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「これが私の生きる道!運命編プロローグ? (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-05-08 13:09/2006-05-10 14:22)
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(コズミックイラ73、6月下旬、プラント本国
 ザフト軍本部内)

何時もの様にアカデミーで生徒達の指導を終えた
俺は突然、エザリア国防委員長の呼び出しを受け
て軍本部を訪れていた。

 「失礼します」

 「ご苦労様。随分と熱心に指導しているらしい
  わね」

 「彼らが早く一人前になってくれれば、俺は安
  心して除隊出来ますから」

 「本当に除隊するつもりなのね」

 「ええ。私は小さい会社を自分で経営するとい
  う夢に向かって、日々努力しているわけです
  よ」

 「アカデミーの卒業式まで後二ヵ月。あの悪ガ
  キ達の面倒は見なくていいのかしら?」

 「それは、責任を持って」

 「それならいいわ。いくつか内密な話があるか
  ら、秘密の厳守をお願いするわよ」

 「わかりました」

 「まず第一に、あなたをフェイスに任命して議
  会直属の特務隊に編入します」

 「私をですか?」

 「ええ、これから色々忙しくなるかも知れない
  から念の為にね」

 「忙しくなる?今すぐに問題になるような、戦
  争の火種があるとは思えませんが?」

 「戦争の火種は無いわよ。多分・・・」

 「多分?」

 「詳しい情報は彼らがしてくれるわ」

エザリア国防委員長は二人の男性を自室に呼び寄
せる。
一人はお馴染みのデュランダル外交委員長で、も
う一人は目の下の隈が目立つ若い男性であった。

 「デュランダル外交委員長は当然知っているわ
  ね。もう一人は特殊部隊を率いているヨップ
  隊長よ」

 「ヨップ・フォン・アラファスです」

 「ヨシヒロ・カザマです」

 「知っているさ。歌姫の旦那様だものな」

 「では、報告を始めようと思う」

デュランダル外交委員長が話を切り出した。

 「実は一ヶ月前ほどから世界中で異常な出来事
  が発生しているのを君は知っているかね?」

 「異常な出来事ですか?」

 「まずはこれだ」

デュランダル外交委員長が部屋の大型スクリーン
に映像を映した。
場所は地球のジャングルらしき所のようだが、画
面内には数機のモビルスーツが破壊されて倒れて
いた。

 「南米ですか?」

 「そうだ。お馴染みの麻薬の栽培と密輸に関わ
  っていたゲリラを掃討した時の映像だが、お
  かしいと思わないかね?」

 「そういえば、見た事のあるような?無いよう
  なモビルスーツが・・・」

 「その機体は大西洋連邦で配備が開始された(
  ウィンダム)という最新鋭機だ」

 「ええっ!犯罪組織に新鋭機を横流しですか?
  いくらなんでもそんな無茶な事を・・・」

 「そう、無茶な事だ。普通ならありえない。何
  しろ新鋭機だしな」 

 「普通ならですか?」

 「もう一枚見て貰いたい映像があるんだ」

そう言ってデュランダル外交委員長はスクリーン
の映像を切り替えた。
そこはアフリカのサバンナらしき所で、同じく数
機のモビルスーツが破壊されて倒れていた。 

 「M−1に似てますね」

 「実はオーブで試作はされたが、採用は見送ら
  れたというM−兇噺世Ε皀咼襯后璽弔澄

 「今度は不採用機ですか」

 「M−兇脇鶺,靴製作されていないとの事だ
  から、あの数はありえないだろう?第一、オ
  ーブが友好国であるアフリカ共同体に反旗を
  翻した組織に武器を援助するとも思えない」

 「大西洋連邦も数機の新鋭機を横流して再び南
  アメリカ合衆国との仲を拗らせるとも思えな
  いですか?」

 「事実、両国共自分達がやった事では無いと否
  定しているからな」

 「政府はシロでも企業側はどうなんです?」

 「そちらも調べたがシロだそうだ。第一、そん
  な危ない橋を渡らなくても民生品で十分に儲
  かるんだ。そんな無茶をしないだろう?普通
  は」

 「では、普通ではない組織がバックについてい
  ると?」

 「それについてはヨップ隊長から報告して貰い
  ましょう。ヨップ隊長、お願いしますね」

 「はい。実はこの二件の事件後、大西洋連邦の
  情報部の動きが大変活発になっています。あ
  る人物の捜索を開始というか、大々的にしか
  も内密に開始したようです」

 「誰をですか?」

 「アズラエル理事の愛人とその婚外子です」

 「愛人と隠し子ですか。財団の理事ともなれば
  一人や二人はいたんでしょうが。何で今にな
  って・・・」 

 「実は、アズラエル理事の死後に大西洋連邦政
  府が財団の財産を接収したのですが、その財
  産の収支報告が赤字だったらしいのです」 

 「えっ、それはありえないでしょう」

アズラエル財団はその権力を使ってかなりの富を
築いたはずだ。
当時、大西洋連邦が戦時国債の大量発行と戦前の
対プラント貿易の富を軍備拡張に使って赤字財政
に苦しんでいた時に、大量の兵器発注で恐ろしい
額の利益を上げていたと俺は記憶している。

 「アズラエルの愛人の名前はエミリア・アズラ
  エル。昔は奴の帝王学の家庭教師をしていた
  女です。その家庭教師がいつの間にか愛人に
  なり子供を生んでいたが、彼には婚約者がい
  て結婚は無理であった。その為に、彼女を自
  分の父親の養子にして義理の姉として一族に
  加えた。良くある話ですよ」

 「世間的には義理の姉である愛人と義理の姪に
  当たる娘か・・・」

 「アズラエル理事は本妻には財団の経営には一
  切関わらせていなかったのですが、エミリア
  には絶大な信頼を寄せていて、彼女が財団の
  財産管理をしていたのです。その他にも、彼
  女の息がかかった若手社員達が全員行方不明
  でして・・・」

 「若手社員なら幹部では無いから捜査の手も及
  びにくいか」

 「彼女自身はアズラエル理事の事を愛していた
  ようですね。結婚は出来ませんでしたが、一
  族に入れてくれた事を相当感謝していたよう
  です。彼女自身も優秀で、アズラエル理事の
  信頼を勝ち取って財団の財産管理を通じて裏
  の汚い部分まで全部把握していたようです」  

 「そこまで知っていても、彼の敵を取る為に暗
  躍を開始したと」

 「大西洋連邦は所詮、愛人と若造達とタカをく
  くっていたようですが、今回の南米とアフリ
  カの件で焦り始めたようですね」

 「何とかしないと、責任問題に発展しかねない
  か・・・」

 「エミリアは優秀で忠実な子飼いの部下を育成
  する為に、孤児院から身寄りの無い子供を多
  数引き取って自分で教育してきました。その
  子供達が若手の優秀な幹部として今のエミリ
  アを支えているようです」

 「でも、彼らに居場所なんてあるんですか?一
  応、指名手配犯なんでしょう?」

 「当然、彼らに協力というか黙認している連中
  がいます」

 「誰なんです?」

 「ユーラシア連合と東アジア共和国の連中です
  」

そうなると話は簡単だ。
戦力の大量喪失と構成国の大量離脱でジリ貧の両
国がエミリア達を極秘裏に受け入れて、その資金
と技術力を利用する。
もし、上手くいけば再び大国に返り咲き出来て万
々歳だが、失敗したら自分達で処理して体裁を保
ち、その財産と技術のみを頂く。
追い詰められているとはいえ、非常にコスイ手段
である。 

 「その件と私のフェイス任命に何の関係がある
  んですか?」

 「彼女の目的はまだ不明ですが、世界の紛争地
  域で頻繁にあの様な兵器が出てきたら被害が
  拡大してしまうから、その時にはあなた達が
  戦力を率いて討伐する為によ」

 「私達がやるんですか?それは、現地の政府軍
  に任せた方が・・・」

 「そうは言うけど、南米では五機の(ウィンダ
  ム)を倒すのに南アメリカ合衆国軍のモビル
  スーツ隊に二十一機も損害を出してしまった
  のよ。しかも、彼らではどうにもならなくて
  、例の(南米の英雄)が(ピンクの死神)と
  共同して倒したらしいわ」

「南米の英雄」とは南アメリカ開放戦争で連合軍
のモビルスーツを多数血祭りにあげた、「切り裂
きエド」ことエドワード・ハレルソン少佐の事で
ある。   

 「アフリカも同様よ。七機のM−兇鯏櫃垢里
  アフリカ共同体はモビルスーツ隊に二十四機
  の損害を出し、挙句に戦力が足りなくなって
  極秘裏にバルトフェルト司令官が自分で出撃
  して倒したらしいわ。以上の様に数は少数で
  エミリア達に国が占領されたりする事は無い
  と思うけど、せっかく落ち着きつつあるこの
  世界が再び騒乱状態に陥るのを防がなければ
  ならないわ」

 「それと、もう一つあります。例のモビルスー
  ツに乗っていたパイロットは全員コーディネ
  ーターである事が確認されています。しかも
  、全員同じ顔をした推定十三〜十五歳くらい
  の少年でした。と、ここまで言えばわかりま
  すよね」

ヨップ隊長の報告に全員の表情が固まってしまう

 「このテロを起こしているのはコーディネータ
  ーだ。だから、彼らを倒して驚異を取り除か
  ねばならない。そのメッセージを各国の首脳
  に伝える為。そして、エミリア達は戦闘用の
  クローンコーディネーターを大分前から開発
  していた・・・ですか?」

 「ブルーコスモス強行派の残存勢力や逮捕を逃
  れた連中がエミリアに力を貸しているようで
  す。それと、クローンコーディネーターは先
  の大戦では幼すぎて使えなかったようですね
  」

 「頭の痛い話ですね」

 「ここ一週間あまりは何も無かったけど、これ
  から何が起こるのか予想もつかないわ。エミ
  リア達の本拠地と彼女達の目的は引き続きヨ
  ップ隊長に探って貰うとして。あなたは十月
  を目処に部隊を編成して、来週から新国連に
  詰めて貰う事になったデュランダル外交委員
  長からの指示で各地を回ってもらう事になっ
  ています」

エザリア国防委員長の話によると、俺達は即時対
応部隊として各国の要請を受けた時やプラント評
議会の命令で各地に派遣されるようだ。 

 「それは、構いませんが。何故、十月なんです
  か?」

 「あなたには新鋭艦と新型モビルスーツを装備
  した部隊を率いて貰うからよ。艦はまだ完成
  していないし、モビルスーツもまだだし人員
  とパイロットの選定もまだなの。それを今か
  らあなたにやって貰おうと思って」

 「教官業と兼任ですか」

 「お願いね」

 「了解しました」

 「大まかな話はこれで終わりね。何か質問は?
  」

エザリア国防委員長の言葉にデュランダル外交委
員長が反応する。

 「私は新国連にずっと居なければいけないので
  すか?」

 「それは、いつかは代理の人間が着任するでし
  ょうが」

 「そんな!地球に降りたら、私の可愛い(レミ
  )に毎日会えなくなってしまう!」

 「生まれたばかりの娘さんが可愛いのは理解出
  来ますが、仕事をして下さい!第一、これは
  私の命令では無くて、カナーバ議長の命令で
  しょうが!」

エザリア国防委員長を始めとして俺とヨップ隊長
の心はどんよりと暗くなってくる。
去年、タリアさんは子供を出産したのだが、その
子が初めての娘であった事がデュランダル外交委
員長を変えてしまったのだ。
彼は娘を異常に可愛がり、タリアさんに「(レミ
)に構いすぎです!」と怒られても気にも留めな
いらしい。

 「そうだ!(レミ)を連れて行こう!」

仕事をしている時は優秀なままなのだが、娘が絡
むと発言と行動がおかしくなる。
以前、「そんなに可愛がっていたら、結婚する時
大変ですね」と発言した外務省の職員がシベリア
共和国の大使館に飛ばされたという噂まであるほ
どなのだ。

 「無理ですから。第一、タリアさんを説得出来
  るんですか?」

 「出来ないが、私の可愛い(レミ)がーーー!
  」

 「イザークがあんな風にならなければいいけど
  ・・・」

 「私もこの任務が終ったら結婚を考えようかな
  ・・・」

 「・・・・・・・・・」

俺はただ絶句するのみであった。


(翌日の午後、軍本部内の空き部屋)

翌日の午後、アカデミーで指導を終えた俺はこの
空き部屋のドアに「カザマ隊仮司令部」の張り紙
をしてから部屋の中に入る。

 「昔を思い出すな」

書類を眺めながら独り言を言っていると、ドアが
ノックされる。

 「おー!入れや」

俺が許可を出すと、ドアが開いてディアッカが入
ってくる。

 「誘っていただいて感謝してますよ」

 「隊長格のお前に格下の任務で悪いな」

 「俺は楽しければOKです」

俺の最初の仕事は幹部要員の確保だった。
まず、最初に新造艦の艦長は艤装委員長が馴染み
のアーサーさんだったので、そのまま留任させる
事を決めた。
本当はタリアさんにお願いしようかとも思ったの
だが、お子さんがまだ小さかったので止めにした
のだ。
それに、アーサーさんはタリアさんより艦長とし
ての能力は少し落ちるかも知れないが、彼には乗
船した船が沈まないというジンクスが存在した。
実は先の最終決戦の折、演習では良く沈んでいた
「フューチャー」がほとんど無傷で生き残った上
に、彼が新人の頃から乗船していた船で戦没艦は
一隻も無いという強運の持ち主であった。  
新造艦で新型モビルスーツを運用して特殊な任務
に就くのだ。
俺はその運の良さに賭けたかった。

次に、モビルスーツ隊のパイロットの人事だが、
数種類の新型機を指揮する難しさから、俺の下に
ベテランの編隊長を置く事を決めた。
本当は次の移動で隊長になる予定だったディアッ
カに無理を言って来て貰ったので、彼は今ここに
いるのだ。

 「隊長(フェイスで司令官格)の俺と副隊長兼
  艦長(副司令官格)のアーサーさんとモビル
  スーツ隊隊長(隊長格)のディアッカで決ま
  りか」

権限は持っているが、俺の隊は一艦のみの特殊部
隊なので指揮する戦力は小さかった。

 「俺も一応は隊長格の扱いなんでしょう?」

 「ああ。だが、本当ならお前もナスカ級の戦艦
  を旗艦にして三十機近くのモビルスーツ隊に
  命令出来る権限を持てたのに俺が引き抜いて
  しまったからな」

 「俺はこっちの方が断然面白いと思いますけど
  」 

 「そう言って貰えると助かるな」

 「それで、他の人事はどうなってます?」

 「ブリッジ要員はアークエンジェル時代と変わ
  らないよ。アーサーさんが引き抜いたらしい
  。ただ、アビーちゃんは結婚してザフト軍を
  辞めてしまったから、管制官はメイリンにお
  願いする事にした」

 「えっ!メイリンですか?いきなり新人で大丈
  夫ですか?」

 「大丈夫だろう。彼女ああみえても、管制科で
  主席をキープしているんだぜ」

 「俺より優秀ですね」

 「俺よりも優秀だ」

アカデミーで四位だったディアッカと五位だった
俺には主席は眩しく見えるのだ。 

 「整備班長はエイブスさんにお願いする。何し
  ろ、整備性が未知数の新型機が多数だ」

 「エイブス班長なら安心出来ます」

カザマ隊の影の功労者であるエイブス班長の信頼
は絶大なものがあるからだ。

 「下にヨウランとヴィーノをつけて鍛えて貰う
  し」

 「あいつらも大変そうですね。それで、パイロ
  ットは誰なんです?」

 「候補者のリストファイルを貰っているから、
  機体の性能書と照らし合わせて決めようぜ」

俺とディアッカは椅子に座って机の上で極秘のス
タンプが押された書類を眺め始める。

 「俺達の新しいレディーの名前は(ミネルバ)
  か。でも、あれだね。(アークエンジェル)
  に似てるな」

 「ですね。大西洋連邦に返した事を未練に思っ
  ているんですかね?」

実は、大西洋連邦との講和条件を詰めている時に
一番始めに出された条件が(アークエンジェル)
の返還であった。
この艦は既存の艦に比べると洒落にならない位の
建造費が掛かっているというのが理由であるらし
い。
事実、他の艦艇に対しては返還要求は出ていない
し、返せと言われても同盟国に売却されていたり
、輸送艦やその他の特務艦等に改造されているの
で返せないのが実情だったのだが。

 「この真ん中の発射口は何ですか?」

 「次世代のモビルスーツシステムを利用した新
  型モビルスーツの発進口だ。つまり、(ミネ
  ルバ)は新しいモビルスーツシステムの試験
  艦というわけだな」

俺は新型モビルスーツ「インパルス」の仕様書を
ディアッカに手渡した。

 「えっ!空中で合体するんですか?無茶します
  ね」

 「背中の武装パックは(ストライク)の改良だ
  と言うのは理解出来るし、軍縮条約の影響で
  一機で多目的の使用を考慮した機体だと言う
  のも理解出来る。現に、新型量産機の(ザク
  )もこのシステムを採用しているからな。だ
  が、空中で合体させるなんて無茶だ。俺なら
  合体直前を狙って撃破する」

 「でも、命令なら・・・」

 「そうだ。俺達は与えられた装備で戦わないと
  いけない。今は戦闘なんてほとんど無いけど
  ね」

 「海賊やゲリラと戦って実戦テストを済ませろ  
  って事ですかね?」

 「それもあるが。ディアッカ、秘密は厳守しろ
  よ。俺の独断で話しているんだからな」

俺は昨日、エザリア国防委員長から聞いた話をデ
ィアッカにも聞かせてあげた。

 「つまり、何があってもいいように実戦可能な
  までに仕上げろと?」

 「そう言う事みたい」

 「イーザクの母ちゃんも人使い荒いですね」

 「だよな」

仕方が無いので、俺達は他の新型機の仕様書とパ
イロットのリストファイルを見比べながら候補を
絞っていく。

 「(インパルス)は難しい機体だな」

 「そうですね。若いパイロットの方が良いかも
  知れません」

 「じゃあ、シンでいいや」

 「えっ!新人にやらせるんですか?」

 「新人と言っても実戦経験あるし、オーブでは
  (シップウ)を短期間で乗りこなしただろう
  。それに・・・」

 「それに?」

 「シンが新型機で苦労するのは宿命だからな」

 「・・・・・・・・・」

 「次は(セイバー)か。変型モビルスーツで空
  戦用の機体かな?」

 「(イージス)(ジャスティス)の後継機と言
  った所ですね」

 「ディアッカ、お前が乗ってくれよ」

 「えっ!俺ですか?」

 「お前の特性を生かすなら砲戦使用の機体を任
  せるのがベストなんだろうけど、機動性が無
  いと指揮を執るのが辛いからな。それに、(
  インパルス)に乗るシンの補助が必要だし」

 「わかりました。引き受けます」

 「次は(アビス)か。これも変型機で水中用の
  機体だな」

 「この機体は連合軍の水中用モビルスーツを意
  識しているんですかね?」

 「ディープフォビトゥンとフォビトゥンブルー
  と言う機体かな?モビルスーツ体型時には意
  外と火力があるんだな。よし、これはルナマ
  リアに任せよう」

 「えっ!彼女は射撃がそれほど得意では・・・
  」

 「俺が大分矯正したから大丈夫だ。それに、(
  アビス)は発射可能な火器が多いから、下手
  な鉄砲も数撃てば・・・」

 「俺が指導します・・・」

 「次は(カオス)か。これも変型機で量子通信
  システムを利用した起動兵装ポッドを二基装
  備するか・・・」

 「これはレイ向きですね」

 「そうだな。レイで決定」

 「最後にガイアか。これも変型機で完全に地上
  用だな。モビルスーツ体型時はオーソドック
  スな機体なんだな」

 「これはステラですかね?」

 「だな。彼女は安定性があるから」

基本的に長々考えても仕方が無いというタイプの
二人なので、新型機は新人達に任せる事を決定す
る。

 「俺、シン、ルナマリア、レイ、ステラの五人
  とヨシさんで六機の搭載ですか?」

 「まさか。(センプウ改)の小隊を配属させる
  さ。地球での任務が多そうだから空を飛べる
  機体を増やさないと」

ザフト軍では新型量産機の「ザクウォーリア」と
「ザクファントム」の配備が決定されたばかりで
、現在の主力機は改良機の「ゲイツR」と「セン
プウ改」の二機種であった。

 「ディンの後継機の(バビ)はまだロールアウ
  トしていないからな。飛行パックを装備して
  いる(センプウ改)が色々と便利だろう」

 「ヨシさんは何に乗るんですか?」

 「これだよ」

俺は「ザク」と量産機の座を競った「グフイグナ
イテッド」の仕様書を取り出した。

 「不採用機ですよね」

 「でも、性能はかなり良い。武装が接近戦仕様
  の物ばかりだけど。ハイネとミゲルもこいつ
  を使うようだし」

飛行パックを装備したこの機体は地球での戦いで
も役に立つだろう。 

 「でも、パーソナルカラーは無理ですよね。全
  部、フェイズシフト装甲機ですから」

 「(ゲイツR)に乗るか?」

 「遠慮します」

その後、夜遅くまでディアッカとの細かい打ち合
わせは続いた。


 「ただいま」

 「おかえりなさい」

ディアッカとの打ち合わせを終えてクライン邸に
帰宅すると、ラクスが出迎えてくれた。

 「お食事の用意が出来ていますわ」

俺は無理を言って付けて貰った日本式の風呂に入
ってから、ラクスが作った夕食を食べる。

 「お気楽だった教官任務も後二ヶ月のみだな。
  これから忙しくなるけど、後の事は頼むよ」

 「はい、任せて下さいな」

 「そう言えば、お義父さんは?」

 「パトリック小父様と出掛けていますわ」

 「第一線から身を引いたらお気楽になってしま
  ったね。あの二人」

 「パトリック小父様も院生生活が終って、いよ
  いよ研究所勤務らしいですから」

 「前国防委員長閣下が研究所で同僚だったり、
  部下だったりするのか・・・。少し可哀想な
  気がするね」

ザラ前国防委員長は亡くなった奥さんの研究を引
き継ぐ為に大学院で勉強を続けていたのだが、八
月の終わりには卒業して農学博士として研究所に
勤務する予定であった。

 「お家の様子も大分変わられていましたね」

去年、アスランがカガリを連れて里帰りをした時
に、邸宅の庭が全てビニールハウスと畑や田んぼ
に変わっていて二人は驚きで言葉が出なかったら
しい。
しかも、肝心のザラ前国防委員長はジャージを着
て首にタオルを巻いた姿で登場した挙句、アスラ
ン達に農作業を手伝わせて、夕食時には収穫した
野菜が調理されて出て来たようなのだ。

 「俺の中の父上のイメージが崩壊しました」

アスランは翌日俺にそう語っていた。

 「完全に政治から身を引いてしまったようだね
  」

ザラ委員長の強硬派の派閥はエザリア国防委員長
が引き継いだのだが、彼女は自身が要職に就いた
事により強硬的な発言が出来なくなり、最右翼の
「ナチュラルを滅ぼせ」的な意見を述べる連中を
纏めきれなくなって勢力を多少落としてしまって
いた。

 「あんな最強硬派の連中は少数勢力だし、(ザ
  ラは裏切った)なんて的外れな事を言ってい
  る地点でアウトでしょう。例の講和反対を宣
  言してザフト軍を脱走した連中を庇うような
  発言をして世間にソッポを向かれているし」

実は講和に反対してザフト軍を脱走した連中が少
数いて、これが海賊などと結託して輸送船襲撃な
どを行っていたので、ハイネやミゲル達は彼らの
掃討にも当たっているのだ。

 「お父様の派閥もカナーバ議長とデュランダル
  外交委員長に引き継がれましたので、プラン
  トの政治は今の所は安定しています」

カナーバ議長の率いる穏健派は先の大戦時に対地
球連合同盟構想を立案して見事に成功を治めたの
で、現在に至るまで安定した長期政権を維持して
いた。 

 「ですが、アズラエル理事の亡霊には困ってし
  まいますわね」

俺は基本的にラクスに隠し事をしない方針で全て
を話していた。
ラクスは表には出ないがいまだに大きな影響力を
持ち、穏健派の中で大きな勢力を保っていたのだ

更に、引退したシーゲル前議長の派閥の人員も取
り込みカナーバ議長もそれを無視出来なかった。
つまり、俺が話さなくてもすぐに把握出来る情報
を俺が事後報告しているに過ぎないのだ。
ラクスは自分が風間の家に嫁として入ってしまっ
たので、自分がクライン派の影響力を保持しなが
ら自分の子供の一人にその勢力を引き継がせる方
針のようであった。
可愛い顔をしていてもなかなかに強かな女なのだ

 「十月を過ぎると、暫らくは帰れないかも知れ
  ないな」

 「生まれてくる子供とあなたの帰りをお待ちし
  ていますわ」

 「えっ!子供?」

 「ここ数日、具合が悪かったのでお医者さんに
  見て貰ったら二ヶ月だそうです」

 「やったーーー!」

俺は大声を上げて喜びを表現する。

 「そうか、俺に子供が生まれるのか。男の子か
  な?女の子かな?」

 「もう少しすればわかりますわ」

 「コーディネーターは出生率が低いらしいけど
  、ちゃんと生まれるものなんだな」

 「詳しい事は研究中らしいですけど、同じコー
  ディネーター同士でも異なる人種同士だと子
  供が出来やすい可能性があるとか。例えば、
  白人と黒人、白人とアジア系とか」

 「俺は日本人だからな」

 「それに、第三世代の出生率は低いですけど、
  あなたは第一世代で私は第二世代です。生ま
  れてくる子供は正確には第三世代ではありま
  せん」

 「まあ、何だっていいさ!生まれてくる子供に
  乾杯だ!」

 「はい」

俺達はグラスにワインを注いで乾杯した。
ラクスは妊娠中なので、乾杯しただけであったが

 「生まれてくる子供の為にも、世界の平和は守
  らないとな」

俺にはまた新たな目標が出来たのであった。


(八月下旬、アカデミー大講堂内)

エザリア国防委員長の内密の命令を受けてから二
ヶ月。
俺はディアッカと共同して新部隊の立ち上げに奔
走していた。
正確には俺にはまだ教官としての仕事が残ってい
たので、アーサー艦長とディアッカに大部分を任
せていたが。
この二ヶ月ほどの間、俺は生徒達の最終的な仕上
げをしながらシン達を放課後に密かに呼び寄せて
、まだ工場で組みあがったばかりの「カオス」「
アビス」「ガイア」「セイバー」でデータ集めと
訓練を平行して行っていた。
事が機密なので、俺は彼らを特別に用意させた宿
泊室に泊めさせて、休日以外はアカデミーと秘密
訓練基地と宿泊室以外には出入りさせなかったほ
どだ。

 「卒業すれば、本格的に訓練を始められるな」

今日はアカデミーの卒業式である。
エザリア国防委員長の長くてありがたいお言葉を
聞き流しながらスズキ部長と話していた。

 「例の工業コロニーの(アーモリーワン)なら
  機密を保ち易いか」

 「ええ、ここら辺で訓練すると機密の保持が大
  変でして。外国の人間も多いですし。かと言
  って学生である彼らを長期間欠席させるとそ
  こから足が付く可能性も否定出来ないわけで
  ・・・」

 「現役のパイロット達は駄目だったのか?」

 「例の合体システムはシンが一番早く上手に使
  いこなしましたよ。俺やディアッカも試して
  みましたが、あいつほどは上手く使いこなせ
  ませんでした」

「インパルス」の合体試験機である「ザクスプレ
ンダー」で全候補者を試験してみたが、一番適正
があったのがシンで二番目がルナマリアという結
果に終っていた。

 「そうか。でも、候補者の中にマーレ・ストロ
  ードやリーカ・シェダーがいたと記憶してい
  るが」

 「実戦経験があるプロのパイロットだから全部
  の機体をそこそこ乗りこなすんだけど、光る
  物が無かった。それに、マーレ・ストレーは
  腕は良いけど、性格に難が有り過ぎだよ。地
  球で戦う機会が多くなりそうなのに、あそこ
  までナチュラル蔑視が強いと下らない諍いの
  原因になってしまう」

 「エザリア国防委員長がお前を選んだ理由が良
  く理解出来たような気がする」

 「でも、リーカ・シェダーとシエロ・バンデラ
  スとテル・ゴーンには頭を下げて(センプウ
  改)のパイロットになって貰った。(仕事は
  悪ガキのお守りです)と念を押してだけど・
  ・・」

 「お前、(ザク)は使わないんだな」

 「宇宙ではともかく、地球では飛べないと不便
  だ。グゥルを積むと面倒くさいし」 

 「確かにな」

 「でも、予備機としては数機の(ザクウォ−リ
  ア)を積んで行く」

 「予備機か」

 「あれは、水中戦闘が可能だから。水中戦闘に
  なった時に(アビス)一機だと辛い。(セン
  プウ改)では水中戦闘は不可能だから」

 「お前らベテラン組は複数の機体を扱って戦っ
  ていくのか]

 [俺やディアッカは様々な機体を乗りこなして
  実戦を生き抜いてきた実績があるから」

 「お前も現場に出るか。約二年間ご苦労だった
  な」

 「寧ろ、これからの方がご苦労な事だよ」

 「俺は知らないぞ」

 「ちぇっ!冷たいな」

そこまで話した所で殺気を感じたのでその方向を
見ると、長くてありがたい話を終えたエザリア国
防委員長が「お前ら!ちゃんと話を聞けよ!」と
いう表情で俺達を睨んでいた。 

 「「まずい・・・」」

俺達が恐縮していると、卒業生の表彰が始まる。
各科ごとに十名の成績優秀者が表彰されるのだ。

 「管制科はメイリンが主席か。まあ、そうでも
  無いと普通は最新鋭艦の管制官にはなれない
  からな」

次に整備科の表彰があり、ヨウランとヴィーノも
十位以内に入って表彰されていた。

 「最後は花形のパイロット科か。まあ、順位は
  知ってるけど」

パイロット科の主席は座学が圧倒的に優秀で実習
でも常にトップ3をキープしたレイであった。

 「まあ、順当な結果かな?」

二位はボーっとしているが優秀な事には変わりは
無いステラで三位は座学は居眠りばかりだが、ル
ナマリアとステラのノートを効率良く暗記して実
習でも優秀だったシンであった。

 「そして、ルナマリアは五位と。俺の生徒達は
  優秀だな」

 「お前は一応赤服だったけど、俺なんて実戦経
  験を考慮されて中途入隊した口だから、ずっ  
  と緑服だったんだぜ」

 「今は偉いさんだからいいじゃん」

 「そうだけどな」

再び殺気がしたのでその方向を見ると、シン達に
表彰状を渡していたエザリア国防委員長が「ちゃ
んと、見てろよ!」という表情で俺達を睨んでい
た。

 「俺達、左遷かな?」

 「んなわけあるかい」

さすがに左遷は無かったが、卒業式終了後に俺達
はエザリア国防委員長から長時間の説教を喰らっ
たのであった。


  

  


(九月上旬、軍本部内の一室)

シン達がアカデミーを卒業してから二週間。
部隊の人事はほぼ決まり、(ミネルバ)の乗組員
が艦の最終艤装と調整をパイロット達が訓練を繰
り返していたが、今日はパイロットの初顔合わせ
の日という事になっていた。
ここ数週間、毎日全員が顔を合わせていたのだが
、正式に一回やっておこうと真面目なシエロ・バ
ンデラスが進言してきたので、俺はその意見を採
用したのだ。

 「じゃあ、改めて自己紹介をしてくれ」

今更な感じはしたが、俺達は改めて自己紹介をし
ていき、特に大きな違和感も無く進んで行く。
だが、ルナマリアが自己紹介を始めた時に俺は今
まで誰も聞かなかった疑問点を指摘した。

 「あのさ、どうしてミニスカートに代わってい
  るの?昨日は普通にズボンを履いていたじゃ
  ない」 

昨日までは普通の格好をしていたルナマリアであ
ったが、今日はピンクのミニスカートと黒いニー
ソックスを履いていたのだ。

 「イメチェンです。カザマ司令、似合いますか
  ?」

 「・・・・・・・・・」

俺は絶句してしまった。
俺の過去の女性パイロットのイメージは真面目な
シホで固定されていたので、ここまで確信的に軍
律違反を起こすとは思わなかったのだ。 

 「俺は似合うと思うけど」

 「私もそう思います」

 「俺も」

ディアッカ、シエロ、テル・ゴーンが賛同の意見
を述べるが、同じ女性であるリーカ・シェダーも
俺と同じように絶句しているようだ。

 「あのさ。似合う似合わないじゃなくて、服装
  に対する規定違反じゃないかなと思うんだけ
  ど」

 「クルーゼ司令と同じようなものですよ」

 「いや、あの人はさ・・・」

ルナマリアにクルーゼ司令の事を引き合いに出さ
れてしまったが、彼は軍服はちゃんと着ていて、
問題なのは追加で付けている仮面だけなのだ。
だが、今までその事を指摘した人間が皆無で、彼
は仮面を付けたままであったのも事実だが。

 「まあいい。次はステラだな」

俺は一先ずルナマリアの事を置いておいて、次の
ステラに自己紹介をさせたのだが、彼女も俺を絶
句させるような格好をしていた。

 「ステラ、お前もか・・・」

 「カザマ司令、似合う?」

ステラは水色のミニスカートを履いて、昔日本で
流行ったルーズソックスを履いていた。
おかげで、彼女のブーツの大部分はダボダボのル
ーズソックスに隠れて足元の部分しか見えない。

 「別に、似合っているからいいよな」

 「私もそう思います」

 「俺もそう思う」

ディアッカ、シエロ、デル・ゴーンの三人は再び
賛同し、リーカは絶句したままだ。

 「二人共さ、偉いさんが見たら絶対に注意され
  るし、俺も怒られるんだけど・・・」

 「えっ、ここに来る途中で誰からも注意されま
  せんでしたよ」

 「私も」

 「嘘だーーー!ありえねーーー!シン!レイ!
  お前達、一緒にここに来たんだろう?本当に
  そうなのか?」

 「途中でユウキ司令に会いました。普通に敬礼
  してそれで終わりです」

 「クルーゼ司令に会いましたが、(良く似合っ
  ているな)と言っていました」

レイとシンの発言で俺は再び絶句する。

 「第一、激しい動きをする軍人が短いスカート
  を履くなよ。パンツ丸見えだろうが!」

 「そこが良いんだよな」

 「私もそう思います」

 「俺も」

ディアッカ、シエロ、デル・ゴーンが賛同の意見
を述べ、リーカはどこか諦めたような表情をして
いる。

 「大丈夫ですよ。ブルマ着用ですから」

 「ほら、大丈夫」

ステラがスカートを捲ってブルマを見せる。

 「ステラ、はしたないぞ!お兄さんは悲しい」

 「萌えるな」

 「私もそう思います」

 「俺も」

相変わらずの三人にリーカがパンチを喰らわし、
俺はステラのスカート急いで降ろさせた。

 「レイはどう思っているんだ?」

 「別に任務に支障をきたさなければ良いと思い
  ますが」

 「シンは?」

 「似合うから良いと思いますけど」

 「うがーーーーーー!」

その後、俺は「誰か偉いさんに怒られれば懲りる
だろう」と思ってとりあえず放置したのだが、エ
ザリア国防委員長、デュランダル外交委員長の他
多数の指揮官・隊長の誰からも文句を言われずに
、二人の服装はそのまま定着してしまったのであ
った。

 「ザフトは軍事組織で厳しい規律があって・・
  ・」

俺のつぶやきを理解してくれる人は存在しなかっ
た。

 「またまた、ヨシさんも本能では嬉しい癖に」

 「ほっとけ!」

俺の新しい部下達は非常に個性的(バカ)な面々
が揃っているようであった。 


(同時刻、ウラル山脈内基地建設現場)

 「どうやら、当たりだな」

ザフト特殊部隊に所属する隊員の一人が遂に目的
の物を発見した。
この山脈の地下の建設途中の基地は表向きは対シ
ベリア共和国対策と言われているものであっが、
実際はかなり違うもののようだ。
ユーラシア連合の兵士の他に多数の様々な人種の
兵士や作業員達が大規模に工事を行っている。
はっきり言ってシベリア共和国は小国で人口も少
ない。
所属している極東連合も防御一辺倒という姿勢を
崩さずに、国境沿いに戦力を集中させても侵攻す
る気など微塵も無く、こんな大規模な基地は必要
無いはずだ。

 「もっと、詳しく調べるか」

だが、この工作員は致命的なミスをした。
一旦素直に帰れば良かったのに、いらぬ欲をかい
た事によって不審者として警備兵に射殺されてし
まったのだ。
軍服を着ていないで身分を照合する物すら持って
いない彼はスパイとして処分され、その事にプラ
ントが苦情を言うわけにもいかなかった。

しかも、ザフト・大西洋連邦・極東連合・オーブ
の工作員はそのほとんどが東アジア共和国領とユ
ーラシア連合領で消息を絶ち、その目的を達成す
る事が出来なかった。


(数時間後、ウラル山脈山腹内地下基地司令室)

ウラル山脈は堅固な自然の要塞である。
その昔、旧ソ連が軍事コンビナートや工作員の養
成都市を建設した事で有名であったが、最近まで
はその不便さからただの自然に囲まれた山脈にな
っていた。
だが、半年ほど前からユーアシア連合の旧ロシア
共和国出身の軍人がこの地域に対極東連合用の防
衛基地を建設する事を政府に要求してこれが認め
られ、急ピッチでその建設が進んでいた。
彼らの「これ以上構成国や領土を失ってもいいの
ですか?」という脅しに逆らえなかったのである

 「みなさん、頑張っていますね。それでは、報
  告のある方からどうぞ」

四十歳前後に見える温和そうで上品な婦人が二十
名ほどの若者達の前で意見を求める。

 「では、私から報告します。今月に入ってから
  我々の存在に徐々に気付き始めた大西洋連邦
  やプラントの連中が本拠地を探るべく工作員
  を多数潜入させています。今の所、致命的な
  情報の漏洩はありませんが、監視の強化が必
  要かと」

 「そうですね。もう少し情報が漏れては困りま
  すからね」

 「はい。今月に入ってから二百名を超える不審
  者を処理いたしましたので、部下達がオーバ
  ーワーク気味です」

 「二百名以上だと!本当に情報は漏れていない
  んだろうな!」

 「絶対に大丈夫だ!俺が信用出来ないのか!」

二人の同年代の男達が言い争いを始めてしまう。

 「二人共、落ち着いて。喧嘩しないでね」

 「ですが、クロードがしくじれば・・・」

 「対策はちゃんと立てている」

 「クロード、その対策を教えて頂戴」

 「はい、ユーラシア連合と東アジア共和国の基
  地補修に補助を出していますので、どの基地
  が本命なのかはすぐにはわからないはずです
  。特に、ジブラルタルとロリアン、マルタ島
  、成都、上海、平壌、ゴビ砂漠には補助を多
  めに出していますので、現在大規模な改修工
  事中です。衛星では勿論判断出来ませんし、
  建設中に近づいた工作員は問答無用で殺され 
  ていますので、どの基地もクロと言う事にな
  ります。要は期限まで秘密を守れば良いので
  、それほど難しい事ではありません」

 「わかったわ。私はクロードを信じます。アラ
  ファス、あなたも大丈夫かしら」

 「奥様がそう仰るなら、私も信じます」

 「クロードもアラファスを怒らないでね。彼は
  心配だっただけなのだから」

 「わかりました」

リーダーと思しき婦人は二人の争いを優しく仲裁
した。
彼女の名前はエミリア・アズラエル。
大西洋連邦が密かに追っている重要指名手配犯で
ある。
彼女はアズラエル理事の死をいち早く察知して自
分の子飼いの部下達とユーラシア連合に逃亡して
この地に基地を建設するまでに至っていた。
彼女の恐ろしい所は逃亡する時にはほとんど身一
つで娘を連れていただけにも関わらず、彼ら二十
名ほどの部下達が資金、人材、資材などを全て確
保して彼女の元に集まってきた事である。 

 「次は私からです。先に建設を開始していたモ
  ビルスーツ工場は完成し、その生産品は南米 
  とアフリカで活躍いたしました。その損害比
  は三対一以上にもなります。例のクローンコ
  ーディネーターも多数が完成して訓練を重ね
  ている所です」

 「ハウン、汚い仕事をさせてしまって御免なさ
  い。みんなも・・・」

 「いえ、子供の頃に等に野垂れ死ぬ所を奥様に
  救っていただいた命です。私は別段惜しいと
  は思いません」

 「私もです」

 「私も」

 「私も」

二十人の青年達は全員がハウンに賛同した。
実は彼らはある孤児院の出身だった。
コーディネーターの排斥運動が大西洋連邦で始ま
った時に多数のコーディネーターとハーフコーデ
ィネーターの捨て子や孤児が誕生した。
理由は親自身はナチュラルだから、彼らさえいな
ければ自分達は排斥されないだろうと言う身勝手
な理由によるものだった。
子供をコーディネーターにしたものの、迫害が怖
くて子供を捨てた者。
ハーフコーディネーターを生んだものの、離婚し
てナチュラルの片親には捨てられ、もう片親もプ
ラントやオーブに逃げる時に邪魔になって子供を
捨てた者。
その孤児院はそんな子供を可哀想に思ったある一
人の人物が経営していたものの、お金に困った挙
句にその経営者が病死して食べる物にすら困った
状態になっていた所をエミリアが子供達を引き取
ったのだ。

彼女自身は特にコーディネーターに偏見を持って
いたわけではなかったので、彼らに新しい名前と
戸籍を与え、教育を施して自分の息子のように育
てていた。
この件は自分が愛するアズラエル理事にも内緒で
、各自が各分野で優秀な成績をあげて財団の財政
を預かっていたエミリアを影で支えていた。

彼らにしてみれば自分達はコーディネーターだが
、プラントの顔も見た事の無い同胞よりも、親に
捨てられて飢え死にする所だった自分達を救って
くれて親代わりをしてくれたエミリアの方が重要
だったのだ。

 「続けます。手に入れた設計図からモビルスー
  ツを生産する事には成功いたしましたので、
  次は独自の量産型モビルスーツとミリア様と
  アヤ様専用モビルスーツの開発に入っていて
  ほぼ完成しています。量産機は(ディスパイ
  ア)という名前でこれはストライクの後継機
  と言っても過言ではない機体です。ミリア様
  とアヤ様のモビルスーツは唯一の核動力機で
  す。さすがに、核物質の購入は足が付き易い
  ので生産出来たのは一機だけでしたが。この
  機体は(フォールダウン)という名前で二人
  乗りの機体です。その他の特徴は大気圏でも
  使用可能なハイドラグーンを二十四基装備し
  ていてミリア様がモビルスーツの操縦を、ア
  ヤ様がハイドラグーンの操作をと役割を分け
  ている事です」

 「ハウンはこう言っているけど、ミリアとアヤ
  はちゃんと操縦出来るわね?」

エミリアは会議に参加している男性達に混じって
いる二人の少女に質問した。

 「はい、大丈夫です。お母様」

金髪で肩まで髪を伸ばしている少女が先に答える

彼女の名前はミリア・アズラエル。
アズラエルとエミリアの間に生まれた隠し子で、
本妻の娘よりも年上で今年で十八歳であった。
彼女はアズラエル理事と同じ金髪の母親似の美人
であったので、アズラエル理事に可愛がられてい
た。
彼女にしても安定した生活を奪った連中は憎かっ
たので、この一年半ほどは訓練に訓練を重ねてモ
ビルスーツの操縦をマスターしていた。

 「アヤは私達と一緒にやってくれるの?私はミ
  リアの為に、あなたを家族から引き離したわ
  。秘密を守ってくれるなら、ここを出て新し
  い人生を歩んでも私は恨まないわよ」

 「いいえ、私がもし家族と生活をしていたら私
  も野垂れ死んでいたかも知れません。兄は私
  は誘拐されて行方不明だと最後まで信じて死
  んでいったようですが・・・。顔もろくに見
  た事も無い兄ですが、幼い記憶で私を可愛が
  ってくれた事は覚えています。それに、私が
  いなくなった事を辛い記憶だと思ってくれて
  いたようです。兄は停戦後に戦闘を行った罪
  で軍籍を剥奪されて不名誉除隊者として処分
  されました。私は兄の敵を討ちたいのです。
  兄を追い詰めた大西洋連邦の軍部とザフト軍
  の(黒い死神)事ヨシヒロ・カザマに!私は
  彼を殺すまでここを離れません」

 「そう、ならもう聞かないわ」

 「次はユーラシア連合と東アジア共和国の情勢
  についてです。ユーラシア連合はアズラエル
  狩りというか、ブルーコスモス強行派を追放
  する過程で下らない権力闘争を起こして優秀
  な無関係の政治家や官僚・軍人まで追放して
  しまったので、我々の存在に気が付いていな
  い可能性があります。東アジア共和国はもう
  中央政府が機能していませんから、操るのは
  容易な事です」

ユーラシア連合は終戦時のブルーコスモス強行派
パージと連動して、極東艦隊を全滅させ、シベリ
ア共和国を失陥させた旧ロシア共和国系の軍人と
政治家を大量に処分した。
その他にもイスラム連合との小競り合いで数個の
中央アジア地方の共和国を離脱させた責任もあっ
たが。
次にイギリスの離脱を「歓迎すべき事」と暴言を
吐き、戦時中にジブラルタルの開放に二度も失敗
した挙句、再建した大西洋艦隊を無駄に消耗させ
たフランス共和国系の軍人も冷や飯食いになって
いた。
エミリア達は彼らと接近して彼らの地位と権力を
回復する為に協力をする事を約束する代わりに、
ウラル山脈を根拠地として密かに提供させる事に
成功していた。

一方、東アジア共和国はかなり悲惨な事になって
いた。
中心構成国の中国では内蒙古自治区がモンゴル共
和国と併合して極東連合に加入、ウイグルとチベ
ットも独立を果たして極東連合に加盟していた。
更に、ネパール・ブータンは西アジア共和国に加
盟して、ベトナム・カンボジア・ラオス・タイは
極東連合に加盟すると言う最悪な構成国の離脱劇
を経て、ついに二ヶ国だけになってしまったのだ

この件で中国政府首脳は責任を取らずに権力の地
位に居座り、代わりに軍人を処分しようとしたの
で、各地の軍の幹部が激怒して中央政府から独立
を宣言。
これを持って完全な内戦状態に突入していた。
今、東アジア共和国中央政府が支配している領域
は北京周辺と上海周辺のみであった。 
そして、もう一国の構成国である統一朝鮮国では
北部に自称金日成の後継者を名乗るゲリラが登場
して、同じくその掃討に苦慮していた。

 「その他にも先の戦争の負け組みの連中が一致
  団結して力を貸してくれています。ブルーコ
  スモス強行派に属していたり、賛同していて
  全てを失った大西洋連邦とユーラシア連合の
  連中や東アジア共和国にべったりで石原首相
  に干された連中、その他にも世界各地の反体
  制派の連中や犯罪者もどき、海賊、脱走兵、
  極めつけはプラントの元ザラ派の脱走兵達で
  す」

 「そんな連中が信用できるのですか?」

 「信用なんてしませんよ。お互いに利用する。
  連中は少なくともそう考えています。お互い
  に弱いもの同士過去の因縁を忘れて協力体制
  を取る。歴史上、そう珍しい事ではありませ
  ん」

 「彼らに何をやらせるのですか?」

 「十一月の講和二周年の記念行事として観艦式
  が行われるようです。その時には各国がその
  国力をひけらかす為に、主力艦隊と多数の新
  型モビルスーツが参加します。更に、現在各
  国で整備されている即時対応部隊の艦艇も披
  露されるようです」

 「即時対応部隊?」

 「大西洋連邦が建造した(アークエンジェル)
  はザフト軍に奪われたとはいえ、その高性能
  ぶりを発揮いたしました。大国はその技術と
  資金力を生かして世界で事があれば即座に駆
  けつける多目的高速艦艇とそれに搭載する新
  型モビルスーツで構成された部隊を編成中な
  のです」

 「プライドの高い大国が他所様の心配をするわ
  けね」

 「そういう事です。プラントは(アークエンジ
  ェル)を参考にした(ミネルバ)という最新
  鋭艦と新型モビルスーツで編成された部隊を
  訓練中で、その司令官がアヤ様が仇と狙って
  いるカザマです」

 「アヤはツイているわね」

 「次に大西洋連邦はプラントに返還して貰った
  (アークエンジェル)と名称が復活したアー
  クエンジェル級三番館(ミカエル)を擁した
  特務艦隊を編成中で指揮官はまだ決まってい
  ませんが、モビルスーツ隊の指揮を(エンデ
  ュミオンの鷹)が取ります。極東連合は「は
  りま」と「すおう」を建造しました。指揮官
  は長谷川海将補でモビルスーツ隊の指揮は石
  原三佐が執るようです。オーブは「アマテラ
  ス」を建造して艦長兼指揮官はトダカ准将で
  モビルスーツ隊の指揮官はザラ一佐です」

 「良く調べてくれましたね」

 「現状に不満を持っている連中は沢山いるんで
  すよ。私は主義・主張など関係無く彼らの心
  理的弱みを突き、彼らから情報と利益を引き
  出す。ただ、それだけです」

 「それで、十一月の観艦式には何を?」

 「彼らに華やかな花火をプレゼントします」

 「華やかな花火?」

 「大西洋連邦軍製の戦術核(ラウンドパワー)
  有効半径二十キロの核弾頭にNジャマーキャ
  ンセラーを添えてなるべく真ん中に撃ち込ん
  であげます。実行部隊の責任者はラドフが引
  き受けてくれました」

 「生還は難しいわよ。それでもいいの?ラドフ
  」

 「先に地獄で待っていますよ」

 「ありがとう。私に付き合ってくれて」

 「奥様、あなたは私達の命を握っているんです
  よ。もっと、強く命令してくれても」

 「いいえ。確かにあなた達を育てたのは私です
  が、あなた達は一人の独立した人間なのです
  。私に無理に従う必要はありません」

 「別に無理はしていませんが」

 「そうですか。ではお願いします。私の可愛い
  息子よ」

エミリアはラドフという青年の両腕を握り締めて
感謝の意を込める。
彼は感動して涙を流していた。

 「次に、混乱状態に陥った所を雇い入れた海賊
  達を利用して各地の軍事拠点を奇襲して貰い
  、その隙にプラントの監視施設を元ザラ派の
  脱走兵達が占拠。同時に実行部隊が(ユニウ
  スセブン)フレアモーターを付けて地球に降
  下させます」

 「私達の任務は元ザラ派の援護ですか」

 「ラドフのいう事は正しい。まあ、成功率は計
  算しても34%程度だが、コーディネーター
  が地球に(ユニウスセブン)を落下させよう
  とした事実が伝われば良いのだ。これで、世
  界は混乱する」

 「それから、世界各地で用意した火種を連中が
  消している間に(ウラル要塞)を完成させて
  完全な状態で立て篭もるのですね」

 「はい。そして、要塞を落としに来た連中を一
  人でも多く殺して滅びるのみです」

会議を進行していたアラファスの言葉に全員が無
言で頷いた。

 「最後に確認させて。この企みを達成しても何
  一つ良い事は無いのは私が一番わかっている
  わ。私はムルタが死んだ時に後を追えなかっ
  た。一人で死ぬのが怖かったし、せめて一矢
  報いようと考えて、あなた達に連絡を取って  
  から逃亡の旅に出た。あなた達は若いし未来
  がある。確かに指名手配はされているけど小
  物だと思われているし、それほどの罪にはな
  らないと思う。いくらでもやり直しがきくわ
  。あなた達ならオーブでもプラントでも何処
  でも成功する知識と技術がある。私がそう育 
  てたから。だから無理に私に付き合って死ぬ
  事なんて無いわ。だから、抜けたい人は今こ
  こで言って。もう、これが最後のチャンスだ
  と思うから」

エミリアはこの部屋の中の人間だけが知っている
重要な事実を口にした。
彼女は別に集めた力で世界の支配権を転覆させよ
うと思っていたわけでは無かった。
彼女が目指しているものはなるべく多くの人間を
巻き込んだ盛大な自殺そのものだ。
確かに、大量の資金と資材と人材が揃っているが
、この程度で世界が変わるなんて思っている人間
はこの部屋の中には一人もいなかった。
ロゴスと各国政府主流派に見放されスケープゴー
トにされた自分達が勝てるわけが無いのだ。
外にいる連中は自分達の返り咲きを夢見ているよ
うだが、それは彼らの幻想であって自分達は利用
しているに過ぎない。
夢を見たい連中は勝手に見ていればいいのだ。

 「奥様、今更ですよ」

 「そうです。つき合わせて下さい」

 「私は最後まで付き合いますよ」

 「「「「「「私も」」」」」」

 「「「「「私も」」」」」

全員がエミリアに最後まで付いていく事を宣言す
る。
ミリアとアヤも無言で頷いた。

 「みんなの誠意を疑って御免なさい。もう、二
  度と言わないわ。では、作戦名(ヘルロード
  )を現時点より開始します」

エミリアはアズラエルよりも十歳も歳が上だった
が、若々しくて美しかった。
それでいて、美人である事を鼻に掛けずに優しい
女性だったので、アズラエルは彼女を信用して女
性としても愛した。
財団の当主として政略結婚をする羽目になり望ま
ない結婚をしたが、アズラエル理事は彼女を常に
側に置き、本妻よりも信用していた。
娘も本妻の生んだ娘よりも、彼女が生んだ娘を可
愛がっていたくらいだ。  
人を信用しないで利用する事しか考えていなかっ
たアズラエル理事が唯一愛した女性。
そんな慈愛に満ちたコーデイネーターすら差別し
なかった女性がアズラエル理事の怨念を背負い、
彼が毛嫌いしたコーディネーターとハーフコーデ
ィネーターの戦士を率いて世界に破壊と混乱をも
たらそうとしていた。 
後日、その事実を知った歴史家が「彼女が違った
道を歩んでいれば、世界はどのくらい良くなった
のか想像もつかない。彼女達の部下は彼女を本当
の母親以上に愛し、その役割をまっとうした。あ
れほど有能な若者達が沢山死んだ事は悲劇であり
、彼女が優しかった事がそれを助長したという事
実は人間という生き物の皮肉であろう」と語った
くらいであった。

この瞬間より、世界は新たな混乱に陥ろうとして
いた。   


 「アヤ、私の部屋で紅茶でも飲みましょう」

 「わかりました。お嬢様」

会議が終了した二人はミリアの部屋に入ってお茶
を飲む事にする。
アズラエル理事の娘とは言え、母親に厳しく躾け
られていたミリアは丁寧に紅茶を入れてアヤに差
し出した。

 「ありがとうございます。お嬢様」

 「二人っきりの時は名前で呼んで。それと、敬
  語禁止」

 「わかったわ。ミリア」

 「それでよし」

二人は微笑みながら紅茶の香りを楽しむ。

 「ねえ、アヤは私達に付き合ってもいいの?あ
  なたは一人でも生きていけるのよ。それに、
  他のお兄様達とは事情が違うわ。パパの我侭
  で両親と幼い頃に引き離されて私の友達兼召
  使として連れて来られたのよ。私達が憎くな
  いの?」

 「私には両親の思い出が薄いのよ。覚えている
  のは兄がよく遊びに連れて行ってくれた事だ
  け。だから、兄の仇は討ちたいの。最近聞い
  た兄の評判は最悪だけど、私には良い思いで
  しかない。だから、ここにいて仇であるカザ
  マを討つ!それが、アヤ・ササキの悲願でも
  ある!」

彼女は数奇な運命を辿っていた。
アズラエル理事が「ミリアに友達を作ってあげな
いといけませんね。エミリア、任せますから。同
じ歳くらいの美しくて優秀そうな竹馬の友になり
そうな忠実な女の子を選んで下さい」と言った事
により、その日の生活費にも事欠いていたササキ
一家の娘をお金で買い取って屋敷に連れてきたの
だ。
そして、彼女にはもう一つ秘密がった。
当時、貧しかったササキ家の母親がコーディネー
ターの金持ちの家に召使として働いていた時に、
その家の当主と不義密通をして生まれた子供であ
った。 
つまり、ササキ大尉の父親にとっては売り飛ばし
ても少しも悲しく無い血の繋がりの無い娘であっ
たのだ。
兄であるササキ大尉には「妹は誘拐された」と嘘
をつき、大金をせしめた両親はその直後にギャン
グに殺されて金を奪われた。
残されたササキ大尉は一人で生きて行き士官にな
れたが、先の戦争で戦死した。
彼はアズラエル理事と懇意であった上に、停戦信
号を守らずに戦闘を継続した罪で軍籍を剥奪され
て不名誉除隊となった。
アズラエル理事はアヤがハーフコーディネーター
である事を知らなかったので、妹の件で貸しのあ
るササキ大尉を密かに優遇していた事が彼の悲劇
に繋がったらしい。
この件では生き残ったカザマ司令官が証言して、
その証言をレナ少佐とフラガ少佐が補完した上に
、彼の遺体の肉片から生体CPUが使用していた
薬物が検出された為に、彼の罪は決定したのであ
ったが、彼女はそれを納得出来ないでいた。

 「私はミリアに感謝している。売られてきた私
  を本当の友達だと言ってくれたし、奥様は学
  校にも行かせてくれた。多分、両親の所にい
  たら売春婦にでもされてお金を稼がされるの
  が関の山だったと思うから。だから、私は奥
  様もミリアも恨んでなんかいない」

 「アヤ・・・」

 「友達だからさ。恋くらいしたかったけど、最
  後まで付き合ってあげるから」

 「ありがとう」

歴史上最悪のテロを目論んでいる主要メンバーに
悪人が一人もいない事が歴史の皮肉であった。


(十月上旬、「アーモリーワン」内部の基地内)

部隊の編成を終えた俺達は新型機の運用訓練に余
念が無かった。
来月の観艦式では各国の最新鋭艦とモビルスーツ
がお披露目されて簡単な演習まで行われるらしい

国威掲揚の大切な行事なので、負けるわけには行
かないようだ。
カガリちゃんは「無用な混乱を招かないだろうか
?」と心配していたが、国にはこういう事も必要
だと俺は思うし、新造艦を並べて数カ国で観艦式
や演習が行われるようになったという事は平和に
なったという事なのだろう。

ただ、エザリア国防委員長に聞いたあの件は気に
なってはいたが・・・。  

 「みんなの訓練も順調だし、後は観艦式後の演
  習でその成果を見せるだけかな?ディアッカ
  は(セイバー)を乗りこなせる様になったか
  い?」

 「俺は若いですから。ヨシさんはどうです?」

 「俺は大丈夫に決まっているだろうが。ハイネ
  やミゲルが乗りこなしている物を俺が駄目な
  わけないだろうが」

 「でも、お二人は自分の機体として(ザクファ
  ントム)も艦に搭載しているんですよね。羨
  ましいな」

 「うちも予備機として三機確保した。(ザクウ
  ォーリア)だけどな。暇があったら訓練しと
  け。俺はやっているぞ」

 「元気ですね」

 「俺は父親になるんだ!当たり前だ!」

 「ラクス様を妊娠させるとは・・・。夜道で刺
  されない様に注意して下さいね」

 「そうだな。ディアッカは暗闇だと目立たない
  から気を付けるよ」

 「俺はそんな事はしませんよ」

そんな事を話していると、ドアがノックされて中
に男女四人が入ってきた。

 「カザマ君、元気してた?」

 「お久し振りですわね」

 「二週間前に会ったじゃん」

 「二週間は久し振りでしょうが」

突然、部屋の中にユリカとエミと義成兄さんと義
則が入ってくる。
義則は卒業半年前の今年の二月にプラントに上が
ってきてエミの秘書兼奴隷君二号として楠木重工
プラント支社に入社した。
入社時に研修として俺がアカデミーでモビルスー
ツの操縦を教えたから間違いない。
そして、義則も「モビルスーツに乗れるなんて最
高!」と義成兄さんと同じようなマゾ特性を発揮
して自分の立場にあまり気が付いていなかった。 
そして、義則もエミとプライベートで付き合って
いた。

 「それで、楠木重工プラント支社長達がどのよ
  うな用件で?」

 「特に無いけど。ただ、納品したヴァリアブル
  フェイズシフト装甲の使い勝手を聞きに来た
  だけ」

 「別に不都合は無いけど」

 「(インパルス)(アビス)(ガイア)(カオ
  ス)(セイバー)(グフイグナイテッド)の
  内あなた達の乗っている三機の他にも数機の
  試作機に使われている新型装甲の評価が不都
  合が無いですって!他には無いの?」

 「俺好みの設定に変えたら(グフ)の色が黒く
  なった。エイブス班長に左肩の赤いパーツを
  自作して貰って装着したから俺には不満は無
  い」 

 「・・・・・・・・・」

 「それよりも、ザフト軍指揮官としては外国の
  企業から最新鋭技術の漏洩を防ぐべく・・・
  」

 「確かに最新鋭の技術だけど、(フロンティア
  ワン)の中に入っている企業なら知らない連
  中はいないし、漏洩させたら仕事が無くなっ
  て追い出されるのよ。そんな事しないわよ」

「フロンティアワン」とはモルゲンレーテ社、楠
木重工、ミツビシ重工、大西洋連邦のパシフィッ
クスチール、台北重工など各国の大企業がL4宙
域から損傷の小さいコロニーをプラント近辺まで
引っ張ってきて設置した総合工業コンビナートコ
ロニーの事である。
この工業コロニーはマッケンジー財団(ラスティ
ーの親父さんの会社)が誘致して建設した。
プラントで精製された資源を使って製品を製造し
て地球圏で売りさばいた方がコストが安くて儲か
るという理由と、場所の確保が容易でフェイズシ
フト装甲の量産に適していると判断された為であ
る。
戦後、軍縮機運でようやく量産に漕ぎ付けたフェ
イズシフト装甲の開発コストを回収する為に、民
間技術への応用が期待されていたからであった。
シャトルや航空機・車の重要部分や常に衝撃に晒
される部分へのフェイズシフト装甲の応用は既に
始まっていて、更なるコストの削減と量産の簡易
化を制するものは特殊金属精製企業の死命を制す
ると言われていた。

そんな中で大西洋連邦・極東連合・オーブ・プラ
ントでは流す電流の量を変える事によって装甲の
強度を調節出来る「ヴァリアブルフェイズシフト
装甲」の開発を四ヶ国の企業で合同で進めていて
、その研究成果は四ヶ国の最新鋭モビルスーツに
使用されていた。

そんな理由でユリカ達は「Vフェイズシフト装甲
」の事を知っていたのであった。

 「うちの最新鋭機の情報が漏れてやがる!」

 「大丈夫よ。楠木重工プラント支社は同じ会社
  と言えど、本社とはライバル状態だから顧客
  の秘密は厳守するわ」

 「そいつは、どうも」

 「そう言うわけなので信じて下さいよ。カザマ
  司令」

 「ここは関係者しかいないから、義弘でいいよ
  。義成兄さん。それと、義則も」

 「悪いな。義弘」

 「同じく悪いな。義弘」

義成兄さんと義則は周りの哀れみの視線を物とも
せずにその優秀さを発揮して「プラント支社の二
大良心」「プラント支社のNジャマー兄弟」の二
つ名で関係者から呼ばれるようになったいた。
二人の無茶な要求も宥めたりかわしたりして上手
くかわしているようだ。 

 「本当に新型装甲の事だけ?」

 「実は石原の小父様から伝言がありますわ」

 「中国と朝鮮半島の事か?」

 「そうよ。そろそろ火を消したいみたいよ。石
  原の小父様は」

 「無理だろう?完全に群雄割拠状態だぜ」

 「石原の小父様は十ヶ国程度の国家に分けて連
  邦制を導入して貰いたいみたい。新国連でも
  極秘裏に各国が了承したからあなた達の派遣
  もありえるって。勿論、アスラン君達や(エ
  ンデュミオンの鷹)もね」

 「ふうん。でも、まだ先の話だろう?」

 「まあ、全ては観艦式の後の話よね」

俺はその観艦式で未曾有の大損害が発生する事を
まだその時は知り得ていなかった。 
そして、その後予想を超える戦いに巻き込まれる
事も予想出来なかった。 


(コズミックイラ73、7月上旬、デブリ帯)

俺の名は最高の傭兵と称されるムラクモ・ガイ。
世間では「ピンクの死神」と呼ばれているが、そ
れは俺の前では禁句になってる。
誰が悲しくてカザマのバカと同じ「死神」と呼ば
れなければいけないのだ。 
しかも、あのクソ女・・・いや、違った。ラクス
様が送りつけてくる高性能だが、色や形がアレの   
新型モビルスーツの所為でピンクが定着してしま
った。
これは非常に腹立たしい事であった。

 「ガイ、ガイってばよ!」

 「何だ?リード」

 「今日は何で出撃するんだ?」

俺があのクソ女・・・いや、違った。ラクス様か
ら預かっているモビルスーツは三体。
陸戦仕様の「ピンクさん」水中戦仕様の「ピンク
様」そして、空戦仕様で量子通信システムの使い
勝手を良くした新型機の「ピンク大臣」の三機で
ある。

 「これにする」

 「名前で言ってくれよ。、ガイ!」

 「だから、これだ」

 「どれを指差しているんだよ」

 「だから、これ・・・」

 「名前で言え!」

 「五月蝿いな!(ピンク大臣)だよ!」

 「言えるじゃねえか」

 「お前、わざとやってるだろう?」

俺は「ピンク大臣」もとい、ピンクのジンを操り
、目的地に到着すると大西洋連邦軍が仕掛けた囮
の輸送船に三機のジンが襲い掛かっていた。

 「こちら、ムラクモ・ガイだ!海賊を掃討する
  」

俺が無線で連絡を入れると、海賊達のジンが動揺
し始めた。

 「しまった!これは罠だ。全機逃げるぞ!」

 「そうだな。(ピンクの死神)には勝てん!」

 「色と形はふざけているが、最強の男らしい・
  ・・」

 「最強とはいえ、あんなケバイ色のモビルスー
  ツにやられたら恥かしいしな」

 「しかも、重度のラクス・クラインファンらし
  い。俺も彼女の歌は好きだが、あそこまで執
  着するのは・・・」 

 「アイドルオタクには倒されたくないな」

 「普通に戦っていれば尊敬もされるのに・・・
  」

 「てめえら!言いたい事はそれだけか!」

 「「「うわーーー!アイドルオタクが怒ったー
  ーー!」」」 

海賊達のジンは一斉に逃亡を開始する。
俺は「ピンク大臣」もとい、ジンを変型させて追
撃を開始するが・・・。

 「大変だーーー!ピンクのアヒルが追いかけて
  来るーーー!」

 「俺だって好きで乗ってるんじゃねえ!」

俺は装備されているビーム砲で一機のジンを撃破
する。

 「次はこれだ!」

俺は「ピンク大臣」もとい、このジンの最大の特
徴である量子通信システムを利用した起動兵装ポ
ッドを操作する。

 「うわーーー!助けてくれーーー!あんなハー
  ト錐型の武器で殺されたくねーーー!」

起動兵装ポッドはピンク色でハートの筒型をして
いて、両脇に「LOVEラクス」と書かれていた

 「五月蝿い!俺だってこんな武器使いたくない
  わ!」

俺は起動兵装ポッドを操って内臓されているビー
ム砲で残り二機のジンを撃破した。  

 「ちくしょう!ピンクのアイドルオタクにやら
  れるなんてーーー!」

海賊の首領らきし人物の断末魔の声は周りの響き
渡り、ガイは大西洋連邦の担当士官やその部下達
に笑われながら報酬を受け取る羽目になったいた

 「ちくしょう!カザマの野郎!覚えていろよ!
  」


 「風花さん。一年半の間、ありがとうございま
  した」

戻ってきたガイがこれまでの人生を振り返って苦
悩していた頃、ザフト軍事工廠の責任者であるユ
ーリ・アマルフィーはガイ達に貸与していた三機
のピンクシリーズを回収しながら交渉人の風花に
挨拶をしていた。 

 「おかげで、新型変型モビルスーツの開発は順
  調に進みました。あなた達のおかげです」

 「こちらこそ、有利な条件で高性能のモビルス
  ーツを貸していただきまして」

 「では、お互いに得をしたという事で」

 「そうですね」

 「では、これが最後の報酬になります」

アマルフィー技術委員長が風花に渡した小切手に
は1000万アースダラーの金額が書かれていた

 「契約通り、全部で2000万アースダラーで
  す。後は(センプウ改)を置いていきますの
  で」

アマルフィー委員長は用件を伝えると三機のピン
クシリーズを持って引き揚げて行った。 

 「ガイ!新しいモビルスーツが来たから調整を
  済ませてしまえよ」

 「本当か?機種は?」

 「(センプウ改)だ」

 「やったーーー!」

一年半ぶりにまともなモビルスーツに乗る事が出
来る嬉しさから俺は格納庫までダッシュする。
「センプウ改」はフェイズシフト装甲機で色は塗
れない。
俺は間違いなくピンクの呪縛から逃れられる。
そう思いながら格納庫に到着して「センプウ改」
を見上げるが・・・。  

 「・・・・・・・・・・」

 「どうした?嬉しくて言葉が出ないか?」

 「気のせいか俺にはピンク色に見える」

 「ああ、こいつは新しいフェイズシフト装甲が
  開発された影響で民間に技術が流れたTフェ
  イズシフト装甲を装備しているから、色が付
  いているんだよ」

 「ぬがーーー!ピンクは嫌ーーー!」

 「我侭言うなよ。風花が交渉したんだから」

 「ぬおーーー!カザマの野郎!覚えてろよーー
  ー!」

こうして、ガイはピンクの「センプウ改」を操り
、再び(ピンクの死神)として名を馳せたのであ
った。


 「この報酬と合わせて貯金が2786万アース
  ダラー。一財産築いてしまいましたね。これ
  で、嫁入り資金は確保できました。ガイ、今
  度高級中華料理を食べに行きましょう」

この一年半で大金を稼いだ風花はご機嫌であった
事を伝えておく。 


         あとがき

運命編はテロとの戦いになるのかな?
やらないって言ってたのに嘘ついてしまったけど

これを書いてて運命で一番疑問に感じた事はルナ
マリアのミニスカートとニーソックスを咎める軍
人が一人もいなかった事です。
タリア艦長なら注意しそうなのに・・・。
デュランダル議長、レイ、ハイネ、アスラン、み
んな無視してるし・・・。

誰も聞かないけど、カザマの苗字の由来は私が好
きな漫画の中で西の横綱にランク付をしている「
エリア88」の主人公から取っています。
ちなみに、東の横綱は「北斗の拳」です。


  

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