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「魔除けの鐘を鳴らす者達 第3話 (ス−パ−ロボット大戦)」

太刀 (2006-04-08 04:38/2006-04-08 20:23)
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こんにちは、碇シンジです。前回あろうことか人相の悪い鬚の男が、僕の父親と言ってきました。
冗談をつくにしても、もうちょっとマシな事を言ってもらいたいものです。
かたや暴力団関係者としか見えない鬚男と、美形として世間一般に充分通用する少年。
街中でランダムに『この二人が親子に見えますか?』と100人にアンケ−トしたら100人中100人が「他人だろ」と答えるくらい似てません。

鬚男が嘘を言ってるとしか考えられない状況ですが、僕を育ててくれた武術の師匠に

「シンジよ、世の中には嘘のような現実がある。否定するのは簡単だ。だが、その前に一考し己がまなこで確かめてからも遅くはあるまい」

と、諭された事もあります。
それにしても流石、師匠。いい事を言います。そんな訳で本当に、鬚男が僕の父親かどうか昔の記憶を探ってみようと思います。


どこかの研究施設。その一部屋。

「ちんじ!そのオモチャよこちなさい」

「え〜やだよア−ちゃん」

3歳くらいの男の子と女の子が、オモチャの奪い合いをしている。

「ばかちんじのくせに、なまいきよ」

「え〜ん!ア−ちゃんがぶったぁ−」


どこかの公園の広場

「ちんじ!ブランコにのるわよ」

「え〜やだよ。ぼく、すなばであそびたいよ−」

拒否するが赤毛の少女に、むりやりブランコに二人乗りさせられる。

「ア−ちゃん!こわいよ!やめてよ!」

「なにいってるのばかちんじ!ブランコはおもいっきりゆらすのよ」

その後、勢いあまってブランコから落ちたが、シンジが赤毛の少女の下敷きになり、少女は怪我ひとつ負わなかった。


少年と少女の両親が住んでいるマンション

「ちんじ!きょうはこれよ」

青い目を持つ少女は、一冊の本をシンジに見せる。家庭医学書とタイトルにあるが、幼いシンジには読めなかった。
少女が本の中身をシンジに見せる。男性と女性がハダカでからみあっている写真しか載っていない。

「え〜やだよ。ぼく、てれびげ−むがしたいよ」

シンジは母親から貰ったゲ−ムで遊びたかった。

「だめよ!ばかちんじ!こっちをやるの!」

半年違いで生まれた青い瞳の少女。物心ついた時には隣にいたが、シンジは一度も少女に逆らって勝てた試しがなかった。

「う〜さむいよ。ア−ちゃん。なんで、おようふくぬがなきゃならないの?」

「なんでも!パパもママは、このごほんをみたつぎのひは、なかがとてもいいの。ちんじはあたちと、なかよくなりたくないの?」

「なりたいけど、さむいよ」

「ごほんのとおりにすれば、さむくないわよ」

二人が見様見真似で写真に載っている男女の真似事をはじめる。床に置いた本のブックカバ−がめぐれ落ちる。家庭医学書と書かれたブックカバ−の下には「夫婦姓活の為の四十八手講座」と別のタイトルがあったのに気づくことはなかった。


国際空港ロビ−

「ア−ちゃん・・・・・・」

幼馴染の少女が今日、父親の母国へ、母親と共に帰国する。
どことなく、シンジは嬉しそうだ。淋しい感情もある。哀しい感情もある。だが、それ以上に生傷を毎日作らなくても、すむようになるのが、喜びの感情を増幅させる。

「いや!しらないとこにいきたくない!いくなら、ちんじもつれてく!」

少女の涙がロビ−に水溜りをつくる。手にしているサルのぬいぐるみをギュと絞める。

「駄目でしょ。シンジ君が困ってるわよ」

少女の母親が言い聞かせるが、少女は頑なになり母親の説得に耳を傾けようとしない。

「キョウコ、ちょっとコッチに」

「なにユイ?」

シンジの母親、碇ユイが親友のキョウコを手招きして、観葉植物の鉢植えの影まで呼びよせた。

「コレをシンジの手からアスカちゃんに渡せばどうかしら?」

ユイの手に淡い輝きを放つリングがあった。

「ちょ、ちょっとユイ?この指輪。貴女のお母さんの形見じゃない!?」

「ええ、そうよ」

「何考えてるのユイ?そんな大事な指輪受け取れる訳ないじゃない」

大学時代からの親友の考えが解らない。ここには居ない赤城ナオコを含め、キョウコとユイは若輩ながら、東洋の3賢者と学会から恐れられている天才だ。
ユイの突拍子のない考えには慣れているつもりだったが、キョウコとは違ったベクトルでの天才の考えは、同じぐらいの知能指数を持つ彼女でも把握しきれなくなる事がある。
いまなんかがそうだ。

「キョウコ。大学のキャンパスでの約束、覚えてる?」

「もしかして、あの約束?」

言葉が足らない会話でも、話が成立するのは、つうかあの仲と呼べる程、気心が知れているからだ。

「そう、その約束。もしもわたしとキョウコの子供が、男の子と女の子だったら一緒にさせましょ。って約束よ」

親友の性格を知っているキョウコは、ユイが本気であるのが分かってしまう。
お嬢様育ちで世間知らずと思いきや、辺な所は徹底的なリアリスト。
この指輪の意味も理解できる。
母親の形見を、いくら親友の娘にでも、あげることはできない。だが、将来むすこと一緒になるのならどうだ?それなら話は変わってくる。
それにシンジに対する娘の懐き具合は、研究三昧で滅多に会えない自分より大きいかもしれない。
このまま素直に離れそうにない娘だが、目に見える形で約束をしたらどうだろう?
強行な態度も変わってくるのは明白だ。
シンジに将来「お義母さん」と呼ばれるのも悪くない。キョウコはにやりと笑った。
シンジの意思は完全無視。ある意味あわれな少年である。

「ユイ、約束は守る為にあるのよね」

「もちろんよキョウコ」

熱い握手をする母親たちの向こうでは、泣きながらサルのぬいぐるみの代わりにシンジを詰めかける少女が、空港利用客の注目を集めていた。

「く、くる・・・・しい・・・・は、はなして・・・・・ア−ちゃん・・・・・」

「ちんじ!あんたもくるの!」

シンジをロビ−に押し倒して馬乗りしている少女が、服の襟を掴んで駄々っ子が見せるような動作で激しく引っ張る。何度も後頭部がロビ−に打ち付けられ、引っ張られた服で頚動脈を押さえられる形になっているのでシンジの顔色が青くなっている。
天国のお花畑が見えかけてるシンジだが、周りの航空客達は微笑ましい子供のじゃれあいとしか見ていない。
意識が朦朧となった時、ようやくユイとキョウコが止めてくれた。
その後、朧げな状態でシンジはユイから渡された指輪を少女に贈った。何か約束も一緒に交わしたような気もするが、よく覚えていない。


「リ、リツコ!シンジ君。膝を抱えた体操座りで虚ろ目になってるわ」

「人はロジックじゃないのよミサト」

鬚男にかんしては一ミリグラムも思い出させないが、開けちゃいけないパンドラ(トラウマ)の記憶箱をうっかり開けて、真っ白な病室に居る精神患者のように、ブツブツと虚空に向かい「ア−ちゃん。ごめんなさい」と繰り返すシンジを見て論理的と言える人間は、確かにいない。

「どうするのよ!」

「私の特性注射打ちましょうか?」

白衣の内ポケットから無針注射器とアンプルをだして、ミサトに見せた。

「馬鹿!シンジ君を殺す気?リツコの特性注射なんか打ったらエウ゛ァに乗る前に精神汚染されるじゃないの」

紫色のいかにも危ばそうな液体を見て叫ぶ。条件反射的に言ってしまったミサト。金髪の親友のこめかみに青筋が浮んでいる。

「・・・・・・・貴女が私を、どう思ってるのか、よ〜くわかったわ。シンジ君の変わりにミサトに討ってあげるわ。感謝しなさい。もしかしたらズボラが直るかもしれないわよ」

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――」

悲鳴をあげて逃げるミサト。

「ふっふっ・・・待ちなさいミサト。科学の素晴らしさを、身を持って教えてあげるわ」

中世の魔女のような笑みを浮かべ、リツコは逃げるミサトを追いかける。
切り札たるサ−ドチルドレン。それに作戦部長と技術部長。Nervの主力になる筈の人材。
・・・・・・・・・の筈だ。
ケイジに待機していたエウ゛ァの整備員達の1人が、ボソっと呟いた。

「駄目だ。こいつら・・・・・・」

人類の未来は明るくないのかもしれない。


第3話 必殺技


「フ・・・・出撃」

「出撃!?零号機はさっき・・・・・まさか、初号機を使うつもりですか!?」

ゲンドウの命令を聞いたミサトが、ガバッとゲンドウを見上げ聞き返した。

「他に道はないわ」

「ちょっと!レイはもう戦えないでしょ!?パイロットがいないわよ!」

「さっき届いたわ」

「マジなの?」

三文芝居だと思いながらも、とりあえず最後まで見てみようとシンジは黙っていた。

「碇シンジ君」

「はい?」

「あなたが乗るのよ」

「は?」

リツコのストレ−トすぎる言い草に目を丸くした、せめて理由を説明してから搭乗うんぬんを言ってくれ。

「でも、綾波レイでさえEVAとシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょ!?今来たばかりの、この子には、とうてい無理よ!」

「座っていればいいわ。それ以上は望みません」

「しかし」

「今は使徒迎撃が最優先事項です。その為には誰であれ、EVAとわずかでもシンクロ可能な人間を乗せるしか方法はないわ」

ミサトの反論を論理的に封じているようだが、肝心のシンジには説明の『せ』の文字もない。

「わかっているはずよ、葛城一尉」

「そうね」

プライベ−トではファ−ストネ−ムで呼び合う二人が、ファミリ−ネ−ムに階級を付ける時は、私情と仕事を区別した時である。

「・・・・・一応、聞きますが拒否権はあるのですか?」

シンジは投げやりにゲンドウに訊いた。

「お前の考えている通りだ」

「考えている、――って、答えになってませんよ」

シンジのゲンドウに対する評価が『礼儀しらず』から『聞く耳持たず』に変わった。

「お前でなければ無理なのだ。お前がやらなければ、人類は滅亡することになる。乗るのなら早くしろ。そうでなければ・・・・帰れ!」

相変わらず説明不十分なうえに、この発言。温厚なシンジだが、いい加減つきあうのが馬鹿らしくなってきた。


チュド―――ン!!!

ジオフロントに作られたNerv本部が爆発の衝撃で揺れる。地上でロンド・ベル隊によってダメ−ジを与えられ、一時的行動不能だった第3使徒サキエルだが、身体の再生が終わり。攻撃を再開してきた。

「シンジ君、時間がないわ」

赤木リツコが叫ぶ。が、結局説明はなかった。

「乗りなさい」

シンジが乗る事に反対していたミサトは舌の根が渇かない内に、あっさりと手の平を返した。

「シンジ君、何のためにここに来たの?駄目よ、逃げちゃ!お父さんから・・・何より自分から」

「逃げる?いくらなんでも人聞きが悪いじゃないですか?それよりも説明を・・・・」

チュド―――ン!!!

流派東方不敗は意味もなく敵に背を向けない。シンジにとってミサトの言葉は侮辱に値した。
ミサトに何か言ってやろうとした時、サキエルの攻撃による本部施設がグラグラと揺れた。先程よりも攻撃が近づいている。

「レイを起こせ。もう一度出撃させる」

結局、シンジの意見を何一つ聞かないままゲンドウがリツコに命令する。

「初号機のシステムをレイに書き直して!起動準備!」

タンカ−に乗せられてケイジに来たのは、シンジと同年代の女の子。
透けるような白い肌と、色素の薄い水色の髪をした美少女だ。
着飾って街角に立てば、ナンパ男をグロス単位で釣れる容姿だが、痛々しく巻かれた血の滲んだ包帯が、それ等を全て台無しにしていた。

「レイ」

「はい」

「予備が使えなくなった。もう一度だ」

「・・・・はい」

本気か?あの子どう見ても重傷だ。あんなコンディションで戦ったら十中八、九死ぬぞ!?
シンジのゲンドウに対する評価が『聞く耳持たず』から『酷い奴』に変わった。

「く・・・ううっ・・・・はあぅ・・・・・はあっ」

レイが移動用タンカ−から降りようとするが痛みの為、思うように身体が動かない。苦痛の声が漏れるのを無理矢理押さえ込んでいる。

チュド―――ン!!!

「危ない!」

作業途中で置いてあった鉄骨を纏めていたワイヤ−ロ−プが衝撃で外れレイの居る方角へ倒れた。
シンジは考えるより速く、左腕に巻いた包帯を解き、誰よりも俊敏に動く。
右手に持ちかえた包帯に氣を籠める。瞬間、柔らかな包帯は鋼鉄よりも固く、刃物より鋭い武器へと変わる。
レイの所へ一足で飛ぶ。20メ−トルはあろう距離をコンマ2秒で埋めた。
包帯を振るう腕があまりの速さで霞みの如く消えて見える。常人には認識不可能な動きで倒れてきた鉄骨を斬る。斬る。斬る。
空中で斬られ小さくなった鉄骨を、氣の調整で剣から棒へと変えた包帯で叩き落そうとした。
今の鉄骨の重さなら問題なく吹き飛ばせる。と、その時だった。

ザッバ――ン

シンジの第2行動より先に、赤いプ−ルに浸かっている初号機が、右腕の拘束具を引きちぎり、小さくなった鉄骨全てを払いのけた

「まさか・・・ありえないわ!エントリ−プラグも挿入していないのよ!動くはずないわ!」

リツコにはシンジが何をしたのか見えなかったが、EVA初号機の動きは目にはっきりと焼きついた。

「インタ−フェイスもないのに反応している?と、いうより、守ったの?彼を・・・・」

軍事訓練を受けたミサトさえもシンジの動きに目がついて行かなかった。普段なら驚きのあまりシンジに詰め寄っていたろうが、それ以上に初号機が動いたのに仰天した。

「―――イケる!」

ミサトが1人確信した中、シンジはレイに駆け寄った。
思った以上に酷い。レイの上半身を支えながらギリと奥歯を噛み締める。
支えた両手にヌルっと赤い血がべっとりと付く。塞いだ傷口が今のショックで開いたのだ。
一刻も早く治療しなければ、このままでは本当に、この子は死ぬ。

「この子を急いで医者に見せるんだ」

「駄目だ。お前が乗らない以上、レイが出撃せねば人類が滅びる」

人類が滅びる?大きく出たものだ。
人類滅亡。たしかに大変だ。それが事実ならば。
ここNervに来てからシンジへの大人達の態度は、はっきりと言って無礼千万。シンジを子供と思い侮っている。
シンジ自身は来る気は無かったが、恩義のある兄弟子と、その恋人の薦めで渋々ながら来てみれば、サードチルドレンと聞いた事もない記号で呼ばれ。
頭ごなしに、今日あったばかりの縁も所縁もない人間に命令される。

少しでも想像力を働かせてみよう。
常識や知性を具えている人間へ、勝手な渾名をつけ、身も知らぬ他人が理不尽な命令をしたとしても聞く筈がない。
聞く道理も理由もないのだから。

「本気?本気で言ってる?このまま、この子を出せば死ぬよ?それでも、この子を戦場に出すと言うの?」

急ピッチで作業にあたっている整備員の何人かは、シンジの言葉に暗い影を落とし、顔を俯かせる。どんな大儀名分があろうと自分の半分も生きていない子供を、戦場に送り出そうとする現実は変らない。

「出す。どの道、エウ゛ァを出さなければ使徒によって人の歴史は終わりつげる。レイは、ソレを防ぐ為に生きている」

ゲンドウの言葉にシンジは殺意が籠もった目で睨んだ。
気の弱い人間なら、気絶する程の力が込められた視線を受けながらもゲンドウは表情をかえない。

「・・・・・・・・僕が乗る。僕が乗るから、この子に治療をうけさせろ!」

最低だ。茶番なうえ出来レ−スとは。
僕が代わりに乗ると見越して、重体のレイを運んできた。
レイが負っている傷はヤラセじゃない。身体を支えた時にはっきりと分かった。
助けれるだけの力を持っている。それに目の前で、死の淵に立っている人を見捨てるような人間には僕はなれない。

「そうか。ならば早く乗れ」

ゲンドウは計画通りにいったことで、口の端を歪ませた笑いを無言でとる。
それに気付いたシンジは戻ってきたら、このグラサン鬚男をボコしてやると心に誓った。


第3使徒サキエルの再生が終わった頃、ロンド・ベル隊でも各機の補給と整備が終了していた。
使徒の活動を確認したが、各パイロットは其々のコクピットで戦闘待機。
今のままでは、前回の戦闘と同じで、ある程度ダメ−ジを与えた頃に此方の弾薬・ENに限界が来るのを目に見えている。そうなれば泥沼な消耗戦。
少しでも、使徒という敵の情報を集めたいが第2新東京を執拗に攻撃するサキエルをそのままにしておけない。
判断に悩む中、自分達とは関係のない所で動きがあった。

「おい、何か出てくるぞ?」

マジンガ−Zのパイロット、兜甲児が異変に気付いた。


リツコから簡単なレクチャ−を受けエントリ−プラグに搭乗したシンジ。
MSの操縦系統とは全く違う、エウ゛ァと搭乗者のシンクロシステムで動く機体に、慣れ親しんだモビルトレ−スシステムと似ている所があると考えていた。
コクピットを満たすLCLが血の味なのが、いただけない。
各オペレ−タ−や整備員達がせわしなく動く。各部チェク、冷却水排水、主電源接続と次々と作業を進める。
初号機のカタパルトが射出口まで移動する。発進準備が整った。

「碇司令かまいませんね」

シンクロ率、ハ−モニクスを共にクリアしたシンジに期待の籠もった目を向けたミサトが、司令官席で両手を組んで動かさないゲンドウに最終確認した。

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」

ミサトは肯いて、シンジが映し出されているサブモニタ−に顔を向けた。

「いいわね、シンジ君」

「――はい」

「発進!」

ミサトの命令と同時に初号機が地上へと打ち上げられる。遊園地のフリ−フォ−ルを逆さにしたようなGを感じる。
第2新東京の道路の一部が開き、初号機が地上へと出た。

「最終安全装置、解除!エウ゛ァンゲリオン初号機、リフト・オフ!」

初号機の拘束が解かれ自由になる。肩を背中越しに押さえられているような感覚がなくなった。


「あのロボットはNervの所属機か?ト−レス照合しろ」

夜の闇に突然あらわれた紫の鎧を纏ったロボット、昼間の機体と比べて、色も形も違う。
ブライト=ノアが機体登録デ−タベ−スで知らべさせる。
友軍機の信号を出していないので迂闊に近づく訳もいかない。

「ブ、ブライト艦長。S−111が発動されました」

機体照合作業が終わらない内に、Nervからロンド・ベル隊に連邦軍特別権限命令S−111で退却命令が出た。
最重要・最優先命令の効力を持つS−111。軍内部でも発令権を持っているのは、ごく一部の将官に限られる。

「なに!?Nervは単独で使徒と戦うつもりか?」

ロンド・ベル隊が持つ第13独立外部部隊の権限を持ってしてもS−111には従わなければならない。
逆らえば反逆罪で極刑。援護行為すらS−111が発令している間は行えない。


「シンジ君、今は歩くことだけ考えて」

「は?あ、歩く?」

戦場に出されて初めての言葉が『歩く』とは流石に思いも由らなかった。
もしかして欠陥兵器に乗せられたのか?
起動確立がオ−ナインって言っていたし・・・・
――いけない!戦場で気を散らしたら死ぬ。とにかく歩かせてみよう。
初号機がシンジの意思に従って歩みだす。すると

「歩いた!」

赤木リツコが伊吹マヤにデ−タ回収を怠らないよう命じながら歓喜の声をあげた。
発令所の所属職員達も「おおっ〜」と驚嘆している。

「・・・・もしかして、この機体。歩いた事もなかったのですか!?」

発令所のメンバ−のあまりの驚きように、シンジは愕然とし、身体の力が抜けるような脱力感を味わった。

「シンジ君・・・・・落ち着いて、敵の動きを良く見るのよ!それから、EVAには電源ビルからアンビリカルケ−ブルが接続されているから、移動が制限されるわ」

行動範囲に限界がある?そんな大事な事は出撃前にちゃんと説明してほしかった。

「・・・・・わかりました。それよりも武器を出してください」

文句を百ダ−ス程、叩きつけてやりたかったが、いまは目の前に居るサキエルの相手が先だ。
怒りたくなる感情を抑えながら、シンジはレクチャ−で聞いたパレットライフルを早急に用意してくれと頼んだ。

「ごめんなさいシンジ君。エウ゛ァ用の武器は今のNervには無いのよ」

「な、無い?どういう事ですか!?」

シンジにレクチャ−した時に話したパレットライフルは組み立て途中。プログレッシブ・ナイフやEVA専用拳銃は昼間の零号機の戦闘で使用不能になっている。
今の初号機の戦闘方法は『格闘』。無手による白兵戦しか攻撃手段がないことになる。
ミサトが接近戦にもちこめとシンジに指示する。
遠距離用の武器が無い以上、その選択は間違っていないが援護もなく使徒に近接するのは困難だ。

「じゃあ、支援攻撃して下さい。突っ込みます」

少しでも注意が反れれば、其れだけ近づくのが有利になる。

「碇司令。ロンド・ベル隊に援護要請を」

城塞都市の名を持つ第2新東京市だが、いまの武装稼働率が2割を切っており、使徒と初号機が居るエリアには可動可能兵器がない
ミサトは昼間の戦闘で使徒にダメ−ジを与えたス−パ−ロボットなら充分戦えると判断し、ゲンドウに援護要請を申請した。

「駄目だ。承認はできない」

この鬚男が殺してやろうか?
シンジは肩を震わせながら静かに怒る。
アホな手紙での呼び出し。会ったら会ったらで礼儀をしらない無礼な応対。綾波レイを使った脅迫紛いの三文芝居。そのうえ戦場にでたシンジに言った最初のセリフが歩いて。
そのうえ武器もないときてる・・・・・
Nervという組織が、本当に人類を護る気があるのか疑った。

「っ痛!!!」

動きを止めた初号機にサキエルが攻撃してきた。真正面、約800メ−トル先からのエネルギ−光線。
カンが働き無意識にサキエルからの攻撃に反応した。
初号機の上半身をずらし、掠りはしたがクリ−ンヒットは免れた。背後のビルに大穴が空いている。
胸の装甲版が掠っただけで融解し素体にも熱が伝わった。シンジの胸に重度の火傷を受けたような鈍い痛みが走る。

「痛い。・・・・・フィ−ドバック。これがシンクロシステムか。ちっ!なんてパイロットに優しくないんだよ!」

モビルファイタ−の操縦システム『モビルトレ−スシステム』にも、ある程度のフィードバック機能が搭載されている。
痛みとは身体の異常を知らせる警告である。
無痛病の人間は、血がでているのに気付かず出血多量で死ぬ。骨が折れ動けないのに、気付かず動いて内臓を傷付けて死ぬ。

モビルトレ−スシステムにフィードバック機能が搭載されているのは、五体を主として戦うモビルファイタ−の状態を、パイロットの身体でダイレクトに知らせる為である。
もちろん痛みのリッミタ−は付いており、過剰な痛みはカットされる。
だが、初号機が受けた痛みは、カットされることなくシンジを襲う。

光のパイルを撃ち終わった体勢から、サキエルは空中を滑るかのようなジャンプで初号機へ一気に詰め寄った。
サキエルの動きは分かっていたが、初号機が思ったように動かない。
乗っているのが初号機ではなく愛機ネオシャイニングガンダムならサキエルの動きに合わせてカウンタ−を完璧にきめれたのだが、初号機ではタックルしてくるサキエルを間一髪で躱しバランスが崩れた状態からの攻撃が精一杯だ。

「裏拳!」

それでも抜け目なく敵にバックブロ−を喰らわせようと放つ。サキエルは攻撃直後で躱せないとシンジは確信した。

「なっ!赤い壁?僕の攻撃が止められた!?」

防ぎようのないタイミングで放った初号機の裏拳が、サキエルの前に展開した八方形の盾によって完全に止められた。

「シンジ君!使徒にはATフィールドと言う特殊なバリアがあるの。ATフィールドの前には通常の攻撃じゃ歯がたたないわ」

またしても聞いていない敵の特殊能力。分かっているなら、どうして事前に教えてくれない?
敵の能力を知っているのと、知っていないのでは戦い方がまったく違ってくる
目の前の敵よりNervの面々に殺意が向きそうだ。

「どうやって破ればいいんですか?」

泣き言は戦闘後に洩らせばいい。とにかく今は対峙している敵を倒すしか道がない。

「エウ゛ァゲリオンにもATフィールドを展開する能力が備わっているわ。ATフィールドはATフィ−ルドによって中和する事が可能よ」

「そのATフィ−ルドは、どうやって展開させるんですか?」

「ごめんなさい。理論は完成してけど実験では成功したことがないので分からないのよ」

リツコの言葉にシンジは目の前が暗くなった。命を賭けた戦いに必要なのは、完成されているが使えない理論よりも、未完成でも何とか使える武器だ。

「シンジ君!危ない!」

「えっ?」

戦いの場でありながらシンジは致命的なミスを犯した。いくら外野に呆れ果てたとはいえ、目の前の敵から意識をそらしたのだ。
サキエルが初号機の頭部を右手で掴むと同時に零距離から光のパイルを撃ちこんだ。

ブッシュ――――――

角がついた兜に見える初号機の頭部を光のパイルが貫通する。初号機の頭部から、おびただしい血が滝のように流れ出る。

「うわぁああああああああ――――――――!!!」

シンジの頭部にも同等の痛みが伝わってくる。ヤスリで脳を直接けずられるかのような痛み。激痛のあまり絶叫した。


「ブライトさん!出させてくれ!あのままじゃ、あのロボットが殺られちまう」

S−111で出撃できなくなったロンド・ベル隊は、いぜん戦闘待機のままで初号機とサキエルの戦いをモニタ−していた。
各機にも使徒の能力を見せる為に回線を開いていたが、初号機のピンチに甲児が出撃させてくれと大声で叫んだ。

「おい、甲児。S−111が出てるんだぜ。今、出撃したら。どんな理由があろうと反逆罪でコレもんだ」

ガンダムデスサイズのパイロット、デュオ=マックスウェルがマジンガ−Zとの映像回線を繫ぎ、首を親指で掻っ切るポ−ズを見せた。

「そんなもん知ったことか!反逆罪?今にも殺されそうな奴が目の前に居るっていうのに、指をくわえて見てろって言うのかよ!!!」

甲児は両手を強く握り、コクピットに悔しさを叩きつける。 

「ブライト。S−111の撤回命令は出てないのか?」

アムロがNervからの援助要請がないのかブライトに訊く。

「まだだ、それ所か、こちらからの通信にも応じようとしない」

いくらなんでもおかしい。昼間の戦闘で俺達が使徒にダメ−ジを与えた事はNervも知っているだろう。あの紫色のロボット一機で戦わせるより、俺達に援助要請して戦った方が有利なる事くらい分かっている筈だ。
ティタ−ンズのトップ。ジャミトフでさえS−111の発令権は持っていない。
Nervの権限を使えば、いかようにもロンド・ベル隊を動かせるのにNervは動かそうとしない。
使徒の情報を外部に洩らしたくないのか?それとも別の理由が・・・・?

「う〜〜!もう我慢ならねえ。ブライトさん。ハッチを開けてくれ。俺はアイツを助けにいくぞ」

アムロの考えを妨げる雄叫びを甲児は上げた。

「へっ!おもしれぇ−じぁねえか。命令違反は獣戦機隊の十八番だ。甲児!俺もいくぜ」

藤原忍が甲児に賛同してイ−グルファイタ−のエンジンに火をいれる。

「忍!なにふざけてるの!S−111だよ。いつもの命令違反とは訳が違うよ」

「そのとおりだ。他の命令ならともかくS−111で出された命令に背く事が、どれだけ重罪か軍人のオマエなら理解しているだろ。冷静になれ」

同じ獣戦機隊の仲間である結城沙羅と司馬亮から非難の声を浴びせられた。

「ちょっと待って、何か来る。とても強い力。あのロボットを助けようと・・・・」

グルンガスト弐式がマジンガ−Zの腕を掴み止めようとする。
クスハ=ミズハが直感としか他者に説明できないが、味方がくるという。
甲児もクスハの感のよさを知っているだけに、マジンガ−Zの動きを止め外部モニタ−に目を移した。


初号機の頭部を掴んだままのサキエルが、2発目の光のパイルを撃ち込もうとした瞬間、上空から一人の男が降ってきた。

「覇っ!!!」

薄紫の武道着に顔を隠すフ−ドを被った男が、裂帛の気合と共にサキエルの右腕を切り裂いた。
攻撃する瞬間だったのでサキエルのATフィ−ルドの展開も間に合わない。
肘の先から切り落とされた腕が、ゴトンと音をたてて地面に落ちる。
頭にかかる痛みを、なんとか抑えたシンジはサキエルの腕を切り裂いた男に、目を奪われた。

「この馬鹿弟子が!!!」

地面に降り立った男は、ジャンプひとつで30階建てのビルの屋上へ飛び上がり、初号機を見下ろし怒鳴った。

「おまえの力は、その程度か!ワシを止めよとした時の力はどうした!」

「し、師匠!?」

震える声で自分を助けてくれた人物の呼び名を呟く。
外部集音マイクが拾った声はデビルガンダム事件後、姿を消した師匠の声に間違いない。 

「戦いの場で惚けるでない!それでも失われし紋章。シャッフル・ルーン・ブランクを宿し者か!」

瞬間的に右手の甲を見る。そこにはシャッフル同盟6番目の紋章。
歴史の影から戦いを支配してきた5つの紋章とは違う役割を持ったロスト・エンブレムがシンジの意思に呼応して輝いている。
シャッフル・ル−ン・ブランク・・・・光と闇を司る紋章。
一年前のあの事件の時、DG細胞に侵された赤毛の幼馴染を救う為に、魂をかけた試練の末に手にいれた、歴史の狭間に消えていた紋章。

「あの試練に打ち勝った時のオマエはどうした!その機体からは命の鼓動を感じる。ならばオマエのアレが使えるだろうが!」

そうだリツコさんが言っていた。エウ゛ァは機械ではない。人造人間と・・・・生きているなら氣が体内を循環する。
シンジは「ロボット」=「機械」と無意識に思っていたので思いつかなかった。だが、師の言葉を信じ今までしなかったエウ゛ァの氣を探った。

――感じる!だが、なんて荒々しい氣だ。暴風を無理やり小さな容器に押し詰めたら、こんなふうになるのか?
けれど優しい感じも受ける。なんだ、この感触は?昔どこかで同じ物を感じたような・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・母さん?

ウゥオオオオオ――――――――――ン!!!
 

乱抗歯が並ぶ口を大きく開き、初号機が咆哮した。


「回路拒絶。エ、エウ゛ァ初号機のシンクロ率が上昇していきます。50・・・55・・・60・・・65・・・」

モニタ−に表示だされる初号機のデ−タ値が急激に変わっていく。伊吹マヤは涙目でリツコにどうすればいいのかと顔を向けた。

「そのままシンクロ率のデ−タを取りなさい。青葉君はハーモニクス値の変化デ−タを、日向君は通信回路の復旧を急いで」

「リツコ!一体初号機になにがおきたの?もしかして暴走?」

ミサトの脳裡に零号機起動実験で起きた出来事が思い出される。
あの時の零号機は、狂った古の巨人が世界に憎悪をぶつけ、ありとあらゆるモノを滅ぼそうとする破壊の権化の様に見えた。

初号機がサキエルの攻撃で頭部を貫いた時、初号機の脱出装置でシンジを逃がそうと考えたが、ゲンドウは首を縦に振らなかった。
サキエルが2発目の光のパイルを撃とうした時、もう駄目かと覚悟した。
そして信じられないものを見た。なんと生身の人間が使徒の腕を切り落としたのだ。
発令所に居る人間全員が口を大きく開き、マネケな表情を見せていた。
例外は司令席に肘をついたままゲンドウポ−ズをきめている司令官と副指令だけだ。

「・・・・東方不敗マスタ−アジア」とゲンドウが洩らした言葉に気付く人間は、発令所にはいなかった。


「どういう事だ?身体が軽い。まるで羽のようだ」

今までに無い躍動感にシンジは驚く。
初期シンクロ値は41.5%だったのが89.4%まで上がっていた。
先程まで全身に重りをつけ、水中にいたような感じが嘘のようだ。
右腕を切り落とされたサキエルが、恨みをはらさんと無事な左腕を東方不敗に振り下ろした。

「やめろ!」

鈍重な亀だった初号機が、見違える程なめらかに動く。同一機とは到底信じられないスピ−ドでサキエルを殴る。
サキエルのATフィ−ルドが展開される。初号機の攻撃を今まで防いできた赤き盾だ。
ガゴンと初号機の拳とATフィ−ルドが衝突し、にぶい音をたてる。
衝突力でサキエルと初号機が、互いに後ろに吹き飛んだ。
バランスを失いかけた初号機が、軽業師のように空中で体勢を立て直し、両足が着地するなり膝のバネを限界まで溜める。瞬きした次の瞬間、溜めたバネを運動エネルギ−に全部かえて、体勢が崩れてるサキエルに突貫した。

――思うように動く!今ならアレが使える。なら、これで決める!

ウォォォオォォン―――――

走りながら初号機が咆哮する。右手を眼前に持ってくるなり、シンジはエントリ−プラグの中で、魔法使いが呪文を唱えるように、自分自身を奮い立たせるキ−ワ−ドを叫ぶ。

「僕のこの手に紫電が疾り」

発令所に居る人間は、後にこの時、聞いた啖呵は勝利への決めゼリフだったと言う。


「全てを貫く雷光やどる」

シンジの右手に宿るシャッフル・ル−ン・ブランクの輝きを増す。
初号機の右手にも変化が起きる。ATフィ−ルドが紫の雷へと性質を変えていく。
莫大なエネルギ−が右手に集まる。あまりにも膨大な破壊力は右手の中に納まりきらず、バチバチと放電現象を起こす。
僅かに洩れる力でさえ、地方都市をまるごと数年間は支える電力を放っていた。

「喰らえ!必殺ライトニングフィィィィィンガァ――――――――!!!」

初号機の右手が、いかなるものも貫く絶対の槍となった。
サキエルのATフィ−ルド。無敵じゃないかと敵対したものに絶望を与えた赤き盾が紫電の槍の前に立ち塞がった。

シャアァァァ――――――・・・・・

紫電の槍によって、大気を断絶した音のみが聞こえる。
赤き盾が、濡れた薄紙より脆く紫電の槍に貫かれた。
紫電の槍が勢いのままサキエルの外層部を砕き貫通する。初号機の右手の中にサキエルのコアが握られている。
シャフル・ル−ン・ブランクが光り輝いた時、シンジは己のが前に立ち塞がる敵の弱点をなんとなく探れる。

「ブレィィィク!エンド!!!」

右手全体を覆っていた紫電が、内側の一点へ収束し爆発を起こす。フィニッシュアタックが完全に極まった。
コアが砕かれると同時に、サキエルが天にそびえる十字の爆発で弾け消滅した。


あとがき

マスタ−アジア参上!
使徒を生身で切り裂いたのは、ご都合主義のお約束。


レス返し

ななし様> あえて、そうしてません。純粋に間違えです。ご指摘ありがとうございました。

ミアフ様> とうぶんは、初号機のみです。

都道府県人様> うっかりミスっす。気をつけていたのに気付けなかった−!反正。 

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