「あ〜、何か無駄に疲れた……」
何でこれから試験があるのに、エネルギー(主に精神力)消費しなきゃいけないんだよ。
「シロウさ〜ん、早く私たちもご飯(デート)に行きましょうよ〜」
「ふん!」
左手でアッパー、右手で打ち下ろし。これぞホワイトファング!
「ぴぎぃぃぃぃぃぃ………」
「お前が面倒なことに首突っ込むからだろうが、あ〜ん?」
おまけに今変なルビ見えなかったか?
「うぅ〜ひどいですよ、シロウさん〜……ぐっすん、しくしく……」
「お前はどこぞのハンマー持ったポンコツか……」
その場に体育座りしていじけるイリヤ、その様子に噂に聞いた学校の先輩の影が見える。あの人も、しょっちゅういじけてたらしいからな……
「はぁ……ほら。行くぞ、イリヤ。」
「………(じ〜)」
何だ、その物欲しそうな眼は。
「まぁ、さっきは困った人(色んな意味で)の手助け、頑張ったから。ご褒美にデザートも食べていいことにしよう。」
そう言って、頭を撫でると物凄い良い笑顔しやがった。おまけに頭とお尻に、白いイヌ耳と尻尾が見えるぞ……
「約束ですよ!絶対ですよ!!後で駄目って言っても聞きませんからね!!!」
「分かった分かった。ほら、さっさと行くぞ」
「は〜い♪」
すっかり機嫌がよくなったイリヤの手を綱代わりに掴みながら、食堂へと向かう。こいつ、時間が経つたびに幼児退行してないか……
(済まん、書いてて楽しくなったもんで。頑張れ飼い主)
今、俺の未来を暗示する嫌な電波聞こえたよ。あはは……(涙)
ある英霊?の物語
第5話 頑張って、戦おう(後編)
やってきた学食は、時間が時間のせいか、人はまばらだった。
しかし、ここ大学みたいな講義体制なのか……?普通の高校とかだと今授業中だろ……?
「シロウさん!シロウさん!!早く早く!!」
袖を引っ張って、俺に催促するイリヤ。お前は欠食児童か。
「分かったっての。俺が今から取ってくるからお前は黙って席にでも座ってろ。いいな?」
「は〜い。あ、デザートはパフェですよ〜。一番大きいの〜〜……」
言うが早いか、席選びに走り出すイリヤ。あ、こけた。泣きそうだな……お、泣かない。目をごしごししながら、私負けませんとばかりに立ち上がる。
良〜し、偉いぞ。イリヤ。あ、何か周りの生徒も温かい目でイリヤを見守ってるし……
………いかんいかん、このままでは保父からオトウサンにクラスチェンジしてしまう。
「さ、さっさと飯を取ってこよう」
……………まぁ、泣かなかったし、特別にデザートのお代わりも許してやろうかな?
「はい、いらっしゃい!何にする?お?見ない顔だね?」
「あ、あぁ……最近来たんでな」
何かいかにも、私食堂のおばちゃんって人がカウンターの向こう側にいる。後ろでは数人の料理人が、炎をがんがん使いながら、料理に勤しんでる。むしろ本人から炎が出てる?
「急げ!追加は出来たか!?」
「大皿追加完了しました!」
「こっちも一つ完了した!!敵侵略速度は!?」
「……駄目です!!未だ衰えません!!第13防衛壁(大皿13枚目)突破されました!!」
「くそぉ……やつは化け物か!?」
……………なんか、誰が食べてるか、分かった気がする。
「……頼めるのか?俺」
「あぁ、気にしなさんな。いつものことだから。で、何にする?」
「えっと……Aセット2つ。後……デザートってあるか?」
「個別のかい?もちろん。うちは何でも揃ってるからねぇ」
「んじゃ、パフェを。ここで一番大きいのを頼む。」
ま、精々でかくてもキングサイズ程度だろうしな。
「あいよ。オーダー!!Aセット2丁、パフェランクSSS1丁!!」
ザワリ……
な、なんか学食の空気が変わってるぞ、おい。
「ま、まさか、あれを頼む奴がリコちゃん以外にいるとは……」
「知っているのか、ゲッコー?」
「あぁ、あれはこの学食で封印されしもう一つの料理。あまりの苛烈さに誰も挑戦しなくなったと聞くが、よもやそれに挑むものがあろうとは……」
うわ〜、何か嫌なフラグ立てたっぽい……
「わ、悪い、キャンセル……」
「料理長!もう、手が追いつきません!!」
「まだだ!まだいける!!お前ら、今日はここで全員潰れる気で作れ!!本日は店じまいだぁ!!」
「たった今、第14防衛壁突破されました!キャロルが今増援呼びにいってます!あの人がくれば……」
「あいつに頼むなんざまっぴらごめんだ!見テロ〜、アイツノヒニクナエミ、キョウコソトメテヤル〜。ケケケケ……」
「料理長〜!!」
「ん?どうかしたかい?」
「………………いえ。これで、支払いお願いします。」
ミュリエルさんからもらった紙を見せる。もう無理だ、俺には止められない……
パフェランクSSSとやらは後から来るらしく、Aセットの乗ったトレイを持って、イリヤを探す。
「あ、シロウさ〜ん、こっちです〜」
「おぉ、居た居た、って……」
よりにもよってそこかよ……ある程度は読めてたけどさ……
イリヤが手を振る横には、寡黙なちみっこがもきゅもきゅとほっぺ一杯にごはんを詰めてますよ、えぇ。
「何でお前はあえてここを選ぶんだ?」
「たくさんの人数で食べた方が美味しいじゃないですか?」
「……(こくこく)」
無言で頷くリコちゃん。いや、お前の場合一人でも変わらない気もするけどな………
「ん……(カチャ)お代わりはまだでしょうか?」
そう言って15枚目の皿を積み上げる。あの、その一枚が俺の3食分なんですけど……
「ほれ、飯。食えるか?無理するなよ。」
「大丈夫です、お腹ぺこぺこですから。」
片方のトレイをイリヤに渡して、俺も席につく。ごめん、俺はすでに食欲が失せてる。
「いっただっきま〜す♪あむあむ……」
結構腹が減っていたらしく、意外と速いペースで食べ始める。
「こら、もっとよく噛め。」
「そうです。食べ物は良く噛んでしっかり味わって食べないと……あむ(もきゅもきゅ)」
いや、ほっぺそんな膨らます程入れてる奴に言われてもな……
「追加お持ちしました〜!!!」
駆けてきた料理人が、先程と同じ大きさの皿を5枚持ってくる。今度は中華風みたい。
「どうも……あむ(もきゅもきゅ)……(カチャ)」
ただいま16枚目突破。
青ざめながら、料理人は空になった皿を持って調理場へ走っていく。
「凄いね〜、一杯食べれるんだね♪」
「ふふ……」
嬉しそうに笑うイリヤに、自慢げな笑みを浮かべるリコ。
「てか、お前授業中じゃないんかい……」
とっくに食べる気が失せてる俺は料理を軽くつまんでは戻すを繰り返してる。
「朝からシロウさん達を探していたので、ご飯を食べてませんでしたから。今日は自主休講です。(もきゅもきゅ)」
「あ、そ……」
食事のためなら、授業もさぼるのね。
「あぅ〜、もうお腹一杯ですぅ……リコちゃんみたいには無理…」
イリヤのスプーンの動きが止まる。
「……ん、全部食べてはいるな。よしよし」
「ん〜〜〜〜……えへへへ」
「(もきゅもきゅ)仲が良いんですね。」
撫でられてるイリヤの頭をじっと見つめるリコちゃん。いや、そんな羨ましそうに見られてもね。大河にでも頼んでください。
「次、パフェ来るみたいだけど……大丈夫か?無理はしなくていいぞ?」
「大丈夫です、甘いものは別腹ですから♪」
出た!女に眠る第2の胃袋(アマイモノハベツバラ)!!
「そ、そうか……ただ、本当に無理はしなくていいからな。」
多分、人外なサイズのパフェが来るだろうから……
「お、お待たせしました……」
と、早速来たみたいだな……
「鉄人ランチ追加分と、パフェランクSSS。通称『我が愛は永久に』です。」
え〜〜〜〜と……何だ、これは?
あのね、横幅が俺の肩幅の広さな上に、テーブルから俺の頭までの高さのパフェって……
「解説します。このパフェは我が学食の料理長が友人の結婚式の際、嫌がらせもとい贈り物として送った品です。出来が良かった為、学食のメニューとしても追加されましたが、あまりの大きさの為食べきれたのは今までその友人のみでした。ちなみに、その友人に『これを食わなきゃ、結婚は許さん!!』と料理長は言ったそうです。」
「これを、一人で食ったのか……」
あぁ、その友人さんが泣きながら食った様が見えそうだ。
「で、上に乗ってる人形は?」
パフェの頂点にはデフォルメされた男女が3人乗っている。一人の男が女性を抱えている逃げている様子と、それに四つんばいで必死に手を伸ばしてる男の姿。
「女性は友人の奥様です、それを抱えているのが料理長、膝をついているのは友人です。」
「………ん、構図は読めた。ちなみに、友人の夫婦仲は?」
「それを見る度料理長が膝をがっくりついてます。そりゃあもう、こっちが悲しくなるくらいに。」
……料理長、早く新しい恋見つけなよ。
「あの、あの!これ、全部一人で食べていいんですか!?」
で、イリヤはというと、あぁ…おあずけくらってる犬みたいな顔してるよ。
「は、はい。どうぞ……」
「いっただっきま〜〜〜す♪(パクパクパクパク……)」
言うが早いか、リコにも負けないスピードで食べ始めるイリヤ。
「む……(もきゅもきゅもきゅ)」
それを見て、更にスピードアップするリコ。待て、ちょっと待て。
「おい、早く調理場に戻った方が良くないか?」
「は、はい!失礼します!!」
若い料理人は足早に戻っていく。あぁ、調理場の修羅場な空気がまた上がった気がする……
「シロウさんは食べないんですか?(パクパクパクパク……)」
「あ、あぁ……甘いものは苦手なんでな……」
つか、これ見たら胸焼け起こすっての。
「え〜、夢じゃあんなに食べてたじゃないですかぁ?(パクパクパクパクパク……)」
「夢と現実を一緒にするな。てか、どんな夢だ?」
「えっと……(パクパクパク……)シロウさんとご飯食べにいったんですよ。そしたら、シロウさんってば、先にデザート食べたいってごねて聞かなくて……(パクパクパクパクパク……)仕方なく一緒に頼んだら、上のクリームだけでもって言って聞かなかったんですよ♪(カリカリカリ………)本当に、お子様なんですから……」
「お前に言われたくないわ」
もう一度、朝の台詞を思い出してみる。
『うふふ……駄目ですよ、そんなの……まだ、早いです……』
『だから駄目ですってば……もう。甘えん坊ですねぇ、くすくす………ご飯食べてからですってば……』
『え、生クリーム?もう、仕方ないですね……ちょっとだけですよ。』
………確かに。その通りだ。
あぁ、思わずエロネタかと思ってしまった自分に自己嫌悪……
「むむ……中々やりますね(もきゅもきゅもきゅ……)」
「リコちゃんには負けるよ〜(パクパクパクパクパク……)ふぅ」
あ、もう食べ終わったのね……早いこと。
「あの〜、すみませ〜ん。」
イリヤが調理場の方に声を向ける。ま、まさか、それはないよな……頼むから、勘弁してくれよ……
「お替りお願いします〜。」
キターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「!?(ゴクン)私も追加を早くお願いします。」
コッチモキターーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「な、何ぃ!!?更にお替りだとぉ!!!?」
「み、皆!!リライトさん連れてきたよ!!」
「クロ〜〜!!手前何で来た〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
「お前が今日も負け越しそうだっていうから、その顔を見にな」
「料理長!!今は喧嘩してる場合じゃないです!早く追加を作らないと!!」
「ほら、さっさとやるぞ。負け犬」
「…………ムキ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
あぁ、調理場が更に騒がしく……
「本気でまだ食う気か………?」
「はい♪まだまだ行けます♪」
「……負けません」
背中から食気(オーラ)を出すリコと、それに気づいてないイリヤ。いや、フードファイト勃発させなくていいから……
「………あ〜、俺も手伝ってくる。」
何か二人の食べるさま見てたら、体がうずうずしてきたし。くそ、この体のせいだ。
「いってらっしゃ〜〜い。まだかな、まだかな〜〜〜〜?」
「ふふふ……」
あぁ、どうしてこんなことになったんだろう?調理場に向かいながら、そう思わずにはいられなかった。
で、その後はというと……
「幸せです〜〜〜〜〜〜〜〜〜(パクパクパクパクパクパク…………)」
「(もきゅもきゅもきゅもきゅもきゅもきゅ……………)まだまだです。追加お願いします」
「「「無理だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!」」」
俺も参戦したが、二人の無限の胃袋には遠く及ばず。
結局食材の備蓄切れと、試験の時間という事で勝負は引き分けとなった。
ただ、今回の件でリコの最高記録の大幅な更新と、新たな食王(ショッキング)が誕生したことは言うまでもない。
「うわ〜〜〜〜、広いですね〜〜〜〜〜。」
イリヤが感慨深げに闘技場を見渡す。
「あ、あそこでジュースの売り子やってますよ。わ〜、野球場みたい。」
「すまん、ちょっとだけ休ませてくれ……試験ぎりぎりまで」
言って、地べたに腰を下ろす。もう駄目、体力が続かない……
「もぅ、情けないですね……」
黙れ原因の一端。
とりあえず、ゆっくりと休みながら辺りの様子を見上げる。
俺たちが今居るのは例の闘技場の選手出入り口の辺り。
観客席はすでに千人以上の人数で埋め尽くされていて、彼らの声が端々に聞こえてくる。
「おい、何かもう疲れてるぞあいつ……」
「大丈夫なのか……まぁ、前回もそう思わせといて、いきなりだったからな。」
「ね、ね?今度の人、前の人より格好よくない?」
「そ〜?何か、あんまり……前の人の方がいい感じだけど。」
ほほぉ……俺は大河以下ですか。そうですか……こりゃ是が非でも、頑張らんと。
「皆〜〜。私、頑張るからね〜〜〜♪」
観客に大きく手を振るイリヤに、観客から声援が飛ぶ。お前は80年代のアイドルか。
「さ、シロウさんも、早く立ってください。」
「はいはい……よっと」
すたっと、立ち上がる。うん、体は動く。今のうちに回路も起動して、と……
「………よし、準備完了。」
「私も行きます。リリス!」
イリヤも手の中にリリスを召喚して、準備完了。
「お〜い、シロウ〜〜〜!!」
ん、この声は……声の主を探すと……いた。ちょうど選手入り口の上の所に。他の奴らも一緒だ。
「……大河!お前も居たのか!?」
「当たり前だろうが〜!新しい仲間の誕生かもしれないんだからな〜〜!!」
そういう大河の目線の先には……はしゃぐイリヤ。
「………お・に・い・ちゃ・ん?」
「ま、待て待て未亜!俺は純粋にあいつらを応援しようとだな……」
「………そういう事にしておくね、『今』は」
「……………ウィ」
はは、尻に敷かれてるな……
「シロウさ〜ん、頑張ってくださいね〜〜」
「イリヤ殿も〜〜〜」
「情けない格好見せるんじゃないわよ!」
「頑張るですの〜〜〜♪」
「決着は次こそつけてもらいます……」
救世主クラスの面々(一部違う)に手を振って答える。てか、まだやるのね、あの勝負……
「そろそろ、かな……おい、行くぞイリヤ。」
「あ、はい!」
二人で揃って、闘技場の中央付近へと歩み、おそらく学園長がいるであろう貴賓席らしき所に合図を送る。
じゃらじゃらと鎖が引かれる音。それに続いて対面の鉄柵が開かれる。
出てきたのは、スライム4体、ワーウルフ3体。
………ま、こんなもんだろう。
そいつらが出たことが確認されると、鉄柵がまた落ちる。
「さてと、んじゃ、行くぞ……最初は落ち着いて……」
「行っきま〜〜す!!」
な、何の考えも無しかい!?
止める間もなくイリヤは群れへと突っ込んでいく。
ダダダダダ……ダン、ダンダン……
「シ、シロウさん〜!当たりません〜!!」
「アホか、このポンコツ!」
モンスターの至近距離で打ってどうやったら外すんだ、こいつは!
「投影開始(トレース オン)!」
両手に干将莫耶を投影し、魔物の群れに突っ込む。
「きゃあ〜〜〜!!!来ないで〜〜〜!!」
周り中のモンスターから攻撃を受けてパニック状態になったイリヤが、やたらめったら銃を撃つがどれ一つとして当たってない。おまけに銃口がこっちに向いてる!?
「撃つな!」
ダン!
声は届かず、打ち出された銃弾は敵を通り過ぎ、こちらに向かってくる。
回避!?
キィン!
「俺を殺す気か!?」
俺が考えるより早く右手が弾を逸らす。
その声に反応したのか、白いワーウルフがこちらの方に視線を向ける。
「くそっ!」
先手必勝!
地面を這うように体を伏せ、強く蹴りだす。
「!?」
よし、まだ反応しきれてない!このまま!!
触れそうに近づいた白い体毛に、右手を振るう。
手ごたえあり!
「GYAAAAAA!」
やかましい!あっちいってろ!!
腹に横一文字の傷をつけたそいつに、横蹴りをかます。
そうして生まれた群れの隙間に、滑り込むように体を入れる。
「シロウさん!!」
あぁ、もう。自分から突っ込んどいて、半泣きになるな。
周りのモンスターは一旦無視。
駆け込んだ勢いをそのままに、イリヤの袖を引っ掴む。
「飛ぶぞ!」
「ひきゃぁああああああああぁぁぁぁぁ………!!」
ドップラー効果をあげながら、地面が遠くに離れていく。
やや後方下に群れるモンスターの数を確認………15!?増えてる!?原因は……
「あれか!?」
モンスターのゲートが破壊されてる。多分、流れ弾が当たったんだろう。
高く飛び上がった体が重力に引かれる。落下点は、群れとゲートの中間!?
「口閉じろ!舌噛むぞ!」
「は、はい〜〜〜!!」
着地と同時に回路全開放。放出先を足先に集中!
ロケットのような急加速に足が軋む。それを無視して、手直の壁へ突っ走り、手前で急制動。
「く……」
飛び出したときと同じ反動がもう一度来るが、堪える。
即座に壁を背にするよう、方向転換。その横にイリヤを放り投げる。
「ふぎゃ!」
「さっさと起きろ!」
言いながら、前方を睨み付ける。
……十、九。また増えてる。スライム11、ワーウルフ8か……
「うぅ……ありがとうございます。」
「文句は後で言う。さっさと構えろ。」
横に立ち上がる気配。
「あの……ごめんなさい。」
「いいか?今から俺が前に突っ込む。お前は後ろから、自分に近づく奴を撃ってればいい。」
「で、でも、当たらないんですけど……」
「落ち着いて撃て。お前の防御なら滅多なことじゃ傷はつかない。後は狙うだけだ。」
向こうが動いたら即座に動けるよう、体に力を込める。まだ、動かないか……?
「で、でも、外れたら……」
「昨日言っただろ?手伝うが、基本は自分で動く。自分が望んだことだろ?」
この程度でびくついてるようじゃ、これから先生きていけなくなる。
「そ、そうでした……大丈夫、大丈夫、大丈夫、私は出来る、私は出来る……」
ぶつぶつと呟く声。自己暗示でもなんでもいい、今はやらなきゃならないときだ。
「そうだ、お前は出来る。大丈夫、やばくなったら俺が助ける。だから安心してやれ。」
「はい!」
たく、俺だって怖いってのに……んな信頼してますって返事されたら答えたくなるだろうが!
「行くぞ!」
先程の焼き増しのように、敵へと飛び出す。違うのは、後ろに助ける奴がいること!
「おらぁ!」
身構えるワーウルフに上段から剣を叩きつける。頭蓋を叩く嫌な感触。
「ぉおお!!」
嫌悪感を黙らせ、右腕から魔力を開放。そのまま真っ二つにする。
左前方から襲い掛かる爪を、干将で切り裂く。
首筋がチリチリする。反応する間もなく、右肩に熱が走る。
「くぅ!」
痛みの方向をとりあえず蹴る。当たった感触はあるが倒したかどうか。
「う、らぁああ!」
目に映ったスライムに双剣を投擲。
「投影 開始(トレース オン)」
選択はゲイボルグ、真名解放で一気に片をつける!
「………な!?」
出ない、何でだ!?
答えの代わりに、胸に体当たりを食らう。
「がはっ!」
痛みで集中が途切れる、畳み掛けるように背中を切り裂かれる。
くそぉ!!
崩れる体を堪え、スライムを掴んで後ろに放り投げる。
「投影 開始(トレース オン)!」
もう一度双剣を投影。こちらはタイムラグ無しで、完成。
「来い!手前ら全員俺が相手だ!!」
奮い立たせるように、声を張り上げる。
意識を切り替えろ!剣に染み付いた経験どおり、体を動かせ!!
前方のスライムを横なぎに切り裂く、右からの攻撃を弾く。後方からの攻撃を半身にして避ける。
左上段、右後方、左下方。逸らす逸らす逸らす!
スライムを蹴飛ばして、ワーウルフに叩きつける。そのまま突進。右手をスライムに突き刺し、左手で首を刎ねる。
後、何体だ……何体か殺したけど、減った気がしない。
「当たれぇ!」
後ろから、断末魔の絶叫。
振り返る、震える顔のイリヤ。近くにはスライム2体、そして、ワーウルフだったもの。
頭部がないその死体を、ただ見つめてる。
「馬鹿!なにぼうっと」
言いかけて。目の前が赤い何かに塞がれる。
はは、のどちんこ見えてるぞ。お前。
大きく開いたそれに、右手を突っ込む。腕が歯に引っかかって傷がついたが、大した傷じゃない。
「…………邪魔なんだよ、お前らぁ!!」
右手を引っこ抜きながら、頭の中から、周囲をぶっ飛ばせそうな武器を検索。該当あり。
「投影 開始(トレース オン)!!」
即座に投影、タイムラグはそれほどなし。
「うぉらああああ!!」
馬鹿でかい斧剣をぶん回す。3体ほど薙ぎ払うことに成功。
横なぎにしたそれを勢いそのまま、横に放り投げてイリヤの元へと走る。
「イリヤ!!」
「………」
聞こえてないのか!?
もう一度叫ぼうとした時、残ったスライムがイリヤに襲い掛かる。
「………ま」
囁き、それが合図のように、2体が爆散する。
「な………」
今何をやった?そう思いながら、駆け寄る。
「おい、大丈夫か!?」
「………はい。大丈夫です。」
そう答えるイリヤは落ち着いている。
「とりあえず、よくやった。偉いぞ。」
背中で庇う様にしながら、頭を軽く撫でる。
「?はぁ……どうも」
「残りは……7体か。」
これなら何とかなる、そう考えたとき、そいつは出てきた。
「マジかよ………よりにもよって、あいつか?」
ゲートの奥から、現れる巨体。その姿は、大河が1話で倒したゴーレムと同じ姿。
「!?何故あれが!?」
「そ、それが前回捕らえたものと同じものが発見されたので、ここで保管していたのですが、突然起動しだして……」
ミュリエルさん、きちんと事後処理やってて欲しかったよ。
「はは……笑えるな、これ。」
残りのスライムが3体、ワーウルフ4体、おまけにゴーレム1体。2人がかりっていってもちょっと辛いぞ、これ。
「おまけにな……」
さっきので、右腕が痺れてる。あの斧剣はこの体で使うものじゃないな、威力は抜群だけど。
「!?シロウさん、背中!あぁ、肩も……」
「かすり傷だよ、心配すんな」
嘘です、というか、言われたおかげで、痛みを思い出しました。
「もう一回突っ込むから、今度はフォロー頼む。あのデカブツ相手は一人じゃきつい。」
「駄目です!私が前に出ます、私ならスライムや人狼の攻撃にも耐えられます!」
「気持ちだけもらっとく。……大丈夫、この身はただの一度も敗走はないんだから。」
それに、女の子は守るのが男ってもんでしょ。なぁ、エミヤ シロウ。
「でも!」
「話は終わったら幾らでも聞く!!」
言ってもう一度突っ込む。両手にはいつもの双剣。もっとも、右手は掴むのがやっとだけどね。
スライムが人の拳のように形状を変える。それを右手を盾代わりにして受け止め、左手で切り裂く。
横から、ワーウルフが蹴りをかましてくるが、当たる寸前その体が倒れる。
横目で胸の真ん中に穴が開いたそれを確認、ナイスフォロー。
突然暗くなる視界。
「UOOOOOOOO!!」
上から叩きつける両拳をバックステップで避ける。
運悪くそこにいたワーウルフに蹴りを食らう、その足を掴んで地面に引きずり倒し、上から剣を脳天に叩き落す。残り5体。
両サイドから襲い掛かるスライム、片方には左手の剣を、もう片方は触れる前にイリヤの手により爆散。
残り2体になって怖気づいたのか、ワーウルフは唸り声をあげてこちらを睨んでる。
ゴーレムがいつの間にか近づいて、拳を振るう。回避、失敗。右腕は……折れたなこりゃ。
「GUUAAAAAAAAAAAAAA!!!」
それに調子に乗ったらしく、残り2体が突っ込んでくる。調子付くな、タコ。
右手を大きく口を開けた奴に突っ込む。深々と刺さったそれを離し、駄目押し。
「壊れた幻想(ブロークン ファンタズム)」
口の中で、莫耶が破裂する。ちょっとした手榴弾って感じだな。無茶苦茶手が痛いけど。
もう一体も噛み付いてくるが、それも右腕で受け止める。どうせこの戦闘中は使い物にならないからな。
開いた腹に一撃。俺にもたれかかるように、最後のワーウルフは倒れた。
残りはデカブツのみ!
一旦距離を置いて、顔と剣についた返り血をぬぐう。
「イリヤ!ちょっとだけ、時間稼げ!」
「!はい!!」
嬉しそうに答えるな、馬鹿。突っ込みたいが、後にしとこう。
横から撃たれる銃弾に気を取られてる隙に、剣を投影解除。代わりに、弓を投影。
持ってくれよ、もうちょっとだけ……
「I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ、狂う)」
右手の中に生まれたそれを、弓に番える。
大丈夫、絶対に当たる……イメージするのは、ゴーレムを貫くことのみ!
「ぎっ……」
折れた右腕が泣きたくなるような痛みを発する、我慢しろ後ちょっとだから!!
「偽・螺旋剣(カラドボルグ)」
体から魔力ががっつり吸い取られる感触。それと引き換えに放たれる一本の捻れた剣。それは空気を切り裂きながら、ただ一直線にゴーレムへと疾る。
当たる直前。そこまで来てようやくゴーレムは自分に襲い掛かるそれに気付くが遅い。
突き刺さる螺旋剣。それは岩で出来た体を物ともせず砕き進む。
「壊れた幻想(ブロークン ファンタズム)」
ゴーレムの半ばまで達した螺旋剣はその声に応え、砕け散る。岩人形も共に砕く様に。
炸裂する爆発音、上がる土煙が視界を塞ぐ。
数秒、だろうか。土煙の消えた後、そこには砕けた石くれだけが残っていた。
「……………はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
残心終了。
あ〜、やっと終わった。帰って寝たいかも。
「シロウさん!!」
「お〜……イリヤ。お疲れさん!?」
いきなり押し倒されました。
「い、いだだだだだ!!!痛い、いや痛いって!腕、腕!!」
「馬鹿ですか!?馬鹿なんですね!!?馬鹿としか言いようがないです!!何で無茶するんですか、死にたいんですか、自殺願望持ちでしょう!そうでしょう!!じゃなきゃ、あんな無茶……しま、せんよ……うぐっ、うぅううううううう……………」
胸にしがみついて泣き出す。
いや、お前が言えた義理じゃないとか、お前が無茶しなきゃもうちょっとまともに戦えたとか、色々考えるけど。
「……悪かった。」
「当たり前、です………………極悪人です、最低です、でも格好よかったです……それでも、やっぱり最悪です……」
「結局どれなんだよ…………」
縋る彼女の頭を撫でる。
何となく、こいつの前では死ねない、そう思った。
「………ほら、最後の仕事が残ってる。」
「ふぇ………?」
彼女を抱きしめたまま、立ち上がる。
「ほら!勝ったんだから、勝ち名乗りしないとな!!」
言って、彼女の手を掴んで、高々と上に上げる。
鳴り響く歓声。
「わぁ………」
「これは、お前が手に入れた歓声だぞ。」
うむ、やっぱりこの娘にはこういう笑顔の方が似合う。
そう。この「素敵〜」だの「格好いい〜」だの「新しい救世主候補に乾ぱ〜い!」だの「イリヤたん、はぁはぁ………うっ!」だの「これは新しい客層がゲット出来るな……」だの…………
「I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ、狂う)」
「し、シロウさん!?何でカラドボルグ出してるんですか!!?」
「いや、何。ちょっと、投影と射撃の練習をな。」
具体的には、不穏当な発言したやつらがいる辺りを目標に。
「目が凄く怖いんですけど!!?」
「大丈夫、イリヤ。俺はこれからも、頑張れるから」
「そんなUBWエンドな笑顔をしないでください〜〜〜〜!!!」
あれはよいものだ。うん。
「お願いですから、私のために争わないで!!」
「……………いつからお前は、囚われのお姫様になったのかな〜〜〜?ん〜〜〜〜〜?」
ぐりぐりぐりぐりぐりぐり…………
「ひぎゃああああああああ!!!」
何か、あほなことを言われて、撃つ気が失せた。
「言っておくが、俺は嫉妬なんてしてないぞ〜〜〜?どぅーゆーあんだすたん?」
そう、嫉妬だのなんだのなんて感じるわけないんだ、こいつは手間の掛かる……そう、幼稚園児みたいなもんなんだから。見てて危なっかしいだけだ、うん。
「あぅぅぅ……し、シロウさんて、実は好きな子はいぢめたくなるタイプ?」
「その六銭、無用と思え」
「ふむふむ、中々に面白いやつらじゃの。」
「………まぁ、見ている分にはそうですね。」
闘技場上段に作られた、貴賓席から二人を見下ろすミュリエルとクレア。
視線の先では、先程戦いを演じた2人が何やらじゃれ付いている。
「これなら、破滅との戦いにも希望が持てるのではないか?」
「………いえ。まだまだ不安な点が多く残っています。そう、楽観は出来ません。」
そう。まだまだだ。
イリヤの方は、お世辞にも戦闘に慣れているとはいえない行動を取っていた。後半、それまでが嘘のように戦っていたが。メンタルな部分に問題が残る。
シロウの方は、やや戦い慣れしているようだが、むらがありすぎる。尤も、ゴーレムを一撃で倒したあの破壊力は同じ救世主候補の中でも、1,2を争うだろうが。
「その辺りをどうにかするのが、お主の仕事であろう?」
「それは重々承知しています。………救世主を育て上げる、それがこの学園が成さねばならない使命ですから。」
「期待しておるぞ、ミュリエル・シアフィールド」
本来の思いとは裏腹な答えを出しながら、ミュリエルは次期王女の言葉に敬意の念を示した。
その遥か上。闘技場外枠の頂点。
「楽しそうだねぇ………」
そう呟きながら、下界を見下ろす者。
「ったく……こんなの見せられて、黙ってろってんだからな。」
先ほど繰り広げられた戦い。
自分にとっては正直お粗末とも言えるものだったが、それでもあの赤い服の男には目を引かれるものが合った。
荒削りな、自分以外の誰かのために、命を賭けるような戦い方。
自分が幾つも刈り取ってきた命の中にも、ああいう奴は何人もいた。そういう奴等と戦うのは、例え瞬時に決着がついても心に残るものがあった。
「しっかし、ありゃ宝具だよな……何者だ、あいつ」
見た限り、いくつもの宝具を出していたが、あんな英霊などいただろうか?いや、そもそも英霊なのか?
「ま、どっちにしろまだまだ伸びるな、あいつは……。土台は出来てるみたいだしな。」
相手が誰だろうとそんなことは関係ない。
「機会があれば、あいつともやれるか……」
その日は必ず来る、そんな予感めいた考えが頭に浮かぶ。
「楽しみに待ってるぜ」
いつか、どこかで繰り広げられる戦いを思い、その者は背を向けて、何処かへ跳び去る。
口元に、獣のような獰猛な笑みを浮かべながら。
あとがき
そんなわけで第5話、二つの戦いでしたw
とりあえずこれで「第1ターン、リバースカード(伏線)セット、エンド!」って感じです。
次回からはゲーム本編の事件も交えていきます。あ、これからは流石に忙しくなるので、投稿が遅れるかもしれませんが許してください。
それでは、レス返し。
ミゼル様>現時点では双剣での近接戦がメインですね。止めに宝具開放って所で。
ミュリエルさんが気付くんじゃ、と言うご意見でしたがトレイターも大概似たような事してますしね……破壊力は段違いですがw
陣様>どうも、はじめまして。
えっと、逆行っぽい表現でしたけど、その辺は今後お話の方で明かさせていただきます。二人がまともに殺せたのは、二人ともテンパってたんですよね。落ち着いたら、結構来るでしょうが。
お話は自分のペースで書いてるので、大丈夫です。ただ、次回以降は遅くなりそうですけど。
ひげ様>はじめまして。一気に読んでいただき、ありがとうございます。
子犬ちっくですか……作者も書いてたらこうなってしまったという感じです。何ででしょう?イリヤの外見は一応18,9位と考えてます。(この作品に登場するキャラクターは全て18歳以上ですw)
完結はしたいので、これからも頑張らせていただきます。
黒アリス様>どうも、はじめまして。全部読んでいただいたんですね。
セルの危ない度数は今後もっと上がっていくでしょう(確定)この話ではセルは今の所クレア一筋です。原因はハーレムルートエンディング……だって、セルが結婚したなんて、そうとしか思えなかったんですよ。
>女大太郎〜
分かりましたか!いや、ネタ古いから分かる人少ないかと…w
>エミヤが召喚器〜
これにもちょっと秘密があります。その辺は今後明かしていこうかと。
カミヤ様>今回の戦闘はこのように書かせていただきました。どうだったでしょう?
弾数に一応制限はありません。命中率は悪いですけど。後、ハーディス特有のあの技も幾つか出そうと考えています。
くろこげ様>壊れ分が不足してますか……もっと精進しなければ!!(待て)
真名開放の方でしたか。すみません、勘違いしてました。そちらの方は一度打ち出すと次の開放には回復まで時間が掛かるという設定になってます(ぶっちゃけEX技扱い)
なみれい。様>今回のイリヤはどうでしたかね?
それと、主人公と同じ間違いをしましたね、ふふふふふwこれは4話書いてる時点で考えていたオチです。
クレアがセルに懐いてるのは、完全に大河がクレアに向いてないせいもあります。尤も、今の所恋愛感情までは言ってませんが。
今回の戦闘で実は少し弱点が出ています。探してみてください。
イムは………どうしようかな?本当に
なまけもの様>あぁ、誤字脱字がこんなに……どうもすみませんでした。
>千尋さんを呼べ。
確かにそっちの方が良いかもしれませんねw
>時間犯罪者をタイムゲートに送る〜
あるいは、デリート許可の方が良かったかな?ぶっ飛ばすわけですしw
大河の台詞も一応伏線です。訳は今後明かしていこうかと。
セルが別キャラなのは仕様ですw
そして、イリヤ。貴方の発言で今回耳と尻尾が生えましたよw