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「幻想砕きの剣 9-1(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-05-10 22:30/2006-05-10 23:30)
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カエデ・ベリオチーム 3日目・昼


「知らなくもない天井でござる」


 カエデが目を覚ました時、そこは医務室だった。
 医務室だという事は解るが、どこの医務室かは解らない。
 それに、何故自分がこんな所で寝ていたのかも。

 何だか上手く動かない体を訝しみながら、カエデは体を起こす。


「あらカエデちゃん、起きた?」


「? ルビナス殿…?」


 かけられた声に振り返れば、そこには笑顔のルビナスとナナシ、難しい顔をしているクレア。
 何だかルビナスの雰囲気が変っている気がする。
 しかしそれよりも、どうして自分がここで寝ているのか。


「えーと…拙者は確か、王宮に帰ってきた早々危険物の探索に借り出され、その後…ルビナス殿とナナシ殿の見舞いに来たのでござったか?」


「ええ、そうよ。
 それで疲れてるって言って、割り当てられていた部屋にも戻らずにさっさと眠っちゃったの。
 ゼンジー先生が居なくてよかったわね」


「お、起き抜けに恐ろしい事を言わないでほしいでござるよ…」


 いくら疲れているとは言え、怪我人でもないのに医務室のベッドを使うなぞ、某学園の「お残しは許しまへんでー!」さんに匹敵する戦闘力を誇るゼンジーが許すかどうか疑問である。
 付け加えて言えば、学園→王宮間の距離くらいなら気合で超越して来そうだ。


「ゼンジー?
 …ああ、あの保険医か」


「クレアちゃん、知ってるですの?」


「前に王宮から抜け出して買い食いをしていた時にな。
 何やら物騒な代物を持って、城下を徘徊していたぞ。
 なんか不届き者を探しているとか言ってたが…あまりの迫力に、周囲の人間も通報すら出来なかった。
 私もバラされるかと思ったものだ」


「それはきっと、保健室でお昼寝した人を探してたんですのよ。
 きっとチェーンソーを持って、王都までBダッシュで走ってきたんですの。
 マ○オはどれだけBダッシュで走っても息切れ一つしないから、きっとノンストップで」


「ああ、後でフローリア学園の保険医だと聞いて納得がいったものだ。
 都市伝説を一つ築き上げおったからな…」


「…ゼンジー先生、オソルベシ…」


 カエデが慄く。
 ルビナスも無言で頷いた。
 ナナシだけは平気である。


「そ、それはともかく…見舞いに来たのは覚えているでござるが…?
 ……そ、その後の…記憶が……あれ?」


 首を捻るカエデ。
 どうやら記憶が消えているらしい。
 首筋の注射痕に目をやり、クレアは恐ろしげに目を伏せた。

 そしていけしゃあしゃあと言い放つルビナス。


「それはきっと、徹夜で頭が朦朧としてたからよ。
 実際、今にも倒れて寝ちゃいそうだったもの」


「おかしいでござるなぁ…。
 寝るのは好きでござるが、職業柄、2,3日眠らずとも平気なように訓練してあるでござるのに」


「体調の問題じゃない?
 聞いた話じゃ、ほぼ一晩中戦ってたんだって?
 実戦では思っている以上に精神体力共に消耗が激しいものよ。

 ベリオちゃんよりもずっと早くカエデちゃんが起きた。
 どうやら薬物に耐性がある模様…実験台としては中々の素材


「ぬおっ!?」


 突然鳥肌が立つカエデ。
 凄まじい危機が迫っている気がする。
 怯えた子犬のように、周囲を慌てて見回すカエデ。
 しかしルビナスはその内心を全く悟らせる事なく、ニッコリ笑っているだけだった。


「いいから、もう一眠りしちゃいなさい。
 ホワイトカーパスへの出発は、2日後になるから」


「? ルビナス、一応予定では明日になっているが?」


 クレアがルビナスの言葉を遮った。
 ルビナスが予定を間違えるとも考えにくいし、勝手に予定を変更するのが越権行為だという事を承知していないとも思えない。
 何か理由があるのだろうか。
 まぁ、元々カエデ達の遠征が終わるのは1週間程後だろうと踏んでいたから、大勢に影響は無いのだが。


「ちょっとね、ベリオちゃんに渡しておきたい物があるのよ。
 前にダーリンから頼まれてた物が、もうちょっとで完成しそうなの。
 どうせだから、それを持って行ってくれないかしら」


「大河に頼まれていた…って、昨日弄っていたアレか。
 アレは何に使う物なのだ?
 いや、詳細な説明はパス」


「そう?」


 残念そうなルビナス。
 カエデとクレアは安堵の息を吐いた。

 と、その時ベリオがふと身を起こす。


「察するに…アタシが外に出るためのアイテムかい?」


「ベリオ殿…いや、ブラックパピヨン殿?」


「ほう、お主が何時ぞや会議を荒らした怪盗か。
 まともに顔を合わせるのは初めてだな。
 前回は情事の真っ最中だったし」


「そうよ、マゾの王女様?
 ちなみに、例の部屋の存在を大河に教えたのもアタシ」


 クレアは一瞬立ちすくんだ。
 そして無言でブラックパピヨンに近付いていく。


「何だい?」


 挑発するような目でクレアを見るブラックパピヨン。
 どうやら彼女は乱を望んでいるらしい。

 が、クレアは挑発には乗らなかった。
 それどころか、無言でブラックパピヨンの両手を取る。


「?」


 そして握った手を上下にブンブン振る。
 どうやら感謝の意を示しているらしい。
 真性Mの彼女としては、感謝こそすれ恨んだりする理由にはならないのだろう。

 が、恨む理由になるのがここに一人。


「そうでござるか…。
 ブラックパピヨン殿が、一昨日のSMごっこの原因なのでござるな!?
 お蔭で未知の世界を垣間見たでござるどうしてくれるどうしてくれるでござる拙者達を巻き込むなでござる!」


「えい」


「はぅ!?」


 プスっという軽い音と共に、カエデが崩れ落ちた。
 そして背後に立つルビナスの手には注射器。


「全く…ここは病室なんだから、騒いだらダメでしょ。
 それこそゼンジー先生が怒るわよ。
 それに…とばっちりを喰ったのは、私も同じなのよ?


 ビビるクレアとブラックパピヨンに向けて、指と指の間に一本ずつ、計8本の注射器を構えるルビナス。
 腕を交差させて妖しげな構えを取るルビナスに、今度こそ逃げようとするブラックパピヨンだったが。


「えいっ」


「はぅ!?」


 今度はルビナスが崩れ落ちた。
 呆然として、ルビナスの後ろで注射器を構えた人物を見るブラックパピヨンとクレア。
 そこに居るのは…恐ろしい事に、本当に恐ろしい事にナナシだった。


「な、ナナシ!?
 注射は素人が使っていい物ではないでおじゃりまっするよ!?」


「ヘタをすると命に関わるぞ!」


「大丈夫ですの。
 これでもナナシとルビナスちゃんのお脳は繋がってるんですのよ?
 ルビナスちゃんがお注射を出来るんだから、必要な知識はちゃーんとここに入ってますの」


 コンコン、と自分の頭を小突くナナシ。
 が、はっきり言ってそんな次元の問題ではない。
 知識があっても技術が追いつかなければダメなのだ。
 技術があっても、注意力がなければヤバイのだ。
 ナナシが注射をする…ある意味、ルビナスの実験以上に恐ろしい。


「クレ、クレア!
 これってマジでヤバイよ!」


「い、医療班!
 医療班を呼べ!
 ルビナスの体を直接検査できると言えば、すぐに飛んでくる!」


「なんですと!?」


「ぬお!?」


 突如沸いて出る人影(複数)に、ブラックパピヨンは仰け反った。
 つい一瞬前までは、人影も気配も無かったのに。


「な、何者だい!?」


「ふっ、我ら常に医学の最前線を追い求め、その為ならば患者を実験体に使う事も自身を解剖する事も厭わぬ、人呼んで『秘法科学者候補生チーム』!
 我らが目標にして貴重なホムンクルスのルビナス・フローリアス殿の体を検査できるとあらば、例え10年後からでもタイムスリップして来る猛者達よ!
 ってな訳で…あれ、ルビナス殿はどこに?」


「さっきお主とソックリなのが、ルビナスを連れて出て行ったが…」


 首を傾げるマッドサイエンティスト候補生チーム代表格。
 彼にソックリな人物なぞ、心当たりがない。
 誰なのかと考えていると、あっとチームメンバーの一人が声をあげた。


「あれはきっと未来のチーフだ!
 本当にルビナスさんの体を検査するために、10年後からやってきたに違いない!」


「なんと!
 我の情熱はそれほどのものだったか!」


「ズルイっすよチーフ!
 一人だけルビナスさんを!」


「そうだそうだ!
 何で10年後の俺達も連れてきてくれないんスか!」


「ええぃ、黙らんか!
 その身を医学に捧げ、時には摂理全てを乗り越える覚悟があるのなら、自分で来るのが当たり前だろう!
 他者に頼って医学の真理を見極めようとは笑止千万!」


「…おい、追わなくていいのか?」


 クレアの冷静なツッコミ。
 それによってハッと我に返るマッド(略。


「ちぃ、大分引き離されたぞ!
 追え追え追え追え追え終え終え終え!」


「終えたらアカンでしょ!
 全員手分けして探せ!
 捕獲したらルビナスさんは検査、10年後のチーフは解剖だ!
 行くぞ!」

「「「「おう!」」」」


 未来の自分を解剖する事を全く躊躇わず、チーフを含めた秘法科学(略)は医務室を出て行った。
 確かに10年後(仮)の人物を解剖し、その上で現在の同一人物と比較すれば、医学会に結構な貢献が出来るかもしれない。
 抗議もしないあたり、医学の発展に本気で身を捧げているくさい。
 それを見送り、ポリポリ頭を掻くクレア。


「…私もそろそろ帰るか」


「…アタシももう一眠りするよ」


 そしてもう一人。


「ナナシは信用ないですの…」


 いや、信用はされている。
 …その能力に対して、全く信頼がないだけで。


大河・セル・ユカチーム 一日飛ばして 4日目・昼


 平和である。
 大河は与えられた部屋(個室)で寝転がっていた。
 本来なら新兵同然の大河がここまで優遇される事はないのだが、先日の大暴れで大河の実力は広く知れ渡った。
 後になってドムが「救世主と言ってもまだ候補。 だが最も近い」と公表したのだが、それでも大河を英雄視する人物は絶えない。

 何だかんだ言っても最前線、非常に苦しく、そして危うい均衡を保っていた。
 そこに圧倒的な力を持つ大河が現れ、一人で敵軍の7割以上を壊滅させてしまったのだから、確かに救世主にも見えるだろう。
 駐留地に戻った後も、何かと視線を浴びて大変だったのだ。

 セルは何やら他の傭兵科生徒達に捕まっていた。
 恐らく儀式にかけられるのだろう。
 本人もすっかり忘れていたようだが、傭兵科血の掟を破って一人だけ女の子と仲良くなった罪は、やはり忘れられていなかったらしい。
 一人を集団で吊るし上げたら軍規に引っ掛かるのではないかと言うと、話の解る上官が居るので問題なかった。
 それどころか、その上官はフローリア学園傭兵科OBで、今は失伝した最上級の儀式を知っていたのである。


「昨晩は傭兵科連中が煩くて眠れなかったからなぁ…」


 何処からともなく、『シネ! シネ! シネシネシネ!』という謎のアニソン風祈祷が延々と聞こえてきて、新兵達にはそれはもう居心地の悪い夜だった。
 …ドムやベテランになると、この程度では動揺もしない。
 しっと団を演習の的扱いしているのは伊達ではないらしい。

 セルがどうなったのか微妙に気になったが、確かめる勇気を持たない大河だた。


 一方ユカはというと、駐留地に到着早々、逃げるように何処かへ行ってしまった。
 ドムに色々と報告しなければならないのだから、彼女にも居てもらわなくては困るのだが…。
 見つからないので仕方なくセルと2人で報告に向かった所、ドムはユカを探そうとするなと伝えてきた。
 何だかよく解らないが、アザリンからの命令らしい。
 彼女の命令なら間違ってはいないのだと思うが、何があったのか不思議に思う大河だった。


「なんか様子がヘンだったもんな…。
 怪我とかはしてなさそうだったんだけど」


 で、大河がどうして真昼間からベッドでゴロゴロしているかというと、単に外に出たくないからだ。
 外にホモが居るから…というのは半分冗談だが、実際居心地が悪いのだ。
 珍獣を見るような目で見られるし、昨日の夕食では居合わせた兵士達にしこたま飲まされた。
 初陣を飾った兵士達に、生きている記念という事で一杯飲ませる伝統だそうだ。
 それは楽しかったからいいのだが、ちょっと頭の痛い大河だった。
 小一時間ほど記憶が飛んでいるし……尻の穴は傷まないから、貞操は無事だったのだろう。
 ただ、食堂の一部と兵士の一部がえらい損害を受けていたような…。

 …久々に酔拳が発動した事を、大河は覚えていなかった。


 どうも先日の襲撃で敵軍は壊滅的な被害を受けたらしく、襲撃の気配はそれほど濃くない。
 今の内に討って出られればいいのだが、敵の所在が解らない。
 人間のように城砦を築く事もなく、自然が寝床のモンスター達である。
 ヤバイと思ったら、別の隠れ家に向かうなぞ珍しくも無い。
 しかも戦闘のお蔭で大分数が少なくなったので、益々身軽になっているのだ。


「捕まえようと思ったら、それこそ絨毯爆撃でもしなきゃならんか…。
 そんな兵力、余ってないしな…。
 この後の事を考えると、一大作戦の為に少しでも兵力を残しておきたいのが本音か」


 大河がクレアから聞いた、タイラー発案の一大作戦。
 未亜達もその作戦の為の護衛をしている筈だ。
 正直な所、大河は彼女達をあまり心配していない。
 極秘作戦と銘打たれているだけあって、情報漏洩には徹底的に注意を払っている。
 ならば、襲撃される危険性はどちらかと言うと少ないだろう。
 仮に何かあったとしても、赤の主と精霊が揃っているのだ。
 大抵の敵は力押しだけでも何とかなる。

 ルビナスとナナシ、クレアに関しても多分問題あるまい。
 何だかんだ言っても王宮の警備は厳重だし、何かあったらイムニティの方から連絡が入る筈。

 むしろ心配なのは、ベリオとカエデだ。
 今頃は、ゼロの遺跡近辺の住民を避難させる為に魔物達の相手をしているのだろうか?
 たった2人で、魔物達を牽制して援軍の到着を待つ。
 はっきり言って難易度がメチャ高い。
 召喚器が幾ら強かろうと、それはあくまで個人戦闘の話。
 ぶっちゃけて言うと、召喚器は個体orグループにしか攻撃出来ないのであって、マップ兵器みたく広範囲を薙ぎ払える代物ではないのだ。
 人海戦術を取られたら、確実に突破される。


「しかし、今から行っても間に合いそうにないし…。
 ここが俺の役割だしな。
 信頼するしかないか…」


 意識して信頼するというのも少々妙な話だが、他に出来る事は何も無い。
 結局の所、敵襲を待つしかないのだ。
 訓練をしようにも、あの凄まじい破壊力を気軽に振り回す訳にはいかない。
 大剣にした状態でなくても、今や凄まじい力を発揮するのだ。
 出力を間違えたら、振った剣圧だけで建物が一つ崩壊しかねない。

 だから仕方なく、大河は部屋に篭っていた。
 最初は連結魔術を使って、トレイターの力を変換する方法を探していたのだが…。


「あー、計算するのも面倒臭いわ」


 久々に計算式を自分で創り出そうとして、途中で丸投げしてしまっていた。
 もう今日はさっさと寝てしまおうかと思った時である。


コンコン


「? 開いてる…けど、ムキムキマッチョのおにーさんなら部屋に入らずそこで済ませてくれ。
 伝令だったら入るもそのままもご自由に。
 可愛い女の子なら是非とも中へ!
 さぁ! さぁ!」


「え、えーと…女の子としては筋肉質のボクは、どうすればいいのかな?
 ボクって可愛い?」


 テンションをムリヤリ上げる大河の声に戸惑いつつ、ドアを開けて入って来たのはユカだった。
 予想外の来客にちょっと戸惑ったが、ここで何を言うべきかは一つだ。
 相変わらずウェイトレス姿なので尚更である。


「断じて可愛い!
 むしろ愛でたい!
 是非とも中へ!
 俺の隣へ!
 そしてベッドへ!」


「ぼ、暴走しすぎだよっ!
 …はぁ、昨日の事を謝りに来たんだけど…余計な事だったかな」


「? 謝るような事…何かあったっけ?」


「だから、帰ってきたらすぐに別行動しちゃったでしょ?
 ちょっとアザリンの所に行ってたんだけど…ドム将軍への報告も押し付けちゃったし」


 とりあえず大河を一発殴って落ち着かせ、ユカは何処に座ろうか暫し迷う。
 結局やや警戒しながらも、大河に言われたようにベッドの上に腰掛けた。
 ただし、ちょっと距離を置いて。


「(これがユカと俺との心の距離…ってか)
 別にいいけどね。
 帰る時から何だか妙にソワソワしてたし。
 さては…トイレを我慢してたな?」


「デリカシーってモノがないの!?
 大体お花摘みじゃない!」


「おぐっ!?」


 左ジャブ一閃、閃光のような一撃が大河の頭に叩き込まれた。
 ぐわんぐわん揺れる脳を必死に正常に戻しながら、大河は確かにダイレクトすぎたかと反省した。
 よし、今度は言葉を選ぼう。


「じゃ、じゃあ月からのお客さ「韋駄天脚ッ!」ぬおぅ!?」


 瞬時に繰り出されたユカの蹴りを喰らって、垂直に1メートルほど浮き上がる大河。
 そして頭を下にして垂直落下。
 ベッドの上なので、大事には至らない。

 ドサッ、という音でユカは正気に返る。


「あ、ついやりすぎちゃった…。
 えーと…だ、大丈夫?」


「ふっ…鍛え抜かれたスベスベのフトモモ…閃くミニスカートの奥でチラリズムを演出する白いヤツ…。
 イイモノ見せてもらいましたぜ…ぐふっ」


「追い討ちッ!」


 ドゴン、と大河の体とベッドのスプリングを貫通して衝撃が床に叩きつけられた。
 ちょっとユカの顔が赤い。
 彼女にも段々と大河のスケベさが身に沁みてきたようだ。


「ぐっ、き、キツかった…。
 と、ところでユカ…何か用事でも、げほっ、あったのか?」


「ん? あ、そうそう。
 ちょっと聞きたい事があったんだ。
 まぁ…大河君に聞いても無意味な気もするけど、他に聞けそうな人は居ないし。
 ……なんて言うか、かなり立ち入った事なんだけど…答えにくければ、答えなくてもいいから」


「? まぁ…言うだけ言ってみてくれ。
 スリーサイズは教えてもいいけど、ヤローのを知っても面白くないよな」


「ボクは女の子だし、男の人のスリーサイズにはあんまり興味がないなぁ…。
 それに、大事なのは数字じゃなくてバランスだよ」


「ただし体重除くげふぁっ!?」


 無言で拳が奔った。
 ユカはかなり鍛えこんでいるため、同年代の平均的女性よりもかなり筋肉がついている。
 そのため張りや形は一級品で、自分でもそれなりに自信を持っているのだが……その代わり、筋肉細胞のせいで少々重めのユカげぶぉはっ!?


「黙ってろ作者!
 あーもう、話が進まないよ…。

 あ、あのね…その、大河君の女性関係の事なんだけど…」


「……っく、い、息が詰まった…。
 女性関係が、何?」


 言われる事は何となく見当がつく。
 一夫一妻に拘らないアヴァターと言えど、大河のように多数の女性と付き合ったりしている者には冷たい軽蔑の視線や、無闇に熱狂的なしっとの視線が送られる。
 ユカから見ても、大河の女性関係は無節操すぎるのだろう。
 一言言ってやりたくなるのもよく解る。


(…それくらいは当然の事だけどな。
 義理とはいえ妹の未亜と結ばれた時から、冷たい世間の目も覚悟してるし。
 他の皆とも公認みたいなものなんだから、世間からの罵詈雑言くらいは謹んで受け入れるか、眼中にも居れずに突き進むのが俺の義務…)


 とにかく言うだけ言わせて、場合によっては論破しよう、と大河は気を引き締める。
 が、ユカの問いは少々予想外のものだった。


「あのね、大河君って、沢山の人と付き合ってるんだよね?
 経過は知らないし、ちょっと甲斐性とかを考えるとどうかと思うけど…。
 聞きたいのは、その…付き合ってる女の人達の事なんだ」


「あの連中の?
 …スリーサイズ?」


「だからあんまり興味ないって。
 その人達、みんな大河君が好きなんだよね?」


「そりゃあね。
 そうでなければ、俺と色々する事もないだろうし…。
 好きでもない人間を相手に深くまで付き合う程、あの連中は気安くないよ」


「うん、それはボクも解る。
 それで、聞きたいのは……その人達、どうしてケンカとかしないのかなって」


「…うん?」


 ユカの質問の意図が掴めない。
 ケンカをする、というのは要するに争奪戦だろう。
 例え大河が密会技能をレベル3で持っていたとしても、争奪戦がマップ移動の度にガンガン起こりそうなくらいに好感度が高い人物が密集している。
 実際、何度か争奪戦染みた事は起こっている。
 大河はそれを運と勇気と気紛れと偶然と勢いで乗り切っているが、実際刃傷沙汰にならないのは不思議といえば不思議だ。
 某整備班班長が居れば、確実に死人が出ているだろう。


「だからさ、好きな人の事は独り占めしたくなるのが普通でしょ?
 程度の差はあるだろうけど、誰だってヤキモチを妬くだろうし。
 でも、大河君と付き合っている人達は…公認っていうか…お互いの事を認め合ってるんだよね?
 それが解らないんだよ。
 すぐ目の前で、好きな人が他の人とイチャイチャしてたら、ボクならきっと耐えられない。
 逃げ出したり、その人を何処か遠くにやっちゃいたいって思う。
 どうして、大河君の周りの人達はそんな風に思わないんだろう?」


「……いや、思ってはいると思うよ」


 実際の所、抜け駆けしようとして失敗しているのは日常茶飯事だったりする。
 何だかしらんが、未亜は「同盟だから」と言っていた。
 察するに、大河を寝所で上回るまでは抜け駆け禁止という事になっているのだろう。
 強大な敵に立ち向かうために、一時的に手を組んだ…ただし後ろ手に光物を持っている。

 が、それをユカに伝えたらどうなるだろう。
 年代を考えると、平均以上にウブで性的な話題に免疫がないようだ。
 その彼女に、救世主クラス+αの実情を教えたら…?


(…破廉恥だと怒り狂いつつも、興味津々で耳まで真っ赤にして最後まで聞くに違いない!
 これもいわゆる一つの羞恥プレイ!)


「うむ、それには明確な理由があるのだ。
 ぶっちゃけて言うと、一人じゃ勝てないから一致団結しようって事だな」


「? 勝つ……って、誰に?
 戦うの?」


「ああ、ある意味戦いだ。
 S気質が割りと強い俺としては、ある意味ではプライドを賭けた聖戦だ。
 たまには負けてみるのも悪くないけど」


「???
 S……って何?
 磁石?」


 確かに人間磁石ではある。
 主に女性限定の。


「…???
 結局、誰と戦うの?」


「………マイシスターとか」


 ………うわぁ。
 ウソではない所が救いようがないな…。
 救世主クラス達が凄まじい修羅場を発生させないのは、主に彼女が居るためでもある。
 最も付き合いが長い彼女が正妻としての扱いを受けるのに相応しい寵愛を受けているのは周知の事実。
 無理に誰か一人に決めろと迫れば、未亜が一番有利なのである。
 不利な戦を好んで起こそうとするほど無謀ではない。

 そして…キレた未亜に歯向かうほど無謀でもない。
 Sにせよ893にせよ、どちらか片方でも発現したら救世主候補生達が束になっても敵わない。
 眼光一つで五体投地して全面降伏を自発的に受け入れる事ストロベリー100%。
 未亜の潜在的ブチキレモードが抑止力となって、修羅場は発生しないのだ。
 何せ命だけではなくてヒトとしての尊厳に関わる。
 ある意味では彼女が真の支配者なのだ。
 幸いにもベッドシーン中に大河へ向けて発動した事はないが、万が一発動したら冗談抜きで調教される。

 未亜の性癖を知らないユカは首を捻る。


「大河君の妹…確か、未亜ちゃんだっけ?
 風の噂で、人として明らかに間違っているほどのブラコンだって聞いたけど」


「間違っているのはブラコンだからじゃないけどな」


 だって義理だし。
 それに間違っているのは、生物学的な性欲または性癖の方だ。
 逆方向に性癖を間違えているのが他に2人ほど居るが。

 ともあれ、ユカと会わせるとちょっとヤバイかもしれない。
 彼女は控え目に見ても美人だし、理由は解らないが大河に好意持ってくれている。
 それがどのくらいの好意なのかは大河には判断し辛かったが、もうちょっと踏み込むとデッドゾーンにハマりそうだ。
 つまり、未亜の射程距離に。
 性的な話題に免疫が弱く、しかも健康美に溢れた肢体。
 溌剌とした性格。
 ぶっちゃけると、陵辱的なシチュエーションには内気なメガネっ娘と並んでピッタリの人材だ。
 あまつさえ処女と来た日には、それこそ未亜の理性は打ち上げロケットよりも高く高く飛んで行き、冥王星あたりまで到着してしまうかもしれない。
 そして捕獲して身動き出来ない状態にした上で、自分の体が淫らな刺激に反応するようになっていくのを逐一認識させながら弄ぶのだ。
 もしそうなったら、トラウマが出来る。
 しかも消えないやつが、確実に。
 それを防ぐには…。


「ここはやはり、俺が先んじて膜を破るべきか…?」


「? 何を?
 さっきから会話の流れがイマイチ理解できないんだけど」


「いやいや、気にするな。
 それも選択肢の一つだが、ムリヤリはよくない。
 …まぁ、なんだ。
 一応力の限りに守ってやるから」


「え?
 あ、あぅ…よくわからないけど、ありがとう」


 真顔で守ってやると言われて、乙女心が反応するユカ。
 しかし、話の軌道がどんどん逸れて行ってるのに気がついた。


「結局の所、どうしてみんな平気なんだろう?
 ボクはそれが知りたいんだ…」


「何でそんな事を知りたがるのか解らないが…。
 消極的な理由としては、アレだ。
 仕方ないから、だな」


「仕方ないって…それだけで!?」


 無責任、無神経とも言える大河の発言にユカは思わず立ち上がる。
 だが大河は落ち着いて、微妙に痛ましげな表情で答える。


「世の中にはな、仕方のない事っていうのは結構あるんだ。
 当事者からすれば非常に重要で、第三者から見ればアホらしい事ばかりだ。
 この場合、何が仕方ないかっていうと…俺とあいつらの実力差。
 戦闘能力の事じゃないぞ」


「そりゃ、大河君が戦いに強いから諦める、なんてのは理由になってないけど。
 …それじゃ、積極的な理由ってある?」


「そうだな。
 要するに、みんなが好きだからじゃないか?
 俺だけじゃなくて、和気藹々としてるこの状況が好きなんだよ。
 ユカはそういう経験は無いか?
 武術大会とかに向けて、ライバル同士で合宿したりした時は楽しいと思わなかったか?」


「………楽しかった…けど…それとこれとは…」


「結局は同じじゃないのかな。
 恋愛と武道は別物、って考えるから違って見えるだけで。
 確かに別物なんだろうけど、同じ所もある。
 ライバルにして親友っていう関係も…時々ある。
 それが苦しい事も多々あるだろうけど、その状況を受け入れた上で、更に上…先を目指す。
 武道ならぶつかり合う事によって更なる強さを、恋愛でもぶつかり合う事によって更なる成長を。
 メインになる感情や本能、セオリーが違うだけで、結局は人と人との関わりだもの。

 要するに…」


「…?」


「みんなハーレムでもいいからって思うぐらいに俺に惚れているのだ!
 約一名別の意味でハーレム上等だと思ってるけどな」


「…でりゃ!」


 アッパー直撃。
 舌を噛んで転げまわる大河。
 それを上から踏みつけて固定するユカ。


「あー、のー、ねー!
 それって単にタラシどころかジゴロじゃない!
 みんなの感情に付け込んで弄んでるだけみたいだよ!」


「ご、誤解だ!
 納得できなければ、ユカも似たような関係になってみろ!
 色々な意味で納得せざるを得ないから!」


 主に新入りの味見をしようとする未亜のせいで。
 彼女の目に止まる事を恐れて、派手に活動できない。
 ユカはそんな事までは洞察できず、圧力を強くする。


「そんな口説き方されても嬉しくないよっ!
 せめて正面切って好きだとか綺麗だとか!」


「とっても言いたい、言いたいから!
 実際マジで美人だし!
 だから脚を退けて…いやどうせならヒールか素足で!
 普通の靴じゃ風情がないんだ!
 いやしかしユカの場合はスニーカーも似合うような!」


「ああもう、背骨ごと折れてしまえー!」


 さらに体重をかける。
 ユカの体重は重いと明言するほど重くはないが、流石は武神。
 実に効率的な踏みつけをしてくれている。

 顔が赤くなっているのは、この場合は怒りの比重が大きい。
 暫く脚をグリグリする。

 いい加減大河が叫びつかれてきた頃、ようやくユカの怒りも一段落した。


「はぁ……。
 結局、本人に聞かないと解らないのかなぁ…」


「俺は一応解ってるつもりだけどな。
 そうでなければ、みんなの恋人だなんて言えないだろ。
 …まぁ、それを言ってもユカが納得するかどうかは別の話だけど」


「だよねぇ。
 ……でも、ボクが救世主クラスの人達に会うって事は、多分大河君も一緒に合流するって事なんだよね。
 それまでに、ちょっとでも差を縮めておきたいのに…


「?」


 ブツブツ呟くユカを不思議そうに見る大河。
 やはり、ユカが自分にこれ程好意を向けてくれる理由がわからない。
 普段の大河ならそれでも好意を受け入れただろうが、今はダメだ。
 未亜が居ない。

 何だかんだ言っても見る人が見ればイイ男と言える大河である。
 ネットワークで仕事をしている時も、好意を寄せてくれる女性は結構居た。
 しかし、その頃は未亜一筋だったので全て断っていたのだ。
 何より、いつまでもその世界に居る訳にはいかなかったのだから…。
 アヴァターに来てから急速に関係を持った相手が増えているのは、未亜と一緒だからという理由が大きい。
 異世界に居る時には未亜は大河を止められないが、同じ世界に居れば止められる。
 しかし、未亜は止めるどころかある意味では「イケイケごーごー」と言わんばかり。
 公認を受けた大河は、ガンガン突っ走ってハーレム形成にまで漕ぎ付けてしまった訳である。

 が、未亜はここには居ない。
 アヴァターに来てからというもの、それほど遠い距離を置いた事はなかった。
 精々学園から王都までの距離だったし、その気になれば大河の浮気を発見して阻止しようとやって来れない事もない。
 だが、今は気軽に大河の元まで走ってこれるような状況ではない。


「せめてみんなの内、誰か一人でも一緒ならな…」


「ん? 何か言った?」


「いや、なんでもない。
 それよりもアレはいいのか、帰り道で聞いてきた…氣の制御がどうのこうのってヤツ」


「あ、それもあったっけ」


 すっかり忘れていたが、ユカにとっては最重要課題と言ってもいい。
 自分の切り札を人に教えるのは、大河が相手と言えども少々気が引けるが…。


「あのさ…あ、その前に聞いておきたいんだけど、氣功術って解る?」


「……天気予報? または機械の中身をたちどころに理解するとか」


「気候じゃない。
 それに機構を解析する力があっても、どーせボクには理解できる頭がないよ悪かったね。
 そうじゃなくて」


「冗談だって。
 舞空術とかカメハメ波とか、あと霊光波動拳みたいなヤツだろ」


 大河としては冗談のつもりだった。
 確かに気功術と言われて即座に思いつくのはド○ゴンボール辺りだ。
 さもなくば発頸。
 ある意味ではカメハメ波も発頸ではあるか。

 普通、武術を嗜む者にとって気功術とは、漫画に出てくるような物理法則を無視る技術ではなくて、体の中にあるエネルギーやら何やらを放射し、生物と生物の間にある種の意を通じさせる技術である。(作者の偏見)
 例えば病人に向けて「元気になる、病気が治る」という意を向けて、意を受けた対象の内なる気がそれに反応して活性化、そして人体に影響を及ぼす。
 破壊の意を向ければ、やはり対象の気が反応して強い損傷を受ける。
 だが物理法則を超える事は出来ない。

 当然の事ながら、ド○ゴンボールのような気功術なんぞ使えるわけがない。
 常識を超えた超達人という設定だが、舞空術なんぞ海王でも出来ない。
 …拳王様なら空を飛んでも私は驚かない。

 大河はユカが笑って突っ込んでくる事を予想する。
 が、ユカは目を輝かせて大河に迫ったのだ。


「そう! 正にそれ!」


「…それなのか!?」


「それなんだよ!
 …あ、ひょっとして大河君、気功術だと思った?」


「? 言葉じゃさっぱり解らんが…」


「だから…大河君が思ったのは、気分の気の気功術でしょ?
 ボクが言ってるのは、気のメの部分が米になってる氣。
 氣功術だよ」


「米の方の…気?
 氣功術?
 聞いた事がないな」


 大河は首を捻る。
 そもそもからして、気と氣の区別自体大河は知らない。
 ユカもその辺はあまり詳しくないようだ。


「まぁ…ボクの習った流派がそう呼んでただけかもしれないし。
 師匠が心不全でポックリ逝っちゃってさ…そこからは自己流と残された資料だけでどうにかしてたんだけどね」


「ふぅん…。
 ところで、ユカの流派って何だ?
 空手だって聞いてたけど」


「うん、武神明王流って言うんだ」


 ……いつかユカは瞬獄殺をマジで会得するかもしれない。
 というか、必要な条件はほぼ揃っている。
 後は殺意の波動だけだ。


「どっかで聞いたような名前だな…」


「そう?
 なんか歴史の表舞台には全く出ずに、延々と伝えられてきたらしいんだけど…。
 まぁ、師匠からして本流じゃなかったらしいよ。
 修行方法にしても、全部じゃなくて不完全な一部を先達が補っただけだから未完成のままらしいし…。
 途中から枝分かれしたのか、それとも修行途中で破門になったのかは知らないけど。

 それでね、この場合の氣ってヤツだけど…」


 ユカは大河の目の前に片手を突き出し、目を細めた。
 大河が何事かと思っていると、次の瞬間には突然肌が総毛立った。


「…!」


 反射的に飛び退く大河。
 ユカはそれを追おうとはしない。
 精神を集中させているようだ。

 手を向けられている大河は、異常に強いプレッシャーを感じ取っている。
 心を鎮めてユカをよく見てみると、突き出した腕に強烈なエネルギーが渦巻いているのが見て取れた。
 視覚には写らなかったが、嫌が応にも突きつけられる。


「そ、それは…?」


「……ボクなりに、氣の使い方を模索して…その結果がコレだよ。
 体の中を普通に流れている力を利用するのが、ボクの気功術。
 でも、これは違う。
 体中の細胞から力を搾り出して、気脈だけじゃなくて体全体を満タンのタンクに変える。
 そこから更に気を注ぎ込み、高密度に気を圧縮する。
 この圧縮された気が、米の方の氣だよ。
 細胞一つ一つに強いエネルギーが付与されているから、常に硬気功を使っているような状態になるんだ。
 筋力とかも上がっているから、単純にスピードやパワーが圧倒的に上昇する。
 …使いこなせれば、だけどね」


 ユカは目を開けて、腕から力を抜いた。
 大河が感じていたプレッシャーがフッと消える。
 緊張から開放された大河が、無意識に息を吐いた。
 緊張していたのはユカも同じらしく、突き出していた手を痺れを払うように振っている。


「…使いこなせてないのか?
 後遺症があるとか?」


 今は大丈夫なのか、と問いかける大河。
 ユカは突き出していた腕をチェックして異常がない事を確かめると、肩を竦めた。


「出力を抑えていれば、充分使いこなせるんだよ。
 でも、制御できるのは…調子がいい時でも、精々全力の3割程度。
 それ以上出したら、ボクの体の方が持ちそうにないよ…。
 しかも2割以上だと………な、何でもない!」


 ユカは急に顔を赤くして誤魔化した。
 不思議に思った大河が問いかけようとするのを遮って、ユカは捲くし立てる。


「それでね!
 これからの戦いは、もっと厳しくなっていくでしょ?
 だから、今の内に使いこなすヒントを掴んでおきたいんだ。
 氣を制御できる量が上がれば、体に詰め込む氣の量も上がる。
 そうすると、スピードとパワーだけじゃなくてスタミナも劇的に上昇する。
 退かずに大軍を相手にしようと思ったら、必須技能なんだよ」


「ふぅん……。
 しかし、俺の意見で役に立つのかな?」


「多分ね。
 大河君は、この前の大暴れの時にはどうやって力を制御してたの?」


「制御…と言われても」


 はっきり言って、何も意識していない。
 注意したのは、トレイターの一撃が魔物以外に当たらないようにした事だけだ。
 特に意識しなくてもトレイターの攻撃力は圧倒的で、その力が暴走する事もなかった。
 当たり前だ、トレイターは大河自身でもあるのだ。
 刀身の隅々まで、大河の意思が行き渡っていると言っても過言ではない。
 故に、例え標的以外に当たっても、大河が「傷つけてはいけない」と思っていれば大した傷は与えられない。
 これは戦闘が終わってから試した事だが。


(…だから、氣の制御とやらにはあんまり役に立ちそうに……?
 …ん?
 力を……蓄積する?)


 ふと大河の脳裏に浮かぶ、ツリ目のマゾ精霊。
 彼女と大河はラインで繋がっている。
 それはつまり、大河の力がイムニティに流れていき、そしてイムニティの力も大河に流れ込んでいる。
 その流れ込んだ力を、蓄積していったらどうなるか?
 ひょっとして、ユカの使う氣と同じ事ができるのでは?
 現に、未亜はそういう技術を習得したらしい。
 初の遠征に向かう前に、リコに習ったと言っていた。


「…ちょっと待ってくれ、試してみたい事があるから」


 ユカに断りを入れてから目を閉じる。
 別に目を閉じなくても制御は出来る筈なのだが、そこは雰囲気というか自己暗示の一環だ。

 まず大河は、自分とイムニティがラインで繋がっている事を確認した。
 イムニティの方も、特に力を必要とはしていないようだ。
 これなら多少無茶をして影響が出ても大丈夫だろう。


(イムニティから流れ込んでくる力を溜め込むプールを作る…。
 原理的には然程難しくない。
 連結魔術を使う際に、変換中のエネルギーを一箇所に留めておくのと同じ容量だな)


 自分の中を流れる力の流れ道を意識して創り出し、丹田に収束させる。
 丹田には、人体を流れるあらゆる気脈の流れが集中していると言われている。
 大河はその流れに向けて、イムニティから流れ込む力を注ぎ込んだ。
 初めての試みなので少々戸惑ったが、全体を見ればスムーズに行っている。


(…よし、原理自体は大体掴めたぞ。
 あとは……?
 な、なんだ?
 体が………ひゃ」


「? ひゃ?」


 大河は突然目を開くと、シャックリのような声を出す。
 ユカが不思議そうに見たが、気にかける余裕はない。
 なおもシャックリのような声が続く。


「ひゃ、ひゃひゃ、ひゃひゃひゃひゃひゃははははあ!?」


「た、大河君が、本格的にこ、壊れたー!?
 う、うわああぁぁぁぁぁ!?」


 突然笑い出した大河を前にして、ユカは本気で怯える。
 防衛本能が物凄い勢いで警報を鳴らし、ユカはついつい全力・手加減ナッシングの拳を飛ばす。
 うむ、人として正しい判断だ。

 笑う大河は避ける余裕なぞ欠片もない。
 ユカの芸術的右ストレートがクリーンヒットして吹き飛んだ。
 そのまま壁に激突し、鈍い音を立てる。

 我に帰って「やっちまった」と後悔したユカだが、それよりも大河は一体どうしたのか。
 本気でイカレたのだとしたら、冗談抜きで全力パンチを叩き込まねばなるまい。
 記憶とかが戻るまで延々と。

 大河はユカが恐怖を含んだ目で見る先で、ゆっくりと起き上がった。
 体が微妙に痙攣しているが、これはユカの拳のためではなく、笑いを抑えているようだ。
 だからこそ恐ろしい。


「え、えーと…大河君…アタマ大丈夫?」


「だ、だいじょーび…。
 物理的ダメージはノープロブレム。
 精神的にはちょっと壊れてると言われる、精神年齢約30歳デス」


「アタマも神経もイカレてるよー!」


「まぁ落ち着け、いきなり笑い出したのは理由があっての事だ。
 …ホントだっての」


 まだ恐ろしいモノを見る目で大河を見詰めるユカを何とか宥めようとする大河。
 しかし、ユカは大河の一挙動に過剰に反応して怯えている。
 これはさっさと説明した方が早そうだ。


「あー、ちょっとした実験だったんだが、腹の中に未知の感覚が走り抜けてな」


「…未知の感覚?」


「ああ、内臓の表面を擽られているというか、胃袋の内側が羽箒で撫でられているというか…」


「…一体何をしようとしたのさ?」


「俺も氣功術みたいなのを使ってみようとしたんだよ。
 丹田から力を注入しようとしたんだが…」


「……あー、なるほど」


 その行為が、体験した事のない感覚を感じさせたのだろう。
 ユカには幾つか心当たりがあった。
 自分も最初はそんな感じだったし、制御を失敗した時には感覚がおかしくなる事もある。
 ただ、ユカの場合は擽ったいのとは少し違ったが。


「…お腹は大丈夫なの?」


「ああ、もうちょっとしたら平気になるだろ。
 …ふん?
 氣功術の使い方、少しは解るかもしれないな」


「ホント!?」


 目を輝かせるユカ。
 もし大河の考えている事が当たりならば、自分はもう少し強くなれる。
 それが嬉しいのだ。


「ああ、ちょっとややこしい理論があるんだが…理解する自信は?」


「うっ…」


 きっぱりと無い。
 自分では決してバカではないと思ってはいるが、頭がいいとも言えない事を自覚しているのだ。
 少なくとも、ややこしい抽象的理論を理解できるだけの下地は持っていない。

 怯んだユカを見て、大河はどうしたものかと首を傾げた。


「むぅ、その身で体感できるような理論じゃないしな…。
 かと言って、結論だけを教えても本当の理解は得られないか。
 みっちり教育プログラムを組んだとしても、理解させるのにどれくらいかかるか…。
 …どうする?
 それこそ徹夜して理論を叩き込んでみるか?


「あ、あう……ムズカシイんだよね?」


「かなり」


「あ、あううぅぅ………と、とにかく結論だけ教えてくれないかな?
 途中経過をすっ飛ばしても、それなりに使えるよね?」


「ああ、細かい事を言わなければね」


 数学の公式と同じである。
 細かい理屈は解らなくても、公式に数字を当て嵌めれば答えだけは出る。

 人が強くなるのに、3つの段階があると言われている。
 1、体力(筋力)を上げる。
 2、技を覚える。
 そして3、技の力学を理解しそれを実践出来る。

 現在のユカは1と2の中間に居る。
 扱える氣の絶対量を増やし、その使い方を独学で作り上げてきた。
 が、氣の性質や流れ方を知らず、闇雲に振り回している様なものである。
 これを確実に制御するには、氣の事を熟知し、そしてそれを操るための法則や理論を学ぶ必要がある。

 ここでその法則を知り、そして体感できればユカの強さは劇的に上昇するだろう。
 彼女本人の資質と力量も手伝って、様々な使い方を見出すのは想像に難くない。
 しかし、その理論を理解するだけの頭の回転がない。
 時間をかければ理解できるかもしれないが、そんな余裕はないのだ。


「…いや、別に座額がイヤって言ってるんじゃないよ?
 そりゃ確かに得意じゃないけど、単純に時間が足りないしさ。
 とにかく即興でも戦力アップしたいし。
 だからね、その…」


「…細かい理屈はいいから、中学生の数学の授業みたいに公式という結果だけ教えろと」


「…だ、ダメかな?」


 大河が何と答えたか、言うまでもない。
 どっち道、戦力を底上げしたいのは変わりないのだ。


「それじゃ即興コースって事で、禁止事項と大まかな使い方だけ教えるから。
 どうも連結魔術と同じ要領でいいみたいだしな」


「連結…?」


「気にするな。
 それより、今夜は空いてるか?
 昼間に疲れてると襲撃があった時に大変だから、夜の10時から12時くらいまで勉強な」


 イムニティ 4日目 昼


「? …マスターが私の力を使って、何かしてるみたいね」


 姿を消したまま、イムニティは呟いた。
 今彼女は、王宮から離れた場所に居る。
 大河の命令に抵触しているが、この程度なら問題ない。
 当のクレアからの頼みだったし、主の命令に従うのは単にそれが自分の喜びであるからだ。
 命令に逆らったところで、特に罰則がある訳ではない。
 精神的に抵抗があるのは確かだが。


「さて…泥棒みたいで気が進まないんだけどね…」


 イムニティは目の前に立つ屋敷を見上げた。
 表札にはフィロソフィー、と書いてある。
 アルディアの屋敷のようだ。

 クレアはイムニティに、彼女の屋敷の捜索を願ったのである。
 クレアもイムニティも乗り気ではなかったのだが、やらねばならない事だというのは承知している。
 探って何も出て来なければそれで良し。
 アルディアはエレカ達とは関係が無さそうだ。
 しかし何か出てくれば、そこを基点として調査を進める。


「とは言ったものの、何をどう探したものやら…」


 唯でさえ浮世離れした精霊で、しかも1000年ほど人の生活に触れてなかったイムニティ。
 彼女にとっての日常的な環境とは、フローリア学園の施設やクレアが生活している王宮が基準である。
 どちらも一般市民から見れば非常に高水準であるのは言うまでもない。
 よって、イムニティには何が妖しくて何が普通なのか、イマイチ理解できないのだ。


「魔力を使った目晦ましでもあればいいんだけど…。
 昔から、本当に隠したいモノには魔法をかけたりしないのよね。
 魔法に長けた者が見れば、すぐに感知できるし…。
 幻術結界は、人がウロチョロしてる所に仕掛けたらあっという間に劣化しちゃうし」


 学園地下で幻術結界が劣化する事なく作動し続けていたのは、周囲を荒らしまわる侵入者が全く居なかったからである。
 そうでなければ、何度も何度も作動する事によって術式やら仕掛けやらの微妙な食い違いが積み上げられ、作動しなくなってしまう。

 となると、原始的な仕掛けを使って人目に付かない所に隔離したり偽装しているのであろうが…。


「魔力の通ってない機械の事なんか、それこそ専門外よ…」


 一応白の精霊なのだし、論理的思考はお手の物だ…最近その自覚と自信が揺らいでいるが。
 しかし1000年の間に科学は復興し発展し、その複雑さは白の精霊のイムニティをして、一朝一夕では理解できない代物と成り果てている。
 人類の底力を垣間見たような気がするイムニティだった。


「ま、入ってみない事にはどうにもならないわね…。
 アルディアとやらは、聞いた話だと何処かに出張してるらしいけど」


 就職してないのに出張という表現もおかしいだろうか。
 それはともかく、こうして外側ばかり眺めていても仕方ない。
 侵入口を探すイムニティだが、今から入ろうとしているのはただの屋敷だ。
 怪しい所や怪しい執事が居るらしいとは聞いているが、それでもただの屋敷だ。
 要塞でもなければ刑務所でもない。

 入ろうと思えば何処からでも入れるし、出ようと思えば何処からでも出れる。
 一応結界の類なども探知してみたが、魔法による結界・仕掛けによる警報装置、共に発見できず。
 王都からも学園からも少し離れた場所にある事を考えると、少々防犯意識が足りない気もする。

 気分を重視して、スパイのように華麗に侵入してみたかったイムニティだが、これでは侵入口も何もない。
 盛り上がりの無さを不満に思いながらも、イムニティは軽くジャンプして柵に脚をかけ、一気に乗り越えた。


「……よし、発見されてないわね。
 犬の類も居ないし……このまま姿を消していれば大丈夫でしょう」


 浮遊や瞬間移動は極力使わない。
 探知されやすいからだ。
 ここに魔法使いが居る可能性がある以上、用心に越した事は無い。


「さて…問題はここからね。
 どうやって屋敷の中に入ったものか…」


 庭を見渡すイムニティ。
 よく手入れされた草木が生い茂っているだけで、変った物は見つからない。
 不自然に固まっている草木も、何の脈絡もなく置いてある石も無い。
 お茶会でも開こうというのか、椅子とテーブルが一つだけ置いてある。
 どっかのお城よろしく、その辺に抜け道があるとかいうオチは無さそうだ。
 庭を一周してみるも、裏口も発見出来ず。
 本当に普通の家に見えた。

 だが、気にかかる事が一つ。


「…人の気配が…無い?」


 屋敷の中は静まり返っているのだ。
 聞いた話では、執事やメイドも結構居るらしい。
 ここで生活していたセルからの情報だから間違いあるまい。
 だが、本当に気配は全く無いのである。
 窓や扉の鍵は全て締め切られていたし、この時間なら掃除をしているであろうメイド達の気配も無い。
 執事長のジュウケイとやらは…大河をして気配を感じなかったそうだから、意外と居るかもしれないが。


「どういう事…?
 全員一斉に暇を出されたとか?
 …いえ、とにかく入ってみるしかないわね。
 ………気は進まないけど…」


 イムニティは屋根の上を見上げた。
 そこには少々太めの煙突が一本。


「…下は熱湯でした、なんてのは勘弁願いたいわ」


「よっ…と」


 煙突を通り抜けて、少々黒っぽくなったイムニティが降り立つ。
 どうやら暖炉は殆ど使われていなかったらしく、中の煤も大した事はなかった。
 それでも汚れた顔と服に顔を顰めて、イムニティは周囲を見回す。


「…やはり人の気配は無い。
 これならもう少し派手に動き回っても問題ないかしら?」


 話に聞いていた執事も居ない。
 警戒しつつも、イムニティは歩を進める。
 まず間取りを把握せねばなるまい。
 迷宮でもあるまいし、それほど複雑な作りはしていないだろう。

 イムニティはとりあえず適当にドアを開ける。
 ゾンビ犬が襲ってきたり吊天井が作動したりというのをちょっと期待したが、儚く裏切られた。
 世の無常を何となく感じつつ、イムニティは廊下を進む。
 部屋の前に通りかかる度に一度立ち止まり、部屋の中の気配を探る。


「…やはり気配は無い。
 …こっちも無い。
 ここも無い。
 痕跡も無い」


 2階にまで上がってみたが、これまた結果は同じ。
 本当に一人も居ないのだ。
 適当に部屋に入ってみると、少々埃が積もっているが整えられた部屋だった。


「…この埃の積もり具合からして、掃除をされなくなったのは2,3日前と言ったところか…。
 何れにせよ、そう長い時間は経っていないわね。
 ……他の部屋も同じかしら?」


 人が居ない琴を確認してより大胆になったイムニティは、開けた扉を閉めもせずに次から次へと部屋を覗き込んでいく。
 そして見たのは、多少間取りが違うが全く状況が同じ部屋の数々。
 念のためにクローゼットの中も確認したが、メイド服や執事の服が幾つか残されているだけだった。


「メイド服だけ……。
 マスターなら何かトチ狂って叫びそうだけど、問題はそこじゃなくて。
 問題は誰のメイド服か確認もせずにかっぱらいそう…って事でもなくて。
 ……部屋が用意されてるって事は、住み込みで働いていたって事よね?
 にも拘らず……私服が一着も無い?」


 これは不自然だ。
 メイドや執事にも休日くらいあるだろう。
 買い物に行くにしても、仕事着のままでは何かと問題が出そうだ。
 特にメイド服で行くと。

 私服が一着も無いという事は、部屋の主が持って行ったのだろう。
 誘拐の可能性は低い。
 それなら態々私服を持って行ってやる理由が無い。

 となると、部屋の主は何処に行ったのか?
 暇を出されたのなら、田舎にでも帰ったか、さもなくば新しい職を探しに行ったのだろう。
 しかし、何人も居たであろうメイドや執事を、一度に解雇する理由は?
 経費削減にしても大胆すぎるだろう。

 と、なれば…?


「引越し…かしら」


 あるいは夜逃げ。
 判断がつき辛い。
 事前に得た情報では、アルディアは何処かに出張中、ならば彼女に忠誠を誓っているらしき執事も同行していると考えられる。


「…情報が足りないわ」


 イムニティは別の部屋を見ようと考えた。
 同じような部屋を見ていては、同じ情報しか得られまい。
 ここは大きな部屋を見て、そこから何かを読み取る。

 適当に屋敷の中を歩き、少し広い部屋に出た。


「……縫い包み縫い包みサンドバッグ着ぐるみ」


 …なんと言うか、ファンシーというか、お子様っぽいというか。
 一際豪華な部屋に出たイムニティ。
 恐らくここがアルディアの私室なのだろう。
 聞いた話では精神年齢が低いそうだし、縫い包みで部屋を埋め尽くそうとしても然程違和感は無い。


「それにしても…多いわね」


 棚の上床の上本棚の中ベッドの上、至る所に縫い包みが鎮座している。
 形状については敢えて触れまい。
 どっかで見たようなヤツも色々と混じっているから。

 並べられた縫い包みの列の中に、幾つか不自然な空白がある。
 ここにも縫い包みが置いてあったはずだ。


「つまり…お気に入りの縫い包みだけ持って、アルディアとやらは何処かに出掛けていった…。
 しかも、もう戻ってこれない…少なくとも、当分戻らない」


 縫い包み達は、一様にシワを付けられていた。
 まるで一体一体を強くギューっと抱きしめたかのように。
 よく見ると、涙だか鼻水だかの沁みも付いている。

 イムニティは想像してみた。
 精神年齢がお子様のアルディアが、出発前夜に縫い包み達に別れを告げ、「また戻ってくる」と涙ながらに抱きつく姿を。
 想像でしかなかったが、結構説得力があった。


「…アルディアに嫌疑がかけられる事を嫌って逃げた?
 それとも本当に父親か誰かの事業の手伝い?
 …メイドと執事がどうして居なくなったのか、それが問題ね…」


 イムニティの視界の端に、小さな箱が写った。
 何気なく近付くイムニティ。
 その箱の中身を見て、眉を顰めた。


「…セミの抜け殻、ラムネの中身らしきビー球、竹とんぼ、牛乳瓶の蓋で作ったメンコ…。
 まるっきりお子様ってワケね…。
 ……ここの空白には何が入ってたのかしら?」


 まんま小学生か幼稚園児の宝箱の様相を呈している箱の一角に、何かが持ち出された形跡があった。
 余程大事にされていたらしく、他の宝物だがガラクタだかとは保管の仕方が違う。
 綿を敷き詰めて、あらゆる衝撃その他から保護しようとしていたようだ。


「このへこみ具合からすると……アクセサリ?」


 どんな種類の物かは解からないが、間違い無さそうだ。

 イムニティは、これまでで推測した情報を纏めてみる事にした。
 家捜しの途中で発見したカップに紅茶を入れて、椅子に深く腰掛けて名探偵を気取ってみる。
 実際は名探偵どころか空き巣同然だが。


「まず…うぇ、紅茶がマズイ…。
 うう、これは練習の価値ありかしら…。
 まず、この家には誰も居ない。

 仮に暇を出したのだと仮定した場合、この家の主達は当分帰ってくる気がないのだと推測できる。
 だけど、手入れも掃除も無しで長時間放置していれば、その辺に飾ってある絵とかが劣化してしまうわ。
 無頓着なのか、どうでもいいのか…。

 誰かに攫われた可能性は?
 …これはちょっと無理があるわね。
 使用人もアルディアとやらも身支度を整えて出て行ったようだし、誘拐犯がそんな物を態々持っていく義理もないでしょう。

 必然的に、少なくともアルディアは自分の意思でこの屋敷を出た事になる。
 何のために?
 親類の仕事を手伝うため、とか言ってたわね…。

 それはともかく、ここのセキュリティは鍵をかけてある程度だった。
 もし何か知られて不都合な事があるのだとすれば、幾らなんでも警備が手薄すぎる。
 柵を乗り越え、ガラスを割れば侵入するのは容易いのだから。

 …恐らく、この家の中自体には何も無い。
 最初から無かったのか、持ち出したのかは解からないけれど。

 結局…謎はメイドと執事達に収束する。
 解雇したとするなら、突然全員を止めさせた理由は?
 解雇でないとしたら、全員が揃って姿を消した理由は?
 後者の場合、ひょっとしてアルディアに付いて行ったのでは?
 だとすると…この家に仕えていた執事もメイドも、ある目的の元に仕えていたという可能性が見えてくる。
 その目的とは…?」


 イムニティは言葉を止めた。
 可能性の袋小路に迷い込んでいるのを自覚したのである。
 短絡的な推測なら、すぐに思いつく。
 アルディアは“破滅”の軍の一員で、メイドや執事を洗脳して連れて行った。
 あるいは、メイドや執事も“破滅”の軍の一員で、アルディアに付いていった。
 この両者の場合、彼女が手伝いに行くというのは…。


「…“破滅”の軍として戦いに行く!?
 最前線に、あるいは…王宮に!」


 ヤバイかもしれない。
 ここ数日、イムニティはクレアの頼みで王宮から離れていた。
 時間的な事を考えるに、襲撃を受けていてもおかしくない。
 一度も帰らなかった己のマヌケさを呪いながら、イムニティは窓から飛び出した。
 見つかるとか見つからないとかの心配も放り出し、すぐさま瞬間移動で王宮に向かう。
 長距離のテレポートは結構力を削ぐのだが、仕方あるまい。


 テレポートを終え、イムニティは王宮の中に現れる。
 もっともイメージしやすかったクレアの私室だ。
 彼女の姿は無い。
 ひょっとしたら襲撃は受けてないのかと思いつつも、イムニティは焦る気持ちを抑えられない。
 …別に漫画の心配をしているのではない。


「……いえ、大丈夫なようね。
 パニックを起こしている人間も居ないし、大きな被害や不祥事が発生した時特有のざわめきも無い。
 …クレアは何処かしら?」


 王宮の雰囲気は、普段と大差ない。
 多少ピリピリしている節はあるが、イムニティは“破滅”が迫っているからだろうと判断した。

 イムニティは取りあえずクレアの執務室に向かう。
 普段の彼女なら、書類の山に向けて悪態を吐きつつ、八つ当たり気味に判子を振るっているはずだ。
 時々判子がスッポ抜けてイムニティに向けて強襲してくるので気が抜けない。
 初めて飛んできた時は避け損ねて、イムニティのやや広いデコに“バーンフリート”の文字が綺麗に刻まれたものだ。
 正義超人みたいだな、と言われたイムニティは取りあえず筋肉バスターをかけておいた。
 その衝撃で書類がバラバラに散らばって、2人で黙々と拾い集めたのは最近では稀に見る苦行である。


 廊下を歩いていると、イムニティはふと懐かしい気配を感じる。
 懐かしいと言っても、あまりいい印象を受けない気配である。


「これって………召喚器の気配?」


 戸惑うイムニティ。
 召喚器の気配は一つではなく、三つ並んでいる。
 その内二つはカエデの黒曜と、ベリオのユーフォニアだ。
 任務で遠征していた筈だが、帰ってきたのだろうか。

 しかし、問題は残りの一つ。
 これは…。


「エルダーアーク…?
 ルビナスが召喚器をまた呼び出したというの?」


 正直、複雑な思いを禁じきれない。
 召喚器も無い、記憶も無いルビナスに対しては割り切っていた。
 だが、召喚器という千年前の面影を取り戻した今、苦い思い出を触発してくれる。
 かつての敵だったし、自分を千年も封じ込めてくれたのだ。
 優勝劣敗は勝負の理と言っても、感情はそうそう簡単に治まってはくれない。
 忌々しげに舌打ちするも、今から奇襲をかけて報復をする理由も無い。
 関わるのは避けて、今はクレアの安否を確認するのを優先した。


 クレアの執務室の前に立つ。
 彼女は姿を消しているので、ノックをする事も無い。
 中にクレア以外の誰かが居たら怪しまれるからだ。
 まさか王宮のド真ん中でピンポンダッシュなぞする輩が居るとも思わないだろうし。

 風で開いたように装いながら、イムニティは扉を開ける。
 そっと覗き込むと、クレアが例によって八つ当たり気味に判子を振るっていた。
 どうやら無事らしい。

 イムニティは今度は普通に扉を開き、中に入った。
 勿論、周囲に人が居ないか確認済みだ。


「…?
 イムニティか?」


「ええ、今帰ったわ。
 …何かに襲われなかった?」


「…そういう言い方をするという事は……何か怪しい事があったのだな?」


「……クレアこそ…何かあったと言わんばかりね」


 イムニティは表情を歪める。
 憶測通りにクレアは襲われたらしい。
 当のクレアの指示とはいえ、その時に側に居なかった己を責める。
 別にイムニティの責任ではないが、彼女にも非理論的な感情がある。

 が、自分を責めていても仕方ない。
 イムニティはあっさり割り切った。


「…こちらの話は、イムニティの話を聞いてからにしよう。
 報告を頼む」


「解かったわ。
 まず、アルディアの屋敷だけど…」


 モヌケの空だった事を告げると、クレアの表情が厳しくなる。
 情報を纏めて伝え、私見もついでに伝えるイムニティ。
 クレアは腕を組んで考え込んだ。


「そうか…いずれにせよ、何かあると思うべきだろうな」


「そうね。
 嫌疑がかかると同時に失踪、使用人達も一斉に蒸発。
 タイミングが揃いすぎてるわ」


「…仮に使用人達がクビにされたのだとしたら、行く先は…ハローワーク?」


「よく解からないけど、次の働き口を探すでしょうね。
 あるいは休暇で実家に帰っているのか…」


「それなら馬車の記録を調べるさ。
 まずハローワークと馬車の記録を調べ、アルディアの屋敷で働いていた者が居ないか調査する。
 もし居なければ…全員揃って、イムニティの推測通りに何かしらの目的のためアルディアに付いて行ったか…あるいは」


 最悪の事態。
 しかし、それはまず無いとクレアは踏んでいる。
 アヴァターにも戸籍の類はある。
 誰か一人が失踪したりすれば、大体はちゃんと解かる仕組みになっているのだ。
 殺人をいつまでも隠匿するのは難しいし、それが一人ではなく複数の人間…しかも一箇所に集っていたのなら尚更だ。
 確実に騒ぎになる。


「…態々殺すメリットは少ないからな…。
 よし、他に何か報告は?」


「今のところ無いわね。
 …それより、ルビナスだけど」


「…ああ、お前はエルダーアークを見た事があるのだったな。
 率直に言うが、記憶が戻った」


「…やっぱり」


 吐き捨てるイムニティ。
 エルダーアークは、主に精神面の強化を主とする召喚器。
 この場合の精神面とは、記憶力、抽象的思考力、集中力などと言った様々な点を纏めた物となる。
 ルビナスはただでさえ明晰な頭脳をエルダーアークにより更に強化し、複雑な計算や呪文を一瞬の内に終わらせる。
 集中力も増しているので、相手の動きがよく見える上、術の効果も劇的に上昇する。

 記憶力を強化するのと同じ要領で、エルダーアークがルビナスの記憶を呼び戻したのだろう。


「…イムニティ」


「解かってるわよ。
 かつてはどうあれ、今は敵じゃない。
 あのブリっ娘な性格からして、こっちからちょっかいを出さなければ態々攻撃なんかして来ないでしょうよ。
 あんまり顔を合わせていたい相手でもないし、関わらないように努めるわ」


 とイムニティは言うが、否応なく顔を合わせるであろう場面がある。
 大河の夜伽の時だ。
 まぁ、その時になったら理性も過去も吹き飛ぶのがオチだが。


「そうか…。
 いきなり仲良くしろと言うのも酷だしな。
 現状はそれでよかろう。

 では、こちらの報告だが…」


 話しながら、クレアはロベリアの顔を思い浮かべる。
 正確にはルビナスの顔なのかもしれないが。

 クレアに向けてすまない、と言ったロベリア。
 だが、今にして思えばその視線は自分を通り越して他の誰かを見ていた気がする。
 一体何をしに来たのだろうか。
 申し訳なさげな表情を見たせいか、クレアはロベリアを単純な敵とは思えない。

 だが、それはクレアの甘さである。
 平時なら美徳となるかもしれないが、今は戦時。
 しかもロベリアは間違いなく敵だ。

 襲撃を受けた後に、ナナシが「また一緒に遊ぼうですの〜」と叫んでいた事を思い出し、クレアは慌ててそれを振り払った。




ちわっす、そろそろ本気で時間軸が整理しきれなくなってきた時守です。
うーん、日付を書くのを止めようかな…でも今更だしなぁ…。

やはり、大河の絡まないシーンはちょっと書きにくいです。
使いやすいキャラとそうでないキャラが、明確に分かれてきます…。


それではレス返しです!


1.皇 翠輝様
ジャククトは完全に別世界の神です。
我々の世界には、名前も伝わっていませんw
…魔神ゾアメルグスターの方がよかったかな?

むぅ、同期連携は予想済みですか…ここはもう一つ捻りを…。


2.seilem様
はい、トレイターは覚醒した姿になっていません。
と言うか、多分なれません。

しかし、アシュ様とDSの神はどっちがどのくらい強いのでしょうか?
世界をダイレクトに滅ぼす力を持っているのだから、DSの神の方が強いのではないかと思っているのですが。

ユカと大河の関係は、最終的には決まっているのですが…その道筋が不定です。
どーしよう。


3.アレス=アンバー様
強すぎなのは、破壊力がですか?
それとも、同期連携でもここまで威力が上がらない、という事でしょうか?
まぁ、前者に関しては砕けるのが決定しているようですし、後者に関してもちょっとした理由があります。

薬投…複数の意味で危険だ…(汗)
ダウニー先生は、既に強く強く生きています、色々な意味で。
ロベリアの幸せの形は…かなり悲惨かも。
本人が受け入れていれば、問題ない…かな?


4.ATK51様
お久しぶりです!
カタストロフが起こったかどうかは、まだわかりませんよ。
大河の魂が砕かれたのは、あくまで戦乱の流れの一つですから。

大河はユカには、当分手は出しませんよ。
あくまで一線を越えない、という意味ではね…。

汁婆を色々と動かしてみたのですが、意外に使いやすいキャラです。
走るのがメチャ速いから、どこからどこに行っても違和感が無いw

まぁ、ロベリアとの関係に関しては、改善…と言うより敵対関係でなくする方法は考えてあります。
はっきり言って非人道的ですが。


5.文駆様
同期連携は強力ですが、どの位の威力なのかが想像ができません。
自分でやっといて何ですがw
大河の行く道は…うむ、コインでも投げて決めようかw

ダウニー先生に家系が居るとは、認識されてなかったのでは?
その辺のカツラの中から産まれてきたとかw

地下秘密基地か…実態はきっとルビナスの実験室だな。


6.なまけもの様
ご指摘ありがとうございます<m(__)m>
でも『メルヒェン』と『バディビル』はネタ、『解すように』、は『ほぐすように』です。
むぅ、誤字だと見られそうなネタはやめた方がいいですね。
せめて平仮名で書くとか…。
ちなみにバディビルは、『マリアナ伝説』のネタです。
さらに言うと、何時ぞやダウニーの『人は誰しも過ちに(略)』の台詞は、マリアナ伝説の主人公がプールの中で『に゛ょ』をしながら言った台詞ですw

精霊手…ジャククトは素直に言う事を聞いてくれそうにないですw

ミュリエルは…原作ではマジで気付いてなかったようですねぇ…。
まぁ、名字が同じだけで疑うと言うのも…。


7.無限皆無様
解かるネタ…とはどれだったのでしょう?
やはり一文字斬りでしょうか。

汁婆と大河で無双…きっと馬超だな。

やはり資材の半分以上を使うとなると、巨大ロボか何かでしょうw


8.恥騎士様
そ、それをやるとハーレムのメンバーが冗談抜きで壊される!?
きっと大河の股間付近が、えらい勢いでパワーアップしますねw

レッドキャッスル…汁婆とズシオと棒王+お婆さんで駆け抜けたアレですか。
むぅ、今ならトレイターを棒王の如く伸ばすのも可能…。
実現できるか!?


9.根無し草様
トレイターをヘシ折った敵に関しては、実は以前に言及した事があるんですよね。
まぁ、予想がついたとしてもノーコメントでお願いしますw

最近ナナシが忘れられ気味ですし、彼女はシリアスな戦争に放り込んでも違和感満載です。
どうにかして出番を作ろうと思ったら、ああなりました。


10.悠真様
汁婆、いくらなんでも強すぎたかなぁ…と思っています。
元がギャグキャラというか不条理キャラだけに多少の無茶も違和感なく通るものでw

よっしゃ、明後日は面接だ!
根性出して行ってみるかぁ!


11.流星様
多分ある意味では最も真っ当な御脳ですw
ああ、マジでやりかねん…トレイターは大河なんだから、S未亜に逆らえるはずもない…。


12.カシス・ユウ・シンクレア様
少々強すぎたかな、と思いましたが…やはり斬艦刀を称すなら、これくらいはやらにゃならん!と勢いに任せてw

ナナシが十六夜に似ていると言うのは、つい最近気付きました。
しかし、あのぽややん具合はまだ遠い…某未覚醒の青の魔王よりもまだぽややん…。
まだまだ修行が足りませぬ。


13.ガンスベィン様
やっぱり一文字斬りがイイですねぇ…。
シンプルかつ豪快、しかも破壊力大…。
ダイゼンガーになった後、何故一文字斬りが使えないのか小一時間ほど悩んだものです。
後に「チェストー!」にも嵌りましたが。

フルパワーを出しても、トレイターは砕けません。
反作用で大河の体が砕ける可能性はありますが。
こう、バーンとw


14.アルカンシェル様
伏線を消化しきれるか不安です。
アフロ神の加護…神のご加護…アフロ神教の布教…よし、“破滅”の軍団には、女装じゃなくてアフロのカツラをつけさせようw
地を埋め尽くす数え切れないアフロ達…シュールだ。

クレアがロベリアと仲直りを推奨したのは、それなりの打算もあります。
人間側に引き込めれば、強い戦力になりますしね。

いやいや、フノコで改名はまだ甘いでしょう。
世の中にはもっと洒落にならない名前が沢山ありますw

む…親子丼…近親相姦…………平目板!
むぅ、ストーリーがかなりややこしくなるが、色々と説明がつくかも…。


15.K・K様
オギャンオース!

ホント、ナニを何処まで打ち消してるんでしょうねぇ。
大河君は気が気でありませんw

トレイターの構成部品…もとい物質は、後々に出てきます。
実を言うと、トレイターのパワーアップにはまだ先があったりなかったり。
むぅ、他の召喚器もパワーアップさせたい所ですが…そうなると“破滅”に勝ち目がなくなるかも…。

むぅ……ちょっと展開が読まれたので、頭を捻って変えてみます。
…こうやって話がややこしくなったり、ストーリーが推敲されていくんですねぇw

言われて見れば Σ(?Д?) な事が一杯でーす。
むぅ、何とか解釈をつけねば…。もう半分くらいは出来上がってますが(言い訳が)。

ナナシに…ルビナスが止められるか…?


16.舞ーエンジェル様
レスありがとうございます舞ーエンジェル改め桂様。
ところで、某新撰組のS王子とマヨネーズ中毒が来てますぜw

ジャククトは我々の世界にはカケラも名前は伝わっていませんw
つまるところ、完全なオリキャラです。

あ、なるほどオーバーソウルなんだ!
ぬぅ、説明が一言で済むんだからそっちにすればよかったか…。

恐ろしい電波を受信しますなぁ………転用できるかも…。
ネズミさん…ネズミ男に失礼ですなw
顔面男性器…歩く猥褻物陳列罪だ……。
両者供に、余計なモノを人に見せびらかしてますねぇ。
あと露出狂はニックネームではなく、ある意味で代名詞だと思うです!


17.神〔SIN〕様
そっかー、ダウニーもパワーアップさせなきゃいけないんだ…。
心当たりはありますが、そこまでどうやって持っていくべきか…。

ナナシが取り持つ…と言うよりは…社会復帰の手伝いかな〜?
ロベリアさんは場合によっては、強制的にハーレム入りって事になるかもしれないし…。

無道とシェザルの漫才は、個人的には銀魂のノリに近い印象でしょうか。
どっちも自分の都合で好き勝手やって、会話が成立しているのかすら疑問…な感じですw

マヨラーはマヨネーズだけでもご飯を食べられるでしょうな。
ズシオ王子のようだw


18.ナイトメア様
クレアの遭遇した大河については…一応考えてあるのですが、ちょっと捻りがありません。
これから2転3転するかも…。

幻想大陸とか、面白かったですねぇ…。
3姉妹の順番は…上からルビナス、ナナシ、ロベリアですね。
何だかんだ言いつつ、ロベリアの立場は一番低いのです。
ナナシはその天然パワーで、時にはルビナスも圧倒しますw

ゾンビ無道は、汗臭さが腐臭に変わっただけですなw
取り敢えずミイラは出せるかも…。
機械無道?
…メカ沢君みたくなるのかなぁ…彼の方がずっと漢前だ。


19.なな月様
いえいえ、こちらこそ本当に助かりました。
そろそろネタが本気で枯渇してきたので…。

ああ、汁婆ならやりそうですね。
と言うか、下半身も動かさずに分身を残すゴッドシャドーとか使ってそうです。

OVERSシステムの機能は多岐に渡っていますし、正直言って把握し切れません…。
その辺の描写とかは曖昧になってしまいそうです。

神の口はマジで腹がたったなぁ…接近戦がやりにくいったらありゃしない…。
…しかし、口+ザ・ワールドよりも十傑衆の方が絶対に強いと思います。

え、HPでそんな事が!?
ロリっ子が流行りだしたのは理解できるけど、一体何が…?

そうですねぇ、ダウニーも半分フノコを受け入れてるみたいですし。
アフロ神と共に一生を生きる可能性もw

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