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▽レス始

「霊能生徒 忠お!(13時間目)(ネギま+GS)」

詞連 (2006-05-21 21:22/2006-05-24 00:08)
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 夜を過ごしたコンビニからの帰り道、さよは横島の姿を見つけた。
 横島はいくつかの小さい袋を、ゴミ捨て場に出しているところだった。

「横島さん、おはようございます。ゴミ捨てですか?」
「おはよ、さよちゃん。ああ、今日で最後だから」
「最後?…あっ!そうか、今日で一週間…」
「そういうこと。ちょうどゴミの収集日だから良かったよ、っと」

 横島はカラス避けのネットを元に戻す。その様子を、俯き加減でさよは悲しそうに見ていた。
 さよにとって横島は恩人であり友人だ。最初に自分に手を差し伸べてくれたのも横島だし、クラスメートと友達になれたのも横島がきっかけだった。

「あ、あの…」
「ん、何?」
「その、横島さん、い……」

行かないでください――――そう言おうとして、さよには言えなかった。横島は友人であるが同時に恩人でもある。その恩人に対して、相手の都合も考えずに行かないでなど、言えようはずもない。
 そんな自分を情けなく思いながら、さよは笑顔を無理矢理に作る。

「今日は!その、いつ麻帆良から出る予定ですか?」
「夜に停電があるだろ?その後に出る電車で帰るつもりだ。あ、見送りはいいぞ。停電中は外出禁止なんだろ?」

 帰る―――本来の居場所ではないところから、元の場所に戻るということ。
 横島は無意識だったろうが、その言葉がさよの胸をきつく締め上げる。

「そう、ですか…。…じゃあ、先に学校に行ってますね。遅刻しないでくださいよ」

 そういい残すとさよは逃げるように立ち去った。
 一人になった横島は、小さくため息をつく。
 さよは頑張って笑顔を作ったつもりだろうが、必死も虚しくその表情は、笑顔とはとても言えない悲しみに歪んだものだった。

「けど…だからって仲良くしないよりずっとましだったさ、きっと」

 別離の悲しみは、出会い共に過ごしたという証しだ。さほど長くもない横島の人生ではあるが、その中で数多くの出会いと別離を重ねている。それらの喜びと悲しみを天秤にかけてみても、悲しみに傾くためしはない。
 それにさよは一人ではない。もともと素直な彼女は、隣の席の朝倉を始め、クラスにもしっかり馴染んでいる。才能があったのか実体化もかなり上達し、もう文珠の助けも要らないくらいだ。彼女を支える絆の数は、きっと増えていくだろう。

「さよちゃんは大丈夫だ」

 横島が最後に呟いたのは、自分に向けてかさよに向けてか。


 こうして、横島の麻帆良滞在、最終日がはじまった。


 霊能生徒 忠お! 13時間目 〜Dance in Darkness(前編)〜


 サウザンドマスターの真実(?)を目の当たりにした翌日、教室に来たネギはエヴァの姿が一番奥、横島の席の隣にいるのを見て仰天した。

「うわあっ!エ、エヴァンジェリンさん!?なな、なんですか!?どうして、ココに……!」
「ネ、ネギ先生、どうなさったんですの?」
「とゆーか、エヴァちゃんはこのクラスなんだからいる方が当たり前だし…」

 慌てるネギとは対照的に、エヴァは頬杖を突いて落ち着き払った態度で応えた。

「昨日は世話になったからな。授業くらいは受けてやろうかと思っただけだ。それに、最後の一日くらい横島と一緒に授業を受けるのも一興だ」
「さ、最後?―――あっ」

 その意味が取れず、疑問符を浮かべるネギだったが、エヴァの直ぐ隣の席に座っている横島を見て思い当たる。
 横島は一週間だけの短期編入者であり―――

「…そういえば、横島さんが来てからもう一週間ですね」
『あっ!?』

 夕映の零した呟きに、クラスの半数以上が声を上げて、教室の後ろを振り向いた。

「って、お前ら忘れてたのかよ!?」
「いや、なんかすっかり馴染んでて…」
「ねぇ…忠っち」

 横島が視点を下げると、机の端からツーテールとシニヨンヘアが覗いていた。鳴滝姉妹だ。いつの間にかやってきた二人は上目遣いで聴いてくる。

「本当に転校しちゃうですか?」
「もっといればいいじゃん」
「悪いな。親父とお袋がこっち来いって言っててさ」

 捨て猫チックな視線に胸の痛みを覚えつつも、横島は用意しておいたウソを言う。

「あの、ご両親はどちらにいるんですか?」
「ザンスって国だ」
「えっと…どこ?」
「ザンス王国といえば、確か精霊石の名産地でしたね。科学文明を完全否定する精霊信仰でも有名です。そうですね?」
「そう。よく知ってるな、ゆえ吉」
「吉は余計です」
「それじゃあ…滅多に連絡を取ることも…」
「まあ、親の都合じゃ仕方ないよね」

 残念そうに言うのどかとハルナ。一見無表情の夕映もどことなく残念そうに見える。
 ちなみに、横島の両親がザンスにいるのは、実は本当である。父、大樹の勤める村枝商事が本格的にオカルト産業に着手し、当時本社復帰していた大樹が、優秀な海外勤務の経歴により支社長として赴任したのだ。今度は左遷ではなく本当の栄転である。

「横島さん、本当にいなくなっちゃうんだ…」
「さみしくなるよねぇ。なんかもうすっかり3Aに馴染んでるのに」
「っていうか、もう中心?」
「みなさん」

 口々に別れを惜しむクラスメート達。その中で、あやかが立ち上がる。

「横島さんがいらっしゃったのはたったの一週間でしたが、立派なクラスの一員です。確かにお別れは悲しいですが、ここは新たな門出として笑ってお見送りしましょう。
 ついては今日の放課後、ささやかながらお別れのお茶会を開くというのはいかがですか?」
『賛成!』

 あやかの仕切りにクラス全体が賛同の声を上げる。

「いいのか?」
「いいのかも何も、友達でしょ?そうよね、ネギ?」

 アスナはネギに同意を求めるが、しかしネギは最初と同じ場所に立ったまま、何も応えない。

「……ネギ?」
「え、あ、はい!お茶会はいいですね!僕、取って置きのお茶の葉を出しますよ!」
「では、超包子が自慢の甘味を用意するネ!」
「それでは、今日の放課後。『学年トップおめでとうパーティー』を開いた場所に集合ということで……授業に入りましょうか?」
「え〜っ!?」
「ここは今からお茶会の準備ということで…」
「だ、ダメですよ!みなさん、席に戻ってください!」

 ネギに言われて、クラスメート達はそれぞれの席へと帰っていく。
 アスナも自分の席に座って教科書を取り出すが、その肩にカモが駆け上った。

(姉さん、横島の姉さんのことで有耶無耶になっちまってますけど、エヴァンジェリン、なにか裏があるんじゃないっスか?)
(そう?)

 アスナは斜め後ろに座るエヴァに目を向ける。エヴァは教科書を取り出しはするが、特にノートをとる様子もなく、授業というよりネギの様子を眺めている。
 一方、見られているネギといえば

「よぉし!今日はエヴァンジェリンさんも来てくれたし、横島さんのいる最後の授業ですし、はりきっていきますよ!
 31ページからはじめます!もー、僕が読んじゃいますよ♪
 It is so use crying over sprit milk〜♪」
(……ネギもご機嫌そうでいいんじゃない?)

 カモに言いながらも、アスナはネギの様子がどこか違うように見えていた。なんと言うか、どこか無理に元気を出しているようにも見えた。

(それに横島さんは平然としてるし、大丈夫じゃない?)
(あの賞金首のエヴァンジェリンがそー簡単に改心するとは思えないっスけどねえ)

 どこか不服そうだったが、しかし決め手になるような論拠がなく、それきりカモはエヴァについて言わなくなった。


 カモの予想に反して、エヴァはその授業中、取り立てて行動にでることはなかった。


 麻帆良の地下には、網目のように地下道が張り巡らされている。
 誰が、いつ、どんな目的で作ったかはわからない。だが存在している以上、そして見つけた以上、ゴキブリやカビすら存在しないような場所にすら進出するような人間が、利用しないわけがない。
 地下迷宮の表層部、比較的大きな一室で、多くの人間が慌しく働いていた。
 重油と金属の臭いが立ち込め、高い天井には何個もの大型照明が吊るされ光と共に熱を排し、動き回る人気とあいまって、ひんやりとしているはずの地下は熱気に溢れていた。

「おい!そっちはどうだ!」
「10番まで終わった!」
「誰かここの漏れチェックと計測!大至急!」

 響き渡る機械音と金属音のせいで、作業員達の声も自然と怒号のようになり、それがさらに地下の騒がしさを増す。
 耳を塞ぎたくなるような喧騒の中で、マリアが歩いていた。肩には鉄パイプの束が担がれ、片手にはオニギリが詰まれたお皿がある。
重さ数百キロのパイプを担いでいるにもかかわらず、マリアの足元はふらつく様子もないし、ぎりぎりのバランスで積まれたオニギリの山も崩れる様子がない。流石は天才カオスの最高傑作といったところだ。

「おーい、マリア。そこの2番レンチを取ってくれい!」

 鉄パイプを置いたマリアの耳に、その天才的な生みの親の声が聞こえた。足元を見れば、カオスの足があった。体は仰向けに、機械の下に潜り込んでいる。

「イエス・ドクターカオス」

 マリアは近くの道具箱からレンチを取り出し、機械と床の隙間に放る。

「あ痛っ!」
「ソーリー、ドクターカオス」

 しかしカオスはしっかり受け取ったらしく、ボトルを締め上げて顔を出す。頭には出来たばかりのたんこぶがついていた。

「差し入れです・みなさん」
「オッス!マリアさん、ありがとうございます!」
「待ってました!」
「アザースッ!」

 よほど飢えていたのか、オニギリの皿につなぎを着た作業員達が群がり、いつの間にかマリアの手から皿が取り去られ、人ごみからはじき出された。

「ま、突貫作業だから無理もない」

 マリアの横でカオスが、ちゃっかり確保したオニギリを頬張りながらいう。カオスが寄りかかっているのは、さっきまで潜り込んでいた巨大な機械、予備の発電機だ。
 これこそ麻帆良がメンテナンスで停電になる時、結界に電力供給するためのものである。
 去年までは学園長が、ひいひい言いながら魔法で電力を作っていたらしいが、流石にもうイヤだとカオスに泣きついて発電機の製作を依頼したのだった。

「作業の・全体進行度は・98.325パーセント。最終チェックの・進行度は・75.831パーセントです」
「うむ、間に合いそうじゃな。制御システムの方は?」
「ミス・超から・完成したと・報告を・受けています」
「そうか……」

 呟いたカオスは、超のことを考える。
 背後に寄りかかっているこの発電機は、既存のガスタービンをカオスの技術でもはや別物のレベルまでカスタムしたものだが、その設計の段階でもあの天才、超鈴音が大幅な関与をしている。コンピューター技術がメインに使われる伝達系や制御系に関しては、超が完全に取り仕切っている。

(あやつ、何者か?)

 1千年の時を生きてきて、人の身にしてあれほどの知性を持った者と出会ったことはない。よもすれば、全盛期の自分にすら匹敵するのではないかとも思っている。だが、それ以上に気になるのは超が開発したと言う彼女の技術体系―――彼女が言うところの超科学だ。
 茶々丸や後継機である田中に組み込まれている技術は超によって開発されたということになっているが、カオスにはそれが信じられない。もちろん、同じ疑問を持つ者も多いが、カオスの疑問の理由は彼らとは一線を画していた。カオスの疑問の焦点は、超の技術は『宙に浮いている』ことについてだった。
 技術の発達は生物の進化に似ている。
 キリンの首が長くなっていくような小進化と、魚類が両生類になるような大進化。科学も同じく、実験と実践の繰り返しによる僅かずつの進歩と、事故同然の偶然や天才の閃きによる進歩の二つの集積だ。二つの違いがあるとすれば、進化はその道程に知りえぬ空白―――ミッシングリンクが数多くあるのに対し、技術は(鉄文明の起源が何処かなど議論が尽きない場合もあるが)ほとんど追跡できる点だ。
 しかし、超科学にはあまりにもミッシングリンクが多い。ネズミのような最初の哺乳類が誕生したかと思えば、次の瞬間には人類が生じていたようなものだ。もしも科学技術の発生を一本の木にたとえて図解したのなら超科学は、幹のどこから伸びたかもわからない、宙に浮いた小枝のように表現されるだろう。それほどにまで、超の技術には脈絡が無いのだ。
 不気味な空中楼閣。超鈴音はそこに住んでいる。その天守閣の出所を秘匿にしたまま……。

(ま、ワシとしてはどうでもいいことじゃ)

 だがカオスとしてみればどうでもいいことだ。矛先がこちらに向けられているわけでもない。むしろ衣食住が安定し、少し手持ち無沙汰になったカオスにしてみればその技術自体は言うに及ばず、超自身もその鬼子の技術を抱えどこに向かっているのかが、目下最大の楽しみの一つだ。
 その他にも、この麻帆良には最強の魔法使いを名乗る真祖の吸血鬼やら、魔法界で名を轟かせた英雄の息子や、とんでもない潜在能力を秘めている学園長とは似ても似つかないその孫娘などがわんさかいる。しかもそれらは、一つのクラスに集中して押し込められている。
そして―――

「あの小僧も関わってきたことじゃし、ひょっとすれば魔法界全体を騒がすような一騒ぎがあるかもしれんな」

 手についたごはん粒を舐め取りながら、カオスは人の悪い笑みを浮かべた。


 カオスの予想したとおり、カオスが上げた因子のいくつかが動いていた。

「予想通りです。サウザンドマスターのかけた『登校の呪い』の他に、マスターの魔力を抑え込んでいる『結界』があります。この結界は学園全体に張りめぐらされていて大量の電力を消費しています」

 CPルームで、茶々丸は片手の端末を直接パソコンにつなぎ、もう片方の手でキーボードを叩きながら、学園のシステムにハッキングしていた。その後ろから、よく解からんといった風情でエヴァが腕を組んでいた。
 薄暗い部屋の中で、ディスプレイからの光が茶々丸とエヴァの色白の顔を照らしている。

「ふん、10年以上気付けなかったとはな。しかし…魔法使いが電気に頼るとはなー。え〜と、ハイテクとかいうやつか?」
「私も一応そのハイテクですが…。それに、去年までは学園長が直々に魔法で電力を供給していたそうですし…」

 外見にそぐわぬ年よりくさい発言に、茶々丸はあまり容赦ない突込みをいれる。

「ふん、それがついにリタイアと言うわけか。情けないが…まあいい。
おかげで計画を実行できるのだからな。
 横島忠緒の方はどうなっている?」
「ハイ、マスターの予想通り、横島忠夫が文珠使いというのは事実のようです。しかし美神除霊事務所には横島忠夫は所属していますが、横島さん―――横島忠緒は所属していません。さらには住基ネットをハッキングしましたが、『横島忠緒』という人物の存在は確認できませんでした。おそらく、マスターの予想は正しいかと」
「やはりな…。よくやった」

 もう用はないとエヴァは外に出る。茶々丸もパソコンの電源を落としてそれに続いた。
 そのままエヴァは屋上に向かう。

「予定通り、今夜決行するぞ。坊やと横島が驚く顔が目に浮かぶわ!」

屋上に出たエヴァはそう言ってから、わざわざ高いところによじ登って、

「アーハッハッハッハッハッハッハッ!」

 青空に向けて高笑いをする。どうやら高いところでこれをするために、わざわざここまで登ってきたらしい。
 ひとしきり笑ったところで、エヴァは茶々丸の様子がおかしいことに気付いた。普段なら、わざわざこのためにここまで来たのですかと、一言くらい突っ込みをいれそうなものなのに、今日に限ってそれはなく、ただ黙って何かを考えている様子だった。

「どうした茶々丸?何か気になることでもあるのか?」
「い、いえ…あの、その…」

 普段ならばためらいない、文字通りの機械的な答えを返す茶々丸が、珍しく言いよどむ。

「―――申し訳ありませんマスター」

 だがその様子を珍しげに見るエヴァの視線に、茶々丸はついに頭を下げて、秘密にしていたことを口にした。

「ネギ先生はすでにパートナーと仮契約を結んでいます」
「何!?それは聞いていないぞ!なぜ黙っていた!相手は誰だ!」
「…相手は神楽坂明日菜です。なぜ報告しなかったかは……」

 そこまで言って、茶々丸は改めて考える。
 なぜネギの契約のことを今まで黙っていたのか?なぜ金曜日に襲われたことをまだ黙っているのか?
 原因として思いついたのは、子ネコを庇おうとした自分を見て、ネギが魔法の矢を戻したことだが、どうしてそのことが自分の行動の原因になるのかが分からない。

「ふん…まあいいか」

 無表情の顔の下で、明らかに戸惑っている茶々丸に見かねたのか、冷静さを取り戻したエヴァが小さく首を振る。

「マスターどうか……いかなる罰も受けます」
「いやいや、今夜お前がいないと私も困る。それにもはや奴にパートナーがいようといまいと関係ないからな。開始まで後、5時間だ。行くぞ茶々丸」

 そういうとエヴァは、立っていたところから跳躍し、さらに屋根の上に飛び移ろうとして

「あ、マスター」

 茶々丸の呼びかけは既に遅かった。飛び上がったエヴァは、しかしその跳躍距離が足らず、屋根に足を引っ掛け

びたーーーん

「へぶぅっ!」

 威厳もへったくれもなく、顔面から屋根へと叩きつけられる。

「大丈夫ですか、マスター。ああ、鼻血が……」

 ジェットでエヴァの傍まで飛んでいった茶々丸は、ハンカチでエヴァの鼻血をぬぐってやる。抱き起こされたエヴァは、痛みのためか情けなさのためか涙目だった。

「うぐぐ…空を飛べぬとは…。人間とは何て不便なんだ!それもこれもスプリングフィールドの一族のせいだ!
 だが待っていろ!今夜の作戦で油断しきった坊やなど満月を待たずしてケチョンケチョンだ!」

 鼻血も涙も止まらぬまま、エヴァは立ち上がり校舎に程近い桜の木を睨む。
まだ桜の花が残る木の下では、横島の送別会が開かれていた。あやかから贈られた胸像に、突っ込みを入れている横島やネギの様子がよく見えた。
 聞こえぬと分かっていながら、エヴァは声を大にして叫ぶ。

「今夜こそ坊やの体液を絞りつくして呪いを解き『闇の福音』とも呼ばれた夜の女王に返り咲いてやるっ!
 それから横島!貴様も覚悟しろ!貴様の血を吸って私の下僕にしてくれるわ!」

 情けなくも物騒なエヴァの叫びは、春の青空に吸い込まれていったのだった。


「あ、ありがたいというか、ありがためいわくというか…」
「少なくとも、いいんちょのプレゼントは確実に迷惑よね」

 夕方、桜どおりから少し外れた林の中で、横島はテントをたたんで荷物をまとめ、ネギとアスナがそれを手伝っていた。
 最大の持ち物であるテント一式は、《天》《幕》の封印文珠で収納できるので、当初の予定では、着替えと日用品少々だけのはずだった。しかし先ほどまで開かれていたお別れ会で貰った品物が、異様にかさばっていた。

「委員長のくれた胸像の他にキツイのは、図書館組の本だな。哲学書なんて読まないのに……」
「ま、夕映ちゃんも悪気があったわけじゃないし、大切にしてよね」
「解かってるって。次はそれ、取って」

 言いながら、次々とお土産品をリュックに詰め込んでいく横島。コツでもあるのか、さほど大きくなさそうなリュックの中に、つぎつぎと詰め込まれていく。

「文珠で何とかできないんですか?」
「出来るかもしれないけど、あれって結構貴重だからなぁ…。よし、入った」

横島の言葉通り、小山のような荷物は全てはまりきった。ただし横島の胸像の頭部がはみ出て、背負った時に姥捨て山っぽいシルエットになるのは如何ともしがたかった。

「さてと、あと少しで麻帆良ともおさらばか…」
「あっという間でしたね」

横島たちはテントを張っていた木の根元に座って、一息つく。

「そんなにあっという間だったか?結構、長くいた感じがするけど?」
「横島さんはいろいろイベントが多かったからね。さよちゃんのこととか」
「ああ……泣いてたよなぁ…」

 悪いことをしたかなと、横島は送別会のことを思い出す。
 あの時、プレゼントの変わりに歌を一曲、と始めて霊感のない人に聞かせるのに成功した歌をさよが歌ったのだが、その途中で感極まったか泣いてしまったのだ。つられてのどかなど横島と関わりが深かったものも涙ぐみ始めた。
 女の子に泣かれるという状況に慣れていない横島としては、とてつもない試練だった。
 それに、それだけ好かれていたということが嬉しい反面、もう二度と、少なくとも横島忠緒として会うことは出来ないだろうという事実が、少しばかり寂しかった。

(けど、いつまでもオカマやってるわけにもいかないし、というかいたくないし)

 横島にも横島の生活があるのだ。本当は一人前になった時点で本社員として就職が決定しているのだが、一人前になったと同時に美少女化してしまい、身分はいまだ丁稚のアルバイト。しかもそのアルバイトの地位ですら、一週間の休暇でかなり危うい。いや、クビになるということはないだろうが、その分の美神さんの機嫌が危ういというか、危険なのは命の方だというか、とにかくピンチでデンジャーだ!

「覗きもセクハラもしてないのにミンチにされるなんてイヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うわっ!な、い、いきなり、何を叫ぶんスか横島の姉さん!」
「せめて死ぬならその豊かな胸で窒息死を…って、カモ?」

 高出力の霊波で鞭状になった神通棍を手にした井桁マークを浮かべた雇い主の幻影が見え、思わず叫んだ横島は、それが幻であり、目の前にいるのは見知ったオコジョだったということに気付いた。

「しょ、正気に戻ったっスか……」
「大丈夫ですか、横島さん。なんかすごい汗ですよ」
「あ、ああ…。大丈夫だ。バイト先の上司のことを思い出してな。
 そういえば、ネギ。これやるよ」

 横島はジージャンのポケットから名刺を一枚取り出した。それは自分が普段、仕事で使っている名刺だった。

「美神除霊事務所…横島忠夫?」
「これはなんですか?」
「俺の兄さんの名刺だ。なんか困ったことがあったらそこに連絡しろよ」
「…ねえ、横島さん。なんで兄妹で同じ名前なのよ?」
「え、えっと…そ、そういう風習なんだよ(横島タダヨにしとくんだったかな…)」
「ふうん」

 苦しい言い訳だったが、さして気にした様子もなく納得した様子のアスナ。一方ネギは、渡された名刺をじっと見つめていた。

(横島さん……本当にいなくなっちゃうんだ)

 困った時の連絡先が渡されたということは、つまり横島がもう簡単には駆けつけれないところへ行くという証拠だ。
 思えばここ一週間、エヴァに襲われてから不安な毎日ではあったが、どこか心のどこかには安心感があった。あの夜の桜通り―――エヴァの前に敢然と立ち塞がった横島の姿。そして危なくなったら助けるという約束が、ネギの心の支えになっていた。
 その横島がいなくなる。改めてそのことを実感したネギは、まるで地面が喪失してしまったかのような寄る辺のなさを感じた。

(…いや、そんなんじゃダメだ!)

 だがネギは、そんな心の動きを叱咤する。
 ピンチになったら現れる―――そんなのは、まるで6年前と変わらないじゃないか。
 誰かに頼るべきでは、誰かを巻き込むべきではない。

(…またろくでもないこと悩んでるな)

 真剣な表情で俯くネギ。それを見た横島はどうしたものかと考える。
 その横から、カモが不安げに尋ねてきた。

「なあ、姉さん。疑うようで悪いんだけどさ、姉さんの兄貴ってどのくらい強いんっスか?」
「どのくらい?ううん…そうだなぁ……ま、それなりに強いと思うぞ。少なくとも満月の時のエヴァちゃん達とやりあっても負けはしないだろうな」
「し、真祖相手に!?それならエヴァンジェリン一味が襲ってきても安心っスね!」
「何言ってるのよ、カモ。エヴァンジェリンさんって改心したんでしょ?」
「だから甘いっすよアスナの姉さん!横島の姉さんがこの名刺を渡したのも、エヴァンジェリンが諦めてないって思うからっスよね!」
「いや、まぁ…どうかな?正直なところ、よく解からん」

 横島の言葉は本音だった。
 今日、エヴァが教室に来た理由は皆目見当がつかない。
まず思い当たったのは不意打ち等の直接的なネギへの攻撃だが、その線はすぐに消せる。次に思い当たるのはネギへプレッシャーを与えようとしているということだが、ネギは授業に出てもらいたがっているので、むしろボイコットしたままの方こそ効き目がある。
 後はネギを油断させるため、というのも思い当たるが今一弱い。

(案外、世話になったからってのが、そのまんま本当なのかもな)
「ということは、また喧嘩みたいなことになるのかな……」
「いえ、もう大丈夫ですよ、アスナさん」

 少し辟易したような様子で呟くアスナに、ネギが意気込んで言う。

「また何かあっても、アスナさんや他の皆さんいは絶対迷惑かけませんから、安心してください」
「え…あ、そう?」
「……?」

 ネギの態度に妙なものを感じながらも頷くアスナとカモ。
一方横島は、無言で立ち上がりネギの方に歩み寄った。見下ろされる形になって、ネギは少し狼狽する。

「な、なんですか?」
「なんですかじゃねぇよ……ほれ」

 横島はしゃがみこむと、ネギの足首を捕まえて持ち上げた。

「うわわぁぁっ!」
「あ、兄貴!?」
「ちょっと、横島さん!?」

 いきなりの横島の凶行に驚くアスナとカモ。しかし横島は取り合わず、片手でネギを逆さ吊りにしたまま、ネギの服の中に手を入れて何かを探す。

「うひゃぅ!あ、あはははははっ!な、何するんですか横島さん!」
「『何するんですか』はこっちのセリフだ。…ん?これか」
「あ、そ、それは!ぎゃぷ!」

 横島はネギのスーツーの内ポケットから、果たし状と書かれた封筒を取り出し、もう用済みとばかりにネギの足首から手を離す。横島はその果たし状を広げて中身を確認する。

「ああ…やっぱり一対一で戦えって書いてるし」
「な!?どういうつもりよ、ネギ!」
「兄貴!ひょっとして、何か問題が起きたら、アスナの姉さん横島の姉さんの手助けなしで戦うつもりたったんスか!?」

 カモとアスナは、地面にぶつけた頭を押さえるネギに詰め寄る。

「ううっ…。だ、だってこれは僕の問題だからアスナさんに迷惑は……」
「あんたねぇ、そ「ま、発想としては悪くないわな」…って横島さん?」

 怒鳴りつけようとしたアスナだったが、横島が間に入ってそれを遮る。

「結局はネギが一対一でエヴァちゃんと勝負するのが、一番勝率の高い戦法だし、これが受け入れられれば一番いい」

 だが、と横島は付け加える。

「そのことはエヴァちゃんだってよく解かってる。だから向こうはより有利なパートナー同伴の二対二の状況を作ろうとするはずだ。どうしたところでこの果たし状を受け入れてくれるわけがないだろ?」
「うっ…!け、けど!」

 論破され、しかし何とか反論しようとしたネギだったが、その頭にアスナの拳が軽く振り下ろされる。

「あたっ!」
「ったく!ガキがこんなことで意地張ったって可愛くないの!私が助けたくって助けるんだから迷惑でもなんでもないのよ!」
「ア、アスナさん…」

 アスナに言われて、ネギは楓の修行場で横島から言われたことを思い出した。

―――アスナちゃんだって迷惑だ何て思ってないだろうし、カモだって何だかんだ言ってお前を慕ってる。大変だとは思っても、迷惑だとか重荷だとか、そんな風には思ってないって―――

 思い出したネギは、あれだけ悩んだのに全然変わっていない自分が恥ずかしくなった。

「ごめんなさい…また、僕、ひとりで先走って…」
「解かればいいのよ。
 成り行きだけどパートナーなんでしょ?ちゃんと頼ってよ」

 しょぼくれるネギの頭をアスナが撫でる。
 横島がその光景を見ていると、その耳に6時の鐘の音が聞こえてきた。
 気がつけば、周りも大分暗くなっている。

「そろそろ時間だな」
「ですね…」

 横島はリュックを背負って立ち上がる。

「んじゃ、そろそろ駅に向かうか」
「横島さんは停電中、どこにいるの?」
「中央駅の待合室にいるつもりだ」
「じゃあ、そこまで送りますね」
「ありがとな」

 横島と一緒にネギたちも立ち上がり、林から立ち去った。


 麻帆良は、だんだんと闇の中へと沈み始めていた。


19時50分。麻帆良中央駅の待合室で、今年の春、入社したばかりの新人駅員が、真面目に転職を考えていた。

「あと10分…あと10分、あと10分!ぐふ、ぐふふふふっ…」

 転職希望理由は待合室で座っている、バンダナを巻いた美少女だった。
 ただの美少女だったら問題はない。むしろ大歓迎だろう。だが、そのパッチリとした目は血走り、肉感豊かな桜色の唇はいびつに歪んで不気味な笑い声を漏らし、形の良い鼻からは嵐のように強烈な鼻息が噴出している。
 まるで薬が切れた中毒者といった風情の興奮ぶりだ。
 しかも持ってる荷物から、その少女本人がモデルであろう銅像の頭がはみ出ている。
 その少女の正体がまったく想像できないし、したくもない。

「あと9分、9分だ!くっ、くくく、くふふふふっ……!」
(故郷に帰ってラーメン屋を継ごうかな…)


19時52分、カオスの発電機は順調な起動音を立てていた。超はコントロールセンターから、その様子をモニター越しに眺めていた。

「流石ヨーロッパの天才ネ。私の超科学でもここまでの効率を出すのはちょと厳しいヨ」
「けど油断はなりませんよ。カオス先生の仕事ですから、どんなミスがあるかわかりませんし」

 キーボードでシステムの再検査をしていた葉加瀬が、カオスが引き起こした事故の数々を思い出す。

「それはそうと超さん、本当にファイヤーウォールはこんなので良かったんですか?」

 葉加瀬が指し示したのは、一般人には文字化けのようにしか写らない、複雑なプログラムが並んだディスプレイだ。その文字列が示す内容は予備電力の配電に関わるものだ。
 その出来の程は、葉加瀬にしてみれば満足とは程遠いものだ。並のハッカーなら撃退できるだろうが、一流以上の相手には心もとない限りだ。
 そのことは当然、超も理解しているが、しかし超はだからどうしたとばかりに首を振る。

「それはそのままでいいヨ、葉加瀬」
「…なにか企んでいるんですか?」

 メガネを怪しく光らせて、葉加瀬は超に尋ねるが、超は相変わらず暖簾に腕押し。

「酷いネ!私は悪いことなんて企まない、とても善良で親切な女の子ヨ」

 飄々とした態度でこう言った超は、さらにはこうも付け加えた。

「親切すぎて他人のインボーを手伝っちゃうくらいネv」


19時53分。刹那と真名は女子中学寮の屋上から、街頭に照らされた周囲の様子を見渡していた。今のところ異常は見当たらない。

「……刹那。そういえば、今日はお茶会に来なかったな」
「用事があった」

 背中合わせに逆方向を監視している相手の、いつになく無愛想な返答に小さく肩をすくめた。
 結局、あの夜以来、横島と刹那との接触はない。お互いがお互いを意識的に接触しないようにしているのだから、当然だった。
 だが、それ以上に気になっていたのは刹那と木之香だ。
 先週から木之香は刹那に接近を試み、刹那は逆に木之香からなるべく距離をとるようにしている。その態度は、多かれ少なかれ木之香を傷つけているかもしれない。
 刹那当人は、木之香を魔法に近づけないため、木之香を守るため、そして仕事をプライベートと分けるためだと言ってはいるが

(本当のプロはメンタルケアもこなすものだし、プライベートと分けるといってる時点で、意識していることがバレバレじゃないか)

 おせっかいは焼きたくはないが、このままにしておくのも後味がよくない。まったく不器用な相棒を持つと苦労する。だが今は、それらの問題は後回しだ。とりあえず、その問題よりまずは停電の間の警備だ。
 結界が解かれない以上、取り立てて問題は起きないはずだが…

(なんだろうね。何かが起きそうな予感がするよ)

 真名がちらりと時計を見ると、長針は54分を示していた。


19時55分。麻帆良郊外の森に異形の姿があった。
 異形の正体は羽毛の生えた女。その目の前には、何匹かの小鳥が集まっていた。

「くっ…。今日も入り口が見つからないジャン」

 異形―――ハーピーはいらだたしげに吐き捨てると、自分の眷属である小鳥達を羽に戻し、遠くに輝く麻帆良の夜景を忌々しげに見る。
 現在、解かっていることは、電力を利用しているらしい巨大な複合結界が麻帆良を覆っているということと、それをどうにかしなければ用意に入ることも出来ず、強引に入ったとしてもすぐに見つかってしまうということだ。
 いくら魔族とはいえ、何千人もの魔法使いを相手にする気にはなれない。

「これじゃあ停電にでもなってもらわないと入れないジャン…」

 呟いてみたところで、麻帆良の灯りは煌々と灯っていた。そう、その時はまだ―――


19時56分。地下の作業場の熱気は最高潮にまで達していた。

「タービン回転数、問題なし!」
「排熱順調です!」

 最終チェックでも問題は見受けられず。
 汗に塗れ、疲労の色が濃い作業員達の顔にも笑顔がこぼれる。
 そんな、まるで文化祭直前のような活気の中で、カオスは大きな赤いボタンの前に立っていた。

「ドクター!全点検終了しました!」
「いつでもいけます!」
「うむ」

 大儀そうに頷くカオス。
 その時、作業場に放送が入る。

「カオス老師、あと2分ネ!そろそろ切り替える準備するヨロシ!」
「こちらカオス。解かった」

 操作盤のマイクに返事をすると、目の前の大きな赤いボタンに手をかけ

「ドクターカオス。それは・空調の・電源です」
「ん?おおっ、スマンのマリア。ええっと…これだ」

 カオスは足元のレバーに手をかける。そこには極太マジックで『電源切り替え』と書かれていた。忘れないようにという作業員達の気遣いだった。

「あと・1分5秒です」


19時59分


『こちらは放送部です。これより学園内は停電となります』

 人通りのない大通りに――
 人気のない広場に――
 人のいない麻帆良全体に、放送の声が響く。

『学園生徒の皆さんは、極力外出を控えるようにしてください』

 その放送も消える。


 やがて、時計塔の長い針が、やけに大きな音を立てて、かちりと12の文字を指し…


麻帆良は闇に沈んだ。


 そして、状況が踊りだす。


 例えばエヴァのログハウスで


「結界への電力停止。予備システムハッキング成功。全て順調。これでマスターの魔力は戻ります」


 例えば地下の予備発電室で


「わ、ワシのせいじゃないぞ!」
「ドクターカオス・言い訳は・見苦しいです」
「だから違う!」


 例えば郊外の樹上で


「停電!…渡りに船ジャン!」


例えば女子寮の屋上で


「これは…!」
「一つはエヴァンジェリンのようだな。だが、こっちは無視してもいいだろう。学園長からネギ先生に任せるようにお達しが来ているからね。だがもう一つは…」
「悪魔の気配だな」
「ああ。私達の担当区域にまっすぐ向かってきているね。どうやら仕事のようだ」


例えば女子寮の大浴場で


「…エヴァンジェリンさまのめいれいをはたした」
「…わたしたちはエヴァンジェリンさまのしもべ」
「…わたしたちはエヴァンジェリンさまのてあし」
「…わたしたちはエヴァンジェリンさまのけんぞく」


 そして、例えば尖塔の上。


「ふっふっふ…。予定外の要素も来ているが……問題ないな。
 待っていろよ、坊や。たっぷり血を吸ってやる。
 そして横島。その最強の称号、真に相応しいのが誰か教えてやる。
『人界最強の道化師・横島忠夫』!」


 星と月の明るさが天上を照らし、高空の強風ゆえに千切れるほどに早く流れる雲の形を明らかにする。その不気味な空の下で、あらゆる状況は動き出した。


 カモはの尻尾が突然、ビンと立った。異様なほど大きな魔力を察知したのだ。

「兄貴!スゲェ魔力を感じねぇか!停電した直後に現れやがった!」
「カモ君、何か魔物でも来たの?」
「解からねぇけどかなりの大物だ。まさかエヴァンジェリンの奴じゃ」
「え、彼女は更正して…」
「―――ネギ・スプリングフィールド」

 唐突にかけられた声にネギは反射的に振り向いた。
 振り向いた先にいたのは、まき絵だった。
 瑞々しい裸体を惜しげもなく夜の大気に曝す少女。暗い夜空を背景にした白い肌は、妖精のように淡く光を放っているように見え、神聖さすら感じられた。
 だがそれ以上にネギ達の目を引いたのは、空ろな眼と口元から覗く伸びた犬歯だった。

「ま、まき絵さん!あなた、まさか吸血鬼に……!」
「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさまが、きさまにたたかいをもうしこむ」

 驚くネギに構わず、まき絵は一方的に用件を述べると後方に跳躍。

「待ってるよネギくーんv」

 一転して生気のある口調のまき絵は、手にしたリボンを建物に次々と巻きつけ跳躍しながら、大浴場の方へと消えていった。
 いつにもましてありえない運動能力と、目つきや牙。そしてことづけ伝える時の、感情の起伏の平坦さ。それらの全てがネギの問いかけが正しいことを裏付けている。

「ど、どうして!あの時、僕が診た時は魔力の残り香だけでどこにも異常は…!」
「吸血鬼の吸血とかそういう魔物の特殊能力は魔力と霊力、それが混ざったような特殊なもので発見しにくいんだ!それにエヴァンジェリンの魔力が封じられているのが仇になったんだよ!
とにかく、どういうわけか、この停電でエヴァンジェリンの魔力が復活したんだ!マズイぜ、兄貴!」
「そ、そんな…!」

 カモに言われたこと、特に前半は魔法学校でも習った内容だ。それに気付けなかったことが、ネギの心に大きなダメージを与えた。
 ただでさえ更正したと思っていたエヴァンジェリンが、まだ悪巧みを諦めていなかったことでショックを受け、その上クラスメートが巻き込まれてしまった。
 自分の油断のせいで生徒を巻き込んでしまうなんて―――!

(ううん!反省は後だ!)

 慌ててから回りしそうになった思考を沈めるために、ネギは目を瞑り大きく息を吸って、吐く。
 そして瞼を開けた時、ネギの態度から動揺も焦りも消えていた。
 ネギは迷いのない目で、まき絵の向かった大浴場の方を見据えた。


「なんでやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
 なんであと1分のところで止まるんだぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 一方その頃、非常電源にうっすらと灯りのついている駅のトイレで、いまだ美少女姿の横島は嘆いていた。その手には解呪のアミュレットが握られ、ガンガンとそれをパイプに叩きつけている。そのアミュレットの文字盤は停電が始まると同時に、残り一分少々で停止していた。

「はぁ……、はぁ……。やっぱり周りの結界が止まったからか?」

嘆くことをやめた横島は、ようやく原因に思い当たった。このアミュレットはいわばレンズであり、光源である魔方陣の機能が止まれば、こちらも停止するのは当然だ。

「結界用の電力は止めないって言ってたのに……カオスのじいさんあたりが何かやらかしたのか?」

 ちなみにドクターカオスは、現在地下の発電施設で開かれている緊急魔女裁判で、冤罪だと必死で訴えていた。

「状況確認しようにも携帯は壊れたままだし……。…っ!?」

 唐突に、横島は何かが爆発的に膨らむような気配を察知した。その正体は魔力―――それも今まで感じたこともないような大きなものだった。方角は女子中等部の寮。

「……まさかエヴァちゃんか?」

 横島は荷物を置くと、ポケットから《衣》の封印文珠を取り出した。


 数分後、急に静かになったトイレを不審に思った駅員が覗いてみると、そこには「ちょっと預かっていてください」と書かれた紙が貼られたリュックだけが残っていた。


 こうして、闇に包まれた麻帆良を舞台に、戦いが始まった。


あとがき
 ハリポタ六巻を読むために徹夜した詞連です。テストと重なるってなんですか?難しいテストは法律で規制するべきです。
 さて、始まりましたハイライト。今回でネギとエヴァを戦わせる予定が、また長くなったので分けさせていただきました。

 さてレス返しを。

>暇学生氏

 文珠解除直前でバトルが始まりました。弱体化した横島VSパワー半減の吸血鬼……あ、あれ?なんか微妙にショボイですね?


>鉄拳28号氏
 誤字修正、ありがとうございます。
 横島は同性愛者ということで固定されちゃってます。なったって「フォォォォ!」ってやっちゃいましたし。まあ、半分はなんちゃって系だとも認識されているようですが。
 ネギまとGSの設定の絡みを褒めてくださって本当に嬉しいです。
 エヴァ戦は、期待に添えるよう頑張ります。

 >横島が本筋に関わっていない話は楽って……ただのネギまですし。それ。
 そうですけど…そうですけど!だって横島が関わってなければコミックをそのまま写せば済むんですよぅ!orz


>D氏

 ネギまの原作で書かれなかった部分って結構あると思います。横島にはその辺りにも深く関わってもらえるように頑張ります。


>シヴァやん氏
 はじめまして。
>うわー、なんかネギが横島色に染まってきてるなー。
 横島色というよりむしろ椎名色?ネギ君は真面目ですから、逆に壊れたら取り返しがつかないかも(笑い)。

>meo氏

 まあ、自力では帰れるでしょうけど、マラソン選手だって車を使うじゃないですか?
 シロはしばらくお仕置きで散歩禁止ということで。
 誤字報告ありがとうございます。
 いつか外伝を書く機会があったら亜子と一緒にマックでバイトさせようかな…


>嗚臣氏

 ぶっちゃけ終わってもいいかもと私も思いますが…、ま、そこは私の気力しだいということで。

>暴利貸し氏

 ねたじゃなくてマジミスです。ほんと私ってダメ日本人…orz
 て、展開については見事に裏切れるよう頑張ります!(半泣き)


>SIMU氏

 展開遅くてすみません。本筋に関係ないところをついつい書き込んじゃう悪い癖が…。
 あなたが読まれたのって多分、知ってます。私もあれに影響を受けて書き始めましたもので。頑張って追いつけるように進めていきます。とか言いつつ、今回もろくに進んじゃいないし…。

>だって原作「GS美神極楽大作戦」の主人公は美神なのに最後の方では完全に横島が主人公でしたからね〜(笑)

しーっ!そ、それをいっちゃあお終いですよ!GSにおいて美神はドラえもん、横島がのび太君って言うのは暗黙の了解なんですから。


>わーくん氏

 『ゴキブリのように逃げる』は名言ですよね。
 逃げるのは大事ですよ、なんと言っても命あってのものだねですから。
 ちなみに横島流というより、ネギが受け継ぐとしたら美神流ですね。いや、ゴキブリ云々じゃなくて知恵と勇気、というより悪知恵と執念といいますか、そういった辺りが。


>ユキカズ氏
 始めまして、詞連です。
 ユッキーVSクーフェィ…確かにいい組み合わせかも。しかし霊能力を使わなければ雪之丞が一方的にボコボコにされそうな予感が。
 訂正については感謝いたします。実は11以降持ってないんです。古本屋に出回らないかと虎視眈々と狙っているのですが…。

レス返し終了。

 さて、次回からは待ちに待ったバトルシーン。
 臨場感を少しでも出せるよう、鋭意努力していく所存です。
 では…。

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