「んあぁ〜…終わった、終わった」
軽く伸びをすると、首を左右に捻った。
ネギま!SEED 第6話
早いもので、もう今日一日が終わった。最初こそ2-Aの嬢ちゃんたちの熱烈歓迎に圧倒されたものの、しずなやネギの知り合いの高畑とか言うおっさんのフォローもあってそれ以降は特にトラブルもなく一日が終わった。
「さて…」
学園長の爺さんに手渡されたメモ書きを見る。そこには今日からの俺の寝床となる場所を書いてあった。昼休みに厄介なクラスを押し付けてくれたことに対しての文句を言いに行ったときにくれたものだ。話を…あくまでも話し合いを終えた後に、なぜか顔に青痣が出来ていたり、鼻血が出たりしていて、とても俺を怖がっていたが。
「♪〜」
一々そんな細かいことを気にしていても仕方ないので、その場所を目指して帰路に着く。と、はるか前方に俺の護衛相手の一人が見えた。
「…黄昏てんな〜、ネギの奴」
漫画なら落ち込んでいる状態を表す効果線が良く似合いそうな後姿でネギは名簿を開いていた。ゆっくりとそこへ歩いて近づく。と、
「!」
とんでもないものが目に入った。ネギの少し前方にある階段を、たくさん積まれた本を持って降りていた一人のお嬢ちゃんが足を滑らせて空中に身を躍らせたのだ。
「! やべぇ!」
距離からいって届きそうにないのはわかっていたが、それでもどうにかしようと走り出す。が、俺が急ぐ必要はなかった。ネギが布で巻きつけていた杖を解放すると、その先端をお嬢ちゃんに向ける。と、お嬢ちゃんの落下速度は急激に遅くなり、ほとんどゼロになった。それを確認するとネギは走り出し、飛び込んでお嬢ちゃんを支えた。
「…魔法を…使ったのか」
走るスピードを急激に落とし、俺はネギに目を向けていた。と、ネギの顔がみるみると驚愕に染まる。なんと、その正面に一人のお嬢ちゃんが立っていたのだ。
(! 見られた!)
そのお嬢ちゃんはネギの首根っこを引っ掴むと、ものすごい猛ダッシュで手近にある繁みの中にと入っていった。
「…ったく! 赴任初日からかよ!」
吐き捨てると、俺は二人が消えていった繁みへと向かった。
「ああああんた、やっぱり超能力者だったのね!」
「い、いやちが「誤魔化したってだめよ! 目撃したわよ! 現行犯よ!」
「あ、あうう〜っ」
明日菜の剣幕に、ネギは二の句も継げずタジタジとなっていた。
「白状しなさい、超能力者なのね!」
「ぼ、僕は魔法使いで…」
「どっちだって同じ…」
と、いきなり明日菜がおとなしくなった。そして
「え?」
ネギの方にゆっくりと倒れこんできた。
「わわっ!」
慌ててその身体を支える。
「あ、アスナさん? どうしたんですか?」
「心配すんな。気絶してるだけだ」
いきなり聞こえたその声に、ネギは驚いて顔を上げた。
「く、草薙さん…」
「場合が場合だっただけに仕方なかったかもしれねえが、迂闊だな、ネギ・スプリングフィールド。赴任初日に魔法を見られるとはな」
そこにあったのは自分の副担任として、自分と同じように今日から赴任してきた草薙の姿だった。だが、今までの彼と同一人物とは思えないほどその声色や態度・視線はネギが見たことのない、温度のないものだった。
「な、なんでそれを…」
草薙の雰囲気に気圧されながらもネギは口を開いた。咽喉が渇く。
「そうだな…ちょうどいいか。俺がここにきた理由を教えてやるよ」
そう言うと、草薙は自分が麻帆良に来た理由を語りだした。学園長に(本当は国木田にもだが、そこは明かさないでおいた)頼まれて麻帆良学園にやってきたこと。その目的はネギをガードすること(木乃香のことは、国木田のことと同じく黙っていた)。そしてそれと同時にネギを監視し、こちら側の世界に足を踏み入れるような人間を出さないようにすること。万一こちら側に足を踏み入れることになったときは、その人間もガードすることなどを。
「それが赴任初日にもう正体がばれることになるとはな」
「あ、あう…」
がっくりと肩を落とすネギ。
「すみません…」
「…ま、仕方ねえか。色々言いたいのは山々だが、終わっちまったもんはしょうがねえし、何より魔法を使ったのは人命救助のためだったからな。あんな状況で見殺しに出来るわけはねえし」
ふっと一息はく。
「まあ、こいつが目ぇ覚ましたら、とりあえずすっ呆けてみるんだな。運が良けりゃあ、気のせいとか夢とか思ってくれるかも知れねえからな」
「あ、は、はい」
(…ま、そんなことで誤魔化しきれるとは思わねえけどな…)
明日菜の性格から半ば諦めながらも、一縷の望みをかけて草薙はネギに伝えた。
「さて、いつまでもここにいても仕方ねえ。帰ろうぜ」
「ん…そうですね。わかりました」
荷物をまとめるとネギは衣服に付いた泥や埃を手で払った。草薙は明日菜を自身の背に乗せて立ち上がる。
「行くか」
「わかりました」
「とりあえず、こいつを保健室に連れて行くからお前はこいつの荷物を持ってきてくれるか? さっきのところに散らばってるだろ」
「はい、わかりました」
その場を離れるネギ。しばらくすると、ネギは明日菜のものと思われる荷物を小脇に抱えて戻ってきた。連れを一人連れて。
「あ、草薙せんせー、こんにちは」
さっきネギが助けた少女である。
「あ、ああ。え〜と…」
「み、宮崎です。2-Aの出席番号27番…」
「そ、そうか。わりいな。まだ全員の顔と名前が一致しなくてよ」
「い、いえ、気にしないでください」
それだけ言うと顔を真っ赤にして伏せる。
「怪我はねえか? ネギが受け止めたから大丈夫だと思うが…」
「はい。大丈夫です」
「そうか、そりゃ何より。…んで、なんでお前がここに? 一応保健室に行って診てもらうつもりでいるのか?」
「いえ…実はネギせんせーと草薙せんせーにお話が…」
「話?」
「はい。ちょっと来てもらいたいところがあるんですけど…」
草薙とネギは顔を見合わせた。
(どう思う?)
(えと…ああいう状況でしたし、宮崎さんにはばれてないと思うんですけど…)
(そうだな。それは俺もそう思う)
(じゃあ…)
(まず、魔法関連のことにはならねえだろ)
小声でそう話し合うと、草薙はのどかに話しかけた。
「…ちょっと俺の背中の奴を保健室に置いてこないといけないんでその後になるが、それでもいいか?」
「はい。いいですよー」
そう言われては断ることは出来なかった。
「わかった。ネギもいいか?」
「ええ。今日はもう別にやることはないですから」
うなずくネギ。
「わかった。それでいいな? 宮崎」
「は、はいー」
「そんじゃ、こいつを保健室に置きに行くか」
草薙とネギ、のどかは保健室へと向かった。
「こ、ここですー…」
「ここって…」
俺はその場所を見上げた。
「教室じゃねえか」
「はいー」
「何かあるんですか?」
ネギがたずねた。
「入ってもらえれば、わかりますー」
その言葉に俺たちは顔を見合わせると、引き戸に手をかけて一気に引いた。と、次の瞬間、
パンパパンパーン
「ようこそ、ネギ先生! 草薙先生!」
クラッカーの破裂音とともに、そんな言葉が俺たちの耳に入ってきた。
「こ、これは…」
「あ、あのー、歓迎会です。お二人の」
「へぇ…」
思わず感嘆の声を漏らす。
「ほらほら、そんなところに突っ立ってないで」
「主役は真ん中真ん中〜」
二人の嬢ちゃん(残念ながらまだ名前と顔が一致しない。わりい)に背中を押され、俺たちはクラスの真ん中に腰を下ろした。ジュースの入った紙コップを渡される。それを合図に歓迎会は始まり、俺たちの周りに嬢ちゃんたちが集まってきた。
「特性肉まん食うねー」
「かーいー♡」
「日本語上手だねー」
やはり物珍しいのだろう、ネギの方に多く人だかりが集まる。この年代のお嬢ちゃんの相手が疲れるのは朝のことでもわかっていたので、内心少しだけほっとしながら紙コップに入ったジュースをあおいだ。と、脇から誰かの手が伸びてきた。その手にはお茶のペットボトルが握られている。
「お前は…」
見上げると、そこには一人のお嬢ちゃんが立っていた。
「まあ飲め」
その小脇から声が聞こえる。そちらに目を向けると、やはり一人のお嬢ちゃんが腕組みをして立っていた。
「出席番号26番、エヴァンジェリン…」
「ほう、もう私のことを覚えていてくれてるとは、光栄だな。茶々丸」
「はい」
ペットボトルを持っていたお嬢ちゃんがその中身を紙コップに傾けた。ある程度まで注ぐとペットボトルに蓋をし、紙コップを俺の目の前に置いた。
「どうぞ」
「ああ、すまない」
「いえ」
礼を言うと紙コップを受け取り、軽くあおいだ。
「美味いか?」
エヴァンジェリンがたずねる。
「ああ。美人にお酌してもらって、わりい気がする奴はいねえさ」
「ほう、言うな。良かったな、茶々丸」
「あ、ありがとうございます」
軽く頭を下げる茶々丸。一瞬、その動作がぎこちないように見えたが…?
「…しかし、意外だな」
今度は俺が口を開く。
「ん? 何がだ?」
「お前が、だよ。こう言っちゃ悪いが、とてもこんなことに参加するようなタイプには見えなかったんだがな」
「ふふふ、まあな。あのぼーや一人だけならとっくに帰ってるところだったんだがな」
そして、俺の目を見る。
「…俺…か?」
「ああ。これから長い付き合いになりそうな気がしたんでな。名刺代わりの挨拶のつもりで来た」
「そうかい。そいつは御丁寧に。痛み入るぜ」
「ふふ、まあ、よろしくな」
「ああ」
どちらからともなく手を差し出し、握手をした。
「話は終わった。帰るぞ、茶々丸」
「はい、マスター」
身を翻すと、エヴァンジェリンは茶々丸を引き連れて教室へと出て行った。
「……」
その後ろ姿が消えていった場所を見つめながら再び紙コップをあおる。と、隣からドンという音が聞こえた。
「ん…?」
振り返ると、そこには蒸篭を置いてこっちを見ている三つの人影があった。
「お前たちは…」
「你好!」
「特性肉まん、食うね!」
「始めまして、でござる」
三者三様の挨拶…だった。
「12番…古菲…19番…超…そして20番…長瀬…」
「おお、もう私たちのことを覚えているアルか!」
「嬉しいね!」
「いやいや、先生は物覚えがいいでござるな」
蒸篭の蓋を開ける。そこにはいつの間に作ったのか知らないが、ほこほこと湯気を立てている中華まんじゅうがあった。こいつらが嘘を言ってなければ、その中身は肉まんであるはずだ。
「さ、どうぞ、アル」
超が俺に勧める。
「あ、ああ。それじゃあ失礼していただくぜ」
蒸篭に手を伸ばした。瞬間、
「!!!」
空気の流れが一気に変化したのを感じ取った。
パシッ!
「む」
「へぇ…」
「やるでござるな」
三人が感嘆とも賞賛とも驚異ともつかない口調で三様の感想をつぶやいた。
「危ねぇ、危ねぇ」
とっさに受け止めた、俺に向かって振り下ろされた正拳突きを離すと、俺は三人を睨んだ。
「今のはちょっと卑怯なんじゃねえか? お三人さんよ」
「いや、すまないね。勘弁してほしいね」
超が素直に頭を下げる。
「実は古がどうしても先生の実力を試してみたいと言い出したのでござる」
「ほう?」
古菲に顔を向ける。
「にょほほ、すまんアル」
全く悪びれた様子がない。その態度に、さすがに毒気を抜かれてしまった。
「…お前、バトルマニアなのか?」
「おお、そうね。強い奴と闘うのは楽しいアル」
「あーそーかい」
そう言われてはさすがに怒るわけにもいかず、投げ遣りな態度で返事をするに止まった。
「では、私たちはこれで失礼するね。これは置いてくので、冷めないうちに食べるといいアル」
「ああ。わかった」
「これでますます楽しみね。早く私と手合わせするあるよ」
「さらばでござる。ニンニン」
お騒がせ嬢ちゃんずは意外とあっさりと退散していった。
「やれやれ…」
ため息をつきながら一つ手に取る。そしてそれを口に含んだ。
「美味い…」
成る程、自信満々に勧めてくるわけだ。もう一口…
「っ!」
やばい、咽喉に詰まった。急いで紙コップを手に取ったが、そこにはもうお茶は入っていなかった。
(まず…)
苦しみながらも…いや、苦しいから余計なのか冷静に状況を把握する。と、
「これを」
脇から500ミリのペットボトルが誰かによって差し出された。ひったくるようにしてそれを受け取ると、一気に中身を咽喉の奥へと流し込む。
「大丈夫か?」
さっきとは違う声が聞こえたかと思うと、恐らくその声の持ち主が背中をさすってくれた。そのおかげか、程なく咽喉に詰まっていた肉まんは胃の中へと落ちていった。
「ぐ…ふ…ふーっ…。ありがとう、助かった」
「いえ」
「気にするな」
呼吸を整えてもう大丈夫なことを確認すると、俺は顔を上げた。
「お前たち…15番桜咲に、18番龍宮か」
「はい」
「そうだ」
それぞれ頷く。
「みっともないところを見られちまったな」
「いえ」
「気にするな。誰にだってああいうときはある」
「道理だが…生徒に慰められるのも、なんか情けねえな」
『ふふっ』
二人が軽く微笑んだ。
「それで、なんか用か?」
「いえ、ちょっとご挨拶をと思ったんですが…」
挨拶…ね。どういう意味の…なんだか。
「だが、まあ、そんな感じじゃなくなったからな」
「ああ。また後ほどにしようか」
「そうだな」
二人で話してそう決めると、軽く頭を下げてその場を離れていった。俺は二人の後姿を見送ると、再び肉まんに手をつけた。
「……」
エヴァンジェリン、茶々丸、超、古菲、長瀬、そして今去っていった桜咲に龍宮。どいつもこいつも俺が朝目をつけていた奴らばかりだった。そして、向こうも当然それをわかっている。それだけに…
(ただの挨拶じゃねえんだろうな…。牽制か…警告か…あるいは別の意味でもあるのか…)
肉まんを頬張りながら、俺はあのお嬢ちゃんたち一人一人の顔を思い出していた。
程なく歓迎会はお開きとなり、俺はネギや明日菜、木乃香とともに帰路に着いた。その途上、俺の寝床はネギと同じく女子寮だということが判明した。どうやらそこの使われてない一室を俺にあてがうらしい。
(あのジジイ…)
俺は明日、もう一度ジジイのところに直談判に乗り込むことを決めた。
後書き
おはようございます、セフィロスです。
ネギま!SEEDの第6話をお送りいたしました。いかがでしたでしょうか?
今回は二つですね。ネギの正体が明日菜にばれるところと、歓迎会のシーンと。歓迎会のシーンでは、ちょこちょこと伏線を(有効に活用できるかどうかはわかりませんが(汗))張らせていただきました。
楽しんでいただければいいなと思いつつ、今回はこの辺で。
では、第7話で。
それではレス返し
龍牙様>まあ、草薙はこれからたっぷりと苦労する予定ですので、最初ぐらいはいい感じにしてあげないとですね。早速明日菜にばれて余計な苦労背負い込んでますし(笑)。それと、古とのことですが自分はそれほど気にはなってはいません。確かに技術とかでは微妙かもしれませんが、実戦経験は豊富ですからね。実戦に勝るものはないですし。
それと、スケベビッチ・オンナスキー様。色々と思うことがあってか、御感想を消されたみたいですがありがとうございました。別に気にはしていませんので、よろしければまた御感想下さい。
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