「え…と、それでは質問のある人は挙手…」
途端に、教室の中に挙手の林が出現した。
ネギま!SEED 第5話
状況を説明するとこういうことだ。
ネギが2-Aの女子たちの熱烈にして凶悪な歓迎を受けて意識を失って後、しずなが事態の収拾をつけて一度は2-Aは沈静化。しかし、おとなしく授業をやるような状態には程遠いため、急遽この授業時間をネギと俺の質問タイムに割り当てたということだ。それで、まずはネギがお嬢ちゃんたちのおもちゃへとなることに相成った。
「あ…え、ええと、それじゃあ出席番号17番の椎名桜子さん」
「はいは〜い。ご指名ありがとね、ネギせんせ」
先程のことが軽いトラウマになっているのだろうか、軽く引きながらもネギは一人のお嬢ちゃんを指名した。
「んじゃあ、まずは軽いところからいこうかな。先生、いくつなの?」
「あ、じゅ、10歳です」
「へ〜」
前もって質問は一人一つという制約を設けていたため、聞き終わった後は大人しく座る。
「では、次…」
先程と同じように挙手の林が現れる。
「え…と、それじゃあ出席番号2番の明石裕奈さん」
「は〜い」
また別のお嬢ちゃんが席から立った。
「ん〜と、先生はどっから来たの?」
「ウェールズです。イングランドのお隣にある国です。その国の山奥から来ました」
「へ〜」
そしてまた座る。こんな感じでどんどんと質問は消化されていく。
「じゃあ、6番の大河内アキラさん」
「はい。先生は頭いいんですか?」
「あ、は、はい。語学力なら一応大学卒業程度はあります」
「27番の宮崎さん」
「は、はい。…え…と、ネギせんせーは何で日本に来たんですか?」
「えっと、ちょっと込み入った事情がありまして。そこのところは、なるべく聞かないでもらいたいんですけど…」
「あ、は、はい。すみません」
「い、いえ。こちらこそ」
「21番那波さん」
「はい。先生は天体観測はお嫌いですか?」
「へ? …い、いえ嫌いじゃないですけど…」
「あらよかった。よろしければ、我が天文部にはいりませんか?」
「ああ何だ、そういうことですか。少し考える時間をくれませんか?」
「はい。お返事はいつでも結構ですので」
こんな調子でどんどんどんどん質問は消化されていった。
「それじゃあ最後に一人…そうですね、7番の柿崎さん。どうぞ」
「はい。先生は今、どこに住んでるの?」
「いや、まだ住所は…」
ちらっと明日菜と木乃香の方に目をやるネギ。木乃香は逢ったときから変わらずにほんわかした雰囲気でニコニコしながら手を振っていたが、明日菜の方はぷいっと明後日の方向を向いてそっぽ向いていた。
「え? じゃあどうするの?」
「あ…ええと、学園長がどこかをあてがってくれるそうで。わかるのは放課後ですね」
「ふ〜ん…ねえ、先生さえ良かったらあたしたちの部屋に来ない?」
「え…」
見る間に顔を真っ赤にするネギ。
「ふふっ、赤くなっちゃって、か〜わいい♡」
「か、かかか、柿崎さん!」
と、怒ってるような、うろたえてるような声がどこからともなく発せられた。
「あああ貴方、なななんというはしたないことを!」
「まあまあ委員長。ただの冗談なんだから、本気にとらないでよ」
「あ、あたりまえです! ネギ先生と同室になるなんて、例え天が許してもこの雪広あやかが許しません!」
「はいはい、ごめんなさい」
ペロッと舌を出して座る。
「まったく…申し訳ありません、ネギ先生」
「あ、いえ。ちょっとびっくりしただけですから、そんなに怒らないで下さい、29番雪広あやかさん」
「いいえ。クラス委員長としては何かお詫びを…そうですわ!」
パンと手を打ち、教壇のところまで来てネギの手をとる。
「ネギ先生、よろしければ私たちの部屋にお住まいになりませんこと?」
「え?」
ネギの目が点になる。そりゃそうだろう、さっき自分が否定したことを今度は肯定しているのだから。
「クラス委員長として、先生のお力になるのは当然ですわ。先生もこの学校に赴任してきたばかりで何かとわからないこともあるでしょうけど、私と同室ならばいつでもサポートできます。それに、オックスフォードを首席で卒業したというネギ先生のご指導をいつでも仰げますし…」
成る程。一見、言ってることは理に適っている。…適ってはいるが、それだけじゃない気がするのは俺だけだろうか? なんか、瞳が熱っぽくなってるし、呼吸も乱れてきているような…。
「あの…えーと…」
「あー、いいんちょずるい!」
鳴滝姉が声を上げたのと同時に、クラスのほぼ全員が立ち上がり、再びネギに向かって突進してきた。圧力か恐怖か、その場から動くことも出来ずに再びネギは生徒たちの手荒い歓迎を受けることになる。ちなみに俺は、巻き添え食らうことを恐れてあらかじめ離れていたので、それを遠くから眺めるだけのいいご身分となっていた。
「せんせー、あたしたちの部屋にきてよ!」
「あー、ずるい! 言いだしっぺは私なんだから、うちに来てよ、先生!」
「ネギ君ネギ君ネギ君、うちの部屋! 絶対おもしろいよ!」
「あ、あのー…ネギせんせー…」
「のどか、もっと押し強く!」
「そうです。こういうときに遠慮は要らないです」
「う、うん。ありがとーハルナ、ゆえ」
「ちょちょちょっと皆さん! クラス委員長の私を押し退けて…」
もう、しっちゃかめっちゃかである。
(難儀だな…南無)
安全なところで、俺は形だけ祈ってやった。
「あ、あ、あの、やめ、やめ、うわーん!」
抵抗はしている。しているのだろうが、まるで聞き入れられない。あたかも嵐の海を往く折り紙の船のようにかき消された。と、
「…っクション!」
くしゃみが聞こえたかと思うと、教壇に押しかけてきていたお嬢ちゃんたち全員のスカートが捲れ上がった。
「きゃっ!」
「何!?」
「いやーん!」
慌てて抑える者、びっくりしてその場に座りこむ者、思わず集団から離れる者と反応は様々だったが、そのせいかネギに対する拘束が甘くなった。その隙を逃さずにネギはそこから離脱すると、大慌てで俺のところまでやってきて俺の後ろに隠れた。
「お、おい」
「た、助けてください、草薙さん!」
涙目で可哀相になるぐらいプルプルと震えて俺を見上げるネギ。…ったく、しょうがねえな。
「ほらお前ら、ネギが怖がってるだろうが、とっとと席に戻れ」
『でも…』
何人かが不満そうに口を尖らせる。
「ネギを自分たちのところに引き入れたきゃ、学校が終わってから学園長に直談判するんだな。それに、こいつはまだガキで、お前たちはお姉さんだろうが。年下が年上を困らせるならともかく、年上が年下を困らせてどうするんだよ」
そう言うと、渋々ながら全員席に戻った。
「あ、ありがとうございます。助かりました」
「気にすんな。それよりほら、締めの挨拶してこい」
「あ、は、はい」
ネギは教壇に戻ると、ふーっと一回深呼吸をしてから教室を見渡した。
「それではこれで僕の方は終わります。他に聞きたいことがあったら、後は個人的に来てください。…それじゃ、草薙さん」
「ああ」
うなずくと、ネギと入れ替わりで教壇に立った。全員の視線がネギから俺にスイッチする。
「始めまして…だな。本日付でこのクラスの副担任をすることになった草薙だ。ネギ同様、短い間となると思うがよろしく頼む」
軽く頭を下げると教室を見渡す。好意、興味、無関心、警戒といった視線を浴び、しかしそれを無視するように俺は口を開いた。
「それでは何か質問のある者」
手が挙がった。ただ先程と違うのは、一人しか上がらなかったということだ。
「ん? 何だ、一人だけか」
出席簿を手に取り、開いてその人物が誰なのかを確認する。
「出席番号3番、朝倉和美…でいいのか?」
「はいはい、そうですよ」
手を挙げていた人物が楽しそうに答える。もう一回出席簿に目をやると、顔写真の下に『報道部』と書かれていた。
(そういうことか)
何で一人しか手が挙がらなかったのか、なんとなく合点がいった。
「で、何だ?」
「その前に言っておきますけど、私はクラス全員の意見を代表して聞くので、質問を一つで終わらせませんよ」
全員がうなずく。どうやらこのお嬢ちゃんはこういったことではクラス全員から一目置かれているらしい。
(伊達に報道部所属じゃないわけか)
軽くうなずくと
「わかった」
と、答えた。
「ただし、クラスの人数は31人だから、質問の上限は31個までとさせてもらうぞ」
「オーケーオーケー、それじゃ始めましょうか」
こうして、今度は俺がおもちゃにされる時間が始まった。
「それじゃあまず、軽いところからいきましょうか。草薙先生の名前は?」
「護」
「出身は?」
「島根だ」
「年齢は?」
「20」
「え? その年で教員免許持ってるの?」
「いや、ない」
「じゃあ、担当する科目はないわけ?」
「ああ。しいて言えば、このクラスのお守りだな」
「? 何それ?」
「学園長の話だと、このクラスは厄介なのが多いらしいからな。そこにもってきてあの坊主が担任じゃ収拾がつかなくなりそうなんで、俺が手綱を締める役を任されたってところか」
「そう? そんなにうちのクラス厄介かな?」
「ネギを二回も圧殺しておいてよく言う。見ろ、おかげでまだ怯えてるじゃねえか」
全員がネギに視線を向けると、ネギはびくっと身体を震わせたかと思うと、しずなの後ろに引っ込んでしまった。そして、恐る恐る顔を出す。
「あちゃーっ…」
朝倉が顔をしかめた。
「お前たちも後で詫びとけよ」
顔を赤くしたり、ナハハと誤魔化し笑いをしたり、気まずそうに頭をかいたり、反応は様々だが概ね俺の言ったことを受け入れてくれそうな雰囲気だった。
「他には?」
朝倉に視線を戻す。
「あ…っと、何で罠を仕掛けたのが春日と鳴滝姉妹だってわかったの?」
「教室に入ってくる前に、窓から中をのぞかせてもらった。そしたら、春日と鳴滝ツインズの二人がそれはそれは楽しそうに罠を仕掛けているのがはっきりと見えたからな」
あちゃあという声が聞こえる。おそらくは、三人のうち誰かが言ったのだろう。
「そう言や、その節は悪かったな。ちっと怖がらせすぎた」
「そう、それ!」
何故かその三人ではなく朝倉が飛びつく。
「ん?」
「十円玉を真っ二つに折れるなんて、先生強いの?」
「さて…な?」
ポリポリと頭をかく。
「普通に人と立ち合ったことなんかないんでな。どうなんだか?」
何人かの眉がピクリと動いた。それには気づいたが、気づかないふりをして無視をする。
「おお、ならば私と立ち合ってみるね」
今度は違うところから声が聞こえた。
「…12番、古菲か」
「そうよ。あの身のこなし、お主只者ではないね。私とやってみるアル」
「…ま、そのうちな」
「約束アルよ?」
「ああ」
満足そうにうなずくと、古菲はおとなしく席に座った。
「他は?」
その後、いくつか取り留めのない質問が続いた。俺は基本正直に答えながら、ところどころで嘘…というか適当なことを入れながら答える。
(まあ、バカ正直に答えてやる義務もないしな。敵だか味方だか区別つかない連中もいることだし、用心のためにな。それに、真実の中に嘘をちりばめるのが一番バレにくいって言うしな)
「んじゃ、最後に一つ。ずばり、恋人はいますか?」
その質問に、各人の色々な感情を秘めた全員の視線が俺に集中した。
「…いや…今はいねえよ」
それだけ答えると、俺はしずなにバトンタッチした。
(楓…紅葉…)
あの二人を思って。
後書き
おはようございます、セフィロスです。
ネギま!SEEDの第5話をお送りいたしました。いかがでしたでしょうか?
前話の後書きで書いたように、今回はネギと草薙に対する質問タイムですね。こんな流れになりましたが、いかがだったでしょうか? 御感想いただければ幸いです。
次話は明日菜にネギの正体がバレるところでしょうか。どういった展開になるのか、楽しみにしていただければ幸いです。
では、第6話で。
それではレス返し
ATK51様>美空は…あんなもんでしょう。なんといってもまだ見習いですし、走るだけでは…ねぇ? 原作の展開によっては、今後に期待も持てますけど、現時点ではあれがいいところだと思っています。
序盤の山場、エヴァ戦はこちらも色々と考えているので、楽しみにしていて下さい。
龍牙様>フラグ立ては今後の伏線ということで。活用できるかどうかはわかりませんけど(汗)。頑張るつもりですので、これからも御愛顧の程どうぞよろしく。
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