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「幻想砕きの剣 8-8(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-03-22 22:52)
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アザリン・ドム・大河組 一日目・昼。


 ガタゴト。
 ガタゴト。
 ガタゴト。

 一定の周期で揺れる馬車は、何処と無く電車の揺れを連想させる。
 大河が地球に居た頃は、よく電車の中でよく眠りかけていたものだ。
 そして目的地に着く2分ほど前に、未亜の強烈な目覚ましを受けて覚醒した。
 物理的に痛い目覚ましから精神的にイタい目覚まし、果ては大河の煩悩を刺激して起こすなど、様々な手段で大河を起こしていた未亜は、その性格と性質を知り抜いていたと言えるだろう。
 …時々煩悩を刺激しすぎて、降りた後にトイレやホテルに引きずり込まれていたが。

 ともあれ、この振動は子守唄も同然である。
 前日の寝不足もあり、大河はすっかり寝入っていた。
 その対面にはドムが座り、同じく眠っている。
 しかしこちらは浅い眠りで、殺気を感じようものならすぐさま覚醒するだろう。

 更にカーテンで区切られた間の中には、アザリンが眠っているはずだ。
 あるいは起きて何かを考えているのかもしれないが、こちらからでは窺い知る事は出来ない。

 ホワイトカーパス州まではまだ時間がある。
 昨日の夕方に王宮に到着し、そして必要な書類と連絡を受け取って出発したフローリア学園からの増援…と言っていいのか…の傭兵科生徒達は、そろそろ到着している頃である。
 こう言っては何だが、凄まじく揉める可能性が大きい。
 傭兵科生徒達は、傭兵と言うのも名ばかりで、その実力の程は脇に退くとしても限りなく性根が甘い。
 甘いと言っても、それは本職の傭兵や軍人に比べたらの話で、一般人などよりかは遥かに心構えが出来ている。
 仕方ないと言えば仕方ないだろう。
 何せこれから戦場を知るルーキーである。
 学園で教えられるのは、あくまで教科書と少々の体験談…本当の授業はこれからなのだ。
 命がけの授業を授業と言っていいものかは別として…。

 が、敵はそんな事で情けをかけてくれはしない。
 そしてその敵と戦う兵士達も。
 教育する事ぐらいはしてくれるかもしれないが、あくまでついでだ。
 戦場では大抵の人物は自分の事で手一杯である。
 だからこそ、足を引っ張られないように性根を叩きなおすのだが…。
 その経過でまた揉める揉める。
 精神的な甘えを叩きなおすのに必要な時間=本人とその周囲を危険に晒す時間。
 当然速攻で鍛え上げようとするのだが、これがまた荒っぽい方法になる場合が多い。
 鍛えげるのは一人の教官ではなく周囲の環境と人間だから、言われる事が矛盾する場合だって当然ある。
 荒っぽいだけならまだしも、下卑た行為を混ぜられる場合もある。
 これにルーキーの傭兵や兵士が反発し、反発されたベテランや上層部が更に圧力を加える。
 そういった厄介な環境と戦場で生き残った者達が、極一部の“ベテラン”“凄腕”“玄人”などと呼ばれるようになるのだ。

 今頃は恐らく、それぞれが配属された部隊の隊長格辺りから高圧的な態度をとられ、反発心を押さえ込んでいる頃だろう。
 ドムはそれらの心情も考慮して、取れる戦術と戦略を吟味する。
 ルーキーを問答無用で危険度の高い役割に当てる訳には行かない。
 まずはベテランと組ませて、そこそこの危険度…と言っても、周囲に比べての話だが…の場所で戦わせる。
 そしてそのベテランの報告を聞いて、改めて部隊に振り分ける。
 いや、頻繁に異動をさせると混乱するので、その組み分けのまま役割だけを変えるべきか?

 夢現で考えるドムの脳裏には、頭が勝手に創り出した人事表や地形や“破滅”の軍が取るであろう行動の俯瞰図が浮かんでいた。
 根拠があるとはいえただの想像なのだから、普通ならデタラメな内容になるはずだ。
 しかしドムの頭の中に浮かぶ図は驚く程に精密で、事実に則している。
 これが名将と呼ばれる由縁なのであろうか。


 ドムが延々と考えを巡らせる間、大河はずっと眉間にシワを寄せていた。
 寝心地がよくないのか、微妙に魘されているように見える。

 …当真大河は夢を見る。
 昔の夢だ。
 まだネットワークの存在も知らず、ただケンカ早い小僧だった頃の夢。
 未亜を守ろうと、小さな拳にちっぽけな力を篭めて、肩肘を張っていた頃。
 …そして、大河がネットワークに入る事になった時の夢だ…。


「このっ、あっち行けっ!
 未亜に手を出すな!」


「うわっ、当真が来たぞ!
 逃げろ〜!」


「アレキサンダー、噛みつけ!」


「ヴヴヴヴ…」


 その頃の大河は、まだ何も知らない子供だった。
 幼い頃に両親を亡くし、その親戚に引き取られた。
 しかし、そこではただの厄介者扱いされる日々。
 亡くなった両親の遺産を目当てに大河と未亜を引き取った親戚は、それだけ手に入ればもう用済みとばかりに邪険に扱っていた。

 未亜が逆らえないと思っているのか、殴ろうとしたり、命令をしたり、時には一生モノの傷さえ面白半分でつけようとした、息子のシンジ。
 それを見ながらもどうでもいいと思っているのか、止めようともしない叔父…名前を大河は覚えてなかったが、ヒゲ面司令ではない…。
 そして多少は人並みの良心を持っていたのか、シンジを嗜める程度の叔母…やっぱり名前を覚えてないが、人造人間ではない…。

 叔母のお蔭で多少は助かっているものの、それがまたシンジには気に入らなかったらしい。
 攻撃はエスカレートし、未亜には反撃する術もなく、ただ大河に頼る事しか出来なかった。
 大河もその頃は深い考えを持っている訳でもなく、未亜を殴った人間を殴り返す程度の事しか出来ない。
 叔母は心を痛めているようだったが、それ以上の事はしてくれなかった。
 後日になって、ある意味では“一般的な人間”だったのかもしれないと大河は思う。


 大河が小学校4年生になったある日の事だ。
 その日はいつも通りに…それがまた腹立たしい事だが…シンジとその取り巻きが未亜にちょっかいを出し、大河がそれを見つけた時に全ては始まった。

 未亜を守る為に何度も人を殴り、複数の相手を叩きのめす事もある大河の強さは、同学年では群を抜いていた。
 それだけに問題児として目をつけられ、喧嘩をする度に「暴力はいけない、話し合いでどうにかしろ」と言われて憮然としたものだ。
 話し合いでどうにかなる相手か、暴力がいけないというのなら未亜を泣かせるシンジ達からどうにかしろ。
 最初は大河もそう言って反論していたのだが、同じ事しか言わない教師達に大河は愛想を尽かせた。
 中には何かしらの行動を見せてくれた教師も居たかもしれないが、当時の大河には全く見えていない。

 未亜の味方は自分だけで、自分の味方は未亜だけ。

 そう思っていた。
 だから誰の言葉にも耳を貸さず、全ては自分でどうにかするしか無いのだと。
 それが思い上がりだと、自分だけでどうにか出来る事など何も無かったのだと。
 気付かされる。


「このっ、邪魔だッ!」


「キャイン!」


 自分に噛み付いていた犬…アレキサンダーとやらを、思い切り振り回して地面に叩きつける大河。
 腕に喰い込んでいた牙は、大河の肌に大きな傷跡を残して抜けて行った。
 荒い息をつきながら、大河は犬をけしかけたシンジ達を睨みつける。

 アレキサンダーの飼い主はその視線に怯んだが、その怯えを隠すようにアレキサンダーに怒鳴りつける。


「なにやってるんだよ!
 さっさとソイツに噛みつけよ!」


「……」


 大河は何も言わず、拳を握り締めた。
 自分の後ろで泣いている未亜の声が、大河の怒りに油を注ぐ。

 まだ喚いている飼い主に向かって、大河は思い切り殴りかかった。
 ゴツッ、という鈍い音がして飼い主が殴り倒される。
 牙で穿たれた傷が痛みを伝えてくるが、大河は全く気にしなかった。


「はぁ…はぁ……はぁ……。
 ……未亜…いつもの所に行ってろ…」


「ひっく……ひぐっ……うん…」


 泣きながら、大河の言葉に従おうと立ち上がる未亜。
 何かあった時に、2人は大抵秘密の場所に行く。
 誰にも知らせないその場所は、2人が安らげる数少ない空間だった。

 よろよろと立ち上がり、秘密の場所に向けて歩き出す未亜。
 未亜が行ったのを確認して、大河は足を振り上げた。


ゴスッ!


「ギャッ!」


 四年生が出したのだとは思えない、鈍い音が響く。
 大河は振り上げた足を、犬の飼い主に向けて思い切り叩きつけたのだ。
 踏みつけとは、素人がやるなら簡単かつ攻撃力の高い打撃である。
 その分危険も多いが、今の大河には関係ない。

 さらに3発踏みつけて、駄目押しに顔面を蹴る。
 そして今度はシンジ達に向き直った。

 ヒッ、と悲鳴をあげる。
 今まで何度も大河に睨みつけられた事はあったが、今回のは格別である。
 大河本人の怒りもそうだが、傷から流れ出た血がとてつもなく不吉なイメージを刻み付ける。

 だが、大河が手加減する理由など何処にもありはしない。
 怒りに任せ、大河は拳を振り上げた。


 痛む腕と手の甲に毒づきながら、大河は秘密の場所を目指す。
 未亜はそこに居るはずだ。
 シンジ達は、泣いて謝っても許されずに延々と殴られ続けた。
 今はボロボロになって、路地裏に放り捨てられている。
 例え正当防衛と証したとしても、これは明らかに過剰防衛である。
 現に大河は殺意すら持っていた。

 子供の大河はそれが何を引き起こすのか全く考えもしない。
 そもそも、痛みと怒りでまともな思考が全く出来なかった。

ドン


「いてっ!?」


 だから、狭くも無い混んでもいない道で、人にぶつかったりする。
 大河が顔を上げると、大きな人影が見えた。
 逆光になっていて顔は見えないが、相当に鍛えこんでいるのが大河にもよく解る。


「おっと、すまねぇな坊主。
 でも、ちゃんと前見て歩けよ?
 ん?」


「……ごめんなさい」


 いくら大河でも、この程度の分別は持っている。
 ぶつかったのは明らかに大河の不注意だし、大河は気付かなかったが血が服に付いてしまった。
 ぶつかった男はそれに気がついた。
 しかし、服が汚れた事には何も言わない。
 高級そうな服だったが、頓着しない性格らしい。
 それどころか、大河の怪我を見て眉を顰めた。


「おいおい、怪我してるんならちゃんと治療しろよ。
 病院行くか、小僧?」


「…いえ、大丈夫です。
 用事があるんで」


 普段は教師にも敬語や丁寧語を使わない大河だったが、この人物を相手にすると何故かこのような口調になってしまう。
 それは彼の放つオーラを敏感に感じ取ったからかもしれないし、または久しぶりに会った“まともな”…つまり服や体面よりも大河の怪我を心配するような…人物だったからかもしれない。

 大河は遠慮してさっさと未亜の所に行きたかったが、男は納得しなかった。


「大丈夫ったって、お前は医者か?
 それともサイボーグか?
 これ、結構深い傷じゃねぇか。
 とんだ欠陥品のサイボーグで、藪医者なこって…」


「大丈夫だって…」


「タァコ、大丈夫じゃねぇ事ぐらい自分でも解ってんだろが。
 用事があるってんなら仕方ねぇが、せめて包帯ぐらい巻いてけや。
 腕に付いてる噛み跡だけじゃねぇ、手の甲だって骨にヒビくらい入ってんぞ。
 それとも何か、お前さんの用事ってのは包帯巻く時間も勿体無いくらいに大事な事なのか?
 俺ぁ慣れてるから歩きながらでも包帯巻けるし、ものの一分も要らねぇぜ。
 大体、そんな傷で用事とやらを果たしに行って大丈夫なんか?
 見たヤツ失神しても知らねーぞ」


 大河はイライラしていた心が、不思議と静まりかけているのを感じた。
 目の前の男は、肩から提げたポーチに手を突っ込んで何かを探している。
 恐らく包帯だろう。

 大河は少し考える。
 今まで気にした事も無かったし、そもそもこれくらいの血が出る怪我はした事が無かったが…。
 確かに一理ある。
 こんな傷を晒したまま未亜に会いに行ったら、未亜はどんな顔をするだろうか。
 浮かぶのは、大河の大嫌いな泣き顔だけ。


「…解りました」


「おう、ガキはそれでいい。
 ホレ、手ぇ出せ」


 腕を動かすとまた痛んだが、気力で大河は無視する。
 何故かこの人物には、自分が痛みや苦しみで顔を歪める所など見せたくない。
 しかし男は大河の内心などお見通しなのか、フン、とどこか嬉しそうに鼻で笑う。
 そしてやたらと手際よく包帯を巻き始めた。


「ったく…何を殴りやがったんだか…。
 こりゃアレだな、人間の頭蓋骨だな。
 あとこの噛み跡からして、犬にでも襲われたか?」


「……」


「ちぇっ、だんまりかい。
 人生のコツは、どれだけトークを自分のペースに持って行けるかだぜ。
 黙ったまんまじゃ誰にも声は届かねぇ。
 結局相手のペースや思惑に引き摺りこまれちまう。
 明るく喋れとは言わねぇからよ、ちゃーんと要所要所で声高らかに叫びな。
 礼でも怒りでも哀しみでも、愛もまたしかりだ。
 衆人環視の中で愛を叫んだら、恥ずかしいからヤメロって張り飛ばされたけどな。
 個人的には世界の中心で叫びたかったんだが」


「……プッ」


 小気味良い言葉の嵐に、大河は何時の間にか引き込まれていた。
 何時の間にか怒りは止み、何処と無く愉快な気持ちが広がっている。
 男は満足げに頷いた。


「そうそう、怒りや憎悪は、必要な分だけ最低限にしときな。
 余計な重荷は捨てられるだけ捨てて、そんでここぞって時にだけ爆発させるんだ。
 ああ、溜め込みすぎたら胃が痛くなるから注意しな。
 特に女性には溜め込ませたらいかん、健康にもよくないが俺達にもよくない。
 だって死にそうになるしな」


「…オンナは怖いぜ、ってヤツですか」


「ほう、ちゃんと軽口利けるじゃねーか。
 よしよし、誰を待たせてるのか知らねーが、大事な人はピリピリした心で出迎えるもんじゃない。
 いつでもジョークとマナーを忘れずに、だ。
 俺はマナーを無視ってるけどな」


「変わりに俺ルールを守ってるんでしょ」


 男は大きく声をあげて笑った。
 包帯を巻き終わった大河の肩をポンポンと叩き、立ち上がる。


「そら、これで終わりだ。
 手間取らせちまったな」


「いえ、こっちこそありがとうございました」


「おう、感謝してるならこれから人生を愉快に変えてくれ。
 人生を愉しむ人が多いと、自然と世界も愉しく変るもんだ。
 苦しい事哀しい事辛い事、全部乗り越えて受け止めて昇華してこそ人生は愉しくなれるのさ」


 大河にはまだよく解らなかったが、何か大切な事だというのは理解できた。
 大河がペコリと頭を下げると、男はその頭をグシャグシャ掻き回して踵を反した。
 軽く手を振って去っていく。

 その背中を見て、大河は『ああいうのが父親なのか…いや、兄貴分? カタカナ表示はイカンな』などと考えていた。
 叩かれた肩と頭に、暖かい温もりが残っているような気がする。


「…ああいう人が居るんなら、人生って以外と捨てたモノじゃないのかもね」


 また会えるかな、と考えて大河は我に帰った。
 早く未亜の所に行かねば。


 路地裏を走る大河。
 秘密の場所に行くには、路地裏を通らなければならない。
 行こうと思えば通らなくても行けるのだが、この道が一番近いし、表通りを使って誰かに発見され、秘密の場所を知られるのが怖かったのだ。
 提案した時、未亜も嬉しそうに頷いた。
 大河との秘密が出来るのが嬉しかったのだろう。

 だが、それはとても危険な事だとは2人は気付いて居なかった。
 誰も居ない、つまり誰にも助けを求められない。
 たとえ、誰かに襲われても。


「……? ………!!」


 路地裏を走っていた大河は、声を聞いて足を止めた。
 未亜の鳴き声が聞こえたような気がしたのだ。
 耳を澄まそうとしたが、その必要は無かった。
 声は大きくなって来ている。

 未亜が襲われている!?

 そう感じた時、大河の頭はホワイトアウトした。
 声がする方向に向けて、がむしゃらに駆け出す。


「未亜! 未亜、どこだ! 未亜!」


 声がどんどん大きくなる。
 曲がり角を曲がった瞬間に、その光景が飛び込んできた。

 泣き喚く未亜。
 その襟首を掴み、そしてナイフを振り上げている見知らぬ男。


「貴様アアアァァァァぁぁぁぁぁ!!!」


 ギョっとして男が振り向く。
 大河は何時の間にか持っていた…その辺に落ちていた…鉄パイプを振り上げる。
 そして、男が何かの行動に出る前に一気に振り下ろした。

 ゴツッ、という鉄パイプ越しに伝わってくる嫌な感触。
 だが、大河は全く手を止めなかった。
 激情のままに、パイプを振り上げ、叩きつける。
 相手が動いているかとか、まだナイフを持っているかとか、未亜が見ている事など大河の頭から完全に吹き飛んでいた。



 はぁ
     はぁ
  はぁ    はぁ
           はぁ


 何かが大河の耳に響く。
 それが乱れた自分の息だと気付くのに暫く時間がかかった。

 気がついた時には、大河の足元は血に塗れていた。
 手の中には、完全に折れた鉄パイプ。
 何度か外して壁や地面を打ちつけたのだと思うが、どれだけ殴ればこうなるのか。


「…落ち着いたか」


 声が聞こえて、大河は自分の腕が誰かに掴まれているのにようやく気がついた。
 気力が抜け落ちた目で振り返ると、そこには見覚えのある男が立っている。


「…だ…れ……」


 思い出せない。 
 男は一つ舌打ちをして、大河の手から鉄パイプを取り上げた。
 そして大河を放り出す。
 抵抗する気力も無く、フラフラと下がって尻餅をつく。

 男は血塗れになっている男を軽く見渡し、今度は携帯電話を取り出した。


「もしもし?
 大怪我して死にそうになってるのが居るから、救急車を回してください。
 えー、場所は……」


 男が何をしているのかすら理解できず、大河は光が消えた目で呆然としていた。
 その焦点が、ふと一点に集中する。
 最初はそれが何だか解らなかった。
 黒い髪。
 見覚えのある顔。
 暫くすると、ようやく思考が纏まって来た。

 未亜。
 未亜が気を失って倒れている。


「未「寝てろ」…!?」


 反射的に駆け寄ろうとした大河の首筋に、軽い衝撃が走る。
 次の瞬間、大河の意識は暗転した。


「…知らない天井だ」


 子供心にお約束を忘れない大河に乾杯。
 気がついた時、大河は横になっていた。
 ここが何処なのか、自分はなぜ横たわっていたのか。
 全く思い出せない。

 ゆっくり体を起こそうとする。


「痛っ!」


 しかし急に腕に鋭い痛みが走った。
 反射的に腕を抑えると、知らない感触。
 恐る恐る目を向けると、腕に真っ白い布が巻いてある。
 それが包帯だと気付くのに、たっぷり十秒はかかった。

 ツンとした匂いが鼻を付く。
 嗅ぎなれない匂いだったが、すぐに何の匂いか解った。
 消毒液である。


「ここは…病院……?」


 周囲を見回すと、白い壁にかかっている絵画や花瓶が目に入った。
 痛む腕に気をつけながら起き上がる。


「ええ…と…確かシンジ達を半殺しにして、それから…何時もの場所に行こうとして…ああ、知らないおっさんに世話になって…」


 ゆっくりと自分がここに居る経緯を思い出そうとする大河。
 しかし頭に靄がかかり、上手く頭が回らない。
 その時。


「ああああああああああああああAaaaaaaaaaa!!!!!!!!」


 病院だというのに、響き渡る絶叫!
 大河の脳が一瞬で叩き起こされた。
 驚いただけでなく、その声に聞き覚えがあったからだ。


「未亜!?」


 声には明らかな怯え、恐怖、錯乱が読み取れた。
 そうと気付けば、何故ここに居るかとか何がどうなっているのかとか、そんな事を気にするような大河ではない。
 体の痛みを吹き飛ばし、ふらつく足に活を入れて走り出す。
 声が聞こえてきた方向に、カンに任せて突き進む。


「ああああ!いやあああぁぁ! ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」


 声は益々強くなる。
 そして何かが暴れる音も。

 3つ目の角を曲がった時、開かれた扉から壷が放り出され、壁にぶつかって割れるのが見えた。
 未亜はそこだ、と確信する。
 足を更に速めて、開いている扉に突撃した。
 未亜の声は更に激しくなり、もはや人間離れした迫力すら感じられた。
 焦燥のままに扉の中に駆け込む大河。


「未亜「いやああああああああああ!!!!!」…!?」


 いきなり浴びせられた絶叫に怯む大河。
 一瞬立ちすくんだ大河を、医者らしき老人が下がらせようとする。


「! 君っ、今入ってきちゃ駄目じゃ!
 彼女は錯乱状態にある、人に触れる事は…!」


「だ、だったら俺が未亜を鎮め「駄目なんだ! くっ、ワシはこの少年を落ち着かせてくる! ここは頼む!」


「はい!」


 看護婦にその場を任せ、医者は大河を部屋の外に引きずり出した。
 老人と言えども、大人と子供の腕力である。
 いくら大河と言えども勝てはしない。


「離せ!
 離せ、未亜が、未亜が!」


「落ち着きたまえ!
 今ワシや君が彼女に触れたとしても、事態は悪化しかしないのだ!
 いいかね、彼女は対人恐怖症に陥っているのだ!
 これ以上錯乱させれば、それこそ最悪の事態になりかねないぞ!?」


「そっ、そんな…!?
 み、未亜!」


「ええい、落ち着けと言っておるのに!」


ズムッ!


「ごふぅ!?」


 物凄く鈍い音がして、大河の鳩尾に衝撃が走る。
 意に反して体から力が抜け、前向きに倒れこんだ。

 大河の鳩尾にイイ一撃をくれた医者は一瞬キョトンとして、突き出された自分の拳を見て冷や汗を垂らした。


「し、しもうた…先日に白井院長と共にプロレス体験に行ったから、血が騒いで…。
 ……まぁいい、これで少しは落ち着いたじゃろう。
 ちょっと危険な角度で入っていた気もするが、所詮は素人の攻撃じゃ。
 急所も微妙に外れていたしな」


 実際は素人の攻撃だから危険とも言えるのだが…これでいいのか、医学界。

 床に倒れて咳き込んでいる大河に向けて、医者は言い聞かせるように説明する。
 自分が怪我人に追撃したのは忘却の彼方だ。


「いいかね、先程も述べたように、彼女は対人恐怖症によって錯乱状態にある。
 一体どんな体験をしたのか知らないが、彼女は男に対して非常に脅えているのだ。
 現にワシが部屋に入った時、そして君が入った時に彼女の暴れっぷりは明らかに1ランク上昇した。
 彼女を落ち着かせようというのなら、今は離れておく事だ」


「っ…な、納得…」


「君が納得しようがすまいが関係ない。
 君がどう考えているのであれ、彼女は君に脅えている。
 それとも何かね、君が納得しなければ全ての事実は揉み消されると思っているのかね?
 そんな事はあるまい。
 ……暴れる音が止んだな。
 ヤワラ君が彼女を締め落したか」


「し、締め…!?」


 物騒な言葉に大河はビクリと震える。
 しかし医者は何の問題もないとばかりに頷いた。


「うむ、先程の看護婦は通称ヤワラちゃんと言って、平たく言えば柔道の名人じゃ。
 かつては全国で名を残したそうだが、詳しい事は知らん。
 このままあの少女を放置すれば、錯乱がエスカレートした挙句に自傷行為に走りかねん。
 最悪の事態になる前に、彼女を気絶させて拘束する。
 …よもや否とは言うまいね!?
 これは患者を保護するための、治療の一環だと思いたまえ!
 君個人の感情で、彼女を傷つける事は許されん!」


「!!!」


 裂帛の気迫を込めた医者の言葉に、大河は打ちのめされた。
 確かに。
 大河は医者の言葉に反発している。
 未亜を締め落す?
 拘束する?
 そして近寄るな?
 何を抜かす、未亜の味方は自分1人なのだ。

 大河はそう思っている自分に気付かされ、そしてその無力さを目の前に叩きつけられた。
 今の大河に何が出来る?
 目の前の医者のように、まともな状況判断も出来ない。
 治療のための知識も技術も無い。
 未亜を拘束しないための代案も、錯乱を沈める術すら持ってない。
 だというのに、この場に対応できる人物からの言葉を拒絶してどうするのか。
 何をしているのだ、自分は。

 大河が暴れなくなったのを確認した医者は、落ち着いた口調で大河に話し掛けた。


「君は彼女の友人か兄君かね?
 辛いだろうが、何があったのか教えて欲しい。
 そうでなければ、彼女に対する扱いを決める事すら出来ない…」


「………はい」


 大河は徐々に思い出してきた記憶を医者に話した。
 途中で色々と眉を顰めるシーンがあったものの、医者は最後まで黙って聞いている。


「…それから……そう、誰かが…俺を止めたんです」


「ふむ…恐らくここに連絡をしてきた壮年だろうな。
 君が殺しかけた男の応急手当も施してあったし…。
 感謝しておくとよい、相手が犯罪者とはいえ君は殺人犯になる所だったのだぞ」


「……!
 …あ、あんなヤツを殺したって…」


「君の妹君が泣くな。
 無我夢中の正当防衛だったとはいえ、殺人者の妹というレッテルを張られてしまう。
 そのくらいは解っているのだろう?
 無意味な強がりは止したまえ」


 大河の顔は蒼白になっていた。
 体がガタガタ震えるのを意志の力で押し込もうとするが、上手く行かない。

 あらためて手の中に蘇える、鉄を人体に打ち付ける感触。
 骨の砕ける音、返り血の熱さ。
 パニックに陥りそうになった大河を見て、医者は素早く意識を逸らさせる。


「ところで、あの壮年は君の何かね?
 てっきり従兄弟か何かかと思っていたのだが」


「え……。
 ……道でぶつかって…怪我の手当てをしてくれた人です」


「…それだけかね?」


「…はい」


 ふむ、と腕を組む医者。
 大河はあの男の姿を思い浮かべる。
 人好きのする笑顔、自信と力が漲る体躯、そして圧倒的な存在感。
 その姿から感じる強大な力とは裏腹に、大河は全く恐怖を感じなかった。
 バイオレンスな現場に直面しながらも適切な行動を取った事からして、肝も据わっているのだろう。


(……俺みたいなガキとは…ランクが違う…)


 あれが本当の大人というものなのだ、と大河は思った。
 そしてハッとなった。

 本当の大人が居るのなら、見かけだけの大人も居る。
 大河と未亜が世話になっている…という表現を大河は認めないが…シンジの親なぞ、その典型だ。
 よくよく思い出してみると、今日はシンジに洒落にならない怪我をさせた。
 未亜を泣かせ、犬をけしかけ、以前は面白半分に未亜の体に傷を刻み込もうとした事を考えると、大河としてはまだ殴り足りない。
 しかし、それでも居候先の息子なのだ。
 あの自己中心的な家族の事だ、どんな報復を受けるか解らない。
 そして大河のようなガキには、それに対抗する力など無いのだ。
 今更ながらにそれを実感する。


「…あの…保護者に連絡とかは…」


「ああ、あの壮年がやっておくと言っていた。
 しかし、道で会っただけなのだろう?
 君の住所を知っているとは思えん…どういうつもりなのだろうな?
 どれ、ワシが連絡を…」


「い、いえ!
 手当てをしてもらった時に住所を教えたんです!
 道に迷っていたらしくて、道筋の説明をする途中にちょっと…。
 だから連絡しなくても大丈夫です!」


「……まぁよかろう」


 医者は渋々腰を下ろした。
 大河は大きく息を吐く。

 実際の所、医者は大河のウソなどお見通しだった。
 ただ、大河の体に巻かれている包帯の下の傷跡を見ると、厄介な事情があるのは推察できる。
 特に両手など、誰かを殴り飛ばした跡で一杯だ。
 ひょっとしたら虐待を受けているのか、と思っていたのである。
 だとしたら連絡していいものか?
 しかし連絡をしないと、治療費を貰う事も出来ないし彼らの扱いにも困る。
 大河の身の上がどうあれ、引き取ったりするような離れ業は出来ないのだ。
 しかし、このまま突き出すのも気が引ける。

 まぁ、保護者への対応はあの壮年が上手くやるだろう。
 長年医者をやってきたが、あれほどの器を感じさせる漢は見た事がない。

 それでは彼らをどうしたものかと腕を組んだ時、扉が開かれた。
 そちらに目を向けると、看護婦が顔を出している。


「先生、ヤワラちゃんから連絡です。
 あの子はちゃんと眠らせた、だそうですよ。
 例によって傷一つなく、一瞬で締め落したから苦しんでも居ないそうです。
 早めに処置をお願いします」


「おおそうか、相変わらず手際がいいな。
 当真君、付いて来たまえ。
 君の知らない所で妹君に何かされるのは気分が悪いだろう?
 知っていた所で気分は悪いだろうが…立ち会ってくれ。
 妹君を起こさないようにな?」


 何気に病院には相応しくない物騒な会話が交わされていたような気がするが、大河にはそれを気に止める余裕はない。
 1も2もなく頷いて、大河は医者の後に続いた。


 病室はこれ以上無いほどに散らかっていた。
 その中心で、未亜が魘されて眠っている。
 さらにその隣に1人の看護婦が居る。
 彼女がヤワラちゃんなのだろう。


「おうおう、随分と暴れたものじゃなぁ…。
 それだけ恐ろしかったという事か…」


「…………すみません……」


「なぁに、戦後に病院を開いて間もない頃に、仲の悪いヤクザが喧嘩した時に比べれば可愛いものじゃよ。
 あの時は大変だったなぁ…友人から貰った超大型注射器の『セラヴィ』にモルヒネを詰め込んで、採取される昆虫みたくケツから叩き込んだっけか…。
 途中から2人は何故かケンカを止めてワシに殴りかかってきおったが。
 確かあの後セラヴィは…そう、友人の友人の友人が欲しがっているというのでプレゼントしたんじゃったな。
 アレは持ち主を選ぶからのぅ……。
 今はナントカ学園の保険医が持っているはずじゃな」


「はぁ…」


 …賢明な読者の皆様には、誰が持っているか言われずとも即解るだろう。
 反応に困る大河を見て、医者は軽く笑った。


「気にせずとも、今となってはこの年寄りが道楽で開いておる病院じゃ。
 弁償しろなぞとは言わぬよ…そうでなければ、保険証も持ってないあの壮年にツケなぞ了承せんわ。
 おっと、心配せずとも免許は持っておるぞ」


 それだけ言って、医者は眠っている未亜を観察する。
 未亜の寝顔を他人に見られるのに抵抗を感じた大河だが、流石にもう騒ぎ出すような事はしない。
 何だかんだと言っても学習能力は高いのだ。

 医者は暫く何かを考えていたようだったが、それを振り払うかのように頭を揺らした。


「とにもかくにも、嬢ちゃんが暴れられんように麻酔を打ち込むぞ」


「…麻酔ってそんなに長い時間効くんですか?」


「この麻酔はな。
 ちゃんと臨床実験も済ませてある確かな代物じゃい。
 我が心の師・紅尉清明様、久々に使わせていただきますぞ…」


「なんか物凄く不安になってきました」


 今すぐこの医者を埋めようか、などと大河が考えていると横からヤワラちゃんが話しかけてきた。


「大丈夫よ、私達も同じだから。
 成分も効き目も確かで副作用も無いし、何度も使う所を見てるけどいつもこんなキモチになるのよね。
 今までの患者さんも同じ事を言ってたし、なんてゆーか一瞬の暗示みたいなものよ」


「そんなモノすかねぇ…」


 しかし医者本人だけでなく看護婦も保証しているのだから、効果は確かなのだろう。
 不安を強引に押し込めて納得する事にした。
 不安なのと同時に、同じくらいに効果がある事を確信させるオーラが放たれていたから。

 ブスっとな、などと言いつつ未亜に麻酔を打ち込む医者。
 事前にアルコールで消毒などはしていたものの、そのあっさりした手際にどーも不安が拭いきれない。
 どっか別の場所に刺さってんじゃないのかと思う大河である。
 …それ以前に、注射嫌いの大河はあまり見たくなかったのだが。


「これでよし。
 当分の間、暴れる事はできんじゃろう。
 彼女を他の病室に移すぞい。
 誰か居たら脅えるじゃろうから、普段は使っていない部屋じゃ。
 頼んだぞ」


「「はーい」」


 ヤワラちゃんともう1人の看護婦が、テキパキと未亜を運んでいく。
 …その担架は何処から出した?

 大河がそれを落ち着き無く見守っていると、医者はふむ、と鼻息を漏らした。


「さて大河君や、君の性格からして妹君を置いて帰る事は出来まい。
 対人恐怖症とはいえ、妹君も君が居てくれた方が落ち着くかもしれん。
 ここは他の看護婦が片付けておいてくれるから、妹君の様子を見ておいで」


「…! あ、ありがとうございます!」


「ほっほっほ、何の何の」


 医者に頭を下げて、大河は小走りで未亜達の後をついて行った。
 …残された医者は、少々難しい顔で考え込む。


「…思い過ごしだといいのじゃがな…」


 それだけ呟いて、医者は自分の仕事に戻った。


「それじゃ、ここに居るのはいいけど中には入らないようにね?
 人の気配を感じると、それだけで恐慌を起こす可能性があるから」


「はい…お手数かけます」


「いいのよぅ、これもお仕事だしね」


 ヤワラちゃんは大河の頭を軽く撫でる。
 そのすぐ側の扉の中では、未亜が1人で眠っているはずだ。

 中にはポツンとベッドだけが置いてあり、その上で未亜は眠っている。
 仮に起き出したとしても、未亜は動く事は出来まい。
 医者が使った薬が効いているだろうから。


「それじゃ、私達は仕事があるからもう行くけど…。
 そうね、10分毎にこっそり部屋の中を覗いてみて。
 もし目を覚ましていたら、声をかける前に私達に知らせてちょうだい」


「声をかけずに…ですか?」


「ええ、さっきも言ったように錯乱されるかもしれないもの。
 もしそうなった時には、相応の対処をしなくちゃいけないでしょ」


「…そう、ですね…」


「じゃあね。
 私達は受付に居るから」


 2人の看護婦は去って行った。
 その後姿に軽く頭を下げ、大河は壁に背をつけて座り込む。

 …脳裏に浮かぶのは、ナイフを振り上げる見知らぬ男と恐怖に目を見開いた未亜。


(……まもれなかった)


(……………まもれなかった)


(……………………まもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったまもれなかったなにもできなかった)


 大河の体から、多少なりとも放たれていた覇気が抜け落ちる。
 虚無感と無力感が大河の全身を支配し、忘れかけていた腕の痛みがぶり返してくる。
 せめて痛みなんぞのために泣きはすまいと、瞼をぎゅっと閉じる。
 だが大河の意思に関係なく、涙は流れ出ていた。


(………おれは)


(……………おれはなにをやってるんだ)


 誰も未亜に手を出させないと誓ったのに。
 未亜を傷つけさせないと誓ったのに。
 未亜が襲われている時に、自分は何をしていた?
 何も知らずに、悪態をつきながらノロノロと道を歩いていただけじゃないか。

 大河は初めて、この世界は無情だと感じた。
 誓った所で、世界はそれを歯牙にもかけずに回っていくのだと。
 自分の力なぞ、そんなちっぽけなモノだったのだと。

 抱え込んだ膝に顔を埋めて、無力感を抑え込む様に大河は唇を噛み締めた。


 それからどれくらい経っただろうか。
 コツコツと誰かの足音が響く。
 大河はそれに反応して、ようやく顔を上げた。


「大河君、妹君の様子はどうだね?」


「…………」


 一拍置いて、彼が自分達を治療してくれた医者だという事を思い出す。
 無力感や虚無感に支配された頭は、まともに動いてくれない。
 医者はその顔を見て眉を顰めた。


「ふむ、まともに心と体が機能しておらんようじゃな。
 君にとって、妹君は世界の全てに等しかったのか…。
 どれ、そこを退いてくれい。
 妹君の容態を見ねばならんのでな」


「…………」


 ノロノロと体を動かし、扉の前から体を退かす。
 頭もまともに動かないのに、未亜の部屋に誰も入らないように守っていたのは流石と言うべきか。
 壁にもたれて立ち上がるが、どうにも現実感というモノが欠けている。
 現実逃避なのだろうか?

 医者は大河の様子が気になったが、まずは未亜が先だ。
 しかし、いきなり自分が入るとまたパニックを起こすかもしれない。
 対人恐怖症の上、男性恐怖症の可能性もある。
 だとすると、まず接触するのは女性がいいだろう。
 老人とはいえ男性と若い女性、どちらが安心感を感じるかはやはり後者だろう。


「それじゃヤワラちゃん、頼んだぞ」


「…締め落されたのを覚えてて、もっと事態が悪化したりしませんよね?」


「そん時ゃ速やかに落せ」


 …大丈夫だろうかこの病院。
 ヤワラちゃんはそ〜っと扉を開けて、静かに中に入り込む。


「…未亜ちゃ〜ん、起きてる〜?」


 扉を閉め、刺激しないように極力静かな声で、気配も消して未亜に近付いていく。

 大河は外に居たので、中で何があったのかは知らない。
 まるで出産を待つ夫のように、ウロウロウロウロ歩き回る。


 暫く待っていたが、中から暴れだす音は聞こえなかった。
 大河はそれに安堵していたが、医者はまだ苦々しげな顔をしていた。


(……まだ目を覚まさんのか…それとも覚ましているのか?
 前者ならば、まぁ…問題ない。
 精神的なショックによるものじゃが、昏睡を続けるような事はあるまい…。
 念のために脳波もチェックしておいたが、特に異常は無かった。

 最悪なのは、目を覚ましているが……)


 チラリと大河を見る。
 もしそうなった時、この少年はショックに耐えられるだろうか。
 ヒトの心と体の脆さが身に染みて理解できている医者は、暗澹とした思いを抑えられなかった。


 暫くすると、ヤワラちゃんが部屋から出てきた。
 やはり静かに扉を閉める。

 その瞬間、大河がヤワラちゃんに詰め寄った。


「み、未亜は!?」


「落ち着きなさい」


「ごふっ!?」


「あら?
 …いけない、手加減を間違っちゃったわ」


 …バイオレンスな病院である。
 大河はゲホゲホ咳き込みながら、ヤワラちゃんの顔を見上げる。
 ゴメンねと言いながら頭を撫で、ヤワラちゃんは医者に向き直った。


「意識はちゃんと戻っていました。
 自分の体が動かない事に恐怖していたようですが、それに関する事は書置きに書いておきましたので問題ありません。
 人に触れるのにかなり臆病になっていますが、極力刺激を避ければ…そう、日常生活では在りえない程に無風状態を保てれば…」


「つまり、日常生活はまずムリという事かな…」


 遠回しな言葉を使っていたヤワラちゃんと違い、ダイレクトに言葉に出す医者。
 ちなみに動けない未亜がどうやって書置きを読んだかと言うと、未亜の正面…視線の先の天井に大きな字で書いた書置きを貼り付けていたのである。
 自分の体が動かないのは異常のせいではなく、医者が薬を使ったからだと書かれていた。
 目を覚まして体が動かない事に気付き、パニックに陥りかけた未亜はその書置きが目に入って辛うじて平静を保つ事が出来た。

 さてどうしたものか、と医者は考え込む。
 ヤワラちゃんは接触しても大丈夫だった。
 彼女は女性である。
 そして彼女を襲ったのは男性だった。
 ヤワラちゃんと接触しても問題なかったのは、彼女が女性だったからか、或いは対人恐怖症はそこまで酷くなってなかったからなのか。
 どちらなのかを見極める必要がある。
 となると、必然的に実験をしない訳にはいかなくなって来る。
 少々良心が痛むが、これは避けて通れない道なのだ。


(頼むから、最悪の予測だけは外れておってくれ…)


 まだ咳き込んでいる大河をヤワラちゃんに押し付けて、医者は微妙に警戒しながら扉をくぐる。
 大河はヤワラちゃんの暖かい感触に気付く余裕も無く、自分も医者を追って扉の内部に入ろうとしていた。
 しかしそれはヤワラちゃんに止められる。


「こら、まだ入ったら駄目よ。
 これも検査なんだから、無茶しないの。
 貴方の行動で、話がムチャクチャに拗れる事だってあるのよ。
 お兄ちゃんなんでしょう?
 辛くても我慢しなさい」


「……!」


 また大河の胸に無力感が込上げて来る。
 それを処理する方法も解らず、大河は全身から力を抜いた。
 この数時間で自分の無力さをイヤという程…実際にはまだ甘い程だったが、人生経験の少ない大河にはそう思えた…見せ付けられた大河は、言い返すことも出来ない。
 せめて声だけでも聞こえないか、と壁に張り付く姿を見て、ヤワラちゃんは「ストーカーみたい…」と思って慌てて打ち消した。

 幸いと言うべきか、医者が入って行った後も特に叫び声の類は聞こえない。


「…全身が動かないんだったら、声は出るんですか?」


「出るはずよ。
 原理はサッパリ不明だけど…」


 少々不安げなヤワラちゃんだったが、実際に使用した例を何度も見ているので文句も言えない。
 大河は苛々しながら医者が出てくるのを待つ。

 5分ほどが過ぎただろうか。
 大河の不安が最高潮に募りかけた頃に、ようやく医者が出てきた。
 なにやら難しい顔をしている。


「せ、先生、未亜は!?」


「落ち着け…。
 やはり対人恐怖症の気がある…。
 1人1人と話すのなら何とか大丈夫のようじゃが、周囲に2人以上が居ると混乱するようじゃな。
 しかし、これはリハビリ次第でどうにかなるじゃろう」


「リハビリって…ど、どの位?」


「さて…色々と質問をしてみたが、元々内気な子だったのじゃろう?
 それも手伝って、ヒトに触れられる事に極端な恐怖を覚えている節がある。
 世間に出て生活できるようになるまで10年か、15年か…その程度では済まんかもしれん」


「そ、そんな……」


 幼い心に受けた傷は、そう簡単には治らない。
 どうにかならないのか、と医者に詰め寄りかけたが、その目に光る無力感や苛立ちを見ると自然と足が止まった。
 この医者も自分の無力を嘆いている。
 自分などよりもずっと出来る事があるはずなのに、1人の少女の心を救えない。


「……未亜に、会ってもいいですか?」


 グチャグチャになった心を何とか沈めて搾り出した声は、自分で思っていたよりも低かった。
 医者はチラリと扉を見て、大河に目を写す。
 最悪の展開が頭を過ぎる。
 だが、会わせない訳にも行くまい。


「…条件がある。
 もしも妹君に何らかの異常が認められたら、すぐに部屋から出ろ。
 どんな事があろうと、だ。
 これを守れるか?」


「…はい」


 医者が何を懸念しているのか解らなかったが、とにかく未亜の顔が見たかった。

 医者達と同じように、静かに扉を開けて部屋の中に入る。
 部屋の中央にポツンと一つだけ置かれたベッドの上に、未亜が静かに横たわっていた。
 ピクリとも動かないその姿に、大河の心臓が一瞬止まりかける。
 大丈夫だ、薬で動けないだけだ、ちゃんと息はしている、と自分に言い聞かせて鼓動を沈めた。

 少し迷ったが、大河は未亜に声をかける。


「……未亜?」


「…………!」


 大河の声が聞こえたのか、未亜から驚くような気配が伝わった。
 それでようやく大河は、未亜が生きていると実感が沸いてきた。
 大河はそれが嬉しくなって、もう一度未亜に声をかける。


「未「AAAAAAAAAAAアアアああああああああ!!!!!!!!!」!?」


 大河の声を聞いた途端、また未亜は叫びだす!
 その声からは、明らかに恐怖が滲み出ている。

 大河は何が何だ理解できず、叩きつけられた声に呑まれて動けない。
 その襟首を、後ろから伸びてきた手が思い切り引っ張った。
 ブン、と乱暴に投げ出されて、大河は廊下に放り出された。


「ヤワラちゃん、速やかに気絶させるのだ!」


「了解です!」


 大河と入れ替わりに部屋に入ったヤワラちゃんが、未だに叫ぶ未亜に向かっていく。
 その一瞬後には、未亜の叫びは途切れていた。
 見れば、ヤワラちゃんの手が未亜の首筋に触れている。
 どうやら気絶させたらしい。
 異常に手馴れているが、大河はそんな疑問を持つ余裕は無い。

 未亜の叫び。
 あの叫びは、明らかに大河の声に起因していた。
 そしてあの恐怖。

 拒絶された。
 自分がただ1人の味方であった筈の未亜に、拒絶された。
 ただ1人の味方、というのがただの錯覚だったと気付かされても、そのショックは和らぎはしない。
 何故。
 何故。何故。
 何故。何故。何故。
 何故。何故。何故。何故。何故。何故。何故。

 尻餅をついたまま呆然としている大河を見て、医者は苦い顔をしている。


「…最悪の予想が当たったか…」


 苦虫を十匹ほど纏めて噛み潰したような声で、医者は呟いた。
 大河は生気の感じられない動作で顔を上げ、医者を見上げる。


「………未亜は…」


「……立ち給え。
 場所を変えて話そう…」


 強引に感情を押し込めた医者は、大河の手を取って立ち上がらせた。
 しかし大河はフラフラとよろめいてしまう。
 精神的なショックで、平衡感覚が狂っているのかもしれない。

 ヤワラちゃんに未亜の監視を任せ、医者は診療室に向かおうとする。
 大河もその後をゆっくりと付いて行った。

 …2つ目の角を通り過ぎた時である。


「せ、先生!
 未亜ちゃんが泣き出しました!」


「何?」


「だから、泣き出したんです!
 暫く目を覚まさない筈だったのに、急に涙が…。
 何か呟いているんですが、よく聞き取れません。
 もう精神崩壊一歩手前、って感じの泣き方なんです!」


「チィ、一体何が…」


 医者が舌打ちする前に、大河は駆け出した。
 走るなと注意書きがされているのにも構わず、左右によろけながらも未亜の居る部屋に向かう。


「未…!」


 扉に手をかけた瞬間に、大河は冷水を浴びせ掛けられたように感情が冷めた。
 入ってどうする?
 またさっきみたいに拒絶されたら。
 それに、未亜は泣いているのだろう。
 何か辛い事があった、という事だ。
 そこに大河が飛び込んでどうする?
 未亜の中の何かに起因した恐怖に火をつけてしまうかもしれない。
 そうなったら、未亜の心は耐えられるのだろうか。
 自分の心は耐えられるのだろうか。

 迷っている内に、医者とヤワラちゃんが戻ってきた。


「退いていたまえ!」


「ゴメンね、大河君…」


 大河はヤワラちゃんに受け止められ、力なく寄りかかった。
 二人以上が未亜の目の中に入ると錯乱を起こすので、医者1人しか入って行けないのだ。

 そのまま動かない二人。
 心理的な違いはあるが、2人の目は扉に剥いていた。


 少しすると、医者が中から出てくる。
 ポリポリと頭を掻いて、首を傾げていた。


「先生?」


「う〜む…確かに泣いていた形跡はあるが…。
 静かなもんじゃぞ。
 寝言なんぞちぃとも言わん…。
 そもそもまだ気絶したままじゃ」


「え? そ、そうですか?
 確かに…本当に起きたのか確認した訳じゃありませんけど…」


 2人の会話も、大河には届いていない。
 踏み込めない。
 大河は初めて未亜と自分の間に、明確な溝を感じた。

 医者は大河を見て、扉を見て、ヤワラちゃんを見て、何かを考え込んでいる。


「…いや、まさか…。
 だとすると…。
 確かに精神とは時に常識を凌駕するが、一介の医者としては…。
 いやいや、とにかく試してみねば。

 大河君、ちょっといいかね?」


「…え?」


「え、ではない。
 スマンが、向こうの壁まで歩いていって、壁に手をついて10秒待ってから戻ってきてくれんかね」


「は、はぁ…」


 何のために、とか考える気力は無い。
 ただ外部からの命令や刺激に従って、大河は指示された方向に歩いていく。
 その後ろで、医者が部屋に入って行ったが大河は気付かなかった。


 大河は言われた通りに壁に手をついて10秒数え、そのまま戻ってくる。
 あれ、医者がいないぞ、と思ったら、扉を開けて医者が出てきた。


「ふむ…間違い無さそうじゃな」


「何がですか?」


「これから説明する。
 ヤワラちゃん、悪いが当直室から座布団を持ってきてくれんか?
 ちと床が冷たいでな」


 はーい、とヤワラちゃんは早足に歩いていった。
 代わって、もの問いたげな大河。
 大河に向けて医者は落ち着け、と手を伸ばす。
 しかし大河は反応しない。
 早く説明しろ、と目が主張していた。

 ふぅ、と医者は溜息をついた。
 正直言って気が重い。


「…大河君、妹君は対人恐怖症、男性恐怖症だと言っただろう?
 あれは間違いではない。
 軽度の、とは言えないが、対人恐怖症は比較的重症ではないし、男性恐怖症もそれよりは酷いが…まぁ、何とかなる。
 問題は…君だ」


「俺…ですか?」


「そう。
 …覚悟はいいかね?」


 大河は黙って頷いた。
 グダグダ言っても仕方ない、聞かなければ何も出来ないと思い。
 この先に受ける衝撃がどんなに悲惨なものか、想像する事も無く。

 医者は奥歯を噛み締めたが、言わなければならない。


「君は妹君を襲おうとした暴漢だか通り魔だかを、凶器を持って半殺しにしたのだろう?
 妹君は、その一部始終を見ていたのかもしれん。
 ……恐ろしい光景だっただろうな。
 自分の兄が、自分の為とはいえ人を殺そうとする場面は」


「そ、それは…」


「解っておる、無我夢中だったのじゃろう。
 君の選択は間違っては居なかった筈じゃ。
 ナイフを持った通り魔を相手に、手心なぞ考えれば即座に死に直結するじゃろう。
 逃げる事も出来ないならば、もう殺す気で奇襲をかけるしかあるまい。
 …だが、その光景は妹君の目に焼きついてしまった。
 凶器を持って殴り飛ばし、そして返り血を浴び、されたであろう懇願に耳を貸さずに打撃を与え続けた。
 妹君にしてみれば、殺人現場を目撃したのと大差ない。
 …それが、トラウマになってしまったのじゃろうな。
 君の姿を見たり声を聞いたりすると、その光景がフラッシュバックする。
 そしてまた恐怖のあまり錯乱する…」


「……………………」


 コノイシャハナニヲイッテイル?

 大河の脳は、完全に止まっていた。
 現実を受け入れられない。
 だが未亜の兄だという自覚が現実に繋ぎとめ、逃げる事も出来ない。
 大きすぎるショックで、大河は発狂しそうだった。

 それを敢えて無視して、医者は話を続ける。


「じゃが、完全に拒絶されたのでもない」


「……え?」


「妹君が泣き出したじゃろう?
 先程そこの壁まで歩いてもらった時に妹君の様子を観察させてもらったのじゃが…君が遠ざかろうとすると、彼女は涙を流す。
 そして近付いていると、寝息も比較的安定するのじゃ。

 つまり…姿を見るのは恐ろしいが、さりとて去って行かれるのはイヤだ…という事じゃろうな。
 ヤマアラシのジレンマ、じゃな」


「………」


 大河は複雑だった。
 完全に拒絶されたのではなかったのは嬉しい。
 だが、自分はどうすればいいのだろう。
 近付けば未亜は傷つき、遠ざかれば未亜は孤独に沈む。
 大河はもうグチャグチャだった。


「……付かず離れず、を維持するしかないじゃろうな…。
 大河君、今日はここに泊まりなさい。
 今君が彼女から遠ざかれば、本当に妹君は崩壊してしまいかねん」


「…はい」


「隣の病室を使ってくれ。
 ベッドは清潔だし、食事の類も運んでおく。
 あとトイレは手早く済ませるようにな。
 なんなら尿瓶とか使っても構わんが」


「…………はい」


「お待たせしました。
 座布団ですよ……と、お話は終わっちゃいましたか?」


「ま、丁度いいくらいじゃよ」


 ヤワラちゃんのご帰還だった。


 それから四日が過ぎた。
 その間、大河は未亜の隣の部屋から全く動かずに過した。
 …いや、流石にトイレは行ったが。
 風呂は入らず、濡れたタオルで体を洗って終わらせる。
 何度か看護婦に拭かれそうになったが、何故か丁度未亜が愚図りだしたので助かった。
 …大河に他の女が触れるのを嫌ったのだろーか?

 未亜は翌日には動けるようになっていた筈だが、少なくとも部屋から出ようとはしなかった。
 世話をしているヤワラちゃんが言うには、「外には人が沢山居るから出ようとしても出られないんじゃないのか」との事だ。
 いずれにせよ、事態は全く好転してない。
 大河は無力感に沈み、未亜はヤワラちゃん相手なら錯乱しないものの、近付くとやはり恐怖する。

 医者も2人に手を焼いていた。
 何時までも預かっておく事は出来ないし、保護者に連絡もしなければならない。
 大河は頑として住所を言おうとしないので、連絡しようにも連絡できないのだ。


 その日、大河は何時ものように壁際でじっとしていた。
 この壁の向こうに未亜が居る。
 だが、触れる事も話す事も出来ない。
 大河の心は、完全に折れそうになっていた。

 その時だった。


「大河君、面会じゃ」


「…?
 俺に?」


 まず真っ先に思い当たるのは、自分の家主。
 しかし、こんな平日の昼間から見舞いに来るような性格ではなかった。
 明らかに厄介者として扱われていたし、居なくなったならそれで良しくらいにしか思わないだろう。
 そもそも、大河と未亜がこの病院に入院している事すら知らない筈だ。

 …そう言えば、この病院が何処の病院なのか、大河は知らない。
 個人病院にしては施設が整っているし、国立病院などにしては融通が利きすぎる。

 それはともかく、医者が扉から退き、誰かに中に入るように合図する。
 入ってきた人影を見て、大河は熊でも入ってきたのかと本気で疑った。
 しかし、目を擦って改めて見るとそれは人間だった。
 しかも、見覚えがある。


「よう小僧。
 何かオロボロだな」


「あ、あなたは…」


 鍛え上げられた巨躯、自信が漲る表情、何が詰まっているのか重そうなバッグ、さらに何故か地元の名物饅頭が入った紙袋。
 大河が暴漢を殴り殺そうとする前に手当てをしてくれた、あの男だった。

 男は医者に一礼すると、部屋の中に入ってくる。
 医者は男に何かを期待するような視線を送ると、そのまま戻って行く。
 部屋の中に、大河と男しか居なくなった。

 大河は何か言わなければと思うが、上手く口が動かない。
 それにも構わず、男は大河の対面にあるベッドに腰掛けた。


「ふむ…災難だな、小僧」


「…い、いや…災難なのは俺じゃなくて…」


「そうだな。
 トラウマを負った妹さんに、撲殺されかけた暴漢、こんな厄介事を放り込まれた医者。
 放り込んだのは俺だけどな。
 あぁ、親御さんにもか…一応お前らが病院に放り込まれてる事は言っておいたんだが、態度が頭に来たんで一発顔面パンチくれて戻ってきたんだっけか。
 あのクソガキを半殺しにしたの、お前だろ。
 ったく、最近のガキはケンカの作法も加減も知らんのか」


 以前に会った時と同じノリのいい喋り。
 大河はやはりこの人は明るいんだ、と思った。
 しかし、その言いように反発する。


「…あんなヤツ、死んじまったって…」


「やれやれ、短気なヤツだ…。
 あのまま育つなら確かに一度地獄に放り込んでやりたいが、先の事なんざ解らねーだろ。
 せめて相手が泣くまで殴って、涙が枯れるまで殴って、『もう二度と逆らいませんゴメンナサイ調子乗ってましたイヤホントマジスイマセン』って心底思うまで殴る程度にしとけ。
 しかるにテメーはだな、殴るだけ殴ってその場の対応しかしてねーじゃねーか。
 しかもヘタすりゃ後々に後遺症が残るような殴り方を。
 ガキだろうがオトナだろうが関係ねー、その状況がイヤだと思ったら根っ子をどうにかしようと思いな。
 体を殴って骨を折るんじゃねぇ、心を殴って心をヘシ折るんだよ。
 そうすりゃ二度と逆らって来ねぇ」


 一つ言い返せば10戻ってくる。
 何も言わなくても8くらいは話してくる。
 そう悟った大河だが、この人ともう少し話してみたい、と思った。
 男の声は明朗快活で、聞いているだけでも心が明るくなれるような気がしたのだ。


「…で、何が言いたいんです?」


「あのガキもぶん殴っとこうと思ったら、オメーが先にボッコボコのゲチョゲチョに殴ってたからもう殴る余地が無かった。
 俺の分も残しとけ、ってんだ」


「無茶言わんでくださいよ…。
 俺はアンタの事、ついこの前まで知らなかったんですから」


「おお?
 ヤバい気配を感じたから態々助けに行ってやって、お前が人殺しになりそうなのを態々止めてやって、お前が妹さんに掴みかかって更なる恐怖を与えそうになったのを態々止めてやって、あまつさえその場に居た全員の応急手当をした挙句に病院にまで連れて来てやったこのオレサマをアンタ呼ばわりかぁ?」


 一昔前のヤンキーのように、首を捻って下から睨みつけながら恩着せがましく笑う男。
 グッ、と唸った大河だが、やはり反発は感じない。
 スケールが大きい、と大河は素直に思う。


「あ、あー…ありがとうございました」


「おし」


 頭を下げる大河と、ふんぞり返る男。
 大河の精神状態がそこそこ持ち直してきたのを確認し、男は視線を鋭くした。


「ところで小僧。
 お前、バイトする気はないか?」


「…いきなりなんですか?」


「はは、この状況じゃいきなり過ぎたか…。
 ……小僧、妹さんの事は聞いてる。
 対人恐怖症…だってな」


「…………」


 ただの対人恐怖症ではないのだが、そこには大河は触れなかった。
 自分から話すには、ショックが大きすぎて心の整理が付いてない。

 男もそれくらいの事は承知の上だ。
 目を逸らしてもどうにもならないが、今はそちらは本題ではない。


「ドスブッスリ…もとい短(単)刀直入に聞くが、妹さんの回復…どれくらい時間がかかると思ってる?」


「…………」


「沈黙は雄弁…。
 短くても年単位での時間がかかる。
 普通に考えりゃ、二桁のな…。

 ……小僧、名は?」


「…当真 大河」


「タイガ、か…。
 タイガ、俺と来い。
 お前は見所がありそうだ。
 ちょいと鍛えてやればモノになる。
 バイトって形で、俺の仕事を手伝え」


 男の出す雰囲気と威圧感に呑まれ、反射的に頷きそうになる。
 しかし、今の大河はここから離れる事は出来ない。


「ムリです。
 俺は未亜から離れる訳にはいかない…。
 大体、この状況でバイトの勧誘なんかしますか、普通」


「ばぁか野郎、俺だって状況ってモンぐらい弁えとるわ。
 この状況だからこそ、なんだよ。
 普通のバイトじゃねぇしな。
 やれる人間も、結構限られてくる…。
 特別な才能ってーか、運の良さってーか、所謂アタリのいいヤツが要るんだよ。

 でもな、バイトの報酬を聞けばお前は必ず飛びつく」


「?」


 首を傾げる大河を見て、男はニヤリと笑った。


「記憶を消してやる。
 お前の妹の、忌まわしい記憶を。
 襲われかけたというトラウマも、その事実も、全てはお前1人の中だ。
 この世界には、お前の妹を殺そうとした暴漢も、お前がその暴漢を殺そうとした事も、そして妹がそれを見て恐怖に飲まれた事実も、全ては消える。
 お前の記憶の中を除いてな」


「……なっ…!?」


 ウソだろう。
 普通に考えればウソだろう。
 記憶を消すだけなら不可能でもないかもしれないが、まるで「そんな事実は最初から存在しなかった事になる」とでも言うかのような口調ではないか。

 不可能だ、詐欺だと思う大河だが、目の前の男からはそんな印象は全く感じられない。
 たかがガキにそんな気配を探るようなマネは出来ないが、幼い頃から虐待に近い生活を強いられてきた大河は、第六感がやたらと発達している。
 少なくともウソを見破れなかった事はないのだ。


「本当は俺がやれればよかったんだが、俺は完全な戦闘系でな。
 暗示の類も出来ねーし、暗示じゃいつ解けちまうか解らん。
 解るか?
 俺が言ってるのは、そういう過去を完璧に…いや、お前の記憶を除いて完全に消しちまえるって事なんだぞ?」


「そっ、そんな事!」


「TrueかFalseかは問題じゃねぇんだよ。
 お前には選択肢が与えられた。
 選ぶべきはYesかNoかだ。
 10年の時間をかけて回復させ、その後さらに停まっていた時間を早送りで回して、それでようやく元の関係に戻れるってのもアリだ。
 尤も、そっちは上手く行くかは知らんがね。
 その可能性を信じて、崩壊に至るトラップを警戒しながら進む。
 普通はこっちだ。

 一方、俺の示した選択肢は、地獄みてーで、ドブの中を潜って歩くみてーで、もう二度と元の生活には戻れない上、ひょっとしたらウソかもしれない可能性だ。
 さぁ、どっちを選ぶ?」


 どっちも何も、その選択肢は最初から不可能だ。
 そう言おうとしたが、先手を打ってその反論は潰された。


「おっと、お前がバイトに出掛けている間、妹が精神崩壊するじゃないかと思ってるな?
 心配するな、こっちの時間はどうとでも出来る。
 お前が存在する時間をポキっと折って、折った方の時間軸で活動し、そして折った時間を接木みたいにくっ付ける。
 原理的にはそんなモンさ。
 で、どうする?
 YesかNoか。
 ハッキリしな」


 大河の目を見据える男。
 この場で決められなければ、少し時間を置くつもりだった。
 自分にはまだ時間があるし、こんな胡散臭い話を信じろというのも無理があるだろう。

 だが、大河は男の目を真っ向から見返した。


「すぐに戻ってこれるんだな?」


「ああ、ぶっちゃけこの部屋から出る必要も無い。
 いや、俺達にとっちゃ出るんだけどな。
 俺達がこの部屋から消えた、という事実は最初から無い。
 何故なら時間がそう動いているからさ」


「細かい理屈は解らないけど、俺の選択肢はこれしか無い。
 行くぜ、そのバイトとやらに。
 未亜を助けられるなら、どんな所にでも…」


 全身に力を篭め、大河は男を見返した。
 その圧力は、小学生のモノとは思えない程だ。
 しかし、それも男の前にはそよ風のような物である。

 男は大河の胆を真っ向から受け止め、ニヤリと笑った。


「いいぜ、契約完了だ。
 これからお前は全く知らない世界に飛び込む事になる。
 後戻りは効かん、一度行ったら全ての工程が終わるまで帰ってこれない。
 泣き言言おうが怪我をしようが死に掛けようが、全部終わるまで帰路は無い。

 さぁ行くぞ、よく見ておけ。
 扉を開く…。
 これが、お前が進む世界の一端だ!」


 そう言うと、男は立ち上がって左手を前に突き出した。
 その手の平に、黒い何かが生まれている。

 警戒もせず、唖然としてその黒い何かを見詰める大河。
 男は少し笑って、左手をゆるゆると動かし始めた。

 黒い何かが動くたび、その軌道に黒い何かが生まれる。
 ぐるぐると回り、それは大きな黒い穴を作り出した。
 その時の大河にはこれが何なのか全く理解できなかったが、これは空間の穴であった。
 男は左手一本で空間に穴を開け、どこかへと通じる通路を作ってしまったのである。


「…これは…」


「ま、要するにどこでもドアさ。
 さぁ行くぞ、世界が俺達を待っている!」


「え? うぁ!?
 お、おい!
 アンタの事はなんて呼べばいいんだ!?」


「『隊長』と呼べい!」


 ヒョイ、と大河の体を抱え上げ、男は通路に突撃する。
 何が何だか解らない内に、大河はその通路に飲み込まれ、意識が一瞬だけホワイトアウトした。

 そして大河の気は遠くなっていく。
 気を失う寸前に見た景色を、後の大河は“海”と呼称するようになる…。


「…んあ?」


「…起きたか」


 大河はガタンゴトンと揺れる硬い床の感触を感じ取った。
 一瞬、自分が何処に居るのか解らない。

 ドムを見て、開けられた扉から見える光景を見て、ようやくここが何処だか思い出せた。


「そうか…ここ、アヴァターだったっけ…」


「夢でも見たか。
 微妙に魘されていたが」


「ん、まぁそんな所だ。
 あー、しかしまた懐かしい夢を…」


 大河は立ち上がり、大きく伸びをした。
 床が揺れるからバランスが悪いが、上手く体を揺らしてバランスを取る。

 体の凝りが少しは取れたのを確認して、大河はまた座り込んだ。
 見ていた夢を思い出す。


(…考えてみれば、隊長って無茶な交渉方法使ってたなぁ…。
 よく考えなくても脅迫じゃないか?
 確かにあの後のシゴキは地獄のよーだったけど……一応戦場だったから死ぬ危険だってあったし。

 ひょっとして最初に会った時から自分をスカウトしようとしてたのか、って聞いたら鼻で笑われてデコピン喰らったっけな。
 首の骨が折れるかと思った…。
 本当なら俺みたいなスカウトの仕方はしないんだよね…隊長が放っておくのが気分悪かったし、助けられる方法とその代価があったから提案したって言ってたけど……あー、悪い事したかな…。
 大して働かない内にネットワークを抜けちまう事になったし…。
 『お前がNoと答えても、俺の次の仕事での代価を使って事実の改竄ををすりゃいいんだ』なんて言われたら、どーしろってのよ。

 あの後、未亜を本当に助けていいのか悩んだっけ…。
 やってる事は人の過去や記憶を勝手に弄ってるのと同じ…ってかそのものだし。
 地道に過去を乗り越えさせるべきだったかと悩んで、また隊長にデコピン。
 あの時は縦に回転しつつ3メートルほど宙を待った。
 で、その後『ぶわぁかやろ、そんなモン信じてるかどうかの違いだよ。 最終的に、俺達は幸せになる。 どっちの選択肢を選んだとしてもだ。 俺達が進むべき未来は、幸せな未来。 そう信じるから足掻くんだろ』。
 あれからとにかくポジティブな性格になった。
 …部隊には度を越してポジティブな奴も居たけど

 そうそう、何が驚いたって、バイトの講習を終えて…3年くらいかかったけど…戻ってきてみたら、本当に全然時間が経ってないんだもんなぁ…。
 しかも未亜が入院したのは、車に撥ねられたからになってたっけ。
 轢いたのは未亜を襲ったクソヤローだったし、その辺もバッチリ調整済み…芸が細かいねぇ…。

 その後部隊から借りてきた幻影アイテムを使って、あの家を大火事にしたっけ…見せ掛けだけだけど。
 その後部隊で知り合った弁護士(偽)と警察(似非)と詐欺師(本物)に手伝ってもらって、俺達の自立を勝ち取って…。
 虐待されてたとはいえ、一応保護者だったのに免じて最低限の生活はできるようにしといたが…ザマァミロ、ってなもんだ)


 徒然と過去を回想する大河。
 色々と思い出していると、なにやら視線が向けられているのに気がついた。

 振り向くと、ドムが興味深げに大河を見ている。


「…なんスか?」


「なに、一騎当千の力を与えるという召喚器の使い手に興味があってな。
 召喚器とは、どんなモノなのだ?
 一度は見て見たいと思っていたのだ。
 見せてくれ」


「ダイレクトっスねぇ…」


 苦笑しながら、大河はトレイターを呼び出す。
 相変わらずの美しさを誇る剣を見て、ドムは息を飲んだ。
 その直感が教えている。
 あの武器は、自分達の武器とは全く違う、と。

 大河は黙ってトレイターを差し出す。
 ドムは目で了解を取ってから、慎重にトレイターを受け取った。


「………これが召喚器…」


「トレイター…と俺は呼んでいる」


「…………やはり、私にはこの力は使えんか。
 武人としては、武器に頼りすぎるのは過ちだが、やはり業物には心魅かれる…。
 …なるほどな。

 当真、召喚器とはどれ程の力を持っているのだ?
 使いこなせば“破滅”を一掃すると言われているが…」


「使いこなせれば、な。
 正直な話、救世主クラスには使いこなせる人間は1人も居ない。
 そこそこの力は引き出せるし、それだけでも結構強いんだが……個人の強さを超える事は出来んよ」


「お前もか」


「俺は……どうだろうな。
 最近ちょっと思いついた事があったんだけど。
 …もしそれが正解なら…」


「正解なら?」


「控え目に言っても、“破滅”の軍団…そうだな、一個師団と戦っても負けないだろうぜ。
 (そしてトレイターは他の召喚器とは違う事になる…)」


 ドムは目を丸くした。
 例え武器の力に頼っているのだとしても、使いこなせればそれは本人の強さ。
 1人で一個師団を打ち破る?
 しかも、通常の人間と比べて体力も攻撃力も高く、自らの死すら厭わずに殺そうと迫ってくるモンスター達を相手に。


「ふ……ふふっ、ふはははははは!
 面白い、その思い付きが正鵠を得ている事を願おう!
 当真よ、存分に暴れるがよい!」


「おうよ!
 見てろよ、大活躍して本気で救世主と呼ばれるようになってやるぜ!」



こんばんはー、時守です!
ふぅ、時間が足りん…。
ゲームに執筆に勉強に就活。
最近は微妙に就活が楽しくなってきているのは神経のビョーキな気がします。
ま、いいか。
楽しいに越した事はないし。


それではレス返しです!


1.カシス・ユウ・シンクレア様
この場合、パコパコは何を頑張るべきでしょーか……。
修羅場に備えて、神経を図太くするとか?

本当に未亜は女版大河になってきてますね。
その内、自分用のハーレムとか作るかも…(汗)

リコが言い触らす前に口止め料と称して財布が空になるまで奢り、さらに結局アルディアから伝わるというシーンを連想しましたw


2.アレス=アンバー様
ダリア先生のアイデアは昔読んだズッ○ケ3人組でやってたヤツです。
あの頃は私もやればよかった、と本気で悔しがってました。
先生に通じたかどうかは別として…。

ゾルディック家の少年は、一財産築けるほどの金額を全部お菓子につぎ込みましたぜ。
それに比べるとダリアなぞまだまだ…。

お守りの話は、確か戦争に行く人に持たせるんでしたよね。
黒いオーラ…というか、毛が伸びるのかっ!?
オーラはどちらかというと淫気な気がする…。


3.根無し草様
ユカ・タケウチにどんなギャグをさせようか、今も迷っています。
幾つかネタはありますので、お楽しみにw

893・レズ・Sと来たからには、未亜の次の属性は…アレだなw
イムとクレアの回復が早いのは、単に根がMだから精神的に耐性があったんでしょう。

ネコはいいですねぇ…ウチの犬も可愛いですよw
近寄ったら「撫でてくれ」って感じで足元によってくるんですw


4.影月 七彩様
あの300円は自前ですよ。
根の世界ですから、色々な通貨があるのです。
ただし、主に使われている通貨以外はとてもマイナーですが。
それこそリラとかペソとかギル(うっかり王にあらず)もあります。
マイ設定ですが。

子羊+ネコが未知の世界へ…料理になったのと違いますよね…(汗)
美味しく頂かれているのは確かですがw


5.蓮葉 零士様
時守も読んでみたいデス。
今度探してみよう…本のタイトルとか覚えてますか?

ドン・レオ・スレイは、確か人工授精した試験管ベイビーでしたっけ?
個人的には、スレイが一番好きでしたね…。
吉岡平先生の小説では、ハーレム上等って人は見当たりませんね。
アプサラスとか好きだったなぁ…。
ハーレムもいいけど、一途に誰かを思い続けるのも激燃えます。


6.悠真様
別行動になってしまうと、当分ネコは出てきそうにないです…。
時守もネコりりぃを書くのが楽しいので、少々残念です。

ネコもいいけど、犬もいいなぁ…。
我が家の犬は少々躾に問題があるのですが、これがまたw

考えてみると、先生達が没収したヤツってある意味カツアゲ…?
時守も高校時代に、自習中に課題を終わらせて読んでた小説を取られました。
ぐあー、思い出したら腹が立ってきたのでこの辺で!


7.竜神帝様
しっと団ですか……コロっと忘れる所でした。
状況を見る限り、しっと団に襲撃されそうなのは大河達だけ…。
むぅ、魔物に混じって襲撃してきても違和感が無いw


8.螺諏様
素晴らしい評価をありがとうございます!
むぅ、開かずの間で…ですか…。
今後もう一回使う予定がありますので、かなーりダークというか陵辱になりそうですがその辺で。


9.アルカンシェル様
時守も記憶力の低下が激しくて…私のは生来ですけど。

生贄…言いえて妙ですな…。
うーん、未亜にもライバルを作らないと面白くないかなぁ…。
でもドSが2人に増えたら手に負えないし…ここは一つ、クレアとイムも目じゃないほどのドMでも…。

アザリン様とドム将軍の元ネタは吉岡平先生の『無責任艦長タイラー』です。
吉岡平先生のはマジでオススメ。
一読の価値はあるので時間とお金に余裕がある時にどーぞ。

バナナ以外にも、トマトとかも贅沢品だった時代もありましたね。
ああ、いい時代になったなぁ…飽食気味だけど、逆よりずっといい。


10.舞ーエンジェル様
うぉんちゅ!
マサルさんネタですかい?

食べ物を粗末にすると半殺しには違いありませんが、彼らは厨房や食堂で暴れる事はありません。
…前に弟の方が暴れてましたが、基本的に暴れません。
他のお客さんに迷惑がかからないように、暗闇に紛れてコッソリと…。

シェザルの対極…というと、M?
それとも異常なまでのシスコンとか?
うーん…どっちかというと前者かなぁ…。

11.K・K様
オギャンオス!

実は893未亜SのSには段階があって、低ランクから順にスーパー、サディスト、スペシャルと…。
しかし、ある意味もっと恐ろしいのはイムとクレアかも。
未亜に加えて大河の責めまで受けたはずなのに、未亜よりも元気なのはどういう事か?

時守は既に、ダウニーの原型を思い出せなくなってきてます…。
原作じゃ一応シリアスキャラだったのに…最近ではかなりシリアスになってきてますが。

893未亜が蘇えって…Sフェニックス?
では、オギャンバイ!


12.神〔SIN〕様
お久しぶりです!
色々と揉めていらしたようですが、一段落したなら何よりです。

ネクロマティックで蘇えらせる、というのも一応考えております。
というかむしろ確定。
誰を蘇えらせるのかはノータッチでお願いしますw

しかし…さすがに1000年も前の遺体を完全に蘇えらせるのは難しいでしょうね…。
何か秘策を考えねば…。

睡眠に体力…なるほど、だから年を取ったら眠りにくくなるのか。
ま、徹夜はまず無いですよ。
だって時守は一日に6時間以上寝ないとまともに活動できませんからw


13.なな月様
そう言えば、税込み税別までは指定されてなかったですね…。
まぁ、一々チェックを入れる教師も見ませんでしたけど。

実行すれば先生に怒られるって言っても、ダリア本人が教師ですしね。
昼行灯を装っているから(地かもしれないけど)怒られるのも日常茶飯事っぽいし。

アヴァターにおける通貨は、色々な種類のが入り混じってるんじゃないのかと思っています。
現実みたいに円安ギル高みたいな相場変動がずーっと起きているのではないかと。
まぁ、遠足に300円の制限を設ける辺り、アヴァターに置ける円の価値は日本と大差ない…と、思いつきで述べて見ましたw

SIREN…見た事はないですが、それは心臓に悪い…。
的確な表現をありがとうございます。
しかもリコの逆召喚も阻止されてしまったので、屍人を見た瞬間にエンジンが切れてしまったも同然。
寝かせてはもらえなくても、気絶・失神はしてそうです。

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