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「これが私の生きる道!オーブだらだら編2(ガンダムSEED)」

ヨシ (2006-03-01 16:30/2006-03-02 14:19)
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(オノゴロ島基地、パイロット待機室)

ユウナとの勝負が終了してから1週間。
俺達は24時間の即時対応訓練に入っていた為に、
基地に缶詰になっていた。
この訓練は名前の通り、基地内に24時間体制で
待機して敵の襲来が来たら、即座に出撃するという
実戦に即したものである。
敵の来襲時刻は上層部がランダムに決めている
ので、いつ現れるのかは不明であり、緊張状態の
維持に非常に労力を要するものであった。

 「あー眠い。帰って寝たい」

出撃を迅速にする為に、パイロット達は待機室に
交替で詰めているのだが、不規則なうえに不足しが
ちな睡眠時間のせいで眠くてしょうがない。

 「お前がだるそうに言うなよ」

カガリが俺に文句を言っているが、あまり聞く耳を
持ちたくなかった。

 「カガリちゃんは司令官室で爆睡してたじゃん。
  俺達は出撃を繰り返しているから、マジで眠い
  の」

この1週間、カガリは司令官室に詰めていたの
だが、座っていると眠くなるらしく机に突っ伏して
居眠りを連発していたのだ。
始めは俺やキサカ准将が起こしていたのだが、
あまりの頻度に諦められてしまい放置されていた
のだ。

 「今日は、カガリちゃんはパイロットとして
  ここに詰めているんだから、居眠り禁止ね」

 「わかっているよ」

 「本当かね?」

 「私は大丈夫だ。それより、周りを見てみろよ」

俺が周りを見渡すと、ほぼ全員が船を漕いでいた。
やはり、全員疲れているようだ。

 「おーい!起きろー!」

俺の大声でほぼ全員が目を覚ます。

 「あれ?もう終了ですか?」

ニコルが寝ぼけながら聞いてくる。

 「後、二時間だ。目を覚ませ」

 「眠いですよ。寝不足はお肌の大敵です」

マユラが不機嫌そうに起きあがった。

 「みんな、だらしないな」

石原一尉だけは元気そうだ。

 「石原一尉、平気なのか?」

 「自衛隊では毎月一回この訓練が行われている。
  慣れているんだよ。俺は」

自衛隊の訓練の厳しさは、世界各国でも有数のもの
だという噂を聞いたのだが、本当の事らしい。

 「これで、全員起きたかな?」

声を発していないキラとホー1尉を見ると、キラ
は静かにすやすやと眠っていて、ホー1尉は目を
開けたまま眠っていた。

 「キラは女の子の様な寝顔だな」

 「羨ましいです」 

マユラはとても羨ましそうだ。

 「そして、ホー1尉は・・・」

 「気持ち悪い・・・」 

マユラが顔を背け。

 「器用な眠り方ですね」

ニコルは感心している。

 「おいっ!起きろよ。ホー1尉」

俺が蹴りを入れると、ホー1尉は飛び上がりながら
起きる。

 「カザマ一佐、何するんだよ!」

 「居眠りするな!」

 「素人には分からないかもしれないが、格闘王の
  俺は眠ってるように見えても、常に感覚を研ぎ
  澄ましているんだよ」

 「お前、爆睡してたじゃん。しかも、俺の蹴り
  食らってたし」

 「全てを極めている俺は、カザマ一佐の攻撃が
  大した事無いのがすぐに分かったんだよ」

恐ろしいまでの屁理屈だ。

 「へえ、じゃあまた寝てみてくだいよホー1尉。
  次は僕が起こしますから」

そう言っているニコルの手には、金属バットが
握られていた。

 「まあ、次の機会にな・・・」

マジにやばいと感じたホー1尉の額に冷や汗が
浮かぶ。

 「後、二時間無いんだ。気合い入れてくれ」

カガリが念をいれるが・・・。

 「明後日はお休みですよね。何をしましょう?」

ニコルは休みの事しか考えておらず。 

 「本当は明日からお休みが欲しいんだけど、
  新しい仲間が来ますからね」

 「俺の同期の連中がほとんどだ」

 「へえ、相羽さんや太田さんも来るんですか?」

 「そうなんだ。みんなで大暴れできるぞ」

石原一尉とマユラは明日、着任する自衛隊の
パイロット達の話をしているのだが、ラブラブな
雰囲気を醸し出しつつあり。

 「明後日の休みは山で修行するぞ!」

1人だけ思いっきりハイテンションな男がいて。

 「二週間ぶりのお休みだ!」

 「楽しみだな」

他のパイロット達も休みを心待ちにしている
ようだ。

 「カガリちゃん、誰も聞いてないよ」

 「五月蠅い。分かっていた事さ」

カガリは1人でいじけていたのだが、突然の警報
で我にかえる。

 「ほら、おいでなすった。みんな、行くぜ!」

 「「「おー!」」」

全員が真剣な表情になって待機室を飛び出して
行く。

 「全員プロなんだ。ケジメはつけるさ。それに、
  常に緊張していたら、倒れちゃうからな」

 「それもそうだな」

 「じゃあ、俺達も急ぐぞ。カガリちゃん」

結局、この出撃が即時対応訓練最後の出撃となり、
俺達は普通に睡眠が取れるようになったのだった。


翌日、オノゴロ基地に一時退役して傭兵契約を
結んだ自衛隊のパイロットと整備兵達が
着任してきた。
うちで引き受ける事になった最大の理由は、
全員を同じ部隊に着任させるという条件と、石原
一尉を指揮官にするという条件が守れそうなのが、
うちの師団だけだったからである。
俺達としては、戦力が増えるので万々歳だ。
しかも、彼らのほとんどが実戦経験者だ。

 「石原、元気だったか?」

石原一尉の同期で親友の相羽二尉と太田二尉が
前に出てきた。

 「毎日、楽しいぞ。自衛隊に戻りたく無く
  なってきた」 

 「おいおい、親父さんが激怒するぞ」

 「俺は俺、親父は親父さ」

 「お前は自衛隊に戻ったら三佐に昇進なんだぞ。
  自衛隊では最年少の三佐殿だ」

 「そうなのか・・・」

 「嬉しくないのか?」

 「ここに、19歳の一佐がいるからな。あんまり
  凄いとは思わない」

そう言いながら石原一尉は俺を指差した。

 「おっ、カザマ教官。久しぶりです」

 「何とか生き残りましたよ」

相羽二尉と太田二尉が俺に挨拶してきた。
日本滞在時、パイロットの訓練を受け持った俺は
教官と呼ばれていたのだ。

 「日本も太っ腹だな。パイロットと整備兵を
  援軍にくれるなんて」

しかも、実戦を経験している熟練兵ばかりだ。

 「パイロット養成の目処が立ちましたし、オーブ
  の影ながらの援助には感謝してるんですよ。
  石原総理は」

実際にオーブはM−1、OS、フェイズシフト装甲
、ラミネート装甲のデータと実物を提供していて
センプウの開発と量産を手助けしていた。
そして、現在では様々な兵器開発を共同で行って
いて、その成果はプラントやプラント同盟国にも
輸出されている。

 「オーブが倒れると、次は日本だしね」

 「一蓮托生なんですよ。現在では」

日本とオーブは同盟こそ締結していないが、その
関係の深さは世界中に知られている。
もし、オーブが敗北してプラントが倒れると、
日本は再び無条件降伏の道を選ばなくてはなら
ないのだ。

 「それでも、日本は大西洋連邦や東アジア共和国
  に従属するより、独自の道を進む決断をしたの
  です」

石原総理はかなり無理をして戦力を送ってきた
はずだ。
いくら、失点続きでも東アジア共和国は大国で、
国力も人口も日本より上なのだ。

 「難しい話はここまでにして、お茶でも飲みに
  行こうよ」

俺、ラクス、フレイ、イザーク、石原一尉、マユラ
達は自衛隊の連中と食堂に行って、お茶を飲む事に
した。

 「じゃあ、中隊を1つ作って貰うから。指揮は
  石原一尉にお願いするし、そんなに自衛隊と
  違う点はないと思うよ」

食堂で俺は大まかな説明をする。

 「そうですね。階級はほぼ一緒だし、日本語も
  結構通じますしね」

オーブでは日本語も公用語の1つに入っていて、
カガリは読み書きすら可能だった。
俺がその話を聞いた時は驚いてしまったが。

 「軍人も日系人が結構多いしな。それに、ここ
  の食堂は日本食も豊富だ。味も良い」

石原一尉がメニューを指差しながら、説明して
くれる。
ラーメン、うどん、そば、ご飯もの、海も近い
ので魚料理も多数ある。
親父が役員になった時に、一回だけ発動させた強権
の成果だ。 

 「それで、モビルスーツ持参なんでしょ」

俺は相羽二尉に確認をとる。

 「もう、ハンガーに搬入されているようですよ。
  うちの整備科の連中は気が早いですから」

 「機種はセンプウだよね?」

 「細かな改良を加えてありますが、ほとんど
  センプウですよ」

 「細かな改良?」

 「オーブは熱帯地方なので、精密機器に負担が
  掛からないように防湿・防熱処理がしてあり
  ます」

 「匠の仕事だね」

 「以前から要望が上がっていたので、メーカー
が仕事をしたんですよ」

日本企業特有の細かい配慮が生きているようだ。
今現在、世界中の戦場でセンプウが活躍している
一番の理由がこれなのだ。
オーブの同じような性能のM−1がいまいち普及
しない一番の理由が寒冷地帯と乾燥地帯に弱いと
からというのも頷ける。
オーブの技術者は一年中熱帯地方で生活している
ので、季節や環境の変化に疎いようだ。

 「実は、新型機を持ってきたのですが・・・」

相羽二尉が申し訳なさそうに言う。
俺がジンプウで悲劇にみまわれた事を知っている
ようだ。
知らない奴なんていないんだけど・・・。 

 「ふうん、でも俺にはもう新型機があるからな。
  俺の部下にテストさせようか?」

俺は1人の格闘バカに押し付ける事を即座に決め
てから、提案を行う。

 「誰でもいいんですけど、またパイロットを
  選ぶ機体なんですよ」

 「どんな機体なの?」

 「早速、見に行きましょうか」

 「そうだね」

俺達は食堂を後にして、格納庫に向かった。


格納庫内は新しい機体が多数搬入されていて、活気
に満ち溢れていた。
整備班の連中と挨拶を交わしてから、俺達は問題の
機体を見る事にする。 

 「これです」

相羽二尉が指差した先に、新しいモビルスーツが
見えた。
外見はGの系統を引き継いでいて、あのジンプウ
を質素にしたように見える。

 「ジンプウに似てるね」

 「後継機ですから」

外見的な特徴を説明すると、背中の武装は4本に
減らされていて、腰のスキュラも無くなっている。
両腕に二連装のビーム砲が取り付けられていて、
イーゲルシュテルンも前のままのようだ。
そして、ビームサーベルが腰に2本装備されて
いて、肩の独立した装備はジャスティスに装備
されているビームブーメランのようだ。  

 「デコレーションモビルスーツは止めたんだ」

 「稼働時間が短くなりますからね」

 「中途半端に見えるんだけど」

 「まあ、そう言わないで、説明を聞いてください
  よ。正式名称は試作4号機動歩兵(シップウ)
  です。ジンプウの教訓を取り入れて、稼働時間
  を下げる背中の武装を減らし、両腕に二連装
  ビーム砲を装備しました。このビーム砲には
  光波シールドも装備していて、自由に展開する
  事によって防御は完璧になります。
  エネルギーも独立した小型バッテリーで補うの
  で、稼働時間の減少を抑えられます。
  そして、最大の特徴は戦闘機体型に変形する
  のです」

 「えっ、変形するの?」

 「別に、珍しい機能ではありませんよ。連合の
  レイダーは変形しますし、オーブの次期量産
  モビルスーツの(ムラサメ)も同じく戦闘機
  に変形します」

 「日本の方が早く出来上がったんだ」

 「試作機ですから。バッテリー、部品、装甲
  全て最高のものを使用しています。
  おかげで、試作機でありながら稼働率と
  耐久度は高いのですが・・・」

 「ですが・・・」

 「恐ろしいGの為にケガ人が続出で・・・」

前と同じじゃないかよ。

 「デジャブかな?以前に聞いたような?」

 「すいません。栗林陸将に押し付けられ
  ました」

あの人も優秀な軍人なんだけどな。
あの、男のロマンのような兵器開発に協力する癖
さえ無ければ。

 「さて、どうしたものか」

時間は正午になり、午前の訓練を終了した
パイロット達が戻ってきた。
そして、その連中の中にホー1尉を発見する。

 「おーい!ホー1尉!」

 「何だい?カザマ一佐」

 「新しいモビルスーツに興味は無いかい?」

 「どんなんだ?」

俺は聞いたスペックを教えてやる。

 「俺には必要ない!」

 「どうして?」

 「それは、このモビルスーツには熱い血潮を感じ
  ないからだ」 

 「意味がわからない」

 「いいか、俺の新しい相棒であるレイダーは鳥に
  変形する。つまり、奴は鷹だ。奴を乗りこなす
  事に成功すれば、地面であがいていた私は空の
  力を手に入れる事が出来て、格闘王にまた一歩
  近づく、そうなれば俺は無敵だ。真の格闘王だ」

 「意味はよくわからないけど、お断りと」

 「そうだ!」

やはり、奴は理解不能の格闘バカだ。

 「ガイは新しいモビルスーツに興味は無いか?」

格納庫の端で、ブルーフレームを整備していたガイ
に聞いてみる。

 「プロの傭兵は、信用の置けない武器を使用しな
  いものだ」

俺だって、あんなモビルスーツに乗りたくない。

 「イザークは?」

 「遠慮させていただきます。多分、アスラン達も
  同じ意見です」

俺も同じ意見なんだけど・・・。

 「相羽二尉、このままハンガーに置いておこ
  うよ」

俺はみんなが幸せになれる方法を提案する。

 「勘弁してくださいよ。データ取ってこないと
  俺の責任になるんですよ」

 「じゃあ、相羽二尉に任せるよ」

 「俺じゃあ、乗りこなせないですよ」

 「もう、お昼だ。飯食ってから考えよう」

俺は回答を先延ばしする事を決心した。


食堂に到着して椅子に座ると、セーラー服に白い
エプロンをしたステラが注文を取りにきた。

 「ステラ、何故にセーラー服?」

 「服のレパートリーが無くなってしまったから、
  お母さんに借りたの」

母さん、何でそんな物を持っているんですか?
周りを見ると、兵士達が鼻の下を伸ばしている。
とても好評なようだ。

 「似合ってるからいいんだけどね。
  俺はカツ丼の大盛り」

 「私はざるそばセットをお願いします」

 「私はカニクリームコロッケ」

 「俺は海鮮丼の大盛りだ」

ラクス、フレイ、イザークが続けて注文した。
最近はイザークに俺の仕事を肩代わりさせている
ので、一緒にいる事が多いのだ。 
明日の休暇が明けると、午前中は他の師団の指導
に赴くので、更にイザークの任務は重要なものに
なるだろう。

 「焼きそば特盛とカツカレー特盛」

となりでシンが恐ろしい量の飯を注文している。

 「おい、本当に大丈夫なのか?」

イザークが心配しているが・・・。

 「腹減ってしょうがないんです」

シンは何時もと変わらない。
毎日、このくらいの量を平気で平らげて、マユ
ちゃんとステラのおやつも貪り食っているの
だから。

 
数分後、頼んだものがテーブルに置かれたので、
俺達は食事を始める。

 「問題なのは、あの奇妙な新型なんだよ。援軍
  を送る代わりにデータを取れって事でも
  ないんだろうが・・・」

俺はカツ丼に付いている味噌汁を啜りながら状況
を説明する。

 「困りましたね。みんな、訓練で忙しいので、
  あんな新型のテストなんてやっていられま
  せんよ」

付け合せのガリを齧りながら、イザークもそれに
続く。
彼は意外と日本食が好きなようだ。

 「ホー1尉に断られてしまいましたね」

ラクスがざるそばセットについている茶碗蒸しの
蓋を開けながら、続けて言う。
彼女は俺と家族の影響で和食好きになっている。

 「断った理由がよく理解できなかったわ。
  命令すればいいんじゃないの?」

カニクリームコロッケを優雅にナイフとフォーク
を使って切りながら、フレイがホー1尉に押し付
ける事を提案する。
彼女の最近の好みは日本風洋食メニューのようだ。  

 「彼が階級で押し付けたくらいで命令を聞くもの
  か。それを一番分かっているのはフレイだろ。
  ホー1尉の資料を最初に見たんだから」

バリー・ホー1尉。命令違反、軍規違反の常習者。
今まで首にならなかったのは、卓越した格闘センス
とモビルスーツの操縦技術のおかげだ。
最も、無法が祟って、正規の士官なのにうちに
島流しにされたが。

 「それに、彼は意外と指揮がうまいし、部下にも
  慕われているんだ。新型を押し付けて戦力を
  落としたくない」

イザークが反対意見を述べた。

 「やっぱり、俺が乗るしかないかな?」

半分あきらめかけたところで。

 「テストパイロットに必要な条件とは何ですか
  ?」

と、ラクスが質問してきた。

 「そうだな。操縦センスがあって、臨機応変に
  対応できた方がいいな。それに、変な癖が
  付いていない方がいいかもしれないな」

思いついた条件を語ると。

 「全部とはいいませんが、条件に合っていて
  戦力を落とさないで済む人がいますわ」

そう言って、彼女が指差した先にはカツカレーを
掻っ込んでいるシンがいた。


(午後、オノゴロ島野外演習場)

 「のわーーーー!、助けてーーーー!」

俺はラクスの進言を受け入れて、シンを新型機の
パイロットに任命した。
初めは大喜びだったシンだが、シップウに乗った
瞬間、彼は地獄に叩き落とされる。

 「おーい!、シン。変形してみろよ変形」

 「凄いGでレバーが引けない!」

 「気合いでなんとかなるって」

 「なりませーん!」

シンは初心者にしては、比較的上手に機体を動かし
ていた。
初めはシップウに振り回されていたが、徐々に慣れ
てきた様子で、動きが滑らかになってくる。

 「あいつ才能あるな。アカデミーに入学したら
  赤服で卒業できそうだ」 

 「俺もその意見には賛成です」

隣りで見学していたイザークがうなづきながら
賛同した。

 「じゃあ、変形行きまーーーす!」

シップウは戦闘機体型に変形してから更にスピード
を上げる。

 「のわーーーーーーーーーー!」

当然、凄まじいGが掛かってシンは声にならない
悲鳴を上げる。 

 「おーい!慣らし運転なんだからスピード
  落とせ!」

 「了解です!」

すぐにシップウは速度を落とす。
そして、腕を動かして二連装ビーム砲を標的に
向かって撃ち。次に、ビームサーベルを抜いて、
すれ違い様に標的を斬りつけた。

 「この機体の最大の特徴は、変形時においても
  腕を動かして攻撃可能な点なのです。勿論、
  背中のビーム砲二門も変形後も使用できます」

相羽二尉がいつの間にか隣りにいて、説明して
くれる。

 「詳しいな。相羽二尉って技術士官も兼任?」

 「防衛大学では機械工学の成績は石原一尉より
  上でしたので」

 「頭いいんだ。相羽二尉は」

俺が感心していると。

 「あれ?ムラサメが飛んでいる」

所用を終えたカガリがキサカ准将を連れて現れた。

 「あれはムラサメではないぞ。多少似ているが、
  全くの別物だ。第一、ムラサメはまだ試作機
  すら完成していない」

キサカ准将がカガリに説明している。

 「では、あれは何なんだ?」

 「日本製の新型モビルスーツだよ。名前は
  シップウだ」

俺が教えてあげると。 

 「シップウか。私も乗ってみたい」

 「残念ながら、カガリちゃんが乗ったらあばら骨
  が折れちゃうよ」

 「そんなにキツイのか?」

 「所詮、試作機なんだよ。モビルスーツ状態では
  ジンプウ並に動けて、戦闘機状態では零式戦闘
  機に匹敵するスピードが出るんだ。何かを犠牲
  にしなければ、こんな高性能にはならない」

 「そして、その犠牲がパイロットを極端に選ぶ
  って事なんだな。それで、選ばれたパイロット
  って誰だ?」

 「シンだよ」

 「えっ、シン!大丈夫なのか?」

 「あいつは1週間でM−1をそこそこ乗りこなし
  ていたじゃないか」

 「まあ、そうなんだが・・・」

 「多分、他に乗れるのは、俺とアスランと
  イザークとキラとガイとホー1尉くらいだと
  思うよ」

 「ホー1尉に任せればいいじゃないか」

 「断られたんだよ。それに、指揮官クラスの人間
  を未知数の試作機のテストに回す余裕はない」

 「それで、シンなのか?」

 「未知数の新型機を、才能はあるが未知数の新人
  に任せる。これは一種の賭けだ」

 「モビルスーツ関連の事はお前に任せているから
  私に異存は無いけどな」

 「それで、多少編成をいじろうと思う。シンを
  シホの中隊から引き抜いて、俺が面倒を見る
  事にする。石原中隊の創設で石原一尉とマユラ
  が親衛隊から抜けたからな」

結局、シンは12名の志願兵の中で突出した才能を
開花させてしまった為に、1人浮いてしまう事に
なったのだ。
それなら、志願兵のリーダー的な地位に就けばいい
のだろうが、わずか13歳の彼が部下を持ち、指揮
を執ることは不可能に近く、俺が面倒を見る事にし
たのだ。
個人技は鍛えればまだまだ伸びるだろうから親衛隊
メンバーに丁度いいだろう。

 「しかし、日本はあんな機体を開発して
  どうするんだ?」

 「あれはあくまでも試作品。運用データを取って
  から、一般パイロットが使えるように性能を
  落としたり、量産に適した構造に直したりする
  んだよ・・・・・・多分」

栗林陸将が関与してるからな。
男のロマンだけで作られた可能性も捨てきれない。

 「カザマ一佐が何を考えているのか想像できます
  が、さっきの意見が正しいですよ」

相羽二尉が自衛隊の名誉の為に、キッパリと断言
した。


夕方になったので、訓練を終了させる。
シンが予想以上にシップウを乗りこなしてくれた
のと、明日はお休みなので全員の顔に安堵の表情
が浮かんでいた。

 「でも、パイロットが全員お休みでいいん
  ですか?」

キラが心配そうに尋ねてきた。

 「キラは優秀でも、やっぱりインスタント士官
  なんだな。昨日、モビルスーツ部隊の編成が
  空地分離方式に変更になった話を聞いてなか
  ったのか?」

詳しい理由は聞いていないが、今までは
モビルスーツ師団が基地の整備兵や運営要員まで
丸抱えしていたので、色々と面倒が多かったの
だが、先日の第三師団事件が状況を変えた。 
あんな辺鄙な場所に精鋭モビルスーツ部隊を置く
なと首長達に抗議を受けたので、部隊編成を変更
したのだ。
第三師団基地は予備の補給廠に変更されて、基地
要員は全員オノゴロ基地に転属になった。
そして、基地要員と整備員は基地守備隊と共に
独立した部隊に編成され、モビルスーツ師団の
人員はパイロット達と幕僚達だけになったのだ。
3つの基地に4つのモビルスーツ師団がいる
お陰で、休暇のローテーションも取り易くなり、
全員が喜んでいた。

 「そんなわけで、明日、俺達がいなくても
  第三師団の連中がいるから心配ないんだ。
  ちなみに、今日は第三師団のパイロット達
  が休んでいるから」

 「それは結構なんだけど、それではアスハ少将
  の影響力が落ちてしまうのでは?」

さすがに、石原一尉は政治家の息子なだけは
あって頭が回る。 

 「逆だ。特殊装甲師団、オノゴロ基地守備隊、
  特務艦隊を全てまとめたオノゴロ島方面軍
  司令官の立場になったカガリの評価は国内的
  にも対外的にも上がったんだ。まあ、仕事の
  内容は以前とさほど変わらないが」

そして、オノゴロ基地に所属が変更になった
第三師団と第三師団基地守備隊はカガリ派に
取り込まれ、もともとウズミ様の影響力が強い
第一師団もカガリに好意的だ。
そして、第三師団の事件で味噌をつけた第二師団
の幹部や軍人達もセイラン家と距離を置き始めて、
一部はウズミ様に接近しているらしい。

 「そんなわけで、カガリちゃんの影響力が以前
  より上がったから、不快な思いをする事は
  減ると思うよ」

俺達は傭兵とはみ出し士官の寄せ集めだからな。 

 「でも、セイラン家に恨まれそうですね」

シホは多少、心配そうだ。

 「それは、大丈夫だ。元々、セイラン家は軍に
  影響力をほとんど持っていない。彼の主な支持
  基盤は財界と官僚達なんだ」

キサカ准将が事情を話してくれた。

 「じゃあ、次期代表はウナト様で決まりですね。
  カガリはちょっと遅かったな」

 「どうしてですか?」

キラが俺に聞いてきた。

 「戦争が終われば、軍備は縮小されてお金の流れ
  が復興と民需拡大に向かうからな。軍人の
  影響力が落ちて、財界と官僚の力が強くなるん
  だよ。当然、影響力が強いウナト様が一番有利
  になる」

 「でも、軍部の支持を受けられるカガリも負けて 
  いないのでは?」

 「平和になった世の中で、軍部が口を出し過ぎる
  と碌な事にならない。軍事政権と見られて
  しまうからな」

 「じゃあ、軍なんて平和になれば必要ないん
  ですね」

 「それは短絡的な発想だな。もし、オーブが
  経済力だけ発展させると、他国に飲み込まれ
  てしまう可能性があるから、それを防ぐ為に
  軍が必要なんだ。本来、軍の最大の存在意義
  は戦争の抑止にあるんだ」

 「なるほど、勉強になりますね。という事は
  ウナト様の次の代表がカガリなんですね」

 「可能性は高いな。ユウナは無能を曝け出した
  から跡は継げないだろう。ウナト様も彼には
  期待していないだろうし。最も、サハク家の
  ミナ様というライバルがいるんだが」

サハク家はオーブ本国での影響力は低いが、宇宙
コロニーやアメノミハシラで強大な影響力を維持
していて、宇宙軍にも影響力が強い。

 「平和になれば宇宙開発が進むから、サハク家
  の影響力は大きくなる事はあっても、小さく
  なる事は無いからな」

 「じゃあ、カガリが不利ではないですか」

 「ウズミ様が指を咥えて見ているわけがない
  だろう。今頃は長期的視野に立ってブレーン
  を発掘しているさ」

 「誰なんです?」

 「他人事みたいな発言をするなよ。お前達
  カレッジ組はカガリの側近候補なんだぞ。
  後は親父もそうだろうし、アスランがカガリ
  と結婚する事になれば、軍事面で彼女を
  支える事になる可能性が高い」

あくまでも、俺の予想の範囲だが、日本と
プラントとの技術協力を進めた親父はウズミ様
の支持者でモルゲンレーテの次期社長候補だ。
キラは秘密だが、カガリの弟で軍人としても
技術者としても一流になる可能性が高い。
アスランはカガリと結婚すればオーブに移住
して軍を纏める仕事に就く可能性が高く、
レイナ・カナ・ミリィー・サイ・トール・
カズイは弱冠16歳で大学生になった天才だ。
彼らがまとめてここに配属されたのは偶然では
ないだろう。
そして、フレイは大西洋連邦外務次官を務める
政治家の娘だ。
付き合って損はない。
ラクスは・・・・・・、ウズミ様も予想外だった
だろうが。

 「そうだったのか。もっと頑張らないと」

キラが無駄に気合いを入れつつあったので。

 「今まで通りでいいんだよ。カガリの代表就任
  なんて少なくとも10年以上先の話だ。
  焦っても仕方がないだろ」

戦争が終了しても暫らくはホムラ代表だろうし、
ウナト様も次期代表に就任すれば、5年以上は
在任するだろうからな。 

 「えっ、そうなんですか?」

 「ミナ様に次の代表をさらわれると、30年以上
  先に伸びるぞ。多分」

 「それは気の長い話ですね」

 「だから、今まで通りでいいの」

 「わかりました。では、そろそろ時間なので」

キラは先に帰宅するらしい。
何でも、今日の夜からレイナとオロファトに泊り
がけで遊びに行くらしい。
カナとニコルも一緒にダブルデートを楽しむらしい
ので、親父の機嫌は急降下するだろう。

 「では、俺も帰るかな」

 「石原一尉の休みの予定は?」 

 「マユラとデートだ。俺もオロファトに今から
  出かけるんだ」

あまりにバカ正直に話すので、驚きが少なかった。
石原一尉、あんた男だよ。

 「アスランは?」

 「カガリとデートです」

 「キサカ准将は?」

 「家族サービスだ。最近、休暇が無かったの
  でな」

 「シホは?」

 「アサギさんとジュリさんとで買物に出かけ
  ます」

ラスティーとは離れ離れだからな。

 「最近、セリフが少ないというか全く無い
  サイ達は?」

 「大きなお世話ですよ」

サイ達は整備兵の仕事で格納庫に詰めているので、
あまり会う機会が無かったのだ。
しかも、彼らは伍長待遇でレイナ達とは格段の差
がある。

 「俺はミリィーとデートです」

 「俺は親父に呼ばれています。新しい婚約者候補
  と見合いらしいです」 

 「俺も先輩とデートなんですよ」

トール・サイ・カズイが続けて答えた。

 「みんなオロファトに出かけるんだな」

今のオノゴロ島にはお店や娯楽施設が無いからな。
住民すらほとんどいないし。

 「イザークは?」

 「おっ、俺ですか?骨董品屋巡りです」

 「フレイは?」

 「わっ、私は1人で買物かな?」

あからさまに怪しいので、全員が「お前らデート
だろ」光線を目から2人に発射する。 

 「ヨシヒロさんはどうするんですか?」

シホが俺に尋ねてきたので。

 「オノゴロの海岸は誰もいないからな。
  ラクスと2人で海水浴に行く」

 「それ、いいですね。俺はステラと買物に
  出掛けるんですよ」

何?今、シンが何か言ったか?

 「シンがねえ、荷物持ちをしてくれるの。お菓子
  の材料と道具を買いにいくから」  

ステラは嬉しそうに言うが・・・。 
ありえない。邪魔をしなければ。

 「マユも来てくれるし、3人で楽しく
  出掛けてきますよ」

その一言でステラの瞳に闘志が湧いてきたようだ。 
シンのバカさ加減に感謝しつつ、放置する事を決定
する。
どうせ、親父が見張りにつくだろうし。
下手に手を出すと、不幸に見舞われるからな。 

 「ふーん、良かったな」

 「楽しみですよ。お昼にはここに行こうかと」

そう言ってシンは一冊の雑誌を見せてくれた。

 「何々、オロファトウォーカー8月号。
  食べ放題のお店特集・・・・・・」

たまに忘れてしまうのだが、シンはまだ13歳
の子供なんだよな。
色気より食い気なんだ・・・。

 「シン、私はここのケーキの食べ放題に行き
  たい」

そして、ステラもまだ子供だったんだ。
最近は急速に成長しつつあるけど、彼女の精神年齢
は実年齢よりもかなり幼かったんだ。
マユちゃんへの対抗心も、友達を取るなくらいの
ものなのだろう。 

 「明日は久しぶりのお休みだ。みんな楽し
  もうぜ」

 「「「おー!」」」

 「じゃあ、解散!」

全員が待機室を出て行く中、2人の男が取り残され
た・・・。

 「俺には聞いてくれないのか。俺は大人の男で
  プロの傭兵だ。プロは休暇を有効に楽しむ
  ものなんだ。みんなは俺の意見を参考にしな
  いのか・・・」

部屋の端にいたガイがつぶやくように語り。

 「私がどのような修行を行って真の格闘王に
  近づいていくのか興味はないのか?
  カザマ一佐!聞いているか!」

ホー1尉は1人で絶叫していた・・・。


翌朝、7時。
俺の家の食堂には母さんとラクスしかいなかった。
レイナ・カナ・フレイはオロファトで長時間
楽しむ為に、前日の夜に出掛けてしまい。
ステラはシンとマユちゃんと出掛ける為に朝早く、
家を出た。
そして・・・。

 「母さん、親父は?」

 「朝早く出掛けたわよ。急な出張とかで」

そんなわけあるか。どうせ、ステラを見張りに
出掛けたんだ。

 「まさか、雨になるとわね。ラクス、どう 
  する?」

まさか、天気予報が外れて雨降りだとは思わな
かった。

 「私達もオロファトに出かけませんか?
  お義母様もご一緒に」

 「いいわね。私も細々したものが買いたかった
  のよ」

オノゴロ島の全商店が閉店している今、買物は
モルゲンレーテ主催の通信販売と社内販売のみ
になっていて、本業でないせいか品揃えが
ぱっとしないらしい。

 「では、出掛けましょう」

ラクスが家を出た俺達を、オノゴロ基地内の
ヘリポートに案内する。

 「何故にヘリで?」

 「送って下さる方達がいるのです」

上空からヘリが降りてきて中から3人に男女が
出てきた。
真ん中の女性は眼帯をしている。

 「おはようございます。ラクス様、カザマ一佐、
  お母様」

 「「おはようございます」」

 「おはようって、ヒルダさん!?」

俺はびっくりしてしまった。
彼女はヒルダ・ハーケンという名前の女性
パイロットで赤服を着るシホの先輩にあたる
人物だ。
俺も以前、何回か一緒に戦っているので面識
があるのだ。

 「あの、何故ヒルダさんがここに?それに、
  ヘルベルトさんとマーズさんも・・・」

ヒルダさんの後ろの2人の男性は開戦時から
彼女とチームを組んでいるベテランパイロット達
で、緑服だがその優れた技量でザフト軍内で
有名な人達だ。

 「あの、ヒルダさんはヤキン・ドゥーエ守備隊
  に転属になったと記憶してるのですが」

 「私達は昨日付けでザフト軍を退役してオーブ軍
  特殊装甲師団に入隊したんだ。よろしくな」

 「えーーーーー!何故に今になって?」

 「「「我らはクライン派の戦士。全てはラクス様
    の為に!」」」  

3人で大声で叫ぶものだから、恥ずかしくて
しょうがない。
基地の警備兵が俺達を奇異の目で見ている。

 「わかりました。では、明日にみんなに紹介
  しますよ」

多分、シーゲル元議長が送り込んだんだろうな。
当てになる戦力が増えた事は大歓迎だけど。

 「では、時間が勿体無いので、早速で送ります」

その後、俺達はヒルダさんが操縦する高速ヘリで
オロファトに送って貰ったのだが・・・。

 「ねえ、なんでヒルダさん達は常に3人で行動
  しているの?」

母さんに聞かれたのだが、俺はそんな事は知ら
ないし、ラクスに聞く気も起こらなかった。


オーブ連合首長国首都オロファトは戦火に巻き込ま
れていないだけあって活気にあふれ、沢山の人で
溢れかえっていた。
ヒルダさん達と別れた俺達は大きなデパートに
入って目的の物を探していたが・・・。

 「なあ、あれシン達じゃないか?」

俺が指差した方向でシン・ステラ・マユちゃんが
製菓材料と器具を選んでいた。

 「本当ね、あれ?あの人は・・・」

母さんがその3人を覗き込んでいる、黒ずくめの
男を見つける。

 「親父じゃん」

大昔のスパイじゃあるまいし、あの格好はない
だろう。
しかも、思いっきり周りから浮いてるし。

 「おい、親父。何やってるんだ?」

 「五月蝿いな!俺は忙しいんだ・・・って。
  ヨシヒロか!」

 「俺だけじゃないよ」

 「えっ、母さん。ラクスさん!」

俺の後ろにいる母さんとラクスに気が付いたようだ。 

 「お父さん、何をしてるのですか?」

 「いや、俺はステラが心配で・・・」

 「せっかくのお休みに私を誘いもしないで、
  こんな下らないをして・・・」

母さんが静かに怒りのゲージを上げている。 

 「いや、俺はステラをシンのクソ餓鬼から
  守る為に・・・」

親父の言い訳は母さんには聞こえていない。

 「ヨシヒロ、ラクスさん。私はお父さんと
  買物をして帰るから、2人で楽しんでね」

母さんは親父の耳をひっぱりながら他の売り場
に歩いていった。

 「ごめんなさい。母さん本当にごめん!」

 「反省しなさい!ほらキリキリ歩け!」

 「ごめんなさーい!」

親父の断末魔の声が遠ざかっていった。

 「あいつがモルゲンレーテの次期社長?
  もし、そうなったら倒産しそうだな」

 「モルゲンレーテは国営企業ですので
  倒産はありませんわ」

 「ツッコミどころが違うよラクス」

 「あれ、カザマさん。どうしてここに?」

マユちゃんが俺達を見つけて話しかけてきた。
そりゃあ、あれだけ大騒ぎしていれば、気が
付かれだろうな。

 「海は雨だったから中止にしたんだけど、
  オロファトは晴れてるんだね」

 「そうだったんですか。じゃあ、2人でデート
  なんですか?」

 「まあ、そんなところかな」

親父の奇行には気が付いていないようだ。
ちなみに、シンとマユちゃんは俺達の仲を
知っている。
あの環境では、隠すのが面倒くさいし。

 「マユ!どこに行ってたんだ?ってヨシヒロ
  さん、どうしてここに?」 

 「わーい、ヨシヒロとラクスだ」

そこに、商品の精算を終えたシンとステラが現る。

 「海は雨天中止でオロファトでのデートに変更
  した」

 「へえ、そうだったんですか。じゃあ、そろそろ
  お昼ですし、雑誌でお勧めのお店で昼飯でも
  食べませんか?」

 「お兄ちゃん、邪魔しちゃ悪いよ」

マユちゃんがシンに注意をしている。
あの3人の中で、一番常識があって大人なのは
マユちゃんらしい。
一番年下なのに大したものだ。

 「マユちゃん、気にしないでいいよ。食事が
  終わってから、別れればいいんだから」

 「そうですか。気の利かない兄で申し訳
  ありません」 

 「俺が奢るから早く行こうぜ。腹減ったよ」

時計を見ると、12時10分前だった。

 「やったー!奢りだ!」

シンは単純に大喜びしている。

 「それで、何処に行くんだ?」

 「じゃあ、案内しますね」

俺達はシンの後をついて行く事にした。


 「えっ、こんな高級なところなのか?」

シンが案内したお店は高級ホテルの最上階にある
中華料理店で、敷居が高そうなお店だった。

 「大丈夫ですよ。平日のお昼は1人30アース
  ダラーで食べ放題を実施してるんです」

そう言って、シンは雑誌の記事を見せてくれた。

 「本当だ。これはお得だな」

 「でしょ、俺も給料を貰える身分になったから、
  マユとステラで来てみたかったんです」

シンは正規の軍人待遇で、三尉の給料が出ている
からな。

 「じゃあ、入ろうか」

お店に入ると、大勢の客で混雑していた。
雑誌の記事を見て来ている人が多いのだろう。

 「いらっしゃいませ。相席でよろしければ
  直ぐにご案内できるのですが・・・」

 「どうする?」

 「私はかまいませんわ」

 「俺も異論はないです」

 「ステラ、お腹が減った」

 「私も大丈夫です」

早く食べたかったので相席を了承すると、奥の
8人がけの席に案内された。
その席には、赤い髪の中年の男性とシンと同じ
くらいの年齢の少女が2人座っていた。
1人は髪をツインテールにしていて、もう1人
はショートカットで前髪が一房跳ね上がって
いるのが特徴の女の子だった。

 「あれ?ホーク課長ではありませんか。
  どうして、オーブへ?」

男性は俺の知り合いだった。
彼はマッケンジー委員長の会社の研究所職員と
アマルフィー委員長の軍事工廠の職員を兼任して
いる優秀な技術者で、多少の面識があったのだ。

 「カザマ君か。元気だったかい?
  君の活躍はよく聞いているよ」

 「あの、どうしてオーブに?」

 「例の量子通信システムの技術交換の為に来た
  のだが、最近、娘にかまってやれなかった
  から一緒に連れてきたのだ」

多分、オーブ船籍のシャトルで来ているのだろう
が、危険な行動だな。

 「少し、無謀な行動ではありませんか?」

 「いや、宇宙の戦火は小競り合い程度で大きな
  戦闘は起きていない」

ホーク課長から情報を整理すると、宇宙空間では
月プトレマイオス基地〜カルフォルニア上宙航路
以外では大きな戦闘は起きていないらしい。
損害が大きいL4コロニー群は放棄されている
ので、一部の海賊やジャンク屋が根城にしている
以外に人の姿は無い。
L3群のコロニーはオーブやスカンジナビア王国
などの中立国と日本国の所属のコロニーが大半を
占めていて、連合には手を出しにくい状況にある。
日本は交戦国なのだが、下手に手を出して中立国
のコロニーに流れ弾を当てたりしたら、国際問題
に発展するからだ。
そして、L1・L2コロニー群は一番複雑な場所
になっている。
大西洋連邦・ユーラシア連合の所属コロニーが
大半で、ザフトに占領されている事になっている
のだが、ザフトはほとんど守備隊を置いておらず
コロニーの自治体が管理したままになっているの
だ。
そして、生活に必要な物資は中立国経由で輸入
されているのだが、それを担当している企業は
連合構成国の企業が中立国に設立した現地法人
で大半がロゴスの主要構成企業である。
このような行為をプラントが黙認しているの
は、自分達の経済力では戦争をしながら、彼ら
の生活の保障が出来ないからである。
一方、連合も開戦時からの艦隊の大量喪失で
コロニーを守り、物資を補給し続ける事が
不可能に近いので、双方の利害が一致している
のだ。
アズラエル理事もせっかく再建した艦隊をコロニー
に分散させて、最終決戦戦力落とす事を無意味と
考えている上に、自分の企業も中継貿易で利益を
上げているので、コロニー群への艦隊派遣は
しないであろう。
最終決戦に勝ってプラントを屈服させれば、自動的
に自分のところに戻ってくるので、経済人の
アズラエル理事は経費がかかる無駄な事はしない
のだ。 

 「へえ、宇宙は意外に静かですか」

 「月宙路は地獄の一丁目だがな。連合の月基地や
  輸送艦隊の護衛モビルスーツ隊は精鋭ぞろい
  で、損害も上昇傾向のようだ。この前アイマン
  隊長がぼやいていたよ」

 「へえ、ミゲルは元気にやっていますか」

 「強奪機体のブリッツを改修した機体に乗って
  大暴れしているらしい」

最近、会っていないから心配していたんだが、元気
そうで良かった。

 「それで、彼女達が自慢の美人姉妹ですか?」

 「ああ、そうなんだよ」

ホーク課長の娘への溺愛ぶりは有名で、俺も写真を
見せられながら1時間も自慢された事があるのだ。

 「始めまして、姉のルナマリア・ホークです」

へえ、月の女神様か。

 「妹のメイリン・ホークです」

ツインテール萌えだな。

 「初めて会うんだけど、そんな感じがしないな。
  始めまして、ヨシヒロ・カザマです」

あれだけ写真を見せられて自慢されればな。

 「うわー、トップエースのカザマ隊長に会える
  なんて光栄です」

姉のルナマリアが嬉しそうに言う。

 「写真より、実物の方がカッコイイですね」

妹のメイリンにもベタ褒された。

 「連れも紹介するよ」

 「シン・アスカです」

 「妹のマユ・アスカです」

 「ステラ・カザマです」

 「ラクス・クラインです。よろしくお願いし
  ます」

 「「「えっ、ラクス様!」」」

後ろから現れたラクスに3人が驚いている。
そりゃあ、驚くだろうな。

 「彼女は今、長期のオフでね俺が護衛に
  ついているのさ」

真実を話すと面倒くさいので、適当に嘘をつく。

 「えっ、何で恋人同士・・・うがっ」

 「何でもないですよ。はははは」

余計な事を喋ろうとしたシンの口をマユちゃんが
塞いでくれた。
ありがとう、マユちゃん。

 「では、早速注文をとりますか。シン、メニュー
  を見て適当に頼め」

 「了解です」

バカなシンの口を塞ぐには、大量の料理に限る。
やがて、大量の料理が到着して俺達は料理を食べ
始めた。

 「おっ、美味しいじゃん。台湾で食べた高級料理
  に劣らない出来だな」

 「そうですわね」

 「美味しい・・・」

 「お兄ちゃん、大当たりだねここ」

俺達4人がそれぞれに感想を述べている横で、
シンが恐ろしい勢いで料理をかっ食らっていた。

 「ふぁんへすか?」

 「いや、何でもない。気にせずに食べてくれ」

 「ひょうひゃいへす」

 「すいません。おバカな兄で」

マユちゃんがみんなに謝っている。

 「まあ、男の子は元気で大食らいなくらいで
  丁度いいのさ」 

ホーク課長はシンの食べっぷりを気に入った
ようだ。

 「にしても、シン君はよく食べるわね」

ルナマリアは純粋に感心しているようだ。

 「俺も良く食べる方だけど、シンには絶対に
  勝てない」

 「どんな料理が好きなんですか?」

 「和食が一番好きかな。日本人だし」

 「私、料理得意なんですよ。カザマ隊長が
  プラントに戻ったらご馳走しますね」

ルナマリアにお誘いを受けるが。

 「お姉ちゃん、料理なんて出来るの?」

メイリンに釘を刺されていた。

 「大丈夫よ。今から特訓すれば」

 「私達、9月からアカデミーに入学するのよ。
  そんな暇ないじゃない」

 「2人はアカデミーに入学するのか。
  優秀なんだね」

 「はい、私は管制科ですけど、お姉ちゃんは
  パイロット専攻なんですよ」

 「俺の後輩になるのか。頑張ってくれよ。運が
  良ければ指導に行く事もあるだろうから、
  その時はよろしくな」  

 「はい、頑張ります!」

ルナマリアは嬉しそうに大声で返事をした。

 「それで、ラクス様はともかくシン君達と君の
  関係は?」

ホーク課長に聞かれたので、大雑把に説明する。

 「シン君はその歳でモビルスーツのパイロット
  なのか。凄いものだな」

 「選抜試験に通ったのも驚きですけど、最年少
  なのに一番才能があるんですよ。なので、
  新型モビルスーツのテストをやらせています」

 「ああ、あの日本製のモビルスーツか」

ホーク課長は俺が上げた報告書を読んでいる
ようだ。

 「それで、どんな感じなんだい」

 「耐久度と整備性は改善されましたが、
  パイロットを選び過ぎですね」

 「そんなに酷いかね?」

 「俺は乗りたくありません」

 「ザフトでの採用は・・・」

 「止めておいた方が無難ですね」

 「そうか、偶然君に会ったが、1つ収穫が増えて
  万々歳だ。では、食事を始めるとするか」

俺達がテーブルに向かうと、料理がほとんど
無かった。
シンがほとんど食べてしまったらしい。

 「お前な、ちょっとは残しておけよ」

 「大丈夫ですよ。追加頼みましたから」

 「大丈夫か?食べ残しは追加料金を取られるぞ」

 「カザマ隊長、シン君なら食べきりますよ」

ルナマリアが確信を持って答えた。

 「ルナマリアさん、俺の事は名前で呼んで
  くれていいから」

 「そうですか。ではヨシヒロさん、私も親しい
  友人にはルナって呼ばれているので、そう
  呼んでください」

 「なあ、ルナ。追加はまだ来ないのか?」

 「シンが先に呼んでどうするのよ!それに私は
  年上なの!年上!」

 「数ヶ月の差じゃん。それに、パイロットとして
  は俺が先輩だし」

 「すいません。無礼な兄で」

 「マユちゃんはシンの100倍は賢いわね」

 「何だよ!それじゃあ、俺がバカみたいじゃん」

 「バカじゃないのよ」

 「ルナこそバカそうなのに良くアカデミーに
  入れたな!」

 「私は赤服を着て卒業するのよ。そして、
  トップエースになるの」

 「恐ろしいまでの妄想だな。ありえない」

 「何ですって!シンは入学すら不可能でしょ!」

 「俺なら余裕で入学できるね!」

 「嘘つくな!」

 「じゃあ、証明してやるよ」

 「シン、悪いんだが、今年度のアカデミー生
  選抜試験はもう終わったぞ」 

俺はシンに残酷な事実を教えてやる。

 「来年、私の後輩として入学しなさい。
  そして、私をホーク先輩と呼ぶのよ」

ルナが勝ち誇った笑顔をシンに向ける。

 「何とかなりませんか?」

シンが真剣な表情で聞いてくる。

 「例外として、評議員の推薦枠が幾つか
  あったような」

ホーク課長が重要な事を思い出したようだ。

 「俺は評議員じゃないから不可能だよ。
  コネのある議員もいないし・・・」

 「では、父にお願いしてみます」

ラクスが俺達の話に割り込んできた。

 「えっ、本当ですか?」

 「ええ、頑張ってくださいね。シンさん」

ラクスはもう決めてしまったらしい。

 「シン、やめておけ。議員の推薦枠なんだぞ。
  優秀で赤服を着て卒業して当たり前なんだ。
  緑服で卒業したら、シーゲル元議長の顔に
  泥を塗る事になるんだ。来年にしておけ」

俺はシンを止めに入ったが。

 「絶対赤服を着て卒業します。これは俺の
  プライドの問題なんです」

 「覚悟を決めたんだな」

 「はい!」

 「では、頑張ってくるれ。俺も応援するから」

昼飯を食いに来た中華料理店で、シンの人生を
変える出来事が起こるとは。
人生はわからないものだ。

 「ねえ、シンはプラントに行ってしまうの?」

ステラが悲しそうにシンに尋ねる。

 「ごめんね。ステラ、俺はザフト軍の軍人に
  なるんだよ」 

 「やだ、行かないで」

 「また会えるから。ねっ」

 「やだ、シンと別れたくない!」

 「ステラ、シンが自分で決めた進路だ。邪魔を
  してはダメだよ」

俺はステラを宥めに入るが。

 「シンは自分で決めたの?」

 「ああ、自分で決めたんだ」

 「じゃあ、ステラもアカデミーに行く!」

その瞬間、ルナとメイリンは飲んでいたお茶を
噴出した。

 「ステラ!あんたね無理に決まっている
  でしょ」

 「どうして?」

 「あなたはナチュラルでしょ」

 「関係ない」

 「無くはないの!」

 「アカデミーの入学資格には、ナチュラル不可
  とは書かれていないけどね」

受ける人がいないし、能力的に合格が難しい
から、一々書かれていないのかもしれない。
だが、ステラに才能がある事は事実だ。
俺と相撃ちになった事もあるし、出自が出自
なので、優秀なパイロットになるというか
既に優秀なパイロットなのだ。

 「ステラには、ちょっと事情が許さない点
  が多すぎだからな」

 「ダメなの?ヨシヒロお願い」

ステラが子猫のような表情で俺にすがってくる。
俺はこの攻撃にとても弱い。

 「わかりましたわ。ステラも父に頼んで
  みます」

 「ラクス、安請け合いして大丈夫か?」

 「大丈夫ですわ」

 「ステラ、状況はシンと同じだぞ。赤服で当たり
  前だ。緑服は許されない。それでも、いいん
  だな?」

 「うん、ステラ頑張る」

 「では、決まりだ。俺は二度と反対意見は言わ
  ない。親父の説得も手伝う」

そう、一番の問題はあの親父だ。
親父はステラを溺愛してるからな。

 「あの、ホーク課長。8月のオーブ防衛線が
  終わったら、2人をプラントに上げますの
  で・・・・・・」 

 「これも何かの縁だろう。私が2人の身元保証人
  になってあげよう」

ホーク課長が面倒を見てくれるようだ。
とてもありがたい。

 「ホーク課長、ありがとうどざいます」

 「「ありがとうございます」」

3人で頭を下げる。

 「ルナ、メイリン。2人をよろしく頼むよ」

俺はルナ達にも頭を下げる。

 「ヨシヒロさん、頭なんて下げないで下さい。
  私達が責任を持って面倒を見ますから」

 「そうですよ。心配しないでください」

 「ありがとう」

知り合いが一人もいないまま、プラントに上がった
俺は少し苦労したからな。
入学式でミゲルとハイネに出会うまでの短い期間
だったけど。

 「でさ、今まで聞いた事が無かったんだけど、
  シンとステラの座学の成績はどの程度なんだ
  ?」

2人の実技の成績は心配していないのだが、問題
は座学の方だ。
平均して成績が良くないと赤服は着れないからな。

 「えーとですね・・・」

 「うんとねえ」

シンは軍に志願する前に実施されたオーブ国統一
アチーブメントテストの結果を、ステラは将来の
進路を決める為に、母さんが受けさせたネットの
学力検定の結果を教えてくれた。

 「シンは上の下くらいでステラは・・・、
  えっ、全受験者中3位!」

シンが日頃のおバカな言動に比べて意外と成績が
良かったのには驚いたが、ステラがこんなに頭が
良かったとは。
まあ、考えてみれば今まで優秀な軍人にする為に
訓練漬けだったのだから、当たり前なのかもしれ
ないけど。

 「シンはもう少し勉強しないとな。ステラ、
  明日から夜に勉強を教えてやりな」

 「うん、わかった」

 「あんな天然娘に負けてるなんて・・・」

 「私も・・・・・・」

ルナとメイリンが落ち込んでいるが、比較対照が
違うのだから、比べようがないのだ。
落ち込む必要は無いと思うのだが・・・。 


 「悪いな奢ってもらって」

 「いえ、今は給料二倍ですし、これからシン
  とステラがお世話になりますしね」

 「ヨシヒロさん、ご馳走さまです」

 「ご馳走さまです」

俺は全員の食事の代金を支払い、お店を出た。

 「ヨシヒロ、またここで食べたいね」

 「カザマさん、ご馳走さまでした」

 「いやー、昼飯代浮いてラッキーだったな。
  本当、ご馳走様です」

シンは驚くような量を食らい、お店の店員が半泣き
状態だったのだ。
食べ放題なので、俺の懐はそれほど痛まなかった
が。

 「あれだけ食っておいて、デザートを平気で
  注文してたからな」

 「タダ飯はいくらでも入るんですよ」

ミゲルの様な男だな・・・。

 「さて、これからどうする?」

 「俺達は映画でも見ようかと」

シンが午後の予定を話すと。 

 「私達も見たいわね」

新作が封切られているらしい。
平和なオーブでは世界で一番早く上映される事が
多く、逆にプラントでは上映されない事も多い
のだ。 

 「シン、これから2人にはお世話になるんだ。
  一緒に見に行ってこいよ。浮いた昼飯代で
  奢ってあげろよ。お前は男なんだからな」

 「ラッキー。シン、サンキュー」

 「シン、サンキュー」

返事をする前にルナとメイリンにお礼を言われて
しまい、断れなくなったシンは。

 「よーし、俺の奢りだ全員ついて来い!」

 「「「「了解」」」」

 「私は映画が終わるまで、その辺をぶらついて
  いるよ」 

ホーク課長の趣味に合わない映画のようだ。 

 「俺達は野暮用がありますので」

俺はシン達と別れて二人っきりになった。


俺達は午後の時間をのんびりと過ごす事にした。
着いたところはオロファトの中心地にある公園で、
平日の午後ではあったが、カップルや家族連れ
などが芝生に座ったり寝転んでいた。
早速、俺達も飲み物を購入して手頃な場所に
座る事にする。

 「今日は久しぶりに会う人が多かったな」

 「本当ですわね」

ホーク課長は違うだろうが、ヒルダさん達には
ラクスの陰謀の匂いがする。

 「ヒルダさん達は何故、今頃になって?」

超ベテランの3人を、ヤキンの守備隊が簡単に
手放すはずがない。 

 「さあ、どうしてでしょうか?」

ラクスに惚けられてしまったので、真相は闇
の中になってしまう。
無理して調べるような事でも無いし。

 「あら、あれは・・・」

ラクスが見ている方向に目を向けると、ベンチに
座った一組のカップルが楽しそうに会話していた。

 「あれ?イザークとフレイ?」

 「ですわね」

 「おーい!イザーク!フレイ!」

俺が声を掛けると。

 「なっ、何でヨシさんが?」

イザークが実戦でも見せないような狼狽した表情を
浮かべている。 

 「海は雨天中止なったんだ。オノゴロ島は天気
  が悪くてな」 

 「へえ、そうだったんですか」

フレイの方は特に驚いたような態度を見せて
いない。 

 「いや、これはですね。博物館の特別展示を
  見に行く時に付き合ってくれる人がいなくて
  困っていた時に、たまたまフレイの予定が
  空いていまして・・・」

イザークがしどろもどろに説明する。 

 「お前は邪教の信者か!別にデートに出掛ける
  くらいの事でオロオロしたり、隠そうとしたり
  するな!フレイに失礼だろ!」

 「私はヨシヒロと堂々とデートしていますわ」

 「ラクスは隠しなさいよ」

 「秘密管理は厳重ではありませんか」

フレイとイザークのツッコミが小さな声で入る。

 「まあ、そういう事だ。石原一尉なんて堂々と
  したものじゃないか」

彼は休日の予定を聞いた時にハッキリとデートと
答えたからな。

 「それもそうですね。フレイはユウナとの婚約を
  解消しましたし、遠慮する必要ありませんね」

アルスター外務次官はユウナの失態を聞いて、即座
に婚約を解消してしまったらしい。
カガリとの婚約もウズミ様が事実上無効にして
しまったし、プラントでの婚約者探しは難航して
いるようだ。
ウナト様に期待する人は多いのだが、ユウナに
期待する人など皆無で、ウナト様のユウナの
子供に期待するしかないと周囲にこぼしている
らしい。

 「では、俺達はこれで」

イザークとフレイは遅い昼食に行くようだ。
何でも、人気のフレンチのお店の予約が遅い時間
になってしまい、ここで時間を潰していたようだ。

 「まあ、ちゃんとエスコートしているのですね」

 「アカデミーの教育は伊達ではないよ」

それに、イザークは上流階級の人間だ。
女性の扱いくらい心得ていて当然だ。

 
結局、その日の午後は公園でのんびり過ごし、夕方
は何故かまたヒルダさんがヘリで迎えに来てくれた
ので、それに乗って帰ったのだった。

 「どうして、ヒルダさんがまた迎えに来てくれ
  たんだろう?」 

 「さあ、どうしてでしょうね」


そして、その日の夜、親父が珍しく大声をあげた。

 「ダメだ!ステラを軍人になんて出来ない!
  俺は反対だからな!」

 「本人が希望しているんだ。素直に認めて
  やれよ」

 「だめだ!俺はお前の件も完全に納得したわけ
  じゃないんだ!」

 「今更、それはないんじゃない?」

 「お前は頭も良いんだ。技術者にでもなって
  くれれば」

 「俺には向いていないし、俺には俺の夢が
  ある。いくら親父でも介入し過ぎだ」

 「お前は諦めているが、ステラはダメだ。
  俺は絶対に反対だ!」

 「レイナ達だって軍人をやっているだろ」

 「あれは一時的なものだから仕方なく認めた
  のだ。ステラはプロの軍人になってしまうん
  だろ。それだけはダメだ!」

 「ステラが軍人になっている頃には、戦争は終
  わっているよ。戦場に出る事なんて無いさ」

100%の確証は無いが、間違いないと思う。

 「母さんはどう思っているんだ?
  反対なんだろ!」

親父は母さんに一縷の望みを託すが・・・。

 「ステラと離れ離れになるのはイヤですけど、
  本人の希望を潰すのは反対です。私は賛成
  しますよ。お父さん」

さすがは、この家の影の主だ。
発言の重みが違う。

 「俺が責任もって面倒みるからさ」

 「お前がか?」

 「戦争が終了しても、暫らくはザフト軍を
  やめない。シンとステラが一人前になるまで
  面倒を見る」

俺は決心する。
数年くらい寄り道をしても、十分に夢をかなえられ
るだろうから。

 「お父さん、私アカデミーに行きたいの」

ステラが再び、子猫のような表情で親父に
すがっている。
俺と同じく、あれに弱い親父には耐えられまい。

 「わかったよ・・・。許可するよ」

親父が小さな声でようやく認めてくれた。

 「ステラ、辛くなったら何時でも帰って
  くるんだよ」

 「シンが一緒だから大丈夫」

 「やっぱり、あのクソ餓鬼が原因か!
  シン・アスカ、許さんぞ!」

二階のベランダに駆け上がった親父の絶叫が
聞こえてきた。
ステラには正面きって伝えられない心の叫びだ。

 「まあ、一応認めてくれたから良しと
  しますか」

 「でも、いいのですか?最低3年くらいは
  ザフトを退役出来ませんよ」 

ラクスが心配してくれるが。

 「俺も認めた手前、協力はするさ」

 「シン君とステラがアカデミーに入校するん
  ですか?」

 「オーブでの戦闘が終了してから、プラント
  へ上がるんだよ」

いきなりの事で驚いているフレイに状況を説明
してあげる。

 「ステラ、頑張ってね」

 「うん」

約1人を除いて、カザマ邸の夜は静かに更けて
いった。 


翌日、オノゴロ基地はシンとステラのアカデミー
入学の話題で盛り上がっていた。

 「そうか、頑張ってくれよ」

アスランは純粋に励ましの声をかけ。

 「夕方、俺の部屋に来い。過去の試験問題を
  渡すから」

イザークは積極的に協力するようだ。

 「シンが僕達の後輩になるんですね」

ニコルが感慨深いそうに語り。

 「ステラ、後で女性パイロットになる為の
  注意点をレクチャーしますね」

同じ女性パイロットとして、シホも放って
おけないようだ。

 「俺が防衛大学に入学した時には緊張してな」

 「石原は入学式に居眠りしてただろう」

 「相羽は実習の時に一回脱走しただろうが」

 「太田みたいに、寮から脱走して連れ戻されて
  はいないぞ」

 「あれは、脱走じゃない!コンビニにジュース
  を買いに行ったんだ!」

 「私達は短期教育カリキュラム生だからね」

 「マユラは初めての実機教習でゲロ吐いた
  じゃん」 

 「ジュリは対G訓練で気絶したでしょ」

 「アサギはカッコイイ教官が妻子持ちだって
  わかったら、手抜きしたじゃん」

 「俺が士官学校生の時は・・・」

 「ホー1尉の士官学校時代は想像できない」

 「俺は伝説に残る生徒だったんだ。格闘王を
  目指す俺は・・・」

 「色々な意味で伝説になっていそうですね」

ニコルの予想は外れていないだろう。

 「ガイは暗い生徒だったんだろうな」

 「ふっ、俺がプロの傭兵として羽ばたく前は
  それは優秀な生徒で・・・」

 「問題無い優秀な生徒なら、軍に残れたのと
  違うか?」

 「俺は自由を愛する傭兵だ。無能な上司の指示
  で戦死するのはごめんだ」

 「みんな、そろそろ訓練に入ってくれ」

 「「「了解!」」」

俺が話を打ち切ると、みんなは格納庫に向かう。

 「さて、俺も書類を片付けるか」

そして、俺が最後に退出したと思われたの
だが・・・。

 「おい、ヒルダ。俺達は忘れられているぞ」

 「俺達は期待の新人では無かったのか?」

 「五月蠅い!私達はラクス様の盾になれば
  いいのだ」

 「でもさ、無視は厳しいよな」

 「ヘルベルト、五月蠅い男はモテないよ!」

 「それは、ヒルダの基準だろ」

 「マーズもうるさい!気合い入れるよ。
  全ては?」

 「「「ラクス様のために!」」」

パイロット待機室に無駄に大きな声が響いていた。


(月プトレマイオス基地)

ハルバートン中将が第八艦隊司令官に返り咲いて
から、1週間が過ぎた。
二月の追悼式典時の艦隊戦で失った戦力を上回る
戦力が補充され更に、大規模になった第八艦隊に
驚きながらも参謀長のコープマン少将と共に、
訓練に励む日々だった。

 「せめて、もう少し前にこの戦力があればな」

 「私としては、地球に少し回してもらいたい
  ですね」

第八艦隊の戦力は艦艇60隻。
改良して性能を上げて火器をビーム砲に換装
したMAと、コスモグラスパーという宇宙用
のスカイグラスパーが合わせて200機。
そして、モビルスーツ隊が250機配備され
ていた。
モビルスーツの機種もストライクダガーは
三分の二程度に比率が下がった上に、その半分
は重要部分の装甲をフェイズシフト装甲に換装
したダガー改に交換されていて、残りの三分の一
もレイダー量産型、カラミティー量産型、
ソードカラミティー量産型、フォビトン量産型、
デュエルダガー、バスターダガー、ロングダガー
や一部のトップエース用のカスタム機などが 
配備されて、質の面でも大きく進化していた。
更に、月には同規模の艦隊が5つあって、1つの
艦隊が留守を預かり、残り4つの艦隊でプラント
本国を突く最終作戦を実行する為に、厳しい
訓練が連日行われていた。

 「しかし、月〜カルフォルニア上宙路の補給路
  は相変わらず厳しいな。訓練の為に送り出した
  パイロットが半分しか、帰って来ないの
  だから」

 「開戦時の5対1以上の損害率が3対1にまで
  縮んでいるのです。国力差を考えたら我々の
  優勢なんですよ」

コープマン少将は慰めるように言うが、現状は深刻
だった。

 「それよりも、アズラエルは何を考えている
  のだ。自分の息のかかっている月艦隊には
  フェイズシフト装甲と改良型のトランス
  フェイズシフト装甲装備機を気前良く配備
  しているくせに、地球には一部のエース機
  以外には通常型のストライクダガーしか
  回していない!」

 「アズラエル理事は、プラント本国を突く作戦
  に全てをかけているようですからね。地球の
  戦力はザフト軍戦力を惹きつける囮くらいに
  しか思っていないのですよ」

 「しかも、オーブ開放作戦だと?何が開放だ!
  中立国を攻撃しておいて笑わせる話だな。
  今年聞いたジョークの中では最高の出来だ」

 「ブルーコスモス強行派はともかく、アズラエル
  理事はオーブなんてどうでもいいんですよ。
  地球のザフトとプラント同盟国の戦力を削って
  おけば、最終決戦時に援軍が出しにくくなり
  ますからね。日本・台湾侵攻も同じ理由のよう
  ですよ。しかも、侵攻部隊の指揮官は
  反ブルーコスモス派の将官ばかりです。
  戦死したり、失敗すれば始末も容易ですし」

 「忌々しい、蛇のような男だな」

 「恐ろしいほど冷徹な男です。我々も気を付け
  ないと・・・」

 「黙々と任務をこなすのが一番利口なやり方
  だな」

 「ですな」

2人の将官は黙々と戦力の整備に励むのだった。


(プトレマイオス基地、会議室)

この会議室は予備室扱いで普段は使用される事は
少ないのだが、今日は2人の人物の秘密の会合に
使われていた。

 「まずは、サザーランド准将。昇進おめでとう
  ございます」

 「ありがとうございます」

 「しかし、軍の上層部もバカですね。忌々しい
  ハルバートンを一年で二階級も昇進させて
  おいて、あなたはやっと准将に昇進なんて」

 「ハルバートンは智将と評判で政治に無関心
  です。今回のモビルスーツ開発計画で初めて
  政治家に接近したくらいの男ですから、
  軍の長老の受けがいいのですよ」

 「私がせっかく左遷させたのに、戻ってきま
  したからね」

 「能力はある男です。利用すればいいの
  ですよ」

 「そうですね」

 「それで、アメノミハシラ強襲作戦の要綱は
  出来ていますか?」

 「第七艦隊を派遣します。艦隊司令のファルガン
  少将は堅実な用兵を行う男です。無茶はしませ
  んよ」

 「戦力は足りているのですか?情報ではザフトが
  援軍を出すという話ですし、敵の指揮官は
  あのクルーゼですよ」

 「モビルスーツの数はこちらが上ですし、オーブ
  宇宙軍のM−1にはフェイズシフト装甲が使わ
  れていません。一部のエース機のみです」

 「陽動ぐらいなら問題無いと?」

 「ええ、大丈夫です」

 「ならいいです。それで、オーブ攻略作戦
  なんですけど」

 「何か?」

 「失敗前提の作戦なんですけど、万が一の成功
  を期待して細工をしたいのですが」

 「何をですか?」

 「それはですね・・・」

2人の悪巧みはその後数十分続いた。


(プラント、訓練宙域)

エターナルを受領したラスティー隊の面々は、戦力
の補充と訓練を続行していた。
ラスティー隊は月航路のミゲル隊と共にプラントで
ライセンス生産されたセンプウを初めて装備した
部隊であり、訓練と戦術マニュアルの改良作業が
行われていた。

 「こちら、ディアッカ。センプウの調子は
  どうだ?」

 「良好です。ゲイツより高性能で生産性、整備性
  全て上です。ナチュラルが作ったとは思えない
  出来です」

センプウはナチュラルのパイロットが使用しても、
高性能機なのだが、コーディネーターが操縦する
と、更に物凄い高性能機に変化する。

 「これで、ゲイツの量産はストップだな」

 「そうですね」

実はゲイツの生産中は既に中止になっていて、生産
ラインは全てセンプウに変更されていた。

 「短い命だったなゲイツは」

 「既に生産された分は改良されて配備され
  ますよ。勝手に殺さないでください」

 「お前は・・・」

 「好きだったんですよね。ゲイツ」

地球で戦ってきたディアッカはセンプウが気に
入っていたので、コメントは控える事にする。
個人の嗜好に口を出すものでは無い。

 「ディアッカ!今日も相手を頼むぞ!」

突然、無線に大きな声が響いてくる。
また、プロヴィデンスに乗ってクルーゼ隊長が
出撃してきたらしい。 

 「ちっ、ラスティーの奴。今日も諌めるのに
  失敗したな」

小声でつぶやくと。

 「ラスティーとオキタ艦長は快く送り出して
  くれたよ。安心してくれたまえ!」

連日の話し合いに疲れたラスティーは、ディアッカ
に押し付ける事で精神の安定を図っているらしい。

 「ちくしょう!全機、クルーゼ機を今日こそ
  撃ち落せ!」

ディアッカの命令で訓練が再開されるが・・・。
20分後、ドラグーンシステムに翻弄された
ディアッカ隊の全滅で訓練は終了する。

 「クルーゼ隊長、反則ですよ。その兵器」

 「ディアッカ、当たらなければいいのだ」

それが出来たら、とっくにそうしてるわい。
上官に口に出して言えない心の叫びが頭の
中を駆け巡る。

 「せめて、よけるコツを教えてください」

 「第六感を働かせろ。ミゲル、ハイネ、カザマ
  の3名ならかわせる攻撃だぞ」

 「えっ、本当ですか?」

 「その他にも少数のベテランパイロットには
  避けられる攻撃だ」

 「頑張ってみます」

 「その心意気や良し。早速、訓練の再開だ」

その後、二時間近く訓練に付き合わされた
ディアッカはボロボロになったのだった。


地球連合のオーブ侵攻まで、後三週間を切った。
果たしてカザマ達はどうなってしまうのか。
シンの運命は?ラスティーとディアッカの精神
と胃袋は持つのか。
アズラエルの次に手は?
それはまだ謎に包まれていた。


 

        あとがき 

前回ご指摘を受けたドラグーンシステムとザフトの
空間認識能力者のコートニー・ヒエロニムスですが、
初めて聞きました。
とても勉強になりました。
ドレッドノートがドラグーンシステムの試験機
だったなんて知らなかった。
私はGの技術を応用したノーマルな核動力機だと
思っていましたから。
それで、私の量子通信システムに対する考え方を
説明しておきますと、非常に使い勝手の悪い
システムだと思っています。
特にモビルスーツに搭載すると、パイロットと
空間認識能力両方を持っていないと戦場で的に
なってしまうと考えたのです。
コンマ一秒で運命を決める戦場でモビルスーツ
を動かしながら、ドラグーンやガンバレルを操作
する。
神業的な才能が無いとできません。
多分、車を運転しながら携帯で話している人と
同じ運命になると思います。
そこで、このSSの世界では、艦船や基地に配置
した大型のミサイル発射台に空間認識者を配置
してモニターを見ながらミサイルのみを操作
させる兵器を主流にしたいと考えています。
このミサイル発射台の初陣はオーブ戦に
出しますし、ホーク課長のオーブ出張の理由は
プラントでもこの兵器を使用するという事情
からのものです。
最後に、公式設定と違う点は全て私の妄想です
ので、軽く流してください。
ルナマリアの親父の職業や名前なんて知りません
ので。
次の更新はいつかな?わかりません。

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