓練と戦闘準備は順調に進んでいたが、孫
将軍の軍勢も明日の正午には、目視できる地点に
集結を完了するらしい。
例の「ウィンダムもどき」が多数移動中との報告
も入ってきており、後数時間で俺達は、臨戦態勢
に移行する事になっていた。 

 「さて、劉将軍のところで、情報を集めるかな
  」

俺は「グフ」を「重慶」の市庁舎まで飛ばしてか
ら、正面の空き地に着陸させて、市庁舎内にいる
劉将軍に会いに行く。

 「やあ、モビルスーツ隊の様子はどうなんだい
  ?」

 「すこぶる順調ですよ。いよいよ、明日ですね
  」

 「そう。明日が決戦だ」

 「この(重慶)の運命も、明日で決まるのです
  ね」

劉将軍の隣りにいた、五十代前半くらいの役人然
としたおじさんが、緊張した面持ちで発言する。
彼は陳将圭という名前で、東アジア共和国が分裂
する前から、この(重慶)の市長を務めていた人
物である。
彼はこの内乱では、完全中立をいち早く表明して
、その意見に賛同した旧東アジア共和国軍の駐留
部隊と共同して、「重慶」の中立を守り続けてい
た。

 「我々が盾となって、(重慶)を守り抜きます
  から、安心して下さい。各国の(重慶)の中
  立都市化を支持する各国からも、援軍が届い
  ていますし、馬将軍と関将軍も、援軍を送っ
  てきていますから」

劉将軍は、既にわかりきっている事を何度も力説
して、陳行政官を安心させていた。  

 「(重慶)の地上守備部隊には、ザフト軍の新
  型モビルスーツが、二機も配置されています
  。ご安心を」

俺も陳行政官に新型モビルスーツを回した事を説
明する。
彼は軍事的な事には疎いので、新型機なら安心す
ると判断しての事だ。 

 「そうですか。それを聞いて安心しました。ど
  うやら、私の取り越し苦労だったようですね
  」

安心した陳行政官に、非常事態宣言の発令と全住
民の避難をお願いしてから、俺達は郊外の臨時司
令室に向かう事にする。 

 「(グフ)に乗せてくれないか?」

 「乗り心地は最悪ですよ」

 「私もパイロットの資格を持っているんだよ。
  最近は乗る時間がないけどね」 

俺は「グフ」に劉将軍を乗せて、短い遊覧飛行に
出発した。 

 「うーん。やっぱり、ザフト軍の新型モビルス
  ーツは素晴らしい。ここまで追いつくのに、
  あと何年かかる事やら」

 「劉将軍のモビルスーツ隊も、なかなかのもの
  だと思いますが」

 「私は専門家だからね。確かに、部品の精度と
  強度を上げて、オリジナルに近いものを生産 
  できるようにはなったさ。でも、このスラス
  ターの発射音や各部モーターの駆動音、内装
  機器の状態を見ると、まだ、遠く及ばない点
  が多々あるのさ。それに、独自のモビルスー
  ツを設計して、量産して、配備して、運用で
  きて、始めて目的地に到着したと言えるもの
  なのさ」

 「所詮は兵器ですよ。モビルスーツは」

 「でも、精密機器の塊だ。これを開発・量産で
  きる技術力を持つ国は豊かな工業国になれる
  が、できなければ、安価な製品を安く買い叩
  かれて生産するだけの貧しい国になってしま
  う。確かに、上海・北京・香港などは商業的
  には豊かになったが、内陸部には、まだまだ
  信じられないほど貧しい地方が多数存在して
  いる。商売が成功した者と、製造業でも安い
  賃金で人を大量に使える経営者は金持ちにな
  り、多くの農民達は、未だに原始的な農作業
  を行いながら、貧しい生活を送っている。今
  回の内戦の直接的な原因は謀略によるものか
  も知れないが、中央政府の政治に地方の人々
  が反発していたという間接的な理由も存在し
  ていると私は思っているのだよ。結局、東ア
  ジア共和国は過去の王朝のように、農民の反
  乱で滅んだのだよ」

 「軍閥の蜂起で、期待してしまったんですね」

 「そういう事だ。実際には、戦火で多数の被害
  を出しているだけだけどね」

 「孫将軍を討てば、中国は安定しますか?」

 「取りあえずの懸案事項は解決されると思うよ
  。私、馬将軍、関将軍、魏将軍と孫将軍の支
  配地が二〜三に割れるから、彼らも仲間に入
  れて、連邦国家を樹立する予定になっている
  。曹将軍と李将軍も話に加わってくれればい
  いのだが、現状では不可能だろうしな。国際
  的に孤立して困窮すれば、考え直してくれる
  と思うんだけどね」

 「後者のお二方は、中央集権国家志向で、劉将
  軍達が連邦国家志向って事ですか?」 

 「私はそうだけど、他の将軍達は知らないな。
  私は現状追認志向の人達だと思っているけど
  」

 「平和になれば、何でもいいじゃありませんか
  」

 「おいおい、大枠を決めただけだぜ。各地の異
  民族問題。この内乱で発生した難民の処遇。
  細かな国境問題。(重慶)の中立都市化をい
  かに維持していくか。李将軍の支配地にある
  (上海)と旧東アジア共和国海軍の処遇問題
  。そもそも、蘭将軍が倒れたあとの領土の分
  配を巡って、曹将軍と李将軍が争わないとい
  う保障もないし、孫将軍を倒せたとして、そ
  の支配地の分配問題も存在している。我々が
  併合してしまうと、大きくなり過ぎた我々が
  、新たな火種になってしまうからね。これら
  を適切に処理して、引退するまでに何年かか
  る事やら。私はモビルスーツを開発・生産す
  る企業を立ち上げたいのに」

 「えーと、お子さんに夢を託したらどうでしょ
  う」

 「はーーーっ。やっぱり、そうなるのかな?」

 「十年やそこいらで解決する問題じゃありませ
  んよ。有能な後継者がいれば、任せるという
  手がありますけど。俺も会社経営が夢なんで
  す。だから、シン達を鍛えています」

 「そうか!後継者を育てればいいんだよな。カ
  ザマ君、ありがとうね。よーし、早く引退す
  るぞーーー!」

 「劉将軍は珍しい方ですね。普通は、権力に固
  執するものなんですけど」

 「元々、頼まれてやっている事なんでね。実は
  、日本の企業にヘッドハンティングされてい
  たのを断って、この仕事をやっているから。
  民間企業のノウハウを学びつつ、開業資金を
  貯めるという一石二鳥の策だったのに・・・
  」

 「何処の会社ですか?」

 「(楠木重工)プラント支社だよ。宇宙に上が
  れるのが、魅力的だったんだけど」

まさか、あの悪魔達の魔の手が、中国大陸にまで
及んでいたとは・・・。

 「断って正解ですよ・・・」

 「えっ!待遇が悪いのかい?」

 「待遇は悪くないですけど、あと戻りできなく
  なります。俺の従兄弟達のように・・・」

俺はここ数ヶ月会っていない、可愛そうな子羊達
を思い出していた。
二人は係長職にまで出世して、有力な次期幹部候
補と目されているらしいが、俺は、ひとかけらも
羨ましいとは思わなかった。

 「いろいろ大変なんだね」

そこまで話したところで、俺は「グフ」を駐屯地
の臨時司令官が置かれているプレハブ前に着陸さ
せる。

 「今度は(インパルス)に乗ってみたいな」

 「あれは操縦が難しいですよ」

 「それは残念」

劉将軍を降ろした俺は、即座に臨戦体勢への移行
を指示して、「重慶」の南部の荒野に陣地を移動
させ始めたのであった。


(同時刻、ミリア視点)

 「アヤ、孫将軍のところへ出かけるわよ」

 「わかったわ。良い男かしらね?」

 「あら、元気になったわね」

 「ええ(そうよ。ディアッカと戦わなければい
  いのよ。カザマさえ始末すれば、部隊を引き
  揚げる可能性もあるのだから)」

自分でもそんなはずが無い事くらいはわかってい
たが、そんな事にすがるぐらいしか、自分を保つ
方法がなかったのだ。

 「さて、出かけましょうかね」

二人はアンテナが沢山飛び出している、一台の大
型トレーラーの中に入っていった。
トレーラの中では、多数の無線機や探知機器が設
置されていて、集まった情報が若い士官達によっ
て収集・分析されて、孫将軍の元に集まっていた
。 

 「大したおもてなしもできずに、すみませんね
  」

孫将軍はまだ、三十歳にもなっていない若い将軍
で、背が高くて顔も良かった。
昔でいうところの三高というやつだ。
きっと、女性にもモテるのであろう。

 「すいません。ソファーが無いんですよ」

孫将軍はパイプ椅子を二つ広げて、二人を座らせ
てから、自分も汚い木製の椅子に座った。

 「まずは、ご助力感謝します。エミリア様に、
  よろしくお伝え下さい」

 「いいえ、それほどの事はしていませんわ」

 「八十機近いモビルスーツを、こんな奥地にま
  で用意してくれたのです。さぞや、大変だっ
  たでしょう」

 「この戦いが終わったら、モビルスーツは一部
  の新型機を除いて、全機孫将軍に進呈すると
  の母上からの命令です」

 「ありがとうございます」

 「明日はいよいよ決戦ですね」

 「ええ、これで負けた方が滅亡します」

 「戦力的には、大分有利だとお聞きしましたが
  」

 「数は倍近いですけど、劉将軍はモビルスーツ
  戦に長けています。そして、我々は寄せ集め
  の戦力ですが、劉将軍の部隊は、訓練も統率
  も行き届いている。うちの山賊まがいの連中
  とはわけが違うのです。油断は禁物です」

確かに、孫将軍の兵士の素行は最悪だ。
進軍途中で略奪をしたり、無意味に住民を虐殺し
たり、女性をレイプしているような犯罪者もどき
の連中が多い。

 「ですから、おかしな所に散歩に行かないで下
  さい。女性は時に危険ですから」

 「罰しないのですか?」

 「キリが無いんです。それに、私の指揮下に無
  い連中を罰すると、その部隊の指揮官が五月
  蝿いのです。私の大戦力が、いかに薄氷の上
  に立っているか理解して貰えましたか?私は
  悪人だと言われようが、虐殺者だと言われよ
  うが、この国を統一しなければなりません。
  劉将軍の提唱する連邦制国家では、他国に舐
  められるだけです。古臭かろうが、効率が悪
  かろうが、強力な中央集権国家を作らなけれ
  ばならないのです。その大事の前に戦力を減
  らすような事はできませんよ。連中が悪い事
  をしているのは重々承知していますが」 

劉将軍と孫将軍、乱世が生み出した二人の若き英
雄は、立場も考えも違っていたが、国の事を思う
気持ちだけは同じであるようだった。

 「明日はお願いしますね」

 「私達は例の部隊と戦います」

 「そうですね。特に、ザフト軍の(黒い死神)
  とディアッカ隊長、オーブ軍のザラ一佐とハ
  ワード三佐、自衛隊の石原二佐と相羽三佐は
  曲者です。先の大戦の生き残りで、腕も良い
  ですから。そして、劉将軍の下でモビルスー
  ツ部隊を率いている伝説の傭兵(ピンクの死
  神)ことムラクモ・ガイ。やつも危険な男で
  す」

孫将軍は情報部出身なので、情報を集める事に長
けているようであった。

 「私達の相手って強力よね」

 「私はカザマを討つだけの事よ」

 「彼は助っ人組モビルスーツ部隊の指揮官です
  。討って貰えれば、ありがたいですね」

 「頑張ります(カザマに集中すれば、ディアッ
  カと戦わずに済む)」

 「では、明日に備えて早めに休んで下さいね」

孫将軍の元を辞したミリア達は、夜道を歩きなが
ら会話を続けていた。

 「かっこいい男よね。あの豚とは大違い」

 「背も高いし、頭も切れる。そして、女性に優
  しいか。完璧な男ね」

 「向こうの劉将軍は、見た目は普通の男らしい
  から」

 「私達の大義名分は、イケメン男を助けるとい
  う事で」

そんな事を話しながらも、二人の心の中は晴れな
いでいた。
アヤはディアッカの事で悩み、ミリアは国の事を
思うがために、強硬手段を使って毎日多くの人を
殺している孫将軍を操っているのが、自分達であ
る事に対してである。

 「とにかく、早く寝てしまうに限るわ」

 「そうね。寝不足はお肌の大敵よ!」

二人はとりあえず明日を生き残るために、早めに
就寝するのであった。


(十二月二十二日午前11時、「重慶」南方五十
 キロの地点)

 「いよいよ決戦ね」

 「そうですね。ミリア様」

孫将軍の部隊とミリア達は、前方に防御陣形を構
築している劉将軍に攻撃を仕掛けるべく、陣形の
建て直しを行っていた。
今までなら、用意ができた部隊から攻撃を仕掛け
ていたのであるが、今回は相手が相手だったので
、完全に準備を整えてからにしたのだ。  

 「前の黄将軍との決戦は、楽勝だったと聞いて
  いるけど」

 「黄将軍の軍勢の主戦力は、戦車と装甲車でし
  た。上空から航空機とモビルスーツが攻撃を
  仕掛けて、瞬時に殲滅させたそうです」

 「なるほどね。相手の頭が固くて助かったのね
  」  

 「そういう事です」

 「さて、そろそろ準備をしますか」

 「ミリア様、実はお願いがあるのですが・・・
  」

 「何かしら?」

 「一人、討ち取りたい奴がいるのです」

 「アヤと同じ事を言うのね。ジュゼック」

 「昔の裏切り者を始末させて欲しいのです。私
  の出自はご存知でしょう?」

 「ええ、知っているわ。パーフェクトソルジャ
  ー計画の最後の生き残りであるジュゼック・
  バーロー君」

 「スティング・オークレー、アウル・ニーダ、
  ステラ・ルーシェの三人と私は同じ訓練施設
  で育ちました。本当ならば、私も硫黄島に行
  く予定だったのですが、私だけが急病になっ
  てしまって一人残されてしまい、三人も戦闘
  中に戦死したと聞かされていました。ですが
  、ステラ・ルーシェだけは何故か、敵である
  はずのカザマの義理の妹になっていて、ザフ
  ト軍の赤服のパイロットになっていたのです
  。一緒に育った兄弟達を殺した敵と馴れ合う
  ステラを私は許せません!裏切り者を始末し
  て、スティング兄さんとアウルの墓に報告し
  たいのです」

 「許可します。早く倒して指揮官に復帰してね
  」

 「ありがとうございます」

ジュゼックは紆余曲折を経て、エミリア達に合流
した男で、香港に先に到着していた(クライシス
)部隊の内、十二機の指揮を任されていた。

 「人の人生は色々ね。私はパパの仇を討ってい
  るつもりなんだけど、誰を討ったら良いのや
  ら。誰を討てば終るのやらってね・・・」

 「ミリア、何をボーっとしているの?」

 「うん、考え事をね」

 「全機、準備完了よ」

 「ありがとう。アヤは新型機でしょう。大丈夫
  ?」

 「(クライシス)が四基のハイドラグーンの試
  作品を背負っているだけで、あとは変化なし
  よ。これで、カザマを討つ!」

 「そう頑張ってね」

 「(そう、カザマさえ討てば・・・。私はカザ
  マを討つ事のみに専念しよう)」

その後、二人は(クライシス)部隊を出動させて
、所定の位置に就き開戦の時を待つのであった。


(同時刻、「ミネルバ」艦内)

 「へえ、最新鋭艦って凄いね。その艦長をやっ
  ているアーサー大佐はエリートなんだろうね
  」

 「いえ、アジア共和国で重鎮でいらっしゃった
  、劉将軍ほどではありません」

劉将軍が「後方に設置した仮設テント内で指揮を
執る」という衝撃的な発言をしたために、我々は
「流れ弾でも当たったら大変だと」判断して、急
遽「ミネルバ」を旗艦に指定して、強引に乗せる
事にしたのだが、新しいモビルスーツと機械が大
好きな劉将軍は、「ミネルバ」を物珍しそうに観
察していた。
本来ならば、外国人に最新鋭機器を見せる事に反
対するアーサーさんも、劉将軍に毒気を抜かれた
らしく、文句を一言も発していなかった。

 「そろそろ、始まりますよ」

 「みたいだね。孫将軍も沢山の機器を搭載した
  トレーラーで、指揮を執るので有名だったん
  だけど、ギリギリで艦隊が間に合ったようだ
  ね。こっちは色々と大変になるけど」

 「陸上戦艦ですか。(レセップス)に似てます
  ね」

 「著作権無視のデッドコピーさ。大きく作れる
  から、技術的にも楽に製作できるんだ。材料
  とお金があればだけどね」

 「いつの間にあんな物を・・・」

 「内戦になる前に建造していて、内戦後に放置
  されていたものを、孫将軍が完成させたのさ
  」

 「地上戦艦三、地上駆逐艦六です」

 「(はりま)の長谷川中将から命令です。全艦
  艇横一列で砲撃用意!モビルスーツ隊は射線
  から離れたところで戦闘開始!」

 「全火器開放!タンホイザーは・・・」

 「とりあえず禁じ手にしましょう。アーサーさ
  ん」

 「了解だ」

 「じゃあ、俺は(グフ)で出ますから」

 「頑張ってね」

劉将軍のお気楽な応援に、一瞬気が抜けてしまい
そうになりつつも、俺は格納庫に降りてから「グ
フ」の発進準備を開始した。

 「ホーク少尉、全軍に放送をするから、回線を
  貸してくれないか?」

 「回線を繋ぎました。どうぞ」

 「ありがとう。みんな聞こえているかな?私は
  この作戦の指揮を執っている劉将軍だ。みん
  な緊張しているのかな?私はしていないぞ。
  何しろ、雇われの指揮官だからな。給料明細
  見るか?安くて驚くぞ。まあ、冗談はここま
  でにしておいて、我々は敵を防がないといけ
  ないのだが、敵である孫将軍の軍勢は多いけ
  ど、訓練はあまりしていなし、統率も取れて
  いないようだ。地上戦艦も三隻いるようだが
  、こちらには四隻もいる。駆逐艦なんて木の
  葉のような物だから、無視しても構わない。
  どうせ、こちらの戦艦がついでに沈めるから
  。我々は小国で戦力も小さいけど、これから
  の戦局を左右するモビルスーツ部隊は、どこ
  の国も負けない規模のものを揃えたつもりだ
  し、訓練もばっちりやっている。それに、心
  強い味方も沢山いる。日頃の訓練の成果を思
  う存分発揮してくれ。そうすれば、100%
  勝てるから。それは、私が保証しよう。では
  、怪我をしないように頑張ってくれ」

 「何だ!あの演説は?」

俺は「グフ」のコックピット内で驚きの声を上げ
るが、他の兵士達には大うけの様子だ。
兵士達の笑い声が無線に入ってくる。

 「始めから、(ミネルバ)に乗り込むつもりだ
  ったな。あの人は」

 「カザマ君、敵が進撃を開始したよ。物凄い数
  のモビルスーツだ」

 「例の部隊は?」

 「推定で八十機というところだね」

 「アスランや石原二佐はどうしています?」

 「当然、出しますよ」

 「右に同じだ!」

アスランと石原二佐から、ちょうどいいタイミン
グで無線が入ってきた。

 「聞いたな!(ミネルバ)所属のモビルスーツ
  隊は全機発進だ!味方の砲撃に当たるなよ!
  」

 「「「「「了解!」」」」」

俺の命令で全機が出撃していく。
シンとルナマリアは「フォースインパルス」で、
レイは改良した「カオス」で、ステラは「ガイア
」で、シエロは「アビス」に乗り換えてステラの
「ガイア」と共に三機の「ザクウォーリア」を引
き連れて、地上部隊の援護に向かう事になってい
た。
そして、リーカさんとテル・ゴーンは追加で来た
「センプウ改」部隊の九人を統率して、ディアッ
カは、ミネルバ所属の全モビルスーツ隊の指揮を
執る事になっていた。

 「ヨシさん、お先に」

 「頑張れよ」

ディアッカが「セイバー」で出撃した直後に、俺
も「グフ」を発進させる。 

 「ヨシヒロ・カザマ、(グフ)行くぞ!」

俺が出撃したのと同時に、劉将軍指揮下のモビル
スーツ部隊と孫将軍のモビルスーツ部隊が、空中
と地上で戦闘を開始し、戦闘機隊と通常部隊もお
互いに攻撃を開始した。
そして、「ミネルバ」以下四隻の艦隊と、敵の地
上艦隊九隻も砲撃戦を開始して、全戦力が戦闘を
開始したのであった。


 「カザマ!お前を倒す!」

 「しつこいな。ササキの家の人間は。血筋なの
  かな?」

 「失礼な事を言うな!私のために死ねい!」

アヤは四基の試作型ハイドラグーンを飛ばして、
俺を攻撃し始めるが、俺は巧みにそれを回避する

 「何で、当たらないの?」

 「俺は、実戦経験豊富なササキ大尉の十二基の
  ドラグーン攻撃をかわしているからな。それ
  に、攻撃パターンが単純だ。才能は兄よりも
  あるんだから、もっと腕を研く事だね」

 「何様のつもりだーーー!」

 「ほら、逆上すると攻撃が単純になるよ」

 「絶対に殺す!」

 「子供が生まれるんでね。死ぬわけにはいかな
  いんだよ。それに・・・」

 「それに・・・」

 「レイ!相手をしてやれ。俺は他の用事で忙し
  い」

 「お任せ下さい」

 「こら、待て!」

 「お前の相手は俺だ」

 「邪魔をするなら死ねい!」

アヤは四基のドラグーンを飛ばすが、レイも二基
の起動兵装ポッドを飛ばしてそれに対抗した。

 「(カオス)の起動兵装ポッドが、なぜ大気圏
  で使える?」

 「朝鮮半島では、たいそうな物を頂いて感謝す
  る」

 「あの故障した兵装ポッドか!」

 「現物さえあれば、複製は容易いものだ」

 「こちらのハイドラグーンの方が性能は上だ!
  」

アヤはハイドラグーンで(カオス)起動兵装ポッ
ドを撃ち落そうとするが、対ビームコーティング
処理を施してあるらしく、容易く跳ね返されてし
まう。

 「残念だったな。四つに分割して命中率を上げ
  たのだろうが、搭載ビーム砲の威力が落ちる
  のは当然だ!そして・・・」

ハイドラグーンは活動限界時間になって自動的に
背中に戻ってしまった。

 「大気圏で使用するのが前提の兵器なので、推
  進剤切れが早い。これは、俺の起動兵装ポッ
  ドもそうだが」

「カオス」の起動兵装ポッドも活動限界時間が来
てしまったので、背中に戻ってしまう。

 「確かに、活動時間が短いし、武器の威力も低
  いわ。でも、小さい分だけ充電時間は早いし
  、推進剤も背中のパックから補充される。手
  数で勝負よ!」

アヤのハイドラグーンとレイの起動兵装ポッドが
お互いの本体を攻撃し合い、本体も相手を撃ち落
そうと攻撃を続けていて、勝負がなかなか付かな
いようであった。
レイ対アヤの戦いはこう着状態に陥りつつあった


 「アヤが止められている!」

ミリアの「クライシス」は前回と同じく、ディア
ッカの「セイバー」に追い回されていた。
前に負けてから、シミュレーション等で腕を研い
たつもりだったのだが、まだ彼には勝てそうにな
かった。

 「ミリア様!」

 「邪魔だ!どけ!」

ディアッカはミリア機の援護に入った「クライシ
ス」をビームライフルで撃ち落す。

 「やはり、強い!」

 「可哀想だが死んでもらうぞ!」

 「「「ミリア様ーーー!」」」

 「ちっ!邪魔が入ったか!」

ディアッカがミリアに止めを刺そうとした時、三
機の「クライシス」が邪魔に入った。

 「勝負はお預けね」

 「ちくしょう!逃げられた!」

ミリアは不利を悟ると、無理をせずに退却して、
全軍の指揮を執る事に専念する。 

 「これは・・・。駄目ね・・・」

ミリアが「クライシス」隊の状況を観察すると、
部隊は圧倒的に不利な状況に追い込まれていた。
「クライシス」は前回の戦闘データを元に、OS
と細かな部分の改修を行っていたのだが、敵のモ
ビルスーツを一機落とす間にこちらは三機は落と
されていた。

 「クローンコーディネーターの限界か・・・」

クローンコーディネーターはそれなりに強いのだ
が、歴戦の勇士には、簡単に落とされてしまうよ
うだ。
先の大戦で大西洋連邦最強のパイロットの異名を
誇った、ムウ・ラ・フラガ少佐の父親のクローン
が、一般兵士には通用しても、ベテランやエース
には簡単に落とされてしまった時と同じ状況に追
い込まれている。
多分、普通のザフト軍部隊となら優位に戦えるの
であろうが、最強のエース達を集めた部隊には歯
が立たないようだ。

 「この戦闘データを確実に持ち帰って(ディス
  パイア)と(ダウンフォール)に生かさない
  と。(クライシス)では、連中に勝てない!
  」 

この瞬間、ミリアは例え味方を全員見捨てても、
自分だけは生き残るという悲壮な決断をするので
あった。


 「ステラ、右手にジンとシグーだ!」

 「了解!」

両軍の地上軍同士の戦闘は最前線にモビルスーツ
部隊を出して、数を減らしあうという状況になっ
ていた。
地上軍の指揮官には、古臭い人間が揃っていて、
絶対に勝てるという保障がなければ、自ら戦闘を
仕掛けるという事がなかったからだ。
多分、勝った方のモビルスーツ隊が、地上軍を攻
撃し始めないと、本格的な戦闘にならないのかも
知れなかった。
多数の戦車隊と歩兵部隊は見栄えはいいのだが、
もう戦場の主力とは言えなくなってきているのか
もしれない。
無論、陣地や拠点の占領や治安の維持には必要不
可欠のものであったが。

 「てえーーーい!」

ステラは「ガイア」をMA体型に変型させてから
、背中のブレードとビーム砲で無造作にモビルス
ーツを破壊し、戦車の上部や後部を顔の機銃で攻
撃している。
そして、シエロも「アビス」の武装を全開にして
攻撃を加え、持っているビームランスを容赦なく
目標に突き倒していた。

 「キリがないですね。シエロ隊長」

ガナー装備の「ザク」で敵をなぎ払い続けている
部下のパイロットが、無線でぼやき始める。

 「可哀想だが、一機でも一両でも一人でも多く
  倒して、戦意を喪失させろだそうだ」 

敵の地上軍を守備しているモビルスーツ隊は、雑
多な機体の寄せ集めなのだが、ナチュラルがジン
やシグーを動かしているので、動きがいまいちで
あった。
だが、数だけは一流なので、倒すのに疲れてしま
いそうだ。

 「実戦で気を抜くなよ」

 「わかってます。うわーーー!」

 「おい!どうした!」

突然、一機の「ザク」と連絡が途絶え、彼が倒さ
れたと推定される方向から、一機の「クライシス
」が飛んでくる。

 「よくも、部下を殺してくれたな!」

 「ふん、お前に用事はない!ステラは黒い(バ
  クゥもどき)の方か」

「クライシス」は方向を変えて、ステラの方に飛
んで行ってしまった。

 「ちっ!何者だ・・・。しまった!ステラ!気
  を付けるんだ!」

部下を一人失ってしまったので、ステラを助けに
行くまでに時間が掛かってしまいそうなので、シ
エロはステラの無事を祈りつつ、無線で仲間に援
護の要請を出し続けていた。

 「私の勘が告げている。ステラがヤバイ!ちく
  しょう!邪魔だ!どけい!」 

シエロは珍しく焦りながら、攻撃を続けていたの
だが、敵のモビルスーツ隊が邪魔をして、なかな
か援護に行く事ができないでいた。
ステラに過去の怨念が降りかかろうとしていた。


 「これで、八機目!」

ステラは「ガイア」をMA体型にしたままで、多
数のモビルスーツと戦車を血祭りにあげていた。

 「あんまり強くない・・・」

 「俺は強いぞ!」

 「誰?」

突然、ステラの目の前に一機の「クライシス」が
現れる。

 「久しぶりだな。ステラ」

 「誰?」

 「相変わらずムカつく奴だな!俺だよ!ジュゼ
  ック・バーローだ」

 「久しぶりね。ジュゼック」

 「アホかお前は!俺は、裏切り者のお前を始末
  しに来たんだよ!」

 「裏切り者?誰が?」

 「お前に決まっているだろうが!スティングと
  アウルを見殺しにして、敵と戯れやがって!
  」

 「ヨシヒロは敵じゃない。シンもルナもメイリ
  ンも・・・」

 「うるせえ!俺がぶっ殺してやる!戦う人形の
  癖に、普通の生活を送りやがって生意気なん
  だよ!人形は人形らしく、命令を聞いていれ
  ばいいんだ!」

 「ステラは人形じゃない!」

 「人形だね!親もなく、人工的に受精して作ら
  れた戦闘用の肉人形さ。見掛けや肉体は人間
  でも、命令一つで人を殺し、自爆も厭わない
  戦闘人形なんだよ!俺とお前はな!」

 「違う・・・。ステラは人形じゃない・・・」

 「お前のようなバカと言い争っている時間が勿
  体無い。大体、俺達が戦場で会った事がお前
  が人形である証拠さ。お前は人を殺す命令を
  待ち続けているのさ。本能的にな!」

 「ち・・・違う・・・。私は・・・」

 「ははは!隙だらけだな!死ねい!」

 「そうはいくか!」

 「ちっ!誰だ!」

 「ザフト軍エースパイロット(自称)シン・ア
  スカ参上!」

 「シン!」

シンはたまたま無線にステラの声が入ったので、
慌てて救援に参上したらしい。

 「引っ込んでな!三下が!」

 「それって褒め言葉?」

 「違うわ!この大バカ者が!」

 「バカはお前だ!ステラを過去に縛り付けやが
  って!もう、ステラは自由に生きているんだ
  。もう、何の制約もないのに、同じ所で燻っ
  ている意気地なしのお前とステラを一緒にす
  るな!ステラは、全部自分で選んだんだ!」

 「テメエ!ぶっ殺してやる!」

 「返り討ちだ!」

 「シン、待って・・・」

 「どうしたんだ?ステラ」

 「私が戦う・・・。自分でケリをつける」

 「だってさ!エース殿」

 「大丈夫なのか?ステラ」

 「ジュゼックを追い込んだ理由の一つが私だか
  ら・・・。せめて、私の手で・・・」

 「へっ!舐められたものだな。俺様も」

 「本当に大丈夫か?」

 「大丈夫」

 「そうか。じゃあ、俺が立ち会うよ」


 「立ち会うよじゃねえよ。俺がどれだけ苦労し
  ているか」

 「泣かせる話じゃないですか」

シンのあとで駆けつけた俺とシエロは、地上部隊
を前進させて、シン達の回りの敵を必死に排除し
ていたのだ。
でなければ、あんなに長い時間の会話などできる
はずがない。

 「可愛い妹のために、敵を倒しーーー!」

 「可愛い部下のために、敵を倒しーーー!」

俺達は悪鬼のごとく、敵を掃討し続けるのであっ
た。


 「では、尋常に勝負だ」

 「ジュゼック、今からでも・・・」

 「くどい!何を言われようと、俺の居場所はこ
  こだけだ!」」

 「私の居場所は沢山選べるけれど、今はここが
  いい。ごめんね。ジュゼック」

ステラは「ガイア」をMA体型のまま、突撃させ
て背中のビームブレードを展開した。

 「ふん、俺をそこいらの雑魚と一緒にするな!
  」

ジュゼックは「クライシス」のビームサーベルを
抜いてから、「ガイア」の突撃を紙一重でかわし
つつ、左側のビームブレードを根元から斬り落と
した。

 「次の突撃でケリをつけっ!」

だが、ステラにとっては、ビームブレードが斬り
落とされる事まで想定済みであった。
ステラは巧みな操作で瞬時に「クライシス」の背
後にまわり込み、残っていた反対側のブレードで 
「クライシス」を背中から切り裂いた。

 「ステラ・・・、お前の覚悟を・・・」

「クライシス」とジュゼックの体が上半身と下半
身に切り裂かれた瞬間、「ガイア」の無線にはジ
ュゼックの声が入り、その直後に「クライシス」
は爆発する。 

 「ジュゼック・・・」

 「ステラ、良くやったな」

 「あのね。今まで不鮮明だったけど、今思い出
  した・・・。ジュゼックは優しかった。毎日
  訓練が厳しくて泣いていた私を慰めてくれた
  。おやつがケーキだった時にはいつもステラ
  にくれた。俺は、ケーキが嫌いだからって・
  ・・。本当は大好きだったはずなのに。ステ
  ィングもアウルも大切な仲間で・・・」

 「そうか。大切なお兄さんだったんだな」

 「スティングぅーーー!アウルぅーーー!ジュ
  ゼックぅーーー!ごめんね。本当にごめ
  んね。うぇーーーん!」

 「ステラ・・・」

ステラは緊張の糸が切れてしまったのか、突然大
声で泣き始めてしまった。 

 「お兄さん達の事は悲しい事だけど、ステラに
  は家族も友達も沢山いるじゃないか。あの人  
  も、最後にはそれを認めて死んでいったんだ
  よ。だから、ステラはここにいてもいいんだ
  」

 「グスっ、シン。ありがとう。シン、大好き」

 「えっ、あの友達としてさ。心配でしょ」

 「でも、ありがとう」

二人がかなり良い雰囲気になりかけた時に、無線
から声入ってきた。

 「シン!ステラを連れて(ミネルバ)戻れ!今
  のステラでは戦えないからな」

 「はい!わかりました。でも、大丈夫ですか?
  」

 「ルーキーのお前が、ベテランの心配をするな
  んて十年早いわ!このボケ!」

 「わかりました」

 「ステラ」

 「何?ヨシヒロ」

 「俺が憎いと思った事はないのか?俺は二人を
  殺した張本人だからな」

 「ううん。ヨシヒロはステラのお兄さんだから
  」

 「そうか。ありがとう」

 「ヨシヒロ・・・」

 「(ミネルバ)で暫らく休む事!いいな?ステ
  ラ」

 「うん」

シンの「インパルス」がステラの「ガイア」をエ
スコートしながら、「ミネルバ」に戻っていった
のだが・・・。

 「ステラ、お前の成長した姿をしっかりと見届
  けたぞ!無論、それは体の事ではなくて・・
  ・心の方をだぞ。二年前から、スタイルは超
  一流だったけど・・・」

 「カザマ司令!」

 「何だよ、シエロ」

 「忙しいから手伝って下さいよ。連中、俺達を
  集中して狙ってますよ」

シン達が狙われないように暴れまわった結果、俺
達は敵地上部隊の第一目標にされたしまったらし
い。
多数のモビルスーツと戦車が、俺達に向かってや
ってくる。

 「ちくしょう!シン達を狙わないで俺達を狙う
  のか。漫画やドラマのような話だな」

 「カザマ司令に賞金が掛かっているからですよ
  。黒い(グフ)は一万アースダラーだそうで
  す」

 「安すぎないか?」

 「そんな問題じゃないと思いますけど」

 「せめて、五万アースダラーは掛けて欲しいと
  ころだな」

 「この人、たまに大バカだよな・・・」

 「何か言ったか?」

 「別に何も言ってません」

地上部隊は孫将軍の部隊の半数しかいなかったが
、俺達のモビルスーツ隊の活躍でどうにか、均衡
を保ち続けていた。 


(同時刻、ガイ視点)

 「敵の数は多いが、性能も技量もバラバラだ。
  連携して撃破しろ!」 

 「「「了解です!」」」

ガイは大佐として、三十六機のモビルスーツ中隊
通称「ピンク中隊」と合わせて百機あまりのモビ
ルスーツ隊を統率して戦っていた。
本来、単身任務が多い傭兵の俺が指揮官の仕事を
してるのは、カザマの嫁のせいであった。
だが、若い純朴な兵士達が自分を慕ってくれると
いうのも悪くないなと思い始める、今日このごろ
であったが。 

 「敵のモビルスーツ隊のエネルギー切れまで粘
  れ!そうすれば、有利になる」

 「ガイ大佐、どうしてでありますか?」

 「我々の使用モビルスーツは(ストライクダガ
  ー)とその改良機と(センプウ)とその改良
  機のみだ。これは、わかるな?」

 「はい」

 「それで、向こうはどうなっている?」

 「雑多な機体を取り扱っています」

 「補給と整備は大変だろうな」

 「なるほど!」

 「数が大いに越した事はないが、多ければ良い
  と言うものでもない」

 「わかりました」

だが、事態はガイの予想を大きく超えつつあった

 「ガイ大佐、敵の艦隊が味方ごとモビルスーツ
  隊を砲撃しています!」

 「うわーーー!隊長!」

 「ガイ大佐ーーー!」

敵艦隊の砲撃は敵味方を問わず、多数のモビルス
ーツを撃ち落していく。
多数のモビルスーツが密集して戦っているので、
命中率が通常よりも高くなっているのだ。

 「敵はバカか!味方まで巻き込みやがって!」

 「モビルスーツ隊が壊滅しても、孫将軍には他
  の部隊が残っているが、劉将軍は圧倒的に不
  利になる。まさか、ここまでリアリストだと
  は思わなかったよ。孫将軍閣下!」

 「どうしましょうか?」

 「(ミネルバ)の砲撃で艦隊を沈めれば良い」

 「なるほど」

 「ほら、砲撃が開始された」

(ミネルバ)以下四隻の艦艇が砲撃を開始したの
だが、その砲撃は艦艇の上に乗っていた、不思議
なモビルスーツもどきの装備で跳ね返されてしま
う。

 「あれは・・・」

 「ガイ大佐、ご存知なのですか?」

 「あれは、大西洋連邦の試作MA(ゲルスゲー
  )だ」

 「何ですって!」

新たな新兵器の登場で、戦況は新たな展開を迎え
つつあった。


(同時刻、「ミネルバ」艦内)

 「(ゲルスゲー)か。情報によれば、陽電子・
  ビームリフレクター装備で、タンホイザーが
  効かないんですよね」

 「エミリア達は、あんなものまで提供していた
  のか」

アーサーさんと劉将軍が、深刻な表情で話してい
るところに、俺が連絡を入れる。

 「俺は忙しくて行けないから、シンとルナマリ
  アに艦隊を攻撃させて下さい。(インパルス
  )なら大丈夫ですから。それと、ステラ!い
  るか?」

 「はい、カザマ司令!」

 「予備の(センプウ改)に乗って、シン達を援
  護だ。今回は、ディアッカ達も忙しくて手が
  貸せないだろうから、お前達三人でやれ!」

 「了解です」

 「アーサーさん、シン達に指令を出して下さい
  !」

 「わかったよ。任せてくれ」

 「じゃあ、任せます」

俺が通信を切ったあとに、アーサーさんはシン達
に連絡を入れる。  

 「シン、ルナマリア。カザマ司令の命令だ!(
  センプウ改)に乗り換えたステラと共に、敵
  艦隊とその護衛のMAを排除する事。わかっ
  たか?」

 「了解です!」

 「了解!」

 「メイリン!ソードシルエットを射出!」

 「私はブラストシルエットを頼むわ。それと、
  デュートリオンビームを!」

アーサーさんの指令を受けた二人は、メイリンに
矢継ぎ早に指示を出していく。

 「了解しました。デュトリオンチェンバー作動
  !デュートリオンビーム照射!」

 「続いて、ソードシルエット射出!」

 「へえ、最新鋭って凄いんだね。デュートリオ
  ンビームか。かっこいいなー。欲しいなー」

 「・・・・・・」

劉将軍の子供のような発言にアーサーさんは呆れ
かえってしまう。

 「続いて、ブラストシルエット射出します!」

 「かっこいいなー。子供の頃に見たよね。こん
  なロボットアニメ。まさか、実現しちゃうな
  んて」

 「劉将軍って、カザマ司令に似てるよね」

 「子供っぽいところが特に・・・」

アーサーさんと本日全く目立っていないコーウェ
ルの意見は、完全に一致するのであった。

 

 


 「ルナ、ステラ。行くぞ!」

 「「了解!」」

シンの「ソードインパルス」とルナマリアの「ブ
ラストインパルス」とステラの「センプウ改」は
、敵艦隊上空から突撃を掛ける。
ミリア達のモビルスーツ隊はディアッカ達との戦
闘で数を減らし、孫将軍指揮下のモビルスーツ隊
も劉将軍のモビルスーツ隊との交戦で忙しく、こ
の三機は全くのノーマークになっていた。

 「たかが三機だ!撃ち落せ!」

敵艦隊司令は対空火器を発射するが、シン達は巧
みにかわして急降下をかけた。

 「(ゲルスゲー)を出せ!」

三隻の地上戦艦に一機ずつ乗っている「ゲルスゲ
ー」が上空に上がってきて、シン達に攻撃を仕掛
けてきた。

 「あっ、紐付きだ」

「ゲルスゲー」は地上戦艦とケーブルで繋がって
いて、無尽蔵にあるエネルギーで陽電子・ビーム
リフレクターを何回も発生させていた。

 「ルナ!」

 「任せて!」

ルナマリアは「ブラストインパルス」の武装を全
て「ゲルスゲー」に向けて砲撃する。

 「バカか!陽電子砲すら弾くんだぞ!」

「ゲルスゲー」は「ブラストインパルス」の砲撃
を簡単に弾いてしまうが、既にシン機とステラ機
は正面にいなかった。

 「後ろががら空きだ!」

 「ステラ、エクスカリバーを!」

 「ありがとう」

シンの「ソードインパルス」からエクスカリバー
を受け取ったステラは、「ゲルスゲー」の後ろに
無慈悲にエクスカリバーを突き刺した。

 「うわーーー!」

 「バカなーーー!」

まず、一機目の「ゲルスゲー」が討たれ、残りの
二機も同じ方法で次々に討たれてしまった。
やはり、機動性なさが大きな欠点になっているよ
うだ。 

 「次は戦艦だ!」

 「「了解!」」

完全に取り付かれてしまった戦艦は、ろくに火器
も使えずにシンとステラのエクスカリバーで切り
裂かれ、次の艦に移る間際にルナマリアの「ブラ
ストインパルス」の砲撃で止めを刺されていく。
更に、爆沈寸前の艦は「ミネルバ」以下の艦艇に
止めを刺されて、次々に爆沈していった。
シン達が攻撃を開始してから十分も経たない内に
、艦隊は壊滅状態に陥ってしまったのだ。
この惨劇は全ての部隊に目撃され、その事がこの
決戦の勝敗を決してしまったのであった。


(同時刻、ミリア視点)

 「地上艦隊が全滅!駄目だ!これでは勝てない
  !」

ミリアの予想は正しかった。
対峙する艦隊が壊滅してしまったので、四隻の艦
隊は地上部隊の要のポイントや指揮官の予想位置
の砲撃を開始して、甚大な被害を受けるようにな
っていたからだ。
いくら二十個師団の大部隊でも、生身や戦車ごと
きで戦艦に対峙して勝てるはずがないのだ。
やがて、地上部隊は指揮系統が混乱して兵士の逃
亡が始まり、半数の規模の劉将軍の部隊に追撃を
掛けられるまでになっていた。
すでに、歩兵の統率が効かない孫将軍の勝ちの目
は完全に消えてしまったのだ。
これでは、「重慶」の占領は不可能だ。

 「仕方がない!撤退よ!アヤ!撤退して!」

ミリアは、自分とアヤの機体のコンピューターに
のみ搭載されている緊急マニュアルを開き、自分
達だけが知らされているポイントに向けて撤退を
開始するのであった。


(同時刻、アヤ視点)

 「しつこいわよ!坊や」

 「うるさい!年増め!」

 「私はまだ十八歳だ!」

アヤの「クライシス」とレイの「カオス」は長時
間の決闘を経ても勝負がつかないでいた。

 「えっ、撤退命令!」

 「逃げるのか?」

 「そうよ!」

 「逃すか!」

 「甘いわね」

アヤは四基のハイドラグーンの自爆装置をセット
して、「カオス」にぶつけてくる。

 「ちっ!危ない」

嫌な予感がしたレイは、ハイドラグーンを巧みに
かわすが、かわしたハイドラグーンは「カオス」
いつまでもを追いかけてくる。

 「当たり前か。ならば!」

レイも起動兵装ポッドを操って、ハイドラグーン
にぶつけると、ハイドラグーンは派手に爆発する

 「こっちの起動兵装ポッドが二基で向こうが四
  基。お互いに二基潰すと残りは・・・」

 「二基ね。死になさい!」

 「死ねるか!」

レイは「カオス」にハイドラグーンが激突する寸
前に、ビームサーベルを抜いて一基のビーム発射
口を巧みに突き刺し、残りの一基もシールドで防
いだ。

 「ちいっ!」

「カオス」は爆発に巻き込まれ、Vフェイスシフ
ト装甲完備の機体といえどもかなりの損害を受け
てしまう。

 「右手先端破損、可動不能、左手の肩も可動不
  能か。メインカメラ損傷大、スラスター損傷
  度35%機動力45%低下。起動兵装ポッド
  完全喪失。駄目だ!帰艦する」

レイは損傷した「カオス」で、「ミネルバ」に着
艦してから、予備機の「センプウ改」で出撃して
、多数の戦果をあげる事になるのでった。


  


(同時刻、ガイ視点)

 「ガイ大佐、あの坊主がやりましたよ」

 「ふん、カザマの教え子にしては、筋が良かっ
  たからな」

数日間特訓したシンが、大戦果をあげているのを
眺めながら、ガイは少しだけ嬉しそうな顔をする

 「あれ?敵のモビルスーツ隊が・・・」

敵艦隊の炎上を目撃した敵のモビルスーツ隊が、
雪崩をうつように逃走を開始した。

 「そうか!エネルギーを安全に補給できる場所
  を失ったからだ。今の内に少しでも遠くに逃
  げれば、助かると思って」

 「追撃ですか?」

 「そうだ!追撃だ!二度と立ち直れないように
  叩くんだ!ガイ中隊は俺に続け!」

劉将軍のモビルスーツ部隊を含む全部隊は、追撃
を開始する。
対峙している時は倒されない強者でも、敗走する
時に後ろを見せると、あっけなく討たれてしまう
ものなのだ。
多数の戦車や兵士、航空機、モビルスーツが討た
れるか、観念して降伏していく。
こうして、孫将軍の天下統一を賭けた「重慶」攻
略作戦は失敗に終わり、孫将軍の軍閥は崩壊の時
を迎えるのであった。


(同時刻、孫将軍視点)

 「完璧に負けてしまいましたね」

孫将軍は地上戦艦に乗らずに、以前のままのトレ
ーラーで指揮を執っていたのだが、次々に最悪な
報告ばかりが入ってきて、若い幕僚達の顔に不安
の表情が浮かんでいた。

 「我が野望は潰えましたか」

 「再起を図りましょう!」

 「そうですよ!」

 「香港に戻って残存戦力で体勢を立て直せば」

 「それは駄目です!」

 「どうしてですか?」

 「戦いが長引けば、この国が消耗し尽してしま
  います。私が負けた以上、この国は劉将軍の
  考え通りに纏まれば良いのです。まあ、私は
  気に食わないですけど」

 「それで、孫将軍はこれからどのように?」

 「私の最後の仕事は、劉将軍に討たれる事です
  」

 「降伏しましょう!あなたほどの有能な方なら
  、新国家の重鎮になれますから」

 「私は目的のために手段を選ばずに、沢山の民
  衆を犠牲にしました。私は死ななければなら
  ないのです!」

 「それは、私達も同罪です」

 「君達は降伏してください。罪は全部私があの
  世に持っていきますから。劉将軍にも、そう
  伝えてください」

 「考え直してくれませんか?」

 「これだけは譲れませんね。あなた達は若いの
  ですから、これからの国のために頑張って下
  さいね。軍人でも良いし、政治家でも官僚で 
  も商売人でも何でもいいですから。そして、
  人を殺した罪滅ぼしに子供をちゃんと作って
  下さい。なあに、この国は気が長いのが特徴
  です。数百年もすれば、世界一の大国になっ
  ていますよ」

 「孫将軍・・・」

 「さあ、早く降伏をしに行きなさい」

 「わかりました!」

 「お世話になりました」

 「あなたの下で働けて幸福でした」

若い幕僚達は敬礼をしてから、トレーラーを出て
行った。

 「さて、どうしたものかな」

 「随分とあきらめが早いんですね」

 「おや?クロード君ですか?」

 「ええ、クロードです」

自分に最初に接触してきたクロードが、トレーラ
ーの扉を開けて入ってくる。

 「まあね。何の後ろ盾もない二十代の若造がこ
  こまでやれれば、満足ってものですよ」

 「再起しませんか?援助しますよ」

 「お断りだね。この国の混乱を大きくする行為
  に加担したくないね」 

 「蘭将軍は大喜びで援助を受けられましたよ。
  おかげで、曹将軍と李将軍の侵攻部隊は大惨
  敗です。北京周辺はまた大混乱ですね」

 「(クライシス)の部隊と(ストライクダガー
  )のデッドコピー品の戦いか。お二人とも可
  哀想に」 

 「おや?私が憎くないんですか?この国を混乱
  させている張本人ですよ」

 「君に混乱させる事ができるという事は、この
  国に一番の問題があるんだよ。君が混乱させ
  なくても、いつかはこうなっていたんだろう
  ね」

 「ある意味暴論ですね」

 「そうかも知れないね。では、私は華々しく戦
  死するから、君は早く逃げると良い。例の可
  愛いお嬢さん達の世話があるんだろう?」

 「逃がすのも大変ですよ。あなたが大負けする
  から」

 「死んで詫びるよ」

 「では、お元気で」

 「これから死に行く人間に、お元気でねか・・
  ・」

孫将軍は乗り捨ててあった戦車を操縦して、一人
敵に向かって突撃を開始した。
その後、孫将軍は翌日に戦死が確認され、その支
配地域は三つに分裂して、劉将軍の提唱した「中
華連邦共和国」に参加する事になった。
尚、香港と上海は「重慶」と同じく中立都市とな
り、駐留していた旧東アジア共和国海軍は「中華
連邦共和国」海軍としてその所属先を変えたので
あった。
最後に、蘭将軍の討伐に失敗した曹将軍と李将軍
は、彼らとその後継者達による争いが二十年以上
も続き、「中華連邦共和国」が完全に統一を果た
し、劉大統領が引退できるようになるまでに三十
年もの月日が流れてしまっていた。
結局、彼が自分のモビルスーツ製造企業を立ち上
げるという夢は自分の息子が引き継ぐ事になり、
その息子が起業した「中華工業公司」は中国一の
モビルスーツ製造メーカーに成長するのであった

だが、これは半世紀も先の話で、その時劉将軍は
、既に鬼籍に入ってしまっていた事だけは記して
おく。


こうして、長かった中国戦線は一応の決着が付い
たのであった。


(同時刻、ミリア視点)

ミリアが「クライシス」のコンピューターに指示
された地点に到着すると、既に数人の工作員達が
待ち構えていた。

 「クロード様がじきに合流されますので、これ
  に着替えてきて下さい」

 「わかったわ。それで、この(クライシス)は
  どうするの?」

 「他所で自爆させます」

 「戦闘データは?」

 「リンクしていた八十機分の全てを吸い出して
  います。別ルートで責任を持ってお送りしま
  すから。ミリア様は立派に任務を果たされた
  のです」

 「負けちゃったけどね」

 「(クライシス)では誰がやっても同じ結果で
  すよ」

私服に着替えて、工作員と話していたミリアの前
に、アヤの(クライシス)が着陸しする。

 「あれ?(ハイドラグーン)は?」

 「ぶつけて自爆させた。(カオス)に損害を与
  えたわ」

 「さすがですね。格下の機体でそこまでやると
  は」

 「今度こそ、カザマを討つ!」

 「それはいいけど、私達はこれからどうなるの
  ?」

 「(重慶)に滞在して貰い、落ち付いたらオー
  ブへ旅立って貰います。オーブ、大洋州連合
  、赤道連合の近海で海賊をやって貰いますよ
  」

 「クロードお兄様!」

 「クロード様」

 「二人共、無事で何より」

 「あの、孫将軍は?」

 「戦死した」

 「そうなの・・・」

 「というわけで、下手に逃走すると見つかる可
  能性があるから、(重慶)が落ち着いて空港
  が再開したら、オーブに移動する。クリスマ
  スは遊べるよ」

 「お兄様は?」

 「俺は下準備があるから。すぐに出る。ちゃん
  と(重慶)に行くんだぞ」

そう言い残すと、クロードは夕闇に消えていく。

 「クリスマスね。二人で祝いますか?」

 「女二人ってのは最悪ね」

 「カッコイイ男でも捜す?」

 「アヤ様はともかく、ミリア様はアジトから外
  出禁止です」

 「えーーー!酷ぉーーーい!」

 「指名手配犯ですから」

 「アヤだけずるい!」

 「悪いわね。いい男でも探そうかな?(ディア
  ッカに会えるかも知れないから)」

こうして、二人は「重慶」に潜伏する事になった

果たして、そこでどんな事が起こるのか?それは
、誰にもわからなかった。


          あとがき               

次は中国大陸後日編です。

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