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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第四話 星屑の中の舞踏会 後編(SEED運命)」

ANDY (2006-04-01 06:00)
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 「死」
 それは、生きとし生けるもの、いや、この世に『存在』しているものがいつかは必ず辿り着く、この世で唯一絶対平等な終着点。
 それは、いつ訪れるかわからない、気まぐれな旅人のような存在。
 だからこそ、人間はそれを恐れ、それを逃れるために様々な手法を探した。
 秦の始皇帝に始まり、ヒトラーなど、多くの人間が『死』を克服しようと思い挑んだ。
 だが、それは果たして正しいのだろうか?
 死に直面にしてこそ、見つけられるものが、死を意識してこそ、理解できるものがあるのではないだろうか。
 それを実感できる場所。
 そこは、死と二人三脚を行う場所。
 すなわち、戦場。
 そこで、命あるものたちは、一体何を見つけ、何を理解するのだろうか。


「敵艦に変化は?」
「ありません。針路、速度,そのまま」
 アーサーのその問いかけに、レーダーを確認していたマリクは緊張感を滲ませた声で答えた。
 その声を聞くと、アーサーは脳内でいくつもの戦術を組み合わせるとCICへと指示を出した。
「よし。ランチャーワン、ランチャーシックス、1番から4番、エスパール装填。CIWS、トリスタン起動。今度こそ仕留めるぞ!」
 アーサーの指示が浸透し、艦橋内に緊張感が生まれていく中、アーサーたち多くの艦橋要員の意識がボギー・ワンに対して向かい緊張しているのに反し、それとは別の緊張が艦橋の後部では走っていた。
 その緊張感を意味出している空間の中心にいるデュランダルとアレックスの二人は、無言でお互いの視線を合わせていたが、何かに耐えられなかったのかアレックスが視線を外すと同時に慌ててカガリが言葉を遅まきながら放った。
「議長!それは…………」
 何かを言おうとしているのだろうが、その後に続く言葉は音になることはなく、ただ酸素を求めるかのように口を開閉させることしか出来ずにいた。
 その様子を目にしたタリアは、無言で椅子の方向を元に戻し正面を向いた
「はぁ……」
 今の思いを込めたため息をつくと、気分を一新させ意識を戦闘用に切り替えたのだった。
 そんなタリアの努力を無碍にするように、艦橋の後方では、カガリの言葉にデュランダルは答えようとしていた。
「御心配には及びませんよ、アスハ代表。私は何も彼を咎めようと言うのではない。全ては私も承知済みです」
 柔和な笑みを浮かべながらそう言葉を発するデュランダルを、カガリは理解できない生き物を見るような目線でただ見つめることしか出来なかった。
 また、その言葉を耳にしたアスラン、いや、アレックスは居た堪れない気持ちになぜかなってしまい、顔を伏せ、デュランダルの視線から逃げるかのように更に視線を背けてしまったのだった。
「カナーバ前議長が彼等に執った措置のこともね………」
 そんな二人の様子も気にせずに、デュランダルは何も無いかのように悠々と言の刃を放った。
 その、何かを匂わせるような、匂わせないような言葉を口にすると、デュランダルは座席ごとアレックスの方を向き視線を真正面から向けるのだった。
「ただどうせ話すなら、本当の君と話しがしたいのだよ、アスラン君」
 本当に、聞く者の心を優しく浸すかのような響きを持ったその声は、アレックスの心にも言いようの無い力を持って響いた。
 そのデュランダルの言葉に一度は顔を上げたアレックスだったが、優しくこちらを見ているデュランダルの視線に気がつくと、慌てて視線をまた逸らすのだった。
 そんなアレックスの様子を見て、カガリは痛ましい表情を浮かべるのだが、ただ痛ましそうな表情を浮かべることしか出来ずにいたのだった。
 そんな不毛な会話を耳にしていたタリアの耳に、緊張感を滲ませたバートの声が届いた。
「インパルス、ボギーワンまで1400」
 その、ありえない内容を耳にした瞬間、タリアは自分の耳を疑ってしまった。
 1400まで何らかのアクションが無いその状況は、不可思議の一言でしかなかった。
「未だ針路も変えないのか?どういうことだ?」
「何か作戦でも?」
 困惑の色を滲ませたアーサーの声に、こちらもどこか困惑色の声でアリシアが一番確率が高いであろう事を口にしたその瞬間、タリアの頭にある一つの答えが浮かび上がった。
「はッ!しまった!!」
 相手の取った手口に気がつき、その事を口にしようとした瞬間、艦橋要員ではない人物の声が響いた。
「デコイだっ!」
 突如後方より上がった声に驚き、目を瞬かせながら振り返ったタリアの視線の先には、自分が口にした事に驚愕し、口を手で覆っているオーブの随員の姿があった。
 艦橋要員全員の視線を一身に受けているアレックスを、デュランダルは変わらぬ笑みでただ見つめているのだった。
 そんな、新たな緊張感が生まれた艦橋に、さらに新たな緊張を生む言葉が響いた。
「ボギー・ワン、ロスト!!」
 自分の言葉が信じられない、と言う思いが込められたバートの報告に、艦橋の後方を向いていたアーサーは慌てて正面に向き直ると同時に、器用にも驚愕の声を上げるのだった。
「何ぃ!?」
 そのアーサーの声が起爆剤になったのか、固まっていたクルーの動きは慌しく通常に戻っていったのだった。
「イエロー62ベータに熱紋3!」
 その空気の中、新たな事実が響き、メイリンはそれを報告すると同時に、その熱紋を出している機体を確認するためにモニターに集中した。
「これは………カオス、アビス、それに………あの黒いMSです!」
 そのメイリンの報告を聞くと、タリアは索敵を急がせるのだった。
「索敵急いで。ボギー・ワンを早く!」


 ミネルバの中が慌しくなる中、ガーティ・ルー内でネオは艦橋の中央部分に置かれた席に座りながら、仮面に隠されたその顔でも判るような笑みを浮かべながら、声を出さずに手を上げる事でリーに指示を促がした。
「ダガー隊発進と同時に機関始動!ミサイル発射管、5番から8番発射!主砲照準、敵戦艦!」
 ネオの意図を汲み、そうリーは各員に指示を出し、それに応えるようにエンジンに火が入ると同時にカタパルトからダガーLが2機発進した。
 その様子を眺めながら、ネオは陽気に、それでいて力強く宣言するのだった。
「さ〜て、諸君。戦争を始めようか」


 ボギー・ワンが再びミネルバのレーダに捕捉され、その事実に蜂の巣をつついたかのような騒動がミネルバの艦橋では起こっていた。
「ブルー18、マーク9チャーリーに熱紋!ボギー・ワンです!距離500!」
 驚愕を滲ませたバートの報告に、アーサーは慌てて意味のない奇声を上げてしまった。
「ええっ!」
「やられた!」
 悔しさを滲ませ、そう呟くアリシアの声を覆うかのように更に悪い報告が入ってきた。
「更にボギー・ワンよりMS2機発進!」
 その報告よりも、相手の位置にタリアは愕然としてしまった。
「後ろですって……」
 戦艦の絶対的な死角である後方を相手に取られるなど、艦長職に就く者にとっては最大級の屈辱であり、最低の恥じであった。
 そのことに唇を噛み締めながら耐えているタリアの耳にさらに別の報告が飛び込んできた。
「測敵レーザー照射、感あり!」
 その声に応じるように、ボギー・ワンからゴットフリートとミサイルが放たれた。
 その言葉に慌ててタリアは指示を飛ばす。
「アンチビーム爆雷発射!面舵30、トリスタン照準!!」
 だが、その指示も次のバートの報告で、間に合わないと言うことがわかった。
「駄目です!オレンジ22デルタにMS!」
「くっ」
 あまりにも相手の手にはまりすぎている現状に、タリアは舌打ちをし、別の方法で攻撃を回避することにした。
「機関最大!右舷の小惑星を盾に回り込んで!」
 そのタリアの指示に応じて、操舵を担当していたマリクは舵を限界まで切るのだった。
 その行為が功を奏したのか、ボギー・ワンからのミサイルはミネルバの対空砲と小惑星の隆起を利用することで回避することが出来たが、その副産物として生じた爆発の衝撃と、限界に近い駆動をさせたことで生じた衝撃により、ミネルバ全体が激しく揺れ動いてしまった。
「うわぁぁ!」
 その衝撃踊らされ、誰かが悲鳴を上げるがそれにかまわずタリアはメイリンに指示を出した。
「メイリン!シン達を戻して。残りの機体も発進準備を!」
「はい!」
 震えながらも、気丈にそう応えるメイリンの声を耳にしながらタリアはマリクにも指示を出した。
「マリク!小惑星表面の隆起を上手く使って直撃を回避!」
「はい!」
 マリクに指示を終えるとタリアは最後にアーサーに指示を出した。
「アーサー、迎撃!」
「ランチャーファイブ、ランチャーテン、エスパール、撃て!」
 慌しく、現状で自分たちの出来る事を行っている艦橋要員たちの姿を、まるで眩しいものを見つめるかのように見る視線があった。
 それは、艦橋の後方の席に座っているアレックスで、その様子は、まるで何も出来ない自分を嘆き悲しんでいるかのようであり、実際、アレックスは歯噛みをして俯いていたのだった。
 その様子を、隣の席に座っているデュランダルはただ静に、まるで観察するかのように眺めていた。


「くそ!!ゲイル!!」
『こっちも確認した!!こいつら自体が囮だったなんてな!!』
 突如母艦より送られてきた文章通信を見た二人は、苦いものを噛み砕いたかのような顔をしながら愚痴を口にした。
 追い詰めたと思ったところにまさかの逆転劇に、ショーンとゲイルの二人は言いようの無い悔しさを噛み締めていた。
 自分たちの前にはもうほぼ死に体のカオスがいるのに、その止めを刺さずに引き返さなくてはならない事態になってしまった。
 仮に、ここでカオスを討ったとして、そのときにミネルバが健在であると言う保証はどこにもない。
 ここで今一番求められるのは、敵を討つと言うことではなく、如何に早く母艦の安全を確保するかなのだった。
 よって、二人はこの闇に包まれた場所で家無き子にならぬように、ほぼ死に体のカオスを放っておいてミネルバへと全速で帰還することにしたのだった。


「っつう!!」
 揺れる機体を制御しながら、漏れる苦悶の声を止めることが出来ないが、それでも目を瞑らぬように見開きながらルナマリアは機体の状況確認をした。
「シールド半壊、右ガドリング砲全損?!それに並行してウィザードシステムのコントロール部分に影響?!なんて無様!!」
 あまりにも悪い結果に、知らずルナマリアは悪態を口にしていた。
 あの、アビスにビームアックスの一撃を食らわせようとしたその瞬間、正に刹那と言うにふさわしい一瞬、ルナマリアの意識が勝利に向いたそのときに、アビスは背中に装備されているM107バラエーナ改2連装ビーム砲が迎撃の構えを取ったのだった。
 それを認識すると同時に、何とか回避行動を取ろうとしたのだが、それは上手くいかずに最小の被害をこうむってしまったのだった。
 自機の状態を確認し終えると、すぐに相手のほうを確認しようと視線を向けるのと同時にコックピット内に警告音が鳴り響いた。
「ッツゥ?!」
 慌ててモニターを確認すると、ビームランスを構えて突進してくる、胸部のMGX-2235"カリドゥス"複相ビーム砲の砲口を切り裂かれた状態のアビスが接近する様が映っていた。
「そんなにガッツくと女の子にもてないわよ!!」
 そんな軽口を叩きながら、腰にマウントさせていたビームマシンガンを構え、生き残っているスラスターを吹かし、何とか距離を稼ごうとするのだが、先ほどの影響なのかあまりスラスターの調子が上がらずにろくに距離を取ることができずにいた。
 そして、悪いことは続くもので、ビームマシンガンの残弾も切れてしまったのだった。
 すぐに予備のマガジンに交換しようとしたのだが、シールドの裏に装備されているはずのそれは、先ほどの攻撃で跡形も無く消えていたのだった。
 それに舌打ちをし、何とか打開策をと思った瞬間、弾幕が切れたその瞬間を潜り抜きアビスはルナマリア機に肉薄する距離まで来ていた。
 振り下ろされようとしているビームランスを、何とか回避しようとするのだが、その思いとは裏腹に機体は機敏には応えてくれずにいた。
(あ〜あ、ここまで、か。メイリン、悔しいけど私の代わりにシンと仲良くするのよ)
 振り下ろされるビームランスを、どこか他人事のように見つめながらルナマリアはそう胸中で呟いていた。
 だが、幸運の女神は、まだ見放してはいなかった。
『対ショック姿勢!!』
 突如、コックピット内に響く声の指示通りに反射的に従うのと、アビスの背後で爆発が起きたのは同時であった。
 その爆発のためか、姿勢を崩し攻撃を強制的に解除させられたアビスはその体を泳がせる結果になってしまい、その結果生じた隙をついてルナマリアは何とかその場から離れた。
 突如、横から引かれる様な衝撃を感じ、視線を向けると、カスタマイズされたゲイツが自機の腕を絡めるように牽引しているのが見て取れたのだった。
「ゲイル?」
『生きてるな。お嬢ちゃん』
 確認するかのようにその機体のパイロットの名を呟くと、どこか軽く、それでいて気遣ってくれている声が返ってきたのだった。
『ミネルバがピンチだって言う文章通信が来てたんだけど、その様子じゃ気づいてなかったのか?まあ、それで急遽ここから戦術的撤退を敢行することになったんだよ。OK?』
「ミネルバが?私たちまんまと嵌められたって言うわけ?」
『まあ、有体に言えばな』
『ですから慌てて帰艦し、少しでも巻き返さないとね』
 伝えられた情報に愕然としているルナマリアとゲイルの会話に、追いついてきたショーンも加わった。
『ショーン、あいつは?』
『ミサイル全弾ご馳走したら、お腹一杯だ、といってデブリでお昼寝中ですよ』
 ゲイルの質問に、ショーンはなんでもないように答えた。
 先ほども、最大望遠でルナマリア機の危機を察したショーンは、すぐに超高インパルス長射程狙撃ライフルでアビスをスナイプしたその腕は、特筆に価するものなのだが、それを驕ることもせず、また煽てることもせずに二人は淡々とこれからについて会話をするのだった。
『さよか。で、お嬢ちゃんの機体の調子はどうよ?』
「スラスターの三割が不調。それに、武装面でもほぼ裸状態よ」
 ゲイルの問いかけに、ルナマリアは悔しそうにそう答えた。
 簡易検査ではなく、もう少し手を加えて検査をしたところ、イエローで表記されている部分がかなり存在していたのだった。
 また、先ほどの戦闘でビームマシンガンは弾切れで、シールドに内蔵されているビームトマホークは排出口が融解してしまい使用不能であり、腰の炸裂弾も残り二つしかないのが現状であった。
『じゃあ、俺のライフルで援護射撃よろしく。ショーン、カバー頼むぞ』
『了解。そっちは突撃をよろしく』
「了解」
 ゲイルの指示に、ショーンとルナマリアは同意の言葉を返した。
『ああ、そういえば。もう一人のほうはどうします?』
 今思い出した、という感じでそんな事を口にしたショーンに、ゲイルは少し考え答えた。
『…………余裕が無いからな。信じるしかないだろう』
『ですね』
 二人のその会話を聞き、ルナマリアは何かを口にしようとしたが、喉まででかかった言葉を飲み込み自機のOSの再調整に取り掛かった。
(大丈夫、大丈夫。シンは、帰ってくる)
 そう心の中で呟きながら、ルナマリアはレーダーに反応が無いかを気にしながらOSの調整に取り掛かった。
 ただ、やっぱり自分たちにとってデブリは鬼門だ、と改めて認識をしたのは仕方がないことだろう。


 獲った!!
 ケーラは、自分が突き出したサーベルが相手の中央部分を刺し貫いた瞬間そう思った。
 まさに不可避の一撃を相手に撃つことができたと、自画自賛したいほどの一撃であった。
 自分相手にここまで善戦した相手に最大の敬意と、そんな相手を討ち取れたことに言いようの無い快感をケーラは感じずにはいられなかった。
 だが、楽しい時間もいつかは終わってしまう。それが運命。
 一抹の寂しさがケーラの胸の中に生じたその瞬間、コックピット内に警告音が鳴り響いた。
「――!!」
 その音を耳にするのと同時に、装甲越しに明確な、つい先ほどまで味わっていた殺気を感じた。
 それを迎え撃つために握っていたサーベルを手放し、残っていた腰にマウントされていたもう一本を握りなおすと同時に、スラスターを小刻みに吹かしながら機体を反転させそれを迎え討った。
「君は、魔法使いかい!!」
 自分の背後から一撃を加えたのは、つい先ほど自分が刺し貫いたはずの青い装甲のMSであり、背中の装備は背負わずにビームジャベリンで刺突の構えを取っていた。
 しかも、先ほどの意趣返しなのか、その矛先はこちらのコックピットを狙ったものであった。
「狙いが正確すぎ!ゆえに防がれやすいぞ!!」
 ビーム同士がしのぎを削っている状況なのに、ケーラは楽しんでいる声で相手の行動に対しての採点を口にしていた。
――ああ、なんて楽しいんだろうか。
 言いようの無い快感が、自分の背筋を駆け巡るのを意識せずにはいられなかった。
 生きている。
 そのことを実感せずにはいられなかった。
 だからケーラは、戦場では、殺し合いの場では決してしてはならない事を行った。
「名前を教えてもらえるかな?ZAFTの『合体君』」


 殺られる!!
 インパルスの右腕を切り裂かれた瞬間、シンは漠然とそう認識してしまった。
 奇策に奇策を重ねてここまで追い詰めたのに、相手の地力はこちらの想定の範囲外を優に超えているものであったようで、追い詰めたはずが逆に追い詰められているのだから、笑うに笑えないことだった。

―――俺は、死ぬのか?
 明確に迫る死を前にし、シンはそんな事を考えてしまった。
 死。
 死。
 死は全ての終わり。
 死は終わりの始まり。
 死は『人生』と言う名の大舞台からの降板の意味。
 死は、死は、死は――――――――――――
 まとまりの無い思いが頭に浮かぶ。
 それと同時に、今までの思い出が頭に浮かぶ。
 ミネルバ関係の、タリア艦長、アーサー副官、アリシアなどの艦橋要員達。
 アカデミー時代からの友人である、ヨウラン、ヴィーノ、レイ、ルナマリアとメイリン、キーファやトウマにレオ。
 途方にくれていた時に背中を押してくれた人たち、ハイネ、兄貴、トダカさん。
 そして、かつてシン・アスカとしてではなく、大鷹真矢としての友人達。
 今では会うことのできない愛すべき困った妹、尊敬してやまない大きな背中の祖父。
 そして、俺に生きるという事を、心を教えてくれた憧れであり、敬愛する、夭折してしまった初恋の人。
 俺を産んでくれ、そしてその命を持って俺を守り庇い若くして逝った母。
 ああ、俺は、この人たちに胸を張っていえるのだろうか。
 精一杯生きた、と。
 あなた方の誇りに思えるほど生き抜いた、と。
 ………………否。
 否、否、否。断じて否!!
 俺は、まだ何も出来ていない。
 何も誇りを抱いていない。
 まだ、俺は、死にたくないんだ!!
 俺を殺す?
 ふざけるな!!!

      パリーン!


 理不尽な運命の結末を声高に否定したその瞬間、シンの中で何かが弾けた。
 それと同時に、意識がどこまでも広がり、どこまでも行ける、何でも出来る、と言う開放感がシンを包み込んだ。

 突如クリアになった思考に驚くことなく、シンは普段よりも三倍増しの動きで各種スイッチを弾き、入力した。
「インフィ!ブラストパージ!チェストAと十秒後に再合体。その時ジャベリンも放出。迅速に実行!!」
『了解』
 指で追いつけない事態には口頭で相棒に事務的に指示を加える。
 どこか感情を欠損した声音で指示を出すも、その動きに停滞は無い。
 無我の境地。
 その言葉が当てはまるほど、今のシンの思考に波はひとつもなかった。
 少しでも時間を稼ぐために胸部バルカンを放出。
 それにより相手に悪あがきをしていると錯覚させる。
 決して逆転劇を狙っているとは思わせないように。
 しては装甲を信頼しているのか、バルカンをものともせずに接近しようとする。
 その絶妙な瞬間に、強制分離されたブラストが相手の背部に衝突する。
 一瞬バランスを崩す程度、だが、正に値千金の隙を生み出してくれた。
 その隙をつくように、両腕の無くなったチェストを強制分離。
 そのときの反動で感覚的には下に落ち、すぐに相手の足の下を潜り抜けるように移動。
 相手のサーベルがチェスチトの腹部を貫いた瞬間、相手の意識がそちらに傾いたそのときには相手の背で再合体のプロセスが実行され、無事に終了すると同時に、自分の勘を信じ漂っていたビームジャベリンを掴み刃を形成させ振り下ろした。
 この間の動きは実にすべらかで、まるで計算尽くされた舞踏のようであった。
「うおぉぉぉぉ!!」
 突き刺し、抉り取るように放たれた一撃は、相手にまたもや防がれてしまうも、シンは慌てずにそのまま刃で凌ぎを削った。
 その状態が数秒続くと、全周波数で相手から通信が掛かってきた。
『名前を教えてもらえるかな?ZAFTの『合体君』』
 その、どこか場違いな問いかけにシンは疑問を覚えずに答え、ついでに問いかけたのだった。
「シン!あんたの名前は!!」
『ケーラだ。覚えておけ、シン!!』
「ケーラこそ覚えとけ!!」
 その短いやり取りを終えると、二機は申し合わせたかのようにお互いの距離をとるべく離れた。
 お互いに手にしたものを構える。
 いや、構えようとしたのだが、ストライクはサーベルのビームを消し、無防備な構えを見せるのだった。
 それを疑問に思うも、距離はそのままでシンは警戒を強めた。
『今日は、ここまでにしておこう』
 突如伝えられた内容に眉をしかめる。
 そんなシンの様子がわかるのか、ケーラは音声だけで用件を伝えた。
『シン、君はまだ強くなれる。それこそ、世界に逆らえるほどに。そんな君を見てみたい。だから、今日はこのまま解散だ』
 あまりな内容に、シンは驚きながらも動揺を見せずに返事をした。
「ありがたい申し出だけど、そんな言葉を信じろと?」
『信じあうことこそ良質な関係を築く第一歩では?』
「なかなか重みのあるお言葉で」
『そうでしょう。だから、このまま今日はさようならだ』
 そう口にすると、ストライクは腰のレールガンを起動させた。
 それを回避しようと構えるも、放たれた砲弾は宙に未だ爆発せずに漂っていたチェストを爆炎へと包むだけにとどまった。
 それに一瞬意識が向き、慌ててストライクがいた地点を確認すると、そこには何ももう存在していなかった。
「……………また、お株を奪われたな」
 一瞬の隙をついて撤退したケーラに、シンは感心とあきれを滲ませた声でそう呟くしか出来なかった。
 そして、レーダーで周囲に敵影が無い事を確認するとシンは、届けられていた文章通信を読み、無事だったブラストを再装備するとミネルバへと向かって飛んでいくのだった。
(ケーラ、か。今日はその好意に甘えるけど、次に会ったら後悔させてやる)
 新たなる思いを胸に、シンはスラスターを吹かせるのだった。


 背後から猟犬の如く迫るミサイルをCIWSで撃ち落しながら、ミネルバは必死に逃走劇を続けていた。
 その必死さが功を奏したのか、今のところ着弾したミサイルは一基もなかったのだが、それも時間の問題と言うのが現状であった。なぜならば、CIWSの弾数は無限ではないのだからだ。
 もしこのまま撃ち続ければいずれ弾切れとなり、そうなればもうミサイルを防ぐ術はなくなってしまう。そこから導き出される結果と言う名の答えは―
「後ろを取られたままじゃどうにも出来ないわっ!回り込めないの!?」
 艦長席の肘掛を強く握りながら、タリアは苛立ちを滲ませた声で訊ねるが、マリクは首を振った。
「駄目です! 回避だけで今は!」
「レイのザクを――!」
 打開策の一つとしてアーサーが進言しかけるが、タリアはそれを一蹴する。
「現状では発進進路も取れないわ!」
 タリアの言葉通り、小惑星にへばり付いた今の状況では、MSをカタパルトで射出するスペースを取る事は出来ない。
 では、MSの発進経路を確保するためにこの小惑星から離れるか、と言えば、ここで小惑星の陰から出れば、ミサイルの直撃を受けるのは目に見えている。
「これではこちらの火器の半分も……」
 タリアが悔しそうに呻く。
 ミネルバの武装では、主砲などの射角では背後の敵を捉える事は出来ず、ミサイルを放ってもデブリや小惑星の破片に阻まれて敵に届く事はない。
 つまり、今の自分達には敵を攻撃する手段は無く、出来るのは敵から逃げる事だけなのだから。これほど屈辱的な状態は無いのではないだろうか。
「ミサイル接近! 数6!」
 屈辱感に耐えているタリアの耳に、バートが敵からの砲撃を告げる声が届き、タリアは反射的に迎撃を命じた。
 その様子を背後から眺めていたアレックスは、ミサイル群の予想到達コースを見て違和感を覚えた。
 モニターに映し出されたコースは直撃コースではなく、ミネルバ前方の小惑星を指し示しているのだった。
 こちらの航路を狭めるために牽制の為に当てずっぽうで撃ったのかとも思ったのだが、その時、アスランの目は外部の岩壁に吸い寄せられた。
「っ!まずいっ、艦を小惑星から離してください!」
「えっ?!」
 思わず席から立って叫んだアスランをタリアが怪訝そうに振り返り見るが、もうその時点で全てが遅かった。
 敵艦から放たれたミサイルはことごとくミネルバが身を寄せる小惑星に次々と突き刺さり、凶暴にその岩壁を抉り、その暴力性の果てに生み出した破片をミネルバへと撒き散らしたのだった。
 無数の破片が生み出された反動のままミネルバの船体に襲い掛かり、横殴りの衝撃を無遠慮に与えていく。
 つい先ほどまで自分たちを護ってくれていた身を護る盾は無情にも砕かれ、その破片は鋭い矛となりこちらに牙を剥いたのだった。
「右舷がっ?!艦長!!」
 あまりな現実にアーサーが悲鳴のような声で叫び声を上げ、それすらも飲み込んでしまう轟音に掻き消されそうになりながらも声を張り上げながらタリアは指示を飛ばした。
「離脱する!上げ舵15!」
「さらに第二波接近!」
「減速20!」
 ミサイルの予想進路を読み取ったタリアが瞬時に命じる。
 第二波のミサイルはミネルバ前方に命中し、今度は正面から吹き飛ばされた岩の弾幕を食らってしまった。
 岩の破片は凶器となって襲い掛かり、目の前に巨大な岩塊が突き刺さり、あたかもあの世とこの世を隔てる門の如く立ちふさがった。
 もし、タリアが減速を命じていなければ、今頃船体はあの岩に押し潰されていたかもしれなかった。
 だが、その代償としてミネルバは完全に進路を塞がれてしまう結果になったのは何と言う皮肉であろうか。
「四番、六番スラスター破損! 艦長、これでは身動きがっ!」
 アーサーの報告の言葉に、タリアは小さく呻くしかなかった。
 先ほどの岩の弾丸でスラスターが潰されたのだ。
 前へは進めず、右には岩壁、後ろからは敵艦が迫り、スラスターが使えないから回頭も左方向への移動も出来ない。
 手詰まり。王手。チェック・メイトだ。
「ボギー・ワンは?!」
「ブルー22デルタ、距離1100!」
 バートの声にかぶさるようにメイリンの言葉が飛び込んできた。
「さらにMA、MS接近!」
 その内容に、一同は悲痛な表情になってしまった。
 間違いなく自分達に止めを刺す為に来たのだろうことが無情にも理解してしまったからだった。
 緊張した表情で自分を見るカガリに、アレックスは唇を噛んだ。
 自分はカガリの護衛としてやって来たのに、その彼女が危険にさらされている今この時も、ただ座っている事しか出来ないという現実に、あまりにも無力感を感じずにはいられなかった。 

 一瞬の静寂の後、タリアは艦内通話の受話器を取り通話を繋げた。
「エイブス、レイを出して!」
『しかし艦長!これでは発進通路も確保出来やしませんが…………』
「歩いてでも何でもいいから!急いで!」
 確かにエイブスの言うことは正論なのだが、現状はそのような事を許してくれるような現状ではないのだ。
 そんな、相手との認識の僅か無さが不快に思ってしまうのを押さえられずに、タリアは怒鳴るようにして通話を早々に切ると、メイリンに鋭い声を掛けた。
「シン達は!」
「駄目ですっ!全機、依然として、カオス、アビス、それにあのMSと交戦中のようで応答がありません!」
 その会話を聞きながら、アレックスは彼らの援護は期待出来ないだろう、と思ってしまった。
 あの奪われた新型を相手にしている以上、墜とされないように戦い続けるだけでも困難なはずだと、短時間だが交戦したアレックスはそう結論付けた。
 それに、向こうは戦闘を目的としてではなく、おそらくこちらのMSの足止めを頼まれているに違いないのだから。
「………艦長、この艦にはもうMSは無いのかね?」
 今まで黙っていたデュランダルが問い掛けると、タリアは無造作にこちらを振り返り憮然とした声で答えた。
「………機体があってもそれを扱えるパイロットがいません」
 そのタリアの声を聞いた瞬間、アレックスは自分の心臓がビクリと跳ね上がるのを感じた。
 デュランダルとタリアの声に触発されたのか、カガリが弾かれたように自分を見つめるのを感じた。
 それだけではなく、艦橋全ての視線が自分に向けられているような気分さえしてきていた。
―――パイロットなら、ここにいる。
 声高に訴えたかった。だが、そのようなことが、オーブの国民であるアレックス・ディノに出来るはずがなかった。
 もしここで他国の兵器を使用したとなれば、外交問題に発達しかねないのだから。
 そう自分に言い聞かせるように正論を並べるも、なぜか胸に生じる後ろめたい気持ちに囚われるのを避けるように、アレックスは周囲の目を避けるかのように顔を俯かせるのだった。

『レイ、現状はかなり悪いわ。こんな事をあなたに頼むのは酷だと思うけど、頼んだわよ』
「了解」
 レイは自機のコックピットで艦橋のタリアとの通信を終えると、ヘルメットのバイザーを下ろし機体に火をともすのだった。
(この艦にはギルが乗っているんだ。それに、友との約束もある。墜とさせるものか)
 思いを噛み締めているレイの耳に、外部から通信が届いた。
『レイ!』
「どうしました?」
 通信の相手は整備主任のエイブスであり、宇宙服を身に着けていた。
『外の状況は、デブリが視界一杯に広がっていて発進もそう簡単には出来ない』
「はい。それはもう確認済みです」
『ああ。だから、とりあえず進路上のデブリだけでも排除できるものがあるからそれを使え!』
「了解。それはどこに?」
 エイブスの言葉に軽く驚きながら、レイはそれの所在を尋ねた。
『C−2ハンガーにあるやつだ。そいつを担いでいってくれ!』
「了解」
 その声に従い、今回はカタパルト出撃が不可能なため、もうハンガーから開放されているザクを動かし、指示されたそれを確認した。
 そこにあったのは――


「さてさて、進水式も経験できずにプルートの所へと嫁いでもらおうかね!!」
 岩盤と言う名のクモの巣にからめとられ身動きの出来ないミネルバをそう揶揄しながら、ネオは連れてきた二機のダガーLに指示を出そうとした瞬間、言いようの無い肌が粟立つような感覚を覚えた。
 その感覚に弾かれるように、ネオは自機を緊急回避させながら僚機に指示を出した。
「散開しろ!!」
『え?』
『大佐?』
 突如伝えられた不可解な命令に、ダガーLのパイロット達は疑問の声を上げるも、その答えを知るのには手痛い代金を取られることになるとは思いも出来なかったのだった。
 二人が理由を聞こうとした瞬間、ミネルバから艦主砲並の熱線が襲い掛かってきて、一機のダガーLを飲み込んでしまったのだった。
『ヨーン!!』
 突如命を奪われた同僚の名を叫ぶ部下を無視しながら、ネオは最大望遠で発射本を確認した。
 そして、モニターに映し出されたのは、大型のランチャーのようなものを構えた白いMSだった。
 艦から直接エネルギーをまわしているのか、ランチャーには多くのケーブルが繋がれているのが目についた。
「やってくれる!!」
 ランチャーを投げ捨て、こちらに接近するMSを見つめながらネオは愉快そうに声を上げながら生き残ったほうに指示を出した。
「ミラー!こいつは俺がやる!お前は敵艦を叩け!!」
『りょ、了解!!』
 弾かれて行動する部下を確認せずに、ネオは楽しげにエグザスのバーニアを吹かせ、白いMSに向かっていくのだった。


「一機撃破!」
 真空の世界に生じた爆発を一つ確認したレイは、そう口にすると、構えていたケルベロスをカタパルト上に置くと腰にマウントさせていたビームマシンガンを構えて飛び出した。
 先ほどレイが使った武器は、インパルスの予備パーツの一つである『ブラストシルエット』のケルベロスを流用したものであった。
 ミネルバは、インパルス専用艦といっても過言ではなく、各種シルエットの予備パーツは充足に存在していた。
 そんな中、もっとも場所をとってしまうものはブラストシルエットのケルベロスであり、常時万全の状態であるのは二機だけであり、残りは部分ごとに保管して場所を確保するようになっている。
 そんな予備パーツのうち一つに、前大戦中に敵のMSが艦砲代わりに活躍したと言う情報を得ていたエイブスは、万が一、と言う事態のために保険のつもりで一基だけ、しかも艦からエネルギーを供給されなければ使えないものを試作していたのだった。
 まさか、このような場面で日の目を見ることになるとは、実際に製作した理科畑のエイブスを持っても運命の妙さを感じずにはいられなかった。
 そんな理由で製作された『ケルベロスランチャー』を構えたレイは、周囲のデブリをものともせずに、正確に三機を飲み込ませるつもりで放ったのだが、不意に肌が粟立つような感覚を覚えるも、それを無視して放った結果、一揆しかしとめる事が出来なかったのだった。
 その事実に、どこか苛立ちながらレイは残りの敵を討ち取るために機体のスラスターを煌かせるのだった。


 ネオの指示に従って反転したミラーのダガーLを追おうとする白いMS―ザク―を、ネオはガンバレルで牽制した。
 四基のガンパレルから縦横無尽に放たれるビームをザクは巧みにかわし続ける。
「おっと、君の相手は私だよ!?」
 そうおどけた口調を口にしながら、ネオはザクの行く手を巧みに阻み、それを嫌ったのかザクは散らばった岩塊の間に飛び込みやり過ごそうとした。
 ネオもそれを追って岩塊の中へと飛び込んだのだが、周囲に漂う岩塊が邪魔をしていくらビームを撃っても当たらないのだった。
 その事実に憮然とするも、条件は相手も同じ事と思い溜飲を下げた。
 この状況では互いに手出しは出来ない、まさに千日手だ、とそう考えてほくそ笑んだネオだったが、その予想はすぐに覆されるのだった。
 ザクの背負っていた背面のミサイルポッドから一斉にミサイルを放たれ、ザクの正面にある岩塊を吹き飛ばしたのだった。
 その岩塊があった先にいるのは、今まさにミネルバへと向かうダガーLの姿があった。
「しまった! 狙いはこれか?!」
 相手の術中に嵌ったことに気がつき、自分の判断ミスを悟ったネオが慌てて機体を加速させたが、時既に遅しであった。
 ザクから放たれたビームの矢は正確にダガーLの胴体を貫き、直後に機体は火球となって宇宙に消え失せてしまったのだった。
 その光景を見ながら、ネオは不満げに舌打ちをつくのだった。
 ここまでの攻防で、ザクのパイロットが高い空間認識能力を持っているだろう事は確信していた。
 その能力を持ってすれば、離れた場所にいる敵機の位置を正確に捉える事など容易いということに失念していた自分に腹立たしさを感じずにはいられなかった。
 そのため、対艦攻撃装備を持つ機体は無くなってしまった。
 いまこの状況であの新型艦を墜とすのは厳しいだろう。
 ネオが微かな苛立ちを覚え、これからどうするべきか思案したその瞬間、岩塊に覆われていた敵艦が大きく動いた。
 いや、爆発したという表現の方が正しいのだろうか?
「なにっ?!」
 そのことにネオは驚きの声を上げた。
 確認する限り、ガーティー・ルーは攻撃していないのは確かだった。
 それなのに生じた爆発。
 何が起きたのか、爆発の閃光に目を灼かれながらも飛来する岩塊を避け、後退しながら何が起きたか確かめようとするネオの前に、淡いグレイの船体が飛び出して来たのだった。
 女神、再臨。
 その瞬間をネオは目撃したのだった。


 岩塊から飛び出してきたミネルバの艦橋では、アーサーが大きく息を吐いていた。
 岩に面している右舷の全砲門から一斉に発射し、同時にスラスターを全開にする。
 その反動を使って岩塊の中から脱出するという大博打は見事に成功し、なんとか無事に外に出る事が出来た。
 無数の礫で船体が揺さぶられる中、アーサーは自分の後方に凛として立っている補佐官を見つめた。
 この計画は彼女が発案した物であった。
 煮詰まり絶望しか出来ない自分の耳に、彼女のどこか落ち着いた、それでいて揺るぎの無い声によって奏でられた言葉が自分にこの策を思いつかせたのだった。
「…………『肉を切らせて骨を断つ』か」
 彼女の言葉にしてはいささか物騒な内容に、アーサーは苦笑を知らず浮かべていた。
 それに気がついたのか、アリシアがこちらを見つめるのを感じ、なぜか自分の心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じながらアーサーは小さく目礼を彼女に送り、慌てて正面に向き直るのだった。
 後ろで、アリシアが、クスリと笑ったのをなぜか感じ、その笑みを見たいという欲求を軍人としての意識を全力で奮い立たせながら艦長からの指示をアーサーは待つのだった。
「回頭30!今こそボギー・ワンを討つ!」
 よく通るタリアの声に正面モニターに目を移すと、青銅色の船体が見えた。
 タリアはその姿を睨みながら、アーサーに指示を飛ばす。
「タンホイザー起動!目標照準、ボギー・ワン!!」
 その声に応えるように、艦首が開き、そこから陽電子砲が迫り出てきた。
 そして敵艦との距離が800を切った瞬間、タリアは叫んだ。
「タンホイザー、てぇー!」
 その声に応えて砲口から陽電子の奔流が放たれ、それは敵艦の右舷装甲表面を削り取り蒸発させるという結果を生み出した。


 右舷装甲を蒸発させられたガーティ・ルーを見ながら、ネオはようやく敵艦のした事を理解した。
 ほぼ零距離から岩塊を砲撃し、その反動と爆発のエネルギーを利用して失ったスラスターと同等の推進力を得る。
 言葉にすれば簡単だが、何と言う分の悪い賭けだろうか。
 決してお世辞にもまともな戦術とは言えない、まさに捨て身の戦法であった。
「ええいっ、あの状況からよもや生き返るとは!!」
 ネオは腹立ち紛れに怒鳴りながら、機体を翻させた。
 もう一度、戦場での予測の立て方を見直すべきか。
 そんな事を考えながら、まだ追い縋りながら放たれるザクのビームを避けていると、突如別方向からの攻撃が襲ってきた。
「なに?!」
 慌ててレーダーを確認すると、ギリギリレーダーの範囲圏内に映る敵機からの攻撃であった。
 それを確認した瞬間、ネオはすぐにここから戦術的撤退をすることにした。
 あまりにも分が悪くなりすぎてしまったためだった。
「また会える日を楽しみにしているよ、白いボウズ君!そして、ザフトの諸君!!」
 まるで映画のワンシーンのような言葉で一方的に別れを告げながら、ネオは退却を意味する信号弾を打ち上げ母艦へと向かっていくのだった。

 その様をレイは無言で見送るしか出来なかった。
 起死回生の一撃を放つことが出来たミネルバだが、依然として右舷スラスターが損壊しているという事実は覆らず、方向転換もままならない、まさに片翼を失った状態である。
 そんな母艦を離れることは戦術的にも下策なため、レイはただ敵母艦が逃げるのを見つめるしか出来なかった。
「ふぅ〜」
 レーダーから敵母艦が遠ざかるのと、こちらに近づいてくる反応を確認すると、レイは知らず深く息を吐き出すのだった。
 こちらに近づいてくる一つに固まっている三個の光点と、それより離れた位置にある一つの光点。
 全員無事に帰還してきた。
 その事を確認すると、レイは知らずに笑みを浮かべるのだった。


「ボギー・ワン、離脱します!」
 どこかほっとした声でバートが告げ、後に続いてメイリンも報告を告げる。
「インパルス、ザク・ルナマリア機、ゲイツR・ゲイル機、バスターゲイツ、全機パワー危険域です。内、ルナマリア機中破、インパルスも使用したチェスト・フォースシルエットを損失とのことです」
「艦長。さっきの爆発で更に第二エンジンと左舷熱センサーが―――」
「機関室より通信です。右舷エンジンを大至急停める許可を―――」
 次々と寄せられる報告は、全てがタリアに一つの事実を伝えていた。
 即ち、これ以上のミネルバの戦闘継続は不可能だ、ということを。
 ミネルバはまさに満身創痍であった。
 撃沈こそ免れたのだが、ボギー・ワンを目の前にしながらも、決定打を打つ余力がもうなかった。
「グラディス艦長」
 その事実に苛立つタリアの耳に、デュランダルのいつもと変わらない涼やかな声が掛けられた。
「もういい。後は別の策を講じるよ」
 しれっと告げられたその言葉が持つ意味は、すなわちそれは、任務の失敗を意味する言葉であった。
 それを認識すると、タリアは悔しさに耐えるために唇を噛むしかなかった。
 最新鋭の艦と最新鋭のMSを与えられておきながら、艦長としての最初の任務を失敗してしまったのだ。
 何と言う屈辱だろうか。
 言いようの無い屈辱感に耐えているタリアを宥めるように、デュランダルは言葉を重ねた。
「私もアスハ代表を、これ以上振り回す訳にもいかないからね」
 そういう表現での優しい心遣いが、余計にタリアの胸を、自尊心を刺し、苛ませるのだった。
 自国と友好国の国家元首を、撃沈の危険にさらしてしまった。
 そんな自分の不甲斐無さが口惜しく、彼女は忸怩たる表情で頭を下げた。
「…………申し訳ありません」
 その言葉に込められた思いは、如何程のものであるかは彼女しかわからないものであった。


―後書き―
 今月号のGAでのアストレイの終わり方が「…………もしかして、圧力かけられた?」と邪推してしまったANDYです。
 は?!ま、まさかそんな事を思ってしまったから季節はずれの風邪なんか患って苦しんでしまったのだろうか?
 おのれ〜○○○○めー!!(○には何もあてないでね♪もし、ヒットする単語があっても内緒だよ♪)
 約一ヶ月ぶりに登場ですが、皆様お元気でしょうか。
 気がついたらもう四月です。
 うわ〜い。時がめぐるのは早いな〜。
 さてさて、今回の話はどうだったでしょうか。
 まあ、今回原作とはかなり違うようになってきていますが、これは仕様ですのでご容赦の程を。
 今回は色々と難産に近かったですが、それでも皆様に楽しんでいただけたのなら幸いです。
 次回もお楽しみに。

 では、恒例のレス返しを

>GZM様
 感想ありがとうございます。
 シン君は、このようにして危機を回避しました。
 いや〜、原作とは違い、もう割れちゃいましたw
 でも、そうでもしなければ回避不能のように思えたのでこうなりました。
 これからも応援お願いいたします。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 前回の引きは、よくある少年漫画の手法を真似させていただきましたw
 今回のシン君の起死回生劇はどうだったでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

>蓮葉 零士様
 感想ありがとうございます。
 種OVAのスターゲイザー、製作スタッフは皆つわものばかりですので今から楽しみです。
 ただ、模型誌などに乗せられていたストライカーが「うわ〜い、地上戦で使わせようと思ってたのに似てるよ~」と言う事実にどう対処しようかと少し悩んでいる次第ですw
 他にも機体情報が載っていましたが、その辺は無視の方向で行きたいです。
 というか、なぜ今頃「決闘」などの改造機?
 今回の話はどうだったでしょうか。
 楽しんでいただけたのならば幸いなのですが。
 これからも応援お願いいたします。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 ええ、あの作品ではニュータイプを否定しているはずなのに、なぜああも簡単に操れるのかを聞きたいと思っている一人なものなので、ゲイツコンビには頑張ってもらいました。
 今思えば、御大はちゃんと緩衝材を用意してたんだな~、と感心してしまいますね。
 それに、模型誌の方のMSVなどでは、ちゃんと量産機が活躍している場面が存在しているのにな〜、と思っていたので前回ああも暴れてもらいました。
 F1ドライバーの運転する普通車と、ど素人の運転するF1は果たしてどちらが早く安全に運転できるのかな、と言う状況を思い浮かべていただければ納得していただけると思います。
 ですが、次に登場したときは、彼らはとてつもなく手強い壁として登場するので楽しみにしていてください。とくに、「混沌」の彼はw
 今回、ついにケーラさんの存在を知ってしまいました。
 これから、二人はどのような物語を紡いでいくのか。
 これからも応援お願いいたします。

>ATK51様
 感想ありがとうございます。
 あの二機のゲイツは、私のオリジナルですよ。
 模型で作りたいな~、と思っているのですがなかなかw
 今回の話はどうだったでしょうか。
 少しでも感じていただける部分があれば幸いです。
 これからも応援お願いいたします。

>花鳥風月様
 感想ありがとうございます。
 今回の展開はどうだったでしょうか。
 なんか、かなりの分量になっているようで、自分でも驚きですw
 就職活動頑張ってください。
 わたしも、まあ、色々と頑張りますのでw
 …………次回あたり、萌を頑張ってみるかな?
 これからも応援お願いいたします。

>東西南北様
 感想ありがとうございます。
 「各所で叩かれているインパルスを救う会」に所属しているものでw(冗談?ですよ)
 いえ、あれは本当に使いどころをちゃんとすればよいと思うんですよね~。
 『自由』至上主義でしたからちゃんと考えなかったんでしょうかねw
 今回の話はどうだったでしょうか。
 なんか、色々とフラグを立ててしまったような気がするんですが、まあそれは無視する方向でw
 これからも応援お願いいたします。

>なまけもの様
 感想ありがとうございます。
 はい。何とかシン君、自分だけいかない様にふんばれました(なんか、卑猥?)
 でも逆に、なんかロックオンされてしまったようですけどねw
 これから二人はどうなるんでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

>Zain様
 感想ありがとうございます。
 ええ、ベテランがいてこそ物語は輝くのですよ。
 今回はこのような展開になりましたがどうだったでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

>ユキカズ様
 感想ありがとうございます。
 ええ。あの二人は、新造艦に配置されるほどなのだから、かなりの腕前のはずでは、と言う考えの下彼らには頑張ってもらいました。
 ルナマリアさんはこのような結果になりました。彼女にはこの言葉を送りましょう。「一寸先は闇」をw
 シン君のほうはこのようにして脱出しました。
 さてさて、これから物語はどのように加速していくのでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

>あつき様
 感想ありがとうございます。
 ゲイツコンビを気に入っていただけたようで、嬉しいしだいです。
 カオスのドラグーンは、単機ではそう脅威ではないだろうな〜、と思いあのような結果になったのです。いえ、二基じゃあそう脅威を感じないのでは?
 シンはこのようにして危機を脱しました。
 これからも応援お願いいたします。

>T城様
 感想ありがとうございます。
 種シリーズに足りなかったのは、ベテランの活躍ですよね。
 ベテランに触発され悩み成長していく、それが王道だと思うのですが。
 ちなみに、08のノリスが大好きです。特に最後の「勝った!!」という場面が。
 これからも応援お願いいたします。

>HAPPYEND至上主義者様
 感想ありがとうございます。
 『種拒食症』になってしまうなんて、大変じゃないですか!!w
 でも、まあ、自由が暴れだしてからは本当に食中りを起こしても仕方がないですねw
 個人的には、0083もお口直しにお勧めいたします。
 主役を食うほどの脇の男達が熱く、おもしろいです。
 さて、今回の話はどうだったでしょうか。
 これからも応援お願いいたします。

 今回も感想を頂き、ありがとうございました。
 これからも頑張っていきますので応援お願いいたします。
 つい最近、友人からあるPCゲームを渡されました。
 それは何か、と言うと「マブラヴ オルタ」です。
 率直な感想言います。
 倫理コードに抵触するところだけカットしてアニメ化希望!!
 というか、熱いです。燃えです。18禁なのになぜこうも熱い?!
 しかも主題歌がJAMプロジェクトですよ!
 ええ、CD買いました。今回執筆中にエンドレスでかけてますよ。
 戦争や、国、理想などを熱く語っている脇役達が本当に魅力的過ぎます。
 主人公の声が某ヤマト少年と一緒と言う事実に驚きましたが。
 さて、今月でアストレイも終了してしまいさびしいですね。
 エッヂのほうも、なんか、ツッコミがあるセリフがちらほらとあるように思ってしまいましたが。
 「お父様の『力』が―」ね〜………………。
 突っ込んだ人がどれだけいたんだかw
 無限正義の百分の一が発売するようですね。
 磐梯山、アウトフレーム、またはミナ様用天プリーズ!!
 消費者のニーズに耳を傾けて!!w
 では、また次回もお楽しみに。

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