no side in eden
ここは天界のはずれにある湖。
この湖は人間界とリンクしていて、見たい場所を映すことができるのだ。
そのほとりにて、
「やれやれ。相変わらずだな、あやつは」
プハーっと煙草の煙を吐き出しつつ、服を着たサルがそう言った。
そのサルは器用に足でキセルを弄びつつ湖面を眺め、
「技の選択速度と発動速度がさらに速くなっておる。師として弟子の成長を喜べばいいのか、その止まらぬ成長に嫉妬を抱けばいいのか、複雑じゃな」
そう言って苦笑し、傍らの灰皿にキセルの火を落とし、
「老師。爺くさいですよ」
傍らにいた今の弟子、天使と呼ばれる存在にそんな事を言われた。
「こらファイエル。自分の師匠に向かって爺くさいとは何事だ」
そう言って怒り、とりあえず踵を落とすサル。
「ふぎゃっ!………うぅ。暴力反対」
「やかましい小娘。仮にも弟子なら師を敬わんか」
涙目で見上げる弟子を華麗に無視し、また煙草をスパーと吸う。
「む〜。あ、それより老師。この人が老師が言ってた『鋭鬼の羅刹』、そして話に聞く『無銘の英雄』ですか?」
そう言って指し示す先は、湖面に映った横島の姿。
「英雄、か」
目を細めてファイエルを見て、
「かつてのあやつをよく知る者は、決してそうは呼ばんがな」
「え?」
意外そうに言う弟子に向かい、サルは苦笑して、
「英雄にどんな理想を抱いておるかは知らんが、戦乱中の英雄とはなファイエル」
そこで一つ息を吐き、
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「そう呼ぶものにとって最も都合よく、最も多くの者を殺したものに送られる称号なんじゃよ」
苦々しく笑いながらそう言った。
「え?」
「まあ全てがそうとも言えんがの」
付け足しながらさらに言う。
「あやつにとってはそれがそのまま適用される。たとえばそうじゃな。ワシがあやつは強いと言った事を覚えておるか?」
「あ、はい」
サルの言葉に天使が頷く。
それを見て、そして急にサルの雰囲気が変わった。
「あの時言ったことじゃがな。あやつが生きた三千年。そのほとんどを占めている『終末の檻』において、奪った命は一八六四一五六四九三。その内人の命が九二六四七零一六三。これだけの人数を殺して、それでもあやつは英雄と呼ばれておる」
暗い笑みを浮かべながら、さらに続ける。
「狂うほどの死を見つめ、心を傷塗れにしながらなお進み、壊れた心で這い回り、それでも正気を失わず、狂気に犯されず、全ての死を受け入れ、英雄と言う屈辱までをも受け入れた」
自嘲気味に笑い、その両の袖を風にはためかせながら、
「ワシがあの大戦で失ったものは弟子の一人と両の腕。それでも狂いそうじゃった。あやつが失ったものはそれまでの全てじゃ。体も、友も、親も、心も。そうまでなっても、あやつの憎しみは全て自分へと向いておる。外には一切向けずに、な。ワシにはできん所業じゃよ」
そこまで話して、ファイエルが絶句しているのを見て、
「懐かしさからつい喋り過ぎたの。さて、長話はこれくらいにしてそろそろ修行を始めるぞ。準備せい」
そう言ったサルの言葉で正気に返って頷き、
ハヌマン
「お願いします、猿神老師」
ファイエルはぺこりと頭を下げ、先に立って歩き出した。
その後に続こうと足だけで立ち上がり、
「この先どうするかはお主次第じゃが、間違っても再びの後悔だけはせぬようにな。馬鹿弟子」
振り返らずに歩いていった。
side YOKOSIMA
「へぇ。いろいろ揃ってるな。さすが、同じ一人暮らしと言っても男と女の違いがわかるな」
朝。凛ちゃん家の冷蔵庫を漁りつつ、過去の自分の家と比較して感心していた。
ひとしきり見た後、
「確か朝は食べないって言ってたよな。んで、あの娘の性格なら今日は学校に行くはずだし。なら弁当がいるよな」
食材をいくつか取り出し、冷蔵庫を閉める。
昼はやっぱり購買のものより手作りのものの方がいいよな。あの頃は判ってなかったけど、飯は心でも食うものだ。
「さて、久しぶりにやるか」
自前のエプロンをつけ、腕まくりしながらコンロの前に立った。
「これは何?」
「お弁当」
朝起きてすぐに弁当の包みを前にして、凛ちゃんが頭を押えていた。何で苦悩してるんだ?
「私は別に家政夫が欲しくてあなたを喚んだわけじゃないんだけど」
「わかっているさ。これはまあ、おまけのような物だよ。いらないなら捨ててもらってもいいし、俺が食べてもいい」
「む。誰も要らないなんていってないわよ」
「それは良かった」
むー、と睨んでくる凛ちゃんを前に、
「で、今日は学校に行くんだろう?時間は大丈夫なのか?」
「え?」
凛ちゃんはちょっとの間呆然とした後、錆付いたような動きで時計を見る。そして固まった。
「もう走らないと間に合わないよな?」
何かフルフル震えている凛ちゃんを無視して続ける。
「確か、常に優雅たれ、と言うのが家訓だったんだよな。どうするんだ?」
おお、おお。震えが心なしか増えたな。うん。やっぱりからかいがいがあるな。
「どうしても遅れたくないと言うのなら、手は有るけどどうする?」
「本当!?」
がばっと振り返り嬉しそうに振り返る凛ちゃんは、なんか子供みたいだった。
side RIN
現在授業開始四十分前。家を出てから五分ぐらいしか経ってないんですけど。
あのあとバーサーカーに抱え上げられ、学校までノンストップで運ばれた。屋根伝いに。
「うー。まだくらくらするわ」
「まあまあ。間に合ったじゃないか」
こちらの恨み言を欠片も気にしずにそんな事をのたまう我が従者。
ちなみにすでに校庭に入っているけど、誰も部外者のバーサーカーに注目していない。
校門の近くに降ろされた後、これからどうするかを聞いてみたら、
「ん?当然ついていくけど?………ああ、安心していい。隠蔽術には些か自信がある」
そう言って目を閉じたバーサーカーの姿がたった数秒で薄れて見えにくくなった。
「な!?」
驚いて眼を瞬かせていると、
『しばらく振りにやったからいまいち完全じゃあないけど、一般人から隠れるぐらいならこれで大丈夫でしょう?』
ラインを通じてそう言ってきた。
『というかどうやったらそんな事ができるのよ』
昨日から、もう何度目になったかわからない疑問の声をあげる。ライン越しで。
『妙神流隠蔽術体の項第二幕「透気」。簡単に言えば気配を周囲に完全に溶け込ませて、相手の認識から外れる技さ。まあ、これは完全じゃあないけど。あ、ちなみに凛ちゃんはラインが繋がってるから見えてるだけで、そうじゃなきゃ見えないよ』
なんと言うか、もう驚くのが馬鹿らしくなってくる。
『ということは、もう学校に入っても大丈夫なのよね?』
『ああ。ただ、ある程度以上の武術家とか認識がずれてる人とか、後は霊感が鋭い人なんかなら薄っすらとわかるかもしれないけど。まあ大丈夫でしょう』
そんな人は滅多にいないと言う言葉を信じて、二人して校門をくぐった。
「!」
直後に強力な違和感。これは、
「結界」
間違いない。それもこの感じからして強力で尚且つ物騒な類のものだ。
『バーサーカー。私の授業中はこの結界の基点を探して、放課後になったら案内して。妨害するわよ』
『わかった』
いつに無く言葉少なく答える。むう。表層からじゃあ判らないけど、怒っているのだろうか?
『それで、今から授業開始までどうするんだ?』
『ちょっとね』
聞いてくるバーサーカーにそう答え、おそらくは朝練が行われているであろう弓道場に向かう。
そして弓道場の前に来たとき、
「あれ?遠坂じゃないか」
弓道着を着た青い髪の男子生徒に呼ばれた。
「あら、間桐君。おはよう」
にこやかな笑みと一緒に挨拶をする。
間桐慎二。魔術師、間桐家の嫡男でありながら、魔術回路が閉ざされた一般人。もっとも、その兆候はこの町に移り住んだその初期頃から見られたらしいけど。
ただ商才はあったらしく、間桐家はかなり大きな会社を複数経営していて、慎二もいくつかの会社を経営している社長らしい。羨ましい。
「おはよう、遠坂。朝練無いのに早いな。それで、用件はいつものなのか?」
「ええ」
「なら、入りなよ。あと、判ってるだろうけど、邪魔はしないようにな」
そういって、慎二は弓道場に入っていった。
それに続いて中に入り、隅のほうに座る。
視界の中では慎二が後輩に指導していて、その隣では部長の美綴綾子が違う部員に指導している。この二人。後輩の面倒見がいい事で結構有名なのだ。
うーん。早く相手を見つけないと賭けに負けそう。
そして、その横で弓を構えているのが桜だった。その桜だが、こっちに気づいたのか振り返り、
「あ、姉さきゃぁ!」
べチャッ!とこけた。うっわ、顔面からもろだ。それを見て苦笑して、
「相変わらずね。桜は」
別に運動神経が悪いわけでもないのに、何故かよく転ぶ桜に向けて、そう言う。
「う〜。鼻が痛いです姉さん」
涙目でそう言う桜には、つい子犬の耳と尻尾を幻視してしまう。
「それはそうでしょう」
あれだけ派手に行けば当然ね。鼻の頭が赤くなってるし。
…………そこで胸も押えてるのは喧嘩を売っているのかしら?
何か周りから「萌え〜」とかいう音が聞こえてくるけど無視。
「まったく。桜、そろそろ立てよ」
その様子を額を押えてみていた慎二がそう言って手を差し出す。ぐすんと鼻をすすってその手を取って立ち上がる桜。
「ありがとうございます、兄さん」
「いつまでたっても変わらないわね二人とも」
見ていてほのぼのと言うか和む光景だ。私には間違ってもできない。
「はい」
そこは嬉しそうに頷くところじゃあないわよ桜。
「それで、今日はどうしたんですか?」
「頼まれた物を持ってきたのよ。はい」
ごそごそとカバンを漁り、CDを取り出す。
「ありがとうございます。姉さん」
「これくらいいつでも言ってもらって構わないわよ。それじゃあね」
嬉しそうに頭を下げる桜に別れを告げ、私は教室に向かった。
side YOKOSIMA
凛ちゃんの妹の桜ちゃんと別れて、俺たちは教室に向かっている。彼女にはなんか某元幽霊少女に通じるものがありそうだったんだけど、まあいいか。
金 づ る
それにしても、やっぱり猫を被るんだね。高額依頼者を前にした某赤い髪の雇い主みたいだよ。前も言ったけど、そこまで似なくても。
「あれ?遠坂、さん?」
ん?
周りを見ていた視線を戻すと今度はまた、おっとりしてそうな女生徒がいた。
「さら?三枝さん。おはよう」
「お、おはようございます!」
彼女――後で聞いたら三枝由紀香さんというらしい――は、 顔を赤くしてぺこりとお辞儀し、ふと、こっちを見た。ばっちりと目が合った。
へ?
「えと、こちらの方は?」
「え?」
一瞬何を言われたか判らなかったのか、止まった凛ちゃんは次の瞬間、
『ちょっとバーサーカー!何で見えてるのよ!』
ラインを通じて猛然と抗議の声をあげた。
・ ・
『いや、そんな事を言われてもな。それに言ったろう?滅多にって。彼女がその滅多なんだろう』
『冷静に分析してるなー!』
表情に出さぬままガオー!と咆える凛ちゃんを宥め、
『まあ、任せておけって』
そう言って、由紀香ちゃんの前に立ち、
「始めまして。三枝さんと言うんですか。俺は横島と言ってここにいる凛ちゃんの遠縁の親戚に当たる者なんですけど今度こちらに引っ越す事になりまして…………」
怒涛の口撃で言いくるめる。と言う風を演出する。
実際には凛ちゃんから見えないように出した双文珠、『暗・示』で俺がここにいても不自然じゃ無いという暗示を刷り込む。むう、持ってて良かった双文珠。
でもせっかく隠してたのにこんなくだらないところで使うって我が事ながらどうよ?まあ気にしたら負けだけど。
とまあそんなこんなで無事に教室に着いた。
あの後、柳洞と衛宮と言う男子生徒二人に会った。柳洞の方は何故か凛ちゃんを敵視していて、本質を言い当ててるっぽい事を言っていた。
だが柳洞よ。いくらなんでも魔女は無いだろう。まあ俺には関係ないけど。
『じゃあ頼んだわよ』
『了解』
凛ちゃんがそう言ってきたので、頷く。
さて、基点探しに行こうかな。
放課後。
現在地は屋上。
校内の基点を全て回り、最後にここの呪刻を凛ちゃんが調べ、
「これは………」
結界の効果が判明した。
効果は融解。用途は魂食。効果範囲はこの学校全て。
「なるほど、ね」
ふざけた結界だ。この学校の一般人を丸ごと魔力に変換しようと言うのだから。
ただ、有効な手段である事は確かだ。本当に戦場で生き残りたいなら、周りの被害を気にしている暇など無いのだから。
「これは私の手には負えないわね。バーサーカー。あなた解除できる?」
今まで呪刻を調べていた凛ちゃんがそう聞いてくる。
「いや、無理だろうな。ぱっと見、根幹構造が複雑すぎる。こういうのの場合、ただでさえ解呪しにくいのに、正しい手順で解呪しないと別の効果、もしくは罠が現れるのが普通だ。それがもし爆発とかならそうなっては目も当てられない」
「そう。なら魔力の蓄積を妨害して、少しでも発動を遅らせるっていう手段しかないか」
「?そんな事ができるのか?」
本気で不思議だったので聞いてみる。と言うか、それが可能なら過去での苦労の幾つかが必要なくなるんですけど。
「できるわよ。見てなさい」
そう言って呪刻に手をかざし、呪文を詠唱しようとする凛ちゃん。
そして俺は、
ガガン!
凛ちゃん目掛けて飛んできた二本の剣を、栄光の手で叩き落した。
「なっ!?」
「何するんだいきなり。危ないだろうが」
警戒しながら剣の飛んできた方を向く。
そこには、
「ふむ。不意を突いたつもりだったのだがな。気付いていたか」
月をバックにたたずむ、赤き衣の騎士がいた。
<後書きですたぶん>
どもです。
第四話投稿です。
個人的な都合により今回は短いです。
しかも中途半端なところで切りです。
まあそれは脇に置いておいて。
次回はいよいよ戦闘らしい戦闘が始まります。
相手はまあ、ばればれですけど秘密な方向で。
一話からいろいろな伏線仕込んでますけど、回収できるか不安になってきました。
ぬう。難しいです。
それに心なしか横島君の性格が変わったような気が?
そう言えばすっかり忘れていましたけど、未だにランサーの役回りとかが決まっていません。
他は大体決めたんだけどなー。
そしてヨコシマの能力表です。本当は二話に載せようとしてすっかり忘れて今までずるずると。申し訳ございません。
クラス バーサーカー
マスター 遠坂凛
真名 フェイスレス
性別 男
身長・体重 公式設定知りませんので無記名
属性 混沌・中庸
パラメーター 筋力B
耐久C
敏捷B
魔力D
幸運C
宝具E〜EX
クラス別スキル 狂(凶)化A ??????
スキル 霊能 E〜A++ 応用力が幅広いが、その分技によりランクが変化する。
心眼(神) C+ 神により授けられた能力。力の流れを見通せるが、その間脳がその処理に追われ、身体能力その他がワンランクダウンする。
予知(偽) C+ 心眼発動時に発動できる。力の流れから数秒後の未来をほぼ完全に予知する。その間能力が更にワンランクダウン。
心眼(偽) B 膨大な戦闘経験により先を予測する技能
直感 A
狙撃回避 B 視界外からの狙撃属性の攻撃では、何故か致命的な損傷を受けない。
(淫)獣化 A 文字通り 理性消失時に発動。
復元呪詛(偽)B (淫)獣化発動時に発動。肉体的欠損以外は瞬時に回復する。
こんな感じです。無闇に強くしすぎたかな?
こう書いてますけど、この設定使うか微妙です。
頭の片隅にでも覚えておいていただければ幸いです
ではレス返しをば
○なまけものさま
えと、四人については生前の彼の眷属という設定です。
多分出てこないと思いますけど、要望があれば出します。
ちなみに三人は原作キャラで、その内一人はほぼオリキャラで、残りの一人はオリキャラです。
キャス子は当然彼女です。
○rinさま
二人の成長具合を見ていただけて幸いです
これからもがんばります
○ジェミナスさま
今回は天界側というか老師側です。
何か口が軽いのと性格が微妙なのは無視の方向でお願いします。
横島君につきましては大体シリアス路線を走ってもらいます
○樹海さま
組み合わせはやはりそうですよね!
でもヘラクレスさんの漢っぷりはこの話ではちょっと無理かもです。
まあ、ごっつ強いですけど
○コスモスさま
夫婦円満。
いい響きですね〜。(しみじみ)
○カシス・ユウ・シンクレアさま
初レス、ありがとうございます。
えと、雷蹄・散(らいてい・ちらしと読みます)ですけど、横島君が考えた技で、それゆえに練りが甘くて使えない技と言うカテゴリーに入ります。欠点としては、溜めが長い、蹴り出すという性質上発動がワンテンポ遅れる、効果範囲と威力が反比例する、などです。
ちなみになぜ骨がこれで壊れたかと言えば、魔力をぎりぎりまで削っていたから、脆かったんです。
キャス子ちゃんはちょっと無理です。
伏線の関係上(汗)
○ヒロさま
おそらくヘラクレスのクラスは初の試み、と言うか反則ですけど。
外伝はまあ、ある程度話が進んだら書くかもしれません
○ハンプティさま
理性に対しては、その通りです
狂化の方は、考えているラスボスがそのレベルなんです。
やりすぎですかね?
○ryoさま
強すぎでしょうか?
個人的には最強万歳なんですけど。
ではでは