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「これが私の生きる道!最終決戦編3 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-04-15 23:17/2006-04-19 13:14)
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(9月22日午後6時、月〜プラント本国宙域)

月〜プラント間宙域で朝から行われている両軍の
決戦は、開始から半日が過ぎようとしていた。
二時間前に始まった、アズラエル理事が指示した
と思われる大攻勢で双方共に大損害を受け、多数
のモビルスーツと艦艇が沈んだり、損傷多大で撤
退していった。

 「被害を大まかでいいから報告しろ」

「ゴンドワナ」艦橋でユウキ総司令が参謀の一人
に損害報告を命じる。

 「まず右翼艦隊ですが、ユーラシア連合・東ア
  ジア共和国軍艦隊が積極的な攻勢を避けてい
  る節があるので、多少優勢です。戦闘可能な
  艦艇は68%でモビルスーツ隊が58%だそ
  うです」

 「もうそんなに損害が増えているのか?」

 「実際に喪失した戦力は三分の二ほどで、損傷
  大で撤退した戦力を含めてですが・・・」

右翼艦隊の戦況はユーラシア連合・東アジア共和
国軍艦隊が隊列の建て直しを図ると宣言して後方
に下がってしまったので、第七艦隊が逆に押し返
されていたのだ。

 「右翼艦隊は大丈夫そうだな。我々は均衡状態
  を保っているしな」

 「戦闘可能艦艇72%、モビルスーツ隊68%
  です」

 「(ゴンドワナ)の部隊が頑張っているからな
  。グリアノス隊長はさすがだな」

 「ええ、ベテラン指揮官の実力は偉大ですね」

 「それで、問題は左翼艦隊か」

 「オキタ副司令が戦死したそうです。今、艦隊
  の指揮はアデス副司令代行が執っています」

 「クルーゼ司令はモビルスーツで最前線か。相
  変わらずだな」

 「まあ、適材適所ですかね」

 「損害は最悪らしいな」

 「ええ、戦闘可能艦艇48%モビルスーツ隊が
  51%です」

 「酷いな。全滅じゃないか」

 「敵の損害は7割に届きそうです。しかも、あ
  そこの戦線は損傷しても撤退が困難なほど混
  乱しているので、最終的にどれほどの戦力が
  残るのか・・・」

 「とにかく、右翼か左翼の艦隊が中央の敵艦隊
  を横から攻撃できれば我々の勝利だ。本当は
  連合軍がそれを狙っていたようだが・・・」

 「そろそろ終って欲しいですね。疲れましたし
  、物資が心許なくなってきました」

 「もう、足りないのか?」

 「後方にはありますけど、補給なんて呑気にし
  ていたら攻撃を喰らってしまいますよ」

 「戦闘限界時間は?」

 「後、二時間です。それは、連合にも共通して
  いますが」

 「停戦命令が早く来る事を祈るしかあるまい」

ユウキ総司令はカナーバ議長とザラ委員長から停
戦命令が来た時は速やかに戦闘を停止するように
言われていたのだが、それが何時来るのか気が気
でなかったのだ。

 「一人でも戦死者が少ない内に一秒でも早く・
  ・・」

ユウキ総司令は祈らずにいられなかった。


(同時刻、ザフト右翼艦隊アイマン隊)

 「よーし!これで何機目だったかな?」

ミゲルはブリッツジャスティスを巧みに操り、ス
トライクダガーの小隊にトリケロスとランサーダ
ートを撃ち込み一気に撃破する。 

 「ミゲル!急がしいんだから撃墜数なんて数え
  るな!」

副隊長のジローが怒鳴りながら、はぐれていたス
トライクダガーにビームライフルを撃ち込んで撃
破した。

 「だって、カザマとハイネに負けてたら嫌じゃ
  ん」

 「あほ!二人共モビルスーツ隊の指揮で忙しい
  んだよ!」

 「そうかな?撃墜数を稼いでいるような気がす
  る」

 「特にカザマが担当している左翼は強敵揃いで
  最も損害が出ている所だ。生き残っていると
  いいが・・・」

 「バカ言うな!あいつが死んでたまるか!」

 「そうだな。俺の小隊長殿だからな」

 「お前を部下として使いこなせる男がそう簡単
  に死んでたまるか!」

 「言えてる」

 「よーし!こちらが多少優勢なんだ。一気に押
  していくぞ!」

 「了解だ。隊列を整えて行け!敵の旗艦はもう
  すぐだ!」

ユーラシア連合と東アジア共和国軍艦隊が完全に
後方に下がってしまったので、第七艦隊は崩壊の
危機に直面していたのだが、彼らを助ける戦力は
この宇宙の何処にも存在していなかった。


(同時刻、第七艦隊旗艦「ペンシルバニア」艦内
 )

 「おい!ユーラシア連合と東アジア共和国の連
  中はいつ戻ってくるんだ!」

艦隊司令長官のファルガン中将が参謀長のオーレ
ンキック准将に詳しい状況を尋ねる。

 「新型モビルスーツ隊を発進させたそうです」

 「新型?」

 「例のハイペリオンですよ。指揮官はカナード
  ・パルス特務中尉だそうです」

 「数はどれほどいるんだ?それが重要なんだ」

 「28機だそうです」

 「時間稼ぎにはなるな」

補給と隊列の建て直しを宣言して後退してから一
時間、彼らはいっこうに戻って来なかった。
早期に建て直しが終了して、訓練を十分に積んだ
精鋭部隊である第七艦隊は不利な戦力でどうにか
戦線を維持していたが、もうそろそろ限界を迎え
つつあった。

 「戦艦(ウエストバージニア)撃沈。艦隊副司
  令パル少将戦死です」

 「モビルスーツ隊の損害が40%を突破!この
  ままでは一気に押されてしまいます」

 「決めた!第七艦隊は中央艦隊に合流して合同
  で防衛戦を張る!応援のハイペリオン隊は前
  に出して時間を稼がせろ!」

 「えっ!それでは、中央艦隊が横合いから攻撃
  を受けてしまいます」

 「大丈夫だ。後方に下がったユーラシア連合と
  東アジア共和国の艦隊が邪魔になってそれは
  出来ないはずだ。中央艦隊と合流した我々を
  攻撃しようとすると、ザフト艦隊が横腹をユ
  ーラシア連合と東アジア共和国の艦隊に突か
  れる恐れがあるからな」

 「なるほど」

 「だが、命令通りの攻勢は不可能になる」

 「今更、攻勢なんて不可能ですよ。生き残る事
  を優先しましょう」

 「そうだな。生き残り優先だな」

連合軍第七艦隊司令官ファルガン中将の決断が戦
況を大きく変えようとしていた。


(二十分後、右翼艦隊所属アイマン隊視点)

第七艦隊が中央艦隊との合流を目指して撤退して
いた時にミゲルはモビルスーツ隊を率いてそれを
追撃していた。

 「よーし、じゃんじゃん落とせよ!」

旗艦を守る為に、前に出てきた護衛官や駆逐艦を
仕留めながら追撃を続けていたミゲルに味方のパ
イロットから連絡が入る。

 「アイマン隊長、後退していたユーラシア連合
  軍艦隊から新手のモビルスーツ隊です」

 「何だ?新型か?」

 「さっき対戦したハイペリオンとかいうモビル
  スーツですよ」

 「ちっ、あいつは面倒だな」

光波シールド装備でビームライフルすら防いでし
まうので主に格闘戦で倒すしかなく、ベテランパ
イロットでも苦戦する相手だった。

 「時間稼ぎか」

そんな事を考えていると、横合いから後退してい
たユーラシア連合・東アジア共和国軍艦隊の遠距
離砲撃が飛んでくる。

 「ふん、積極的に戦闘に加わる事はしないが、
  多少の恩は売っておくという事か」

ザフト艦隊と積極的に戦闘を行わずにプラントに
恩を売り、ザフト艦隊が横合いを突く事を妨害し
てアズラエル理事に恩を売る。
どちらが勝利しても大丈夫なように双方に恩を売
っているつもりらしい。

 「だが、そんな卑怯な真似をすると・・・」

突然、ザフト艦隊の砲撃目標がユーラシア連合・
東アジア共和国軍艦隊に移り、遠距離砲撃が多数
加えられ、慌てふためいたユーラシア連合・東ア
ジア共和国軍艦隊は射程距離外に後退してしまう

 「ふん、ざまあないな。これで、邪魔者はいな
  くなった。全モビルスーツ隊、中央艦隊の横
  を突け!一気に勝負をつけるぞ!」

 「「「おー!」」」

いくら最新鋭機といえども、30機ほどではザフ
ト右翼艦隊とモビルスーツ隊の大攻勢を止められ
るはずが無く、その数を少しずつ減らしていった

 「おい!そこの隊長機。名を名乗れ!」

 「あん?俺の名前を聞きたかったら先に名前を
  名乗るんだな」

 「俺はユーラシア連合軍ハイペリオン隊隊長カ
  ナード・パルスだ!」

 「アイマン隊隊長、ミゲル・アイマンだ!」

 「勝負だ!(黄昏の魔弾)!」

ミゲルのブリッツジャスティスとカナードのハイ
ペリオンが一騎討ちを開始する。

 「喰らえ!」

ミゲルがトリケロスを放つとカナードがそれを光
波シールドで防ぎ、カナードのビームライフルの
射撃をミゲルが余裕でかわしていく。
遠距離戦では勝負がつかないとお互いに理解した
二人はビームサーベルを抜いて鍔迫り合いを始め
た。

 「強いな!お前は最高のコーディネーターを知
  っているか?」

 「何だ?それは?」

 「キラ・ヒビキという男だ。戦場でそんな強敵
  にあった事があるか?」

 「キラ・ヒビキ・・・。確か、左翼艦隊にキラ
  ・ヤマトというコーディネーターのパイロッ
  トが・・・」

 「そいつだ!」

突然、カナードは戦闘を止めて左翼艦隊に向かっ
て移動し始めた。

 「パルス特務中尉、何処へ行くのですか?」

 「うるさい!俺は自由にやらせて貰う!」

部下の一人が止めに入るが、カナードはそれを無
視して飛んでいってしまった。

 「何だったんだ?あいつ。まあ、いいや。邪魔
  者は消えたから俺達も突撃再開だ!」

指揮官が戦線を離脱した事により、ハイペリオン
隊は第七艦隊と一緒に中央艦隊に押し込まれてし
まい、時間を稼ぐという目的はそれほど達成出来
ないまま、一機、また一機と撃破されてしまった
のであった。


(同時刻、中央艦隊旗艦「ワシントン」艦内)

左翼艦隊の大損害とジブルールの戦死、右翼艦隊
のユーラシア連合・東アジア共和国軍艦隊の後退
と第七艦隊の敗走と合流はアズラエル理事の想定
には無かった出来事であり、その事実は彼を大き
く混乱させていた。 

 「第七艦隊のファルガン中将は何をやっている
  んだよ!」

アズラエル理事から日頃の人をバカにしたような
口調は完全に消えてしまって、怒鳴り声を上げな
がらサザーランド准将に状況を問い詰めていた。

 「ファルガン中将は第七艦隊だけでは押し切ら
  れてしまうと判断して、体勢を立て直す為に
  、一時的に中央艦隊と合流したものと思われ
  ます」

 「そんな事を聞いているんじゃないよ!ユーラ
  シア連合と東アジアの艦隊は何で後退したま
  まなのかって事を聞いているんだよ!あいつ
  らを後退させなければこんな苦境には陥って
  いないんだろ?」

 「再三戦線に復帰するように要請はしているの
  ですが・・・」

 「要請?命令しろよ!」

 「連中はあくまでも応援で来ているものですか
  ら」

 「お前が事前に指揮権の調整を怠ったからだろ
  う!」

 「ですが・・・」

 「もう、いい!とっとと戦線を立て直せよ!」

アズラエル理事の命令で第七艦隊が逃げ込んだ右
側の戦線を立て直そうとするのだが、それは容易
な事では無かった。
本当は余裕を持って中央艦隊と合流して艦列を立
て直すはずであった第七艦隊は時間が足りなかっ
た為に逃げ込むように合流してしまったので、元
からいた中央艦隊右側の艦列をも崩してしまった
のだ。
そして、そこからザフト右翼艦隊とモビルスーツ
隊の攻撃を受けて大混乱に陥っていた。

 「右側は時間が掛かるんだろ?それで、左翼艦
  隊は?早く、ジブリールの後始末をしろよ!
  」

 「左翼艦隊はプリンス准将がゼロ艦隊と第三艦
  隊の残存勢力を纏める事に成功して、第八艦
  隊の隣りで何とか戦線を維持しています」

 「お前なんかより、よっぽど役に立つじゃない
  かプリンス准将は!よし、決めた!プリンス
  准将を戦時昇進で中将にして左翼艦隊の指揮
  を執らせろ」

 「それはあまりにも無茶です・・・」

 「五月蝿いよ!何が智将だ!ハルバートンが役
  に立たないから左翼艦隊はこのザマだ。功績
  を上げたプリンスに指揮を任せて何が悪い!
  勝利を収めたらプリンスは中将にする。これ
  なら戦時昇進させても文句は無いだろう?」

 「わかりました・・・・・・」

サザーランド准将は自分の将来に大きな不安を感
じつつあった。 


(五分後、第八艦隊旗艦「メネラオス」艦内)

第八艦隊は開戦時に多数の損害を受けて壊滅した
艦隊であった。
それをハルバートン中将がモビルスーツの開発計
画と平行して懸命に再建を行って、ようやく最精
鋭と呼ばれるまでになったのだが、今艦隊は半数
の戦力を失って崩壊の危機を迎えていた。

 「ジブリールの奴が旗艦を沈めたと聞いた時は
  珍しく褒めてやろうと思ったのだが、奴は中
  途半端に敵を怒らせただけで死んでしまった
  らしいな」

 「指揮権の継承も上手くいったようですね。数
  は大分減っていますけど、整然と攻撃を仕掛
  けてきています。向こうの戦意はまだ旺盛で
  すね」

 「プリンス准将いや、中将が崩壊しかけていた
  ゼロ艦隊の戦力と第三艦隊の残存戦力を纏め
  る事に成功したのは結構だが、上位指揮権を
  奴に取られてしまうとはな。それで、左翼艦
  隊指揮官殿から何か言ってきたか?」

 「いえ、特には。現状を維持せよとしか」

 「ありきたりだが、それしかあるまい」

 「奴は無能ですが、部下の意見を聞く度量くら
  いはあるようですね」 

 「ラミアス大佐の進言か?」

 「いえ、多分バジルール少佐の意見を取り入れ
  ているようです。奴に艦隊を取り纏めるよう
  な真似が出来るわけがありませんが、彼女は
  士官学校主席卒業の才媛ですから」

 「見た目はキツイけど結構美人だよな」

 「ええ、美人ですね」

「メラネオス」の隣りで巡洋艦が爆沈しても動揺
する事無く、世間話を続けながら適切な指示を出
す。
こんな真似が出来るのはベテランで智将と言われ
ているハルバートン中将だけであった。 


(同時刻、ザフト左翼艦隊旗艦「パルテノン」艦
 内)

 「とにかくスピード重視だ!敵艦隊を崩して中
  央艦隊に突撃するんだ!右翼艦隊に出来て我
  々に出来ない事なんてないんだ!さあ、オキ
  タ副司令の弔い合戦だ。気合を入れろ!」

旗艦を「パルテノン」に移したアデス副司令代行
は艦橋で大声を上げながら指揮下の艦隊に指示を
出していた。
アデス副司令代行は自分の不甲斐なさでオキタ副
司令を死なせてしまったと自責の念に駆られてい
て、日頃からは想像も出来ないような積極的な攻
勢に出ていたのだ。

 「艦長、(ドミニオン)が隊列を立て直した艦
  隊に攻撃を集中しろ!まだ完全には立て直せ
  ていないはずだ!それと、(アークエンジェ
  ル)は何処に居る?」

 「はい、(アークエンジェル)は(ドミニオン
  )に攻撃を仕掛けています」

 「上々だ!」

「ヴェサリウス」から一緒に脱出してきた管制担
当士官がアデス副司令代行の問いに答えた。
彼は「パルテノン」艦内での仕事が無かったので
、参謀の代わりのような事をしていたのだ。

 「さあ、あと一息だ!あと少し頑張ってくれ。
  オキタ先輩、私にあなたのような度胸を・・
  ・」

アデス副司令代行は最後の一言を小声で祈るよう
に呟いた。


(同時刻、「アークエンジェル」艦内)

分艦隊を率いて敵艦隊の追撃を行っていたアーク
エンジェルであったが、突然の同型艦の登場と巧
みな指揮でその進撃速度を落としてしまっていた

 「やるわね。(ドミニオン)は」

 「(エターナル)から報告、機関部に重大な損
  傷。撤退の許可を求めています」

 「認めるわ。モビルスーツ隊には補給の時は他
  の艦に着艦するように連絡を忘れないで」

 「これで、何隻目でしたっけ?」

 「忘れたわよ」

第三分艦隊には最新鋭艦やスペックの高い艦が揃
っていたので、撃沈された艦は(イザナミ)とロ
ーラシア級のみであったが、損傷多数で(エター
ナル)(イザナギ)ローラシア級二隻が後退した
ので、実際の戦力は半数以下にまで落ち込んでい
た。

 「同盟国艦隊の方はどうなの?」

 「艦隊は38%が撃沈で16%が後退しました
  。モビルスーツ隊は58%の損害で、MA隊
  の損害は78%にまで達しています」

 「酷いわね。それで、台湾艦隊と自衛隊艦隊は
  ?あれが最大戦力なわけだし」

同盟国艦隊で一番戦力を出しているのは日本の自
衛隊で、二番目は台湾宇宙軍艦隊であり、残りの
同盟国はコロニーすら持っていない国家が大半で
、ザフトが戦闘時に鹵獲した連合軍の艦艇を購入
して日本のコロニー基地を間借りして訓練を重ね
ていたごく小数の艦隊とモビルスーツ隊とMA隊
のみであったのだ。

 「台湾宇宙軍艦隊は戦艦一隻、軽空母二隻、巡
  洋艦三隻、駆逐艦八隻が健在でモビルスーツ
  隊残存数はおよそ35機ほどだそうです」

 「半分になってしまったわね」

 「自衛隊艦隊は?」

 「えーと、(いせ)が撃沈で(ひゅうが)と(
  むつ)が後方に下がりました。その他の艦艇
  も半数が撃沈か脱落でモビルスーツ隊は残存
  55機ほどです」

 「参加する事に意義があるのかも知れないけど
  、いきなりこんな大決戦で可哀想な事をした
  わね」

 「戦場は選べませんけどね」

 「そうなんだけど・・・」

タリア副司令が副長と話していると前方に(ドミ
ニオン)が迫ってくる。

 「今まで何度となく戦ってきたけど、これでケ
  リをつけるわよ!ローエングリン斉射用意!
  」

(アークエンジェル)のローエングリンがせり出
すのと同時に(ドミニオン)のゴッドフリートが
発射されて、同型艦同士の最後の戦いが始まるの
であった。


(同時刻、「クサナギ」艦内)

オーブ艦隊で唯一残った「クサナギ」には「暁」
を含む六機のモビルスーツ隊が直衛に入って懸命
の防戦が行われていた。 

 「私も出る!」

 「いけません。カガリ様」

カガリが出撃を宣言すると、キサカ副隊長が止め
に入った。

 「だが、このままでは(クサナギ)も危ないぞ
  !」

 「乗るモビルスーツがありません」

 「ブルーフレームがあるだろう。無駄にモビル
  スーツを遊ばせておく余裕は無い!」

 「あれはムラクモ・ガイ専用に調整されている
  のでカガリ様には乗れません。それに、カガ
  リ様を出撃させないようにカザマ司令官から
  命令を受けています」 

 「でも、アスランだって前線で戦っているし・
  ・・カザマだって所在不明で・・・」

 「泣くのはおよしなさい。あなたは司令官なの
  ですから、軽々しく戦場にモビルスーツで出
  てはいけません。これは軍事パレードではな
  いのですぞ!司令官はどんな時にもどっしり
  と構えて的確に指示を出すものなのです」

 「でも・・・」

 「あなたをパイロットとして戦場に出したく無
  いから、アスラン隊長もカザマ司令官もヤマ
  ト二佐も命をかけているのですよ。彼らの決
  意を無駄にしないで下さい」  

 「わかった・・・」

 「(無理もないか。いくらオーブの王女でも1
  6歳の少女である事に変わりはないのだから
  な。まだ俺達で支えてあげないとな)」

キサカがそんな事を考えている間にも艦船同士の
砲撃戦は熾烈を極め、多数の艦艇が傷つき沈んで
いった。


(同時刻、ムラクモ・ガイ視点)

「暁」を預かり、分艦隊の残存モビルスーツ隊を
指揮しながら懸命に防戦に努めていたガイであっ
たが、半数以上のモビルスーツを失ってしまった

 「さすがに、これはキツイな!」

「クサナギ」を狙ってきたストライクダガー小隊
のビームライフルを跳ね返しながら、ガイが独り
言を呟いた。

 「何!跳ね返ってきたビームで自分がやられて
  いるのか?」

更に攻撃を仕掛けてきた「ソードカラミィティー
」と「デュエルダガー」のパイロットが味方の死
に様に恐れを抱いていた。

 「そういう機体なんだよ!こいつは!」

ガイの「暁」がビームサーベルを抜いて二機を無
造作に斬り捨てると真っ二つにされた二機が爆散 
する。

 「おい!(アークエンジェル)にストライクダ
  ガーが二機接近中だ。対応を怠るな!」

 「了解!」

 「(ホープ)に敵が接近している事に気がつい
  ているのか?早く対応しろよ!」

 「了解です!」

始めは残存部隊の指揮を有名ではあるが、指揮官
としては未知数のガイが執る事に難色を示す兵士
が多かったのだが、彼は指揮においても卓越した
能力を発揮した為に、不満の声はすぐに治まって
しまった。   

 「撃墜数が稼げて結構だが、忙しくてたまらな
  いな。カザマの奴、生きているかな?そうで
  ないと特別報酬を貰い損ねてしまう」

心の奥底でライバルの心配をしながらガイは「ク
サナギ」の防衛を続けるのだった。


(同時刻、自衛隊艦隊旗艦「やまと」艦内)

同盟国艦隊の中で最大の戦力を持っている日本で
はあったが、激しい戦闘の連続であった事と頼り
にされて前に出されていた分、多数の損害を受け
ていた。

 「妹さんが見えるぞ。本当に(アークエンジェ
  ル)とそっくりだな」

 「同型艦だから当たり前ですよ」

通称特務派遣艦隊指揮官である小沢海将が楽しそ
うに感想を述べていたが、冷静な加来参謀長がそ
れをあっさりと斬り捨ててしまう。

 「そんなにあっさりと見捨てないでくれよ」

 「今、弾薬の計算で精一杯なんですよ。話し掛
  けないで下さい」

 「考えたって仕方が無いだろう。もっとこう楽
  しく」

 「直衛艦である(もがみ)と(みくま)が二隻
  共沈んでしまったんですよ!弾薬の補給がも
  う出来ないんですよ!」 

 「どうせ、空だったじゃないか」

 「二艦が使う予定だった弾薬を貰ってから、二
  艦を後退される手もあったんです。それを・
  ・・」

巨大な艦体に多数の火器と強力な動力と強靭な装
甲、「やまと」級航空護衛艦は自衛隊の期待を一
身に背負って就航した艦であったが、一つの欠点
を抱えていた。
それは搭載火器の多さで弾薬の消費が著しく速か
った事だ。
先の始めての演習でそれを見破った司令官の手際
は見事なのだろうが、再び敵と合い見えた時にそ
の欠点を突かれる可能性が高かった為に、それを
早期に克服しなければいけなかったのだ。
取った対応策は主に2つで、第一に弾薬が不足し
た「やまと」と「むさし」に速やかに弾薬を戦場
で補充する艦を付けた事である。
中型で高速な護衛艦の主砲をほとんど降ろし、空
いた弾薬庫に改良を施して速やかに補給を可能に
する艦船「もがみ」と「みくま」が直衛艦として
配備されていた。
この二隻は元々が普通の護衛艦で対空火器が充実
していたので簡単には落とされないだろうと判断
されての配備であったのだが、この混戦で「やま
と」と「むさし」を守るように呆気なく沈んでし
まったのであった。
第二に、訓練を強化して弾薬の無駄使いを抑えよ
うという至極当たり前の対策が取られていたが、
この大混戦でどれだけ守られているのか不明であ
った。

 「(やまと)級は確かに凄い船だけど、これは
  平和な時代に抑止力として使うのが一番なん
  だろうな」

 「そうですね。沈めてはいけないと、おかしな
  空気を背負ってしまった所為なのか、(ひゅ
  うが)と(むつ)が二艦を庇って被弾して後
  方送りです。これでは何の為の新型艦なのか
  わかりません」

 「まあ、(やまと)級はこれで打ち止めにして
  (ながと)級の改良型の数を揃えた方が戦力
  が増すって事なんだろうな」

 「でしょうね」

 「おーい、長谷川艦長。戦況はどうだ?」

 「大分押しています。やはり、ドミニオンが率
  いている艦隊がウィークポイントですね」

 「やはりな」

いくら、隊列の建て直しに成功したとは言っても
、その特殊性故にゼロ艦隊とは共同で訓練をした
事が無く、第三艦隊とは多少の共同訓練の経験は
あったが練成途中であった為に、訓練不足を露呈
して再び隊列を乱しつつあり、これから戦況がど
う移るのかはまだ誰にもわからなかった。


(同時刻、フラガ少佐、クルーゼ司令視点)

「108ストライク」と「プロヴィデンス二号機
」の本日二度目の対決は終焉を迎えようとしてい
た。

 「ムウよ!ドラグーンはもう弾切れか?不甲斐
  ない事だな」

 「お前だってそうだろうが!」

お互いに12基のドラグーンとファントムを飛ば
して撃ち合いをしていたのだが、ほとんどが相討
ちに終ってしまい、残ったのは自分達だけだった
のだ。

 「君はビームライフルで私の12基目のドラグ
  ーンを撃ち落した。私の方が上だな」

 「そんな事関係あるか!勝てばいいんだ!」

 「そうだな。勝てばいいんだな」

クルーゼ司令は今まで秘匿していた、シールド裏
の予備のドラグーン6基を放出して攻撃を再開す
る。

 「卑怯だぞ!」

 「勝てばいいのだろう?」

 「今まで隠していた事が卑怯なんだ!」

 「君が気が付かなかっただけではないか。覚悟
  して貰うぞ!」

クルーゼ司令が6基のドラグーンで集中的に攻撃
すると「108ストライク」の左足が吹き飛び、
その後、右腕、右足、左腕が吹き飛んで完全に達
磨状態にされてしまう。

 「ちくしょう!ここまでか」

 「いないとは思うが、恋人にでもサヨナラを言
  うんだな」

 「お前と違って俺は女にモテるんだよ!マリュ
  ー、すまない帰れそうにない・・・」  

 「何だ、カザマ君がデートをした女性ではない
  か」

 「古い傷を抉るんじゃない!お前は女性に縁が
  無い癖にいちいち五月蝿いんだよ!」

 「私は結婚しているぞ。今度娘も生まれる。残
  念だったな!」

 「何だと・・・」

フラガ少佐は大きなショックを受けていた。
それも、今まで人生を生きてきた中で最大級のシ
ョックをだ。 

 「何だ?ボーっとして。まあいい。止めを刺さ
  せて貰う」

心身共に大満足したクルーゼ司令が止めを刺そう
とすると、急に二機のデュエルダガーが現れてフ
ラガ少佐をさらっていってしまう。

 「ふむ、まだムウの命運は尽きていないのか。
  仕方があるまい」

その後、クルーゼ司令は悪魔の姉妹と合流して敵
の艦船を落とす事に集中し始める。
その他にもアスラン達やキラ達もくずれつつある
敵艦隊に引導を渡すべく、大攻勢に転じていた。
連合軍左翼艦隊は一時的に敗北への流れを止める
事には成功したが、全体的な流れを変えるまでに
は至らなかった。


(同時刻、ドミニオン艦内)

プリンス准将はバジルール少佐の進言を受けて、
ゼロ艦隊と第三艦隊の残存戦力を纏め上げる事に
成功していたが、その後の艦隊指揮を誤ってしま
った為に、艦隊は再び崩壊の危機を迎えていた。

 「それで、どうすればいいのですか?バジルー
  ル少佐」

軍人としては無能であるプリンス准将は恥じる事
無くバジルール少佐に作戦を聞いていた。

 「今更、どうにもなりません。早く、撤退すべ
  きです。ですから、先ほど私の進言を受け入
  れてくれれば」

バジルール少佐は戦力を纏め上げた直後に第八艦
隊と共同して中央艦隊に撤退する策を進言したの
だが、それを却下されてしまったのだ。
右翼艦隊のようなミスを防ぐ為に、第八艦隊を殿
にして中央艦隊に逃げ込み、敵を防いでいる間に
体勢を立て直して攻撃を再開するという、現時点
では最も有効な策であったのだが、プリンス准将
はこの策だけは退けてしまっていた。

 「私とてその策が正しいと理解していますが、
  現時点での中央艦隊への撤退は容認出来ませ
  ん」

 「どうしてですか?」

 「後退したという事実だけで、アズラエル理事
  の不興を買ってしまうからです」

 「そんな・・・。負けてしまったら元も子もな
  い」

 「ラミアス大佐の意見は正論ではありますが、
  我々がアズラエル派を自認している以上、ア
  ズラエル理事の命令は絶対なのです」

 「はい・・・」

 「(ちっ!停戦命令はまだか!もう、アズラエ
  ル理事が勝利を収める事は不可能かもしれな
  いが、アズラエル派が生き残ってしまう可能
  性を否定出来ない以上、無様な姿を見せるわ
  けにはいかないんだ。ジブリールが死に、サ
  ザーランドが不興を買った今、俺に最大のチ
  ャンスが訪れようとしている)」

プリンス准将はこう考えていた。
例え、今停戦になってもアズラエル派を完全に排
除する事は連合軍には不可能であり、ブルーコス
モス強行派は一大勢力として残る可能性が高い。
今、自分に出来る事は戦力を保持して連合の穏健
派に恩を売り、左翼艦隊を撤退させなかったとい
う事実を持ってアズラエル理事に自分が使える軍
人である事をアピールする事が狙いであった。
戦後、影響力が小さくなるアズラエル理事にとっ
て自分は役に立つ軍人として重用されるであろう

 「(今を乗り切ればもう少しで停戦で、生き残
  れば俺も艦隊司令だ。俺をバカにした連中を
  アゴでこき使ってやる!)」

今まで、自分の処し方に慎重であったプリンス戦
時中将の初めての賭けが成功するのかは今の所、
誰にもわからなかった。


(同時刻、キラ視点)

オルガのカラミティーを撃破したキラは簡単な整
備と補給を受けた後に敵モビルスーツ隊をその恐
ろしいまでの技量で大量に撃破し始めていた。
現在敵味方を問わずにモビルスーツ隊は交替で補
給と整備を行わなければ戦闘すら覚束無い状態で
、それを行ってですら部品に限界がきて動かなく
なる機体がボチボチと出始めていた。

 「キラ君、凄いわね」

 「カザマ司令やアスラン君よりも凄いかも・・
  ・」

視界に入ったモビルスーツが次々に撃破されてい
き、アサギとマユラがする事と言えば、撃ち漏ら
したか損傷が大きくて動きが鈍くなった機体に止
めを刺す事だった。

 「彼が味方で助かったわね」

 「本当。彼、最強のコーディネーターなのかも
  知れないわね」

 「ふざけるな!その言葉を撤回しろ!」

 「なっ、誰よ?」

突然、無線に若い男の声が入ってくる。

 「俺の名はカナード・パルスだ!キラ・ヒビキ
  は何処だ?」

 「僕ですが、何か用事ですか?あっ、でも僕の
  名前はキラ・ヤマトですよ」

凄腕でオーブ軍二佐なのに全く軍人になりきれて
いないキラが惚けた様な返事をする。

 「当たりだ!お前はキラ・ヒビキだ!俺にはそ
  れでいいんだ!」

 「それで、何の用事ですか?」

キラは半分納得のいかないような表情をしながら
取りあえず用件を聞いてみる。

 「お前を討つ!」

 「あっ、敵だったんですね」

 「ふざけるな!殺してやる!」

キレてしまったカナードがビームサーベルを抜い
てキラのフリーダムに斬りかかってきた。

 「お前がいるから!」

 「わけがわからないよ!」

ハイペリオンのビームサーベルを軽くかわしなが
らキラが抗議の声をあげた。

 「お前は俺の壁だ!存在してはいけないんだ!
  俺の存在意義の為に死ねい!」

 「そんなあなたの自分勝手な理由で死ねるか!
  」

キラのSEEDが再び発動してフリーダムがハイ
ペリオンのビームサーベルをリニアキャノンの砲
撃で吹き飛ばした。

 「何!そんな真似が出来るのか?」

 「落ちろ!」

キラは背中のビーム砲とリニアキャノンを交互に
撃ちながら徐々にハイペリオンを追い詰めていっ
た。

 「何で俺がこんなに苦戦しているんだ?」

カナードは信じられなかった。
自分はコーディネーターとしては上出来の部類に
入っていてハイぺリオンのパイロットとして多数
の成果を上げてきた。
普通のザフト軍パイロットなど物の数では無かっ
たのだ。

 「ええい、俺がここまで苦戦するか!だが、こ
  のハイペリオンのアルミューレ・リュミエー
  ルがあれば俺は無敵なんだ!」

カナードはハイペリオンは全方位に球形に近いバ
リアーを展開した。

 「ふはははは、これで手も足も出まい!」

 「あれは・・・、光波シールド!」

技術将校兼任であちこちでこき使われていたキラ
は光波シールドについての知識を持っていた。

 「このアルミューレ・リュミエールがある限り
  誰も俺を倒せん!」  

だが、カナードは一つ大きなミスをしていた。
この乱戦状態の戦場でそんな目立つものを展開し
てしまった事だ。
当然、それに気が付いたザフトの艦船やモビルス
ーツから多数の砲撃が加えられた。

 「何のこれしき・・・」

だが、試作品のNジャマーキャンセラーと核分裂
炉を積んだツケはすぐに訪れた。

 「何!核分裂炉の温度上昇が止まらない!」

 「ええっ、何だって!そんなボロイ代物を戦場
  で使うなんて!」

無線の声が偶然に入ってきたキラが驚きの声を上
げながら砲撃でハイペリオンを撃破しようとする
が、光波シールドを突き破る事が出来ずにいた。

 「こうなれば、お前も道連れだ!」

 「そんな理不尽な!」

キラのフリーダムは最高速度で逃走を図るが、ハ
イペリオンがしつこく追いかけてくる。

 「ええい!味方のいる方向に逃げるわけにはい
  かない!」

キラは核爆発に味方を巻き込まないように敵艦隊
を突っ切るように逃走を開始する。

 「くそ!アルミューレ・リュミエールを展開し
  ていては追いつかないか・・・」

カナードはキラに追いつくように光波シールド帯
を解除するが、それはキラにチャンスを与えただ
けであった。

 「君はバカか?ここで多くのエネルギーを使う
  シールドを解除したら・・・」

 「お前さえいなくなれば俺は!俺はーーー!」

核融合炉の暴走で発生した多くのエネルギーは光
波シールドの発生に回されていたのだが、それを
止めた為に使い道の無くなった多くのエネルギー
が機体本体を融解させ、核分裂炉の炉心崩壊と共
にカナードはコックピット内で蒸し焼きになり、
ハイペリオンは核爆発を起こして、数キロ範囲の
敵味方の戦力を巻き込んだ。

 「くそー!死んでたまるかーーー!僕はレイナ
  の元に帰るんだーーー!」

核爆発の余波をシールドで防ぎながらキラが絶叫
するが、シールドの外に出ている顔や足などの部
分から次々に融解していく。
さすがのフェイズシフト装甲も核爆発には耐えら
れないようだ。

 「Nジャマーキャンセラーよ。止まらないでく
  れ」

核爆発の影響で爆発範囲内にいた十数隻の連合軍
艦艇と数十機のモビルスーツが巻き込まれて熔け
ていく。
キラは核爆発の被害を味方から出さないように敵
の真っ只中に飛び込んだからであるが、もしハイ
ペリオンが核爆発を起こさなかったら、キラは敵
中にただ一機で討ち取られていたかも知れなかっ
た。

 「ふう、どうにか生きているようだ」

キラがため息をつきながら周りを見ると、熔けた
連合軍艦艇とモビルスーツが漂っている上に、追
撃を掛けていたセンプウやゲイツも十数機被害を
受けていた。

 「動くかな?」

キラはフリーダムを操作してみるが、Nジャマー
キャンセラーの故障で全く作動しなかった。

 「ふう、僕はここまでか・・・。捕虜になるの
  か?誰にも見付けられずに窒息死するのか?
  レイナ、僕は誰よりも君を愛していた・・・
  」

 「おーい!キラくーん!」

 「返事してよーーー!」

唯一非常電源で生きていた無線にアサギとマユラ
の声が入ってくる。

 「ここですよーーー!」

 「おー!無事だったよ。マユラ」

 「本当だ。良かったー」

キラがフリーダムを降りてアサギのBストライク
に乗り移った後、アサギは機密保持の為にフリー
ダムを破壊した。

 「さようなら。(フリーダム)・・・」

 「さあ、(クサナギ)に帰るわよ。キラ君」

 「そうそう、帰るわよ。(レイナ僕は誰よりも
  君を愛していた)だって。凄ーい!甘ーい!
  」

 「アサギさん!マユラさん!」

 「しょうがないじゃない聞こえちゃったんだか
  ら」

 「黙っていてあげるから後で何か奢ってね」

 「はいはい、わかりましたよ」

キラを乗せたアサギのBストライクとマユラのス
トライクルージュ改は(クサナギ)へと帰艦した
が、キラはガイのブルーフレームを借りて直衛任
務に就いた時点で停戦を迎えてしまい、キラの戦
争はこれで終わりを告げたのであった。


(同時刻、地球連合艦隊総旗艦「ワシントン」艦
 内)

 「何なんだよ!あの核爆発は!」

ハイペリオンの核爆発は中央艦隊のアズラエルに
も視認できるほどの規模で、爆発を見た全将兵に
動揺が広がっていた。
自分達が開戦時に行ったユニウスセブンへの核攻
撃の報復ではないかと思ったからである。
あの攻撃は公式にはプラントの自作自演と言われ
ていたが、自作自演で20万人以上の国民を殺す
バカな国が存在するわけないので、ほとんどの人
間がブルーコスモス強行派が行った犯行である事
を理解していたのだ。
ただ、理解するのと口に出す事は別の問題であっ
ただけの事なのだ。

 「原因は核動力機の爆発か?」

 「はい、ユーラシア連合の所属機のシグナルが
  確認されていたのですが、核爆発と同時に消
  えました」

サザーランド准将が半分諦めの表情でアズラエル
理事の質問に答えている。
もう、彼はアズラエル理事に何も期待していない
のだ。 

 「それで、被害は?敵と味方どっちが多いんだ
  ?」

 「プリンス戦時中将が集めたゼロ艦隊の大半と
  第三艦隊の一部が消滅しました。これで、左
  翼艦隊の戦線維持が困難になった事は間違い
  ありません」

 「ユーラシア連合は足を引っ張るばかりでなく
  、敵対行動まで取るのか!」

 「敵対行動とは言えますまい。試作品のNジャ
  マーキャンセラーの故障か核動力炉の暴走で
  しょうな」

 「お前は何でそんなに冷静なんだよ!」

 「私は冷静に事実を述べているだけですが」

 「とにかく!プリンス戦時中将に死守命令を出
  せ!」

 「ですが・・・」

いくらプリンス准将が嫌いでもこの状況で死守命
令を出したら多数の第三艦隊と第八艦隊将兵が戦
死してしまうだろう。
自分達の野望が費えた今、少しでも戦力を保持し
て講和に有利な状態を作らなければならないのだ

多分アズラエル派は生き残れないだろうし、それ
に積極的に関わった自分は処罰されるだろうが、
ここにいる大多数の将兵は戦争が早く終るように
と努力をしていただけなのだ。
彼らを自分達のつまらない意地で殺すわけにはい
かない。
自分はアズラエル理事が多少強引で目的の為には
手段を選ばない事を理解しつつも、強力な指導力
で世界の混乱を治めてくれる事を期待して手を貸
していたのだ。
世界は地球連合という組織がそれなりに上手く治
めていると勘違いしている人が多くいるが、それ
は見せ掛けに過ぎず、大西洋連邦・ユーラシア連
合・東アジア共和国が世界の富と資源を独占して
小国を押さえつけ、地球上に資源が不足した時に
色々問題になっていたコーディネーターを宇宙に
追いやって宇宙資源の開発を行わせてその成果を
買い叩いて繁栄してきた歴史がある。
それは、始めは上手くいっていたのだが、搾取さ
れていたコーディネーター達の怒りを買いそれが
今日の戦争状態を生んでいる。
特に、食料の自給の禁止などは彼らの生存権の否
定に他ならないだろう。
そして、愚かな政治家達は積もり積もったその問
題の解決の道具としてブルーコスモス強行派を脅
しの道具として利用したが、彼らは暴走して「血
のバレンタイン」を引き起こした。
いや、政治家共はその事件が起こる事を予見して
いたのだが、万が一の時は彼らだけの責任にすれ
ば良いと黙認したのだ。
結果、地球連合とプラントは開戦したが、彼らは
大国に押さえつけられていた中・小国と結んで、
この戦争を大国に虐げられていた自分達の解放戦
争と位置づけて戦争の性格を大きく変えてしまっ
た。
そうなると、自分達から実権を取り上げた事実も
あって穏健派の政治家達は現実的な和平への道を
模索する事を行うようになり、少しずつブルーコ
スモス強行派の権力を削っていったのであった。
この事実をサザーランド准将は仕方が無いと思え
る反面、彼らの意地汚さを嫌うようになっていた

始めはブルーコスモス強行派を利用して、彼らに
実権を奪われたら敵国と妥協をしながら平和への
道を模索する。
それならば、初めから彼らと話し合いをきちんと
行って問題を解決すれば良かったのだ。
彼らの愚かな行動がいったいどれだけの若者を殺
したのか!
そして、講和が結ばれれば彼らは世界を平和へと
導いた有能な政治家として持て囃されるのだ。
こんなに腹立たしい事はない。
多分、穏健派の中にも戦争を止めようと懸命に働
いていた者も多いのだろうし、自分も何人かはそ
ういう人間を知っていたが、大抵は権力を奪われ
た恨みから自分達を引きずり落とそうとする人数
合わせの連中が半数以上だ。
アズラエル理事はコーディネーター排斥を訴えて
いるが、別に殺そうとしているわけでは無い。
ただ、プラントに隔離して穏やかに数を減らそう
としているだけだ。
そして、連合内部のロゴスに所属する財界人とも
一線を画している部分があるし、多少手法は強引
だが、月を新たな拠点と考えていて人類の未来を
宇宙開発に託すなど夢を持っている人でもある。
彼なら人類の新しい道を切り開いてくれるかも知
れない。
その道は困難を極め、多くの犠牲を生むかも知れ
ないが、自分が手を汚してでも手伝っていこう。
サザーランド准将はそう考えていたのだが、もう
彼を支えていこうと考える事が出来なかった。
自分がこんな卑劣で小心者の男を選んでしまった
事に絶望していたのだ。

 「おい!聞いているのか!」

アズラエル理事の怒鳴り声がBGMの様に聞こえ
ているが、それすら気にならなくなってきた。

 「ジークマイヤー大将!」

サザーランド准将は今まで一度も声を掛けた事が
無いこの艦隊の司令官を呼ぶ。

 「何かね?サザーランド参謀長」

この艦隊の総司令官はジークマイヤー大将であり
、サザーランド准将は参謀長に過ぎず、アズラエ
ル理事に至ってはオブザーバーでしか無いのであ
ったが、様々な力関係でこの総司令官は無視され
てオブザーバーが総司令官面をしていたのだ。

 「もはや、連合軍に勝利の目は無くなりました
  。ここは戦力を温存して月に引き揚げる事を
  提案します」

 「おい!お前!何を言っているんだよ!撤退な
  んて認めないぞ!」

 「私は総司令官に進言をしているのです。オブ
  ザーバーに過ぎないアズラエル氏は口を出さ
  ないでいただきたい!」

 「お前・・・、何を言って・・・」

アズラエル理事は衝撃で言葉が出なかった。
いきなり自分の忠実な飼い犬に手を噛まれたのだ

ショックでないはずはない。

 「そうだな。これ以上戦っても益は無いな。全
  軍引き上げを命令してくれ」

 「了解です。全艦艇に通信しろ。まだ、停戦命
  令は出ていないのだから上手く引き揚げない
  と大損害を出すぞ!撤退戦は一番難しいんだ
  からな」

サザーランド准将が引き上げ命令を全艦に出すよ
うに指示した瞬間、通信兵がいきなり拳銃で撃た
れて絶命する。

 「おい!撤退命令なんて出すんじゃないよ!こ
  のまま突撃だ!向こうは攻勢限界点に達して
  いるんだぞ!「ゴンドワナ」さえ討てばこち
  らの勝利なんだ。全艦艇と集結させて一気に
  旗艦を突くんだよ!」

 「攻勢限界点に達しているのは我々も同様なん
  ですぞ!それに、現時点で敵を防ぎながらの
  集結は不可能です!」

 「いいからやれよ!サザーランド、お前がやれ
  ばいいんだよ!」

 「自分はこの艦隊の参謀長に過ぎません。指揮
  権はジークマイヤー大将がお持ちですので」

 「ああ、そうかい!ジークマイヤー大将は名誉
  の戦死だ!お前が跡を継いで俺の指示に従う
  んだ!」

アズラエル理事がジークマイヤー大将を撃とうと
した瞬間、サザーランド准将が間に割って入りな
がら自分の拳銃で撃ち返した。

 「なっ・・・、お前・・・、ぐはっ!」

サザーランド准将の銃撃はアズラエル理事の心臓
に当たり彼は大量の血を吐きながら絶命した。

 「アズラエル理事は・・・発狂して艦内の士官
  を殺害・・・、ジークマイヤー大将の・・・
  殺害も企てた為に・・・、私が自己防衛の為
  に・・・射殺しました。これで・・・よろし
  いですね。ジークマイヤー大将・・・」

息も絶え絶えにそこまで言うと、腹部に銃弾を受
けたサザーランド准将は床に倒れ込んでしまう。

 「サザーランド准将!軍医を呼べ!」

ジークマイヤ大将は大声で指示を出しながら、倒
れこんだサザーランド准将のもとに駆け寄った。

 「しっかりしろ!すぐに軍医が来るから!」

 「私みたいな・・・不出来な生徒でも・・・軍
  医を呼んで・・・くれるのですか・・・。校
  長・・・」

 「お前は私が教えた中でも最高の逸材だった。
  だから、ここにいるんだろ?」

 「校長・・・、今までの・・・無礼な態度をお
  許し・・・ください・・・」

 「そんな事はいい!もう、喋るな!」

 「私は・・・貧しい家庭に育ち・・・。軍の学
  校でしか・・・勉強が出来ないから・・・士
  官学校に・・・入学しました・・・。建前で
  は・・・成績が優秀なら・・・出世もできま
  すしね・・・」

 「お前は自分で道を切り開いて出世街道を歩い
  ていただろう。私の自慢の生徒だったんだ。
  それが、何でアズラエルなんかに・・・」 

 「私は・・・大西洋連邦も・・・軍も・・・政
  治家も・・・大嫌いだったんです・・・。民
  主主義を・・・建前で語りながら・・・一部
  の財閥や・・・政治家や・・・官僚が・・・
  いいように国を操り・・・、小国や少数民族
  を虐げ・・・、自分達だけが・・・特権的な
  生活を享受する・・・。そんな時に・・・ア
  ズラエル理事に出会いました・・・。彼なら
  ・・・、多少強引でも・・・世界を・・・変
  えてくれるのでは無いかと・・・。バカな・
  ・・期待を・・・した結果が・・・このザマ
  です・・・」

軍医が飛び込んできてサザーランド准将を見るが
、首を横に振る。
出血が酷くてもうどうにもならないらしい。
艦の床には大量の血が流れていた。

 「校長・・・、申し訳・・・ありませんでした
  ・・・」

サザーランド准将は最後にそれだけを言うと、息
を引き取った。

 「ばかやろう!まだ若い癖に焦りやがって!本
  当にお前は大バカ野郎だ!」

ジークマイヤー大将はサザーランド准将の目を閉
じてやりながら大声で彼を罵倒する。

 「だがな・・・、最後に私を守ってくれたな。
  自分の間違いに気が付いたんだな。お前はや
  っぱり優秀だったな」

サザーランド准将の腕を組ませ、その上に軍帽を
載せながら、今度は穏やかな声で自分の生徒を褒
めてあげた。

 「お前の仕事はちゃんと私が引き継ぐから、安
  心して休んでくれ」

ジークマイヤー大将は軍帽をかぶり直すと、指揮
官席に座り鋭い声で命令を出し始めた。

 「全軍撤退だ!追撃を喰らわないように整然と
  隊列を崩す事無く暫らく後退を続けるんだ!
  砲撃は絶え間なく続けろ!弾の心配は無くな
  ってからするんだ!みんな生きて帰るぞ!一
  人でも多く生き残る事がサザーランドの意思
  なのだから・・・」

アズラエル理事とサザーランド准将の死亡で更に
崩れかけた艦隊は総司令官ジークマイヤー大将の
指揮によりどうにか建て直しに成功していたが、
右翼と中央からの圧力に変わりは無く早期の撤退
が求められていた。

 「左翼はどうなっている?」

 「第八艦隊は自分を守る事で精一杯のようです
  し、ゼロ艦隊は既に全滅に近い状態です。第
  三艦隊は完全に崩壊してバラバラに逃げてい
  ます」

 「プリンスはやっぱり使えない男だったな。ハ
  ルバートン中将に連絡だ。中央艦隊と合流し
  て左翼の守りを固めろと。彼ならやってくれ
  るだろう。それと第三艦隊には後退を許可し
  ろ!ここまで事態が悪化したらもはや救う手
  段が見つからない。個々の運に任せるしかな
  い」

 「プリンス戦時中将に命令を出しますか?」

 「ああ!その存在が不愉快だから勝手に月に後
  退してくれと伝えろ!それと、戦時昇進の件
  はアズラエルの独断だし、奴は軍人では無い
  のだから無効だ!あの腰巾着は必ず厳罰に処
  してやる!俺はああいう男が一番嫌いなんだ
  !」

ジークマイヤー大将のあまりの迫力にアズラエル
理事に撃ち殺された通信兵の代わりの席について
いた兵士はそのままの内容をプリンス戦時中将に
伝えていた。
このわずか10分ほどで、状況は大きく変わって
しまったのであった。


(同時刻、ザフト中央艦隊所属モビルスーツ隊)

 「うん?アズラエル理事が死んだだと!」

ザフト中央艦隊のモビルスーツ隊を引き連れて敵
艦隊の攻撃をしていたグリアノス隊長は、連合軍
艦隊からの通信を傍受して混乱してしまった。

 「グリアノス隊長、聞きましたか?」

隣りで一緒に戦っていたハイネが通信を入れてく
る。

 「ああ、だが急に敵艦隊が崩れた後にまた復活
  した理由が理解できた」

 「これで、負けは無くなったと・・・」

 「ユウキ総司令はこの情報を掴んでいるかな?
  このまま追撃して戦果を稼ぐのがセオリーな
  んだが、下手をすると窮鼠猫を噛むになる可
  能性もあるからな」

 「大音量で通信を入れるしかないよな」

 「部下達にもやらせろ!それに、新たな指示が
  あるまでは攻撃続行だ!」

 「了解!」

戦場の様子は微妙に変化しつつあった。


(同時刻、「ドミニオン」艦内)

 「そんな・・・。アズラエル理事が死亡でサザ
  ーランド准将も戦死・・・」

突然の通信にプリンス准将は言葉を失ってしまう

未だにどちらに付くのか天秤にかけていたプリン
ス准将にとって、この事実は彼を大きく混乱させ
ていた。

 「プリンス准将、どうしますか?」

通信で「お前は目障りだからとっとと後退しろ」
と言われた自分の上官を半ば哀れみの目で見なが
ら、ラミアス大佐が指示を請う。

 「引き揚げるしかないでしょう」

 「ですが、撤退すら困難な状況ですが」

ラミアス大佐の指摘通りだった。
核爆発というイレギュラーがあった所為とはいえ
、ゼロ艦隊はほぼ全滅し、第三艦隊は撤退命令を
受けてバラバラに逃げ出していた。
ドミニオンも命令通り撤退したい所だが、アーク
エンジェル以下十数隻の艦隊に狙い撃ちされてい
たのだ。

 「バジルール少佐の巧みな指揮で(やまと)級
  一隻に多大な損害を与えて後退させる事に成
  功しましたが、この危機的状況に変化はあり
  ません」

 「とにかく、後退です(アズラエル、ジブリー
  ル、サザーランド。この三人の他にブルーコ
  スモス強行派の幹部と財団の人間が数人。生
  贄はこんなものか?サザーランドは参謀だっ
  たし、ジブリールは今回だけ臨時で軍人をや
  っていただけで本来は財界人だ。生粋の軍人
  から罪人を出すとすれば俺かラミアス大佐だ
  ろうが、ジークマイヤーは俺を断罪するつも
  りらしいな。これは、まずい!どうしたもの
  か?)」

プリンス准将は焦っていた。
取り消されたとはいえ、戦時昇進で一回は中将に
なってしまった為に、アズラエル派の軍司令官と
して処罰されてしまう可能性が高くなってしまっ
たのだ。

 「とにかく後退です!」

後退命令を出しながら、自分が生き残る道を模索
していた時に二機のデュエルダガーから通信が入
った。

 「フラガ機が大破状態なので着艦させます。少
  佐は無事ですのでご安心下さい」

 「ふん、(エンデミュオンの鷹)も地に落ちた
  ものですね」

 「プリンス准将!それはあまりに・・・」

 「五月蝿いですよ!それと、戦時昇進ながら私
  は中将だ!」

 「それは、さきほど取り消されたではありませ
  んか。アズラエル理事にはその権限が無いと
  の理由で」

ラミアス大佐が半分哀れみの表情を浮かべながら
事実を伝えると、プリンス准将は複雑な顔をする
。   

 「(おかしいわね。怒らないのかしら?)」

 「(そうだよな!私は准将のままなんだ!これ
  ならラミアス大佐に罪を擦り付ける事が可能
  かも知れない。何が幸いするかわからないな
  。だが、確率を上げる為には・・・。死人に
  口無しだ。可哀想だが、私の為に死んでもら
  おう)」

追い詰められたプリンス准将がそんな事を考えて
いた時に、ドミニオンに大きな衝撃が走った。

 「駄目です!艦の機関部が両方とも被弾して出
  力は20%にまで低下しました。機関部の温
  度の上昇が止まりません。護衛のモビルスー
  ツ隊も全滅で、ローエングリン、ゴッドフリ
  ートも使用不能です!」

逃亡中の艦隊の最後尾で集中的に攻撃を受けてい
たドミニオンは滅多打ちにされて、パル軍曹から
悲鳴のような報告が上がり、遂にプリンス准将は
決断する。

 「総員退艦用意!白旗を揚げろ!」

 「よろしいのですか?」

 「よろしいもクソも死にたいんですか?」

 「いいえ・・・」

 「では、総員退艦です(ラミアス大佐以外はな
  !)私と艦長は艦長室と私の個室で書類を処
  分してから退艦します。バジルール少佐、退
  艦の指揮をお願いします」

 「了解しました!」

 「では行きましょう。ラミアス大佐(死出の旅
  にな!)」

ラミアス大佐とプリンス准将が艦長室に移動した
後、バジルール少佐は機関部の要員を待避させて
から区画を閉鎖して全乗組員格納庫に集合させて
いた。

 「おや?バジルール少佐。ラミアス艦長は?」

達磨状態になってしまった「108ストライク」
から降りて連絡艇に乗り込もうとしていたフラガ
少佐がバジルール少佐に想い人の所在を尋ねる。 

 「重要書類の処分をプリンス准将と行っていま
  す」 

 「艦長室だな?」

 「多分・・・」

 「この船は放っておけば爆発するんだぞ!俺が
  連れてくる!」 

プリンス准将と二人きりという状況に何か嫌な予
感を覚えたフラガ少佐は艦長室へと走っていった
。  


 「これで、終わりですかね」

 「ええ」

プリンスの個室で書類を燃やし、次に艦長室で書
類を燃やし終わってから作業の終了を宣言した。

 「では、退艦しましょう。ですが・・・、私だ
  けです」

プリンス准将は私物の銃をラミアス大佐に構える

 「どういう事でしょうか?」

 「簡単な事です。アズラエルは死に、アズラエ
  ル派はこれから弱者として断罪されます。私
  は実は穏健派とも繋がっていましてね。情報
  を流したので一応、罪を問わずと言われてい
  るのですが、完全には信用出来ません。そこ
  で、女の武器を使って大佐にまで昇進したと
  噂されるラミアス大佐が罪から逃れられない
  と観念して自殺した後、私が用意した罪状が
  大量に出てくるわけです。おわかりいただけ
  ましたか?」

 「私を殺してもあなたの罪状は消えないわよ!
  」

 「おや、強気ですね。確かに消えませんが、軍
  には色々と大人の事情というものがありまし
  て、死人には罪を擦り付け易いんですよ」

 「・・・・・・」

ラミアス大佐は銃を持っていなかったので、反撃
出来ない上に、プリンス准将は艦長室の入口近く
に立っていて逃走すら不可能であった。

 「では、さよならです」

 「ムウ!助けて!」

 「彼が来るはずありませ・・・」

いきなり艦長室のドアが空き銃声がしたと思うと
、プリンス准将の頭が撃ち抜かれて床に倒れてし
まう。

 「へへっ、クルーゼに負けて気分は最悪だった
  けど、ラミアス艦長に名前で呼んで貰えたか
  ら帳消しだな」

 「ムウ!えっ、いや、フラガ少佐!」

 「ムウで構わないけど」

 「あの・・・、私・・・フラガ少佐に上官を撃
  たせてしまった・・・」

ラミアス大佐はあまりのショックで腰が抜けてし
まったらしく、その場に座り込みながらたどたど
しい口調で話している。

 「プリンスの自業自得だ!彼は指揮官として降
  伏した責任を取って自殺したんだ。これが、
  公式の事実だ。わかったかい?マリュー」

 「ええ・・・」

 「この真相は二人だけの一生の秘密だ。わかっ
  たかい?」

 「ええ・・・」

 「いい子だ。では、二人で秘密を守っていく証
  を立てよう」

 「ええ・・・って、えっ!」

フラガ少佐は座り込んでいたラミアス大佐の唇を
いきなり奪った。

 「さあ、証は立てたぜ。これからは、どちらか
  が秘密を漏らさないように監視の意味を込め
  て一緒にいなくちゃいけなんだぜ」

 「もう、普通に口説けないの?」

ショックから立ち直ったラミアス大佐は不機嫌そ
うな顔をしながら文句を言う。

 「今更って気もするけど。愛してるよ、マリュ
  ー」

 「一言余計よ。私もよ、ムウ」

二人は再び唇を合わせる。

 「さあて、バジルール少佐が待っているし、こ
  の艦はそう長くは持たない。早く退艦するの
  が吉だな」

 「ええ、そうね。急ぎましょう」

二人は手を握りながら連絡艇に移動してドミニオ
ンを退艦した。
連絡艇の中でプリンス准将の自殺を報告すると、
全員がそれとなく真相に気が付いたようであった
が、その事を口外する者は誰もいなかった上に、
全員が墓場にまで秘密を持っていってしまったの
だ。
それと、ドミニオンのクルーは脱出後にアークエ
ンジェルに収容されたが、その時には停戦命令が
出ていた為に、彼らが再び捕虜になる事は無く、
ラミアス大佐達は先に独房に入っていたレナ少佐
と再会する事になったのであった。 
最後に、小爆発を繰り返しながら漂っていたドミ
ニオンは応急処置を放棄した機関部の誘爆によっ
て大爆発を起こしながら沈んでいった。

 「さようなら、(ドミニオン)。ありがとうね
  」

ラミアス大佐は誰にも聞こえないような声でそっ
とつぶやいたのであった。


(午後八時三分、プラント周辺宙域シン・アスカ
 視点)

 「みんな、よく聞け!今さっき、停戦命令が出
  たぞ!」

 「「「やったー!」」」

ザフトは最終決戦に必要な戦力を集める為に、後
方要員までかき集めて不足分をアカデミーの生徒
や民間志願者・技術者に代行させていた。
そんな理由でシン・アスカ、ステラ・カザマ、ル
ナマリア・ホークは成績優秀者として本国警戒部
隊のパイロットに指名されて周辺宙域を警戒して
いた。

 「やっと、戦争が終るんですね」

シンはセンプウ四機一個小隊という変則的な小隊
を束ねているスズキ部長に話し掛ける。

 「お前は意外と冷静だな。若い連中には変な英 
  雄願望があったりして、戦争を望む者も多い
  のに」

 「俺は、いえっ、自分はオーブで戦闘経験があ
  りますので」

 「ああ、そうだったな。カザマやアスラン達と
  一緒に戦っていたんだよな。公式撃墜数7機
  未確認を入れると10機を越えるか。大した
  ものだ。そして、ステラはそのシンよりも腕
  が上で、さっきまで戦場で戦っていたレイも
  編入してくる。今年のアカデミー生は逸材揃
  いだな」

 「本当、凄いですね。私では到底追いつけませ
  んよ」

ルナマリアが感心したような口調で語る。

 「ルナマリアもそう悲観したものでは無いぞ。
  まだ、モビルスーツに乗り始めて半月でこの
  部隊に選ばれているのだから」

アカデミー生パイロット専攻科でセンプウを与え
られて、プラント本国の警戒に就いている者はわ
ずか10名に過ぎないのだ。
それだけ、ルナマリアは才能を見込まれていると
いう事だ。 
それと、スズキ部長がもう一つ驚いていた点があ
った。
先日ルナマリア達がカザマ司令の部隊の見学に行
った時、ルナマリアはモビルスーツに乗せて貰っ
たらしいのだが、わずか1時間ほど彼の指導を受
けただけで、翌日見違えるほどに腕を上げていた
事だった。
短時間でその指導を吸収したルナマリアの才能は
驚異と言えようし、その指導をしたカザマの手腕
にも感心してしまう。

 「戦後はカザマに教官をやって貰わないとな。
  絶対に引き抜く!」

 「えっ、本当ですか?だったら嬉しいな」

 「俺もそう思います。一回くらい模擬戦で勝っ
  てみたいですから」

 「ヨシヒロ、いえっ、カザマ司令が教官なら大
  歓迎です」

ルナマリア、シン、ステラがスズキ部長の意見に
賛同した所で他の部隊から連絡が入った。

 「スズキ隊長、大変だ!第27資材搬入口に海
  賊が現れた。やつら俺達の警戒が手薄な所を
  狙って強盗をしに来たらしい。近くで警戒を
  していたセンプウの小隊を回したが、海賊は
  モビルスーツ十機以上で襲撃してきたらしく
  てまだ応援がいる。行ってくれるか?」

 「任せろ!聞いたな、実戦だから心してかかれ
  よ。俺について来い!」

スズキ部長が目的地に向かって高速で移動し始め
るとシン達もそれに遅れないように懸命に付いて
いく。

 「先に大まかに言っておくぞ!シンとステラは
  二機で組んで敵を落としてくれ。本当に期待
  しているからな」

多分、先に向かった小隊の連中でも実戦経験があ
るものは一名いればラッキーという状態だろう。
今は、シンとステラが頼りの綱なのだ。

 「「了解!」」

 「ルナマリアは俺から絶対に離れるな。なあに
  、俺に付いていれば戦死なんてさせないから
  」

 「了解です」

緊張で声が裏返りそうになりながらも、なんとか
普通に返事をする。

 「みんな落ち着けよ。カザマなんてな、開戦時
  の戦闘で始めの数分間ジンの突撃銃の安全装
  置のロックを外す事を忘れていたんだぞ。当
  時、俺は部下だったから見てみぬ振りをして
  やったが、どんな凄腕でも始めての実戦なん
  てそんなものだし、数分でそれに気が付いて
  からは見事な戦いぶりだったんだ。お前達も  
  絶対に大丈夫だから」

 「「「はい!」」」

 「ねえ、シン、ステラ。緊張しないの?」

 「そりゃあ、怖いけど。戦っていればそういう
  の感じなくなるし」

 「ステラは?」

 「良くわからない」

 「・・・・・・」

ルナマリアの質問にシンは普通に答えたが、ステ
ラは天然なのか?昔の訓練が原因なのか?
不思議な回答をしてくる。

 「さて、現場に到着だ」

第27資材搬入口は小さくて目立たない場所にあ
ったが、このところに生産量拡大でフェイズシフ
ト装甲量産に使うレアメタルの搬入が行われてい
た。
このレアメアルは市場に流せばかなりのお金にな
るので、そこを海賊に狙われたらしい。
そして、もう一つ・・・。

 「おい!返事をしろ!おい!」

ここを防御していたセンプウ小隊と応援に駆けつ
けたセンプウ小隊で計六機の内、二機が動かない
まま宇宙空間を漂っていた。
特に大きな損傷は見当たらないのだが、パイロッ
トが気絶しているのか?死んでいるのか?のどち
らからしい。

 「あの機体か!」

襲撃してきたモビルスーツはストライクダガーが
八機とジンが三機であったが、ジンの中の一機は
かなり改造を施していて変わった武器を所持して
いた。

 「何だ?あの巨大なハンマーは!あれで殴られ
  てパイロットがやられたのか?それに、あれ
  を振り回す為の太い腕・・・」

フェイズシフト装甲故に破壊は最小限で済むのだ
ろうが、パイロットは衝撃に耐えられなかったの
だろう。
そして、損傷が少ないモビルスーツを回収すれば
お金にもなるのだ。
実に海賊らしい装備といえよう。 

 「(困ったな。奴とシンをぶつけてシンは勝て
  るかな?ステラにやらせるか?俺が行くとル
  ナマリアの守りが・・・)」

スズキ部長は短時間で作戦を考えるが、妙案が思
い浮かばない。

 「スズキ隊長、俺にやらせてください!」

 「私が守りに入ります」

 「よし!決めた!お前らで倒せ!」

 「「了解!」」

シンとステラが志願したので、あのハンマー装備
のジンを任せる事にして、自分はルナマリアを守
りながらストライクダガーの部隊と交戦を開始す
る。

 「行くぞ!俺から離れるなよ!」

 「はい!」

スズキ部長は海賊達を大まかに観察したが、腕が
良いのはジン三機だけのようで、ストライクダガ
ー隊はそれほどの腕ではないようだ。
多分、連合軍の脱走兵崩れなのだろう。
アカデミーには絶対に合格できないヘボ達だが、
数が多いのが難点だ。
次に、ジン三機だが、彼らは傭兵経験者のコーデ
ィネーターである事が予想できる。
自分一人なら何とか倒せるだろうが、ルナマリア
には厳しい相手だ。
彼らの始末は更にくる増援部隊に任せるとして、
自分達は時間を稼ぎながら、ストライクダガーを
一機でも多く落とす事に専念した方が良いらしい

 「ルナマリア!けん制でもいいからちゃんと撃
  てよ。それと、安全装置のロックを外すのを
  忘れるなよ!」

 「了解です」

スズキ部長は端でウロウロしているストライクダ
ガーに狙いを付けてからビームライフルで狙撃す
る。

 「うーん、勘が鈍ったかな?」

ビームライフルはストライクダガーの右腕を破壊
したが、撃墜には至らなかった。

 「もう一撃!」

止めを刺そうとした瞬間、ルナマリアがビームラ
イフルを撃ち、それが損傷していたストライクダ
ガーを撃ちぬいて爆発した。

 「よーし、よくやった!後で、公式に撃墜申請
  を出してやるからな」

 「私・・・敵を落とした・・・」

 「ルナマリア!戦場で止まるな!」

 「はい!」

ルナマリアは敵のパイロットを殺してしまった事
に動揺しているのだろうが、今はそれを考えさせ
るわけにはいかない。

 「落とせそうだったら、じゃんじゃん落とせ!
  」 

その後、スズキ部長とルナマリアは生き残ってい
た四機のセンプウ隊と協力してストライクダガー
隊に挑んでいった。


 「ほう、意外と骨のある奴だな」

 「弱いものいじめの海賊に褒められても嬉しく
  ない」

シンは例のハンマーを持ったジンと戦闘を開始し
たが、シンのビームライフルの射撃を巨大なハン
マーで簡単に弾いてしまう。

 「こいつは何重にもストライクダガーのシール
  ドを加工したものを貼り付けてある。ビーム
  なんて簡単に弾いてしまうのさ」

 「ええい!ならば!」

シンはビームサーベルを抜いてジンの腕を切り落
とそうとするが、その攻撃も簡単にかわされ、逆
にハンマー攻撃をギリギリでかわす羽目になって
いた。

 「ほらほら、こいつの攻撃を喰らったら気絶か
  下手をすれば死んでしまうぞ!」

ジンはハンマーを巧みに振り回しながら絶え間無
く攻撃を仕掛けてきた。

 「ちくしょう!攻撃の糸口を掴めない。ステラ
  !」

一緒にいたステラは一機で二機のジンを相手にし
ていて助けにこれる余裕は無いらしい。 

 「ステラか・・・。女パイロットなのか。そい
  つは楽しみだ。おい!そいつは殺さないで生
  け捕りにしろよ!」

 「どういう事だ?」

 「どういうもこういうも、機体は回収して売る
  し、女は後で楽しむんだよ。お前も男だから
  わかるだろう?俺達は男所帯で女っ気に不足
  しているからな。俺達海賊に変な倫理観を期
  待するなよ」

 「へへへっ、そうですよね。お頭」

 「そうそう。どんな女かな?可愛いのかな?ス
  タイルは良いのかな?」

シンのセンプウの無線にジン三機のパイロットの
卑猥な会話が入ってくる。

 「言いたい事はそれだけか?」

 「何だ?」

 「言いたい事はそれだけかって言ってるんだよ
  !」

突然、シンの頭の奥で何かが弾け全ての感覚がク
リアーになった。

 「何だ?こいつ!」

突然、センプウの動きが変わり、シンはビームサ
ーベルで何回もハンマーに斬りかかり、ジンに攻
撃する隙を与えなくなる。

 「動きが良くなった事は認めるが、まだ俺の方
  が優勢だ。本当はセンプウの頭は高く売れる
  から潰したく無かったんだがな!」

ジンはハンマーを大きく振り上げた後、シンのセ
ンプウに向かって振り下ろした。

 「これは避けられまい!」

だが、シンはそれを最小の動きでかわすと素早く
ジンの両腕を切り落した。

 「何でだーーー!そんなバカなーーー!」

 「お前なんて大して強くない」

両腕を落とされて逃走しようとしたジンのコック
ピットにビームサーベルを突き刺すとジンは爆散
してしまった。

 「次は・・・」

シンは自分が倒したジンのハンマーを拾うと、ス
テラが相手をしているジン二機の内の一機に無造
作に放り投げた。


 「攻撃のチャンスが掴めない」

ステラは技量がそこそこあり、連携が取れている
二機のジンに苦戦していた。
自分の方が強いのは確かなのだが、止めを刺され
ないように巧みに距離を取られてしまうのだ。

 「こいつ、強いな!」

 「お頭がガキを倒したら三機がかりで捕らえれ
  ばいいさってばぁ!」

 「おい!どうした?」

シンが放ったハンマーが一機のジンに直撃して爆
発はしなかったが、パイロットは衝撃で気絶して
しまう。

 「何!お頭とハンスが・・・」

最後の一機のジンが動揺した隙を逃さずに、ステ
ラはビームサ−ベルでジンを切り裂き、パイロッ
トが気絶したジンにも止めの射撃を加えて、二機
のジンは爆散した。

 「シン、ありがとう」

 「ステラが無事で良かった」

 「ルナ達の応援に行こう。シン」

 「ああ」

ジン三機を葬ったシンとステラがストライクダガ
ーの部隊を見つけると、まず、無慈悲な射撃で一
機ずつ撃ち落し、更にビームサーベルでもう一機
ずつを切り裂く。
最後に逃走を図った一機に二人がビームサーベル
を投げると、ストライクダガーの背中に突き刺さ
って爆発した。

 「これで、終わりですか?」

 「ああ・・・」

 「スズキ部長!彼らは本当にアカデミーの学生
  なんですか?」

生き残っていた四機のセンプウのパイロットの一
人が驚きの声を上げながら尋ねてくる。
彼自身も教官でスズキ部長の直接の部下だった事
もある男だった。

 「学生なんだけど、実戦経験があるんだよ」

 「それにしても、あの腕前・・・」

スズキ部長達が応援に来るまでは大苦戦で逃げ回
っていただけだったのに、彼らが戦闘に加わった
瞬間に敵は十分と持たずに全滅してしまったのだ

正直、自分達の才能の無さに絶望してしまいそう
だ。
第27搬入口近くにいて最初に応援に駆けつけた
小隊は教官機と短期集中コースで2ヶ月訓練して
いたパイロットがハンマーで殴られて気絶して、
残りの一機が逃げ回っている間に応援の小隊が駆
けつけたのだが、この小隊の教官機も三機の未熟
なパイロット達を守るのが精一杯で敵を全く撃墜
出来なかったのだ。  
それに、彼らが到着した後も、自分は一機落とす
のが精一杯でスズキ隊長が一機と後ろに付いてい
る学生が一機落とし、自分の部下の生徒達は逃げ
回っていただけだった。
落ち込まずにはいられない。

 「気にするな。あいつらは赤服候補の連中ばっ
  かりなんだ。それに、短い訓練期間だったの
  に、お前の部下達は全員生き残った。これは
  大したものだ。むしろ・・・」

 「スズキ部長・・・。すいません」

 「お前がやられたら話しにならんだろうが!ア
  ルハラン!アカデミーで一からやり直すか?
  」

 「すいません。油断しました」

最初に駆けつけたのに、ハンマーで殴られて気絶
していた教官が上司に懸命に謝っている。

 「まあ、戦死者が出なかったから良しとするか
  」

もう一人の気絶していたパイロットが目を覚まし
たので、犠牲者はゼロだったが、センプウ二機は
内部の機械の損傷が激しくて動かなくなっていた

 「しょうがないな。誰か連れていってやれ」

 「スズキ部長、無線が入っています。海賊達の
  母艦と思われる巡洋艦改造の軽空母を発見。
  これを撃沈したそうです」

もう一人の教官から報告を受けたスズキ部長は安
堵の表情を浮かべ、全員が気を抜いた時だった。
いきなり予想外の方向からストライクダガーが
ビームライフルを乱射しながら突撃を掛けてきた

 「こうなればヤケだ!誰でもいいから一緒に死
  ねー!」

 「しまった!ルナマリア機から離れすぎた!え
  えい!」

気が付いた全員がビームライフルを撃って撃墜を
しようとするが、皮肉にも、ルナマリア機が間に
入っていて撃つ事が出来ないでいた。

 「えっ、キャー!」

ルナマリアはシールドで懸命にビームを防いでい
たが、ストライクダガーはビームサーベルを引き
抜いてルナマリア機に斬りかかった。

 「しまった!まだ、ルナマリアには格闘戦は・
  ・・」

一番早く反応したスズキ機とステラ機がスラスタ
ーを吹かしてルナマリアの救援に向かうが、後一
歩で間に合いそうにない。

 「駄目だ!間に合わない!」

 「ルナ!」

スズキとステラが諦めかけた時、実は二人よりも
早く動いていた男がいて、その男とはシンであっ
た。
SEEDが発動していたシンは一番遠い位置にい
たにも関わらず、最初に行動を開始していたのだ

 「串刺しだぜ!」

ストライクダガーのパイロットがビームサーベル
を構えてルナマリア機に突き刺す瞬間に、横から
センプウのシールドが飛んできて、ビームサーベ
ルを弾き飛ばしてしまう。

 「そんなバカな・・・」

 「シン!」

 「ルナに手を出すなー!」

ビームサーベルを飛ばされて動きが一瞬止まった
ストライクダガーを急接近したシンのセンプウが
ビームサーベルで真っ二つに斬り裂いた。

 「そんな!ありえない!」

ストライクダガーのパイロットは断末魔の声を上
げながら死んでいった。

 「ふう、間に合ったか」

 「シン、あのね・・・。私・・・」

 「さあて、帰ろうぜ」

 「うん」

珍し大人しいルナマリアに少し驚きながらもシン
はルナマリア機と一緒に自分の基地へ帰還する。


 「しかし、凄いガキですね」

所属基地のハンガーにセンプウを置いてから、ス
ズキ部長は他の教官達と話していた。

 「シンとステラは海賊機を四機ずつ撃破でルナ
  マリアも一機落としている。本当はルナマリ
  アも大したものなんだが、シン達が凄すぎて
  可哀想だな」

ハンガーの横に例のジンが使っていたハンマーが
立てかけられていた。
シンが記念品にと持って帰ってきたのだ。

 「あんな玩具に興味があるんですかね?シンは
  」

 「腕は一流でもまだ子供なのさ」

 「それで、姫を助けた王子様は何処です?」

 「ルナマリアをおんぶしにいった。お前も始め
  ての実戦の時に経験があるだろう?」

 「ああ、腰が抜けて立てませんでしたね」

 「シンとステラはもう経験済みだからな。良く
  わかっているのさ」


 「大丈夫か?ルナ」

 「うん、大丈夫」

停戦が執行された後、ハンガー内には安堵の空気
が流れ、自分達と交替したパイロット達が安心し
た表情で警戒に出掛けて行き、シンとステラはコ
ックピットから降りてきたルナマリアを出迎える

 「ほら」

シンはルナマリアに背中を向けてしゃがみ込み、
負ぶさように促した。

 「大丈夫よ。恥かしいじゃない」

 「ルナ、一歩も歩けないだろう。俺もオーブで
  同じように歩けなくて、整備兵のおじさんに
  休憩室まで運んで貰ったんだ」

 「ルナ、周りを見てみて」

ステラに言われた通りに周りを見渡すと、今日始
めて長時間の警戒に出たアカデミー生や短期訓練
生達が床に座り込んだり、同僚と支え合いながら
ヨタヨタと歩いていた。
敵の襲撃があるか知れないという緊張感と長時間
座りっぱなしという条件で、初心者は立ち上がれ
なくなってしまうのだ。

 「ほら、早く」

 「うん」

ルナマリアが素直にシンの背中に負ぶさると、シ
ンは休憩室に向かって歩き出した。

 「あのね。シン、ありがとう」

 「何が?」

 「助けてくれて。シンが助けてくれなかったら
  、私、死んでいたから」

 「いいんだよ。俺は自分の仲間が死ぬ所を見た
  く無かったから。」

 「でも、ありがとう」

 「俺さ、あんまり考えないでオーブ軍に志願し
  て、適正試験に合格したからパイロットにな
  ったんだ。自分が戦死するとかあまり考えて
  いなかったんだよ。ただ、合格率の低い試験 
  に合格して嬉しかったし、モビルスーツに乗
  れるんだなんてそんな理由だけで、両親に真
  剣にやる、自分で決めたからなんて言っちゃ
  ってさ。勿論、訓練は真剣にやったし、同じ
  選抜試験を通ってきた人達と仲良くなって、
  みんなで苦しい訓練を乗り越えて、戦闘が始
  まる前日にみんなで生き残って酒でも飲みに
  行こうって約束したんだけど結局、二日間の
  戦闘が終ってみたら俺を入れて十二名中四名
  しか生き残っていなかった。だから、もう仲
  間を失うのは嫌だ。全員希望通りに助けるの
  は不可能だけど、一人でも犠牲を少なくした
  い。ただ、それだけなんだ」

ルナマリアを背負いながらシンは自分の考えを話
す。

 「私、その仲間に入っているんだね」

 「当たり前だ」

 「嬉しい」

ルナマリアはシンの後頭部に横顔を摺り寄せた。

 「ちょっと!ルナ!」

 「いいじゃない。純情少年君」

 「やめろって!」

 「やめなーい!」

 「むぅーーーーーー!」

この二人のやり取りを見ていたステラは珍しく不
機嫌になっていた。

 「青春してますね」

 「見てるとこっちが恥かしくなってくる」

三人の様子を覗きこんでいたスズキ部長と部下の
教官の密談はその後も暫らく続いていた。


  (9月22日のスズキ部長の日記)

今日、戦争が停戦になった。
それは嬉しいが、予想範囲内の出来事なので、詳
しくは書かない。 
だが、俺がなけなしの小遣いを叩いているシン争
奪レースに大きな変化が現れた。
シンはそれほど危機ではなかったが、ステラを救
援して俺の予想の正しさを実感できたのだったが
、それは一瞬に過ぎなかった。
俺達でも助けられなかったルナマリアを電光石火
で救援してその後、初めての実戦で上手く歩けな
かったルナマリアを負んぶしたのだ。
しかも、日頃は気が強いルナマリアが大人しくて
とても可愛らしかったのだ。
これは、非常にまずい事態だ。
まさか、古来の日本で言われていた「ツンデレ」
というものを実際に拝んでしまうとは。
俺の過去の経験を振り返って見ると、男はこうい
う攻撃に非常に弱い。
このままでは、カザマが一人勝ちという事にもな
りかねない。
ステラに500アースダラーを賭けた俺の破滅を
避ける為にも、対策会議を招集せねばならないだ
ろう。


停戦後にプラントを襲った小さな事件はこうして
幕を閉じたのであった。 


(午後八時三分、カザマ視点)

俺はササキ大尉と一騎討ちを続けていたが、五分
ほど前から戦闘の光が収まっている事に気が付い
ていた。
もしかしたら停戦が発動しているのかも知れない

 「ササキ大尉!停戦みたいだぞ!所属部隊に確
  認しないのか?」

 「はあ?関係ないさ。テメエを殺してから合流
  すればいいんだから」

 「君、狂っているね」

 「お褒めの言葉をありがとう」

俺達はもう大分前に戦場が移動してしまった為に
、艦艇やモビルスーツの残骸しか残っていない場
所で戦っていた。
ここには本当に残骸しか無くて、動いているのは
地球を回っているデブリ帯に引き寄せられている
残骸と俺達だけだったのだ。

 「いい加減しつこくて嫌になってくる!」

 「殺してやる!」

俺はビームライフルでファントムを残り2基にま
で減らす事に成功したが、ビームライフルもビー
ムで弾かれて失ってしまった。

 「ははは、飛び道具無しか。大変だな、カザマ
  」

 「そうでも無いさ」

俺は初めて頭部の角に偽装されていたビームブー
メランを投げてファントムを二基とも破壊する事
に成功したが、ビームブーメランを「108スト
ライク」のビームライフルに撃ち落とされてしま
う。

 「ははは、これで俺の勝ちだな!」

 「まだまだ!」

ササキ大尉の射撃を紙一重でかわしながら、「1
08ストライク」に急接近してしてビームサーベ
ルでビームライフルを斬りつけた。 

 「何で押されているんだ!」

ビームライフルの爆発をシールドで防ぎながら、
ササキ大尉は大声で叫んだ。

 「才能の差かな?ササキちゃん」

 「ふざけるな!絶対に認めない!」

ササキ大尉は予備の薬のアンプルを開けて一気に
飲み干した。

 「へへへへ、これで、俺の勝ちだ!」

突然、ササキ大尉の動きが良くなり俺は押されて
しまう。

 「薬でもやっているのか?」

 「当たり!こいつは最高だ!俺は最強なんだ!
  」

 「黙れよ!薬中!」

 「はーん、聞こえんなー!」

ササキ大尉は「ジン検廚離咫璽爛機璽戰襪鮖造
飛ばす。 

 「格闘戦でも優勢か!大した薬だな」

 「俺が凄いんだよ!」

 「バーカ!そんな強力な薬を無理して使えばお
  前は破滅だ!」

 「その前にお前が死ぬさ!」

俺はもう一本のビームサーベルを抜いてお返しに
「108ストライク」のームサーベルを切り落と
した。

 「ええい!」

 「まだだ!」

更にササキ大尉の二本目のビームサーベルを切り
落とすが、今度はササキ大尉にビームサーベルを
蹴り飛ばされてしまう。 

 「これで、お互いにこれだけか・・・」

俺は十二メートルのBストライクの予備の対艦刀
をササキ大尉は愛用の15メートルの対艦刀を抜
いて鍔迫り合いを始めた。

 「俺にはまだこれがある!」

お互いに斬り結んでいる時に「108ストライク
」がイーゲルシュテルンを撃つが、Tフェイズシ
フト装甲なので気にしないで攻撃を続行する。

 「やはり、気にも止めないか」

 「残念だったな」

 「だがな!」

だが、一瞬の隙が出来たのだろう。
俺は自分の対艦刀を弾き飛ばされてしまった。

 「しまった!」

 「さよならだ!」

もう駄目だと思った時に唯一残っていた武器を思
い出してシールド裏から取り出し、左腕に持って
からササキ大尉の対艦刀に叩き付けた。

 「残っていたのか!」

ササキ大尉の対艦刀は手榴弾と「ジン検廚虜枯
を切り落としたが、手榴弾が炸裂して「ジン検
と「108ストライク」の全探査機器を破壊して
しまう。

 「うおーーー!目がーーー!」

 「今だ!」

俺はコックピットハッチを全開にして視界を確保
してから、対艦刀を拾い体勢を整える事に成功し
た。

 「貴様ー!よくもやってくれたな!」

ササキ大尉もコックピットハッチを開けたので、
俺達は初めてお互いの姿を目視した。

 「始めましてかな。ササキ大尉殿」

 「ふん、やっぱりガキだな!」

 「精神年齢はそう変わらないだろう。ストーカ
  ーだし」

 「五月蝿い!お前に俺の気持ちなんてわかって
  たまるか!」

 「わからないよ。他人だから、どうでも良いし
  」 

 「話してやる!俺の祖父は住んでみたくなった
  からという下らない理由で大西洋連邦に移住
  して生活を始めたが、学歴もスキルも無かっ
  た為に、貧しい生活に苦しみ、俺の両親も同
  じく貧しい生活に苦しんでいた。俺には妹が
  いたが、彼女は幼い頃に誘拐され、両親はギ
  ャングの銃撃戦に巻き込まれて死亡して俺は
  一人ぼっちになってしまった。その後、俺は
  勉強するのに金が掛からない士官学校に進ん
  で卒業後軍人になったが、白人共はそこでも
  俺を差別しやがった!俺はもうこんな生活は
  沢山だ!嫌われようが、妬まれようが、俺は
  金と権力を掴んでやる!偉くなってやる!邪
  魔する奴は殺してでも排除する。日本を逃げ
  出したコーディネーターの癖に祖国で英雄扱
  いされやがって!オーブで一佐になんかなり
  やがって!ザフトで艦隊司令官になりやがっ
  て!プラント元最高評議会議長の娘の婚約者
  になりやがって!お前は俺の壁だ!生きてい
  てはいけないんだ!絶対に殺してやる!」

 「長いお話ご苦労さん!でも、よく俺の婚約者
  がラクスだと知っていたな?」

 「情報部からお前の情報を集めていたのさ!」

 「やっぱり、お前ストーカーだよ」 

 「五月蝿い!」

ビームを切って実剣にした対艦刀で切り合うが勝
負がなかなかつかなかった。
何故、対艦刀のビームを切ったのかというと、鍔
迫り合いで飛び散ったビーム粒子が開いたコック
ピットに入ると、俺達が死んでしまうからである

勝負は開いているコックピットに対艦刀を突き入
れてパイロットを殺した方が勝ちという野蛮なル
ールで行われていた。 

 「何で互角なんだよ!俺の方が・・・」

 「薬で反応速度と動体視力を上げているのにか
  ?バカだな、お前。この勝負方法にしたのは
  その差を埋める為だったんだよ。コックピッ
  トハッチ越しの視界だけで戦った経験が無い
  お前と多少の柔軟性がある俺との勝負だ。お
  わかりいただけたかな?」

 「コーディネーターに一日の長があると・・・
  」

 「こういう非常時にはコーディネーターの勝ち
  だ。最も、これがMAならお前の勝ちかもし
  れないけど」 

 「俺は・・・。負けられないんだーーー!」

再び激しく切り結んでいた俺達であったが、遂に
ササキ大尉に異変が現れだした。 

 「うっ、何だ・・・。頭痛と吐き気と寒気が・
  ・・。それに、体が痛い・・・」

急に「108ストライク」の動きが緩慢になって
くる。

 「うん?理由はわからないがチャンスだ!」

俺は一端距離を取ってから、「ジン検廚陵0貉
った右腕で対艦刀を真っ直ぐに構えてから、「1
08ストライク」に突撃をかけた。

 「片腕しか無いからな。勢いをつける!」

両足、左腕が無い「ジン検廚歪餽海少ない分、
通常よりも高速で「108ストライク」向かって
いく。

 「クソ!体が・・・、苦しくて・・・動かない
  」

ササキ大尉は激痛に苦しむ体を必死に動かしてい
るが、思うように動かなかった。

 「これで、終わりだ!生まれ変わって幸せにな
  るんだな!」

 「カザマー!・・・ちくしょう!」

俺は遂に「108ストライク」のコックピットに
対艦刀を刺し込む事に成功した。
ビームを切ってある対艦刀はササキ大尉の上半身
と下半身を切断した後、座席の後部を貫通して内
部の機械を突き破り、Nジャマーキャンセラーを
完全に破壊してフェイズシフト装甲をダウンさせ
てから背中を完全に突き破り、後ろにあった漂流
中の巡洋艦の艦体に突き刺さった。

 「カ・・・ザ・・・マ・・・お前・・・を・・
  ・」

完全に即死だと思われていたササキ大尉の断末魔
の声が聞こえたような気がしたが、俺はそれを無
視して対艦刀を突き刺したまま「108ストライ
ク」から離脱する。
だが、俺は「108ストライク」の爆発に巻き込
まれてしまった。
咄嗟にコックピットハッチを閉じた所までは覚え
ているが、俺はそこで意識が途絶えてしまった。


(同時刻、アークエンジェル艦内)

停戦時刻から三十分後、両軍の艦隊は完全に戦闘
を停止させて生存者の救助に当たっていた。
当然、アークエンジェルも敵味方を問わず、生存
者の救助に当たっていたが、肝心の自分達の司令
官が見つかっていなかった。

 「カザマ君はまだ見つからないの?」

 「探してはいるんですが・・・」

 「とにかく範囲を広げて探しなさい!」

ブリッジでタリア副司令が副長を怒鳴りつけてい
た。

 「せっかく、停戦なのにあなたがいなかったら
  みんな悲しむでしょ。早く、見つかりなさい
  よ」

タリア副司令は祈るように小さい声でつぶやいて
いた。 


 「何!カザマが行方不明?」

アークエンジェルの格納庫で救助された連合軍将
兵と休んでいたフラガ少佐が驚きの声を上げた。
実は彼らは停戦が執行してからアークエンジェル
に着艦したので捕虜では無く、救助者として扱わ
れていたのだ。
そして、レナ少佐も手続きが面倒くさいという理
由で、フラガ少佐達と一緒にされてラミアス大佐
達と再会を果たしていた。

 「ササキ大尉にやられてしまったかな?」

 「何だと!テメエ、戦死した事にして宇宙に放
  り出すぞ!」

珍しく、感情を表に出したコーウェルがフラガ少
佐の胸倉を掴んで持ち上げる。

 「悪かったよ。だけど、ササキ大尉の執念は尋
  常じゃなかったからな」

 「ふん、言葉に気をつけろ!」

 「フラガ少佐、救助されたとはいえ、さっきま
  で戦っていた連中の神経を逆撫でするような
  発言は止めてください」

 「そうよ、不謹慎よ!」

 「フラガ少佐が悪いと思います」

ラミアス大佐、レナ少佐、バジルール少佐に立て
続けに避難されてフラガ少佐は落ち込んでしまう
。 

 「あいつ、慕われているんだな」

 「敵とはいえ憎めない男ですからね」

 「ササキ大尉なんて、生きて帰って来ない方が
  喜ばれそうですからね」

 「レナ少佐、それはあまりにも・・・」

 「事実よ。バジルール少佐」

 「まあ、とにかく戦争は終わったんだから、見
  つかってくれる事を祈りますか」

フラガ少佐達も祈らずにはいられなかった。


(同時刻、「クサナギ」周辺宙域)

 「とにかく探してくれ。出来るだけ速くだ!」

カガリの命令でクサナギの全モビルスーツ隊がカ
ザマ司令官捜索に当たっているが、なかなか成果
が上がっていなかった。

 「ガイ!どうだ?」

 「もっと遠くを探す。奴に生きていて貰わない
  と特別報酬三十万アースダラーが水の泡だ」

 「ホー三佐!」

 「格闘王の名にかけて探し出す!」

 「ハワード一尉!」

 「三次会のトップレスバーが待っているんだ!
  」

 「何か言ったか?」

 「何でも無いです。探します」

 「アサギ!マユラ!」

 「「探してます!」」

 「キラ!」

 「絶対に探し出す!レイナに見つからなかった
  なんて言えないよ」

 「俺もラクスにそんな事、可哀想で言えない・
  ・・」

 「僕もカナに言えませんよ」

アスランとニコルが通信を入れてきた。

 「とにかく、探してくれ!」

カガリが懇願した後に索敵担当士官から報告が入
ってくる。

 「高速で接近する船を発見該当艦船あり!(エ
  ンジェルボイス号)です。クライン家の持ち
  船です」

 「何で?ラクスが!よりにもよってこんな時に
  ・・・」

 「戦場で鹵獲した兵器の調査の為に、カザマ技
  術二佐が早く戦場跡に入りたがっていたのを
  ラクス様が船を貸してあげたというのが表向
  きの理由みたいですね。実際は・・・」

タリア副司令がいきなり連絡を入れてくる。

 「カザマに会いたいんだろうな。ラクス」

 「カザマ技術二佐はオーブの人だからアスハ隊
  長に対応をお願いするわ」

 「私は今はオーブ軍籍ではない・・・」

 「お願いします」

口調は丁寧だが、一切妥協する事無くカガリに押
し付けて通信を切ってしまう。

 「あーあ、ラクスに何て言おう。あっ、そうだ
  !アスラン、報告しておいてくれ!」

 「そんな酷い・・・」

 「頼むよ。元婚約者なんだからさ」

 「わかったよ・・・」

結局、アスランがラクスとレイナ達に状況を報告
しに行く羽目になったのだが、ラクスは全く動揺
していなかった。

 「大丈夫です。ヨシヒロは生きています」

 「根拠は?」

 「彼が私を呼んだから私はここにいるのです」

相変わらずなラクスの不思議発言にアスランは首
を傾げてしまう。

 「ラクスがそう言うからお兄さんは生きていま
  すよ」

 「大丈夫でしょ。兄貴は生きているって」

 「俺はほら、娘達を信じているから」

レイナ、カナ、シュウイチも全く動揺しておらず
、アスランは「エンジェルボイス」のブリッジで
深く考え込んでしまった。


(同時刻、カザマ視点)

 「うーん。俺、生きているのか?」

真っ暗な「ジン検廚離灰奪ピット内で俺は目を
覚ました。
どうやら、気絶していたようだ。

 「俺は(108ストライク)の爆発に巻き込ま
  れて気を失っていたのか・・・。とにかく、
  状況の確認だ!」

「ジン検廚錬離献礇沺璽ャンセラーが壊れてし
まったようで全く動かず、一部の非常用電源しか
生きていなかった。

 「酸素は予備のパックを含めて二時間か。外に
  出て位置を測定しないと」

コックピットハッチを開けて外に出ると、俺は残
骸と共にデブリ帯に少しずつ引き寄せられている
ようだ。

 「まずいな。何か推力を得て少しでも元の位置
  へ戻らないと」

俺は「ジン検廚凌篆丙泙粒稜Г鬚靴討ら残存電
力の確認をする。

 「無理やり非常電力を集めて数秒の噴射を行っ
  て、進む方向を変えるか。だが、問題はどの
  方角かだな。戦場の砲火が消えていて詳しい
  方向がわからない。宇宙で進路を間違えると
  致命的だからな」

僅か数度のズレでかなり到着位置が変わってしま
うし、プラントの方向がわかってもこの酸素量で
は到着しない。
艦隊がいる位置を正確に見極めないと俺は遭難し
て窒息死してしまうのだ。

 「さて、どの方角なんだ?」

「ジン検彙濺泥丱奪謄蝓爾離魁璽匹之劼い任ら
電卓で懸命に方位の計算をしているのだが、デー
タ不足で正しい答えが出なかった。

 「こうなれば運だな。酸素が無くならない内に
  ズバッと決めてしまおう!」

そう考えた時に耳元で何かの声がした。

 「うん?何だ?」

耳を澄ますと赤ん坊の声らしい。

 「何でこんな所で?酸素欠乏症では無いだろう
  し」

その赤ん坊の声はある方角から強く聞こえてくる
ようだ。

 「よーし!声の方角に決定だ!」

俺は覚悟を決めて、赤ん坊の声が強く聞こえる方
角に向けて進むように「ジン検廚虜埜紊凌篆丙
を吹かした。

 「誰かいてくれよ!」

俺は「ジン検廚離灰奪ピットの中で祈るだけで
あった。 


(同時刻、「エンジェルボイス号」艦内、ラクス
 視点)

 「あちらの方角に船を」

ラクスは急に艦長にある方向を指示する。

 「何か根拠があるんですか?」

 「女の勘です」

アスランの疑問にラクスは自信を持って答えるが
、アスランにはわけがわからない。
どうやら、元婚約者は自分の理解の範疇外に行っ
てしまったようだ。

 「本当にこの方角なんですか?」

 「アスランもカガリさんが行方不明になったら
  絶対にわかりますから」

ラクスはそう言うのだが、自分にそんな超能力が
あるとも思えない。

 「ほら、あれです」

 「あれは・・・(ジン検法」

ラクスが指差す方向にボロボロの「ジン検廚見
えていた。


(カザマ視点)

 「うーん、この方角は失敗だったのかな?」

赤ん坊の声がしなくなったので、俺は不安を感じ
てしまう。

 「あれは、セイレーンのようにパイロットを誘
  い込んで殺す妖怪だったのかな?」

そんな事を考えながら酸素残存量を見ると、残り
は三十分ほどで、自分の運は既に尽きたようであ
った。

 「ここ数年は結構楽しかったんだけどな。ここ
  で俺の人生も終了か。窒息して苦しむくらい
  なら、これで・・・」

取り出した拳銃の残弾数を確認していた時に急に
コックピットハッチが開いた。

 「ヨシヒロ!」

急にピンク色のノーマルスーツを着た女性が俺に
抱き付いてきた。

 「あれ?ラクス!」

 「はい!」

 「どうしてここに?」

 「あなたが呼んだから」

 「俺が?」

 「赤ん坊の声がしました」

 「俺も聞いた」

 「私はその声につられて来ました」

 「俺も声の方向にスラスターを吹かした」

 「では、きっとお父さんとお母さんが心配だっ
  たのですね」

 「ラクス、子供が出来たの?」

 「まだですが、そう遠くない未来の話でしょう
  ?」

 「そうだね。でも、その前に結婚しないとね」

 「ええ」

 「ほら、これを見てごらん」

ノーマルスーツの頭部の中に紐が浮かんでいてお
守りと2つの指輪が浮かんでいた。

 「一つはラクスに返す約束をした指輪で、もう
  一つは・・・」

 「もう一つは?」

 「婚約指輪だよ。ラクス、結婚しよう」

 「はい」


コズミックイラ71年9月22午後7時48分
地球連合政府とプラント及びその同盟国との停戦
協定が発動して戦争は終結した。
この最後の決戦で連合は六割プラントも半数の戦
力を喪失して合わせて七万人近くの命が失われた
のであった。
この犠牲が、多いのか少ないのかは今の時点では
まだ誰にもわからなかった。


         あとがき 

結局、ヘタレで主要キャラを殺せなかった。
次回は後日談というか、エピローグって奴です。

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