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「魔除けの鐘を鳴らす者達 第7話 後編 (ス−パ−ロボット大戦)」

太刀 (2006-05-20 18:43/2006-05-28 06:08)
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「Nerv本部戦術作戦部作戦局第一課所属の葛城ミサト一尉です」

「技術開発部の赤木リツコです」

作戦ル−ムに招かれたロンド・ベル隊のメンバ−に挨拶をかわす。
Nervだけでは第5使徒ラミエルに対するのは難しいと、ようやく重い腰をあげてロンド・ベル隊に協力を要請したのであった。

「連邦軍第13独立外部部隊ロンド・ベル隊のブライト=ノア中佐だ」

「今回、碇司令の命令を受け、あなた方と共同作戦を展開することになりました。よろしくお願いします」

ミサトが素直に頭を下げた。
いくら地球連邦最高評議会おすみつきの命令書があろうとブライトとミサトでは戦歴が違いすぎる。
前線で、孤軍奮闘で不利な状況で有りながらも生還を果たし、苦境の中で指揮を取って成長してきた男と、安全な穴倉から命令するだけの女では成長率が同じ筈がない。
円滑に作戦を進めるには、経験豊富な先任指揮官の協力が必要不可欠だ。
流石に此処で縄張りの主張や命令優先権を論議する程、Nervの作戦部長は愚かでは無かった。

「こちらこそ。それと、私の隣に居るのはクワトロ=バジ−ナ大尉と・・・・・」

「一年戦争の英雄、アムロ=レイ大尉ですね?お会いできて光栄です」

ブライトが言い切る前に、ミサトは嬉しそうに青年士官へ握手を求めた。

「それは・・・・・どうも」

一瞬、戸惑ったがアムロは握手に応えた。
ミサトが作戦を無事に終わったらサインをもらうと内心考えている事も知らず。
熱狂的とまで行かないがミサトはアムロのファンである。
なんでも、声がいいらしい。タキシ−ドとシルクハット。それに仮面を付けてくれたら文句の付け様がなくなるらしい。
まったく、何のファンであるのかは不明である。

「ところで、状況は?」

「先程、使徒に対してEVAのダミ−と列車砲を出しました」

名残惜しそうにミサトはアムロの手を離すと、クワトロの質問にNervが試した敵戦力把握の実験内容を話しだした。

「結果は?」

「言うまでもなく、共に使徒の加粒子砲によって、一瞬で蒸発しました」

「そうか・・・・・で、使徒について何か判明したことは?」

知りたいのは敵の特性と弱点。それでなくても僅かにつけ込む隙があればいい。
作戦ル−ムの大型スクリ−ンに映像を再生させ、ミサトは現時点で判明した敵の情報を説明した。

第5使徒ラミエルと名付けられた使徒は、一定距離内の外敵を自動排除する特性を持っている。MSが標準装備しているビ−ムライフル有効射程距離の約10倍程度の射程を有している。
敵対行為を見せるモノは、エリア侵入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち。
人型機動兵器による近接戦闘は危険すぎる。目標に辿りつく前に落とされるのは目に見えている。
最高峰のニュ−タイプパイロットなら、どうにか懐に行けるかもしれないが、MSの火力ではダメ−ジを与える事すらできないので、この案はボツ。
逆にATフィールドを破れるス−パ−ロボット達で、ラミエルの攻撃を掻い潜り抜ける程の機動性と回避能力を持つ特機は無かった。
一度はゲッタ−チ−ムの三機飛行形態で戦術シュミ−レションしてみたが、接近して合体する際100%の確立で落とされる。コンマ何秒の隙も見逃してくれない反則的な索敵能力も秘めている。
強力すぎる矛も厄介だが、強固な盾であるATフィールドにも頭を悩ませる。
なにせ防御力が半端じゃない。
相転移空間を肉眼で確認できるほど、強力なものが展開されている。
光学兵器から各種ミサイルを様々な手段で試してみたが、まるで通用しない。
時間差攻撃や、別々の方角からの同時一斉射撃も赤き盾の前では蟷螂の斧であった。

「攻守共にほぼパ−ペキ。まさに空中要塞ね」

ミサトは軽い口調で言うが、表情は苦いモノを口に含んでいるように険しい。
溺れる者は藁にも縋ると言うが、本当に縋りたい状況は洒落にならない。
そして藁となるか、命を繋ぐ浮き輪となるかは分からない存在であるクワトロが更に訊く。

「目標の現在の行動は?」

第5使徒ラミエルは直径17.5メートルの堀削シ−ルドでジオ・フロント内のNerv本部に向けて堀り進んでいる。
このままいけば、本部への到達予想時刻は明朝午前0時06分54秒。
その時刻には22層全ての装甲防御を貫通してNerv本部に到達する。残されたタイムリミットは約10時間足らず。
白旗でも上げたい相手だが、それが通用する相手でもないのは分かりきっている。

「ATフィールドを破れる手段があり、なおかつ目標に接近戦が仕掛けられないとなれば・・・・・目標の射程外から大出力の粒子砲あたりで狙撃・・・・・というのが妥当な作戦だな」

クワトロが今、聞かされた情報からプランを出した。それは葛城ミサトが考えた作戦と同じモノだった。
ミサトが皆から見えないように小さく拳でガッツポ−ズした。


第7話 雷を使いし者 後編


「目標のレンジ外・・・・・超々長距離からの直接射撃かね?」

話が纏まると作戦部長は、急ぎNerv司令官室に訪れ作戦内容を上司に報告する。
黙っている碇ゲンドウの代わりに副指令の冬月コウゾウが受け答えする。

「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギ−収束体による一点突破しか方法はありません」

「MAGIはどう言っている?」

「ス−パ−コンピュタ−MAGIによる回答は賛成2、条件付き賛成が1でした」

「勝算は8.7%か・・・・・」

冬月はせめて2桁になる作戦は無いものかと聞いた。

「最も高い数値です」

ミサトにしてみれば、原案がクワトロ大尉の考えと合意した事もあり、あれから皆で話しあって洗練させた作戦の勝率だった。

「反対する理由もない。やりたまえ、葛城一尉」

沈黙を守っていたゲンドウが口を開き、最終承認を下す。
切り札である神殺しの槍が未だ手の内に入ってない状況では、この作戦を成功させる以外Nervには道がないのであった。


「しかし、また無茶な作戦を立てたわね・・・・葛城作戦部長様」

各部署に回された作戦レポ−トを読んだリツコが呆れた口調で親友を冷やかした。
ミサトがNervの作戦部長の地位に就いている理由の一つに、常識に囚われない発想を持っている事が挙げられる。
これでも戦術シュミレ−ションの成績上位者だ。特に先制攻撃と奇襲には高い評価が付けられている。
だが、対使徒戦は基本的に受身で防衛作戦を執らざるおえない。
いままでは、敵から奇襲を受けるような形で作戦プランを纏める時間は無かったが、今回は違う。
じっくりと考えられる時間さえ貰えれば、一つや二つ対抗手段が思いつく。
ミサトの適正は、咄嗟の機転が必要とされる前線指揮官でなく、机上で論議する作戦参謀向きなのだ。

「無茶とは、また失礼ねえ。残り9時間以内で実現可能、最も確実な作戦。おまけにクワトロ大尉のお墨付き」

金髪黒眉毛の親友に、何の不満があると聞き返した。

「ウチのポジトロンライフルじゃ、大出力のエネルギ−照射は不可能よ。一体、どうするつもりなの?」

思いつくまでよりも、この作戦は達成させる方が困難である。
アテはあるの?と大学時代から妖怪ビール飲みと異名を馳せた親友に訊く。

「心配御無用。ちょうど。おあつらえ向きの大出力火気を開発している所があるじゃないの」

「どこの組織?私にはSRX計画を進めている地球連邦軍の極東支部くらいしか思いつかないけど・・・・・・!!!あなた、まさか!」

考えるまでならできるが、いざ実行させるとなれば誰もが、尻込みしようとする事を行おうというのか?
リツコは冷たい汗を背中に感じた。
だが、やる。この女ならやる。ロジックでない直感が答えをささやいた。

「そう。その、ま・さ・か」

ミサトは親友が自分の考えを理解してくれた事に喜んだ。
気苦労で倒れそうになる身体に活をいれてリツコは踏み止まる。
頭痛が起きそうな頭に指を押し当てながら技術部長として発言した。

「確かに・・・あそこは大出力のEOT(エクストラ・オ−バ−・テクノロジ−)ジェネレ−タ−、トロニウム・エンジンの研究をしているわね」

「ええ、諜報部の報告によれば、HTBキャノン・・・・・ハイパ−・トロニウム・バスタ−キャノンを開発中だそうよ」

「でも、まだ試作段階でしょ?」

「だから・・・・その前身となった自走式電子砲を借りるつもりなの。チョッチ大きいけど、EVAにはちょうどいいサイズよ」

「・・・・・いわくつきのブラックホ−ルエンジンや縮退炉を使うより遥かにマシか・・・」

ブラックホ−ルエンジンは、ブラックホ−ルの外側にあるエルゴ領域という超高速運動領域で入った物質を分裂させると、より大きなエネルギ−をもって飛び出すという性質がある。
極東支部のイングラム=プリスケンが試作ブラックホ−ルエンジンを開発したが、当初開発中のグランゾンに搭載される予定だったがシュウ=シラカワが是を拒否する事で、マオ社のヒュッケンバインに搭載された。
そして月の連邦軍テクネチウム基地で悲劇が起きた。
ブラックホ−ルエンジンを搭載したヒュッケンバイン。コードナンバ−008Rは起動実験中にブラックホ−ルエンジンが暴走を起こし、テクネチウム基地は消失した。
軍人や科学者の間では有名な話だ。

縮退炉は、縮退中心核で核融合を起こすことで、核融融合反応を飛躍的に増大させるヘリウムフラッシュが発生する。だが非常に高いエネルギ−を得られる代わり、扱いはブラックホ−ルエンジン同様以上の細心のセッティングが必要とされる。
その分野で第一人者のオオタコウイチロウが地球を離れ外宇宙探索艦隊に随行している中、縮退炉エンジンを扱えるのはDC日本支部総帥のシュウ=シラカワぐらいしかいない。

両方ともS2機関に匹敵するパワ−が得られると学会で発表されているが、取り扱いに失敗すればテクネチウム基地の二の舞になると恐れられ手が付けられていない。

「でも、SRX計画のメンバ−が簡単に協力してくれるかしら。彼らは損得勘定じゃ動かないわよ」

SRXに携わる者の目的は、地球に敵対襲来する異星人に対抗できる機体の開発だ。
MSとス−パ−ロボットの特徴を持ち、単機で戦局を一転できるポテンシャルを持った最高の機動兵器を日夜、研究し開発作業に時を費やしている。

「碇司令から根回しをしてもらってるわ。それに、協力してもらうのは極東支部だけじゃないし・・・・・」

ミサトが別の書類を手渡す。ペラペラと流し読みしたリツコの表情が明らかに変わった。
無理もない。
使徒を打ち抜くだけのエネルギ−源を求めた先が早乙女研究所と光子力研究所なのだ。
他にも防御手段に南原コネクションへ協力要請をだしていた。
要点は三つだ。


早乙女研究所から提供された『新型ゲッタ−炉』。
ゲッタ−ドラゴンのシャインスパ−クの10倍以上のパワ−が2回だけ引き出せる。

光子力研究所の『光子力反応炉』。
プロトタイプマジンガ−Zの動力炉として兜甲児の祖父、兜十臓が光子力エンジンよりも前に開発していたが、あまりの大出力で制御出来なかった為、ずっと封印されていた。
制御機器を従来のモノから最新型に代えた事によって、最高出力こそ落ちたものの安定性を増した。それでもマジンガ−Zの光子力エンジンの20倍のパワ−を誇る。

EVAの防御には南原コネクションで超電磁コ−ティングされた盾を使う。使徒の攻撃に20秒近く耐えられるだけの耐久性を有している。

ゲッタ−線と光子力エネルギ−。
この二つの超エネルギ−を融合させる方法が同時刻。別の場所で話されていた。


「久しぶりだな、イングラム=プリスケン少佐」

司令官室に訪れた長髪の男に組んだ手を崩さず碇ゲンドウが、到底歓迎しているとは思えない声色で言った。
互いに知っている中だ、油断できないと言う意味で・・・・・

「ええ、一年振りですね」

イングラムと呼ばれた男は、ゲンドウの態度を気にしていないように応えた。

「では、本題に入ろう。君がここへ運んで来た自走式陽電子砲の状況は?」

「自走式陽電子砲はゲッタ−線、光子力エネルギ−、トロニウム・エンジンの力を得て、あの使徒のATフィールドの貫通に必要な1億8千万キロワットの出力が可能です」

「失われた技術の一つであるトロニウム・エンジン・・・・・確実に作動するのかね?」

冬月が動くかどうか確かめてくる。

「確かに、我々は発掘されたトロニウムの全てを解析しているわけだはありません。
ですが、トロニウムを使用した動力源。トロニウム・エンジンは、すでに実験段階の域を超えています。
現在は小型化したトロニウム・エンジンの出力調整に難航しているだけで・・・・
試作の大型トロニウム・エンジンをジェネレ−タ−の補機として短時間で使用することは可能です」

「ゲッタ−線と光子力エネルギ−の融合を取り持つことが出来るのはトロニウム・エンジンしかないからな」

「しかし、陽電子砲の発射は2回が限度です。それ以上はトロニウム・エンジンが持ちません」

「トロニウム・エンジンが爆発すれば、半径50キロの地域が蒸発することになるか・・・・」

ブラックホ−ルエンジン暴走事件を越える大惨事となる事は明白だ。

「いずれにせよ、今回の作戦で我々が提供するトロニウム・エンジンは使い物にならなくなりますが」

人類が手に入れたトロニウムは6個。米粒程の大きさしかないトロニウムだが、核融合炉の触媒として利用することにより、爆発的に出力を増加させることができる。
その分、扱いはデリケ−トなのだ。ニトロの100万倍、扱いに注意しなければならないと考えれば分かりやすい。

「すまんな、少佐。貴重な資源であるトロニウムを、ここで一つ消費することになる」

「仕方のない事でしょう。ここでEVAとロンド・ベル隊。そしてNervを失う訳にはいきません」

それに、貴重なデ−タが得られる。こんな非常事態でもない限り、こんな事はできない。

「君はどうするのだ?」

冬月としてはイングラムの今後の行動が気になる。
イングラム=プリスケン
SRXチ−ムの教官。SRXの機体。R−1、R−2、R−3、R−GUNを開発に携わったEOT研究の第一人者にして、卓越した操縦技能を持っているロボットパイロット。
その経歴はシュウ=シラカワと同じで謎に包まれている。Nervの諜報部でも肝心の所は掴みきれなかった危険な男。

「私は正式にロンド・ベル隊への配属が決定しました。このまま滞在して、作戦の行く末を見届けさせてもらいます」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ご安心を。今さらあなた達の計画を妨害できる者など存在しませんよ」

地球連邦最高評議会を裏から操れるゼ−レの存在を仄めかした。
ゲンドウの肩がピクと動くが、それ以上は何のリアクションも起こさない。
冬月も黙ったままだ。
この男が、ある程度まで自分達の計画を嗅ぎつけている事は知っている。
問題はどこまで知れているかだ。
男を尋問して吐かせたかったが、目下の所、男の協力がなければ使徒迎撃は、砂塵の城のように崩れるだろう。
男も、その事を知っている。
だからこそ、挑発とも取れる発言をしたのだ。

「それでは、私も作戦に参加するので失礼します」

一礼して司令官室を出て行くイングラムに向けられるゲンドウの視線は冷たかった。


「ゲッタ−炉と光子力反応炉の接続が終了しました。引き続きトロニウム・エンジンの取り付け作業に入ります」

日が落ちて、辺り一帯は夜の闇が支配している。そんな闇の中で人口の光で周りを照らし一心不乱に作業している人間達が居る。
Nernの技術開発部の人間と協力を依頼した各研究所の職員達だ。
非常事大だが、科学に属する徒達は人類史上初の試みとなる超エネルギ−融合実験に強い知的好奇心を持っていたので黙々と作業を進めている。
Nervの三羽オペレ−タ−の1人、日向マコトが作業率87%まで完了と報告する。

「敵シ−ルド、第19装甲板を突破。本部到達まで、あと5時間55分」

三羽オペレ−タ−の『パ−タン青』担当の青葉シゲルが第5使徒ラミエルの侵攻具合を、各部署長に連絡した。

「自走式陽電子砲からポジトロン・スナイパ−ライフルへの改造作業を終了。狙撃地点へ移動を開始します」

「これで準備は大体整ったわね。作戦開始時刻は明朝午前0時。以後、本作戦を『ヤシマ作戦』と呼称します」

「「「「「「「「「「了解」」」」」」」」」」」

ミサトが最後に作戦名を付けて、発令所にいるNervスタッフが呼応した。


透明な雰囲気を持つ少女が片手にレポ−ト用紙を持ってNerv本部の廊下を歩いている。
目的の場所に着いたのか、ドアの前に設置されているID照合機に自分のIDカ−ドを差し込んだ。

「綾波、どうしたの?」

パイロットル−ムのソファ−に腰を下ろしていた碇シンジは部屋に入ってきた綾波レイに意識をむけた。
シンジの膝の上にはイルイが寄りかかり眠っている。
待っているのが退屈で、何時の間にか眠っていたのだ。その寝顔は安らかだ。
眠っているイルイを気にも留めず、レイはシンジの前まで歩いて来ると、作戦内容を伝えはじめた。

「明日午前0時より発動されるヤシマ作戦のスケジュ−ルを伝えます。
碇、綾波の両パイロットは本日17:30、ケイジに集合。18:00、初号機及び零号機起動。
18:05、発進。同30、狙撃地点仮設基地に到着。以降は別名あるまで待機。
明朝、日付変更と同時に作戦行動開始」

ついでに作戦の成功率も教えてくれた。正直そんな成功率の作戦に参加したくないが、契約を結んでいるし、相手から契約違反でもしない限り逃げ出す気はない。
兄弟子から妙な所で頑固で律儀と言われる由縁だ。
それに勝算が無い訳でもない。
作戦内容を聞いたシンジは静かに立ち上がった。

「・・・・・・・?シンジ?」

起こさない用、ゆっくりと動いたのだが、イルイが起きてしまった。

「シンジ。どこに行くの?」

勝率8.7%のアホな作戦に参加すると言えず困っているシンジの変わりに、レイが止める間もなくイルイに作戦内容を話した。

「そんな!シンジもレイも死んじゃうかもしれないじゃない!!!」

イルイの哀しい叫び声がパイロットル−ムに反響した。

「どうして、そういうことを言うの?」

「だって100回やっても91回も失敗しちゃうんでしょ!?死んじゃうよ!」

「碇君は死なないわ」

「えっ?」

「私が守るもの」

レイは表情を変えずイルイに告げると、戸惑うイルイを置いて部屋を出ていった。


「ポジトロン・スナイパ−ライフル、あんな急造の兵器が役に立つんですか?」

ケイジに来て詳しい作戦内容が書かれたレポ−トに目を通したシンジは、先行きは険しいなと思った。

「仕方ないわよ。間に合わせなんだから」

休憩無しで今まで陣頭指揮していたリツコは疲労の為、殺気だっている

「大丈夫・・・・・・ですよね?」

女性のヒステリ−は何より苦手なシンジは、逆らっちゃ不味いと弱気な声で質問した。

「理論上はね。でも銃身や加速器が持つかどうかは、撃ってみないと分からないわ。何しろ、ゲッタ−線と光子力エネルギ−を増幅・融合するわけだから。それに、そんな大出力を試射したことは一度もないわ」

(前から思ってたけど、何でもハッキリ言う人だな。けど、気休めを言われるよりもマシか・・・)

シンジはリツコのプロ意識を持って仕事する所は、気に入っていた。なあなあ情報で戦場に送られるより、絶望に近いと分かっていても正確な情報の方が助かる。

「では、本作戦における各担当を伝達します。シンジ君は初号機で砲手を担当」

「はい」

「レイは零号機で防御を担当して」

「了解」

シンジとレイがミサトからの命令に応えた。

「これはシンジ君と初号機のシンクロ率が高いからよ。それから、ポジトロン・スナイパ−ライフルは補機の問題上、2度しか発射出来ないわ。一度発射すると次に撃てるまで時間がかかるから」

「では、仮に外した時の対策は?」

「今は余計な事を考えないで。一撃で使徒のコアを確実に撃破することだけを考えて」

対策は無しか・・・・・・そもそも勝率8.7%。
外して2射撃目の確立だと勝率は、どうなるんだろ?
ここまで来たら逃げられない。大ピンチだけど不可能ではない。そこに賭けるしかないか。
ギャンブルは弱いんだよな〜とシンジは内心で愚痴をこぼした。

「・・・・・・私は初号機を守ればいいのね?」

「そうよ」

「・・・・・・わかりました」

レイがリツコから超電磁コ−ティングされた盾の使用方法を聞いている。
シンジはレイに聞きたい事があったが、中々と話しかけるタイミングが無く、作戦開始ギリギリまで聞き出せなかった。


シンジとレイは攻撃地点にスタンバイしていた。EVAの昇降機のタラップ上で作戦開始を待つ二人。
頭上には大きな月がかかり、辺りに虫の鳴声が響く中、二人きりの静かな時が過ぎる。

「綾波。なんで、さっきイルイちゃんにあんな事言ったの?安心させる為?」

ようやく落ち着いて話せるとシンジがレイに近づいた。

「違うわ」

「なら、何故なんだ?」

間違いなく防御担当者は命賭けになる。命を賭けてまで守ってもらえる程、シンジとレイは親しくない。
同じチルドレン同士と言っても、まともに話したのは今日が初めてのような間柄だ。

「私はEVAに乗るために、生まれて来たようなものだから・・・EVAに乗らなければ、私には存在している理由がないわ。・・・・・・私には、他に何もないもの」

予想外の答だ。存在理由とまで言われてしまった。
シンジはレイの目を見る。嘘をついてるようには見えない。

「じゃ、さよなら」

機体搭乗時刻を知らせるアラ−ムが鳴ると、レイは零号機のエントリ−プラグに入っていた。
シンジに投げかけたレイの『さよなら』と言う言葉。
生き残る。と、いった事に執着心の欠片の態度も見られない。そんなレイが脆いガラス細工のように思えてならなかった。


初号機が土台を固定されたポジトロン・スナイパ−ライフルのグリップを握る。
腹這いに寝そべり、目標である第5使徒ラミエルを見据える体制でいる。
斜め前方には超電磁シ−ルドを構えた零号機が見える。
作戦開始時刻の0時0分0秒まで、残り5分を切った。
タイムスケジュ−ル通りに作業が進んでいる。

ミサト、リツコらを初めNervスタッフは、自由に動きが取れるア−ガマに乗り込んでいた。
ロンド・ベル隊も動きが取れない初号機と零号機の護衛の為に配備されている。
陣形はエヴァ二体を前方に置き、後方に扇形でロンド・ベル隊各機が待機していた。
敵対組織に警戒して。
Nervを含めロンド・ベル隊を敵として、それも最優先に潰さなければならない敵と構えている組織にとって、動きに制限が掛けられ、自由に行動を取れない今は狙い時だ。
そして、その不安は現実のものとなった。
突然、最後尾に配置されていた機体から火柱が走った。

「なんなの?何が起きたの?」

「あれは、妖魔帝国!」

照合デ−タで奇襲してきた敵部隊が判明した。
化石獣バストドン十数体を中心にドロ−メ数百機が、一斉にステルス機能を搭載した敵母艦から発進してくる。
いくらラミエルに気を取られていたとは言え、ここまで接近を許すなんて、とんだ失態だ。

「余は妖魔帝国プリンス=シャ−キン!今こそ、ライディ−ンやマジンガ−Z、ゲッタ−と決着をつけ、この世界を悪魔世紀にする時ぞ!」

広域音声チャンネルで敵指揮官がロンド・ベル隊に敵意を叩きつけてきた。

「そんな事!この俺とライディ−ンが許すものか!!!」

逸早く反応した、ひびき洸がライディ−ンのコクピットで叫ぶ。

「その通りだ!俺達がいる限り、お前達の時代は来ないぞ」

ゲッタ−ドラゴンのパイロット。流竜馬も吼えた。

「フン・・・・そのような大口を叩ける余裕が今の貴様らにあるのか?余は、その敵に似た存在を知っておる」

「な、何だって!?」

「そやつは生半可な攻撃では倒せんはずだ。だからこそ、余は貴様らに確実なトドメを刺す為に、ここに来た」

目障りこの上ないライディ−ンを筆頭に散々とジャマしてきたス−パ−ロボット達の息の根を止めてやる、またとないチャンスだ。

「どういうこと!?彼らは使徒の情報を持っているというの!?」

オ−プンチャンネルの会話の為、アーガマ艦橋いるミサトにもプリンス=シャ−キンの話が耳に入った。
 
(使徒の情報が記されている記憶媒体が他にも存在するとは思えないわ)

リツコは、裏死海文書が一つしか無いと思っていたので余計に驚いた。

「我が妖魔帝国の記憶装置に、その敵に似た異形のモノ達のことが残っていた。そして、強大な力を持つ、そやつらは・・・・・いずれこの世に現れることも予言されてあったのだ」

プリンス=シャ−キンが言っている事は、もしかしたらSTMCの事かもしれないとリツコは思った。

「使徒の様子は!?」

ミサトがラミエルに動きはないかと日向マコトに聞く。今のところ動きは変わりない。

「敵シ−ルドの本部到達まで、あと3分です」

「ブライト中佐!」

「ああ、わかっている」

「ヤシマ作戦まで、あと3分です。それまでEVAの防衛と敵の排除を、お願いします!」

「了解だ」

「それに、初号機は発射態勢にはいっている為、応戦が不可能です。初号機そのものはATフィ−ルドで何とか攻撃をしのげますが、もし、初号機が攻撃をうけポジトロンスナイパ−ライフルを破壊されたら大変なことになります」

「分かった。各機。作戦開始まで敵を初号機に近づけるな」

ブライトがすでに交戦状態にはいっている各機に最優先事項と通達した。


ロンド・ベル隊が妖魔帝国との戦闘を開始して、僅か3分。
大勢は決していた。

なるほど、これがロンド・ベル隊か・・・・・・・・
OZやティターンズの上層部が危険視する訳だ。
数で圧倒的に勝る妖魔帝国相手に挑むロンド・ベル隊の機体は30機にも満たない。
戦いは物量で決まる。数とは、それだけで力だ。
どんなに強い者でも、十倍近い相手に四方八方から攻撃を受ければ、成す術もなくやられてしまう。
だが、それがどうだ。
たった3分の間で数百機はいた妖魔帝国部隊は残す所、敵母艦とドロ−メ数機のみだ。

アムロ、ウッソ、カミ−ユ、クワトロ。
エ−スクラスのニュ−タイプが敵陣に突っ込み撹乱させながらも、確実に敵機を落とす。

乱れた陣形にスーパ−ロボット部隊。
マジンガ−Z、ゲッタ−ドラゴン、コンバトラ−V、ライディ−ン、ジャイアント・ロボ
獣戦機隊が、MSを遥かに上回る火力と防御力で決定打をあたえ。

それらの攻撃を逃れ、反撃しようとしてくる敵を念動力者のリュウセイとクスハが間髪いれず潰している。
それ等以外のパイロット達も並以上の能力を持っていた。

よくまぁ、これだけ突出した連中が一つの部隊に納まっているものだ。
連邦軍のどの部隊に配属されてもトップエ−スを張れる実力を持っている。
そんな者達が息のあった連携をとり、僅かに生まれる隙を互いにフォロ−しながら攻め立てる。
たとえ10倍以上の戦力でも、これだけ質の違いがあれば勝負にならない。

あっ。敵母艦が落ちる。
これで終わったな。妖魔帝国。
初号機の中のシンジは、次々と消えていくレ−ダ−の敵表示パネルを見ながら、ロンド・ベル隊の力に感嘆した。


0時0分0秒の時報と同時にヤシマ作戦がスタ−トした。

「シンジ君!日本の超エネルギ−。あなたに預けるわ。頑張ってね」

ミサトはシンジに激を飛ばした。

「第一次接続、開始!」

「ゲッタ−炉、光子力反応炉、作動開始。全冷却システム、出力最大へ」

「第二次接続」

伊吹マヤ。青葉シゲル。日向マコト等が一斉に作業を開始した。

「トロニウム・エンジン並びに強制収束機、作動開始」

「ゲッタ−線回線、全て解放。光子力反応炉、出力臨界へ」

「エネルギ−融合、開始」

「エネルギ−バイパス、開きます」

「第三次接触、問題なし」

三羽オペレ−タ−を中心に各作業員が動く。

「最終安全装置、解除!」

「撃鉄起こせ」

日向の指示で、シンジがポジトロン・スナイパ−ライフルの撃鉄を上げる。その額に狙撃用のヘッドギアが覆い被さった。

「地球自転及び重力の誤差修正プラス0.0009」

「エネルギ−圧。発射点まで、あと0.2。第七次、最終接続。全エネルギ−、ポジトロンライフルへ」

陽電子は地球の自転、磁場、重力の影響を受け直進しない。その為生じる誤差の修正は機械が行ってくれる。
シンジはタ−ゲットがセンサ−目標に入ったらトリガ−を引くだけ、その筈だった・・・・

「目標に高エネルギ−反応!!!」

「何ですって」

リツコが驚愕する。第5使徒ラミエルが高まるエネルギ−を察知したのである。
しかし、カウントダウンは続く。ミサトは秒読み終了と同時に叫んだ。

「発射!!!」

加粒子砲とポジトロン・スナイパ−ライフルは、ほぼ同時に火を吹いた。
膨大なエネルギ−により夜の街が、昼間のように照らされる。
二筋の光線が接近する。しかしあまりにも強大なエネルギ−同士は、互いに干渉し合い大きく軌道を外れた。
光線は不規則な曲線を描きながらすれ違う。
二筋のビ−ムは目標を外れ、それぞれの後方に着弾した。激しい衝撃が初号機とア−ガマを襲う。

「ミスった!?」

状況を確かめようとノイズの入ったモニタ−を見上げるミサト。

「敵シ−ルド、ジオフロント内に侵入」

そこに青葉からの報告が入る。一刻の猶予も無くなった。

「第二射、急いで!」

ミサトが叫ぶ。

「エネルギ−再充電開始!銃身冷却開始!」

あわただしく準備にはいる日向たち。
しかし準備が終わらないうちに、再度伊吹が告げる。

「目標に再び高エネルギ−反応!」

「まずい」

ラミエルの方が再発射までの時間が短いのだ。
クリスタル形態の中央部分が輝き、加粒子エネルギ−が初号機に向って放たれる。

躱せない!

初号機は地面に腹這い状態。回避は無理だ。
そう悟ったシンジは覚悟を決めATフィールドを張ろうとした。けれど遅い。間に合わない。
強い光が初号機を覆う。だが、予想していた直撃の衝撃が襲ってこない。
横から飛び込んだ零号機が、超電磁コ−ティングされた盾を振りかざして初号機の前に立ちはだかったのだ。

「綾波!!」

思わずレイを呼ぶシンジ。
加粒子砲の直撃に超電磁コ−ティングされた盾が溶解を始める。
威力が、どんどん上昇していく。いや使徒が進化しているのかもしれない。
攻撃特化型へと。

「盾が持たない!?」

演算予想を上回る威力にリツコが声を荒げる。

「第二射、まだなの!?」

「あと10秒!」

焦燥するミサトの声に応える日向。そこにマヤの悲鳴があがった。

「て、敵機が、ロンド・ベル隊と交戦していた妖魔帝国のドロ−メが落ちてきます!」

再びエネルギ−ゲ−ジが貯まってきたポジトロン・スナイパ−ライフルのケーブルに被弾したドロ−メが煙を上げながら落下してきた。
敵母艦の爆発に弾かれてロンド・ベル隊の死角から落ちてきたのだ。

チュドォ――――――――――――ン!!!!!

ドロ−メが墜落した位置は運悪くエネルギ−バイパスが通っている場所だった。
内部を通る膨大なエネルギ−を拡散させない構造のケーブルだが外部からの衝撃には、それほど強くない。
エンルギ−が充満したケ−ブルは爆発して切れた。
途端にポジトロン・スナイパ−ライフルが充電していたエネルギ−が拡散していく。

「な、なんてこと・・・・・・・・・・」

リツコが目を見開いて口を押さえる。優秀な頭脳が、嫌でも最悪の展開を思い浮ばせた。

「くそ!ハ−ドになった!」

シンジも瞬間茫然となった。ラミエルを倒す手段を失ったのだ。

「そうだ!綾波!?」

思考を取り戻す。自分の盾となっている零号機は加粒子砲のすざまじい超高熱によって、盾は原型を僅かに残し、後方の機体本体の装甲もドロドロと解け始めている。
両足があれでは動かない。
だめだ、綾波が死んでしまう。

「殺らせるか!ライトニングフィンガァァァ――――――――――――――!!!!

シンジの右手に宿る紋章がプラグス−ツ越しでも、はっきりと浮かび上がる。
初号機が神速の動きで飛び上がった。初号機の右手に超電撃がシンジの力によって生み出される。
飛び上がった勢いのまま零号機の脇をすり抜け、加粒子砲に右手を叩き付けた。

「ぐゥおォォォ――――――――ッ!」

獣の咆哮のようにシンジが吼える。それに伴いライトニングフィンガ−の威力が増していく。

い、碇く・・・・・・・・・・ん?

零号機のエントリ−プラグの中で意識が途切れそうなレイが見たのは、守るべき筈の初号機が眼前に立って、死の鎌首をたてる加粒子砲と競り合っている光景だった。

なんで?
レイにはシンジの行動が分からなかった。作戦は失敗だ。
ならば、せめて初号機だけでも逃さなければいけない。
それが自分に与えられた任務なのだから。
なのに、なんで?・・・・なんで?・・・・なんで?

「うそ・・・・・・あの加粒子砲を凌いでるの?」

シンジの必殺技ライトニングフィンガ−は知っていたが、加粒子砲に対抗できるだけの威力はない筈だ。
あれだけのエネルギ−をどこから持ってきた?答えは簡単。
電気コ−ドのように背中に付いてるアンビリカルケ−ブルからの過剰摂取だ。
だが、それでも足らない。
ほら、げんに初号機のエネルギ−はアンビリカルケ−ブルから供給されているにも関らず、内部電源まで使っている。

「って!まずいじゃない!10秒単位で消費されてる!?」

5分しか持たない内部電源。これでは残り30秒も持たない

「本格的にピンチだ。・・・・・・ここまでか?」

ジリジリとだが加粒子砲に押されている。パワ−差を埋めるには外部電源と内部電源のエネルギ−だけじゃ足りなかった。

シンジは灼熱するテンションの中、どこか冷静な部分が状況を見極めていた。
死にそうな目にはデビルガンダム事件の時に何回もあった。
その度に切り抜けてきたが、今回は無理そうだ。助かりたいだけなら横に飛びのけばいい。
だが、その選択は綾波を見捨てる事になる。
大地に溶接された零号機と一緒に避けるのは無理なのだから。

命を張って自分を守ろうとしてくれた綾波を見捨てる選択肢はない。
シンジは、恩は2倍に返し仇は10倍で返す主義だ。そして、命を賭けてくれた相手には自分も命を賭ける。
ここで綾波を犠牲にする事は、シンジの生き方を自ら否定する事になる。
それは死ぬよりも恐ろしく感じる。
だから退かない。たとえ、ここで果てても・・・・・・・・・



「バカシンジ!アンタはアタシのもんなんだから、勝手に死んだら許さないわよ!
もし、約束やぶったら一生アンタの墓に文句いってやるんだから!
・・・・だから死ぬんじゃ・・・・・・・死ぬんじゃないわよ・・・・・・・・」


心のどこかで決めた覚悟を蹴り飛ばす勢いで、約束の言葉が脳裡に響いた。
赤毛の幼馴染が、怒っているのか泣いているのか、分からない顔で、別れ際にした約束。
ああ、あの時、僕も『さよなら』って言って叩かれたな。
赤毛の少女の命を救った、恩人の少年に対する態度ではなかったのは確かだ。

さよならじゃないでしょ!アンタは生きて帰ってくるの!だから「またね」って言いなさい!

強気で、口がわるくて、猫かぶりで、プライド高くて、僕にたいしては口よりも手が出る彼女。
でも、本当は優しくて、寂しがりやで、泣き虫な女の子。

そうだった。そうだったな・・・・・
生きて、また会うって約束したもんな。
僕は、まだ生きている。絶体絶命だけど、戦う為の牙も心も、まだ折れちゃいない。
なら、どこまでも足掻いてやる。

押されていく初号機の右手が、その場でピタリと止まった。



「シンジ!」

ア−ガマに用意されたシンジの部屋で作戦終了まで待っているよう言われたイルイが、胸を押しつぶされそうな恐怖を感じた。
琥珀色の瞳にうっすらと涙が浮ぶ。
イルイには過去がない。正確に言えば覚えていない。記憶喪失なのだ。

「イルイちゃんは僕の妹。僕の家族だよ」

シンジはそう言ってイルイを受け入れてくれた。
なんの代償も求めず、本当の妹のように愛情を注いでくれるシンジ。
本当に頼りたい時、頼れる存在と言う者は、嵐の海で見つけた灯台みたいなものだ。
親に捨てられた経験があるので、シンジもイルイの不安な気持ちが手に取るように分かった。
だから、自分は絶対に裏切らない味方と行動で示した。
そんなシンジにイルイが自然と懐くのに時間は掛らなかった。

親愛、友愛、恋愛、偏愛・・・・・

どれに当てはまるか分からないが、イルイにとってシンジは大切な人以上の存在となっていた。
失いたくない。その気持ちに偽りは無かった。

「だめ!・・・・・・・シンジを!シンジを助けて!!!」

イルイが両手を組んで祈るように叫ぶ。
何故だが分からないがイルイにはシンジの危機を感覚で知ったのだ。
そして祈りに近い思念は何かに届いた。


それは光と共に現れた。

「なっ!巨大な鳥?」

初号機と零号機を助けるべき、急いで援護に向う甲児が光の中から現れた鳥に驚き、マジンガ−Zの動きを止めた。

白銀の外装に、空を覆わんといわんばかりの両翼を持つ大鷲

「それに豹とシャチか?」

R−ウイングに変型させ、甲児と同様助けに向うリュウセイは不思議な感覚に戸惑いを感じていた。
あの3体から自分と同じ力を感じたからだ。

雷を纏い力強い四肢で大地を踏む豹に、宙を泳ぎエックス型のヒレを持つシャチも空間転移してきたように、突然第2新東京市の一角に降臨した。
それも初号機とラミエルの中間地点とも言うべき場所にだ。

GuOooooooooooooN!!!!

敵か味方が分からない白銀の大鷲が天に轟く鳴声をあげた。
紅の炎が全身から迸る。
翼を大きく羽ばたかせ白銀の大鷲が、加粒子砲を撃ち続けているラミエルに大空から急降下して突っ込んだ。

「マジ!?あのATフィールドをキャンセルした?」

炎の鳥となった白銀の大鷲は、ラミエルのATフィールドと衝突する際、不可思議な波動を放った。それがATフィールドを無効化したのだ。

「念動フィールド?」

クスハはラミエルのATフィールドを消した手段が、念動フィールドではないかと思った。
自分自身も、その使い手だからこそ分かる。

GuOooooooooooooN!!!!

空中要塞とさえ思われたラミエルの巨体が、白銀の大鷲の一撃で揺らいだ。
加粒子砲が止んだ。
いや、白銀の大鷲に止められたのだ。
ラミエルは白銀の大鷲を敵と認識した。そして白銀の大鷲に加粒子砲を放とうとした。
今まで撃っていた相手も忘れて。

僕のこの手に紫電が疾り

ラミエルは、白銀の大鷲など無視して第3射を同じ相手に撃っていれば勝っていた。

綾波まもれと雷光うなる

そう、そうすれば天敵であるエヴァシリ−ズの初号機と零号機を滅ぼせた筈だった。
だが、すべては遅い。ふってわいたチャンスを逃すほど少年は甘くない。

光と闇の紋章から息吹きをあげる真雷よ!すべてを薙ぎ払え! 
     
両手を合わせた初号機の指先全部から、身の丈より数十倍以上あるイカズチの刃が、雲を断ち切り天にそびえる。
あまりにも圧縮された電流は物理法則を無視して半物質化までしている。
シンジの意志力が紋章を通して具現化している。
そうシャッフル・ル−ン・ブランクの正統後継者のみが扱える破邪の雷だ。

ライトニングフィンガ−ソォォォ――ド!!!

Nervには見せたくなかった必殺技パ−ト供だが、ラミエルの危さは充分以上理解した。
出し惜しみはなしだ。
せっかくの勝機。ここで確実に仕留める。

「これで終わりだぁ――! 斬!
 斬!! 
斬ぁぁぁ―――ん!!!!」

白銀の大鷲によってATフィ−ルドを未だ再展開できないラミエルに、一直線に振り下ろされたイカズチの刃を防ぐ術はなかった。


ラミエルが真っ二つされるのを見届けると、白銀の大鷲、豹、シャチは現れた時と同じように光と共に消えた。
何者か検討もつかないが彼等によって助けられたのは事実だ。
この借りはいつか返すと心に誓うシンジ。

焼けただれた零号機が力尽きたように、溶解して原型の無くなった盾ごと地面に転倒した。
その音に思い出したようにシンジは反応した。

「綾波!」

初号機は零号機に駆け寄り、背中の装甲を剥ぎ取った
エントリ−プラグが排出され、LCLが四方に向って放出される。初号機の右手が零号機のエントリ−プラグをつかみ出し、地上に降ろす。
シンジは初号機から降りると、レイが乗っているエントリ−プラグの非常ハッチのハンドルに手をかけた。
だが、熱によって脆くなったハッチは崩れて折れた。

「邪魔だ」

シンジの手刀が一閃した。カコンと音をたててエントリ−プラグの外壁に穴が空いた。
人一人分は通れる

「大丈夫か、綾波!」

空いた穴からエントリ−プラグの中に乗り込んだシンジは、目を閉じてぐったりとしているレイを見た。
慌てて喉もとに指先をあてる。
よかった脈はある。
触れた感触に反応したのか、レイはゆっくりと目を開いた。その目には自分を見つめるシンジの姿が映る。

シンジの目にみるみる涙が浮んだ。
生きている事への。戦場から生きて戻ってきた事への歓喜だ。

「・・・・良かった・・・・・君が生きてて・・・・本当に良かった」

レイは泣いているシンジを見て驚いた。黙って泣いているシンジを見つめる。

「自分には・・・・自分には他に何もないって・・・・そんなこと言うなよ」

何もない。それは捨てられた時の自分を思い出す。

「別れ際に、さよならなんて、悲しいこと言うなよ」

仲間を失っての勝利は苦い。後悔のエッセンスを無理矢理飲まされるような物だ。
デビルガンダム事件で失った。シュバルツ=ブル−ダ−を思い出す。
それも、自分を庇ってあの人は死んだ・・・・・・
いまでも少年の心に癒えない傷として残っている。
Nerv組織を未だ仲間とは思っていないが、レイの事は、この戦いで助けるべき仲間と認めていた。

「なに泣いてるの・・・・?」

感情の機微に疎いレイだが、少年が泣いている理由は自分の為だとなんとなく分かった。

「ごめんなさい。こういう時、どんな顔すればいいのか、わからないの」

だからこそ泣いている理由が知りたかった。そして、思いがけない言葉を投げられた

「笑えば、いいと思うよ」

生きている証。それも世を謳歌している証に微笑みを自分に見せてと少年は言う。
かすかな戸惑いの表情を見せた後、レイはうっすらと微笑みを浮かべ、少年に応えた。
それは互いに認め合えた、始まりの一歩だったのかもしれない。


あとがき

フラグが立ちました。
誰のフラグかは不明です。


アト様> ありゃ本当だ。一つだけ違っていました。

15様> 悲しいけどコレ、やられ役の宿命なのね。(ビックザムに突っ込んだ人の口調で)
ですが、一言。ゼロ君だけは、あの時すでにプロトサイコガンダムに搭乗していました。

イ−ス様> そうですね。マスタ−アジアはシンジにとって、黒の狼のような存在と言えます。

ATK51様> この世界のティターンズは完全にイッてますので救済はまず無いです。
そう言えば原作だとジェリドってカミ−ユの母親を殺してるんですね。

EXIST様> 基本はやっぱりシンジ視点のスパロボになります。

イスピン様> スパロボシリ−ズだとフォウは大抵救済されるのに対してロザミィは敵のままで終わるのが多いですしね。
あの日、あの時、説得フラグを忘れて撃墜。あとで、あっ!説得できたんだ。と攻略本を読んで初めて仲間になると気付いたキャラクタ−のように。

無虚様> 直しました。文章ミス報告に感謝

アルテミス様> のっぴきならない事情で、信用できる人物に子供を預ける経緯があるならともかく、本当に捨てたゲンドウを父親として慕えと他人が言ったら、シンジ君は有無を言わさず笑顔でソイツをぶん殴るでしょう。

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