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「見習いが往く 第三回(ドラえもん+機神咆哮デモンベイン)」

ガーゴイル (2006-03-22 01:24)
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――果てぬ道を蒼き鋼が疾走する。
駆り手は黒に身を包む少年。
サイドには銀髪の少女と、その膝の上ではしゃぐ黒髪の幼子の姿。
「日本日本日本〜♪」
気分が高ぶるとその時の気持ちを、即興のリズムで歌う癖。
可愛いな、と親馬鹿のび太は風圧で強張った顔を和らげる。
「もう少しで、着くからね。偽造パスポートもばれなかったし……瑠璃さんとウィンさんには、足を向けて寝れないよほんと」
何気にヤバイ事を口にするのび太。
しかし、仕方が無いと言えば仕方が無い。
戸籍が無いルルとくするが国外に出る為には、これしかないからだ。
密入国という手もあるが、リスクも大きいし時間と手間が掛かりすぎる。
ならば、仕方が無いと言うものだ。
アーカムで過ごした一年と少しの間に、すっかり常識が磨耗してしまったのび太だった。
ふと、その時。視界に、緑色の大きなぶら下がり看板が入る。
地名と距離が記された交通標識だ。
……あと少しで、東京か。
速度を上げる。
大型サイドカー――親友のあだ名にあやかって“blue fox(蒼い狐)”と名付けた機体――が、歓喜の叫びを上げ、鋼鉄の心臓が大きく脈動。
意思を持たない機械仕掛けの獣は、如何やら機嫌が良いらしい。
「――何か、嫌な予感がするな……」
何か目的地が近付けば近付くほど、魔術師としての勘が大きく震える。
――命が、ヤバイと。
警鐘が、脳内で目茶苦茶に鳴響く。
「……まさか。アーカムじゃあるまいし、危険な事なんて在る訳が無い」
笑い飛ばす。
だが、この数時間後、彼は日本へ帰ってきた事を大いに後悔するのだった。


始業直後のテストも終わり、学生達はテストにより通常よりも若干早い放課後を満喫する。
「スネ夫……お前、テスト如何だった?」
「大体はOK。ジャイアンは……訊くまでも無いみたいだね」
道を行く二人の男子高校生。
大柄な少年は肩を落とし、小柄な少年は若干哀れだ視線を彼に送った。
大柄な方を“剛田 タケシ”。
小柄な方を“骨川 スネ夫”。
某警察の凸凹コンビにも負けず劣らずの、凸凹コンビである。
「気が重いぜ……カラオケにでも行って、ストレス発散でもするか?」
「御免、其れだけは勘弁!」
必死に止めるスネ夫。
彼の歌の威力を知る者なら、当然の行為と言えよう。
――密室で彼の歌を聞くなど、毒ガスの蔓延した室内でラジオ体操をした後に有酸素運動をする事以上にヤバイ。
「何でぇ、付き合い悪いな……」
ぶすっと文句を垂れるタケシ。
数年前なら一悶着起こしていたであろう彼だが、あっさり引き下がる。
彼も少しは成長したという事だ。
――その時だ。
彼等の脇を、蒼き風が駆け抜けた。
凄まじいスピードで疾走し、走り去る其れは、正に気高き“狐”。
目視も適わず、蒼き鋼鉄は向こうの角を曲がり、あっという間に消えて行った。
「すご……。サイドカーで、しかもあの速度で、角を曲がったよ……」
「初めて見るヤツだな。誰か引っ越してきたのか?」
感心したように、二人は風の残滓を感じつつ、呟くように言った。


「――ん? あの凸凹コンビ、何処かで見たような……」
眉を顰め、首を傾げるのび太。
大柄で太め、そして小柄で細身。
――何か、記憶の端に引っ掛かった。
「……まえみて、あぶない」
「あ、御免御免」
ルルに注意され、のび太は思考を運転に集中させた。
友によって創られ、アーカム一の狂人によって改造されたコレの性能は半端ではない。
故に、運転するだけでも一苦労。
厳しい修練によって卓越した運転技術を身に付けたのび太だが、流石に気は抜けない。
「――と、そろそろ見えてきたよ……」
ハンドルとギアを操作し、ブレーキ。
見る見る内に、減速していく。
――古ぼけた民家の前で、停止した。
機体から降りたのび太は、脱いだゴーグルとヘルメットを手に携え、
「……一年と数ヶ月ぶりの我が家、か。やっぱり全然変わってないや」
――旅立ったその時と、全く変わらない佇まい。
柄にも無く、少し感傷に浸る。
「此処がぱぱのお家? え〜と……ぼろいね!」
「おじいちゃんとおばあちゃんの前では間違っても絶対に言わないようにね。――借家だし」
無邪気に酷い事をのたまう娘を注意し、のび太はルルの手を取った。
ルルは黙って立ち上がり、揺らぐ瞳で民家――野比家――を見つめ、
「のびたの、おうち。……のびたのりょうしん、いる?」
「ん? 平日の昼間だからね。連絡もしてないし、多分居るのは母さんだけだと思うよ」
のび太の言葉にルルは、ん、と応え、
「……あいさつ。お義父さんとお義母さんに……(///)」
「あ、あははは……」
思わず照れてしまう。
真っ赤になって笑うのび太とルルを見て、くするは笑顔で、
「ぱぱとまま真っ赤っか〜♪」
無邪気に、囃し立てる。
何とも平和な三人だった。


結論から言うと、家は留守だった。
扉には鍵が掛かっており、中には入れなかった。
勿論、のび太は合鍵なぞ持っていない。

「……買い物にでも、行ったのかな? 仕方ない――時間潰しに、ここいら辺の案内でもしようか?」

と、言う訳で――三人は、街の商店街まで繰り出すことにした。
初めて見る日本の町並みに、女二人は少々興奮気味に彼方此方を落ち着き無く見回した。
「あれがお菓子屋さん――あそこのドラ焼き美味しいんだよね。んで、あれが本屋さん――よく立ち読みしたっけ。八百屋、魚屋、花屋、電気屋、更に……うげ。剛田雑貨店……ジャイアン家だ」
目に付くお店を片っ端から説明するのび太。古ぼけた雑貨屋を目にした途端、表情が強張る。
……何て説明しようかな。
後ろめたい何かを感じ、溜息を吐く。
……街を出る時も、別れの挨拶も無しだったし……
絶対怒ってる。
肩を落とし、更に深く溜息。
「――って、悩んでてもしょうがないか。当たって砕けろ……為るように為るさ」
昔よりはかなり前向きになったのび太は、そう結論し、気分を改める。
よし、と気合を入れ直し――
「ルル、くする。僕一寸寄りたい所が――っていないしッ!?」
後ろに付いて来ていた筈の二人の姿が見事に無くなっていた。
のび太は絶叫し、慌てて辺りを見回す。
――其れらしき人影は無い。
「――〜〜ッ!? 何でこんな時に〜〜ッ!!」
頭を掻き毟って悶える。が、今はこんな事をしている場合ではない。
慌ててのび太は、相棒と娘を探すべく、小走りで辺りを散策するのだった。


「まま〜、ぱぱ〜……何処〜!?」
くするは両親とはぐれ、一人商店街を彷徨っていた。
強大な力を秘めているとはいえ、くするはまだ子供だ。
魔力探知の技など、まだ覚えてもいない。
「ぐす……ぱぱ、まま……」
のび太の故郷とはいえ、此処は異国の知らない町。
急速に生じ、胸中を侵食していく心細さ。
くするが一番怖いモノ――其れは孤独。
一人ぼっちの寂しさが、堪らなく怖いのだ。
大きな黒い瞳に、大量の涙が溜まっていく。
あっという間に堤防が決壊し、ボロボロと零れ落ちる雫。
「ふぇ……ふぇぇぇ……ふぇぇぇぇぇぇぇんッッッ!!」
その場に蹲り、大声で泣きじゃくるくする。
そんなくするを周囲の人々は困惑顔で遠巻きにする。
中には見ない振りをして、そそくさと通り過ぎる者まで。
――事勿れ主義。
道の真ん中で、声が枯れるのではないかといわんばかりに、泣き続けるくする。
――その時だ。
「――如何したの?」
道行く集団の中から、一人の女性がくするに声を掛けた。
買い物籠を下げた、眼鏡を掛けた中年の女性だ。
女性はくするに近寄って、
「お父さんとお母さんは? 迷子になっちゃったの?」
優しく話しかける。
くするは、ぐずつきつつも、
「ひぐッ……うん。ぱぱもままも、見つからないの……。ぱぱぁ、ままぁ……」
再び泣き出す。
震えるくするを見て、女性は手を上げ、
「……大丈夫。おばちゃんが、一緒にお嬢ちゃんのパパとママを探して上げるわ……」
くするの頭を撫でた。
「……ほんと?」
涙を止め、くするが女性の顔を見上げる。
女性は、くすっと笑い、
「――本当よ。さ、涙を拭いて。何時までも泣いてると、パパとママに笑われるわよ」
「――うん。くする、泣かないよ!」
にぱッ、と笑うくする。
泣いた子がもう笑った。


のび太は必死に激走していた。
ルルもくするも、見た目は普通の少女と幼児だ。
もし、性質の悪い連中にでも絡まれたりしたら……
……考えるだけで、脳が沸騰するよ。
感情が上手く制御出来ない。
師匠に似たのか、生まれつきなのか。
逸る気持ちを抑え、のび太は疾走した。
――ふと、その時。

「……いいじゃねぇかよ。一寸付き合えよ」
「や、止めて……」
「おーおー。震えちゃって、マジで可愛いじゃんか……」

耳に、そんな会話が入ってくる。
見ると、ビル隙間の路地裏で、何人かの若者が女性を取り囲んでいた。
――脳が爆発する。
取り止めも無い思考が神経を奔り、世界へと繋がる。
思考と視野が狭窄している現在ののび太は、凄まじく単純且つ直行思考。

――女性が不良に絡まれている→もしかしたらルルかくするかもしれない→張り倒そう。

かなりテンパっているようだ。
のび太は反射的に、取り合えず男の一人にドロップキックをぶちかました。


僕たち不良ですと公言せんばかりに、特徴的な服装の若者達は、厭らしい目付きで少女を取り囲んでいた。
少女は震え、怯えている。
――如何やら、其れが更に男達の嗜虐欲をそそったらしい。
堪えきれなくなった男の一人が、少女に手を伸ばした、その時――
背後からの一撃が、男を吹き飛ばした。
哀れ、男は顔から地面にダイレクト。
摩擦により、顔面がアスファルトでおろされた。
「――ッ!? てめぇ……何しやがる!!」
仲間をやられて、激昂する男達。
だが、事の張本人――眼鏡を掛けた少年――は少しも臆さず、冷たい瞳で彼等を睨み、
「――害虫駆除だよ」
暴走状態の彼には、躊躇いなど無い。
取り合えず死なない程度にぼこる心算だ。
「舐めんじゃねぇよ……糞餓鬼ィッ!」
殴りかかってくる。
だが――遅い。
小・中学時代の基礎修練に加え、アーカムで過ごした一年と少しの間何度も死に掛けた彼にとって、この程度脅威にもならない。
向かって来る拳を掌で受け止め、逆の手で腕を掴む。
体勢を変え、相手を腰に乗せるように――投げる!
巨体が宙を浮き、蛙が潰れたような音と共に、大地が僅かに振動。
見れば、やられた男は白目を抜いて伸びていた。
「やろぉ……」
――残りは三人。
余程頭にきたのか、三人が三人とも小振りのナイフを握っていた。
「……どっちが餓鬼だよ」
思わず溜息。
全然怖くない。
――怒ったアルさんに比べたら……
微妙にヒトとして、間違っているような気がした。
「銃使う訳にもいかないし……素手で即効片付けるか」
飛び掛ってくる男達を視認し、のび太は構えた。
――暫らくして、路地裏に襤褸屑の山が転がっていたのは言うまでも無い。


――彼女は呆然としていた。
目の前の出来事に、心が奪われていた。
あっという間に、自分に絡んでいた男五人を素手で薙ぎ倒した、彼。
彼女は、彼の顔に見覚えがあった。
温和な顔立ち、眼鏡、何処か温かい雰囲気。
一年と少し前に、突然去って行った彼だ。
彼女は、我知らず、彼の名を呟いた。
「……のび太、さん」
声を聞き止め、彼は、振り返る。
彼女を改めて視認し、彼の顔が瞬く間に青褪めていった。
「も、もしかして……静香ちゃんですか?」
黙って、彼女が頷く。
“源 静香”と“野比 のび太”。
約一年振りの再会だった。


「――でね、ぱぱはあやとりがとっても上手なの! くする、ぱぱのあやとり見るの大好きッ!」
楽しそうに両親の事を話すくするに相槌を返しつつ、女性――“野比 玉子”――は自分の直感に確信を得ていた。
この子の親が――自分の息子だと言う事に。
始めは、この子の話を聞いて他人の空似かとでも思っていたが、眼鏡を掛けていて射撃とあやとりが上手で昼寝好きで名前がのび太とまで言われたら……
……あの子は――海外で何をしていたのかしら!?
ろくすっぽ連絡を寄越さなかった挙句、何時の間にか奥さん(未入籍)と子供まで作っているとは……
くするの話を聞いて、始めの内は親子の縁を切ろうとまで考えていた。
だが、
「ぱぱとままね、とっても優しいの。怒ると怖いけど……くする、ぱぱとままの事、とっても大好き。――くする、よーしだけど……ぱぱとまま、そんな事関係無いって言ってくれたの。ほんとのぱぱとままなの」
くするの本当に嬉しそうな顔に、玉子は言葉を失った。
更に、
「おばちゃん、何かぱぱに似てて、くする、おばちゃんの事好きだよ!」
屈託の無いくするの顔を見て、怒りが霧散してしまった。
「孫馬鹿、ってこういう事を言うのかしら……」
苦笑いをし、呟く。
「るゆ?」
首を傾げるくする。玉子は彼女の頭を撫でて、何でもない、と言った。
……お説教ぐらいで、勘弁してあげようかしら?
と、そう考えていた、その時。
前方を見ていたくするが、叫んだ。
「――あ! ままだ!」
ままー、と叫びながら、くするは勢いよく走り出す。
見ると、何時の間にか少女が立っていた。
奇妙な装束を纏った、異国の少女。
しかし……
「…………」
何ていうか、如何見ても十代前半にしか見えない。
思わず、蹲ってしまう。
……性根は悪い子じゃ無いと思っていたけど……
「――犯罪者になるなんて」
――落ち込んでしまう、玉子であった。


「――はい、コーヒー。ミルク入ってないけど、良い?」
「…………」
黙って頷き、缶を受け取る静香。
のび太も、黙って缶を開け、傍の木立に背を預けた。
――此処は公園。
人も余り居らず、落ち着いて話すには絶好の場所だ。
――沈黙。
御互い、何を話せば良いか解らないのだ。
「…………」
「…………」
暫し、間。
――漸く、口火を切ったのは、のび太だった。
「久し振り、だね」
「ええ……」
固い声で、答える静香。
のび太は、背に嫌な汗を掻いた。
「――のび太さん。今まで、何処で何をしていたの? 突然居なくなって――おば様達も、外国に行ったとしか……」
呟いた言葉に、のび太は努めて冷静に、
「……アメリカのアーカム・シティで、色々とね。大変だったよ、ほんと。今日は……一寸した、里帰りってヤツだよ」
苦笑するのび太。
静香は、そう、と答え、其れっきり黙り込んだ。
また、沈黙。
――今度は、静香が沈黙を破った。
「――如何して、行き成り出て行ったの? 高校入学も蹴って、私達に何も言わず……」
「あの時は、如何しても外に出たかったからね。其れと――言うと絶対反対されそうだし、何より……勝手だけど、涙の別れってのは、もう二度と御免だから」
思い出すのは、アイツとの別れ。
あれ以来、如何も涙の別れというのが、苦手に為ってしまった。
「私も、タケシさんも、スネ夫さんも……本当に、心配したのよ」
「――御免。謝る事しか出来ないけど、本当に御免」
本当にすまなそうに、謝るのび太。
其れを見て、静香は苦笑した。
そして、彼女は遠い目で、
「――変わったわね、のび太さん。ドラちゃんが帰ってからも、そうだったけど……向こうに行ってから、本当に変わったわ……」
「変わらないモノ何て、この世には無いよ。僕も――色々出来たり無くしたりしたから」
そう言って、のび太は静香を見つめ、
「……静香ちゃん。実はね、僕……恋人と娘が出来たんだ」
突然の言葉に、静香は目を見開いて、言葉を失った。
ぱくぱくと、口を開閉し……
「…………ッ!?」
「――と、言っても、まだ入籍は出来ないし、娘も血は繋がってないけど」
だけど、と彼は続けて、
「――僕は、本当に家族だと思ってる。僕が変われたのは、ドラえもんと、彼女達と――アーカムで出会った、色んな人達のお陰なんだ」
彼は、空を見つめた。
「――多分、僕はドラえもんの居ない日々に耐え切れなかったんだ。思い出の残る、この町で安寧を享受する事に耐え切れなかったんだ。だから――僕は逃げ出した。冒険という名の――旅という名の逃げに、走ったんだ」
鍛えて、鍛えて、鍛えて。
その果てに、逃げ出した。
そして――
「戦いに、ぶつかった。逃げられない戦いに、巻き込まれた。――失いたくない人達に、出会った」
何て言うかね、とのび太は苦笑して、
「一寸だけ、強くなれたんだ。この町にある沢山の思い出と、まともに向き合えるぐらいに。あいつの居ない日々を、まともに噛み締められるぐらいに。一寸だけ、強くなれたんだ」
ほんの一寸だけ、前に進めるようになれた。
――のび太は、笑顔で言う。
其れを黙って、静香は聞き続けた。
彼女は、少し笑って、
「……のび太さん」
彼女は、昔と変わらない笑顔で、
「――お帰りなさい」
のび太は、少し驚いた顔をし――そして、何時の間にか定着してしまった苦笑いの表情で、
「ただいま」
――運命は、漸く交わった。


――だが、ハッピーな落ちで終わる訳が無い。
「……所で、のび太さん」
笑顔のまま、問い掛けてくる静香。
その背後から、圧倒的な気配が立ち昇る。
――某お嬢様に匹敵するレベルだ。
「――奥さんと子供って、如何いう事?」
「いや、僕まだ結婚出来ないし。其れにですねあの……何か怖いですよ、静香ちゃん!?」
――其れからたっぷり三時間。
のび太はアスファルトの上で正座をさせられ、静香に切々とお説教されたのだった。
哀れなり。


「うう……約一年の間に何か静香ちゃん怖くなってるような……」
約一年も音沙汰無しだったお前が悪い。
もう既に暗くなった道を、とぼとぼと歩くのび太。
「――ルルとくするは見つからないし……如何しよう本当にもう。家に帰ってると良いけど……」
はぁ、と何度目か解らない溜息を大きく吐いて、家路に着くのび太。
見ると、明りが燈った我が家が見えてくる。
家の前には“blue fox”が止まっている。
――ふと、のび太は眉を顰めた。
「……? 何か、賑やかだな」
漏れてくる楽しそうな声を聞き、怪訝そうにのび太は首を傾げた。
ドアノブに手を掛けてみると、ドアは容易く開いた。
明るい玄関が、目に飛び込んでくる。
――土間には、靴が四足、きちんと並んでいた。
……あれ? 四足?
微妙に、嫌な予感。
靴を脱ぎ、家に上がる。
廊下を進み、声の中心――台所――へと向かう。
扉を開けると、其処には……

「お。お帰り、のび太。遅かったな」
テーブルで新聞を読んでいる父と、

「――あ! ぱぱだッ! お帰り、ぱぱ!」
自分の父の膝の上でニコニコとはしゃいでいる娘と、

「お帰りなさい、のびちゃん。こんなに遅くまで、何処行ってたの?」
鍋の火加減を見ている母と、

「……おそい、のび太」
味噌汁の味見をしている恋人が居た。

「――はい?」
呆然と、のび太は間の抜けたように、声を漏らした。


食事も終わり、一段落。
場所を茶の間に移した野比家は、食後の団欒を楽しむ。
ルルとくするは風呂へと行き、この場に居るのはのび太、母の玉子、父ののび助だ。
――話によると、迷子になったくするを助けたのが、偶然にも玉子だったという事。
その後ルルとも合流し、立ち話もなんだから、と帰宅。
アーカムでの話をしている内に、のび助も帰宅し――現在に至るという訳だ。
現在、のび太は両親と正座で対面中。
「――のび太。大体の話は、ルルさんから聞いた。色々と大変だったそうだな」
とは言っても、魔術だの何だのの話は一切していない。
ある探偵の下に弟子入りし、色々事件と関わっているという話だけである。
「――のびちゃん。ママ達に、何か言う事無い?」
じっと、真剣な目で見つめてくる玉子。
うッ、とのび太は呻き、汗をだらだらと流す。
「連絡を怠って、申し訳ありませんでした」
深々と、土下座で平謝り。
ふう、と両親は溜息を吐き、

「「――許さん(許しません)」」

――結局お説教は、明け方まで続いたそうな。
自業自得である。


――深夜。
学校裏の、小高い山の天辺。
一本杉と呼ばれる、一際高い樹の頂上に、ソイツは居た。
異様な風体の、男だった。
全身を上等な生地の燕尾服で包み、蝶ネクタイを首に締め、杖を持ち、目深にシルクハットを被った男。
いや、男か如何かも定かではない。
顔は何故か影に覆われ、容貌が読み取れない。
“彼”が其処に居るだけで、異様な邪気が漏れ出す。
空気が軋み、森は怯え、空が穢される。
闇が戸惑い、光が震える。
――まるで、全ての存在が“彼”を否定するかのように。
「――やれやれ。“這い寄る混沌”の策から早一年と数月……漸く、私(わたくし)が動き出せる準備が整いましたか」
声が漏れる度、周囲の気配が淀む。
紡がれる闇よりも深く、濃い暗黒。
発せられる光よりも眩く、強い純白。
――まるで出鱈目で、アンバランスで、矛盾だらけ。
何もおかしい所が在り過ぎて、其れでいて整っている。
故に――何もおかしい所は無い。
“彼”はそういう存在だ。
何処にでも居て、何処にも居ない。
時間も、距離も、空間も、次元さえも。
“彼”にとって全てが平等に意味が無く、平等に必要だ。
「――幸いにも……そう、“幸いにも”、彼を恨んでいる存在は未来、過去、別惑星、別世界と――多岐に亘って存在していますからねぇ。手駒には事欠かないでしょう」
“彼”は見る。
眼下の町を、人の住む場所を。
「美しい、醜い、綺麗、汚い、立派、無様……何と素晴らしく、そして見るに堪えない」
矛盾で出来た存在。
“彼”は持っている杖で自分の肩を叩き、
「――始まる。道化芝居が、狂想曲が、破滅が。へぼな監督は退場し、この私がメガホンを取った、素晴らしい一幕が上がります。――主役は、貴方ですよ……野比のび太」
一瞬、紅い瞳が暗闇に浮かび上がった。
しかし、次の瞬間には消え失せ、そして……
風の音を残し、“彼”も消えていた。
まるで、始めから存在していなかったかのように。
いや、“彼”は存在していなかったのだ。
何故なら……“彼”は此処に居て、居ないのだから。
其れが、“彼”だから……


あとがき。
微妙な所で幕。
今回はギャグ少なめで。
――では、感想返しと行きませう。


感想返信


>皇 翠輝さん
おめでとう&有難う御座います。
――日本編突入。
頑張りますです!


>東西南北さん。
確かに、其れよりはマシ……。兎も角初めまして。実は迷ったんですけど、結局シリアスもアリって事で往くを採用しました。コレからも宜しく!


>ミアフさん
殆どギャグです。
テリオンは一年前の事件でエセルと共に地球に戻っています。
現在はアーカム郊外の森林で、丸太小屋での隠居生活を満喫中。
気ままなスローライフを、エセルと共に楽しんでいるようです


>放浪の道化師さん
続けて感想有難う御座います。
――受けているようで何よりです。
買い物客は、ちゃんと一般人も居ます(時々変なのが居るけど)。
ちゃんと日本編でも事件がたんまりと。
先ず最初は日本という事で――(検閲されました)。
では。


>TAMさん
上記の述べた通りです。
ちなみに、殆ど商売する気ねえだろと言わんばかりの趣味の店です。
のび太は未だに魔銃を使いこなせていません。
とは言っても、能力は何とか使えているようですが、威力は九郎に及ばないみたいです。


>ガバメントさん
そう言われてみると……(汗)


>kntさん
蛇足説明ですが、エンネアは魔導書無しです(その気に為ればどっからか持ってくるだろうけど……)。
テリオンは店を持っていません(面倒らしい)。
故郷ではロリコン呼ばわりです。
次回も宜しく!


>Dさん
瑠璃は九郎にちょっと気がある程度、のび太は……便利に使える可愛い弟みたいな友達(複雑だ)。
ライカは、両者とも手の掛かる弟。
エンネアは九郎・のび太共に大好きな遊び相手。
一切報告してませんから、徹夜で現在説教喰らってます(勿論正座で)。
デフォです。その時の気分で背中に乗せたり抱き抱えたりしています。


>ジェミナスさん
勿論です(笑)。静香への想いはドラえもんが居なくなってからの三年で、のび太の中では一応決着がついています(ラブではなくライクという事に気付いた、等で)。
その後アーカムに渡り、のび太はルルイエ異本と出会い、本当の好きを知ります。
――両者とも、嫌いではない好き、幼馴染としての好き、という状態です。
魔銃に関しては、アルからルルに情報を転写して、情報を受け取り使用という形です。
故に、魔銃の使用は未だに九郎に優先権が在ります。
ちなみに、のび太の手には未だに正式な刻印がありません(仮免です)。


>シヴァやんさん
受けて幸いです。


>なまけものさん
ええ、初めて会った時、思わずぶっ飛ばしそうになりました(エンネアの登場で大事には至らず)。
ルルイエ異本はアルよりちょっと年が高めに見えるという設定です(炉理には変わらん)。
アーカムでは見慣れた光景ですから、ストーンとネスっも突っ込みませんでした。
胸ですが……アルとエセルより在るとだけ言っておきましょう(其れでも炉理だ)。
日本では恐らく師匠と同じ扱いでしょう(お気の毒)。


>ななしさん
どんぴしゃです。
時節としては、現在新学期が始まって一、二週間程度です。
コレからも宜しくです!


>662222さん
勿論ですとも。
ルルイエ異本の鬼械神として、オリジナルが出ます。
勿論、デモンベインも。(リベル・レギスは未定)。


――では、次回にて又お会いを。

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