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「ジャンクライフ−9−(ローゼンメイデン+オリジナル)」」

スキル (2006-03-06 11:21)
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その人生に、価値があったのかと、その人生を見ていただけのものに聞けば、価値など無いと答えるだろう。
その人生に、意味があるのかと、その人生を歩いたものに聞けば、意味はあったと答えるだろう。
誰かの為に、何かの為に、あの人の為に、大切な人の為に、きっとそれは誰もが抱く守ろうという思う尊い想い。
屍は、その生ける者達の想いを見つめ続けた。
きっとそこには、その人にしか見えない、解らない理由があるのだろうと屍は推測する。
そして、その守りたいものを守れたときの生ける者の顔を見て、屍は思ったのだ。
自分も、できるのであれば、そうありたいと。


ジャンクライフ−ローゼンメイデン−


「君は、ずるい。」
「はぁ?」

優が学校に行き、しばらくたってから蒼星石は水銀燈に向けて非難の視線と共にそう告げた。
それに怪訝な視線を返しながら、水銀燈は頭に巻いた三角巾を外し、身に着けていたピンク色のエプロンも外す。
その間も蒼星石の非難の視線は変わることなく水銀燈に注がれ、水銀燈はそれに少しイラツキを感じ始めた。

「私の何がずるいって言うのぉ? 蒼星石。」

ずいっと、水銀燈は蒼星石に顔を近づけてそう問いかける。
その視線を真っ向から受け止め、蒼星石はキッと視線を鋭くして睨み返した。

「君、僕が寝たのを見計らってから優さんとキスしてただろう。」
「ふにゃっ! な、ななななな何を言い出すのよ。蒼星石。わ、私が人間なんかと! そ、それにあれは優が無理やり!!」
「うん。確かに優さんが少し強引だったけど、君も殆ど拒んでいなかったじゃないか!!」

それは、蒼星石が優の家でお世話になり始めて少ししてから気づいた事であった。
普通、ローゼンメイデンの姉妹達は眠るのが早い。
基本的には、九字ぐらいには眠たくなってきて、殆どの姉妹がそれに抗うことなく眠りに着く。
例外といえば、夜更かしが普通になっている水銀燈ぐらいのものである。
故に、いつもは優、水銀燈。蒼星石という三人の空間が夜の九字を過ぎると水銀燈と優という二人の時間へとシフトチェンジするのである。
そして決まって、深夜の攻防。優的に言うと「唇強奪作戦」であり、水銀燈的に言うと「唇死守防衛戦」のことである。

「な、何を言ってのよぅ。わ、私は必死で!」
「嘘だ! 最初はそんな感じだけど、途中から君は……う、腕を回していたじゃないか!!」

顔を真っ赤に染めた蒼星石の主張に水銀燈はそれ以上に顔を真っ赤に染めて、空気を求める魚のように口をパクパクと開いた。
水銀燈も、最初のうちは本気で優の攻撃から己を守っていた。
しかし、例の、優の胸の中で泣いて以来、どうも強く抵抗する事が出来ずについ先日、ついに唇を奪われてしまったのだ。
律儀な性格の水銀燈であるが、大雑把な部分もあり、一度されたのだからと最近は抵抗の力が緩まっていたのは事実である。
それゆえ、蒼星石に図星をつかれた水銀燈は何も言い換えことが出来ずにむぐっと黙る事しか出来ない。

「そ、その、ああいうのは、僕はいけないと思う!」
「う、うるさいわねぇ! しょうがないでしょぉ。」
「その、優さんはミーディアムなんだよ。それを、そんな対象にするなんて……」

そこまで言うと蒼星石は火照った体を沈めるように溜息をつく。
だがしかし、その一瞬の隙が蒼星石の命取りとなった。
顔を真っ赤にしてうるさいと呟き続けていた水銀燈が何かを思い出したように、顔を輝かせた。

「貴方だって優にあの犬みたいな服を無理やり着せられて喜んでたじゃなぁい!」
「あ、あれは、優さんがどうしてもっていうから!!」

それもまたつい先日の事、優が部屋に散らばるいらない雑誌を捨てようと部屋の整理をしていたときの事だった。
優は偶然にも、優が小さい頃に来ていた服の入った籠を見つけ、ついでといわんばかりに籠の中を整理しているときにそれは発見された。
犬耳フード付きの帽子の付いた服である。
その時、優の部屋の中には部屋の整理を手伝っていた蒼星石しかいなかった。
水銀燈が掃除などを手伝うはずはなく、そのときは部屋にはいなかったのだ。
そうすれば必然的に優の餌食となるのは蒼星石である。
基本的には人のいう事を聞いてしまうタイプの蒼星石が優の魔の手から逃れる事が出来るはずがなく、あえなく着るハメとなってしまったのだ。
予断だが今の優の携帯の壁紙は、朝はノーマル水銀燈、昼は犬耳蒼星石、夜は猫耳水銀燈というシフトである。

「……」
「……」

二人は無言でにらみ合うと、どちらともなく疲れたよう溜息をこぼした。

「優さんってさ、少しおかしいよね。」
「おかしいというよりも、優は自分の行動がおかしいとか気づいてないのよ。だって基準が、あの部屋にある漫画とかアニメだから。」

今の優は過去から現代へとタイムトラベルしたような環境である。
その為、次の人生が始まってすぐにする事といえばその時代の情報収集である。
そして今回はそこで悲劇が起きた。
つまりは、「過去」の優には人付き合いが殆どなく、「今」の優には己の記憶を掘り返してみても現代の人の付き合い方が分からなかったのである。
だから彼は情報を求めた。自分の部屋に大量に存在した漫画とアニメに。
そうして、自覚なき萌えの探求者樫崎 優は誕生した。

「基準が優さんの部屋の漫画とかアニメ?」
「そうよ。私が優と知り合って最初の間は学校から帰ってくるたびに、漫画やアニメを見て、こういう場合はこう行動するのかとかつぶやいてたわ。」
「その、君はそれを訂正しなかったの?」
「その時は、優なんてどうでもよかったから。」

ふと、水銀燈は自分の過去を思い出す。
ジャンクとしてこの世に誕生したときから他の姉妹を倒す事だけを考えて生きていた。
ミーディアムは水銀燈にとっては力を与えてくれる生贄にすぎず、ただ一人、父であるローゼンの愛だけを求めて生きていた。
それが、今はどうなのだろうと水銀燈は周りを見渡しながらも最近の記憶を掘り起こす。
出会って突然婚約者と言われ、ずるずると引きずられるように、水銀燈は優に振り回された。
最初はそれが嫌で嫌で仕方なかったはずなのに、いつのまにかそれが楽しくて、このままでは――――

「そんな、ことはない。そんなことはありえないわ。」

一瞬頭に浮かんだ馬鹿げた考えを振り払い、水銀燈はきょとんとした視線を向けてくる蒼星石を見た。

「私は、アリスになる。そして、お父様に愛してもらうのよ。」
「水銀燈?」

水銀燈は必死にその言葉を呪文のように自分に言い聞かせる。
そうしなければ、自分の過去が酷く無価値なもののように感じて、怖くなったからだ。

「だ、大丈夫水銀燈!」
「大丈夫に決まってるじゃない。」

そう言って、水銀燈は蒼星石に馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
その笑みを随分と久しぶりに浮かべたように感じながら、水銀燈は続けて何か告げようとして、焦げ臭いにおいに眉をしかめた。

「なぁに? このにおいはって、お鍋!!」

水銀燈はすぐさま、自分が蒼星石が来るまで調理していたお鍋の方に向かい慌ててお鍋を熱している火を止める。
布巾を手に取ると水銀燈はそぉっとお鍋の蓋を開けて中を覗き込み、そこに広がる絶望的な光景に目を瞑った。
蒼星石もその様子に何が起こったのかを知り、申し訳なさそうに水銀燈に謝る。
その蒼星石の言葉を聞きながら、水銀燈は思う。
このままでは駄目だと、自分は本当に駄目な存在になってしまうと。


「今から、攻める?」
「ええ。そろそろ、真紅達の警戒も解けてきたころぐらいだろうし。」
「そうか。」
「ふふっ。真紅の驚く顔が目に浮かぶわぁ。」

優と蒼星石は水銀燈のその空元気にも似た妙な張り切り具合に首をかしげながらも、納得したように頷いた。
といっても本当に納得したように頷いたのは優だけであり、蒼星石は少し顔色が暗い。
優側に来た時からこういうときが来るという事は覚悟していたのだが、いざその時が来てみると蒼星石は体が震えそうになるのを感じていた。
今夜、真紅達と激突する。それはすなわち、姉の翠星石と戦う事になるという事だ。
嫌だ、と蒼星石は何度も思うが、それと同じように、いつかは戦わなければならないという思いがあるのも事実である。
きゅっと、優の服の端を掴み、助けを求めるように視線を向ける。

「怖いか?」
「……」
「いつかは、お前と水銀燈も戦うのだろうな。」
「そうしたら、優さんはどちらにつきますか?」
「可笑しな事を言う奴だ。水銀燈に決まっているだろう。」
「そう、ですよね。」

ずきんずきんと痛み胸を押さえながら、蒼星石は優に寄り添った。
なにかとても冷たいものが自分の中で鼓動し始めるのを感じながら、蒼星石は思う。
ありえないと思いながらも、自分の隣に立って、水銀燈と戦う優の姿を。
グリーブ、と蒼星石は声にださずに呟いた。

「いつまでもイチャイチャしてないでいくわよ。」

だが、そんな二人を引き裂くように水銀燈の冷たい声が響く。
優はその声に普通に反応し、蒼星石は少し恨みがましい視線を向けて反応した。
幸いな事に蒼星石のその視線に水銀燈が気づく事はなかった。
水銀燈につくのが当たり前という優の言葉に頭の中が煮えたぎっているので、当然と言えば当然である。
それぞれの思惑を胸に三人は姿見の鏡からnのフィールドへと自分を沈める。
そうして、nのフィールド内を移動しながら、優はふとした疑問を二人にぶつけた。

「聞き忘れていたのだが、どうすればローザミスティカは手に入るのだ? 壊せばいいのか?」
「いえ、それは違いますよ優さん。ローザミスティカは意思を持つ命ですから。」
「ただローザミスティカを手に入れるだけでは駄目なのか?」
「ばかねぇ優。意思を持つんだから、その意思を屈服させないと、手に入れても拒絶反応が起きるに決まってるじゃなぁい。」
「ふむ。つまりは、倒した相手に敗北を認めさせればいいわけなのだな。」
「そういうことになるわぁ。」

蒼星石は二人の息のあったやりとりを見つめながら、強くなる胸の痛みに耐える。
それに二人は気づかない。
表情に出さずに蒼星石はそれを押さえ込む。
それが余りいいといえる感情でないとわかるだけに、蒼星石はただそれに耐え続けた。


「嫌なのぉ〜!!」
「水銀燈! 貴方!!」

水銀燈は己の漆黒の羽で絡み取った雛苺の体を締め上げながら、怒りに震える真紅を見下ろした。

「貴方がいつまでたってもこの娘のローザミスティカを奪わないから、私が奪いに来てあげたんじゃなぁい。」
「雛苺はこの真紅の下僕よ。どうするかは私の勝手なのだわ。」
「下僕ぅ? 本気で言っているのぉ?」

水銀燈のそんな様子に真紅は赤い花びらを具現し、水銀燈へと向けて放つ。
それを軽く避けながら、水銀燈はニコリと花のような微笑を浮かべ、真紅に言い放った。

「ここで戦うほど野蛮じゃないわ。真紅ぅ。」
「どういうこと?」
「私のnのフィールドにきなさい真紅。そこで待っててあげる。でも、早くしないとこの娘を壊しちゃうかもぉ。」
「待ちなさい水銀燈!!」

鏡からnのフィールドへと消えていく水銀燈を見て、真紅はそう声を上げるが、水銀燈はそれを嘲笑うように鏡の中へと消えた。
その後にドタドタとした足音が聞こえ、ジュンと翠星石が姿を現した。

「なにか、どったんばったん音がしてましたけど何かあったですかぁ? 真紅。」
「案外此処にある本を取ろうとして、積まれていたなにかをおとしたとかじゃないのか?」

不思議そうな翠星石の声と、少し笑いを含んだジュンの声に、真紅は冷静に言葉を発した。

「雛苺がさらわれたわ。……水銀燈に。」
「ええ!」
「ほら見ろですぅ。あの水銀燈が心を入れ替えるなんてありえないですぅ。って、はっ! そうなると蒼星石が心配です! どうするですか真紅!!」
「行くわ。ご招待に預かった水銀燈のフィールドに。」

そこまで言って、真紅は驚いた顔で固まっているジュンに視線を向けた。
その視線は無言でジュンに一緒に来て欲しいと告げている。
ジュンはその視線に以前ほど反感を抱くことなく、頷いて返す。
波紋を浮かべながら波打つ鏡の中に三人は身を沈め、開けた視界には壊れた世界が広がっていた。
廃墟と化した家屋に、手足のちぎれた人形達。

「結構早かったのねぇ真紅ぅ。もっと、遅いと思ってたわぁ。貴方、トロイから。」

声のしたほうに三人が視線を向けると、そこには囚われた雛苺と水銀燈、そしてその両脇を固めるように蒼星石と優が立っている。

「蒼星石!!」

優がそこにいる事に少しショックを受けたように後ろに下がるジュンと、蒼星石に呼びかける翠星石。

「来てあげたわよ水銀燈。おとなしく雛苺をかえしなさい。」
「馬鹿じゃないのぉ真紅。このくらいでかえすわけないじゃなぁい。」
「じゃあ、どうすればいいというの?」
「負けを認めなさい真紅。そうしたら、この娘を返してあげるわぁ。」

その言葉に真紅は考えるように瞳を閉じ、次の瞬間にはその瞳に怒りの色を浮かべて飛び上がった。

「冗談は、寝てから言うものよ水銀燈!!」
「私も手伝うです真紅!」

それに続くように翠星石も飛び上がり、それを見た蒼星石が仕方ないと悲しそうに呟いた。

「水銀燈。僕は翠星石を。」
「お願いね蒼星石。なんなら、翠星石のローザミスティカを奪っちゃいなさいよぉ。」

蒼星石は水銀燈のその言葉には答えず。掌に愛用のハサミを具現すると翠星石へと向かって入った。
そして、翠星石とある程度距離を置いて対峙するとそのハサミを翠星石に向けた。

「邪魔はさせない。」
「蒼星石!!」

切りかかってくる蒼星石のハサミを慌てて出した如雨露で受け止めながら、翠星石は蒼星石の名を呼ぶ。
戦いたくないとその瞳が語っているのを感じながらも、蒼星石はハサミを振るう。
いつかはこうなる運命だったのだからと、蒼星石は何度も自分に言い聞かせるのだった。


その少し離れたところで、真紅と水銀燈は向かい合って対峙していた。

「はなすのぉ〜!!」

ばたばたと暴れる雛苺を締め上げながら、水銀燈は真紅へと微笑みかける。

「負ける覚悟は出来たの真紅ぅ。」
「雛苺を返してもらうわよ水銀燈!!」

そして、二人は空中で激突した。
だが、それも一瞬の事である。
真紅は人質である雛苺を気にして本気で攻撃する事が出来ず、水銀燈はそんなことを気にせずに戦う事が出来る。
戦いの結果など初めからわかっていた戦いであった。
案の定、水銀燈の漆黒の羽が真紅の僅かな隙をついてその身を拘束し、締め上げる。
その光景を当然という風に眺めていた優は、背後で聞こえた足音に視線を向けた。

「お前!」

そこにはジュンがいた。
走ってきたのだろう。
息を切らして、だがその瞳はまっすぐ優に向けてジュンは怒鳴った。

「お前、なにやってるんだよ! やめさせろよこんなことは!!」
「なぜだ?」
「なぜって、わからないのかよ! こんな、人質を取って、卑怯じゃないか!!」
「確実に勝つためには仕方のないことだ。」

そんな優の様子に、ジュンは自分でも不思議なほど怒りを覚えると、優に走りよってその胸倉を掴んだ。

「お前、本気でそう言ってるのかよ!!」
「――――何を怒っている。蒼星石に聞けば、どうやらお前はあの人形がいる事にほとほと嫌がっているそうじゃないか。」
「それが、それがなんだってんだよ!」
「その嫌な人形の始末を水銀燈がつけてやろうとしているのではないか。それなのになにを怒ることがある。」

優の胸倉を掴む手にぎゅっと力が入る。
ジュンは何か言い返してやりたいはずなのに、なにも言い返すことが出来なくて、ただそうやって拳を握り締める事しか出来ない。

「優しいのだな。それにいささか、天邪鬼のようだ。」
「何を言ってるんだよ。」
「残念だ。こういう形でなければ、いい友人になれたであろうにな。」

ドスッと、ジュンは自分の鳩尾に優の拳が突き刺さった痛みを感じて、お腹を押さえてうずくまった。
優はそんなジュンをついでとばかりに蹴り上げると、何事もなかったように水銀燈と真紅に視線を向けた。
頭上では、拘束されながらも真紅が敗北を認めずに抗っている。

「水銀燈。」
「なぁに? 優。」
「その真紅を俺の目の前に下ろせ。それと、なにか剣のようなものはないか?」

突然の優の申し出に水銀燈は怪訝な顔をしながらも、律儀に真紅を優の前までおろし、そして愛用の剣を与えた。
優は水銀燈から手渡された漆黒の柄を持つ剣を持つと、二三度振り、そして真紅へと視線を向けた。

「敗北を認めるか?」
「くっ、この羽を外すように水銀燈に言いなさい! 水銀燈のマスター!!」

真紅の瞳に宿る期待の光を見つめながら、優はただそうかとだけ呟き、その剣を真紅の腕の継ぎ目へと突き刺した。

「えっ!」
「真紅!!」

真紅とジュンの驚きの声が重なり、優はそんな声を無視するように剣を操り、真紅の腕をねじ切った。
まるでその場が無音の空間になったかのような静寂のあと、真紅の叫び声がその場に響き渡った。

「あっはははははは。最高よ優! 真紅を、真紅をジャンクにしちゃうなんて、貴方最高だわ!!」
「私の、私の腕が……。」

絶望したような真紅の顔を眺め、水銀燈の嘲笑の笑い声を聞きながら優は剣をもう片方の腕の継ぎ目へと添える。

「敗北を、認めるか?」
「このぉぉぉぉ!!」

優は突然自分を襲った突然の衝撃に、剣を手から落として、そのまま地面に叩きつけられた。

「お前、お前っ! 自分が何をしたのかわかってるのかよぉ!!」

優を突き飛ばした正体であるジュンは、馬乗りの体勢で何度も優を殴りつける。
優はなんとかそれに抵抗しようにも、身体面ではジュンに劣っているのでどうする事も出来ない。
ジュンは殴るのをやめると、優の胸倉を掴んで顔を近づけ、怒鳴った。

「お前は、お前はいい奴じゃないのかよ! カスギ君には、優しかったじゃないか!!」
「当たり前だ。彼は、敵ではなかったからな。」

ガツンッと優はジュンの顔に頭突きを食らわして、自分の上からジュンをどかすと立ち上がった。

「俺は水銀燈のミーディアムだ。貴様らの敵だ。」

ジュンは鼻を押さえながら、少し顔を腫らした優を睨みつける。
そして、その濁った瞳を真正面から捉えた。
轟く様に、射抜くように、その暗く濁った瞳は、隠しきれない残酷さを感じさせる。

「水銀燈。その人形の残っている片方の腕も壊してしまえ。」
「お前なぁ!!」

噛み付くようなジュンの声に、優はめんどくさそうに声を発した。

「なぜこんなことができるのかとでも聞くつもりか? そんな、下らない事を俺に。」
「なんでだよ! なんでそんな残酷な事が出来るんだ!!」
「水銀燈をアリスにしたいからだ。」
「なんだよそれ。……水銀燈をアリスにする為なら何をしてもいいっていうのか!」
「――何かを得るために、その過程で、障害となるモノを排除するのは当然の事だ。」

ジュンは、拳を握り締めて立ち上がった。
目の前にいる優を睨みつける。
実の所を言えば。ジュンは優に少し憧れ始めていた。
ジュンが不登校になった原因の一つである男子生徒を叩きのめした事を柏葉 巴に聞いたときには胸がスッとするのをジュンは感じた。
前回のカズキを説得したときなど、その堂々とした様子をカッコイイとまで思った。
優の心が放つ威厳の光に、ジュンは魅せられはじめていたのだ。
だが、それも今は砕け散った。

「僕は、僕はお前を許さないっ!!」

なんだかんだ言いながらも、ジュンは真紅のことが好きなのだ。
それほど長い付き合いというわけでもないが、ジュンは真紅に対しても憧れのようなものを感じていたのだから当然だ。
その真紅の腕を、樫崎 優は平気で壊した。
いい奴だと思ったのに、という逆恨みのような憎しみとともにジュンは優にそう告げた。
そして、そんなジュンに答えるように優も怒声を放つ。

「目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤む事しか出来ないお前に何が出来る? 何も出来るはずがない! ただそこで己の無力を呪うがいい!!」

ジュンの視界の中で、真紅の残った腕が水銀燈の漆黒の羽によって締め上げられている。
真紅は、まるでただの人形に戻ったようにそれに抵抗することなくされるがままになっている。

「真紅! しっかりしろよこの呪い人形!! 人を下僕と呼ぶのなら、主らしいところを見せろよ!!」
「ジュ、ン。」

その今にも泣き出しそうな真紅の瞳に、ジュンは頭の中が真っ白になるのを感じた。

「あははは。抵抗しないとすぐにでも残った腕がちぎれちゃうわよぉ。」

その笑いが、ジュンの心を白く染める。

「……。」

その冷たい視線が、ジュンの心を白く染め上げていき、そして――――

それは一瞬の出来事、ジュンに殴りかかろうとしていた優の手が止まる。
笑っていた水銀燈の顔に驚きの色が広がる。

――――紅い、そうとても紅い、膜の様な盾が真紅を守るように突如として出現し、水銀燈を弾き飛ばした。

「きゃあっ!」
「水銀燈!」

優はジュンの横をすり抜けて、弾き飛ばされた水銀燈に近づくと、大丈夫かと問いかける。

「え、ええ。でも、少し失敗したみたい。」

そんな水銀燈の言葉に、優は予感めいたものを感じてジュン達の方に視線を向けると、そこには敵がいた。
真紅を抱きしめるジュン、それを守るようにして立つ雛苺、そして戸惑いの表情の蒼星石に怒りに燃える翠星石。

「……失敗か。」
「つまんない状況になってきたみたいだから、私達は帰るわ。じゃあねぇ。ジャンクになった真紅。」
「逃げるですか水銀燈!」

翠星石のその声を無視するように、水銀燈は自分のnのフィールドから現実世界へと離脱する。
優もその後に続こうとして、自分を呼び止める声に視線を向けた。

「優さん。」

そこには迷子の子供のような蒼星石がいた。
言うべき言葉などなく、無視してしまえば事足りるはずなのに、気がつけば優は蒼星石に答えていた。

「ちゃんと、逃げていたようで、久しぶりにその声が聞けて、うれしかった。」
「――っ!! 待って! 待ってください優さん!!」
「やめるです蒼星石。蒼星石も見てたです。あいつが、真紅の腕を切り飛ばすところを! 許せん奴なのです!!」

蒼星石は去っていく優を見ながら、強くなっていく胸の痛みに耐え切れずに涙をこぼした。
それがどんな感情で零れた涙なのかは蒼星石にはわからなかった。


あとがき
という訳で、蒼星石の仲間になった次の瞬間には離脱の巻きでした。
本来ならば、前半の萌えパートと後半の燃えパートを別々にして前後変にする予定だったはずの今回。
別々にすれば量が中途半端になる事から、一緒にしました。
長いっすか? 大丈夫ですよね。それだけが心配です。


>汝さん

どうもはじめまして。水銀燈が攻略できないゲームに価値はあるのか!? とか思っているスキルです。
まぁとりあえず発売してしばらくしたら、中古で買うぐらいでちょうどいいだろうなどと考えております。
FFの最新作が出るので、お金に余裕がないのです(ノД`)ヽ
というわけで、これからもジャンクライフのことをよろしくお願いします。

>空羽さん
前半のムフフな所から、後半の展開は推測できたでしょうか? 
な、なんだこの展開は!? と驚いていただければ幸いです。
そろそろジャンクライフも佳境に入ってきましたので、どうかアニメの復習を忘れずに!!

>KOS-MOSさん
KOS-MOSさん。
残念ながらもう我々では手の施しようがありません。
真紅衣装水銀燈という未だかつてない萌えを垣間見たようでは……ええ。
もう、貴方は死後を世界に預けてしまっています。
英霊の座では、紅い槍を持った人とかと仲良くしてください。
金の王様のワガママに苦労するでしょうが、応援しています。では。

>樹影さん

>しかし、ラストの方ではまた水銀燈&蒼星石を抱えて街を練り歩いたようで…それが噂となって広まった時の香織嬢の心労を思うと哀れでなりません。
 …強く生きてほしいなぁ(爆)。

後日、兄が人形を抱えて練り歩いていたという噂を聞いた妹K・Kさんは、家に帰るなりすぐに兄に噂の真偽を確かめたそうな。
近所の人の話では深夜まで兄弟喧嘩の声が聞こえていたそうです。主に涙声の妹の声が……(ノД`)ヽ

>秦さん

優は順番はともかく、自分が呼ばれていた名前は全て覚えていますよ。
そして、最後には水銀燈はカワイイ。最後にはやはり俺もこの事実につきます。

>黄色の13さん

シリアスがお好きなようで、今回の後半もシリアスに仕上げましたが、満足していただけたでしょうか?

>かれなさん

前回の真紅の「そうだといいわね」は今回の話で見事に悪い方向に裏切られる形となりました。
アリスゲームという舞台で戦う以上、これが普通だと俺は思うのですが。
本編のお手てつないで仲良しこよしのほうが、特殊だと言い張ってみたりするスキルでした。

>花鳥風月さん

内の水銀燈はツン期を無事通り越してデレ期へと突入しております。
アニメでも、デレ期の水銀燈を見たいものです。
というわけで、これからも頑張りますので応援よろしくお願いします。

>lafiさん

>しかし、このままなし崩しで真紅達と仲良くなるのも何処か寂しさを感じます。

その寂しさを吹き飛ばした今回の話はどうだったでしょうか? 
どれだけ歩み寄ろうと真紅達と水銀燈達が敵同士という事実変わりません。
悲しいけど、それが戦争なのですよ(ぇ

>HINOさん

ツタ○でローゼンのアニメを借りて見たほうがジャンクライフは楽しめますよ。
原作の漫画とは、展開が違いますからね。

>西環さん
蒼星石の仲間入りが本確定したと思いきや、結果は!! という感じの今回のお話。
梅岡さんは深く静かに行動中です。
グリーブが優の何回目の人生か? という質問ですが、決まっておりませぬ。
たぶん、十五か、十四ぐらいだと思います。というか、そういうことにしときます(ぇ

>GINさん

はじめまして。時代は猫(水銀燈)だけど犬(蒼星石)もいいよねとか思ってるスキルです。
身に余る賞賛の言葉に感謝感激雨あられです。
これからもそう言われ続けるジャンクライフが書ける様に頑張ります。

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