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「幻想砕きの剣 8-7(DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-03-15 21:18)
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 王宮で大河達が宿泊する部屋は、一般的な客人用の部屋である。
 王族直属の救世主候補生と言えども、所詮はただの候補生、学生なのである。
 クレアやアザリン達が寝泊りしているようなVIPの部屋は使わせてもらえない。
 が、そこはそれ、それでも王宮の一室である。
 その辺の高級宿よりもずっと設備は整っているし、調度品も多い。
 …まぁ、部屋を使う人物達には大した知識もないので、豪勢な調度品を置いた所で豚に真珠なのだが。


「…で、そこで一つ異議を申し立てたい。
 あの部屋は、俺が学園で寝泊りしている屋根裏部屋とは比べるべくもない程に豪華でやたらキラキラしている。
 が、その部屋が未亜達の学園での部屋よりも劣って見えるとはどーいう事か?
 幾らなんでも落差が激しすぎないか!?
 男女差別だと抗議するぞ!」


「…とか言っておきながら、最初に屋根裏部屋に連れて行かれた時に目を輝かせてたじゃないですか。
 若き日のロマンは何処に行ったんです?」


 ベリオが何を今更、とばかりに呆れて聞く。
 大河はフン、と鼻を鳴らして一蹴してしまった。


「アレはアレ、コレはコレだ。
 自分で言うのもアレだが、俺はもう若くない…もとい、ガキじゃないからな。
 子供の頃のロマンは、子供の頃の俺がどっかに持って行ってしまったのだよ」


「アンタは今でも充分ガキよ…」


「局部を除いて、ですの。
 だってもう剥けて…ルビナスちゃん、イタイですの」


 最近ナナシが下ネタばっかりやってるよーな気がするな、とカエデは思った。
 現在、救世主候補生達は食堂に集まっている。
 リコがメチャクチャに食いまくった食堂ではなく、クレア達が時々使う食堂である。


「…お主ら、もう少し静かに食べられんのか?」


「諦めろ。
 この連中はこういう連中だ」


 騒ぎまくる救世主候補生達を、アザリンとクレアが呆れて見ていた。
 育ちのいい彼女達としては、このようにベラベラ話しながら食べたり、他人の分をかっぱらって食べようとしたり、さらにアーンとかしている光景というのは馴染みが無いだろう。
 が、特に不快を感じる訳ではない。
 むしろ興味深げに眺めている。


「……あのような食べ方で、味が解るのだろうか?
 私も味わう以外を目的とした食事は何度もしているが…職務が切羽詰っているならともかく、今のような状況でそんな事をする必要もなかろう」


「アザリンはその辺の屋台で買い食いをした事はないのか?
 味とは味覚だけではなく、雰囲気でもあるのだ。
 あれはあれで楽しいものだぞ…確かに深くまで味わっているとは言い難いが」


「…ああ、確かにな。
 パコパコと共に居た時や、パコパコの部隊でもこのような食べ方だった。
 …部隊では装甲服や拳銃や職権乱用が多々あったが」


 ギャアギャア大騒ぎしながら食べる大河達。
 カエデが大河にくっついて食べさせようとし、ならばとナナシが口移しに挑み、リリィが阻止しようとして魔力を貯め、ベリオがそれを嗜めて、ルビナスが何かをお茶に入れようとし、構わずリコがそれを食べる。
 …リコは平気そうだが…本の精霊には薬品は効かないのだろうか?
 ルビナスが本腰入れて作ったモノならともかく…。
 妙に未亜が大人しいと思ったら、今後の参考にしようとレシピをメモしていた。

 周りに居る少数のウェイター達は、王宮始まって以来であろう食堂の大騒ぎに目を丸くしている。
 普段は上品な食べ方をする人間ばかりで、このよーな食いっぷりを披露されるのはとても珍しい。
 眉を顰めている者も居るが、大方は笑いを堪えている。
 どうやら代わり映えの無い食事風景に飽き飽きしていたらしい。
 ここでも見世物扱いの救世主クラスだった。


「陛下! お食事中に失礼します!」


「ん? ドムか」


 食堂の扉を開けて、唐突に男が入ってくる。
 反射的に目を向けたカエデは、一瞬人ではなく獅子が立っているのかとさえ錯覚した。
 彼の放つオーラは、それほどに強烈だったのだ。

 入ってきた男…ル・バラバ・ドムは、大騒ぎしている大河達に目をやり、すぐに無視する事に決めた。
 不愉快な感触は無い…むしろ愉快な連中だと思ったが、それ以前に関わると話が進みそうに無いと思ったからだ。
 流石は名将、的確な判断である。

 ドムは早足にアザリンに近付いて、許可を取ってから何事かをアザリンの耳元で囁いた。
 アザリンの顔が一瞬思案の色に染まり、すぐに席を立った。


「クレア、すまぬがちと用が出来た。
 そろそろ失礼する…また明日な。
 当真大河、おぬしもだ」


「ああ、気をつけてな」


「え?
 あ、ああ、はい」


 ソーセージを取り合っていた大河もアザリンの呼びかけに我に帰り、慌てながら返事をする。
 その間にソーセージはクレアが横から掻っ攫ってしまった。
 王族のクセに、意地汚くなってきているよーだ。
 ソーセージを取られたリコが、恨めしげにクレアを見ている…と思ったら、報復のつもりかクレアのハンバーグにフォークを伸ばす。
 そのまま銀色の閃光がキンキンキン、とぶつかり合った。


「…彼女達と付き合っていると、朕もいずれはああなるのかのぅ」


「い、いや…アザリン陛下だけは…多分、その…」


「…ま、詮無き事か」


 どう返答したものか迷っているドムを見て、アザリンは少し笑った。
 ドムとしては、アザリンがああいう風に染まってしまう事は無いと思っている…が、当のアザリンは微妙に愉しんでいる趣がある。
 それにあの連中のキャラはやたらと濃い。
 どーしたものかと思うドムだった。


「ああそうだ、ドム。
 先程の騒ぎの中に、一人だけ男が居ったろう?
 アレが当真大河だ。
 どうだ、乗りこなせそうか?」


「あの漢…ですか」


 アザリンに指摘され、ドムは大騒ぎしていた大河の事を思い出す。
 彼の非凡な指揮官・将としての感性は、大河の性格をある程度見抜いていた。
 噂に聞いた戦闘力を元に実力を計算し、幾通りかの案を組み立てる。

 一見するとただのお調子者だが、目の奥にこちらを値踏みするような光が見えた。
 バカをやりつつも友人や仲間に恵まれ、何時の間にか中核的存在になっている…。
 敵に回しても味方につけても厄介なタイプだ。
 彼のような存在は、扱い方を心得ていない者には目の上のタンコブと言えるだろう。
 だが…。


「ただのお調子者ではありませんな。
 自分を取り巻く状況と、やるべき事をしっかりと見据えている雰囲気があります。
 あの者にムチは要りますまい…。
 アメを与えれば一層の働きをするでしょうが、それでは少々暴走しすぎるきらいがあると思われます。
 それと、誰かに付き従うよりもある程度の権限を認めて、少数での遊撃部隊として使うのが効果的でしょう。
 そう…相応の実力を持ち、柔軟な姿勢を持った者、または気心の知れた者と組ませ、指示は大まかな方針を示してやればいい…。
 後は指揮官との相性の問題です」


「ほぅ…ドムがそこまで評価するか…。
 しかし、柔軟な姿勢はともかくとして召喚器持ちの足手纏いにならない実力者というと…」


「私やタイラーの部下にも幾人か心当たりはあります。
 ですが、流石に個人戦闘と機動力では…」


 軍人の基本は体力である。
 当然一般人どころかそこらの魔物なぞ比べ物にならない程に鍛えているのだが、召喚器が比較対照となると分が悪い。
 常に回復魔法をかけられているようなモノだし、基礎的な能力も桁が違う。
 大河に任せる事になりそうな役割を鑑みると、苦しい所から苦しい所へ移動させながら戦う事になりそうだ。
 急いで移動して、その後休む間もなく戦闘。
 しかも補給すら無く、少数精鋭で。
 いくら体力自慢であっても、これはキツ過ぎる。


「気心の知れた者については、フローリア学園からの増援の傭兵科生徒達から選べばいいでしょう。
 確か…セルビウム・ボルトという男と仲が良いはずです。
 …敵戦力を考えると、もう一人欲しいですが…」


 考え込む2人。
 実際の所、軍の部下を大河と組ませるのは少々危険である。
 大河は軍人と違って命令破りも必要とあれば幾らでもやるだろうし、リーダー的位置に自然と付くのでベテランの軍人とはソリが合わない可能性がある。
 長い間鍛えてきて、それに見合った実力を持っているというのに、召喚器を手にしただけで戦いとは無縁だった(と思われる)大河にリーダー面されては反発もしよう。
 丁度いい人材が……。


「……居たな、そういえば」


「は? 誰でしょうか?」


「…ユカだ。
 昨年の末に領主が死んで跡を継いだ、ユカ・タケウチだ」


「…あの“武神”ですか…。
 確かに適材ですが………確か陛下のご友人だったのでは?」


 友人どころか、実は幼馴染である。
 幼い頃のアザリンを、よく連れ出しては遊びまわっていた。
 かつて人の敵意に耐性が無かった頃のアザリンは、その聡明さ故に周囲からのプレッシャーを敏感に感じ取り、押し潰されそうになっていた時期があったのだ。
 必死で堪えていたが、そのままでは心を殺し、人間らしさを忘れてしまいかねなかった。
 そこで出会ったのがユウカである。
 アザリンは彼女に会って初めて、歳相応の遊びを体験した。
 …まぁ、ユカが素晴らしくお転婆だったので、その尻拭いも結構やらされたが。
 ともあれ、アザリンにとってユカは無二の親友であり、姉であり妹であり恩人でもあるのだ。


「ああ、パコパコと並ぶほどに大事な身内じゃ…。
 しかし、朕の身内だからと言って“破滅”が容赦する訳も無い。
 本人も…何と言ったか、あの武術大会が“破滅”のお蔭で潰れてしまったと憤っておったわ。
 アレは放っておいても戦いに参加するぞ。
 ならば最も効率のよい場所に置くまでじゃ」


「…当真大河と組ませれば、恐らく敵陣の真っ只中に突っ込みますぞ」


「よい。
 相手はあの“武神”ユカ・タケウチじゃぞ。
 召喚器持ちまで居て、サポート役の…セミビームじゃったか?
 と一緒に居れば、大抵の相手は蹴散らせよう」


「セルビウムです、陛下…」


 冷静に指摘するドムに、アザリンはちょっと照れ笑いした。


「そのセルビウムはどうした?」


「今頃はホワイトカーパス州に向かっているはずです。
 中間地点で一泊宿を取り、到着は遅くても明日の午後…。
 我々は少々急いで帰るので、予定通りに行けばその日の夕方には到着するでしょう。
 臨時ですが、シア・ハスが指揮を取る部隊に所属する事になっています」


「そうか…ともあれ、当真大河の役割は決まった。
 明日は早いぞ、もう眠れ」


「御意……よい夢を」


「……この部屋だ」


「ここか…何だか中から妖気が漂ってきている気がするな」


「千年前から、王女がちょくちょく使っていたようだからな…」


「いや、そうじゃなくてだな…」


「?」


 夕食を終え、大河とクレアは王宮の奥にある開かずの間の前に立っている。
 未亜達はまだ風呂に入っている筈だ。
 普段ならとっくに出ている時間なのだが、王宮の大浴場…しかも普段はクレア専用…なだけあって、設備が整っている。
 ちなみに設備が整っているのは、何代か前の王女がリフレッシュの為と称して色々と添えつけたからだ。
 クレアにとっての漫画のようなものだろう。
 あまりに設備が整っているため、未亜達は当分湯に使っているだろう。
 美容や健康にも効果アリ、と吹き込んでおいたので尚更だ。

 当のクレアはさっさと湯浴みを済ませ、こうして大河と待ち合わせている。
 ここは何時ぞやブラックパピヨンが発見した、数々の拷問器具が安置されている部屋である。
 本来ならまだクレアは入れないのだが、イムニティに頼んで扉を開けてしまっていたのだ。
 鍵はかけないが、結界を張ってカムフラージュしてある。


「……覚悟は良いな?
 以前の約束、しっかり果たしてもらうぞ」


「覚悟はいいな、は俺の台詞じゃないか?

 オ○ニーは済ませたか?
 ムチでしばかれる準備は?
 縛られてナカにでっかいのを幾つも捻じ込まれて“ホンモノ”を強請るココロとカラダの準備はOK?」


「……(ぶるぶるっ)。
 あ、ああ、OKだとも」


 大河の言葉だけで一瞬意識が飛び、恍惚の表情を見せてカラダを奮わせるクレア。
 早くもMモードが発動しつつある。
 最初は無謀にも大河に足を舐めさせようとすら考えていたのだが、はっきり言って経験地が違いすぎる。
 トランスモードに入っていればともかく、普段は未だにウブなままのクレアには太刀打ちできない相手だ。
 仮に強引に突き進んだとすると…こんな風↓になるだろーか。



「ほ、ほれ、踏まれて悦んでおるのか?」


「ああ、気持ちいいぞ……」


「そ、そうか?
 ならば、もっと…こう……こ、これでどうだ?」


「くっ、だ、出すぞっ!」


「え?
 うきゃっ!?
 あ、足が……ニーソックスに染み込んで……熱い…」


「これで終わりか?」


「う、うるさい、大河のクセに私にタメ口を聞くな!
 ………!
 出したばっかりなのに、あ、あんなに大きく…」


「どうした…んです?
 俺をカラカラに搾り取るんじゃなかったんですか?」


「だ、黙っていろ!
 くうぅ、も、もう一度だ!」


 顔が真っ赤になって、今にも脳天から湯気が出そうなのを堪えながら。



 ……これはこれでイイかもしれない。
 奴隷に翻弄される初心者女王様?
 それはそれでニーズがありそうだ。

 が、今のところそういう状態ではない。
 なぜなら…。


(この妖気…すっごい馴染みがあるんだよな…)


 大河は心中で呟いた。
 アヴァターに来てから、何度となく感じたこの妖気。
 何故ここから感じるのかは解らないが、この先の展開はもう読めた。


「よく解らんが、妖気が漂ってくるのだな?
 何か問題は?」


「…俺は無い。
 あるとすればクレアの方だが…」


「………?
 何だか知らんが、ここまで来て私が何を恐れるというのだ。
 他の男にどうこうされるのでなければ、Mモードの私は大抵の事は悦ぶぞ。
 先祖伝来の変態気質を舐めるでない。
 では、行くぞ」


 大河がブツブツ言っているのを黙殺して、クレアは開かずの間の扉を開いた。
 そして目が点になる。


「うっ…うぅ…く、はぁ…」


 苦しげな声が部屋の中に響く。
 真っ暗な筈の部屋の中は、ゆらめく蝋燭の灯に照らし出されていた。
 この部屋には他に灯りは無い。
 これも演出の一環なのだろう。

 その中心に、2人の女性が居る。
 クレアは無言で扉を閉めた。


「こらこら、せっかく来たんだからこの部屋を使わない手はないぞ。
 大抵の事は悦ぶんだろう?」


「は、離せ大河!
 確かに大抵の事は悦ぶが、アレは例外だ!
 大抵の事の範疇に納まらん!
 ああっ、入りたくないと言っておるのに!」


「はっはっは、これ以上待たせると女王様が俺にまでとばっちりをくれかねないからな」


 大河はクレアの体をガッシリ掴み、後退しようとするクレアを部屋の中に押し込んでいく。
 2人が部屋に入ると、扉はギギギギギ、と音を立てて勝手に閉まってしまった。


「おいでませ〜」


「むぅ…むぐ…」


「な、何故お主らがここに居る!?
 風呂に入っていた筈だろう!?」


「煩悩の力を甘く見ないでよねッ」


 答えになってない。
 部屋の中に居た2人の片方が、クレアを見て邪悪な笑みを浮かべている。
 もう言うまでもないと思うが、当真未亜その人である。
 そして何やら呻いているのが、三角馬なぞに乗せられ、口まで塞がれたイムニティだ。

 が、どうしてここに居るのか、クレアは納得行かない。
 未亜がこの部屋を知ったのは、イムニティから聞き出したのだろう。
 しかし何故クレア達よりも先にこの部屋に居たのか?
 この部屋に来る前に、全員が風呂に入っているかどうか確認しておいたのに。
 勿論、未亜は上機嫌で湯に漬かっていた。


「そうか…イムニティか?
 イムニティが瞬間移動で連れて来たんだな?
 イムニティが自分から言うはずが無いから、陵辱風味に襲って適度に刺激を与え、理性を蕩けさせて聞き出したな?」


「ぴんぽ〜ん。
 いやぁ、イムちゃんって虐め甲斐があるわ…。
 お蔭で私の経験値もビシバシ増えるよ」


 色々と言いたい事はあるだろうが、イムニティはもう蕩けきっている。
 ライバルの片割れたる赤の主に虐められて感じている。
 …もう精霊云々を語っても、誰も信じまい。


「クレア、このまま放っておくとサディスト未亜が洒落にならないほどパワーアップするぞ」


「そう思っているなら止めんかい!!」


「無理。
 むしろ俺も混ざる。
 そして未亜をM方向に調教して、俺に対しては極力Sモードが発動しないようにする」


「なっ、貴様自分一人だけ助かればいいというのか!?」


「あっはっは、私が折角専用コスチュームまで持ち出したのに、2人で遊んでるんじゃないわよぅ。
 ほら、さっさと服をお脱ぎ!
 そして首輪を着けなさい!」


バシィン!


「ひゃうっ!?」


 ムチが床を叩く音に、クレアは跳ね上がる。
 反射的に服のボタンに手をかけ、上着を一枚脱いだ。
 もう一枚脱ごうとして、ふと我に帰る。


「…ヤバかった…。
 このまま済し崩しに参加しては、明日の仕事が出来なくなってしまうやもしれん…」


「あー未亜、そのボンテージは何処から持ち出してきたんだ?」


「これ?
 結構前になるけど、カエデさんに王都の専門店に買いに行かせた事があるの。
 クレアちゃんを調教するんだから、わざわざ引っ張り出してきたのよ」


 なんと未亜の格好は、SMの女王様そのものだったりする。
 股間の食い込みが激しくチャックまで着いていて、胸は露出しており、腕には革製の手袋、ご丁寧にハイヒールまで履いている。
 ちなみにこのボンテージ服、股間の部分には張り形も装着可能だ。
 しかも前後に…今はやってないが。


「何でカエデに?」


「ま、色々あって…。
 それよりお兄ちゃん、クレアちゃんに命令してよ。
 私よりもお兄ちゃんが言った方が素直に従うみたいだし」


 クレアがザザッ、と大河から離れた。
 が、命令されてしまえば従うしかない。
 命令を聞く前に逃げようにも、入り口は大河の体で塞がれている。


「た、大河!?」


「そんな声出されてもな…」


「いいじゃないのクレアちゃん。
 私がメインになって責めるんじゃなくて、あくまでお兄ちゃんの指示の元でヤるから。
 言わば私とクレアちゃんとイムちゃんはお兄ちゃんのオモチャで、お兄ちゃんはオモチャ同士を絡ませて遊ぶの。
 お兄ちゃんが相手なら、大抵の事は嬉しいんだよね?
 イムちゃんの相手もしてたんだから、レズがダメって事はないでしょう。
 それともイムちゃんだからよかったのであって、私はダメ?」


「そ、その通りだ!」


 未亜から出された言い訳に飛びつくクレア。
 全くのウソではない。
 クレアは未亜を苦手にしている。
 初対面の時に危うく矢を打ち込まれそうになったのが原因だろう。

 が、この言い訳には意味がなかった。


「ふぅん、それじゃ調教の楽しみが増えるんだネッ!」


「ネッ、じゃないわー!!!!」


…結局、クレアは抵抗虚しく剥かれてしまったそうな。


 さて、こちらは風呂から出たばかりのリリィ達。
 湯上りほこほこで、高級品の寝巻きを纏っている。
 が、どうせ裸で寝る事になるのだろう。


「…未亜は何処に行ったの?」


「さぁ?
 気がついたら風呂場には居なかったでござるよ。
 深追いすると何やら危険な予感がするでござる…」


「まぁ…未亜さんですしね」


 酷い納得の仕方だ。
 が、説得力がある。


「じゃあダーリンは?」


「それにクレアちゃんもですの」


 そう言われて、ベリオ達はふと思い出した。
 ライバルの一人でもあるクレアは、自分達にゆっくり湯に漬かるように勧めてさっさと出て行ってしまった。
 てっきり仕事の続きがあるのだと思っていたが…。


「ぬ、抜け駆けされた!?」


「しまったでござる!
 師匠は我々と違ってそれほど風呂に時間をかけぬ…。
 我々が風呂場に釘付けになっている以上、師匠は自然とフリーでござった!」


「やってくれる…。
 私達をまんまと出し抜いてくれるなんて…」


 ようやく気付き、気炎を上げる。


「ならば未亜さんは、クレアちゃんを追いかけていったんでしょうか?」


「でも一体何処へ…」


 流石に王宮の構造に詳しい人間は居ない。
 ブラックパピヨンも王宮の構造は一通り知っているが、それも大雑把でしかないし、何処に居るのか予想も出来ない。
 いや、多分開かずの間ことSMプレイ用の部屋に居るのだろうが、そもそも自分達が何処に居るのかイマイチ理解できていないのだ。
 風呂場から自室への道と自室から大広間への道は覚えていても、風呂場から大広間へ至る道は解らない。
 況や秘密の小部屋なんぞ…。
 ただでさえ機密扱いで、人目に触れない場所に設置してあるのだ。

 が、ここには丁度いい人材が居た。


「少し待ってください、マスターの居所を探ります」


「リコ?
 マスターって……未亜の事よね?」


「はい。
 色々あって私とマスターはラインが繋がっているので、居所くらいなら……。
 見つけたら逆召喚で転移します」


 その手があった、と手を叩く。
 どうしてラインが繋がっているのかという疑問はうっちゃって、静かにしてリコの集中の邪魔をしないようにする。


「…見つかりました。
 ………?
 イムニティも居ますね…。
 掴まってください、飛びますよ」


 いそいそとリコの体に掴まる。
 ベリオが左手、ナナシが右手、カエデが頭に手を載せリリィがロール状になっている髪の片方を掴み、ルビナスは首に抱きつく。
 ふにょんとしたルビナスの感触にリコの顔がちょっと引き攣った。


「…で、では逆召喚を開始します」


 湧き出る劣等感とかを必死に押し込んで、リコは呪文を唱える。
 一拍置いて、空気が歪んだ。
 瞬間的に体を包む浮遊感。
 目の前がブラックアウトして、すぐに復帰する。
 逆召喚が完了したのだ。


「あ、いらっしゃーい」


 ……そして全員が固まった。
 ナナシですらも、直感的に感じ取った恐怖で。
 未亜の声である。
 自分達のすぐ後ろから聞こえてきた。


「……来ちゃったのか…」


 そして大河の声。


「……はぁ…はぁ…はぁ…」


「んん………んぅ…」


 でもって二つの荒い息と呻き声。
 情事の真っ最中に乱入してしまったのは明白だ。
 それだけならまだいい。
 自分達も参加する権利があるのだから。
 固まった理由は。


「もう、ちゃんとノックして入ってきたらよかったのに…。
 どうしてそんなにお行儀が悪いの?
 ちゃーんと躾をしないと…ね?」


 未亜の声が、思いっきり猫撫で声だったからである。
 いや、こんな声で撫でられたら猫だって逃げるだろう。
 現に潜在的ネコであるリリィは逃げ出したくて堪らない。
 黒ヒョウモードになっても太刀打ちできまい。
 何に太刀打ち出来ないかと言うと、未亜の声の中に含まれる……そのおっとろしいサディスティックな響きに。


「り、リコ…も一回…逆しょかん…」


「は、はぃ…」


 ガタガタ揺れる歯の根を強引に合わせ、“う”が発音できないまま無理に喋るベリオ。
 ぎこちなく呪文を唱えるリコ。
 あと3節。
 あと2節。
 あと1節。

 よっしゃこれで逃げられる!と思ったルビナス達だが、その希望は粉微塵に粉砕される運命にあった。


「リコちゃ〜ん、逃げたり逃がしたりしたらダメだよ〜。
 これ、マスター命令だからね?」


「はうっ!?」


「あっ、リコちゃん呪文を止めちゃダメですの!」


「…お、終わった…」


 ルビナスが天を仰いで覚悟を決める。
 リリィが崩折れ、ベリオは俯いて何とかブラックパピヨンに替わろうとする。
 カエデに至っては、辞世の句まで考える始末だ。
 リコは申し訳無さそうな顔で、リリィ達から目を逸らしている。
 マスターたる未亜に命令されてしまった以上、彼女達を逃がすのはもう不可能だ。
 もっとも、自分だけ地獄に引きずりこまれるのは寂しいので、最初から道連れにする気だったが。


「もう…どうして逃げようとするの?
 折角楽しいパーティだっていうのに」


「乱交パーティでもパーティではあるかな…」


「うん。
 オモチャも増えたしね」


 つまりリリィ達はオモチャ扱いである。
 もういい加減、大河にも手に負えなくなっているようだ。
 まぁ、それはそれで構わないと思っているのだが。
 プレイのバリエーションも増えるし、レズというのも中々興奮する。


「ね? だから一緒にキモチイイコトしよう?
 ほら、オモチャ一号二号もそうしてほしいって言ってるよ。
 ねぇ?」


 未亜が大きく手を動かす。
 それによって、何かが操作されてガタゴト音がする。
 さらにヴィィィィンと、何かが震える音もする。


「んっ! むぅっ、ング〜!」


「ふひゃあ!? なか、なかがこすれて…つ、つよい…!」


 そして誰かさん達の喘ぎ声も強くなる。
 その声には、確かに強烈な悦楽が滲み出ていた。
 何をしているのかは見るのも恐ろしいが、確かに未亜は『キモチイイコト』をしているらしい。
 …同じ事をされて気持ちよくなるかと言われると、全力で横に首を振ることになりそうだが。


「ま、ナンだな…諦めろ。
 そして俺と一緒に遊んでくれ」


 大河に笑いを含んだ声で言われて、恐る恐る周囲を見回す。
 …痛そうなのとか怖そうなのとか、あと動けなくなりそうなのが沢山ありました。


「「「「「い…いやああぁぁぁ〜〜〜〜〜!?」」」」」


「実を言うと、イムちゃんに頼んで防音結界張ってあるから、どんなに叫んで助けを求めてもムダなのよね〜♪」


 その日、救世主候補生達は知らない世界を垣間見た。


 翌日のこと。
 それぞれの目的地に出発する時間はまちまちである。
 辺境であるホワイトカーパスに出発する大河は朝早いし、逆にゼロの遺跡に向かうベリオとカエデは近場なので昼前に出発する。
 極秘任務につくリリィ達は誰にも知らないように出発する必要があり、ならばいかにも『何か在ります』と言わんばかりの夜に出発するのではなく、人ごみに紛れて昼間から夕方に出発する事になっている。

 で、大河が出発する時間になったのだが…。


「…誰も起きて来んのぅ」


「………」


「あ、あはははは…」


 アザリンの冷たい視線と言葉を、乾いた笑みで受け流そうとする大河。
 その隣では、ドムがこれ見よがしに頭を抑えている…頭痛がするほど繊細でもあるまい。
 無論のこと、アザリンはクレア達が起きてこない理由の見等をつけている。
 クレアと大河の関係も本人からある程度は聞いているし、それに対して特に何か気に入らないと思う事もない。
 が、もー少し場合を考えろとは言いたい。

 ちなみに途中で未亜も受けに回ったそうだ。
 そして大河もちょびっとソッチに引き込まれかけた。


「…タイラーめも、似たような事をして上官からの呼び出しに遅れた事があると聞きましたが…」


「なに、パコパコもか?
 …ふふ、あやつらしいのぅ。
 相手がユリコだというのが多少シャクではあるがな」


 クスクスと笑うアザリン。
 それに見とれそうになる大河とドム。
 慌てて気を引き締めるが、2人がそうした理由は全く別だった。
 ドムは己が忠誠を誓うアザリンに対してそのような感情を持ち、見せるのは不敬に当たる考えているため。
 大河には明確な理由は無いが、なぜかアザリンに対してはそのような反応しか出来ないのだ。
 恐らくクレアと違って、気軽にドツキ漫才のよーなマネが出来るほど相性が合ってないのだろう。
 まぁ、仮に合っていたとしても、大河とアザリンがアレな関係になる確立は低いだろうが。


「さて、こうしていても埒が明かぬ。
 当真大河、見送りが来ないのが寂しいかもしれんが、そこは自業自得というヤツでな」


「あはは…自覚してます。
 …連結魔術で作った神水をみんなに持たせておこうと思ってたんだけど…。
 枕元に置いてくるしかなかった…」


「…無類の女好き、か。
 …陛下に何かしたら…わかっているな?」


「あははは…それはもう」


 不要とは思いつつも、大河に脅しをかけておくドムだった。


「ところで…学園からも増援が来てるはずだよな…ですよね?」


「うむ。
 お前と組む事になる傭兵科のセルビウム・ボルトもな。
 …それと、陛下はともかく俺に敬語は要らん」


「…いいのか?
 一応上官相手に…軍じゃ示しが付かないんじゃないのか?」


「上官ではあっても一応だからな。
 立場としては、お前は派遣社員…軍人ではない。
 流石に公の場では相応の言葉遣いをしてもらうが、そもそも貴様に敬語を使われても寒気が走るだけだ…。
 それに、俺の部隊では上官相手とはいえ尊敬を強要する事はせん。
 上辺だけの敬意は摩擦を生む。
 お前が私を認め敬意を持った時にこそ、態度と言葉遣いを改めるがいい」


 随分と鷹揚な事である。
 大河は成る程、と内心で深く納得した。
 これが将の器というものだろうか。
 それだけの実力を持ち、そして自信を持っている。


「ん〜、じゃあ取り敢えずはタメ口で行かせてもらう。
 俺を使いこなせるんだろ?」


「ふっ、俺を誰だと思っている?
 精々じゃじゃ馬ぶりを発揮してくれ」


 大河はニヤリと唇を歪めた。
 これはつまり、大河にある程度の自由裁量を認めるという事だ。
 認めるだけであって罰が無くなる訳ではないだろうが、ドムから『好きにやれ』と承認を受けているのといないのでは、やり様が大幅に違ってくる。


「了解した。
 派手にやらせてもらうぞ」


「ああ、楽しみにしている」


 大河はビシっと敬礼をする。
 意外な事に、結構サマになっている。
 コイツは軍に所属した事があるのか、とドムは疑問を持つ。
 が、詮無い事である。


「それでは、そろそろ出発だ。
 陛下、馬車へどうぞ」


「うむ…道中の警護も頼んだぞ、ドム」


 大河とドムの会話から外れてお土産の点検なぞしていたアザリンが顔を上げて応える。
 よっこいしょ、と土産が入った袋を持って馬車に入るアザリン。
 付き人…ドムにでも持たせておけばよいのだが、パコパコことタイラーへの土産らしい。
 ちゃんと自分で持って帰りたい、との仰せである。


(…タイラーさんは幸せ者ですな。
 いつかしっと団がカチ込みかけに行きますぜ)


(ああ、あの陛下にあそこまで好かれているのだからな…。
 だが多少羨ましくとも、憎む気にも嫉む気にもならぬ…それがタイラーの人徳というヤツよ。
 …まぁ、しっと団には関係ないかもしれんがな)


(…ホワイトカーパス州にも居るんスか、しっと団)


(ああ、いくら潰そうが後から後から沸いて出るからな。
 既に演習の的扱いだ…。
 何せ軍…特に前線は男社会だからな…自然と女性との接触も少なくなり、女性に好かれる人間にはしっとを感じる事も多くなる。
 それに引かれて集まってくる事もあれば、本人がしっと団員になる事もある。
 中には男性に好かれる男性にこそしっとを感じる男も出るが)


(…やっぱ居るのか)


 想像してゲンナリする大河。
 ドムは大河の表情に苦笑した。
 今でこそドムも付き合い方を熟知しているが、彼も最初はそうだったのだ。
 …別に腐女子の喜ぶ性癖を身につけたのではない。


(そうイヤそうな顔をしてやるな。
 例え世間に反していようが、宗教的モラルに激しく逸脱していようが、はたまたOTAKUのネタにされようが、彼らも人間なのだ。
 話して解らない相手ではない…偶に解らないヤツも居るが、それを言ったら聞き分けのない人間は何処にでも居る)


(そりゃまーそうですが…ドムさんは平気なんスか?
 その…ほら、出世する前に…アレとか)


 ドムは眉を顰めた。
 一人の男として大河の反応は解らなくもないが、これでは部隊内で衝突が起きる可能性がある。


(襲われなかったか、とでも聞きたいのか?
 そういう事を防ぐために軍規、そして処罰があるのだ。
 まぁ、身の危険を感じた事があるのは否定しないが…相手はケダモノではなく、理性を持った人間だぞ?
 残虐性を人並みに持っているが、良識や良心もある。
 趣味が趣味と言えど、いきなり襲われる訳ではない。
 …アプローチはかけられるが)


 それに慣れるのもどうかな、と大河は思った。
 しかしドムの主張も尤もな話で、例え相手がモーホーだとしても、誰彼構わず襲ってくるのではない。
 相手にも好みや主義主張があり、誰でもいいからヤる、という訳ではないのだ。
 むしろケダモノに近いのは大河の方…。

 我が身を省みて少々思う所のある大河。
 実際、見送りが居ないのは大河(と未亜)がケダモノな所為である。
 うんうん唸っている大河を見て、ドムは馬車にさっさと乗り込んだ。
 内心で愉快そうに笑いながら……どうやら大河はドムに気に入られたらしい。


「っと、出発の前に……うん、お守りはあるな」


「ん?
 それは他の救世主クラスからの贈り物か?」


「まぁ、そんな所だ……ちょっと不本意だったかもしれんけど」


「?」


 実は昨晩、こんな一幕があったのだ。


 苦悶のよーな恍惚としているよーな声が響く中で。


「あ、そうだ!
 忘れる所だった……お兄ちゃん、これあげる」


「? …ボンテージ姿なのに、どこに仕舞ってたんだ…」


 首を傾げながらも、大河は未亜が差し出したモノを受け取る。
 それはお守りだった。
 神社などで売っているような、ごく普通のお守り。


「私達が地球に居た頃から持ち歩いてたお守りだよ。
 お兄ちゃんが持って行って。
 一番危険度が高いんだから…」


「未亜…」


 心遣いにジ〜ンと来る大河。
 が、そのお守りをよく見ると…。


「…これ……安産祈願って書いてあるんだけど」


「何かおかしい?」


「…いや」


 何のつもりで持ち歩いていたのかなど、言わずもがなである。

 未亜はにやりと笑うと、何処からともなくカミソリなんぞ取り出した。
 ビビって大河が引くが、未亜は構わない。


「それでね、どうせだから皆の思いもそのお守りに詰めておこうと思ったの。
 私のはもう入ってるから……見てみる?」


 カミソリ。
 お守り。
 思い。

 大河はピンと来た。
 そーっとお守りを開いてみると、そこにはちぢれた一本の毛。
 …未亜の陰毛である。


「全部剃ると気を取られてミスしちゃうかもしれないから、ちょっとだけね〜」


 嬉々としてクレアの股間にクリームを塗りに行く未亜。
 その姿を見て、実は自分が剃毛プレイしたいだけじゃないかなぁ、と思った大河だった。
 勿論その後参加したが…。



 ってな事があって、大河の持っているお守りの中には全員分の陰毛が少なくとも5本以上入っている。
 これがあればそれこそ万夫不当な気分の大河だった。
 ちなみに、未亜達もお守りを持っている。
 中に入っているのは大河の陰毛だったが…。
 全部は剃られてないが、ちょっとスースーする気がする大河だった。


 そして馬車は出発する。
 少数の護衛を周囲に配置して、ガタゴト揺れながら。
 今から出発すれば、ホワイトカーパス州には夕方に到着するだろう。
 それまではする事も無い。
 襲撃でもあれば別だろうが、ここはまだ王宮のお膝元である。
 仕掛けてくるにせよ、もう少し遠くまで行ってからのはずだ。
 定石を覆すのが奇襲の基本ではあるが、ここで仕掛けるのはリスクが大きすぎ、メリットは少ない。
 それに、仕掛けて来たとしても大抵の相手は配置された護衛だけで対処できる。
 何せドムが直接鍛え上げ、厳選して連れて来た猛者なのだ。

 そんな訳で、当分大河は何もする事が無い。
 自然と瞼が重くなる。
 昨晩は夜遅くまでムダにハッスルしていたのだから、当然と言えば当然だ。
 あわよくばアザリン様の寝顔を拝めないかなー、などと思っていた事は忘れてズルズルと眠りに落ちていった。


 約二時間後。
 ようやく未亜達が目を覚ましてきた。


「う〜、イタタタ…自分で頼んでおいてなんだけど、未知の世界を垣間見た…」


「あうぅ…ひ、ヒトとしてどうでござるか…」


「神様ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「あんな酷な事はないでしょう…」


「……………」


 口々にぼやく救世主候補生達。
 ルビナスとナナシはまだノックアウトされたままだ。
 遠出する必要が無いので、体力が回復しきるまで寝ている心積もりらしい。
 同じ原因でルビナスとナナシは重点的に攻められた。
 …真性Mのイムニティとクレアも同じくらいに責められた筈なのだが…。


「…お主ら、気合と若さが足らんのぅ」


「ふっ、無様ねリコ。
 そんな事でマスターの下僕…いや奴隷?
 とにかくそんな感じのが勤まると思ってるのかしら?」


 ピンピンしているクレアと、へばっているリコに対してここぞとばかりに勝ち誇るイムニティ。
 リコは怖い目でイムニティを睨みつけるが、気力が回復しきってないのか迫力も半減している。
 昨夜のアレで勝つという事はヒトとして負けるという事かもしれないが、ヒトとしての尊厳とオンナとして大河の傍にいる権利だと、微妙に後者が重い。
 そもそもリコとイムはヒューマンではない。

 高笑いをせんばかりのイムは放っておいて、いい加減に出発の時間である。
 本来ならクレアとイムだけでも見送りに行きたかったのだが、流石に早朝に復活するのは不可能だったようだ。
 …ぢつを言うと、2人の普段は見せない所には、未亜と大河のイタズラの跡とかがしっかりと付いていたりする。
 具体的に言うと、糸で敏感な突起を縛っていたり。
 よく見ると2人の顔は少し赤い。


「ほれ、さっさと乗り込まぬか。
 召喚器を身に付けておれば、その位の疲労は直ぐに回復しよう」


「問題は体力じゃなくて精神力ですよ…」


 色々とトラウマが残っているようだ。
 彼女達の昨晩の心情を代弁するならば、「ヤック・デカルチャー」オンパレードだろうか。

 ともあれ、ノロノロと馬車に乗り込むベリオとカエデ。
 カエデはさっきから無言である。
 一応拷問に対する訓練も受けているはずだが…所詮は一応だったらしい。


「いってらっしゃい…気をつけてね〜」


 比較的元気な未亜が、気の抜けた見送りをする。
 白いハンカチでも振ろうかと思ったが、今は無駄な体力や労力は一滴たりとも使いたくないらしい。
 おなじく気の抜けたまま手を振り替えすベリオとカエデ。


「…ふむ、あの調子だと速攻で眠るだろうな…。
 ……イムニティ?」


「了解したわ。
 そこそこ回復するまで、あっちの護衛に向かう」


「頼んだぞ」


 イムニティはフッと姿を消した。
 誰の目にも見えなかったが、馬車の中に転移したのである。
 別に姿を見せてもよかったのだが、そうなると帰る時に話がややこしくなる。
 リコと違って召喚器を持っていない(という事になっている)イムニティは、移動手段も限られてくる。
 何キロメートルの逆召喚なぞ、人間技ではないのだ。
 カエデとベリオが王都まで一瞬で転移するイムニティを見れば、彼女と、イムニティそっくりのリコの正体に興味を持つのは確実である。
 だからイムニティは結界を張って姿を消し、襲撃に備えるだけにしているのだ。

 ちなみに見送りに来ていたリリィと未亜は、イムニティが瞬間移動で居なくなった事も気付かなかった。

 少しの間手を振っていると、馬車が曲がり角を曲がる。
 ゼロの遺跡に到着するまでに、少しでも体力を回復させておかねばならない。


「…ベリオ殿、拙者一眠りするでござるよ…」


「私もです……。
 ええと、毛布毛布…。
 あら、一枚しかありませんね」


「なら一緒に寝るでござる…今更恥ずかしがる理由もないでござろう…」


 カエデが誤解(?)を受けそうな台詞を吐いたが、気にせずもぞもぞと一枚の布団に包まる2人。
 ふたりで大きく欠伸をして、そのままスヤスヤと寝息を立て始めた。
 馬車の中では、イムニティが姿を消したまま小説を読んでいる。
 カッポカッポカッポと気の抜ける音を立てながら、馬車は目的地に向けて進んでいった。
 ……この時の御者が普通の人間であった事に、2人…あるいはイムも入れて3人は感謝をするべきである…。


 で、今度は王宮。
 馬車を見送った未亜達は、夜までゆっくり眠るつもりだった。
 どうせやる事は無いし、疲れているし、この先は当分ゆっくり出来ないかもしれないのだ。
 今の内に惰眠を貪っておこう、と考えているらしい。

 1人だけ元気なクレアはと言うと、バリバリ仕事をこなしていたりする。
 アザリンが帰ってしまい情報処理能力は半分以下に落ちている筈なのだが、それでも驚異的なスピードである。
 流石にアザリンと2人で仕事をしていた時程ではないが、普段のスピードよりも当社比5割り増しくらいだ。
 どうやら昨晩のナニのお蔭で、精神的にも肉体的にも満足しまくっているらしい。
 欲求不満が解消されれば、自然と仕事の能率も良くなる。
 クレアはその能力を存分に発揮させまくっていた。

 一時間ほど書類を相手に格闘していたが、ふと手を止める。
 その目の先には、一枚の書類があった。
 他の書類を一端後に回して、クレアは書類を熟読する。
 そして暫く考えると書類を丸めて懐に仕舞い込んだ。
 時計を確認して、また仕事を再開する。
 そのまま一時間ほど経過した。

 コンコン、とドアがノックされる。


「誰だ?」


「クレア様〜、朝昼兼用ご飯ですよ〜」


「む、ダリアか。
 …小腹も空いたし、この辺りで一度小休止するか…。
 入ってきてくれ」


「はーい♪」


 トレイを片手で支えて、ダリアがドアを開けて入ってくる。
 美味そうな匂いがクレアの胃袋を刺激した。


「今日はまた一段と美味そうだな…料理長、何かいい事でもあったのか?」


「あー、どうやら昨晩の大騒ぎがお気に召したみたいですよ。
 料理長って基本的に騒がしいのがお好きですから…。
 本当は学園の方に就職したかったみたいですしね」


「ああ、向こうなら毎日毎日大騒ぎだろうな。
 週一で喧嘩祭もかくやと言われるほどの乱闘が起きるとか起きないとか…。
 本当か?」


「ええまぁ話半分とは言いますか、この場合話の方が半分といいますか」


「起きるのだな…。
 大河達が関わらなくても、あそこは常人には居座りづらい魔窟のよーな場所だし…。
 まぁ、初めて行った時に割りとあっさり馴染んだ私も私だが」


 フォークで料理を突付きながらクレアはぼやく。
 ダリアはと言うと、クレアのご飯から勝手に確保したパンとスープを対面に座って食べている。
 不敬と言えば不敬だが、彼女達の場合今更である。
 今までもそうだが、特に今後は。
 何故ならそう遠くない未来に、ダリアはクレアがM属性だという事を知る事になるからだ。
 弱みを一つ握られたよーなモンである。

 ちなみに食事を取られてクレアが怒らないかというと、全く問題は無い。
 なにせ元が多すぎるのだ。
 実を言うと料理長は、フローリア学園の食堂の料理長の兄だったりする。
 鉄人ランチは元々この2人が考え出したメニューで、弟の方は月一くらいで鉄人ランチの日を実施するが、兄の方は毎日である。
 若い者は沢山食べねばいかん、とばかりに、クレアの胃袋の許容量の2倍近い量を毎日毎食出してくるのだ。
 まぁ、王宮にはリコのよーな無限の胃袋が居ない分、量もギリギリ常識的な範囲だが。


「そう言えば、料理長はリコちゃんに会えて嬉しそうにしてましたね」


「ソッチの趣味でもあるのか?
 まぁ、救世主クラス自体がある意味ではアイドルのようなモノだがな」


「いえ、何でも弟さんからリコちゃんの事を聞いてたらしいんです。
 救世主クラスに、鉄人ランチを平然と食べきる童女が居るって。
 兄弟でメニューを考えて、それを全部食べきってくれるのが嬉しいとか言ってましたね。
 昨日リコちゃんがメチャクチャ食べたじゃないですか。
 あの時なんて、持ち場を放り出して突撃した挙句、文官用食堂の料理長にドロップキックとパロスペシャルとレッドホットシューティングスターとかいう複雑な間接技を決めて気絶させ、調理場を占拠しちゃったんですから。
 結局食材の在庫が全て切れるまで料理を続け、リコちゃんもそれを全部食べきったとか」


「…どこに入るのだ…とりあえず、今日の仕事が一つ追加だな。
 食材を買い付けねば……。
 ところで、どうして兄の方はこちらに勤めているのだ?
 あの腕だ、学園でも充分採用されるだろう。
 それに兄と言うからには、先に自立して職探しもしたのだよな?
 学園に入るには、やはり彼の方が有利だったのではないか?」


「そんな大した理由はありませんわ。
 2人同時に修行を始め、2人同時にお墨付きをもらい、2人同時に学園に就職希望し、2人同時に採用されそーになったんですけど流石に定員オーバーで。
 結局どちらか1人を雇う事になったのですが、遺恨無しという事で一発勝負のジャンケンをしたそうです」


「…えらいお気楽な決め方だな」


「そうでもありませんよ。
 聞いた話では、足の骨とか頭蓋骨とかアバラとか大胸筋とか、色々とヒビが入ったり砕けたりしたそうですから。
 足ジャンケンって知ってます?
 両足を揃える、開く、前後に出すの三種類でやるジャンケンなんですけど、これがもう物凄い蹴りの応酬だったそうです。
 最終的に、料理長がドロップキックのグー、学園の料理長がカポエラみたいに逆立ちして大股開きでの回転蹴り…ワン○ースのコックさんがよくやってる蹴り技ですね…パーで勝負有り。
 両腕が無事だったのは、お互いコックの端くれとして神聖な包丁を握る手を狙う事はプライドと矜持が許さなかったとか」


「…見上げた根性だ…。
 で、それを見ていた父上が是非にとスカウトしてきたのだな。
 父上がやたらと料理長を気に入っていた理由がようやくわかった…」


 ちなみにダリアも同じクチである。
 クレアの父親にやたらと気に入られていた。
 ぶっちゃけた話、変人や何処かイカれた人物が好きだったのである。
 ダリアしかり、料理長しかり、何時ぞやの暴走御者しかり。
 もしも大河と会っていたら、非常に気に入った事は疑問の余地もなかろう…。
 ……クレアにやった事を考えると即刻死刑極刑獄門だろうが。


「ところでクレア様、未亜ちゃん達はどうしてます?
 昨日から会おうと思ってたんですが、何だか姿が見えなくて」


「……ま、色々とな…。
 …………さて、食事も終わったし、私はちょっとリリィに用事がある。
 一緒に来るか?」


「ええ、勿論ですわ。
 …ところで、何時からリリィちゃんを名前で呼ぶように?」


「昨晩からだ」


 それ以上の追求をシャットアウトするように厳しい声音で返事をするクレア。
 ダリアとしては突っ込んで聞くと非常に面白そうだと思ったのだが、ここで突っ込んで拗ねられても困る。
 一度根に持つと長いのだ、クレアは。


「どうでもいい事だが、リリィ達は今日は夕方まで復活せんと思うぞ」


 …それを聞いただけで、ダリアは大体の事情を飲み込んだ。
 流石にプレイの事までは気付かなかったが、それでも非常に激しい内容だった事くらいは推察できる。

 胸を張って歩くクレアと、胸を揺らして歩くダリア。
 コンパスが違うので歩くスピードに差があると思われがちだが、クレアの足は回転数が高い。
 ダリアが普通に歩くのと同じくらいのスピードである。


「クレア様、リリィちゃんに何の用事なんですか?」


「昨日頼まれた調査の結果が届いたのでな。
 知らせておこうと思っただけだ。
 …っと、リリィの部屋はここだな」


 客室の前に立ち、クレアはゴンゴンと扉をノックする。


「あー、リリィ・シアフィールド、リリィ・シアフィールドー。
 起きろエキセントリック魔術師、ネコ、黒ヒョウ、ツンデレ、えーと大河にデレデレなのが見え見えのマザコン純情娘。
 3秒以内に起きない場合、こっちから不法侵入するぞー」


 …なんとも気の抜けた声だった。
 本気で起こそうとしているとは思えない。

 ダリアは部屋の中の気配を探る。
 …確かにリリィは居るようだが、全く反応を示さない。
 普段のリリィならネコあたりで飛び起きるだろうに。
 よほど疲れているらしい。


「ふむ、3秒待って、さらに10秒待った。
 これで何の音沙汰も無しだから、私が不法侵入する大儀名分は確保したな」


「不法な時点で大儀名分も何もありませんけどね〜」


「止めるか?」


「私は一応止めたという事で」


 クレアは軽く笑って、懐から鍵の束を取り出した。
 何の躊躇も無く鍵を突っ込み開錠してしまう。

 音も立てずにコソコソ入り込むクレアとダリア。
 ダリアは諜報員なので当然と言えば当然だが、クレアも気配を消すのが妙に上手い。
 意外と素質アリかも、なんて考えながら、ダリアはゆっくりと上下しているベッドに近付いた。


「…よくお休みのご様子です」


「…どうしたものかな……。
 今すぐ伝えねばならない程の事でも無し、出発前に伝えればいいが…折角ここまで来たのだしな」


 影にならないように、クレアはリリィの顔を覗き込む。
 …何とも間の抜けたというか、緩みきっている寝顔だった。
 昨晩のプレイが左様に厳しかったのか?
 クレアとしては丁度いいくらいだったのだが…。


「…起きる様子はありませんわ〜」


「……仕方ない、一度戻るか」


 あっさり決断して、クレアは踵を返した。
 ダリアも拍子抜けしながら後に続く。
 と、リリィがモゾモゾと動いて寝返りを打った。


「ん〜……にゅふふ…大河ぁ…もっと撫でてぇ〜……」


「………」


 クレアの額に青筋が立った。
 大河が複数の相手と関係を持つのは、まぁいい。
 自分は奴隷(床でのみ)であるからして、主人の女性関係やらに口を出す権利はない。
 そもそも独占しようとしても体力的に不可能だし、複数プレイの味も占めてしまった。
 そっちはいい。
 が、自分が面倒臭い仕事をバリバリこなしているというのに、コイツは夢の中で幸せに大河と遊んでいるのである。
 クレアがちょっとイライラしたのも不可抗力だろう。

 クレアは無言で懐からおやつの蜜柑を取り出した。
 皮を剥いて、リリィの顔の前にそれを近づける。


「…すぷらーっしゅ」

ピュッ

「ふにゃああぁぁ!?」


 ニヤリと笑うクレアと、跳ね起きたリリィ。
 蜜柑の汁がリリィの鼻に直撃したらしい。
 あと目にもちょびっと入っているようだ。

 幸せな夢から一瞬で叩き出されたリリィは、強いニオイ(ネコは敏感だ)に涙が出そうになるのを堪えながら周りを見渡す。
 クレアとダリア。
 リリィは即座に状況を理解した。


「だ、ダリア先生!
 何をするんですか!?」


「え、私じゃないわよ!?」


「普段の言動を鑑みれば、誰でもダリア先生だと思います!」


 …ただし、聊か間違って。
 リリィは鼻を抑えて、警戒心を露にしている。
 しかし、何時の間にか発動しているネコミミシッポのお蔭で迫力は丸で無い。
 ミミが警戒を露にして前に倒れているのがとってもキュートだ。


「ふっ、効果抜群」


「クレアがやったの!?
 一国の王女ともあろう者が何を考えてんのよ!」


「夢の中でナニをしておったのだ? ん?」


 反射的に先程の夢を思い出してしまい、言葉に詰まるリリィ。
 その隙にクレアはさっさと話を進めてしまう。
 この辺のリズムは、幼い頃から仕込まれた技能の賜物である。


「それより、昨日頼まれた調べ物の結果が届いたぞ。
 とは言っても、さわり程度の事でしかないが」


「昨日の…?」


「忘れたのか?
 エウレカ・ヘブンと…アルディアとかいう女の事だ」


 エウレカ・ヘブン?
 リリィはちょっと考えて、ようやく思い当たった。
 エレカの事だ。
 昨晩の恐怖とトラウマと屈辱と、あとちょっと芽生えた危険な性癖を拭い去るのに必死ですっかり忘れ去っていた。


「エレカの事!?」


「ああ、そういう名前だったか……ってこら、詰め寄るな詰め寄るなヨダレの跡が付いてる首を絞めるなー!」


「リリィちゃん、落ち着いて落ち着いて!
 クレア様が死んじゃったら、私は誰にお給料もらえばいいの!?」


「お義母様から貰ってるでしょうが!
 大体学園の教師のダリア先生が、どうしてクレアから給料を貰うんです!?」


「あ、それもそうか」


「だーりーあー!」


 そろそろ本格的に苦しくなってきたクレアは、必死でリリィの頭の上に手を伸ばす。
 そして目的の物を探り当て、ちょっと力を入れて握る。


ふにょん


「うにゃーー!?」


「おっと」


 リリィがクレアを反射的に放り出す。
 クレアは危なげなく着地して、ダリアに冷たい視線を送った。
 そっぽを向いて口笛なぞ吹くダリア。
 しかし、それで逃げられるほど甘くない。


「…ダリア、減棒三ヶ月だ」


「うっ…わ、私は一介の教師ですわ…お給料はミュリエル様が決めているので、クレア様と言えど…」


「ならミュリエルにも命令する。
 減棒5ヶ月だ。
 そして一介の教師ならば、王宮から給料を支払う理由も無いな。
 この一ヶ月分の給料は、私が着服してC会計に放り込んでおくとしよう」


「あら、本当にあったんですのC会計…って、墓穴を掘った…」


 がっくりと項垂れるダリア。
 一方ネコモードを発動させたリリィはというと、頭の上にピョンと立っているミミを抑えて涙ぐんでいる。
 結構痛かったらしい。
 クレアはネコミミを握った自分の手を見詰める。
 多少力を入れすぎたようだが……。


「よい触り心地だった…」


 至福を噛み締める。
 涙を堪えるネコりりぃもいいなぁ、という天の声が聞こえた気もするが、クレアは気にせず話を進める。


「リリィ、落ち着いて聞けよ?
 今度話の邪魔をしたら、一晩中耳元で掃除機を作動させられると思え」


(ブルブルブルブルブル)


 想像したのか、ネコりりぃは青い顔である。
 いや、ここにはツンとデレの対象である大河は居ないから、敢えてリリィと呼ぶべきだろうか?
 しかし、こういった何気ない挙動も萌えと言えば萌えであるし…。


「昨日頼まれたアルディアのアリバイ調査だ。
 早馬を飛ばして、一晩で調べて貰ったのだ…うむ、ボーナスを弾まねば。
 何せ曰く付きのあの御者に頼んだからなぁ…ほれ、お前達が前回の遠征に行った時のあの御者だ」


「あ、あの御者!?
 なんで態々そんなデンジャーな…」


「言いたい事は解るが、実際速いのでな。
 2時間かけずにパナマ州に到着するのは奴以外には不可能だ。
 他の人間では、調査の為の時間すら無くなってしまう。
 遠征に向かう前に一応でも調査結果を出しておいてくれと無茶を言ったのだ。
 医務室のベッドで馬車酔いに苦しんでいる諜報員達に感謝しろよ」


「ええ、本当に心の底から…あの御者が運転する馬車に乗せるなんて、本当にすまない事をしたわ…」


 実際に命じたのはクレアだけど。


「それで、結果の方は?」


「…白だ。
 時間が無かったので大した調査は出来なかったようだが、確かにアルディアとやらはパナマ州に居たらしい。
 無理を言って宿屋の宿泊記録を見せてもらい、幻影石を見せて聞きまわったら、確かに彼女はあの近辺をウロウロしていたという結果が出た。
 父親の事業か何かの手伝いだと言っていたが、そこまでは確認が取れなかったな」


「……そう…」


 やはり別人なのか。
 リリィは力なくベッドに座り込んだ。


「…調査は今後も続ける。
 確かにアルディアとやらはエレカ・セイヴンとは別人だったかもしれんが、何かしらの関係がある可能性は非常に高い。
 半分くらいは私のカンだがな…。
 話はそれだけだ。
 何か聞きたい事はあるか?」


 リリィは俯いて答えない。
 またエレカに対する不審と信頼が湧き出してきて葛藤しているのだろう。
 心に引っ掛かるモノを一つでも減らしておいた方がいいだろうと思っての事だったが、逆効果だったかもしれない。

 が、ここにはそれを吹き飛ばせる御人が。


「はい先生!」


「なんだダリア」


「遠征に持って行けるおやつは幾らまででしょうか!」


「結局ソレかい!?
 だいたい幾らまでも何も、昨日メチャクチャ買い込んでただろうが!
 おやつは300円(日本円に換算)までと決まっておるわい!」


「それじゃリリィちゃん、これ」


「へ?」


 いきなり話に引きずり込まれて驚くリリィ。
 その腕に大きなバッグが押し付けられた。
 見た目の割には軽い。


「だ、ダリア先生、これは!?」


「昨日買ったおやつよん。
 ところで、そこの値札は幾らだって記入してある?」


 リリィはやたらと嵩張るバッグに付いている値札を見る。
 どう見ても後から付け足した物だ。
 そもそも字がダリアの字である。


「…300円」


「はい買ったぁ!」


 即座にダリアがバッグを奪い返し、そしてリリィに300円を渡す。
 唖然とするリリィと、何を言い出すのか解ったクレア。


「リリィちゃんから300円で買い取りました!
 これでOKですねクレア様!?」


「もー勝手にせい……クソ、その手があったか…。
 私もやればよかった…」


 かつて父母の休日にピクニックに連れて行ってもらった日の事など思い出し、悔しさに歯軋りするクレア。
 それを見ていたリリィは、思わず噴出してしまう。


「ふふ…ダリア先生、この300円は私のですよね」


「で、出来れば返してほしいわぁ…おやつを買い捲っちゃったから、今月は金欠で…」


「さらに理由はよく解らないけど減棒を喰らったと」


「いやぁ〜ん!」


 これ以上地雷を踏むまいと思ったのか、それともリリィはもう大丈夫だと思ったのか。
 ダリアは泣き真似をしながら、高速ダッシュで出て行った。

 苦笑しながらそれを見るクレア。


「さて、私もそろそろ仕事をせねばな。
 そろそろ行かせてもらうが…リリィはどうする?
 また寝るのか?」


「目が冴えちゃって寝れそうにないわ…。
 軽くウォーミングアップでもして来るわよ」


「そうか…ではその前に!」


「?」


「ネコミミを触らせてくれ。
 先週の乱交にも参加できなかったし、昨晩も私は受けオンリーだったからな」


 どうやらさっき触った感触の虜になってしまったようだ。
 リリィとしてもそれは別に構わないのだが…。


「…どうして先週の事を知ってるの?」


「…………いやどうしてと言われても」


「…まさか………」


 覗かれていた?
 覗いたのを気付かれた?

 ギリギリな緊張感の中で、冷や汗がダラダラ背中を伝う2人だった。
 そして何の弾みか、先週の乱交映像とその前でレズっているクレアとイムを記録した幻影石が発動し、エライ騒ぎになった事をここに記す。


「な、なぁ、な〜〜〜〜〜!」


「ろ、ロックをかけておいたのにどうして発動するんだー!?
 そもそも私の部屋の金庫に厳重に保管しておいたのにー!?」


 作者の運命介入のためです。


「う〜ん…う〜ん……ああっ、ご主人様、それは人としてアレです…。
 ううぐ…い、イムニティ……調子に乗らないでください…うぅ、でも尊厳とかプライドが…」


「えへ、えへへへ…責めもいいけど受けもいいなぁ…むにゃむにゃ」


 そしてまだ寝ている二人だった。


 その数時間後、赤く日が染まる頃。
 城下の馬車亭で、時刻表に無い馬車が目撃された。
 何処にも停車せずに素通りして行ったその馬車の事など、忙しない人々はすぐに忘れ去ってしまう。
 その馬車の中に、救世主候補生や巨乳教師間諜が乗っていた事など、当然誰も知らなかった。
 …そしてその巨乳教師間諜と一名の救世主候補生との間で、熾烈なおやつ争奪戦があった事も。




こんばんは、時守です。
ここ最近、気が緩みっぱなしでエライコトになってます。
あと2週間以上春休みだし、大学生っていいなぁ…。
今車の運転をしたら、絶対に事故を起こす自信があるくらい緩んでます。
こんな事でいいのか俺!?


それではレス返しです!


1.文駆様
根の世界っていう設定は便利ですねー、何が居ようと違和感がありませんw
イムニティは変わりまくってますが、原作ハーレムED後も性格は変ってるっぽいですね。
リコを相手に毎日ケンカしてるみたいだったし。

ゼロの遺跡で苦戦したのは、下調べをせずに戦力を分散したからだと思っています。
それに、人質も取られていましたしね。
それさえなければ、割と楽に勝っていたんじゃないかと思っています。


2.根無し草様
893+S未亜は、時守が幻想砕き内で考えている最も恐ろしいキャラですから…。
クレア様でも準備万端整えねば抵抗できませぬ。
マッド状態でないルビナスなぞ恐れるに足りん、ってくらいに。

ネコはいいですねぇ…。
ちなみに、ネコりりぃは本当にほぼ毎晩色々と可愛がられています。


3.アレス=アンバー様
駄洒落百選は、音読以前に書き込まれた本の時が凍るくらいのレベルです。
時が凍っているので、どれだけ時間が経っても劣化しないという、ある意味究極の冷蔵庫。

そ、そうだった…ナナシが居ると、王宮の本棚が全てドミノ倒しになりかねん…。
……楽しそうだなぁ。

テレパシーを使った羞恥プレイ?
その手があったかッ!


4.くろがね様
ネットワークネタは次回になりますね。
笑いのネタじゃありませんけど…。
最近以前のような一発芸みたいなネタが無くて苦労してます。


5.蓮葉 零士様
心の痛みを自覚させるアイス、ですか。
そう言えば、本の最後の辺りで新しいアイスを売ってましたね。
本棚に押し込んで一年以上、また読みたくなってきました。

孔明がバベルの塔のマザーコンピュータ…なるほど!
それなら首領がバビル2世なのにも説明がつく!


6.竜神帝様
エンジェルブレスですか?
HPに行って確認してきましたけど…デュエルセイバーとはあんまり関係無さそうでしたね。
以前のレスで、“破滅”の将がケモノ娘になるという情報がありましたが…これの事だったんですね。


7.流星様
いやぁ、未亜に対抗するにはカミングアウトくらいしないと話にならないでしょう。
未亜からしてS丸出しですし。

不気味な泡の同類になら何度か会ってる筈ですよ。


8.影月 七彩様
原作みたいなキレ方をしたら洒落になりませんからねぇ…。

ヒロイン1人1人とのラブを書こうと思ったら、時間がどうのと言う以前にネタが…。
次はベリオのを書きたいですね、出番が激減してますし…。

クレアのアレは、戦力差も考えずに大国に喧嘩を売るのと同じ行為なのでは?


9.カシス・ユウ・シンクレア様
今のところ、クレアは性癖的にも未亜に唯一対抗できる可能性を持つ人材ですね。
ミュリエル? ネコ化してしまうので無理です。

パコパコがハーレム作ってるのはちょっと想像し辛いです…。
ユリコさんは言うに及ばず、アザリン様もそっち方面は堅い倫理観を持っていそうですし。
うかつに両手に花を実行すると、あっという間に棘で悲惨な事になりそう…。


10.悠真様
クレア様、トラウマどころかお楽しみだったようです。
ある意味、S未亜初敗北?

確かに能力的には政務もこなせると思いますが…デスクワークをやらせると、途中から面倒臭くなって、さらにストレスがたまって暴れだしそうです。
あ、そっちのストレスは夜の性活を激しくして解消してるのか。


11.ガンスベィン様
お久しぶりです。

おお、二段オチですか。
それにしても、リアルに怖い選択肢ですね…。
S+893状態の未亜が出してくる選択肢だから、マトモな筈もありませんが。
未亜的には、3を選んでもそれはそれで好都合…?


12.K・K様
オギャンオス!

ふっ、まだ真の覚醒ではないですよ。
場合によっては、もう一つ追加するかもしれません。
その恐怖を書ききるのは至難の業ですが…。

そ、そういう分け方もあったか…。
そんな事は全く考えてなかったのに、なんと言うか仕組まれたよーな采配ですな。

もしS+893が、リコにも伝染した日には…?

では、オギャンバイ!


13&14.舞ーエンジェル様
お久しぶりです!

今回の893未亜は、前とはちょっと趣向を変えてみたのですが…ホラーでしたか?
白化未亜も洒落にならなかったけど、こっちもこっちでエライコトに…。
今の彼女のシンボルカラーは何色でしょう?

シェザルと無道は…直接対決は当分ありませんね。
シェザルはその性格上(幻想砕き基準)、トラウマを作るのはちょっと難しいかも…。
無道にはある意味致命的な傷を負ってもらう予定です。

吸血鬼になるって話にも、色々バリエーションがあるそうですよ。
噛まれたら無条件でとか、その傷のために死んだ時限定だとか。
しかし…ヴァンパイアじゃなくても、アレならアリ…かな?
一考させてもらいます。

ロベリアの体は、本人が始末するように命令したんじゃないですか?
どうも自分の容姿を嫌悪していたようですし、忌まわしい過去よさようなら、って意味で。
うーん…ロベリアは元の体に戻すか新しい体にするか、正直迷っています。
容姿も、精々黒い髪くらいしか考えてません。


15.なな月様
武装はともかく、デンジャラスなでっかい仕掛けはありますよ。
図書館にじゃなくて、ルビナス・ナナシの体にですけど。

ゲッターか…ゲッター線って、あんまり知らないんですけど進化を促すんでしたっけ?
それって放○能の一種と違うよな、と不安に思っていた時期がありましたw
しかし、あの3人で合体変形……むぅ、ロベリアボディは追加装甲にしなければ。

未亜の強さは、問題のある方向に限定されてると思うのですがねぇ…w
欲望に任せて“破滅”を呼びそうだと思った事も幾度か…。

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