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▽レス始

「WILD JOKER 巻7(GS+Fate)」

樹海 (2006-04-28 16:52/2006-04-29 19:59)
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「今日は何だか疲れた気がするわ…」
 呪刻に干渉し、更にアーチャーと遭遇、戦闘。加えて知り合いが死に掛けて、うっかり文珠ではなく大師父キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ譲りの宝石を使用してしまうという大ポカまでやらかしたのだ、そりゃあ疲れもするだろう。
 「けど、いいんすか?」
 「何がよ」
 「いや、何か神秘は隠すとか言ってたけど、蘇生してそのまんまで」
 「…………」
 はた、と思い出した。そういえば記憶操作も何もやってないし、加えてあのアーチャー。確実に止めを刺そうとしていた……ならば。
 「急いであいつの家に行くわよ!」
 「りょ、了解……って。凛さんあいつの家知ってるんすか?」
 「ええ、ちょっと訳ありでね」
 「訳あり……は、まさかこの年で夜はあいつと激しく爛れた関係……」
 言いかけて、横島は『そんな訳あるかーーーーーーーっ!』という怒声と共に空を舞った。


 「ああもう、全く。余計な時間かかっちゃったじゃない!」
 それから間もなく。衛宮邸の傍に二つの人影を見る事が出来た。当然ながら遠坂凛と横島である。
 「うう……だって俺の凛さんが」
 「あんたのじゃない!」
 そんな傍から見れば(ひのめとか)漫才そのものの掛け合いを続けながらやって来たのだが。
 「!矢張りいるわね」
 「強い霊気を感じますからね〜こりゃあのアーチャーって奴だな」
 矢張り危惧していた事が当たった、と唇を噛んだ次の瞬間。
 「「『え?』」」
 凛、横島、ひのめの三者から思わず声が洩れた。
 強い、そうアーチャーをも更に上回る強い魔力を帯びた存在が突如として出現しようとしていたのだ。それを魔力として感じ取ったのは凛だけだったが、横島はこの質の霊気に覚えがあった。
 『こいつは……小竜姫様や天竜と同じ質の……竜の霊気?』
 そんな事をふと考えた次の瞬間、爆発音、更に塀をアーチャーの赤い姿が飛び越えてゆく。彼は凛や横島にちらりと視線を向けるが、そのまま構う事なく逃走した。
 「……サーヴァントが逃走、という事はまさか相手もサーヴァント…?って事は衛宮君は」
 ぶつぶつと呟く凛を横目にだが、横島は緊張を高めていた。竜の気が高速で接近してくるのだ。
 「来る……!」
 「え?」
 降って来た青い人影に、反応した横島に対し、自分の思考に専念していた凛は反応が遅れた。だが、相手もまたマスターよりサーヴァントを仕留めんとしていたのが幸いした。
 キイイイイイイイイイイイン
 甲高い音を立て、横島のサイキックシールドとセイバーの見えない剣とが激突した。
 「「くっ……!」」
 それはどちらが先に洩らした声だったか。セイバーからは奇襲による先制の一撃で仕留められなかった事への無念が、横島からはいきなり受けた攻撃の重さがそれぞれに込められていた。セイバーの対魔力の高さをもってしても、霊力という質の違う力に変換されたサイキックシールドは無効化出来ない。ならば力ずくで押し切るしかないのだが、速さを重視した一撃では重さを乗せきる事が出来なかったようで即座にセイバーは距離を取った。その瞬間。
   「――Anfang(セット)」

 最早問答無用というのか。或いはサーヴァント相手に躊躇いは禁物と見たのか。即座にかなりの大粒の宝石を一つ、家をも吹き飛ばさんばかりの風の魔弾を凛は撃ち放ち……。
 それらは全て届く事なく霧散した。
 「!なんて対魔力の高さ…!とっておきの一つだったのに!」
 横島としても驚きだった。あの一撃は普段自分が馬鹿をやった時撃ってくる軽い一撃とは訳が違う。おしおきの為の一撃ではなく(それでも普通の人間が喰らったらえらい事になるのは必定だが)、相手を倒さんとする必殺の一撃。それを何ら術も技も振るう事なく無効化してみせたのだ。
 構えからして相手の獲物は少なくとも槍ではない。アーチャーとライダーには既に出会った。あの一撃の鋭さはキャスターの一撃ではなく、目の理性は彼女が狂気に染まっていない事を示している。鎧を纏ったその姿はアサシンという雰囲気ではない(アサシンならば下手に音のする鎧なぞ身につけないだろう)。ならばこの相手は。
 「セイバー……」
 遠坂凛から聞いた聖杯戦争における最高のサーヴァントと呼ばれるクラス、それが目の前に立つ少女の姿をしたものの正体だった。


 《拙いな》
 声にも顔にすら洩らさず心の内で呟く。
 セイバーとはすなわち剣の騎士。間違いなく相手は正規の剣を学び、英霊に達した剣の達人。そんな相手といきなり遭遇しての真っ向勝負というのは自分の戦闘スタイルとは違う。というか相性が悪い。
 かといって、この相手から凛を抱えて脱出というのはそれはそれでまた困難。
 そう思いつつ目前の月に照らされた相手を改めて見て。

 見惚れた。

 見た目だけ綺麗な相手なら嘗ての自分がまだ生きていた頃にも周囲には大勢いた。
 美神令子も、おキヌも、シロもタマモも、小笠原エミも六道冥子も魔鈴も小鳩も愛子も小竜姫もワルキューレもベスパもパピリオも隊長も、そしてもちろんルシオラも。皆それぞれに美人美女美少女と呼び方は色々あれ美のつく女性だった。だが。今目前に立つ少女は違う。
 それは。
 ただ美しいだけでなく、そこにいるだけで他を従える最早力と言っていいものを持った存在だった。それは横島が感じただけでなく、凛もまた同じだったのだろう。思わず見惚れていた。
 それ程。月光に照らされた青い騎士の姿をした少女は……美しかった。

 
 故に彼らがすぐに動けなかった一方で。
 セイバーもまたすぐに動けずにいた。
 他でもない、先程の一撃を防がれたのが何か予測がつかなかった為だ。これが宝具による盾ならば分かる。自身の宝具と同一存在で防がれたならそれを上回る一撃で粉砕するか、使えぬようにすれば良い。
 だが、先程の盾は宝具とは違った力と感じた。直感、と言っても良いかもしれないが、セイバーのそれは最早予知のレベルに近い。それが頭の中で訴えている。『あれは魔力とも宝具とも違う。されど警戒すべき力だ』と。
 故にすぐに動けず。
 僅かな時間であれ、膠着した瞬間が一瞬生み出され…それが状況を変えた。

 「やめろセイバー…!」
 自身の後方より制止の声が響いた。


 時をしばし遡る。
 暗闇に閉ざされた学校、そこで一人の男子生徒が起き上がった。
 「う……俺一体」
 そこではたと我に返って、慌てて身体を探ってみる。大きな傷があったが……。
 「……治ってる」
 あの赤い男に刺されて、死んだと思った。傷はあれが夢でなかった事を知らせているが、既に時が過ぎたかのように治っている。いや、あれは死んでないのが不思議だ。
 「……どういう事だ?」
 男子生徒、衛宮士郎は呟いて立ち上がった。ふと周囲を見ると、大量の血がこびりついている。間違いなく、ここで…。
 「とりあえず……」
 廊下にこびりついた血を洗うべくモップとバケツを探しに行く士郎だった。衛宮士郎、便利屋扱いされる事も多いが、正義の味方目指して日夜努力中な男である。

 「すっかり遅くなっちまったな」
 既に夜はとっぷりと更けている。この時間ではさすがに藤ねえも桜も帰ってしまっているだろう……明日の朝は二人から何故遅くなったのかと問い詰められそうだ、と考えながら、家に辿りついた。そして。 
 「待っていたぞ」
 居間の明かりをつけて最初に目にしたのは。
 己を殺さんとした、あの赤い男だった。

 「な…!」
 それでも、咄嗟に身体が動いたのは矢張りあの殺気を覚えていたのか。強化の魔術を使う事すら頭に思い浮かばず、ただひたすら逃げようと……身体は窓をぶち破って脱出していた。
 「……なに!?」
 それが意外だったのか。赤い騎士の行動は一瞬遅れた。彼は或いは立ち向かってくるか少なくとも躊躇すると考えたのか。いきなり逃げるという行動にロスが生じた。が、即座に顔を引き締めて追ってくる。いや、追おうとした。その眼前に鞄が飛んできた。咄嗟に彼が投げつけたのだろう。
 「ぐ……!」
 これで完全に勢いが殺された。赤い騎士は咄嗟に腕で防いだが、脚が止まった。その間に衛宮士郎は更に距離をあける。向かうは土蔵……この屋敷で一番頑丈なあそこに逃げ込んで扉を閉めてしまえば。そう感じて背後から迫る何かに咄嗟に身体を前に投げ出すようにして目前の土蔵の中へと転がり込んだ。瞬間広がる脚への激痛。どうやら何かを投げつけて来たようだったが、士郎が飛び込んだ為に脚を切り裂くに留まったのだろう。そして勢いのままごろごろと転がって止まった次の瞬間。

 己の目に入ったのは自らに迫る剣の輝き。だが、それは。
 己を救わんとする月光に弾かれた。

 しゃらん、という華麗な音。

 否、目前に降り立った音は真実鉄より重い。
 およそ華やかさとは無縁であり、纏った鎧の無骨さは凍てついた夜気そのものだ。だが。
 華美な雰囲気などあるはずがない。
 本来響いた音は鋼。
 ただそれを鈴の音と変えるだけの美しさを、その騎士が持っていただけ。 

 「問おう」
 土蔵の入り口。そこからこぼれる月光を背景として、青い衣を纏い、彼女は静かにそこに立っていた。
 「貴方が私のマスターか」
 闇を弾くその声、その姿に。衛宮士郎は答える事も出来ず、ただ見惚れていた。
 「召喚に従い参上した。
 これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。−−−ここに、契約は完了した」
 そう、契約は完了した。
 彼女がこの身を主と選んだように、自分もきっと彼女の力になると誓ったのだ。

 時間は止まっていた。おそらく一秒とてなかった時間。
 されど。
 その姿ならば、たとえ地獄に落ちようと鮮明に思い返す事が出来るだろう。
 時間はこの瞬間のみ永遠となり、彼女を象徴する青い衣が風に揺れる。


 「くそ……何故だ?」
 セイバーが召喚されてしまった。先を動いているはずなのに、どうも上手くいかない。まるで世界が自分を妨害しているかのようだ…。
 「まさか、な…」
 だが、こうなればセイバーと手合わせせざるをえない。何せ……。

 ギャリン!

 甲高い音が響く。
 そう、セイバーがあっさり逃走を許してくれるような生易しい相手ではないからだ。
 鋼と鋼を打ち合わせる音。それは瞬時に身を翻し迫ったセイバーの剣をアーチャーの双剣が弾いた音だ。セイバーの剣は見えない。周囲には風が轟々と渦を巻き、その姿を隠している。それが故に彼女の宝具その名を。

インビジブルエア
 《風王結界》

 だが、他ならばともかく、剣ならばアーチャーに見極められぬ道理はない。増してや、彼は……彼女の剣をよく知っていた。


 共にその射程内。ランサーのように片方は射程内なれどもう片方にとってはまだ必殺の間合いの外という事はない。だが、それでも攻撃はひたすらセイバーであり、防御はひたすらにアーチャーであった。これが双方にとっての必然。剣の騎士たるセイバーと弓の騎士たるアーチャー。本来、アーチャーのそれはセイバーの間合いの彼方より放つ必殺の魔弾。
 弓は接近戦に使用する武器ではなく、距離をあけて真価を発揮する武器。無論中には複数のクラスに相当する英霊もいるらしいが……。セイバーの記憶にはこのような次から次へと剣を出す英霊に覚えはない。
 己の一撃を完全に防げている訳ではない。
 次から次へと己の一撃を受け、双剣の片割れを弾き飛ばし、されど次の瞬間には新たに双剣の片割れがアーチャーの手に出現し、あいた側を狙うセイバーの剣の一撃を弾く。
 そして……幾度剣を交わしたか、どちらともなく間をあけた。

 「……四十七本。それだけ弾き飛ばしてもまだ出ますか」
 セイバーの呟き。
 次から次へと取り出される剣。本来宝具はその英雄を象徴するべきもの。北欧神話における主神オーディンにはグングニル、或いはトールのミョルニル、孫悟空には如意棒、インドラ神にはヴァジュラ。神話・伝承・英雄譚においてそれぞれには象徴となる武器がある。それこそ宝具。英霊は宝具を通して魔法とも言うべき現象を顕す事を可能とする。
 それを言うならばアーチャーの短剣は名剣ではあっても宝具ではないのだろう。当然と言えば当然なのだが、弓兵の宝具は弓でなければならない。 

 「さてと……このままだとこちらが不利だ。そろそろ」
 セイバーの呟きに答えるでもなく、あくまでも飄々とした風情でアーチャーは無造作に告げる。
 「お暇させてもらうとしようか」

 「させると思うか…!」
 逃げようと後ろに跳び退るするアーチャーに追いすがらんとするセイバーだが、そこへ彼が投じた双剣が弧を描いて迫る。邪魔だとばかりに手にした剣で打ち払って構う事なく前進しようとし。

ブロークンファンタズム
 《壊れた幻想》

 その直前に双剣が爆発した。
 「っ!?」
 その爆煙を《風王結界》で吹き散らし、だがその時には既にアーチャーは塀を越えて逃げ去る所だった。追うのは簡単だったが、相手はアーチャー、下手に自分がマスターの傍を離れた瞬間に狙撃されたのでは堪らない。それが一瞬セイバーを躊躇させ……アーチャーが完全に逃げ延びるには十分な時間となった。

 「………」
 逃したか、と一瞬考えるが、仮にも相手はサーヴァント、英霊の一つ。なればマスターが傍におらぬ自由な状態では逃走に専念されればそれを防ぐ事は難しい。ましてや、こちらのマスターは相手の目前にいるのだ。深追いは禁物。
 「え、ええと……」
 ようやく我に返ったのか、土蔵からマスターの声が聞こえる。だが、まだ終わってはいない。屋敷の外からもう一つ、強大な力の気配がする。この気配は間違いなく別のサーヴァント。偶然か、それともこの身の顕現を推測して来たのか。訳は不明だが、一体は逃したが、サーヴァントである以上ここで仕留めておく好機。
 「そのまま隠れていて下さい。……別のサーヴァントの気配がある。そちらを仕留めてきます」
 そう告げ、跳躍で塀を越える。まさかマスターが己の後を追ってくるとは思わなかったのだが。

 そして奇襲の一撃は相手の盾に防がれ、対峙する中。
 「やめろセイバー…!」
 マスター衛宮士郎の声で戦いは終わりを告げる。
 そう、そしてこの瞬間よりイレギュラーを含む全てのサーヴァントが揃い、この冬木市における聖杯戦争は幕を開けたのだ……。過去のそれとは異なるこれまでの蓄積が生んだ歪んだ聖杯戦争……その開幕のベルは今鳴り響いた。


 『後書きっぽい何か』
 ようやくセイバーの登場まで書けました。
 とりあえずこの後の展開の為もありまして、次かその次あたりの更新はしばし間があく予定です……いえ、今Fate/hollow ataraxiaやってるんですよね〜……まさか虎を除くスリーサイズがここに書かれているとは…早速以前の一部を修正〜
 さて、何時終わるかな〜…とりあえず夜の冬木市、新都に渡れるようにはなりました。

 では恒例のレス返しへ
>七位さん
ふむ、基本は凛ルート物語後半のアーチャーのやや過激版をイメージしていただければ…多少は分かるかも
この話では凛による抑えがないので…

>蓮葉 零士さん
はい、いよいよ登場しましたセイバーさん
文珠は書いてはいませんが、渡していても不思議ではないかと思いますのであのような状態といたしました。持っているかいないかでは、横島にとっての戦略も大分違いますからね。
とはいえ、矢張り咄嗟の場合には、自分に扱いなれた道具を使用するのもまあ当然かと…。

>rinさん
神父は次回に顔出し予定ですw
栄光の手双剣モードは生き延びる為に使えるようになった、と思っていただければ

>ryoさん
まあ、気持ち良かったでしょうね〜w
状況が状況なのでその時点では考える余裕なかったかもしれませんが、後で思い返してる事でしょうw
 

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