side RIN
「っし!完璧!」
魔力が渦を巻くさまを見やりながら、私は会心の笑みを浮かべた。
今朝方遺言を解読して調べたサーヴァントの召喚方法と召喚に必要な触媒。これを見つけるのに十年かかったけど、今回の聖杯戦争にはどうにか間に合った。
その遺言どおりに召喚陣を描き、見つけ出した遺物を触媒に使って、午前二時と言う私のもっとも調子のいい時間に召喚を行っている。これで失敗など起こりようはずが無い。
というかこの召喚陣は家中の宝石の半分を使って描いているのだ。失敗したら大損だ。絶対に失敗なんてできない。
そう不退転の覚悟で挑んだ召喚式は順調に動いている。普通ではありえない量の魔力が部屋中を隙間なく満たし、その魔力が召喚陣の上で渦を巻き、座から英霊をサーヴァントとして引っ張り出してくる。
通常ではよほどの魔術師、それこそ大師父でも可能かどうかと言う英霊の召喚を可能にしているのは、この冬木の町にある聖杯という願望機の力である。
そしてこの聖杯を奪い合うのが、私と今召喚されているサーヴァントがこれから参加する聖杯戦争だ。
ゆえに自分が持つ手札、ぶっちゃけサーヴァントは強力な方がいい。
そして私が狙っているのは、セイバーだ。
近接戦闘での卓越した技量と、固有スキルのほぼ全ての魔法をレジストする効魔力を持つ、事実上最強のサーヴァントだ。現に過去の聖杯戦争のいずれでも最後まで残っている。
綺礼に確認を取ったところ、まだ最強と名高いセイバーは誰も召喚して無いらしい。それなら狙うは絶対セイバーだ。
そしてこの反応。間違いなくセイバーを引き当てた!
というか、こんだけ散財させたんだからセイバー以外ありえてたまるか!
そうこうしている内に渦を巻いていた魔力が一点に集中してきた。いよいよ終わりが近づいて来たらしい。
部屋の中で渦を巻いていた魔力が召喚陣の上に収束しだし、さあいよいよ!と意気込んだ矢先、
カチッ!
と、どこかで致命的な音がなった気がした。
「?なに?」
きょろきょろと辺りを見回すが特に変わったところは無い。
儀式も順調に進行中。現に部屋に満たされていた濃密な魔力は今もは収束しつづけていて。
収束して収束して収束して…………え?
「ちょっ、何で!?」
そこに確かな異常を見つけた。
収束しつづけているはずなのに、一向に部屋の魔力が薄くなる気配が無かった。と言うより、集まった分だけ外側から入り込んでいるふうである。
そして、集まった魔力は、
「え?」
跡形もなく消え去り、
ドバキッ! ドスン!
上の方で何かが壊れた音、そして何かが落ちた音がした。
「なんでよーーーーー!?」
慌てて地下から駆け上がる。音の具合から見て発信源は居間。あそこには結構高い家具がある。それをまた買い揃えるなんて冗談じゃない!これ以上の散財なんてできるか!
必死に足を動かし居間に到着。扉に手をかけるけど、歪んでいるらしく開かなかった。
それにいらいらして、
「――ああもう、邪魔だこのぉっ……!」
ドガン!
額に井桁を刻みつつ、キック一発で扉をぶち開けた。
そして目の前に広がる光景に思わず絶句。
家具は散乱してるは天井に穴開いてるは、なんかもう、めちゃくちゃだった。
(ああ〜〜〜〜〜〜!!五十万の机と七十五万のカーペットと三十一万の戸棚と六十一万五千二百円のソファーがーーー!!って、あの柱時計は五百万って………あ!)
思い出した。
確か家の時計って何故か一時間早くなってたはず。と言うことは、魔力の最高値まではまだ一時間ほどあり、
(またやっちゃったーーーーーーーー!!!!)
心で絶叫し血の涙を流しつつ、私は家訓どおりに優雅に部屋を見回し、しょうがないとため息を吐きつつ、自分の正面に立っている男――恐らくは召喚対象だろうが、何故か現代風の服を着ている――を見て、
「それで?あなたが私のサーヴァント?」
そう私のパートナーに問い掛けた。
side YOKOSIMA
「えっと………なに?」
赤い少女の問いに、俺はそう答えた。
というか、状況もろくにわかっていないのにいきなりサーヴァント(下僕)と言われても困る。まあ生前は少女のではないが某紅い守銭奴のサーヴァント(丁稚)ではあったのだが。
それにしても枯れたものだ。目の前に極上の獲物(美少女)がいると言うのに、条件反射が出ないとは。まあ、がっつく必要がなくなっていたのも、一つの理由かもしれないけど。
「え?………えっと、あなたは私のサーヴァントなのよね。きちんとパスも通ってるし」
一瞬黙って、再度そう言ってくる。どうやら、この現状とかの知識がある様子。ならば情報収集といこうか。
場所を少女の自室に移して、再度問答。
「それで、あなたは私のサーヴァントなのよね?」
ベットに座って聞いてくる少女を見つめ、首をかしげる。
「さっきも聞かれたけど、それ何?なんか聞き覚えが有るけど」
たしか、ここに投げ出される前だったか?
「えっと、………もしかして、知らない?」
「だから聞いてるんだけど」
「えっとそれは、
説明中
て言うのなんだけど………」
今聞いたことを、頭の中で整理し、
「つまり、サーヴァントってのは英霊を使い魔っていうカテゴリーで呼び出して、使役するその対象ことなわけだ。そんで、そのパーティーで潰し合うのが聖杯戦争、と」
簡単な言葉で意訳する。
「まあそういうことね。でもおかしいわね。現界するときに知識は得るはずなんだけど…………」
はて?と首をひねるマイマスター(仮)。
「いや、一応知識は入ってるよ。ただ途中で無茶苦茶になってるだけで」
「無茶苦茶?」
どういう風になったのか聞いたので、説明する。
そして、説明が終わったあとに、
「あっ!」
微妙に目線をはずしてアチャ―って顔していた。
「何か心当たりあるのか?」
問いと言うより確認だ。
「えっと………てへ?」
舌をぺろっと出して、
「………かわいく誤魔化さずに話してよ。怒らないから」
ため息を吐きつつそういう。ここらへんの反応はかつての同僚がしていたから耐性がある。
「それがその、召喚ちょっと失敗したみたいで…………」
アッハッハと笑いつつ。いや、笑い事じゃねーだろ。
「…………………………」
その様子をジト目で見やる。
「ま、まあ過ぎたことは忘れるとして。
そういえばあなたは私のサーヴァントとして(断定)、クラスは何?それともそれもわからないの?」
あからさまに話題を変えてくる。まあこういう反応も昔でなれているけど。それでもため息が出る。
「はぁ。いや。それは覚えているよ。辛うじてだけどね」
「あらそう。じゃあ何なの?私としてはセイバーが嬉しいんだけど………どう見ても違うわよね。鎧も着てる様子は無いし。と言うかそれが正規の格好なの?」
「まあそうだね」
自分の格好を見下げて苦笑する。
俺の身なり。一言で言うなら真っ黒である。まあ近代の服装を弄くってゆったりデザインにしたものだし、英雄の衣服としては場違いも甚だしいんだろう。
ただこの格好、と言うかこの布は全盛期のカオスが作り出した物だから、見た目に反してべらぼうに防御力が高い。それこそ鈍ら刀の斬撃なら、弾くどころか逆に刀の方が折れるのだ。しかも内ポケットとして某青い狸型ロボットのおなかの袋みたいな空間圧縮袋を複数装備している。はっきり言ってこれ一着で小国の国家予算を余裕でしのぐ。
まあ対価として文殊四十二個を無償提供をしたので、俺はびた一文払ってはいないが。
「それなら何なの?まさかキャスターとか?その顔で?」
「ほっとけ!と言うか、俺はキャスターのクラスには該当しない」
魔術使えないし。
「じゃあ何なのよ?まさかバーサーカーなんて言わないわよね?」
「その通り」
「………は?」
よほど意外だったのか、呆然とこちらを見てくる(暫定)マスター。
それに向けて、
「俺のクラスはバーサーカーだよ」
にやりと微笑みそう言った。
side RIN
最悪。
今私は頭を抱えて唸っている。
それはそうだ。遺言なのに。十年待ったのに。 家の宝石半分も使ったのに!
それが、よりにもよってバーサーカー。まあ強力なのは確かだろうが、過去の聖杯戦争でいずれも制御できずに自滅しているのだ。
私は制御する自信はあるが、それでも連携の取れない暴れ馬は御免こうむりたいと思っていたのだ。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ………」
「ずいぶん不満そうだね。そんなに嫌かい?」
バーサーカーが何か言っているけど今は無視。
ひとしきり胸のうちで文句を並べ立て、それをすっぱりと押し流して顔を上げる。
いつまでも過ぎた事をぶちぶち言っていてもしょうがない。こうなったらバーサーカーで勝ち残るだけだ。
「バーサーカーはそんなに嫌か」
まだ言っている。
「まあ少しはね。できればセイバーが良かったんだけど」
「む。こだわるね君も」
「当たり前でしょう。狙ってたのは最高と名高いセイバーなんだからね」
「最高って………クラスってそんなにこだわる事か?」
?どういうこと?
「勝ち残ることが重要なら、クラスだの能力値などにたいした意味は無いよ。ようは戦い様さ」
む。一理あるわね。
「でも、えらそうな事を言ってるけど、それならあなたはどうなの?」
「さあね。相手にもよるかな。でも、俺を呼び出したのは君だ。最高の君が呼び出したこの身、それが最強じゃなければ嘘だろう?」
「む」
なんだか嬉しいことを言われてしまった。でも誤魔化されたような気がするのは何でだろう?
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「まあそれについては戦いで見せてもらうとして、とりあえずはいいわ。それで、真名はどういうの?できればそれくらいは強力なのがいいんだけど………」
「さっきの話を聞いてたのか?………まあいいか。でも多分知らないと思うぞ?」
それを聞いてあからさまに肩を落とされた。
「そこまで気を落とさなくても。ちなみに真名はフェイスレスと言うらしい」
自分にとって、と言うか過去の世界にとってこの真名は忌み名だ。好き好んで呼ばれたい名前じゃない。
「フェイスレス?なにそれ、そんな英雄聞いたこともないんだけど」
「まあ聞き覚えなんかないだろうさ。マイナーだし。それにこれはあだ名だし。本名はヨコシマって言う。できればこっちで覚えておいてほしいな」
不思議そうにしているマイマスター(予定)に向かってそう言う。
まあ、本当はマイナーどころではないけど、まさか前世界出身だともいえないしな。
「と言うかなんで顔無し?」
「ん?それはまあ、しばらくの間仮面かぶって戦ってたから。そう言う風に呼ばれてたんだ」
ちなみにピエロの仮面だった。
「ふうん。そういえばヨコシマって………日本人?」
「おう。見た目どおりだろう?」
「そんな英雄も聞いたことがない。と言うか苗字ができたのって明治以降でしょう?ならそれ以降、大戦の英雄とか?」
これは恐らく世界大戦のことなんだろうけど、
「ま、そうだね」
まあ、大戦は大戦だし、嘘は言ってないな。
「まあ、能力とかは明日教えてもらうとして、今日はもう寝るわ。あなたを召喚して魔力使い果たしちゃったし、疲れたしね。まだ聖杯戦争自体は始まってないし、襲われることはないでしょう」
そういって、部屋を出て行こうとするのを
「ちょっと待った」
引き止めた。
「?なに?」
「まだそっちの自己紹介がすんでないよ。俺は君をなんて呼べばいい?」
一瞬虚を突かれたような顔をして、
「凛。遠坂凛よ」
それを聞いて、その雰囲気を観て、
「じゃあ凛ちゃんだね。へぇ。名は体を現す、か」
その雰囲気が、かつて失った者と似ていて、
「ならついでに質問。君はなぜ聖杯を求める?なぜ聖杯戦争に参加する?」
わずかな期待を込めて、聞く。
「なにそれ。それって答えなきゃいけないの?」
「できれば」
「ふうん。まあいいわ。それで、参加理由だったかしら?」
「ああ」
「腕試しね」
そう、なんでもないことのように言う。
「………は?」
一瞬、理解が遅れた。
「だから腕試し。つまり、勝つために戦うのよ」
「それって、欲しいのは景品じゃなくて勝利って事?」
その言葉で、自分の中に確固としたものが出来上がる。
「そうよ。まあ参加するきっかけは私の父の遺言なんだけどね」
「腕試しって………そんなことで殺し合いを?」
「む。そんなことじゃないわよ。私にとっては」
少しむっとしたようで、軽くにらまれた。
「いやごめん。言葉が悪かった。それについては謝る。しかし、それじゃあ凛ちゃんは聖杯にする願い事は無いのかい?」
「まあとりあえずはそうね。それについては勝った後で考えるわ。でもまあ、まずはお金かしらね。私の魔術、やたらとお金を食うし」
そう、面白そうに言う少女の横顔が、紅い女性の雰囲気にかぶり、なんだか嬉しくなった。
「そうか。なら最後までだね」
「え?」
「だから、最後まで残る、つまり君を勝者にすると言ってるんだよ、俺は」
一瞬あっけにとられた顔をした凛ちゃんは、
「当然でしょう」
微笑みながらそう言った。
深夜。屋根の上。
「いやまさかあそこまで似てるとは思わなかったな」
あの後なんと凛ちゃんは、それまでの流れをまったく無視して、散らかった居間の後片付けを言いつけてきたのだ。まあ現在の文珠の能力値とかを確かめたかったから引き受けたけど。
「なんか、ますます美神さんに似てるって感じるな」
苦笑を浮かべ空を見る。そこには丸い月が出ていて、
「そういやピートとジュニアってどうしたんだろ?ってかまだ生きてるのか?」
なんかひどく懐かしい人を思い出した。
「確か最後に会ったときは朧と新婚さんやってたけど、今はどうなんだろ?まだバカップルやってんのかな?」
そんなことをつらつらと考えながら、屋根の上で夜を明かした。
<後書きですたぶん>
えっと、どもです。遅くなりました。
やっとこさ第二話です。
すげー遅筆です。
なんかへこみます
ぬう、やはり口調とか性格とかがいろいろ変ですね
これからもっと精進していきたいです
あとさっさと場面を進めねば
ではレス返しをば
○釜爺さま
いくらなんでもゆっくりすぎですよね。
紅い髪についてはすみません。
なんかまんま美神さんが頭の中にありましたんで。
○リバーさま
楽しんでいただけて嬉しいです
これからもがんばります
○良介さま
ほのぼのとしていただけますか
いや書いてる自分でもそうですけどね
ちなみに机は大社長が使っているようなやたらでかい物です。
じゃないと書類が載り切りませんので。
召喚対象自体はほとんど変化させないつもりです
まあ性別は変えようと思いますけど
○樹海さま
先輩に読んでいただけるとはなによりです
今回もほとんど変化なしです(涙
次あたりも変わらないないかもしれないです
ぬう、もっと精進します
ではでは
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