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「見習いが往く 第四回(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2006-03-27 22:17)
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“――……ッ!”
遠くの方で、誰かが叫んでいる。
闇の中でまどろむくするは、はっきりしない思考で、そう感じ取った。
“……来ちゃ駄目! のび太ぱぱ、るるまま!!”
闇の中に、映像が浮かんだ。
七つの針を持つ捻じ曲がった大時計、そして、その前に立つ自分――くする。
くするは、涙でぐちゃぐちゃになった表情で、必死に目前の二人――のび太とルル――を睨んでいた。
“くするは……ぱぱとままと一緒に居れないの、居ちゃ駄目なの! くするが……くするが邪神の欠片だから、くするはここに居ちゃいけないの!”
涙、涙、涙。
くするは、理解した。
コレは、過去だと。
一年前、自分が混沌により邪神の欠片を核に作られた、異形の存在と思い知った時の記憶。
――全てに絶望し、闇に還ろうとした記憶。
“見て、……ぱぱ、まま”
過去の自分の右腕が、異形に変わる。
ぬらぬらとぬめるような輝きを発する、数多の顎門と血眼が鏤められた、触手に似た右腕。
“くするは化物なの……人間じゃないの。ぱぱとままに――街の皆に、居るだけで迷惑掛けちゃうの……だから、くするは死ななくちゃいけないの!!”
嗚呼、そうだ。
この時の自分は、自らの力を抑える事が出来なかった。
この世に存在するだけで、悪意なき害を振り撒く。
だから、死を選んで、この世から消えようとした。
――大好きな人達に、迷惑を掛けたくないから。 
“くするの所為で、ありすんお姉ちゃんが病気になっちゃった……。くするの所為で、じょーじお兄ちゃんとこりんお兄ちゃんが怪我しちゃった……。くするの所為で、くするの所為で……”
闇が、過去のくするの身体から噴き出す。
絶望、失意、嘆き。
常人ならば一瞬で発狂するだろう、凄まじい瘴気。
――大いなる、負の魔力。
七本の針が、狂ったように目茶苦茶に廻りだす。
混沌の用意した、呪時計。
呪いを紡ぎ魔力を汲み上げる、忌まわしき永久機関。
欠片であるくすると大いなるものとを繋ぐ、混沌の小道具の一つだ。
――周囲の空間が、魔力で歪む。
だが、しかし――

“――くする”

のび太は躊躇わず、前に踏み出した。
マギウス・スタイルの彼の肩には、確りとくするを見つめる、小さくなったルルが居る。
一歩、一歩、一歩。
ゆっくりと、確実に、歩みを進める。
“――来ないで!”
怒涛の如く押し寄せてくる、魔力の奔流。
飲み込まれれば、只ではすまないだろう。
――だが、のび太はあえて防がず、其れを受け入れた。
少し間を置いて――魔力の泥の中から、全身に裂傷と火傷を負ったのび太が、現れる。
しかし、その瞳光は少しも衰えず、確りと輝きを放っていた。
一歩、一歩、一歩。
足取りは少しもふらつかない。
歩くのもやっとの筈なのに、のび太もルルも、疲労やダメージなど微塵も感じさせない。
一歩踏み出す毎に、暗黒の泥が彼等を襲う。
細長い縦パネル状の翼が泥を弾くが、其れでも防ぎ切れない。
裂傷から鮮血が流れ出る。
黒と赤が混じり合い、陰惨且つ凄惨な色彩が空間に広がった。
鉄錆の臭いが充満し、死の香りが意識を苛む。
だが、其れでも彼等は歩みを止めない。
――意志を、止めない。
“や……やぁ……ッ”
くするは怖かった。
何で、動けるの?
痛みを感じないの?
ものすごく痛い筈なのに、泣きたいぐらい痛い筈なのに、如何して、如何して……
“……進んで、往けるの!?”
魔力が、蠢く。
泥が凝り固まって、錐状に顕現。
どす黒い針が、のび太の肩に突き刺さった。
肉の焼ける、嫌な臭いと音。
だが、其れでものび太は揺るがない。
肩に突き刺さった其れを無造作に掴み――砕く。
砕けた其れを一瞥し、のび太は歩く。
歩く、歩く、歩く。
肩から鮮血が溢れ出ようが、痛みに神経を焼かれようが、彼等は歩みを止めない。
そして――
“――あ”
とうとう、辿り着いた。
くするの前で立ち止まったのび太は、黙って――彼女を抱き締めた。
小さい身体だ。
折れそうな程細く、弱い身体だ。
のび太は優しく、くするを抱き、肩に乗っていたルルもくするの頬に身を寄せた。
“だ……駄目ぇッ! 今のくするに触っちゃ駄目ッ! ぱぱとままの身体が……ッ!!」
くすると接触している部分が、見る見る内に侵食されていく。
黒い煙を上げ、ボロボロに朽ちていく。
――命が、吸い取られていくかのように。
凄まじい速度で、劣化していく。
“離れて……離れてッ! ぱぱとまま、死んじゃうよ……ッ!! 早く、くするから離れてッ!!”
狂った時計の針が狂った時を指し示す。
――命を蝕む、黒い波動が空間を埋め尽くす。
だが、其れでも放さない。
喩え身を焼かれようが、命を削られようが、魂が苛まれようが……のび太とルルは、くするを愛しげに抱き締め、決して放さない。
――其れが、彼等の答えだった。
“――大丈夫だよ、くする”
のび太が優しく言った。
“……くするが、どんな存在だろうと、関係無い”
彼等は、じっとくするを見つめて、
“くするは、僕達の子供だ。――どんな時でも、どんな事になろうと……僕達は、一緒だ”
“……なかないで。ぱぱとままが――たすけるから”
のび太とルルの声。
――嗚呼、もうこの先は、見なくても解る。
あの時の出来事は、脳に焼き付いた暗黒にして閃光。
絶望から立ち上がった希望の閃。
闇の中で、ルルの朗々とした声が響いた。
“……ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん……ッ!”
更に、のび太の声がルルの声に重なった。
“ルルイエの館にて死せるクトゥルー、夢見るままに待ちいたり……ッ!”
其れは、“ルルイエ異本”に記された神への祝詞。
邪悪なる神への、祈り。
のび太は邪法を唱える。
正しき心と、想いを籠めて――
“正しい心さえ持っていれば、邪の力もまた正となる……!”
のび太とルルは、唱える。
――鋼鉄の力を、魔にして正しき者を、外道を屠る外法者を――魔断の射手を、呼ぶ言葉を。

“――無限の果てより来たりて”
のび太の右手がくするの手を取り、

“――儚き祈りを胸に”
小さなルルがくするの肩に飛び乗り、

“我等は魔を断つ路を往く”

――二人の声が唱和した。

我知らず――くするも、呟く。
――邪を宿す、正しき鋼の模造神の名を。

“汝、生命の守護者――■■■■■■”
三つの声が、暗黒を超越し――

青白い闇が――全てを粉微塵に吹き飛ばした。


「――ふにゅ?」
目を開くと、其処は薄暗い部屋の中だった。
まだ眠気の残る頭を振り、瞼を擦りつつくするは上半身を起こした。
目に入るのは、スチール机、本棚、窓、押入れ。
――見覚えの無い部屋だった。
「るゆ……?」
首を捻る。
漸く、思い出す。
「……そっか。ぱぱのお部屋で、寝たんだっけ……」
畳の上に敷かれた布団から、完全に身を起こす。
そして、傍らを見ると、
「……まま?」
隣で寝ていた筈のルルの姿が、消えていた。
首を傾げたその時――くするの鼻孔に、美味しそうな匂いが届いた。
――可愛らしい、小さな音が鳴る。
くするは立ち上がり、引き寄せられるかのようにふらふらと――匂いの元へと、向かうのだった。


階段を降り、廊下を進む。
――途中の一室で、父と祖父母が座ったまま白い灰になっていたが、今は無視。
……お腹空いた。
子供らしい無邪気な欲求に、くするは大人しく従った。
古いドアを開けると、其処は台所。
――コンロの前には、母の姿が在った。
入ってきたくするに気付き、ルルは一旦手を止め、
「おきたの? くする」
「うん。お早う、まま!」
元気に挨拶をし、くするはテーブルへとついた。
ルルも、お早う、と返し、視線を手元に戻す。
「のびたたち、てつやだったみたい……。ごはん、もうすぐできるよ」
泥のように眠っている玉子の代わりに、食事の支度をしているのだ。
昨日の残りの味噌汁を温め、丸く握ったご飯に海苔を巻く。
――簡単な、和食である。
簡素な其れをお盆に載せ、くするの前に置いた。
くするは目を輝かせて、
「るゆゆ〜♪ いただきまーすッ!」
ニコニコと、食べ始める。
――そんな、可愛い娘の様子を眺めて、ルルは嬉しそうに目を細めた。


「――静香ちゃん。本当に、のび太のヤツ……帰って来てるの?」
静香の後ろを歩く小柄な少年――骨川スネ夫――が、妙に大人しい、戸惑っている表情で言う。
静香は頷いた。
更に、タケシの後ろを歩く大柄の少年――剛田タケシ――も、戸惑った顔で、
「でも、何でまたのび太のヤツ、急に帰って来たんだ? ――まあ兎も角、何も言わずに勝手に行方不明になりやがって……たっぷりお灸を据えてやらねえとな……」
拳をバキバキと鳴らし、物騒さ100%超過な顔で、言うタケシ。
一年間溜まっていた鬱憤が、此処にきて沸点に到達したようだ。
スネ夫も同意見らしく、小憎たらしい表情で、頷く。
――彼等は知らない。
あの“のび太”が――運動音痴の代名詞、間抜けの総本山、甘ったれ選手権金メダリスト、ぐうたらカップ全タイトル名人、ドジの擬人法、怠け者が進化した新人類、零点世界最多ギネス記録保持者等等……とまで呼ばれた彼が、自分等を遥かに超越した高みに居る事を知らない。
唯一、知っている静香は、僅かに目を伏せ、溜息を吐くのだった。
――もうそろそろ、野比家が見えてくる。


ご飯を食べ終わったくするは、アーカムから持ってきた愛用のクレヨンを使い、居間でお絵描きに耽っていた。
――灰になったまま泥のように眠る野比家の三人は、万が一来客が在った際邪魔になるので、別室に移ってもらった。
テーブルの上にチラシを乗せ、クレヨンでぐりぐりと思いのまま描く。
「だんせいに〜。えるざお姉ちゃん〜。うえすと〜。あるお姉ちゃん〜」
オレンジ色の塊と、緑頭の人間らしき線の塊が二つ、そして……桃色の般若。
可愛らしいその人物の頭には、猛々しき二本の角と、牙が描き加えられていた。
――日頃、どんな目で見られているか、解る絵だった。
「ふんふんふんふ〜ん♪」
次は極貧探偵でも描こうかと、別のクレヨンを手に取った――その時。
くするの超感覚が、新たな気配を捉えた。
数は三つ。レベルは一般人。
力を制御出来るようになったくするには、これぐらいの事は容易いのだ。
「るゆ? お客さん……かな?」
……ままは忙しそうだし、ぱぱ達は寝てるし。
眠っている玉子の家事を、代わりに片付けているルルに、態々手間を掛けさせるのは、少々気が進まない。
「……くする、お客さんの対応ぐらい出来るもん」
洗濯板を張って、自信満々に部屋を出る。
直ぐ其処には、玄関が在る。
くするは、土間に在る外履きを突っ掛けて、
「はーい。何方ですか〜?」
閉まった扉を、開け放った。


応対に出て来た、全く予想外な人物に、静香達三人は大いに戸惑った。
扉の影に立つ、艶やかな黒髪を団子型に纏めた、幼児。
――全く見た事が無い、幼女だった。
出て来た幼女は、可愛らしく眉を顰め、
「――るゆ? お姉さん達、誰?」
黙ったまま全く話さない三人を見て、訝しげに首を傾げた。
慌ててスネ夫が、
「あ、あの……此処って、野比さんのお宅ですよね?」
「るゆ。そーだよ。……で、どんなごよーですか?」
悪意無き、素直な瞳。
その可愛らしさに、思わず心が癒された。
静香は身を屈め、幼女――くする――と視線を合わせ、
「あのね……野比のび太さんは、居ますか?」
のび太、と聞いてくするは破顔した。
「なーんだ! お姉さん達、ぱぱのお友達なんだ♪」
くするの何気無い一言に、三人は硬直。
――そして、やっとの思いで同じ単語を喉からひり出した。
「「「……パパ?」」」
くするは無邪気な顔で、
「うん! のび太ぱぱはくするのぱぱだよ♪ ――今、ぱぱ寝ちゃってるけど……上がっていいよ!」
固まっている三人を尻目に、くするは元気に扉を開け放ったのだった。


くするは意外に躾がいい。
ライカや覇道邸のメイド達に仕込まれた行儀作法は、のび太以上だという話だ。
故に、お茶を入れる事など造作も無い。
湯気の立つ湯飲みを三つ、客人である三人――静香、タケシ、スネ夫――の前に置いた。
「粗茶ですがー」
さり気無い一言も忘れない。
躾の行き届いた良い子である。
「あ、どうも。御構い無く」
思わず、頭を下げてしまうスネ夫。
くするは、にぱっと笑って、
「るゆ。お客さんはキチンと構わなきゃ駄目。執事のおじちゃんの教えなの」
くするの笑顔に、静香達は思わず笑みを漏らした。
しかし、その笑みも直ぐに消える。
彼等の頭には、先程の言葉――パパ発言――がリフレインされていたからだ。
そして、静香は意を決し、口を開いた。
「ねえ……くするちゃん。その……のび太さんがくするちゃんのぱぱって、本当なのかしら?」
その質問に、くするは大きく頷いて、
「そーだよ。のび太ぱぱとるるままは、くするのぱぱとままだよ。――くするはよーしで、血は繋がってないけど……ほんとの親子なの」
――空気が重くなる。
質問を投げ掛けた静香は勿論、男二人もバツの悪そうな顔で、項垂れていた。
くするは、気にしないで、とパタパタ手を振って、
「些細な事だし。其れに……くする、今とっても幸せだから」
そう言って、笑った。
――その笑顔に、三人は心に温かい何かを感じた。
「んで。お姉さん達、お名前なあに?」
くするの問いに、静香達は微笑しつつ、名乗った。


――野比家、洗面所。
其処に在る洗濯機の前で、ルルは洗濯に耽っていた。
アーカムでも、家事はのび太と交代でこなしていたので、大概は出来る。
ボタン類が全て日本語だったので少し戸惑ったが、平仮名・片仮名類は大方読めるので、大事は無い。
洗剤を入れ、蓋を閉め、スタート。
――音の無い朝の空間に、無機質な機械音が響いた。
「……おわり」
空になった洗濯籠を片付け、一息吐く。
大方の家事は、コレで終わった。
後は、洗い終わった洗濯物を乾かすだけだ。
――休憩でもしようか、とルルは大きく背伸びし、目前のドアを開け、廊下へと出た。
すると、少し向こう――居間――から、人の話し声が聞こえてきた。
「……おきたのかな?」
否。其れは無い。
寝室から野比夫妻の気配は消えていないし、二階ののび太の気配も動いていない。
居間に在る気配は――四つ。
「……おきゃくさま?」
来客か、とルルは居間へと歩みを進めた。
客が来たなら来たと、一言断って欲しい。
接客が出来るのは良いが、何処か抜けている娘へ少し愚痴を溢し、ルルは襖を開け放った。
其処には、三人の男女が居た。
此方を見て、ぎょっとする三人を訝しげに思いつつも、取り合えず――
「――いらっしゃい」
挨拶をした。


「――あ、まま」
突然現れたエプロン姿の銀髪少女を、くするはそう呼んだ。
「「「……え゛?」」」
くするの言葉に、三人の思考が停止した。
無理も無い。
ルルは見た目、十代前半。
――犯罪だ。
しかも、ママって事は……
「のび太さんの……恋人って……」
昨日、のび太と交わした会話が脳裏に浮かんだ。
てっきり、自分等と同じ年代か年上を想像していたが……
――無意識に、静香は泣いていた。
其れは、悲しみか、怒りか、嘆きか。
兎に角、彼女は泣いた。
――外道に堕ちてしまった、幼馴染の所業に、只ひたすら泣いた。
「まさか……のび太さんが、犯罪者になるなんて……」
咽び泣く。
タケシもスネ夫も、同様だった。
「悪いヤツじゃねえけど、まさか、まさか、こんな事しやがるなんて。――せめてもの情けだ。心の友である俺が、葬ってやるぜ、のび太……」
「手伝うよ、ジャイアン」
咽び泣き、拳を握るタケシ。
そんな彼の後ろで、決意したスネ夫。
如何やら、のび太死亡フラグが立ったらしい。
見敵必殺である。
――そんな事等露とも知らず。
お約束通り、元祖お間抜け人間は自ら死地へとやって来た。
階段を降り、直ぐ傍の居間へと顔を出す。
服装は昨日と同じ。
彼は寝癖の付いた頭を掻き、眼鏡を取った瞳をしょぼしょぼと擦りつつ、
「ふわぁ〜。結局、徹夜でお説教だもんなぁ。参っちゃうよ、ホント。――ルル、悪いけど朝ご飯……って、あらぁ?」
予想外な人々を見て、絶句。
冷や汗だらだらだ。
彼は、掠れる喉を無理矢理行使し、やっとの思いで言葉を紡ぎだした。
「し、静香ちゃん。其れと、もしかして……ジャイアンとスネ夫?」
其れが、引き金だった。
のび太を視認したタケシとスネ夫が、のび太に飛び掛る!
「「――のび太ああぁぁぁぁぁぁッ!! お前ってヤツぁぁぁぁぁぁッッ!!」」
犯罪者と化したのび太を断罪すべく、もてない男達は正義の拳を振り翳す。
不意の出来事に、のび太の反応が遅れた。
結果――
「え? 一寸まッ……グゲギバグネヒャグゥッ!!!?」
タケシとスネ夫のクロスアタックが炸裂。
そのまま、大乱闘へと縺れ込んだ。
肉が千切れ、骨が軋み、血が飛び散る。
漫画の如く噴煙を上げてバトルする彼等を、くするは楽しそうに見つめ、
「ぱぱ楽しそう〜」
無邪気の一言をのたまった。
何気に酷い。
ルルはというと突然の事態に何をしていいか解らず、じっとのび太を見つめている。
本当にヤバくなったら、助ける心算だ。
そして、静香は――さめざめと泣き続けた。
彼女は涙を流しつつ、のび太へと罵詈雑言をぶちまける。
心の混沌全てを言語に置き換え、矢として放つ。
「のび太さんの……変態! ろくでなし! ロリコン! ぺド! ネクロフィリア!」
静香の罵声が、のび太のハートに突き刺さった。
だが、やはり最後は聞き捨てならなかったらしい。
彼は、必死に声を上げ――
「いや、最後のは違うでしょ!! 其れに僕はルルにしか興味無いし――って、いい加減何が如何なってんのォ!!?」
叫ぶが、その声は肉と骨がぶつかり合う音に掻き消されていく。
――文字通り、朝から踏んだり蹴ったりなのび太であった。
ちなみにだが、この乱闘は野比夫妻が目覚める夕方まで続いたそうである。
――勝者は辛くものび太。
トラウマ的上下関係は、何とか乗り越えられたようだった。


同時刻、米国。
アーカム・シティ郊外の、森林地帯。
落陽に染まる、森の木々と湖面。
紅く染まった湖の傍――小さな丸太小屋に、彼等は居た。
椅子に身を委ねた、金髪の少年。
黄金の瞳に紅光を映し、彼は気だるそうに湖を見つめていた。
その少年の膝の上には、小さな少女が居た。
全身を黒に纏めた、黒髪の少女だ。
彼女は幸せそうに頬を緩めて、全身を少年に預けていた。
「……日が暮れるな、エセル」
徐に、少年が言った。
その声は深く、高く、そして淡い。
少女は、少年の声に聞き惚れつつも、
「はい。……綺麗ですね、マスター」
少女の言葉に、少年は少し考え、
「――ああ、そうだな」
そう言ってから、少年は自分の言葉に笑ってしまった。
何かを綺麗だと思う。
――輪廻に囚われていた頃の自分には、考えられないな。
少年は当たり前の事に、少々感動した。
「如何されました? マスター」
目を閉じて黙ってしまった少年に、少女の心配そうな声が届く。
少年は、膝上の少女の髪を優しく手で梳いて、
「――いや、何でもない。ただ……当たり前の事に、少々心を動かされていただけだ。世界を美しく思い、そして――お前が常に、余の傍に居てくれる……当たり前の事に」
――少女の頬が夕日よりも紅く染まった。
そして、彼女はゆっくりと笑って、
「――私もです。マスターと共に、同じ時間を感じるこの一時が……とても、愛しい」
――少年は、黙っている。
彼は、夕日に照らされる少女の横顔を見つめ――
「……あ」
抱き締めた。
手指に、腕に、胸に、柔らかい感触が伝わってくる。
……細いな。
思い切り、其れでいて優しく少女を抱いた彼は、心中でそう呟いた。
……だが、これで良い。
白い肌の艶やかな感触を、極上の絹糸を思わせるしっとりとした黒髪の肌触りを、鼻を擽る艶かしい少女の甘い薫りを……
何度目かは解らない。
少女の存在を実感するかのように、少年は少女を抱き締め、離さない。
「マスター……」
腕の中で、少女が呟いた。
だが、少年は応えず、黙って腕を動かす。
然程の時間も掛からず、少女の向きが変わり、両者の顔が向き合った。
紅く潤んだ少女の顔をじっと見つめ、彼は背中に回した手を腰と首の後ろへと移動させた。
「――少々、寒くなってきたからな。これなら、暖かいだろう?」
微笑する少年。
少女は、はい、と答え、
「――とても、暖かいです」
そうか、と少年は答えた。
少女は瞳を伏せて、少年の胸に身を寄せ、温もりを全身で感じ取る。
少年は擽ったそうに笑い、少女の温もりを全身で受け止める。
――お互いの温もりが、とても心地良い。
「――暫し、俗世の事は忘れよう。今は只……お前の温もりを味わいたい」
「私も、マスターの全てを感じたい。もう少し、このままで……」
「勿論だ」
――夕日に照らされる、仲睦まじい少年と少女。
重なり合う影が、大地に刻まれるが、誰も見ないだろう。
少年こと“マスター・テリオン”と、少女こと“エセルドレーダ”の幸せの時間は、ゆっくりと過ぎて行った。


――何処ででもあり、何処でもない場所。
上も下も無く、左右の区別も無い、黒であり白であり、東西南北の概念すらない、三次元でも四次元でもない曖昧なその空間に、彼は居た。
目深に被ったシルクハットを撫で、不気味な声で彼は言う。
「いやいやいや。予想よりも早く、良い捨て駒が手に入った。生きた駒は貴重だからね、早速行ってもらうとしよう。――回収したポンコツやエネルギー体の復活作業も、手早く進めないと」
彼は早口で独り捲し立てると、杖を振った。
すると、如何だろう。
捻じ曲がった黒穴が、出現した。
彼は、その中に手を入れ、一冊の本を引き抜いた。
題名は掠れて読めない。
だが、彼は笑うような仕草をすると――
「――おめでとう。君の望みは叶うよ。万物を統べる王に君は為れる。喜びたまえ」
言って、彼は本を投げ捨てた。
直ぐに、本は光とも闇ともつかぬ塊に飲み込まれ――見えなくなった。
「はてさて。――どこまで“もつ”かな?」
彼の独り言は、誰の耳にも届かなかった。


あとがき。
今回も微妙。
更にギャグが少なひ(すんません)。
まあ、今回は間章みたいなモンですから、勘弁を(土下座)。
――次回から加速していきたいと思います(出来るかなぁ……)。


感想返信


>剣さん
いえいえ御気になさらず。恨みを持っているのは勿論映画関係です。全部入れたいけど、何か無理っぽいかな……


>Dさん
静香の好きはあくまで幼馴染として。どっちかというと姉弟みたいな感じです。混沌は手酷くやられたので、暫らく地球には近付かないでしょう。――のび太の友達も、勿論出演予定ありです。お楽しみに。


>皇 翠輝さん
どうも有り難う御座います。
敵は主に映画からです。お楽しみを。
――身体は元気なんだけど、時間が無いです……


>なまけものさん
ネタバレになっちゃうので、正確には答えられません(すんませんです)。
少なくともリストの半分は出る予定です(権力だけのヤツは出しにくいので)。
今後も宜しく。


>放浪の道化師さん
半分は出したいなぁ……。
ちなみに彼の正体ですが……残念ですが、神では在りません(すいませんですはい)。
更に今回でのび太君、友達から犯罪者呼ばわり……哀れ(後で誤解は解けたけど)。
有難う御座います。では――次回にて又!


>ミアフさん
其れは在りません。
では此処でオリ設定。
ルルイエ異本の鬼械神ですが……記述に誤りが在ったらしく、召喚当初は完全では在りませんでした。
其処で、デモンベインみたく、ドクターの監修の下、科学による改造が開始(見張り付だったのでおかしな機能は付ける前に阻止)。
――名前も、のび太が独断とノリで付けました。
登場は最初の敵との決戦になると思います。
では。


>ガバメントさん
ひ、否定出来なひ……。


>ななしさん
自分もほのぼのは割と好きです。
だけどバトルやギャグの禁断症状が……ッ!(危険人物)。
リルルは勿論出ます!
何時になるか解んないけども、絶対に!
次回も宜しく。


――では、次回にて又お会いを。

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