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!警告!女女の絡み有り
15禁注意

「幻想砕きの剣 9-4(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-05-31 20:21/2006-06-01 22:14)
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******************************

 最後の方で未亜が洒落にならない壊れ方をしています。  

 Sを通り越して最早犯罪者です。            

 不快な思いをしそうな方は、***の間は読まない事を  
 お勧めします。                    

 細部までは書いていませんが、18注意をつけるべきかも。 

 医者は何処だ(主に精神科医を希望)          

 銀八先生、未亜も精神病院に放り込んでいいですか(神〔SIN〕様へ)  
******************************


9日目 大河・ユカ 夜


「うっ…くぅ…」


「…無理に声を押し殺さなくてもいいぞ?」


「……(フルフル)」


 戦闘の後、大河はユカの私室を訪れていた。
 目的は多感症の治療。
 今回の戦いで、ユカは苛立ちに任せて氣功術を物凄い勢いで使っていた。
 その分戦闘力は上がっていたが、後遺症も酷い。

 駐留地に帰るなり逃げるように自室に篭ったユカを追いかけ、報告も適当に切り上げて来たのだ。
 やって来た大河を、少々不機嫌な目で見詰めるユカ。
 しかし、大河としてはそういう視線を向けられる理由が思い当たらない。

 多感症の治療のために体に触れる事は、ユカも了承済みである。
 抵抗があっても、承諾したのは自分の意思だ。
 大河を睨みつける理由にはならないし、ユカもそれを後悔している様子はない。
 現に大河が治療に訪れると、頬を染めながらも、「こ、この辺…」とうなじの辺りを差し向けてきた。
 少し服を肌蹴ているので、ブラの紐がちょっと見えたのは秘密だ。
 ヘタに教えると、ユカは羞恥心でオーバーヒートしてしまう可能性がある。


 原因不明だが、とにかく治療をしない事には始まらない。
 掌に衰氣を集め、ユカの体に注ぎ込む。
 氣を注入される感覚というのは、ユカにとっても未経験の感覚だったらしい。
 今まで経験した事のなかった感覚に、ユカは敏感に反応する。
 多感症に陥っている事も手伝って、ユカは体の中を駆け回る刺激を持て余していた。
 声が出そうになるのを、必死に堪えている。

 これがまたエロチックなのである。
 目をぎゅっと閉じ、体を硬直させて口を噤むユカ。
 しかし大河の手が肌にちょっと触れる度に、口からは吐息が漏れ、体は汗ばむ。
 呼吸も徐々に荒くなり、顔色も赤くなっていく。

 大河はまるで抵抗できないユカを陵辱しているような気分になってくる。
 しかも例によってウェイトレス姿。
 流石に襲撃の心配が無い時には普段着でいるが、最低でも陽が落ちるまでは常にウェイトレス姿で居る。
 今日はもう襲撃は無いだろうが、帰って来てすぐだったので、まだ着替えていない。

 はっきり言うが、大河の理性が保たれているのは奇跡である。
 大河の本音は、今すぐにでもユカを押し倒してしまいたい。
 いきなりだと怒るだろうが、少なくとも拒否はされない気がする。

 前にキレそうになった時は、ジャストタイミングで未亜からの通信が入って助かったが…。
 多分、次はもう奇跡は起こらない。
 次に理性の限界が来れば、オシオキ覚悟でユカを貫いてしまうだろう。
 大河もどうにかせねばと思っているのだが、治療をしない訳にもいかず、八方塞がりの状況である。


「くっ………んんぅ…っは、あぅ!」


「…だから、素直に声を出せって。
 辛いだけだぞ?」


「そっ、そんな、恥ずかしいコト…ああ!」


 ついつい陵辱風味になってしまう大河。
 ユカも案外ノリがいい。
 地ではあるだろうが。

 別に女性器に触れているのではない。
 特に感度が良いとも思えない、腕の辺りに手を添えているだけである。
 それだけても、今のユカには結構な刺激になるらしい。


 必死で声を堪えるユカ。
 そうしている間に、少しずつだが多感症は収まってきた。
 少々名残惜しい大河だったが、成り行き上極力紳士として振舞おうとしているので、抵抗する右手をどうにか引いた。


「…終わり?」


「ああ。
 あっさり治せなくてごめんな」


「…それだけ?」


「へ?」


「……ふん」


 拗ねてそっぽを向くユカ。
 仕草は可愛らしいが、感情の動きがキャラに合っていない気がする。

 何を求めているのか理解できず、大河は取り敢えずこの場を去ろうとした。
 が、ここで大人しく引き下がっては、ユカが何に怒っているのか理解できまい。
 殴られるのを覚悟で、ユカとの時間をもう少し続ける事にした。


「あ、えーと…ユカ。
 氣功術の事で、何か聞きたい事とか…あるか?」


「…ある。
 あるけど、今は出て行って」


 やはり怒っているのか。
 目を合わせずに無愛想なユカ。
 顔はまだ赤いが、色っぽくてもこの場合はあまり救いにならなかった。

 大河は何とか食い下がろうとする。


「今はって、だったら何時教えればいいんだよ」


「…いいから出て行って!
 教えてくれるのは、私服に着替えてからでいいよ!」


「あ…す、スマン…」


 ちょっと慌てて出て行く大河。
 しかし、本当に機嫌が悪い。
 何かしらご機嫌取りをしないと、ロクに会話も出来そうにない。


「どうにかしなくちゃな…。
 ………氣功術って、確か慣れてても結構な負担が体にかかるんだよな。
 よし、体力回復の為の神水でも作ってやるか」


 かつて学園の地下でリリィに使い、未亜達にも一つずつ持たせた神水。
 原材料がアシュタロスの魔力というのが少々恐ろしいが、リポ○タンDよりも効果があるのは実証済みである。
 その性質上、魔力を篭める水は極力不純物を含まないのが望ましい。
 ジュースのように味を付けられないのが残念だ。
 まぁ、その分飲んだ時の爽快感は結構なものがあるが。


「これで機嫌が治るかはともかく、ユカの体にも疲れが溜まってきてるだろうしな…。
 とにかく飲ませておくか」


 そうと決まれば、早いところ作ってしまおう。
 大河は一旦自室に戻り、支給されていた水筒を手にする。
 何でそんな物を支給するのか、と言われそうだが、例えば戦場で敵を待ち伏せする時、また重装備で長い距離を進軍する時、水分補給は必須である。

 大河は食堂にある水道で水を貯め、また自室へ戻ってくる。
 そして扉を閉めると、懐から封筒を取り出した。


「……まだ結構な量が残ってるな…。
 神水を作るのには、かなりの魔力を使う筈なんだが…。
 まぁ、元の量が量だしな」


 欠片程度とはいえ魔神の魔力である。
 欠片と言ってもそれは魔神…アシュタロスの基準で、人間から見れば莫大な魔力である。
 ちまちま神水を作っていた所で、そう簡単に無くなる筈が無い。


「有効な武器ではあるんだが、使い所と保管場所がなぁ…」


 ある意味爆弾を持ち歩いているようなものである。
 普段は意識しないでいられるが、一度意識するととても恐ろしくなってくる。
 しかし、一度に使いきるのは不可能と言っていい。
 大河の連結魔術は変換レートを意図的に低くする事も出来るが、それにしたって限界はある。
 仮に何の細工もせずに爆裂四散させようものなら、山が2つ3つ消える事は請け合いだ。


「湖とかダムの水を、丸ごと神水に変えられれば結構な消費になるんだが…」


 そんな事をしたら、付近の住民の飲み水風呂に使う水食器を洗う水トイレで流す水、その他諸々神水になってしまうだろう。
 体に含まなければ問題ないが、効果が効果だ。
 水を一杯飲む毎に体力が全快していては、体のリズムも狂うだろう。
 ついでに言うと、その水を飲み水にしている野生の獣達も何かしらの影響を受ける。
 湖に住んでいる魚達など、エライコトになるのが請合いだ。
 ヘタをすると、メダカがサメより大きく成長してしまうかもしれない。


「さて、とにもかくにも神水神水…ユカのご機嫌取りと回復な」


 慣れた手順で魔力を吹き込み、水筒の中の水を神水に変えた。
 一応自分でも少し飲んでみたが、特に問題は無い。

 時間も充分経ったし、そろそろユカの所に向かう事にする。


「…考えてみりゃ、セルとかにも渡してやればよかったな」


 水筒を片手に歩く大河。
 その反対側から、ドムが歩いてきた。


「む、大河か」


「あ、ドム将軍…」


 敬礼する大河。
 やり方は微妙に違うが、ドムの目から見ても結構様になっている。
 まぁ、それはいいとして。


「こんな時間に何処に行く?
 …水筒を持って」


「ちょっとユカの所に…」


「…まさかその水筒、酒か?」


「…飲めるんですか、ユカは?」


「知らん。
 が、下戸でも全く違和感は無い」


「同感ですね…。
 これは酒じゃなくて…ハーブみたいな物です。
 効き目は段違いですけど」


「ほう、連日の疲れを労おうというのか」


 ドムは少々感心した。
 女と見れば、状況を放り出して口説きにかかるのでは無いようだ。


「それにしても大河、一騎当千の活躍だな。
 お蔭で楽をさせてもらっている」


「…それが気に入らないのでは?」


「解かるか?」


「いや、セルが言ってたんですけどね」


 何時の間にか、大河はドムに敬語を使うようになっている。
 それはともかくとして、ドムはセルが気付いたというのを聞いて片方の眉を上げた。


「セルビウムが…。
 何と言っていた?」


「まるで何かを探っているようだ、って言ってました。
 それに、ホワイトカーパスの魔物全てを統率する何かが居るんじゃないかって」


「ほぉ…意外と戦略的な視点も持っているようだな。
 大河、確かにその通りだ。
 これは極秘なのだが…お前は既に知っているようだし、話してもいいだろう」


 ドムは声を潜める。
 大河もそれに釣られて引き込まれた。


「実は、例のタイラー発案の極秘作戦…近日中に行なう事となった。
 本来はもう少し早く発動させる予定だったのだが、工場の方で揉めたらしくてな。
 聞いた話では、お前の妹が解決したそうだぞ」


「…未亜が?」


「ああ。
 詳しい事は俺も知らないが…。
 何やら企業の幹部の令嬢だか何だかを丸め込んだとか」


 大河は直感する。
 企業のトップともあろう者が、例え“破滅”が間近に迫っていようとも感情論に動かされるとは考えにくい。
 かと言って、理詰めでどうにかするのは更に至難の業だろう。
 となると…。


(…未亜の事だ……手篭めにしやがったな?)


 大河が遠く離れた地で浮気したのだ。
 八つ当たりが誰かに向かってもおかしくない。
 誰だか知らない生贄に、大河は深く詫びた。


「しかし…そうなると、色々と忙しくなりますね」


「ああ、デスクワークが一層厳しくなってな…。
 ちょっと体を動かそうと思っていたところだ」


「…整体の効果があるかは解かりませんけど、これどうぞ」


 大河は神水を一杯注いでドムに渡す。
 ドムは渡された水を見たが、特に何かがあるようには見えない。


「これは?」


「強い魔力を宿した水ですよ。
 活力が沸いてきます。
 まぁ、あんまり長く使い続けていると睡眠不足とかになりますけど」


「ほぅ…。
 ありがたく頂こう」


 グイッと煽るドム。
 気軽に飲んだドムだが、次の瞬間には目を見開いた。
 体中を軽くだが苛んでいた脱力感や凝りが、みるみる内に消えていったのである。


「こ、これは…!」


「よく効くでしょ?
 一応自家製です」


「これほどの水を作るとは…一体どうやって」


「…一滴一滴、真心を込めて見詰めました」


「それだけでこうなったら、ドモホル○リンクルの立場はどうなる!?
 ……いや、作り方は聞くまい。
 それよりも、これはもっと作れるのか?」


 ドムの目が真剣になっている。
 確かに、これを量産できれば軍事的な価値は計り知れないだろう。
 負傷はともかく、無限の体力を持った軍隊を創り出す事が出来る。


「一応聞いておきますが…どうする気ですか?
 “破滅”と戦うならともかく、その後は軍に協力する気はないですよ」


「構わん。
 そもそも、こんな物を世間に出せば“破滅”などよりもずっと厄介な戦争が巻き起こるのは目に見えている。
 俺は戦いに血が騒ぐ性分だが、徒に乱をもたらそうとは思わぬ。
 アザリン陛下も、決して戦は望まぬしな…。
 必要とあらばご命令されるであろうが、そうなる前に先んじて行動するのが、我々の平時での役目。
 事が済んだら、綺麗サッパリ忘れ去るさ。
 使用するにも、それなりの対策を持って当たる」


「…信用してますよ。
 確認しただけです。

 作ろうと思えば、かなりの量を作れますけど…。
 ただし、一括でしか作れません。
 チマチマ作っていると、トータルで作れる量が返って減ります」


「最大で…どのくらいだ?」


「……現状では…水の量だけ、ですかね」


 それを聞いてドムは考えこんだ。
 大河が今までこの水の存在を明らかにしなかったのも道理で、一歩間違えれば大変な事になる。
 だが、今は一歩も間違えなくても“破滅”が迫っているのだ。
 まるで麻薬や覚せい剤を使うようで気が引けるが…。


「習慣性や後遺症は無いのだな?」


「あったら使いませんよ」


「……後日、大量に作ってもらう事になるかもしれん。
 協力できるか?」


 大河は無言で頷いた。
 ドムは決して約定を違えまい。
 なら協力するのも吝かではない。


「…感謝する。
 これで最大の問題が解決できた。
 それでは、俺はもう行くぞ」


「ご苦労様です」


 一つ頷いて、ドムは去って行った。
 大河はその後姿を見送り、何気なく時計に目をやる。


「ゲッ!」


 2時間くらい過ぎていた。
 待っているユカはお冠だろう。
 ヘタをすると、氣功術の実験台にされるかもしれない。


 ユカの部屋にダッシュで来た大河。
 ノックも忘れて、いきなり扉を開けた。


「すまん、遅くなった……って、何やってるんだ?」


「…大した事じゃないよ」


 相変わらずの仏頂面で、ユカは何故か白のオーバーニーを摘んでいた。
 先程までユカが履いていた、出す所に出せば骨肉の争いが起きそうな一品だ。


「最近暑くなって来たし…。
 スネ当てとかを隠すために履いてたんだけど、それももう限界かなーって…。
 そろそろ仕舞おうかと思ってたんだ。
 …でも、これのお蔭で足の擦過傷が少なくなってるのも事実なんだよね」


「ビジュアル的には、どっちもオイシイんだけどな…。
 この辺に毒のある草花とか無いよな?
 外してても実用的には問題ないんじゃないのか?」


「それでも雑菌があるよ…。
 もうちょっと履いてようかなぁ…。
 でも、蒸れると匂いが…「是非もう暫く履いてください」な、何で!?」


「すまん、ちょっと煩悩が口を勝手に動かして…。
 まぁ、落ち着く方にすればいいんじゃないか?」


「…そうだね。
 じゃ、履かずにもう仕舞うよ。
 お店の制服には指定されてなかったしね」


 基準はソコか。
 それはともかく、後で洗濯しようとユカはニーソックスを畳んだ。
 それほど強くないが、匂いが漂わないように籠に放り込む。


「さて、それじゃ勉強にしようか。
 …ところで、その水筒は?」


「これ?
 ハーブみたいな物だよ。
 ちょっと飲んでみて」


「?」


 コポコポと注がれた水を見詰めるユカ。
 微妙に怪しんでいるようだ。
 水自体には、何も怪しい所など見えないが…ユカには別の物が見えているらしい。


「大河君…なんかこの水、妙にプレッシャーを放ってるんだけど」


「どんな水だよそれは…キングスライムでもなきゃそんなの放たないぞ。
 魔力がたっぷり篭められてるから、それのせいじゃないのか?
 体力回復のための魔力なんだけど…疲れてるだろうしな」


「ふーん…。
 ありがとう…。
 でも、そんなに疲れてないよ?」


「氣功術の反動を甘くみちゃいかんな。
 俺の知り合いにも似たようなのを使える連中が居るんだけど、こういうのは自覚できる疲労と出来ない疲労があって、後者は徐々に蓄積していくんだそうだ。
 細かい理屈は飛ばすけど、筋肉とかの疲れは氣功術の影響である程度直せる。
 でも、体を蝕む…なんというか、体の芯の…歪み?
 そんなのは自覚できないし、体が活性化している時は返って気付かないんだとさ。
 それに、筋肉細胞とか自体に負担が蓄積していったりな」


「そんなものかな?
 じゃ、いただきまーす」


 ちょっと口をつけて、そのまま一気に飲む。
 薬湯でも飲んでいる気分なのだろう。
 味云々よりも、薬品自体が苦手なのかもしれない。


「……?
 ………!
 よ、よく効くねこれ…。
 体の疲れが吹き飛んでいく感じがするよ!」


「皆さん同じリアクションをなさいます。
 味も悪くないだろ?」


「うん、スカっとする。
 これ、何処から持ってきたの?」


「俺の手作り。
 多分他所では入手できないぜ」


「大河君が!?」


 よくよく考えてみれば、似合わない特技である。
 しかしユカはそれを口に出さない。


「あんまり頻繁には使えないけどな。
 ま、ご苦労様って事で」


「うん…。
 それじゃ、スッキリした事だし始めようか!」


 大河はユカが不機嫌だった理由が気になったが、今から蒸し返しても仕方ない。
 ご機嫌取りも上手く行ったようだし、大人しくユカに付き合う事にした。

 大河は思う。
 ユカは本当に物覚えが早い。
 細かい事を考えるのは苦手らしいが、一度体験した事は素直に覚えていく。
 このままだと、数日中に基本的な事は教えられるだろう。
 そして、その先の技術を教える術を大河は持っていない。
 基礎は連結魔術と似ているので教えられるが、応用編には手が出せない。


「……」


「ん? 大河君、どうかした?」


「いや…ちょっと気が散ってな…」


「?」


 大河の理性がキレかけている。
 既に日は沈み、兵士達も交代で急速を取る頃。
 ユカの部屋を訪れる者は、恐らく誰も居ない。
 セルは何やら傭兵科生徒達に用事があるらしく、ドムとアザリンは仕事。
 今何か起きても、多分誰にもばれない。

 しかも、今のユカはウェイトレス姿ではない。
 多少は耐性が出来かけていた大河にとって、これは致命的とも言えた。
 寝巻きも兼用するのか、ユカの私服は極端にラフである。

 ズボンの丈は短いし、上半身に至ってはシャツ一枚だ。
 あまつさえヘソ出し。
 何よりも谷間が見える。
 状況を鑑みれば、誘っているとしか思えない。

 ユカが大河の講義を聞いてコクコク頷く度に、無防備なキョヌーが密やかに揺れる。
 それはもう、漢でも男でも男の子でも泣いて喜ぶべきシーンであった。
 大河も例に漏れず心の中で号泣しながら、ユカに向けて講義を続ける。


「っと、今日の所はここまでだな。
 何か質問は?」


「…細かい公式を覚えなくても体得できる方法って無い?」


「体で実感すれば覚えられると思うが」


 理性が切れる前に、大河はとにかく退散しようとする。
 未亜達のオシオキ覚悟でユカと懇ろになるのは構わないが、やはり浮気のようで気が引ける。
 なし崩しに関係を深めるなど、大河のプライドとか倫理観が許さない。
 無理矢理ヤるにしても、最低限相手が受け入れる状況で。


「んー、結局実験あるのみなんだよね」


「でも失敗したら、また俺に治療を受けなきゃならんぞ」


「…それは色々とフクザツだなぁ…」


 ブツブツ呟きながらも、ユカは正座して何時の間にか出していたお茶を入れる。
 何処から入手したのか、緑茶のようだ。
 流石はアヴァター、存在する飲食物に節操が無い。


「お、手馴れてるな」


「そう?
 ま、お茶とか好きだからね。
 茶道は面倒だからキライだけど」


「あはは、冗談半分でやれってんならまだしもなぁ…」


 この2人の感性からすれば、好き好んでお堅い雰囲気の中でお茶を飲もうなど、狂気の沙汰と大差ない。
 茶を一杯飲むだけで、どうしてそこまで畏まらねばならないのかと言いたい。
 まぁ、反論はその道を嗜む人達が各々にやってもらうとして。


「お煎餅あるよ。
 羊羹とどっちがいい?」


「煎餅で。
 しかし、どこから持ってきたんだ?」


「んー、ちょっと前に従兄弟の友達が結婚式してさ。
 ボクも付き合いで出たんだけど、その帰りに貰ってきたんだ。
 綺麗だったなぁ、花嫁さん…」


 やはり結婚式は和式だったのだろうか?
 アヴァターには色々な文化形態が入り混じっているようだが、和式や洋式、インド式にどっかの未開部族の婚姻の儀があっても不思議ではない。


「花嫁ねぇ…。
 ユカもやっぱりそういうの着てみたいんだな」


「そりゃそうだよ。
 ボクだって女の子だもん」


「男としては、結婚のためでもフォーマルスーツなんぞ窮屈で仕方ないんだがなぁ…。
 いや、俺は結婚なんかした事ないから単なる想像だけど」


 大河はふと思う。
 今後、結婚式なぞやる事があるのだろうか。
 未亜は一応義妹だから結婚できない事はないだろうが、やはり難しいだろう。
 …そう言えば、アヴァターの戸籍はどうなっているのだろうか?
 ひょっとして、完全に血縁者として登録されているかもしれない。

 未亜以外と結婚したとしても、これはこれで門が立つだろう。
 誰か一人と結婚すれば、それだけで大河の周囲は荒れに荒れる。
 かといって本当にハーレムを作れば、例え救世主として扱われていても厄介毎は避けられないだろう。
 揉め事くらいなら覚悟の上だが、それによって現れる弊害がバカにならない。

 先の事とは言え、いつかは考えなければならない問題だ。
 虚空を見る大河を放っておいて、ユカは少々トリップしていた。


「何時かはボクも着るんだよね…。
 行き遅れにはなりたくないし。
 でも、和式かな?
 洋式かな?
 うーん、ウェディングドレスもいいけど白無垢も捨てがたいよね。
 他にも色々な婚礼衣装があるけど…。
 どれも一度に出来ないかなぁ…。
 お色直しもあるんだし。

 ねぇ大河君、結婚式は何式がいい?」


「え?
 あ、あぁ…俺は特に拘りは無いけど…」


「そういう無頓着で無関心なのは感心しないぞ。
 一生に一度の事なんだからさー」


 再婚とか重婚を考えると、あながち一度でもないかもしれない。
 が、ここでそれを言うのは無粋というものだろう。


「あきらも憧れてたみたいだしなー」


「あきら?」


「ボクの従兄弟だよ。
 さっき言った結婚した人の同僚。
 …そういえば、結婚相手の人は地底人がどうのと言ってたね?

 昔からよくソックリだって言われるんだ。
 流派は違うけど空手をやってる。
 …まぁ、“破滅”のモンスターと戦えるほど強くはないけどね。
 昔から欲しい物とかが重なって、よく取り合いしたっけなぁ…。
 意外と今も、同じ人を好きになったりしてね」


「…その好きな人って…」


 先日のキスを思い出す大河。
 ユカも思い出したのか、顔を赤らめてそっぽを向いた。


「ボ、ボクは誠実な人が好きなの。
 浮気者とか二股三股な人は…」


「…そこで言葉を濁して、キライと言い切れないんだな」


「う…」


 単純というか、つくづく正直な少女である。
 未だにユカが自分に好意を持っている理由が解からない大河だが、流石に好意自体には気付く。

 あきらは大河から目を逸らしたまま、大河も何を言えばいいのか判断に迷う。
 手を出す訳にもいかないし…否、想いに答えるというべきか。
 かと言って無視も出来ない。
 さらにユカの好意を断るという選択肢は大河本人が拒否する。
 我侭と言えば単なる我侭…というか、ハッキリ言って贅沢すぎる悩みだ。
 いい加減時守も、しっと団に入るべきかと思うようになってきた。
 まぁ、入ったら人間関係とか色々と考えなければならないので思うだけだが。


「…と、ところで…そのあきらって娘はどうしてるんだ?」


「え? あ、あぁ…今はもう避難してるはずだよ。
 王都の方にに行くって聞いたけど…どの辺りに居るのまでかは」


「そっか…。
 じゃあ、向こうに行ったら会えるかもな」


「む…ひょっとして、あきらに興味がある?」


 ユカが少し不機嫌になった。
 従兄弟とは言え、自分の前で他の女性に気を取られたからだろう。
 自分よりも前に深い仲になっている救世主候補生達は仕方ないと我慢できるが…。


「まぁ、ユカにそっくりってくらいだからカワイイんだろうしな」


「…ちょっとフクザツだけど…ありがと」


 一応機嫌を治す。
 それから何やら思い出したのか、ユカは昔を思い出してブツブツ呟いていた。
 大河は時計を見る。


「あーユカ、俺はそろそろ戻って寝るよ」


「えっ!?
 あ、うん…おやすみ」


「ああ、お休み」


 大河は立ち上がって、極力平静を装って部屋から出て行った。
 ユカはそれを黙って見送る。

 瞳の中に、物憂げな光が揺れていた。
 そしてボソリと呟く。


「…それだけ?」


 暫くボーッとしていたが、ふと我に帰る。


「な、何考えてるんだよ…。
 やっぱりボクって…。
 でも、元はといえば大河君が…」


 またブツブツ呟き葛藤しだした。
 何やら不満に思っているようだ。

 ユカは暫くそうしていたが、思い切り首を振って葛藤を振り払う。


「はぁ…冷たいシャワーでも浴びて、頭を冷やして寝よ…。
 風邪引かないようにしないと…」


 しかしその夜、ユカはあまり眠れなかったらしい。
 夜遅くまで寝返りの音が響いていたが、それを聞いていた者は誰もいなかった。


ちょっと時間を戻して、8日目 夕方  未亜のハーレムチーム


 未亜のハーレムチーム


「…で、大河君が浮気してるって?
 もう、キカン坊ねぇあの子は…」


「…捻り鉢巻、気に入ったんですか? ダリア先生」


 仕事に一区切りついたのか、ダリアは食堂にやってきている。
 未亜とリリィが作り、リコも初心者ながら挑戦した料理に舌鼓を打ちながら話している。
 ちなみに、現在食堂には他の人は居ない。
 洞窟の中だし、時間を計るのはその辺にかけられている時計と、胃袋という体内時計のみである。
 個人個人の判断で食事をしに来るので、今のように誰も居ない時間も珍しくない。


「それにしても、似合ってるわよ〜♪
 未亜ちゃん達のエプロン姿」


「えへへ、アヴァターに来るまでは毎日着てましたからね」


「右に同じく」


「…私は初めて着るのですが…似合う似合わない以前に、子供がお母さんのお手伝いをしているようにしか見えません…我ながら」


「役割的にもその程度よね」


 リリィの容赦ない一言。
 これでも頑張ったのに。
 …主に摘み食いの衝動を抑えるために。

 リコは拗ねてしまったようだ。
 ヤケ食いに走ろうかと思ったようだが、今食べ始めるとまた街まで買出しに行かねばなるまい。
 仕方ないので、テーブルの上に水滴で『の』の字を書く。


「で、みんなとしてはどうするのかしら?」


「どうする、と言われても…差し当たって目の前の事に対応しなくちゃいけませんし」


「遠いから何も出来ないですからね」


 リリィのボヤきに、未亜も相槌を打つ。
 が、リリィの言う目の前の事とは、未亜が嫉妬のあまりSモードを起動しないかという事だ。
 大河にオシオキするのは決定事項だから、今更どうこう言っても意味が無い。


「毒の造り方くらいなら教えてあげるわよ〜。
 ルビナスちゃんほど効果はないけど、その分安全性は信頼してもらってもいいから」


 どっちもどっちである。
 リリィは暫く考えて、ボソっと呟いた。


「毒よりも、どうせなら媚薬を…」


「あれ?
 リリィさん、前に持ってませんでした?
 ほら、遠征に出る前のアピール合戦の時に」


「……あれは香水を通販で頼んだら、何故か間違えて送られてきたのよ。
 その後ちゃんと送りなおさせたけど。
 もう残ってないわ」


「…それで、誰に使うんです?
 マスターだったら……ご主人様と浮気相手の人に同時に使って、手玉にとるくらいはやりそうですが」


 大河に使えば、即座に猛獣に化ける事は目に見えている。
 例え拘束していたとしても、その脅威は抑えられまい。

 浮気相手らしきユカ・タケウチに使えば、いかな武神でも無力化されそうだ。
 ……多感症状態の彼女に使ったらどうなる事か…。


「誰に使うって……そりゃあ…」


 リリィはチラっと未亜を見た。
 別段未亜のような性癖に目覚めたのではないが、やられっぱなしと言うのも気に障る。
 一度くらいはへこましてやりたい。
 大河が居なくてS&レズが発動しにくくなっている今が、ある意味では最大のチャンスと言えない事もない。
 クスリを使って発情状態にし、リリィ・リコ・ダリアの三人がかりで仕掛ければどうにか出来るだろう。

 そこまで考えたリリィだが、慌てて首を振った。
 この状況でそんな事を考えられるほど、彼女は図太くない。
 …ついでに言うと、リリィの計画には致命的な欠陥がある。
 未亜がリコに向かって「抵抗しないで」とか「リリィさんを捕獲して」とか言ったら、即座に形成逆転だ。
 リコも罰を恐れて、全力で向かっていくだろう。
 ダリアは介入してくるか微妙である。

 そんな危険な計画は心の底にでも押し込めて(忘れても破棄してもいない)、リリィは食材の下拵えに戻る。
 立ち直ったリコが、その様子を眺めて呟いた。


「それにしても…予想はしていましたが、誰も食べに来ませんね」


「うーん、ちょっと前にご飯を食べたばっかりなのよね、みんな。
 だからもう少ししないと誰も来ないんじゃないかしら」


「むぅ…折角張り切ってたのに…」


 ブツブツ言いながら、大根を千切りにする。
 大体の下拵えを終え、後は誰かが注文に来るのを待つばかりだ。


「職人肌って言うべきかしらねぇ…。
 ま、お仕事に戻ったら宣伝しておいてあげるわ」


「お願いしますー。
 もうヒマでヒマで…。
 後どれくらいかかりそうです?」


 ダリアは工場内部の様子を思い浮かべ、続いて入ってくる物資の流れを思い浮かべる。


「…あと…3日ないし4日って所かしらね。
 もしまた物流の流れが滞れば遅延するし、スムーズに流れるようになれば…明日には最後の材料が来るんじゃないかしら」


「……みんな、大丈夫でしょうか…」


「ああ、大丈夫みたいよ〜。
 昨日クレア様にちょっと連絡を取ったら、色々あるけど問題無いって言ってたもの。
 カエデちゃんとベリオちゃんは既に任務を終えて、一旦王宮に立ち寄ってホワイトカーパスに向かってるそうよ。
 色々な村を救助しながらだから、ホワイトカーパスに到着するのはもう少し時間がかかるみたいだけどね」


「色々?
 それに、カエデとベリオの任務って…もう少し時間がかかるんじゃ…。
 確かゼロの遺跡近辺の街の住民を避難させるんでしたよね?」


「あー、その辺も色々あったみたい。
 なんかカエデちゃんが大願成就したって言ってたわよ」


「……カエデさんの大願成就……?
 食い倒れかな?」


 カエデに対してどんなイメージを持っているのか、よく解かる一言だ。
 …まぁ、普段のカエデを見ていると無理もない。

 忍者だと言うのに、食事は毎食腹一杯にまで詰め込み、時々胃痛を訴える。
 食事をしたらしたで、授業の間に目を開けたまま昼寝。
 鍛錬はしっかりやっているようだが、未亜達はその場面を直に見た事は無い。
 そして大河に頭を撫でられ、ワンコよろしく脱力して甘える姿。
 そんなカエデの大願など、精々己が睡眠欲やら食欲を満たす程度の事しか思い浮かばない。
 未亜はカエデが仇を追っている事は知っていたが、普段のイメージが強すぎて思い出せなかった。


「では、ご主人様の様子は?」


「私達が居るのに、現地妻まで作ってるのよ?
 不必要なまでに元気に決まってるじゃない。
 今度あったら、その生気とか精気とか生命力とか、色々と削り取っておかないと」


「でも性器は削っちゃダメですよ。
 やるなら私がやりますから。
 ……おろし金でも使って」


「そんなの使うなっ!」


 ダリアの頭に思い浮かんだのは、大河をふん縛っておろし金のギザギザにアレを擦り付けている未亜。
 想像の中とは言え、半分くらい擦り切れているのが恐ろしい。
 芸が細かい事に、摩り下ろしの下にはナニかが溜まっていた。
 ある意味、鋏とかでチョッキンよりも洒落にならない。


「…そ、それじゃ私はお仕事するわね。
 宣伝してくるから、待っててね〜♪」


 妙に勤労意欲を発揮させ、ダリアは食堂から出て行った。
 こうなるとヒマを持て余す未亜達。
 こういう時に限ってトラブルも起こらず、ただただ時間だけが流れる。


「あーあ…よくよく考えてみると、私も救世主クラスに馴染んだものだわ…」


「? なんですか、急に」


「いや…未亜達が編入される前からね、何だか救世主クラスってトラブルメーカーの集団みたいに言われてたのよ。
 あながち間違いでもなくて、リコは大食いだし、ベリオは無闇に規則に厳しいし。
 特にベリオは病的なくらいに規則を遵守して、他の人にもそれを強要する節があったから揉める揉める。
 リコは…まぁ、食堂の一件を思えばね…。

 生徒の見本のみならず、アヴァター全土の希望として品行方正を志す、っていうのは私だけだったのよ」


「…どのツラ下げて…」


 リコがボソっと呟く。
 彼女とて、かつては度が過ぎる程の無口さで数々の誤解その他を招いた事は承知している。
 …その殆どは、悪意のある誤解ではなくて「萌えー!!!!!」という類のものだったのは、賢明なる読者の方々ならばお察し頂けると思う。

 が、リリィは違う。
 彼女はツンデレ属性だが、デレなんぞ全く見せなかった。
 そもそもツンデレという属性からして、デレを見せられない人間にとってはツンオンリー。
 それはそれでイイが、少々取っ付き難いのも否めない。
 かつての彼女は、ミュリエルに認められようと、そして期待に応えようと張り詰めた糸のようだった。
 ちょっと触れれば何かしらの爆発をする危険物だったのである。
 なまじ見目麗しいので、ちょっかいを出して返り討ちに会った者も数知れず。
 ナンパに限らず、酷い時には軽口にさえ反応していたのだ。
 ハッキリ言うが、救世主クラスで最大のトラブルメーカーは彼女だったと言っていい。
 …現在では未亜と大河がトップを争っているが。


「その品行方正を志した私が、まるでトラブルが起こるのを望んでいるみたいに…。
 本気で救世主クラスは破壊者集団になるわよ。
 歯止め役のベリオからして、もう一人のベリオが出れば破壊活動が増幅されるでしょうし…」


「…お兄ちゃんとケンカして、周辺施設に結構な被害を与えてたけど…」


「人の事は言えませんね」


 未亜とリコのヒソヒソ話を華麗にスルー。
 自分がギャグ体質に染まりつつある事を自覚し、溜息をつくリリィ。

 その時、何やらズドドドドという轟音が聞こえてきた。


「? なに、この音」


「…集団の足音…でしょうか」


「こっちに来るよ…?」


 益々大きくなる轟音。
 そして食堂の入り口付近に到着するや、足音は摩擦音に変った。
 およそ人体の出す音ではないと思われる摩擦音は、大勢の人達が急ブレーキをかけた音である。



「「「「「「
 あー、本当に女の子が厨房に立っているるるるるー!
                    」」」」」」


「…作業員の皆様?」


 である。
 ポケットに工具やら釘やら設計図らしき図面やら、色々と詰め込んでいた。
 間違いなく、工場で作業をしていた人々である。

 唖然とする未亜達に向かって、一斉に怒鳴りたてる。


「俺チキンランチ!」
「仏の食い物、蕎麦!」
「手早く出来る目玉焼き!」
「罵ってください!」
「鉄人ランチ!」
「焼き魚!」
「プロマイド!」
「焼き鳥とビールのお酌!」
「本格ツツィマーラ料理!」


 唖然とする未亜達。
 どうやらダリアの宣伝が効きすぎたらしい。
 ずっと穴倉の中で作業を続け、日の光とか女の子の手料理に飢えていたのだろう。
 男性に限った事ではなく、女性も同じらしい。

 慌てながらも、リリィは記憶力の高い頭で注文を復唱する。


「えー、チキンランチに蕎麦にブタ野郎はトンカツって事で、鉄人ランチはある食材を片っ端から、焼き魚に焼き鳥にアルコールに本格つ、つちまーら?料理ですね」


「プロマイドは!?」


「ネガでも喰ってろ!」


「是非イタダキマス!」


 どこから取り出したのか、作業員が持っていた幻影石をその作業員の口の中にフォークボールでストライク。
 のどちんこに直撃して眠りの世界に旅立った。


「リリィさーん、私達未成年だからビールは買えなかったよー?
 代わりにメチルアルコールなら買ったけど。
 しかも酒屋で」


「飲んだら死ぬでしょうが!
 そんなの買ってくるんじゃない!
 あとその酒屋は後で通報しなさい!
 それより料理料理!
 やっと出番よ、リコはウェイトレスね」


 ヒマな時間から、一転して激務。
 リリィは嬉々として厨房へ向かった。
 料理は嫌いではないし、ヒマが潰せるならこの際何でもいい。
 …発動した未亜の相手はゴメンだが。


「リリィさん、全員の分が出来るまで時間がかかりすぎますよ?」


「ダリア先生でも連れてきて、宴会芸でもやらせてなさい」


 5分後、人間ポンプや人体切断のマジックを披露するダリアの姿があったと言う。
 この騒動により、行程に更なる遅れが出たが…美少女の手作り料理によって気力とか色々回復させた作業員達は、驚くべき早さと正確さでその遅れを挽回してしまったと言う。


 そして、その夜の事である。
 自分達の食事も作業員達の食事も終え、そろそろ眠ろうかと思った時に、意外な客人が訪れた。


「未亜ちゃーん、リリィちゃーん、リコちゃーん。
 お客さんよー!」


「…?
 客って…この工場に?
 ここを知ってるのは、クレア達とかぐらいの筈…」


 寝ぼけ眼のリコと未亜は何事なのか把握出来ていないようだが、リリィはしっかりと目を覚ましていた。
 別に未亜を警戒していたのではなく、単に日課の勉強をしていただけである。

 ダリアの口調からして、お客さん=襲撃ではなさそうだ。
 ……彼女であれば、例え拳王様の軍勢が大挙して襲ってきてもお客さんの一言で済ませそうだが…。
 別段騒ぎも感じないし、殺気も無い。
 どうやら文字通りの客人らしい。


 まだ半分寝ている二人を置いて、リリィは工場の入り口へ向かう。
 中で作っている物を見せる訳にはいかないので、中に入れるとしても入り口付近で止めるはずだ。


「こんな時間のこんな場所に、一体誰が…。
 しかも、私達を名指しで?
 …厄介な事にならなければいいけど…」


 そう漏らしつつ入り口へ向かったリリィが見たのは、意外な人物だった。
 初見では、何処かで見た顔だな、ぐらいにしか思わない。
 何処で見たんだったか、と検索すると、意外と簡単に出てきた。
 しかしその人物が、何故こんな所に居るのか?


「…ひょっとして…レイミ・ジャバナ…?」


「…あなたが救世主候補生のリリィ・シアフィールド?
 お互い顔は知っているようだから、自己紹介は省かせてもらうわね」


 最近物資の流れを妨げている謝華グループ会長、レイミである。
 いきなり出てきた有名人を相手に、対応に戸惑うリリィ。
 彼女の事は雑誌や新聞でしか見た事が無いが、その有能さは疑うべくも無い。


「どうして此処に…」


「ここに来た目的かしら?
 それともこの工場を突き止めた方法?
 どちらも仕事の為よ。
 物資の流れには注意しておかないとね。
 特に利益が見込める流れの付近は、徹底的に調査する主義なの。
 王宮近辺から、どの辺りに向けて物資が輸送されているかを調べれば、工場の場所は大体の見当は付くわ。
 後は幾つか条件を絞って、虱潰しに探しただけよ」


 大した事ではない、と言わんばかりのレイミだが、実際にはかなり苦労している。
 クレアとアザリンが極秘と銘打つだけあって、隠蔽工作にはかなり力を注いでいる。
 その状況下で、王宮に露呈せず、こんな短期間で工場を発見するなど尋常な事ではない。
 運がよかったというのも重要なファクターだが、それすらも自らの力と言い切れるのがレイミだった。


「…それで、結局何をしにきたの?
 物資の補給を途切れさせ、王宮の足を引っ張る謝華グループ会長さんが」


「あら、随分な言われようね。
 私は別に指示してないし、謝華グループそのものは商社としての勤めを果たしているだけよ。
 例え王宮からの命令と言えど、市民の財産を無条件に差し出す理由にはならないわね」


「それが“破滅”に抵抗できるかどうかの瀬戸際になるとしても!?」


「なるとしてもよ。
 大体、そういう事を言うなら、王宮が率先して自腹を切るべきね。
 それで“破滅”に対抗できるなら、それこそお金に拘るべきではないでしょう。
 王宮がお金を出し渋っているのは、後々の自分達の影響力や支配力に響くからよ。
 そういう意味では、王宮の金払いの悪さが人類側の物流の流れを妨げていると言えるわ」


 リリィは歯噛みする。
 土俵が違いすぎる。
 レイミは社会人、或いは謝華グループの代表としてここに居るのだろう。
 役目を果たし、社員達に給料を払い、そして儲けて自分のグループの力を強くする。
 言わば歯車のようなものだ。

 歯車に対して、リリィのような感情論や『損得考えずに力を合わせよう!』と言った所で、殆ど意味はない。
 そういう方法を通用させるなら、レイミを歯車から一個の人間に引き摺り下ろさねばならなかった。
 感情論は相手と状況を弁えて振るわねば、単なる我侭か戯言に成り果てる。


「話を元に戻すけど、私はスカウトをしに来たのよ」


「…スカウト?
 …私達救世主候補を?」


「そうよ。
 今すぐにとは言わないわ。
 “破滅”を退けたら、あなた達は用済み…とは言わないまでも、王宮の権力を維持するためのコマに成り下がる。
 そうなる前に、救世主クラスを辞退して私のグループに来ないかしら?
 コマにはしないわよ」


「………」


 リリィはレイミを睨みつけながら考える。
 彼女の狙いが読めない。
 自分達の足を引っ張っておいて、「こっちに来ないか?」と言った所で蹴られるのは目に見えているだろう。
 結果の見えたスカウトをするために、ここに来るとも思えない。
 グループ会長なら尚更だ。
 彼女が動くとあらば、確実な成果を挙げられる事前準備をしてからの筈。

 と、リリィの中で1本の糸が繋がった。


「そっちに就職するなら…今すぐにでも物資の流れを援助するって事?」


「そうね。
 部下の不始末だもの」


「いけしゃあしゃあと…。
 その部下の独断だか暴走だかを知っていながら、止めなかったのは誰よ?」


「何を言っているのかしらね」


 リリィはレイミの顔を殴り飛ばしてやりたい衝動に駆られる。
 が、それをやっても状況が悪化するだけだ。
 物資の流れは妨げられたままだろうし、付け入る隙を与えるだけ。


「…もし謝華グループに就職する約束をした救世主候補が、完全な救世主として目覚めれば…謝華グループの影響力は王宮よりもずっと大きくなる。
 “破滅”が迫っているからこそ出来る、大博打って事か…」


「そう取ってもらっても構わないわね。
 それで、どうするの?
 これ以上の工程の遅れは致命的じゃなくて?」


 グッとリリィは口を噤む。
 工程がどれ位遅れているのかはリリィも把握してないが、遅れていていい筈がない。
 これ以上の遅れは、文字通り致命傷になる恐れがある。

 かと言って、大人しくレイミに従うのもゴメンだ。
 何か打開策は無いか…と考えるリリィ。

 その時、通路の向こうから足音が聞こえてきた。
 リリィにとっては聞きなれた足音。


「……思いついてしまったわ…」


「何をかしら?」


「……知らない方がいい…けど、これから否応無しに知る事になる可能性が…」


「??」


 首を傾げるレイミ。
 そしてリリィと同じように、通路の向こうに目をやる。

 ヒョイ、と未亜のとリコの顔が覗いた。


「……ああああああ!
 街で見て気になってた人!」


「!!!??」


 レイミを見て叫ぶ未亜。
 そして自分でもよく解からない衝動に突き動かされ、ザザザザ、と後退するレイミ。
 何だか鳥肌が立っている。


「…マスター、結局何が気になってたのか解かりましたか?」


「ううん、それが全然。
 今も何だか引っかかってるんだけど…」


 じーっとレイミを見詰める未亜。
 レイミも何やら感じるものがあるらしく、未亜を見詰めている。
 怯えている訳ではないが、妙な慄きが見て取れるのも事実。

 レイミはこの奇妙な感覚よりも、本来の用事を優先する事にした。
 押されっぱなしというのも気に喰わないし、未亜から逃げるようで気に入らなかったが、そっちは時間に余裕がある時に徹底的に抗戦すればいい。
 心の底に恐怖だか畏怖だかを押し込めるレイミを見て、リリィが微妙な顔をする。


(…これなら確実に反撃できるけど…同じ女として、何と言うかその…罪悪感が…)


 リリィが思いついた対抗策。
 それ即ちレズレズサディストモードの未亜をぶつける事。
 いかなレイミと言えども、そう簡単には対抗できまい。
 反撃するだけでなく、未亜のストレスやら不満やらの捌け口を自分達から逸らす、一石二鳥の策だった。

 リリィは自分の頭脳にちょっと恐怖した。
 よくよく考えてみれば、万が一レイミが未亜に服従しようものなら…未亜は謝華グループを牛耳るようなものだ。
 ただでさえ厄介な性癖に加え、財力という後ろ盾まで持ち出されては敵わない。
 賭けである…。

 リリィがレイミに未亜を嗾けるべきか悩んでいると、レイミが未亜とリコに向かって話し始めた。
 内容は先程リリィに言ったスカウトとほぼ同じだ。
 ただ、物流の流れ云々の所は言っていない。


「…と言うわけなんだけど、王宮から離れる気はないかしら?
 政治の道具として酷使されるのはイヤでしょう?
 こちらに来れば、私の誇りに誓ってそれなりの対応をするわよ」


「…突然言われても…」


「私はご主人様とマスター次第ですが…」


 未亜も戸惑っているようだ。
 どちらに付いても政治の道具としての役割を押し付けられる事くらい、未亜にも解かる。
 しかし、自分達に対する対応自体は謝華グループの方が良さそうだ。
 何より、イヤになったら退職できる…レイミがさせるかは別として。

 リコは…判断を丸投げしているっぽい。
 人間社会から隔絶した部分のある彼女としては、大河・未亜・その他救世主クラスと一緒に居られて、ご飯が沢山食べられればどっちでもいいのかもしれない。

 レイミは3人の反応を見て、素早く計算する。
 今ここでスカウトを続けても、時間がかかるだけで色よい返事は貰えそうにない。
 ならば撤退すべきだが、このまま引いても悪印象が残るだけだ。


(なら、こちらから譲ったように見せて印象を回復するべきね)


「ま、今日の所はこのくらいにしておくわ。
 部下が妨げた物流の流れは、明日には回復するはずよ。
 私としても、人類が滅ぼされるのは勘弁願いたいもの」


「さっきと言ってる事が違くない?」


「違くないわ。
 チャンスがあれば狙うけど、優先順位と人類絶滅の境界線…。
 二つを照らし合わせれば、謝華グループとしても個人としてもやるべき事は見えてくる。
 それに、社会的信用こそ最大の利益とも言えるのよ」


 その社会的信用は、王宮の邪魔をした事で多少は損なわれたのかもしれないが…。
 レイミは謝華グループが疲弊しない程度に、援助を行なうつもりだった。
 ボランティアではない。
 王宮と契約し、“破滅”が去った後には、謝華グループの功績を華々しくアピールさせるつもりである。
 転んでもタダでは起きない。


 その辺の事は、リコも未亜もあまり興味が無さそうである。
 さっぱり理解できてないし、リリィとしてもダリアから習った付け焼刃の知識で何とか理解しているだけ。
 納得はできなかったが、これ以上踏み込んでもレイミのペースに巻き込まれるだけだ。


「そう…。
 じゃ、もう此処には用は無いのね?
 解かっているでしょうけど、此処の事は他言無用よ」


「言われなくても。
 王宮の怒りを買うのは、ちょっと面倒なのよ。
 …とは言え、この暗闇で外の森を歩くのは危険ね…」


 レイミは外を見る。
 とっくに日は沈み、あるのは星明りだけ。
 あまつさえ新月だ。


「…悪いけど、今日はここに泊めてもらうわ」


「な、何をいきなり?」


「今から外を歩けと言うのかしら?
 いくら私でも遭難するわよ。
 アヴァターの人々を救う救世主候補が、そんな事は言わないわよね?」


「う…」


 言いたい。
 リリィ個人の感情を抜きにしても、中にあるモノを見られるのは宜しくない。
 かと言って強引に帰してしまえば、後から何を言われるか解かったものではない。
 何とかならないかと思い、ムリヤリ拒否の理由をひねり出すリリィ。


「ね、寝床が無いわよ…」


「別に構わないわ。
 昔は修行の一環で、立ったまま眠った事もあるし、2,3日徹夜って事も珍しくなかったわね。
 天井があって夜風を凌げればそれで充分よ。
 お気になさらず」


 一蹴されてしまった。
 こうなっては、もうリリィに対抗する術は無い。

 未亜とリコはと言うと、やはりレイミの扱いに困っているようだ。


「リコちゃん、ダリア先生に聞いてきてくれない?」


「了解しました。
 暫しお待ちを」


 リコはレイミに一礼して去っていく。
 ダリアは多分食堂で、未亜達が作った賄い食でも摘んでいるだろう。

 リリィは未亜の判断に苦い顔をしていた。
 ダリアに聞けば、多分二つ返事で了承が返って来るだろう。
 レイミを追い返すのは、完全に不可能になった状態だ。


「……………」


「……………」

「……………」

「……………」
「……………」
「……………」


 リリィを他所に、レイミと未亜が見詰め合っていた。
 互いに無言で、相手の内面を探るような目でじっとしたまま動かない。
 いや、レイミは微妙に震えているようだ。


(別におかしな所も、注視すべき点も無い普通の小娘だわ…。
 召喚器が無ければ、ただ徒に時を過す典型的な愚民ね。
 彼女自身には、大した価値は無いわ…。
 だと言うのに、私は何故彼女に怯えているの?
 ……怯えている?
 この私が?
 謝華グループ会長にして、レイミ・ジャバナのこの私が!?
 そ、そんな事があるはずが…しかし、このプレッシャーは…。
 やはりただの小娘ではないの!?)


 未亜を値踏みするレイミ。
 やはり、特別変った所はない。
 容姿は平均より上だし、幾らかの戦闘を切り抜けた事で胆も据わっているだろうが…。
 それだけである。
 レイミは容姿で言えば自分がずっと格上だと思っているし、胆の据わりようも段違いだ。
 ちょっと修羅場を潜っただけの未亜と、社会や大手商社を何年も相手にしてきたレイミとでは比較にならない。
 戦闘に関しても、未亜以上の場数は踏んでいる。

 にも関わらず、レイミは未亜に怯えていた。
 先程は断じて認めようとはしなかったが、今度は違う。
 認めようとしない、ではなく、気がつけば認めてしまっていた。
 そう、まるで…。


(この世の摂理で決められている天敵にでも遭遇したかのように…)


 強烈なプライドで抵抗しているが、それでも動揺を抑えきれない。
 一体この小娘は何なのか?
 知らずに逃げ帰る事は出来なかった。

 一方、未亜の方も似たような印象を受けている。


(何だろうな…全然怖くない…。
 むしろ小さく見えるよ。
 この人、私よりもずっと強い…かどうかは知らないけど、色々とパラメータ的に格上の筈なのに。

 私がヘビで、この人は…トノサマガエル?
 その位の戦力さがあるような…。
 どうでもいいけど、ヘビってナメクジの液で溶けるって本当かな?
 そもそもヘビとナメクジじゃ、移動速度に差がありすぎて天敵扱いされないと思うんだけど…)


 やや余計な方角に思考が飛びつつあるが、未亜はレイミを観察している。
 詳しい事は知らないが、謝華グループ会長で、買出しの時に買った雑誌には、彼女自身もマーシャルアーツとかいう格闘技の使い手で、アヴァターでも上位に数えられる実力者らしい。
 自分には無い大人の魅力とか、確固とした自信とかが滲み出ていて、一目で「ああ、この人は女帝なのだ」と直感させる。
 何よりも、強烈なプライドだの誇りだのが全身から発散されていた。


(こういうプライドの高そうな女は、一皮剥いてあげるとそれはそれは……って、またSモードが発動する所だった…。
 昼間に見かけた時もそうだったんだけど…ナンで?
 クレアちゃんやイムちゃんみたいなMが相手なら自然と発動してもおかしくない気がするけど、どー見たってこの人はSに近いし)


(…今、昼間に感じたのと同じ悪寒が走ったんだけど…何事なの?
 ……?
 背中に何かが走り抜けるような…)


 流石は謝華グループ会長、未亜の考えている事を直感的に感じ取ったらしい。
 しかし卓越した直感もその程度だった。
 或いは、自らのプライドが未亜を脅威と認めるのを邪魔したのかもしれない。

 2人の緊張感が高まっていき、遂に弾けようとした時。


「マスター、ただいま戻りました」


「あ、リコ。
 ナイスタイミング」


「は?」


 ずっと蚊帳の外で圧倒されていたリリィが、リコに向かって親指を立てる。
 レイミを泊めなければならないが、今の空気を続けられるよりマシだ。
 リコは何だかよく解からないようだった。


「それで、ダリア先生は?」


「条件付で許可だそうです。
 ここの事を誰にも話さず、万一話した時の為に罰則を己に課す事。
 そして定めた区画には入らず、部屋で大人しくしている事。
 どうしますか?」


「…構わないわ。
 物流の流れからして、もう誰かに話しても意味が無いもの。
 奥で作られている物も大体見当がついているし、今晩は大人しく眠るわよ。
 それじゃ、その部屋に案内しなさい。
 物置とかだったら暴れるわよ」


「ご心配なく。
 監視も兼ねて、私達と同じ部屋になります。
 それで、もう一つの条件の方は?」


 リコの言う条件とは、誰かに話した時の罰則の事である。
 レイミは目を細めた。


「私が話さないと言っても、信用できないのかしら?」


「信用出来る出来ない以前に、それがここに泊める条件でしょう。
 アナタの信用に関わらず、条件を呑まなければ泊められないけど?」


「呑まなかった所で、放り出す事もできないでしょう?」


 横から口を挟んだリリィを睨み返すレイミ。
 信用できない、と言われたようでプライドを傷つけられたようだ。
 企業人としては、契約を重視するのは当然だ。
 こちらの要求を通そうとする以上、相手側の要求も呑まねばならない。

 しかし、彼女はレイミである。
 そのプライドは、曲げるには高く、強靭すぎた。
 素直に呑んでやる気などないようだ。

 リリィに反撃をしようとした所で、リコが口を挟む。


「失礼ながら…」


「何かしら?」


「貴女の境遇がどうあれ、私達にとっては招かざる客です。
 招待もアポも無いのに押しかけてきて、自分の要求だけ突きつけ、挙句こちらの要求を貴女のプライドの為だけに捻じ曲げようとするのは厚かましすぎませんか?
 思慮分別ある大人の行動とは思えません」


「…中々言うわね。
 ………いいでしょう、こちらも意固地になりすぎたようね。
 条件を呑むわ。
 そう…」


 レイミはリコを忌々しそうに見たが、自分としても自覚はしていたのだろう。
 むしろ制止は渡りに船だったのかもしれない。

 条件を呑んだレイミは、自分に課す罰則を考える。
 強烈な自負とプライドは、安易な罰則を与える事を良しとしない。
 己の誓いを破りはしない。
 そのプライドが、何よりもキツイ罰則を考える。


「そうね、万が一誰かに話したら…私の命から今後の人生まで、全て好きにしなさい。
 生かすも殺すも、謝華グループ会長としての地位を剥奪するのも、玩具にするのも自由。
 尤も、この機会は永久に訪れないわ」


 流石にリコとリリィも驚いた。
 プライドの塊のような彼女から、服従を誓う言葉が出るとは。
 それが自分の誓いを破った時、己に与える罰という事か。
 こんな所にも、彼女の誇り高さが窺える。


「…大きく出「それだ!!」!?
 な、何よ未亜!」


 突然叫ぶ未亜。
 レイミはまた無意識に後退っている。

 それを見た未亜は、ふと正気に返る。


「あ、いや…何が気になってたのか、ようやく思い当たったんで…。
 ま、まぁそれはともかく。
 今日はもう遅いから眠りましょう!
 レイミさん…でいいですか?
 むしろいいですね?」


「…好きに呼びなさい。
 気に入らない呼び方でなければ返事をしてあげる」


「ならレイミ、お風呂ありますけど入ります?」


「(呼び捨て!?)
 そうね、入らせてもらうわ。
 まさか風呂の中まで監視が付くとは言わないわよね」


「まぁ、それくらいなら…」


 微妙に強気の未亜に流されて、レイミはあれよあれよと言う間にバスルームに通されてしまった。
 えらく早い展開だ。
 それを呆然として見るリリィとリコ。


「…一体何事なのかしら?」


「さぁ…。
 聞いてみましょう」


 未亜を追い、バスルームへ向かう。
 追いつくと、既にレイミは入浴中だった。
 未亜は浴室の前で、壁に寄りかかっている。
 駆け寄ってきたリリィとリコを見つける未亜。


「リコちゃん、悪いけど座布団持ってきてくれないかな?
 一応監視してなきゃいけないけど、お風呂は長引きそうだし」


「…はい。
 ですが、その前に…レイミさんの何が気になってたのか、教えてくれませんか?」


 リリィも後ろで頷いている。
 …が、どうせロクな事ではないとの確信があるらしい。
 しかし、敵(一応)の弱みを握っておくのは必要である。
 レイミ自身も未亜を苦手としているようだし、的を得ている可能性は高い。


「まぁ、いいけど…周りに誰も居ないよね?」


「居ません。
 希望とあらば、人払いの結界をかけますが」


「じゃ、お願い。
 …それじゃ、話すよ。

 意外な事だけどね…」


「「うんうん」」


「レイミの性癖、どうもクレアちゃんに通じるモノがあるみたいなの」


「クレアの性癖…って言うと、王宮でヤったアレ…」


 リリィの脳裏に悪夢が蘇える。
 最終的には微妙に気分が出ていたが、良い思い出にはなる訳が無い。
 リコも何やら頭を振っている。
 過去を吹き飛ばそうとしているのだろう。


「でも…そんな風には見えないわよ?
 と言うか、あの性格は絶対にドSだって」


「いやいや、そういうヒトほど心の底に『ムチャクチャにされたい』って願望があるのよ、きっと。
 普段回りの圧力を跳ね返して立ってるから、もう楽になりたい、って思うんじゃないかな。
 それに、レイミのはちょっと違って……そう、玩具にされたい?
 そんなの」


「…マスター、確証はあるんですか?」


「あるよ。
 私のSモードが勝手に起動したもの。
 レイミの心の底の欲望に共鳴したのよ。
 つまり正統派V.G.のレイミさんじゃなくて、リバースの方のレイミ」


「…アンタが言うと説得力があると言うか洒落にならないと言うか…」


 全くである。
 最近では未亜の煩悩は物理法則を超えつつある気がするし、それくらいできても不思議ではない。
 レイミにそんな欲望があるというのは、少なからず違和感を覚えるが…。


「多分、普段の誇り高いというか傲慢というかプライドが無駄に高い姿も、仮面じゃないよ。
 それがあってこそのレイミ…だと思うし。
 でも、それは後天的に作られた性格…むしろ本能?で…。
 誇りを貫く裏側で、生来の本能…と言うか、『怠けたい』とか『ダラダラしたい』とかいう欲求が積もりに積もって、隠れた一面を作り上げたのよ。
 『玩具にされたい』っていうのも、他人を支配する重圧から逃れるための『支配されたい』から派生してる…んだと思う。
 どうも、個人の欲求を押し殺してるみたいだし…。
 男の人に惚れるとか言うのも、ある意味では屈服する事と同義だと思ってるんじゃないかな」


「無茶を言いますね…。
 レイミさんに言ったら殺されますよ?
 それでなくとも、名誉毀損とかになりそうです」


「言わないよー。
 それに、私から手を出す気はないもん。
 お兄ちゃんが居ないのに、そんな事する理由がないよ」


「その理由もどうかと思う…」


 ボヤくリリィ。
 確かに、それにならレイミが未亜に怯える理由も説明がつく…かもしれない。

 押し込め、認めなかった欲求が未亜のS性というか女王様的性質を発見し、呼応したのだとしたら?
 自分が知らなかった一面、特に醜い一面と向かい合う事は、人生で最も恐ろしい瞬間の一つである。
 レイミと言えども、一個の人間。
 自分の軟弱な、浅ましい欲望を突きつけられれば恐れもしよう。
 先刻はプライドを持って拒んだようだが、長くは保たない可能性が大きい。

 残された方法は、その欲望を正面から受け止め、認める或いは昇華する事だが…。
 それはレイミのプライドを、自らの手で木っ端微塵にしかねない行為だ。


「…はぁ…しかし、それじゃ弱みにはならないわね。
 聞いても意味が無かったわ…。

 未亜、私は一足先に戻って寝床の用意をしておくから。
 レイミの分も出さなくちゃ…」


「それでは私は座布団を取って来ます。
 ついでにお茶請けも…」


 ちなみにお茶請けとは、ダリアが持っているお菓子である。
 もうそろそろ残り少ないので必死にリコからガードしているのだが、これで全滅確定だろう。

 未亜は2人を見送って、また壁に背中を付けた。
 ……その会話を聞ける人物が、一人だけ居た事には気付かずに。


 風呂上りのレイミを連れて、寝室に向かう未亜とリコ。
 リコの頬に食べかすがくっ付いているが、割りと萌えるので未亜は何も言わなかった。
 レイミは風呂から上がってから、ヤケに機嫌が悪い。
 風呂の設備が気に入らなかったのかな、と未亜は思った。


「ここで眠ってもらいます。
 ベッドや布団が安物なのには文句を言わないでください。
 必要とあらば、寝巻きくらいは用意しますが…」


「…必要ないわ」


「そうですか。
 それでは、私はお風呂に入ってきますので」


 レイミの監視を、未亜と部屋に居たリリィに任せて去っていくリコ。
 レイミは2人を無視して、割り当てられたベッドに乗って布団を被る。


「あら、もう寝るの?」


「私はあなた達と違って忙しいのよ。
 明日の朝にはここから出て行くのだし、意味もなく起きていても仕方ないわ。
 だから騒がしくしないで」


 微妙に違和感のある命令口調のレイミ。
 ピシャリと遮断されたリリィだったが、不快感よりも違和感が先に立った。
 相手を威圧する迫力が、少しだけ揺らいでいるのである。


「…未亜、コイツどうかしたの?」


「さぁ…さっきからこの調子なんです。
 ま、気にした所で仕方ありません。
 気にせずさっさと寝ちゃいましょ」


「うーん…まぁ…いいか」


 色々と気になるが、確かに気にした所で仕方がない。
 明日になればもう顔を合わせないのだ。
 その後顔を合わせる可能性はゼロに近い。

 リリィもさっさと布団に潜り込んだ。


「未亜はどうするの?」


「リコちゃんが戻ってきたら、代わってお風呂。
 その後に寝ちゃうよ」


「そう…じゃ、おやすみ」


「おやすみー」


 監視はしなければならないが、一晩中起きている必要も無い。
 一応結界を張っておけば、レイミが外に出ようとすればすぐに解かる。
 そもそもこの状況で何かすれば、即座に疑いの目が向く。
 仮に工場奥を破壊したとしても、王宮に攻撃の口実を与えるだけである。
 このご時世だし、王宮に対する反逆は即座に“破滅”に与したと見なされてもおかしくない。
 謝華グループ会長ともあろう者が、そんな事も解からないほどマヌケではないだろう。

 リリィは術を使い、そのまま眠りの淵へ滑り込んで行った。


 夜中。
 草木も眠る丑三つ時。

 誰もが寝静まり、響くのは徹夜で作業をしているらしき作業員の音と声。
 リリィが張った結界はまだ張られている。

 その中で、ある人影が起き上がった。
 レイミである。
 その懐から、何やら札を取り出した。


「…よく効いているようね…。
 流石は我がグループの新製品」


 札から煙が立ち昇っている。
 煙は部屋に薄く充満しており、リリィやリコも吸い込んでしまっていた。
 この煙は、一種の眠り薬である。
 レイミが吸っても平気なのは、その手の薬物に耐性があるからだ。
 謝華グループ会長として、護身術は当然の事、毒殺にも備えるのは当然の事である。

 レイミは知らなかったが、リコにはこの煙は効かない。
 しかしエネルギー消費を抑える為、眠る時には徹底して眠るのが彼女である。
 ちょっとやそっとの刺激では起きはしない。
 …彼女のマスターの声やご主人様の声が、ちょっとやそっとに含まれないのは言わずとも解かるだろう。


 レイミは煙の中で歩き出す。
 別に外に出ようというのではない。
 彼女としても、このような事をするのは予定外であった。

 レイミは黙って一つのベッドに近付く。
 未亜のベッドである。
 煙の効果か、よく眠っていた。
 しかし、ある程度の刺激を与えれば目を覚ますだろう。
 いざとなれば、背中に一撃をくれて活でも入れてやればいい。


「…後悔しなさい、私を相手に好き勝手言った事を。
 戯言として聞き逃してあげる程、私は寛大ではないわよ」


 レイミは近くにあったロープを、眠る未亜に巻いていく。
 あまり長くないので両腕を縛ったくらいだが、戦闘能力と抵抗力を奪うには充分だろう。
 後は適当な布を使って未亜の口を塞ぐ。
 これで準備完了だ。

 あとは未亜を起こすだけ。


「起きなさい。
 …起きなさい。
 ……我が社の製品その2、とてつもなくマズい匂いがする気付け薬」


 レイミが得体の知れない物体を未亜の鼻先に突きつけた。
 その途端、目をカッと見開く未亜。
 だが猿轡がされているため、声は出せない。


「? ? …!?」


「混乱しているようね。
 まぁいいわ、今から報いを受けるのよ」


 腕を動かそうとし、声を出そうとし、それが出来ない未亜は混乱していた。
 その混乱に構わず、レイミは未亜に冷酷な通知を突きつける。

 混乱しつつも、レイミが犯人だと察した未亜は目で問いかけた。
 一体どうしてこんな事をするのか?


「私が浴室に居る間…随分好き勝手に言ってくれたわね?
 結界が張られれば、何があったのかと思って様子を見るのも当然でしょう。
 貴女が私を『支配されたい女』だの『ムチャクチャにされたがっている』だの、好き勝手に言ったのを聞いたのよ」


「!!??」


 ゲッ、とばかりに表情が凍りつく。
 彼女のプライドの高さからして、何かしらの報復に出るのは間違いない。
 と言う事は、これがその報復なのだ。
 手加減なんぞ一切期待できそうにない。


「私が支配されたがっているですって?
 妄想もいい加減にしなさい。
 私は謝華グループ会長、レイミ・ジャバナよ。
 産まれつき人を統べる運命の元に生まれ、帝王としての素質を兼ね備えた、言わば生まれ付いての王者。
 私が支配されたがってなど居ない事を、支配されて実感しなさい」


 そう言って未亜の胸を鷲掴みにするレイミ。
 拒否しようとする未亜だが、レイミは構わない。
 絞るように未亜の胸を掴み、両手を巧みに動かしていく。
 痛みを堪えるように首を振る未亜。
 そのまま続けていくと、未亜は苦しそうに目の端から涙を流す。

 だが、レイミは違和感を覚えた。

 レイミとて、そこそこの性的経験はある。
 と言っても、男性との経験ではなくて帝王学の一環として学んだ房中術で。
 女性の体がどうすれば反応を返すのか、実体験で知っている。
 その体験と、卓越した観察力が教えていた。
 未亜の悶え方はおかしい、と。


(この小娘…演技をしている?)


 未亜の悶え方には、何処と無く演技臭さが感じられた。
 レイミは全力で未亜を責めている。
 今は序盤のみだが、それでも自分の技術には自信を持っているレイミ。
 夫となる男を虜に、骨抜きにするための技術として床での技も一通りは身につけている。
 女性を責めるのも、その応用である。
 学習能力が高く、応用力もあるレイミは、その辺の技術もかなり高い。
 経験地不足も充分補える……。


(私の責めに反応してないの?
 確かに女性を相手に実践するのは初めてだけど…)


「…その程度なんですか?」


 相手が普通なら。


**************************


「なっ!?」


 レイミが考えていると、未亜の表情が唐突に変わる。
 苦しそうな表情は一瞬で消え、退屈だと言わんばかりの眠そうな表情になった。
 そして未亜の上に圧し掛かっていたレイミの尻と股間に、電撃の如き衝撃が流れる。
 何かに触れられたのだ、と認識した時にはもう遅い。

 次の瞬間、レイミはあっという間に押し倒された。
 未亜を縛るロープは既に解けている。


「い、何時の間に!?」


「ヘタクソすぎて欠伸が出そうですよ…。
 お兄ちゃんも居ないから、見られて反応するって事もないですし…。
 それじゃ、攻守交替させてもらいますね。
 一から仕込んであげないと」


「このっ、放せ…って、何時の間にか私が縛られてる!?
 ええい、こんな物!」


 未亜の腕を縛っていたロープは、猿轡にしていた布と結ばれてレイミを拘束していた。
 しかし、こんな物は彼女の力を持ってすれば簡単に引きちぎれる。
 …筈だったのだが。


「き、切れない!?
 それどころか食い込んで…」


「何してるんです?
 こういうのはコツがあるんですよ。
 レイミみたいに、縛ればいいってものじゃないんです。
 お兄ちゃん直伝、暴れれば暴れるほど縄が食い込む拘束術。
 元はどっかの拷問だか首吊りようだかの結び方だそうですけど…。
 引きちぎるのは物理的に無理ですよ。
 私も最初は結構抵抗しましたしねー」


「くっ…」


 未亜の目が暗闇の中で妖しく…というか犯罪風味に光る。
 ワラキアの夜も真っ青なほどに。

 唇を噛むレイミ。
 やはり、自分の直感は正しかった。
 未亜は単なる小娘ではない。
 藪を突付いてヘビを出してしまった。
 いやさ出てきたのはヒドラかドラゴンかヤマタノオロチか。
 しかし、後悔してももう遅い。
 自分が使った札の効果で、リリィとリコが目覚める事はあるまい。
 となると、どうにかしてこのロープを自力で解かねばならないのだが…。
 これがまたビクともしない。

 レイミのそんな足掻きを楽しんでいる未亜。


「襲われたんだから、やり返すのは正当防衛ですよねー♪
 別にいいんですよ、謝華グループの会長が夜な夜な私を拘束して陵辱しようとした、ってクレアちゃんに訴えても。
 状況証拠は揃ってるし、そうなったら身の破滅ですよね?
 だから私に襲われて、それでお相子って事にしません?」


「誰が!」


 確かに、未亜の言う事も一理ある(という事にしておいていただきたい)。
 このまま襲われてしまえば、完全に自分は被害者になれる。
 レイミが未亜を襲った証拠は状況証拠しかなくても、未亜が自分を襲った証拠ならこれからの選択次第で創り出せる。
 その証拠を創り出してしまえば、後々の展開は自分にとって大きく有利となる。

 だが、彼女のプライドはそれを良しとしない。
 例え後の反撃の為でも、未亜にいい様にされるなどプライドが許さなかった。

 凛とした目で睨みつけるレイミを見て、未亜は心底楽しそうに笑う。
 …久々にSモードが全開である。
 これを見たら、リリィやリコも「自分はまだマシな方だったのだ」と悟るだろう。
 自分が襲われかけた事についても、結構怒っているもかもしれない。


「仕方ありませんね…それじゃ、私も徹底的にやらせてもらいます。
 しかし、我ながらSを通り越して完全に犯罪者…ああ、背徳のか・ほ・り…。
 そのプライドを剥ぎ取って、レイミさんの欲望をぜーんぶ見せてあげますからね」


「この、戯言を…あうっ!」


「ほらほら、こんな感じで」

「くっ、この…ああん!」

「こっちなんてどうです?
 わぉ、スゴイ反応…。
 エッチですねぇ」

「ふ、ふざけああああっ!」

「あら、お豆さんが剥けてきましたよ。
 私も一人くらいは、お兄ちゃんを通じてプレイするんじゃなくて専用の奴隷が欲しかったんです。
 渡りに船ですよ」

「ど、奴隷ですって!?
 この私がきゃぅ!?」

「謝華グループの会長としての能力はともかく、根っ子が淫乱なんですから。
 分不相応なプライドなんて、私が叩き壊してあげます。
 さぁ、存分に喘ぎなさい!
 私がレイミさんの全てを略奪してあげます!」

「やっ、やめてぇぇぇ!」

「あら、止めちゃっていいんですか?
 ここはこんなに濡れてるのに…。
 お? これってひょっとして膜?
 ちょっと意外…処女だったんだ」

「あっ、あぐっ、ひっ…!?
 な、何で抜くの…?」

「なんだ、やっぱり欲しいんじゃないですか。
 この淫乱!
 無駄な抵抗は止めて、私の奴隷になりなさい!」

「ふああ、あぁぁぁ…!」

「あっ、ダリア先生が持ってたレモン汁発見」

「!? な、何を…?
 やめ、やめて、許して!
 それだけはやめて!
 何でもするから!」

「じゃ、奴隷決定ね。
 まず最初の命令、これを使ってカンチョー」

「あっ、悪魔…!
 あぅ……は、はいってくるぅ…」

「イヤイヤしながらも、すっごい洪水ですよ?
 まだまだ夜は長いよー♪
 …何、その目?」

「こっ、殺す…!」

「むぅ、しぶとくってヤり甲斐があるなぁ…。
 今度はレモン汁の変わりに牛乳、それからダリア先生が飲んでたビールを行ってみましょ。
 それからイクにイケない刺激で、一晩中狂わせておねだりさせてあげるよ」

「ダッダメ!
 ビールなんか入れたら死んじゃう…!」


 いちいち未亜が言葉にしているのは、そうやってレイミの被虐心を煽っているからである。
 現にレイミの体は、未亜の言葉に反応しはじめている。


「処女は…どうしよっかな?
 私が奪っちゃうのもイイけど、開発するだけ開発してお兄ちゃんにあげようかな?
 んー、でもコレって私の奴隷だし」

「だ、だれが……う、うあぁぁ…おしり、おしりが……あうっ、指をいれないで…」

「コッチだけ奪って、後はお兄ちゃん…かな?
 でも全部略奪して何でもオッケーにするのも楽しそうだし…。
 あーあ、明日帰っちゃうんじゃなければ、もっとじっくりゆっくり、趣向を凝らして堕としてあげるんだけどなぁ…」

「いっ、ひぐっ、ああぅ!」

「んー…ま、いいか。
 お兄ちゃんはあっちで現地妻作ってるんだから、態々初めてをとっておいてあげる事もないよね。
 えーっと、ディルドーは何処にやったっけ…。
 レイミ、楽しみにしててね?
 今夜でレイミの価値観とか、全部塗り換わっちゃうから」

「あ、あああぁぁん!
 だめ、だめぇ!
 おねがい、もうゆるして、じらさないでぇ!」

「クスクス…ほら、メスの本性が出てきた…。
 身の程ってモノを、きっちり刻み込んであげないと…。
 それに…前から興味あったんだ…。
 どれくらいの快楽で、人間は壊れるのか…。
 限界に挑戦する為に、色々と仕込ませてもらうからね。
 大丈夫、今日は壊さないよ。
 やるんだったら、“破滅”が終わってから地下にでも閉じ込めて飼いながら、ね…」


**********************************


 翌日。


「それじゃ、私は行くわ。
 世話になったわね」


「…さっさと行きなさい。
 誰かにこの工場を漏らしたら…解かってるわね?」


「しつこいわね…話さないと言ったら話さないわ。
 万が一話したら、誓いの通りしてあげるわ」


「それもあんまり罰にはならない気がする」


「だ、黙りなさい!」


 何気なく呟いた未亜に、慌てた様子で怒鳴り返すレイミ。
 えらく反応が過剰だ。
 昨日も妙に怯えていたが…。


「…未亜、何かやったの?」


「うーん…正当防衛と過剰防衛の境界線って、どの辺だと思う?」


「は?」


「それ以前に、何故杖をついているのですか?
 足腰がガタガタしてるんですが」


「うん、ちょっと過激な」


「黙りなさいと言っているでしょう!」


 未亜を睨みつけ、その口を塞ごうとするレイミ。
 しかし、未亜の視線を受けると途端に動きが鈍くなる。
 と言うか、アレは明らかに過剰防衛…どころか通り越して完全に加害者だ。


「こ、の……っ!」


「はいはい、何も言いませんよ。
 それじゃ、お元気で。
 また今度。
 あ、約束どおり、ちゃんと王宮を援助してくださいよ?」


「くっ…わ、解かったわ」


 屈辱に顔を歪め、レイミは踵を返した。
 そのやり取りだけでも、2人の間に何かがあったのだと推測できる。
 しかし、ヘタに深入りすると洒落にならない事になりそうなのでリリィ、リコ、そしてダリアは深く立ち入らない。


「…マスター、大丈夫なのですか?
 よく解かりませんが、彼女の機嫌を損ねると、工場が機能しなくなるのでは…」


「ああ、大丈夫大丈夫。
 レイミさんは、例え根っ子が屈服してても、プライドがあってこそのレイミさんって事だよ。
 普段は女帝のままなのね。
 それを度々突き崩してあげるのが楽しいんだけど」


「はぁ…」


 さっぱり理解できないリコだった。
 クレア辺りなら、結構共感できるのかもしれないが。

 翌日、謝華グループが物流の流れを元に戻し、王宮を支援し始めたそうだ。




東京の空は狭いなぁ…。
と言うか、なんじゃこの駅の多さとビルの高さは…。
今更ながら、都会は迷宮だと実感してる時守です。

今日はネット喫茶からの投稿。
なので、レスを返しきれないかもしれません。
というか、使いにくいよぅ。

未亜が完全に犯罪者になったよーです。
…ああ、反応が怖い…。
ちなみに、いつぞや言っていた『過去最大級のS未亜』はこれの事です。


それではレス返しです。


1.九重様
いやぁ、多分未亜はテンパってる状態ならプライバシーはおろか、本人が忘れてるような記憶まで読み取れますよ。
ヘタをすると、自分から電波を送信して大河を操るなんて事も…(汗)


2.アレス=アンバー様
この場合、ユカに向ける言葉はグッドラックじゃなくてゴッドスピード…。

ハニーフラッシュ…ベリオは素で変身技能を持ってますがw
と言うか、ハニーフラッシュと言うと魔法が全く効かないモンスターを連想します。

未確認毛玉……け、毛有毛現?


3.根無し草様
ベリオとのコンビネーション…何か技を考えなくては。
その他の機能に関しては、ルビナスが悪戯心でつけたよーなモンですぜ。
まともな効果は期待しない方が…。

いやいや、セルはまだまだですよ。
イワッチの足元にも及びません。


4.流星様
汁婆と一緒にされて、泣く馬がどれだけ居るでしょうなぁ…。
ピンクの悪魔か…。
それこそ“破滅”側に居そうな気が…。
と言うか、神(不完全)はカービィが何かをコピーした姿と違いますか?
だって喰われるし。


5.文駆様
そうですね、シェザルにも出番を作らないといけないのですが…時守は中々人を殺せません。
こういう所で、物語の面白さが変わってくると思うのですが…。
殺すべきキャラクターを殺せないのは、作家として2流と友人が言っていました。

え、あの赤いのって犬だったんですか?
てっきりモグラだと思ってた…。

風車のベルトより、ベリオはセーラーが似合う気がします。
うろ覚えですが、スカートがミニすぎるのではと疑問を抱いていた記憶が…。


6.竜神帝様
ご病気ですか?
無理せず休んで、じっくり体を治してください。
黒いのより、卵博士が居そうな気が…。
さもなくばメカニカルなハリネズミとか。


7.なまけもの様
思いっきりレイミ登場、そして即座に未亜の餌食に…哀れ。

ユカ逃げてー!
…でも何処に?
未亜は誘導ミサイルよりもしつこく追尾してきますぜ?

ブラパピとベリオはフュージョンできても、あんまり意味が無さそうですねぇ…。
でも、ブラパピの体を作るエネルギーを注ぎ込むというのはありかな?


8.カシス・ユウ・シンクレア様
私っすか!?
一回だけ酔い潰れた事がありますが、ああはならなかった…と思うけど記憶がない(汗)

戦闘力で言えば、ほぼその通りです。
ただし、セル>傭兵科ではなく、セル>=傭兵科が正確ですね。
サポートに徹して、無理に前に出ようとしないから何とか付いて行ける、というのが現状です。
魔物達の殆どは、他の2人が蹴散らしてますし。

言われて見ると…なんで妊娠してないんだろう…。
大河がピルとか飲ませてるとも思えないし……。 


9.黄色の13様
降ってくるのは、意表をついてアーティファクトレッド・神槍ピナカあたりかも。
そして地面に突き立つと同時に、シヴァン・デストラクション。
複数で振ってきたら、大陸がメチャクチャになりますw

暇な主婦ほど、恐ろしいモノはない…。
噂も病原菌も、彼女たちほど広めるのが得意な人種はいないそうです。(by僕の血を吸わないで)

未亜が感じ取ってるのは、ラブ臭よりも浮気臭…または自分のオモチャにできそうな匂いかも(汗)
学園長には、熟女の色香を出してもらおうと思ったのですが…上手く行ったでしょうか?


10.スケベビッチ・オンナスキー様
はじめまして!
ご指摘ありがとうございます<m(__)m>

改めて振り返ってみると、確かに一部のキャラは原型を殆ど留めていませんね…。
我ながらよくここまで壊したものです…。


11.ATK51様
ある意味、原作の白化よりも強力になってますからねぇ…。
冗談抜きで未亜と神を張り合わせるのも面白いかも。

企業というのは、少なからずそういう冷徹な一面もあると思います。
しかし、そうやって切り捨てると逆に信用を損なったりするだろうし…。
目の前の利益に目がくらんで、長期的な収入源を手放すのは企業としてはダメダメでしょうな。

獣化…といえば、ずいぶん前に宣言&リクエストをいただいた、イヌミミカエデがまだやってなかったなぁ…。
よし、この際だからちょっと考えてみようw

互換セリフかどうかはともかくとして、あの問答無用の説得力は誰も否定できんでしょう。


12.イスピン様
はじめまして、イスピン様。
何とか最後まで続けるつもりですので、冗長になってもどうかお見捨てなきようお願いします…。

それはそれとして、アヴァターは根の世界であって、それはつまりアヴァターにある物が、派生した世界に存在してもおかしくないって事なんですよね。
つまり…元祖男塾の世界の塾長と、アヴァター出身の塾長が別々に存在してもおかしくない訳で…!?


13.なな月様
未亜はハーレムに1歩近づいた!
…もう完全に犯罪者だ…かなり沢山の人が引いたでしょうね…。

セーラー戦士は、未だにエロ同人とか沢山ありますからねー。
色んな意味で人気があったんだなぁ…。

リコが雪ん子…ネクロノミコン、凍らせてw

レイミは金髪だったっけ…?
確かに暗黒闘気をナチュラルに出してそうでしたが。

む、虫の郡体はイヤだなぁ…。
バルサンで一撃だしw


14.ナイトメア様
ユカと大河はスルーすか。
まぁ、時守も書いてて時々ハラ立ってきますが。

まぁ、未亜の感じた違和感は、要するにそういうこと…。
強引って言わないで(涙)

殲滅線戦…になるかも…。
大河の攻撃力もあるし、人間には最後までなるべく生きていてもらう予定なので。
まぁ、伏線だと思ってください…。

エッグヒーローは格好よかったなぁ…。
攻撃したら自分が割れるというのが、実に哀愁をそそった…。

メイドガイ…どう考えても、改造されまくってメカニカルになった無道しか考えられませんw
無道にあの服を着せるような想像をする事を、脳が頑なに拒んでいるようです。
冒涜だ!


15.神〔SIN〕様
>不条理とは時に次元さえも超える
ああ、まぁそういう事なら(納得)

ちゅーか、本気で大河の先生やってくれんかなw
ダウニー先生、君も大変だね…銀八先生にポロっと事情をもらすなんて…。
と言うか、実は“破滅”の事なんてどうでもよくなってるんでないかい?
アフロ復活にかまけてて、主幹の仕事はそのカモフラージュとかw


では質問の答えを。
ユカが不機嫌な理由? その内書くから黙って待て

邪神ジャククトとは? 長い間生きた蛇が、有耶無耶の内に霊格を上げたもの。
 好物は馬刺し、特技はダチョウの卵の一気飲み、好きな本は経済雑誌。
 ちなみに体を覆う鱗は、剥ぎ取ってその筋に売ると高値がつく。
 ただし剥がすと痛いので、ものっそい抵抗に合うのが予測される。

未亜の性格? 成り行き。電波。雷波。あと読者様の一部に煽られたよーな気がする。

あとセル、お前の足のサイズじゃ未亜の靴は物理的に無理と違うか?


16.舞ーエンジェル様
アイデアをありがとうございます<m(__)m>
うーむ、しかしこれは…使いどころが難しいですね…。
登場させるとすれば……ガルガンチュワの中で冷凍冬眠でもしてたって事にしましょうか。
刷り込みって事にすれば、“破滅”の軍に付き従う理由も出来るし。

まぁ、雌雄同体に関しては別の需要で使うつもりですよ。
萌えの方向ではなくて、多分シリアスシーンで。
あと、大河が救世主になった理由にも…多分関係します。

最近ゲームやる時間がナイっす。
お勉強に忙しくて…。
でも何とか入手は出来たので、時間を見ていずれ。

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