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!警告!壊れキャラ有り

「見習いが往く 第七回前編(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2006-06-15 17:10/2006-06-16 10:57)
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――日本、野比家。
早朝未明。
のび太とルルは、安らかな眠りを貪っていた。
何時もなら二人の間にくするが眠っている筈なのだが、昨夜から静香の家にお泊りに行っているので今日はいない。
――ちなみに、部屋には防音結界が展開済みである。
何か部屋にすえた臭いが満ちているとか、ティッシュが散乱しているとか、布団の中に居るバカップルが何故か裸だとか――そー言う事は一切気にしないで欲しい。
「うぅん……」
のび太が寝返りを打つ。
丁度右手が、ルルの胸に当たり――反射的に、掌が動く。
「……ゃん」
寝ているルルの身体が、びくりと脈打つ。
――バカップルの極みである。
そんな、腹が立つくらい穏やかな朝。

――ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……

海の向こうより来訪した、招かれざる客が――

…………ズッシイィィィィィィィィィンッッ!!!

粉微塵に打ち砕いたのだった。
ざまあ見ろ。


轟音。そして、凄まじい揺れ。
のび太達だけではなく、近隣住民も慌てて飛び起きた。
「な、何……? 地震ッ!?」
「むにゅ……あさ?」
跳ね起きるのび太とルル。
ルルは未だ寝ぼけているようだ。
「ルル、寝ぼけてる場合じゃないよ! 一体何が――」
素っ裸のまま立ち上がり、窓に駆け寄るのび太。
ルルも後を追おうとするが――
「……あう。たてない……(///)」
昨日頑張り過ぎた所為で、腰に力が入らない。
しかも溢れ出たモノが布団に垂れないように、内股気味である。
――のび太、すっかり師匠に似ちゃって……
のび太が勢いよく窓を開け放った。
朝日を浴びて、其処に存在していたものとは……ッ!

『――あ、のび太だロボ! のび太ぁ〜、遊びに来たロボよーッ! とっととエルザ達を中に入れて茶でも出せロボーッ!!』
『…………』

我が家のまん前でぶんぶんとドリル状のアームを振るドラム缶と、その上で半死半生になっているエンネア。
――瞬間、のび太の思考がフリーズ。
脳味噌のキャパシティを超えたらしい。
直後――形容し難い悲鳴に似た叫びと共に、凄まじい閃光と爆音が街を襲ったのだった。
犯人は不明――と、して置こう。


――まあ色々在ったが、何とか落ち着いた。
場所を茶の間に移し、のび太はげっそりとした顔で目の前の二人を睨み付けた。
片方は頬を膨らませてダレル、緑髪のアンドロイド少女――エルザ。
もう片方は一日振りのご飯に感涙し、黙々と食べている少女――エンネア。
両者とも、半狂乱になったのび太の魔術の直撃を受けてボロボロだ。
ちなみに、咄嗟に結界を張ったので街には被害は全く出ていない。
……尤も、破壊ロボは屑鉄になって近所のゴミ処理場行きになったが。
「う〜……。行き成り酷いロボ。罪も無い美少女アンドロイド+1に出会い頭に攻撃ぶちかますなんて、人権ならぬロボ権無視ロボ。――この眼鏡サディスト、ゴウトゥヘルロボ」
「誰が眼鏡サディストですか。――エルザさんが悪いんでしょーが!! 密入国――しかもよりにもよって破壊ロボで僕の家の前に乗り付けるなんて……ッ!! ああ只でさえ放蕩息子がのこのこ帰ってきたとか、外国でヤバイ仕事を転々とした挙句無垢な幼女を借金の肩代わりに無理矢理拉致ってきたとか、夜な夜な幼女相手に口に出せない如何わしい行為を強要しているとか色々不穏な噂がご近所で飛び交っているって言うのに……」
頭を抱えるのび太。
ちなみに噂の八割が静香ちゃんの妄想が暴走した結果である。
「……けど、はんぶんいじょうひていできない」
「一年間も音信不通じゃ、言われても仕方が無いわね。……反省なさい」
妻と母のダブル攻撃。
のび太の精神に一万のダメージ。
確かに、昨夜も激しく励んでいたので何も言えない。
飯を食べ終わったエンネアが、ジト目でのび太を見やり、
「……やっぱりのび太って、九郎の弟子だよね。朝っぱらから裸でナニやってたんだか……」
「失敬なッ! ヤッた後ですよ!! 全く、酷い誤解ですよ……」
大して変わらん。
のび太のエロ発言にルルが顔を真っ赤にし、玉子があらあらと微妙な顔を浮かべる。
「のびちゃん。……子供はせめてちゃんとした仕事に就いてからにしてちょうだいね」
「母さん。其れは暗に僕が定職に就いていない駄目人間だと言いたいのですか?」
「――働け」
母の無情な一言に、のび太君KO。
――地面に倒れたまま、ピクリとも動かない。
其れを見て、エルザがポツリと呟いた。
「のび太……最近ますます駄目っぷりがダーリンに似てきたロボ」
激しく欝になるのび太であった。


――同じ頃。
「……全くもう。又のび太さんが原因なの」
「るゆ〜……」
くするの手を引いた静香が、玄関前に居た。
早朝の事件を聞きつけて、やってきたのだ。
――前回の事件の後、静香達はのび太から彼の正体――魔術師の事を知った。
流石にルルが目の前で紙片に為ったのは驚いたが、其処は其れ。
昔から稀有な体験や人外と関わる事の多かった彼等だ。
のび太なら別に何が遭っても不思議は無いし、別段問題も無い。
――あっさりと受け入れてしまった。
「――のび太さん! 一体今度は何が遭ったの!?」
「るゆー、ただいまー!」
きっちり問い詰めようと、乗り込む静香。
その後ろを、能天気なくするが付いて行く。
廊下を進み、居間の襖を開ける。
彼女の目に、飛び込んできたのは――

「――ロボ〜。そういう訳で、暫くエルザを此処の家の子にして欲しいロボ。ちなみに拒否権無しロボ」
「却下じゃぁぁぁぁッ!! 折角手に入れた平穏な幸せをぶち壊されてたまるかぁぁぁぁッ!!」
「……のびた。ちのなみだがでてる」
「苦労人だからね、のび太は。――あ、のび太のママさん。この味噌汁、出汁何使ってるの? かなり美味しいんだけど……」
「あらあら。褒めてもらえると嬉しいわ。其れはね――」

トンファーの先をのび太の喉に突き付け、さめざめと涙を流す緑髪の少女。
血の涙を流して断固拒否するのび太。
哀れそうにのび太を見つめるルル。
料理談義に華を咲かせているエンネアと玉子。
――混沌である。
静香の顔が引き攣った。
くするは、エンネアとエルザの突然の登場に目を丸くし――花が咲いたかのような大輪の笑顔を見せた。
「――〜〜ッ! えるざお姉ちゃんとえんねあお姉ちゃんだぁーッ!!」
叫び、突撃。
速度を得た重量が、エルザへと叩き付けられた。
「――ロボ?」
しかし、其処はアンドロイドであるエルザ。
苦も無く受け止め、くするを抱き上げた。
そして、くするの顔を見て、ぱぁっと顔を輝かせて、
「――くするロボ! 久し振りだロボ! お姉ちゃん、くするに会えなくて寂しかったロボ〜ッ!!」
「くするもだよ〜!」
抱き抱き、すりすり。
エルザは実の妹のようにくするを可愛がっており、くするも実の姉のようにエルザを慕っているのだ。
――実年齢が近い所為もあるが。
そして、固まっていた静香が――爆発した。
「の、の、の、のののののび太さんが荒い息を吐きつつ又ちっちゃい子を家の中に連れ込んでるぅぅぅぅぅぅッ!!」
「何でそう人を犯罪者に仕立て上げるかなぁぁぁぁぁぁッ!!」
何かもう、いっぱいいっぱいののび太君。
血の涙が止まるのは、大分後に為りそうだ。


――其れから丸二日経ち、所変わってアーカム覇道邸。
その一室に、眼鏡のメイドが神妙な面持ちで電話口に立っていた。
言わずと知れた、チアキ嬢である。
「――さよか。態々あんがとな、のびちゃん。……生きてればそのうちいい事あるで」
『慰めにもなってませんよッ! さっさとこのポンコツを強制送還して下さい……僕の胃に穴が開く前に』
切羽詰ってるなぁ、とチアキは大いに同情した。
声を聞くだけで、彼が血の涙を流しているのが手に取るように理解出来る。
同じ苦労人属性を持つ自分としても、のび太が哀れでならなかった。
「……今連れ戻しても、根本的な解決にはならんと思うんや。ほとぼりが冷めるまで……その、エルザちゃんそっちで預かってくれん?」
『僕に死ねと?』
「ストレートやな。――お目付け役のエンネアちゃんも居るんやろ? 面倒な手続きやら○○○○はこっちで片付けるさかい、頼むわほんま」
『……解りました。――そう言えば、ウエストさんは? あの人が行動を起こさないなんて、珍しいですね?』
「ああ、あの馬鹿なら其処で消毒用アルコール飲んで泥酔……って、おらへんッ!? あの○○○○、何時の間に何処行ったんやぁぁぁぁッ!!」
部屋の隅で消毒用アルコールと工業用アルコールをチャンポンでラッパ飲みし、酔い潰れていた筈のウエストの姿が、何時の間にか消えていた。
――チアキの額に、ぶっとい青筋が奔り、
「あのぷっつん腐れ○○○○がぁぁぁぁぁッ!! 人の気も知らんと……一体誰の所為でうちらがこんなに苦労しとると思っとるんじゃぁぁぁぁッッ!!!」
ばきん。
怒りの余り、受話器を握り潰すチアキ。
――数分後、私服姿で憤怒の表情を浮かべつつ街を闊歩する彼女の姿が見られたそーな。
苦労人である。


――さて、チアキが鬼になっているその頃。
日本に居るのび太は、耳を押さえてのたうちまわっていた。
――受話器が破壊された際に起こったハウリングが、彼の耳に甚大な被害を与えたようである。
「耳が、耳が……ッ! 破壊の呪文は目だけでは無く耳にまで……!」
「ぱぱ。めたな発言は駄目だよー」
ネタをかますのび太に、くするが切れのいい突っ込みを入れた。 
「体張ってるロボ、のび太」
「言いたかないけど半分以上あんたとあの○○○○の所為だよ!! この無駄飯ぐらい!!」
エルザの発言に、涙目で叫び返すのび太。
どうやらこの二日間で、エルザさんすっかり日本の生活に慣れたようである。
そんな機械少女の返事は――

じゃきん。
「――何か言ったロボ? のび太」
「何でもありません」

ガントンファーによる権威誇示だった。
更に腰の低くなる、のび太。
物凄く情けない。へたれルートまっしぐらである。
さめざめと涙を流す彼の肩に、ぽんと暖かい手が置かれる。
――彼の伴侶、ルルである。
ルルは彼の首に手を回し、背中側からぎゅっと抱き締めて――
「ん。だいじょうぶ。――ずっといっしょだから」
「そうだね。……僕、ルルと一緒だったらずっと頑張れる。そんな気がするんだ」
表情を改め、のび太は自分の胸へと回されたルルの掌を、自分の掌に重ねた。
ん、とルルの嬉しそうな声が、のび太の耳朶を優しく震わせる。
――悲壮な雰囲気が一変し、砂糖をぶちまけたような甘ったるい空気が二人を包む。
ガントンファーを仕舞ったエルザは、はぁ、と溜息。
――この二人の突発的なラヴシーンを見るのは、コレで何度目だろうか。
そんな光景を襖の陰から見ていた彼の母と、彼の娘と、居候は――
「……のび太、単純ロボ」
「うん。ある意味、九郎以上だね」
「るゆ〜♪ ままいいな〜」
「あらあら。――のび太、ルルちゃん。いちゃつくのもいいけど、玄関の前は止めて頂戴ね。又ご近所に変な噂が流れるから……」
其々の意見を漏らした――その時。

「――のび太さん、大変よッ!! ――って……」
「やあ、のび太くん! 久し振……」

勢いよく、一組の男女がドアを開け――硬直。
彼等の視線は、一直線にいちゃつくのび太とルルに釘付けだ。

「……暖かいね、ルルは」
「うん」

――もう見てて腹立つぐらいのラヴラヴっぷりだ。
そして……当然の如く少女――言わずと知れた静香嬢が爆発した。

「の、のののののののび太さんッ!? 行き成り何なのその見ていて反吐の代わりに粉砂糖がこみ上げてきそうないちゃつきぶりは! 当て付けなの露出プレイなの淫行条約違反なの!? そうなのそうよねそうだったのよ!!? だだだだ駄目よルルちゃん! のび太さんなんかと第二次粘膜深接触の態勢をとっちゃ! 舌まで入れてディープなのねフレンチなのね!! 嗚呼、天然“ピ――ッ!!”遺伝子に口や前や後ろといった穴や身体の隅々まで犯されてエロエロのグチョグチョのヌチャヌチャになった挙句、種族や倫理や羞恥の概念を飛び越えて一度に一人じゃ飽き足らず、五人六人当たり前――目指すは哀・死意留弩21ッ! ってな明るい家族計画を無視しまくった人外専門鬼畜ロリペド猟奇犯罪者専用孕み肉奴隷に――ッ!!」

もう放送コードに引っ掛かりまくりの電波宣言。
静香と一緒に居る理知的な青年も、無茶苦茶引いている。
「――人ん家の真ん前で僕の人格を社会的に突き落とす発言は止めてよぉぉぉぉぉッッッッ!!!」
「のびたのあかちゃん……ほしい(///)」
静香の電波トークにより、駄目亭主の幸せ笑顔が一変し、最近胃痛と共に定着してきた血涙が目の幅で溢れ流れる。
奥方の人外ロリはと言うと……顔を真っ赤に染め、懇願するように駄目亭主を上目遣いに見上げる。
――余談だが、書物であり精霊である彼女等が身篭る事が出来るか否かは不明だ。
最古の写本や獣の咆哮のオリジナルである彼の少女達でも、其れは解らない。
――強く、望んではいるのだが。
その言葉を聴き、此方も顔を真っ赤に染めつつも、彼女の伴侶は確りと頷きを返して、
「――うん。一寸大変だとは思うけど……。其れに、くするも弟か妹が欲しいだろうし」
――ABF(アツアツ・バカップル・フィールド)展開。
ある意味絶対領域を作り出す、馬鹿夫婦。
其れを見て――更に静香の暴走スピードが上がる。
そんな様子を、遠目で見るエルザとエンネア。
彼女等は、あからさまに溜息を吐いて、
「……日本にも、ライカみたいなのが居るロボね」
「ライカに比べれば未だマシ。――彼女なら、一息で原稿用紙五枚はいけるわ」
この二日間で、静香の人となりを完全に理解したアーカム少女コンビ。
そんな彼女等から見れば、静香などまだまだ本家である電波シスターの足元にも及ばない。
その冷静なコメントがのび太にとって、かなりの確率で胃痛の種へと変わる。
――さて、残る玉子とくするはというと……
「るゆ……。くする、弟も妹も両方欲しいなー」
「あらあら。――くするちゃん。残念だけど、もう少し待って上げなさいな。一寸色々在るから……ね?」
「うん! くするいいこだから解ってるもん!」
ほのぼのと、孫と祖母の交流を深めていた。
――唯一の癒し空間であった。
事態に収拾がつくまで、小一時間を要したそうだが……まあ、如何でもいい事である。


――アーカム郊外。
人通りの全く無い、寂れた広場に彼は静かに佇んでいた。
愛用のギターは傍に置いているだけで、何時ものように掻き鳴らされてはいない。
彼自身も、何時もの熱に浮かれているような輝きを帯びた変態染みた瞳はなりを潜め、神妙な面持ちである。
今の彼を見たら、彼を知る者全員が声を揃えてこう言うだろう。

――何か変なものでも食べた? と。

只彼は、静かに目前の物体――白い石の墓標――を、見つめ続けるのだった。
其処へ――
「やっと見つけたでこの変態ッ……。――って、あんた……こんな所で何しとるんや?」
怒り心頭のチアキがやってきた。
しかし、その怒りの形相は瞬時に変化した。
滅多に見ない、珍しい彼の表情。
頭に昇っていた血が急速にダウンし、そして、漸くチアキはこの場所が何であるか気付いた。
白い墓群が列なる広場――即ち、墓地である。
馬鹿みたいに――ではなく、マジで馬鹿でお目出度い彼に一番そぐわない場所だ。
チアキは怪訝そうに目を細め、
「……何や、何時に無く辛気臭い顔しくさって。変な物でも拾い食いしたん?」
予想通りの反応だ。
しかし、彼――ドクター・ウエスト――は、何時ものオーバー電波アクションを返さず、只目前の墓石を見つめ――
「我輩にも一寸セピア色で昔懐かしノスタルジックなセンチメンタルグラフィック気分の時があるのであーる。ガサツな凡人眼鏡なんぞに、繊細でキュートでおしゃまな我輩の淡く切ないミステリィアスな気持ちは理解出来んとみえる……」
「いっぺん死ぬか? いやいっぺんと言わず百回でも千回でも殺したるーッ!!」
いきり立つチアキ。
だが、その視線がウエストの見つめる墓石に掘り込まれた文字を読み取った瞬間――彼女の怒りは、急激に冷めていった。
喉が、自然と文字を読み上げる。
「……“エルザ”?」
彼の愛娘と、同じ名ではないか。
訝しげに首を傾げるチアキを目端に置き、ウエストは何時に無くシリアスな面持ちで――
「……我輩がこの世で只一人認め、そして我輩の事を只一人信頼してくれた、唯一無二の女性である……」
――風が、無意味に二人の頬を撫ぜた。


「……其れにしても、久し振りだね――出木杉」
紆余曲折花鳥風月。
何とか暴走疾走する静香を鎮め、平穏を取り戻した野比家。
客人である静香と出来杉を茶の間に通し、居候二名を交えて、世間話を咲かせていた。
「うん。中学の時も、ろくに話なんかしなかったし――結構、久し振りだね」
容姿端麗、頭脳明晰。
性格も良く、万人に好かれる男。
その名も、出木杉英才。
女子にもてる為、よく男子から逆恨みされるが、其れでも評判が高い男。
かくいうのび太も、昔よく出木杉の事を嫉妬していたが――今はそんな事は無く、結構いい関係を築いている。
穏やかな空気。
静かな、ティーブレイク。
居候二名と人外親子は手土産代わりのクッキーをリスの如く頬に詰め込んで、至福の表情。
つか、少しは遠慮しろ居候二名。
引き攣る笑みを無理にほぐし、のび太は茶をゆっくりと啜った。
その時、出木杉がふと思い出したという風に――
「そう言えば、のび太くん」
「ん? 何?」
軽く返し、茶を喉へと流し込み――

「君、魔法使いになったって、本当」

ぶびゅう。

噴出。
茶の霧が日の光を反射し、虹色に輝く。
くするとエルザとエンネアは、おおっ、と感心気味に驚き、ルルは僅かに眉を顰めて、
「のびた、きたない」
と注意。
しかし、むせるのび太にそんな言葉は届かない。
「どどどどどど何方から一体そんな根も葉もない妄想チックな電波情報を――って、電波……」
ぎぎぎぃ、とのび太の首が軋みを上げつつ回転し、一人の少女へと視線転換。
そう、電波の代名詞といえる、少女へと。
「静香さん、あんたまさか……」
前回の折に、秘密にしてくれと土下座して頼んだ筈なのに。
恨みがましい懐疑的な視線を受け、静香はゆっくりと顔を上げ――
「……てへっ☆」
「てへっ☆ じゃないですよぉぉぉぉッ!! アレだけ秘密にしてくれって泣いて頼んじゃないですか!! 嗚呼、只でさえ魔術は秘匿しなきゃならないのに……師匠達にばれたら……」
実母の玉子が居ないのが、せめてもの救いだ。
――其処まで言って、のび太の動きが止まった。
恐らく、彼の脳内では今後の展開が高速度かつ分割思考気味に同時シミュレートされているのだろう。
見る見るうちに、青褪めていく。
「い、嫌だ……もう全ページモンスターとの一対多数サドンデスマッチなんて死んでも嫌だぁぁぁぁ!!」
何気にグラマーなお姉さんが多くて少しイイ思いも一寸したけれど、あんな棺桶に首以外の全身を突っ込んだ挙句三途の川に流されるような生と死の崖っぷちバトルはもう御免だ。
「……強請れるネタが増えたわね」
「ロボ」
何気に聞き捨てならない事をホザク居候組。
――混沌は加速する。
のび太の異様な焦り具合に、出木杉はキュピーンと異様に瞳を輝かせ――
「――やっぱり。魔法は、本当にあったんだ。新たな研究課題が……ッ!」
どうやらこの出木杉君、静香ちゃん同様歪んだ成長を遂げたようです。
「――のび太くん。僕と一緒に歪んだ科学社会に革命という新たな風を……!!」
「死んでもお断りだぁぁぁぁ!!」
――閃光が辺りを包み、爆音が弾け飛ぶ。
師匠に似たのか、テンパると非致死性の魔術の引き金が異常に軽くなったのび太君であった。
――後で玉子にシコタマ怒られるが。


――穏やかな冷たい風が、ウエストとチアキの間を往く。
両者共言葉を発さず、黙って佇む。
――口火を切るように、ウエストが独白を始めた。
「――昔、馬鹿な男が居たのである」
彼は、ゆっくりと物語を紡ぐ。
“死の克服”という幻想を夢見、掛け替えの無いモノを代償として失った、半生という名の物語を。
――共に同じ夢を見た女性。
――孤独という欠点を補い合った半身。
――死の間際で共に在った存在。
――忘れてはならない、過去の過ちそのものである人。
「男はくだらないミスで彼女死なせてしまっただけではなく、更に許しがたい過ちを犯してしまったのである。――決して、許しては為らない事を……」
――彼女の遺志を汲み、まだ温かい彼女の身体に蘇生処置を施した。
――しかし、蘇ったのは彼女ではなく――この世に存在してはならない“怪異”であった。
――自我をナクした彼女を、この手で……
「――許しては為らないのである。忘れても為らないのである。男は、彼女の為に――子供の出来ない彼女の為に娘として創り上げた一体のガイノイドに、彼女と同じ髪の色と名を与えたのである。――決して忘れない為に、繰り返してはならない為に……」
語るウエストの顔は、まるで別人の如く強張っていた。
何時もの○○○○加減はなりを潜め、苦悩と苦渋と決意が垣間見えている。
我知らず、チアキは少々――見惚れてしまった。
しかし、次の瞬間無理矢理頭を振って、一瞬抱いてしまった病んだ妄想を無理矢理掻き消し――
「……訊いてええか?」
「何である?」
背を向けたまま、答えるウエスト。
湧き上がるモヤモヤとした感情を抑え、チアキは言葉をひり出した。
「その事を、エルザちゃんは知っとるんか? 自分のお母さんの事を、あんたの過ちを。――其れと、あんたがエルザちゃんの誕生日を忘れた原因って、やっぱり――」
「――凡人眼鏡、貴様は勘違いしているのである」
チアキの言葉を遮り、ウエストが言い放つ。
何時もの○○○○な笑みではなく、弱い笑みを浮かべ、
「経緯は如何あれ、エルザは我輩の娘である。子に自らの罪を告白出来るほど、我輩のシャイなハートはゴマプリンの如く丈夫ではないのである。もう少し、時間を置かねばならないのである」
後、と彼は言葉を続け――
「誕生日を忘れていたのは……破壊ロボに取り付ける新型ドリルの構造と量を三日三晩不眠不休で計算し続けた我輩のお脳がハイでアッテンションプリーズな何時もより多く回しております〜御捻りはどうぞ此方へ万札奨励状態であった訳で――」
「結局素で忘れとっただけかぁぁぁぁぁぁッ!! てか、今までの前振りはなんだったんじゃぁぁぁぁッ!!?」
「――ふ。まだまだ甘いであるな、凡人眼鏡。主人公が墓場に居る=過去の回想始まり始まり〜は世界の法則である!! 主人公が胸内に秘める重く苦しい切ない過去……決して覆す事の出来ない、少年の心の真っ白なノートに綴られた大号泣間違い無しスタンディングオペレーション確定ウハウハ興行収入生活ルートへ分岐な悲劇ッ! そして、吐露された少年の心情に痛く同情しつつどうしようもなくヒロイン……まあ、ヒロイン役が凡人眼鏡というのが、甚だ疑問であるが。カスピ海の如く淡水海水清濁併せ呑む我輩の心は広く深いのである……まあ適当に相手をしてやるから許せ、凡人眼鏡。取り合えず我輩は“好き好きウエスト様天上天下唯我独尊劇場版――安威、覚えてマスカラ――世界最後で停止した日? アーカムよ、我輩は帰ってきた!! 覇道財閥殴り込み大作戦ッ☆”ルートのフラグ立てに忙しいのである――」
「死に晒せぇぇぇぇぇぇッ!!」
馬鹿が飛ぶ。
顎が妙に変形した馬鹿が、今日も空を飛ぶ。
アーカムでは見慣れた、喜劇のような悪夢のような光景だ。
「ウゲロペヤガァァァァァァッ!!?」
言葉にもならない叫びを上げ、空の彼方へと消えていく馬鹿。
そんな馬鹿の姿を睨み付け、誰も居なくなった墓地で荒い息を吐きつつ佇むチアキ。
知らず知らずの内に、内心が言葉へと変換され、外へと漏れ出す。
「……うちの甘酸っぱい青春気分のときめきを、返せぇぇぇぇッ!!」
一寸だけ、心の中にあるウエストへの??なパロメーターの数値が上昇した、チアキであった。


無理矢理だが、後半へ続く。


あとがき
長くなったので、ここらで一旦切り上げ。
何時も以上に酷い出来だ。
お待たせした皆さんに土下座です。
――後編は主にバトル。
構想は出来ているが……
兎にも角にも、感想返信と行きます。


>剣さん
まあチアキとウエストの仲は確定で。どちらかというとエルザ(と静香)が、彼の生活を……


>黒覆面(赤)さん
流石に本屋は……(汗)
のび太にはこれから酷い目を(ニヤリ)
色黒神父はアレがデフォルトみたいなもんですので……酒だけの所為では


>saraさん
はじめまして。
あれより酷いお仕置きとだけ……(がくがく)
エンネアは基本的に中立、面白おかしく見物&介入するだけです。
某所でのSS、私も楽しく読ませて頂いてます。
私も投稿してますので、お目とおししてくれると嬉しいかも(笑)


>ひげさん
きっちりと受け継いでます。明日はあっても……胃痛と血涙に塗れた朝日だと思います。


>皇 翠輝さん
事情説明は、一応アーカムで魔術を学んだ事ぐらい。
秘密にしてくれと泣いて頼んで地べたにはいつくばったのですが……
まあ、酷い目にあうのはデフォルトで(ニヤリ)


>放浪の道化師さん
うわ中々おもろいきっつい光景。
のび太君、胃痛&血涙がデフォルトになりつつあります。
これからも応援宜しく!


>ATK51さん
眼鏡紳士はボスではなく、悪の科学者みたいな大幹部。
実はボスの正体は(以下ネタばれ)
――メタトロンはもう一寸後の登場です。
追加武装は……銃、みたいかなあ?
兎に角、応援有難うです!


>ジェミナスさん
正確に言うと、解放された後の世界ですので、アンチクロス勢(エンネア除く)は前の世界=魔術の記憶が無いです。
まるっきり別人と考えて差し支えありません。
アーカムは平和です。毎日のように起こる騒動は兎も角。


>なまけものさん
……出来そうだけど、怖っ!
アンチクロスの過去……色々ありますよ(ニヤリ)
奥さんの事……物語が進むにつれて、色々と明かされる予定。
若本ボイスを聞くと真っ先に思い出すのはアナゴさんです。
サンダルフォンの技は、色々考えています。
遠距離技……オリで幾つか作るか(考えていないのか)
――うお、ばれた!?


>アレス=アンバーさん
眼鏡紳士=駄目親父は確定です。
仮面ライダー……ハンティングホラーだして、あの姉弟に乗せるか検討中です。
静香ちゃん……成長途中ですが、妄想シスターと同じラインで(笑)


>ZEROさん
ドラグディアの“偽銀鍵守護神機関”はデモンベインの動力と似て非なるものらしいです。
異次元の影が使われているのは間違いないらしいですが……正体不明の機構が幾つか。
ドラグディア自体不完全な代物だったので、動力も不完全。
ウエストの力+くするで漸くデモンベイン並の力が。
まあ、終盤パワーアップはお約束で(笑)


――では皆々様、次回にて又お会いを。

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