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▽レス始

「これが私の生きる道!最終決戦前夜編6(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-04-05 17:36/2006-04-08 01:38)
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(9月18日早朝、クライン邸前)

カガリから今日、親父とレイナ達がプラントへや
って来ると教えられていたので、ラクスが屋敷で
晩餐会をやってくれる事になった。

 「じゃあ、夜に連れて帰るからさ」

 「はい、準備をしてお待ちしています」

 「キラ達は来るのかな?聞いてみないとわから
  ないけど」

 「お食事は多目に用意しますので」

 「参加人数がわかったら連絡するよ」

 「はい、行ってらっしゃいませ」

そう言うと、ラクスは目を瞑って唇を前に突き出
した。
毎朝恒例の行ってらっしゃいのキスである。
始めはかなり恥ずかしかったが、今ではかなり楽
しみになっている。

 「愛してるよ、ラクス」

日本人なのに、アメリカ人のようにストレートな
セリフを吐きながら、ラクスを軽く抱き寄せてキ
スをしようとしたが、実戦経験で鍛えた俺の勘が
他人の視線を複数感じてそれを止めた。

 「ヨシヒロ、どうしました?」

ラクスが少し不満そうに聞いてくる。

 「あー、君達。ここで何を?」

玄関横の植え込みに二人の人影を発見した。
シーゲル閣下や使用人は見て見ぬ振りをしてくれ
るので、この二人は別の誰かである可能性が高い

 「カザマ君、おはよう!」

 「気にしないで続きをどうぞ」

 「出来るかーーー!」

二人の正体は俺が朝一番に会いたくない人第一位
のあの二人であった。

 「お前ら、何しに来たんだよ!」

 「カザマ君、つれないぞ」

 「そうですわ。つれないですわ」

 「だから!俺達の楽しい一時を邪魔した理由を
  聞いているの!」

 「特に理由は無いです」

 「新車を買ったから、ちょっとドライブがてら
  にね」

 「新車!いつ買ったんだ?どうして?」

普通、日本在住の二人がプラントで車を買ったり
しないだろう。
レンタカーなら理解出来るのだが。

 「昨日の夜、欲しくなったから即金で買ったん
  だ。手続きを一番早く終わらせたディーラー
  からね」

 「よく、そんな金があるな」

 「あのね。私達の一族の事理解してる?」

 「知らない」

 「私達の祖父は楠木利治ですわ」

 「えっ!楠木重工の会長の?」

 「「はい」」

楠木重工とはここ三十年で急速に成長した、特殊
金属精製と加工を生業としている会社で、会長の
楠木利治が大学教授を辞めて、潰れかけた実家の
鉄工所を二十年で大企業に育て上げたサクセスス
トーリーが有名であった。
種子島のマスドライバーのレールや宇宙艦船の特
殊装甲やコロニーの外壁など、様々な耐久性に優
れた特殊金属の精製と加工を行っていて、フェイ
ズシフト装甲の量産にも関わっていた。

 「苗字違わない?」

 「私達の母は姉妹で同じ立花家の兄弟と結婚し
  たんです」

 「なるほどね」

俺は瞬時に理解した。
確か、楠木利治は娘が二人しかいなかったはずで
、孫も立花副官房長官と目の前の二人だけらしい

この二人の悪魔は楠木重工の跡取りになる可能性
が高いのだ。
金はあるだろうし、宇宙用艦艇の装甲を生産して
いるこの会社は防衛庁職員の重要な天下り先なの
だろう。
いくらあの性格で上官に暴言を吐いても、首にな
ったりしない理由が理解できた。
きっと、今まで最前線に回されなかった真の理由
もそこにあるのだろう。
そして、俺達への暴言は外国の事なので、ノーカ
ウントなのかも知れない。

 「いくら、お姉ちゃんが優秀で美人でも、25
  歳になったばかりの普通の女性が選挙に当選
  するわけないじゃん。お爺様は表面的な支援
  はしていないけど、楠木重工会長の孫という
  事実は周りの人達には重要な事なのよ」

 「夢の無い話だね。政治の世界に立志伝は無い
  のかね」

 「お父さん達は私達の幸せを願ってコーディネ
  ートしたんだけど、日本に居づらくなって外
  国に逃げる羽目になったからね。お姉ちゃん
  は日本のコーディネーターの地位回復の為に
  、出馬したんだよ」

 「俺は十五歳まで頑張ってみたけどね。暗い性
  格になってプラントで矯正するのが大変だっ
  た。日本には一人も友達がいないと断言出来
  るし」

 「でも、硫黄島戦終了後にテレビでは、自称カ
  ザマ君の恩師やら親友やらが沢山テレビに出
  ていましたよ」

 「なんじゃそら。それは知り合いなだけだ」

 「カザマ君って意外と苦労してるんだね。評価
  を改めようかな?」

 「改めてくれよ」

 「よく見ると、結構いい男だし。私かエミと結
  婚して楠木重工を継がない?あなたが頑張っ
  てくれれば、私たちは自由に遊べるし」

やはり、一筋縄ではいかない女達だ。
俺に苦労させて、自分は遊ぶつもりか・・・。

 「謹んで遠慮させていただきます」

 「そうです!ヨシヒロは私の夫になるのですか
  ら!」

今まで静かにしていたラクスが珍しく声を荒らげ
た。

 「でも、結婚したわけではないのですから、私
  達にもチャンスがあるはずでは?」

 「ありません!」

 「まあまあ、ラクス落ち着いて」

 「でも・・・」

ラクスが悲しそうな顔をするので、多少頭にきて
しまい、俺の天邪鬼的な部分が頭をもたげてくる

この二人を驚かせてやろう。

 「ラクス、俺が愛してるのはお前だけだよ」

日頃、決して人前で言わないような甘いセリフを
言ってから、ラクスを抱き寄せてディープキスを
する。

 「えっ、私達がいるのに・・・」

 「凄い・・・」

俺の予想外の行動に二人は顔を赤くして、ボー然
としていた。
どうやら、意外とこの手の事に免疫が無いようだ

 「だから、ラクスは心配しないでね」

 「はい・・・」

突然の事でラクスも茹ったような顔をして足元が
ふらついているような気がする。

 「じゃあ、ラクス行って来るよ。晩餐会の用意
  を頼んだね」

 「はい」

 「おーい、俺は先にいくからな。お嬢さん達」

まだボー然としている二人を置いて俺は出勤した

 「何だ、簡単な弱点があるじゃないか。みんな
  に教えてやろう」

俺は一人、車を運転しながらご機嫌になるのだっ
た。


(午後、軍港施設内)

いつものように訓練を終わらせた俺達は書類の整
理を行っていた。
決戦まで5日を切ったのに、この手の書類は全く
減る気配を見せない。
書類は管理職の敵だと常々思う俺であった。

 「そんなわけでさ。あいつらいい歳して意外と
  恋愛事に免疫が無いみたいなんだ。アスラン
  も困ったら、カガリちゃんとのキスでも見せ
  てやれよ。大人しくなるぜ」

 「そんな恥かしい事、人前で出来ませんよ!」

 「そうだ!お前は朝っぱらから何をしてるんだ
  よ」

アスランとカガリに怒られてしまった。

 「愛のコミュニケーションなのに」

 「それは良いとして、親父さん達はいつ来るん
  だ?」

 「ニコルの親父さんに会ってからここに来るそ
  うだ」

 「「まずい。僕はどうすれば・・・」」

アスランの仕事を手伝っていたニコルと、カガリ
に仕事を押し付けられていたキラの表情が暗くな
る。

 「俺も同じくピンチなんだよな」

今、アルスター外務次官はデュランダル委員長と
極秘会談を行っているらしく、イザークも困った
顔をしていた。
どうやら、先日の対策会議は全く役に立たなかっ
たようだ。

 「素直に謝っちまえよ。俺達はちゃんと罪を償
  って今は平穏そのものなんだから、そっちの
  方がいいって」

 「ヨシさんは徹夜で高級ランジェリーのファッ
  ションショーでしたっけ?」

 「眠くてさ。折檻の方がマシだったと思う」

 「そうですか?羨ましいような気がしますが・
  ・・」

 「今は毎日様々な下着を脱がす楽しみがある」

 「発言がオヤジくさいですよ・・・」

俺の仕事中とは思えない発言に全員があきれたよ
うな表情をする。

 「お前、仕事中に何言ってるんだ?」

突然、声がしたので後ろを振り返ると、レイナと
カナを連れた親父が立っていた。

 「よう、親父。早かったな」

 「秘書が優秀だからな」

 「兄貴、人前でそんな事を言わないでよ。恥か
  しいでしょ」

 「お兄さん、それセクハラよ」

再会早々に家族三人に怒られてしまった。

 「ここには男しかいないじゃないか」

 「シホは何処にいるの?」

 「本部にお使い。俺が行くよりシホの方がおっ
  さん達に受けが良いから」 

 「どこの国も一緒だな」

 「親父だって自分の娘ながら、若い女性を秘書
  にして喜んでいるだろうが」

 「あのな、俺のいつもの秘書は男なんだぞ。今
  回は特別にレイナとカナに頼まれたから、連
  れて来ただけなんだ」

 「ふうん。そうなんだ」

 「やあ、レイナ。久しぶり」

 「カナ、お元気でしたか?」

完全に忘れ去られようとしていたキラとニコルが
二人に話し掛ける。

 「あら、こんにちは。ヤマト君」

 「元気よ。アマルフィーさん」

 「なっ、ヤマト君って・・・・・・」

 「アマルフィーさんって・・・・・・」

 「(完全にただの知り合い扱いか。怒られるよ
  りショックだろうな)」

 「ごっ、御免なさい!僕はレイナに会えないか
  ら寂しくて」

 「僕も断る勇気が無かったばかりに」

オーブ軍予備役二佐で赤服を着ているキラとザラ
隊副隊長のニコルがプライドをかなぐり捨てて土
下座をしていた。
しかし、ここに関係者しか居なくてとても助かっ
た。
とても、部下に見せられる光景ではない。
二人は若きエースとして部下達に信頼があるのだ
から。

 「もういいわよ。キラは女の子の隣りでお酒を
  飲んでいただけでしょ。別に浮気だとか思っ
  てないわよ」

レイナはそう言いながら、キラを立ち上がらせて
腰に両手を回して抱きついた。

 「キラは隊長さんなんだから、土下座なんてし
  ちゃ駄目。ねっ」

 「うん・・・」

俺はキラに「クサナギ」以下三隻の所属モビルス
ーツ隊隊長の役職を与えていたが、まともな士官
教育を受けていないキラには不可能な事なので、
ハワード一尉とホー一尉が副隊長格でその任務に
当たっていた。
どのみち、ドラグーンを搭載したキラのフリーダ
ムは最前線に出す予定なのだから。

 「ニコルもザラ隊の副隊長さんなんだから、土
  下座なんてしないでね。男の人ってお付き合
  いとかが大変なんでしょ?」

 「はい・・・」

隣りではカナもニコルを立ち上がらせて嬉しそう
に抱きついていた。
キラ達は予想外の幸運に顔をにやけさせていた。
やはり、部下達には見せられない光景だ。

 「何だよ!俺達だけが不幸だったのかよ」

珍しく、アスランが怒りを表に出しながら文句を
言っていた。

 「それは、違うぞ。アスラン」

 「えっ、どういう事ですか?」

 「我が妹達ながら恐ろしい手段を使うものだ。
  一旦、一番下にまで落としてから、あの寛容
  さだ。もし、お前がキラ達の立場なら再び裏
  切ろうと思うか?」

 「いえ、それは気が引けます」

 「もう、あの二人は遠い世界に行ってしまった
  んだよ」

もう二度とランパブには誘えまい。
下手に情報を教えると、情報が漏洩する危険があ
るからだ。

 「それで、俺はどうなるんだ?」

唯一、刑の執行を待っているイザークの表情は晴
れない。

 「ただ今、戻りました」

軍本部にお使いに出掛けていたシホが戻ってきた
のだが、彼女の横に見た事のある少女がいた。

 「今、そこで会ったんですよ。デュランダル委
  員長とザラ委員長からここへの入場許可も取
  ってあるようですし、連れてきましたよ」

 「こんにちは。ヨシヒロさん」

 「やあ、フレイ元気だった?」

 「はい、元気ですよ」

 「そうか」

俺と世間話をしていると、我慢しきれなくなった
イザークがフレイに話し掛けた。  

 「あのな、フレイ・・・」

 「こっちに来い!」

 「はい・・・」

 「ここで、二人っきりになれる場所は?」

 「近くに予備の倉庫が・・・」

 「シホ、隊長さんを借りるわね」

 「気にしないで。イザーク、書類はやっておく
  から大丈夫よ」

 「大丈夫じゃなーーーい!」

 「じゃあ、行くわよ!」

 「助けてくれーーーーーーー!」

フレイはイザークを引きずって部屋を出て行き、
イザークの声は徐々に小さくなっていった。 

 「それで、親父って何しに来たの?」

 「戦闘データと敵モビルスーツの情報集めが第
  一だが、他にも色々とな」

 「色々?」

 「戦後の話さ。プラントは地球上の数箇所の拠
  点を維持し続けなければならない。そこで、
  補給物資やモビルスーツの部品などをなるべ
  く共通の規格にして現地調達率を高めようと
  いう決定がなされたので、それの打ち合わせ
  をアマルフィー委員長としていたわけだ」

 「数箇所の拠点か」

 「ジブラルタルは多分、時期を見てユーラシア
  連合に返されるだろうが、ビクトリアには同
  盟条約に基づく駐留が決まっている。そして
  、カーペンタリアはそのままで、カオシュン
  は情勢が落ち着き次第、駐留軍の撤退が決ま
  っているし、パナマは・・・」

 「パナマ!あそこは大西洋連邦の領土だろうが
  」

 「戦後、南アメリカ合衆国の独立が認められて
  、パナマが返還されればマスドライバーの再
  建と防衛の協力をプラントが行う事になって
  いるんだよ。勿論、オーブも手を貸すけどな
  」

 「そんな重要な情報どこから・・・?」

 「重要じゃねえよ。俺が知ってるくらいだから
  。連合の穏健派にわざとリークしてるんだよ
  」

 「わざと?」

 「再建作業を進めないように忠告しているんだ
  。下手に金を掛けて再建途中だと、手を引き
  にくくなるからな。議会で予算が勿体無いと
  か言われると、政治家ってのは意固地になる
  可能性が高いから」

そして、連合の穏健派の連中はアズラエル理事に
こう言うのだ。
「再建は終戦までに間に合いませんので、今は労
力を他所に回した方が効率的です」と。

 「アズラエル理事もアレだけど、穏健派の連中
  も狸だね」

 「生き残るのに必死なんだよ」

 「あっ、そうだ。今日はクライン邸にお泊り下
  さいだってさ。今夜は晩餐会というか、パー
  ティーもあるし」

 「そいつはラッキーだ。経費が浮いたな」

 「せこいモルゲンレーテ社の役員だな」

 「国営企業故に、税金の無駄使いは慎まねばな
  」

 「似合わないセリフ。それとさ、何でさっきキ
  ラ達を怒らなかったの?昔は(可愛い娘達が
  ・・・)って暇さえあれば言ってたのに」

 「娘はいつか嫁に行く!だが、孫は俺を裏切ら
  ない。そこで、さっさと嫁に行って孫を連れ
  て来いという方針に切り替えたのだ」

後でレイナに事情を聞いたら、上司に孫を自慢さ
れてその気になってしまったらしい。

 「180度転換しやがったな。ステラもそうな
  のか?」

 「ステラはまだ早い!、早過ぎだ!シンは殺す
  !」

最後の一言は全然関係無いと思うし、物凄く自分
勝手な解釈のような気がする。
しかも、まだ16歳のレイナとカナも結婚なんて
しないだろうし、孫なんて早過ぎだろう。

 「今、一番の期待を不肖の息子であるお前に託
  しているんだ。早く俺に孫を!」

 「知るか!親父はまだ50歳前だろうが」

 「若々しいお祖父さんを印象付けねばならない
  」

 「あっ、そう」

あまりにバカバカしいので、話を切りあげようと
した時、フレイとイザークが帰ってきた。
だが、二人は特に喧嘩をしているような様子が見
受けられず、かえって腕を組んでいたりしてラブ
ラブな雰囲気を周りに放っていた。

 「イザーク、軍施設内で仲良さそうに腕を組む
  なよ」

 「ここは施設の外れで誰も見ていませんよ」

確かに、俺達の仮司令部は軍本部の空き部屋から
、軍港施端の他の軍人がなかなか寄り付かない食
堂からも一番遠い場所に置かれていた。
どうせ、書類の整理をする机と椅子があればいい
ので大きな問題は無いが、それよりも、真面目一
本槍だったイザークがここまで変わってしまうの
は予想外の事だった。
女とは恐ろしい生き物だ。
だが、何時もは以前のままに、真面目にやってい
るから問題無いだろう。
いい意味で力を抜く場所を心得始めたのかもしれ
ない。
アスランも早くこれが出来るようになればいいの
だが。

 「お前の影響力が大だな」

 「ほっとけ!」

親父に突っ込まれてしまった。

 「喧嘩はもういいのか?」

 「えっ、私達喧嘩なんてしてませんよ。ねえ、
  イザーク」

 「ああ、そうだな」

イザーク達が戻ってくるまでに約30分。
無人の倉庫で何が行われていたのか、詳しく語る
までも無いようだ。

 「お前の部隊の連中、だんだんお前に似てきた
  な」

 「ほっとけ!」

再び親父に突っ込まれてしまった・・・。


(三十分前、軍港施設内予備倉庫前)

 「クルーゼ司令も人使い荒いよね。こんな端の
  誰も使っていない区画に私達を行かせるなん
  て」

 「あの人には逆らえませんから」

この二人は何故か指定された宿舎に泊まらずに、
クルーゼ司令の自宅に居候していたのだ。
本当は夕食を食べに来いと誘われただけだったの
だが、彼の妻であるミサオに気に入られてしまっ
て、そのまま居つく羽目になっていたのだ。

 「私の若い頃に似ているわ」

これが彼女の感想であったらしい。

 「まあ、お姉様といると、楽しいからいいんだ
  けどね」

 「そうですわね」

 「しかし、こんな所にプロヴィデンスの予備の
  パーツなんてあるのかな?」 

 「ここは、試作品や失敗作品の墓場だそうです
  から」

 「そんな場所の近くが仮司令部なんて、カザマ
  君らしいね」

 「今朝は驚かされてしまいましたけど」

 「躊躇う事無くディープキスをかましやがった
  からな」

 「危うく、私達の秘密がバレてしまうところで
  したわ」

二人はその家柄や環境、本人達の性格などが重な
って今まで、彼氏というものがいた事が無かった
のだ。
その所為で全くそういう事に経験が無く、直ぐに
顔を赤くして動揺してしまう欠点を抱えていたの
だ。

 「カザマ君は意外と歴戦の勇士らしいけど、残
  りのアスラン君達はウブだろうから大丈夫よ
  。さあ、部品を探すわよ」

 「ええ」

自分達を棚に上げてかなり酷い事を言いながら、
倉庫に入って行った。
二人が倉庫に入ると、中から会話が聞こえてくる

 「誰か先客がいますわね」

 「シッ!」

ユリカがエミを制して物陰に隠れる。

 「仕事中に逢引とは私達を超える暴走振りね。
  ばっちりと弱みを握ってやるわ」

 「そうですわね。誰なのかしら?」

彼氏いない暦年齢の二人の女性が向こうの様子を
覗くと、イザークと見た事の無い一般人の少女が
見えた。

 「なあんだ。堅物のイザーク君じゃん。彼じゃ
  あ何も起きないわね」 

 「目の前に100人の裸の美女がいても無理そ
  うですわね」

 「ん?何か話してるよ」

二人はイザーク達の会話に集中し始めた。


 「全く!いい歳して変なお店に行くんじゃない
  わよ」

 「面目ない・・・」

 「それで、誰に誘われたの?あなたが自分で行
  くわけないでしょ」

 「キラに挑発されてつい・・・」

 「キラは顔に似合わず、結構強かなのよ。気を
  つけなさい」

 「ああ・・・」

 「さあて、これで終わりよ」

 「良かったー」

 「でもね。別件があるの」

 「何だ?別件って」

 「私達って婚約者同士でしょ。まだ内緒だけど
  」

 「ああ、そうだな」

 「久しぶりに会ったらする事があると思うのよ
  」

 「えっ!ここでか?」

 「イザーク、バレなければいいのよ。ヨシヒロ
  さんは黙認してくれるわよ」 

 「そうかな?」

 「そうよ。じゃあ、始めましょう」


 「あの、堅物のイザーク君にまで先を越される
  とは・・・」

 「弱みを握れたと言えば握れましたわね」

 「こんな事、面と向かって言えるわけないでし
  ょう」

 「後は、モテない君代表のディアッカ君だけで
  すわ」

 「さすがに、彼には負けないでしょう」

 「だといいですわね。ところで、部品どうしま
  しょうか?」

 「終わるまで待つしかないわね」

 「ですわね」

 「クルーゼ司令が連中は規格外だって言ってた
  理由が少しだけわかったわ」

それから30分ほど二人は耳を塞いでいた。
当然、部品を持って帰る時間もかなり遅れてしま
ったのだが、クルーゼ司令には中々見つからなか
ったと言う他は無かったのであった。 


 


    


(夜7時、クライン邸庭園内)

お昼に予想よりも大人数になるとラクスに連絡し
た結果、今夜は大規模なガーデンパーティーにな
ってしまった。
「遠慮無くどうぞ」と言ったので、多方面に情報
が伝わり、元議長が主催のパーティーとあって老
若男女様々な人達が集まっていた。
どうせ、明後日には臨戦体制に移行するのだ。
多少、楽しんでも罰は当たるまい。 

 「ヨシヒロは主催者側なのですから、挨拶に回
  らなければいけませんよ」

ラクスにそう言われたので、ラクスを連れて会場
を回る事にする。 

 「アスラン!カガリちゃん、楽しんでる?って
  ・・・ザラ委員長閣下!」

アスランとカガリはキサカさんとトダカ一佐と話
していたのだが、その影にザラ委員長がいた事に
気が付かなかった。
実は俺はザラ委員長と一度もまともに会話をした
事が無かった。
開戦時は赤服を着ていたとはいえ、一介のパイロ
ットが簡単に会えるような人では無かったし、ネ
ビュラ勲章を授与された時も一言、二言会話した
だけだったのだ。
そして、最近はラクスの事で後ろめたい気持ちが
あって、顔を合わせないで済みますようにと願っ
ていたのだ。

 「やあ、カザマ君か。アスランが世話になって
  いるな」

 「こうして、お話しするのは初めてでしたね」

 「そうだな。ネビュラ勲章の授与式では形式的
  な会話を交わしたに過ぎないからな」

表面上は普通に会話をしているのだが、息子の婚
約者を奪ってしまった形になっているのだ。
アスランは怒っていないと言っていたが、かなり
ビクビクものだった。

 「おや、(黒い死神)にしてはかなり大人しい
  のだな」

 「まあ、色々と思う所がありまして」

正直、冷や汗が止まらない。

 「アスランの婚約者を奪う結果になってしまい
  ました。アスランとラクスは出生率が落ちて
  いるプラントの最後の希望と伺っていました
  ので・・・」

 「気にしないでくれ。今はこれで良かったと思
  っているのだ。結局、我々は狭いプラントの
  中で自分達を新しい種族だと思っていたのだ
  が、それは違ったようだ。確かに、コーディ
  ネーターは新しい人種なのかも知れないが、
  出生率の低下で種の存続すら危ぶまれていて
  、婚姻統制ではもうどうにもならないのだ。
  だから、同じコーディネーター同士とはいえ
  、日本にいた君とラクス嬢の結婚はプラント
  の為になると私は思っているし、アスランが 
  ナチュラルであるカガリ姫と結婚してハーフ
  コーディネーターの子供達がオーブなりプラ
  ントなりで活躍してくれれば、我々の種族は
  生き残る事が出来るだろう。だから、あまり
  気にしないでくれたまえ」

 「そう言って貰えると助かります」

 「アスランが娘だったら、君を婿に出来たんだ
  がな。つくづく残念でならない。それにな」

 「はい」

 「二年前にアスランをラクス嬢に引き合わせた
  のに、アスランは彼女の心を落とす事が出来
  なかったのだ。甲斐性無しだったアスランが
  悪い!」

 「ははははははっ。確かにそうですね」

 「そういう事だ」

その後、十分ほどザラ委員長と会話をしてからオ
ーブ組と自衛隊組の士官が集まっているスペース
へ挨拶に行った。

 「おいっす、楽しくやってるか?」

 「よう、カザマ。久しぶりだな」

 「おんや?ホー一尉じゃないの。訓練で見掛け
  なかったよ」

 「悪かったな。夜に自主的に訓練は行っていた
  んだけどな」

 「何でまたそんな時間に?」

 「昇進したんだよ」

 「ホー一尉、予備役扱いじゃん」

表面上は予備役扱いでも、定時昇進は普通にする
ようだ。
何しろ、最終決戦が終わったら、すぐにオーブへ
戻らないといけないのだから。

 「決戦が終わったら、正式に指揮官に任命され
  るから勉強させられてる。今までサボってい
  たから座学が多くてな。自室に篭って勉強し
  てたんだよ」

 「オーブ戦の時は普通に指揮を執っていたじゃ
  ん」

 「あれは臨時でやってたからな。能力はあるし
  、才能もあるんだけど、今まで不良士官をや
  っていたツケを今払っているんだよ」

隣りからハワード一尉が現れて説明してくれた。

 「格闘王はもういいのか?」

 「格闘王ってのは後進の指導に長けてるっての
  も重要な条件なんだよ。それにな、ババ一佐
  はもういないんだ。俺とハワード一尉でやら
  ないといけないんだ」

 「そうか・・・」

ババ一佐は表面上はモビルスーツ隊を一個中隊を
指揮しているだけだったが、彼の戦死はオーブ軍
に手痛い損害を与えていた。
個人的な技量はハワード一尉の方が上だったが、
コーディネーター士官とナチュラル士官の仲を取
り持ち、後進の指導を熱心に行い、上に睨まれて
も正しいと思ったら自分の意見をちゃんと通して
いた。
彼がもっと上の地位にいれば、ユウナが原因にな
った下らない派閥争いなど起こらなかったのかも
知れない。
そして、日頃はアフターに何処に飲みに行くかし
か考えていないように見えるハワード一尉も、そ
れに付き合うか、自分の技量を上げる事にしか興
味が無かったホー三佐もババ一佐の跡を継ぐ決心
をしたようだった。

 「俺一人ではババ一佐のような事は出来ないが
  、二人でやれば何とかなりそうだからな。こ
  の部隊に志願したのもコーディネーターとナ
  チュラルの付き合い方のヒントになれば良い
  と思ったからだ。俺は地球出身のコーディネ
  ーターでここの連中とも多少違うようだし、
  結構勉強になっているよ」

 「生き残った者の義務か」

 「ああ」

珍しく、三人で真面目な会話をしているので、周
りの人達が真面目に聞いている。
アサギはうっとりとした目でハワード一尉を見つ
めていた。

 「それでさ、一つ聞きたい事があるんだけど」

 「何だ?」

 「連合と最後の決戦をやった後の飲み会の件な
  んだけど、一次会は(蓬莱)として、二次会
  は何処にしようかと思ってさ」

 「カラオケでいいじゃないか」

 「カラオケかな?」

俺とホー三佐はカラオケに行く事を主張した。

 「実はな、良いお店を見つけたんだ」

急に小声で俺達に耳打ちしてきた。

 「ほう、それはどんなお店だ」

 「是非聞かせて貰いたいものだ」

 「実はトップレスバーを見つけてな」

 「ハワード君。君ポイント高いよ」

 「信用できる同士を集めておこう」

 「キラとニコルは暗黒面に落ちてしまった。二
  人には内緒だ」

俺は今日の出来事を事細かに説明する。

 「イザークは?」

 「奴も駄目だ」

 「では、三次会だな」

 「ああ、三次会だ」

俺達は三人だけの打ち合わせを終了させた。
まさか、この場で密談をしているとは思うまい。

 「お前、何を話しているんだ?」

石原三佐が話し掛けてきた。

 「何でもいいじゃん。それより、石原三佐はマ
  ユラと仲直り出来たのか?」

 「出来たよ。宥めるのが大変だったんだ」

 「それは良かった。しかし、あの二人は性質が
  悪いよな。大企業の会長の孫らしいけどな」

 「だから、取り扱いが難しいんだよ」

 「男でもあてがえよ。実はな・・・」

朝の出来事を教えてあげた。

 「うーん、そう言われると、そうだったような
  気がする。自衛隊の士官の中でも変り種がい
  て口説いたらしいんだが、いざとなると腰が
  引けるとかそんな事を言っていたような・・
  ・。その時は好みじゃなくて振られたんだろ
  うと思っていたんだが、そいつは美男子だっ
  たからな」

 「何の話をしているの?」

 「自衛隊から来た中学生と巨乳ちゃんが意外と
  奥手だって話」

 「誰が中学生よ!」

 「巨乳ちゃんて・・・。セクハラですよ」

 「今は勤務時間外だ」

向こうに先制されるから衝撃と動揺が大きいのだ
、こちらから攻撃を仕掛ければ大丈夫なはずだ。

 「どうだ?楠木重工の社長候補はいたか?」

 「そんな良い男、簡単に見つからないわよ」

 「何でプラントで探してるの?」

 「正確には外国でコーディネーターを探してる
  のよ」

 「それって、やっぱり・・・」

 「石原のおじ様とエリカお姉様が頑張ってくれ
  たおかげで、日本国内におけるコーディネー
  ターの地位は復権しつつありますが、一度生
  まれた差別はなかなか無くなりません。私達
  は大企業の経営者の孫娘で社会的地位は高か
  ったのですが、それでも外国に逃げる羽目に
  なったくらいですから。今は日本に戻れまし
  たけど家族以外のナチュラルの男性なんて信
  じられません」

40歳過ぎはジジイ呼ばわりの癖に石原首相は例
外で、ナチュラルである石原三佐も別格なのが疑
問だが。

 「野元前首相も罪な事をするものだな」

 「彼は逮捕されましたよ。首相時代に行ってい
  た悪行と首相辞任後に東アジア共和国に情報
  を流していたスパイの罪で裁判中です。まさ
  か、自分で作った法律で裁かれるとは思って
  いなかったでしょうね」

石原首相の前任者の野元弘務は正直、あまり感心
できる政治家では無かった。
東アジア共和国への隷属とも言える政策を強行し
て野党と揉める事が多数で、彼のおかげでどれほ
ど日本の利益が失われたかわからないくらいだ。
その癖、大西洋連邦やユーラシア連合でブルーコ
スモスの活動が広がると、支持を表明して公官庁
からコーディネーターを追放した。
勿論、野党はこんな事は違法であると抗議を行っ
たのだが、彼の卑怯な所は法律を作らないで官庁
の慣習としてこの追放劇を行った事であり、邪魔
になってきた野党の政治家や反対の姿勢を取るマ
スコミや言論人を逮捕する為に、スパイ罪を復活
させ彼らを冤罪で逮捕してしまった事なのだ。
当然、こんな事を強行すれば支持率が落ちるのは
当然で、当時与党の若手政治家だった石原議員が
与党民自党を考えを同じくする同士と離党して、
野党から同じ考えを持つ政治家も加えて新党を結
成して総選挙に討って出たのだ。
その結果は予想通りに石原議員の新党の圧勝であ
り、現在の日本の方針が決定付けられたのであっ
た。

 「俺には選挙権が無いし、もう国籍もオーブと
  プラントになっているからな。最も、プラン
  トはまだ正式な国家として認められていない
  けど」

 「あなたの国籍離脱は無効になってますよ」

 「んなわけあるか。日本は二重国籍は認められ
  ていないだろうが」 

 「石原首相の取った緊急措置です。野元前首相
  時代に日本を逃げ出したコーディネーターの
  救済法で5年以内に国籍を選ぶまでは二重国
  籍可という特例法ですね」

エミ三尉が詳しい説明をしてくれた。

 「だからさ、帰ってこいよ。カザマ」

石原三佐が再び俺に帰ってくるように言うのだが
、今更帰る気にもならない。 

 「俺はもうプラント国民なんだよ。いくら世界
  中で承認されていなくてもね。それに、ここ
  には大切な人がいるからな」

そう言って隣りにいるラクスの手を握る。

 「ちぇっ、手遅れか」

 「残念ですわ」

 「説得失敗か・・・」

 「俺の事は置いといて、石原三佐は将来どうす
  るんだ?」

 「俺はどうしようかな?オーブに移住するかな
  ?」

 「それは、まずいだろう。石原家の跡取りだろ
  う?」

 「姉がいるからな。婿でも取ってくれって話だ
  。俺は政治家なんて嫌だからな」

 「マユラはどう思ってるの?」

 「私?専業主婦って良さそうよね。ヨシユキを
  送り出したら適当に家事をして、それから友
  達と美味しいお昼ご飯を食べに行って、評判
  のケーキ屋でティータイムを楽しむの。日本
  の主婦ってそうなんでしょ?」

何で俺の周りにいる女ってこんな人ばっかりなん
だろう?

 「あながち間違っていないけど・・・」

 「俺はマユラに強制するつもりは無いから。本
  人がそれで良いって言うなら日本に来てもら
  っても構わない」

 「アサギはどうするの?」

 「暫らく、パイロットを続けますよ」

やっと、まともな答えが聞けた。

 「マックの浮気を監視しないといけないから大
  変なんですよ」

 「ふーん」

一時的にでも喜んで損した。

 「じゃあ、俺は他に挨拶にいくから」

ラクスを連れて他の参加者に挨拶に行く事にする

 「あっ、クルーゼ司令だ」

 「本当ですわね」

あるテーブルにクルーゼ司令とミサオさん、デュ
ランダル委員長、タリアさん、アーサーさん、ア
デス艦長とその家族、オキタ副司令とかなり濃い
目の面々が揃っていた。

 「近寄り難いテーブルですね」

 「結構失礼だぞ。そのセリフは」

 「クルーゼ司令が一番濃いんですけど・・・」

 「よく見るがいい。老若男女揃っているし、レ
  イが子供達の面倒を見ている。一番バランス
  が取れたテーブルだ」

確かに、レイとミーアちゃんが料理を取ってあげ
たり、遊んであげたりして4人の子供の面倒を見
ていた。
タリアさん達の二人の子供とアデス艦長の子供達
であると思われる。

 「えっ!ミーアちゃん?」

 「ふふふっ、そうなのよ。あの女狐がこのパー
  ティーを嗅ぎ付けてね。何故だか参加してい
  たのよ」

子供達の手前、激怒出来ないタリアさんの怒りの
ボルテージは沸騰寸前だ。

 「アーサーさんも可哀想に」

 「私の目の前で言わないで欲しいな」

八つ当たりの対象にされる危険性が大だ。
何かミスをしない事を祈る。

 「オキタ副司令がこのような席に来るのは珍し
  いですね」

 「珍しいも何も、クルーゼに引っ張られてきた
  だけだ。飯代が浮くからラッキーだけど」

相変わらずぶっきら棒なオキタ副司令であった。

 「カザマ君、仲が良さそうで結構だわ」

ラクスと手を繋いでいる所を見たミサオさんに声
を掛けられる。

 「お子さんが生まれると聞きました。おめでと
  うございます」

ラクスがお祝いの言葉を述べた。 

 「ミサオさん、やっぱり妊婦に見えませんね。
  何ヶ月です?」

 「4ヶ月よ。調べたら女の子だそうよ」

 「普通、調べないで楽しみにすると聞きました
  が」

 「それは日本の常識でしょ。コーディネーター
  は調整するからそんな事は無いわよ。それに
  、医者の私としては調べないと気になってし
  ょうがないわ」

 「職業病ですか?」

 「そうよ」

 「カザマ君」

 「何です?クルーゼ司令」

 「嫁にはやらんぞ」

 「そんな犯罪チックな事はしませんよ」

第一、少なくとも数年後に結婚してしまう俺がど
うやって、まだ生まれて来ていない娘と結婚出来
るんだ!

 「ラウ、バカな事を言っていると、ほら」

ミサオさんがラクスを指差すので顔を見ると、あ
きらかに不機嫌な表情になっていた。

 「ラクス、どう考えても不可能だろう」

 「私の軽いジョークを真に受けないでくれたま
  え。ただ、歳を取ったラクス嬢を捨ててうち
  の娘に走らないように忠告しただけなのだか
  ら」

 「バカ正直に、最悪のシナリオを語らないでく
  ださい」

 「ラクスさん、御免なさいね。ちょっと折檻し
  てくるから」

 「えっ、何故だ?」

 「それが、わからないからよ」

 「このような席でそれは無いだろう」

 「とにかく、来い!」

ミサオさんはクルーゼ司令を引きずって裏庭の茂
みに行ってしまった。
その様子はとても、妊婦には見えない。

 「ラウは一言多すぎるのだ」

 「あれ?デュランダル委員長は忙しいのではあ
  りませんか?」

デュランダル委員長がのんびりとワインを飲んで
いたのだが、何故かこのパーティーの議員の出席
率は異常に高かった。

 「明日からは忙し過ぎて過労死するかも知れな
  いな。少数の随員でワシントンに行かなくて
  はいけないから、暗殺される危険もあるし」

デュランダル委員長はカナーバ議長の特命で大西
洋連邦首都ワシントンに降りて講和会議に出席す
るのだが、我々が勝利出来なければ出席しても無
意味な会議になってしまうし、ブルーコスモス強
行派がデュランダル委員長を暗殺して会議自体を
ぶち壊す可能性もあるのだ。
大変危険な行動であると言える。

 「君達が前線で命を掛けているのと同様に外交
  官も命を掛けて行動する事があるのだよ」

 「そうですか。上手く条件がまとまるといいで
  すね」

 「プラントを正式な国家として承認する。同じ
  く、新設された国家の承認と占領下にある南
  アメリカ合衆国の解放。貿易を適正な価格で
  行う。地球連合に代わる紛争調停を行える国
  際組織を合同で創設する。国力に比例した軍
  縮条約の締結と不戦条約の締結。これが認め
  られるまでは帰って来ないつもりだよ」

 「結構、強気ですね」

 「君達が勝てれば不可能な事ではないし、大西
  洋連邦が相手だから、強気で行かないと結べ
  る条約も結べなくなってしまうからね。プラ
  ントの独立、適正価格の貿易、停戦条約の三
  つが優先と言うのが本音かな」

その為にも、敵艦隊の半数を撃破してプラント侵
略の意図を挫き、こちらの損失は半数を切るよう
にと言われているのだが、果たして大丈夫なのだ
ろうか。
そして、強硬な大西洋連邦の政治家を相手に譲歩
を引き出せるのだろうか?
かなり、心配であった。

 「心配しなくても私は帰ってくるさ。そうしな
  ければ、タリアの暴走を止める人間がいなく
  なってしまう」 

 「はあ、そうですよね」

結局、タリアさんはレイをミーアちゃんから遠ざ
ける為に、デュランダル委員長の推薦枠でアカデ
ミーに入学させてしまったのだ。
今はザフトに出向中という事で公務扱いになって
いて、戦局が落ち着いてから講義に出ればいいら
しいのだが・・・。

 「カザマ君、レイの面倒を頼むわよ」

 「俺、終戦後に教官になるんですか?」

 「スズキ教育部長は引き抜く気満々よ」

 「任命されればやりますけどね。それで、レイ
  の事なんですけど、本人の希望も聞かずに、
  アカデミーに放り込むのはどうかと・・・」

 「レイは曲を作るのに、様々な人生経験が必要
  だからかまわないって言ってたわよ」

 「スランプにでも陥りましたか?」

 「本人に聞いてみたら?」

俺は弟達に料理を取ってやっていたレイに話し掛
ける。

 「レイ、アカデミーに入学するんだって?」

 「この戦いが一段落したら、転入という形で入
  学します。専攻はパイロット科です」

 「音楽はどうするんだ?」

 「曲は学業の合間に作りますよ」 

 「でも、急にどうして?タリアさんに強制され
  た?」

 「違います。先日、アカデミー生が見学に来て
  いた時、カザマさんと演習を行ったシンに勝
  ちたいからです。大して訓練期間が違わない
  上に、共に実戦経験があるシンに勝てないな
  んて、同じ男として悔しいではありませんか
  」

 「確かに、正直に言わせて貰えば、現時点では
  シンの方がレイより少し上だな」

 「二年で追い抜いてから音楽家になります」

 「まあ、本人がそれで良いなら・・・」

 「レイも男の子なんですよ。カザマさん久し振
  りです。それと、始めましてラクス様。新人
  歌手のミーア・キャンベルです」

 「まあ、同業者の方ですか。私、ラクス・クラ
  インと申します。よろしくおねがいします」 

 「ミーアちゃん、デビューしたんだ」

 「あんまり売れていませんけど、レコード会社
  が定期的に曲を発売してくれるそうなので、
  レイに曲を書いて貰って頑張ります」

 「そうか。頑張ってね」

 「はい、デビューしてすんなり売れるより、多
  少苦労した方が自伝とかに書く内容が増えて
  良いですよね」

 「そうだね・・・」

限りなく前向きなミーアちゃんに少しあきれてし
まう。

 「では、子供達の世話がありますから」

 「じゃあね」

レイ達と別れてハイネ達がいるテーブルへ向かっ
た。 

 「遅いぞ!カザマ」

 「俺も主催者って事になっていて挨拶が大変な
  んだよ」

 「婿殿なんだから頑張れよ」

 「俺の夢は小さな会社を経営する事なんだ。政
  治家は嫌だ!」

 「小さな会社ね。どんな会社なんだよ?」

 「ハイネを社員としてこき使えそうな会社」

 「俺は軍人を辞めるつもりは無い」

 「ミゲルは?格安でこき使ってやるけど」

 「バーカ!俺も軍人は辞めないよ」

 「残念だな」

 「俺には聞かないのか?」

 「私はどうなんだい?」

グリアノス隊長とヒルダさんが俺に聞いてきた。

 「お二人が軍人以外の仕事をしている所が想像
  出来ません」

 「俺も出来ないな」

 「俺も」

 「ヒルダが秘書とかやってたらコントだよな」

 「お花屋さんとかだったら、もっと笑える」

ヒルダさんに付いて来たマーズさんとヘルベルト
さんが隣りで思いっきり失礼な事を言っていた。 

 「失礼だぞ。お前ら」

 「マーズ!ヘルベルト!失礼にもほどがあるぞ
  !」

グリアノス隊長とヒルダさんが抗議してくる。

 「そうです。女性であるヒルダさんに対して失
  礼にもほどがあります。ヒルダさんには夢が
  あるのです」

クライン派として尽くしてくれるヒルダさんの悪
口は許せないと、ラクスが俺達に文句を言ってき
た。

 「夢ですか?ヒルダさん」

 「ああ、そうだ」

 「出来れば教えて頂きたいのですが」

 「ああ、良いよ」

 「何です?」

 「お嫁さんだ」

 「えっ、何です?」

 「お嫁さんだ!」

 「「「・・・・・・」」」

予想外の衝撃の回答に全員の動きが止まってしま
った。

 「ぷっ、ぷぷぷっ」

 「お嫁さんっぷぷぷ」

 「「「あっはははははは!」」」

堰を切ったように全員が笑い始めた。

 「ヒルダさん、お嫁さんは無いでしょうが!せ
  めて、結婚って言ってくださいよ」

俺はささやかな抗議をしながら笑いを必死に抑え
ていた。  

 「ヒルダ、カザマのいう事は正しい。腹よじれ
  そうだ。はははは」

グリアノス隊長は笑いを抑えきれなくなったよう
だ。

 「みんな、笑っては駄目ですよ」

 「そうそう」

ミゲルといつの間にか隣りにいたアビーちゃんは
後ろを向きながら体をひくつかせていた。

 「あれ?ハイネは?」

ハイネは俺達の後ろで痙攣しながらしゃがみこん
でいて、笑いを必死に抑えているようだ。

 「チームを組んでから聞いた話の中で最高に笑
  えた話だな」

 「ヒルダ、冗談きついぞ」

 「マーズ!ヘルベルト!」

 「ヒルダさんは綺麗な方ですのに。どうして、
  そんな風に笑うのですか?」

ラクスが苦言を呈するが・・・。

 「ラクス、後ろ向きだけど何か理由があるの?
  」

ラクスも体を震わせながら必死に笑いをこらえて
いたようだった・・・。


その後、ヒルダさんが激怒したので、必死に宥め
すかしてからテーブルを後にする。
それから、スズキ部長とジローに挨拶をして、ニ
コル、イザーク、ディアッカ、ラスティー、シホ
の家族と挨拶を交わしたのだが、プラントの重鎮
がこんなにいっぱい集まって大丈夫なのだろうか
と無駄な心配をしてしまった。
最後に、親父達の所へ戻ると、シン・ステラ・ホ
ーク家の面々が一緒にいて話をしていた。

 「ただいま。時間が掛かって大変だった」

 「お前の呼びかけで来ているんだから、ちゃん
  と挨拶しておけよ!」

 「クライン家の影響力だって。俺は関係無いで
  しょうが」 

 「それなら、半分しか来なかったさ」

 「そうなのか?」

 「お前は何もわかっていないな」

確かに、クルーゼ司令達は俺が呼ばないと来ない
かも知れないし、スズキ部長やジロー、ハイネ達
もそうかも知れない。 

 「もう、お前はオーブには戻って来ないようだ
  な」

 「たまには遊びに行くけど」

 「そう言う事を言ってるんじゃない」

 「プラントが正式に国家に承認されたら、俺は
  プラント国民になるって事?」

 「ああ、そうだ。昔やったIDを出しな」

 「ああ」

俺は軍服のポケットに入れていたオーブのIDを
取り出した。

 「何かあったら正式に亡命しろや」

そう言うと親父はIDを折り曲げてライターで火
を点けた。

 「はあ、俺にもっと早くオーブへ移住する勇気
  があったらな・・・」

 「親父・・・」

 「オーブとプラントの間で戦争が起こらない事
  を祈るのみだ。せめて、俺が生きている間は
  ・・・」

今の世界情勢は強力な地球連合に小国が連合して
対抗するという状態なので、比較的同盟国間の仲
は良好である。
だが、戦争が終了して共通の敵を失えば、各国は
それぞれの思惑で動くようになり、昔の仲間が今
の対立国という事態もありえるだろう。
その時、俺はプラントの事を第一に動く事を、親
父はオーブの事を第一に動く事を今ここで決意し
たのだ。

 「そうだな。戦争が起こらない事を祈るよ」

俺達はこのまま一生親子である事は間違いないの
であろうが、進む道は少し違ってきているのかも
しれなかった。

 「ヨシヒロ・・・・・・」

 「ラクスは気にしないでくれ。俺達親子で決め
  た事だし、そう簡単に戦争になってたまるか
  」

 「でも・・・」

 「俺は自分の意思でラクスを選んだんだ。だか
  ら、自分はいい女なんだって胸を張れよ」

不安そうなラクスの肩に手を回しながら、話を切
り上げてレイナ達の元に向かった。

 「お兄さん、お父さんと何を話していたの?」

 「俺がプラントに骨を埋める覚悟をした以上、
  親父と対立する可能性があるって話をしてい
  たんだ。国家同士が永遠に友達である事は難
  しいからな」

 「そんな・・・」

 「多分、無いとは思うが。絶対に無いとは保障
  できない」

 「僕がアスランと対立する可能性があるって事
  ですか?」

俺の話を聞きつけたキラが話しに入ってきた。

 「アスランはどうなのかな?カガリと結婚する
  としても、どちらの国に住むんだろう?それ
  によって変わるな。オーブに住むなら俺と戦
  う可能性はゼロでは無いし。他にも、カナと
  ニコル、イザークとフレイ、石原三佐とマユ
  ラ、シンは家族と同じ問題を抱えているのさ
  」

 「兄貴・・・」

 「ヨシさん・・・」

カナとニコルも心配そうな顔をしている。

 「さあ、これで辛気臭い話は無しだ。俺達は目
  前に迫った決戦に勝たなければお先真っ暗な 
  んだ。精々、英気を養おうや」

ラクスに酒を注いで貰い、食べる物を探したのだ
が・・・。

 「全部、無いじゃん!」

 「あっ、カザマさん。いたんですか?」

 「お前がいたんだよな」

爆食王子であるシンの存在をすっかり忘れていて
、早く食べ物に手を付けなかったのは俺の罪なの
だろうか?

 「さすがに、クライン家の出す料理は美味しい
  ですね」

 「お前は意外と味にうるさかったよな」

 「意外は余計ですよ。だから、ルナのクソ不味
  い料理は絶対に食べませんって」

 「お前、ストレートに言うな。怖くないのか?
  」

 「メイリンやステラと話しているから聞いてま
  せんよ」

そんな話をしていると、噂の三人娘が俺達の元に
やってきた。

 「ヨシヒロ、私プラントの防衛隊に選出された
  の」

 「防衛隊?」

 「パイロットが決戦で全員出払って、一部の教
  官くらいしか残らないんだよ。そこで、アカ
  デミーの優秀な生徒が俺達残留教官の指揮下
  に入って、偵察や防衛任務に就くわけだ」

先ほど、挨拶をしたスズキ部長がタイミング良く
現れた。

 「大丈夫なの?そんな事をして」

 「お前らが漏らさず討てば問題ない。元々見せ
  掛けだけの戦力として、計画されているんだ
  から」

 「プラントは勝ち続けているけど、常にギリギ
  リか・・・」

 「開戦以来、綱渡りを続けているんだよ。でも
  、後1メートルでゴールだから最後まで渡り
  切らないとな」

 「絶妙な例えだね」

 「未熟なヒヨっ子ばかりだけど、シンとステラ
  には期待しているんだ。後、ルナマリアも筋
  がいいから選ばせて貰った」

 「シン、先に選ばれた事を言えよ」

 「飯食うのに忙しかったんで」

シンはやはり、どこかが抜けている。

 「ルナも大した物だな」

 「頑張ります!」

 「力を抜きな。お前らは良くやってるよ。俺が
  14歳の時なんて、本当にただのガキだった
  からな」

ルナの頭の上にポンと手を置きながら優しく話し
掛けた。

 「メイリン達はどうするんだ?」

 「アカデミーは休校で全学生が手伝いに回りま
  す」

後方任務の一部を肩代わりさせて、一人でも多く
の人員を前線に回すようだ。

 「シンとステラは俺の指揮下に置いて万が一の
  時は他の教官達と迎撃に出て貰う予定だ」

 「そうか。シンとステラには実戦経験があるか
  らな」 

 「(おっさん)、二人を頼むな。俺の可愛い弟
  と妹だからさ」

 「任せろよ」

モビルスーツ隊の指揮が上手い彼なら無駄死にを
させる事もあるまい。

 「おや?そろそろ、お開きの時間かな?」

時計はもう夜10時を指していた。

 「全員、注目!」

俺の大声で全員がこちらを見る。

 「いよいよ、明後日から一部は明日から臨戦態
  勢に入ります。今日、このパーティーに出席
  した軍人が一人でも多く生還できる事を祈り
  つつ、パーティーをお開きにします」

会場から盛大な拍手が鳴って、パーティーは終了
した。


(翌日夜10時、クライン邸)

パーティーの翌日は明日の出発に備えての艦とモ
ビルスーツのチェックと物資の積み込みで一日が
終了した。
艦のスピード差を考慮して「ゴンドワナ」を含む
中央艦隊が先に出撃したので、ハイネ達を見送る
事も忘れない。
明日は艦隊を出撃させてから、自衛隊の応援艦隊
と同盟国の艦隊と合流して、戦場予定地点に布陣
する事になっていた。
ついに、最後の決戦が始まるのだ。

 「戦闘が終了すれば、一週間ほどで帰れると思
  うんだけど」

俺の個室でラクスと最後になるかも知れない会話
をする。
さすがに、今回は生きて帰れる保障が出来ないで
いた。

 「形見とか預けると死んじゃいそうだから、無
  しにするね。それとさ、明日の朝はいつもと
  同じように送り出してくれない?違った事を
  すると死んじゃうかも知れないし。生き残り
  のパイロットって意外と臆病だろ。変に細か
  い事を気にするし」

 「臆病でもいいから帰ってきて下さい・・・」

ラクスは涙を流しながら俺に何かを手渡した。
手の中を覗き込むと、少し古い指輪のようであっ
た。 

 「これは?」

 「母の形見です。預けますので、必ず返してく
  ださいね」

 「そうだね。ちゃんと返すよ」

「指輪をちゃんと返さないと」と思うと、生きて
帰れるような気がする。

 「ラクス、俺はプラントに来て、アスラン達と
  出会ってからラクスに会えて本当に幸せだ。
  ここ数年生きてて良かったと心から思える。
  本当にありがとう」

 「私もヨシヒロに出会えて良かった。でも、二
  人の幸せはこれからです。お早いお帰りを」

 「そうだね」

 「はい」

二人の最後かもしれない夜は更けていった・・・


(同時刻、クライン邸の一室)

今日はシーゲル閣下の温情で、レイナとキラは同
室に泊まっていて、カナとニコルも同じであった

この事にうちの親父は渋い顔をしていたが、シー
ゲル閣下と飲みに行ってしまって、特に邪魔をす
るような事はしなかった。 

 「いよいよ明日か・・・」

 「心配しないでよ。必ず帰ってくるからさ」

 「必ずよ・・・」

 「泣かないで、ねっ。これで戦場に出るのは最
  後にするから。そうしたら、カレッジに戻っ
  て学業を優先する。二人で卒業して同じ研究
  所にでも務めて一緒に暮らそうよ。幸いにし
  て資金はあるから、後はお義父さんの許可を
  得れば大丈夫」

 「それってプロポーズ?」

 「今は無理だけど、二年後くらいにはそうかな
  」

 「うん。一緒に暮らそう」

 「ふー、断られたらどうしようと思った」

 「そんな事しないわよ。はい、これを持ってい
  ってね」

レイナはキラに神社のお守りを渡した。

 「(交通安全)?」

 「戦争から生還できそうなのは、それしか無か
  ったの」

 「ありがとう。生きて帰れそうな気がする」

 「どういたしまして」

二人の夜も静かに過ぎていった。


(同時刻、クライン邸の別の一室)

 「ねえ、ニコルは両親と一緒にいなくていいの
  ?」

 「両親とは昨日、一緒だったからいいんですよ
  」

 「ならいいんだけど。ねえ、ニコルは戦争が終
  わったらどうするの?」

 「音楽家を目指すのは変わりませんが、オーブ
  の音大に留学しようかと思いまして」

 「オーブの大学に留学するの?」

 「中立国の強みなんでしょうね。あそこの音大
  の出身者は外国でコンサートを開き易いんで
  すよ。僕は世界中の人に自分の音楽を聞いて
  欲しいですから」

 「そうなんだ。私は大歓迎だよ。姉貴は毎日キ
  ラに会えるから羨ましくてさ」

 「そうですね。僕もカナに毎日会えるのは魅力
  的ですね」

 「じゃあ、決まりね」

 「決まりです」

二人は楽しく夜を過ごしたのだった。


(同時刻、ザラ邸内)

今日もザラ委員長は仕事が忙しくて帰宅出来なか
ったので、アスランはカガリと二人きりであった

多分、ザラ委員長が気を使ったのだろう。

 「明日は出撃だな」

 「ああ、これで戦争は終わりだ」

 「アスランは戦後どうするんだ?」

 「カガリを手伝うよ」

 「でも、お前は一人息子だし、ザラ家が断絶し
  たら父上が悲しむぞ」

アスランがカガリを手伝うという事は彼の婿入り
を意味するからだ。

 「ザラ家が何百年も前からの名家なら父上も嘆
  いただろうが、我々は所詮成り上がり者でし
  かないし、仕方が無いだそうだ。それに、俺
  達の子供の誰かが跡を継ぐ可能性が無くなっ
  たわけではないと。シーゲル閣下もラクスと
  ヨシさんに同じ事を言ったらしい」

 「そうか。じゃあ、頼りにするからな」

 「頼りにしてくれ」

 「アスランが来てくれるのはとても嬉しいけど
  、本当はあいつにも来て欲しかったな」 

 「ヨシさんか?」

 「家族がいるから勝算はあったんだが、昨日の
  あの宣言で希望は費えたな」

 「ラクスと共に生きる決心をしたから、これか
  らはプラント第一で動く。もし、オーブと敵
  対する事があれば俺達でも討つか・・・」

 「もう、プラントはあいつの祖国になってしま
  ったんだな」

 「今まで気が付かなかったけど、ラクスって凄
  い女性だったんだな」

 「論点が違うだろう」

 「俺にとっては、カガリが凄い女性だったんだ
  よ」

 「急に恥かしい事を言うなよ」

 「事実だしな。それに、カガリと俺が頑張って
  そういう事にならないようにすればいいんだ
  。俺達の他にもキサカさんやトダカさん、ハ
  ワード一尉、ホー三佐、アサギ、マユラ、キ
  ラ達も助けてくれるさ 」

 「そうだな」

 「さて、俺達は二人で仲良く出撃出来るんだ。
  早く寝て英気を養いますか」

 「そういう所がカザマに似てきたな。まあ、い
  いけど」

その後、二人が直ぐに寝たのかは定かではなかっ
た。


(同時刻、マッケンジー邸内)

 「親父の奴、気を使ったらしいな。誰もいない
  ぜ」

 「そうみたいね。ラスティー、今日はラクスか
  ら貰った高級ランジェリーを着けているから
  安心しなさい」

 「根に持ってるな」

 「当たり前でしょう。あんな事を人に言って。
  あれはたまたま着けるものが無かったから、
  官給品の下着だったのに」

 「悪うございました」

 「許してあげるわよ」

 「それでさ、話は変わるけど。シホは戦後どう
  するんだ?」

 「軍医をやれば、医者の研修期間が免除される
  からそうするわ。ラスティーは?」

 「戦後、状況が落ち着いたら除隊して修行の日
  々だな。俺は親父の跡を継がなければならな
  いから」

 「お互い忙しいけど、頑張りましょう。いつ結
  婚できるかはわからないけど」  

 「俺達は子供の頃から一緒なんだ。あせらず、
  ゆっくり行こうぜ」

 「そうね」

二人はゆっくりと最後の夜を過ごしたのだった。


(同時刻、ジュール邸内)

 「ねえ、イザーク。エザリアさんは何処に出掛
  けたの?」

 「ザラ委員長とシーゲル元議長と打ち合わせら
  しい」

 「怪しいわね。三人とも一人身なわけだし」

 「フレイ!母上は俺を一人で育てながら、議員
  の仕事をこなしてきたのだ。そんな浮ついた
  話は・・・」

 「あのね、イザーク。エザリアさんはまだ若い
  一人の女性なのよ。もう一花咲かせたいって
  、きっと思っているわよ。同じ女だから私に 
  はわかるわ」

 「だからと言って、あの二人か?」

 「一番身近な男性でしょ。あくまでも、可能性
  だけだけど」

 「ザラ委員長ならアスランと兄弟に・・・。シ
  ーゲル閣下とならラクス様と兄妹か。どちら
  が良いかは一目瞭然だな」 

 「あくまでも、予想よ。他の男性かもしれない
  し」

 「母上と同年代で一人身の男性・・・・・・。
  うーん」

 「失敗したわ・・・」

イザークは深く考え込んでしまい、フレイの呼び
掛けに答えなくなってしまったのであった。


(同時刻、クルーゼ邸内)

クルーゼ宅のリビングで、一人の男性と三人の女
性がお茶を飲みながら話をしていた。

 「はーあ、私達って不幸よね。今頃みんな恋人
  達と仲良く最後の夜を過ごしているのに、私
  達だけ一人きりなんて」

 「本当、不幸ですわ」

 「石原三佐はマユラのブスと、ハワード一尉は
  アサギと、カザマ君の部下もディアッカ君以 
  外は売約済みか。私達のような、完全無欠の
  美少女が売れ残るなんて理不尽よね」

 「ありえませんわ」

 「二十歳にもなって美少女は無いと思うのだが
  ・・・」

クルーゼ司令が突っ込みを入れてみるのだが、そ
れは綺麗にスルーされた。

 「他にいい男はいないの?」

ミサオがお茶を注ぎながら二人に聞いてみる。

 「うーん。相羽一尉、コーウェル君は普通だし
  残りもパッとしませんね。後は、ホー三佐か
  。でも、彼は・・・」

 「彼は?」

 「ナチュラルですもの」

 「噂を聞くと、そんな事を気にする男には見え
  ないけど」

 「カザマ君と互角に近い技量を持つ男だしな」

 「ナチュラルなのに凄いわね」

 「士官なんだから頭は悪くないのよね」

 「ですわね」

 「「後でコナ掛けておきましょう」」

 「頑張ってね」

 「(ホー三佐、すまん。私ではどうにもならん
  。二人の美女に迫られるのだ。我慢してくれ
  たまえ)」

クルーゼ司令の心の声は誰かに届く事は無かった
。  


 「ねえ。ラウ、起きてる?」

夜中になり、二人で寝室のベッドに入ってから、
ミサオはクルーゼに話し掛けた。

 「ああ、起きている」

 「あなた。まだ、フラガ少佐に拘っているの?
  」

 「ムウに罪は無いのであろうが、罰しようにも
  アル・ダ・フラガはこの世に存在しないから
  な。次で運が良ければ倒せるだろうし、運が
  無ければ逃げられるだろうな」

 「あなたが負けるって選択肢は無いのね」

 「私がムウに負ける可能性は限りなく低いな」

 「ならいいけど。ちゃんと帰って来なさい。子
  供の命名権は譲ってやったんだから」

 「安心するがいい。今、3586個の候補から
  選択中だ」

 「無駄に労力を使っているわね」

 「本当は10865個の候補があったのだが、
  約三分の一に減らす事に成功したのだ」

 「あっそう」

自分の夫は間違いなく変人だ。
ミサオは確信を深めたのであった。


(同時刻、エルスマン邸内)

 「なあ、ディアッカよ」

 「何だ?親父」

 「俺はな、お前が最後の夜を恋人と過ごすのか
  な?って思って、母さんと出掛ける計画まで
  立てていたんだよ。それが、このザマとは情
  けない。お前の同期は全員可愛い彼女がいる
  ではないか」

 「ねえ、ディアッカ。誰か良いお嬢さんはいな
  いの?」

 「その内、綺麗な娘を見つけるから心配するな
  よ」

 「無理っぽいな」

 「無理っぽいですわね。お見合い相手でも探し
  ましょうか?」

 「頼むな。母さん」

 「任せてください」

 「ちくしょう!絶対に生き残って可愛い彼女を
  作ってやる!」 

ディアッカの絶叫は近所中に響き渡った。


翌朝早朝に、俺達はクライン邸をいつも通りに出
発した。
昨日はキラとニコルが泊まっていたので、彼らを
車に乗せて行く事にする。

 「あの、ヨシさんは何時もラクスさんとキスを
  してから出掛けるんですか?」

 「ああ、そうだよ。お前達もしてたじゃん」

 「僕達は特別な出発だったからです」

 「特別ね。俺は験を担ぐから普段通りにやらせ
  て貰ったけどな。まあ、それはそうとお前ら
  死ぬんじゃないぞ。妹達が悲しむから」

 「「はい」」

車は軍港に到着して、俺達は簡単な最終ミーティ
ングを行った後、各艦に乗り込んでから出港準備
を開始した。

 「タリアさん、出発準備は大丈夫?」

 「全部完了よ。残りの各艦も準備完了だそうよ
  」

 「クルーゼ司令、第三分艦隊発進準備完了です
  」

 「そうか。君は同盟国艦隊の集合基点になって
  いるから、先に出港してくれ」 

 「了解です」

 「(やまと)と(むさし)は先に出発して自衛
  隊第一防衛艦隊と合流して下さい」

 「すまんな」

 「(やまと)と(むさし)が出たら次は俺達だ
  ぞ」

約三十分後に発進シーケンス通りに行動してアー
クエンジェルを出港させた。
宇宙に出て外を見ると、前方に巨大な(やまと)
と(むさし)が見え、プラントの各軍港からナス
カ級やローラシア級の艦隊が次々に出港していく
光景が見え、その数は開戦時の艦隊の比では無か
った。

 「軍港の連中はヘロヘロですね」

 「彼らはほとんど徹夜で作業をしていたのよ」

 「アカデミー生が手伝いにくれば少しは楽にな
  りますかね?」

 「あんまり変わらないかもしれないわ」

 「本国の防衛部隊の四分の三のパイロットが訓
  練生ですよ。俺達で食い止めないと大変な事
  になりますね」

 「責任重大よね」

数時間後、集合予定地点でほぼ全艦隊が集合して
防衛陣形を張り始めた。
俺達はここに全艦隊を集結させて、敵艦隊に挑戦
状を叩き付けるのだ。

 「敵の数が多いからなるべく長躯させて、補給
  に負担を掛けさせるって事ですかね」

 「それに、この距離から核を撃たれてもプラン
  ト本国は被害を受け難いわ」

 「いよいよ、正念場ですね」

 「ええ」

連合軍の艦隊は既に、月を出発していて29時間
後には戦闘開始になると予想されていた。
果たして、俺達は生き残る事が出来るのか?
勝利する事が出来るのか?
それは、誰にもわからなかった。


            あとがき

次は最終決戦編1です。
誰を死なすかまだ考えていないけど・・・。
多分、書きながらノリで決めてしまうかも。


 

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