インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「見習いが往く 第六回(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2006-04-29 13:26)
BACK< >NEXT

トンテンカンカン。
平日の昼間に、能天気な金槌の音が響く。
音の主は、野比家の長男、のび太であった。
何時もの格好に不釣合いな捻り鉢巻を締め、釘を口に咥えて黙々と手に持っていた板を玄関横の壁に取り付けていた。
「……ふう。こんなもんかな」
取り付けられた板に書かれていたのは――

“不思議な事件解決します 野比探偵事務所”

魔導探偵(見習い)、日本進出の瞬間であった。


――あの後、アーカムに居るアルから電話があった。
用件は勿論、ドラグディアの使った“アポカリュプシス・ノヴァ”の事だ。
下手をすれば地球その物を消しかねない大技を気軽に使うなーッ!! と電話の向こうから雷を落された。
まあ、あの技の危険性を考えれば当然の話だ。
何せ、使い方次第ではレムリア・インパクトやハイパーボリア・ゼロドライブに競り勝てる威力だそうだ。
洒落にならん。
――結局、戻ったら即“ネクロノミコンと楽しい魔術・地獄百景巡り死んだ方がマシ級に痛いぜバージョン”の刑を受ける事で何とか許されたものの……
「……瑠璃さんと全然連絡が取れないのが、逆に恐ろしい……」
恐らく、日本政府相手にかなり頑張ってくれたのだろう。
現在のび太が警察に捕まらず、こうして大工仕事に勤しんでいられるのも――全て、瑠璃とウィンフィールドのお陰である。
「街の一角丸ごとだもんなあ……。奇跡的に死者が出なかったとはいえ、テロ実行犯で捕まってもおかしくないし――ほんと有難う瑠璃さん、ウィンさん」
遠いアーカムで仕事に追われている二人に、感謝の祈りを捧げる。
土下座しても足りないぐらいだ。
――と、その時。
「――あのー。宅急便でーす」
地べたに這い蹲るのび太に、恐る恐る声を掛ける宅配員。
ひいている、かなり。
「あ、どうもー」
土下座したまま、荷物を受け取るのび太。
アホぶりは健在である。
荷物は、小さな段ボール箱。
見た目より少し重いらしく、予想外な重みが手に掛かる。
荷物を手渡した宅配員は、足早に後方に止めてあるトラックへと戻る。
――変なものから、早く離れたいらしい。
そんな宅配員など気にも留めず、のび太は荷物の差出人欄を覗き込んだ。
書かれていた名前は――
「――ウィンさん?」
良く知っている眼鏡執事の名が書かれた其れを手に、首を傾げる。
あの事件以来、数日に一回は連絡を取り合っている筈なのに……
「……態々宅配便で――何だろう?」
正座したまま地面に荷物を置いて、ガムテープを剥がす。
箱を開けると、中にはこれまた白いプラスチックの箱が。
更に首を傾げるのび太。
訝しげに顔を箱に寄せてみる。
……すると。

……コチコチコチコチコチコチ……

何故か時計の針の音が。
一気にのび太の顔が青ざめる。
――まさか。
「――ば、爆……ッ!?」
爆弾、と叫ぶ暇も無く――

閃光が、住宅前の道路を薙ぎ払った。

あじゃぱぁぁぁぁぁーッ!! と凄まじく馬鹿っぽい悲鳴が聞こえたが、誰の耳にも止まらなかったそうだ。
被害は――幸いにもゼロ。道路が陥没したぐらいである。
……もっとも、どこぞの眼鏡が全身包帯+アフロヘヤで三日間寝込み続けたそうだが。
まあ可愛い奥さん(未入籍)にずっと看病して貰ったそうだから、其れは其れで幸せだったのかもしれない。


のび太が小型爆弾に面白おかしく吹き飛ばされた同時刻、アーカムの覇道邸では――
「……本当に宜しかったのですか? お嬢様。やはり、爆弾は少々遣り過ぎでは……」
「――ウィンフイールド。たかが爆弾如きで、あののび太さんが如何にか為るとでも本気で思っていますの? ああ見えても、あの大十字さんと古本娘の一番弟子ですのよ。――ふふふ。本当、変な所でそっくりなんですから……」
日本政府の抗議書とアーカム市民の苦情書の山に囲まれた瑠璃はそう言って、幽鬼の如き視線を執事に送った。
はっきり言おう。

切れてます。

無理も無い。
何せ、最近睡眠時間が某フランス皇帝より少ないらしい。
――お肌の荒れもけ■■……(検閲が入りました)
「ふふ、ふふふ……。幾ら仕事をしてもしても全然終わりませんわ……。ウィンフィールド、私何か許されない大罪でも犯しましたでしょうか? もう怒りを通り越して殺意が……」
「――ご辛抱を」
書類の山に埋もれる主に、心の底から宥めの言葉を送るウィンフィールド。
……無力な私を許して下さい、野比様。
異国の地でアフロになっているのび太に、心底同情するウィンフィールドであった。


さて、そんな如何でもいい騒動から数日後……
――のび太達がアーカムを発って、早一ヶ月。
何時の間にか日常の一部になっていた彼等が居なくなり、其れにより発生していた違和感が次第に薄れてきた今日この頃。
珍しく今日のアーカムは、至って平穏であった。
「よく来た、よく来てくれたねライカ。――まあ、お茶でもどうかね?」
アーカムの名物店が一つ、“生物万屋 エイボン”。
手に入らない生物は無いと豪語するこの店の中に、一組の男女がテーブルを挟んで対峙していた。
男は、一見飄々とした紳士。
“エイボン”店主――ウェスパシアヌス。
女性は、ニコニコと明るい笑みを崩さない眼鏡の婦人。
言わずと知れた、妄想爆走シスターことライカさんである。
「お砂糖は二つでお願い。其れ以上だと、お姉さん太っちゃうから」
「ははは。今更、今更体重を気にする年かね?」
笑みのままライカが、向かいのウェスパシアヌスをどつき倒した。
鈍い音を立てて、テーブルに突っ伏すウェスパシアヌス。
――ライカの拳がオーラを纏っているかのように光り輝いていたが、無視しよう。
「――女の子に年と体重の話は禁句よ?」
「いや、其れは失敬。失敬だったね、潔く謝ろう」
全然反省の色が見えない。
ライカは処置無しと言わんばかりに溜息を吐いて、
「――変わったわね、ウェスパシアヌス。変な所が特に」
「そういう君だって、昔と大分変わったよ。――妄想癖が、特に酷くなった」
――互いに笑みを浮かべ、睨み合う二人。
表面はにこやかだが、目が全く笑っていなかった。
暫し、火花が散る。
――そして、徐に真剣な表情へと変わったライカが、口火を切る。
「――元“特殊生体科学技術研究所”……通称“月光の社(ムーン・パレス)”所長、及び最重要計画“ムーンチャイルド”統括研究者ウェスパシアヌス……。昔と違って、今の貴方には“闇”が無いわ」
「何、昔の話――昔の話だよ。研究所・計画共に、完膚無きまでに君達に叩き潰されたからね。――今ではしがない、只のペット屋の隠居老人さ」
自嘲気味に笑い、紅茶を淹れるウェスパシアヌス。
角砂糖を二つ落し、ライカに差し出す。
――いい香りが、室内に満ちていく。
「あの時……あの時の私は、年甲斐も無く幻想に溺れていたのさ。君とリューガとの戦いで“アレ”を亡くして――私は漸く、自らの愚かしさに気付いた。自らのしてきた事の罪深さに、漸く気付いた。全く、全く自分でも呆れるほどの、馬鹿さ加減だ」
初め、自分は“人間”を強くしようと夢見て――溺れ狂った。
不死を追い求め、最強を具現する。
ありもしない存在を追い駆け――そして、失っては為らない存在を犠牲にしてしまった。
「……彼女の事は、その――」
「言わなくて良い、言わなくて良いとも。君に謝って貰うと――あの世で彼女に怒られてしまう」
ははは、と彼は笑って、ライカの沈んだ表情を受け流す。
もう、終わった事だ、と言って。
「君を恨んでいないと言えば嘘になるが――今の、現在の私は気にしていないよ。この街は穏やかで、其れでいて目まぐるしいからね。正直、悩んでいる暇も無い」
「私も――貴方の事は未だ許せない。私とリューガを弄んだ、貴方を……。でも――」
目の前に置かれた紅茶を手に取り、飲み下す。
熱い液体が喉を流れ落ち、胸を熱くする。
一息に飲み干したライカは、言葉を続け、
「“今”の私は、少しだけ貴方に感謝しているの。街を……子供達を護る力をくれた貴方に、少しだけ感謝しているの。リューガも、多分同じだと思うわ。だから――私達も、気にしない」
お相子ね、と笑うライカ。
ウェスパシアヌスも同様な笑みで、応える。
その時だ。
部屋の隅のドアが、軋みを上げ、ゆっくりと開いた。
「父さん、お客だよ」
「とうしゃん、お仕事でしゅ!」
「とーちゃ、しごと!」
娘が三人、入ってきた。
先頭に立つのは、一番年上の娘。
十代前半の、髪を後ろに結んだキツメの顔立ちをした娘。
その後ろに居るのは、十歳ぐらいの娘と五歳ぐらいの娘。
元気そうにぴょんぴょん飛び跳ねるその姿は、見ていて微笑ましい。
全員、ウェスパシアヌスと同じ特徴的な赤い髪を持っていた。
「そうか、そうか……。では、全身全霊を以ってお迎えしよう! 謳え、呪え! ガルバ、オトー、ウィテリウス!!」
「呪っちゃ駄目だろう、父さん」
ヒートアップするウェスパシアヌスに、長女――“ガルバ”――が冷静に突っ込みを入れる。
姉に続き、次女と三女――“オトー”、“ウィテリウス”――が、呪っちゃメーッ! と声を上げる。
「あらあらあら、相変わらず三人とも元気ねー。お父さんに全然似てなくて、良かったわねー」
「関係無い、今の状況にその話題は全然関係無いぞ。ライカ」
サラッと毒を吐くライカに、ウェスパシアヌスが突っ込みを入れるが――
「私もそう思う。貴女も相変わらずで何よりです、ライカさん」
きっつい一言。
表情が全く変わっていない所が、余計に怖い。
少しだけいじけてしまうウェスパシアヌスだった。
「セメントねー、ガルバちゃん……。じゃあ、お姉さんそろそろお暇しようかしら」
そう言って席を立ったライカに、幼子二人の視線が集中。
「え〜? お姉しゃん、帰っちゃうでしゅか?」
「かえるー?」
悲しそうな顔をする二人に、ライカは少し苦笑いして、
「お買い物の途中で寄っただけだから――あ、そうそう。明日、教会でケーキを焼くから――三人とも、来ない?」
行く! と三人とも即答。
ライカのケーキはかなり美味いからである。
「ははは。この年になってケーキとは……まあ、偶には――」
「あらあらあら。ウェスパシアヌスの分は無いわよ。っていうかいい大人が年下でしかもシスターにたかるな」
石化。
――希望が打ち砕かれたようだ。
何つーか……平和な光景である。


一方、平和でない者達は……
「故にッ! 私はこう言いたいのだ!! 愚者は優秀なる者によって統率されるものであり!! 然り、現代の政治家共に人の上に立つ価値は微塵も無いのだ!! この私が地球皇帝にのし上がり、何時か、何時か……地球全土に“レガシー・オブ・ゴールド”のチェーン店を……!!」
「壮大なのかせこいのかよく解んない夢だね」
「つーか馬鹿だろ」
「何時もの事ダ」
「……誰だ、あの馬鹿に酒を飲ませたのは?」
「ア・タ・シ♪ 新メニューの“バッドトリップワイン”って言うカクテルよん。飲んだだけで夢の世界に一直線――早速明日から……」
『止めろ』
ハモり。
――喫茶“妖蛆のヒ・ミ・ツ♪”の中で、一人の色黒馬鹿がテーブルを演説台に見立て、支離滅裂な熱弁を繰り広げていた。
其処の趣味の悪い金ピカの店――“時計のレガシー・オブ・ゴールド”――の店主、アウグストゥスである。
何時もは冷静な参謀役なのだが、気分が昂ったり酒に酔ったりすると、こうして訳の解らん演説を始める癖があるのだ。
其れを迷惑そうな目で見ているのは五人。
フルーツパフェを頬張る見た目は少女、中身は年齢不詳の元魔術師――現在服飾会社を経営しているエンネア。
ソーダ水を飲むストリート系の少年――“玩具屋 ロード・ビヤーキー”店長代理、クラウディウス。
優雅にコーヒーを嗜む、巨体な上に派手な服装の髑髏覆面――“プロレスジム クタアト”看板ヒール、カリグラ。
今にも刀を抜きそうな糸目の青年――“刀剣専門古美術店 皇餓”道楽経営者、ティトゥス。
そして、この店のマスターであるオカマピエロこと、ティベリウス。
アンチクロス七名の内六名が、此処に集合していた。
「……偶に仕事抜きで来てみれば――他に行く所無いの? 皆」
「そー言うてめぇはどうなんだよ。あの貧乏探偵の所にでも行けばいいだろ」
エンネアの台詞に、悪態を吐くクラウディウス。
如何にも、この“見た目だけ”可愛い少女が気に入らないのだ。
「……九郎とアルは珍しく仕事中。何でも、街外れに又怪異が出たんだって。――物騒だよね、最近」
存在自体が物騒なお前が何を言う。
毎日毎日この少女に吹き飛ばされているアンチクロスの面々は揃って心中で叫んだ。
――この喫茶店も、ドクターウエストに頼んで耐震・耐火・耐魔術・耐破壊ロボ製にリフォームされていなかったら、とっくの昔に消滅していただろう。
――暴君は、そんな皆の様子を察して、
「何? 何かエンネアに言いたい事でも在るの?」
『在りません』
又声を揃えて、言う一同。
下手な事を言って死にたくはないらしい。
――そんな時だ。
表通りから、何か聞こえてきた。
地響きと、少女の泣き叫ぶ声だ。

『博士の大馬鹿くされちん○こロボォォォォォォッ!! チーズの角に頭ぶつけて大往生しちゃえロボォォォォォッ!!』

凄まじい内容だ。
『女の子が往来でんな台詞叫ぶなーッ!!』
またまた揃って突っ込みを入れるアンチクロス。
――同時に、

衝撃波を引き連れて疾走するエルザが店の中に飛び込んできた。

泣きじゃくる彼女の速度は――余裕で音速を超えている。
――音速超過の風が全てを吹き飛ばした後に、泣き声と衝撃音が大地を揺さぶっていく……ッ!!
後には――瓦礫と、全身を痙攣させて瓦礫の中に埋もれるアンチクロスのみが残った。
ちなみに、一番酷いのが直撃コースに立っていたアウグストゥスだ。
衝撃波でズタボロになった挙句、摩擦熱で黒い肌が余計に真っ黒こげだ。
同情の余地は全く無い。
「あ、アタシのお店が……」
アンチクロス一丈夫と謳われるティベリウスも、流石にダメージを負って動けない。
他の面々も似たようなものだ。
――ふと、よく見ると……一人だけ姿が見えない。
この事に他の面々が気付くのは、大分後の事だった。


――全速力で街中を走り回るエルザ。
もう何十分も走っているのに、速度は衰える事を知らない。
「ビエェェェェェェェェェンロボォォォォォッ!!」
「な、何でエンネアがぁぁぁぁぁッ!!」
姿が見えなくなった一人――エンネア――は、エルザに腰を掴まれ、ハイスピードで運ばれていた。
拉致とも言う。
「え……エルザ、一体如何したの!? ――エンネアでよかったら話聞いてあげるから……!」
「……ロボ?」
エンネアの必死な言葉に、エルザの動きが止める。
急ブレーキが掛かり、道路に赤い火線と火花が散っていった。
「……聞いてくれるロボか?」
何時にない、落ち込んだ表情。
――その神妙な姿を見て、エンネアは優しく微笑み……
「――うん。だから、もう泣かないで」
伊達に年は食っていないという事か。
――彼女の笑顔にエルザは気を和らげたのか……ポツリポツリと話し始めた。
「――博士、エルザの誕生日を“忘れてた”って言ったロボ」


「アレは一寸した若年性突発的忘却症――つまりは度忘れであ――――るッッ!! いぃくら研究に熱中し過ぎていたとはいえ――我輩、我輩……エルザになぁんて事を言ってしまったであるかぁぁぁぁッ!! エルザぁぁぁぁぁ、カンバァァァァァァックゥゥゥゥッッッ!! 土下座だろうが十字割腹だろうがロボトミー手術だろうが何でもするから帰って来て欲しいのであ――るッッ!! お父さんが悪かったっである。もう、もう悲しすぎて涙が止まらない………このままだと我輩の半分が優しさではなく悲壮感バリバリなお湯を掛けて三分間的な御手軽ミイラになってしまうのであ――る!!」
「五月蝿いわボケ」
ギターを掻き鳴らして泣き叫ぶ○○○○に、眼鏡の女性が突込み代わりのヤクザ蹴りを顔面に叩き込んだ。
――途端、静かになる。
何かが地面に倒れるような音が聞こえたが、気のせいだろう。
しかし、ウエストに負けず劣らず、この女性も明らかに普通ではなかった。
メイドだ。
あの特徴的な服を見事に着こなしている。
只者ではない。
「全く……結局あんたが全面的に悪いんやないか! 少しは反省せい、どあほ!!」
何故か関西弁で説教する女性。
彼女の名はチアキ。
覇道邸に仕える侍女であり、覇道私設軍のオペレーター兼整備担当員である。
――そして、ウエストを天敵と見なしていたりする。
「ウォォォォォン……。エルザァァァァァ……。駄目でも超絶天才なお父さんを許してくれであーる……」
本気で落ち込んでいるのか、何時もの覇気が無いウエスト。
其れでも阿呆には変わりないが……
「一遍死んでこいや。……兎に角、エルザちゃんは暫くそっとしとき。今あんたが出てったら絶対逆効果になるさかい。大人しくしとれや。――全く、何でうちがこいつを慰めなあかんのや」
買い物帰りで泣き叫ぶこいつにさえ出会わなかったら……!
何だかんだで縁が在る二人だ。


「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど――今回ばかりはすんごい大馬鹿超絶ポカミスしやがったなあの○○○○」
事の次第を聞き終えたエンネアは、思わず口調を荒げてげんなりした。
娘の誕生日を忘れるとは――
「……幾ら何でも今日という今日ばかりは、エルザ本気で怒ったロボ。許さないロボ。今度会ったら一寸グロテスクなイチゴジャムに変えてやるロボ」
しゃくりを上げながら、呟くように言うエルザ。
言っている内容が無茶苦茶怖い。
「――其れくらいじゃあの規格外超弩級変態生命体は死なないと思うよ。……仕方ない、エンネアが一寸だけ知恵を貸して上げよっか♪」
「……何ロボ?」
怪しげな笑みを浮かべるエンネア。
イメージ的に言えば、悪魔の尻尾が生えても可笑しくない笑顔だ。
そして、彼女は――今回の騒動の種を、ぶちまけたのだった。
「家出よ、い・え・で♪」


――さて、その頃魔導探偵は……
「――九郎!」
「応ッ! バルザイの偃月刀!」
アーカム郊外の野原で、数多の怪異と激戦を繰り広げていた。
既にマギウス・スタイルになっている辺り、その戦いは凄まじいの一言に尽きる。
記述から魔術媒体“バルザイの偃月刀”を召喚し、その刃を展開。
「ミラーコーティング……続いてイタクァ召喚ッ!」
刃に魔力が定着し、鏡の如き輝きを帯びる。
光り輝く其れを投擲し、すかさずイタクァを召喚
空を舞う戦刃。
風を割く雹弾。
光り輝く刃は敵を斬り刻み、弾丸はあらゆるモノを凍て付かせる。
――舞う刃に弾丸が中り、弾丸が舞を演じる。
銃と剣の輪舞。
氷と刃の双舞。
――剣と弾丸が舞を繰り広げる度に、怪異達はその命を散らしていった。
しかし――
「――殺ャァァァァァッ!!」
再生能力を有していた一体のみが、運良く弾幕を抜け――九郎を背後から襲撃する!
「ちッ……!」
魔銃“クトゥグァ”を召喚し、迎え撃つ。
そして――

「――変神ッ!!」
――“CHANGE”――

電子音が響き、年若い青年の声が空気を震わせる。
同時に、裂帛の拳が怪異の頭部を砕き潰した。
現れたのは――黒い天使。
全身を漆黒の刃金で覆った、仮面の堕天。
彼の名は――
「リューガ……いや、今は“サンダルフォン”って呼んだ方が良いか?」
『どっちでも構わない。――今のは少し危なかったな、大十字九郎』
「変神すると喋り方が変わるのは、姉弟共通でデフォルト設定か……」
如何でも良い。
――彼の者は、科学と魔導により生み出された鋼鉄の落とし子。
白黒の翼の片翼。
剣の天使と対なす拳の天使。
名を――サンダルフォン。
『姉さんに頼まれて、アンタの手伝いに来た。――礼は要らん』
「有難い。妾と九郎といえども、流石にこう数が多くては……。手数が増えるのは、願ってもない」
「その通り。――頼りにしてるぜ、リューガ」
双銃を構え、黒翼を靡かせ、魔術師は戦渦へと身を投げ出す。
――見る見る内に、減っていく闇の者達。
『別に俺の手助けが無くても、大丈夫そうだな……』
その規格外な強さに、流石の黒天使も呆れ気味だ。
――そんな彼の周りを、あぶれた怪異が取り囲む……
『――ほう? 俺に挑む気か? ――いい度胸だ。丁度、退屈を持て余していた所だ……その度胸に免じて――』
仮面の下で笑う。
腰のホルダーが開き、何かが飛び出す。
――其れは札。
『――瞬の間も与えず、滅してやろう』
三枚のカード。
只のカードではない。
魔導書の記述を魔術・科学の両面から解析し、コンパクトにカスタマイズした代物。
一枚一枚が使い捨てだが、其処等の魔導書に劣らない威力を持っている。
サンダルフォンは其れ等を躊躇い無く――腕のスリットに通した。
電子音が、身体の内から流れる。

――“FIST”――
――“DARKNESS”――
――“CROSS”――
――“CRUSH・CROSS”――

――サンダルフォンの両拳が、黒い輝きに包まれる。
其れは闇。邪悪にして神聖なる存在。
『ハァァァァァ……ッ!』
スパークする黒き光。
両の手を天地に構え、胸の前で交差させる。
姉の力と対なす、断罪ならぬ滅悪の十字。
彼の技が――解き放たれた。

『――“クラッシュ・クロス(十字・滅悪)”!!』

十字に放たれた黒き拳。
全ての怪異を――薙ぎ払う!
姉の技に勝るとも劣らないその一撃は――百以上の怪異を一瞬で葬った。
……あのお二人はその数倍殺ってるけど。
まあ兎にも角にも、怪異が全滅するまでそう時間も掛からないだろう。
――アーカムは、今日も平和だった。
そう、アーカムは。


「下手な入知恵しなきゃ良かった……」
エンネアは切にそう思った。
何故なら、現在彼女が居る場所は――
「エンネアー、もう少しで弓状列島が見えてくるロボよー」
破壊ロボのコックピットから、エルザの暢気な声が聞こえてくる。
纏わり付く潮風が妙に切なさを強調させる。
現在彼女は――太平洋を爆進する破壊ロボの掌の上に居る。
現在に至るまでの経緯は至ってシンプル。
エンネアの進めた家出の案に、エルザが乗ったのだ。
エンネアはこの時、大方九郎の事務所か教会辺りに身を寄せる気だろうかと、高をくくっていたが……
『――そうだ! のび太の家に行くロボ!!』
何て仰りましたよこのポンコツアンドロイドは。
あれよあれよという間にエンネアはエルザに拉致され、気付いたら太平洋を飛ぶ破壊ロボの上に……
「……エルザ。エンネア思うんだけど――このままだと密入国になるんじゃない?」
「大丈夫ロボ。ステルス機能は完璧ロボ。絶対ばれないロボ」
「……いや、そういう意味じゃなくて」
……九郎、アル――たすけてー。
遠い海の向こうに居る深き友に助けを送る。
だが、現実は厳しい。
アーカムに居る者達がエルザとエンネアが居ない事に気付くまで、まだ少し時間が掛かったりする。
――がんばれ。エンネア。


――最後に。その頃の野比家。
「……のびた。あーん」
「あーん」
のび太の自室で、病み上がりののび太を甲斐甲斐しく世話するルル。
ちなみに、膝枕はデフォルトだ。
のび太はりんごのうさぎさんを嬉しそうに頬張って、
「んぐんぐ。……嗚呼、ほんっと平和だ。ルルと一緒にこんな穏やかな一時が過ごせるなんて……安らかだ」
「うん。へいわっていいよね」
あーん、と又ルルがのび太にりんごを差し出す。
此方も、あーんと口を再び開いて、りんごを頬張った。
――流れる、穏やかな時間。
バカップルは、滅多に無い平和な時間を堪能する。
…………。
――災厄よ、さっさと来い。


あとがき。
――という訳で、第六回は話の繋ぎ。
……オリ設定多すぎだろうorz
さて、補足的に説明しますと――ライカとリューガはウェスパシアヌス率いる“悪の秘密研究所”に改造された改造人間……ウェスパシアヌスの野望を食い止める為、洗脳された弟を助ける為、仮面天使メタトロンは今日も戦い続ける――と、そんな特撮番組的展開がライカ達がアーカムに来る以前にあった訳です。
その戦いでウェスパシアヌスの組織は潰れ、彼の妻はその時に亡くなりました(原因は今の不明、本人等しか知りません)。
その後、ライカは教会を始め、リューガはアルバイトを転々とするフリーターに(変神して正義の味方やる度に仕事をさぼるから)、そしてウェスパシアヌスは遺された三人の娘と共にペット屋を始めた……。
結構ヘヴィです。
ちなみに、三人ともウェスパシアヌスと血は繋がっていますが、妙な力は持っていません。
――名前は死んだ母親が付けたそうです(どんな母親だ)。
そして、ライカとリューガの変身システムですが……
ぶっちゃけライダーです、剣です。
電波です、最近遅れながらもはまっているので……。
あ、其れと蛇足ですが……使用済みのカードはリサイクル可能なので、戦闘後ちゃんと回収します。
カードの同時使用数は三枚まで。
保有カード数は今の所未定(不明ではなく)。
――では、今回はこれで。
感想返信と行きます。


>ミアフさん
自分は未だ胎動読んでいないので……。
読んだら出せるかなあ?


>樹影さん
惜しい、残念ッ。
一応、のび太は――“竜に似てたから竜関連の言葉から名付けた”とか言ってましたが、絶対照れ隠しです。
親友の名前から名付けました。
出来杉君ですが――アレレベルとまでは逝きませんが、アレの崇拝者になります。
本人が幸せだろうからそっとしといて上げてください。
静香ちゃんは……マコトクラスまでは逝きません。……ええ辛うじて。
ライカとのタッグは、まだまだ先です。
――今回も如何もでした!


>アレス=アンバーさん
初めまして。
お褒めのお言葉有難う。
さて、ドラグディアの必殺技ですが……当たりです。
元ネタはガオ○イガーです。
カッコいいですよねえ、同じ声優さんもデモンベインに出てますし。
ちなみになんまいだーはのび太がルルに教えました。
スネ夫はまだ未定ですが……ジャイアンは良い目を見ます。
相手役は――秘密。意外な人です。
では、これからも宜しく!


>ひげさん
毎度如何も。
ドラグディアは基本的にのび太とルルだけでも行動可能ですが、動力系統に欠陥があり、五分と活動限界が設定されています。
邪神の欠片であるくするの魔力を供給させる事で動力炉が活性化し、デモンベイン並の力を発揮します。
のび太の運命は……悲惨とだけ言っておきましょう。
何せ、やってくる災いがアレですから。


>アクセスさん
ドラえもん巨大化バージョン……いいかも(ナニィ!?)


>猫のブルースさん
長編です。
活躍する場面は余りありませんが、最終決戦ではキーパーソンとして活躍が。
有難う御座いました。


>kntさん
其れは言わないお約束で(汗)。
決めポーズ……思いつかなひ。
ちなみに自分は、某イスカリオテの神父さんをイメージしていました。
ルルイエと海底の関係ですが、ムー・アトランティス両連邦はルルイエの存在する海域を呪われた地と恐れ、一切の接触を禁じています。アトランティスが滅んだ後も、其れは変わっていません。
海底人は海底都市ルルイエの事を聞かれると、青ざめて何も言いません。遺伝子レベルで恐怖が刷り込まれているのです。
海底人に作られたポセイドンも同様です。
――まあルルとくするは良い子ですから、そう警戒される事も無いでしょうが。


>皇 翠輝さん
何時も如何もです。
予想的中……やっぱ安直だったかなあ?
次回登場予定は――銃。これに尽きます。
では、次回も宜しく!


>剣さん
此方も毎度如何もです。
いえいえ、お気になさらず。
よく私もミスりますので。
誤字の方は……すいませんでした。
ヘルメットのデザインは大方同じですが、色は銀と蒼の塗り分けです。
後、blue foxには魔力制御による反重力推進機関が組み込まれています。ウエストの自信作です。
では、次回で!


>放浪の道化師さん
何時も有難うです。
現在、静香の獲物はくするにシフト。
のび太、幸運なのか哀れなのか。
人外だけではなく、ちゃんと人間にも好かれていますよ。
異星人とか海底人とか地底人とか天上人とか平行世界の人間とか。
……あれ?


>なまけものさん
お褒め戴き有難う御座います!
なまけものさんも凄いです。
アル風の言い回しが素敵過ぎます!
ちなみにくするはちゃんと成長します。
――ある程度成長したら、姿が固定されるか、自由に変えられるようになると思うけど。
Doel Chantsは俗に“ドール讃歌”と呼ばれる謎の魔導書です。
ちなみに、ギガゾンビのアレは鬼械神ではなく、魔力の泥土より創生した暴走形態です。
故に理性も何もありません。
予想、当たりです(にやり)。
果たして誰かな?


>零時迷子さん
未だ残っていますが、他の秘密道具は残っていません。
自分もフォボス考えていました。
ギガゾンビの理性が無くなったので、彼の眷属たる今回のツチダマも喋れません。
――今回も有難う御座いました。


>黒覆面(赤)さん
其処まで絶賛されると、滅茶苦茶嬉しいです。
実際、ネタとかそういう事は自分でも否定しきれなひ……。
次回も宜しくお願いします!


>ATK51さん
初めまして。
はっきり言って、この組み合わせは勢いで決めました。
大量虐殺は確かに鬼門です。どうすれば……(考えていないのか!?)。
――自分も、考えた当初其れを思い出しました。
後、ドラグディアは基本的に装備追加のみでそういうパワーアップは考えていません。
その代わり、デモンベインが……(ネタバレにつき削除)。
ライカは経緯が違いますが、この世界でも改造人間なので、活躍するでしょう。
今回弟の方が目立ってましたけど。
……そのネタは、余り知りません。すいません。
ベレー帽の善神……確かに、あの御方なら漫画の神様についで神格化されでしょう。


>鈴音さん
初めまして。
くするは前回の最終決戦時、ドラグディアに搭乗。
以後、彼女はドラグディアの動力系統を担っています。
ドラグディアはのび太だけではなく、ルルとくするにとっても最高の戦友。
ちなみにルルとくするは、のび太の思い出話からドラえもんの存在は知っています。
ファンネル……やっと気付いてくれた人が居た。
ええファンネルです、しかもフィンファンネルですとも。
のび太の翼は仮面天使とフィンファンネルのデザインを足して二で割ったようなものだとご想像下さいませ。


>Oguraさん
どうも有り難う。
街の費用は全て覇道財閥が。
故にのび太、爆弾テロ(犯人はバレバレ)に遭いました。
死んでいないからOKです。
――次回も宜しく!!


――では皆々様、次回にて又お会いを。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI