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「これが私の生きる道!オーブだらだら編3(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-03-04 01:32/2006-03-04 17:19)
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(7月25日、プラント軍事工廠)

アマルフィー技術委員長は、外国からの客人を迎え
る為に、朝早くから待機していた。
今日の客人は日本からの科学者で、外国の人間が
ここの来るのはカザマ博士に続いて2人目で
あった。

 「さて、そろそろ時間かな?」

腕時計を見ながら、アマルフィー委員長が独りで
つぶやいていると、扉が開いて50歳前後の日本人
が現れた。

 「いや、お待たせして申し訳ない。始めまして。
  私は防衛省軍事技術特別委員長の真田です」

自己紹介をしながら、手を差し出した。

 「プラント評議会技術委員長のユーリ・アマルフ
  ィーです」

アマルフィー委員長も、自己紹介をしながら、握手
をする。

 「では。早速、見てもらいますか」

真田委員長が丸秘と書かれたファイルを差し出し、
それをアマルフィー委員長が受け取った。

 「なるほど。5号機動歩兵(カイオウ)ですか。
  5号は水中用モビルスーツなんですね」

 「我々がグーンやゾノを使うと、色々面倒なん
  ですよ。使用目的と方法も違いますし」

 「それはそうですね。しかし、完全な矢尻型の
  モビルスーツで、足すら無いのですか。思い
  切った設計ですね」

 「グーンやゾノは水際での使用も考慮されていま
  すが、(カイオウ)は水中使用オンリーですか
  ら、立つ必要がありません」

アマルフィー委員長が細かい仕様を確認すると、
フェイズシフト装甲完全装備で、火器は熱・音探知
魚雷2門だけ。
主要な攻撃方法は左右の端からビームナイフを出し
て、敵をすれ違い様に切り裂くのみである。
驚くほど、シンプルな構造だ。

 「これを、潜水艦や護衛艦に搭載するのです。
  (カイオウ)は小型艦艇や潜水艦を沢山沈め
  てくれるでしょう」 

アマルフィー委員長は、目から鱗が落ちる思い
だった。
水中は宇宙空間より、行動が制限される場所だ。
モビルスーツいや、兵器に複雑な構造など必要
ないのだ。
グーンやゾノは水中速度を上げる為に、水圧や抵抗
に考慮した形になっているが、この腕と足すらない
シンプルなモビルスーツは、無駄な出っ張りがほと
んどない。

 「モビルスーツというよりは、小型潜水艦に近い
  ものなのですが、威力は保障します。最大速度
  で潜水艦をすれ違い様に切り裂く。潜水艦は
  浸水すれば、水圧でアウトです。小型艦艇も
  艦底部を斬られれば、すぐに沈没するで
  しょう」 

 「お手本のような兵器ですね。久々に感動
  しました」

 「単純構造で生産が簡単。複雑な動作を必要とし
  ないので、パイロットの訓練も早期に終わる。
  それでいて、威力は大きい」

 「それで、初陣は何時ですか?」

 「今、量産とパイロットの訓練が、ほぼ終了しま
  した。来月、東アジア共和国がシンガポール
  攻略支援の為に、大規模な潜水艦部隊を派遣
  するらしいので、それを(カイオウ)で撃破
  します」

 「随分、早いですね」

 「順番は5号なんですが、原型はセンプウよりも
  早く完成していまして」 

 「なるほど。それで、この機体をプラント同盟国
  で、量産する為の、技術協力が今日の目的なん
  ですね」

 「ザフト軍の方々はグーンとゾノでいいのでしょ
  うが、ナチュラルの国家では、(カイオウ)の
  方が、量産やパイロットの訓練も楽かと」

「カイオウ」は手足が無いので、操縦が簡単で
小型船舶の操舵手などから、転用し易いからだ。

 「オーブには独自の水中モビルスーツが無いです
  からね」

地球連合には、水中用モビルスーツが多数配備され
ているが、オーブでは海軍の少数のコーディネータ
ー士官が、ジャンク屋から購入したグーンとゾノを
10機程度運用しているに過ぎない。

 「そんなわけで、急ぎ配備して貰いたかったので
  すが、今回の作戦には間に合いませんね」

 「オーブが生き残れたら、制海権確保の為に、
  買って貰ったらどうですか?」

 「アマルフィー委員長は意外とキツイ事をおっ
  しゃる」

 「最近、プラントは技術的には敗戦続きですから
  。高コストで諦めかけていた、フェイズシフト
  装甲の量産に成功したのはオーブと日本の手柄
  でしたし、モビルスーツもセンプウが世界の空
  を羽ばたいているのに、ゲイツは生産中止に
  なる始末です。私は必要の無い人間なのかもし
  れません」

アマルフィー委員長から愚痴が出てしまう。

 「そんなに、自分を卑下しないでください。日本
  は、それほどの技術大国ではありませんよ。
  日本の得意技である、真似と改良が上手くいっ
  ただけです。事実、次期量産モビルスーツの
  開発で技術部は混迷しています。その歪みの
  結果が、ジンプウやシップウなのです」

 「ジンプウですか。確か・・・」

 「乗りこなせるパイロットがいなかったので、
  カザマ隊長に、実戦で使用して貰ったのです
  が、結果は散々でした。危うく彼を殺して
  しまうところでした」

 「確か、墜落したんですよね」

 「原因はラミネート装甲の強制冷却装置です。
  シールドに組み込まれていたメインでは無く、
  胴体に仕込まれていたサブの装置の耐久性が
  低かったようです。カザマ隊長は直接の被弾
  は無かったのですが、掠った数発のビームを
  胴体内の液体窒素で冷却して、蒸気を背中の
  サブスラスターで放出する際に、スラスター
  の強度不足で異常加熱したのが、直接の原因
  のようです」 

 「少し、お粗末ですね」

 「技術部の連中は、ビームを防ぐ方法を考え過ぎ
  て、頭がおかしくなってしまった様です。連合
  がシールドに採用している、コーティング技術
  を応用すれば良かったのですが、アークエン
  ジェルの話を聞きつけてきた技術員が、その
  技術の応用を提案しまして。それに、自衛隊
  上層部が乗ってしまったのです」

 「でも、大成功ではありませんか。あんな狭い
  範囲のラミネート装甲だけで、ビーム攻撃を
  無効化するのに成功したのですから」

 「実は、あれがセンプウの唯一の弱点なのです。
  まだ、気が付いている人は極少数なのですが」

 「弱点なのですか?」

 「あの装甲で防げるビームは一回限りです。胴体
  内の強制冷却装置の液体窒素タンクが空になり
  ますから。更に、それで装甲は使用不能になり
  、次は交換しないといけません。ですが、
  ラミネート装甲は高い。それなら、連合が採用
  しているアンチビームコーティングの方が安価
  で交換も容易な事にやっと気が付いたのです。
  連合はコックピット周りがラミネート装甲で
  ある事実に驚愕して、こちらを必要以上に恐れ
  てくれたので、大分役には立ったのですが。 
  だから、現在のセンプウのコックピット周りは
  、二重装甲装備に改良されているのです」

 「フェイズシフト装甲の上に、極薄のビームコー
  ティング装甲を3枚重ねたものを貼り付けたん
  ですよね」

 「そうです。そして、上の装甲が破壊されると、
  自動的に、下のフェイズシフト装甲が作動しま
  す。その為に、コックピット周りのフェイズ
  シフト装甲を、その他の部分から独立させて
  いるのです。とにかく、最後までコックピット
  を防御してパイロットを守る。この基本方針
  は変わりません」

 「生産性と整備性が落ちませんか?」

 「大丈夫です。コックピット部分はモジュール化
  して、取り外しが容易になっています。ラミネ
  ート装甲時もそうでしたから、同じ事です。
  更に、上のビームコーティング装甲は交換が
  容易な構造になっています」

 「それで、胴体内の強制冷却装置は?
  デッドスペースですよね」

 「そこのスペースは、イーゲルシュテルンの弾薬
  庫を狭めて確保したスペースなので、元に戻し
  ます。これで、ねずみの小便なんて言われない
  で済みます」

センプウのイーゲルシュテルンは、射撃可能な時間
が少なく、あまりありがたくない渾名を頂戴して
いたのだ。

 「話が反れましたが、ジンプウの失敗で事態は
  ますます混迷の度合いを深めました。4号機
  シップウの命名の由来をご存知ですか?」

 「昔の戦闘機の名前ですよね」

 「外国の方にはわかり難いかも知れませんが、
  4号機は「疾風」で6号機は「疾風」です」

真田委員長が紙に書いて説明する。

 「同じに見えますが・・・」

 「読み方が違います。4号機は(シップウ)で
  6号機は(ハヤテ)です」

 「つまり・・・」

 「4号機は失敗前提の機体だから、読み方を偽物
  にして、6号機は本命だから、本物の読み方に  
  変えたのですよ」 

 「ですが、6号機が完成しているのなら、結構な
  事ではありませんか」

 「実は計画だけで、設計図も出来ていないので
  す。オーブでシップウのデータを取ってからに
  なります」

 「次期量産モビルスーツの方向性が決まって
  いないと?」

 「我々は追いかけるのは得意なんですが、追いつ
  くと何をしていいのか、困ってしまうのです」

 「大変なんですね」

 「ですから、(カイオウ)持参でヒントを探しに
  参上したのです」 

 「ヒントですか?うちも大して変わらないから
  な。それに、一部の実験機と新鋭機は、前線
  に出しているのですよ」

 「残っている機体は、どうですか?」

アマルフィー委員長が、ハンガーに置いてある
モビルスーツを紹介していく。
次期量産機候補の「ザク」の試作機が3バージョン
ほどと、まだ内部の機械がむき出しで装甲が付いて
いない「グフ」と「ドム」いう機体。
後は、フリーダムとジャスティスの改良機が数機
と、様々な武装や装備、局地仕様に改良された
ゲイツとシグーとジンが見える。

 「あれは?」

 「バクーとその後継機のラゴゥです。背中に
  2連装ビームを搭載した改良機の試作機です。
  既に、全機がアフリカで改良されて配置済み
  ですが」

 「国土の狭い日本では、使い難い機体ですね」

 「お互いに、煮詰まっていますね」

 「ええ」

日本の技術者は、次期量産機のプランが立てられず
に苦悩し、プラントの技術者は、世界一と言われて
いた評判を取り戻す為に、身近な機体の改良でお茶
を濁して誤魔化しながら、無謀ともいえる研究に
邁進している。
そして、オーブの技術者は敵の侵攻を控えて、それ
どころでは無かった。
恐ろしい量の資金をつぎ込み、何種類もの新型機を
量産出来る連合が羨ましい。 

 「後は、例の量子通信システムを使った武器
  くらいですよ。それで、日本では空間認識
  能力者は見つかりましたか?」

 「数人見つかりましたが、パイロット教育が終了
  した頃には終戦になっていますね」

 「では、連合で使用され、オーブでも採用された 
  量子通信ミサイルシステムが有効ですね」

 「ええ、ですから先日、データをオーブから貰い
  ました」

 「うちもやっと、数人の空間認識能力者が見つか
  りまして。今、新兵器で訓練中なんですよ」

 「新兵器ですか?」

 「フリーダムとジャスティスに装着する、ミーテ
  ィアという強化武装パックに、多数の量子通信
  兵器を組み込んでみました」

 「誰が操作するんですか?」

 「ミーティアにコックピットを増設しまして、
  そこで、空間認識能力者が兵器の操作と、帰還
  時の操縦だけをして母艦に戻ります。フリー
  ダムとジャスティスに装着した時には、モビル
  スーツのパイロットに操作を一任します」

 「移動力があるのが羨ましいです」

 「移動と言ったって、帰るだけですよ。そうしな
  いと、パイロットとしては未熟な彼らは全員
  戦死です」 

 「それで、ミーティアは何処にあるんです?」

 「勿論、ジャスティスとフリーダムを運用して
  いる部隊で、テストをしています」 

その後、2人は3日間に渡って積極的に意見を交換
したのだが、それが役に立ったのかは、誰にもわか
らなかった。


(同時刻、プラント訓練宙域)

 「よーし、そのまま合体だ。はいっ、ストップ」

 「ディアッカ隊長、2号機も装着完了です」

 「では、出発進行!」

エターナルに昨日、新兵器が送られてきた。
その兵器は巨大で、格納庫に入らない為、艦の横に
装着され、出撃時に切り離される事になっていた。
そして、この巨大武装パックと言うか、MAと呼ぶ
べきかわからない代物には、空間認識能力者の
パイロットが専属で付いていた。

 「レイ、スピードを出すぞ。大丈夫か?」

 「はい!大丈夫です」

まだ、幼い少年の声が聞こえてきた。
彼の名前はレイ・デュランダル。
あの、デュランダル外交委員長の義理の息子に
あたる人物である。
結局、空間認識能力者で満足な能力を発揮できる
軍人が見つからず。
民間人の志願者を調査した結果、4人の適合者が
見つかった。
その内、2人はナスカ級戦艦に搭載される大型
ミサイルパックの操作要員として別の艦隊に
派遣され、レイ達はミーティアの操作要員として、
クルーゼ隊に派遣されている。
そして、今日はいよいよ初訓練なのだが、彼らは
素人なので、ディアッカの心配の種は尽きな
かった。
彼が、デュランダル外交委員長の息子である点も
非常に厳しい。

 「あ〜あ。ヨシさんも俺達を部下にしていて、
  こんな心労を抱えていたんだろうな」

自分達も評議会議員の息子なのだ。
カザマ隊長も気を使っていたのだろうか?
そんな事を考えながら、過去を振り返るが・・・。

 「あの人、図太いからな。考えてなかったかも」

そんな事を考えている内に、訓練用の標的が置かれ
たデブリ地帯に到着した。   

 「では、訓練開始だ!」

レイ達が、ミーティアに大量に装備されている武器
を作動させる。
まず、大量のミサイルが標的に向かって飛んで
行き、デブリに書かれた的や、自動操縦の移動標的
に命中していく。

 「へえ、凄いじゃん」

 「次、いきます」

次はワイヤーの付いた4機の連装ビーム砲台が目標
に向かって飛んでいき、標的をビームで撃ち抜いて
いった。   

 「じゃあ、次」

今度は、プロヴィデンスにも搭載されている
ドラグーンが飛び出して行き、更に攻撃を加えて
いく。

 「上出来だ。最後はシャレで撃ってみな」

 「了解です」

レイは最後に、大型ビーム砲2門を試し撃ちする。
だが、彼は素人なので、的を大きく外れていく。

 「けん制にはなるな」

レイが無事に撤退できるなら、ビームのエネルギー
なんて惜しくない。

 「最後に大型ビームサーベルを試すか?」

 「勘弁してください」

格闘戦なんて、今のレイには不可能だ。

 「でも、本当にやばかったら、何でもいいから
  振り回せ」

 「了解です」

数分後、エターナルから命中率が告げられる。

 「86.7%だってさ。お前、才能あるよ」

 「ありがとうございます」

あまり嬉しくはないだろうな。とディアッカは
思う。
レイはあくまでもプラントの為に、志願してくれた
のだ。
本当は、音楽の勉強をしたいのが本音だろう。
だが、彼には才能があったし、デュランダル外交委
員長の息子でもある。
デュランダル委員長は、先輩議員であるザラ委員長
達の息子達が志願している手前、断れなかったの
だろう。

 「さて、帰ろうぜ。ご褒美にコーヒーを奢って
  やる。艦内の不味いコーヒーだけどな」

 「ありがとうございます」

2人が帰ろうとした時に、ラスティーから無線が
入った。

 「ディアッカ、悪い知らせだ。クルーゼ隊長が
  そちらに向かっている」

 「用件は何なんだ?」

ミーティアの武装は撃ち尽くしたのだ。
訓練続行は意味がない。

 「自分の方が、命中率が高いそうだ」

14歳の子供と張り合うなよ。
ディアッカは頭が痛くなってきた。

 「レイ!良くやったな。だが、上には上がいる
  ものだ。私が見本をみせてやろう!」

クルーゼ隊長はドラグーンを全機放出して、攻撃を
開始した。

 「見よ!私の華麗なテクニックを!」

ドラグーンは標的を次々に撃ち抜いていき。
数十秒後、プロヴィデンスに戻ってきた。

 「90%を超えただろうな」

数分後、エターナルから結果が伝えられる。

 「84.3%です」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

全員が沈黙してしまう。

 「さて、午後からは格闘訓練を開始するぞ」

 「それは、まだ早いですよ・・・」

 「レイは友人から預かった、大切な弟のような
  存在なのだ。鍛えあげて、戦死させないよう
  にするのが、ギルバートへの最大の友情だ」

 「本当は負けて悔しいくせに」

ディアッカが小声でつぶやくように言う。

 「ディアッカ隊長、クルーゼ司令。そろそろ帰り
  ませんか?」

 「そうだな。帰るとしよう」

ディアッカの毒舌は無視されて、3人は帰艦する事
になった。

 「俺の苦悩の日々は、いつ終わるのだろう?」

ディアッカの質問に答えてくれる人は誰もいな
かった。


(同時刻、プラントクライン邸内)

プラント評議会議員として、多忙な日々を送る
シーゲル元議長であったが、議長を辞任して、ヒラ
の議員になってからは、定期的に休暇が取れるよう
になっていた。
今日はお休みで、久々にバラの手入れをしようと
思っていたのだが、突然の来客でそれは中止に
なった。

 「突然、すまないな。私も、急に休みが取れ
  てな。遊びに来てみたのだ」

来客はザラ国防委員長だった。
突然の訪問に驚きながらも、客間に通してお茶を
出す。

 「おっ、日本茶か。昔飲んだ事があるが、
  結構美味しいものだな」

 「以前、カザマ博士を招待した時に取り寄せ
  たら、私も気に入ってな。今では愛飲して
  いる」

 「カザマ博士?ああ、カザマ隊長の父上か」

 「ラクスがオーブで色々お世話になってな。
  お礼に招待したのだ」

 「カザマ隊長か。彼はアスランを一人前に
  鍛えてくれた。若いが優秀な男だな」

 「そうらしいな」

うかつな事を言うと、鋭いザラ委員長にバレる
可能性があるので、言葉を少なくする。

 「それより、すまなかったな。ラクス嬢が
  アスランを追って、オーブ軍に志願して
  しまった。これから、オーブは危険に
  なるのに申し訳ない」

真実は違うんですよと、教えてあげたいのだが。
それは、無理だ。

 「ラクスが自分で選んだ事だからな。仕方が
  ない」

 「アスランも、止めるくらいの気遣いがあって
  もいいのに」

 「ラクスが押し切ったのだろう。気にしないで
  くれ」

 「アスランは私と違って、押しに弱いところが
  あるからな。レノア似なのかな?」

うちの娘のお願いを断れる人間がいるのだろう
か?
父親ながら、疑問に思ってしまう。

 「まあ、何にしても、戦争はもうじき終了する
  し、お前も私も政治の世界から引退するのだ。
  残りの人生楽しまなければ損だぞ。ところで、
  お前は畑違いの研究の道に進むのだろ。準備
  はしているのか?」

 「暇を見て勉強はしているが、本格的に始めるの
  は国防委員長を辞職してからだな。それと、早
  く2人が結婚してくれて、孫でも生まれてくれ
  れば万々歳だ」

2人が結婚?アスランとラクスの事だろうが、その
可能性はゼロに近い。

 「なあ、パトリック。もし、万が一の事なんだ
  が。アスランが別の女性を連れてきて結婚し
  たいと告白したらどうする?もう1つ、ラクス
  が別の男性と結婚したいと言ってきたら
  どうする?」

勘付かれる可能性はあったが、聞いておきたい
事柄だ。

 「なんだ?藪から棒に。もしそうなれば、仕方が
  無い事だな。本人の意思は尊重しなければなる
  まい。だが、そんな事はありえないだろう。
  2人はあんなに仲が良いではないか」

多分、国防委員長権限で徹底的に調査すれば、一発
で事実が判明するのだろうが、彼は全く疑いを持っ
ていないし、個人的な事で権力を乱用するつもりは
無いらしい。

 「そうだな。個人の意思は尊重しなければな」

どうやら事実を告白しても、決定的な破滅は訪れな
いだろうが、実の息子とその婚約者と友人に隠し事
をされている目の前の男を見ると、可哀想になって
くる。
そして、自分もそれに加担しているのだ。

 「アスランもオーブで元気でやっているらしい
  し、将来の代表候補であるカガリ姫とも懇意
  になった。ザラ家の跡継ぎとしては上々の出
  来だな」 

 「カザマ君が政治的に動ける人間で、色々助かっ
  ている。デュランダル委員長の進言と取り入れ
  て正解だ」

 「私に娘がいればな。婿にでもするんだが」

ザラ委員長の言葉にドキっとしてしまう。
彼はクラインの家は継がないが、婿に来る予定の
人間だからだ。

 「そっ、そんなに気にいってるのか?」

 「まあな。だから、残念でならない」

このまま話題を変えないでいると、ピンチに陥る
可能性があるので、別の話を始める。 

 「だが、オーブの政策を現実路線に戻し、潜在的
  なプラント同盟国に引き入れる戦略は見事に
  成功したな。さすがは、カナーバ議長とデュラ
  ンダル外交委員長の手腕といったところか」

ザラ委員長は素直に2人の議員を褒める。 

 「以前のオーブは、ウズミの理想に酔っている部
  分が大きかったからな。そこで、ホムラ現代表
  に影ながら支援を続けたのだ。おかげで、彼は
  ウズミ、ウナト、ミナの3人を手の平の上で
  操るお釈迦様のような存在になれたわけだ」

ホムラ代表は地味な存在だが、粘り強い性格で協調
性を尊重する、調整型の政治家だ。
彼自身に子供がいなくて、長期政権に野心を持って
いない点がかえって、彼を強い立場に置いている。
ウズミはいまだに強い人気を誇っているが、彼の
唯一の弱点であるカガリを将来の代表に据えるべ
く、現実路線に政策をシフトさせて行動している
し、ウナトは自分の次期代表がほぼ決定している
ので、ホムラに逆らう意味が無く、唯一危険を
孕んでいたサハク家の連中は、ウナトの次は自分達
と勝手に思い込んでいる節があるので、その時の為
の宇宙空間での地盤の強化に余念がない。
そして、彼らの成果は代表であるホムラの成果と
して、国内外で評価されているので、ホムラの政権
は高い支持を得ているのだ。

 「あの男がオーブ一のタヌキだ。自分の兄を含め
  た3氏族を争わせて、誰にも恨まれないで政権
  を維持している」

 「おかげで、プラントも利益を得ているからな。  
  文句を言ったら、罰が当たるというものだ」

 「それもそうだな。さて、そろそろ昼食にする
  か。一緒に付き合ってくれるのだろう?」

 「お互いに寂しい一人身だからな。喜んでつき
  合わせてもらう」

 「メニューは懐石料理だぞ」

 「日本食か?」

 「カザマ博士を招待した時に、料理人を出張させ
  て作らせたのだ。食べてみたら気にいってな。
  年を取って、脂っこいものが苦手になっていた
  ので、丁度いいのだよ。味も良いし。だから、
  専属の料理人を雇ってしまったよ」

シーゲルは健康の為にやっているのだろうが、何か
引っかかる。 
引っかかるのだが、それが具体的に何かはわから
ない。 

 「そうか、遠慮なく頂かせて貰うよ」

ザラ委員長は和食の味は気に入ったのだが、心の奥
に小さな疑問が残ってしまったのだった。


(同時刻、パールハーバー軍港)

今日はオーブ開放作戦に参加する巨大艦隊の出撃の
日だった。
参加戦力は一昨日入港した、ニミッツ大将指揮下の
大西洋艦隊の半数の艦隊と、サンディエゴに駐留し
ていた太平洋艦隊の残り三分の一のほぼ全艦。
そして、パールハーバー所属のフレッチャー中将指
揮下の第12任務艦隊とプリンス准将指揮下の特殊
任務艦隊もそれに同行するので、その規模は前回の
日本・台湾侵攻艦隊を上回るものであった。

 「大型空母が10隻、軽空母12隻、巡洋艦36
  隻、駆逐艦128隻、その他96隻。そして、
  前回の教訓を生かして、潜水艦が36隻。
  搭載モビルスーツが620機で航空機が250
  機か。オーブが地図から消滅しそうな戦力よね」

ラミアス中佐が独り言をつぶやく。

 「今回は楽勝でしょう。終わったらデート付き
  合ってよ」

フラガ少佐が軽口を叩いて、ラミアス中佐を口説き
にかかった。

 「本当にそう思っています?」

 「オーブもモビルスーツの数は、以前の予想より
  も増やしているけど、400機がやっとだし、
  艦隊戦力なんて比べるのが可哀想なくらいの
  格差が付いている。それに、日本と違って、
  潜水艦がほとんど配備されていない。上は安心
  してるでしょう」 

 「フラガ少佐の意見は?」

 「厳しいに決まってるじゃん。月と違って、通常
  のストライクダガーが主力で、その他は少数の
  デュエルダガーとバスターダガーとロングダガ
  ーだけだぜ。俺達は特別なんだよ」

特殊任務艦隊はモビルスーツの補給が完了して、
全機が訓練を続けている。
配備モビルスーツはデュエルダガー10機と
レイダー改2機がアークエンジェルに。
レイダー先行量産機の改良機が12機とレイダー改
が1機、カラミティー改が1機、
ソードカラミティーが1機でロングダガーが6機。
以上がピースメーカーに配備され、旗艦が変更に
なったのだが、それ以来、ラミアス中佐以外の
アークエンジェルクルーはピースメーカーへの立ち
入りが禁止になったのだ。
噂によると、暗部に所属しているパイロット達が
任務についているからだと言われているが、真相
は不明であった。

 「そろそろ、ピースメーカーに挨拶に行くんで
  しょ?時間に遅れるとあいつ五月蠅いよ」

 「気が進まないんだけど、仕事じゃしょうが
  ないわね」

ラミアスはアークエンジェルを降りて、ピース
メーカーに向かう。
パールハーバーでも、端の位置に停泊している
ピースメーカーには厳重な警備がついていて、
この艦に訪れる度に気が重くなるのだ。
入艦許可を貰ってからブリッジに上がると、
プリンス准将とイアン少佐が、打ち合わせをして
いた。

 「ラミアス中佐入ります」

 「ご苦労様です。ラミアス中佐」

プリンス准将の心のこもっていない、労いの言葉が
かかる。  

 「ドミニオンはいつでも出港可能です」

 「私達もいつでもOKですよ。」

 「そうですか。では、私はこれで」

ラミアス中佐が帰ろうとすると、プリンス准将が
意外な事を口にした。

 「ラミアス中佐、この艦のパイロットを紹介
  しますよ」

 「よろしいのですか?」

 「あなたが口外しなければいいのです」

 「自分は軍人ですので、軍機は口外しません」

 「それで、OKです。では、参りましょう」

プリンス准将とパイロット待機室に行くと、そこに
は20人以上のパイロット達が待機していた。

 「みなさん、紹介します。アークエンジェル艦長
  のラミアス中佐です」

 「よろしく」

ラミアスが一言挨拶すると。

 「おおっ、美人で乳でかいじゃん。俺の好みだ。
  よろしくな。俺はオルガ・サブナック少尉
  だったと思う」

思うだって?自分の階級くらい覚えておきなさ
いよ。
それに、本人を目の前にして、胸の話をするん
じゃないわよ。
ラミアス中佐の怒りのゲージが1つ上がる。

 「へっ、バカオルガが。俺はクロト・ブエル
  少尉だ。よろしくな!」

私は上官なのよ。
その、言葉使いを何とかしなさい。
ラミアス中佐の怒りのゲージが更に1つ上がって
いく。

 「はん、クロトだって一緒じゃん。お前に敬語
  なんて、天地がひっくり返ったって不可能だ
  からな」

 「お前も一緒だろうが。このバカが!」

2人が下らない言い争いを始めたので、プリンス
准将がそれを止めた。
何かの薬がどうとか言っていたようだが、静かに
なったので、気にしない事にする。

 「イレブン・ソウキス中尉です。コーディネータ
  ー傭兵部隊を束ねています。よろしくお願いし
  ます」

7人の比較的容姿が良いパイロット達が、挨拶して
くる。
彼らは丁寧な挨拶をしてくれた。
人当たりも良いようだ。 

 「では、最後の彼らを紹介します。1号から
  12号です」

 「へっ?」

ラミアス中佐は思わず、おかしな声をあげて
しまう。

 「彼らは秘密の任務についている関係で、顔を
  曝せません。それで、仮面を付けているので
  す。識別は仮面の額の部分と胸のプレート
  で判断してください」

ラミアス中佐は奇妙な12人をまじまじと見つ
めてみる。
背格好や顔の形、髪型や髪の色がまるで一緒で
見分けがつかないが、仮面の額を見ると数字が
書いてあった。
胸のプレートも同様らしい。

 「ぷっ!」

多分、プリンス准将は本気でやっているのだろう
が、あまりの可笑しさに噴出しそうになる。

 「私も見分けがつきませんから」

 「指揮が面倒では?」

 「どうせ、全員レイダーに乗っていますから。
  指揮は1号に任せています」

 「1号は指揮官として優秀なのですか?」

 「さあ、番号が若いから大丈夫ではないかと」

ラミアス中佐は早く、この艦から降りたくなって
きた。


パイロットの紹介を受けてから、ピースメーカー
を降りたラミアス中佐は、ドミニオンに戻って
発進準備を開始する。

 「ラミアス中佐、ピースメーカーはどうだっ
  た?」

フラガ少佐が尋ねてくるが、軍機なので話せない
し、話したくもない。 

 「気になります?」

 「関係ないと思うんだけど、あの船付近から
  ラウ・ル・クルーゼの気配を感じるんだ。
  それも、複数」

 「クルーゼは今、プラント本国ですよ」

バジルール大尉が以前、聞いた情報を教えて
くれる。

 「そうだよな。やっぱり、気のせいだよな」

一時間後、パールハーバーからオーブ攻略艦隊の
全艦が出撃して、洋上で訓練をしながらオーブに
向かっている事が、アメノミハシラの偵察で判明
した。
予定開戦日時は8月8日。
決戦の日は近づきつつあった。


(8月1日、オーブオノゴロ島野外演習場)

シンが俺達とモビルスーツの搭乗訓練を開始して
から、一ヶ月が過ぎた。
初めは素人で、ぎこちない動きが多かったシンだ
ったが、今では、シップウをそこそこ乗りこなせ
るまでに成長していた。
目標が出来た事で、更に訓練に気合が入っている
らしい。  
今の俺の基本スケジュールは、午前中書類仕事を
終えてから、Bストライクで他の師団の訓練に
回り、午後はシン達の訓練を担当していた。
シンは自分の人生を決めたのだ。
俺は、彼を戦死させずにプラントへ送り出さない
といけない。
シンは夕方まで訓練をしてから、俺の自宅で
ステラと勉強をしていた。
始めは、親父が不機嫌な顔をしていたが、シンの
真剣な表情を見てからは、そういう事も無く
なった。
そして、もう1つ変わった事があった。

 「おーい!シン。ステラから一本くらい
  取れよ」

ステラは主治医のリヒャルト先生と相談して、
モビルスーツの訓練を再開したのだ。
勘を取り戻して、アカデミーでの勉強に役立てたい
というのが理由だ。
俺は少し心配だったのだが、リヒャルト先生が許可
を出してくれた。

 「ステラは予想以上に安定してきた。お前以外に
  多数の交友関係を結んで、普通の娘に戻りつつ
  ある。これなら、アカデミー生活も問題なく送
  れるだろう。後は、定期的にカウンセリングを
  受けてくれれば大丈夫だ。アカデミーの校医は
  俺の後輩だから、紹介状を書いてやる」

リヒャルト先生が太鼓判を押すので、俺も安心
した。
そんなわけで、ステラが訓練に参加したのだが
・・・。

 「だめだ!全然勝てない」

M−1改兇鯀狃弔靴討い襯好謄蕕縫轡鵑亘殤
されっ放しだった。

 「シン、お前の機体は最高性能機なんだ。せめて
  、今日中に一本くらい取ってくれ」

 「無理ですよ」

 「無理でもやるの!勝てるまで食事抜き!」 

 「そんな〜」

実際、ステラは強かった。
ふざけて勝負を挑んだ、部下達が次々に負かされた
のだ。
石原一尉、マユラ、ジュリ、アサギ、ホー1尉、
ババ三佐、ハワード二尉、その他大勢の傭兵達。
ステラがナチュラルなので、コーディネーターの
兵士達の落ち込み方は特に凄かった。

 「バカが、油断するからだ」

俺が注意して回るハメになってしまったほどだ。

 「お前の妹は強いな」

ガイは素直に感心していたが、それはステラに勝つ
事が出来た余裕から来ているのだろう。 

 「のわー!格闘王の俺がーーーー!」

ホー1尉は若い女性パイロットとの真剣勝負が苦手
らしいので、多少、同情の余地があるが・・・。

 「午後から新兵器の実験なんだから、早く勝て
  よ。シン」

シンは一生懸命やっていたが、午前中に勝利する事
は出来なかった。


そして、昼食を終えた午後。
オノゴロ島に設置された、巨大なミサイルコンテナ
に主だったメンバーが集合した。

 「さて、量子通信ミサイルの実験だ。
  頑張ってくれよ」

カガリがミサイルコンテナの脇でモニターを眺めて
いる、若い士官に励ましの言葉をかける。
彼は、空間認識能力が高いのだが、レーダー要員
だったので、モビルスーツは操縦できなかった。
そこで、このミサイルコンテナを動かして貰う事に
なったのだ。

 「では、実験開始です」

上空にアスランの中隊が待機する。
今日のテストの的役だ。

 「隊長、テスト用の爆薬が詰まっていない
  ミサイルでも、良い気持ちしませんね」 

 「そうだな。でも、打ち落とすなよ。  
  あくまでも、テストなんだから」

 「では、発射!」

48基のミサイルが、上空のM−1隊に向かって
発射される。
M−1は機動性を駆使して回避に入るが、避けきれ
ないM−1に次々にミサイルが当たっていく。

 「命中率78%です」

担当の士官が報告してくれる。 

 「上出来だ」

フェイズシフト装甲には効かないが、連合の主力機
であるストライクダガーには効果的だ。 

 「問題は、護衛をちゃんとつける事か」

 「これだけ巨大だと移動は困難ですね」

ミサイルの再装填装置を組み込んだら、巨大化して
しまったのだ。

 「タケミカヅチに2基で、オノゴロに3基か。
  空間認識者が5人いるオーブは、大したもの 
  なのかな?」 

 「キラを含めると6人だ」

カガリが会話に割り込んできた。 

 「あいつは、パイロットとして活躍して貰う。
  既に、キラはトップエースクラスの腕前だ」

現在のキラと互角に戦えるのは、俺、アスラン、
イザーク、ガイくらいのものだ。
その強さは驚異的とも言える。

 「タケミカヅチも就役して訓練してるし、その他
  の準備も順調だ。勝てるって」

 「本当か?」

 「カガリちゃん、指揮官が不安な表情を見せたら
  だめだよ。気を大きく持つ事」

今日のお昼に、パールハーバーを出撃した艦隊の
規模を聞いて、不安になっているのだろう。 

 「大丈夫なのか?不安でな」

 「たまたま通りかかったザフト艦隊が、挟み
  撃ちにするから大丈夫」

 「たまたまね」

 「偶然って怖いよね」

 「そうだな」

カガリの表情が明るくなってきた。
これでいい。

 「さて、タケミカヅチに挨拶に行きますか」

パイロット達は再び訓練に戻り、俺とカガリは艦隊
旗艦のタケミカヅチに挨拶というか、打ち合わせに
向かう。
カガリと立てた作戦では、この艦が被害担当艦に
なる可能性が高いからだ。
モビルスーツの離発着機能と補給整備機能を優先し
て完成させたので、防御火器がM−1でヤマタノオ
ロチを撃つか、甲板に設置した量子通信ミサイルコ
ンテナ2基しかないのだ。
なので、乗組員には艦が危なくなったら、即時退艦
するように指示している。
沈没しても、水深が浅いところに配置している
ので、後でサルベージして修理可能だろう。

俺達は移動時間の短縮を図る為に、膝の上にカガリ
を載せて、Bストライクで発進した。

 「ちょっと、恥ずかしいな」

 「カガリちゃんが(暁)を用意している間に、着
  くからね。時間短縮だよ」

 「ラクスに怒られそうだ」

 「今日は、お仕事だからね。ラクスは」

ラクスは他の軍の基地を慰問しているのだ。

 「普通、ザフトの基地を慰問するのが先だと思う
  んだけど、彼女にその疑問を投げかける人はい
  ないからな」

 「お前が好きだから、必死なんだよ。話を聞く
  と、お前の任地に付いて回っているらしいじゃ
  ないか」

名目はコンサートツアーだけど、オーブ→台湾→
日本→オーブと一緒だからな。

 「さて、着きましたよ」

Bストライクをタケミカヅチに着艦させて、
コックピットから降りる。
出迎えの兵士に敬礼をしながら、ブリッジへ上がる
とトダカ一佐とアマギ一尉とアーサーさんが待って
いた。

 「カザマ一佐、調子はどうかね?」

トダカ一佐が気安く声をかけてくる。
大切な打ち合わせは大体終了しているのだ。
後は、敵が来ないとわからない部分が多いので、
その時に打ち合わせをする事にする。

 「モビルスーツ隊が予想よりも、数を増やせま
  した。でも、敵の稼動機体数も増えたので今
  まで通りです」

オーブのモビルスーツ配備数は400機を越えた。
オーブ国籍で、連合に所属していた兵士が祖国の
危機を聞いて、戻ってきてくれたのだ。
そして、その中にモビルスーツのパイロットが20
名ほどいたので、彼らと傭兵の追加と訓練生の繰上
げ卒業で、パイロットの増員を果たしていた。

 「4個師団で420機のモビルスーツです。
  連合は推定で800〜900機ですね」

 「オーブの情報部と見解が違うようだが」

 「常に最悪の数値を考えています。日本では、
  推定250機が500機でしたから」

硫黄島では、連合は上陸支援用のモビルスーツまで
徴用したらしい。 
本来は指揮系統が違うので、ありえない話なの
だが、ハルバートン提督は押し切ったらしい。
今回も同じ手で来るだろう。

 「倍以上か。辛いな」

 「ザフトの援軍が150機くらいです。倍はいき
  ませんが、連合のモビルスーツは高性能化して
  ますしね。苦戦するかもしれません」

 「では、決まりだな。トライン二佐はアークエン
  ジェルに詰めて貰おう。ここに全員いると、
  艦隊司令部全滅時に指揮を継ぐ者がいなくな
  る」

 「残念ですが、それが正しいですね」

アーサーさんが残念そうに語る。

 「これで、アーサーさんは出番無しですね」

 「カザマ君、ひどいよ」

 「せめて、空母がもう一隻ればな。海上に出て、
  陽動がかけられたのに」

アマギ一尉が悔しそうに言うが、それは不可能
だろう。 

 「大型空母10隻ですよ。海戦は不可能です。
  オノゴロ島要塞に引き付けて攻撃するしかあり
  ませんよ。ザフト艦隊が後ろから挟撃可能なの
  は、潜水艦艦隊だからです。見つかっても潜っ
  て逃げられますから」

 「カザマ一佐の意見が正しいな」

 「実は、ザフトの上層部に報告書を上げているの
  です。これで、援軍の数が増えればラッキーで
  すね」

 「お守り代わりにはなるかな」

 「そう思えば、気が楽になりますね」

2人の一佐は会話を続ける。

 「でさ、私はどうしてここにいるんだ?」

カガリが俺に聞いてくるが。 

 「指揮官なんだから何か話なよ」

インスタント指揮官なので、会話に付いていけない
らしい。

 「カガリ様、無理をしないでも・・・」

トダカ一佐がカガリを慰めている。

 「今日は、大した用事はないけど、いつもモビル
  スーツ隊メインでやってるから、艦隊の方の
  様子を見にね。カガリ少将閣下が視察するって
  言えば、士気も上がるってものですよ」

 「閣下なんて言うな。蕁麻疹が出る」

 「それと、もう1つ。明日から臨戦態勢に移行
  するので、今夜は最後のパーティーを開きま
  す。これを逃すと、次は祝勝会まで飲み食い
  できません」

 「みんなで参加させて貰うよ」

 「場所はモルゲンレーテ社の多目的ホールで
  7時からです」

 「アーサーさん、アークエンジェルのみんな 
  にも伝えて下さいね」

 「まかせてくれ」

さて、シンは一度くらい勝てたのかな?


午後に入ってから、シンはステラと模擬戦を繰り返
していたが、連戦連敗だった。  
ステラは事情があって、過酷な軍事訓練を受けてい
たので仕方がないのだが、女の子に負けるのはシン
のプライドが許せないらしかった。

 「ちくしょう!もう一回だ。ステラ」

 「うん、いいよ」

以前の彼女はモビルスーツに乗ると、勇ましい性格
に急変したのだが、現在は誘導催眠が解けて、本来
のおっとりとした性格のままだった。
それで、ステラが弱くなったのかと言えば、それは
逆らしい。
恐ろしいほど落ち着いたステラは、以前より更に
強力になっていた。

 「連合の科学者はアホだ。多分、勇ましいほう
  が、視察に来ていた連中の受けが良かったん
  だな」 

これは、リヒャルト先生の見解であるが。

そんなわけで、シンはステラに連敗しっ放し
だった。

 「もう一回!」

 「これで今日は最後ね。パーティーの準備がある
  から」

ステラの身分はモルゲンレーテ社社員食堂のアルバ
イトのままだ。
俺は、ステラを戦場に出すつもりは無かった。
万が一、彼女が連合に再び誘導催眠で操られたら、
圧倒的に不利になるからだ。
リヒャルト先生は心配しすぎと笑うのだが、俺は
こうして戦場を生き残ってきたのだ。  

 「よーし、行くぞ!」

シンはシップウを変形させて、猛スピードで突撃を
かけるが、ステラはひらりとかわしてから、シップ
ウを後ろから攻撃する。  

 「やっぱり、次はこれだ!」

シンはシップウをモビルスーツ体型に戻して、格闘
戦をしかける。 
だが、自分より技量の高いステラに、格闘戦を挑む
のは無謀だ。  
案の定、シンは追い込まれていく。

 「やばい!やっぱり勝てない」

 「なんだよ、シンはまた同じ手で負けてるのか」

見学していたイザークから文句が出る。

 「ステラが強すぎるんだ。シンは頑張って
  いるさ」

アスランがシンを庇う。

 「お前が甘いから、シンが進歩しないんだ!」

 「シンは一ヶ月で十分進歩したさ!」

アスランとイザークが言い争いを始めた。

 「2人が喧嘩してどうするのよ」

フレイがあきれながら文句を言う。

 「いや、俺は歯がゆくてな」

イザークがフレイに弁明している。

 「何時の間に・・・。しかも尻に敷かれている」

ニコルは驚きを隠せなかった。
結局、この最後の勝負もシンはステラに勝てず、
俺に説教を食らう事になったのだった。


 

(同日7時、モルゲンレーテ社多目的ホール)

 「では、乾杯!」

 「「「乾杯!」」」

カガリが乾杯の音頭を取ってから、パーティーが
始まる。 
みんなは用意された料理を食べながら、楽しそうに
話していた。

 「いよいよ、明日からは臨戦態勢か。
  疲れる事で」

俺はおどけながらカガリに話かけた。

 「お前な。気合い入れてくれよ」

 「これが俺の地なの」

 「こいつがトップエースなんて・・・」

 「ミゲルさんやハイネさんも普段はこうだぞ」

アスランが会話に入ってきた。

 「ミゲル?ハイネ?」

 「ザフトのトップエースだ。ヨシさんの
  アカデミーの同期だ」

 「3人でアホなんだろうな」 

カガリには言われたくない・・・。

 「俺は実戦の時にはビシっとしているの」

 「それは、そうなんだけどさ。せめて、アスラン
  と同じくらいに真面目だったらなと思って」

 「何気に惚気ないでよ」

 「それは、違うぞ!」

 「テレなくても良いではありませんか」

パーティーの参加者に、サインをしていたラクスが
戻ってきた。

 「ラクスは大胆過ぎなんですよ」

ラクスは俺の腕にしがみついている。
俺とラクスの仲は既に、公然の秘密になっている
らしい。 
どうして、ザラ委員長にバレていないのかが謎だ。
多分、ラクスが色々裏で動いているのだろうが、
その内容は怖くて聞けない。

 「アスランも大胆にすれば良いのです」

 「俺達はバレるとやばいんです」

俺達もバレるとやばいんです。 

 「カガリ様には婚約者がいませんから、問題
  ないのでは?」

ユウナとの婚約は正式に破棄されたからな。
あいつ、自殺してなきゃいいけど。  

 「俺達は婚約者同士なんですよ。一応」

 「早く破棄したいですわね」

 「そんな・・・。俺ってそんなに嫌がられている
  のか?」

多分、ラクスはアスランの為を思って言ったのだろ
うが、誤解したアスランがは激しく落ち込んでいる。

 「カガリ様、慰めてあげてくださいね」

ラクスはアスランを放置して、俺を引きずって外に
でる。
そして、外の人気の無い植え込みの影に俺を引き込
んだ。 

 「どうしたの?ラクス」

 「今夜で暫らくお別れですから。2人きりになり
  たかったのです」

明日でカレッジ組の女性志願兵と軍属でないモルゲ
ンレーテ社員とその家族は避難する。
オノゴロ島は正規の軍人と傭兵と軍属に任命された
人間だけになるのだ。
そして、軍本部機能が地下要塞基地に移転されて、
軍本部は無人になる。
地上ビルの軍本部は守備が困難だからだ。
更に、カグヤのマスドライバー施設は無防備宣言を
出して連合の攻撃から身を守る。
下手に守備戦力を置くと、流れ弾で破損しかねない
からである。
そうしておけば、連合も無傷で手に入れたいだろう
から、手を出さないだろう。
そして、オーブの各都市も無防備宣言を出して、
戦火を防ぐ事になっている。
政府首脳は一部が地下基地で待機して、残りは代表
官邸で待機する事になっている。
万が一、オーブ軍が敗北したら、降伏文書にサイン
する為だ。 
敗北する事は考えたくないが、負けた後に国民の
被害を抑える為に、備えをしなければならない。
そんな、理由でラクス達はオロファトに避難する事
になっている。
志願兵の女性はプロではないので、戦場では役に立
たないし、負けた時に、連合の将兵のモラルを期待
するだけバカな話だ。
彼らは、開戦時の兵士の大量喪失で、戦闘技術だけ
を叩き込まれた即席兵士が大半なのだ。
勝利の余韻で気分が高揚している彼らがラクス達に
何をするのかを想像したくので、それを防ぐ為に、
避難してもらうのだ。
ちなみに、シホやマユラ達は避難はしない。彼女達
はプロの軍人なので、覚悟が出来ているからだ。

 「私も残りたいのですが」

 「それは、絶対に許可できません。もし、約束を
  破ったら絶交ですよ」

 「わかりました。でも、必ず帰ってきてください
  ね」

 「俺は必ず生きて帰るのを信条にしています。
  結婚するまで、死ねませんよ」

 「つまり、それはプロポーズですね」

 「えっ?」

どうして、そんな話に飛躍するんだ?
例えと言うか、一般論だろ。
 
 「指輪が無いようですが、我慢しますわ。
  次までに用意してくださいね」

 「いや、あの・・・。俺は・・・」

 「とても嬉しいです。早速、お父様に報告しな
  ければ」

 「あの・・・。ラクスさん」

 「式は、戦争が終わってからになりますわね。
  場所はプラントとオーブで二回開いたほうが
  いいと思いますわ」

ラクスは脳内で、勝手に色々決めているらしく、
俺に介入する余地が無かった。

 「えーと、そういう事では無くて・・・」

あまりの衝撃に声が出ない。

 「わかっています。パトリックおじ様もきっと
  わかってくださいますわ」

わかっていないよ。ラクス。 

 「いや、そういう事では無くて・・・」

 「では、大事な事も決まった事ですし、今日の
  夜は2人っきりで過ごしましょう」

俺はラクスに引っ張られながら、何故こうなって
しまったのかを考えていたが、全く思いつかない
まま、その日の夜をラクスと過ごしたのだった。
ちなみに、他のメンバーもアスランはカガリと、
イザークはフレイと、ニコルはカナと、キラは
レイナと、トールはミリィーと、石原一尉は
マユラと仲良く2人で過ごしていたようだ。
更に、以外なところで、アサギがハワード二尉
と楽しそうに話していたところを目撃され、
翌日、みんなに問い質されていた。
そして、あの伝説の傭兵ムラクモ・ガイに
ロリコン疑惑が浮上した夜であった・・・。
人は見かけによらないものである。
 
 「だから!風花は俺の仲間の娘で、交渉
  代理人なんだ。おかしな噂を立てるな!」
 
 「あんな、小さい子供が代理人?語るに落ち
  たな。ガイ、嘘をつくならもっとマシな嘘
  をつきたまえ」
 
 「てめえ!カザマ!」
 
 「尊敬していたのに、がっかりです」
 
ニコルはすっかり落ち込んでしまい。
 
 「いや、嗜好は人それぞれで・・・」
 
アスランは当たり障りの無い発言をして。
 
 「光源氏が渋いな」
 
イザークがくだらない発言をしてフレイに説教
され。
 
 「犯罪ですよ。女性の敵です!」
 
シホに軽蔑の目で見られ。
 
 「「「がっかりです」」」
 
3人娘にも、見捨てられた。
 
 「カザマ!覚えてろよ!」

8月2日早朝、ガイの絶叫が基地に響き渡った。


そして、翌日。
俺達が地下司令部に出勤すると、軍首脳やウズミ
様、ウナト様が待っていた。
どうやら、政府首脳はホムラ様が首都に詰め、
ウズミ様とウナト様は地下基地で別れて待機する
ようだ。
一箇所に集まっているところを攻撃されたら、全滅
してしまって事後処理をする人がいなくなるからで
あろう。

 「敵の侵攻まで1週間を切った。最終準備を進め
  てくれ」

ウズミ様が俺達に指示を出していく。

 「インド洋艦隊が出撃準備をしているし、月でも
  艦隊の発進準備が観測されている。そして、
  大本命のオーブ侵攻艦隊が、訓練を繰り返しな
  がらオーブに近づいている。」

 「遂に、決戦ですね。果たして生き残るのは
  どっちでしょう?」

俺が意地悪な質問をすると。

 「オーブが滅んでしまっては理想もクソもない。
  生き残るのは我々だ」

 「現在、オーブ軍全戦力の9割が、オノゴロ島と
  その周辺の最終防衛ラインに集結している。
  これを抜かれないようにするのが、我々の役目
  だ」

ウナト様が続いて説明する。

 「それで、連合からの声明とかはありますか?」

 「専制的な首長達が支配するオーブを開放する
  為の、戦いだそうな」

 「それが、マスコミと世論向けの理由ですか」

 「地球連合将兵の血で暴利を貪る巨悪だそうな。
  我々は」

想像できたけど、あまりにもベタ過ぎな話だな。

 「それで、占領後の統治はどうすると言ってま
  すか?」 

 「民主主義を唱えて、オーブを追放された民主
  主義運動家が暫定政権の首相になってから、
  選挙を実施するそうだ。勿論、不正が行われ
  ないように地球連合の監視付きでだ」

 「数百年前からよく聞く話ですね」

 「ああ、私もいい加減聞き飽きた」

 「それで、追放されていた正義の民主主義運動家
  なんていたんですか?」

 「名前と顔写真を見た。こいつは民主主義運動の
  活動費集めと称して、詐欺行為働いて服役して 
  いた男だ。多分、アズラエルに拾われたのだろ
  う」

聞いてると、気が滅入る話だ。

 「では、最終準備に入ります」

俺はカガリと一緒に、師団司令部に向かい全将兵に
訓示を行った。

 「いよいよ、最終決戦まで1週間だ。気合い入れ 
  ていけ!予め指示した通りに動いて、準備を速
  く終了させる事。そして、後は少しでも訓練を
  積んでおくように」

 「「「了解!」」」

それから6日間、俺達は全守備隊の配置を完了さ
せ、補給物資を運び込み、集団での迎撃訓練を
実戦方式で行った。
パイロット達の錬度は、心を鬼にして鍛えた甲斐
があったと思えるほど上達していて安心した。
決して、連合には負けてはいないだろう。
後は、敵を迎撃するだけだ。
敵の艦隊はオノゴロ島100キロの海域で、攻撃準
備をしている。
明日、早朝に一斉に攻撃が始まる。
戦場は4箇所。
シンガポール、カーペンタリア北方海域、
アメノミハシラ。
そして、オーブ本国。
一箇所でも敗戦すると、厳しい情勢に追い込まれる
だろう。
果たして、俺達は勝利する事が出来るのか?
生き残る事が出来るのか?
それは、誰にもわからなかった。

 

         あとがき

いよいよ、次はオーブ決戦編です。
次回更新はわかりません。
では、また。 

  
 

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