インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「これが私の生きる道!運命編1地獄の観艦式編 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-05-10 13:34/2006-05-13 09:27)
BACK< >NEXT

(十一月二十五日、ウラル山脈中腹地下基地内)

世界中からの監視の目を逃れながら建設中のこの
基地はウラル山脈の山々をくり貫き、中に軍事基
地や訓練施設、モビルスーツなどを一から生産可
能な軍需工場から新兵器の新規設計を行う技術局
、資金を調達する金融局、各種特殊工作や情報収
集を行う情報局、兵士達に休息を与える為の娯楽
局まで実に多数の施設が完備されていて、この基
地を支配している彼女達が盛大な自殺を考えてい
るなどと考える者は皆無であった。

 「ついに、後数時間で始まるわね」

 「はい、奥様の思うがままに」

エミリアの私室で事実上のナンバー2で軍事的な
作戦を立案している、アラファス・メルトクが朝
の定時報告を行っていた。

 「そうね。ラドフに期待しましょう」

 「やつはこの日の為にモビルスーツパイロット
  としての訓練に励み、実戦経験を積む為に傭
  兵として各地を転戦までしていました。きっ
  と、やってくれますよ」

 「あの子は凄腕だから心配はしていないわ。そ
  れよりも、ミリアとアヤは大丈夫かしら?い
  くら私の娘とその友達と言えども、適正の無
  い人間を高性能なモビルスーツに乗せてしま
  ったらそれは、えこ贔屓になってしまうから
  」

 「大丈夫ですよ。ミリア様は奥様とアズラエル
  理事の才能を引き継いでおられますから。そ
  れに、アヤ様も連合軍でごく少数しか見つか
  っていない空間認識能力者であった兄のササ
  キ大尉以上の才能をお持ちです」

 「そうなの。アヤがねえ」

 「最悪、アヤ様なら(フォールダウン)を一人
  で操縦出来ます。ただ、ハイドラグーンは一
  度に十二基の操作が限界ですが」

 「ミリアではハイドラグーンの操作は無理なの
  ね」

 「はい。それに、(フォールダウン)はハイド
  ラグーンが使えないと、ただの大きな火力の
  強いモビルスーツでしかありませんから」

 「そうだったわね。それで、例の世界各地への
  戦力の派遣計画はどうなっているの?」

 「(ノーチラス)級大型高速潜水艦は一二隻が
  完成して、決められた地域に派遣されました
  。ロシア連邦共和国の軍人に効かせた鼻薬は
  有効に作用して、何ら怪しまれる事も無く、
  黒海を無事に脱出しました」

 「そう、それは良かったわ。ミリアとアヤはち
  ゃんと出発したのね」

 「はい、統一朝鮮国の釜山に向けて出発しまし
  た。あの尊大でプライドという脂肪がついた
  金日併将軍への援軍指揮官としてです」

 「あれだけ援助してあげてまだ半島を統一出来
  ないなんて、本当に困った人ね。あのおデブ
  さんは」

 「統一朝鮮軍は先の大戦では負け続きでしたが
  、独自にモビルスーツを開発するなどその力
  は侮れないものがありますから」

朝鮮半島北部で挙兵した金日併はエミリア達の援
助を受けながら占領地域を広げ、ソウルの占領に
成功して統一朝鮮国の現政権を崩壊させる事に成
功していた。
現在では朝鮮海軍第一機動艦隊の林司令官が海軍
の残存艦艇を率いて佐世保に脱出して補給と修理
の援助を受け、陸軍と臨時政府も半島南端の一部
の地域を守るのに精一杯という有様だった。

この事態を受け、日本政府は緊急に彼らの援助を
開始したのだが、金日併将軍の「私の目標は大朝
鮮国家の再建である。北は大連、南は鹿児島、東
は大阪の地域を奪還して祖国の栄光を復活させる
のだ!」と言う発言で統一朝鮮軍の六割の将兵が
離脱して彼に合流しまったので、その対応に苦慮
していたのだ。

 「石原首相も大変ね。困ったお隣さんがいると
  」

 「日本という国は昔から付き合いにくい隣人と
  生きているので慣れていると思いますが」

 「ミリア達は自衛隊と戦って実戦経験を積む事
  が出来るから好都合ね。場合によっては、ザ
  フト軍の(黒い死神)が派遣されて来る可能
  性もありそうだし」

 「いきなり強敵ですが、大丈夫でしょうか?」

 「えこ贔屓は無しって言ったでしょ。鬼になっ
  て計画を発動させた以上、死は平等に訪れる
  。ここで、死ぬならそれまでの運命だったと
  言う事よ」

 「出過ぎた事を言って申し訳ありません」

 「いいのよ。ミリアが心配だったんでしょ」

 「可愛い妹ですから」

エミリアは二十名の子供達とミリア、アヤを一切
の差別無しで養育してきた。
さすがに、二十名の子供達は籍が入っていなかっ
たし、エミリアの実子であるミリアとその親友の
アヤを目上の者として扱っていたが、二人は彼ら
を兄の様に思っていたし、彼らも二人を妹の様に
思っていて、この事がこの組織の全容の解明を困
難な物にしていた。
主要幹部の中で不満を感じている者が誰もいなか
ったので、裏切りなどが一切ありえなかったから
だ。
全員が疑問を感じずに一つの目標に向かって邁進
する。
後世の歴史家が「エミリアがブルーコスモスを率
いていたら、コーディネーターは緩やかに穏やか
に滅ぼされていたかも知れない」と批評したくら
いなのだから。

 「後、数時間で始まるわ。そう、後少しで・・
  ・」

エミリアは静かに作戦の成功を祈っていた。


(同時刻、L4宙域の廃棄コロニー内)

観艦式を行う事を最初に提案をしたのは大西洋連
邦宇宙軍であったが、問題が一つあった。
それは、観艦式を行う広い場所が無かった事であ
る。
数ヶ国の艦隊が集結して一部艦艇は演習まで執り
行うのだ。
L1、L2、L3、プラントのあるL5宙域と全
て断られてしまい、「中止もやむなしか?」と思
われていた時に候補に挙がったのが、このL4宙
域であった。
先の大戦で放棄されたこの宙域は使えそうな損傷
度の低いコロニーが全て運び去られて場所が空い
ている上に、新規コロニーの再建計画はまだ机上
のプランでしか無かったので、誰にも迷惑が掛か
らずに観艦式にはもってこいの場所であった。
勿論、大西洋連邦軍は万が一のテロ行為やゲリラ
や海賊の襲撃に備えて一週間ほど前から綿密な偵
察を行っていたが、彼らの存在には気が付いてい
ない様であった。

 「ラドフ隊長、敵さんの定時偵察は終了しまし
  たぜ」

 「そうか。相変わらず念入りな事だな」

 「ですが、二週間も前からここで待機している
  俺達には気が付いていないようですぜ」

奇襲攻撃部隊を率いるラドフは各国の監視の目を
潜りながら、一ヶ月もの日数を掛けてこの廃棄コ
ロニー内にモビルスーツや必要な機材を運び込み
、それを巧みに偽装して大西洋連邦の偵察部隊の
目を逃れていた。
彼らは二週間前に準備を終了させてここに待機し
ているので、観艦式一週間前から偵察を始めた彼
らに気が付かれる可能性は低かった。
偵察部隊の連中からしたら、この場所の光景は何
一つ変わっていないのだから。

 「観艦式まで後二時間だ。機材の最終チェック
  は終了したか?」

 「ええ、終ってますよ。(ストライク)と高速
  機動パックは完璧に仕上がっています。例の
  連中と(デュエル高機動型)も大丈夫ですぜ
  」

奇襲部隊は高性能化したストライクに高速機動が
可能な特殊機動パックを装備した機体が二機とデ
ェエルを高性能化して同じく、高速機動用のパッ
クを装備した機体が八機の合計十機であった。
パイロットはエミリアチルドレンの一人であるラ
ドフ・マクリーンと副隊長でラドフが傭兵をして
いる時に出会ったバーンと言うコードネームを持
つ男とクローンコーディネーター八人の計十名で
あった。
ラドフは任務の性格上、自分以外はクローン兵で
も仕方が無いと思っていたのだが、傭兵時代に腕
は良いが精神を病んでいて、華々しく散る事が人
生の目標であると語っていたバーンの存在を思い
出して彼を仲間に加えたのであった。
バーンは本名すら語らず、常に激しい戦場を渡り
歩いていた凄腕の傭兵で、この誘いを受けると「
俺の人生の最後を締めくくる最高の舞台だな」と
語り喜んで仲間に加わったのであった。
もし、断ったらその場で殺そうと思っていたラド
フも自分を超える破滅願望を持つこの男の返事を
聞いて苦笑してしまったが。

 「作戦はそう難しくないさ。核弾頭を持った俺
  と護衛のお前が乗った(ストライク)を八機
  のクローン兵の乗った(デュエル高機動型)
  が取り囲んで防御して、敵艦隊の中央に突撃
  してプレゼントをあげるだけだからな」

 「敵艦隊の中央はやはり、(ワシントン)です
  か?」

 「世界一の大国としては真ん中で目立ちたいん
  だろうな。中央が大西洋連邦の第三・第四艦
  隊で旗艦が臨時で借りてきた(ワシントン)
  だ。指揮官はノース中将か・・・」

ラドフは今朝届けられた最新情報を見ながらバー
ンの問いに答えていた。

 「ジークマイヤー大将とかハルバートン中将は
  不参加ですか?」

 「二人共、観艦式には反対していて仮病を使っ
  て欠席するらしい」

 「よく問題になりませんね」

 「大西洋連邦では大国主義を掲げる連中と各国
  との協調を重要視する連中とに派閥が分裂し
  ているらしい。ノース中将は前者の方で、観
  艦式を行うように提案したのは同じく前者だ
  。事情は理解出来たかな?」

 「しかし、あれですね。ブルーコスモス強行派
  を追放しても大して変化が無いような・・・
  」

 「程度の問題なのさ。表では人は平等ですって
  語っていても、心の中では差別する人間が多
  いって事だな。民主主義国家である大西洋連
  邦では差別する自由もあるのだから」

 「何とも救われない話ですね」

 「だから、俺達がそのバカ共をこれから焼き尽
  くすのさ」

 「そうですか。では、そろそろ棺桶に乗り込み
  ますか?」

男達は滅びに向かって最終準備を開始したのであ
った。


(一時間後、L4宙域内「観艦式」会場)

観艦式は大西洋連邦宇宙軍旗艦「ワシントン」を
中心に配して第三・第四艦隊がそれを囲み、その
右には小沢海将指揮の「むさし」を旗艦とする極
東連合宇宙艦隊が左にはユウキ総司令座乗の「ホ
ープ」を旗艦とするザフト軍艦隊とロンド・ミナ
・サハク中将揮下のオーブ軍宇宙艦隊が配置され
、更にその外側には残りの各国の艦隊が決められ
た通りに配置されていた。

ユーラシア連合と東アジア共和国の艦隊は一番端
に位置しているが、大西洋連邦首脳は内乱でそれ
どころでは無い東アジア共和国が艦隊を派遣して
きた事に驚きを隠せないでいた。

 「少数とはいえ艦隊を派遣するとは・・・。連
  中のプライドの高さにはあきれてしまうな」

 「そうですね」

旗艦「ワシントン」のブリッジで大西洋連邦宇宙
軍臨時総艦隊司令官のノース中将と参謀長のパリ
ス少将は東アジア共和国首脳部のプライドの高さ
に呆れ返っていた。

 「だが、少数は少数だ。ユーラシア連合も昔日
  の面影は無い。最近、調子に乗っている極東
  連合とプラントとオーブがけん制出来れば、
  それで良しだな」

 「そうですね。どこが世界一の強国か教えてあ
  げないといけませんから」

大西洋連邦の政府と軍部には終戦から二年でここ
まで国力と戦力を回復させた事を必要以上に自慢
に思い過ぎて、世界一の大国である自分達こそ世
界をリードするのに相応しいと考える「大国派」
と呼ばれる派閥が形成され、それが他国との連携
の邪魔をする事が増えて来ていたのだ。
あれだけの戦争をしても、まだ懲りていない連中
がいる。
何とも救われない話であった。
ただ、彼らも戦争を望んではいない事は事実で、
この大戦力で他国を威圧すれば、戦争など起こさ
ずに各国を従わせる事が出来ると信じていた。

 「ジークマイヤー大将とハルバートン中将には
  腹立たしいが、ここで私の存在をアピールす
  れば次の月方面軍司令官は私が推薦される可
  能性が高くなった事にだけは感謝だな」

 「そして、私が参謀長として推薦されるんです
  ね」

 「そういう事だ」

「協調派」に属するジークマイヤー大将とハルバ
ートン中将は今回の観艦式には反対で彼らに属す
る将官も同様の態度を取っていたので、今回の観
艦式に参加する艦隊の指揮官はそのほとんどが「
大国派」の将官で固められていた。
ここで目立って名前を売っておこうという連中が
大半だったからである。
一方、「協調派」は特殊対応部隊を設立して彼ら
を各国の要請があった時だけ派遣して世界の平和
を守ろうとしていた。

精鋭達を配属させて高性能な兵器を装備していな
がら艦数がわずか二隻なのは、あまりでしゃばっ
て大軍を派遣すると、それが新たな火種になって
しまう事を恐れたハルバートン中将の意見に拠る
ものだった。 
そして、今回の観艦式で全く何も出さずにはいら
れなかった「協調派」が宣伝の意味を込めて派遣
しているのである。 

 「ところで、例の特殊対応部隊の連中は何処に
  いるのかね?」

 「ハルバートンの子飼いの連中はここから離れ
  たデブリ帯で待機していますよ。各国から同
  じ様な連中が集まってあそこで模擬演習を行
  うからです。そして、演習終了後は成績の良
  い順番で紹介されます」

 「精々、恥をかかない様にして欲しいものだな
  」

 「(エンデュミオンの鷹)と(乱れ桜)がモビ
  ルスーツ隊の指揮を執っているんですよ。お
  いそれとは負けませんよ」

 「だといいがな。先の決戦で連中はザフト軍の
  エースに歯が立たなかったではないか」

ノース中将は派閥が違う事もあって彼らに好印象
を持っていなかった。

 「大丈夫ですよ。最新鋭機を配備していますか
  ら。それに、万が一戦争になれば数が物を言
  います。新型量産機の「ウィンダム」と「ス
  トライクダガー」の改良機である「ダガーL
  」を多数配備している我々の勝利です」

 「まあ、それはそうだな。戦争はやはり、数だ
  よな」

 「極東連合(自衛隊のみ)の新型機の(ハヤテ
  )もオーブ軍の新型機の(ムラサメ)もザフ
  ト軍主力の(ザクシリーズ)も我々に比べれ
  ば小数ですから」

大西洋連邦軍は先の大戦で使用した「ストライク
ダガー」のほとんど全機を第一線から引き揚げて
、「ダガーL」と訓練機への改良や民間へと払い
下げて「ダガーL」と「ウィンダム」に切り替え
ていた。
未だに、先の大戦の主力機が大半を占めている他
国の軍とは違うのだとノース中将は言いたかった
ようだ。
事実、極東連合は「センプウ」の改良機である「
センプウ供廚主力機を占めていて、「ハヤテ」
はまだ五十機ほどしか配備されてなく、オーブも
「ムラサメ」の配備は七十機ほどで、残りは「セ
ンプウ供廚鮗衛隊と共同で使用したり、「M−
1改供廖孱諭檻渦掘廖屮蹈鵐哀瀬ー改」「ス
トライクダガー改」やその他の連合軍製とプラン
ト製のモビルスーツなど実に雑多なモビルスーツ
群を運用していた。
これは、先のオーブ侵攻戦の折に出した大損害が
未だに尾を引いている事の証でもあった。
「センプウ」を買うと高くつき、「M−1」の生
産も中止となった上に、大きな戦闘も暫らく起こ
らないと考えたウズミ前代表がオノゴロ島とその
沖合いの海中に沈む多数のモビルスーツを引き揚
げて修理して使い、「ムラサメ」の配備までの繋
ぎにしようと提案したのだ。
その為、比較的損害の小さかった宇宙軍は「M−
1」の改良機を使っていたが、本国では様々なモ
ビルスーツの博覧会のような状態になっていた。
最も、これは早期に「ムラサメ」との交換が行わ
れる予定であったが。
そして、ザフト軍も「ゲイツR」と「センプウ改
」が主力機で、「ザクウォーリア」と「ザクファ
ントム」の配備は一部精鋭部隊とエースが優先と
いう状態になっていた。 

 「ハルバートンの子飼い共が負けたら、奴の責
  任を追及すれば良いのさ。そして、こちらの
  部下にしてしまう。実に合理的な意見だろう
  ?」

 「司令官の仰る通りです。そろそろお時間です
  ので、開催宣言の準備をいたしませんと」

 「そうだったな。では、行くとするかな」

ノース中将とパリス少将は「ワシントン」のブリ
ッジに移動を開始する。
総旗艦「ワシントン」のブリッジ内には選ばれた
少数のエリート軍人と政治家と官僚が招待されて
いて、ノース中将の演説が世界中に放送される事
になっている。

 「(これで、私は軍人として有名になり出世の
  道も早まると言うものだ。ひょっとして退役
  後は政治家としてもいけるかも・・・)」

だが、運命は残酷で彼の希望が適えられる事は無
かった。


(同時刻、観艦式メイン会場から五十キロほど離
 れたデブリ帯の中)

 「ねえ、我々は主役だったはずだよね」

ここは各国の即時対応部隊が回りを気にせずに演
習を行う為に、特別に設置されたデブリ帯をイメ
ージした演習コースであった。
ザフト軍の「ミネルバ」、極東連合軍の「はりま
」と「すおう」、オーブ軍の「アマテラス」、大
西洋連邦軍の「アークエンジェル」と「ミカエル
」の合計六隻が演習に備えて待機していた。

 「だから、この様子は世界中に放送されるし、
  順位が良ければ華々しく紹介されるのさ。こ
  れは血は流れないけど、一種の戦争だな。各
  国の軍がプライドを掛けて戦うのだから」

 「まあ、そういう事になるのかな。でも、議会
  からのお目付け役がコーウェルだとは思いも
  しなかった」

 「軍縮機運で無駄な人手は割けないので、将来
  の財務次官候補であるこの俺がザフト軍の現
  役将校として復活して派遣された各国との折
  衝とこの艦の副官も兼任するわけだ。更に、
  プラント国民の血税が無駄遣いされていない
  かもチェックする事になっている」

 「お前、本当に官僚みたいになってしまったな
  ・・・」

 「みたいじゃなくて、官僚なんだよ!軍人兼務
  だけど」

コーウェルが派遣された理由は元軍人だから使い
勝手が良かろうというカナーバ議長の推薦による
ものらしい。
更に、軍人としても復帰して俺の補佐を務めて貰
う事になったようだ。
尚、コーウェル自身は「また、カザマのお守りか
よ」と失礼な事を言っていたらしいが。 

 「つまり、副官兼パイロット兼お目付け役兼コ
  ストチェック役兼この艦が他国に派遣された
  時は外交官的な役割もすると?」 

 「こら!勝手にパイロット役を追加するな!俺
  は二年近くモビルスーツに乗っていないんだ
  ぞ!」

 「あっ、そうなの?じゃあ、訓練しておいてね
  。パイロットは一人でも多い方がいいから。
  そうですよね、アーサーさん」

 「そうだね。その方がありがたいな」

 「お前、この艦に軍医として赴任したシホにも
  同じ事を言って怒られたばかりじゃないか」

 「だって、戦闘が無いと軍医って暇だよ。病気
  になる奴なんてほとんどいないんだから」

この艦に赴任してきた軍医はなんとシホであった

彼女はリヒャルト先生の元で修行を終え、正式に
軍医として派遣されて来たのだが、俺が「モビル
スーツが余っているから、パイロット兼任ね」と
言ったら「もう二年近くも乗っていないから無理
です!」と怒られてしまったのだ。 

 「まあ。何にせよ、後三十分ほどで(ワシント
  ン)から大西洋連邦軍のオジサン将軍のあり
  がたいお話が始まるんだ。新型機のパイロッ
  ト連中はブリッジに上がらせて、リーカさん
  達には、念の為に待機所に詰めていて貰うよ
  うにしてくれ」  

 「了解です。エルスマン隊長とシン達はブリッ
  ジに上がって来て下さい」

管制官のメイリンの連絡でパイロットスーツ姿の
ディアッカ達がブリッジに上がってくる。

 「まだ、時間まで大分ありますよ」

 「そうなんだけど。(ワシントン)の艦内のオ
  ジサンの映像を見てもつまらないだろうと思
  ったから、この宙域にいる他の五艦の連中と
  の顔合わせをしておこうと思ってさ」

俺の指示でブリッジ正面の大型スクリーンが五分
割されて、この宙域にいる艦のブリッジの様子が
映し出された。

 「よう!カザマ司令官殿。元気だったかい?」

 「あら、カザマ君は相変わらず元気そうね」

「アークエンジェル」と「ミカエル」のブリッジ
が映し出されるが、顔見知りは「アークエンジェ
ル」艦長兼特殊対応部隊指揮官であるバジルール
中佐と一部のブリッジ要員と「ミカエル」のモビ
ルスーツ隊の指揮官であるレナ少佐のみであった

俺達はお互いに自己紹介をしながら話をする。

 「カザマ司令の部下は可愛い女の子が多くて良
  いな〜。俺の部下なんて野郎ばかりだぜ!」

フラガ少佐の言葉で後ろのパイロット達が野次を
飛ばす。

 「へへん。羨ましいだろう」

 「俺の部下の汚い野郎パイロットを五人ほどあ
  げるから、金髪のステラちゃんか赤髪のルナ
  マリアちゃんのどちらかと交換してくれない
  ?」

 「やだ!それに、フラガ少佐の半径一メートル
  以内に近付かせると、ステラとルナが妊娠し
  てしまうから駄目だ」

 「そりゃないよ〜」

俺の返答で両艦が爆笑の渦に包まれる。

 「あれ?」

 「どうした?カザマ司令」

 「普通ならこんな下らない事を話していると、
  謹厳実直なバジルール中佐が激怒するのにな
  と・・・」

バジルール中佐は俺達の会話を聞いても苦笑する
だけのようだ。

 「我らがバジルール司令官殿は(アークエンジ
  ェル)の副長兼操舵手のノイマン大尉と一緒
  に仕事が出来て嬉しいから、些細な事は気に
  しないんだよ」

 「フラガ少佐!」

バジルール中佐はフラガ少佐の声で顔を真っ赤に
染めてしまった。
どうやら、図星のようだ。

 「バジルール中佐は女の幸せを掴み〜♪。それ
  で、レナ少佐はどうなの?」

俺が「ミカエル」のレナ少佐に話題を振ると、「
ミカエル」艦内は沈黙に包まれた。

 「あれ?俺、地雷踏んだ?」

 「ふふふ、演習では一番始めに殺してあげるわ
  ね」

 「ははは、了解・・・」

 「さてと、次は」

レナ少佐の視線が怖かったので、次は「はりま」
と「すおう」の画面を大きくする。

 「よう!二月以来だな」

石原二佐と相羽三佐とは、毎年恒例になった温泉
宿での慰労会以来の久し振りの再会となった。

 「(はりま)のモビルスーツ隊の指揮官が石原
  二佐で(すおう)のモビルスーツ隊の指揮官
  が相羽三佐か。二人共、出世が早いね」

 「パイロットは命を張るから出世が早い」

 「そういう事」

 「奥さんは元気?」

 「妊娠してさ。悪阻が酷くて家で寝てるよ」

 「おお!そうか。そいつは、おめでとう」

 「ありがとう」

俺は素直にお祝いの言葉を述べると同時にコーウ
ェルとディアッカの前に手を差し出した。

 「はい、出して」

 「わかったよ!」

 「ちぇっ!後、二ヶ月と少しだったのに・・・
  」

二人は何故か持っていた百アースダラー札を俺に
差し出した。

 「えーと・・・。これは、どういう事?」

石原二佐は意味がわからずに首を傾げている。

 「実は今年の二月の温泉慰労会の時に(結婚一
  年を過ぎたんだ。そろそろ、マユラは妊娠す
  るだろう。そうだな、きっと一年以内には妊
  娠するな)と俺が言ったら、コーウェルとデ
  ィアッカとハイネとミゲルが(それは無いよ
  )と反論したので、この賭けが成立したわけ
  だ」

 「カザマ・・・、あのな・・・」

 「後でミゲルとハイネからも取り立てないとな
  。安心しろよ。お祝いの資金にするだけだか
  ら」

 「・・・・・・・・・」

 「相羽三佐はいいよな。彼女が(すおう)の管
  制官をしているんだから」

相羽三佐の恋人である早乙女三尉は「すおう」の
モビルスーツ隊の管制席に座っていた。

 「そうでも無いさ。常に見張られているような
  感じで・・・。スイマセン。嘘です。とって
  も嬉しいです」

余計な事を言った相羽三佐が早乙女三尉に睨まれ
て素直に謝る。
どうやら、仕事の時とプライベートの時では立場
が逆のようであった。   

 「次は、オーブ軍の(アマテラス)か」

オーブ軍の「アマテラス」はトダカ准将が艦長と
司令官と兼任して、副長にはアマギ三佐が就任し
ていた。
そして、モビルスーツ隊の隊長はアスランで副隊
長はハワード三佐が務めていた。

 「トダカ司令、お久し振りです」

 「カザマ司令は相変わらず元気そうだな」

 「ええ、若者の相手をしていますから」

 「君もまだ若いじゃないか」

 「二十代に突入しましたからね。所で、トダカ
  准将も特殊部隊の指揮官に任命されて大変で
  すね」

 「そうでも無いさ。ここには書類を押し付けて
  くるカガリ様がいない!なあ、ザラ一佐」

 「そうですね。開放的ですね〜」

 「・・・・・・・・・」

トダカ准将とアスランのやり取りに「アマテラス
」のブリッジクルーとハワード三佐が無言で首を
縦に振った。

 「色々大変なんだね」

 「ええ、大変なんです」

アスランのおでこが気のせいか広がったような気
がする。

 「ホー三佐とアサギは一緒じゃないのか」

 「ホー三佐は座礁していた(タケミカヅチ)の
  修理が終って再就役したから、そちらのモビ
  ルスーツ隊の隊長にまわっていますし、アサ
  ギはオノゴロ島の基地で教官を務めています
  」

 「みんな、忙しそうなんだな」

 「良くも悪くも二年の月日が経ったんですよ」


俺達が世間話をしている時に、後ろでその話を聞
いていたレイは不機嫌そうな表情をしていた。

 「どうしたの?レイ」

 「どうしたんだよ」

それに気が付いたルナマリアとシンがレイに不機
嫌な理由を聞いた。

 「カザマ司令は軍艦の回線を使って、何を下ら
  ない事を話しているのだと思っただけだ」

 「久し振りに友達に会ったんだから仕方が無い
  じゃないの」

 「それでは、公私のケジメが付かない」

 「俺は必要だからやっていると思うけど」

 「シン、それは、どういう事だ?」

 「いやさ、俺達の部隊って単艦で世界の各地を
  回る可能性があるだろう。だから、万が一の
  時に頼りになるのは同じ様な任務で回されて
  くるあの五艦の連中である可能性が高いと思
  うんだ。だから、カザマ司令はコミュニケー
  ションを取っているんだと思う」  

 「別に今やらなくても・・・」

 「今、この時から俺達は敵に襲撃される可能性
  があると思う。こんな誰もいないL4宙域な
  んて、海賊やテロリストの格好の隠れ場所だ
  と思うし・・・。だから、リーカさん達はす
  ぐに出撃出来るように待機しているんだろう
  ?他の艦のパイロット達も画面に出ている人
  数が予想搭載機数を下回っているから、最低
  でも一個小隊くらいは臨戦態勢にあるって事
  だと思う」

 「へえ、ちゃんと考えているのね」

 「シン、偉い」

 「お前、たまに鋭いな・・・」

 「レイ!たまには余計だ!」

ルナマリアとステラは素直に感心するが、レイは
どこか捻くれていた。
どうやら、その事に気が付かなかった事が少し悔
しかったようだ。

 「ヨシさん、良かったですね」

 「上手く育てれば俺の良き後継者になるさ」

アスランと俺の会話は四人には聞こえなかったよ
うだ。

 「さて、そろそろ始まるかな?」

各艦は私信を中止して画面を「ワシントン」のブ
リッジの映像に切り替える。
この後、恐ろしい出来事が起こる事も予想出来な
いままに・・・。


(十分後、L4宙域廃棄コロニー内)

観艦式は予定通りに始まり、「ワシントン」艦内
からの映像がテレビ中継で世界中に放送されてい
た。

 「私達は未曾有の大戦をくぐり抜けて、新たな
  発展の第一歩を踏み出すに至りました。この
  観艦式は、我々の力の回復を地球各国の皆さ
  んにお見せするものであり、決して戦争を行
  う為のものではありません。ただ、これだけ
  の戦力を再建出来た事は我々のエネルギーの
  強さを示すものであり、この艦隊の威圧感で
  不穏な輩を出させない為のものであります。
  今日の・・・」

 「最終準備は完了です」

 「そうか、後は行くのみか・・・」

 「後少しで花火が上がります。それを合図に」

花火とはこの宙域に放置されている軍艦やMAの
武装や弾薬に時限装置を仕掛けて、観艦式を警備
している部隊の目をそらす為にバーンが細工をし
た罠の事である。
この宙域に到着後、バーンがラドフに進言して作
業を行ったのだ。

 「バーンは器用なんだな」

 「昔は技術将校でしたので」

 「初めて自分の事を話したな」

 「あなたはブルーコスモス強行派か何かですか
  ?」

 「アズラエル財団の者だ」

 「納得です」

ラドフは自分に付き合ってくれるバーンに感謝の
意味を込めて、自分の正体を明かした。 

 「聞き流してくれても結構ですよ。私は先の大
  戦時は技術将校で中尉の階級にありました。
  開戦から一ヵ月ほどした時にある補給基地に
  回されまして、そこでナンバー2の地位にい
  たんです。部下達はみんな良い奴で、戦争中
  とはいえ楽しい日々を過ごしていました。と
  ころが、ある日新しい司令官が着任してきま
  してね。こいつが嫌な奴だったんですよ。軍
  政畑の奴で実戦を知らないのに、知ったかぶ
  りをするのは補給基地だったから我慢出来ま
  したが、物資を横流ししてそれで得た金を上
  司にばら撒いたりしていました。俺は頭にき
  て告発しようとしたんですけど、先に奴に手
  を打たれてしまいましてね。奴はザフト軍に
  情報を漏らして基地を襲撃させて俺達を抹殺
  する事によって罪を消そうとしたんです。結
  果、俺と事前に逃げ出していた奴のみが生き
  残り、奴は俺をスパイだと告発した為に、俺
  は逃亡の旅に出る羽目になりました。後は傭
  兵として食い扶持を稼いだわけでして・・・
  。モビルスーツの操縦はその時に覚えました
  。そして、あなたの誘いを受けたわけですよ
  」

 「そんな腐れた将校はアズラエル派の軍人では
  無かったのか?それなら、俺が憎いはずだが
  ・・・」

 「それが、奴は世渡りが上手くて穏健派に取り
  入り、現在は(大国派)として元気にやって
  いますよ」

 「どんな奴なんだ?そいつは」

 「今、言い訳がましい演説をしているアホの隣
  で参謀長面をしている奴です。俺は仲間の仇
  を討つ為にやっているんですから、気にしな
  いで下さい」

 「そうか。頼りにするぜ。相棒」

 「お任せ下さい」

そこまで話した地点でバーンが仕掛けた罠が発動
して警戒部隊が大混乱に陥った。

 「さあ、行くぜ!」

 「了解!」

ラドフ達は一世一代の奇襲作戦を開始した。


 「(ワシントン)の偉いさん達、張り切ってま
  すね」

 「顔を売るチャンスだからな」

 「政治家の連中と官僚共は?」

 「政治家は選挙が近い所為だ。官僚は将来政治
  家になった時に選挙で勝てるように顔を売っ
  ているんだ」

 「なるほどね」

L4宙域には未だに先の大戦で沈んだ軍艦やMA
の残骸が浮かび、遺体の回収も終っていなかった

 「こんな式典に金を使うなら、彼らの回収をし
  て荼毘に伏してやれば良いのに・・・」 

 「そんな事は連中はしないさ」

 「どうしてです?」

 「死体に選挙権は無いからな」

 「笑えませんね」

警戒部隊のパイロット達がそんな話をしている時
に突然、残骸で無人のはずの軍艦が発砲を開始し
たり、MAが爆発し始めた。

 「何だ?敵襲か?」

 「海賊か?テロか?」

警戒部隊は発砲を開始したり爆発した残骸の近く
に集結を開始するが、これは警戒網に穴を開ける
愚かな行為であった。 

 「まずい!各自、持ち場に戻れ!」

ベテランの小隊長が敵の意図に気付いた瞬間に自
分達の横を十機あまりのモビルスーツ隊が通常で
はありえない高速ですり抜けて行く。
どうやら、「ワシントン」を目指しているらしい

 「あれは、(ストライク)と(デュエル)のは
  ずなのに、何てスピードだ・・・」  

そのモビルスーツの集団は前方で阻止線を張った
六機の「ダガーL」を正確な射撃で一瞬で始末し
てから、脇目も振らずに目標に突き進んで行く。

 「ええい!喰らえ!」

後ろから「ダガーL」の小隊がビームライフルで
射撃を加えると、「ストライク」を取り囲んでい
る「デュエル」が光波シールドを発生させてその
ビームを弾いた。

 「なっ!光波シールドか!」

モビルスーツの集団は脇目も振らずに一直線に「
ワシントン」を目指していく。

 「駄目だ。もう追いつかない!(ワシントン)
  に連絡を入れろ!敵のモビルスーツが十機ほ
  どそちらを目指して突撃していると、モビル
  スーツの機種は(ストライク)と(デュエル
  )で恐ろしいほど高速だが、敵の意図は全く
  持って不明だ。そう連絡しろ!」

即座に「ワシントン」に報告が上がり、艦隊はパ
ニックに陥った。  


 「第一段階は成功だな」

 「ですね」

二機の「ストライク」高速機動パック装備は核弾
頭を収納したケースを二機で抱えながら高速で移
動していた。
そして、その周りをクローン兵が乗った「デュエ
ル」が取り囲んでいる。

今回の作戦で使われている「ストライク」高速機
動パックなる物の説明をすると、要は既存の「ス
トライク」に大型の高速ブースターとそれのエネ
ルギー源である大型バッテリーを搭載しただけの
代物であり、「デュエル高機動型」もコンセプト
はまるで一緒であった。
他の特徴としては、一回きりの作戦で使う特攻機
なのでフェイズシフト装甲は使用せず、対ビーム
コーティングを施した装甲を全身に使用してバッ
テリーの消費を抑えている。
そして、更に省エネを進める為に、武器は進行上
の敵を排除する為のビームライフルのみでビーム
サーベルすら装備していない。
どうせ、高速で移動するから必要無いだろうとい
う判断である。
ただ、例外として「デュエル」には光波シールド
が装備され、パイロットのクローン兵は自分が犠
牲になっても、二機の「ストライク」を守るよう
に命令されていた。  

 「さあ、(ワシントン)が見えてきたぞ!」

 「後、少しだ。持ってくれよ」

二人は祈りながら最後の突撃を開始した。


(同時刻、「ワシントン」艦内)

今まで得意満面の表情で演説をしていたノース中
将は突然の敵襲の報告ですっかり舞い上がってし
まっていた。
それは、パリス少将も同様で、実戦経験の無い軍
官僚上がりの脆さを露呈していた。
勿論、指揮官の思考が停止している間にも、艦隊
の直上からモビルスーツ隊は高速で迫っていた。

 「いかがなさいますか?」

実戦経験のある「ワシントン」の艦長がノース中
将に指示を請うが、彼は一言も発しない。

 「敵はわずか十機のモビルスーツですが」

 「・・・・・・。ああ・・・、そうだな。モビ
  ルスーツ隊と艦艇の火器で撃墜しろ!」

ようやく、立ち直ったノース中将の命令を受けて
各艦が射撃準備を開始するが、それは緩慢なもの
であった。

 「何で、もっと撃たないんだ!」

 「二年前まで戦争をしていた国も参加するのだ
  。艦艇の火器は最初の数発は模擬弾や空砲を
  詰めておけ。モビルスーツにも訓練用の武器
  以外は持たせるな。全部、司令官の命令です
  。万が一、敵の襲撃があっても海賊が関の山
  だ。警備のモビルスーツ隊で十分に事は足り
  る。私が反対意見を述べた時に司令官が仰っ
  た言葉です」

 「早く、実弾に変えろ!」 

ようやく、火器が多数発射されて三機の「デュエ
ル」が爆発するが、敵の全滅にはまだ時間が掛か
りそうだ。

 「モビルスーツ隊は?」

 「あの弾幕の中に飛び込ませたら味方のビーム
  で殺されてしまいます」 

艦長は実戦を知らない上官とはこんなものなのか
と呆れてしまう。

 「敵が止まったな」

 「チャンスだ!」

止まったモビルスーツ隊に攻撃が集中するが、「
デュエル」が前面に出てその攻撃を光波シールド
で防ぎ続ける。
そして、止まった敵のモビルスーツが筒のような
物からミサイルらきしき物を発射した。
遂に、核弾頭は発射されたのだ。


大艦隊の集中砲火を受ける直上の位置で数秒とは
言え、止まらないといけないというのはかなり心
臓に悪かった。
だが、照準を合わせないと「ワシントン」には命
中しない。
我々の目標はあくまでも総旗艦「ワシントン」な
のだから。
ラドフ達がロックオンをかけている数秒で更に三
機の「デュエル」が爆発する。

 「よし!行け!奥様、作戦は何とか成功です。
  先に地獄で・・・」

 「パリス大佐さんよ!先に地獄で・・・」

二人がそこまで言ったところで「ストライク」と
残り二機の「デュエル」の対ビームコーティング
装甲に限界が来て全機が爆発する。
死の瞬間、二人が最後に感じた事は任務達成の喜
びだけであった。


 「よし、全機撃墜だな」

突然の奇襲ではあったが、全機撃墜に成功して「
ワシントン」艦内は安堵の表情に包まれていた。
彼らは何かミサイルの様なものを発射したようだ
が、それは他の艦艇の火器で始末が付くだろう。
そう思っていた所に絶望的な報告が届く。

 「大変です!ミサイルは核弾頭です」

 「何!撃ち落すな!爆発する!いや!撃ち落さ
  ないと・・・」

ノース中将がそこまで言った所で核弾頭がビーム
砲で撃墜され、その爆発と同時にその破壊力を発
揮しだした。
核ミサイルが撃ち落されたのは「ワシントン」直
上500メートルの地点であり、これでは爆発の
被害を防げない。

 「そんな・・・ばかな・・・」

この事件を誘発した要因の一つでもあるパリス少
将の最後の言葉は貧弱なものであり、その言葉を
発した直後に「ワシントン」を中心とした艦隊は
核の爆発に巻き込まれた。  


(同時刻、ザフト軍艦隊旗艦「ホープ」艦内)

大西洋連邦軍以外の艦隊には少数の敵らしきモビ
ルスーツ隊が「ワシントン」を目指して突撃中と
いう報告が入っていたが、その規模や目的などわ
からない事が多く、対応に苦慮していた。

 「ユウキ司令、どうしましょうか?」

 「どうも、こうも臨戦態勢に移行しろ。次があ
  るかも知れないのだから」

 「全艦、第一種戦闘配置!」

参謀の一人が全艦艇に臨戦態勢に突入するように
指示を出す。 

 「少数のモビルスーツらしいですから、すぐに
  落とせると思いたいのですが・・・」

 「例え事故と言えども、万が一にも誤射事件が
  起こったら大変だ。警備は艦隊の周りの警備
  隊が責任を持って行うので、艦の砲塔やミサ
  イル発射管、直衛のモビルスーツ隊には実弾
  を持たせないようにお願いする。こんなバカ
  な事を言う連中だぞ。今頃苦戦しているさ。
  大体、そんなに我々が信用出来ないのならこ
  んな観艦式行わなければ・・・」

そこまで言った所で、「ワシントン」の方向から
眩いばかりの光が発生して、大西洋連邦艦隊側に
位置していたザフト軍艦をも飲み込み始める。

 「バカな!あれは核の光!」

光は数十秒で収まったが、その後は爆心地から多
数の艦艇やモビルスーツらしき破片が飛んでくる

 「ええい!核爆弾を使ったテロか!ここは宇宙
  空間だから、多数の破片が飛んでくるぞ!大
  きいものには注意しろよ!それと、臨戦態勢
  に急いで移行して、損害も急いで取り纏めて
  報告しろ!それと、他国の艦隊とのチャンネ
  ルを繋げ!次が無いとは言い切れないからな
  !」

 「あの、大西洋連邦軍と連絡を取るのですか?
  」

 「アホ!向こうは全滅だろうが!隣りのオーブ
  軍艦隊が一番最初で次がマダガスカル共和国
  軍、南アメリカ合州国軍、スカンジナビア王
  国軍、イスラム連合軍、アフリカ共同体軍の
  順番で連絡を入れて連携を強化するんだ」

ユウキ司令の的確な指示でザフト艦隊は体制を建
て直し始めるが、被害は深刻なようだ。

 「(エターナル)のシグナルロストです。ペン
  ター司令と幕僚は全滅の模様」

 「オハラ隊、マードック隊、ベンター隊、ウラ
  ンフ隊から連絡が来ません。全滅の模様です
  」

 「大西洋連邦艦隊側にいた艦艇から救援要請が
  多数来ています」

「ホープ」の無線には被害を受けた各国の艦艇か
らの応援要請が多数入ってきていて、その被害は
深刻なようだ。
だが、どの国の艦隊も自国の艦艇が最優先で一番
被害を受けたと思われる大西洋連邦艦隊に応援を
回す余裕が無かった。

 「大まかでいいから被害を報告しろ!」

 「三分の一の艦艇が戦闘不能です」

 「ちくしょう!戦争でも無いのに大損害を・・
  ・」

 「オーブ軍艦隊のロンド・ミナ・サハク中将か
  ら連絡が入ってきています」

 「繋げ!」

 「ユウキ司令、そちらはどうだ?」

「ホープ」のブリッジ正面の大型スクリーンに困
惑した表情のミナが映し出される。

 「三分の一がやられた」

 「うちも同じ位の損害が出ている。他国も10
  %〜20%ほどの損害が出ているようだ」

 「大西洋連邦艦隊はもはや組織として機能して
  いないようだし・・・」

 「生き残った我々で戦力を纏めてから救援に向
  かう。これしかあるまい」

 「そうだな。反対側の艦隊は極東連合の小沢海
  将が上手く取り纏めている事を期待するか」 

二人がそこまで話した所で驚愕の報告が飛び込ん
で来た。

 「大変です!ユーラシア連合艦隊が突然、攻撃
  を仕掛けて来ました!」

 「ミナ殿!どういう事なんだ?」

 「さあな。だが、上手く動かないと混乱を突か
  れて我々は全滅する可能性がある・・・」

 「モビルスーツ隊にビームライフルを射出しろ
  !各艦、死にたく無かったら早く体勢を整え
  るんだ!」

突然の核攻撃とユーラシア連合軍の奇襲で混乱は
更に広がりつつあった。


(同時刻、極東連合艦隊旗艦「むさし」艦内)

時を同じくして、核の光は「むさし」艦内からも
目撃されていた。

 「よりにもよって核攻撃かい!損害を早く報告
  しろよ!」

小沢海将の大声が「むさし」艦内に響き渡る。

 「(むつ)のシグナルロストです。第三分艦隊
  司令の西村海将補とその幕僚は絶望と思われ
  ます」

 「(いせ)のシグナルロストです。第四分艦隊
  司令の早川海将補とその幕僚も絶望と思われ
  ます」

「むさし」艦内に無線で次々と報告が上がってく
るが、その被害は深刻であった。

 「それで、大まかな被害は?」

 「全艦艇の32%が戦闘不能です」

 「ちくしょうが!どうせ、向こうのザフト艦隊
  も同じような状況なんだろうな。赤道連合軍
  、大洋州連合軍、西アジア共和国軍と連絡を
  絶やすなよ」

連絡が取れた各国の艦隊も15%〜25%ほどの
被害を受けていてその損害は同じく深刻だった。

 「東アジア共和国の連中は何か言っているか?
  」

 「いえ、何も・・・」

 「一番端にいてラッキーだったな。被害なんて
  ほとんど無かったんじゃ・・・」

 「大変です!東アジア共和国艦隊がモビルスー
  ツ隊を射出中です。我々に攻撃を開始しまし
  た!」

 「そう言う事かい!各自、応戦しろ!死にたく
  無かったら手を動かせよ!」

東アジア共和国艦隊の奇襲で混乱は更に広がりつ
つあった。


(核爆発直後、ユーラシア連合艦隊旗艦「ナポレ
 オン」艦内)

観艦式に参加する為に編成されたユーラシア連合
軍宇宙艦隊旗艦のブリッジ内には血と硝煙の匂い
がたち込めていた。
突然、左腕に赤いスカーフを巻いた兵士達が乱入
、ブリッジクルーを殺害して艦を乗っ取ったから
だ。

 「これは・・・。どういう・・・」

唯一生き残った艦隊司令官マンシュタイン大将は
参謀長のドゴール少将を弱々しく問い質すが、彼
の左腕にも赤いスカーフが巻かれていた。

 「大した事ではありませんよ。主だった全艦艇
  で同じ様な事が行われています。反対側の東
  アジア共和国艦隊でも同じ事が起こっていま
  す。我々は祖国の栄光を取り戻す為に立ち上
  がったのです」

 「反乱行為の何処が栄光なんだ!」

 「この艦隊の指揮権を掌握したら、敵に攻撃を
  開始するのですよ」

 「バカな!軍が政府のコントロール下を離れて
  勝手に攻撃をするだと!そんな事をしたら、
  ユーラシア連合は・・・」

 「我々は壊滅するでしょうな。数が圧倒的に少
  数ですから。ですが、各国の宇宙軍は大混乱
  に陥ります。その間に本国が混乱を回復させ
  てから、祖国の再統一を果たした東アジア共
  和国の連中と共同してユーラシア大陸を二分
  する約束になっています」

 「近年、聞いた中では最高のジョークだよ!ド
  ゴール少将」

 「今、軍の同志が政府施設の占拠と政府首脳の
  逮捕を執り行っています。つまり、我々は正
  規軍になるのです」

 「そんな事をしたら、あの方達が・・・」

 「ロゴスの皆さんですか?大丈夫ですよ。全員
  拘束して静かな場所でお休みしていただく予
  定になっていますから。と言っても、殺した
  りはしませんよ。生きたキャッシュディスペ
  ンサーになって貰うつもりですから」

 「何でロゴスを知っている?お前の様な小物が
  ・・・」

 「ある方から教えていただきましてね。そんな
  わけで、我々フランス系将校とロシア系将校
  は立ち上がったわけです。せっかく、先の大
  戦の責任を取らせて左遷したのに、もう逆転
  されてしまいましたね。ドイツ系将校のマン
  シュタイン閣下」 

 「もう、終わりだ・・・。ユーラシア連合は滅
  ぶ・・・」

 「そんな事をあなたが心配する必要はありませ
  んよ。だって、ここで死ぬのですから」

ドゴール少将が拳銃の引き金を引くと、マンシュ
タイン大将の意識は永遠に消滅してしまう。

 「ふん、無能なジジイめ!各艦の把握は終了し
  たか?」

 「終りました」

 「では、(ハイペリオン)隊発進だ!目標はザ
  フト軍艦隊とオーブ軍艦隊。小物は無視して
  構わん」

ユーラシア連合艦隊の攻撃とほど同時に、東アジ
ア共和国艦隊の極東連合艦隊への攻撃も開始され
て、事態は更なる混乱を迎えようとしていた。


(同時刻、「ミネルバ」艦内)

 「おいおい、冗談だろう?」

艦内の主だった連中とテレビ中継されていた観艦
式の様子を眺めていた俺達に衝撃が走った。
「ワシントン」を少数のモビルスーツ隊が襲撃し
ていると言う情報を最後に、観艦式が行われてい
る方角からの核爆発らしき光が発生したからだ。

 「他の艦との回線を繋げ」

俺は状況を確認する為に、各艦と回線を繋いだが
、どの艦艇でも状況は同じ様子だった。

 「バジルール司令はどう思います?」

 「核爆発の中心地が(ワシントン)だとしたら
  、大西洋連邦艦隊はほぼ全滅ですね」

 「救援に行きますか?」

 「行きたいですね」

 「では、行きましょう。長谷川司令は極東連合
  軍艦隊の支援に向かうでしょうから、俺達と
  は別行動になりますか?」

 「そうだな。自分の国の艦隊が気になるな」

 「トダカ司令は我々と一緒にどうですか?幸い
  、艦隊は隣り同士ですし」

 「そうだな。それが良さそうだ」

 「では、救援に出発だ!」

俺達は全速力で自国の艦隊の救助に向かうが、目
的地に近付くにつれて戦闘の光が見えてきた。

 「何で、戦闘なんか・・・」

 「暗号で特文が入っています。(我、ユーラシ
  ア連合軍艦隊の奇襲を受ける。(ミネルバ)
  は後方からユーラシア連合の艦隊を攻撃せよ
  )以上です」

 「メイリン、ユーラシア連合軍艦隊の旗艦の情
  報を!」

 「はい!旗艦はネルソン級戦艦の(ナポレオン
  )です。指揮官はマンシュタイン大将となっ
  ています」

 「全機、出撃だ!ディアッカ、全モビルスーツ
  隊の指揮を執れ!」

 「了解です」

 「シンも出撃だ。コアスプレンダーにて待機せ
  よ」

 「了解!」

 「シン、どのシルエットを射出させるかはお前
  に任せる。自分でよく考えてメイリンに指示
  を出せ。メイリンもいちいち俺やアーサーさ
  んにお伺いを立てなくても良い。スピードが
  命だからな」

 「了解しました」

 「俺も(グフ)で出るが、(ミネルバ)の直衛
  に回るからな。攻撃隊は全機ディアッカの指
  示に従う事!いいな?」

 「「「「「了解です!」」」」」

俺は全員に大まかな指示を出した後、「アマテラ
ス」と連絡を取る。

 「アスラン、お前達はどうするんだ?」

 「我々もミナ中将からユーラシア連合軍艦隊へ
  の攻撃命令が出ています。ここは共同で行き
  ましょう」

 「そうだな」

 「俺も(ムラサメカスタム)で出ます」

 「当然、俺も出るから」

ハワード三佐がアスランに続けて言う。

 「これで、どうにか纏まった戦力になるか」

 「そうですね。泥縄ですけど」

 「それが俺達の宿命かも知れないな」

俺達は各自、モビルスーツに搭乗して発進を待つ
事にした。

 「みんな、久し振りの実戦だけど大丈夫か?」

 「大丈夫ですよ」

 「大丈夫です」

 「私も大丈夫です」

 「うん、大丈夫」

 「そいつは結構」

俺が新人達の緊張をほぐしていると、一番手でデ
ィアッカが発進した。

 「ディアッカ・エルスマン。(セイバー)、発
  進するぜ!」

 「ステラ・カザマ。(ガイア)発進します」

 「ルナマリア・ホーク。(アビス)、出るわよ
  !」

 「レイ・デュランダル。(カオス)発進する」

 「メイリン、ブラストシルエットでいく!シン
  ・アスカ。コアスプレンダー行きます!」

 「そうか。最初に火力で穴を開けるのか」

俺がシンの考えを予想していると、続いて「セン
プウ改」の小隊も出撃して行く。
「ミネルバ」からはモビルスーツが八機、「アマ
テラス」からは九機の「ムラサメ」が出撃して、
アスランとハワード三佐が指揮を執っていた。

 「俺は(ムラサメ)一個小隊と艦の護衛にあた
  る!アーサーさん、(ミネルバ)の方は頼み
  ますよ」

 「任せてくれ!コンディションレッド発令!ブ
  リッジ遮蔽!対艦・対モビルスーツ戦闘用意
  !」

 「コンディションレッド発令!ブリッジ遮蔽!
  対艦・対モビルスーツ戦闘用意!」

アーサーさんの命令をメイリンが復唱する。

 「さあて、敵は大物揃いだぞ。タンホイザー起
  動!トリスタン、イゾルデ発射用意!ミサイ
  ル発射管にナイトハルト装填!」

アーサーさんの命令で「ミネルバ」は戦闘準備を
終え、隣りの「アマテラス」も各武装の発射準備
を整えた。

 「やれやれ、(アークエンジェル)級も(アマ
  テラス)級も(はりま)級も(ミネルバ)そ
  っくりだな。運用思想が同じだと兵器は類似 
  するものだとは聞いていたが・・・」

 「ですよね。じゃあ、俺も出ます。ヨシヒロ・
  カザマ。(グフイグナイテッド)発進する!
  」

俺は「グフ」を発進させて「ミネルバ」の護衛に
就いた。
最新鋭艦と新型モビルスーツを披露する華々しい
観艦式は核の炎に焼かれ、俺達の部隊の初お披露
目の舞台は血生臭い戦場へと変わっていく。
後年、歴史家が「これは、戦争では無い。理由は
核攻撃はテロリストの犯行だし、ユーラシア連合
軍艦隊と東アジア共和国軍艦隊は反乱軍に指揮さ
れていたからだ」と語ったらしいが、終戦から二
年、俺達は再び戦場の渦に巻き込まれていくので
あった。       


          あとがき

次は後編です。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI