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「これが私の生きる道!運命編4混迷の地球編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-05-21 01:20/2006-05-22 21:48)
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(十二月一日、佐世保市内のちゃんぽん屋)

「ユニウスセブン」の落下阻止後、「ミネルバ」
は地球への降下を命じられ、日本国の佐世保軍港
内に停泊中であった。
今佐世保軍港では、林中将指揮の統一朝鮮海軍の
残存艦艇への修理と補給が行われていて、それが
済み次第「ソウル奪還作戦」を行う事になってい
た。
この作戦には、「ミネルバ」の他に「アマテラス
」と「はりま」「すおう」も参加する事になって
いる。
ちなみに、大西洋連邦軍の「アークエンジェル」
と「ミカエル」は「ユニウスセブン」落下時には
、核攻撃で大損害を受けた第三・第四艦隊将兵の
救援に精一杯で、現在では南アメリカ合衆国で猛
威を振るっている共産党ゲリラ「大いなる荒鷲」
の掃討援護に出向いているらしい。
この組織は共産ゲリラとは名ばかりの、麻薬の密
輸に手を染めている犯罪者組織であり、ここ数日
、いきなり新型モビルスーツを装備して、南アメ
リカ合衆国軍の討伐部隊のモビルスーツ隊を殲滅
させてしまったらしい。
どうやら、彼らには何者かの援助があるらしい。
ひょっとしたら、政府・軍部の高官のみに知らさ
れている、エミリア達の組織かも知れないが。

 「俺達は、朝鮮海軍の準備が終るまでは、訓練
  と休養の日々って事だな」

 「ですね」

 「ちゃんぽん、旨い」

 「本当ですね」

俺とディアッカは、佐世保市内のある一軒のちゃ
んぽん屋で昼飯を食べていた。

 「皿うどんも旨い!」

 「コーウェルは良く食うな。無駄使いじゃない
  のか?」

 「俺がプラント国民の皆さんからいただいた給
  料で、何を食べようと文句は無いはずだ。俺
  は経費じゃなくて、自費で食べているんだか
  ら」

 「それもそうか。ディアッカ、皿うどんを一人
  前頼んで、半分に分けようぜ」

 「いいっすよ」

 「おっちゃん!皿うどん一人前追加!」

 「へい!まいど」

 「男の人って良く食べますね。ちゃんぽん、大
  盛りだったんですよね?」

 「ルナはレディースセットにしたんだよな」

 「ええ。そうしないと、食べ切れませんから」

ルナマリア、メイリン、ステラ、シホは両方が半
分ずつ付いたレディースセットを注文していた。

 「それで、シンは・・・」

 「ほぉいしいっすよ」

 「喋らなくていい」

シンはこのお店の「巨大ちゃんぽんと巨大皿うど
んを食べきったら、賞金300アースダラー」に
挑戦していた。

 「オヤジ、普通はどちらか一方を挑戦するんだ
  よな?」

 「そうですね。片方なら数名の成功者がいるん
  ですけど、両方を成功させた人はいませんね
  」

俺達に追加の皿うどんを持ってきたおっちゃんが
、今までの戦績を教えてくれる。  

 「両方で、十五人前近くあるよな」

 「ですよね」

俺とディアッカが皿うどんを啜りながら、その膨
大な量に感心していた。

 「レイは普通だな」

レイはちゃんぽんと皿うどんを交互に啜っている

 「普通じゃ無いですよ。隣りを見て下さい」

レイの隣りのテーブルには、空の丼と皿が五枚ず
つ置かれていた。

 「オヤジ、皿うどん、お代わり」

 「お前も良く食うな」

昔は小食だったレイも、タリアさんとミーアちゃ
んの意地の張り合いで大量に作られる弁当と、多
数の女性から貰う手作りお菓子等のプレゼントお
陰で胃袋が大拡張をしてしまったらしい。
基本的に、真面目で優しい彼は、全ての味を見る
からだ。

 「お前も、シンと同じやつに挑戦すれば良いの
  に」

 「俺は麺が延びたり、冷めてたりしたら嫌なん
  です。お金ならありますし」

 「そうだよな。お前、金持ちだし」

レイはミーアちゃんの曲を作り続けていて、ミー
アちゃん自身も歌手として成功していたので、そ
の曲を作っているレイには、莫大な印税収入があ
った。 

 「左団扇の生活か。羨ましいな」

 「ヨシさんは、プラントでも有数の財産家の家
  の婿なんですけど」

 「クライン家の財産はラクスの物だ。俺は知ら
  ん。それに、ラクスはカザマの家に嫁に来て
  いる立場だし」

 「クライン家って絶えるんですか?」

 「えっ!プラント創設に貢献したクライン家が
  か?」

最高評議会議員の息子であるディアッカと、財務
省高級官僚の家の生まれのコーウェルには衝撃の
事実のようであった。

 「大丈夫だよ。ほら、これを見ろよ」

俺は、昨日送られてきたラクスの写真をみんなに
見せてあげる。

 「お腹が、大きくなってきましたね。ラクス」

 「7ヶ月を過ぎたからね」

 「胸は・・・。クソっ!」

シホは、再び敗北感に苛まれている様だ。

 「子供が生まれても、カザマ姓ですよね?」

 「実は、双子らしいんだ。しかも、二卵性の」

 「珍しいというか、初めて聞きました」

 「私もです」

 「俺もです」

コーディネーターで双子と言うのは、ルナマリア
やレイを始めとして、全員が始めて聞くようだ。

 「男の子と女の子が、一人ずつらしいから、婿
  でも取るつもりらしいよ。ラクスは」

 「へえ、そうなんですか」

 「俺はノータッチだけど。子供は何も考えずに
  、スクスク育てば良い」

俺が話を締めると、隣りのテーブルで歓声が上が
った。
どうやら、シンが例の挑戦に成功したようだ。

 「お客さん、おめでとう。両方食べきった人は
  始めてだよ」

 「ありがとうございます」

 「はい!賞金の600アースダラーね」

 「やったーーー!」

シンは記念写真を撮って貰いながら、大喜びをし
ている。

 「相変わらず、ありえない量を食うな。シンは
  」

 「デザートでも、食べに行きましょう。奢りま
  すよ」

 「お前、まだ食うの?」

 「デザートは別腹ですよ」

 「あきれたよ」

俺達が驚いていると、突然、店内に五人組の若い
男達が入ってきて、乱暴に椅子に座った。

 「酒を早く持って来い!」

 「はいはい、ただ今」

 「ぶっ殺すぞ!日本人が!」

既に、酒に酔っていた男達は、脅迫めいた口調で
暴言を吐きながら、店のオヤジを脅していた。

 「ヤクザですかね?」

シンが、俺に小声で聞いてくる。

 「服装を見てみろ。着崩してはいるが、統一朝
  鮮軍の軍服だ」

 「はいはい、お待たせしました」

店のオヤジが、酒と一緒におつまみのメンマとチ
ャーシューをテーブルに置いた。

 「キムチが無えぞ!この野郎!」

 「キムチはメニューには無いのですが・・・」

 「買って来い!殺すぞ!ボケ!」

 「普通、キムチくらいどこの店にもあるぞ!早
  く、買って来いよ!」

 「すぐに買ってきます!」

オヤジは、キムチを仕入れる為に、店を飛び出し
てしまった。

 「あまり、規律の良い軍隊ではありませんね」

 「あまりじゃない。こいつらは軍務中に、軍服
  のままで酒を飲んでいるんだぞ。俺達は食事
  休憩でも、私服に着替えて出ているのに」

 「でも、俺達もプラントの飲み屋に、軍服で何
  回か行きましたよ」

 「あれは、自分の国の中の事だし勤務時間外の
  事だ。それに、あそこで悪事を働いたら、自
  分に跳ね返ってくるシステムになっているか
  らな」

 「でも、あいつらは・・・」

 「ちょっとくらい、悪さをしても、すぐに居な
  くなるから大丈夫だと思っているんだろうな
  。実際に、統一朝鮮軍兵士で逮捕された連中
  は、もう二百人を超えたそうだ。強盗、暴行
  、窃盗、万引き、強姦やりたい放題だ。先の
  大戦でも、東アジア共和国軍の援軍お断りで
  、もし、派遣するにしても、(中国軍と朝鮮  
  軍はお断り)って国が多かったらしいから」

東アジア共和国は、先の大戦で開戦時に大戦力を
失ったが、大量の歩兵が残っていたので、「各国
に援軍として派遣します」という声明を出したの
だが、それに応ずる国はほとんど皆無であった。
「強盗から身を守るのに、新しい強盗を受け入れ
ても意味が無い」これは、スペインの前大統領で
あった、マルマロ・ホセの有名なオフレコ語録の
一つである。

 「統一朝鮮軍の林司令官は、何をやってるんだ
  ろうな?」

 「こんな連中では、勝利は覚束無いよな」

コーウェルとディアッアは、言いたい放題だ。

 「おっ!可愛いお姉ちゃんが四人もいる」

 「本当だ。酌でもして貰おうぜ」

例のガラの悪い五人組はステラ達に目を付けたよ
うだ。

 「おーい!姉ちゃん、酌してくれよ」

 「俺達は、かっこいい統一朝鮮軍のモビルスー
  ツのパイロットだよ」

 「そうそう、エリートなんだ」

 「エリートが昼間から安酒を飲んで、酔っ払う
  かよ」

 「私達、予定がありますから」

俺の皮肉は連中に無視されたが、ルナマリアが代
表して冷たい声で断りを入れた。

 「え〜、いいじゃん。一緒に飲もうぜ!後で、
  モビルスーツに乗せてやるからさ」

 「ザフト軍だったら、即刻クビだな」

 「ですね」

 「これから、仕事がありますから」

シホも、かなり冷たい声で断りを入れている。

 「何だぁ?こちらが、優しくしてやれば、つけ
  あがりやがって!俺達を、怒らせるんじゃね
  えよ!」

 「俺達と酒を飲んでから、どこかで大人しく相
  手をしてくれれば良いんだよ!」

席を立ち上がった男達が、ルナマリア達の腕を掴
もうとしたので、俺達男性陣は前に立ち塞がった

 「へっ!格好つけやがって!大恥をかきたく無
  かったら、大人しくしていろよ!」

 「お前ら!俺達を誰だと・・・」

 「コーウェル、ストップ!」

 「カザマ!何でだよ?」

 「こんな、大昔の漫画のような台詞を吐く連中
  は貴重だ。俺が、直々に相手をしてやろう」

 「何だ?日本人なら、容赦はしないぞ!」

 「しなくても良いよ。表に出な」

 「へっ!半殺しにしてやるぜ!」

男達は先に出て行き、続いて俺も、厨房内で目的
の物を探してから外に出た。

 「大丈夫ですかね」

俺が一人で出て行った後に、シンが心配そうにデ
ィアッカに尋ねている。

 「大丈夫だよ。得物を持って行ったから。ヨシ
  さんは、剣道っていう武道で段位を持ってい
  るそうだ。他にも、空手と柔道と合気道をや
  っていたそうだから、素手になっても、あん
  な酔っ払いには負けないさ」

 「あんまり、強そうには見えませんよね。カザ
  マ司令」

 「アカデミーでは、格闘訓練もあるんだ。それ
  なりに強く無いと赤服は着れない。ルナマリ
  アも、結構やるって噂だぞ」

 「ええ、まあ」

アカデミーでの格闘戦の成績は一位はステラで、
二位がシン、三位がレイでルナマリアは四位であ
ったが、ナイフや棒を持たせると、ルナマリアが
圧倒的に強かった。

 「おーい!もう、終ったぞ」

 「へえ、速かったですね」

 「急所を、突いて終わりだったから」

数分後、店の前には、反吐を吐きながら悶絶して
いる五人の男達がいた。

 「急所にですか?」

 「鳩尾にこれで」

俺は、厨房で拝借した麺棒を高々と掲げた。

 「一応、パイロットだって言ってたから、骨折
  とかさせると、使い物にならなくなっちゃう
  でしょ。こんな、ボンクラ達が役に立つかわ
  からないけど、最低限、弾除けとしては有効
  だと思うし」

 「身も蓋も無い言い方ですね」

 「レイ。俺達は、あくまでも援軍なんだぜ。統
  一朝鮮軍がソウル攻略に失敗したら、一目散
  に逃げる事にしているんだから。俺達は、あ
  くまでもサブだから責任も無い」

今回のソウル攻略作戦は、あくまでも統一朝鮮軍
主体で、俺達は隣りで援護をするだけだ。
当然、俺達が、統一朝鮮軍に命令する権限も無い
し、その逆も然りだった。 

 「お客さん!大丈夫でしたか?」

キムチを買いに行かされたオヤジが、血相を変え
て、俺に話し掛けてきた。

 「これを、無断で借りてしまったけど、大丈夫
  だよ」

 「そんな事は良いんですよ。これを、買って戻
  ろうとしたら、近所の人にお客さんとあの五
  人が喧嘩をしているって聞きまして」

オヤジは、近所のスーパーでキムチを買っていた
らしい。 

 「ちゃんぽん屋に、キムチが置いて無くても、
  仕方が無いと思うけどね」

 「佐世保に連中が、寄港してからと言うもの、
  騒動ばかりですよ。とにかく、喧嘩っ早くて
  。酒を飲んでいると尚更です」

 「大変だね」

 「彼らが、酒を飲んで騒いでいると、他のお客
  さんが寄って来ないんですよ。特に、女性の
  お客さんは皆無になってしまって・・・。家
  族連れも少なくなってしまってしまいました
  し・・・」

佐世保基地周辺の飲食店は、軒並み同じ状態らし
い。

 「大変なんだね」

俺達は、オヤジの話を聞きながら、料金を払う。
トータルでは、シンの賞金があるので、大幅なプ
ラスだったが。

 「俺達も軍人だから、耳の痛い話ですね」

 「えっ!お客さん達、軍人なんですか?」

シンの軍人と言う言葉にオヤジが過剰に反応する

 「まあね。ザフト軍のだけど」

 「軍人さんでも、普通にしてくれれば良いんで
  すよ。自衛隊の人で、ここまで酷いのはほと
  んどいませんから」

 「だよな」

自衛隊員でも、酒を飲めばガラの悪くなる奴もい
るのだろうが、こいつ等は軍務中のはずだ。
ソウル攻略作戦に向けて、準備を行っている最中
のはずの統一朝鮮軍の将兵はここ数日、休日返上
で頑張っているという話だったからだ。

 「三日後には作戦が始まるのに、肝心のパイロ
  ットがこれではね・・・」

 「俺達の生存率にもかかわる問題だな」

ディアッカとコーウェルも心配そうな顔をしてい
る。 

 「よし!決めた!」

 「何を、決めたんだ?」

 「こいつらを、直接、指揮官殿に返還してやる
  んだよ」

 「そんな、新たな争いを生むような事を・・・
  」

 「直接、はっきりと言ってやらないと、わから
  ない連中なんだから」

 「オヤジさん!これ、借りるね」

 「ああ、いいよ」

俺は、コーウェルの制止を振り切り、店のオヤジ
に借りたリアカーに例の五人を乗せて、統一朝鮮
軍仮設司令部に向けて歩き出した。

 「シン!」

 「何ですか?」

 「(ミネルバ)に戻って、俺の軍服を取って来
  い。それと、残りの連中も、戻って臨戦態勢
  だ!」

 「えっ!それはまずいんじゃ・・・」

 「バカ野郎!俺達は、喧嘩を売られたんだぞ。
  売られた喧嘩は買う!これが、俺の流儀だ!
  」

 「外交問題になったら、どうするんだよ」

 「安心しろ。絶対にならないから。それよりも
  、連中に出し抜かれたら、俺が、厳罰を与え
  るからな。総員!(ミネルバ)に戻って戦闘
  準備開始!」

 「「「「「了解!!!」」」」」

俺が、リアカーを引っ張っている横で、全員が敬
礼をしてから「ミネルバ」に戻って行った。


 「さて、ここが仮設司令部か」

俺は、途中でシンが持って来た軍服に着替えてか
ら、「統一朝鮮軍仮設司令部」前にリアカーを引
っ張りながら到着した。

 「おい!そこの警備兵!」

 「何だ!お前は?」

 「俺は、ザフト軍特殊任務部隊司令官のヨシヒ
  ロ・カザマだ。林司令官に会わせてくれ」

 「お前のような若造が司令官だあ?嘘をつくな
  ら、もっとマシな嘘をつきやがれ!」

 「統一朝鮮軍は指揮官を筆頭に、ボンクラ揃い
  か・・・」

 「てめえ!うちの司令官殿をバカにしやがった
  な!」

 「三日後に共に戦う同盟軍の指揮官の顔をお前
  が、覚えていない上に、ここの指揮官が、お
  前を司令部の警備兵に任命している点をだ!
  」

三日後に攻略作戦を控えているのに、統一朝鮮軍
の林司令官は俺達はおろか、オーブ軍のトダカ准
将とも顔合わせをしていないらしい。
どうやら、日系人なのが気に入らないようだ。

 「おい!後ろのリアカーの中には、何が入って
  いるんだ?」

 「(いるのでしょうか?)だろ。言葉使いも悪
  いな。林司令官は、部下の教育ひとつ満足に
  出来ないらしいな」

 「「五月蝿い!」」

二人の警備兵がリアカーの中を覗き込むと、未だ
に悶絶している五人の統一朝鮮軍パイロットが放
り込んであったので、警備兵達は驚きの声を上げ
た。  

 「朴中尉!」

 「金少尉!」

 「知り合いか。ちょうどいいな」

 「お前がやったのか!」

 「喧嘩を売られたから、買っただけだ。正当防
  衛だよ」

 「ふざけるな!」

 「ぶっ殺す!」

二人の警備兵が殴り掛かって来たので、俺は、一
人の警備兵の顔面にパンチを入れてから、持って
いた警棒を奪い、もう一人をそれで滅多打ちにし
た。  

 「いいっ、痛い!痛い!痛い!」

 「司令官殿を早く呼べよ。。さもないと、正当
  防衛で頭を強打しちゃうよ。死んでも、責任
  持てないぜ」

 「すいません、すぐに呼んで来ます」

警備兵の一人が、顔面を押さえながらのたうち回
り、もう一人も、急に卑屈になってから、司令室
の奥に走っていった。  

 「(中にどうぞ)との事です」

 「偉そうに。あくまでも、俺は格下か」

 「すいません!」

 「そのゴミは、始末しておいてくれ。リアカー
  は、借り物だから、帰りに持って帰るぞ」

 「了解しました」

俺は、リアカーの中身の始末を警備兵に命令して
から、仮設司令室に入室した。

 「失礼します。始めましてでしたかね。ザフト
  軍特殊任務部隊指揮官のヨシヒロ・カザマで
  す」

 「統一朝鮮海軍総指揮官の林中将だ」

 「参謀長の池少将です」

 「実は、お届け物がありましたので、表の警備
  兵に渡してあります」

 「何やら騒がしかったようだが」

 「(お前のような若造が指揮官のわけがあるか
  !)と言われたので、代わりに罰を与えてお
  きました」

 「そうか、すまんね」

俺の嫌味を、林司令官はさらりとかわした。
意外と、曲者かも知れない。

 「それで、届け物とは何なのだね?」

池参謀長が不機嫌そうな顔で俺に尋ねてくる。

 「実は先ほど、昼食を食べに外に出たのですが
  、その店内で自称統一朝鮮軍のパイロットを
  名乗る連中に絡まれましてね。部下の女性パ
  イロットにちょっかいを出してきたものです
  から、成敗してリアカーで運んで来たんです
  よ」

 「本当なのかね?」

 「さあ?酒を飲んで酔っ払っていましたが、一
  応、軍服を着ていましたので多分そうではな
  いかと。それに、ここの門番は朴中尉だとか
  、金少尉だとか言っていましたから、コスプ
  レ好きのソックリさんでも無ければ本当なん
  でしょうな」

俺は、池参謀長に二発目の嫌味をかましてやるが
、彼は、林司令官ほど曲者では無いらしく、憤怒
の表情で俺をにらみ付けていた。 

 「すると、君は我が軍の大切なパイロットに、
  怪我をさせたと言うわけだね」

 「結果だけを論じるとそうです。まあ、怪我と
  言っても、反吐を吐いて気絶しているだけで
  すけど」

 「ソウル攻略作戦を三日後に控えているのに、
  何て事をしてくれたんだ!」

 「えっ!本当に実施するんですか?失敗する可
  能性が120%なのに!」

 「いくらザフト軍の司令官でも、言って良い事
  と悪い事があるんだぞ!謝罪を要求する!」

 「事実を、言っているだけなんですけど」

 「日本人の若造が!」

 「本音を聞かせていただき、ありがとうござい
  ました」

俺は池参謀長を挑発して、本音を言わせる事に成
功する。
どうやら、彼らは自分がどんな立場にいるのかを
、理解していないらしい。
別に、卑屈になる必要はないが、もう少し上手く
対応して貰いたい。

 「我が軍が負けるというのかね?」

 「ええ。規律が乱れ、軍務中に酒を飲むような
  主力兵器のパイロットがいるようでは駄目で
  すね。そして、それを司令官が放置している
  んですから」 

 「耳が痛いな」

 「本当に耳が痛いんですか?」

 「痛いさ。本当は、厳しくやりたいんだ。石原
  首相から綱紀粛正を厳しく言われているし、
  マスコミにもボロクソに叩かれている。(国
  を失ったのは、自業自得だ!)とか書かれて
  いるからな。だからこそ、ここで厳しくやる
  と金将軍のプロパガンダを補強してしまう可
  能性があるんだよ」

 「プロパガンダですか?」

 「我々は、日本の傀儡で我々が勝利すると、再
  び、日本の植民地にされてしまうそうだ」

 「信じる人がいるんですか?」

 「結構いるんだよ。この艦隊の中にも、パイロ
  ット達の中にもいる」

 「それが、このやる気のなさに現れていると?
  」

 「そうだ」

 「仕方が無いじゃありませんか。大体事実なん
  ですから」

 「貴様!」

池参謀長は俺の言葉で激怒するが、二人で無視す
る事にする。

 「知っているのか?」

 「ええ。石原首相は、臨時統一朝鮮政府に緩衝
  材以上の期待をかけていないで、現在の地域
  が、確保出来ていればそれで良いと思ってい
  る。その理由は、金将軍の独裁国家と隣接す
  ると、過去の北朝のように麻薬の輸出や貨幣
  の偽造などの犯罪を防ぐのが面倒くさくなる
  からだ。あの国はユーラシア連合のクーデタ
  ー政権にしか承認されていない国家で、占領
  地では、外国資本が次々に逃げ出している状
  態なので、早晩経済的危機に陥るであろうし
  、臨時統一朝鮮政府も、現在、抑えている地
  域の経済力ではこの大軍備を保持出来ないの
  で、極東連合の援助を受け続ける事になるで
  あろう。つまり、経済的植民地の誕生ですね
  。まあ、内政には口を挟まないと思いますが
  、金を出している以上、軍には口を挟み続け
  るわけですよ」

 「プラント前最高評議会議長シーゲル・クライ
  ンの婿殿には、お見通しという事か」

 「世界中の政治家が、知っている事実ですよ」

 「そういう理由で、俺達は最低でもソウルは取
  り戻さないと、国としてやっていけないんだ
  。経済的にも、内戦状態の中国があてになら
  ない以上、極東連合の経済圏に入らなければ
  ならない」

 「臨時政府も、そう考えているんですか?それ
  は、林司令官の独自のお考えでは?」

 「連中もバカではない。口では偉そうな事を言
  っているが、現実には、日本無しでやってい
  けない事ぐらい理解しているだろう。最も、
  プライドが脂肪になって腹の周りに付いてい
  る連中だから、公式の場で口には出せないだ
  ろうがな」

 「そうですか。それで、林司令官はこの作戦成
  功するとお思いですか?」 

 「難しいだろうな。だが、俺達は、政府の命令
  で動かなければならないから・・・」

 「林司令!」

林司令官の答えに池参謀長は抗議の声を上げた。

 「君も、わかっているだろう。戦場で誰が裏切
  るかわからない状態では、勝利が覚束無い事
  くらい」

 「そこまで、酷いんですか?」

統一朝鮮軍艦隊では、全軍人の思想捜査を行って
いる最中らしいが、そんな事は物理的に不可能な
ので、いつ爆発するかわからない爆弾を抱えて決
戦に臨むらしい。

 「もう、いいです。帰ります」

俺は、先程の件で大暴れでもしてやろうと思った
のだが、あまりの状況の酷さに力が抜けてしまっ
たので、大人しく帰って来てしまった。


 「そんなわけで、状況は最悪です。俺達だけで
  も、対策を考えておかないと、全員で枕を並
  べて討ち死にですよ」

統一朝鮮軍への手痛いシッペ返しを中止したあと
、夜になってから、特殊対応部隊の幹部を集めて
対策会議を行う事にした。
まあ、会議と言っても、昼のちゃんぽん屋にリア
カーを返しに行ったついでに、酒を飲んでいるだ
けだが・・・。

 「突然、隣りで戦っている味方が、裏切って攻
  撃してくる可能性があるのか。厳しい戦いに
  なりそうだな」

トダカ准将が、ビールを飲みながら表情を厳しく
する。

 「あの大人数を、全員調べられるわけないし、
  釜山を出発する統一朝鮮陸軍の連中も怪しい
  となると、孤立する危険性があるな」

 「かといって、戦力は四隻だけで、援軍は期待
  出来ないし」

「はりま」艦長の高柳一佐と、「すおう」艦長太
田一佐も、立て続けに発言する。

 「カザマ司令は、どう考えているんだ?」

 「問題なのは、連中と味方の裏切りの可能性だ
  けではなくて、エミリア達が、新兵器を送っ 
  ていた時の事です。状況としては、その可能
  性が高いわけですが」

 「それもあったんだよな」

極東連合軍特殊対応部隊指揮官の長谷川海将補が
、思い出してうんざりした表情で言う。
もう、この時点では、かなりの政治家や軍の高級
将校が、エミリア達の存在を知らされていて、そ
の対策に苦慮していたからだ。

 「姿はほとんど見えないが、戦乱の影にエミリ
  アあり。不穏分子が、使っている新型モビル
  スーツはエミリアのプレゼントである可能性 
  が高い」

そう言われていて、南米の共産党ゲリラや北部朝
鮮の金将軍、中国のいくつかの軍閥、東南アジア
の海賊、中央アジアのイスラム過激派、アフリカ
の反アフリカ共同体組織や、宇宙で暗躍する海賊
達にも支援をまわしている事が、大西洋連邦の情
報部の調べでわかっていた。 

 「俺達はどうしたものかな」

トダカ准将がおつまみのチャーシューをつまみな
がら、困ったような表情をしている。

 「現実的な案としては、統一朝鮮軍から少し離
  れたところで、四隻がコンバットボックスを
  組んで火力を集中させて、守備に専念すれば
  良いと思います」

熱燗の日本酒を飲みながら、アーサー副司令が堅
実な意見を出した。

 「現状では、これしかないかな?」

 「でしょうな」

トダカ准将と長谷川海将補が賛成の意見を述べる
と、俺もそれに頷き、高柳一佐と太田一佐も同じ
く頷いた。 

 「最後に確認をしておきますが、我々は、あく
  までも援軍です。統一朝鮮軍の指図は受けな
  い。これで、良いですね?」

俺の最終確認に、全員が頷いたので、真面目な話
が終了になった。

 「本当に勘弁して欲しいよな。俺は子供が生ま
  れるってのに。子供を父無し子にするつもり
  かっての!やっぱり、林司令官と池参謀長を
  殴っておけば良かった」

 「池参謀長はともかく、林司令官は、常識人で
  苦労しているからな。可哀想だろう」

 「長谷川海将補は甘いですよ」

俺は、長谷川海将補に反論してしまう。

 「臨時政府の連中との、会議の内容を聞いた事
  があるのか?(極東連合の副議長の地位を要
  求する)とか、(すぐに、一旦引き揚げた資
  本を、国内に入れて統一朝鮮の経済力を回復
  させろ)だとか、(○島の領有権は、我々に
  あるから、周辺海域の自衛隊艦艇を撤退させ
  ろ)だとか、言いたい放題なんだぜ。そんな
  、非常識な政府の連中と裏切らないように、
  甘やかされていい気になっている軍人達の板
  ばさみになっているんだよ。彼は」

 「ここ数百年は一つの国家だったから、気が付
  いていない連中も多いけど、元々、朝鮮半島
  は、地域間の対立が激しいからな。過去の事
  が尾を引いて、貧しい地域である北部の連中
  が、金将軍に期待してしまったんだろうな」

歴史に詳しい太田一佐が背景を説明してくれる。

 「逆南北問題ですか?」

 「そうだよ。南部地域は、経済的に豊かだから
  な。その事を妬む北部の連中は多いんだ」

 「さて、つまらん話はここで終了にして、カザ
  マ司令、新婚生活は楽しいかね?」

 「長谷川海将補、その話を振りますか?普通」

 「俺達は四十歳も半ばを過ぎ、奥さんには粗大
  ゴミ扱いされ、娘には汚物扱いされ、息子に
  は無視される悲しい存在なんだ。せめて、楽
  しそうな話を聞こうかと」

俺とアーサーさんを除く全員が、目を輝かせなが
ら、俺が話すのを待っている。
どうやら、日頃、相当に悲しい思いをしているよ
うであった。

 「出発前の最後の休日には、買物に出掛けまし
  たけど」

 「何を買いに行ったんだ?」

 「ベビーベッドとか、ベビー用品とかですよ。
  ああ、俺の服も買いに行きました」

 「ちくしょう!ラブラブじゃねえか!服なんか
  選んでもらっちゃって!俺なんて、久し振り
  の休みに家のソファーで横になっていたら、
  (掃除の邪魔だからどいて)って言われたっ
  てのに!」

 「俺も同じだ」

長谷川海将補と太田一佐が、悔しそうに過去の話
をした。

 「俺なんて、娘に(友達が来るんだけど、恥か
  しいから外出して)って言われたんだぞ!」

高柳一佐の話の内容は、更に、悲惨であった。

 「トダカ准将は?」

 「すまん。俺は晩婚で、子供がまだ小さいんだ
  。前の休みには、遊園地に家族で出掛けた」

 「裏切り者が!それで、子供はいくつなんだ?
  」

 「六歳の女の子と、五歳の男の子だ」 

 「奥さんは?」

 「二十六歳だ」

 「この、犯罪者がーーー!」

 「裏切り者ーーー!」

 「見た目、ナイスミドルだからって、やって良
  い事と悪い事があるんだぞ!」

トダカ准将は、長谷川海将補と太田一佐と高柳一
佐に、立て続けにボロクソに言われていた。

 「こんな事で、怒られるなんて・・・」

トダカ准将は納得がいかないようだ。

 「俺も、買物に出ただけなんですけど」

 「トライン副司令!君はどうなんだ?彼女はい
  るのか?」

 「ええ、まあ。一応、いますけど」

 「「「裏切り者がーーー!」」」

 「ええーーー!裏切り者なんですか?」

 「普通はそう思うよな・・・」

 「ですよね・・・」

悲しい中年三人組の理不尽な発言に、俺とトダカ
准将とアーサーさんは、納得のいかないような顔
をする。 

 「お客さん達もですか?実は、私もなんです」

 「オヤジ!あんたも、そうなのか!」

 「ここのところ、売上げが悪いものですから、
  家に帰ると、(役立たず!もっと、一生懸命
  にやれ!あんたと結婚して大損だ!)とかボ
  ロクソに言われています」

 「オヤジ・・・。ビール追加だ。頑張れよ」

 「俺も、ビール追加。俺より酷いな」

 「俺も、ビールを。男も四十歳を過ぎるとな。
  カザマ司令も、あと二十年もすれば、ラクス
  様に粗大ゴミ扱いされるさ。トライン副司令
  も同じだ」

 「ええーーー!そうなんですか?」

 「今の内に楽しんでおけよ」

 「花の命は短いんだ」

 「その表現、あってます?」

俺の疑問に答えてくれる人は一人もいなかった。


  


  

(同時刻、ソウル市内、旧大統領官邸内)

電撃的な侵攻作戦と、統一朝鮮軍人の裏切りによ
ってソウルを占領した金将軍の部隊は、旧大統領
官邸を接収して、そこに臨時の軍司令部を置いて
いた。  

 「ミリア様、私は半島の統一を成し遂げたら、
  国民に新しい大統領を選ばせようと思ってい
  るんですよ」

 「そうですか。金将軍は謙虚な方なのですね。
  あなたの様な方が、指導者で皆は幸せですね
  」

 「いえいえ、ミリア様自らが、援軍を率いて来
  てくれたお陰です」

二人が表面だけ取り繕った会話を終了させてから
、お互いの私室に戻った。

 「ミリア、どうだった?」

 「今のところ、大成功だから機嫌が良かったわ
  よ。今頃は、女でも呼び寄せて楽しんでいる
  んでしょうね。所詮、母上の援助が無ければ
  下品な過激派で終った豚男よ」

ミリアは、部屋で待っていたアヤに吐き捨てるよ
うに言う。

 「でも、選挙で新大統領を選ぶって・・・」

 「あいつしか出馬出来ないシステムになってい
  るのよ。数百年前の北朝鮮の復活よ。独裁者
  が国民を縛り付けるの」

 「どうしようもない男ね」

 「私達の目的のためには、あんな豚男でも、利
  用しないといけないのよ」

 「(クライシス)の準備は出来ているわよ」

 「そう。ありがとう」

黒海のセヴァストポリを出発した十二隻の「ノー
チラス」級潜水艦のうち、半数が朝鮮半島と中国
大陸に回されて、この地域の重要性を如実に表し
ていた。 

ミリアとアヤは二隻の「ノーチラス」級潜水艦の
部隊を率いて、陥落直後のソウル港に停泊し、搭
載していたモビルスーツ隊の整備を行っていた。
金将軍への援助は、彼が少数の過激派を率いてい
る頃から始めまっていて、始めは資金を次には各
種火器や車両を渡し、最後には統一朝鮮軍でも、
まだ配備が始まったばかりの新型量産機「李舜臣
」の改良機の援助とパイロットの訓練までを引き
受けていた。
エミリア達は非合法で手に入れた「李舜臣」の設
計図を元に、フェイズシフト装甲完備で性能もア
ップさせて、整備性や量産性まで改良した「李舜
臣供廚覆襯皀咼襯后璽弔魍発して彼らに提供し
ていたのだ。

 「(ストライクダガー)よりも性能は上だが、
  (センプウ)よりは完全に下で、整備性と生
  産性は最悪だ。だから、登場してから二年も
  経っているのに、全軍に配備出来ないんだ。
  でも、僕がその点を改良してあげたし、重要
  部分にしか使われていないフェイズシフ装甲
  も完備させてあげたから。これで、(センプ
  ウ供砲茲蠅肋し下だけど、(センプウ)並
  のモビルスーツに仕上がったはずだ」

エミリアチルドレンの一人であるハウンはこう語
っていたが、金将軍は「李舜臣供廚任呂覆て、
「安重根」と呼んでいた。
新型モビルスーツに、テロリストの名前を付ける
彼の心境は良く理解出来ないが。 

 「あの豚が(安重根)と呼んでいる(李舜臣
  )と正規軍を裏切った(ストライクダガーフ
  ライトパック装備型)と(李舜臣)が合計で
  二百機あまりで、私達の持ってきた(ウィン
  ダム)の改良機である(クライシス)が二十
  六機で全てね。私の機体は、自分用の調整が
  されているだけだけど、アヤの機体はあれを  
  積んでいるから・・・」

 「大丈夫よ。必ず乗りこなして、カザマを討つ
  !」

 「頑張ってね」

五日後には、日本の援助で戦力を回復した統一朝
鮮軍による「ソウル攻略作戦」が始まると、情報
部から報告が入って来ていた。
この国の連中は、同じ民族で二つの勢力に分かれ
ているが、お互いに獅子身中の虫を飼っているら
しい。
多分、こちらの情報も筒抜けなのだろう。
あの豚は景気の良い事を言っていたが、北部出身
の正規軍を裏切って加わった兵士達が、豊かなソ
ウル市内で略奪と暴行を繰り返しているらしい。
その所為で、彼らの本性に気が付き、臨時統一朝
鮮政府や軍部に情報を流していないとは100%
言い切れないからだ。

 「世界が混乱すればするほど、私達には都合が
  良いか・・・」

ミリアは誰にも聞こえないように、そっとつぶや
くのであった。


(十一月三十日午前八時、ソウル郊外上空)

予定通りに「ソウル攻略作戦」は実施され、釜山
を出撃した陸軍部隊と、佐世保を出港した海軍の
艦隊は、大した抵抗も無く、目的地の近くにまで
接近していた。

 「抵抗が全くないなんて、おかしいですよね」

 「そうだね。あきらかに、罠としか思えない」

特殊対応部隊に所属する三ヶ国の艦艇は「ミネル
バ」を先頭にして、「はりま」と「すおう」がそ
の左右後方につき、殿を「アマテラス」が務めて
いて、その形はちょうど、ひし形のような形にな
っていた。

 「それで、下の連中は何て言ってるんですか?
  」

 「このまま、攻略作戦に移行するとの事だ」

俺達の艦隊は空を飛べるという特徴を生かすため
に、陸軍部隊の護衛を務めていたのだが、敵が全
くいなかったので、敵の占領地を奪還しながら、
ブラブラと飛んでいただけだったのだ。

 「カザマ君!敵モビルスーツ隊が多数見える!
  数は二百機を越えているみたいだ」

 「そりゃあ、黙ってソウルは渡さないでしょう
  ね。モビルスーツ隊発進!ステラとルナは(
  ミネルバ)艦上で三式長距離狙撃ライフルの
  準備をしろ!俺達は孤立無縁に近い状態なん
  だから、地上には降りるなよ。最悪、見捨て
  る事になりかねないから」

今回の作戦では、飛行不能な「アビス」と「ガイ
ア」はミネルバ艦上で狙撃に専念させる事にした

自衛隊から拝借した、新型の大型狙撃ライフルで
ある三式長距離狙撃ライフルのコードを「ミネル
バ」艦内のエネルギー源に繋ぎ、艦の左右にある
モビルスーツ発進口の上から狙撃させる事にした
のだ。
実は、統一朝鮮海軍の林司令官から「アビス」を
貸して欲しいという要請があったのだが、最新鋭
モビルスーツを一応味方とはいえ、他国の目に晒
させるわけには行かなかったし、林司令官が新型
モビルスーツを手土産に裏切らない保証も無かっ
たからだ。

 「酷い戦場だ。頼りになる味方が、この四隻の
  みとは・・・」

誰が裏切っても不思議ではないという、緊張感で
、胃が痛くなってくる。
多分、アスランもトダカ准将も長谷川海将補も、
石原二佐も他の指揮官達も同様であろう。

 「モビルスーツ隊は(ミネルバ)の防衛にまわ
  れ。(ミネルバ)は全火器開放。ただし、タ
  ンホイザーのみは禁じ手とする!」

俺は格納庫内の「グフ」のコックピットから、ア
ーサーさんに指示を出した。

 「アーサーさん、わかってますね?」

 「了解した」

実は、事前に二人だけで相談していた事があって
、もし、「ミネルバ」がピンチに陥ったら、タン
ホイザーを起動させるように決めていたのだ。
本当は好ましくない事なのだろうが、アホな味方
の不始末で死にたくなかったからだ。

 「では、行きますよ!ヨシヒロ・カザマ、(グ
  フ)出るぞ!」

俺が出撃して「ミネルバ」の隣りで守備につくい
たと同時に、陸軍の護衛をしていた「ストライク
ダガー」隊と海上の機動艦隊から発進したモビル
スーツ隊が合同して、金将軍指揮下のモビルスー
ツ隊と戦闘を開始した。 

 「おおっ!始まったな」

事前に聞いている戦力差は、統一朝鮮軍のモビル
スーツ隊が合計で三百機と俺達が五十機弱で、向
こうは、二百二十機前後なので、こちらが圧倒的
に有利なはずなのだが・・・。

 「下手糞だな。統一朝鮮軍のモビルスーツ隊は
  ・・・」

確か、統一朝鮮軍の正規のパイロット数は三百人
ほどだったはずで、金将軍のプロパガンダで百人
ほどが裏切っているから、残りは二百人のはずだ

そして、残りの百人は訓練生か世界各地に点在し
ている、韓国系の傭兵と、他国のパイロットを臨
時で雇っていたはずだ。
当然、連携は望めるはずもなく、訓練生達は編隊
を崩し足を引っ張っていた。

 「こんな戦いで死ぬなんて、可愛そうに」

俺が呟いている横から三式長距離狙撃銃が発射さ
れ、金将軍の部隊(北鮮軍)のモビルスーツを貫
いていった。

 「ステラ、上手いぞ」

 「ありがとうございます。カザマ司令」

 「ルナも上手いな」

 「結構、上手くなりましたよ。射撃」

 「師匠が良いからだ」

 「感謝しますよ」

俺達がそんな話をしている下では、統一朝鮮軍陸
軍と、北鮮軍の陸上部隊が戦闘を開始した。
実際には、北鮮軍は少数の陸上部隊しか持ってい
なかったので、裏切って北鮮軍側についた陸軍と
、裏切らなかった陸軍との同士討ちというのが真
相なのだが。

 「同胞同士で討ち合うか。勝っても悲惨、負け
  るともっと悲惨か・・・」

戦場からはぐれてきた敵のモビルスーツをビーム
ガンで粉砕しながら独り言を呟く。

 「カザマ司令!俺は出なくていいんですか?」

 「シンは、もう少し待ってくれ。何か、戦況に
  変化があったら出すから」

 「了解」

俺はシンを出さずに、四隻の艦艇で防御体型を取
りながら、陸軍の進撃速度に合わせてゆっくりと
前進していた。
モビルスーツ隊はその周りで、接近してくる敵を
一機ずつ、慎重に落としている。

 「そろそろ、ありえるかな?ソウル市街が近づ
  いてきたから」

俺の予想どおり、戦闘開始から二十分ほどで、大
きな戦況の変化が訪れた。
ソウル郊外上空で、激突していた両軍のモビルス
ーツ隊の動きが混乱し始めたのだ。
統一朝鮮軍のモビルスーツには、同士討ちを避け
るために、国旗のマーキングが各所にされていた
のだが、同じマーキングをしたモビルスーツ同士
が戦闘を始めている。

 「やはり、裏切り者が出たか・・・」

だが、俺の予想を超えて、更に戦闘は混乱を増し
てくる。

 「はあ?北鮮軍の中にも裏切りか?」

一度は所属先を裏切って、北鮮軍についたはずの
連中の一部が、再び裏切って、北鮮軍に攻撃を開
始する。
おかげで、戦況は完全な混乱状態になってしまっ
た。

 「これでは、無闇に攻撃できないな」

両軍共に裏切り者が出て、戦場は完全に混乱状態
に陥っていて、どちらが敵かわからずに、味方同
士で戦闘をしていたり、味方だと思って背中を向
けたら攻撃されたりと、かなり悲惨な状況になっ
ていた。

 「(ミネルバ)所属のモビルスーツ隊に告げる
  !艦の防衛に専念して、あの混乱した戦場に
  近づかないように!」 

俺と同じ様な指示を「アマテラス」と「はりま」
「すおう」も出したらしく、所属のモビルスーツ
隊は自分の艦の周りから離れずにいる。

 「カザマ司令!大変だ!」

 「今度は何ですか?」

 「陸軍にも裏切り者が出た」

 「ちっ!」

統一朝鮮軍の陸軍部隊にも裏切り者が出て、隣り
の味方部隊を攻撃している状況が良く見えるばか
りでなく、北鮮軍の中にも裏切り者が出て、統一
朝鮮軍をソウル市内に入れようと、かつての味方
を攻撃しているのだが、肝心の統一朝鮮軍が、全
く動けないようだ。

 「微速後退!裏切った部隊の攻撃があるぞ!」

俺の指示で「ミネルバ」が後退を開始すると、案
の定、裏切った部隊の攻撃ヘリや速射砲などの攻
撃が開始される。

 「ちっ!どれが味方で、どれが敵なんだよ!」

裏切った部隊の攻撃ヘリを、スレイヤーウイップ
やビームガンで仕留めながら怒鳴っていると、ア
ーサーさんから、次の報告が入ってくる。

 「カザマ司令!下の陸軍部隊の指揮官である楊
  大将は戦死したそうだ。幕僚も全滅らしい。
  次席指揮官の韓中将が、指揮の建て直しをし
  ているが、時間が掛かるそうだ。更に悪い事
  に、海上の林司令指揮下の艦隊の一部も裏切
  って交戦中との事だ。我々は、独自に状況を
  切り開かねばならないようだ」

 「逃げ出しましょうよ。俺達の責任じゃないで
  すもの」

 「そうも、いかないようだよ。バートが、新た
  な敵をキャッチしたらしい」  

 「見えますよ。(ウィンダム)に似た量産機が
  、推定でも二十機以上います。俺達は罠に嵌
  められましたかね?」

 「さあ?どうだろう」

 「アーサーさんは(ミネルバ)を後退させてか
  ら、タンホイザーを除く全火器で敵陸上部隊
  を裏切り者共々、なぎ払って下さい。俺は、
  新たな敵モビルスーツ隊と戦闘を開始します
  。ステラ!ルナ!(ミネルバ)を守りとおせ
  よ!」

 「「了解!!」」

 「シン!出番だ!出撃しろ!」

 「了解です!メイリン!フォースシルエットだ
  !(コアスプレンダー)出撃します!」

シンが「インパルス」を合体させている間に、俺
達はステラとルナマリアを残して、例の新型量産
機部隊に向かっていった。
これには、「アマテラス」「はりま」「すおう」
からも九機ずつのモビルスーツ隊が参加している

 「九機+九機+九機+シンを入れて七機で合計
  三十四機ですか。向こうより十機くらい多い
  かな?」

 「ディアッカ、性能が良く分からない。油断す
  るなよ」

 「了解です」

三十四機の味方と二十六機の敵モビルスーツ隊が
交錯して、お互いに、四機ずつが落ちていった。

 「何!手強いぞ!」

 「(ハヤテ)と(ムラサメ)の欠点を熟知して
  いる」 

アスランと石原二佐が驚きの声を上げた。
MA体型時には、前からでなく、後ろから攻撃す
る。
これが、「ムラサメ」と「ハヤテ」の攻撃方法な
のだが、既に見破られていたのだ。
驚かない方がおかしいであろう。

 「ユーラシア連合や東アジア共和国との戦闘の
  データが、奴らに渡っているのか・・・」

 「そういう事だな。相羽三佐」

 「どうする?石原ニ佐殿」

 「どうもこうも、小隊単位で一機ずつ落とす!
  これが基本だ!」

 「そうだな」


 「アスラン!どうする?」

 「今までどおりですよ。小隊単位で落とす。こ
  れだけです」

 「それしかないか・・・」


 「ヨシさん、どうしましょうか?」

 「リーカさん達は小隊で動いて下さい。ディア
  ッカはレイと組んで、機動力で敵を落とせ!
  俺は・・・・・・」

 「俺は?」

 「何か、敵さん。俺に用事があるようだよ」

俺の前に少し形の違う「ウィンダムもどき」が立
ち塞がり、俺を挑発していた。

 「ディアッカ!シンも任せるから、三機で敵を
  落とせるだけ落とせ!俺は忙しくなりそうだ
  」

二年ぶりの一騎討ちの感覚に俺の心臓は鼓動を速
め、冷や汗が噴出してきた。

 「こいつは・・・。強敵そうだ」

俺は先に敵モビルスーツにビームガンを発射する
が、簡単にかわされてしまった上に、逆に距離を
取られてビームライフルを連射されてしまう。

 「(グフ)の欠点は承知済みか!」

俺は何とか接近を試みるのだが、敵モビルスーツ
の飛行性能と、(グフ)の飛行性能にあまり差が
ないらしく、なかなか距離が縮まらない。

 「困ったな・・・」

 「死ね!(黒い死神)!」

突然、無線に若い女性の声が入り、敵モビルスー
ツの背中から「カオス」の起動兵装ポッドのよう
な物が二基飛び出してきた。

 「地上で使えるのか!」

起動兵装ポットのような物は、信じられないほど
の高速で俺の後ろを取り、内臓しているビーム砲
やミサイルを乱射し始めた。

 「ちくしょう!ありえねえ!」

俺は、モビルスーツ本体からの攻撃と、二基の起
動兵装ポッドの攻撃で大ピンチに陥っていた。

 「こなくそ!」

俺は攻撃をギリギリでかわしながら、ビームガン
で起動兵装ポッドを撃つが、対ビームコーティン
グがしてあるらしく、あっけなく弾かれてしまっ
た。

 「ははは、残念だったわね。兄の仇よ!死にな
  さい!」

 「覚えがあり過ぎて、誰だかわからないんだよ
  !」

敵のパイロットが、無駄口を叩いた隙にスレイヤ
ーウィップで起動兵装ポッドを攻撃すると、安全
装置が働いたらしく、自動的に背中の部分に戻っ
てしまった。

 「やはり、地上で使う分、作りが精工だな。そ
  れに、使用可能時間も短いのだろう。チャー
  ジの時間が掛かるのかな?それとも、推進剤
  切れかな?」

説明するように話しながら、敵モビルスーツに接
近していく。
敵モビルスーツは、ビームライフルで精密な射撃
を加えてくるが、精密ゆえにかわしやすいと言う
、有名な言葉がある事を、教えてあげたいくらい
だ。  

 「なっ、何で当たらない!」

 「自分で考えな!ほら、起動兵装ポッドを展開
  している時と、使用後暫らくは、機動力が落
  ちているぞ!」

シールドからビームソードを引き抜いてから、敵
モビルスーツに斬りかかると、敵モビルスーツは
、シールドでその攻撃を防ぎながら、ビームサー
ベルを抜いて斬り掛かってきた。

 「俺の攻撃をかわすか!経験はまだ浅いが、恐
  ろしい才能だ!」

 「ふん!あんたに褒められても嬉しくない!む
  しろ不快だ!兄の無念思い知れ!」

 「覚えがあり過ぎてね。俺は今まで、何千人・
  ・・。いや、ひょっとしたら、一万人以上は
  殺しているかも」

 「その家族の怨念も、加えて死ね!」

 「仕方がないだろう!戦争なんだから!」

俺はこの女性パイロットと切り結びながら、デジ
ャブを感じていた。
以前に同じような奴と戦った気がする・・・。

 「・・・・・・。ササキ大尉か!同じ空間認識
  能力者だし!だが、経験はともかく、腕が良
  すぎだ・・・。ひょっとして、強化人間?」

 「良くわかったな!私はコテツ・ササキの妹だ
  !」

 「名乗ってもいいの?テロリストの癖に」

 「五月蝿い!お前さえ殺せれば、大した問題じ
  ゃない!」

どうやら、この娘は俺を殺す以外に、何も考えて
いないようだ。
この手の女は、一番性質が悪い。 

 「ふん!とにかく死ね!」

格闘戦で思わぬ時間を使ってしまったので、例の
起動兵装ポッドのチャージが、終了してしまった
らしい。
背中から起動兵装ポッドが飛び出し、俺の隙をつ
いて攻撃を仕掛けてくる。

 「やはり、ササキ大尉より全ての能力が上回っ
  ている。強化人間の可能性があるな」

 「私は、ハーフコーディネーターだ!」

 「ちっ!限界時間無しに強いのか!」

俺は再び、スレイヤーウイップで起動兵装ポッド
を攻撃しようとするが、その攻撃はかわされ、反
対に伸ばしていたスレーヤーウイップを、ビーム
で千切られてしまった。

 「あの動態視力は、コーディネーターか」

 「残念だったわね。同じ手は二度と通用しない
  !」

 「そうかい!」

俺はビームソードを抜いてから、シールドを起動
兵装ポッドに投げつける。
すると、起動兵装ポッドの動きが鈍ったので、ビ
ームソードを叩き付け始める。

 「ふん、対ビームコーティングを施してある上
  に、フェイズシフト装甲完備なんだ。無駄だ
  !」

確かに、外見は丈夫そのものでも、大気中で使用
が前提の、プラントでも、試作品すら完成してい
ないこの装備の耐久性はかなり低いはずだ。
俺は、そう確信して起動兵装ポッドの攻撃をかわ
しながら、何回も接近してビームソードを叩き付
けていく。
すると、ビームソードの本体が折れてしまった。

 「残念だったわね」

 「さて、そうかな?」

ササキ大尉の妹は、起動兵装ポッドを操作しよう
とするが、一基が黒い煙を吐きながら、墜落して
しまった。
どうやら、俺の努力は無駄ではなかったようだ。

 「そんな・・・」

 「試作品なんてそんな物だよ。良く覚えておき
  な」

 「五月蝿い!」

ササキ大尉の妹は、もう一基の起動兵装ポッドを
操作して俺を攻撃するが、残り一基になってしま
ったので、前より余裕でかわせるようになった。

 「クソ!何で落ちない!」

 「腕が良いからさ」

 「ふざけるな!」

だが、シールドとビームソードを失い、スレイヤ
ーウィップも片方使えなくなった俺は、かなり厳
しい状況に追いやられていた。

 「当たれ!」

ササキ大尉の妹はムキになって、俺を起動兵装ポ
ッドで攻撃を仕掛けていたが、遂に可動時間切れ
になってしまったようだ。
起動兵装ポッドは自動的に背中に装着される。

 「今だ!」

 「させるか!」

俺は、敵モビルスーツのビーム攻撃をかわしなが
ら、自分もビームガンを乱射して接近する。

 「喰らえ!」

俺はスレイヤーウィップを敵モビルスーツのビー
ムライフルに巻きつける事に成功し、高圧の電流
が流れたビームライフルは誘爆を起こしてしまっ
た。
敵モビルスーツはシールドで懸命に爆発を防ぐが
、経験のなさを露呈して、右腕の先を失っていた

 「ふふ、(ザク)とは違うんだよ!(ザク)と
  は!」

 「お前、(ザク)に乗ってた事があるのか?」

 「訓練で少々・・・」

 「実戦で、使った事もないのに比べるのか?」

 「そっ、それは・・・」

敵パイロットの、突然の厳しいツッコミに返事が
出来ないでいると、その隙に敵モビルスーツは撤
退を開始してしまう。

 「向こうは、ビームサーベルが残っていて、こ
  ちらは、得物が無かったからな。仕方が無い
  か」

俺達が戦っている間に、戦況に大きな変化があり
、例の新型モビルスーツ部隊は引き揚げてしまっ
たようだ。

 「ディアッカ!何があった?」

 「向こうは指揮官機の他に、五機ほどしか生き
  残っていませんから。状況が悪いので、引き
  揚げたのでしょう」

 「こちらはどうなんだ?」

 「(ハヤテ)五機、(ムラサメ)四機喪失です
  。うちも(センプウ改)一機が、損害大で引
  き揚げています」

 「損害率は二対一でも、こっちは補充が利かな
  いからな」

 「ですね」

 「肝心の戦況はどうなんだよ」

 「相変わらず、醜い同士討ちで、無駄な消耗戦
  をやっています」

 「ディアッカ、ちゃんと戦ってこその消耗戦だ
  ぞ。これは、消耗戦とも呼べない代物だ」

戦況は更に混乱していた。
モビルスーツ隊は、敵か味方かわからなければ、
とりあえず討つという方針を採って生き残りを図
っている連中が多かったので、無駄に同士討ちを
して数を減らしていた。
特に、運良く生き残った技量未熟の者は、恐怖か
ら目に入ってくる者を全て攻撃したり、援護に来
た味方までも撃ってしまう事があって、俺達では
、どうにもならなくなっていた。 

 「アーサーさん、大丈夫ですか?」

 「何とかね。とりあえず、敵っぽいのは全部撃
  ってる。味方も巻き込んでいるかも知れない
  けど、仕方が無い」

 「ですよね」

「ミネルバ」以下四隻は少し離れた地点から、北
鮮軍の地上部隊を砲撃していて、ステラやルナマ
リアも、それに加わっていた。
正直なところ、どれが敵モビルスーツなのか、判
別がつかないらしい。

 「どうする?このままでは、どうにもならんぞ
  」

 「トダカ准将、俺達はあくまでもサブですよ」

 「差し迫った危機は回避したが、引き揚げるタ
  イミングを逸したのも事実だ。両軍が千日手
  になりつつある今、我々で状況を変えないと
  、無駄な死人が増えるぞ」

「アマテラス」のトダカ准将から、「積極的攻勢
に出たらどうだろうか?」という相談が入ってき
たので、俺は思案にくれてしまう。

 「要は、金将軍を捕らえるか殺せば、解決する
  問題なんだよな」

俺達から見れば、デブの小心者にしか見えない金
将軍も、朝鮮半島のかなりの数の人間から見れば
英雄なのだから、そのカリスマを押さえてしまえ
ば、問題は解決するのだ。 

 「一旦、戻る。ブリッジの回線を、陸軍の韓中
  将に繋いでおいてくれ」

俺は「ミネルバ」に着艦してから、ブリッジに上
がって韓中将と会話を始めたのだが、彼はかなり
怒っているようだ。 

 「味方を巻き込みやがって!後で覚えてろよ!
  」

 「裏切った味方に撃たれるとは、予想していま
  せんでしたので。我々も戦死は御免ですから
  」

 「うううっ、生意気な!」

 「それで、ソウル攻略部隊はどうするつもりで
  すか?引き揚げますか?このまま行きますか
  ?」

 「無論、行くのみだ!」

だが、攻略部隊の前途は多難だ。
裏切っている部隊と裏切っていない部隊が、モザ
イクのように配置され、北鮮軍部隊も同じような
状況で、両軍が戦っていたからだ。
これでは、ソウル市内への突入は永遠に不可能だ
ろう。

 「まずは、誰が味方なのか。確認をなさるべき
  だと思いますが」

 「そんな事は、言われんでもやっている!」

 「一つだけお聞きします。金将軍のいる場所で
  す」

 「多分、軍本部の地下シェルターだ。地下三十
  メートルにあって、多少の攻撃ではびくとも
  しない」

 「そうですか」

俺は以前、林司令官から貰った、ソウル市内の地
図を開いて場所を確認する。 

 「行けそうだな。護衛はどの程度で?」

 「モビルスーツが十機あまりと、形式不明のM
  Aらしきものが一機だ」

 「情報の提供感謝します」

 「本当に行くのか?」

 「行かないと、埒があきませんから。手柄は、
  あなたに譲りますよ」

 「本当かね!」

 「ええ」

 「そうか!頑張ってくれよ!」

急に機嫌が良くなった韓中将を横目に、俺達は簡
単なミーティングを行ってから出撃する。  

 「作戦は目的地に到着して、護衛の戦力を速や
  かに撃破してから、地下シェルターを破壊。
  奴の死を確認するか、捕らえるだけの事だ。
  何か、質問は?」

 「奴が、そこにいなかったらどうしますか?」

 「埒が明かないので、撤退する。こんな茶番に
  付き合っていられるか!」 

 「ですね」

 「戦力は俺、ディアッカ、シン、レイ、リーカ
  さん、テル・ゴーンの五名で行く。シエロは
  (ザク)に乗り換えて、(ミネルバ)の護衛
  を。ルナとステラは、シエロの指示で動けよ  
  」

 「お任せ下さい」

 「「了解!」」

 「それでは、行くぞ!」

 「メイリン、デュートリオンビーム照射用意!
  ブラストシルエットに換装する!」

 「了解しました。ブラストシルエット射出!」

 「続いて、デュートリオンチェンバー起動!デ
  ュートリオンビーム照射!」

シンは素早く「ブラストインパルス」に換装して
から、デュートリオンビームを照射して貰い、出
撃していく。

 「シン、無事に帰ってきてね」

 「大丈夫だって。メイリン、心配するなよ」

 「おっ!健気に待つ女を演出か。男にはポイン
  ト高いよな」

 「ですよね」

俺とディアッカが、「メイリンは高ポイントをゲ
ットしたな」と話していると、アスランと相羽三
佐が、それぞれ二機の部下を率いて、俺達に合流
してきた。

 「こんなコスイ手が通用するのか?」

 「大丈夫だと思うよ。ほら」

韓中将指揮下の陸軍部隊とモビルスーツ隊が時間
稼ぎをするために、積極的な攻勢に出て、今まで
のやる気の無さが嘘のようである。
どうやら、本当に手柄を譲って貰いたいらしい。

 「ソウル市内には、戦力がほとんど配置されて
  いませんね。どうしてですか?」

シンが俺に不思議そうに尋ねてくる。

 「占領後、瓦礫になっていたら意味がないから
  な」 

 「なるほど」

 「そろそろ、軍本部ですよ」

 「本当だな」

前方には軍本部のビルが見えて、周りには、十機
ほどのモビルスーツが見える。

 「でも、本当に不思議だな。護衛戦力が少な過
  ぎだ。何があったんだろう?」

 「戦力不足なんじゃないですか?」

 「そういう事にしておくか」

 「全機、速やかに護衛戦力を排除しろ!」

俺の指示で再び、モビルスーツ戦が始まった。


(同時刻、ソウル中心街から北方五十キロの地点
 )

特殊対応部隊と交戦したミリア達は、多数の戦力
を失って後退途中であった。

 「完全に負けてしまったわ。数の不利もあった
  けど」

 「私もよ。(黒い死神)は伊達ではないのね。
  技量だけじゃない。長年の実戦経験で培った
  、気迫のようなものを感じたわ」

 「気迫ねー」

 「西洋人は、目に見えないと信じないんだから
  」

 「あなたが居合をやっている時に、私が感じる
  あの感触?」  

 「ええ、そうよ。向かい合っただけで、汗が出
  てきたわ。口では悪態ついていたけど、心の
  中では恐怖で一杯だった。しかも、あいつ!
  私が女だとわかったら、手を抜きやがって!
  確かに、このモビルスーツと今の私の技量で
  は勝てないけど」

 「私は、ダークグレーの(セイバー)というモ
  ビルスーツに追い掛け回されて終了だったわ
  。その間に、部下が次々とやられてしまって
  ・・・」

 「あの部隊は、特にザフト軍の(ミネルバ)は  
  異常よ。南アメリカ合衆国軍やアフリカ共同
  体軍のモビルスーツ隊なら、余裕で倒せるコ
  ーディネータークローンパイロット達を壊滅
  させてしまうなんて」   

 「だから、奥様は実戦データを集めて来いって
  、言ってたのね」

エミリアは潜水艦部隊を送り出す時に、部下達に
こう訓示した。

 「機材は、無理して持って帰って来なくてもか
  まいません。実戦を経験したら、必ずデータ
  をウラル基地に送って下さい。そのデータが
  、ウラル山脈基地で量産中の新型モビルスー
  ツを強くするのですから。それと、あなた達
  も身一つでもいいから、必ず帰って来て下さ
  い。実戦を経験したパイロットは貴重ですか
  ら」

 「今日は負けたけど、次は負けないわ!腕を上
  げて、必ず奴を倒す!」

 「アヤは前向きね」

 「ええ、そうよ。潜水艦と合流したら、次は何
  処に行くの?」

 「中国大陸よ。目的地は香港で、そこを支配す
  る孫将軍を助けるのが任務らしいわ」

 「あの豚は?」

 「目的は達成したから、見捨てて中国に行けっ
  てさ」

 「ふーん。あんまり、可哀想だとは思わないわ
  ね」

 「所詮は、アジ演説が上手かった、小規模労働
  組合の幹部を、昔の金日成伝説を利用して大
  きく見せただけの俗物だからね。姓が同じだ
  ったから、後継者を名乗らせていたけど、無
  関係の人間よ」

 「あれだけ混乱して戦力を失ったら、我々に報
  復なんて出来ないし、極東連合は治安維持の
  戦力を無駄に使う事になるってわけね」

 「そうよ」

 「政治の世界は色々と大変ね。あっ、(ノーチ
  ラス)が見えたわ」

こうして、ミリアとアヤは、生き残った四人のク
ローンコーディネーターパイロットと共に合流地
点に到着して、潜水艦で中国に向けて出発した。
彼女達が、これからどうなるのかは誰にもわから
なかった。


(同時刻、ソウル市内軍本部地下シェルター内)

ソウル周辺で多数の戦力が戦闘を行っている時に
、金将軍は完全に怯えきっていた。
昔は、労働組合で威勢の良いアジ演説を行ってい
た自分が、エミリア・アズラエルの部下を名乗る
男性の指示で革命運動を始め、清津で蜂起してか
らわずか数ヶ月あまりで、この国の八割の地域を
占領するまでに至った。
ソウル攻略戦では、戦力の不足が心配されたが、
自分が演説を行うと、正規軍の兵士達の半数近く
が軍を裏切って自分についたために、劇的な勝利
を収める事が出来たのだ。

 「あなたは、金日成の子孫です。生まれ変わり
  です」

自分のブレーンになってくれたクロードという男
が、毎日のようにこう囁くので、すっかりその気
になっていたが、今日の戦闘を見ていると不安が
ひしひしと沸いてくる。
自分の演説の所為で、多くの民衆や軍人が死んだ
のだ。
それでも、自分が勝利出来れば問題はないのだが
、戦況は次第に不利になりつつあるようだ。
どうやら、自分に失望して再び裏切った連中がい
るらしく、統一朝鮮軍から、自分に期待して裏切
った連中と共に戦場を混乱させているだけで、数
の不利が、そのまま自分達の不利に繋がっている
らしい。
このまま、戦いが続けば、多数の戦力を失って自
分達が負ける可能性が大きいし、そうなれば、自
分は確実に戦犯として処刑されるであろう。

 「嫌だ、死にたくない。死にたくない・・・」

地下シェルター内で、一人で頭を抱えて座ってい
ると突然ドアが開き、ここ数日、出掛けて居なか
ったクロードが現れる。

 「クロード!大変な事になった。どうしようか
  ?」

 「大丈夫ですよ。予定どおりですから」

 「本当か?私は助かるんだな」

 「ええ、助かりますよ」

 「やったー!外国に脱出させてくれるのか?」

 「一応、外国なのかな?」

 「どこでもいいから連れてってくれ」

 「かしこまりました」

クロードは銃を抜くと、銃口を金将軍に向ける。

 「どういう事だ!」

 「天国か地獄なので、ある意味外国かな?って
  事です」

 「ふざけるな!エミリア様は、私を見捨てるの
  か?こんなに、貢献した私を!」

 「貢献?お前は下品な演説をしてから、無駄飯
  を食って太っていただけか、女を抱いていた
  くらいだろう?」

 「だが、私は・・・」

 「いいか!良く聞けよ。俺達は、目的を達成す
  るために、お前を利用していただけなんだよ
  。だから、いらなくなれば捨てるんだ。わか
  ったか?」

 「そっ、そんな・・・」

 「ここの警備が薄いのも、護衛のモビルスーツ
  隊の数が少ないのも、全部、俺の指示なんだ
  よ。ミリア様とアヤ様はもう、中国に旅立っ
  たしな」

金将軍は唖然としてしまう。
確か、彼女達が近衛兵として、自分を守る予定だ
ったのに、彼女達はもういないというのだ。 

 「どうせ、生きていても処刑されるだけなんだ
  から、素直に殺されろよ」

 「ふざけるなーーー!」

突然、金将軍が自分に殴りかかってきたので、ク
ロードは額の真ん中に銃弾を撃ち込んで、一撃で
始末を完了させる。

 「ごちゃごちゃ五月蝿い男だったな。さあて、
  次は中国か。ミリア様とアヤ様も無事に香港
  に向かっているらしいから、俺も急いで撤収
  するか」

クロードは、避難民に紛れ込んでソウルを脱出し
てから、中国へと旅立って行った。


(同時刻、ソウル市内軍本部ビル周辺)

 「反乱軍の指導者を守っている戦力が、これだ
  けとは」

軍本部ビルを守っていたモビルスーツ隊はわずか
十機で、援軍も全く現れなかった。  

 「モビルスーツのパイロットも、大した事なか
  ったし」

どうも、忠誠心を基準に選ばれた連中らしく、腕
が未熟で、数分で全滅してしまった。

 「そして、一番頼りになりそうなのが、あれか
  」

蜘蛛のような体に「ストライクダガー」の上半身
が付いている不思議なMAを見つけたのだが、ア
スランとディアッカが、腕と足を全て斬り落とし
てしまったので、動けなくなってパイロット達が
降伏してしまった。

 「脆いな・・・」

 「どうします?」

 「うーん、困ったな」

予定どおりに、砲撃でシェルターを破壊すると、
金将軍の生死判定が難しくなるので、どうしよう
かと俺達が考えていると、軍本部ビルから数人の
男達が、両手を挙げながら出てきた。

 「どうしたんだ?」

 「降伏させてくれ。金将軍が死んでいるんだ」

 「本当かよ。そんな事を言って、俺達を地下に
  呼び寄せて、亡き者にしようとしているんじ
  ゃ」

 「そんな事は絶対にしない。本当に死んでいる
  んだ。ここが人気が無いのは、金将軍の死を
  知って、逃げ出してしまったからなんだ」

 「うーん。確認に行くか」

 「危ないですよ」

 「俺が一人で行く。お前達は案内するんだ。わ
  かっていると思うが、俺に万が一の事があっ
  たら、このビルごと粉砕されるからな」 

 「わかった」

俺が、捕虜達の案内で地下シェルターに降りると
、奥の一室で小太りの中年のオッサンが死んでい
た。
確かに、写真で見た事のある金将軍だ。

 「本当に死んでいる。しかも、殺されたようだ
  な。自殺なら、即頭部に銃痕があるはずだし
  、銃すら持っていないしな。どうやら、偽装
  するつもりもないようだな」

 「どうしますか?」

 「このままで良い。さて、上に上がるぞ」


その後、金将軍の死が全軍に広がり、北鮮軍の司
令官が降伏してしまったために、戦闘が終了した

一部に徹底抗戦を表明した部隊もあったが、その
少数の部隊は最後の一人まで奮戦して、全員が玉
砕を遂げたのであった。
コズミックイラ73年十二月一日午後四時二十五
分、朝鮮半島を襲った内乱事件は、数ヶ月で終焉
を迎えたのであった。


(十二月五日、佐世保市内)

あの救いのなかった激闘から四日、俺達は佐世保
に帰還して、艦の修理と補給作業をおこなってい
た。
正直、得るものが何もない戦いで精神的に疲れて
しまい、休憩を取らなければやってられないとい
うのが本音だったのだ。
幸い、プラント本国からは、次の指示があるまで
佐世保で待機と言われているので、休息を取る事
が出来ていたが。

 「統一朝鮮軍は陸軍が43%の損失で、海軍の
  艦艇が37%の損失、空軍も58%の損失で
  、モビルスーツ隊は52%の損失か。はっき
  り言って全滅だな」

 「軍人の死者が五万人を超えるそうだ。民間人
  も二万人を超える死者と、数倍のけが人と、
  数十倍の被災民を出している。結局、自分達
  で殺しあって、国土を破壊して、多数の軍備
  を失っただけだな」

例のちゃんぽん屋で酒を飲みながら、俺と石原三
佐は、この内乱の総評を行っていた。

 「去年、日本資本の企業が撤退した上に、内乱
  で他国の企業も完全に撤退してしまったから
  、経済の再建は困難を極めそうだな。唯一の
  救いは、そこそこに技術力がある事だが」

 「結局、エミリア達の手の上で踊っていただけ
  か。気分が悪いな」

 「そう腐るなよ。林中将と韓中将は、お前に感
  謝していたじゃないか」

 「そりゃあ、手柄を譲ったんだから」

俺達は、韓中将に金将軍の死体が置かれていた場
所を教えてから、すぐに「ミネルバ」に引き揚げ
てしまったのだ。

 「おかげで、韓中将は大将に昇進して、陸軍の
  最高司令官に出世したそうだ。林中将も昇進
  して、海軍の最高司令官に出世したってさ」

 「知らんよ。あんなオッサン達の事なんて」

 「まあ、軍の最高司令官になったって、金将軍
  の残党狩りと、戦力の再建ぐらいしか仕事が
  無いけどね。それに、彼らは外国に留学経験
  もあるし、常識をわきまえている。親父がお
  前に、ありがとうだってさ」

 「感謝は形のあるものが良いな。そして、政府
  の連中も経済の再建で大忙しか」

 「統一朝鮮国は、経済をちゃんと再建させて、
  外国企業が呼び込めるような治安状態を作ら
  ないと、極東連合準加盟国の称号は取れない
  からな。その事実を親父から聞かされた時の
  統一朝鮮国大使の顔の色は、それは真っ赤だ
  ったそうだぜ」

 「お厳しい首相閣下で」

 「この内戦のダメージで、十年は再起不能だな
  」

 「内戦と言えば、中国はどうなっているんだ?
  」

 「昔と同じさ。軍閥によって援助を受けている
  国が違っていて、日々それが、猫の目のよう
  に変わるんだよ」

 「すると、エミリア達の援助を受けている軍閥
  もあると」

 「親父は、軍閥の代表に集まって貰って、連邦
  制度の導入を検討して貰いたいそうだが、強
  硬に反対している奴が、数名いて困っている
  らしい。恐らく、ユーラシア連合の援助を、
  つまりは、エミリア達の援助を受けているら
  しいんだな」

 「そいつらの頭を、少し小突いていう事を聞か
  せるのが俺達の役目?」 

 「らしいよ。場所は成都で、親父が顔見知りの
  劉将軍の援護らしい。彼は、モビルスーツ隊
  の運用に長けた若い将軍だが、なかなか人間
  が出来ているそうだ。彼なら、手を貸してく
  れるだろうという事だ」

 「戦争じゃなくて、内乱だから気が滅入るよう
  な事ばかりだ」

 「若い連中も多いしな」

 「あいつらはマイペースだから大丈夫」

この話をした翌日、俺達は中国大陸行きを命じら
れた。
権謀と裏切りが渦巻く中国大陸で、俺達は生き残
れるのだろうか?
それは、誰にもわからなかった。


       (おまけ)

朝鮮半島の内乱を鎮めてから三日、佐世保に到着
したミネルバは修理のために、ドッグ内に停泊し
ていた。

 「シン、私が作った料理は美味しい?」

 「うん。美味しいよ。母さんが、作る料理に見
  た目も味もそっくりだし」

 「そう、良かった」

メイリンは非番の時間を利用して、軍港近くのス
ーパーで買物をして、シンが好きな料理を大量に
作ったのだ。 

 「(親切なR・R・Kさん、ありがとう。男に  
  料理を作る時には、その男の母親のメニュー
  と味を盗めという忠告役に立ちました)」

先日、謎の郵便物が届き、中を開けてみると、忠
告が書かれた手紙とシンの母親が作る料理の細か
いレシピが入っていた。
推論では、R・R・Kの奥さんが、「料理を教え
て下さい」とシンの母親に頼んでレシピを手に入
れたらしいが。

 「ご馳走様。美味しかったよ。メイリン」

 「最近、和食に凝っているのよ」

 「また食べさせてね」

 「いいわよ。でも、その代わり」

 「その代わり?」

メイリンは目を閉じてシンの方に顔を向ける。

 「(あれ?これって二回目のキスって奴ですか
   ?まあ、向こうがしてくれって言うんだか
  ら。ヨウランも断るのは失礼だって言ってた
  しな)」 

シンが覚悟を決めてキスをしようとすると、シン
に部屋にルナマリアとステラが入ってきた。

 「ちょっと!何をしているのよ!」

 「ちぇっ!邪魔が入った」

 「邪魔とは何よ!」

 「だって、本当に邪魔・・・」

 「ルナマリアパンチ!」

 「痛ぁーーーい!もう、実の妹を本気で殴らな
  いでよ」

 「実の妹だから、本気で殴るの」

姉妹がどつき漫才をしている隙に、ステラがシン
にデザートを食べさせていた。 

 「このケーキ旨いな」

 「シンが喜んでくれて良かった」

 「あーーー!抜け駆けよ!」

 「私もデザートを準備したのよ!」

ルナマリアの発言で全員が凍りついた。
先年の、地獄のクッキー事件を思い出したからだ

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 「私、3kg体重が落ちた」

 「私も2kg落ちた。別に、ダイエットなんて
  したくなかったのに」 

 「メイリンはウエストを落としたら?」

 「もう、失礼ね。お姉ちゃんこそ、破壊料理人
  の癖に」

 「料理は普通に作れるようになりました。デザ
  ートも大丈夫になったから、これで、私も可
  愛いお嫁さんになれます」

 「本当に大丈夫なの?」

メイリンが疑いの目で見ていると、レイが、部屋
に帰ってくる。

 「何をしているんだ?」

 「私がデザートを作ったの。レイも食べる?」

 「すまん。急用が出来た」

レイは素早く部屋を出てしまった。

 「レイって、大抵の物はちゃんと食べるのに・
  ・・」

 「失礼な奴ね!大体、あの時はいなかったでし
  ょうが!」

 「(悪事千里を走る)。ヨシヒロが、教えてく
  れたことわざ」

 「ステラーーー!」

 「とりあえず。味見してみたら」

シンの意見で全員が頷き、ルナマリアが持ってい
た包みを開ける。

 「シュークリームか。難しくなかった?」

 「私は天才だから」

 「はいはい、天災よね」

 「何か、引っかかるわね」

 「とにかく、食べましょうよ」

 「そうだな」

四人がシュークリームを食べようとすると、ディ
アッカが顔を出した。

 「おーい!何を食べているんだ?」

 「ルナがシュークリームを作ったの」

 「おいおい、大丈夫か?」

 「大丈夫ですよ」

 「じゃあ、俺にも頂戴」

 「あら、私にも頂戴よ」

 「俺も俺も」

 「私も欲しいです」

リーカ、テル・ゴーン、シエロも顔を出してきて
シュークリームをねだる。

 「数はちょうどありますね」

 「じゃあ、一人一個で」

 「「「「「頂きま〜す!」」」」」


その後、ルナマリアのシュークリームを食べた全
員が、強烈な下痢と腹痛に襲われ、その日の可動
パイロットは、俺と危機を察知して逃げ出したレ
イのみであった事を伝えておく。

 「勘弁してくれよ。いくら、佐世保の軍港内と
  はいえ、この状態はまずいって」

 「えへへ、始めて作る物って駄目ですね〜」

 「ルナ、明日から空き時間に、食堂の手伝い一
  週間!」

 「ええー!そんなーーー!って痛て痛て」

 「これは、万が一の時はシホが出撃だな。何に
  乗る?(インパルス)か?(セイバー)か?
  」

 「乗りません!」

 「じゃあ、コーウェルは?」

 「俺は国民の血税が無駄に使われないと、出撃
  しない!」

 「朝鮮半島では、(拾うものが無い)って怒っ
  てたものな」

 「そうなんだよ!結局、敵のモビルスーツが使
  っていた、起動兵装ポッドの残骸のみだった
  からな」

 「戦う財務官僚コーウェルか」

 「俺は戦う!国民の血税が無駄遣いされないた
  めに!」

 「じゃあ、万が一の時は頼むな。人手が足りな
  いから」

 「おうさ!」

 「頼むね(乗せ易い奴だな)」 

結局、コーウェルに出番は無かったが、ルナマリ
アのシュークリームを食べた連中は再び、二〜四
kgの体重を落としていた。

 「恐るべし、ルナの料理の腕前」

 「あれじゃあ、お嫁に行けないわ」

 「始めて作ると、何故か失敗するんですよ」

 「じゃあ、これからは、過去に作った事がある
  物にしてくれ」

テル・ゴーンの言葉に全員が頷くのであった。


       (オマケ2)

俺の名前はムラクモ・ガイ。
世間では最高の傭兵とか、最強の傭兵と言われて
いる男だ。
俺は現在中国の成都周辺を支配する、勢力的には
小さい軍閥である、劉将軍の下でモビルスーツパ
イロットをしていた。
彼はまだ三十代前半の若い指導者であったが、先
の大戦時にモビルスーツの有用性にいち早く気が
付き、その自ら操縦桿を握ってその操縦技術と運
用技術を独学で学び、この若さで少将の地位を得
るまでに至った、有能な将軍の一人である。
今回の内戦でも、モビルスーツ製造に関わる様々
な企業体から治安の維持と戦乱に巻き込まれない
ように立ち上がって欲しいと懇願されての蜂起で
、基本的には彼にあまり野心が無く、新しいモビ
ルスーツを拝む事と、たまに自分で乗り回すが楽
しみの、極普通の青年にしか見えなかった。

 「ガイ大佐、ご苦労様です」

俺が日課である、敵勢力の強行偵察機を落として
基地に帰還すると、技術将校である朱大尉が出迎
えてくれた。
俺は傭兵だが、任務を行う都合上、大佐の肩書き
が与えられていて、この基地内ではナンバー2の
権力を持っていたのだ。

 「ガイ大佐、(センプウ)の調子はいかがです
  か?」

 「問題ない。整備もしっかりしてあった」

 「それは良かった。実は、ジャンク屋から買っ
  たのはいいのですが、出所不明で、やけに安
  かったものですから・・・。念入りに修理と
  整備はしたんですが」

 「お買い得品だったという事だな」

俺は地上用の「ソードカラミティー」と高高度飛
行用の「センプウ高機動タイプ」の二機のモビル
スーツを用途に合わせて使っていた。
朱技術大尉は、腕の良い整備士であるばかりでな
く、モビルスーツの簡単な設計や改良もこなす天
才肌の男で、この仕事が終ったら「サーペントテ
ール」に引き抜きたいくらいの男であった。

 「そういえば、劉将軍が呼んでいましたよ」

 「わかった。顔を出す」

格納庫を後にした俺は、劉将軍が詰めている司令
室に向かう。
劉将軍は現場が長くて、華美な事が嫌いというか
慣れていないので、空いていた基地の倉庫に事務
所と執務室を設置して、日々の仕事を行っていた

 「ムラクモ・ガイ出頭しました」

 「ごくろうさん」

劉将軍はガイをソファーに座らせると、自分でお
茶を淹れ始める。
彼は、自分で出来る事は何でも自分でする男で、
その事が彼の人気に繋がっていた。
他の軍閥の首領と違って、無意味に威張ったり権
力を乱用して贅沢をするような事をしないのだ。

 「実は、援軍が来るんだよ」

 「援軍ですか?」

 「私は、日本の石原首相と懇意にさせて貰って
  いてね。この地域を保つために、援助をして
  貰っているんだよ」

 「そうなんですか」

 「彼の中国を連邦制国家にすると言う意見に
  は、私も賛成しているんだ。もし実現すれ
  ば、日本のGNPを越える国がいくつも誕
  生して、この国のためにもなる。」

 「政治の話はよくわかりません」

 「私もわからない。この地域の企業家の連中と
  、行政府の役人達がいないと、私は書類の山
  に埋もれて、窒息死してしまいそうだから」

 「それで、援軍って誰が来るんですか?」

 「ザフト軍の(ミネルバ)と自衛隊の(はりま
  )と(すおう)、そして、オーブの(アマテ
  ラス)だ」

 「(ミネルバ)か。ふふふ、カザマの野郎!こ
  こで会ったが百年目だ!」

 「えっ!恨みでもあるのかい?」

 「ええ、ありますよ。俺の尊厳に関わる重要な
  件でです。奴と奴の嫁は、俺の天敵なんです
  よ」

 「ふーん、でも私闘は無しだよ」

 「ご安心下さい。訓練を行うだけですから」

 「(ピンクの死神)と(黒い死神)の模擬戦か
  。私も見学させて貰うよ」 

 「あの、閣下。その渾名は・・・」

 「ああ、すまん。言わない約束だったな」

 「ご配慮いただき、ありがとうございます」

 「三日前に、長沙を根拠地にしていた黄将軍が
  、香港を拠点にしている孫将軍に討たれた。
  幕僚達は、全員公開銃殺だったそうだ。そし
  て、次は・・・」

 「ベトナム・タイとの貿易を再開した上に、モ
  ビルスーツ部品の製造を行う事の出来る企業
  体を多数支配地域に持っている閣下が狙いだ
  と?」

 「最終勧告は来ている。ナンバー2にしてくれ
  るそうだ。多分、夜も安心して眠れなくなる
  だろうが」

 「古臭い謀略型の軍人ですね」

 「自称、古代中国の天才軍師孫武の子孫だから
  ね」

 「胡散臭い話ですね」

 「私が、古代中国の英雄(劉備玄徳)の子孫だ
  と思っている人がいるくらいだから、効果は
  多少はあるようだね」

 「では、私は誰に当てはまるのですかね?」

 「うーん。(趙雲)かな?」

 「これからやってくる連中はどうですか?」

 「会ってから決める」

 「そうですね」

 「とにかく、私の目が黒いうちは、敵の侵略を
  許すわけにはいかない」

 「私はしがない傭兵ですが、閣下のお考えに賛
  同しています。小さいながらも、この地域の
  安定が民衆にどれだけ安寧を与えているか。
  閣下はこの地域の住民の希望なのです。正直
  、最初は大陸の統一を企んでいるのではない
  かと心配しましたが・・・」

 「私は早くこの仕事を引退して、モビルスーツ
  の製造を一から行える企業を作りたいんだよ
  。これからのモビルスーツは軍事用ばかりで
  なくて、作業用とか、レジャー用とか、スポ
  ーツ用とかが、主力になりそうだからね」

 「それは楽しそうですね」

 「だからこそ、孫将軍の野望を砕かねばならな
  い。奴はおかしな連中から、援助を受けてい
  るらしいし」 

 「(エミリア達か?あれ?じゃあ、俺は孫将軍
  の元で傭兵をやっていないと、スカウトが来
  ないんじゃ?)」

 「安心したまえ。次の戦闘で君が活躍すれば、
  連中からのスカウトが来ると思うから」

 「あの・・・。どうして、それを・・・」

 「私は、ラクス様とも懇意にさせて貰っていて
  ね。援助も受けているんだよ。まあ、政治の
  世界ってそんなものさ」

 「あのクソ女・・いや、ラクス様もですか・・
  ・」

 「彼女は影響力は大きいんだけど、公式な肩書
  きが無いからね。色々裏で、動きやすいんだ
  ろうね」

 「相変わらず、性質の悪い・・・」

 「彼女は、世界の安定を願って動いているけど
  、基本的には旦那さんの安全第一だから、今
  回は援助を多めに貰えたよ。うーん、妻の鏡
  だね。俺の嫁さんなんておっかないから」

劉将軍の言葉を聞いて、ガイは驚いてしまった。
以前、劉将軍に夕食を招待されて、自宅を訪問し
た事があるが、奥さんは美人で、常に気配りをし
ていた妻の鏡のような人だった事を記憶している

 「(あのクソ女が妻の鏡?隣りの芝生は青く見
  えるのか・・・)」 

 「そんなわけで、君に一つお願いがあるんだよ
  」

 「若手のパイロットの中から、才能のありそう
  な若者達を選抜して、鍛える事にしたんだ。
  中核になる精鋭部隊を作りたいんだよ。通称
  、(ガイ中隊)の誕生かな?」

 「はあ、自分がですか?」

 「厳しく、実践的な事を教えてあげてくれ」

 「お引き受けします」

俺は、劉将軍の元を辞したあと、鍛え上げる予定
の若手パイロット達と、顔合わせをする事にした

 「大佐の勇名は世界中に響き渡っています。そ
  のような方に鍛えて貰えるなんて、俺達は幸
  せです」

 「世辞は良い。さっそく、行くぞ!」

俺はモビルスーツが置いてある格納庫に向かうが
、そこで恐ろしい現実を目の当たりにしてしまっ
た。 

 「これは?」

 「大西洋連邦製の(ストライクダガー)を安く
  購入して、朱技術大尉が改良を加えました。
  (ストライクダガー甲)という名前が正式名
  称です」

 「いや、そういう事ではなくて・・・。肩や足
  についているピンクのマーキングは?」
 
 「はい!劉将軍が(お前達は、ガイ中隊に所属
  する事になった精鋭達だ。頑張って技量を上
  げてくれ)と仰られたので、その覚悟を決め
  るために、各自が好きな部分にピンクのハー
  ト型のマーキングをしました。これで、戦場
  では目立つわけですから、我々はガイ大佐の
  勇名を辱めることなく、勇敢に戦いたいとい
  う覚悟の表れだと思って下さい」

 「いや、覚悟するのは、いいんだけど・・・」

 「でも、ピンクのマーキングは勇気がいるよな
  。戦場では目立ってしまうから」

 「敵は名前を挙げようと、俺達を狙ってくるだ
  ろうしな」 
 
 「そんな状態で、何年もあのパーソナルカラー
  か。偉大な人だよな」

 「さすがは、俺達の隊長になるお方だ」

 「さあ、お喋りは止めて、早く教えてもらおう
  ぜ」

 「そうだな」

 「隊長!ご指導をお願いします!」

 「「「「お願いします!」」」」

 「そうだな・・・。俺は、先にトイレに行くか
  ら、機体に火を入れておけ」
 
 「「「「「了解!」」」」」

部下達は目を輝かせながら、モビルスーツの機動
作業を開始し始める。
さすがに、彼らの前で怒鳴る事なんて可哀想で出
来なかったので、一人でトイレの個室に篭る事に
する。

 「どちくしょう!カザマの野郎とあのクソ嫁!
  覚えていろよーーー!」

ガイの絶叫は、基地内のトイレに響き渡たり、中
国大陸で、通称「ピンク中隊」の伝説が始まった
のであった。


 
  


         あとがき

次は中国編です。
ガイが登場しますが、多分カザマにいじられるで
しょう。

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