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「これが私の生きる道!最終決戦編1 (ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-04-08 01:12/2006-04-11 23:44)
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(月プトレマイオス基地周辺宙域)

月プトレマイオス基地では宇宙艦艇発進ゲートか
ら多数の艦艇が発進していた。
その数は大西洋連邦所属艦隊のみで四個艦隊を数
え、その他にユーラシア連合と東アジア共和国の
合同艦隊とアズラエル理事が特別編成した通称ゼ
ロ艦隊を合わせると合計六個艦隊で搭載モビルス
ーツが1400機とMAが400機であり、これ
を見た多くの人が現代に蘇った無敵艦隊だと噂す
るのであった。

 「これで負けたらバカですよね」

総旗艦「ワシントン」の提督席を占拠したアズラ
エル理事は一人心地であった。

 「作戦といたしましては、大軍に小細工は無用
  との過去の戦訓を生かしまして、敵の三個艦
  隊に戦力を三つに分けてぶつけます。敵右翼
  の艦隊には第七艦隊とユーラシア連合・東ア
  ジア共和国艦隊をぶつけ、中央には我々第五
  ・第六艦隊をぶつけます。そして、左翼の艦
  隊には最強の第八艦隊とゼロ艦隊をぶつけま
  す」

 「サザーランド准将の作戦案は良くわかりまし
  たが、単純に戦力をぶつけて消耗するだけで
  は勝てないのではありませんか?」

 「この作戦の要は第八艦隊とゼロ艦隊で、最強
  の戦力を持つ彼らに活躍して貰います。まず
  、第七艦隊とユーラシア連合・東アジア共和
  国艦隊の任務は敵右翼艦隊の足止めと戦線の
  膠着化です。そして、我々の第五・第六艦隊
  も敵中央の主力艦隊を足止めして他所に目を
  向けさせない事です。最後に、第八艦隊とゼ
  ロ艦隊は敵左翼艦隊を速やかに撃破して敵中
  央艦隊を横合いから突き崩して貰います。こ
  れで、敵中央艦隊を挟撃して撃破した後、右
  翼艦隊も撃破して勝利を掴むわけです」

 「へーえ。そういう事ですか。ユーラシアと東
  アジアはあまり当てにしないで足止めに使っ
  て、最強の第八艦隊を反抗的なハルバートン
  と共に使い潰すわけですね?」

 「そういう事です」

東アジア共和国とプラントの秘密交渉の内容は、
全てアズラエル理事に筒抜けになっている上に、
ユーラシア連合の戦力温存策も見透かされていた
ので、全く信用されていなかったのだ。
それに、東アジア共和国としては出撃すらしたく
ないところであったが、月基地に間借りして補給
まで貰っている手前、断る事は不可能に近かった

 「最重要の第八艦隊にはプリンス准将にハッパ
  をかけさせますか。ジブリール君は何も言わ
  なくても頑張ると思いますし」

 「それがよろしいかと」

 「ところで、敵の左翼艦隊の指揮官って誰です
  か?」

 「ラウ・ル・クルーゼが指揮を執っています。
  それに、彼の下には硫黄島とオーブで邪魔を
  してくれたカザマ隊長が分艦隊司令として布
  陣しているようです」

 「ああ、あの若造ですか。どうせ、クルーゼ共  
  々ゼロ艦隊のクローン兵に殺されて終わりで
  すよ。宇宙の化物に相応しい最後です」

クルーゼの秘密を知っているアズラエル理事は蔑
んだような顔をしながら彼らの最後を予言した。

 「宇宙はこれで大丈夫ですね。地球上でのけん
  制作戦はどうなっていますか?」

 「パールハーバーは指示通り動かしていません
  。次に、極東は日本が単独で樺太攻略作戦を
  実施するようです。その他には、東アジア共
  和国の構成国である統一朝鮮国が日本領の対
  馬の占領を企てているので、日本・台湾・ザ
  フトの共同作戦で撃破するつもりのようです
  」

 「東アジア共和国は内乱鎮定で忙しいから、プ
  ラントと裏取引をして戦闘を抑えているので
  はありませんか?」

 「統一朝鮮国の独自の判断だそうで」

 「呆れましたね。東アジア共和国には構成国の
  抜け駆けを抑える能力も無いのですね」

 「好都合ではありませんか。戦後、日本が抑え
  た地域と東アジア共和国が持て余している国
  を大西洋連邦が併合するチャンスが生まれた 
  わけですから」

 「それで、他の地域はどうですか?」

 「インド洋はインド洋艦隊の再建が終了してい
  ない為、けん制が主任務になりますので、大
  きな戦闘は起こらないものと考えています。
  ジブラルタルはユーラシア連合が奪還作戦を
  単独で行う事になっていますので、我々は手
  を貸しません。ジブラルタル所属の潜水艦隊
  もユーラシア連合の大西洋艦隊と激突する事
  が予想されますので、我々の大西洋艦隊のア
  フリカ上陸作戦の支援はほとんど無傷で行え
  ると思います」

 「ユーラシア連合はご苦労様ですね。樺太を失
  い、アフリカの利権も我々に横取りされて、
  ジブラルタルも奪還出来ないわけですか」

 「我々の戦力だけでアフリカを落とせますか?
  」

 「戦力を温存して一部でも占領に成功すればい
  いのです。プラント同盟国とオーブには傀儡
  政権を樹立させて、彼らに大西洋連邦への加
  盟を決めさせればいいのですから」

 「戦力で占領するのでは無くて、政治力と経済
  力で支配するのですか」

 「ええ、面倒くさい政治は地元出身の我々の紐
  付きの政治家にやらせて、経済的な恩恵のみ
  を享受する。これが一番です」

 「それは結構ですな」

 「ええ、楽なのが一番です。では、出発しまし
  ょう」

地球連合の無敵艦隊はプラント本国を目指して出
撃して行った。


(第八艦隊旗艦「メラネオス」ブリッジ内)

艦隊出撃後、アズラエル理事の命令を受けたプリ
ンス准将は「メラネオス」に乗船して、ハルバー
トン中将に指示を伝えた。

 「以上が作戦案です。お間違えの無きようにお
  願いします。何かご不満な点はございません
  か?」

 「いや、特に無いな。大軍に複雑な作戦を取ら
  せると混乱の元だしな」

 「我々が作戦の要です。成功すればアズラエル
  理事の覚えも目出度いですよ」

 「私がアズラエル理事に好かれるなんて不可能
  だと思うのだが」

 「どうしてですか?」

 「私はあいつが大嫌いだからだ。当然、その腰
  巾着の君の事も大嫌いでね。一方が嫌ってい
  るのにもう一方が好意を寄せるわけがないで
  はないか」

 「はっきりとおっしゃいますな」

 「日頃は腰巾着ばかりで刺激に乏しいのだろう
  。私からの温情だよ」

 「戦争終了後もその発言が出来ればよろしいで
  すな」

 「出来るさ。アズラエル理事は私達をこの決戦
  で使い潰す腹であろうが、そう簡単に潰され
  てたまるものか。しぶとく生き残って軍内部
  で非主流派を貫かせて貰う」

 「そこまで仰るのなら何もいう事はありません
  な。では」

プリンス准将はドミニオンに帰っていった。

 「彼は随分と大人しくなったな。昔ならアズラ
  エル理事に報告するだとか、大騒ぎしていた
  だろうに」

 「一応将官ですからね。多少の分別をわきまえ
  る様になったのでしょう。それとも、本性が
  現れてきたのかも知れません」

隣りにいたコープマン少将が自分の意見を述べた

 「実は優秀で冷静な士官だったなんて、漫画の
  ような話か?」

 「いいえ、彼は軍人としては無能に近い男です
  。ですが、組織人としての自己保存の能力は
  かなりのものと思われます。そんな彼がアズ
  ラエル理事だけに忠勤するでしょうか?」

 「状況いかんでは裏切る可能性が高いか。だが
  、現時点ではアズラエル派のトップ5に入る
  彼も責任は逃れられまい」

 「彼は少佐時代に贈収賄の罪を部下に擦り付け
  て自殺させたと、同期の友人から聞いた事が
  あります。私が彼を生理的に好かない理由は
  そこにあるのです」

 「そうか。現時点で罪を擦り付ける部下といえ
  ばラミアス大佐か・・・。彼女も可哀想に。
  私と懇意にしているとプリンスに睨まれると
  思って、突き放した事が裏目に出てしまうと
  は・・・」

 「万が一の時は守ってあげないといけませんな
  」

 「私の可愛い教え子だからな」

 「美人ですしね」

 「それは否定しないな。男はみんな美人が大好
  きだ」

 「私も大好きですよ」

開戦から一年以上の時を一緒に過ごしたこのコン
ビの息はぴったりと合っているようであった。 


(同時刻、「ピースメーカ供彜脇癲

アズラエル理事が新設したゼロ艦隊の戦力はネル
ソン級戦艦やドレイク級護衛艦など連合軍の通常
の艦隊と大差は無かったが、旗艦だけは大分特殊
な艦艇を使っていた。
この艦の名前は「ピースメーカー供廚覗環垢錬
00メートルを超え、艦前方に巨大なビーム砲を
装備していた。

 「戦艦というよりは、巨大な砲艦ですな。この
  デカブツ一門の為に、他の主砲は一切無しで
  対空・モビルスーツ用の小火器しか装備して
  いませんからな」

艦長のイアン中佐が半分あきれながらこの艦の評
価をする。

 「プロの軍人であるイアン中佐には巨艦巨砲主
  義の末路のような艦に見えるかもしれないが
  、要は使い方だ。他は全て通常艦艇なのだか
  ら、一隻くらい奇艦があってもそれほど問題
  にはなるまい」

ジブリール中将待遇がイアン中佐を宥めるように
自分の意見を述べた。

 「この艦隊の真の主力はモビルスーツ隊ですか
  らな」

 「あれがこれからの新しい戦争の主力になるだ
  ろう。生身とはいえ、生体兵器扱いのクロー
  ン兵士が何人死のうと誰も悲しまないで済む
  し、将来のある若い人材を無駄死にさせない
  で済む。誰も傷つかない効率的な戦争システ
  ムだ。これからの戦争は購入したクローン兵
  士を戦わせてそれが無くなった方が負けとい
  うルールでやればいいのだ。君達プロの軍人
  は彼らを後方で訓練してから、前線に送り出
  して指示を出す。我々はクローンを生産して
  利益を出す。死の商人の介在しない実に綺麗
  な戦争方法だ」

ジブリールは自慢げに持論を語るが、イアン中佐
は賛同する気にはならなかった。
そんな戦争方法で納得するのなら、初めから戦争
は起こらないだろうと考えているからだ。
それに、人は犠牲を出して心に痛みを覚えるから
戦争を止めようとするのだ。
このシステムでは際限なく戦争が続いてしまうか
も知れないし、彼らが躊躇する事無く市街地を破
壊したり大量破壊兵器を使用したら、被害は余計
大きくなってしまう。
そして、そんな物を取り扱っているジブリールが
死の商人であることは間違い無いと思っているの
だが、それを口に出せるほどイアン中佐に度胸は
無かった。 

 「核動力機の配備が二機だけというのは不満だ
  が、高性能機が100機以上集中して配備さ
  れているからな。本当はクローン兵士を核動
  力機に搭乗させて敵の真ん中で自爆させれば
  労無く敵を倒せるのだが」

 「それをしますと、プラントから確実に報復を
  受けます。向こうにも大量の核兵器の配備が
  確認されていますから」

 「数はこちらの方が上だろう?」

 「地球連合には世界を100回ほど全滅させら
  れる核兵器が配備されています。ですが、プ
  ラントにも10回ほど世界を全滅させられる
  核兵器の配備が確認されているそうです。お
  互いに撃ち合えば世界は滅亡しますな」

 「まあ、普通に戦えば勝てるだろうから問題は
  あるまい」

 「ええ」

 「(ここで大勝利してイニシアブチを掴めばア
  ズラエルを引きずり落とす材料が一つ増える
  な。精々派手にやらせて貰うさ)」

ジブリールの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。


(9月20日午後7時、ザフト・同盟国艦隊総旗
 艦「ゴンドワナ」艦橋内)

作戦に参加する全艦艇が終結を完了し、各艦隊と
同盟国軍艦隊の指揮官が集合して、最後の作戦会
議を「ゴンドワナ」の作戦室で執り行っていた。

 「以上で作戦説明を終わります。何か質問は?
  」

作戦参謀の説明が終了してから、総司令のユウキ
司令官が質問の有無を聞いた。

 「一つよろしいかな?」

自衛隊第一護衛艦隊司令官の小沢海将が手を上げ
た。
実は自衛隊には宇宙軍が存在しておらず、宇宙用
艦艇と搭載機は海自の管轄で、コロニー内部の基
地航空隊と拠点防衛用のMA隊とモビルスーツ隊
は空自の管轄。そして、歩兵や戦車は何処にあっ
ても陸自の管轄と多少やっかいな編成になってい
た。

 「我々がぶつかる予定の第八艦隊のデータは我
  々もそれなりに持っているのだが、もう一つ
  の通称ゼロ艦隊なる艦隊のデータをもう少し
  詳しく教えて欲しい」

 「ブルーコスモスの幹部であるジブリールが中
  将待遇で指揮官を務めている事ぐらいしかわ
  かっていないのが現状なのです」

 「よろしいでしょうか」

俺は手を上げて発言の許可を貰おうとする。

 「カザマ司令、何か知っているのか?」

 「ジブリール指揮の特殊な部隊なら過去に何度
  か対戦していますが、その時のデータが参考
  になるのなら」

 「是非、教えて欲しい」

 「その部隊には傭兵のコーディネーターや催眠
  処置を施した兵士、犯罪者に免罪を条件に薬
  物で身体機能を強化したりと手段を選ばずに
  強化したパイロットが多数所属していました
  。注意を要する部隊だと私は思います」

 「私は初耳だな」

 「私もだ」

ユウキ総司令を始め、多数の指揮官が初めて聞い
たような顔をしている。

 「報告書は上げていますが・・・」

 「おい!情報参謀、どうなっているんだ?」

ユウキ総司令は珍しく声を荒げながら隣りにいた
情報参謀に尋ねる。

 「いえ、数も少ない事ですし、報告する必要は
  無いものかと・・・」 

 「それを判断するのは君の職責ではない!情報
  部と連絡を取って情報を集めて来い!」

ユウキ総司令が参謀を怒鳴りつけると、彼は小走
りで作戦室を出ていった。 

 「急速に部隊を拡大したツケが出ているな。適
  正の無い者を参謀に任命してしまうとは。ザ
  フトが唯一連合に勝っている質の優位を脅か
  す事態なのに、参謀に危機感が無いのだから
  な」

 「うちもさほど変わりませんからな。バカ参謀
  が下らない机上の空論を振り回して現場を混
  乱させていますよ」

 「うちもです」

 「うちも・・・」

小沢海将を皮切りに同盟国の指揮官から同様の発
言が飛び出した。

 「平和な時代ならそれほど罪は無いのですが、
  戦時では犯罪に近い行為ですからな」

 「彼を待つのは時間の無駄です。情報は確実に
  送りますのでこれで解散にしましょう。最後
  の補給作業の監督もある事ですし」

 「了解しました」

作戦会議が終了して格納庫内の連絡艇に向かう途
中、俺は小沢海将に声を掛けられた。

 「カザマ司令、ありがとう」

 「いえ、私も現場の人間ですから」

 「俺の息子より若いのにしっかりしているのだ
  な」

 「そうですか?たまたまザフトが人手不足なだ
  けですよ」

 「まあ、そういう事にしておくか」

 「話は変わりますけど、大戦力ですね。同盟国
  では最大ですよ」

 「コロニーをそれなりに持っているのは日本と
  台湾くらいだからな」

今回の決戦で日本は「やまと」「むさし」「なが
と」「むつ」「いせ」「ひゅうが」の戦艦六隻と
MA兼モビルスーツ母艦が六隻が主力になってい
て、モビルスーツを約180機とMAを約120
機搭載していた。

 「ザフトの君達にこんな事を言うと誤解を受け
  るかも知れないが、我々は今回の戦争を日本
  躍進のチャンスと捉えているのだ。結局、力
  が無ければバカを見る。これがこの世界の現
  実だからな」

 「えらく現実的なお考えですね」

 「まあな。平和憲法を拡大解釈しての自立的生
  活圏の確保というのがこの戦争の定義だから
  な。東アジア共和国に参加する時にも憲法の
  解釈で軍隊では無いと自衛隊の解散を拒否し
  たのだ。このくらいの出兵では驚かんよ」

 「その拡大解釈が戦争の拡大を生まない事を祈
  りますよ」

 「太平洋戦争時と違って、戦略的な目標がある
  からそれは無いと思うよ。石原首相はバカで
  は無いのだから」

そんな話をしながら連絡艇に乗り込んで自分の艦
に帰り、タリアさんがいるブリッジに上がる。

 「タリアさん、補給作業の方はどうですか?」

 「あなたが心配するような事は無いわよ」

 「そうですか。では、交替で仮眠を取ってくだ
  さいね」

 「あなたもね」

 「ええ。俺はモビルスーツで指揮を執るので、
  艦隊の指揮をお願いします。作戦案はこの書
  類の通りです」

 「最初は奇策を使うのね」

 「失敗は無いと思いますが」

 「多分、大丈夫だと思うけど。心配なのは確か
  ね」

 「とにかく、お願いします。俺、ちょっと(ク
  サナギ)に出掛けてきます」

俺は「ジン検廚望茲辰董屮サナギ」の格納庫に
着艦した。
格納庫内ではモビルスーツの最終調整が行われて
いて、整備員達の喧騒に包まれていた。 

 「おーい、ガイはいるか?」

俺は格納庫の隅でブルーフレームを整備していた
ガイを見つける事に成功した。

 「何だ?カザマ司令」

 「お前は留守番だよな。カガリちゃんの護衛だ
  から」 

 「ああ、そうだ」

 「じゃあ、(暁)を操縦出来るか?」

 「大丈夫だ」

 「お前に預けるからそれに乗って、艦隊護衛の
  残存モビルスーツ隊の指揮を執れ。出来るだ
  ろう?」

 「それは、出来るが俺の仕事の依頼内容はカガ
  リ姫の護衛であって・・・」

 「こちらから追加で報酬を出す。どうやら、敵
  は俺達に例の実験部隊を多数ぶつけてくるら
  しい。そこで、俺達は全主力をもって早期に  
  撃破する事にした。よって、艦隊の護衛が手
  薄になるから、残っているお前が指揮を執る
  んだ。カガリちゃんが勢いで(暁)で出撃し
  たらブルーフレームでは抑えきれないだろう
  ?」

 「それは、そうだな」

 「カガリちゃんはモビルスーツで出撃させない
  。あの能力は発動条件が曖昧だし、オーブの
  姫君を戦死させるわけにはいかない。だから
  、お前に頼んでいる」

 「追加の報酬は誰が出すんだ?」

 「経費として認められればザフトが出すが、駄
  目なら俺のポケットマネーだ」

 「いくら出せるんだ?」

 「30万アースダラーだ。これで俺は文無しだ
  」

 「意外と持ってるな。お前」

 「投資で増やしたんだよ。俺の夢は小さい会社
  を経営する事だから」

 「引き受けてやるよ。お前が身銭を切る可能性
  が高いってところが面白い」

 「捻くれてやがるな。まあ、いい。頼んだぞ」

その後、俺はキサカさんとトダカさんにカガリの
抑え役をお願いしてから、ヴェサリウスに移動し
てクルーゼ司令と話をする事にした。

 「最低限の護衛のみを残して全力出撃かね?」

 「オーブで戦ったあの部隊が数倍規模で展開し
  ている上に、新型モビルスーツや新兵器があ
  ります。そして、第八艦隊にはドミニオンが
  いるのでフラガ少佐、レナ少佐もいます。我
  々が撃破されれば負ける可能性が高いので、
  早めに始末するに越した事はありません」

 「おいおい、艦隊の防衛を疎かにするのか?」

アデス艦長が文句を言ってきた。

 「モビルスーツ隊同士がぶつかり合って、艦隊
  戦オンリーだから大丈夫ですよ。もし、ピン
  チになったら中央艦隊に合流して共同で防衛
  すればいいのですから」

 「そうしたら、敵艦隊に防衛戦を突破されてし
  まうぞ」

 「後ろから追撃をかけて倒せば、事は有利に進
  むと思いますが。元々そういう作戦だったじ
  ゃありませんか」

 「逃がす可能性を否定出来ない。できればそれ
  はしたくないな」

オキタ副司令も慎重論を述べる。

 「ですが、オーブに出現したあの部隊を懐に入
  れてしまうと、艦隊がピンチになってしまい
  ます」

 「うーん、難しい所だな。クルーゼ司令はどう
  思います?」

アデス艦長がクルーゼ司令に意見を求める。

 「どうせ、我々は数が少ないのだ。第一派でな
  るべく多くの攻撃隊を出して敵を壊滅させな
  ければ数で押される運命にある。状況をユウ
  キ総司令に報告して援軍を送って貰える状況
  にしておかねばな」

 「援軍ですか?そんな余裕ありますかね」

 「あるといいな」

 「良いなってそんな・・・」

 「君の(ジン検砲装備している(パンドラの
  箱)だったかな?あれは元々連合の装備だ。
  あんな物を艦艇に撃たれたらたまらないから
  な」

 「そういえば、オーブでは十数機のレイダーの
  パイロットが空間認識能力者でしたね。あま
  り強くは無かったですが」

 「空間認識能力が低い者でも使える量子通信兵
  器を開発したのか?人工的に空間認識能力者
  を開発したのか?詳しくはわからないが」

 「それで、先制するわけですか?」

 「その通りだ。我々は先制して敵モビルスーツ
  隊に奇襲をかけて例の部隊のモビルスーツを
  一機でも多く減らす。そうしないと君の部隊
  の新人共では全滅してしまう危険があるから  
  な。オーブでの練達のパイロット達はほとん
  どが(ゴンドワナ)に所属していて君の所に
  はコーウェルくらいしかいないからな」

 「いきなり全力ですか」

 「向こうも全力で来るだろう。同数では我々の
  方が有利なのだから」 

 「後は補給のスピードと援軍の投入のタイミン
  グが勝負ですね」

 「そうだな。では、最終ミーティングはこれで
  終わりにする。カザマ君も仮眠を取っておき
  たまえ」 

俺はヴェサリウスを「ジン検廚能个討らアーク
エンジェルに帰艦して自室のベッドで横になった

開戦予定時刻まで後十二時間で、多少は眠ってお
かなければ明日が辛くなるので、早く寝てしまお
うとするがなかなか寝付けなかった。 

 「失敗したかな。これを渡しておくべきだった
  かな?」

俺は指輪を入れたケースを眺めながら独り言をつ
ぶやいた。
本当はラクスに渡そうと思っていたのだが、つい
渡しそびれてしまったのだ。

 「帰ってきてからでいいか。どうせ、帰ってく
  るんだから」

俺はケースから指輪を取り出すと、首に掛けてい
たお守りの紐に通した。
これは、プラントに上がった時にレイナとカナに
貰った物なのでもうボロボロだったが、戦場に出
る時には確実に首に掛けている物だ。
そして、これにはラクスから預かった指輪も通し
てある。

 「お守り、ラクスから預かった指輪、ラクスに
  渡す予定の指輪。三点セットで生き残りを図
  るか。これだけ入念にやれば生き残れそうだ
  な」

そこまで考えた所で意識が遠くなり、俺は深い眠
りに落ちていった。 


(同時刻佐渡島西方20キロの海域、山口機動護
 衛艦隊旗艦「あかぎ」艦内)

横須賀を出撃した山口海将の機動護衛艦隊は太田
海将補の指揮する特別陸戦隊を乗せた揚陸艦隊を
護衛しながら、ウラジオストック沖を目指してい
た。

 「明け方と同時に攻撃隊の出撃か。ここ数百年 
  で始めての海外領土攻撃だな」

 「今までは防衛戦闘ばかりでしたからね」

 「日本が普通の国になってしまうな」

 「私としては普通で構わないと思いますが」

山口海将と参謀長である柳本一佐は艦橋に立ちな
がら、暇つぶしに会話をしていた。

 「極東艦隊は出てくるかな?」

 「出て来ないと、ウラジオストック港で動けな 
  いまま撃沈されますから、出てくると思いま
  す」

 「小型空母四隻で搭載モビルスーツが推定で1
  00機ほどか。少ないのだな」

 「ユーラシア連合の構成国の大半は伝統的に陸
  軍国ですから」

 「イギリスは大西洋で手一杯か」

 「ユーラシア連合が極東で活発に活動すると、
  東アジア共和国と大西洋連邦が五月蝿いです
  からね」

 「くだらない争いだな」

 「我々が苦労しないで済んでいるのですから、
  感謝しないと」    

 「そうだな」

 「さて、明日は忙しくなりそうだな」

山口海将は数時間の仮眠を取るために自室にに戻
って行った。


(同時刻、マドラスインド洋艦隊司令部)

 「ホーク中将、出撃はやはり無しですか?」

 「当たり前だ!まだ、再建途上の艦隊を潰され
  てたまるか!」 

 「カーペンタリアの戦力は各地に援軍に回され
  ていて、今なら攻撃のチャンスですが」

 「そして、帰りに大洋州連合と赤道連合の艦隊
  に攻撃されるわけだな」

 「ご理解しているのでしたら安心です。私もお
  止めする必要が無くて、ほっとしております
  」

 「やっぱり、お前は可愛くない!」

 「空母艦載機のモビルスーツ隊と航空機隊を基
  地に上げて臨戦体勢を取っています」

 「ありがとさんよ。俺の指示通りに動いてくれ
  て」

 「次期司令官としては当然の行動です」

 「お前、やっぱり可愛くないわ」

このコンビは相変わらずの様であった。


(同時刻、アフリカ共同体モロッコ共和国首都仮
 設司令部)

アフリカ大陸では二箇所からの敵の上陸が予想さ
れていた。
大西洋連邦は大西洋艦隊を護衛にしてここモロッ
コ共和国沿岸からの上陸を図り、ユーラシア連合
はマルタ島を経由してトリポリへの上陸作戦を計
画していた。

 「両方で一緒にやればいいのにバカだよね。連
  合軍の連中は」

 「アフリカ大陸をどちらの影響下に置くかでい
  がみ合っているそうですが」

 「それで負けちゃったら元も子も無いのにね」

 「アフリカ人ごとき野蛮人に負けないと思って
  いるのでしょうな」

バルトフェルト司令の仮設司令部を訪れていたア
フリカ共同体防衛軍司令官のウンガマ大将が、ダ
コスタ副司令とバルトフェルト司令の会話に入っ
てきた。

 「自分の土地を守る戦いに赴く戦士は強いもの
  だという事を教えてやりますよ。白人達の支
  配と搾取には対抗しないといけませんしね」

 「大西洋連邦の侵攻はこちらで抑えるとして、
  トリポリのケストル中将は大丈夫なのかな?
  」

 「さきほど、援軍のマダガスカル共和国軍が合
  流したそうですから、大丈夫でしょう。連中
  はモビルスーツ部隊が主力になっていますし
  、ほぼ全員がコーディネーターのパイロット
  なので、標準以上の技量を誇っています」

バルトフェルト司令の疑問にダコスタ副司令が答
える。

 「連中は何のモビルスーツを使っているんだい
  ?」 

 「ジャンク屋連合から購入した様々なモビルス
  ーツだそうです」

 「センプウはこちらには中々回ってこないから
  ね」

 「現地生産品とジャンク屋からの購入品と連合
  からの鹵獲機に頼っていますからな」

アフリカ共同体とイスラム連合の注文を全て受け
る余裕は今のプラントには無く、配備されている
モビルスーツはジン・シグー・ディン・バクゥ・
ザウート・ゲイツ・センプウ・デュエル・デュエ
ルダガー・バスター・バスターダガー・ストライ
クダガー・M−1など多岐に渡っていた。
一部の指揮官や熟練兵にはセンプウが渡されてい
たが、残りのパイロットにはジャンク屋から購入
したり、ザフトの部隊が戦場で鹵獲したモビルス
ーツが大半で正規品はほとんど無く、現地で色々
なモビルスーツの部品を組み合わせたキメラのよ
うな機体が大半であった。
当然、整備性は最悪で性能が多少低下していたが
、彼らは人海戦術と懸命の努力でこれらの問題を
クリアーして、徐々に配備モビルスーツの数を増
やしていった。

 「それでも、ようやくアフリカで生産されたセ
  ンプウの簡易量産タイプが40機ほど前線に
  回されています。フェイズシフト装甲はコッ
  クピット周りだけですが、その他の性能はほ
  ぼそのままです」

ウンガマ大将は胸を張りながら報告した。

 「後は戦うのみかな。では、夕食にしよう。ウ
  ンガマ大将も食べていくかい?」

 「私もご相伴にあずかりましょう」

バルトフェルト司令はコーヒーを入れ始め、今ま
で静かにしていたアイシャは調理室から大皿を持
ってきた。

 「ほう、ケバブですか。ワシントンに留学して
  いた時に食べた事がありますよ。あの頃は色
  々な国の料理を食べましたな」

 「えっ、ケバブですか?」

ウンガマ大将の言葉にダコスタ副司令は表情を歪
ませた。

 「ケバブはヨーグルトソースをかけて食べると
  美味しいんだよ」

今日はそれほど失敗しなかったコーヒーを配りな
がら、バルトフェルト司令はヨーグルトソースを
勧める。

 「そうですよね。ヨーグルトソースが一番です
  よね」

苦労人のダコスタ副司令はケバフにヨーグルトソ
ースをかけて食べ始めた。 

 「私はバーべキューソースが好きなんだけど」

アイシャはケバフにバーベキューソースをかけて
食べ始めた。

 「アイシャ!僕は君の全てを愛しているが、そ
  れだけは勘弁出来ない。ケバブはヨーグルト
  ソースだ!」

 「ウンガマ大将は何をかけて食べますか?」

バルトフェルト司令の叫びはアイシャに軽くスル
ーされた。
さすがに、何回も言われると気にならなくなるよ
うだ。

 「私はケチャップをかけて食べるよ」

 「ありますわよ」

 「ありがとう、アイシャ君。私の留学時の友人
  は日本人で醤油やソースやマヨネーズをつけ
  て食べていたが、あれもなかなか美味しかっ
  たな」

 「日本人の友達ですか」

 「大学で研究員をしていてな。今はオーブでモ
  ルゲンレーテ社の役員をしているが」

 「凄い方ですね」

 「息子さんがザフトの軍人で、ここで戦った事
  もあるそうだが」

 「カザマ君ですか?」

ダコスタ副司令は以前にカザマから父親がモルゲ
ンレーテ社に勤務している事を聞いていたのだ。

 「そうそう。私は彼の父親と友達でね。センプ
  ウの量産に手を貸してくれたんだよ」

 「カザマ君の父上は交友関係が広いですね」

 「ウンガマ大将、醤油とマヨネーズもあります
  よ」

 「ありがたい。久しぶりに食べてみようかな」

 「私も試してみよう」

 「私も!」

ウンガマ大将とダコスタ副司令とアイシャは色々
なソースをかけながらケバブを楽しんでいた。

 「何故、ヨーグルトソースなのか?それは、多
  少臭みのあるマトン肉を発酵食品であるヨー
  グルトを使ったソースが包み込んで更に味を
  良くするからなのだ・・・」

バルトフェルト司令は一生懸命にヨーグルトソー
スの良さを話すのだが、聞いている者は皆無であ
った。


(9月22日朝6時、月〜プラント中間地点ザフ
ト・同盟国艦隊総旗艦「ゴンドワナ」艦内)

翌日の朝、パイロットに交替で仮眠を取らせた後
、ユウキ総司令は総員を戦闘配置に就かせた。
今、三十機ほどの偵察型のジン・シグー・ゲイツ
・センプウを索敵に出していて、彼らからの詳細
な報告を待っていた。

 「ユウキ総司令、仮眠を取らなくて大丈夫です
  か?」

 「これほどの規模の艦隊の指揮を任されている
  のだ。ワクワクして寝てなどいられないさ」

参謀の一人が心配そうに尋ねるが、ユウキ総司令
はその心配を一笑にふした。

 「もうすぐ、世界規模の最終決戦が行われます
  ね」

 「そうだな。地球の各戦線の細かい報告は入っ
  てきているか?」

 「はい。山口海将指揮下の機動護衛艦隊は十分
  前にユーラシア連合極東艦隊に向けて第一次
  攻撃隊を発進させた模様です。極東艦隊殲滅
  後はウラジオストック基地を壊滅させて後、
  樺太占領作戦の支援に回るそうです」

 「対馬駐在の連絡員から連絡が入りました。統
  一朝鮮国の金大将指揮下の機動艦隊と自衛隊
  小倉特設基地のモビルスーツ隊及び、応援の
  ザフト軍カオシュン基地所属のディン部隊が
  戦端を開きました。後、二十分ほどで海江田
  海将指揮下の潜水艦隊及び、魏大将指揮下の
  台湾海軍機動部隊が挟撃を行う予定です」

東アジア共和国との秘密協定はちゃんと守られて
いるようで、台湾には攻撃一つ無いようだ。 

 「インド洋艦隊の出撃は確認されていません。
  どうやら、静観する模様です」

 「太平洋艦隊と同様に艦隊の温存策に出たか」

 「でしょうね。インド洋艦隊の司令官であるホ
  ーク中将は穏健派の将官です。何らかの指示
  を受けているものと思います」

 「ジブラルタルはどうなっている?」

 「ジブラルタル基地所属の潜水艦隊とカーペン
  タリア基地からの援軍の潜水艦隊はロリアン
  を出港したユーラシア連合大西洋艦隊の迎撃
  に向かいました。一方、ジブラルタル基地防
  衛隊はマドリッドを出発したユーラシア連合
  の攻略部隊の南下を阻止すべく、ジブラルタ
  ル基地北方に阻止戦を張っています」

 「カーペンタリアからの援軍が無ければ陥落し
  ていたな」

 「ええ」

 「最後に、アフリカはどうなっている?」

 「トリポリに上陸中のユーラシア連合の部隊を
  アフリカ共同体副防衛司令官のケストル中将
  の部隊とマダガスカル共和国派遣軍司令官の
  マリア・クラベル少将のモビルスーツ師団が
  迎撃に当たる予定です。大西洋連邦のモロッ
  コ上陸作戦の方はバルトフェルト司令とアフ
  リカ共同体防衛軍司令官のウンガマ大将が当
  たる予定ですが、両方とも敵軍を内陸部に引
  き寄せてから敵の攻撃に入るそうなので、ま
  だ戦端は開かれていません」

 「我々に援軍を回させないという目的だけの為
  に、世界規模で大攻勢か。アズラエルっての
  は大した男なのか?ただの傲慢なバカなのか
  ?理解に苦しむ奴だな」

 「彼は地球の連中が何万人死のうと関係無いの
  かもしれませんね」

 「そうなのか?」

 「彼は新興財閥の当主でその巨大な影響力はこ
  こ数十年の事です。古臭いしがらみの多い地
  球なんて酸素と水の供給源くらいにしか考え
  ていなくて、牙城である月から地球圏を支配
  したいのかも知れません」

 「斬新な意見だな。それは」

 「情報部のプロファイリングデータを見た事が
  あるんですよ」

 「それなら、俺達と仲良くしてくれても良い様
  な気がするのだが・・・」

 「彼は幼少時にコーディネーターに暴力を振る
  われた経験があるそうです。それが、トラウ
  マになっているから、我々を早く排除したい
  のでしょうな」    

 「そんな理由で数十万人の味方兵士を死地に送
  るか。罪深い男だな」

 「ですから、ここで引導を渡さなければ」

ユウキ総司令と新しく任命された情報参謀の会話
が一旦途切れた時に索敵担当士官から報告が入っ
た。

 「偵察部隊から連絡が入りました。(多数の敵
  艦隊を確認。推定で五〜六個艦隊規模と思わ
  れる。敵が多過ぎて宇宙が見えない。敵が七
  割で宇宙が三割だ)以上です」

 「ノルマンディーか・・・」

 「良くご存知で」

 「戦史の成績は優秀だったんだ」

 「ご指示をお願いします」

 「全艦戦闘用意!モビルスーツ隊発進準備!艦
  列を整えて最初の指示を待つように。もう時
  間が無いぞ!」

ユウキ総司令の命令で全艦艇が陣形を整えて、パ
イロット達がモビルスーツのコックピットに待機
する。
後、十分ほどで有効射程距離に入る予定だ。 

 「どうだ?モビルスーツ隊はどれくらい出して
  いる?」

 「あくまでも推定ですが、半数ほどかと」

 「我々も半数を出せ。割り振りは参謀に一任す
  る」

 「了解です」

 「よーし、敵が撃ってくる前に前面にビームか
  く乱幕を張るぞ。次に特設したレールガンの
  発射準備と光学測定装置を作動させろ!モビ
  ルスーツ隊は出しているか?五分で射出でき
  なかったら、始末書を書かせるからな!」

ユウキ総司令は矢継ぎ早に指示を出し、全艦艇の
準備が完了した。
モビルスーツ隊の半数である500機と同盟国艦
隊所属のMA隊100機が出撃して、後少しで連
合軍艦隊から出撃した750機のモビルスーツ隊
と200機のMA隊は激突する予定であった。

 「日本と台湾に頭を下げて100機のモビルス
  ーツ隊を増やして貰って助かったな。おかげ
  で頭が上がらないが」

 「向こうのコロニー防衛隊も訓練生まで動員し
  ているそうですよ」 

 「小国の悲哀だな」

 「負けるよりはマシですがね」

 「連合の物量が羨ましい」

約五分後にそこまで話した所で、索敵担当士官か
ら再び報告が入った。

 「モビルスーツ隊が戦闘を開始しました。状況
  はまだ不明です」

 「まだ始まったばかりだからな」

 「敵艦隊が主砲の発射準備に入った模様です」

 「発射位置を特定したら、レールガンをぶっ放
  せ!敵のビーム砲は反れるはずだから敵が対
  応するまでになるべく多く撃つんだ!ミサイ
  ルもじゃんじゃん使えよ」     

十数秒後、敵艦隊から多数のビーム砲が味方艦隊
めがけて撃たれてくるが、そのビーム砲は明後日
の方向に反らされて、反対にこちらが撃ち返した
レールガンやミサイルは敵艦隊に真っ直ぐに吸い
込まれてから多くの爆発を起こしていた。

 「奇策だが、上手くいったな。今の内に全火器
  開放。ビームかく乱幕を突破して全力で敵艦
  隊と砲戦開始!ここで、手を抜くとこちらが
  やられるぞ!モビルスーツ隊を発進させた艦
  艇を前にそうでない艦艇を後方に、長期戦に
  なるから補給の指示は正確に出す事!以上だ
  」

開戦時と違い艦隊の護衛戦力が拮抗していたので
、両軍の艦隊が直接撃ち合う展開になっていた。
9月22日午前六時五十八分、ザフト・同盟国軍
艦隊と地球連合軍艦隊との最後の決戦の幕はこう
して開かれたのであった。  


(数分前、地球連合軍艦隊総旗艦「ワシントン」
 艦内)

モビルスーツ隊を射出した地球連合軍艦隊はザフ
ト・同盟国軍艦隊に向けてビーム砲を発射したの
だが、それらは全て前方で反らされた上に、敵艦
隊からの正確な射撃で前方に配置されていた艦艇
に次々と命中していった。

 「ビームかく乱幕か!ミサイルとレールガンに
  切り替えて射撃を再開しろ!こちらの方が数
  が多いのだ。動揺するな!」

サザーランド准将が各艦隊に指示を出していく。
本当はジークマイヤー大将という総指揮官がいる
のだが、彼はお飾りで誰もその手腕に期待などし
ていなかった。
存在感すら希薄で、ほとんどの軍人が艦隊内の正
確な力関係を読んで、指示をサザーランド准将に
仰いでいた。

 「数が少ないから奇策を行うのですよ。もう、
  我々の勝ちですね」

アズラエル理事は口元に笑みを浮かべながら勝利
を確信していた。  

 「右翼、中央方面は予想通りに膠着状態に陥り
  ました。左翼のハルバートン中将とジブリー
  ル中将待遇に期待しましょう」

 「そうですね。さて、何時間で敵は壊滅します
  かね。楽しみですよ」

アズラエル理事の口からは笑みが消える事が無か
った。


(数分前、左翼艦隊所属先遣モビルスーツ隊)

結局、俺達は全面攻勢を止めて、200機ほどの
攻撃隊を組んで敵モビルスーツ隊を壊滅させる事
になった。
理由は敵も半数ほどの戦力しか出して来なかった
からだ。
そういうわけで、俺達はラスティーとシホに留守
番を任せて、敵モビルスーツ隊に直進していた。

 「何かが変だな?」

 「どうしました?クルーゼ司令」

 「ムウの気配を多数感じる。これはオーブ戦の
  時の比ではないな」

 「多数の空間認識能力者と量子通信ミサイルか
  しかも、中身はビ−ム粒子をばら撒くやっか
  いな代物ときたもんだ」

ディアッカがおどけた口調で言うが、事態はかな
り深刻だ。

 「モビルスーツ隊を分散させるしかありません
  ね。そして・・・」

 「前方に敵モビルスーツ隊多数!」

ニコルが律儀に報告を入れてきた。

 「(パンドラの箱)の開放準備をするぞ!全機
  発射準備!」

俺は背中のミサイルパックをレイはミーティア改
に装備してあり、その他にも数十機のモビルスー
ツが使い捨ての携帯ミサイルランチャーから発射
して数を稼ぐ事になっていた。
始めは期待をかけられていた「パンドラの箱」で
あったが、実際に演習で使用してみると欠点ばか
りが目立つ兵器になっていた。
第一に、一発の有効範囲が狭いので多数を発射し
て有効範囲を広げる戦法を取ったのだが、所詮ミ
サイルなので途中で落とされる数が多いのだ。
特に、フリーダムの射撃とビームマシンガン・ガ
トリング砲を装備している機体、ディアッカのフ
リーダム兇離咫璽猯鎧匯驚討房紊、思ったほど
の成果を上げられなかった。
逆に考えれば、バスターが装備している対装甲徹
甲弾を前方に向かって撃てば多数を破壊出来るの
だ。

 「モビルスーツは近接戦闘兵器」

誰かに昔聞いた言葉が頭の中を横切る。
だが、敵が使用する「パンドラの箱」に関しては
油断できない。
我々の想像を超える新機能があったり、予想を超
える数を発射する可能性を否定出来ないからだ。

 「よーし、全弾発射!」

俺の指示で400発を超える「パンドラの箱」が
発射されて、こちらに進撃してきている敵モビル
スーツ隊へ飛んでいった。
敵モビルスーツ隊は全ての火器を発射して「パン
ドラの箱」の狙撃を開始するが、三分の一ほどが
至近距離に接近した状態で起爆スイッチを入れて
ビーム粒子をばら撒いた。
敵のモビルスーツはビーム粒子が多数命中して爆
散する機体やパイロットのみを殺傷して動きが止
まってしまう機体など全部で三十機ほどの撃破に
成功した。

 「上出来ですかね?」

 「手間がかかって仕方が無いが、戦果はあがっ
  たな」

一応、クルーゼ司令からお褒めの言葉らしきもの
を頂いてから前を見ると、50機ほどのレイダー
、フォビトゥン、カラミティーが同じく外付けの
ミサイルランチャーから十発くらいずつの「パン
ドラの箱」を発射した。

 「ディアッカ!キラ!レイ!なるべく遠距離で
  落とせ!」

 「「「了解!」」」

キラはフリーダムの全武装で、ディアッカは「フ
リーダム供廚離咫璽猯鎧匯驚討如▲譽い和膩織
ーム砲や量子通信兵器で次々に「パンドラの箱」
を撃ち落していった。
俺達も自分の武装を使って撃ち落していく。

 「えーい!落ちろ!」

俺がビームガトリング砲で「パンドラの箱」を撃
ち落すと、距離が近すぎてビーム粒子が飛んでき
たので、シールドを構えてそれをかわすが、反応
が遅れた十機ほどのセンプウやゲイツが爆発した
り、パイロットを殺傷して動きを止めた。

 「ちっ!損傷機は修理をしに後ろに下がれ!」

結局、二十機ほどの損害が出て、損傷機に退却の
指示を出してから、モビルスーツ隊同士が激突し
た。

 「ベテランは小隊でレイダー、フォビドゥン、
  カラミティーに当たれ。ヒヨっ子達は残りの
  機体を慎重に撃破しろ!」

「パンドラの箱」は確実に誘導されていたので、
あの三機種に乗っている連中は確実にオーブで遭
遇した不気味な連中の仲間であろう。
こいつらは俺達で始末しなければ・・・。

 「行くぞ!」

俺はビームサーベルを抜いて一機のフォビドゥン
に突撃した。
以前、ジローにこの機体の攻略法を聞いていたの
だ。
こいつは接近戦で倒すしかない。

 「喰らえ!」

俺はフォビトゥンの鎌をビームサーベルで抑えな
がらコンマ数秒でビームガトリング砲をコックピ
ット前にねじ込んでから至近距離で発射した。

 「やった!」

さすがに、この距離ではビームを反射出来ずにビ
ーム粒子はコックピットを焼き、機体は爆散した

 「だが、効率が悪いな」

爆発に巻き込まれたビームガトリング砲の先端が
熔けて使えなくなったので、切り離してから倒し
たフォビトゥンの鎌を拾って両手に持つ。

 「これで、いけるかな?」

試しに、近くにいたストライクダガーに斬りつけ
るとストライクダガーは真っ二つになって爆散し
た。

 「ストライクダガーなら問題無しか。問題はフ
  ェイズシフト装甲を装備した機体か・・・」

つぶやきながら戦場を見渡すと、キラはフリーダ
ムの全武装を一機の敵に集中的に発射して次々に
撃破していた。
アスランはニコルの大型スキュラの発射をリフレ
クターで援護していて、ディアッカはレイの援護
を行いながら、間断なく射撃を続け、イザークは
スピードで敵を振り回し、クルーゼ司令はエミ三
尉と合計24基のドラグーンを操って次々に敵を
倒し、ユリカ三尉は二人を援護しながら、倒せそ
うな敵を確実に仕留めていた。
これだけを語ると、俺達が優勢であるように思わ
れそうだが、実際には五分五分が精一杯な状況で
あった。
我が軍の普通のパイロットでは例の三機種には勝
てずに簡単に撃破されてしまうからだ。
オーブ組は互角に戦えるのはアサギ・マユラと一
部の士官だけで、倒せるのはハワード一尉とホー
三佐だけという状態であり、自衛隊では石原三佐
がなんとか倒せる状態で、相羽一尉は互角が精一
杯で残りのベテラン士官でも小隊で一機を抑える
のが精一杯だった。
どうやら、俺達は物凄い貧乏クジを引いたようだ

 「中央艦隊と右翼艦隊も苦戦しているのかな?
  」

 「いや、一部のエースとベテランに苦戦してい
  るだけで、我々ほどの損害率は出ていないそ
  うだ」

 「クルーゼ司令!」

 「ムウの気配はするのだが、倒しても倒しても
  ムウがいない。本当につまらない事だな」

 「そんな事を言ってないでもっと倒して下さい
  よ」

近くにいたカラミティーを鎌で切り裂いてみたが
、Tフェイズシフト装甲に傷が付いて凹むくらい
なので、対艦刀に装備を切り替えてからカラミテ
ィーを縦に切り裂いた。

 「使えない武器だな。敵さんのは」

不意に殺気を感じたので、回避するとレイダーの
鉄球が横をすり抜けていった。

 「はっはー、誰かは知らないけど死んでくれな
  いかな」

 「そういう事を言うお前が死ね!」

 「やっぱりお前か!日本での屈辱晴らさせて貰
  うよ」

 「あいつか!」

因縁のあるレイダーと一騎討ちを開始するが、敵
のモビルスーツの機動性とパワーが通常のレイダ
ーと比べ物にならない。

 「核動力機か!」

 「当たりだよ。僕だけじゃ無いけどね」

 「だろうな!」

更に、カラミティーの核動力機が登場して一気に
三機のセンプウを撃墜する。

 「まずい!このままでは」

すでに、こちらは三割の戦力が撃破されていて、
敵も半数近くを失っていた。
他の部隊の倍近い損害率を出していて、このまま
では全滅してしまうかも知れなかった。

 「クルーゼ司令、どうします?」

 「どうもこうも引くわけにはいくまい」

俺はレイダーと戦いながらクルーゼ司令に打開策
を求めるが、確かに戦うしかないのだ。

 「おっ、こいつは強そうだな!」

カラミティーはキラのフリーダムを新しい標的に
したようで、お互いに激しい砲戦を繰り広げてい
た。

 「大変です。敵の第二派が接近中です。こちら
  も対抗して攻撃隊を出しているので、混戦に
  なる可能性が高いです」

ニコルの報告を聞いた俺は一言こうつぶやいた。

 「この攻撃が吉と出るか凶と出るか。ラクス、
  帰れないかも知れないな」

戦いは予想を超えた混戦状態に陥っていた。


(同時刻、ウラジオストック沖二十キロの海域)

午前六時前に山口機動防衛艦隊を出撃したモビル
スーツ隊128機は、ウラジオストック港沖で待
ち構えていた極東艦隊のモビルスーツ隊103機
と激しい戦闘を繰り広げていた。
極東艦隊の空母に搭載されているモビルスーツは
ストライクダガーが一番多かったが、その内36
機はユーラシア連合が単独で開発した「ハイペリ
オン」という新型モビルスーツが配備されていた

 「通称(サタン)か。高性能で数も揃っている
  。我々は厳しいな」

ハペリオンの部隊を統率しているケナフ・ルキー
ニ大尉は自分用にカスタム化されたハイペリオン
を操りながら、感想を述べていた。
極東艦隊の艦艇は半数以上が沈没していて、小型
空母四隻の内「レ−ニン」「フルシチョフ」「ゴ
ルバチョフ」は既に海底に沈んでいて、「ラスプ
ーチン」が残っているというのが皮肉な話であっ
た。
結局、ドイツとポーランドから大反対された命名
であったが、沈んでしまったので次からは文句を
言われないのが唯一の救いであろう。

 「残存は何機だ?」

 「ストライクダガーが28機でハイペリオンが
  26機です。もっと数があればヤパーナにデ
  カイ顔をさせないのですが・・・」

 「宇宙と大西洋艦隊に大半が回されてしまった
  からな。樺太なんてくれてしまえというのが
  上層部の本音らしい。ロシアの連中が聞いた
  ら激怒するだろうがな」

 「あんな島より、ジブラルタルとアフリカの方
  が大事ってのはわかるんですけどね」

 「さて、命令通り俺達はチタに撤退するぞ」

 「新型モビルスーツの温存命令ですか。残され
  るストライクダガー隊と極東艦隊は全滅です
  ね」

 「朝鮮半島に脱出するらしいがな」

 「逃げ切れるくらいなら、最初からこんなに惨
  敗しませんよ」

約十分後、ハイペリオン隊は十機の損害に対して
、十四機のセンプウを撃破したと報告してチタへ
撤退していった。
そして、彼らの撤退後に第二次攻撃隊の攻撃を受
けた極東艦隊は四隻の駆逐艦のみとなって降伏の
道を選び、第三次攻撃隊はウラジオストック港を
完全に破壊して樺太の孤立化が決定的となったの
であった。


(同時刻、対馬北西二十キロの海域)

統一朝鮮国艦隊司令官の金大将は昨晩夢を見た。
その夢は自分が対馬占領に成功した後、博多に上
陸して九州を制圧、中国、山陰、四国と次々に占
領して領土を広げた後、最終的に大阪・神戸・京
都を占領して自分が祖国の英雄に祭り上げられて
崇拝される内容であった。
実際に、住民は避難して誰もいなかったが、昨晩
のうちに対馬を無血占領していて夢の一部は現実
のものとなっていた。
自衛隊の主力は樺太攻略に出掛けていて九州には
少数の部隊しか残っていないらしい。
自分は賭けに勝ったのだ。

だが、そういう風に喜んでいられたのは朝食を食
べるまでであった。
突然、来襲してきたセンプウとディンの部隊が艦
隊とモビルスーツ隊を攻撃し始め、それから三十
分後に横合いから現れた台湾軍の機動艦隊搭載の
センプウ隊に止めをさされているようだ。

 「味方の援軍は?」

 「今落とされている連中がそうです」

機動艦隊の搭載モビルスーツが200機で半島本
土の陸上基地から80機の援軍が来たのだが、自
衛隊機が150機でディン部隊が80機。そして
、台湾軍機動部隊から120機の援軍が来ている
ので、ストライクダガーが主体のモビルスーツ隊
では質・数共に勝ち目が無かった。

 「新型機はどうなのだ。性能が良いと聞いてい
  るが」

 「(李舜臣)ですか?あれは性能は大した物で
  すが、十機しかいないのではどうにもなりま
  せん」

統一朝鮮国の新型モビルスーツ「李舜臣」は朝鮮
版センプウと呼ばれている機体で性能は大分セン
プウに近づいていたのだが、フェイズシフト装甲
量産の壁に突き当たり、コックピット周りに使わ
れるに留まっていた。

 「ほら見ろ、(李舜臣)がセンプウを落として
  いるぞ!」

旗艦「金正日」の艦橋から金大将が大喜びをして
いたが、四機ほどのセンプウを撃墜しただけで、
「李舜臣」は全滅してしまった。

 「せめて、100機単位で量産できるようにな
  るまでは、戦端を開くべきではありませんで
  したな」

林参謀長が冷静な論評をすると、金大将の額に青
筋が走る。

 「君はどちらの味方なのだ!」

 「私は朝鮮軍の将校ですが。将校というものは
  大局観を持って冷静に判断するものです」

 「お前は抜け抜けと!」

 「ご命令をお願いします」

 「貴様ーーー!」

金大将は林参謀長に殴りかかったが、途中で痙攣
を起こしながら倒れこんだ。
どうやら、心臓発作を起こしたようだ。

 「金大将はご病気のようだ。軍医を呼んでくれ
  。私が指揮を引き継ぐ。全艦隊撤退だ。対馬
  の陸上部隊には降伏を許可すると伝えろ」

 「せっかく取った領土を死守させないのですか
  ?」

 「あれは元々他所様の物だ。大した広さも無い
  島の為に、精鋭である海兵隊を一個大隊も使
  い潰すのか?あれの訓練に何年かかっている
  と思っている」

 「ですが、士気の問題が・・・」

 「とにかく、これ以上の犠牲は容認できない。  
  下手をすると戦後、中国に併合されてしまう
  ぞ。連中は構成国の離脱で疑心暗鬼になっい
  ている上に、俺達は勝手に戦端を開いている
  のだからな」

そこまで話したところで、艦隊の端にいた駆逐艦
がいきなり沈没していった。

 「潜水艦隊と水中用モビルスーツまで登場か。
  脇目も振らずに撤退だ。残りたい奴は勝手に
  残って死ねと伝えろ。俺が祖国の為に、勇敢
  に戦って死んだと報告しておいてやる」 

林参謀長のその一言で全艦艇は一目散に撤退して
いった。
結局、この戦いで朝鮮軍は三割の艦艇と四割のモ
ビルスーツ隊を喪失して対馬を取り返されてしま
い、何も得ることが出来なかった。


     

 


(同時刻、トリポリ南方200キロの砂漠地帯)

トリポリを無血占領したユーラシア連合軍であっ
たが、そこには、物資が何一つ残されておらず、
これからの彼らの運命には暗雲が立ち込めていた

 「大西洋艦隊とジブラルタルを出た艦隊の戦闘
  は始まったのかな?」

アフリカ共同体副防衛軍司令官のケストル中将は
仮設司令部の中でちびちびとお茶を飲んでいる二
十歳前後の金髪の女性に話しかけていた。
彼女は背は160センチほどで、スレンダーな体
型をしていて可愛らしいといった表現が良く似合
っていた。
彼女の名前はマリア・クラベル、マダガスカル共
和国のモビルスーツ隊指揮官で少将の地位を持っ
ている弱冠二十七歳の女性であるが、童顔なので
誰が見ても二十歳を超えている様に見られた事が
無かった。

 「もう、半日ほどで開戦予定ですからそれほど
  焦らなくても大丈夫だと思いますわ」

その見掛け通りにおっとりとした口調で話をする
が、彼女は自分用に調整された真っ赤なセンプウ
を巧みに操り、ジブラルタル基地で傭兵として名
を馳せた、「乱れ桜」のライバルと称される凄腕
のパイロットであった。

 「海戦が終わってジブラルタル基地に潜水艦隊
  が戻ってくれば、地中海の制海権が無いユー
  ラシア連合の方々は日干しになると思います
  。ケストル中将はどう思われます?」 

 「私もそう思うよ」

ユーラシア連合の首脳部はジブラルタルを落とせ
ば、潜水艦隊が根無しになって簡単に制海権が確
保できると思っているのだ。

 「失礼します。トリポリから偵察隊らしいモビ
  ルスーツ隊の発進を確認しました。現地諜報
  員からの連絡です」

仮設司令部に入ってきた兵士が報告をする。

 「では、確認しに行ってまいりますわ」

 「君自らか?」

 「指揮官先頭は戦闘の基本ですわ」

 「君がそう言うなら・・・」

常に真っ赤なパイロットスーツを着込んでいるマ
リア少将は小走りで自分のモビルスーツが置かれ
ている臨時のハンガーへ行き、センプウを稼動さ
せた。

 「偵察に出ます。お供の方はいらっしゃいます
  かしら」

本当は自分一人でも大丈夫なのだが、マダガスカ
ル共和国の大統領から直接頼まれてモビルスーツ
部隊の責任者になった手前、無謀な行動は控えな
ければならないので部下を必ず連れて行くように
していたのだ。
腕に自信があると言っても、二十七歳の小娘が少
将をやっているのは宣伝の要素がとても大きいし
、戦死などしてしまったら自分だけの問題では無
くなってしまう。
たまに傭兵時代の気楽さを懐かしく思うが、引き
受けてしまった手前仕方が無かった。

 「お供します」

 「お嬢、得物を置いていくのかい?」

 「タナカ君、リサちゃん。ありがとうね」

常に自分の護衛をしている二人のパイロットがデ
ィンを稼動させながら無線を入れてきた。
一人は髪を刈り上げている身長175センチほど
の細身の男で、名前はマイケル・タナカ大尉と言
い、大西洋連邦出身のコーディネーターである。
昔はMAのパイロットをしていたが、コーディネ
ーター差別が酷くなってきた祖国を捨て、オーブ
に仮の籍を置きながら、ザフトのジブラルタル基
地で傭兵をしていたが、地球上にコーディネータ
ーの国が出来ると聞いて移住した人物である。
傭兵時代からマリアと顔見知りで友達であり、彼
女の護衛任務を任されていた。
そして、もう一人はリサ・マークザート大尉で彼
女は赤道連合出身のナチュラルでありながらモビ
ルスーツを巧みに操る女性であった。
彼女は大学院まで出ていて機械工学の博士号を持
つ才媛であったが、モビルスーツの研究の為に、
派遣されていたジブラルタルで自分も乗ってみよ
うと試行錯誤を繰り返した結果、隠れていた才能
が開花して上手く操縦できるようになっていた。
「やっぱり、オーブのOSは大したものね」と言
うのが彼女の口癖である。
実は彼女、赤道連合に技術士官として復帰する予
定だったのだが、ジブラルタルから付き合いのあ
ったマリアに懇願されて彼女のお供をする羽目に
なってしまったのだ。
日頃、仲の良い三人だけの時はリサはマリアをお
嬢と呼び、マリアはリサをリサちゃんと呼んでい
た。
ちなみに、タナカ大尉は大変クソ真面目なので、
上官であるマリアに必ず敬語を使っていた。

 「クラベル少将、敵の偵察機は六機で例の新型
  が隊長機を務めているようです。現地から更
  に詳しい情報が入ってきました」

 「タナカ君、マリアでいいのよ」

 「いえ、上官を呼び捨てにするわけには・・・
  」

 「お嬢、この真面目男には無理だから」

 「リサちゃんはお嬢って呼ぶじゃない」

 「このメンバーだけの時はな。私は正規の軍人
  ではないから」

 「今は、どうなんだよ」

 「これも、戦争が終わるまでの臨時だよ」

 「では、不正規小隊の出撃です」

一機のセンプウと二機のディンは仮設基地を飛び
出してから情報のあった地点に向かう。
すると、北方の上空に六機の機影が見える。

 「うーん、ストライクダガーの飛行パック装備
  型と先頭の隊長機らしきものは(ハイペリオ
  ン)とか言う新型だね」

モビルスーツに詳しいマークザート大尉が望遠レ
ンズの倍率を上げながら詳細な報告をする。

 「どうします?クラベル少将」

 「うーん、仮設基地の情報を得られてしまうと
  少し困ってしまいますわね。ここは撃破とい
  う方針で行きましょう。リサちゃん、カトリ
  ーヌちゃんをお願い」

 「二式改長距離狙撃ライフルね」

 「ううん、カトリーヌちゃん」

 「はいはい」

リサは自分が持ってきた二式改長距離狙撃ライフ
ルをマリアに手渡すと、彼女は砂漠の砂山に伏せ
てから細かい設定を調整し始める。

 「砂漠で伏せると、フランソワーズちゃんに細
  かい砂が入って整備兵さんが大変ね」

 「ああ、そうだな」

反論すると射撃のチャンスが短くなるので、リサ
は素直に返事をする。
マリア・クラベル27歳、傭兵としては優秀でジ
ブラルタルでは常人では出来ないような遠距離の
狙撃を多数こなし、多数の航空機・ヘリコプター
・戦車・各種車両・小型船舶・モビルスーツを破
壊して「赤い狙撃手」の2つ名で呼ばれていた。
「乱れ桜」は戦場で何回も狙撃を受けていて、損
傷を負って何回も撤退する羽目に陥っていたが、
直感と動体視力の良さで直撃を必ず避けてしまう
ので、二人はライバル関係にあると周りからは言
われていたのだ。
そして、そんな彼女の唯一の困った癖は、自分の
使う武器とモビルスーツに変な名前を付ける事だ
った。
自分の使う狙撃銃にカトリーヌ、自分の乗ってい
る赤いセンプウにフランソワーズ、何とも気が抜
けてしまうが、後は至って真面目なので文句を言
うわけにもいかなかった。

 「いきます!」

赤いセンプウが長距離狙撃銃のトリガーを引くと
、砲身から強力なビーム砲が発射されて、先頭の
「ハイペリオン」のコックピットに直撃して貫通
する。
どうやら、自慢の光波シールドを使う暇も無いま
ま、本人も自分が死んだ事にも気が付いていない
だろう。

 「もう一撃!」

続いて、一機のストライクダガーのコックピット
をビームが貫いてから爆発する。

 「さあ、行くわよ!」

マリアは狙撃銃を砂地に置いてから腰に装備して
いる二本の長さ五メートルほどの対艦刀を逆手で
持ってから残りの四機に突撃をかける。
そして、その動きに反応するかのように二機のデ
ィンもマリア機の両脇に付いてから両端のストラ
イクダガーにビームマシンガンを叩き込んで撃破
した。

 「何だ!あの赤い(サタン)は!」

残り二機のストライクダガーは退却する間もなく
、マリア機に上半身と下半身に切り裂かれてから
爆発した。
六機のモビルスーツを撃破するのに三十秒もかか
っていなかった。
正に神業と呼べるものであった。

 「さーて、帰りましょうね。フランソワーズち
  ゃんの砂を取ってあげないと。あっ、そうだ
  。リサちゃん、カトリーヌちゃんの回収を忘
  れないでね」

 「はいはい」

 「でも、クラベル少将。よく、初めての砂漠の
  狙撃で一発目から命中させましたね」

 「それは私も思った。熱対流とか細かく設定し
  ないと当たらないだろう?」

 「ちゃんと設定したよ」

 「あの短時間でか?」

 「うん、私は狙撃のプロだもの。カトリーヌち
  ゃんの癖は心得ているわよ」

 「さすがなのだが・・・」

リサはマリアに狙撃されて命を落としたパイロッ
トに多少同情してしまう。

 「早く帰りましょう」

三機のモビルスーツは仮設基地に帰っていった。
ユーラシア連合のアフリカ上陸作戦はトリポリか
ら一歩も出ることが出来ずに、偵察部隊すら多数
が撃破されてしまってこれ以上の進展を見る事は
無かった。
ジブラルタルとアフリカ、二兎を追う者は一兎を
も得ず。
北アフリカの砂漠は余所者には冷たかった。


(同時刻、モロッコ内陸部アフリカ共同体防衛軍
 仮設司令部兼ザフト応援部隊仮設司令部)

今日の早朝に大西洋連邦軍大西洋艦隊の援護を受
けたアフリカ攻略部隊の上陸を確認したのだが、
バルトフェルト司令及び、ウンガマ大将は内陸部
から動く気配を見せなかった。

 「我々は動かなくても良いのでしょうか?」

ダコスタ副司令は全く動こうとしない二人の司令
官に確認を取った。

 「だってね。我々には海上戦力が無いから、内
  陸部で敵を叩くのが基本でしょう」

 「そうだな。水際で迎撃したら無駄に戦力を失
  ってしまうぞ」

 「敵は占領地を広げています。このままではモ
  ロッコ政府が寝返ってしまいますよ」

 「最初は仕方が無いよ。それよりも、モロッコ
  政府が大西洋連邦軍に無茶なお願いをしてく
  れないかな?って期待しているんだよ」

 「補給に負担を与えられるからな」

 「そうそう、モロッコ政府は大西洋連邦から沢
  山贈り物を貰えて、僕達に開放される。羨ま
  しい好待遇だよね」

 「それに、上陸軍の補給物資の護衛とか仕事は
  一杯あるからその内何処かへ行くだろう。そ
  の時に撃破するから、それまでモビルスーツ
  隊の訓練でもしながら気長に待つとしようで
  はないか」

 「そうそう、ウンガマ大将の意見が正しい」

 「ダコスタ君、焦っては駄目だよ」

苦労人のダコスタ副司令は二人の歴戦の司令官に
やり込められてしまったのだった。


(一時間後、月〜プラント本国間)

宇宙での戦闘は上下二段に分かれていて、モビル
スーツ部隊とMA隊は上段の両者の中間地点でぶ
つかり合い、艦隊は下段で有効射程距離から砲撃
戦を続けていた。
何故分かれているのかと言えば、敵味方問わずに
、艦砲の直撃を喰らいたい奴が一人もいなかった
からである。

 「第一波のモビルスーツ隊の補給は完了したの
  か?」

俺は第二派の攻撃隊を探知したのと同時に部隊の
引き揚げに入った。
どの道、こちらからも第二派が出ていたのでもし
深い追いしてくれば共同で撃破が可能だと踏んで
いたし、いくら核動力機でも補給は必要だからだ

結局、連中も素直に引き揚げたらしく、殿を務め
た俺達核動力機組は補給と整備の作業に入ってい
た。

 「細かい整備をしている暇は無い。武器だけ補
  給して直ぐに出発するぞ!」

エイブス班長に時間が無い事を告げた。
第二派にはフラガ少佐とレナ少佐がいるし、ササ
キ大尉がいる可能性も高い。
そして、それを考慮してクルーゼ司令達が残って
いるのだ。
早く行かなければ。

 「カザマ司令、終わりましたよ」

 「よーし、行くぞ!」

大した休憩も取らずに俺は「ジン検廚鮟亰發気
る。
戦場に向かって飛んで行くと、最初に比べて短時
間で到着したような気がした。
どうやら、俺達は押されているようだ。
あれだけ、強力なモビルスーツが多数配備されて
いてエース級が多数揃っていれば当たり前なのだ
が、このままでは最初に「ゴンドワナ」の部隊と
演習をした時のような最後を迎えてしまうかもし
れない。

 「あれは、クルーゼ司令か・・・」

クルーゼ司令はストライクに似た機体とドラグー
ンを飛ばしあって一騎討ちを行っていた。
多分、あの機体にはフラガ少佐が乗っているのだ
ろう。

 「クルーゼ司令、大丈夫ですか?」

 「私は優勢だし、もう少し大丈夫だ。それより
  、ユリカ君とエミ君が危ない。援護に回って
  くれ」

クルーゼ司令の指示通りに二人を探すと、フラガ
少佐と同じ機体がドラグーンを飛ばしながら二人
を追い詰めていた。
基本的な技量はそれほど変わりが無いように見え
るが、実戦経験の差で二人は多少不利の様子だ。

 「お嬢さん達、一回補給に帰ってから他のモビ
  ルスーツを落とせ!俺はこいつを相手にする
  」

 「カザマ君、こいつキモいよ。君を探している
  みたいだったし」

 「ササキ大尉かな?」

 「やっぱりホモなんですか?」

 「ちゃうわ!奴はストーカーだ」

 「よう、カザマ。生きていたんだな」

 「まあね」

俺とササキ大尉が対峙し始めると、命令通りに二
人はヴェサリウスに補給に戻ったようだ。

 「会いたかったぜ!カザマ!」

 「俺は全然思わない」

 「相変わらずふざけた野郎だ!俺はお前を殺し
  たくてウズウズしているんだよ」

 「そんなに、恨まれるような事をしたっけ?あ
  あ、仲間の仇か」

 「ああ、そんな事はいいんだよ。始めは多少は
  そう思っていたんだが、今では全然感じなく
  なった。あいつらが死んだのは無能だったか
  らで、俺の所為では無いからな」

 「君の本性が聞けて勉強になったよ」

 「お前は俺にとっての壁だ!同じ日本人なのに
  、軍人としての地位、権力、名声、金、友人
  、女全て負けているんだよ。何か気に入らな
  よな」

俺はササキ大尉の心の奥底の一番汚い部分を見せ
られて、背中に寒気が走った。

 「だから、ここでぶっ殺してやるよ。俺さ、こ
  の戦争で勝てば将来の日本国総理大臣になれ
  るんだぜ。本当、アズラエル様々だな。そう
  なれば、権力も金も女も思うままだし、俺を
  ジャップとバカにする人間はいなくなるんだ
  よ」

 「アズラエル理事には会った事無いけど、信用
  出来るのか?散々利用されて捨てられなけれ
  ばいいけどね」

 「俺は他人には利用されない!とりあえず、お
  前から殺してやるよ。お前が死んだら、お前
  の家族に僕は戦争犯罪人を殺したんですよっ
  てマスコミを連れて堂々と報告してやるよ。
  その時の俺は総理大臣だしな。ああ、お前に
  は婚約者がいたな。ラクス・クラインだっけ
  か?結構可愛いよな。お前のお古ってのが気
  に入らないけど、貰って適当に遊んでやるか
  ら地獄で悔しそうに泣いているんだな」

さすがに、そこまで言われてしまうと怒りを隠し
きれなかった。
一方的な恨みでどうしてここまで言われなければ
ならないのだろう?
生まれて始めてこいつは殺さなければならないと
思える相手を見つけたのだ。

 「(こいつは確実に殺す!)」

 「カザマ!ファントムで蜂の巣にしてやるよ。
  って、おい聞いているのか?」

 「ああ、聞いているよ。ごちゃごちゃ五月蝿い
  んだよ。直ぐに殺してやるから待ってろよ!
  じゃあ、始めようぜ!ササキちゃん」

周りでは1000機以上のモビルスーツと数百隻
の艦隊による決戦が続いていたが、俺とササキ大
尉はお互いを殺す事しか考えていなかった。
最終決戦が始まって数時間、勝敗はどうなるのか

俺達は生き残れるのか?
それは誰にもわからなかった。 


          あとがき

うーん、最後どうしようかな?
次回の更新は不明です。

          

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