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▽レス始

「霊能生徒 忠お!(HR・エピローグ)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-06-11 20:17/2006-06-12 18:20)
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 浅い眠りの中で見る現は、水鏡越しに覗く水底のように酷く不鮮明で、しかし確かに何かあるのがわかる。
 視覚はない。誰かに抱きかかえられている感触と声。

―――お前はよくやったよ。エヴァちゃんに撃ち勝ったんだ―――

 その声を聞くと限りなく安堵でき、しかし姉とは違い鼓動が早くなる。

―――後のことは俺に任せとけ。ちゃんと解決しておくから。手紙は置いていくぞ―――

 温もりの消える気配。ネギは言いようのない寂しさを覚える。だが声は出ず、ただ離れていこうとする温もりを握り締める。

―――おいおい、エヴァちゃん待たせるわけにはいかねーんだからさ―――

 握った手はそっと離される。その優しい力にネギは抵抗できなかった。迷子になったような不安は、だがそっと撫でられた頭の感触と、優しい声で払われる。

―――大丈夫だ。何かあったらすぐ駆けつけてやるし、仲間もいるだろ―――

 横島さん。
 我知らずこぼれた声。気配は少し動揺したようだが、すぐに落ち着く。

―――お前は頭がいいから心配ないと思うけど…俺みたいになるなよ、ネギ―――

 その言葉と、ぬくもりが消えたことを感じると、そのままネギの意識は、深い眠りの中へ沈んでいった。


 霊能生徒 忠お! HR 〜タダオのオは終わりのオ?〜


「…ありゃ?俺っちはいってぇ…」

 最初に目を覚ましたのはカモだった。時計は四時。外はだんだんと明るくなり始めた頃。
 二、三回ほど瞬きをして、意識を失う直前の記憶を取り戻す。
 ネギがエヴァンジェリンとの魔法の撃ち合いに勝って、その瞬間、とても濃い霧が充満して、何かの衝撃を受けて…

「はっ!あ、兄貴!?」

 カモははっとする。そうだ。自分達はエヴァンジェリンと戦っていたのだ。
 兄貴は、アスナの姉さんはどうなったのか?

 慌てて周囲を見渡すと、ネギの姿はすぐ隣にあった。

「むにゃむにゃ…横島さん…」
「あ、兄貴、無事だったんスね!兄貴!」

 寝言を呟くネギを揺するカモ。
 ネギを起こしながら、カモは自分達がロフトに作られたネギの私室にいるということに気付く。アスナと木之香の二段ベッドを見れば、そこには二人の姿もあった。だがアスナの姿はいつものパジャマでなく、エヴァと戦った時の服だった。
 いつもとあまり変わらない朝。だがそれはカモに不安を与えた。エヴァンジェリンは、勝負の行方はどうなったのか?

「ん、んん…ないだい、カモ君…」

 ネギも不機嫌そうな声で体を起し、しかしすぐに目を見開いた。

「あれ!僕、どうして…!?」
「兄貴!大丈夫なのか!?」
「カモ君!ここってアスナさんの部屋だよね!?どうして…あの後、どうなったの!?」
「俺っちにも解かんねーっスよ!
 あ、アスナの姉さんも起してくるぜ!」

 カモはロフトの梯子を器用に降りてアスナのところへ向かう。
 それを見送りながら、ネギはあの後―――エヴァに『雷の暴風』の同時使用を決めた後の記憶を思い出そうとする。だが、エヴァに着弾したのを確認し、急に霧で視界を覆われ、そこで記憶は途絶えている。

(記憶操作を受けた形跡もないし…)

 ネギはもっとよく自分の体を調べてみようと、杖に手を伸ばす。その時、杖の横に置かれたクラス名簿とそれに挟まれた紙を見つけた。

「あれ……コレは………ああっ!?」

 ネギは名簿を開いてその紙をみて驚きの声を上げた。それは手紙だった。

「ど、どうしたんだ、兄貴!?」
「ネギ?何か思い出したの?」

 起きたアスナがカモを肩に乗せて、梯子を上って顔を出す。

「あ、アスナさん!これを見てください!」

 二つ折りにされた手紙を、ネギはアスナに向けて開く。
 ルーズリーフに書かれた手紙の末尾には、横島より、と書かれていた。


『ネギ達へ
 時間がないから結論から書くけど、お前達の勝ちだ。エヴァちゃんと茶々丸も無事に事件は収まった。もうネギの血を狙ったりはしない。事後処理についてはこちらで手を打っておくから心配ない。
 詳しい経緯はエヴァちゃんから聞いてくれ。けれど、ひょっとしたらエヴァちゃんはもう姿を現さないかもしれない。というのも、俺がエヴァちゃんの呪いを解いてみようと思うからだ。方法は詳しく話せないが多分成功するだろうし、そうなればエヴァちゃん達も麻帆良を出て行くと思う。
 ま、そんな感じで吸血鬼事件は終了。お前達が頑張ったおかげだ。
ネギ、アスナちゃん、ついでにカモ。よくやったな。これからも頑張れよ。
 またな!
 横島より』


 読み終わって最初に上がった声はカモの喝采だった。

「よっしゃ!兄貴が勝った!真祖に勝ったんだ!横島の姉さんのお墨付きもあり!
 やったぜ、兄貴!ペットとして鼻が高いぜ!」
「よかったじゃない、ネギ!」
「あ、はい。よかったです」

 枕の上で狂喜乱舞するカモと、ネギの頭を強めに撫でるアスナ。だがそれに対して、ネギの反応は意外と淡白だった。どうしたのかと、アスナの頭を疑問が掠めるが、時計が目に入った瞬間、全て吹っ飛んだ。

「ヤ、ヤバッ!配達遅刻する!」

 アスナは叫ぶとロフトから飛び降りて、手早く服を着替える。

「ネギ!詳しい話は帰ってからね!」
「はい。いってらっしゃい、アスナさん」
「んじゃ、俺っちもオコジョ協会に報告しねーと…!」

 カモもロフトから降りて、オコジョ専用パソコンを開いて報告書を作成しはじめる。
 カタカタという、キーボードの音を聞きながらネギはもう一度、手紙を読み直す。
 あまり綺麗といえない字で書かれた、酷くあっさりした内容の手紙だった。
 だがそのことが、かえって横島と過ごした日々を想起させ、同時に横島がもうここにはいないことを、如実に知らしめる。

「横島さん…」

 ネギは俯いて、小さく名前を呼んでみた。しかし返事は来なかった。

「はい、頑張ります。横島さん」

 やがて、ネギは顔を上げてそう呟いたのだった。


 数時間後、ネギとアスナは昇校口で、エヴァと茶々丸と鉢合わせした。どう声をかけるべきか解からず、2人は立ち尽くす

「まったく…あいつもアホというか、要領が悪いというか。サウザンドマスターとは大違いだ」
「なぜ、そこでサウザンドマスターの名前が出てくるのですか?」
「そ、それは…どうでもいいだろ。…ん?」

 エヴァもこちらに気付き、足を止めた。思わずネギ達は身構えるが

「フン…行くぞ」

 エヴァは不機嫌そうに無視して通り過ぎようとする。どうやらネギに危害を加えないというのは本当らしい。ネギの肩の上で恐怖と緊張で固まっていたカモが力を抜き

「ま、待ってください!」

 だが、再びカモは固まる。理由はネギがエヴァに声をかけたからだ。
 少しの間をおいて、エヴァはネギに振り向く。

「なんだ?」
「あ、あの…昨日は…僕が気絶した後はどうなったんですか?」

 ネギの質問に苦虫を潰したような顔をする。

「……ボーヤの勝ちだ。それ以上、何の質問がある」
「それは、どういう経緯で…」
「敗者の口からそれを語らせるとは、いい趣味だな、えぇ?先生?」
「ちょ、ちょっと!もうネギをいじめないんじゃなかったの!?」

 厳しい目でネギを睨むエヴァに向けて、アスナも声を上げる。だがその言葉の内容に、エヴァは訝しげな顔をする。

「私がボーヤに手を出さないということを、どこで知った?」
「横島さんの置手紙よ」
「置手紙?」

 その言葉の意味を考えるエヴァ。
 ネギと横島が最後に接触したのは、自分と決戦をする前。しかし置手紙という形でネギ達が、自分と横島の間で交わされた約束を知っているということは…。

「そうか…あいつ………!勝負する前から…!」

 横島が、自分と戦って確実に勝てると踏んでその内容に沿って置手紙をかいていた。その事実に、エヴァは流石に怒り心頭となる。だが実際、敗れてしまった以上反論は出来ない。
 エヴァは憤懣を小さいため息にして吐き出して、冷静さを取り戻す。

「その置手紙に、勝負がどうなったかはエヴァンジェリンさんに聞け、って書かれていたので…」
「…行くぞ、茶々丸」
「はい。失礼します、ネギ先生、神楽坂さん」

 ネギがもう一度質問するが、エヴァは無視して茶々丸を連れたって校内に入って行き

「そんなに…」

だが一顧して、肩越しに付け加える。

「そんなに知りたければ、横島に聞けばいいだろう?先に教室に行ってるぞ」
「えっ?」

 ―――先に教室に行っているぞ―――

 それは、エヴァが先に、という意味だったのだろう。だが、どういうわけかネギには、それがどうしても、「エヴァが」という意味には聞こえなくて…

「ちょ、ちょっと、ネギ!?」

 アスナの声を振り切って、ネギは駆け出していた。


「横島さん!?」

 息せき切って教室に入って開口一番、ネギは大声で叫ぶ。生徒達の奇異の視線も気にせずネギは教室を見渡すが、そこには当然、横島の姿はない。

「あ、あれ…」
「あの…ネギ君?」

 呼吸を整えながらそれでも教室を見渡すネギに、まき絵が遠慮がちに声をかける。

「横島さんは、昨日転校しちゃったじゃん。いるわけないよ」
「……!?」

 それは、実に当たり前のことだったが、ネギの心に鋭い痛みを伴って叩きつけられた。
 そう、横島はもういない。
 エヴァの先に行っているというのは、自分が先に言っているという意味以外の何物でもない。それを曲解して、ありえない希望にすがって…。

 横島さんはもういないのに。

「は、ははは…そうですよね」

 ネギは笑顔を浮かべた。だがそれは無理矢理に浮かべたと解かるほど、痛々しい愛想笑いだった。
 それをみて、まき絵達が気遣わしげに声をかけてくる。

「あの、ネギ君?そんな落ち込まなくても…、ほ、ホラ!手紙とか書けばい――――」

 と、その励ましの言葉は途中で止まる。
 ネギは不審に思ってまき絵の顔を見る。すると彼女は自分の方を向いたまま、驚きの表情を浮かべている。

「どうしたんですか?」

 と周りの生徒を見てみると、やはり彼女達も自分のほうを向いて一様に驚きの表情を浮かべている。
 だが、ネギは気付いた。彼女達は自分ではなく、そのすぐ後ろを見ている事に。

「おい、そこに立ってると邪魔になるぞ?」

 背後からかけられた声に、ネギは驚き振り返る。
 そんな…!そんなはずがない!だってこの人は…!

 ムニュンv

「うわっぷ?」

 振り向いたネギの顔にやわらかい感触が当たり、視界が遮られる。
 軽い混乱に陥るネギだったが

「って、人の胸に何してやがる、コラ!?」
「うわあぁ!?」

 次の瞬間には後ろ襟をつかまれて、ネコのように宙吊りにされる。
 宙吊りにされたネギは、自分が顔を埋めた弾力の正体が女性の胸であり、今はその胸の持ち主に吊るされているということを知る。
 その持ち主の顔が目の前に会った。
 整った、しかし大きい目が近寄りがたさを中和した…

「よ…」

 黒尾羽のような黒いロングヘアの…

「よ…!」

バンダナを巻いた美女。

「横島さん!?」


《召》《喚》

「ヒャァァァァァァァァァクメェェェェェェェェェェッ!」
「うわわわっ!な、何!?火事なのね?地震なのね!?」

 再び忠緒になってしまった横島は、即座に文珠を二つ使って、覗きを専門とした神を召喚する。

「って、覗きが専門って酷いのね!私は査察官という立派なお仕事を…」
「んなこたぁ、どうでもいい!どういうことだコレは!?」

 就寝中だったのか枕を抱えたナイトキャップ装備のヒャクメに、額に青筋を浮かべた横島は詰め寄る。
 起き抜けのヒャクメはたくさんの目を二、三度瞬かせて…

「アレ?横島さん、なんで女の子のままなの?」
「それが聞きたいから呼び出したんだ!どーいうことだよ!?俺はちゃんと一週間麻帆良にいて、ついさっきまで男に戻っていたんだぞ!」
「ま、待つのね。今、調べてあげるのね」

 ヒャクメは自分と一緒に召喚されたカバンを使い、横島の検査を始める。
 その横で、いきなり飛び出てきた存在に、エヴァ達は怪訝そうな顔をしていた。

「横島、なんなんだ?そこのいかにも情けない…ええっと…妖怪は」
「よ、妖怪は酷いのね!私は神様なのね!」
「か、神様ですか!?」
「そ、それは本当かい、横島!?」

 刹那と真名も驚いて横島を見る。頭に電極を付けられた横島は、腕を組みながら。

「微妙だ」
「正真正銘!純度120パーセント!ちゃんとした神様なのねぇぇぇぇぇっ!」

 全ての目から涙を流して、ヒャクメは主張する。
 結局、茶々丸が霊力の種類が神気と判断したことで、他の三人も納得したのだった。

「ううう…。ロボットに保障される神様って言うのも情けないのね…。っと、検査結果が出たのね」
「ホントか!?教えてくれ!どうしてこんなことになったんだ!?」
「ズバリ!横島さんが無理な運動をしたせいなのね」
『……へ?』

 まるで風邪をこじらせたような理由に、横島たちは揃って沈黙する。ヒャクメは、横島の額につけた電極のようなものを取り外しながら続ける。

「なんと言えばいいかしら…。
 まず横島さんは、宴会芸の時の失敗で女の子になったわよね」
「げ…」
『宴会芸?』

 秘密がいきなり暴露され、横島は硬直しエヴァたちは横島に注目する。それをみて、ヒャクメは何となく事情を悟り

「横島さんは、宴会芸で文珠を使った一発芸で女の子になって戻れなくなっちゃったのね」

 笑顔で思いっきり止めをさす。

「ヒャ、ヒャクメ!テメェ…!」
「ホーホッホッホッホ!神様を微妙呼ばわりした罰なのね!」

 高笑いをするヒャクメに霊波刀をお見舞いしようとする横島。だがその両肩をそれぞれ2人の人間につかまれる。振り返った横島を待っていたのは、

「横島、君は…」
「バカですか?」

 美少女2人からの、容赦ゼロパーセントの蔑みの視線。

「や、やめてくれ!そんな目で俺を見ないでくれぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 大地を転げまわる横島。その向こうでは虚ろな目をしたエヴァが膝を抱えながら、茶々丸に慰められていた。

「私は…あんなアホに…あんなアホに…」
「マスター、お気を確かに。マスター」


「…で、無理な運動ってどういうことだ?」
「制限された状況下での無理な霊力の行使、っていう意味なのね」

 何とか現世帰還に成功した横島とエヴァを踏まえて、ヒャクメの説明は再開された。

「呪いとかエンチャントには、自己修復とまではいかなくても、元の形に戻ろうとする機能が付いているのね。横島さんの呪いの場合は、要素が複雑に絡まっていたから、特にその傾向が強かったのよ。お互いの要素が引き合ったり、反発しあったりしてたから。
 だから時間をかけて力を加えて、完璧に除去しようとしていたのね。力技でね。
 けれど横島さんは、そこの吸血鬼の女の子を助けるために、まだ解呪中の呪いを無理矢理に解いたのよ。霊力を限界以上に励起させて」
「わ、私のために?」

 エヴァは横島の横顔を盗み見る。だが横島はヒャクメを向いたまま

「そ、それから、それでどうなったんだ?」

 と真剣な表情で続きを促す。エヴァは自分でも原因が分からない腹立たしさを感じ、少しむくれてから視線をずらした。

「で、無理矢理に解いた呪いは、その時点ではまだ残留していたのね。しかもその前にずいぶんと霊能力を使ってたみたいだから、その余剰分が結構溜まってたのね。それにくわえて、使っちゃったでしょ?万有如意陣」
「あれは別に橋と風呂場の修理と、茶々丸直してエヴァちゃんの呪いを実体化させただけだぞ?それなら文珠でも出来る程度の霊力消費だし、お前だって解呪中は文珠とか使ってもいいって……」
「桁が違うのね。そもそもアレは発動させる時に霊力を使ってるじゃないの。
 横島さんの呪いはいろんな要素が混じっていると言っても、基本は横島さんの文珠。横島さんが術を使うことでエネルギー再充填されて、しかも中途半端に呪いが解けていたものだから解呪のアミュレットも働けなかったのね。で、結局呪いは完全復活、というわけなのね」
「か、完全復活!?途中からコンテニューは!?」
「無理なのね」
「そ!そんな!…アホ、な……」

 気軽に突きつけられた事実に、立ち上がりかけた横島は、急に力を失って倒れる。

「よ、横島!?どうした?」
「大丈夫かね、横島?傷は……深いな」
「お、お気の毒です、横島さん」
「バイタルサインに異常はありません。心因性の疲労かと」
「ま、コレばっかりは仕方ないのね」

 ヒャクメは仰向けに倒れた横島の胸元から、解呪用のアミュレットを取り出す。

「ヒャ、ヒャクメ?一体…」
「とりあえず、今回のことで呪いの形質も多少変わったから、この護符も再調整が必要なのね」
「どのくらい、か、かかるんだ?」
「う〜ん…三日後までには届けれると思うわ」
「みっ!?」

 ただでさえ呪いを解くのに七日、それに付け加え調整に三日。つまり最低でもあと十日はこのままということであり…

「も、もっと早くならんのか、ヒャクメ!?」
「ダメなのね〜。だって私、覗きで忙しいし〜♪」

 召喚直後の扱いへの反撃か、ヒャクメは言いながらトランクに腰をかけた。

「んじゃ、頑張ってね、忠緒ちゃんv」
「ま、待て!」

 待てといわれて待つヒャクメではなく、修復された橋の上から、ヒャクメのパジャマ姿は消えさった。
 虚しい風が一陣吹き抜け―――

オカマはもうイヤァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 横島の悲鳴が川面を揺らした。


 あの後が大変だった。まずは霊力を察知して飛んできた魔法先生達に言い訳。その後、文珠で美神のところに飛んで報告し、ゲチョゲチョに折檻され、その怪我が治った…というか再生が済んだのが明け方。その上で体を引きずり麻帆良に戻って、学園長に頼んで滞在期間を増やしてもらった。それでようやく、教室にたどり着いたというわけだが…

(き、気まずいな…)

 ネギを片手にぶら下げた横島は、クラスメート全員の視線を浴びながら脂汗をかいていた。
 アレだけ盛大に送り出されて、今さら帰ってきましたなどは言い辛いが…

(ええい!侭よ!)

 勢いに任せる決意をした横島は、ネギを脇に下ろすと、まずは風香の席の前に立つ。

「えっと、風香ちゃん。コレ、返すわ」
「へ?あ、うん」

 背負ったリュックから取り出したのは、忍者指南書とホップ体でかかれた鳴滝オリジナルの忍者術の本。
 横島は次々とクラスメート達のところへ向かい、昨日、餞別に貰ったものを返していく。

「超からもらった自動肉まん製造機。図書館組みには本を返して、それから…」

 誰かが疑問を発する前に、横島は教室を縦横無尽に動き回り、次々と貰ったものを返品していく。

「…っと、最後に委員長にはこの胸像を返して」

 最後に一番の大物を委員長に返し、横島は教卓の前に立つ。
 それから、気恥ずかしそうに頬をかいてから、口を開く。

「えっと…なんかいろいろあって、もうしばらく麻帆良に通うことになりました。
 お別れ会してもらってなんだけど…これからもよろしくお願いします!」

 そう言って、横島は思いっきり頭を下げる。

しばらくの沈黙の後、その掠れた声が聞こえてきたのは、窓際最前列の席からだった。

「おかえりなさい」

 みんなが顔を向けると、そこにはさよの姿があった。
 赤い目からぽろぽろと涙を流しながら、聞き取りにくいかすれた声で、しかしはっきりみんなに聞こえる声で、さよはもう一度繰り返した。

「おかえり…な、さい、横島さぁん…ひっく、うえぇぇっ…」

 さよが泣き出し、それと同時に、まるで歓喜の爆発であるかのように、クラスメートが声を揃えて叫んだ。

『おかえり!横島さん!』


「はぁ…はぁ…ネギ、いったい…って、横島さん!?」
「お、あ、アスナちゃんもおはよぐげ!い、痛い痛い痛い!」

 アスナが教室に駆けつけると、そこにはクラスメートにもみくちゃにされている横島の姿があった。鳴滝姉妹やさよが抱きつき、クーフェがなぜか関節技を仕掛けている。

「一体どうして…」
「ま、い、いろいろあったんだよ」

 クーフェの腕を外しながら横島はアスナに返事をする。
 呆然としていたアスナだったが、すぐに小さく笑う。
 理由はどうあれ横島は戻ってきた。あの騒がしくて情けなくて、けれど優しくて頼りになる、たった一週間で大きな存在となった仲間が、戻ってきたのだ。

「ま、いっか。ネギ、よかったわね」

 アスナは、入り口の近くに座っていたネギに声をかける。だが、反応が返ってこない。

「…ネギ?どうしたのよ?」
「…あ、アスナさん」
「あ、じゃないわよ。戻ってきたのよ、横島さんが。もっと嬉しそうな顔しなさいよ」

 呆けた様子のネギに、アスナは軽くキックを入れる。
 ネギはふらりと立ち上がり、改めてクラスメートに囲まれた横島を見る。

「横島さん…」

 そう、横島だ。そこに立って、クラスメートに囲まれ笑っているのは、間違いなく―――

「横島さん!」

 ネギは叫んで、横島に抱きついた。

「おうっ…ね、ネギ?」
「横島さん…横島さぁん!」

 横島に抱きついて、名前を呼ぶネギ。横島は戸惑いながら、ネギの顔を上げさせる。

「…ど、どうしたんだよ?」
「だって…嬉しいんです。まだ、これからも一緒にいれるのが…僕……僕!」

 涙でぐしゃぐしゃなネギの顔を見て、横島は小さく笑う。
 相手がストライクゾーンの女の子じゃないのがちょっと不満だけど

(こういうのも、悪くねぇな)

「ったく、ピーピー泣くなよ。男の子なんだからさ」

 横島は、ネギの頭を撫でながら言う。

「これからもよろしくな、ネギ先生」
「グスッ……ハイ!」

 元気よく答えるネギ。横島はそれを見て笑みを浮かべ

「いつまでネギ先生と抱き合ってるんですか!」

 その顔に、あやかの拳がめり込んだ。

「り゛ぶろぉっ!?」

 横島は奇声を上げて宙を舞う。

「よ、横島さん!?」
「おおっ!」
「んん!いいパンチアル!」

 クラスメートから上がった声は、悲鳴が三割、歓声が七割。
 仁王立ちしたあやかは、床に叩きつけられた横島を指差す。

「横島さん!ネギ先生の愛ゆえに舞い戻ったあなたの心意気、感服しますわ!ですが!神聖な教室で、涙の再会に感動して抱き合うなんてそんな羨まし…じゃなくて、破廉恥な真似は許しませんわ!」
「ってネギへの愛ってなんだ!俺はネギにこれっぽっちも愛なんぞ感じてないぞ!」
「ええっ!?」
「なんでそこでショック受けてんのよ、このマセガキ」

 ネギの頭をグリグリするアスナ。
 その一方で、横島の意図を顧みず、クラス全体はヒートアップする。

「何を仰います!ここに戻ってくる理由に、ネギ先生への愛以外、何があるというのです!?」
「親の都合とかいろいろあるだろ!?」
「よっし!ネギ君を巡るトトカルチョ!横島枠が復活したよ!」
「あ、私、買うで」
「私も…」
「や、やっぱり横島さんもネギせんせーの事を…」
「ううん、ネギ君大人気だv」
「頼むから人の話を聞け!そもそも俺のタイプは!高校生以上のお姉さま系だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「フン。いいザマだ」

 ゆっくりと歩いてきたエヴァは教室の入り口で、女子中学生パワーに翻弄される横島を笑っていた。その後ろで、茶々丸も同じ光景を無表情に見つめている。しかしその視線には、どこか慈しみの情が感じられた。

「皆さん、楽しそうですね」
「…まあ、相手は世界最高の道化師だからな」
「マスターが、呪いが解けてもここに残ることにした理由も、横島さんですか?」
「…別に、他に行く当てもなかっただけだ」

 エヴァはそう言うと、少し頬を染めてから

「いや、少しは横島の存在もあるかもな…」

 小声で言い直したのだった。


 横島忠緒の麻帆良ライフは、まだ終わらないようだった。


 闇の中、一羽の小鳥が飛んでいる。普通の生物なら数刻と持たない害意に充ちた瘴気の風。その中を羽ばたくこの鳥は、消して常世の存在ではない。
 それは死に際にハーピーの放った使い魔だった。
小鳥は、その中でも特に深い闇を纏わり付かせた者の一人の指に止まる。
その指は、たおやかな女のものだった。指の美しさに違わず、指の持ち主も美しかった。艶やかな銀の髪に白い肌。体の曲線は雄の欲求をむき出しにする扇情的なライン。だが、その蟲惑的な姿は文字通り、蟲を惑わす毒花の美

「下らないねぇ」

ギギャァッ

 女はその小鳥を絞め殺した。小鳥の亡骸は青い炎を上げて燃え尽きる。
 その燃えカスが闇に消えたのを眺めてから、指の主は別の闇に問う。

「で、アンタのクローンからの報告はどうなったんだい、ベルゼブル?」
「ああ、届いたところだ」

 問われた闇は人間大のハエの形をしていた。

「ハーピーの奴も義理立てして使い魔を送るとは、可愛いところがあるじゃないか」
「全くの無駄だったがな」

 最後の声は子供。だがその目の中には、歪んだ光が満ちている。デミアンだった。
 実のところ、ハーピーの偵察など、彼らは期待などかけていなかったのだ。ハーピーを囮にして本命のベルゼブルクローンが情報を集める。その手管のおかげで、彼らは十分な情報を得ることが出来た。
 その意味では、ハーピーは期待以上に役に立ったといえる。ただし、捨て駒として。

「で、文珠使いの女は何者なんだい?」
「聞いて驚くなよ、メドーサ……名前は横島忠緒。俺たちが狙っている横島忠夫本人だ!」
「何!……そうか、文珠で化けたのか」
「目的はなんだい?」
「それがなんと、宴会芸で失敗して戻らなくなったんだとよ!」
「………………なんだって?」

 女―――メドーサは自分でも間抜けと思えるような声で問い返した。だが、そんな声を出させた話の方が、はるかに間抜けだった。
 自分を滅ぼし、かつての主であるアシュタロスを滅ぼし、人界最強と呼ばれるようになったあの横島が、よりにもよって宴会芸に失敗して女になったなど。

「しかも、そのせいで力の大半を封じられ、元に戻れなくなっているらしいぜ」
「はぁ?」

 これにはメドーサも開いた口がふさがらなかった。以前からふざけた奴だと思っていたがよもやここまでとは…。
 頭痛を感じて頭を押さえるメドーサ。だが、痛みが治まるまで安静にしているわけには行かなかった。

「理不尽だ……理不尽だ、理不尽だ理不尽だ理不尽だぁぁぁぁぁっ!」

 メドーサの横で、デミアンが暴れ始める。

「落ち着きな!デミアン!」
「落ち着く?落ち着くだと!?出来るものか!
 時給255円の時に俺を滅ぼして、しかもその上、今度は宴会芸で力を失っただと!?
 バカにしやがって!殺す!殺してやる!」

 一しきり叫んで落ち着いたのか、デミアンはようやく静まる。だが、その目に宿る狂気は隠しようがない。その点に関しては、メドーサたちは悪いとは思わなかった。
 ここに集った者たちは、ほとんどが横島に対して恨みを持つ者だ。あのふざけた道化に翻弄され、敗北を与えられた者たち。
 横島を殺す。そのための狂気と殺意は、むしろ誉れだ。

「だが、一時的に力を取り戻すことも出来るらしい。その点は厄介だな。それからもう一つ、気になることがある」
「なんだい?」
「あの千草とか言う魔法使いが、鍵になるとか言っている娘が、横島と同じクラスにいる」

 その言葉に、周囲にいたほかの闇たちもざわめきだす。

「…まさか嗅ぎ付けられたのではないか?」
「それはないわね。魔法使いは霊能力者に頼るより、まず自分達で解決しようとするはずさ。けれど、その兆候は全くない。ばれたとしても、西の魔法使い共が何かちょっかいを出そうとしているってことぐらいだろう。横島は、私達の件とは直接関係ないはずさ」
「だが、このままじゃ横島も確実に京都に来るぜ」

 ベルゼブバの意見に、皆が沈黙するが、

「いいじゃないか」

 その中で、ただ一人、デミアンが口を開いた。

「京都で、計画と一緒に横島を始末してやればいい。手間が省けるってものだ。そうだろ?」

 デミアンは、擬態に使っている子供の顔に、暗い喜びに満ちた歪んだ笑みを浮かべる。
 それを以って、彼らの決断は成った。


 京都で、闇が横島を待ちながら、爪と牙を研ぎ始めた。


 第一部完


あとがき
 投稿地獄から生還した詞連です。間に合ったです、なんとか。とりあえず、第一部はここに完結。こんな落ちになりましたがどうでしょうか?

 ではレス返しを

>皇 翠輝氏

 ある意味、宇宙意思の仕返しかもしれませんね。次回は第二部、いや、その前に外伝でも入れようかな?


>鉄拳28号氏

 折檻のシーンは単調になるので飛ばしました。修学旅行には…ここであえて行かず、ネギ達が並み居る魔族たちとどう戦うかを見るのも楽しいかも(嘘)。
 タロットの予備知識、というより太極図説の知識が必要かもしれません。まあ、解からないなら『とにかくすごいことをやった』とおもって読み飛ばしていただければ結構です。
 ちなみに2〜3万マイトの霊圧です(笑)。ただしこれはフルパワーで、です。

>シヴァやん氏

 意表をつけて嬉しいです。ちなみに復活の条件は、死後それほど時間が経っていない。また霊魂にほとんど損傷がないという、かなりきつい条件です。
 仄暗い光…っていう表現、ありませんかね?ううむ…調べておきます。


>エヌやん氏

はじめまして、詞連いいます。
 某所の頃からですか?ありがとうございます。
 とりあえず、ばれたメンバーはあまり気にしそうにないのでセーフかと。
 修学旅行は、ご期待に沿えるよう頑張ります。


>D,氏

まあ、やったことはどれもこれも文珠でも出来そうなことですし、そもそもアシュ様に修正力が働き始めたのは、かなり大きなことをはじめてからなので、セーフかと判断しました。
 お帰り会ではなくお帰りなさいでお出迎えでした。

>スケベビッチ・オンナスキー氏

 たまにはフルネームでいってみました。そうですかエヴァにくらっと来ましたか。それは何より、私も書いている途中「えっ?エヴァ様にこんなリアクションさせていいの?」的な気持ちにもなりましたが、好感触っぽくてよかったです。
 おぱーい、は引きましたか。ううむ…こういうねたは許容範囲が結構半端なところにあるので難しいですね。まあ、少なくとも、このネタは不快に思われるかたがいたということで、使用を控えようかと思います。
 誤字指摘、ありがとうございます。自分のペースで頑張ります。

>雪龍氏

>そして、抜け道は美神さんの十八番 
 全くです。あの人は付くずくそういうのが好きでしたよね。


>暇学生氏

 気になされたところを飛ばして申し訳ない。
 原因は結構オーソドックスなところを持ってきました。どうでしょうか?


>ふむふむ氏

>強くて、かっこよくて、そして馬鹿な横島君
 実は私、GS最強ものはあまり好きじゃないのです。というのも、最強すぎて世界が無抵抗で、しかも横島が横島じゃないですし。横島は、いくら強くても馬鹿だから横島なんですしね。
 これからも、頑張ります。

>白不動氏

 あ…ごめんなさい。間違ってましたね、枚数。…どうしてこんなミスしたんだろう?修正…っと。
 さて、タロットを使った陰陽術、気に入っていただけたようで何よりです。設定好きとして嬉しいです。


>TA phoenix氏

 ご指摘、ありがとうございます。
 確かに説明が不足な点はありますが、逆に多くなりすぎると、それはそれでストーリーを阻害してしまうんですよね…。ですが確かに今回は、タロットの役割の割りに説明が少なかったかもしれません。次回、タロットを使う時は、バランスを阻害しないような構成を考えさせていただきます。
 今後とも、気になる点がありましたら是非ともご指導ください。よろしくお願いします。


>暴利貸し氏

 毎度毎度申し訳ないです、ありがとうございます。誤字脱字0を目指して頑張ります。
 なお、如意陣ですが、横島は、ポテンシャルはそのままで霊力を使う効率が酷く悪い状態になっています。ですからいくら支援があっても、起動や制御はでいません。
 面白くかつ、不自然でない人間関係を描けるように、頑張って生きたいと思います。


>ikki氏

 おぱーい。パイオツ。ムネ。オッパイ(挨拶)
 カモは14時間目で茶々丸に気絶させられましたので、知っているのは四人です。
 他にもどんどん気付かせていく予定ですが、その面子は秘密ということで。


>ふぁんとむ氏

どうもはじめまして。詞連と申すものであります。
 かっこよかったですか、男横島?まあ、割とギャグを入れにくかったからそうかもしれませんね。エヴァは可愛く書けたようで何よりです。いずれまた男になりますが、今回はこれだけです。


>瓶提示氏

 正直な話、私もクロスや女性化、主人公強化などは嫌いでした。ですがネットをさまよっている内に、それら全てのジャンルで、かなりの名作たちとであり一念発起。いつかそれらの要素を入れて、しかし破綻しない物語を作ろうと考え、ついにネギま×GSにたどり着いたのでした。
 男横島が強すぎなのは、じつは理由があります。3並列や世界干渉は、男のときしか制御できませんし、これは設定ですが後者は、陣の中では術者=創造主=絶対的観測者であるので、自身を改変すると因果律が狂うので、不可能です。長くなるのでこの辺で。

>わーくん氏

 エヴァが凶悪なまでに可愛くかけたようでよかったです。第二部はご期待に沿えるよう練に練って、しかし忘れられたりしないよう、なるべく早く出す予定です。


レス返し終了
 第二部はどんなに遅くても8月に入るまでにはスタートしたいと思っています。
 さてと…その前にテストかぁ。
 勉強しながら、ノートの端にでもネタを書き込んでいく予定です。
 最後に、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。第二部も、皆さんに楽しんでいただけるよう、誠心誠意取り組む所存です。では…

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