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▽レス始

「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第六話 ふさがらない傷痕。逸らした現実 前編(SEED運命)」

ANDY (2006-05-24 17:21/2006-05-24 17:22)
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 人は、いや、この世に存在する生き物全ては様々な感情を持ちながら生きる存在である。
 喜び。
 怒り。
 哀しみ。
 楽しみ。
 それら様々な感情を日々感じ、他の生き物とは違いそれぞれの感情をいつまでも胸に抱きながら生きていく。
 それが生命と言う存在だから。
 だが、そのような生命の中でも、人と言う存在は他とは一線を画すものがある。
 人は、その感情をいつまでも胸に収め、その思いと共に生きていくことが可能な生き物であると同時に、その思いと折り合いをつけ昇華することもできる存在なのだ。
 だが、逆に、その思いに囚われ、昇華することが出来ずに生をただ過ごしてしまうのもまた人と言うものの持つ特性だ。
 だが、もし、その自らの胸に巣食ったその思いが、溢れ出してしまったとしたらどうなのだろう。
 ただ溢れ出すだけではなく、世界そのものを塗りつぶすような勢いで。
 哀しみは新たな哀しみを、憎しみは新たな憎しみを呼び寄せることしか出来ないのだろうか。
 多くの哀しみ、嘆き、怒り、苦しみを生み出してしまった天に浮かびし霊園が、いま、母なる大地へと落ちようとしている。
 怒り、嘆き、哀しみ、苦しみなどの感情と言う風を受け、母なる大地に同じものを生み出させようとするために、今、天に浮かびし霊園は漆黒の宇宙を進む。
 その結果生み出されるものが何なのか、それがもたらすであろう世界が被る運命を、まだ誰も知らない。


 二年前、世界すべてを巻き込む戦争の火種となり、戦後ユニウス協定が結ばれた多くの魂が眠るユニウス7で、まるで死者の眠りを妨げるかのように活動する謎の一団の姿があった。
 その一団とは、漆黒の宇宙に溶けるような黒の鎧を纏った鋼の巨人達であった。
 その巨人、MSに造詣が深いものでなくてもその機体がなんと呼ばれるかわかる外観であった。
 ZGMF-1017M2−ジン・ハイマニューバ2型―と呼ばれるそのMSは、せわしくその体を動かし続けていた。
『太陽風、速度変わらず。フレアレベルS3。到達まで予測30秒』
 オペレーターからの報告を一体のジン・ハイマニューバのコックピットで聞いていたその集団のリーダーらしい男はそれを静に耳にし、万感の思いを滲ませながら部下へと指示を出した。
『急げよ、9号機はどうか?』
 その言葉を聞きながらユニウス7の残骸に設置していた巨大な装置を操作していた作業ポッドから返答が入った。
『はっ!間もなく』
 そう言うと、作業ポッドのアームは巨大な装置“フレアモーター”のキーを押し設定を続けた。
『放出粒子到達確認。フレアモーター受動レベルまでカウントダウンスタート』
 そんな観測担当からの通信を聞くと、その場にいた全ての作業用ポッドとMSがフレアモーターから離れていった。
『10、9、8、7、6、5、4、3、2、粒子到達。フレアモーター作動』
 その報告と共にフレアモーターが次々と作動を開始し、遠くから見ればまるでクリスマスツリーのようにも見える、一種の幻想的な光景を漆黒の宇宙に生み出していた。
 その光は、まるでその場に眠る魂たちを癒すかのようにも見えた。
 だが、実際は決してそのような優しい代物ではなかった。
 元来、フレアモーターは太陽風―太陽の彩層から吹き出す極めて高温で電離した粒子のこと。この粒子が地球の公転軌道に達するときの速さは約200〜900km/s、平均約450km/sであり、温度は106Kに達することもある。地球磁場に影響を与え、オーロラの発生の原因の一つとなっている―と呼ばれるプラズマによってもたらされた磁力を利用した推進システムである。
『ユニウス7、移動開始しました』
 オペレーターからの報告を受けたリーダーらしい男は、自分の機体に敬礼をさせるとコックピットの内部に張られた数枚の写真を眺め呟いた。
「エヴァ、リノ、そしてマーヤ。やっと、やっとお前たちの無念を晴らすことができる」
 男とウェディングドレスを身に纏い幸せそうに微笑む女性との写真、危なげに生まれたばかりの子供を抱き上げている男の写真、二人の子供達とともに風呂に使っている男の写真、それらもう失われてしまった、いや、奪われてしまった男にとっての黄金の日々を思い出させてくれる写真に触れながら、何かを噛み締めるように男―サトー―は目を伏せた。
 その胸に去来しているものは何なのか、それは誰にもわからない。いや、もしかしたら、本人でさえもわかっていないかもしれなかった。
 しばらく、時間にして一分ほど黙祷を捧げていたサトーは、目を見開くと同時に天に響けとばかりの大音声を轟かせた。
「さあ行け!我等の墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れそれを享受することを許容させるこの世界を、今度こそ正すのだ!」
 その声に応えるかのように、ユニウス7は周囲に漂っていた他のデブリを跳ね除けながら、その体を地球へと向け進み始めるのだった。
 彼らは、今の世界に不満を抱き、欺瞞と偽善に満ちた世界で生きていくことをよしとはすることの出来ない、過去にすがりつく亡霊と呼んでも遜色がない集団であった。
 彼らの思いが、今の世界をどのような運命へと導いてしまうかは、誰にもわからなかった。
 そんな思いを向けられていると知らないのか、それでも地球は回っていた。


「おーい!誰かC13ケーブルを持ってきてくれ!!」
「ルナマリア機は内部検査も念入りにしろっていっただろう!!」
「フライヤー各機のデータリングどうなった?」
「エンジン周りの修復作業はどうなんだ!」
 今現在、戦艦ミネルバでどこの部署が最も忙しいか、と尋ねられたら、全員が「整備部だ」と答えるだろう。
 先の戦闘で被ったミネルバの外部装甲の損傷や、エンジン部分のダメージ、それに右舷に取り付けられた全武装に何らかの不具合が生じてしいそれらの修理、それに戦闘をしたMSの整備と修理と、整備スタッフは不眠不休と言う言葉が合致するほどの働き振りを見せていた。
 だが、いくら整備部が優秀な人材を揃えていようと、まともなドッグすらないこの状況では十分な整備を行えず、なおかつ人手も足りないというのが現状であった。
 人手が足りない、ならどうすればいいか。
 簡単だ、使える人材を他所の部署から引っ張ってくればいいのだ。
「ルナ、反応を見てもらえるか?」
「OK、シン♪」
 整備スタッフに混じってルナマリア機の修理を手伝っているシンも、そうやって駆り出された内の一人であった。
 かつて世話になった艦で習った整備のコツと、アカデミー時代に習ったこと、それにテストパイロット時代に勉強した全てを駆使して、整備スタッフとなんら遜色のない働き振りをシンは見せていた。
 そして自分の機体の方の設定も相棒とすでに終えたシンは、唯一損傷の酷いルナマリア機の修理及び整備を手伝っていたのだった。
 なお、損失具合でいけば、実はシンの方が酷いのが事実であるのだが。
 その内情としては、チェストフライヤーにフォースシルエット各一基ずつの損失は、普通のパイロットであれば全損といっても過言ではないほどでのものであった。分離・合体機構のMSでなかったら大破で一機損失と言うスコアであった。
 いくら、合体機構が売りのインパルスの性能をフルに使った結果とはいえ、それを整備スタッフが甘んじて受け入れるかといえばそうではなかった。
 今後二度と、最悪の事態に追い込まれない場合の「インパルス・イリュージョン殺法」の使用を禁止されてしまったのだった。
 シンは何かそれに対して反論したかったが、無言で何かを語りかけてくる整備班長のマッド・エイブスの顔を前に何も反論できずにただ首肯せずにはいられなかったのだった。
 話がそれたが、そんなことを背景に、シンは整備をしているのだった。
 格納庫は熱気と喧騒に包まれながら、傷ついた鋼鉄の戦士たちと女神の傷を癒すことに全力を傾けていた。


 ミネルバがその身に負った傷を癒している時、プラント本国は蜂の巣をつついたような騒動に見舞われていた。
「ユニウス7、更に加速2%。依然、地球への衝突コース、005」
「一体何があったというんだ!?」
「あれだけの質量だぞ、そう簡単に軌道が変わるわけがない」
 ユニウス7の軌道監視局からそのような通達を受けてプラントの評議会では混乱が起きていたのだった。
「ミネルバの議長との連絡は?」
「本当に地球に向かっているのか?」
「回避の手立ては?」
「地球への警告はどうするのだ?」
 全員、あまりにも想定の範囲外の出来事にただ慌てることしかできずに、有効な対策の指示を取ることができずにいた。
 これが組織としてはまだ若すぎるプラントの実情なのかもしれなかった。
 いくらコーディネイターが資質的に優れているからとはいえ、経験と言うものの前にはそれはなんらアドヴァンテージにはなりえず、かえってネックになってしまっているようだった。
 事実、評議会議員たちは慌てるだけで、有効な対策の指示を出せずにいるのだから仕方がないのかもしれない。
 そんな踊り続ける会議場を嘲笑うかのように、ユニウス7は確実にその体を地球へと向け進んでいた。


 士官室ではそこを訪れたデュランダルとタリアからもたらされた報せに、カガリが絶句していた。
 その報せとは、ユニウス7が、軌道を外れ地球に向かって移動している、と言うものであったからだ。
 百年単位での安定軌道にあるはずのそれが、何故動いてしまったのかは定かではない。分かっているのは、移動速度がかなり速いと言う事と、もう一つ。
現在の軌道は、地球への直撃コースだと言う事だった。
 プラントの直径は約十キロ。
 隕石ほどの速度は無いだろうが、これだけの物が直撃すればどれだけの被害を被るのか。
 想像するだけで身の毛がよだってしまう。
 カガリの後ろに控えていたアスランも、声にこそ出してはいないが明らかに動揺していた。
 無理もないことであろう。
 問題になっているユニウス7は、彼の母、レノア・ザラが眠る場所。
 母の棺とも言えるそれが地球に牙を剥けた等と聞いて、動揺しない方がおかしいのだ。
 不安定に揺れる視界の端でデュランダルを見た時、アスランは微かな引っ掛かりを覚えた。
 デュランダルはプラント最高評議会議長らしく、沈鬱そうな表情で言葉を紡いでいる。
 それだけ見れば、別に変ではない。
 プラントの最高指導者が、プラント市民にとって悲しみの象徴であるユニウス7の件で、心を痛めないはずが無い。
 ならば何故?何故引っ掛かりを覚えてしまうのだろうか?
 そこまで考えた時、アスランはようやく安定してきた視界で、デュランダルの顔を捉え、引っ掛かりの理由をようやく理解するのだった。
――ああ、そうか
 眼だ。
 彼の眼は、地球で見た湖面の水面のように静で、一切の動揺の色を宿していないのだ。
 こんな緊迫した状況でさえ、彼は穏やかで落ち着いている。いや、異常なほどに落ち着きすぎているといっても過言ではない。
 何をするにもそつが無く、優雅。それでいて、決して揺れることのない胆力と信念。
 まるで完璧な演技者であるかのような彼の動作と空気が、引っ掛かっていたのだ。
――まるで、万人が願って止まない理想の為政者像だ
 そんな感想を抱いてしまった。
 かつて出会った為政者の一人であるウズミ・ナラ・アスハは、その瞳に情熱と信念という名の炎を宿していた。
 自分の父であるパトリック・ザラは妄執と狂気、それに復讐と言う名の炎を。
 だが、この目の前に立つ人物の眼には、そのような炎は存在せず、ただ静かな水面が広がっているだけだった。
 だからといって、彼が決して為政者としてふさわしくないか、と問われれば否と言うしかないのもまた事実だった。
――わからないな。
 いや、もしかしたら、理解できないから不審に思っているのか?

「――原因の究明や回避手段の模索に、我々プラントも全力を挙げています」
 愕然とする結論を導き出してしまう思考の渦に飲み込まれそうになった時に聞こえてきたその声に、アスランはふと我に返り、それと同時に目の前の人物に疑念を抱きかけた自分を恥じてしまった。
 そうだ、彼らにしても、今回の件は人事などではないのだ。
 直接的な被害が出ないのに、この事態に心を砕いてくれ、対策を講じて対応してくれている。
 そんな彼らの指導者を、プラントを終焉へと導こうとした男の息子である、プラントから逃げた自分が疑うなんて…………自分は一体何様だと思っているんだ?
 アスランは内心自嘲しながらカガリを見れば、きつく手を握り締めながら俯いていた。
「またもやのアクシデントで、姫には大変申し訳ないが、私は修理が終わり次第ミネルバにもユニウス7に向かうよう、特命を出しました」
 その言葉に、カガリは勢いよく頭を上げ、まるで信じられないことを耳にしたと言う表情を浮かべた。
「幸い位置も近いので。姫には、どうかそれをご了承頂きたいと」
「無論だ!これは私達に………いや、こちらにとっての重大事だ」
 議長の言葉を覆い返すよう勢いよく言ったにも拘らず、すぐにカガリは力なく俯いてしまった。
 何故なら、今この場でカガリが出来る事が何一つ無いことに気づいてしまったからだった。
 こんな非常時であるにも拘らず、国元で対策を立てることも、国民の側にいてやる事も出来ない。
 こんな自分は本当に為政者として正しいのだろうか。
「難しくはありますが、お国元と直接連絡が取れるよう、試みてみます。出迎えの船とも早急に合流できるよう、計らいますので」
「…………ああ、すまない」
 カガリを労わるようなタリアの言葉に、カガリは忸怩たる思いでただ頭を下げることしかできなかった。
――力が、力が欲しい


 ユニウス7が安定軌道をそれてしまった、と言う情報は瞬く間にミネルバ内部に広がってしまい、皆その話題について言葉を交わしていた。
 それは、ここ休憩室でも同じであり、艦橋で直接その報告を聞いたメイリンを中心に会話がなされていた。
「でも、どうしてあんな大きなものが動いたんだ?百年は安全軌道だったんじゃなかったの?」
「隕石でも当たったんじゃないの?」
 メイリンからの情報に、やっと休憩時間になったヴィーノとヨウランの二人は甘めの飲み物を口にしながらどこか他人事のように会話をしていた。
「どうしたんだ?」
「あ、シン!」
 そんなところに、整備が一段落したシンとルナマリアが休憩室に入ってきた。
「二人とも、ご苦労だったな」
「お、サンキュ!」
「ありがとう」
 レイから渡された飲み物を一口口に含みながら、シンはメイリンに視線だけで話を促した。
「実はね―」
 その視線に気がついたメイリンは、二人に先ほどまでしていた話をもう一度口にするのだった。
 その話を聞いて、二人の顔には驚愕と何か諦念のような色が浮かんでいたのだった。
「まったく!アーモリーワンじゃ新型の強奪が起きたと思ったら、次はユニウス7の軌道落下騒ぎ?!何がいったいどうなってんのよ!!」
 ため息をつきながらそうこぼしたルナマリアの言葉に、その場にいた者たちは無言で同意の思いを持っていた。
 あまりにも立て続けで事件が起きすぎている。
 二つの事件には、もしかしたらなにか関連性があるのでは?と、考えている者もいた。
「で?今度はそのユニウス7をどうすればいいのよ」
 ルナマリアの問いかけに、全員が考え込んだ。
 沈黙が生じたそんな中、今まで黙っていたレイと、無言でドリンクを飲んでいたシンの二人は同時に口を開いた。
「「砕くしかないな」」
 さらりと二人が口にした内容が、耳に浸透しきると共に全員が信じられないものを見るような眼で二人を見つめた。
「砕くって………」
「アレを?」
 血のバレンタインでほぼ半分に割れたとは言え、その最長部は八キロにも及ぶ巨大な構造物であるユニウス7。
 戦略核でさえ完全に破壊出来なかった代物を、果たして砕く事など出切るのだろうか。まして、プラント本国が核兵器を保有している、と言う情報はないのだ。それに代わるものがあるのだろうか?
 いまいち現実感の得られない案に皆が唖然とする中で、レイは眉一つ動かさず冴えきった表情で告げる。
「だが、衝突すれば間違いなく地球は壊滅だ。生きる者も、何一つ残らない」
 そのあまりにも現実離れした言葉に、全員が息を呑んだ。
 例えば直径一キロの小惑星が衝突した際のエネルギーをTNT火薬の爆発力に換算すると、およそ十万メガトンに達する。
 核爆弾の威力が五十メガトンであり、その二千倍に相当するということから考えれば、いかにとんでもない威力かが想像できるのではないだろうか。
 そして、直径が十キロ近いユニウスセブンの場合、単純計算して十億メガトン近くの爆発力になってしまう。
 無論、小惑星よりは突入速度が遅い為、また、大気圏突入の際に何パーセントかは削れるかもしれないので単純に換算する訳には行かないが。
 それでも、それが引き起こすであろうその後の地獄を想像することは容易であった。
「地球…………滅亡?」
「だな」
 呆然と呟いたヴィーノの言葉に、ヨウランは短く肯定の言葉を発した。
「で、でも。まだあそこには死んだ人たちの遺体もたくさんあるんだよ。砕く以外に何か方法はないの?」
 メイリンのその問いかけに、レイは表情を変えることなく淡々と答えた。
「軌道の変更など不可能だ。衝突を回避したいのなら、砕くしかない」
 その言葉に、メイリンは何も言い返すことが出来なかったし、その場にいた誰もその答えが間違っていると声高に叫ぶことは出来なかった。
「………俺達はあそこに眠る魂たちを冒涜するために砕くんじゃないんだ」
 うつむいているメイリンの頭を軽く叩きながら、シンは小さい子に言い聞かせるように声をかけた。
「逆で、これ以上あそこで寝ている魂たちを冒涜されないようにするために砕くんだよ」
「……え?」
 シンの口にした内容の意味がわからず、メイリンはシンの目を見つめながらそんな気の抜けた言葉を口にした。
 そのシンの言葉の意味を補足するようにレイも重く、それでいて耳に心地よい声音で説明した。
「あそこに眠る24万3721人の同胞の魂を、地球に落とすことなんてさせてはならないんだ。あそこに眠る人たちは、プラントの独立を夢見て志半ばで逝ってしまったんだからな。そんな彼らの眠る大地を地球に落としてよい、と言う道理があると思うか?彼らの魂を汚すぐらいならば、俺は例え罵倒されようともユニウス7を砕く」
「俺も同意で」
 レイとシンの言葉に、その場にいた者はそれぞれ考えた。
 確かに、多くの同胞の魂が眠る場所を壊すことには抵抗を感じるし、それ以外の手段があるならばそれを取るべきだ。
 だが、実際の問題としては、破砕と言う選択肢以外に存在するものと言えばユニウス7の落下を傍観する、というあまりにも許容できるものではない。
 それに、同胞の魂が眠る場所が地球に降り注ぐ、と言うのも容認できそうにない。
 ならば、どうすることが彼らの御霊に報いることが出来るのか。
「………………うん。そうだね。悲しいことでけど、もっと悲しいことが起こるのを防ぐためなんだもんね」
「そうよ。それに、もし、ユニウス7の関係者の人が壊したことに苦情を言いに来た時は、精一杯謝って理解してもらいましょう」
「うん。でも、お姉ちゃん説明できるの?そういうの苦手でしょう?」
「そのときはシンにフォローしてもらうから」
「あ〜、なにそれ!ズルイー!!」
 メイリンの思いが篭った声に応えるように、ルナマリアもその思いに答えるように支えあうように言葉を口にした。
 そして、周囲にいた者達もそれぞれの胸の中にそれぞれの言葉を刻み込みながら、姉妹の微笑ましいじゃれ合いを眺めていた。
「まあ、しょうがないっちゃあ、しょうがないか。不可抗力ってヤツ?」
 先ほどまであった重苦しい空気がなくなったためか、ヨウランはおどけた口調で自分の感想を砕けて口にしたのだった。
 不可抗力―確かに言い得て妙ではあるが、大本を正せば地球側が核攻撃など行わなければこのような事態にはならなかったはずなのだから。
 『卵が先かひよこが先か』という言葉ではないが、それでも地球軍、ひいてはブルーコスモスの暴走さえなければコロニー落下などと言う事態は起きなかったはずなのだから、
 だから、プラント側からの立場で見たこの言葉が出ても仕方がないことなのだった。
「けど、ヘンなゴタゴタも無くなって、案外楽かも。俺達プラントには―」
 そう。そうすれば、地球側がプラントの方に割く関心や戦術的余裕がなくなれば、プラントをより磐石な存在へと推し進めることが出来るかもしれないのだから。
 そうヨウランが続けようとした言葉を、突如休憩室の入り口から飛び込んできた鋭い声が遮った。
「よくもそんな事が言えるな!お前達はッ!」
 突如ぶつけられた声に驚きヨウランは肩をすくめ、シン達も声のした方に顔を向けた。
 休憩室の入り口に立ち、金色の瞳に怒りの炎を宿しこちらを食い千切ろうという気炎を背負い立っていたのは、他でもないオーブ代表カガリ・ユラ・アスハその人であった。
 その姿をみて、シンとレイが落ち着き払って敬礼をすると、それに触発され他の者も慌てて姿勢を正しそれぞれが敬礼をした。
「しょうがない、だと?案外楽だと?これがどんな事態か……地球がどうなるか、どれだけの人が死ぬのか、本当に分かっているのか!?」
 シン達の敬礼に応えることなく、カガリは肉食獣のようにドスドスと休憩室の中に、シン達が囲んでいたテーブルに近づきながら自分の胸にある思いを口に出した。
 確かに、彼女が言っているのは、紛れもなく正論だ。
 地球側から見れば、笑い事ではない。
 だが、ここにいるのは軍の最新鋭艦に搭乗することを許された人間達だ。与えられた情報からどのような被害が出るかは大体把握している。それを踏まえたうえでの戯言としての、一個人としての発言だということもわかっていた。
 だから、ヨウランの発言は不謹慎であったということは、この場にいる人間全員が分かっていることだ。
 たしかに、ヨウランの言葉は、例え冗談とは言え許される言葉ではない、ということはこの場にいる全員が分かりきっている。軽率であるということも。
 だから―
「やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!?あれだけの思いをして……あんな戦争をして…………!デュランダル議長の下で、ようやく変わったんじゃないのか!?」
―この、愚かで独りよがりのこの言葉だけは、断定口調で言い切る中立国の為政者のこの言葉だけは、到底受け入れる事など出来なかった。
 その言葉を全員が耳にした瞬間、空気が固く変質した。
 柔らかくなっていた空気が冷たく無機質なものに変容し、怒鳴られ罰の悪い顔をしていたヨウランも憮然とした顔になっていた。
 限界まで膨らまされた風船。そのような緊張感が充満し、いざ破裂しようとしたそのとき―
「……………お言葉ですが」
―その重苦しい沈黙を破ったのは、酷く冷たい硬質な声であった。
 その声にカガリが目を向けると、そこでは紅い目に無機質そうでありながら、無理やり押さえ込まれた焔のような輝きを宿したシンが、じっと彼女を見つめていた。
 無表情と表現してよい顔の中で、シンは酷く平坦な声音で言葉を発した。
「先ほどの発言にありました…………『ザフトはそういう考えだ』という、この言葉の撤回を要求いたします」
 淡々と紡がれる言葉の底にある、マグマのような怒りに気付いたのか、カガリが僅かに気圧される。
「確かに彼の発言は軽はずみでした。ですが、それがさも我々ザフトの総意であるかのようなものの言い方は止めて頂きたいのですが」
「あ………」
 シンの平坦な声を聞いたためか、それとも脳の機能を正常に戻すための人体の神秘のためか、頭に上がった地がスーッと下がり冷静になると同時に、自分が言い過ぎたと自覚したのか、カガリが何か意味のない声を洩らすが、それが聞こえなかったのか、無視をしたのかシンは言葉を続けた。
「それに、代表。あなたは何か思い違いをしている。戦争の引き鉄を引いたのも、今回の騒ぎの大本であるユニウスセブンを崩壊させたのも、地球に住む人達であるのですよ。その辺のことは、お忘れなく」
 言外に「因果応報」と言う意味を滲ませながらシンはそう述べた。
 シンのその言葉は、この場にいる全員の、いや、ザフトの、プラント側の代弁とも言える言葉であった。
 独立要求の返事として24万3721人の同胞達を一方的に殺された、コーディネイター達なら誰もが抱いている思いなのだから。
「それは…………!」
「もうよせ、カガリっ!」
 なにか反論しかけたカガリを、アスランの鋭い声が遮った。
 そのありえない様子に、その場にいた全員が驚いていた。
 たかが護衛の人間が代表を呼び捨てにするなど、普通ならありえないし、あってはならない不敬な態度であったからだ。
 そんな周囲からの驚きの視線を受けながら、アスランはシンと対峙した。
「先程の代表の発言、申し訳ない。代表に代わり、謝罪しよう」
 そう言って頭を下げ謝罪の姿勢を見せるアスランに、シンも同じように頭を下げた。
「いえ、自分も言い過ぎてしまいました。ご容赦を」
 お互いに頭を挙げ、目で『この話はこれでおしまい』と確認を取り合うと、シンは手に持っていた飲み物の容器をゴミ箱に入れると休憩室から去っていった。
「…………さて、そろそろ交代の時間だな。ルナマリア、ショーンとゲイルと交代するぞ」
「ええ。あ、そうだ。ヨウランにヴィーノ、MSについて相談したいことがあるからついてきて」
「あいよ。いくぞ、ヴィーノ」
「あ、うん。メイリンも、早く艦橋に行かないと艦長に怒られるぞ」
「あ、そうだね。じゃあ、またね」
 シンが休憩室から去り、一瞬空気が停滞したその後に発せられたレイの言葉に弾かれるように、休憩室にいた者たちはそれぞれの持ち場に向かって移動を開始し始めた。
 まるで、同じ空気を共有することを拒むかのように。
 残されたカガリとアスランは、ただそこに立ち尽くすことしか出来なかった。
 ただ、こう願うことしか出来なかった。
――力が、力が欲しい


「ユニウス7が地球降下軌道をとった、ね」
 秘匿回線で送られてきた命令書を眺めながら、ケーラはそう呟いていた。
 ここは、ガーディ・ルーのケーラに割り振られた一室であり、仕官待遇で迎えられているためか個室であった。
 もっとも、ケーラが所属している部隊のことを考えればこのような処置は当たり前である。
 機密性の高い命令を与えられる特殊部隊員の部屋を大部屋に入れることは決して出来はしないのだから。
 ケーラは与えられた情報と、これからガーディ・ルーに与えられた命令と自分に与えられた命令を眺めながら口角をゆがめた。
 どこの誰が考えたか知れないが、開幕の咆哮にしてはいささか派手過ぎるきもするが、それもどうでも良いようにケーラには思えた。
 ただわかることは、ユニウス7が地球に落ちようが落ちまいが、戦争と言う名の火が再び燃え広がり、世界を覆いつくすと言うことは想像に難くない、と言うことだった。
 落ちたら報復攻撃と言う名の戦争、落ちなくてもブルーコスモス主体の危機を排除するためと言う名の戦争。
 自身が被害を被った後か前かしか違いはないが、あの老人倶楽部がこのような旨味のある話に飛び掛らないということはないはずだ。
 だからこそ、ケーラは笑う。
 所詮、平和などと言うものは幻想でしかなく、脆く儚い存在でしかない、と。
 人の歴史は戦争と言うものを土台として成り立っているのだ。それを認めることをせずただ馬鹿のように平和と歌い上げるのは、間違っているのではないだろうか。
(そう。間違っている。だから、私が、私たちが導かなくてはならない)
 ケーラは命令書が映っていたモニターを消すと、身につけていた軍服を脱ぎ捨て、裸になると備え付けのシャワー室へと向かった。
 ケーラの体は、美の女神がうらやむほどの美しさをかなえ備えていた。女性らしいふくよかさの中に、野生動物のようなしなやかさを潜ませたアンバランスさが、彼女をより妖艶に、美しく彩っていた。
 ケーラは心地よい湯を頭から浴びながら、これからの事について考えていた。
(例の二体は補給できた艦に預けて先に月に運んだから、今ここにある機体は私のと補給されたダガーL三体だけ。でも、命令の内容から考えて、ダガー系を使うのは憚れるから、実際動かせるのは私だけ、か)
「楽しそうじゃない」
 そう呟くと、ケーラは右目に指を当て、嵌めていたものを取り外した。
 そして、湯を顔に当ててなんとなく備え付けの鏡に向けた。
 曇っている鏡に映ったのは、亜麻色の髪をした左目に黒曜石のような瞳を持ち、右目に紫水晶のような輝きを持った美女が映っていた。
「…………」
 ケーラは無言で左目に手を当て、その当てた手の人差し指を眼球に突き刺そうとした。が、すぐに止めて浴室から出て行ったのだった。
 後に残ったのは、残り香のように漂う湯気と、置き去られた黒のカラーコンタクトであった。


―中書き―
 新作が発売された.hackが面白く、これ本当にネットゲームにならないかな〜、と思っているANDYです。
 前作のシリーズから進化した内容に、もう興奮しっぱなしです。
 さて、今回の話はどうだったでしょうか。
 人は何か物事を見るときには、自分の立場からしか見ることが出来ないものです。それが人なのだから当たり前なのです。
 ですが、当たり前を当たり前にしてはいけないのが政治家ではないのでしょうか。
 またカガリに対して言われそうですが、前回のときと同様にTPOを彼女はあまりにも考えなさ過ぎとしか私は思えないので、今回もこのようになってしまいました。
 彼女がもう少し自分の立場や義務に責任、それらを認識した上で行動すればもう少し良いと思うのですが。某所では羽ガンダムのクィーンの方が無能、と言う意見もありますが、私はそうは思えません。すくなくとも、彼女は自分の立ち位置を常に把握した上で行動していると思えるからです。
 さて、これからどうなることでしょうか。

 恒例のレス返しを
>花鳥風月様
 感想ありがとうございます。
 まあ、彼の名誉のために聞かないで上げてくださいw
 前回のようなほのぼの空間が話の緩衝材や、興奮剤のような働きをしてくれるようにがんばっていきます。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>HIROKI様
 感想ありがとうございます。
 何とか生き残れましたが、これから彼に襲い掛かる運命を乗り切ることが出来るのでしょうかねw
 今回はシリアス路線ですね。
 さてさて、私はどこまでシリアスに描けるのか。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>戒様
 感想ありがとうございます。
 原作のシンがこのような行動を取っていたら、某人の好きなキャラを活躍できないのではw
 まあ、そのあおりを思いっきり食らってますからね〜w
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 何とか生き残れましたw
 ステラは萌えキャラだと思うのでこのようになりました。
 美味しい設定なのになんでああも放り投げることが出来たんだか。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>シヴァやん様
 感想ありがとうございます。
 ははは、そんなコニール嬢まで手を出すほどうちのシン君は節操がないなんてことは………………もしかして、そうしたほうが美味しい?
 ああ!なんか言質をとられてしまいましたねw
 まあ、これからの展開にご期待してください。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>ユキカズ様
 感想ありがとうございます。
 ま、まあ、あれはシンの主観ですのでなんともいえませんよw
 それと、勝利者は、秘密、と言うことでw
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>ATK51様
 感想ありがとうございます。
 あの時期のあの姉弟では、少し性格が歪んでいましたのでどうだったのでしょうかね?まあ、抵抗せずに何とか交渉で少しでも立場を優位にしようとしていたかもしれませんね。
 映画の方は、まあ、娯楽として楽しめる作品になることを祈る方向でw
 ただ、二元論で判断することは危険だということを訴えて欲しいですね。戦争、と言うものを取り扱うのなら。戦隊シリーズならともかく。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>なまけもの様
 感想ありがとうございます。
 シンにとってはSという先入観がありますし、ガイアに躊躇なく銃口を向け引き金を引いたのでそう認識しているんですよ。
 『強化人間計画』は、連合のパクリと言うか、そのような計画はどこの軍部でも歴史上やっていましたからね。ナチや731部隊(実際にその部隊だった人の話を聞く機会があったのですが、あまり気分はよろしくないですね。映画でもあるのですが、興味をもたれたら見てみてください。戦争の狂気の部分が鮮明に見れますので。ただ、エチケット袋を忘れずに。本当にかなりきますので)など。
 まあ、同じ薬品云々はある意味布石のひとつだと思っていてください。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 所詮人間ですからね。考えることは一緒なのですよ。
 この作品の彼らがどうなるのかは、運命だけが知っている、ですね。
 理性のほうですが、その前にあったシリアスと言う援軍のため補給されたので何とか戦線を押し返すことが出来たそうですw
 さて、これからどうなるのか。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>サブ様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 ここまで拙作を褒めていただけるとは、なにか背中がかゆいものがありますねw
 原作の方では、な・ぜ・かAA側の描写の方が多かったので、こちらではプラント・連合側、または運命登場の初キャラをメインにいきたいと思っています。
 アストレイ編の方は、近いうちに書こうかと思っています。ユニウス落下が終わったあたりで出せたら出します。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>TNZK様
 お久しぶりです。感想ありがとうございます。
 さて、女性陣はこれからどうなるのでしょうか、その辺もお楽しみにしていてください。
 個人的には、ステラは小動物系のイメージが強かったのであのようになったのです。それを同意していただけてうれしい限りです。
 今回はアスランとのやり取りは原作と違って、大人なやり取りにしました。というか、原作はアスランが少し子供過ぎるように感じたんですよね。
 次回、もう少し大人な会話を二人が出来るようにがんばります。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア様
 感想ありがとうございます。
 あのあとあったことを端的に言えば、練乳ワッフル蜂蜜がけ生クリームトッピング付きよりも甘い、某煩悩少年にわら人形でのろわれても仕方がないって言う感じですかねw
 まあ、「他人から見たら天国。本人からしたら地獄」という状況だったのですよ。
 これからも頑張りますので、応援お願いいたします。

 今回も感想を頂きありがとうございます。
 そういえば、七月についにミナ様専用天が百分の一サイズで発売されるという情報をゲットしました。
 お〜、めちゃくちゃ欲しいですね。暁のように金メッキなのかな?
 四千円近くても購入してしまうかもしれませんね。
 でも、アウトフレームも欲しいですね。磐梯山、その勢いで出してください。
 では、今回はこの辺で。
 次回もお楽しみに。
 では

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