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▽レス始

「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第五話 女の戦い?というか、緊張感は?!後編(SEED運命)」

ANDY (2006-05-12 13:21/2006-05-12 13:25)
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 鼻腔を優しく撫でる、ココアの柔らかな香りを胸いっぱいに吸い込むと、シンは少し甘めのそれを口に含んだ。
 味は匂いに遜色なく優しい味で、弱った自分の胃を優しく覆ってくれるような感じがした。
(いやいや。そんな風に感じる時点で人生どうかと思うのは俺だけか?)
 なぜココア一杯で小さな安心を感じている自分に少し鬱になりながら、それでもシンはココアを飲むことは止めなかった。

 ココアを飲みながら、シンは医務室に備え付けられているベッドの一つに視線を向けた。
 視線の先には、童話の眠り姫の如き少女が寝ていた。
 童話と違う点は、善い魔女に魔法で眠らされたのとは違い、肉体的、精神的疲労等が要因で眠っている点だろう。
(…………あれは?)
 その、金色の髪をした少女の閉じられた目元には、いく筋もの跡が付いていた。
(涙?)
 怖い夢でも見ていたのだろうか。目尻に小さな水溜りを作っているそれを見たシンは、少しいたたまれない気持ちになってしまった。
「気になる?」
「まあ、それなりには…………」
 マグカップを片手にそう尋ねてくるアリアに、シンは少しはぐらかすような声音で肯定の返事をした。
「そう。そうね。あなたは彼女の命を救ったんだから、彼女の現状を知りたいと思うのはしょうがない、か」
「先生?」
「じゃあ、彼女、ステラちゃんのことについて説明するわね」
 シンの疑問の声に答えることなく、アリアは医師の顔になるとステラの症状についてシンに説明を開始した。
 その内容は、あまりにも聞くに堪えるものではなかった。

「この前も説明したけど、ステラちゃんは重度の薬物中毒で、定期的に薬物を投与しないと日常生活に支障をきたす程なの。もちろん、現在の医学ではそのような薬物の多くを中和することも可能だけど、ミネルバに備え付けの薬品では万全の治療を施せるか、と聞かれれば正直に否と答えるしかないの。確かに、ミネルバには興奮剤や鎮静剤など、一歩間違えれば毒になるような薬も存在しているけど、それらの多くは中毒性の低いものなの。そのため、中和剤の類はそんなに種類があるわけではないのが現状ね。でも、勘違いしないでね。現状で出来る治療は施しているから。その辺は私を信頼して。でも、これ以上の治療を施すには本国なりちゃんとした医療設備の整ったところでないと出来ないのも現状よ」
「………はい」
 アリアの説明に、シンはマグカップを握っていないほうの手を握り締めながら耐えるようにその説明を聞いていた。
 聞いていたのだが、その内容に胃の辺りがマグマのように熱く、ドロドロとするのを押さえられそうにはなかった。
「そんな顔をしないで」
 その気持ちが顔に出ていたのか、アリアのどこか懇願するような声を耳にし、シンは言いようの無い罪悪感を感じてしまった。
「それと、彼女のことは艦長のほうにも報告をしておいたわ」
 その言葉を聞いた瞬間、シンは先ほどとは別に胃が縮こまってしまうのを感じてしまった。
(………………し、しまったーーーーーーーーーー!!!今までドタバタやら何やらで忘れてたけど、アリア先生に口止めなりなんらをするのを忘れてたーーーーーーーー!!!どうする、どうする俺?!あれか、原作どおりあの仮面男のところに運んでいくか?いやいやいや、ステラの症状が俺の記憶にあるのと違うんだから、あの仮面男の性格だって変わってるかもしれないし、なにより、あのどう考えても『体はSで出来ている』というフレーズの詠唱をかましそうなケーラがいるんだ。返したら一体どんな事をするか。……………絶対ピンクだ、ピンクの空間が登場する!!というか、ピンクって何だーーーー!!)
 一人心のうちでテンぱっているシンの内情を知らずに、アリアは説明を続けた。
「それで、ここから先は本当は第一級の機密事項に触れることなんだけど、あなたを信じて口にするから、他言無用でお願いね」
「え?いいんですか?そんなこと俺に言って?」
「ええ。彼女は多くの不特定の人たちにその存在を見られているんだから、下手に隠すよりも協力して漏れる情報を制限した方が最良だからね。だから、彼女の肉体面、特に薬物関係のことはこの部屋以外では漏らさないでね」
「はい」
「じゃあ、説明するわね。彼女の検査をしたとき、遺伝子検査もしたんだけど、そこから彼女がハーフであるということがわかったわ」
「ハーフ?!」
 伝えられた内容に、シンは驚きのあまり声を上げてしまった。
「ええ。まあ、もっともハーフと言う存在は珍しいといえば珍しいんだけど、それでもプラント社会に絶対いないのかと問われれば否定するしかないから、アーモリーワンにいても不思議ではないのよね」
 アリアの説明に、シンは自分の寡黙で揺るがない鋼の意思を秘めた眼差しを持つ友人を思い出していた。

 プラント社会を構成しうるのは、第一世代とその子供である第二世代。それに、第一世代の両親であるナチュラルや、ナチュラル・コーディネイターという垣根を越えて愛を育んでいる人たちと、その結晶である人物達で成り立っているのは周知の事実であり、コーディネイターのみの国と言う認識は実際は間違ったものであるのだった。
 どちらかといえば、中立を掲げるオーブなどと近い気質も見せているのだが、唯一違う点は国のトップについているのがコーディネイターかナチュラルかの違いであるだけである。だが、その違いが大きな問題点であり、それがプラントを一つの国として認めない地球側の主張にも重なるのだった。
 なぜならば、地球の政治を担うトップの多くが(その大半がブルーコスモスの思想を肯定しているのは選民思想を持っているアングロサクソン系であるためであろうか)、『コーディネイター=家畜』という認識を持っているためであった。
 ゆえに、家畜がトップを張っている存在など国家とは認められない、と言うのが今日の世界情勢を形成するのに関わる大きな理由であった。
 その認識は毒のように世界に浸透しており、某中立国でもそれは浸透しきっているのは隠しようのない事実である。そのため、いかに国を愛していようが日陰の存在として扱われていた姉弟が存在したのもまた事実である。

「それで、彼女がただの薬物中毒者ならば問題はなかったのだけど、前にも説明したとおり、彼女の筋組織の異常発達や骨格の歪み、それらが問題なのよ」
「………………」
 アリアの説明に、シンは納得するしか出来なかった。
 薬物中毒だけならば、若さゆえの過ちなり好奇心なりの言葉で納得することは出来るのだが、筋肉や骨格などを見ると、そのような考えは該当しないと言うことが納得できてしまう。
 その説明に納得しながら、シンはアリアの次に出る言葉でどのような行動を取るべきか悩んでいた。
 そんなシンの内情を知らずに、アリアは説明を続けるのであった。
「この前の大戦の事を覚えている?」
「はい?…………まあ、それなりには」
 突如聞かれたことに肯定の言葉を返すと、アリアは信じられないことを説明し始めた。
「大戦末期になると、地球側もMSを使うようになり、今までプラント側が持っていた『量よりも質』というアドヴァンテージが崩壊してしまい、戦争がより混沌化したのは知っているわよね」
「はい」
 確かに、絶対数で見るとどうしようもないほどの差があるプラントが、地球と同等かそれ以上に有利に戦争を進めれていたのはMSという既存の存在ではない兵器を持っていたからだった。その新兵器一体あれば、戦車の大隊と戦っても引けを取らない戦果を望めるということが、プラント側の弱点である物量を補って余るほどのアドヴァンテージとなっていたのだった。
 だが、地球側にMSが登場してからはそのアドヴァンテージはなくなってしまった。
 同じ条件になってしまえば、数で勝る地球側が優勢になるのは火を見るよりも明らかであった。
 その状況を覆すために、プラントはMSに核動力を搭載し、ついには広域破壊兵器の開発まで手を出したのは、ある意味では仕方がのないことであったのかもしれない。
 だが、彼らの多くは知らなかった。自分たちのアドヴァンテージを奪ったのが、自分たちの同胞である一人の少年の開発したOSであるという事を。
 ある宗教では、弟子が僅か数枚の銀貨で師を売り渡すということがあったが、かの少年がしたことはそれと同等であるのではないだろうか。たとえ、少年が求めたのが銀貨ではなく友人を守るための力であったとしても。
(そう考えれば、英雄ではないんだよな)
 正体不明の三隻同盟のエースパイロットと呼ばれている人物を一瞬思い描いたが、すぐのその思考を外へと追い出した。
 だが、考えずにはいられなかった。
 もし、彼があの時ストライクに乗ると言うことが起きなかったのならば、あそこまで世界が狂うことはなかったのではないだろうか、と。
(ま、それはIfの話だわな)
 埒もない考えをすぐに忘却のかなたへ押しやると、シンは改めてアリアの言葉に耳を傾けるのだった。
「そんな中、ある計画が立ち上がったそうなのよ」
「計画?NJC(ニュートロンジャマーキャンセラー)搭載のMSのことですか?」
「いいえ。それではないし、ジェネシスでもないわ」
「じゃあ、何だと言うんです?」
「コーディネイターが新たなコーディネイターを生み出す、って言う計画よ」
「?それは、プラントの人口問題解決のことですか?」
 アリアの言葉に、シンは眉を寄せずにはいられなかった。
 どういうわけだか、コーディネイターの第三世代の受胎率はあまりにも低く、ある宗教家は神の摂理に反したための呪いだ、と豪語するほどであった。優れた医学知識であっても、その問題を解決するには至ってはいなかった。
 前大戦末期でもこの問題に対しては予算は削減されることなく研究は続けられていたことから、いかに重大なことかは伺え知ることが出来る。
 そのことかと思い尋ねたシンに、アリアはどこか悲しみを滲ませた声音で答えた。
「いいえ。そうではないの。新たなコーディネイターと聞こえはいいけどね、実際はあることに特化した存在を生み出そうとしていたの」
「あることに特化?」
「戦闘能力よ。大戦時の末期になると、物量で劣るプラントが勝利を得るためにどうすれば良いか、と言う問題に直面したとき、当時の上層部の一部過激派がこういう結論を出したらしいの。『量にまかなえ切れない質ならば、より質を上げればよいのではないか』って」
「?!それは!!」
「そう。より多く敵を倒すために、パイロットの地力を底上げすると言うことよ」
「そんなのは絵空事でしょう!!そんな簡単に地力を上げることなんて、それこそ薬物やら洗脳やら……………まさか?!」
「ええ。そういう結論に到達してそれを採用したそうよ。薬物や洗脳で人間性を消すことで、より多くの敵を倒すことの出来る兵士、『強化人間(ブースデットマン)計画』は当時の最高権力者承認の下研究が進められていたそうよ」
「狂ってる!!それは、絶対に越えてはいけない一線のはずだ!!」
 あまりにも伝えられる内容に、シンは怒りを抑えられずに声を張り上げた。
 余りにもおぞまし過ぎる。
 なぜ、そんな人を人と思えないことを思いつくのだろうか。
 これが、戦争が生み出す負の産物なのだろうか。
「ええ。本当に狂っているわね。でも、もし、戦争がもう一月長く続いていたら、そのような存在が戦場に登場していたかもしれないのも事実なのよ。悲しいけど」
 その言葉に、どう答えていいものかわからずただただシンは耳を傾けることしか出来なかった。
「それで、それがステラとどういう関係が………まさか、先生は」
「…………戦争終結と同時に、『強化人間計画』は中止され、全ての研究データは破棄されることになったらしいの。でも、戦後の混乱にしょうじてかどうかはわからないけど、かたくなに計画の継続を訴えていた一部の過激派の研究者が行方不明になっていたそうなの」
「……………」
「もう、想像がついていると思うから結論を言うわね。彼女、ステラちゃんの体内から検出された薬物の中に、その計画の中で使用されていたものと同等のものがいくつか検出されたの。それらを踏まえて導き出した答えは―」
「強化人間、かもしれない、ということですね」
「……ええ。そういう結論になるわ」
 疲れた声音でそういうアリアの声に意識の半分を傾けながら、シンは残りの半分で考えていた。
(………………結局、どっちも同じ穴の狢じゃないか。地球軍とZAFT、どっちも人として超えてはいけないラインを超えているじゃないか。それとも、超えてしまったから戦争になんかに発展したって言うのか?わからない、わかんねーよ!!でも、これはある意味チャンスなんじゃないのか?ここで、ステラがその計画の被害者だと言う結論に導き出せることが出来れば、ステラは暖かい場所で普通の女の子として暮らしていけるんじゃないだろうか)
 そう考えた瞬間、シンはそれが至上の選択のように思えて仕方がなかった。
(そうだ!そうすればいいじゃないか!!入院やら何やらで大変かもしれないけど、戦争に参加するよりも断然いいはずだし、それに、身元引受人の名前を兄貴に借してもらえばいいじゃないか!!別の世界のシン・アスカ!!お前が望んでいた世界を俺はここのステラに贈って見せるぞ!!)
 そう結論付けると、シンはアリアに肝心の部分を尋ねることにした。
「それで、彼女はどうなるんですか?」
「さっきも言ったけど、ちゃんとした医療設備の整ったところで治療をして、各種リハビリをしなくてはならないわ。でも、決して悪いようにはならないはずよ。彼女は戦争の被害者なんだから」
 それに、子供を助けるのが大人の役目よ、と微笑みながらアリアは力強く言葉を発するのだった。
 それを聞き、シンは大きく安堵の息をついた。
 最悪の事態、研究所で生きたまま解剖などと言う最悪の事態は回避できそうだからだった。
「でも、このことは他言無用でお願いね」
「あ、はい。わかりました」
 シンはアリアにそう答えると、未だ眠るステラのほうへと足を向けるのだった。

(よかったな。これで、もう悲しくて辛い思いをすることはなくなるんだよ)
 シンは、もう薄くなっている大鷹真矢としての記憶の中にある、テレビの中のシン・アスカのステラを返す時のすがるような声と、事切れたステラを湖の中へと沈め、無力な自分を悔い後悔の声を漏らしていた場面を思い出さずにはいられなかった。
(暖かくて、優しい世界に行けるんだ。よかったね)
 そんな思いを込めながら、シンはステラの目尻に残っていた涙を軽く指先で掬い取った。
「…………ん」
 その感触に気づいたのか、それともシンの気持ちが呼び起こしたのかはわからないが、ステラの口から小さな音が漏れた。
 それに康応するかのように、ステラの閉じられた瞼がゆっくりと開いていった。
 その開かれた瞳は、どこか中空を彷徨うように焦点が合っておらず、儚さを与える要素になっていた。
「先生!目を開けました!!」
「あらあら」
 シンはあわててアリアに声をかけると、すぐにステラの傍から少し離れた。
 その開いた空間にすべるようにアリアは入り込むと、ペンライトを瞳に向け光を揺らし動向を確認したり、脈拍を測ったりなどの診断を始めた。
 そして、何かを手元に持ってきていた電子カルテに記入しているのを横目に見ていると、シンは自分に向けられている視線を感じた。
 その、何か初めて見るような視線に疑問を感じながら、シンは声をかけることにした。
「よ。気分はどうだい?ステラ」
「……………」
「ステラ?」
「……………」
「え?もしかして、耳に異常?」
「…………だ、れ?」
「はいーーーーーーーーーー?!」
「あらあら?」
 ステラの口からこぼれた言葉は、シンに衝撃を与えた。
(いやいやいや。少し天然が入ってるようだったから、俺の事を忘れてもしょうがない、のか?)
 何とか理論武装することで受けた衝撃を逸らそうとするシンの耳に、新たな衝撃が飛び込んできた。
「ステラ、ってだれ?」
「そっちかい!!」
「あらあらあら?」
「アリア先生!!もしかしてもしかしてですか!!」
「多分、そうなんでしょうね」
 慌てて尋ねるシンに、アリアも眉を寄せながらそう口にすると改めて問診を再開するのだった。
 それを見ながら、シンは力なく呟くのだった。
「まさか、記憶喪失って言うおちか?」

 アリアの問診が終了すると同時に、電子カルテに新たな言葉が加わった。
 その言葉は『全生活史健忘』というものであった。
 これは、名前、家族など自分の全てを忘れてしまうことを意味する。
 そんな診断結果を下したアリアの顔には、困惑の色が浮かんでいた。
 それはシンにとっても同じではあったが、それ以上に、地球軍の事を覚えていないと言うことはよいことのような気がして仕方がなった。
 アリアの説明によれば、この記憶喪失は薬物治療の副産物であるかもしれない、とのことであった。
 それを聞いた瞬間、シンは「医療ミス?!」と言う単語が浮かんだが、次の言葉でそれは消えた。
 もともと、洗脳をしやすくするためにもともとの記憶自体を消し、都合のよい記憶を植えつけており、それを薬物投与の時に刷り込ませると言う手段を取っていたのではないか、と言うことであった。
 それを聞いた瞬間、シンはそのような手段を取っている研究者や関係者全てに殺意を覚えてしまった。

「なら、本名はステラじゃない?」
「かもしれないわね。はぁ、本当人ってどうしてこんなことを出来るのかしら」
 そんなアリアの声にシンは無言で同意をしながら、こちらを見つめているステラに向き直った。
 そして、なんと声をかけるべきか悩んでいるところに、ステラが声をかけてきた。
「…………ステラ、はだれ?」
 それになんと答えるべきか一瞬迷ったが、シンは微笑み、ステラの髪を整えながら応えた。
「ステラは君の名前だよ」
「わたしは、ステラ?」
「そう。君はステラだよ」
「ステラ……………あなたは?」
「俺は、シンだよ」
「シ、ン?」
「そう。俺はシン」
「…………ステラ。………シン」
 そう呟くステラを、シンはただ優しく髪を撫でて眺めていた。
 記憶がなくなった、と言う事実は悲しいかもしれない。
 でも、なくなったほうがいい記憶だってあるはずだ。
 そう思っているシンに、アリアは声をかけた。
「さて、シン君」
「はい」
「出て行って」
「はい?」
 突如告げられた内容が理解できず、シンはそんな言葉を漏らしてしまった。
 そんなシンの態度に気づいてか、アリアは理由を述べた。
「ステラちゃんの体を拭くから。それとも、見たいの?」
 どこかからかいを含んだその言葉に、シンは慌てて外に出ようとしたが、立ち上がろうとした瞬間、ほんの少し抵抗を感じたのだった。
 それに首をかしげながら振り返ると、そこには、自分の服のすそを掴んでいるステラがこちらを見つめていた。
「え〜と、ステラ?」
「シン。いっちゃ、や」
「はいーーーーー?」
「あらあら」
 本日何度目かの驚愕の声を上げるシンを、アリアは何か微笑ましいものを見るような目で見つめながらお湯の用意を始めたのだった。
「え〜と、ステラさん。忘れているようだから言いますけど、わたくしめは男で、あなた様は女性なのですよ。そんな、嫁入り前の娘さんが男に肌を見せるのはいけませんよ。よって、わたくしめは外に出ようと思うのですが」
「や」
「や、って。羞恥心は大事ですよ。というか、忘れてるのならばそれだけでも速攻で思い出してください!!」
「や」
「どっちが?!ああ、先生からも同じ女性として一言!!」
「そうね。なら、シン君には部屋にいてもらいましょうね」
「なんですと!!」
 アリアの言葉を聞いた瞬間、シンは心のうちで叫んだ。
(この世に善い神様は存在しねーーーーー!!)


「はい。じゃあ、ステラちゃん。綺麗にしましょうね」
「ん」
「まずは、上着を脱ぎましょうね」
「ん」
「ん。着替えさせた時も思ったけど、ステラちゃんって着やせするタイプね。平均的なその体系よりもボリュームがあるわよ」
「……………よく、わからない」
(ああああああ!!!なんで、そんな会話をそうもすることが出来るんですか!!)
 耳から飛び込んでくる、そんな言葉を意識しないように精神を集中させながら、シンは自らの視界を封じている包帯に手を当てて声にならない声を上げていた。
 今のシンの状況を説明するならば、一言で言えば某所で言うところの『「直○の魔眼」を概念武装で封じ込めている殺人貴』であろうか。
 シンは自身の視覚を封じるために、アリアに強く締めるように頼んだのだが、それが災いして大変なことになっていた。
 人間は、どのようにして世界を認識しているかご存知であろうか。
 このような言葉がある。「視覚は世界を聞く耳であり、聴覚は世界を感じる肌であり、触覚は世界と会話する声であり、嗅覚は世界を見る目であり、味覚は世界を彩る色である。五感全てで感じる喜びは世界の喜びも感じる事である」と。
 すなわち、人間、ひいては全ての生きるものは五感を通じて世界を知っているのである。
 では、そのうちの一つがふさがれた場合はどうなるのであろうか。
 答えは簡単だ。他の残った感覚がそれぞれの精度を上げ、ふさがれた感覚の分を補おうとするのだ。
 では、今のシンの状況ではどうなるかと言うと。
(ああ、なぜだか知らんが、二人の会話がよく聞こえるし、心なしかタオルが肌を拭く音まで克明に聞こえるのはなぜ?!え〜い、ドキドキなんてしてない、してなんかいないぞーーーー!!)
 かなり一杯一杯のようであった。
 なお、この天国のような地獄はこのあと十分近く続くのであった。


「……………むなしい勝利だ」
 どこか燃え尽きた雰囲気を宿しながら、シンは自分の理性に手放しで賞賛の声を送った。
(よく、よく耐えてくれた。感動した!!)
(ふ。理性を、倫理観を舐めるなー!!)
 ああ、何て頼もしいお言葉。
 そう思いながら座っていると、シンは自分の服のすそを引かれるのを感じた。
「ん?」
 振り向いた先には、さっきよりはさっぱりとした感じのステラがこちらを見ていた。
「どうした?」
「ん」
 シンの問いかけに答えることなく、ステラはそのままシンに寄り添うようにその体を投げはなった。
「わ?!どうした?気分が悪くなったのか?」
 慌ててそんなことを尋ねるシンに、ステラはこんな言葉を返したのだった。
「………………シン、いい匂い。それに、あったかい」
「あ〜、ありがとう、かな?」
 篭った声でそういうステラの言葉に、シンは少し見当はずれの言葉を口にするしかできなかった。
 そして、何を思ったのか、シンは抱きついてくるステラを軽く抱き返すと、幼い子をあやすようにその頭を撫で始めるのだった。
「ん」
 その行為が心地よいのか、ステラはそのままシンの行為を受け入れていた。
 そんな二人の様子をほほえましそうに見つめながら、アリアは新たなココアを作ろうとしていた。
 そこには、戦艦と言う中でありながら、優しさに満ちた空間が存在していた。


 だが、その時間も終わりを迎えることになった。
 なぜならば―

「失礼します。アリア先生、ここにシンは……………」

 突如開くドアと共に、医務室に響く声。
 その声の主を見た瞬間、シンの心臓は止まった。
 止まったかと思うと、通常の三倍以上のスピードでビートを刻み始めるのだった。

「………………なに、してるの、シン?」
「なに、って。その……………」


 赤い猫女神様、降臨!!!


(というのが、現在に至るまでのないようですね)
(か〜、弱っている少女に優しくするなんて、まるでアレやな。平安の時代にいたあいつそっくりや)
(ああ、彼ですか?)
(そうそう、あのアンちゃんや。幼い子を自分の好みに育て上げたあのアンちゃん)
((光源氏と一緒やね〜(ですね〜)))

 んなコメントはいらん!!

(ま、ある意味自業自得でしょうしね〜)

 なぜに!!

(まあ、女心を理解しとらん自分を恨み〜や)

 わけわかりませんよ!!

(それよりも、何とか彼女達に言ったほうがよいのでは?『沈黙は金。雄弁は銀』といいますが、こんな空間が生じた場合、『沈黙は撲殺。雄弁はオラオラ』ですよ)

 なに、それ!!

((まあ、がんばってください(り〜や〜)))

 ギャーーーーーーーーーーーーーース!!


「ねえ、シン。なにをしてるの?それに、その子はシンの何?」
「え、え〜と、ですね」
 カラカラになる喉を何とか絞りながら、シンは現状を打破しようと声を出そうとした。
 なお、そのとき抱き合ったままだということはマイナス要素にしかならないと判断した直感はたいしたものだが、そうは問屋がおろさないのが世界の約束である。
「いや、その、彼女は―」
 言葉は冷静に、それでいて心臓は軽く一秒間に二十回ビートを刻むかのような速度で鳴り響いているのを根性で表に出さないようにしつつ、自分の腕の中にいるステラを離そうとした。
         ギュ!
「え〜と、ステラさん。離してもらえるととても助かるのですが」
「や」
 離そうとするシンに縋り付くように、ステラはよりシンに深く抱きついたのだった。
 そのステラの行動に驚くと同時に、シンはすぐ傍で膨れ上がる殺気に気づかずにはいられなかった。
「シ〜ン〜」
 ああ、地獄の底から響く声ってこんな感じなんだ。そんな場違いな感想を抱きながら、どうやってこの危機的状況から脱出すべきかをシンは考えていた。
 だが、どんなに考えても打開策は思い浮かばず、いたずらに時間は過ぎようとしていた。
「ヘルプミー」
 情けない声は、誰の耳にも届かずに空気にかき消されていったのだった。


 その後、怒るルナマリアを何とか宥め、すがりつくステラをあやし、双方の紹介をするにいたるまでかなりの時間と精神力をシンは使うことになったのだが、そのへんは彼の名誉を守るために歴史に記すことはせずにいよう。
 ただ、そこに至るまでどのようなことがあったのかは彼のこの言葉で各自で想像していただきたい。
「痛いのに気持ちいいと言うか女の子なんだからそんなに男に体を密着させるのはどうかとおもうぞそれにしてもマシュマロみたいな柔らかさって俺は何を口走っているんだああそれにしても―」
 以下延々と息つきをせずに自己嫌悪に浸っているシン・アスカであった。


―後書き―
 各種メディアで取り上げられているSEEDの映画化と言う情報に、磐梯山は心中をするつもりか!!と戦慄しているANDYです。
 いえ、本当に完全新作の劇場版なのでしょうかね〜。
 また、一部だけ新規映像で、種から運命までの総集編を上映するという実態であったならば………想像するだけでも怖い怖いw
 前回の投稿からまた一ヶ月がたっていますね。
 本当に時がたつのは早いな〜。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 もう、改変しまくりですね。設定やらなんやら。
 今回の話もどうだったでしょうか。
 怒涛の時の流れに訪れた一時の安らぎ。だが、それは新たなる激動の時代への転換点でしかなかった。
 と言うニュアンスの今回、楽しんでいただけたら幸いです。
 次回もお楽しみに。

 では、前回休んでしまった恒例のレス返しを

>ケル様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 お褒めのお言葉をいただけてうれしい限りです。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>シヴァやん様
 感想ありがとうございます。
 そのままピンクにゴーの雰囲気だったのですが、まだ冒頭部分でそれはいけないだろうと思い自主規制いたしましたw
 ホーク姉妹は、戦闘が始まってしまい、いつお互いが死ぬかわかったものではないのでストレートにいくべきでは、と考えた結果前回のような態度を取るようになったのですw
 悔いを後に残さないための生き方ですね。
 さて、ステラはこれからどのような運命を歩むのか。
 楽しみにしていてください。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>HIROKI様
 感想ありがとうございます。
 今回も何とかシンは生き残ることが出来ましたw
 今回はステラが病み上がりだったために戦いは勃発しませんでしたが、いつかは書いてみたいものです。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>九重様
 感想ありがとうございます。
 修羅場が発生しましたが、レベルが低い状況だったので何とかシンは生き残ることが出来ましたw
 これからどのような運命を彼は歩むのか。
 楽しみにしていてください。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 何とか生き残ることが出来たシンに拍手をw
 でも、これから彼は胃薬が常備薬になってしまうんでしょうかねw
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>戒様
 感想ありがとうございます。
 今回は初期状況の修羅場でしたが、どうだったでしょうか。
 物語が進むにつれて、修羅場のレベルも上げていきたいと思います。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>ジェミナス様
 感想ありがとうございます。
 優秀な部下を持つ上司の典型的例ではないでしょうかw
 多分、彼らの後ろでは副官なりが『仕事をしてくださ〜い』と泣きをいれていることでしょうw
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>なまけもの様
 感想ありがとうございます。
 GPは大好きな話ですので、ついついw
 今回は修羅場の規模は小規模で終了してしまいましたが、もし次ぎ起こるとしたら大変なことになるでしょうのでお楽しみに。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>花鳥風月様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 就職活動頑張ってください。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 色々な人と知り合うことで人は成長するのですよ(女性の比率が高いのは、まあ、世界の約束?)
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>シセン様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 今回ステラの詳しい背景や設定を一部出しましたがどうだったでしょうか。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 まあ、彼の態度は敵を作りますよね〜w
 でも、発言力を強めたらそのうち議長にお願い攻撃をしそうだな〜。
 青になったらそれはそれで面白い?
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>通りすわり様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 私の織り成すキャラたちを気に入っていただけているようで、とてもうれしいかぎりです。
 ネットチェスのほうですが、彼は今現在でも暇な時はやっておりますし、同室のレイと本物のチェス板を使い遊んでもいるようですよ。
 それと、空色の悪魔については……………ノーコメントでw
 私もまだ命は惜しいのでw
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>東西南北様
 感想ありがとうございます。
 上申していただいたこと、真摯に受け止めさせていただきます。
 これからの創作活動に活かせるようにします。
 次回、ついにアクシズ(仮)が地球に落ちる場面にいきますので、どうかお楽しみに。
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

>ATK51様
 感想ありがとうございます。
 運命全般に対する肯定的なコメントは、私も一部のものには眉をひそめてしまいます。まだまだ未熟なのでしょうかね?
 コメントに『大鷹を巡る雌鷹の壮絶な争い』を見た瞬間、「あ、そういえばホークは鷹だった」と変なところで感心してしまいました。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 一言で言えば、蛇の生殺し?
 そんな彼にこれからも生暖かい目を向けてあげてくださいw
 これからも頑張りますので、応援よろしくお願いいたします。

 今回も感想を頂きありがとうございます。
 それにしても、劇場版を作るということは、またあの世界は戦争をするんでしょうか?
 それって、ある意味カガリとラクスに平和を守る力が足りなかった、と言うことを監督は認めた、と言うことなのでしょうかね。
 脚本は誰になるのか。それが楽しみです。
 GAの方では、the Edgeのアスランとシンのやり取りがとてもよいものに見えたのは私だけでしょうか。
 半死人が無理をすればああなってしかるべきですよね。
 それにしても、GW中に放送したものと同じものをDVDで発売する気なのだろうか?少し疑問に思いますし、総集編が好きな作品だな〜、と変に感心してしまいますね。
 次回、この話の第一の転換期を迎える話になりますので、どうかお楽しみに。
 では、またお会いしましょう。

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