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「これが私の生きる道!オーブ決戦編3(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-03-10 22:48/2006-03-15 01:17)
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(8月9日午前4時、オノゴロ地下基地格納庫)

早朝の格納庫は、整備兵達や待機任務中のパイロッ
ト達で溢れかえっていた。
整備兵は昨日の長時間の酷使で損耗の激しい機体の
修理と整備で忙しく、24時間の交替任務につてい
た。
パイロット達も万が一の夜襲に備えて、交替で警戒
にあたっている。

 「結局、夜襲はなかったようだな」

俺が1人で安堵していると、後ろからオーブ軍の軍
服を着たクルーゼ司令に声をかけられた。 

 「おはよう、カザマ君。朝早くからご苦労だな」

 「クルーゼ司令も早いですね。しかし・・・」

今更、中立もクソもないような気がするが、降下作
戦に従事したものと、オノゴロ基地にディンで降り
たパイロット達は時間を溯ってザフト軍を退役後、
オーブに傭兵として雇われたという形式になってい
た。
当然、クルーゼ司令も同様の形を取っているので、
一佐の階級章を付けて、オーブ軍の軍服を着ている

 「君達は若いから何を着ても似合うのだろうが、
  私にはつらいものがあるな」

 「クルーゼ司令には、ザフトの軍服が一番似合っ
  ていますね」  

 「確かに、その通りだな。だが、なし崩し的とは
  いえ、オーブ軍の給料も貰える身分になったの
  だ。これは、嬉しい誤算だったな」

妻帯者、ラウ・ル・クルーゼのお小遣いはピンチな
のだろうか? 

 「結婚すると、お小遣いが厳しいのですか?」

人生の先輩に、経験談を聞いておく事にする。

 「今年初め、3ヶ月の減棒処分を受けた時に、小
  遣いを減らされてしまったのだ。その後、給料
  は元に戻ったのだが、何故か小遣いがそのまま
  の金額になってしまってな。家のローンとか、
  戦争の影響による物価の上昇とか、色々屁理屈
  を並べたれられて一向に元の金額に戻らないの
  だ」

ザフト軍最強のパイロットとして、連合に恐れられ
ている男も、嫁さんには勝てないらしい・・・。

 「ミサオさんでしたっけ?そんなにケチなんです
  か?」

 「プラントを出発する前に、子供が出来たと言わ
  れてしまってな。それも、原因だそうな」

えっ!そうなんだ。
この事実を知らせた時の、アスラン達の驚きは想像
を超えるものになるだろう。

 「それは、おめでとうございます。でも、それで
  は仕方がありませんよ。子供にはお金がかかる
  ものですし・・・」

 「更なる減額も予想される事態だ。これは、非常
  にまずいな」

 「それは、大変ですね。私は一人身なので気楽に
  やっていますが」

チャンスなので苛めておこう。

 「君も他人事ではあるまい。ラクス嬢と結婚した
  ら、同じ目に遭うのだよ」

な!バレてるじゃん!

 「あの・・・、どうしてそれを・・・」

 「私の親友が誰なのか、知っているだろう?」 

デュランダル外交委員長か!
後で、ラクスに報告してお仕置きだな。

 「彼女は俺の給料なんて当てにしていませんよ。
  多分・・・」

クライン家は金持ちだからな。
そう、思いたい・・・。

 「立場の弱いもの同士仲良くやろうではないか。
  他に同士も増えるだろうからな」

 「誰なんです?他の同士って」

 「君の同期のスズキ君がそうではないか」

 「ジローですか?」

パナマ作戦でクルーゼ司令と行動を共にしたジロー
は、作戦終了後、再びプラントに戻って新型機や新
装備のテスト評価部隊の隊長に就任していた。
以前、結婚する予定だったのだが、婚約者が軍に志
願してしまって、式が終戦後に延期になってしまっ
たらしい。

 「結婚は延期になったと聞きましたが・・・」

 「あくまでも、式だけ延期で2人で一緒に住んで
  いるようだぞ」

 「よく知ってますね」

 「本人から聞いたのだ。彼の小遣いが幾らか知っ
  ているかね?」

 「さあ?」

 「一ヶ月150アースダラーだ」

 「うわっ!少なっ!」

ハイスクール生の小遣い並だ。

 「そんなわけで、君も色々大変になるのだよ。覚
  悟を決めたほうがいい」

 「俺にはへそくりがありますから」

 「ラクス嬢にそんな手が通用すると思うかね?」 

しまった!絶対にバレそうだ。

 「その点、アスランは羨ましいな。両家とも資産
  家だからな」

クルーゼ隊長は、アスランとカガリの事まで知って
いるらしい。
本当に不思議な人だ。

 「しかし、情報が速いですね。どこから仕入れて
  いるのですか?」

 「ヨップ君とギルバート経由がほとんどだが、他
  にも特別なルートを持っている」

特別ねえ。
まあ、話半分に聞いておくか。
クレーゼ司令だし・・・。

 「お小遣いの件ですか、私は資産運用で増やして
  使っているので、結婚しても大丈夫ですよ。ク
  ルーゼ隊長も情報ルートを多数お持ちなら、そ
  れを利用したらどうですか?」

 「それもそうだな。では、オーブ戦が終了してプ
  ラントに戻ったら、第一回の会合を開こうでは
  ないか」

 「何の会合です?」

 「配偶者の横暴対策委員会だ。会長は私で副会長
  はギルバートだ。君には書記長の椅子を空けて
  あるから、安心して結婚してくれたまえ」

何だ?その組織は・・・。
デュランダル委員長も入会してるのか?
なんか結婚する気を無くすよな。

 「では、私はジャスティスの調整があるからこれ
  で」

クルーゼ司令は言いたい事だけ言って去っていった

昨日の戦闘後、自分のパイロット特性を考慮した結
果、ディアッカと機体を交換する事にしたらしい。

 「ザフト出向組の指揮はどうするのかな?」

クルーゼ司令に一佐の階級が与えられているのは、
降下部隊とディン部隊の指揮を一任されているから
なのに・・・。

 「ラスティーに押し付けるんだろうけど」

その事を考慮して、ラスティーに三佐の階級を与え
た自分の手際の良さに感心してしまう。

 「(エンデュミオンの鷹)対策を一任するから問
  題ないか」

そう思う事にした。
あの人相手に深く考えると負けだ。

 「あの、エリカ主任。あの2人って本当に一佐な
  んですか?1人は仮面を付けている上に、小遣
  いの金額の話を真剣にしているし、もう1人も
  結婚生活の事を真剣に聞いているようだし、本
  当にオーブって大丈夫なのでしょうか?」

傍で聞き耳を立てていた若い整備兵が早朝出勤して
きた、エリカ・シモンズ主任(一尉相当)に心配そ
うに聞いている。

 「そんな事は知らないけど、私も2人目が欲しい
  から、旦那の小遣い削ろうかな?」

エリカ主任の言葉に若い整備員は唖然としていた。


(午前5時、ドミニオン艦橋)

前日、プリンス准将が旗艦「ピースメーカ」と共に
撤退した事により、急遽、ドミニオンはニミッツ大
将の指揮下に編入されていた。
その事により、多少厄介なものを押し付けられたが
・・・。

 「おはようさん。ラミアス中佐」

 「おはよう。フラガ少佐」

艦橋に詰めているラミアス中佐に、フラガ少佐が挨
拶をした。  

 「どうかしたの?」

 「昨日の連中が格納庫に陣取っていて、辛いもの
  がある」

 「ササキ大尉達の事ですか?普通の人達に見えた
  けど。凄腕ではあるのでしょうが」

 「何か暗いんだよね。うちだって生き残りはレナ
  少佐と俺だけなんだから、悲しいに決まってい
  るのに、連中の暗さといったら・・・」

 「そうなの。で、あの2人は?」

あの2人とは、完全に忘れられつつある、オルガと
クロトの2人の事である。
特に、クロトのレイダーは旗艦上空の直衛に回され
ていたので、昨日は全くいいところが無かった。
オルガもアスランのジャスティスに勝負を挑まれっ
放しで、スコアが全く稼げていない。
おかげで、ドミニオンに回された時は不機嫌そのも
ので対応に苦慮したのだ。

 「今は、大人しくしているみたいだけど、あいつ
  ら階級なんて完全に無視するし、軍律はあって
  無きが如しなんでバジルール大尉の機嫌が悪い
  ことと言ったら・・・」

フラガ少佐は苦悩の表情で語りだした。

 「困りましたわね」

既に洗礼を受けている、ラミアス中佐も苦笑いして
しまう。
中佐の自分を、乳がでかい姉ちゃん呼ばわりしたの
だから。

 「フラガ少佐はモビルスーツ隊の指揮官なんです
  から、頑張って貰わないと」

 「今まではさ。レナ少佐に一任してたじゃない。
  機体性能に差があって連携が難しいから」

レイダー改の飛行速度にデュエルダガーでは追いつ
けないので、最先任のレナ少佐に一任していたのだ

 「手を抜いていた罰ですよ」

 「そりゃないよな」

フラガ少佐がおどけていると、格納庫から連絡が入
った。

 「ササキ大尉達とサブナック少尉達が喧嘩を始め
  ました」

 「あっちゃー」

 「頑張ってくださいね」

フラガ少佐は一目散に格納庫へ降りていった。


格納庫では4対2でにらみ合いが続いていて、その
周りを整備兵達が取り囲んでいた。

 「もう一回言ってみろ!」

 「何度でも言ってあげるよ。黄色いサルが偉そう
  な口を叩くんじゃないよ」 

オルガが口汚く罵っている。 

 「俺達は大西洋連邦国民だ!あんな連中と一緒に
  するな。お前達こそ聞いたぞ!死刑を回避する
  為に、実験動物に成り下がった最低野郎だそう
  だな」

この戦争の引き金になったものは、コーディネータ
ー差別かも知れないが、拡大させているものの1つ
に人種差別も存在している。
アメリカ合衆国から大西洋連邦に名前を変えても、
そう簡単に撲滅される問題では無いのだ。
クロトとオルガは未成年で殺人事件を複数起こして
、死刑が確定した褒められるような種類の人間では
ないが、彼らでさえ自分よりアジア系のササキ大尉
を下に見て差別しているのだ。
プラント同盟国のアフリカ共同体、赤道連合、日本
、台湾、イスラム連合、大西洋連邦に吸収された南
アメリカ合衆国、共通点は有色人種が多数を占めて
いる国家であるという事だ。
大洋州連合も現在では白人の構成比率が低下して以
前ほどの影響力を持っていない。
コーディネーター差別は新しく加わった差別の1つ
でしかない。

 「僕達は命令通りにやっているだけだからね。君
  達みたいに無駄に疲れる事なんてしないのさ。
  それに、偉そうな事を言ってたって初出撃でい
  きなり1人倒されたんでしょ。カッコ悪いった
  らありゃしない」

クロトがササキ大尉を更にからかう。 

 「お前らも似たようなものだろ!」

 「俺達は2人で元気にやっているさ。お前達は今
  日で何人死ぬのかな?(黒い死神)は強敵だぜ
  !」

 「そうそう、死んじゃうよ。うひゃひゃひゃひゃ
  ひゃ」

クロトのバカ笑いで4人に殺気が走ったところで、
フラガ少佐が現れる。

 「フラガ少佐、何とかしてくださいよ」

整備班長のマードック少尉は、心から困りきった表
情をしていた。

 「おい!何をしている!」

 「何だ、フラガのおっさんか」

 「俺は少佐だ!上官に向かってなんて口の利き方
  だ!」 

フラガ少佐は、日頃はそんな事を気にする人間では
ないのだが、今回の騒ぎを抑える為には仕方が無い

 「はいはい、すみませんでしたね」

 「なあ、巨乳の艦長さんは?」

 「お前らは控え室で待機してろ!」

オルガの巨乳発言で、さすがにキレてしまったフラ
ガ少佐が2人を追い出してしまう。

 「ササキ大尉達も軽率だぞ。あいつらなんて無視
  していればいいんだ」

 「理屈ではわかっているのですが・・・」

特務隊結成以来、このような争いが絶えない。
以前は、普通のモビルスーツパイロットとして活躍
していた自分達が日本・台湾参戦で大きく運命を変
えてしまった。
硫黄島での連合将兵の死者は一万五千人、捕虜も五
千人を越えた。
この同胞の死は自分達にも悲しみを与えたのだが、
周りの人間はそうは受け取らなかった。

 「裏切り者の卑怯なジャップ」 

数百年前の悪霊が再び復活して、同僚に罵声を浴び
せられ始めたのだ。
軍の上層部は自国民である彼らの差別を禁止したが
、人の気持ちは簡単に割り切れるものではない。
更に、ブルーコスモス強行派の一部がこの件に噛み
付いてきたのだ。
敵性国家出身者を軍の重要ポストにつけるのは、い
かがなものかと。
実は、ブルーコスモス強行派幹部の中には、旧アメ
リカ合衆国で暗躍していたKKKに繋がっている人
物も多いのだ。
その結果、現在では連合の敵国出身者は1つの部隊
に纏められて危険な前線任務に借り出されていた。
その命で連合に忠誠を尽くす。
白人将兵の練成が月で完了するまで、その傾向は続
くであろう。

 「君達はニミッツ大将がその技量を惜しんだから
  こそ、特務隊を結成したと聞いている。無駄な
  諍いを止めるんだな」 

ニミッツ大将は反ブルーコスモス派の将兵で、差別
をするような人物ではないので、彼らをくだらない
偏見から守る為に、特務隊を編成させて切り札とし
て置いているらしい。

 「ですが、悪意の目で見られる事なんて珍しくあ
  りません。白人のフラガ少佐には、理解できな
  いでしょうが」

 「共に死線を潜り抜けてきたパイロットが、そん
  な事を気にするのか?」

 「開戦から一年半。MAパイロットであった自分
  は多くの仲間を失いました。共に死線を潜り抜
  けたパイロット達やベテランの将校は、俺達を
  差別なんてしませんが、訓練期間の短いひよっ
  子達ほどおかしなプロパガンダに洗脳されてい
  て俺達を差別します。どうも、アズラエル理事
  の子飼いの新聞社と雑誌社は数百年前のレベル
  に戻ってしまったようで」

ササキ大尉は反ブルーコスモス系の将校であるよう
だ。

 「俺も、アズラエルなんて大嫌いだけどね。あの
  クロトとオルガのバカも奴の作品なんだろ?」

 「らしいですね」

 「でも、俺達はアズラエルの意向でオーブを侵略
  しているんだよな。正式な軍令だから逆らえな
  いけど」

 「アズラエルは失敗しても、一向に構わないらし
  いですよ。モビルスーツのOSを完成させる為
  と、プラントの地球派遣軍を釘付けにする為に
  、俺達は使い潰されていくのですよ。成果はア
  ズラエル子飼いの月艦隊に反映されて、最後の
  プラント本国作戦に使用されるようです。作戦
  の成功でアズラエル派は決定的な主導権を握り
  、俺達反体制派は日本やオーブで数を減らされ
  ている上に、失敗続きと判断されてゴミ箱行き
  です」

 「良く考えられている事で」

 「それを防ぐ為にも、オーブ戦で勝利して主導権
  を確保しなければいけません」

 「俺達は罪な存在だね。オーブの国民には何の罪
  もないのに」

 「ありますよ」

 「何の罪が?」

 「こんな時代に平和を謳歌している事自体、罪な
  のです」

フラガ少佐は思った。
こいつとは、友達にはなれそうもないと。
自分の立場を確保する為に、他人を陥れても反省や
後悔すらしない、アズラエルと同じ穴のムジナなの
だと。     

 「俺は、生き残る事だけを考えよう」

こんな戦いでは死ねないと、フラガ少佐は思うのだ
った。 

 

 


  
(同時刻、オノゴロ島地下基地食堂)

機体のチェックを終了した俺達は、食堂で早めの朝
食を取っていた。
俺は、親父の影響で導入されたご飯と味噌汁を、残
りの連中はパン食を食べている。

 「問題は敵のエース対策だ。これを一般将兵の部
  隊に対応させると、昨日の悲劇の再来だ。特に 
  、あの4人はザフト軍の精鋭パイロットでも太
  刀打ちできない可能性が高い連中だ。それで、
  対策なのだが・・・」

俺は紙にボールペンで、敵エースリストを書き殴っ
ていく。

 「黒いロングダガーは俺が対応するとして。青い
  副隊長格は・・・」

 「俺がやる!」

ガイが名乗りを上げた。

 「いいのか?」

 「本当は黒い奴の方が報酬が高いのだが、奴を倒
  すのは困難だからな」

 「俺も、主目的は足止めだ」

 「ガイ、頑張ってね。うちは火の車なんだから」

ガイは小さな女の子にはっぱをかけられていた。

 「お前の趣味を詮索はしたくはないのだが・・
  ・」

 「風花は俺の仲間の子供だ!」

 「お前が父親?」

 「違うわ!」

 「まあ、いいや。青はガイが対応っと」

俺はボールペンでガイと書き込んだ。

 「では、私はこれで失礼します。カザマ一佐、ガ
  イをお願いします」

年齢不相応なしっかりとした口調で、朝食を食べ終
わった女の子は挨拶をして出ていった。

 「お前の子供とは、思えないほどの礼儀正しさだ
  な」

 「だから、違う!」

 「一応、信じてやるよ。では、白は誰が・・・」

 「俺だ!」

 「ホー1尉に一任っと」

俺は紙にホー1尉の名前を書く。

 「次に、赤は誰が・・・」

 「私にやらせてください!」

いきなり、ハワード二尉が乱入してきた。

 「ババ三佐の仇を討たせてください」

 「ハワード二尉は所属が違うでしょうが。それに
  、ババ三佐亡き後の第一中隊の指揮はどうする
  の?」

 「それなら、大丈夫です。グエンニ尉にお願いし
  ました。彼の指揮能力は私より上です。それに
  、ババ三佐の敵討ちは第一師団全員の願いなの
  です。お願いします」

 「冷静に判断して、勝率が低いんだよ」

 「どのくらいなんですか?」

 「良くて30%だね」

 「予想通りです。秘策もあるのでお願いします」

ハワード二尉が土下座までして頼んでくるので、断
りきれなかった。
それに、秘策の内容も気になるし・・・。

 「では、赤を一任する。頼むよ、ハワードニ尉」

 「任せてください!」 

紙にハワード二尉の名前を書き込んだ。
隣りでは、アサギが心配そうな顔をしていた。

 「ハワード二尉!」

 「何です?」

 「お前、死ぬの禁止!」

 「大丈夫ですって!」

 「絶対だぞ!では、次にフラガ少佐は・・・」

 「聞くまでも無い事だな。ムウの相手は私がし
  よう」

納豆ご飯を手に持ちながら、クルーゼ隊長が立ち
上がって宣言した。 
彼は、嫁さんが日系人なので和食党になったらし
い。

 「聞くまでもなかったですね。では、クルーゼ
  司令っと」

 「それで、(乱れ桜)は?」

 「俺がやります!」

ディアッカが立候補したので、直ぐに決定した。

 「最後に、強化兵のカラミティーだが・・・」

 「俺が・・・」

アスランが立候補したが・・・。

 「今までに3回戦って倒せなかったから、イザ
  ークに交替。代わりに、イザークの仕事を代
  行する事」

多分、相性の問題なのだろう。
ここは、思い切って変えてみる事にする。

 「最後に、強化兵のレイダーだ。こいつは現れ
  るか、不明なんだが」  

 「現れたら、私達がやるよ」

ヒルダさん達が立候補してくれたので、一任する

 「それで、残りのみんなは敵を一機でも多く減
  らしてくれ。それと、シンはキラとコンビを
  組んで、近接戦闘メインで戦ってくれ。以上
  だ」

 「わかりました」

キラは素直に返事をしたが、シンから返事が聞こ
えてこない。

 「おい!シン、聞いてのか?」

シンのテーブルを見ると、彼は2斤目の食パンに
突入していた。

 「大丈夫ですよ。任せてください」

 「お前、そんなに食って大丈夫か?」

 「食パンって名残惜しいじゃないですか」

 「名残惜しいの?」

 「6枚切りの1枚目はマーガリンで。二枚目は
  バターで高級感を味わい。3枚目はいちごジ
  ャム、4枚目はママレード、5枚目は目の健
  康の為に、ブル−ベリージャムで。最後の6
  枚目は個人的に一番好きなバナナジャムで食
  います。そして、2斤目はチョコクリーム、
  ピーナッツバター、バニラクリームで食べた
  後、大好きなバナナジャムとマーガリンの味
  を思い出す為に、もう一枚食べます。最後の
  一枚はパンの味を楽しむ為に、何もつけずに
  食べて終了です」

シンの力説に、周りのみんなは胸焼けしたような
顔をしていた。
特に、初顔合わせのラスティーとディアッカの衝
撃は大きいようだ。 

 「お前、毎日朝食に食パンを二斤も食べてるの
  ?」

 「本当はもう2〜3枚食べたいんですけど、マ
  ユに食べ過ぎだって怒られてしまうんです」

普通の人は注意するだろうな。

 「まあ、お腹壊さないようにな」

俺には、それしか言えなかった。


(午前7時、オノゴロ島上空)

 「敵の来襲まで、後5分です」

基地の索敵担当の士官から連絡が入ってきた。
敵は推定200機で俺達は130機にまで減少し
ていた。 
パイロットの中には怪我を押して、戦ってくれて
いる者も混じっている状態だ。
本当は出撃させたく無いのだが、仕方が無い。
モビルスーツも一部の機体が旧式のM−1に切り
替わっているし、元ザフト兵の中には、ジン・シ
グーに乗っている者もいる。
長時間の稼動で機体に負荷が掛かり過ぎて、修理
が終了していないのだ。

 「自衛隊の連中は贅沢に機体を乗り換えていた
  からな。かえって負荷がかからないで、修理
  にも手間がかからなかったんだ」

石原一尉の見解は正しいが、オーブではそんな事
は不可能だろう。
違法にジャンク品まで仕入れて、ここまでの数を
集めたのだから。 

 「石原一尉のセンプウは新品同様だね」

 「整備兵が徹夜でやってくれたんだ。その心意
  気に答えないとな」

自衛隊中隊全25名中、戦死10名、重傷者2名
数は半減しているのだ。
整備兵にも基地への攻撃の激化で、16名の死者
を出している。
連合の攻撃は激しさを極めている。

 「オノゴロ島がハゲ島になってしまったね」

 「木なんて残っているのでしょうか?」

ニコルはオノゴロ島の惨状に心を痛めているよう
だ。 
オノゴロ島は攻撃機の爆撃で、殆どの場所が耕さ
れていた。
地下ドックも爆撃で埋まり、モルゲンレーテの工
場も壊滅、社宅も爆撃でバラバラで我が家が残っ
ている可能性も低い。
そして、肝心の地下基地は大部分は無事なのだが
、地上の対空火器は40%の損失で、例のミサイ
ルパックも3基中2基が使用不能になっていた。
同じく、タケミカヅチの甲板上の2基も1基が使
用不能で、5名の空間認識者の内、2名が戦死し
ている。

 「皮肉な事に、戦車隊などの通常師団の損害が
  一番少ないんですよね」

 「戦車は戦争のメインキャストから転落したの
  さ。モビルスーツに勝つには、待ち伏せくら
  いしかないからな」

連合の攻撃隊は第一にモビルスーツ、第二に基地
防衛用の火器全般、第三が護衛艦隊であった。

 「モビルスーツとモビルスーツの脅威になるも
  のを最優先か。戦いが変わってきてますね」

 「護衛艦隊も正念場だな」

こちらが不利になったと判断されれば、揚陸部隊
のオノゴロ島上陸が始まる。
そうなれば、揚陸艦隊の護衛戦力との戦闘に巻き
込まれるからだ。

 「例のドミニオンは出てくるでしょうか?」

 「硫黄島では直接対決は無かったが、今回はど
  うだろうな」

 「敵襲、目視で確認です!」

ニコルが報告を入れてくる。

 「朝の手筈通りに敵を見つけて勝負を挑めよ」

 「「「了解!」」」

俺達の長い1日が再び始まった。


(同時刻、オーブ攻略艦隊旗艦「チェスター・ニ
 ミッツ」)

第一次攻撃隊を送り出した後、第二次攻撃隊の発
進準備で艦隊内は喧騒に包まれていた。

 「今更、出し惜しみは無しだ!予備機も出せ!
  損傷機の修理も急がせろよ!」

参謀長である、ドルスメル中将の激が全艦艇に飛
んでいた。

 「攻撃機と戦闘機の稼動数は増えたのかね?」

以前は航空機の専門家であった、ニミッツ大将が
ドルスメル参謀長に確認を取っていた。

 「稼動数は52機で精一杯です」

 「あの忌々しい、ディン部隊が乱入してこなけ
  ればな!」

攻撃機隊は爆撃には成功していたのだが、爆撃時
の無防備なところをディンの部隊に攻撃されて、
壊滅的な損害を受けていたのだ。

 「占領後も航空機は必要になる。仕方が無いが
  、温存の方向でいくしかないな。しかし、ザ
  フトの連中は忌々しい限りだな。国際法違反
  ではないのか?」

 「外務省が抗議しているようですが、パイロッ
  トは既に退役して、オーブ軍の傭兵として登
  録されているとの事です。モビルスーツも売
  買契約が成立していたとの事で、違法性は無
  いとの見解だそうで・・・」

 「ふん!ハル外務長官は、ガキの使い以下の仕
  事振りだな。強行派を気取るならもっと手際
  よくやりやがれ!」

相手は交戦国でその上、正式に国としてすら認め
られていないので、まともな外交交渉など不可能
に近いのだ。
唯一の例外であるアルスター外務次官は、世界中
を飛び回っていて、今現在は捕まらない状態らし
い。

 「次の問題があの潜水艦隊の存在だ。今のとこ
  ろ大人しくしているようだが」

 「対潜警戒を密にしていますし、向こうは司令
  官が戦死したのです。慎重にもなりますよ」

 「ジェーン・ヒューストン大尉だったかな?勲
  章の申請を出しておかないとな。しかし、ザ
  フトの指揮官は指揮官先頭が大好きなのだな
  。わしもやってみようかな」

 「ニミッツ大将はモビルスーツの操縦が出来る
  のですか?」 

 「出来んよ」

 「では、お止めください。この戦争は近代戦の
  ルールを変えてしまいました。小競り合いを
  繰り返しながら、戦力を蓄えて一気にぶつけ
  合う。それが終わると、再び戦力の蓄積に入
  り、戦闘は小競り合いに戻る。そこまでは一
  緒なのですが、モビルスーツという兵器は戦
  い方を古代中国の戦国時代のレベルにまで引
  き戻してしまいました。優秀な指揮官がパイ
  ロットとして戦場に出て活躍をする。Nジャ
  マーの影響で前線の状況が見難くなった影響
  が顕著になっています。モラシム司令が前線
  に出ていた理由もそこにあると小官は愚考し
  ているのです。まあ、腕に自信があったので
  しょうが。潜水艦内では、前線の状況が見え
  ませんからね」

 「確かに、そういう一面もあるのかな。艦隊戦
  ですら第二次世界大戦のレベルに逆戻りして
  いるからな。硫黄島では日露戦争レベルだっ
  たそうだしな」

 「潜水艦隊には、水中用モビルスーツ部隊がま
  だ30機ほど残ってているはずなので、それ
  が脅威ですね」

 「うちは残存8機だからな」 

 「ここで全滅させてしまうと、再建が困難にな
  りますしね。それでなくても海上輸送路の護
  衛艦隊から強引に引き抜いたので、文句を言
  われっ放しなのに」

 「文句なら世界中の部隊から言われている。地
  球のモビルスーツ戦力をこれだけ一箇所に集
  めているのだ。文句が出ない方がおかしい」

 「既に、半数近くがやられてますしね」

 「これで負けたら、俺は降格間違いないな」

 「私もですね・・・」

 「ここで暗くなっていてもしょうがない。ドミ
  ニオンを旗艦とする強襲揚陸部隊の編成は終
  了したか?」

 「終わっています」

 「では、発進させたまえ!」

決戦は最終段階に突入していた。

 


(同時刻、オノゴロ島上空)

 「また、出てきたな!キチガイ野郎が!」

 「裏切り者は黙ってな!」

俺はBストライクを操り、黒いロングダガーと一
騎討ちを繰り広げていた。
俺の他にもガイは青い機体と、ホー1尉は白い機
体、ハワード二尉は赤い機体と朝の手筈通りに事
は進んでいる。

 「はっはははは、ムウよ追い込まれているな
  !」

 「ほざけ!」

ジャスティスに乗り換えたクルーゼ司令は、フラ
ガ少佐のレイダー改を格闘戦に持ち込んで戦いを
有利に進め。

 「今日は俺の得意技で倒してやるよ。オバサン
  !」

 「私はまだ20代なのに・・・。ガキの癖に!
  後悔させてやる!」

ディアッカのフリーダムは、レナ少佐のデュエル
ダガーフォルテストラ装備タイプと死闘を繰り広
げていた。

 「おっ、今日は別の奴か。誰でも一緒だけどな
  !」 

 「ほざけ!俺はアスランほど甘くはないぞ!」

イザークもオルガのカラミティーと一騎討ちを開
始している。
そして、キラとシンは・・・。

 「何だ!あの2機は化物か!」

キラのフリーダムが一斉射する度に、5〜6機の
ストライクダガーが落ちていった。
この攻撃を回避できるのは、一部のエースとベテ
ランだけなので事態は深刻になっている。

 「あの機体を撃ち落とせ!」

ストライクダガー部隊の目標がフリーダムに向か
うのだが・・・。

 「させるか!」

シンのシップウがMA体型のまま腕を出して、連
装ビーム砲とビームサーベルで、敵をすれ違い様
に撃破していく。

 「俺達もいるしな!」

G部隊が2人の護衛に入って、全く隙を見せない
でいた。


 「戦闘開始30分で4割の戦力が壊滅しただと
  ・・・。信じられない」

 「信じたくなかったら、信じなくてもいいけど
  な!」

ササキ大尉の動きに動揺が出ている。
生き残っている連中は全員プロなのだ。
連合の員数合わせの促成栽培の坊ちゃんとはわけ
が違う。

 「昨日はごちゃごちゃしていて、戦果を稼げな
  かった連中が多いからな。今日は、稼ぎ時な
  んだよ」

傭兵契約の連中は敵機を撃破すると、報奨金が出
るのだ。
必死になって当たり前だ。

 「ちなみに、昨日お前達の仲間を倒したガイも
  報奨金目当てだから必死だぜ。彼は大丈夫か
  な?」

相手の青い機体のパイロットを心配してあげたく
なる心境だ。

 「それにさ・・・。一番必死な男が赤い機体と
  戦っているから」

 「レンは達人だ!負けるはずが無い!」

 「さて、それはどうかな?」


ハワード二尉は頭部とコックピット周りの損傷以
外に大してダメージの無かった、ババ三佐のM−
1を修理して使っていた。
気のせいかも知れないが、ババ三佐が守ってくれ
ていると感じていたからだ。
シートや機器にまだ血糊が残っているのだが、そ
れを怖いとか気持ち悪いとかは感じなかったのだ

 「ババ三佐の仇!」

 「昨日のおじさんのかい?返り討ちだね」

赤いロングダガーのトンファー攻撃が装甲に当た
って嫌な音を立て、バッテリーの残量を奪ってい
く。

 「昨日のおじさんと同じ死に方をしな」

 「ほざけ!この冷酷女が!」

レン少尉は腰の後ろのビームライフルをまだ使用
していない。
一方、ハワード二尉の射撃は簡単にかわされ、ビ
ームサーベルで斬り付けても同じようにかわされ
ていく。
圧倒的な技量の差があるようだ。

 「本当にナチュラルなのか?」

 「出来損ないのコーディネーターは大変だね」

祖父が台湾で少林寺系統の道場を開いていた影響
で、彼女の武術の腕は達人クラスだ。
そして、そのスキルはモビルスーツの操縦に生か
されている。

 「ほざけ!このサディスティック女が!」

 「これで、最後だ!」

レン少尉の攻撃が再び、M−1の頭部を砕いてし
まった。
バッテリーが切れて、フェイズシフト装甲の色も
落ちてしまう。

 「残念だったね。血反吐吐いて死にな!」

レン少尉のトンファーがコックピットに突き刺さ
る寸前に、その動きを見透かしたかのように、
M−1の右腕がトンファーを掴み取った。

 「そんな!メインカメラは全壊で、サブに切り
換えてる暇なんて・・・」

 「今だ!」

ハワード二尉はM−1の左腕に一本だけストライ
クから拝借したアーマーシュナイダーを持って、
ロングダガーの懐に潜り込みコックピットに突き
刺した。

 「そっ、そんな・・・。ぐふぁ!」

レン少尉の腹部に突き抜けたナイフの先端が突き
刺さり、彼女自身も血反吐を吐いた。

 「お前が血反吐を吐く羽目になったようだな」

赤いロングダガーはアーマーシュナイダーを突き
刺したまま落下していく。

 「やりましたよ。ババ三佐!」

その後、損傷が激しいM−1は再び墜落したが、
ハワード二尉は無事に脱出して生還したのだった


 「そんな!レンがやられただと!」

 「敵を舐めてかかるからだ。自業自得だな」

黒いロングダガーの攻撃を防ぎながら、俺は彼を
挑発するような言動を吐く。

 「他人に気を使っている場合ではないのでは?
  」

 「うわぁーー!」

 「どうした!?チェ少尉!」

隣りでは、ホー1尉のレイダーがガイから拝借し
た「備前長船」で、白いロングダガーを斜めに切
り裂いていた。

 「その青竜刀は業物だな。私が格闘王に近づく
  為の重要アイテムとして貰っておこう」

 「ホー1尉は示現流も出来たんだ」

 「俺は世界中の武術に精通している」

 「だそうだよ。ササキ大尉殿」

 「ちくしょう!お前達は化物か!」

 「あんたも同類なんだよ。ただ、こちらには複
  数いるんだけどね」

 「ミヤモト中尉、無事か?撤退するぞ!」

 「何、怖気づいてるんだよ。大丈夫だって」

青いロングダガーは、ガイのブルーフレームを追
い詰めていた。

 「同じ青いモビルスーツに乗る者としては、お
  前のような不甲斐ない男は許せないな。サー
  ペントテールと呼ばれて恐れられていても、
  所詮は傭兵。俺が引導を渡してやるわ!」

ミヤモト大尉が対艦刀を2本構えてから、ガイの
ブルーフレームに突撃をかける。

 「ふっ、これが切り札だ」

今までは、ビームサーベル一本で消極的な戦闘を
繰り返していたガイが何かを複数投げつけた。

 「吸着地雷だと!効かぬわ!」

ミヤモト中尉は対艦刀を一本犠牲にして、吸着地
雷を全て切り捨てた。

 「実はこれが本命だ」

ガイがシールドの先をミヤモト中尉機に向けると
、裏側から何かが発射される。

 「しまった!シュツルムファウストか!」

至近距離の為に、ミヤモト中尉の回避が間に合わ
ずコックピットに直撃する。

 「うわあーーー!」

 「ミヤモト中尉!」

青いロングダガーがコッピット部分から炎を上げ
て落下していった。 

 「最初の衝撃的な登場と違って、あっけない最
  後になりそうだな」

 「そんな・・・。俺達は精鋭部隊なんだ・・・
  。白人のフラガ少佐より凄腕で・・・」

 「人種なんて気にしているから、勝てないんだ
  よ。訂正するよ。お前達はフラガ少佐より格
  下だ。戦争を武道の試合と勘違いするな!」

俺はササキ大尉機への攻撃を強め。
遂に、両腕を切り落とした。

 「両腕でしか使えない対艦刀が仇となったな!
  」 

 「覚えてろよ!」

ササキ大尉がアニメの悪役のような捨て台詞を吐
きながら撤退していった。

 「追うか?」

ガイが聞いてくるが。

 「残敵の掃討に入ろう。第二派、第三派の攻撃
  が始まる前に」 

あまりの味方の劣勢に、フラガ少佐とレナ少佐は
撤退済みで、残りのモビルス−ツ部隊は一方的に
撃破されているようだ。

 「勢いがあるうちに全部倒せ!」

敵が第三派以降の攻撃隊を組めないように、一機
でも多く倒さねばならない。
例え、今の俺達が第四派攻撃を抑えられても、戦
力が全滅してしまえば、再度の侵攻を許してしま
うかもしれない。

 「情けをかけるな。皆殺しにしろ!」

俺達はそれぞれに別れてから、残敵の掃討に入っ
た。
ガイは返して貰った「備前長船」で敵を切り刻み
、ホー1尉はレイダーで追撃をかけている。
キラは射撃を続行して、シンは敵をスピードで
かく乱していた。
生き残っている元ザフト軍パイロットとプロの傭
兵達がその腕前を遺憾なく発揮していた。

 「俺も、加わりたい!」

イザークはうずうずしてきたようだ。
 
 「俺は退却させてもらう!」

カラミティーとイザークの決戦は引き分けに終わ
り、カラミテイーは引き揚げ、イザークも残敵掃
討に加わった。

 「撤退だ!」

 「第二次攻撃隊に任せろ!」

第一次攻撃隊は結局、200機中130機以上を
失って撤退に入ったのだった。

 


(20分後、オノゴロ島地下基地内格納庫)

第一次攻撃隊を抑えた俺達は機体の補給と修理に
入っていたが、その間隙を縫って、第二次攻撃隊
約200機が来襲してきた。

 「補給は後どのくらいで終わるの?」

 「20分です」

 「急いでくれ!」

第一・第二師団残存機120機で敵200機を抑
えなければならないのだ。
正直、きついものがある。

 「第三派約150機来襲。更に、敵艦隊接近中
  。アークエンジェル級ドミニオンの熱反応確
  認!」

しまった!ローテーションの隙を突かれた。 

 「やられたぞ!敵は最後の賭けに出た。モビル
  スーツの補給を急がせろ!20分の時間稼ぎ
  が出来なければ俺達の負けだ!」 

俺達は最大の危機に陥っていた。

 


(同時刻、オーブ攻略艦隊旗艦「チェスター・ニ
 ミッツ」)

 「もう、尻の毛まで抜いて鼻血も出ないわ。本
  当に空っ尻だ」

攻撃に使えそうな戦力は全て前線に出した。
残りは艦載機の無い空母と、一部の護衛艦艇のみ
であった。

 「損傷したモビルスーツはここに戻ってくるし
  、問題は無かろう」

 「ここまでやってもし、負けたら・・・」

ドルスメル参謀長は不安そうな表情をしていた。

 「わしは、軍人年金暮らしをするから問題ない
  。実家のパン屋で店番でもしながら暮らすさ
  。今は、息子が継いでいるのでな」

 「ずるいですね」 

 「代々軍人家系なんて家は大変そうだな」

 「それ、私の家です」

 「頑張ってくれたまえ」

ドルスメル参謀長の表情は冴えなかった。


(同時刻、オノゴロ島地下基地格納庫)

第二次・第三次攻撃隊の同時来襲で、オノゴロ島
守備隊は大混乱に陥っていた。
幸いにも、敵のモビルスーツ隊が密集状態で動き
が悪く、味方にまだ壊滅的な被害は出ていない。
やはり、大群を展開すると、不利になる事に変わ
りはないようだ。 

 「3倍の敵で、10分後には艦船群も艦艇の射
  程距離に入ってしまうか・・・」

 「どうするんだよ!」

カガリが慌てながら聞いてくる。

 「修理と補給が終わらないと、どうにもならな
  い。下手に旧式のM−1で出撃させると、戦
  力が落ちてしまうし、戦死者が増えてしまう
  。第一・第二師団の踏ん張りに期待するしか
  ない」

 「時間が無いんだろ!悠長な事を言ってないで
  出せよ!」

俺は自分の師団と第三師団を、カガリは少数で奮
戦している第一・第二師団の心配に比重を置いて
いるので、立場に違いが出てしまう。 

 「パイロットは使い捨ての人形では無いんだ!
  いい加減にしなさい!」

疲れが溜まっているのだろう。
珍しく、キレてしまった。
周りの空気が途端に悪くなってしまう。 

 「だが、今出ているみんなは確実に死ぬぞ!」

 「時間稼ぎをさせているから大丈夫だ」

 「でも!」

初めて、二人の仲が険悪になってきた。
このままでは大変な事になってしまう。

 「カザマ、一部の機体の整備が終了したそうだ
  」

キサカ准将が間に割って入ってくれた。

 「では、こことここに回しましょう」

キサカ准将と相談してから、戦力を徐々に回して
いく。

 「時間が経たなくてイライラするな!」

さすがに、俺も焦ってきた。

 「決めた!カガリ少将。(暁)をお借りします
  」 

まだ、わだかまりがあるので、丁寧な口調でお伺
いを立てた。

 「あれは、私が・・・」

 「今のカガリ少将では戦力になりません」

俺は返事を待たずに、「暁」に搭乗してから出撃
していった。

 「待ってくださーい!」

緊急出撃した俺をアサギが追いかけてきた。
しかも、乗っている機体は・・・。

 「久しぶりに見たな。(ストライクルージュ改
  )だよなこれ?」 

 「データ取り用の実験機になっていたんですけ
  ど、整備はちゃんとしてありまして」

 「そうか。ハワード二尉の元へ向かうぞ。指揮 
  系統の保持に全力を尽くして増援を待つ」

 「了解!」


 「疲れたな!今日は何機落とした?」

 「俺は3機」

 「俺は4機です」

 「生き残っている連中は全員エースになれそう
  な勢いだな」

 「でも、今日で戦争は終了でしょ。勝っても負
  けても」

 「そうなんだがな」

ハワード二尉は部下達と気楽に会話しながら、敵
を迎え撃っていた。

 「敵は3倍で撃ち放題なのだが・・・」

隣りの陣地でM−1が一機爆発する。

 「後、10分。生き残れるかな?」

更に、一機のM−1が爆発する。

 「アサギ、悪いな。帰ってあげられないかも」

 「こら!諦めるな!」

突然、無線にアサギの声が入った。

 「アサギか!何だ?その恥ずかしい色の機体」

 「高性能機をバカにするなよ!」

ストライクルージュ改がビームライフルを連続で
発射すると、三機のストライクダガーが爆発した

 「そして、更に凄い援軍が・・・」

少し離れたところで、「暁」がビームを跳ね返し
ながら、敵を攻撃していた。  

 「アスハ少将の乗機だ!落とせ!」

案の定、「暁」は目の仇にされながら、攻撃を一
身に受けていた。

 「あれは、アスハ少将なのか?腕が良すぎる」

 「カザマ一佐に決まってるでしょ」

 「それなら、納得」

俺は「暁」を操り、敵の大群を翻弄しながら時間
を懸命に稼いでいた。

 「俺なら3分で戦死だな」

 「私は1分ね」

敵を集中砲火をかわしながら、隙を突いて攻撃を
仕掛け続ける。
狙いは指揮官クラスのデュエルダガーやバスター
ダガーである。
こいつを落とすと、指揮権継承で数十秒の時間が
稼げるのだ。

 「やっぱり5分が限界か」

多数のビームを跳ね返した影響で、装甲に直ぐに
ガタがきてしまう。

 「さて、後はどう時間を稼ぐか・・・」

考えていた時に、オノゴロ基地にミサイルと砲弾
の着弾が始まった。

 「敵艦隊の砲撃かよ!」

だが、この攻撃は直ぐに下火になる。
遂に、護衛艦隊とタケミカヅチが反撃に出たのだ

そして、アークエンジェルがドミニオンとの決戦
を開始したのであった。


(同時刻、アークエンジェル艦内)

 「ゴッドフリート照準ドミニオンへ。ミサイル
  発射管にミサイル装填、ヘルダート発射管、
  バリアント発射用意。照準は敵前方駆逐艦群
  。命中後は随時目標を変更する事。アーサー
  、目標の選別をお願い」  

アーサーニ佐は何故か部下であるはずのタリア艦
長に命令されていたが、その事を不思議に思う者
は艦内にはいなかった。


 「タケミカヅチが前に出ます」

タケミカヅチは旧式のM−1を20機ほど甲板に
乗せて、ヤマタノオロチを運用させていた。
臨時のビーム砲艦にしたのだ。

 「とにかく撃ちまくれ!」

タケミカヅチ艦長のトダカ一佐も声を張り上げて
いた。
ここが、正念場である事に気が付かない者はいな
いからだ。

 「撃て!」

 「撃て!」

オーブ護衛艦隊は全火力を前方の敵艦隊に向ける

駆逐艦がビーム砲の直撃を受けて爆沈したり、ミ
サイル巡洋艦がミサイル発射管に誘爆して、真っ
二つに折れて爆沈していく。
お返しに、敵艦隊からも砲撃やミサイルが飛んで
きて、護衛艦に直撃して爆発を繰り返しながら沈
んでいった。

 「こんな野蛮な戦いは初めてだ」

トダカ一佐が半分あきれながら感想を述べる。

 「実戦自体始めてですからね。今まで気が付か
  なかっただけかも知れません」

 「かも知れないな。アマギ一尉」

 「前方に、揚陸艦艇が見えます!」

索敵担当の士官から報告が入る。

 「ここで、上陸を許すと大変な事になるな」

 「ええ、地下基地が占領されたら、モビルスー
  ツ隊は全滅に等しい状態になります」

補給が受けられなければ、モビルスーツはただの
鉄くずと化してしまうからだ。

 「全力で阻止だな」

 「ええ、わが身に代えても」

トダカ一佐は身を捨てる覚悟をしたようだった。


(同時刻、ドミニオン艦内)

 「ヘルダート、前方護衛艦群撃てー!」

 「ゴッドフリートの照準はアークエンジェルの
ままで。バリアントとミサイルの照準は任せ
  たわよナタル」

 「お任せください。パル曹長、敵護衛艦群の攻
  撃に注意しろ!」

ドミニオン、アークエンジェル双方共に決定打が
出ないまま、お互いに敵艦艇に大損害を与えてい
た。

 「フラガ少佐、レナ少佐。アークエンジェルは
  任せるわよ」

 「可哀想だけど、落とさせて貰うさ」

 「運命とは残酷なのですよ」

修理が終了したレイダー改とデュエルダガーが発
艦して、アークエンジェルを目指して出撃する。
稼動機が2機しかないので、皮肉にも整備が早く
終了したのだ。

 「アークエンジェル!色々と因縁はあるが、今
  日こそは沈めさせて貰うぞ」

 「勝手に沈めるなよ!」

 「お前、カザマか!趣味の悪いモビルスーツに
  乗りやがって!」 

 「大きなお世話だ!覚悟しな!フラガ少佐」

俺とフラガ少佐は再び一騎討ちを開始する。

 「何回目だ?」

 「さあな、忘れたよ」

俺達は全ての技を駆使しながら対決していた。
今更、隠し技などないのだ。

 「いい加減飽きてきたよ。死んでくれよフラガ
  少佐!」

 「俺も、カザマとクルーゼにはもう飽き飽きだ
  。美少女パイロットとかいないのか?」

 「いるけど。あんたと戦わせると、妊娠しそう
  だから却下!」

 「なんじゃそりゃ!」

お互いに軽口を叩いているが、殺気が漲っている
のは前回と変わりがない。

 「俺の代わりに、レナ少佐がアークエンジェル
  を落とすさ。お前は指を咥えて見ていな」

 「俺の生徒を舐めるなよ!必ず防いでくれるさ
  !さあ、勝負の続きだ」

俺達は戦いを再開した。


(アークエンジェル艦内)

ドミニオンや敵艦隊との砲撃戦を続けていたアー
クエンジェルに警報が鳴った。

 「敵モビルスーツ一機接近中!」

バート・ハイム三尉から報告が入った。

 「一機のみですって?」

 「機種確認。デュエルダガーです」

 「エースかしらね。イーゲルシュテルンでけん
  制して、ミサイルで片付けなさい」

 「了解です」

アークエンジェルはデュエルダガーを落としに掛
かるが、敵の動きが速すぎて一発も命中しない。

 「落とせません!」

次の瞬間、デュエルダガーはフォルテストラの武
装を開放してミサイルとビームを全弾叩きつける

 「まずい!イーゲルシュテルンで対応!」

何とか全弾落としきったが、既にデュエルダガー
はブリッジ前方にでビームライフルを構えていた

 「今度こそダメかしら・・・」

ブリッジ要員が死を覚悟した瞬間、デュエルダガ
ーのビームライフルが直上からのビームで破壊さ
れた。

 「何者だ!」

 「やった!上手くいった!」

ストライクルージュのビームライフルが上手く命
中して、デュエルダガーからビームライフルを奪
い取る。

 「オーブ軍、アサギ・コードウェル二尉見参!
  尋常に勝負!」 

アサギはビームサーベルを抜いて、レナ少佐機に
斬りかかった。 

 「小娘が邪魔をして!」

アサギのストライクルージュ改とレナ少佐のデュ
エルダガーがビームサーベルで切り結ぶ。

 「おばさん、引退したら?」

 「何で、オーブとザフトの連中は私をオバサン
  扱いするの?私は二十代なのよ・・・」

 「私は十代ですもの」

 「ふっ、そう。ここで人生が終われば一生十代
  のままよ。覚悟しなさい!」

 「わー!オバサンが怒った!」

レナ少佐が怒りに我を忘れて、格闘戦を挑む。
実は、レナ少佐の得意分野は射撃らしいので、こ
れは大変不利になる事なのだが、本人は我を忘れ
ているらしく、その事に全く気が付いていない。

 「上手くいった」

実は、アサギは相手の特徴を事前に、ディアッカ
から聞いていたのだ。
でなければ、ディアッカが乗ったフリーダムやジ
ャスティスと戦って生還できるようなパイロット
と互角に戦えるわけがないからだ。

 


 「アークエンジェルは沈まないね。どうしたの
  ?」

 「まさか、レナ少佐が足止めされるとは・・・
  」

俺達の戦いも、時間だけが経過していた。
アークエンジェルとドミニオンの砲撃戦は決着が
着かないで、損傷だけが蓄積していた。
他の艦艇も完全な潰し合いになっていて、損害が
双方に多数発生し、タケミカヅチに至っては、敵
揚陸隊の上陸予定地点の前方海域で水没してしま
っていた。
幸いにして水深が浅いのと、機関部がまだ生きて
いる状態なので、ヤマタノオロチが使用しながら
、浮き砲台として最後の抵抗を続けている。

 「これは、ひどい損害だ。本当に修理するのか
  な?」

 「新規に建造する予算なんて出ませんからね」

 「サルベージして修理するとして、どのくらい
  かかるかな?」

 「二年はかかるでしょうね」

 「悲願の空母計画は先の長い話になったな」

 「敵の空母を鹵獲できれば・・・」

 「どうせ、講和条約の一環で返還する羽目に
  なるさ」

 「それもそうですね」

目の前に多数の艦艇が迫ってくる状態で、トダカ
一佐とアマギ一尉は普通に会話をしていた。
あまりの恐怖に、何かが磨耗してしまったのかも
しれない。
敵の揚陸艦への砲撃は順調で未だに上陸は許して
いないし、そろそろ時間であろう。

 「運命の20分を守りきれたな」

 「ええ」

上空を見ると、多数のモビルスーツが上空を飛ん
でいた。
フリーダム、ジャスティス、センプウ、M−1、
ゲイツ。
敵を攻めあぐねていたストライクダガー部隊は、
精鋭部隊の援軍に指揮が崩壊して、壊滅の危機を
迎えていた。
オーブ軍は賭けに勝ったのだ。


 「というわけで、フラガ少佐の負けだね」

 「それは、認めよう。だが、次はこそは!なん
  てのは俺のキャラじゃないよな」

 「ササキ大尉ならわかる」

 「彼はショックで塞ぎこんでいたよ。モビルス
  ーツも両腕が無くて使えないし」

 「それ、俺」

 「彼は執念深そうだぞ。気をつけないと。
  じゃあ、俺は退却だ!」

フラガ少佐は撤退して行ったが、戦況は大きく変
わり、連合軍は崩壊の危機に晒されていた。

 「敵の精鋭部隊だ!殺されるぞ!」

 「退却だ!」

 「ばかもの!数はこちらが上なんだぞ!」

モビルスーツ部隊の指揮官は懸命に止めに入るが
、全軍が恐慌状態で効き目が無かった。

 「敵前方にフリーダムが3機います!」

キラ、ディアッカ、クルーゼ隊のパイロットの3
機のフリーダムが連携して砲撃を開始した。
多数のモビルスーツが撃破され、運良く逃れたも
のもアスラン、ニコル、シホ、ラスティーのジャ
スティスとドレッドノートに撃破されていった。

 「あいつ等は化物だ!」

敵モビルスーツ隊に動揺が広がり、モビルスーツ
隊の撤退に拍車がかかった。

 「後は、いかに犠牲を少なくして、撤退するか
  ね」

ドミニオンのラミアス中佐は味方を多く逃す為に
、殿を務める決意をした。


(同時刻、オーブ攻略艦隊旗艦「チェスター・ニ
 ミッツ」)

 「完全に指揮系統が崩壊してしまったか・・・」

 「7〜8機のモビルスーツが5分で50機のス
  トライクダガーを落とすのですよ。正直、私
  なら逃げます」

 「安心しろ。私でも逃げるから」

ニミッツ大将とドルスメル中将の意見は一致をみ
た。

 「だが、うちのササキ大尉も捨てたものでは無
  いぞ」

 「向こうには、ササキ大尉が複数いるのですよ
  」

 「なら、仕方があるまい。数で押せなくなった
  以上、撤退だ」

ニミッツ大将は第一次攻撃隊の残存機を援軍とし
て、前線に送り出した。
これで、損害が少なく撤退できると信じながら。

 


(同時刻、ドミニオン艦内)

 「ミサイル、ヘルダート残数を気にせずに撃て
  !バリアント、追撃中の敵護衛艦に反撃!撃
  て!」

ドミニオンは満身創痍になりながら、味方の撤退
を助けていた。
敵モビルスーツ隊はフラガ少佐とアークエンジェ
ル撃沈を諦めたレナ少佐が引き受け、一機でも一
艦でも多く撤退させなければならない。

 「不思議とクルーゼが現れないな?」

 「ラッキーだと思いなさい」

実は、クルーゼ司令はジャスティスで他のモビル
スーツ隊と艦艇群に引導を渡していた。
フラガ少佐はラッキーなのだが、連合の将兵には
最悪の事態になっていた。

 「(エンデュミオンの鷹)か?悪いが懸賞金が
  高いので、倒させて貰う」

 「サーペントテール!?最悪だ!」

 「仕事でな。悪く思うなよ」

最近、実入りの少ない仕事ばかりで、家計が火の
車のサーペントテールにとって、今回のような仕
事は数年に一度の大きなものである。
他のメンバーがギガフロート守備の仕事で動けな
い以上、自分が稼がなければならないのだ。

 「今日は、大物が1機と小物が11機で大入り
  なのだ。これでも十分に満足なのだが、最後
  に大物を狙ってみようかと思ってな」

 「小物を稼いで俺を無視してくれ」

 「風花に高級中華料理を頼まれてしまってな。
  悪いが死んでくれ」

 「そんな理由で殺されてたまるか!カザマとつ
  るんでいる連中はアホばっかりだな」

 「失礼な!俺と奴を一緒にするな!」

ブルーフレームとレイダー改が死闘を開始するが
、フラガ少佐は不利な状況に追い込まれていった

 「連戦で疲労が溜まって、だるくてしょうがな
  い」 

 「強敵だな。カザマが倒せないのも頷ける」

フラガ少佐の一番の得意技、生き残る技術を駆使
されて、ガイはなかなか止めをさせない。

 「無駄な時間を使ってしまった。他所で小物を
  落とそう」

ガイは即座に判断して撤退した。
様子を見ると、逃げ遅れたストライクダガーを刀
で切り裂いている。

 「下手をすると、俺がああなっていたのか」

 「フラガ少佐はついているわね」

結局、ニミッツ大将が送り出した70機の援軍が
足止めに成功した為に、オーブ軍の追撃はここま
でになった。
オーブ軍の消耗も激しく、これ以上の追撃は不可
能と判断されたのだ。
それに、ある程度の軍備が残っていないと、再度
の侵攻を呼んでしまう可能性がある。
逆襲されて、大損害を受けるわけにはいかなかっ
た。

 「あーあ。困ったな」

俺は非常に困った状態に置かれていた。
カガリと言い争いになった上に、誤魔化して勝手
に「暁」で出撃してしまったのだ。

 「最悪、軍法会議だな」

 「大丈夫だと思いますよ」

いつの間にか隣りにいたフリーダムにはキラが乗
っていたようだ。 

 「いや、まずいって。カガリちゃんは少将で俺
  は一佐。ケジメはつけないとね」

 「そうなんですか?」

即席士官のキラはいまいちわかっていないようだ

作戦が成功したから、それでいいと思っている節
がある。

 「素直に罰を受けるしかあるまい」

やがて、オノゴロ島周辺に到着する。
そこでは、オーブ海軍が降伏した数隻の艦船を臨
検して乗員を拘束していたり、半壊したモビルス
ーツから敵味方問わずにパイロットを救助してい
る様子が見えていた。
そして、オノゴロ島の沖には・・・。

 「完全に沈んでいるな。よく機関部が生きてい
  たな」

タケミカヅチが水深の浅い海域に着底していた。
多分、サルベージするには時間がかかるであろう

そして、アークエンジェルも満身創痍で、修理の
に掛かる時間を考えると頭が痛くなってくる。
更に、オノゴロ島の惨状は最悪と言っても大袈裟
では無かった。
島はほぼ全島が爆撃で掘り返されて、森は火災で
燃え尽き、まともに残っている建造物は1つも無
いように見えた。
地面には戦車・装甲車・モビルスーツの残骸で埋
め尽くされて、海岸線や浅瀬には連合軍海兵隊の
死体が散乱していた。
沖合いにも溺死体が浮かんでいて、明日にでもな
れば、回収作業が始まるであろう。

 「いったい、どれほどの死者が出たんだろう?
  」

モビルスーツ隊のパイロットは半数以上が帰らな
いのだ。
他にも、艦船は35%、航空機が55%、兵員2
5%、戦車・車両30%、地下基地の損害も30
%に達していた。
連合の損害はそれを遥かに凌駕している。
オーブの海と島に消えた数万人の命。
果たして、これだけの犠牲を出す価値がこの戦い
にあったのか?
少し考え込んでしまった。


結局、カガリへの言い訳を考えきれないまま地下
基地に戻ると、パイロット達と整備兵達は大喜び
で騒いでいた。
一番の危機を脱したのだ。
嬉しくて当たり前だろう。
「暁」を降りると、正面でカガリが待っていた。
これは、非常に拙い状態だ。

 「命令違反の件は神妙に罰を受けますので、ご
  容赦のほどを」

俺は素直に謝る事にする。

 「・・・・・・・・」

 「あれ?どうかした?」

カガリが珍しく、一言も発しない。

 「心配したぞ・・・」

 「えっ?」

 「心配したんだ。このバカが!時間稼ぎだか何
  だか知らないが、あんな無茶をして!(暁)
  じゃなかったら確実に戦死してたぞ!」

カガリは涙を流しながら俺に抱きついてきた。

 「ごめんね。心配かけて」

俺は優しくカガリの頭を撫でながら、彼女を優し
く抱きしめてあげた。

 「多分、旧式のM−1で出撃させても結果は同
  じだと思っていたんだ。でも、更にもう何十
  人かのパイロットを失っていたと思う。俺は
  同じパイロットとしても、オーブ軍の未来の
  為にも、それを容認できなかったんだよ」

優しく諭すようにカガリに説明してげた。
この多く生き残ったパイロット達は、未来のオー
ブ軍の力になるのだから。

 「私はダメな指揮官だな。そんな事にも気が付
  かないなんて」

 「それは、追々学んでいけばいいさ。キサカ准 
  将が教えてくれるし」

 「でも、お前が生きてて良かった。数分でもあ
  んなに沢山の敵の前で囮になるなんて・・・
  」

 「(暁)は高性能機だね。多少壊れてしまった
  けど、俺はピンピンしてるし」 

 「そうだろうな。あれはオーブの象徴ともいえ
  るモビルスーツなんだ。でも、少し壊れてし
  まったか。どれどれ・・・・」

カガリが「暁」を見ていたが、急に声の質が変わ
った。

 「おい、これが少しか?」

 「少しでしょ。まだ普通に動くし」

 「ほーう、これが少しか」

俺が改めて、「暁」を見ると、ビームを跳ね返す
特殊装甲がえらい事になっていた。
世の中に、全く壊れないでビームを永遠に跳ね返
し続ける装甲など存在するはずも無く。
「暁」の装甲は色あせ、はがれ、ひび割れ、へこ
みが全身に広がっていて色も黄土色にしか見えな
くなっていた。

 「何かさ。歴戦の勇士って感じでカッコいいよ
  ね」

こうなれば誤魔化すしかあるまい。

 「カザマ君、それをこの人にも正面切って言え
  るのかしら」

振り返ると、エリカ・シモンズ主任が親父と一緒
に立っていた。

 「俺が(暁)の為に、何度徹夜したと思ってい
  るんだ!」

 「かわいい息子の命を守ったんだよ。凄いよね
  。カッコイイよね」

 「許さんーーー!」

結局、俺は、親父・エリカ主任・カガリに1時間
近く説教された。
この世の不条理を感じずにはいられなかった。


(午後二時、オーブ攻略艦隊旗艦「チェスター・ニ
 ミッツ」

オノゴロ島沖合い200キロの海域まで避難した機
動艦隊は、体勢の建て直しと、安全に退却するため
の手段を模索していた。

 「被害報告を聞こう」

 「艦隊ですが、空母は昨日の第12任務艦隊の空
  母以外は被害がありません。護衛艦の損害率は
  35%です。敗走時の敵の追撃で被害が拡大し
  ました。揚陸部隊の海兵隊4個師団の内、生き
  残っているのは1個師団のみです。残りは戦死
  か捕虜になりました。さすがに艦船ごと沈めら
  れると精強さも関係ありませんね。航空機は残
  存数58機でモビルスーツの残存数は203機
  です。その他に水中用モビルスーツが8機が残
  っています」

 「報告の正確さに間違いは無いようだが、言葉の
  節々に毒が混じっている気がするのは俺だけか
  ?」

 「いえ、気のせいではありません。どうせ、降格
  か予備役編入ですからね」

 「おいおい、いじけないでくれよ」

 「やはり、撤退ですよね」

 「また戦っても恥の上塗りだろう」

 「800機のモビルスーツの損失ですよ。普通の
  近代戦ではありえない事態ですね」

 「ありえない負けっぷりだな」

 「ですが、ザフト軍の精鋭を多数消耗させました
  。アズラエルは月で大笑いしてますよ。それに
  、オーブとは明日にも講和条約が締結されるで
  しょう。最初からそういう決まりですから。そ
  うすれば推定で150〜200名ほどの捕虜に
  なっているパイロットが戻ってきます」

 「結局、この戦いで死んだ連中って何なんだろう
  な?」

 「さあ?生き残った喜び以外に感じる事はありま
  せんね」

 「では、撤退するかな」

 「安全に、素早くですね」

 「お家に帰るまでが遠征だ」

だが、パールハーバーへ帰る途中に、ブラウン副指
令の潜水艦隊の待ち伏せに遭って、魚雷の波状攻撃
を受けた。
艦隊は1隻の大型空母空母、2隻の軽空母、2隻の
巡洋艦6隻の駆逐艦、2隻の高速輸送艦を失ってし
まった。
モラシム司令の敵討ちの為に、2日間も同じ海域で
待ち伏せを行ったブラウン副指令の執念の勝利であ
った。


(撤退一時間前、オーブ攻略艦隊旗艦「チェスター
 ・ニミッツ」空き士官個室)

 「うぬぬ、ニミッツのバカが!せっかくのお膳立
  てを全て台無しにしやがって!」

アドバイザーとしてこの艦にやって来たジブリール
はニミッツ大将に邪魔者扱いされて、この士官室に
軟禁されていた。
プライドの高い彼には許しがたい事であり、ニミッ
ツが負けた事を聞いて余計腹が立っていたのだ。

 「私の命令を無視した上に、負けおって。許しが
  たいバカだな。こうなったら私が事前に用意し
  ていた策で失点を挽回しておこう」

ジブリールはポケットに入れていた特殊な周波数を
発生させる装置のスイッチを入れた。

 「これで、上手くいく」

ジブリールの表情は少し晴れやかになった。


(同時刻、オロファト南方20キロの森林の中)

オーブ全土には非常事態宣言が発令されていて、こ
の森に近くづくものは皆無であった。
おかげで、この大きな黒い鳥は丸1日誰にも見つか
っていなかった。

 「おや?この信号はもしかして。もしかしてです
  か?」

携帯ゲームをやりながら、出番を待っていたクロト
がコンソールパネルに表示された、作戦開始の表示
を見て狂喜した。

 「ジブリールの奴。本気だな。さあ、楽しいピク
  ニックの始まりだぜ!」

クロトは事前に貰っていた薬を飲み干してから、レ
イダーを機動させて低空で飛行を始めた。

 「目標は代表官邸。面白い事になるぜ!」

クロトは超低空でビルをすり抜けながら、代表官邸
を一目散にに目指す。

 「見つけたよ。みんな死んでしまえ!」

レイダーはビーム砲を代表官邸に撃ち込んだ後、モ
ビルスーツ体型に変形して、鉄球を撃ち込み目標を
完全に破壊する。

 「んじゃ、またねーーー!」

クロトは再び、MA体型に変形してから一目散に機
動部隊を目指して飛んでいってしまった。
この戦闘はオーブが勝利を掴んだが、代表首長ホム
ラ氏は思わぬ伏兵によって命を落としてしまった。
この出来事が世界にどんな影響を与えるのか?
それは誰にもわからなかった。


         あとがき

次は、オーブ後片付け編です。
ホムラの死亡でオーブは再び混乱に陥りますが、
この事件でウズミはある決断をします。
果たして、その決断の内容とは・・・。
次回更新は不明です。

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