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▽レス始

「これが私の生きる道!最終決戦前夜編4(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-03-29 13:11/2006-04-02 14:41)
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(9月上旬、ザフト本部人事部長室)

 「はあ、見学会ですか・・・」

本部に直接届けなければいけない書類を持って来
た俺を例のハゲ部長が呼び止めて、用件を話し始
めた。

 「そうだ。数日前、アカデミーに入学した優秀
  な逸材諸君に実際の部隊を見せておこうと思
  うのだよ」

 「そんなものは卒業すれば毎日見られますし、
  私達の頃にはそんな行事はありませんでした
  よ」

 「せっかくの大部隊を生徒に見せておきたいと
  、ザラ委員長がおっしゃってな。戦後は軍縮
  で二度と見られない壮大な艦隊だし・・・」

確かに、戦後に今の軍備を保持しようとしたら、
プラントは破産してしまうからな。

 「わかりましたよ。ザラ委員長の命令なら断れ
  ないでしょうが」

命令だから仕方が無いのだが、最終決戦まで一ヶ
月を切ったこの大切な時期に、何をやっているの
だろうと思ってしまう。

 「パイロット専攻の生徒を回すからな」

 「私達の部隊にだけですか?」

 「(ゴンドワナ)とアイマン隊長のところにも
  回す予定だ。人数が集中すると大変だろう?
  」

 「ええ、まあ。でも、クルーゼ司令のところに
  も回さないのですか?」

 「君は若い純真な生徒達が、彼に影響されても
  構わないと?」

 「我々で引き受けます」

想像するのも恐ろしいので、素直に引き受ける事
にした。

 「では、明後日は頼むよ」


その日の午後、俺は部隊の訓練をコーウェルとタ
リアさんに任せて軍港の食堂で書類の整理をして
いた。
司令官になったのはいいが、書類仕事が増えて大
変でしょうがない。

 「誰かやってくれないかな?」

 「我侭言わないで、ちゃんとやらないとコーウ
  ェルさんに怒られますよ」

 「アスラン、俺の独り言にツッコミを入れるな
  よ」

アスランは俺の隣りで、同じ様に書類を整理して
いた。

 「独り言が多いのは歳を取った証拠ですよ」

 「おっ、言うようになったね。さすがは、隊長
  殿」

 「茶化さないでくださいよ」

 「実は1つ聞きたい事があるんだけど」

 「何ですか?」

 「ザラ委員長キレて無かった?」

 「大丈夫でしたよ。かえって、ご機嫌なくらい
  です」

 「機嫌がいいのか?」

 「父上はヨシさんとラクスの事を知らなかった
  じゃないですか。だから、自分達だけが婚約
  を破棄すると思っていたから、ラクスに相手
  がいて気が楽になったそうですよ」

 「それは良かった」

結局、ラクスとアスランの婚約関係は既に無くな
ったも同然だったのだが、極めて個人的な事なの
で、正式な解消は戦後にする事になったようだ。

 「なあ、その話は良いから助けてくれないか?
  」

 「カガリ様、自分でやって下さいね」

アスランの隣りでカガリが書類の山に埋もれなが
ら助けを求めていたが、交替で副官の真似事をし
ているアサギに止められていた。

 「ザフトの書類は書式が難しいんだよ」

 「同じ様なものでしょうが」

 「カガリ様がバカだからですよ」

 「バカは酷いよな。じゃあ、アサギはわかるの
  か?」

 「そうやって、私に押し付けようとしても無駄
  ですよ」

 「ちぇっ!」

 「本当に押し付けるつもりだったんだね」

カガリが書類仕事が苦手なのは相変わらずのよう
だった。
別にバカだから書類が片付かないのでは無くて、 
カガリが細かい仕事が苦手だという、性格的なも
のが原因なのだが。

 「早く、終わらせて2人で楽しめばいいだろう
  に」 

 「ヨシさん!俺達は別に毎日会っているわけで
  は・・・」

 「そっ、そうだぞ。カザマ!」

 「外へ訓練に出ていた時、自由時間になると(
  クサナギ)から一機のモビルスーツが発進し
  て(フューチャー)へ・・・」

 「わっ、それ以上言わないでくれ!」

 「全部センサーに引っかかっているんだよーん
  。しかも、目視が簡単な(暁)で出るなんて
  迂闊だね」

 「すいません・・・」

真面目なアスランが落ち込んでしまった。

 「別にいいけどね。仕事さえやってくれれば」

 「すまない。だが、今日は私に用事があるから
  、アスラン1人だ」

 「用事?」

 「オーブから応援の大使館職員が到着するから
  、その歓迎会を内輪で行うんだ。私は主賓と
  して出席しないといけないから」

講和条約締結に向けて、オーブも色々と動いてい
るようだ。

 「大変なんだね。お姫様って」

 「思っていない癖に」

 「ははは」

その後、終業時刻まで書類仕事をしてから、帰宅
の途に着こうとした時、ハワード一尉とホー一尉
に呼び止められた。

 「なんだい?2人して」

 「飲みに行こうぜ」

 「お前達の行くお店はやばいから嫌だ」

ラクスにバレたらどうするんだ!

 「例の店とは別のお店だからさ」

 「それならいいけど・・・」

男同士の付き合いは大切だからな。

 「じゃあ、ラクスに連絡を入れるか」

俺は軍港施設の正面玄関にあるテレビ電話でラク
スに連絡を入れた。

 「というわけでさ。今日は遅くなるから、夕飯
  はいらないよ。御免ね」

 「男の方のお付き合いは大切なものですから、
  気にしないで下さいね」

 「ありがとう」

ラクスは全然怒っていないようだ。
後ろに面子が映っているのだが、2人の他にアス
ランやイザークが混じっているので、変なお店に
行かないだろうと思っているらしい。

 「お待たせ。アスラン、みんな」

フリーダムの調整を終えたキラが俺達に合流して
きて、参加者が全員揃ったようだ。

 「ホー一尉、今日は何処に行くんです?」

 「驚けよ。今日はランジェリーパブにいごけば
  ぐぅふ」

ラクスと話をしていた俺は無意識に後ろに振り返
ってから、ホー一尉にパンチを喰らわせた。

 「ヨシヒロ、バリーさんがランジェリーがどう
  とか・・・」

 「ラクス、実はホー一尉には好きな女性がいて
  な。彼女が喜びそうなプレゼントを探しにも
  行くんだよ」

 「まあ、そうなのですか。でも、下着のプレゼ
  ントはもう少しお付き合いをされてからの方
  が・・・」

 「それをわからせる為の鉄拳だ。俺は奴に頑張
  って欲しいからこそ、愛の鞭を喰らわせたん
  だ」

 「ヨシヒロは優しいのですね。わかりました、
  私に遠慮せずに楽しんできて下さいね」

ラクスとのテレビ電話を切ってから、ホー一尉を
見ると、彼はまだ痙攣していた。
俺の拳のダメージが抜け切っていないようだ。

 「ラクスの前で迂闊な発言をしないでくれ!ホ
  ー一尉」

 「意識無いですよ」

キラがホー一尉の瞳孔を見ながら答える。

 「ランジェリーパブって何だ?」

 「イザークはそんな事も知らないんだ」

 「知っているさ!」

 「じゃあ、行こうよ。大した所じゃないからさ
  」

 「そうだな・・・」

イザークはキラに挑発されて、断れなくなったよ
うだ。

 「ラスティーはどうするの?」

俺はラスティーに聞いてみる。

 「俺は行く!シホは実家に帰ったから、今日は
  フリーだ」

 「お前は話がわかるから安心できるよ」

 「ニコルは?」

 「えっ、僕ですか?ええと・・・」

 「アスランは?」

 「俺は、あの・・・」

2人はどんなお店か知っているらしく、返答に迷
っていた。

 「アスラン!」

 「ニコル!俺達に付き合えよな」

後ろから、ミゲルとハイネが2人を両手で押さえ
つけながら登場する。

 「ミゲルさん!」

 「ハイネさん!」

 「2人は参加決定だ。命令拒否は認めないぞ」

 「カナはオーブ本国だし、カガリちゃんも留守
  だ。絶対にバレないって」

ミゲルと俺が勝手に決めてしまったが、特に反論
が無い所を見ると、興味はあるようだ。 

 「ディアッカは?」

 「俺は行くに決まってるでしょうが」

 「聞くだけ野暮だったな」

 「キラは大丈夫なのか?前に、ラクスの所為で
  大騒ぎになったんだろう」 

 「オーブに帰れば僕の運命は終わりなんです。
  だからその前に、少しくらい楽しんでも罰は
  当たらないと思います。それに、最悪この件
  がレイナにばれても処刑内容に大して変わり
  は無いですし・・・」

 「キラ、お前図太くなったな」

 「アスラン、人って変わるんだよ」

最高のコーディネーターであるキラは何かを悟っ
ているようだ。

 「じゃあ、行くぜ!みんな」

いつの間にか復活していたホー一尉が先頭に立っ
て出掛けようとした時、俺達の横をレイが通りか
かった。
どうやら、彼は帰宅するつもりのようだ。

 「お先に失礼します」

 「レイ、付き合え」

 「ディアッカさん、何処にですか?」

 「とても楽しいところだ」

 「わかりました。義母さんが仕事仲間との付き
  合いは重要だから、なるべく出席するように  
  と言っていましたから」

 「タリアさん、話がわかるな」

レイはすぐに自宅に帰りが遅れる旨を連絡してい
た。

 「あっ、そうだ。レイが出席するなら、同年代
  のあいつも呼び出すか」

俺はシンが住んでいる寮に電話を掛けてみる。

 「あれ、カザマさん。何か用事ですか?」

 「お前、今時間空いてるか?」

 「ええ、ステラはルナとメイリンを連れて、ラ
  クスさんの家に行ってしまいましたから」

 「女性陣は仲良くやっているようだな」

 「入学祝いをするそうですよ」

 「じゃあ、出て来いよ。お前の入学祝をしてや
  るから。紹介したい奴もいるし」

 「今、友達が部屋にいるんですけど、一緒でい
  いですか?」

 「いいよ。まとめて奢ってやるから、直ぐに来
  い。場所は・・・」

約10分後、俺達はシン達を拾ってから目的地に
向かう。

 「始めまして。ヨウラン・ケントです」

 「ヴィーノ・デュプレです」

色黒なのがヨウランで、髪にメッシュが入ってい
るのがヴィーノという名前らしい。
2人共、シンと同年代で整備科の生徒らしいが、
入学式で席が隣りになって仲良くなったようだ。

 「それで、何処に行くんですか?」

 「まあ、楽しみにしてな」

俺達は数台のレンタカーに分乗して、プラントで
一番の歓楽街に到着した。
コーディネーターも所詮は人の子、男の古来から
の遊びである飲む・打つ・買うを廃止できるわけ
が無く。
プラントという限定された空間でも場所を確保し
て、これらのお店は普通に営業を行っていた。

 「あれ?ここって・・・」

 「さあ、入るぞ」

俺達は「エンジェル」と書かれた看板が架かった
お店に入った。

 「いらっしゃいませ」

店内からボーイが出てきて、人数を聞いてきた。

 「えーと、15名かな」

 「直ぐにテーブルをセットいたしますので」

大口の客にボーイの顔が緩み、数人のボーイが速
攻でテーブルをセットしていた。

 「では、こちらへどうぞ」

俺達がそれぞれ席に座ると、奥から下着姿の女性
が沢山現れて挨拶をしてきた。

 「「「いらっしゃいませ!軍人さん」」」

 「はい、今晩は」

俺は普通に挨拶を返したが、アスラン達は顔を真
っ赤にしていて、シン達は下を向いていた。

 「シン、レイ、ヨウラン、ヴィーノ。勿体無い
  から下を向くな!」

 「わあ、さすがは司令官さんだ」

 「ヨシさん、やっぱり軍服は拙かったのでは?
  」

イザークが心配そうに聞いてきた。

 「軍服を着た軍人は沢山来るだろう?」

 「「「はい!」」」

 「軍人なんて、死と隣り合わせだから、多少刹
  那的に生きても罰は当たらないんだ。アスラ
  ン、イザーク、キラを見てみろよ」

キラは1人離れた席で二人の女性を両脇に侍らせ
て、楽しそうに話していた。
ハワード一尉に教育されて順応したようだ。

 「あーあ、俺の生徒は女性の扱い1つ出来ない
  のか。キラは大したものだな」

 「俺は負けないぞ」

イザークは隣りの女性と話し始め、ディアッカは
何も言わなくても手馴れた感じで自分の世界を作
っていた。
ラスティーも女性の扱いには長けているので問題
は無く、ニコルは持ち前の図太さで楽しそうに会
話をしていた。

 「アスランは大丈夫なのか?」

アスランは大量のアルコールに頼って話を続けて
いるようだ。
顔が赤みが恥ずかしさからなのか、アルコールの
所為なのか、誰にも判別出来なかった。

 「まあ、急には無理かもな」

 「ホー一尉も時間が掛かったからな」

 「そうだよな。確か、ホー一尉って女性が苦手
  だって聞いたような気がする」

 「俺がオーブ戦前から色々連れまわしてようや
  く、大丈夫になったんだよ」

ハワード一尉とホー一尉はあちこち遊び回ってい
るようで、プラントに来てからは、キラも巻き込
んで連日大騒ぎをしているらしい。

 「キラの順応力は凄いけどな」

 「今や、アスランでは勝ち目無しか・・・」

顔を真っ赤にしてたどたどしく話しているアスラ
ンと余裕の表情で時にジョークを交えて女性を笑
わせながら、楽しそうに肩に手を回しているキラ
では勝負にならなかった。
どうやら、スーパーコーディネーターの能力はこ
の手の才能にも発揮されるらしい。

 「でも、カザマは始めは嫌がっていなかったか
  ?」

 「ああ、ホー一尉を拳で沈めてから躊躇いが無
  くなってね。ランパブくらい浮気では無いと
  宣言したい。俺は任務を潤滑に行う為に、コ
  ミュニケーションを重要視しているだけだ」

ラクスには絶対に言えないけど・・・。

 「強引な理由付けですね」

 「ニコルはどう思っているんだ?」

 「僕は音楽家志望です。曲を作る為に、様々な
  人生経験が必要です」

 「私もニコル先輩の意見に賛成です」

同じ音楽家志望のレイもニコルに賛同する。
自分なりの大儀を見つけられて安心したようだ。

 「ラスティーは?」

 「シホの下着は色気が無さ過ぎです。官給品の
  下着をプライベートで着けてる女性兵士なん
  て、あいつぐらいのものだ」

 「シホは真面目だからな」

 「アスランは?」

 「カガリの下着は実用一点張りで、つまらない
  んです」

 「お姫様だから、高級ランジェリーくらい着け
  ていないのか?」

 「スポーツブラとか着けてますよ」

 「色気ないな・・・」

 「僕には聞かないんですか?」

 「キラ、妹の下着の話なんて聞かせるなよ。微
  妙に嫌だろうが」 

 「僕は1人っ子なんで、よくわかりません」 

 「シン!楽しんでいるか?」

4人の少年達は顔を真っ赤にしながら、緊張した
面持ちで下着姿のお姉さんと話していた。

 「お姉さん達、純情な少年達をよろしくね」

 「「「「はーい!」」」」

 「シン、そう言えばお前14歳になったか?」

 「ええ、みんなに祝って貰いましたよ」

 「俺は忘れてたな・・・。ボーイ君。ケーキと
  ロウソクを買って来てくれない?」

 「かしこまりました」

 「ロウソクは14本で!」

俺はボーイに金を渡してケーキを買いに行かせ、
10分ほどでケーキが到着して、ロウソクに火が
つけられた。

 「では、シンの14歳の誕生日を祝してシンに
  ロウソクを消してもらいましょう」

定番の歌を全員で合唱した後、シンは一息でロウ
ソクを消した。

 「お姉さん達、プレゼントを渡してあげなよ」

 「任せてください」

シンは店の女の子全員にキスをされて真っ赤にな
っていた。

 「おお、羨ましいな。シン」

 「本当にな」

 「・・・・・・」

ヴィーノ、ヨウラン、レイが羨ましそうな顔をし
ている。

 「レイ、楽しいか?」

 「はい」

 「そうか、楽しめよ。でも、タリアさんには内
  緒だぞ。男ってのは秘密があった方がいいん
  だ」

レイは男前なので、女の子達に大人気だった。
伊達にザフト内にファン倶楽部があるわけではな
い様だ。
シンも可愛いと言われて、二人の女の子に抱きつ
かれていた。

 「でも、あの歳でこんなお店に連れてきちまっ
  て大丈夫か?」

 「ハイネ、お前がそれを言うか?14歳はプラ
  ントでは大人扱いなんだろ?だから、入店出
  来たわけだし」

 「俺だってその手のお店に初めて入ったのは、
  17歳になってからだ」

 「そうだっけ?」

 「そうだよ。お前はどうなんだ?」

 「俺は16歳の頃には・・・」

 「こいつは日本で抑圧されていたらしいから、
  プラントで弾けてしまったんだよ」

 「ミゲル君、正解!」

 「正解って・・・。じゃあ、お前達が連れてい
  ってくれたお店って・・・」

 「自分で経験して良いお店じゃなきゃ、親友の
  ハイネ君には紹介しないさ」

 「そうそう」

 「すいません。遅くなりました」

俺達が昔話に花を咲かせていると、この時間から
出勤して来たと思われる女の子が現れた。

 「あれ?カザマさん?」

その女の子は黒い髪でスタイルが抜群だった。
どこかで会ったような気がする・・・。

 「えーと、ミーアちゃんじゃなくて・・・。こ
  のお店では?」

 「キャサリンです!」

 「バイト?」

 「効率良く生活資金を稼ぐ為ですよ。歌手にな
  るのは大変で」 

 「パートナーは見つかった?」

 「はい!貰った曲に歌詞を付けてオーディショ
  ンに出たら、合格したんです。ですから、今
  日でこのお店ともお別れです」

 「パートナーってどんな人?」

 「レイって言う男の子です」

 「えっ、あいつ?」

俺が女の子に囲まれているレイを指差すと、ミー
アちゃんが頷いた。

 「彼、軍人なんですか?」

 「今だけね。本人は音楽家志望らしいから」

 「わかりました。失礼します」

ミーアちゃんは俺の隣りの席を立ち、レイの方へ
向かって行った。

 「レイ、新しい曲を頂戴!」

 「お前は・・・ミーア・キャンベル!」

ミーアちゃんの突然の登場にレイは動揺を隠せな
い。

 「このお店ではキャサリンよ!」

 「キャサリン、何故ここに?」

 「レイって律儀ですね」

ニコルの冷静なツッコミが入った。

 「あの曲でデビューが決まったんだけど、次の
  曲を考えないといけないの。アルバムを出す
  事を考慮して後最低10曲は必要よ!」

 「最近、軍務が忙しくて・・・」

 「駄目よ!急いで曲を書きなさい。今すぐ書き
  なさい!明日の朝までに何曲かは書いて。後
  は待ってあげるから」

 「そんな、急には無理・・・」

 「今から私の部屋で曲を書くのよ!さあ、行く
  わよ!」

 「みなさん、店長さん、お世話になりました。
  私は歌手になります。給料は明後日取りに来
  ますので」

 「はい、ご苦労様でした」

 「では、失礼します」

ミーアちゃんはコートを羽織ると、レイを引きず
って帰って行った。

 「店長さん、キャサリンに指名を一本付けてあ
  げて。レイが指名したって事で」

 「ご指名ありがとうございます」

様々な経験をしている店長は、動揺1つしていな
い様子だった。


(同時刻、クライン邸内)

 「紅茶が美味しい」

 「本当ね。ステラ、お姉ちゃん」

 「グラムいくらかな?」

 「お姉ちゃん、止めてよ!」

 「そんなに高くないですよ。中立国貿易が盛ん
  になってきていますから」

 「へえ、そうなんですか」

 「戦争はもう少しで終わりますから、更に色々
  な物資が格安で入って来ますよ」

今までは、プラント理事国から必要量を満たすだ
けの少ない種類の物資しか入って来なかったのだ
が、現在では中立国や日本・東南アジア・オース
トラリア・アフリカなどから様々な物資が入って
きているのだ。
戦争中にも関わらず、プラントの旺盛な購買欲は
同盟国の輸出量を押し上げていて、景気を上向か
せていた。
これで、戦争が終わって輸送通路の安全が完全に
保障されれば、更に貿易は盛んになるだろう。

 「材料が集められれば、ヨシヒロの好きな料理
  を作って差し上げられます」

 「本当にヨシヒロさんと付き合っているんです
  ね」

始めはルナマリアも半信半疑だったのだが、本人
が認めているので本当なのだろう。

 「ええ、そうですわ」

 「ラクスはヨシヒロのお嫁さん」

 「まあ、ステラったら本当の事を」

 「アスランさんも相手がいるんですよね?」

 「カガリさんと仲良くやっていますわ」

 「プラントの王子様とオーブのお姫様の組み合
  わせか。凄いですね」

メイリンはその組み合わせの凄さに過剰な幻想を
抱いているようだ。 

 「私達は普通だと思っているのですが・・・」

 「ヨシヒロさんも部下のアスランさん達もエリ
  ートですからね。私達普通の女の子は憧れて
  しまいますよ」

 「メイリンさんはヨシヒロが好きなのですか?
  」

 「まあ、憧れてはいますけど。恋愛感情とは別
  物ですね」

 「では、具体的に誰が好きなのですか?」

 「えっ!あの・・・それは・・・」

メイリンは頭の中にシンが思い浮かんだのだが、
それを口に出せずに顔を赤くしていた。

 「ラクス様、メイリンはシンが好きなんですよ
  」

 「お姉ちゃんもそうでしょ!」

 「私はあんな餓鬼は好みじゃないわ。アスラン
  さんの様なトップエリートだと最高なんだけ
  どね」

 「ステラはシンが好き!」

 「はいはい、何度も聞きました」

ステラの好きにはまだ恋愛感情が無いので、メイ
リンとルナマリアは軽く聞き流した。

 「じゃあ、お姉ちゃんは頑張ってトップエリー
  トを探してね。私はステラとライバル関係に
  なって頑張るから」

 「でも、シンが数年後にトップエリートになっ
  ている可能性もあるのよね」

 「かなり、可能性は高いですね。ヨシヒロが倒
  せなかった敵のエースを倒したようですから
  。一流のパイロットになって、その後指揮官
  に出世というコースを進む可能性が高いです
  。ヨシヒロは早く育て上げて、除隊したいで
  しょうし」

 「そうなんだ。じゃあ、仕方が無いから私が貰
  ってあげるわ」

 「お姉ちゃん、シンにも選ぶ権利があるのよ」

 「完全無欠の天才美少女パイロットである私を
  選ばない男は存在しないわよ!」

 「パイロットの腕はまだステラの方が上でしょ
  。スタイルも負けてるし、料理も駄目じゃん
  」

ルナマリアの料理の腕前は語るまでも無いだろう

 「今は負けてるけど、卒業時には私の完全勝利
  が待っているのよ。それに、ウエストは私の
  方が細いからそこの所を間違えないで!」

 「ルナマリアさんの料理って確か・・・」

以前、カザマと喧嘩になった時に、彼はルナマリ
アの料理を食べて苦しんでいたはずだ。
後で、紫色のシチューで恐ろしい味がしたと語っ
ていたが・・・。

 「あれは、ちょっとしたミスよ。今は大丈夫。
  そうだ!明後日はヨシヒロさんの部隊を見学
  に行くから、お弁当を作ってあげよう」

 「ヨシヒロに死刑判決が出てしまいましたね」

 「ラクス様、のん気に言ってる場合じゃありま
  せんよ」

ラクスとメイリンが小声でルナマリアに聞こえな
いように話している。

 「私も作って被害を半分にするしかありません
  ね」

 「私はシンに作る!」

ステラは嬉しそうに宣言した。

 「私も作ろうかな。シンは沢山食べるし」

メイリンも参戦を決意したようだ。

 「では、みんなで作りましょう」

そこまで話が進んだ所に、突然カガリが乱入して
きた。

 「大変だ!私達は騙されたぞ!男連中はただ飲
  みに行ったんじゃ無くて、いかがわしいお店
  に出掛けたみたいだ!」

 「アスランとイザークさんもですか?ニコルさ
  んもいたようですし」

 「あいつ等全員グルだ!」

 「その情報は確かなのですか?」

 「アサギ!説明してやれ!」

カガリの後ろにいたアサギが状況の説明を始めた

 「マックは前回の事件の事もあって、ここ数日
  は大人しくしていたんですけど、昨日部屋の
  机の引き出しの中でこんな名刺を見つけて・
  ・・」

アサギが差し出した名刺には「ランジェリー倶楽
部(エンジェル)キャサリン」と印刷されていて
、裏側には「ご指名ありがとうございます。また
指名してね」と手書きで書かれていた。

 「それで夕方尾行したら、大勢で出掛けていま
  した。本当は直ぐに追い掛けたかったんだけ
  ど、1人だと逃げられると思ってカガリ様を
  待っていたんです」

 「場所の特定は終わっているし、シホとアビー
  が現地で見張っているから全員で強襲を掛け
  るぞ!」

 「あの、カガリさん。質問があるのですか」

 「何だ?ラクス」

 「下着屋さんに男の方が出入りしてはいけない
  と、決まっているわけでは無いと思いますが
  」

 「・・・・・・。ラクス様、ランジェリーパブ
  を知らないんですか?」

 「下着を売っているお店だと思っていますが・
  ・・」

一番肝心なラクスがランジェリーパブを知らなか
ったので、アサギがあきれてしまっていた。 

「ラクス様、あのですね・・・」

メイリンが耳打ちして内容を説明すると、ラクス
の背後に黒いオーラが発生した。 

 「少し、お仕置きが必要ですね。カガリさん、 
  行きましょうか」

 「うん(うわー、カザマの奴は死亡確定だな)
  」 

 「ステラ達は今日は先にお帰り下さいな」

 「あっ!でもシン達も一緒ですよ。アカデミー
  の同級生らしき人達も一緒で」

 「特徴は?」

 「1人は色黒で、もう1人は髪にメッシュを入
  れていて・・・」

 「「ヨウランとヴィーノだ!」」

ルナマリアとメイリンが同時に声をあげた。

 「後、レイも一緒だった」

 「それは、タリアさんに連絡を入れた。既に現
  地に向かっている」

 「では、出発します!」

 「「「おー!」」」

俺たちが楽しみの絶頂にいる頃、同時に破滅の兆
候が始まっていたのだった。


途中、レイがアクシデントでリタイヤしたが、後
は全員楽しい時を過ごしていた。

 「いやー、楽しい所ですね。天国ってこういう
  所を言うのかな?」

アルコールが完全に回ったアスランがハイテンシ
ョンで大声をあげていた。

 「気に入って貰って結構、結構」

 「俺達が常連だから、良い娘を回して貰ってい
  るんだからな」

 「僕はここに来た事ありませんよ」

 「そりゃあな。ここは女性が苦手なホー一尉の
  最終リハビリの場所として選んだスペシャル
  なお店だからな」

 「俺達は、キラと別れた後にここに通っていた
  んだ」

 「秘密兵器は最後に取っておくものって事か?
  」

 「おっ、流石は格闘王だな」

俺とハイネが2人を賞賛する。

 「格闘王として、唯一抱えていた弱点である女
  性を克服した俺は無敵なのだ。さっきのカザ
  マの攻撃は見えなかったが」

 「あれはラクスの前で迂闊な事を話すからだ。
  万が一にもバレたら俺は死刑確定だからな」

 「俺もカガリにバレたら、半殺しでは済みませ
  んね」

 「俺も、シホにバレたら」

 「俺も・・・」

 「やめやめ!辛気臭い話題は無し。さあ、楽し
  むぞ!」

 「そうだ!俺達はプロの軍人だ!怖いものなん
  て無いんだ!俺達は自由なんだ!」

 「「「おー!」」」

俺とミゲルが暗くなりかけた空気を制すると、全
員が再び威勢の良い声を上げた。

 「ほー、それは勇ましい事だな」

突然、聞き慣れた声がしたので入口の方を見ると
、カガリ達が冷たい視線でこちらを見ていた。

 「あの、カガリさんはどうしてここに?」

アスランの酔いが一気に覚めたようだ。

 「情報が入ってな。まずは首謀者を出して貰お
  うか」

 「「「こいつです!」」」

13人の指先がハワード一尉を示した。

 「おわ、ずるいぞ!全員楽しんでいたじゃない
  か!」

 「すまないな。死刑が無期懲役になる可能性が
  あるなら、人はあがくものなのさ」

 「おっ、ミゲル良い事言うな」

 「任せろよ」

 「何が任せろよ!ちょっと目を離したら、こん
  な事をして!覚悟しなさい」

アビーちゃんはミゲルを引きずって帰って行った

 「ご愁傷様」

アスランは哀れみの表情をしていたが、次は自分
の番である事に気が付いていないようだ。

 「人の心配をしている場合か?」

 「あの、カガリさん落ち着いて・・・」

 「言い訳は後で聞く。さあ、来い!」

 「助けてーーーー!」

アスランもカガリに連行されていった。

 「みんな、静かに出来ないの?」

 「本当ですよね」

 「俺はやましくなんて無いぞ!」

恋人が殴りこんでこなかったキラとニコルとイザ
ークは余裕の表情で抗議をしてきた。

 「じゃじゃーーん。これ何だ?」

 「えーとデジカメかな?」

 「これを今、レイナとカナとフレイに送信しま
  した」

 「「「ありえねーーー!」」」

 「ああ、二回目だ。僕は肉片も残らない・・・
  」

 「カナに殺されますね」

 「フレイに殺される!あいつは本当にやる可能 
  性が高い!」 

3人は思いっきり動揺していたのだが、隣りから
ディアッカとハイネとホー一尉が現れて、彼らを
慰め始める。

 「まあ、落ち着けよ。どうせ、怒られるなら今
  を楽しもうぜ。今日、明日どうにかされるっ
  てわけでもなんだろ?」

ハイネの半分的を得た理屈を3人が素直に聞いて
いた。

 「そう言えば、そうだ」

 「確かにそうですね」

 「どうせ、殺されるなら」

 「「「今を楽しみますか!」」」

こうして、自己完結したキラ達と彼女がいないハ
イネ達は新しいテーブルをセットして貰って、新
たに飲み始めたのだった。

 「火に油を注ぐような事を・・・」

アサギ達はやり場の無い怒りを必死に抑えている
ようだ。

 「ラスティー!」

 「はい!」

 「帰りますよ!」

 「はい!」

ラスティーは売られた子牛のように帰っていった

 「ドナドナがバックに流れてきそうな雰囲気だ
  ったな」

 「シン、ヨウラン、ヴィーノ。楽しかった?」

 「最低!」

2人の姉妹に冷たい視線を向けられる。

 「わあ、そんな目で俺達を見ないで」

 「男ってさ、遊び心が必要なんだよ」

 「そうそう」

シン、ヨウラン、ヴィーノは必死にいいわけをし
ていた。

 「シンは下着が見たいの?」

 「いや、見えたら嬉しいけど、それほどでは・
  ・・」

 「ステラが見せてあげる」

ステラが服を脱ぎ始めたので、ルナマリアとメイ
リンが止めに入った。

 「ちぇっ!」

 「何?ヨウラン!」

 「何でもないよ。ルナマリア」

 「あんた達、寮の門限は?」

 「カザマさんが外泊の書類を出してくれた」

 「わっ、バカ!シン、正直に言うなよ!」

 「しまった!」

 「じゃあ、私の家で尋問を始めるわよ。付いて
  きなさい」

 「「「そんなーーー!」」」

シン達もルナマリア達に引きずられて帰って行っ
た。

 「カザマ君!レイは?」

タリアさんが修羅の形相で俺にレイの所在を聞い
てきた。

 「あのですね。誘拐されちゃった」

先ほどの出来事を詳しく説明してあげると、タリ
アさんの顔がますます歪んでいった。

 「ちゃったじゃないでしょ!」

 「でも、大丈夫ですよ。取って食われるわけで
  もないし」

 「レーーーイ!」

タリアさんは必死の形相でレイを探しに出ていっ
てしまった。

 「母親って偉大だな」

 「カザマ、俺たちの目前に迫ったピンチを理解
  しているか?」

 「あれ?もう、俺達だけ?」

 「マック、今日は帰さないわよ!」

 「ああ、何て刺激的な発言」

 「では、ラクス様。ごきげんよう」

アサギはハワード一尉を連れて帰ってしまった。
これからの彼の運命を思うと、頭を垂れてしまう

 「こんばんは。ラクスさん」

 「楽しかったですか?」

 「はい、それはもう」

 「良かったですわね」

俺達は普通に会話をしているのだが、ラクスから
の黒いオーラで、気を抜くと気絶してしまいそう
だった。

 「大変申し訳ありませんでした」

 「へっ?」

 「ヨシヒロがあのような下着を見たかった事に
  気が付かないなんて、婚約者失格ですね。こ
  れから下着を買って見せて差し上げます」

 「それって、どういう?」

 「店長さん、ここのお店の下着は何処に売って
  いるのですか?」

 「ここの近所のお店です。うちが常連になって
  いるので、今の時間も開いていますよ」

 「ありがとうございます。代金は今から来る執
  事に請求してくださいね。では、これから徹
  夜でファッションショーを開きますよ。買っ
  た下着の数によってはこれから毎日徹夜でお
  披露目会を開きます。だって、ヨシヒロは下
  着が大好きだから」

 「いや、これは日々の抑圧された欲求を解放す
  る為の非常措置であって、別に下着で無くて
  も構わなかったわけで・・・」

 「難しくてよくわかりませんわ。では、参りま
  しょう」

 「ラクスさん、ごめんなさーーーい!」

その後、大量の下着を購入したラクスのファッシ
ョンショーに付き合わされて、俺は一睡も出来な
かった事を明記しておく。

 「あの、眠いんですけど・・・」

 「まだ、三分の一も終わっていませんわよ。大
  好きな下着を堪能してくださいな」

 「もう、下着は結構です・・・」


先程の騒ぎが終わった店内ではまるで何事も無か
ったかの様に、下着姿の女の子達が各テーブルを
回ってお酒を注いだり、会話を楽しんだりしてい
た。

 「結局、ハワード一尉の単純なミスが大変な事
  態を招いたわけですね」

 「その通りだ、キラ。この反省を次回に生かし
  ていかないと、我々は生き残れない」

 「ホー一尉、ヨシさんのミスは何だったのでし
  ょう?」

イザークがホー一尉に質問をする。

 「彼は未婚であるにも関わらず、婚約者の家で
  マスオさん生活を送っている。一見、生活は
  優雅で楽しそうだが、心の奥底にストレスが
  溜まっていたのだろう。はしゃぎ過ぎて目立
  ってしまった為に、首謀者の1人と見られて
  しまったわけだ」

 「それは不幸な事ですね・・・」

処刑時刻が大分先の3人の男と処刑を逃れた3人
の男達の反省会が終わり、彼等は楽しそうに帰宅
するのだった。
そして、同時刻の店内で一番端の目立たないテー
ブルでは・・・。

 「ふう、まさか彼らがここに来るとは思わなか
  ったな。シーゲルよ」

 「ラクスとカガリ姫が乱入してきた時には、心
  臓が止まると思ったぞ。パトリック」

 「私もタリアの姿が見えた時には、もう駄目だ
  と思いました」

 「奥方の登場は一番最悪のシナリオだからな」

 「それにしても、彼らは大人数で行動し過ぎで
  す。秘密は知る人間が多いほど、比例的に外
  部に漏れていきますからな」

 「それは理解出来たが、やはり、奥方のいる君
  がこんなお店に出入りするのはまずいだろう
  」

 「タリアは子供ばかり可愛がって、私を相手に
  してくれないのです」

 「そうか、レノアもそうだったな・・・」

 「私の妻もだ・・・」 

 「そんなものなのですか・・・。でも、お2人
  も無くなった奥様達に申し訳がないと思いま
  せんか?」

 「「私達とて、1人の男だからな」」

 「至言ですな」

結局、プラント評議会議員3人がこのお店にいた
事に気が付いた者は誰もいなかった。


(翌日、訓練宙域)

昨晩からラクスの下着発表会を見させられて徹夜
だった俺は、眠い目を擦りながら演習をこなして
いた。
今日の相手はミゲル達なので、奴も疲労困憊であ
ろうと思われる。

 「ヨシヒロ!核動力機なのに動きが鈍いぞ!」

 「ジローか。昨日は色々大変だったんだよ」

 「ランパブでどんちゃん騒ぎをして、ラクス様
  に見つかったんだろ?自業自得だ!」

 「へっ、女性に飼われた男が自由人の俺達を批
  判するとはな!」

 「ミゲルか!」

横からブリッツ改に乗ったミゲルが現れた。
彼はジャスティスに乗り換えるように上から言わ
れているのだが、それを断ってブリッツ改に乗り
続けていたのだ。

 「こらー!隊長が敵の司令官と馴れ合うな!」

 「大丈夫だよ。カザマは直ぐに倒すから」

 「向こうは核動力機だろうが!」

隊長のミゲルは副隊長のジローに怒られていた。

 「俺達が訓練で戦うのは何ヶ月振りだ?」

 「さあな。今までの戦績から、俺の勝ちなのは
  変わらないからな」

確かに、ミゲルとの戦績は負けが先行しているが
、今日は高性能機に乗っているのだ。

 「簡単には敗れない!」

 「抜かせ!」

同じく、アビーちゃんに折檻されて徹夜でハイに
なっているミゲルと俺は、周りを気にしないで一
騎討ちを始めてしまう。

 「ミゲルの馬鹿野郎が!おい、状況はどうなっ
  ている?」

ジローは隣りにいた部下に状況を尋ねた。

 「核動力機の部隊に侵攻を阻止されています」

 「ちっ、うちの部隊は(ゴンドワナ)の部隊ほ
  ど精鋭揃いじゃないからな」

 「どうしましょう?」

 「司令官殿の采配次第だ」

 「大変です!右翼と左翼の分艦隊が壊滅状態だ
  そうです」

 「うがー!大惨敗だ!クルーゼ司令がカザマの
  部隊を最強の部隊にぶつけているって噂は本
  当だったな」

その後、俺達は退却するミゲルの部隊を追撃して
勝利を収めたのだが、ジローの巧みな指揮で半数
以上の敵を逃がしてしまったのだった。
だが、「ジン検廚妊潺殴襪鯑い鳥に成功した俺
は大満足であった。

 「ちくしょう!ブリッツ改に核動力を搭載して
  ・・・」

 「ジャスティスに乗り換えろ!」

ミゲルが何故そこまでブリッツ改に拘るのかは、
誰にもわからなかった。


(夕方、軍港休憩室内)

 「おーい、カザマ。今日は勝てて良かったな」

カガリは俺たちが休憩室にいると聞いて、今日の
勝利を祝いに来たのだが、昨日の徹夜に引き続い
て演習の疲れで全員が爆睡していたのだ。

 「何だよ、みんな居眠りなんかして・・・」

 「カガリは眠くないのか?」

カガリに気が付いたアスランが眠くないのかと聞
いてきた。

 「いや、全然」

昨晩、徹夜でアスランを折檻していたはずのカガ
リは元気一杯だ。

 「信じられない・・・」

 「ただバカなだけだ・・・」

 「何だと!」

 「ヨシさんの寝言だよ」

 「本当かよ」

 「ほら、寝ているじゃないか」

 「うーん、本当に寝てやがる・・・」

勤務時間終了後、俺はカガリにたたき起こされて
から、帰宅の途についたのだが、まだ俺の試練は
終わっていないようであった。

 「さあ、この色は私に似合っていますか?」

 「あの、まだあるわけ?」

 「はい、お店の商品を買い占めましたので、こ
  れでようやく半分ほどです」

 「これで半分かよ。明日はシン達が見学に来る
  から、早く寝たいんですけど」

 「駄目ですよ。全部、見終わるまでは寝かせま
  せんよ」

 「ラクスは眠くないの?」

 「お昼寝をいたしましたので、眠くありません
  」

 「ずるっ!」

 「何か仰いました?」

 「いいえ、滅相もない」

 「では、続けますよ」

俺は昨日に引き続き、ラクスの下着発表会に付き
合わされて、睡眠を取る事が出来なかった。


(同時刻、ホーク邸食堂)

翌日、カザマにお弁当を作っていく事を決意した
ルナマリアは前日の件で貸しがある、シン達に味
見役を押しつけていた。

 「まだ、私の料理には多少の難があるみたいな
  のよね。そこで、シン達は味見をして、正確
  に論評する事!」

 「毒見の間違いだろ・・・」

 「ヴィーノ、何か言った?」

 「いえ、何も・・・」

食堂のテーブルは二グループに別れていた。
メイリンと遊びに来ていたステラと両親は自分達
で作った料理で食卓を囲んでいたのだが、シン・
ヨウラン・ヴィーノはルナマリアが作った料理を
味見させられていたのだ。

 「これって、炭?」

 「ハンバーグよ」

 「イカ墨が入っているのか?」

 「生は良くないから長めに焼いたのよ」

 「それって、焦げてる・・・」

 「ヨウラン!何?」

 「何でもありませんよ」

シンがヨウランとルナマリアのやり取りを横目に
隣りを見ると、メイリンとステラが焼いた美味し
そうなハンバーグが見えていた。 

 「メイリン、ステラ、それ頂戴」

 「シン、ごめん。それは無理」

 「ごめんね、シン」

昨日の件でメイリンはかなり腹を立てていたのだ
が、母親から「男の子ってそんなものよ」と言わ
れて、怒りの方は大分収まっていた。
だが、今シンに食事を与えてしまうと、姉を傷つ
けてしまうのでそれは絶対に出来なかった。
素直でない姉は色々な理由を付けないと、シンに
食事を作ってあげられないのだ。

 「さあ、召し上がれ」

 「「「いただきます」」」

3人がハンバーグを口に入れると、シャリシャリ
と音がした。
どうも、焦げているのでは無くて、炭化している
ようだ。

 「うう、苦い・・・」

 「炭なんて初めて食べた」

 「味以前の問題だな・・・」

3人が小声で感想を述べた。

 「味はどう?細かい感想をお願いね」

 「不味い」

ヴィーノが一言そう言った瞬間、ルナマリアパン
チが顔面に炸裂して机に突っ伏してしまった。

 「細かく感想を言いなさいよ。参考にならない
  でしょ」

 「味の感想とかそう言うレベルじゃ無いんだよ
  !料理として成立していないっうべき・・・
  」

ヨウランが素直な感想を語った瞬間、再びルナマ
リアパンチが顔面に炸裂して、同じく机に突っ伏
してしまう。

 「シン、味はどう?」

 「えーと・・・」

真実を語ると二人の二の舞なので、適当に誤魔化
す事にする。

 「味が少し単調かな」

炭の味しかしないので嘘はついていない。

 「そうよ!そういう感想が欲しかったのよ!」

 「んで、どうするんだ?ルナ」

 「オリジナルのソースを作ったのよ!」

そう言って、ルナマリアは容器に入ったソースを
シンのハンバーグに注いだ。 

 「緑色のソース・・・。これって青汁入り?」

 「手作りのデミグラスソースよ」

 「・・・・・・」

 「メイリン、どうして緑色なの?」

 「さあ?お姉ちゃんに聞いてみたら」

ステラとメイリンが小声で不思議そうに話してい
る。

 「さあ、召し上がれ」

 「いただきます・・・」

シンがソースのかかったハンバーグを口に入れる
と、苦味の他に、酸味と強烈な塩味が口の中に広
がった。

 「んげぎょんんんんーーーーんっぐんん」

シンは正体不明のうなり声をあげて机に突っ伏し
て、3人は仲良く眠りにつく。

 「シン、大丈夫?」

ステラが何時もの様にのんびりとした声でシンを
揺り起こし。

 「お姉ちゃん!シン、ヨウラン、ヴィーノ大丈
  夫?」

メイリンは3人を強く揺するが誰も目を覚まさな
かった。

 「あれ?おかしいな。失敗だったかな?」

 「お姉ちゃん!」

 「大丈夫よ。コツは掴んだから、明日はヨシヒ
  ロさん大喜びだって。それに、他に何品かお
  かずも作るから」

 「・・・。ヨシヒロさん、ご冥福を祈ります」

今のメイリンにはこれくらいの事しか言えそうに
無かった。 


翌朝、再び一睡もしていない俺にラクスが一言こ
う言った。

 「今日のお昼に嬉しい出来事があると思います
  よ」

 「ふーん、何だろう?」

俺は眠い目を擦りながら、車に乗って出勤する。
今日の明け方ようやく披露会も終わって、今日の
夜は無事に眠る事が出来るのだ。

 「今日さえ乗り切れば!」 

気合を入れ直す俺だったが。

 「本当はお弁当を作ってあげるべきだったんで
  しょうが、これは最後の罰です。全部食べて
  あげてくださいね」 

ラクスは玄関で俺に語りかける様に話していた。


(午前10時、訓練宙域アークエンジェル艦内)

アカデミー生の見学会は予定通り行われ、俺の部
隊には20名ほどのパイロット候補生が見学に来
ていた。
アークエンジェルのブリッジの広さではこの人数
が限界なので、我が隊の担当は少なめになってい
て、大部分の生徒や整備科や管制科の生徒は「ゴ
ンドワナ」に集合していた。

 「どうだ?先輩たちの腕前は」

艦の外で、アスラン達が団体で曲芸飛行や模擬戦
などを行っていて、死角に当たる部分はモビルス
ーツ搭載のカメラで撮影された後、艦内のモニタ
ーで放送されていた。
このアイデアはニコルが少しでも多くの映像を見
せようと出したもので、生徒達は興奮しながら見
入っていた。

 「うわー、新型モビルスーツだ!」

 「凄い腕前だ!」

 「アスラン先輩って凄いな!」

13〜16の若者達が興奮しながら声を上げてい
た。
現在のアカデミーは入学制限の緩和が行われてい
て、様々な国やコロニーから移住してきたコーデ
ィネーターやハーフコーディネーターも入学して
いた。
プラント上層部は戦後の軍の主任務が同盟国の防
衛の手助けや、宇宙空間での海賊や密輸の取り締
まり、テロや組織犯罪の摘発に変化する事を認識
していたので、他国軍との連携や共同作戦を行う
為に、彼らの役割に期待していたのだ。
本当はナチュラルの入学者を期待していたのだが
、ナチュラルでは試験の合格が難しいらしくて、
唯一の合格者はシーゲル閣下推薦のステラだけで
あったらしい。
生粋のプラント出身者は14歳くらいまでに入学
するものが大半なのだが、外国出身者の入学者は
16歳の者も多かった。
実際に、俺が入学した年齢も15歳で、入学後数
ヶ月で16歳になったのだ。

 「どうだ、モビルスーツで外に出たい奴はいる
  か?センプウが3機あるから定員は3名だ。
  俺が(ジン検砲婆姪櫃鮓てやるから」

20名の生徒達は数人ずつに別れて相談を始めた
が、まだモビルスーツで宇宙に出た経験が無いし
、地上でも多少歩かせた程度なので躊躇している
のだろう。

 「はい!俺が出ます」

 「私も出ます!」

 「私も!」

シン、ルナマリア、ステラが手を上げた。

 「他にいないのか?」

シンとステラは実戦経験ありで、ルナマリアは度
胸があるのだろう。

 「では、ここで同級生達の腕前を見ていろよ」

俺は3人を連れて格納庫へ降りていった。


 「通常の発艦はまだ無理だから、そーっと発進
  しろよ」

 「ステラは経験ある」

 「俺は地上ならあるんですけど・・・」

 「シンがか?」

 「(タケミカヅチ)から発艦訓練をしたじゃな
  いですか」

 「そうだったかな?でも、宇宙空間は地上と別
  物だから止めておけ」

 「了解」

4機のモビルスーツはアークエンジェルを発艦し
て訓練宙域に入った。
3人の腕前はシンは始めての宇宙で、最初はぎこ
ちなかったが直ぐに慣れ、ステラはうちの部隊の
技量が低いパイロット達より腕が上かも知れなか
った。
そして最後に、ルナマリアは初めてにしては上手
く機体を操っているように思える。
多分、才能があるのだろう。

 「俺と模擬戦を行う。まずはステラからだ」

 「了解!」

設定したデブリ宙域で模擬戦を開始するが、相変
わらずの見事な腕前だった。
伊達に子供の頃から厳しい訓練をしているわけで
は無い様だ。

 「ここで負けたら洒落にならないよな」

お互いに模擬ビームサーベルで切り結びながら、
俺が独り言を言う。

 「やっぱり、ヨシヒロは強い」

 「まあな、これで給料を貰っている身分だから
  な」

 「でも、前回は相討ちだった」

 「あれは、不幸な事故があったからだ」

俺は気合を入れてから、ステラ機のビームサーベ
ルを弾き飛ばしてコックピットに自分のサーベル
を突きつけた。

 「やっぱり勝てないや」

 「お兄さんを尊敬しなさい」

 「ヨシヒロ凄い!」

 「まあ、2年あるから精進しなさい」

 「うん」

アークエンジェルでは驚きの声が上がっていた。
日頃、天然でボーっとしているステラが10分近
くも俺と互角に戦っていたのだ。
しかも、戦場はデブリ帯で、周りの障害物を上手
くかわしながら戦うのはプロでも難しいし、それ
は自分達が一番良くわかっている事だ。

 「ステラって凄いな」

 「天才だな」

 「追いつくのは大変だぞ」

ブリッジに残っていた生徒達から感嘆の言葉が漏
れていた。

 「よーし!次は俺ですね」

 「腕前が落ちていたら、腕立て伏せ200回な
  」

 「うわっ、酷い!」

 「では、スタートだ!」

シンとは障害物が無い空間で機動性を生かした戦
闘を行った。

 「ほーら、シン。このままだと穴だらけだぞ」

 「その武器は反則ですよ!」

新武装のビームガトリング砲は大変使い勝手が良
い武器だった。
広範囲に多数のビーム粒子をばら撒くので、撃墜
はできなくても簡単に損傷を与えられるのだ。

 「てーい!反撃だ!」

シンはビームライフルを乱射しながら俺に突撃を
かけてきた。

 「いい度胸だ!」

ビーム粒子をシールドで防ぎながら、急接近した
シンはライフルとシールドを捨てて、両手にビー
ムサーベルを持って斬りかかってきた。 

 「ちっ、思ったよりも腕を上げてやがる!」

俺は砲身を切られたと判定されたガトリング砲を
切り離して、対艦刀を抜く。

 「腕立て伏せは無しにしてやるよ」

 「ついでに初勝利も頂きますよ」

 「勇ましい事で」

俺は対艦刀でビームサーベルを斬り払いながら、
シンを追い詰めていった。
やはり、まだ格闘戦では俺に一日の長があるよう
であった。

 「例の能力は使わないのか?」

 「あんなの発動したのは一度っきりですよ」

 「だろうな。では、これで終了だ!」

疲れて動きが遅くなってきたセンプウの両腕から
ビームサーベルを斬り飛ばして、コックピットに
対艦刀を突きつけた。

 「お前も2年間頑張れよ!」

 「はい!」

俺はシンに期待をしていた。
俺の後継者に育ってくれれば、安心して除隊でき
るのだから。

 「シンも凄いな」

 「実戦経験ありだし、オーブ軍ではエースだと
  公式に認められているからな」

 「追いつく自信が無くなってくるよな」

 「次はルナマリアだぜ。彼女はどうなんだろう
  ?」

生徒達の注目はルナマリアに集まっていた。


 「ルナはまだ模擬戦は無理だから、俺に付いて
  きな」

 「了解!」

俺はセンプウの様子を見ながら、基本的な飛行方
法や操縦方法、射撃方法などを手早く教えていっ
た。
やはり、彼女は才能があるらしく、かなりのスピ
ードでそれを吸収していく。

 「勇気を出して志願して良かったです」

訓練用の的にビームライフルを撃ちながらルナが
今日の感想を言う。

 「それはなにより」

 「でも、シンとステラって凄いですね」

シンとステラは障害物の無い宙域で模擬戦を行っ
ていた。
ドッグファイトを繰り返しながら高速で移動して
いる二人の腕前は、とても入学したてのアカデミ
ー生には見えなかった。

 「まあね。ステラには複雑な事情があるから」

 「本人から聞きました」

 「だから、ステラは普通に生活してきて、普通
  の女の子だったルナが羨ましいと思っている
  んだろうね」

 「そうなんですか?私はシンと互角に戦うステ
  ラが羨ましいです」

 「正確には、まだシンではステラに勝てないん
  だけど、大分互角に近づいてきたね。でも、
  2年後にはルナも追いついているさ」

 「本当ですか?」

 「才能はあるから、サボらないで精進すれば大
  丈夫だよ。俺としては、シンとステラが天狗
  になる事の方が怖いんだ」

 「それは、大丈夫ですよ。ヨシヒロさんがいま
  すから」

 「そうかな?」

 「そうですよ」

 「それでさ、一つ聞いて良い?」

 「何ですか?」

 「ルナってシンが好きなの?」

 「えっ!」

ルナマリアの射撃が大きく的を外れた。

 「なっ、何言ってるんですか!」

 「わが身の恥を晒す事になるけど、一昨日の事
  件はシンが好きじゃなかったらどうでもいい
  事でしょ」

 「ええと、それは友達としてああいう所に通う
  のは良く無いと・・・」

 「それならいいけど、メイリンは確実にシンが
  好きみたいだし、ステラもそろそろシンを男
  性として好きになるかも知れないし」

例の事件の時、メイリンはシンを見ながら目に涙
を溜めていたし、ステラも自分の下着姿を見せよ
うとしたほどだ。
もう、無意識下ではシンを男性として好きになり
始めているのかもしれない。

 「そんな状況だから、素直になった方が勝ちか
  もしれないよ」

 「でも、何で私を応援してくれるんですか?ス
  テラを応援しないんですか?」

 「条件は平等にね。シンが他の女性を好きにな
  る可能性もあるけどさ」

 「私、素直になります」

 「どちらも頑張ってね」

 「はい!」

 「(よーし、これで多少の勝ち目が見えてきた
  。みんなステラかメイリンに賭けやがって、
  ルナに1000アースダラーも賭けたんだ。
  勝って貰わないと俺は大損してしまう)」

実は、秘密が守れる仲間の中でシンが誰とくっ付
くか賭けをしているのだが、ルナマリアに賭けた
のは俺だけという悲しい現実があったのだ。
俺は、彼女もシンを好きだと思っていたのだが、
アスラン達は「それはありえない」と主張してい
た。
だが、今日ルナマリアから真実を聞き出せた俺は
彼女の危機感を煽る事によって、シン争奪戦に参
戦させる事に成功したのだった。

 「シンはモテていいよな」

 「ヨシヒロさんもモテているじゃないですか」

 「俺は積極的に動かないと駄目なんだよ。アス
  ラン達みたいに顔が良くないから」

 「ラクス様はぞっこんじゃないですか」

 「それが不思議でね。女性から迫られたのって
  、彼女だけんなんだよね」

 「ラクス様が言ってましたよ。自分を女の子扱
  いしてくれたのはヨシヒロさんだけだって」

 「なるほどね」

そんな話をしながらルナの射撃訓練を終了して、
シン達とアークエンジェルに着艦した後、艦は軍
港に帰港した。

 「飯でも食いに行こうぜ!どうせ費用はザフト 
  持ちだ」

俺が生徒たちを食堂に連れて行こうとすると、タ
リア艦長が追いついて来た。

 「タリアさん、どうしました?」

 「レイにお弁当を作ったのよ」

 「何でまた急に?」

 「あなたがミーアなんて言う女狐とレイを引き
  合わせるからでしょう!昨日、お詫びとか言
  ってお弁当を貰っていたのよ!」

 「それは、大きな誤解ですよ。二人とは知り合
  いですけど、引き合わせたのは俺じゃないで
  すって」

 「とにかく!私がレイを守らないといけないの
  !」

 「マザコンって女性に嫌われますよ」

そう言った瞬間、俺はタリアさんに睨まれた。

 「まあ、ほどほどが良いと思います・・・」

食堂に入ると、アスラン達が先に食事をしていた
のだが、アスランは弁当箱を前に置いて硬直して
いた。

 「アスラン、どうしたの?」

 「実は、カガリさんが手作り弁当を作ったらし
  いのですが・・・」

隣りの席でランチを食べていたニコルが説明して
くれた。

 「良かったな。アスラン」

アスランの肩に手を置くが、彼の硬直は解けなか
った。

 「どうしたんだ?」

 「実は、かなり見かけと味が・・・」

俺が弁当箱を覗き込むと、デジャブが蘇ってきた

これは、ルナマリアが作成した料理と同じ種類の
ものだ・・・。

 「えーと、頑張ってね」

 「ヨシさん、食べませんか?」

 「俺?俺、無理だから!」

 「そんな!助けると思って。キサカさんとトダ
  カさんは逃げちゃうし、キラ達は食堂にすら
  現れないし・・・」

キラの危機回避能力は一流であるらしい。

 「ニコルは食べないのか?」

 「そんな、折角彼女が作ってくれたお弁当です
  よ。僕が食べてしまったら可哀想です」

ニコルは極めて常識的な意見ではっきりと断りを
いれる。
とても賢い戦法だ。

 「まあ、頑張って完食しなさい」

俺はアスランを見捨ててシン達と合流する。

 「俺、日替わりランチを2つ!大盛りで!」

 「多少は遠慮しろよ」

 「お腹が空いて」

 「シン、お弁当を作ってきたの。それとね、メ
  イリンもこれを食べてって」 

ステラが巨大なお弁当箱を2つ取り出してテーブ
ルの上に乗せる。
中身を拝見すると、ステラは中華中心でシューマ
イやエビチリ、酢豚などがおかずに入っていて、
ご飯はおにぎりを沢山握ってきたようだ。
一方、メイリンはサンドイッチが主食で鳥の唐揚
げやウインナーがおかずになっていて、デザート
にフルーツが付いていた。

 「どちらも美味しそうだな」

 「いやー、ラッキーだな」

 「お前、さっきの注文取り消さないの?」

 「食べますよ。勿論」

シンのバカ食いは相変わらずのようだ・・・。

 「じゃあ、いただきまーす」

シンは恐ろしい勢いで弁当を食べ始めた。

 「俺も見てたら腹が減ったな。何を頼もうかな
  ?」

 「ヨシヒロさん、これをどうぞ」

突然、ルナマリアが弁当箱を差し出してきた。

 「あれ?これって・・・」

 「私が作ったんです」

 「これを俺に?」

 「上手くいってたらシンにも作ろうかと思って
  」

どうやら、俺は実験動物に格下げされたようだ。

 「ふーん、そう・・・」

念の為に弁当箱を開けてみると、不思議な色合い
のおかずが見えた。
主食はシンが好きなご飯になっていたので、これ
は食べられるだろうが・・・。

 「これって何?」

緑色のソースの掛かった黒い物体を指差した。

 「ハンバーグですよ。昨日、ちょっと失敗しち
  ゃったから作り直しました」

 「(どこを作り直したんだろう?)」

 「これは?」

真っ赤なスパゲッティーサラダらしき物も見える

多分、付け合せなのだろう・・・。

 「私って赤が好きなんですよ。もし、パーソナ
  ルカラーが認められたら、赤にしようかと思
  っているくらいで」

 「(これ、ナポリタンか?でも、血のような赤
  ・・・)。それで、この紫色の物は?」

 「カップグラタンです」

 「(ルナが作るシチューが紫色なのでは無くて
  、ホワイトソースが紫色なんだ)・・・」

 「前回の反省を生かして味を強化しました」

 「ふうん。えーと、君達一緒に・・・」

他の生徒と一緒に食べようと誘いを掛けるが、全
員が逃亡して端っこでランチを食べていた。

 「お−い、シン食べるか?」

 「いやー、お腹一杯だ。美味しかった」

隣りのテーブルのシンに声を掛けると、日替わり
ランチを含めた全てを完食していて満足そうな顔
をしていた。

 「(あの裏切り者が!)・・・」

 「えーと、誰か・・・。おーい、レイ!」

ディアッカやラスティーが飯を食べている隣りの
席で、二つの弁当箱を前に苦悩しているレイを発
見した。

 「レイ、どうしたんだ?」

 「あのですね。こいつ、ミーアちゃんとタリア
  艦長から2つ弁当を貰ったんですよ」

 「両方食べればいいじゃん」

 「無理ですよ。あの量は」

ミーアちゃんとタリアさんはお互いの弁当が食べ
られないように恐ろしいほどの量を作っていた。

 「5人前くらいあるか?」

 「レイは小食ですから。それに、全部食べない
  と失礼だと思っているようですし」

ラスティーが状況を教えてくれる。

 「(あっ、そうだ。交換すればいいんだ。この
  弁当は量は少なめだし)」

 「おーい、レイ。交換しよう・・・」

交換を提案する為に、再びレイを見ると覚悟を決
めたレイが恐ろしい勢いで弁当を食らっていた。

 「ヨシヒロさん、早く食べて感想をお願いしま
  すよ」

 「うん(えーい、覚悟を決めろ!俺!)」

俺は勢い良く弁当を食べ始めた・・・。


午後、俺は顔を真っ青にしながら、書類を整理し
ていた。
本当は訓練に出ようと思っていたのだが、恐ろし
い下痢に見舞われて、ここを離れられなかったの
だ。
ちなみに、レイも食べ過ぎで医務室のベッドで唸
っていた。

 「まじで死にそうだ・・・」

午前中の見学会は終了して、生徒達は午後の講義
に戻ったらしいが、シンはあれだけ食べても腹一
つ壊さない。
多少、不条理を感じなくもなかった。

 「ヨシさん、生きてますか?」

 「何とか。アスランは?」

俺と同じく、カガリの不気味な弁当を食べたアス
ランも隣りで書類を整理しながら、トイレを行っ
たり来たりしていた。

 「ルナに料理を教える人いないかな?」

 「ヨシさんは今日だけだからいいじゃないです
  か。俺なんて、一生の問題なんですよ」

 「そんなの我慢しろよ。というか、使用人に作
  って貰え!」

 「ラクスは料理が上手だったからな・・・」

 「その点は大感謝だ」

 「明日には、石原三佐達の先遣隊が来るってい
  うのに、俺達は下痢ですか?」

 「どうせ、明日は挨拶だけだろうから心配はな
  い」

同盟国の艦隊は決戦直前にならないと合流出来な
いが、日本は「やまと」級大型航空護衛艦2隻か
らなる先遣隊をプラントに派遣すると通告してき
たのだ。
そして、その二艦のモビルスーツ隊を統率してい
るのが、石原三佐との事らしい。

 「(やまと)・(むさし)の二隻だけだけど、
  搭載モビルスーツは48機もあるからな」

 「大型航空護衛艦って・・・。宇宙戦艦じゃな
  いんですか?」

 「戦艦空母ってやつだろうね。日本って色々複
  雑なんだよ。まだ、軍事アレルギーがある人
  が多くてね」

 「でも、新鋭艦ですよね」

 「だから、派遣してきたのさ。まだ戦力外だし
  、訓練と調整が出来るからな。現に、コロニ
  ー防衛艦隊の(ながと)(むつ)はまだ動か
  していないだろう?」 

 「ええ、直前にならなければ・・・。それと、
  噂によると(やまと)級は宇宙空間でしか使
  えないそうですが、アークエンジェルよりも
  戦闘力が高いとか・・・」

 「えーと、全長は660メートル、レーザー核
  融合炉の出力はアークエンジェルの2.5倍で
  ラミネート装甲完備している。武装は大型連
  装ビーム砲が4門と大型レールキャノンが4
  門で陽電子砲も2門装備か。その他にもミサ
  イル発射管と多数の近接防御用の火器を搭載
  していて、電子装備や探知装置も最新型か。
  凄い艦だな、名前が名前だけに期待している
  んだろうな」

 「名前ですか?」

 「旧大日本帝国の戦艦の名前に由来している」

 「ああ、あの(大和)ですか。戦史の講義で習
  いました」

どうやら、アカデミー主席卒業は伊達ではないら
しい。

 「石原三佐達の歓迎会を何処でやるかだな」

 「一昨日の惨劇はごめんですよ」

 「アスラン、楽しんでいたじゃないか」

 「その後が最悪です」

 「(蓬莱)でやろうかな。みんな日本人だし」

 「行きつけのお店ですか?」

 「ああ、そうだよ」

 「都合の方はみんなに聞いておきますね」

 「任せたよ」

こうしている内に、お腹の調子が回復してきた。
やはり、「正露丸」は偉大な薬であった。


夕方、寝不足と微妙に悪いお腹を抱えて帰宅する
と、ラクスがおかゆを用意して待っていた。  

 「ラクス、知ってたな」

 「ルナマリアさんを傷つけませんでしたか?」

 「全部食べたから、このお腹なんだけど」

 「さすがは、ヨシヒロですね」

 「あのさ、誰かに料理を教わるように頼んでく
  れない?ついでにカガリちゃんもさ。アスラ
  ン、本当に死んじゃうよ」

 「(蓬莱)の店長さんにお願いしてみますか?
  」 

 「ああ、それはいいね」

 「そうしましょう。さて、今日は久しぶりに2
  人っきりですわよ」

 「お義父さんは?」

 「パトリック小父様と飲みに出掛けていますわ
  。では、もう寝ましょうか」 

 「(まさか、ランパブって事はないよな)」

この夜、俺はようやく普通に睡眠をとる事が出来
たのであった。


(同時刻、デュランダル邸内)

 「タリア、レイを可愛がるのはいいが、多少過
  保護の点があると思うな」

 「あの女はいけません。レイはモテるのだから
  、もっと素敵なお嬢さんの方が・・・」

 「だがな、レイの意思も聞かないと(ミーアと
  いう女があのキャサリンだったとは。ここで
  下手な対応を取ると私の運命が終了してしま
  う。レイ、人生の中で色々な女性と付き合う
  事は良い経験になるのだから、ここは私を助
  けてくれ)」

自分だけの問題では無くて、ザラ委員長とシーゲ
ル元議長も関わってくるので、秘密は保たなけれ
ばならない。

 「大体、あんないかがわしいお店に務めている 
  女なんて・・・」

 「歌手の夢を叶える為のバイトだったと言うし
  、レイの曲でデビューするそうではないか。
  ここは応援して・・・」

 「あなたは!何で、あの女をかばうのよ!」

 「ピンポーン!」

ドアの呼び鈴が鳴ったので玄関に出ると、そこに
はミーア・キャンベルが立っていた。

 「お母さん、レイのお見舞いに来ました。誰か
  がご飯を食べさせ過ぎたそうで」

タリア艦長のこめかみに青筋が走る。

 「あら、こんな時間に何をしに来たのかしら」

 「レイも過保護なお母さんで大変ですよね」

笑顔で毒を吐くミーアにタリア艦長の怒りのボル
テージは最高潮に達した。

 「レイは部屋で寝ているから、上がってくれた
  まえ」 

 「はい、お薬と花を買ってきたんですよ。花瓶
  借りますね」

 「そうかね。わざわざすまないね」

 「では、おじゃましますね。お父さん」

ミーアはタリア艦長を無視して、レイの部屋に行
ってしまった。

 「あなた・・・。どういう事?」

 「いや、レイは嫌がってはいなかったと思うし
  ・・・」 

 「あなた!大切なお話があります」

 「えっ、でも私はシーゲル閣下達と待ち合わせ
  をしていて・・・」 

 「今日は、キャンセルです!重要な仕事の話で
  は無いんでしょ?」

 「あの、仕事を円滑に進める為に、コミュニケ
  ーシャンを図ろうかと・・・」

 「今日は欠席です!」

 「私は明日の朝日が拝めるのかな・・・」

デュランダル委員長はレイの教育方針を巡って、
明け方までタリア艦長に説教され、レイも再び、
曲を書かされていた事を明記しておく。 


翌日、石原三佐がついにやってくる事になった。
彼らは再び新兵器を持ってくるのだろうか?
日々、遊んでいるだけに見えるカザマ分艦隊は
生き残る事が出来るのか。
それは、誰にもわからなかった。


         あとがき 

あと少しで最終決戦に入ります。
実は、誰を戦死させるとか全く話を考えていま
せんけど。
最近、24時間勤務の後、次の日は休みとか恐
ろしい勤務体系になっていて、自分より若い連
中が次々に辞めていきます。
これから就職する人はよく会社を見極めてから
入社しましょう。
勤務終了後に眠い目を擦って誤字を確認するの
ですが、全然確認できていないようですね。
間違いだらけです。
本人は大丈夫だと思っているから重症です。
次回の更新は不明です。

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