インデックスに戻る(フレーム有り無し

▽レス始

「魔除けの鐘を鳴らす者達 第5話後編 (ス−パ−ロボット大戦)」

太刀 (2006-04-29 10:27/2006-05-28 06:00)
BACK< >NEXT



第5話 新たな日常 後編


新たな使徒の襲来。
報告を受けたNerv本部発令所では、エヴァ初号機の発進と迎撃システムの準備に追われていた。

「目標を捕捉。領海内に侵入しました」

「総員、第1種戦闘配置」

「了解。対空迎撃戦、用意」

「第2新東京市、戦闘形態に移行します」

Nerv本部が拠点を構えるジオ・フロントの上にある都市のビル群が、ジオ・フロント内部へと沈んでいく。
使徒専用迎撃要塞都市が隠しもった牙を見せる瞬間だ。
その光景は戦闘がもう直にでも開始するとの、予告の様でもあった。

「連邦政府、及び連邦軍極東支部への通達、終了」

「連邦軍第13独立部隊ロンド・ベル隊が出撃する模様です。こちらの対処はどうしますか?」

発令所に何十人も居るNervスッタフが、各自其々の作業に没頭する。
民間人の避難状況率。政府への根回し。出撃機の最終調整。
やる事は山のようにある。
その中で司令官の裁決が必要と思われる情報を、上に通していく。
選別しているが、それでも書類十数枚分のデ−タが司令官の判断待ちで保留している。

「不必要に彼らへ情報を与えるのは好ましくないな。S−111を発令し、戦闘区域外で待機させておけ」

優先させるべき決断を、冬月は数秒考え結論だした。
それにNervが単独で使徒を撃退できる事を見せ、小五月蝿く騒ぐ政府の人間を黙らせる実績が欲しい。

「了解」

担当スタッフが即座に行動を開始する。

「しかし・・・・・碇司令が入院している間に第4の使徒襲来・・・・・意外と早かったわね」

碇ゲンドウは、『10年ぶりに再会した親子のスキンシップ』と嘘ぶいた碇シンジに殴られ入院中。

「許すもなにもないけど、これで一応のケリはついたよ」

とゲンドウを殴りたおし、拳を返り血で染めたシンジの顔は晴々としていた。
組織の人間なら営倉行きは確実だが、相手は一応ゲンドウの実子であり、母親の方は教鞭をとっていた時に一番目をかけていた生徒でもある。
それに、父親は初対面の時に感じたイケ好かない性格を、今も尚継続させている。
能力面では申し分ないが、プライベ−トでは一緒に過したくない人柄の男だ。
Nervの医療技術を使えば全治2週間と掛からないので冬月は黙認していた。

「前は15年のブランク・・・・・今回はたったの1週間ですからね」

葛城ミサトの直属の部下。日向マコトが忙しく手を動かしながらもミサトと話す。
この男、実は上司であるミサトに惚れている。
ミサト本人は知っているかどうか分からないが、メインオペレ−タ達の間では公然の秘密となっている。

「こっちの都合はおかまいなしか。女性に嫌われるタイプね」

「葛城一尉は待たせる事はあっても、待つのはお嫌いですからね」

去年の忘年会。10分遅刻した連中を容赦なく見捨てて、宴会に行った記憶は新しい。
ミサトに言わせれば「酒の席に遅れるヤツは、敵前逃亡より罪が重いのよ」と、言う事らしい。

「葛城一尉、エヴァ初号機の起動準備、完了したわよ」

「わかったわ」

赤木リツコがチェク項目がオ−ルグリ−ンになると、ミサトの隣に来た。
現在の状況を手早く、エントリ−プラグ内で待機しているシンジに伝える。
目標の侵攻スピ−ドを計算すると作戦エリア内に、あと10分程で到達する。
初号機はパレットガンを装備して、目標が到達する前に地上で迎撃体勢を整えろとの命令を受ける。

「シンジ君。準備はOK?」

送られてきた地形のデ−タを頭に叩き込んでいるシンジにミサトが発進できるかと聞いてくる。

「大丈夫・・・・・・です。何時でもどうぞ」

精彩のない声で返答する。
初号機に乗り込むまでに、気合をだいぶ削がれてきた。

綾波レイからメッセ−ジを聞いたシンジは、直に行動を開始した。
イルイを第壱中学の地下シェルタ−に居たクラス委員長の洞木ヒカリに頼んで預かってもらい、急いでNerv本部まで来た。
パイロット待機ル−ムに飛び込みプラグス−ツに着替える。
手首にあるとスイッチを押すと収縮して体にフィットするようになっている。
プラグス−ツの下には下着も含め、何も付けていない。
なんでも、余分な物がパイロットとエヴァの間に介在するとシンクロ率が下がると考えられているからだ。

MFのファイティングス−ツと同じで身体の線がモロに出る格好でもある。
愛機に乗っていた時は、仲間も同じ格好だったし。女性であるアレンビ−=ビアズリ−やレイン=ミカムラも装着する時もあったから気にしなかったが、

『キャ――!!!シンジ君!着痩せするタイプなのね!凄いわ!一流スプリンタ−の筋肉みたい』

『あっ、あの。写真いいですか?ポ−ズ取って下さい。ポ−ズ!!!』

『ふふふ・・・・・ねえ、お姉さんに飼われてみない?』

等と、初号機に乗り込むまでの通路で女性職員から掛けられた言葉を思い出すと、幾ら敬愛する師匠の頼みであったからとは言え、Nervで戦うのは道を誤ったかなと思ってしまう。
いや、違う!あれは、そう激励だ。
一般職員はシンジを普通の14歳としか認識してないのだ。
不安で心が張り裂けそうな、少年を冗談で励まそうとしているのだ。
・・・・・そう、信じたい

この格好で街中を歩けば、善良な市民の風紀をキリキリ乱せる姿だ。
いたいけな婦女子をキャ−キャ−騒がせる事は保証できる。
だが、此処は自称人類最後の砦Nervだ。一般職員でも上級国家試験を通過しているのだ。
だから其処!
男が頬を染めるな!腰回りを舐めるように見るな!トイレに駆け込むな!

かなりテンションを落として初号機に乗り込んだシンジを誰が責められようか?


「S−111発令確認。これにより命令解除までの間、Nervへの援軍が来る確立は無くなった」

第2新東京市から離れた工場跡地に、一機のモビルス−ツが隠されていた。
コクピット内では、壱中の男子制服を着た少年が、サブモニタ−から送られる情報を見当していた。

「Nervの決戦兵器を確認。デ−タ収集の後、破壊する」

サブモニタ−に紫色の巨人が映し出された。それを確認するとモビルス−ツの動力炉を戦闘モ−ドに移行させる。
弾丸、エネルギ−とも問題ない。各部センサ−正常に起動中。
ガンダニウム合金で造られたモビルス−ツのバーニアに火がともる。次の瞬間、工場の屋根をぶち破り少年が動かすモビルス−ツが飛び出した。


「これは?」

「どうしたの?」

高台近くの38番ゲ−トへ初号機を発進させた直後、アラ−ムが鳴った。
メインオペレ−タ−の一人がレ−ダ−に使徒以外の表示が出されると、慌ててミサトに報告した。

「第2新東京市内に使徒とは別の物体が現れました」

「使徒じゃない!?」

熱源パタ−ンで照合するとモビルス−ツだ。機体の識別と所属の確認を急がせる。
使徒が第2新東京市内に到達する時間は約5分。それまでに問題を解決しなければ使徒との戦いに集中できない。

「なっ?これは!未確認モビルス−ツ判明しました。ガ、ガンダムです!

映像モニタ−に現れたのは、巨大なバスタ−ライフルを持つ翼付きのガンダムだった。
一年戦争でアムロ=レイがファ−ストガンダムで築きあげた戦歴は7年たった今でも、少しも色あせていない。

曰く、初めての戦闘でザク2機を瞬殺した。
曰く、初の空中戦でドップを100機落とした。
曰く、たった一機でジオンの第8宇宙軍を全滅させた。

尾ひれが付いて話が広がっている節もあるが、味方からは『白い流星』と畏怖を込めて呼ばれ、敵からは『白い悪魔』と恐怖の代名詞で呼ばれていた。
一年戦争時代、ガンダムの姿を見るだけでジオンの一般兵は怖じ気つき、連邦軍兵士はガンダムがいる限り、我らは決して負けないと戦意を高揚した。
ジオンにとっては、もっとも始末に負えない相手だった。

ガンダムの名には、それだけの重みがあり、後継機や類機を造るにしても並の技術者達では名前負けして、開発に尻込みしていた。
たまに自尊心だけは富士山より高い、技術者達が何機も自称後継機を造ってきたが、どれも3ヶ月も持たないうちにスクラップに変わり果てた。
何故ならガンダムなら単機で、一個部隊を相手できるだろうと無茶苦茶な信仰が軍上層部にもあったからだ。
無論、そんな能力を持ったモビルス−ツが簡単に開発できる筈もない。
それに、様々な機体テストをパスしても、ガンダムの名に畏怖しないエ−スクラスの敵パイロット達からは、真っ先に狙われる。
実力が伴わずガンダムの名を騙るモビルス−ツの行き先は、鉄屑でしかないと一年戦争が終結してから3年の間に証明された。

つまりガンダムの姿をしたモビルス−ツは『はったり』用か、それ相応の性能を持っているかどちらかに限られる。


「す、凄い・・・・あれがNervの決戦兵器かあ・・・・・!」

「それに何や、あれはガンダムとちゃうんか!?」

地下のシェルタ−へ向う途中、相田ケンスケと鈴原トウジはトイレへ行くと言い、避難する生徒達から離れ学校の裏山に来ていた。
そこには父親のパソコンデ−タから、ちょろまかした映像写真と同じ機体が見えるではないか。
そのうえ、初号機の上空にはモビルス−ツ紹介雑誌にも載っていないモビルス−ツが居る。
あの独特のシルエットは間違いなくガンダム系列に思える。
軍事オタクのケンスケは感動に涙を流す。

「見たことのないタイプだ。危険を覚悟してシェルタ−に行かずに来たかいがあったなぁ」

「お前は自分の欲望に素直なんはいいけど、下手したらワシら死ぬで!?」

なんだかんで言って付き合いのいいトウジだが、楽観的すぎる親友に呆れた。

「何言ってんだ。このチャンスを逃したら、巨大ロボットの戦闘なんて一生見られないかも知れないんだぞ。それにトウジだって、あれに乗る転校生のことが気になるから俺についてきたクセに」

「な、何言うてんねん。ワシはただ・・・・」

「それにトウジには、アイツの戦いを見届ける義務があるんじゃないのか?」

「しゃ、しゃないなあ・・・・」

関西弁で喋る友達の性格を把握しての行動。こう言えば「男気ある男にならないかん」と普段から口にしているトウジが断われる筈がなかった。


―――ガンダムタイプ!それに、あの動きから想像できる基本フレ−ム。何所となくカトル君のサンドロックに似てる。

初号機のメインモニタ−を見たシンジが唸った。

カトル=ラバ−=ウィナ−。中東諸国に大きな発言力と財力を持つウィナ−家の後継者にして数少ない同年代のシンジの親友。
5歳の時に武術の師匠。東方不敗と兄弟子であるドモン=カッシュと共に宇宙へあがった際、ウィナ−家には幾度も世話になった。
趣味であるチェロもカトルに勧められて始めたのだ。

「そう言えばH教授が言ってたな。仲間がガンダムを他に造っているって・・・・」

敵か味方か分からない。戦場の倣いで、疑わしき未確認機は敵として扱うのが普通だが、もしもカトルの仲間なら、できるだけ戦いたくない。
それに、翼を持ったガンダムがサンドロックに匹敵するパワ−を持っているなら油断できない。

「敵機確認。排除する」

翼付きのガンダムがビ−ムサ−ベルを抜き、初号機に斬りかかってくる。
背面のバ−ニアを最大にして突っ込んでくるスピ−ドは、従来のモビルス−ツの機動性を大きく上回る。
このガンダムは虚栄用ではなく、どこまでも実戦で戦い。重すぎるガンダムと云うブランド名に負けない性能を持っているのが今の動きだけで判明した。

「無駄だよ」

初号機の前に赤い壁が生み出され、ビ−ムサ−ベルを防いだ。
シンジが、この一週間で最も優先して訓練を行ったATフィールドだ。物理学に属する攻撃なら如何なるものも通さない強固な盾。

「カトル君の仲間かもしれないけど、落とされる訳にはいかないよ!」

気持ちを切り替える。降りかかる火の粉は払わなければ、この時代は生き残れない。
パレットガンが火を吹いた。コクピットを狙わず右腕に照準をさだめた。
ATフィールド越しの攻撃に、翼付きのガンダムは急上昇して回避する。
ガンダムが牽制に頭部のバルカンを連射する。だが、ATフィールドには全く通用しない。
初号機のパレットガンの射線から逃れようとするガンダムを、狙い撃ち続けるが当たらない。
立ち止まっての射撃だ。動き回りながら撃つより、遥かに命中率は高いのだが捉える事ができない。
速く鋭い回避行動。機体性能だけでは出せない動き。少なくともガンダムのパイロットの技量はエ−スクラスだ。

「強固なバリアを確認。通常兵器では有効なダメ−ジを与えられない」

翼付きのガンダムのパイロットが、初号機との戦いで入手したデ−タを貯めていく。
可能であれば初号機を破壊したいが、このモビルス−ツでATフィールドに通用しそうな武器は一つしかない。
それもフェイントをかけ初号機の隙をつくらなければ躱される。
シンジとガンダムのパイロットが新たな動きをしようとした矢先。使徒ではない別の乱入者が第2新東京市に現れた。


「なんて動きをするの・・・・・あのガンダム・・・・・・・」

ガンダムの名に恥じないモビルス−ツの動きを発令所で見ながら、ミサトは唇を強く噛みしめた。
初号機がガンダムの攻撃を防ぎ反撃したタイミングはドンピシャだった。普通なら躱せる筈がない。だが、あのガンダムは躱した。
作戦部長として頭をフル回転させる。第2新東京市の防衛兵器では、あれだけの動きを見せるモビルス−ツは捉えられない。
それに多角的に攻撃すればシンジの気を削ぎかねない。シンジは集中しなければATフィールドを作り出せないレベル。一対一なら目の前の相手だけに集中すればいい。今、下手に手をだせばシンジの足を引っ張りかねない。
有効な作戦を必死に考えてる中、オペレ−タ−から新たな報告があがる。

「複数のモビルス−ツが此処に向ってきます」

「この緊急時にまたなの!?」

ミサトは使徒が此処に向ってくる非常時なのに、厄介事が次から次へと飛び込んでくる状況に苛立つ。
戦闘区域に急速接近してくる複数の機影をレ−ダ−が探知してアラ−ムが流れる
機体デ−タ照合確認。今度ははっきりと相手が分かったティタ−ンズの部隊だ。


「ここが使徒とかいう敵と戦うために建設された都市か・・・・・」

ティタ−ンズ第56連隊長ジェリド=メサがバイアランのコクピット内で鼻をフンと鳴らしながら呟いた。
紫色の角付きの機体と見慣れぬガンダムタイプが戦闘中。紫色の機体が報告書にあったNervの機動兵器。
ガンダムの方はティタ−ンズの照合デ−タには無い。どちらにしろ我等ティタ−ンズの邪魔をするなら排除する。

「そこのモビルス−ツ!すぐにこの区域から撤退しなさい」

ミサトが全周波数に合わせ、ティタ−ンズに即時撤退を要求した。
謎のガンダムの所属は分からないが、ティタ−ンズは曲りなりでも連邦軍に属する部隊。
S−111を発令している以上、戦闘区域での命令権は此方にある。

「まるで俺達がここに、来ちゃまずいような言い方だな」

ジェリドはムッとなり言い返した。

「この区域は危険なのよ!モビルス−ツなんかじゃ使徒には到底かなわないわ!」

第4使徒シャムエルが、もう其処まで迫っている。第3使徒サキエルと極東支部との戦闘で並のMSでは使徒に通用しないのは実証ずみ。気に喰わない相手だが、無駄に死なせる訳にもいかない。
だが、返ってきた答えは皮肉なものだった。

「俺達は、その使徒より、あんた達の決戦兵器の方が危険だと聞いて、ここに来たんだがな」

「何ですって?」

どうやらティタ−ンズにもエヴァの情報が洩れている。
連邦軍全体の掌握を目論んでいるティタ−ンズがエヴァに目をつけたのも納得がいく。

「手始めに、貴様らが所有している2体の決戦兵器をこちらへ受け渡しもらおうか。貴様らの存在はSDFと同じで、地球園の秩序を乱す原因となる。だから、俺達ティタ−ンズが貴様らを排除する!」

法的根拠がなにもないのは明白だ。でなければ、こんな押し込み強盗と変わらない手段はとらない。

「ティタ−ンズ本隊が極東地区へ来る前に、武装解除をした方が身のためだぞ」

ジェリドが顔を歪め恫喝する。

「今は非常事態宣言です。その命令は受け入れられません」

優先命令権はNervにある筈なのに強気の姿勢。ティタ−ンズの司令官ジャミトフ=ハイマンが連邦議会に根まわししたのであろう。
MAGIに調べさせた結果。現在、互いに命令権を行使できない状態であると判明した。

「ふん!なら実力行使するだけだ。後悔するなよ。各機、攻撃を開始しろ!」

「馬鹿なこと言わないでよ!初号機に何かあったら、あんた達だってタダじゃすまないわよ!?」

ミサトの声は届かずティターンズは交信を断った
連隊長のジェリドが命令を下す。十数機のバイアランが一斉に動き、初号機と翼付きのガンダムに攻撃を開始した。


「何や、連邦軍とロボットが戦闘を始めよったぞ?」

「ど、どういうことなんだ!?」

初号機とガンダムの戦場はトウジとケンスケが居る場所から遠く離れていたが、ティタ−ンズが横槍をいれた事で戦場が拡大した。

「こ、こりゃ逃げんとヤバいで!この辺りが戦場になるんとちゃうんか!?」

今になって命の危険を最大限に感じた。
初号機とガンダムの戦いは高度な舞踏のように2人を魅せていたが、ティタ−ンズの戦法は血生臭い戦場そのままを地でいく戦い方。
簡単に言えば、其処に住んでいる住民の生活など関係なく、邪魔なモノは排除し。是が非でも勝てばいいと云うモノだ。
ティタ−ンズの将校は地球至上主義の考えを、士官学校特別コ−ス時から洗脳されるように叩き込まれていた。
その為、エリ−ト意識が強く一部の人間を除けば、ティタ−ンズは勝つ為なら何をしても許されると思っている。

「ティタ−ンズ!また無意味に戦火を広げるのか!」

シンジが苦々しく言い放つ。
初号機に攻撃を仕掛けてきた部隊が分かると、躊躇いをみせずパレットガンの銃口を敵モビルス−ツに向けて撃つ。
シンジはティタ−ンズが大嫌いだ。スペ−スノイドを同じ人間と考えていない態度。コロニ−は地球に奉仕するのが当たり前と思っている傲慢な考え。

中でも最悪なのは『ラウンタ−の悲劇』と呼ばれるコロニ−消滅事件。
表向きはコロニ−に立て篭もったテロ組織が、住人を巻き沿いにコロニ−事自爆したと報道された。だが、真相は違った・・・・

ラウンタ−コロニ−の存在した場所はサイド2のエリアでも辺境に位置していた。
シャトル便は少ないが、貴重な鉱物を多く産出している資源衛星を所有していたので経済的には豊かなコロニ−だった。

その経済力に目を付けたティタ−ンズは、テロ対策と偽り大部隊をもってラウンタ−コロニ−へ強襲をかけた。
ティタ−ンズが突きつけた要求を要約すると、ラウンタ−コロニ−は反地球政府テロを行うテロ組織を匿っており、そのテロ組織に経済支援を行っている。
テロ組織の壊滅と、再びテロ組織が再建されない為にも、ラウンタ−コロニ−が所有している資源衛星の没収をティタ−ンズが言ってきた。

コロニ−という空間は地球に住んでいる者が考えるほど、完成された物ではない。
外壁を隔てて、外にあるのは宇宙空間。ささいな事故や宇宙空間を漂う小さな石で外壁が破損する危険性といつも向き合っている。空気のコントロ−ル、水の生産。
地球上では自然がしてくれる事をすべて人間がやらなければならない。

それゆえスペ−スノイドは自分達に害をなすモノに抵抗する。コロニ−に住む120万人の住人の殆どがティタ−ンズに反発した。
あたりまえだ。資源衛星を失えばラウンタ−コロニ−の経済は崩壊する。生きる糧をみすみす取られる訳にはいかない。
一向に抵抗をやめないラウンタ−コロニ−側に、業を煮やしたティタ−ンズが事もあろうに南極条約で禁止されている核を使った。
結果、ラウンタ−コロニ−は消滅した。住人120万人と共に・・・・・・

シンジは地球生まれだが、宇宙で暮らした年月の方が長い。考え方がスペ−スノイド寄りだ。
その上、ティタ−ンズの実態を知っているだけに、ティタ−ンズに対し容赦がない。

「任務障害を確認。排除する」

ガンダムも同じように攻撃を仕掛けてきたバイアランに反撃する。
バイアランが撃ってくるビ−ムライフルを物ともせず躱し、ビ−ムサ−ベルでバイアランの胴体を一撃で真っ二つに分ける。
そのまま続けて数機のバイアランを駆け抜けざまに倒していく。


「あのガンダムは!ヒイロ!間違いないわ、あれにはヒイロが乗っている」

上空で戦うガンダムとバイアランを見て、リリ−ナ=ド−リアンが叫んだ。
リリ−ナの叫び声に反応し、逃げようとしていたトウジとケンスケが、リリ−ナに気が付いた。

「お、おい、ケンスケ!あれ、さっきの子とちゃうんか!?」

「ほ、本当だ・・・・・あんな所で何をやってんだ?」

第壱中学で探していたヒイロ=ユイを見つけられなかったリリ−ナは途方に暮れていた。
ヒイロを知っていた2人の男子生徒に、もう一度ヒイロについて聞いてみようと思った時に第2新東京市に警報がなった。
自分も避難しようと校舎を出た時、ヒイロの事を教えてくれた二人が裏山に行くのを見て、もしかしたらと考えトウジとケンスケの後を追ってきたのだ。

「あら、あなた達は?」

リリ−ナは顔面蒼白にして、山の上から逃げてくるトウジとケンスケ達に一緒に避難しようと言われた。

「はよ逃げんと戦闘に巻き込まれてまうで!!」

「こっちだ、行こう」

この裏山に詳しいケンスケが枯木の向こうにある細道を指差した。

「・・・・・わかりました」

流石に此処が危険と判断したリリ−ナは素直に従って一緒に逃げ出す。
ヒイロの事は気懸かりだが、今の時点ではどうにもならない。
もう一度と上空を見上げると、バスタ−ライフルを両手で構え、初号機とティタ−ンズ部隊を狙っているガンダムが居た。


「しまった!」

ティタ−ンズ部隊に気を取られすぎたシンジが、バスタ−ライフル発射直前のガンダムに、ようやく気が付いた時には遅かった。

「破壊する」

ヒイロがトリガ−を引いた。射線上のティタ−ンズ部隊の半数が消滅し、威力を衰えることなく初号機にエネルギ−の奔流が牙を剥いた。
なんとかATフィールドを展開させるが、集中力が不完全だった為、赤き盾を貫きバスタ−ライフルから放たれた光が初号機の肩をかすめた。
初号機がよろめき、体勢を立て直そうとするが、山の地盤が初号機の重みに耐え切れず崩れ始める。
なんとか逃れようと、その場から大きく飛び退いた。だが、あまりにも体勢が悪い状態から飛び上がったので着地に失敗してしまう。
初号機はそのまま後方に尻餅をついて倒れた。

―――っな!ペガサス級戦艦の主砲以上の威力だと!?なんでモビルス−ツが、そんな無茶苦茶なビーム兵器を装備してるんだ?
くそ!あのガンダム。攻撃力に関してならサンドロックを大きく上回る。スッペクを甘くみていたか・・・・・・隙をつかれたとはいえ、ATフィールドを破るなんて・・・・・・

「だめや!もうアカン!」

「パパ!パパ!助けてよパパ!!!」

「・・・・・・ヒイロ、あの時の言葉を実行するのですか?」

シンジが悪態をついて、初号機を起こそうとした時、サブモニタ−のアラ−ムが鳴り響く。
なんだ?とサブモニタ−を見ると初号機の手の近くに3人の人影があった。
抱き合って醜態をさらしている2人には見覚えがある。
学校で絡んできたジャ−ジ君と眼鏡君だ。
そして、もう一人いる女の子は気丈にも、震えている2人を叱咤して危険から遠ざけようとしている。

「エヴァの指の間に誰かいる!?」

「シンジ君のクラスメ−ト?何故、あんな所に?」

MAGIがトウジとケンスケのデ−タを引き出し表示する。ミサトはそのデ−タの少年達がシンジと同じ第壱中学の生徒だと分かり愕然した。

「第2新東京市のIDを持っていない子もいるようね。念のため、映像からデ−タを照合して」

マヤがリツコの命令に即座に従う。
都内、国内、海外と順を追って、検索範囲を広げながらMAGIが該当デ−タを探すが、以外にも早く見つかった。
それもその筈、本名で都内の一流ホテルに宿泊していたのだ。

『リリ−ナ=ド−リアン』

地球とコロニ−の友好関係に心を砕き活動していたド−リアン外務次官の一人娘。
ド−リアン外務次官は残念なことに一ヶ月前に亡くなっている。
ますます険悪になる地球連邦政府とコロニ−に打開策を求める為、ド−リアン外務次官はサイド3の指導者的人物と対談を行う筈だったが、宇宙に上がった時、ロームフェラ財団の私設部隊OZの策謀により殺された。
軍事力で地球圏を完全独裁しようとするロ−ムフェラ財団にとって、平和を訴えるド−リアン外務次官は目障りな存在だったのだ。

娘のリリ−ナもド−リアン外務次官に付いて宇宙へと上がっていたが、なんとか凶弾の魔の手から逃れ、2週間程ヒイロ=ユイを工作員に育てたDr・Jに匿われていた。
そこで、リリ−ナにむかい『オマエを殺す』と言ったヒイロが何者なのか知った。
父親と信じていたド−リアン外務次官が息をひきとる直前、自分の出生の秘密を打ち明けられ、自分の信じていたものが崩れていく気持ちを味わっている時リリーナは、どうしよもなくヒイロに会いたくなった。
コロニ−の為、孤高な生き方をする彼と話がしたかったのだ。
そして、再びリリ−ナはヒイロと会うことができた。銃弾飛び交う戦場でだが・・・・・


初号機が起き上がらない事に疑問をもったヒイロは一旦、攻撃を中断した。
数分と短い時間だが、初号機の戦闘力をかなり把握していた。まともに戦えば、ヒイロが乗るウイングガンダムでも敵わない性能を秘めている。
特に厄介なのは、赤い障壁だ。あのバリアをどうにか破れるのはバスタ−ライフルの全出力発射のみ。
残りの弾数は2発。
確実に仕留めるには、こんどこそ完全に捉えなければならない。けれど、先程のようなチャンスを造ることができるだろうか?
初号機を操っているパイロット。碇シンジ。この一週間、監視してきて只者ではないと分かっていたが、実際戦ってみると底がしれない実力を持っているのを改めて実感できた。
戦場で同じ過ちを2度も見せるほど甘い奴ではない。
そんな奴が倒れたまま、隙を見せたままなので逆に罠かと思った。光学センサ−を初めウイングガンダムに搭載されている検索機器をフル稼働させる。

「あいつは・・・・まさか」

初号機が倒れている場所に生身の人間が3人確認できる。
内の1人に見覚えがある少女が居た。地球に降りた時、自分の機体と顔を見られた少女だ。口封じに殺そうとしたが、邪魔がはいり殺せなかった少女。新たな任務の為、もう2度と会う事もあるまいと思っていた。
どうして、こんな場所に居る?

「ヒイロ!」

ウイングガンダムのメインカメラが設置されている頭部がリリ−ナを見た。それに気付いたリリ−ナが自分の存在を知らせるように叫んだ。

「ヒイロって・・・・・まさか、あいつがあのガンダムに乗っとんのか!?」

「ええ」

トウジが目を見開いてリリ−ナに訊く。トウジの問いにリリ−ナは誇らしげに肯いた。


(ここでリリ−ナを消せば、後々面倒がなくなる)

ウイングガンダムのパイロットである事を知っているリリ−ナの存在は、これからの任務の妨げになる。工作員らしい考えを浮かべたヒイロは頭部バルカンの発射スイッチを押そうとした。

「ヒイロ・・・私はあなたを追いかけて、ここまで来ました」

リリ−ナの声が集音マイクに拾われた。

「!!!」

リリ−ナは、なにかの偶然で此処に居たと思っていたヒイロは、リリ−ナの言葉にバルカンの発射スイッチを押そうとしていた指先を止めた。

「ふふ・・・・おかしいですね・・・・あなたは私を殺そうとしているのに。でも、あなたに出会って私の中で何かが変わりました。あなたは、これからの私の運命に大きく関るような気がするのです。そして私はそれを確かめる為、あなたに殺される事を覚悟して、ここまで来ました」

命乞いではない。何かを悟ったような声色にヒイロは戸惑った。
任務遂行の為なら幾らでも非常になれる自分がだ。長年の訓練により感情制御は心得ている。
戦いにおいては氷のハ−トで挑める筈なのに、その氷にうっすらとヒビが入ったみたいだ。

「Nervのロボットとガンダムの動きが止まった?何かは知らないがチャンスだ」

初号機の前方で、同じように動きを止めたウイングガンダムに勝機をみたジェリドが残存兵力を再集結させビームライフルの雨を降らしてきた。

シンジは、こんな近くにトウジ達がいるのでATフィールドを展開できない。今、ATフィールドを張ればトウジ達を潰してしまう。
初号機で覆いかぶさりティタ−ンズ部隊が放ったビ−ムライフルのエネルギ−を背中で受ける。
ATフィールドが無くても特殊装甲1万2千枚の鎧は、バイアラン8機の一斉攻撃に耐え切った。

「っ痛」

背中に焼けてはじた石の礫を浴びせられたような痛みを感じる。なまじシンクロ率が高いのでシンジに伝わる痛みも妨げれない。
リリ−ナを庇った初号機を見たヒイロは、意識した訳もなく身体が動いた。

「攻撃目標変更、タ−ゲット排除する」

小さく自分に言い聞かせるように呟いたヒイロは、フォ−メションを組んでビ−ムライフルを撃ちまくるバイアランに飛び掛った。
空中に飛び上がり、急降下でビ−ムサ−ベルを振るウイングガンダムは、反撃も許さず瞬く間に4機のバイアランを切り裂き破壊した。

(何故だ!・・・・・俺は何故、アイツを殺せない?)

「あ、あのガンダム・・・・ワシらを守ってくれんか?」

覆いかぶさった初号機の腕の隙間から見えるウイングガンダムが、ティタ−ンズ部隊の注意を逸らしているのがトウジにも分かったが、操っているパイロットが行動の矛盾に葛藤している事には気付かなかった。


「シンジ君!その3人を操縦席に」

広がる戦火に、見かねたミサトがシンジに命令をだした。

「許可のない民間人をエントリ−プラグに乗せられると思っているの?」

ミサトの突拍子のない命令に、リツコは技術部長としては許可できないと反対した。

「私が許可します」

「越権行為よ、葛城一尉!それに、使徒との戦闘に多大な支障が出ることは明白よ!」

エヴァシリ−ズはチルドレンとのシンクロによって可動する。エントリ−プラグの設定はシンジ個人のパ−ソナルデ−タに合わせ設定されているのだ。
そこに異物を入れれば、如何なるかくらい作戦部長のミサトにも分かっている筈だ。

「早くして日向君!」

「は、はい」

睨みあうミサトとリツコに如何したものかと、動きを止めていたメインオペレ−タ−に強い口調で命令した。
日向マコトは言われるまま初号機とシンジのシンクロを一時カットして、エントリ−プラグを排出させた。

「そこの3人、早くエヴァに乗って!」

エントリ−プラグにも付けられている外部スピ−カからミサトの大声が木霊した。

「早く、こっちへ!」

シンジがLCLから顔をだして叫び、腕をふって死にたくなければ急げとせかす。

「わ、わかった。行こう。トウジ、リリ−ナさん」

ケンスケは、2人の手を引いて初号機のエントリ−プラグに向い走り出した。

「で、でもヒイロが・・・・!」

「アイツなら大丈夫や!それよりもワシ等が此処に居ったら余計動けなくるで!」

また新たにバイアランを倒したウイングガンダムを見るリリ−ナにトウジが言い聞かせた。
残るティータンズ部隊はジェリドとカクリコン。それに一般ティタ−ンズ兵が乗るバイアラン3機のみ。
先程の戦いから見てもウイングガンダムの方が優勢だが、これ以上、足手まといになるよりはとリリ−ナも駆け出してエントリ−プラグの中に入った。


「何や!?この中、水やないか!?」

「い、息が・・・・・!!」

ズボンとLCLに入ったトウジとケンスケが口を押さえ息を止める。

『大丈夫よ。肺がLCLで満たされれば、息はできるわ』

ミサトがLCLについて簡単に説明した。

「おしゃる通りですわ」

リリ−ナは肺まで取り込んだLCLによって呼吸できる事を、オロオロするトウジとケンスケに伝える。呼吸しているリリ−ナの姿に、トウジとケンスケも飲み込むようにLCLを口に入れた

(・・・・・動きにくい。身体が重くなった・・・・・・)

3人をエントリ−プラグに入れてシンクロを再会させたシンジは、全身に鉛を仕込んだ服を着せられたような圧迫感を味わっていた。
初号機、神経系統に異状発生。異物を三つプラグに挿入したからだ。神経パルスにもノイズが混じっている。
シンクロ率が活動限界点ギリギリまでに下がる。

「シンジ君、撤退よ。回収ル−トは34番。山の東側に後退して」

ミサトの命令と共にサブモニタ−に映るマップに撤退地点を示す光点が点滅する。初号機が最初に使った昇降リフタ−はティタ−ンズの攻撃で破壊されて使えない。


「こ、これ以上!やってられるか−!!!」

ウイングガンダムに片腕を斬られたティタ−ンズ兵のバイアランが逃げ出した。

「おい!敵前逃亡は銃殺刑だぞ!」

「そんなもん知るか!無抵抗の拠点を制圧できると聞いたから俺は来たんだ。ガンダムを相手にするなんて聞いてないんだよ!」

連隊長のジェリドの制止を振り切って、ティタ−ンズ兵のバイアランが遠ざかっていく。片腕を斬られた状態でも飛行するには問題なさそうだ。
ジェリドは逃げ出す部下を撃とうと思ったが、対峙するウイングガンダムの前で、そんな致命的な隙は作れないと歯ぎしりした。

「へへへ・・・・隊長達は俺が逃げるまでガンダムの相手をしてやって――」

チュ―――ドォォォォン!!!!!

爆破音と共にバイアランが四散する。
射程外まで逃げたと思ったティタ−ンズ兵が捨てセリフを吐いている途中、ソレが遂に第2新東京に現れた。
ソレは、自分に向い飛んでくるティタ−ンズ兵のバイアランを蝿のように叩き落した。

「目標が第2新東京市のエリアに侵入しました」

「ついに来たか」

パタ−ン青確認と青葉シゲルが発令所内に響く声で報告する。満足な迎撃体勢もとれないまま、第2新東京市に浸入を許した4使徒シャムエルに、副指令の冬月は緊張を張り詰めた声をあげた。


「な、何やアレは!?」

初号機のモニタ−に最優先排除対象の姿がくっきりと映る。
特撮番組に出てくる怪獣のような使徒。直立した臙脂色のイカ。肩とも窺える場所から触手が伸びている。まるで光の鞭だ。
あの鞭が逃げ出したバイアランを瞬殺したのだ。

「あれが、僕達の敵、使徒だ」

初号機の識別表示に『NO4 ANGEL』の文字だけが出ている。


「ジェリド、撤退するぞ」

「・・・・・・分かった、カクリコン」

このまま撤退すれば更迭処分は免れない。
だが、一撃で破壊された同型機のバイアラン。それに16機で編成された第56連隊は2人を残して全滅した。これ以上の戦っても勝機はない。
幸いにも敵対するガンダムはジェリドとカクリコンよりも、あの化け物を脅威とみているようだ。

「正体不明の物体を確認。戦闘を維持しつつ情報を収集する」

ウイングガンダムのバスタ−ライフルの砲身から閃光が吼えた。その時「今だ」とジェリドとカクリコンが逃走した。

捉えた!

ヒイロは確信した。
初号機の時とは違って真正面からシャムエルの中心部をピンポイントで狙ったエネルギ−が突き進む。

「なに!?」

初号機のATフィールドを貫いたバスタ−ライフルの攻撃が、シャムエルのATフィールドによって防がれたのだ。
けれど、完全に防がれた訳でもなさそうだ。雀の涙ほどに攻撃力を落としたが、僅かに届いたビ−ムがシャムエルの表層を軽く焦がした。

「あの攻撃の大半を無効化するATフィールドか・・・・・・」

シンジが呆れたように呟いた。遠距離攻撃のパレットガンではシャムエルのATフィールドを中和する事はできないだろう。白兵戦で直接シャムエルのATフィールドを中和するしかない。
その為にも、早くエントリ−プラグの3人を安全な場所にまで非難させなければ・・・・

「おい!まずいぞ。あの化け物。壱中の方に向ってるぞ!」

シンジがシャムエルにどう挑むか考えている中、背後からケンスケが焦ったように叫ぶ。
彼等が通う第壱中学の地下に近隣の住民が避難するシェルタ−がある。
MS程度の攻撃なら耐えられる強度を持っているが、使徒の攻撃には耐え切れない。
それに、今あのシェルタ−にはイルイがいる。
下手に胡散臭いNervに連れてくるより、一般人が居るシェルタ−の方が安全だと考えたのが裏目にでた。

「――!!!イルイちゃんが、あのシェルタ−に居るっていうのに!」

舌打ちして、自分の考えの甘さを呪った。こんなことなら、幾ら信用ならない組織でもNerv本部に連れてくればよかった。それに、あのシェルタ−には顔見知り程度の仲だが壱中の生徒が大勢いる。
見捨てる?
そんな事はできない。

「て、転校生・・・・・何で逃げへんのや?こ、恐くないんか!?」

初号機の進攻方向が34番ゲートからシャムエルに変わった事に気付いたトウジが、シンジに詰め寄った。

「恐いよ。下手をすれば死ぬからね」

恐怖の感情を無くすことはできない。死は恐怖だ。
死ぬのが恐くないと云える者は、自分より大切な者を守る時か、勇気と蛮勇の意味を履き違えてるカン違いヤロ−だけだ。

「だったら・・・・・・」

「だけど、ここで逃げたら。君の妹みたいにケガをする人が増えてしまうじゃないか。それに、あのシェルタ−には僕の大切な家族がいるんだ」

トウジはシンジの言葉に打ちひしがれ黙りこむ。

「私、詳しい事情は存じませんが・・・・ここで逃げては駄目だと思います」

「リリ−ナさんまで何をいい出すんや!あんた怖くないんかいな!?」

「怖いですわ。でも・・・・・ここで逃げれば、他の人達が今の私達と同じ恐怖を味わう事になるのではないでしょうか?ですから、私もここで恐怖と戦います。あなたも頑張って下さい」

女であるリリ−ナが、ここまでの意思を見せている。普段、「男とは」と公言しているトウジも肝も据えてグッと奥歯を噛みしめた。
隣で泣き喚くケンスケに「根性みせんかい」と頭にゲンコツを食らわして。

「ミサトさん。撤退命令ですが命令拒否権を発動します」

エントリ−プラグ内が静かになったのを見計らってシンジが、虎の子とも云える命令拒否権を使った。
まさか、こんな局面で使うとは契約時には思いもよらなかった。今回みたいな事で使えば今後、使える事ができなくなるかもしれないのに・・・・・・・

「な、何をバカなこと言ってるの!その状態じゃ戦闘は無理よ!命令を聞きなさい」

今回に限って言えばミサトの判断は正しい。シャムエルはウイングガンダムを標的にしている。少しぐらいの被害を目に瞑れば、初号機がケイジに戻るくらいの時間を稼げるだろう。
だが、壱中に向う進攻方向は変えていない。まるで、当初とは違った目標物を壱中の中に見出したように。

「・・・・・アスカ。僕は、やっぱり君が言うように、ばかシンジだ」

自分でも馬鹿な事をしていると頭で理解している。が、心は自分の判断に納得している。
馬鹿じゃなければ、一年前のあの時、DG細胞に侵された幼馴染を助けれなかった。
初号機の通信スイッチをOFFにする。ミサトの怒鳴り声が聞こえなくなった。

「シンジ君!」

発令所内にミサトの悲痛な声が木霊した。

「副指令、ロンド・ベル隊に出動を要請しますが、よろしいでしょうか?」

「間に合うとは思えんが、この状態では、仕方がなかろう」

今からの要請では、どんなに急いでも第2新東京市に辿りつくには30分以上かかる。
親子共々、苦労をかけてくれる。冬月は目を閉じて重い溜息を吐いた。


(本格的にまずい。躱すのが精一杯だ)

シャムエルをシェルタ−から遠ざける為、攻撃をしかけ初号機に誘い寄せたのはいいが、シャムエルの光の鞭にシンジは攻め倦んでいた。 
鞭は、ただでさえ認識が困難な武器だ。それが、亜高速に達する速さで襲い掛かってくる。

初号機が大きく後ろに飛び退く。そのタイミングを合わせたようにウイングガンダムが一撃離脱でシャムエルにビ−ムサ−ベルで斬りつけるが、ビ−ムサ−ベルでは攻撃力が足らずシャムエルのATフィ−ルドを破れない。

「手詰まり・・・・・か。・・・・しょうがない」

シンジは、このままでは勝てないと判断すると、自分が座っているパイロットシ−トの一部分を、拳を固めて殴りつけた。
グシャ!と音を発てて座席下部分が壊れる。壊れた箇所にはパイロットのボイスレコ−ドを記録する装置があった。
エントリ−プラグの構造はトップシ−クレットだが、先日、技術部に隠れて潜り込んだ時、設計図のデ−タを失敬した。
パイロットに閲覧が許されているデータレベルは8段階中4位まで。もちろんエウ゛ァの詳しい構造デ−タなど見られない。
いくら厳重にプロテクトウォ−ルが掛けらても所詮、最後は人が扱うものには変わりない。
MAGIにハッキングする程の技術はないが、技術部に置いてあるコンピュ−タデ−タ程度なら直接アクセスすれば手にいれるのは簡単だ。

「これでNervの連中には聞かれない。後は――」

油断すると、いつ寝首を掻かれても可笑しくない組織だ。用心に越した事はない。
一撃離脱後、ウイングガンダムが初号機の近くに降り立った。そのウイングガンダムの肩を初号機が掴んだ。

「こちらは碇シンジ。聞こえてるだろヒイロ=ユイ。提案がある」

お肌の直接回線と云う方法だ。これなら外部から会話を盗聴される心配はない。
これから話す内容は、決してNervの連中に知られる訳にはいかない。
後ろに居る3人にも念を押して喋らないよう約束させる。喋ったら最悪、殺される可能性がある事も含んで。

「このままじゃ埒が明かない。協力してくれない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

回線は繋がっている。互いのコクピット内の映像も届いている。ヒイロは無言のまま黙っている。
そんなヒイロの態度を予想していたのか、シンジはぼそっと呟いた。

「オペレ−ション・メテオ」

ピク。
ヒイロが僅かたが反応した。

「僕はコロニ−の敵じゃない」

「・・・・・それを、信用しろと?」

シンジの言葉に偽りは感じられないが、事はコロニ−に関する。簡単に信用する訳にはいかない。それに極秘である作戦名を知っていると云う事は、作戦内容も知っているかもしれない。
使徒を優先敵とみなしたヒイロだが、依然、初号機も敵である事には変わりない。

「この紋章に掛けて誓うよ」

「―――おまえ!・・・・・シャッフル同盟か!?」

シンジは右手を目前に掲げシャッフル・ルーン・ブランクを見せた。
魂に直接染みこむような輝きを見せる光と闇の紋章は、偽物には絶対に出せない安らぎと、気力を満たす力を与えてくれる。
スペ−スノイドにとってシャッフル同盟は特別な意味を持つ。シャッフルの紋章を持つ者の影響力は半端なモノじゃない。

「もしも、エヴァがコロニ−に害をなすようになったら、僕が責任をもって、この手で破壊するよ。だから、今は力を貸してくれないか?」

碇ゲンドウが、どんな企みを練っているか知らないが、どうせ碌なことじゃない。
最悪な展開に持っていかれたら、シンジは迷わず初号機を破壊する覚悟がある。
どんな頑丈な機体でも、内部から流派東方不敗最終奥義を撃てば壊せる。

「・・・・・・・了解した。オマエを信じてみよう」

「ありがと」

シンジが考えた提案は至極単純だ。
ウインガンダムのバスタ−ライフルの攻撃に合わせて初号機も仕掛ける。
重用なのはタイミングだけだ。

ウインガンダムが飛び上がると機体がねじれ、翼が広がる。まるで、人が鳥に変わるように。

「変型機能も備わっているのか・・・・」

飛行形態に変型したウインガンダムは一瞬で上空数百メ−トルまで上昇すると、制御ノズルを上手く操作しスピ−ドを落とさず向きを変え急降下してきた。

「破壊する」

飛行形態になったウインガンダムのバスタ−ライフルが最後の一撃を放つ。上空から撃たれたバスタ−ライフルのエネルギ−がシャムエルのATフィ−ルドと激しく衝突した。

「いまだ!」

初号機はショルダ−ウエポンからブログレッシブ・ナイフを取り出し装備した。
ブゥゥゥオンとブログレッシブ・ナイフが震動する。
初号機が走り出す。シャムエルに向い一直線にだ。
ウイングガンダムの攻撃で動きを止めたシャムエルが、近づいてくる初号機に気付き、鞭を槍のように打ち込んできた。
初号機は躱そうとする動作すら見せず、あえてシャムエルの鞭を受けた。腹部がシャムエルの鞭に貫かれた
シンクロ率が落ちたとは云え激痛がシンジの身体に走る。

「うぉぉぉぉぉぉ――――!!!」

雄叫びを挙げシンジは、痛みを意図的に無視した。
後で、いくらでも痛がってやる!だから僕の身体!今は僕の意志に従え!今、気絶する訳にはいかないんだ!

グサ!

ギリギリまで弱まったシャムエルのATフィ−ルドを初号機が破ると、右手に握っていたブログレッシブ・ナイフをシャムエルのコアに深く刺しこんだ。
火花を散らせながらブログレッシブ・ナイフがコアに食い込んでいくが、シャムエルの動きは止まらない。
・・・・・届かないのか?なら!届くまで足掻いてやる!
シンジは深く呼吸して息を吐くように言葉を紡ぐ。

「僕のこの手に紫電が疾り 
            全てを貫く
                 雷光やどる」
 

テンポある詩を歌うように口にしたシンジが、大きく叫ぶ。

「ライトニングフィンガ−!!!」

一瞬だが初号機の左手に、数十億ボルトに匹敵する超々高電流が生まれる。
時間にしてコンマ何秒。異物を3人も抱え、落ちたシンクロ率では、これが限界なのだ。
だけど、密着して相手が逃げれない今ならコンマ何秒で充分だ。
青白い光の剣となった初号機の左手が、シャムエルのコアを砕いた。

「やったのか・・・・・・?くっぅ、悪いけど・・・・・僕は・・・・ねむ・・らせて・・・もらうよ・・・・・」

シャムエルが完全に動かなくなった事を確認する。
シンジはまどろみながら、ウイングガンダムが飛行形態で第2新東京を離れていく姿を最後に目にし意識を闇の中に落とした。


あとがき

ガンダム系はIF設定なので、真剣に受け取らないで下さい。

――と、言うわけで第5話後編でした。
読み直してみると・・・・・・しまった!イルイの出番がなかった!?
ヒロイン(未定)なのに!

でも、ツンデレ系の幼馴染と癒し系の義妹。人はどちらに萌えるのだろう?


レス返し

イスピン様> ボールでのタイマン勝負はキツイですよ。使えるのはマニピュレ−タ−のみで遠距離攻撃ができない状態なら、尚更ですし。

SS読み様> シンジがNervに居るのは、頼みごとを叶えてあげたい人への義理であって、正義感や使命感。まして碇ゲンドウとの親子の情は爪の先ほどありません。
シンジの本心はマスタ−アジアに着いて行きたかったので、Nervに要求した報奨金は断られる事を前提に提出した金額です。
もしNervがシンジの要求を飲まなかったら、ソレを口実にイルイを連れてマスタ−アジアの旅に同行していたでしょう。
「チッ!条件飲みやがった・・・・」と心の中で思ったのは秘密です。

ATK51様> ミサトは、嫌われてないけど信用もされていないポジションを維持してもらいます。
シンジの昔の仲間は、話が進む事に少しづつ登場させたいですね。

15様> 種の伝説の方です。

風を見る者様> トウジは機会があれば挽回のチャンスを!何を挽回するか、その時考えますが。
ミサトは今回をきっかけに、まともに・・・・・・なるといいですね。

ケイン様> Gガンダム系にネ−ムセンスを求められても苦笑するしかないです。
『コブラガンダム』『マンダラガンダム』『マンモスガンダム』『ゼウスガンダム』ets・・・
アニメ化されたガンダムシリ−ズは多々あれど、デットボ−ルを狙って投げたようなネ−ミングのGガン系の中へ、仮に『フリ−ダム(自由の翼)』なんて名前があったら違和感だけ感じます。
例えるなら、生粋の日本人に『エリザベス』とか『ナポレオン』と名付ける様なものと個人的に考えます。
ネオ・シャイニングガンダムの名は、とにかくシンプルで覚えやすいようにと考えました。
Gガンを知っているなら一発で、Gガンシリ−ズのガンダムと分かって頂ける様に。

BACK< >NEXT

△記事頭

▲記事頭

G|Cg|C@Amazon Yahoo yV

z[y[W yVoC[UNLIMIT1~] COiq COsI