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▽レス始

「幻想砕きの剣 8-4DUEL SAVIOR)」

時守 暦 (2006-02-24 01:38/2006-03-01 23:35)
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 大河のイメージを上げろと言われたら、何が真っ先に出るだろうか。
 ドンファン、女垂らし、野獣、トラブルメーカー、理不尽、何だかんだ言っても強い、でも慣れがない人には怖い。
 いずれにせよ、どれも知的とは程遠い。
 しかし意外な事に、大河は実は調べ物が上手かったりする。
 とっくに忘れられているとは思うが、大河がネットワークで仕事をしていた時には内戦の調停とかもやっていたのだ。
 資料を自分で作成する事もあったし、邪魔をする相手のデータを調べ上げる必要もあった。
 調べ物が苦手では、まず勤まらないのだ。

 そんな訳で、大河は現在図書館に向かっている。
 何が目的かと言うと、ダウニーとの会話で芽生えた予感…あるいは確信かもしれない…の裏付けが欲しいのだ。
 性に合わないとはいえ、他に有効な場所もない。
 誰か図書館に詳しい人間が居ればいいのだが、と思う。
 リコやリリィは恐らく部屋の演出のために走り回っているだろうし、司書さんは最近仕事で忙しいらしい。
 ダリアの後始末を押し付けられているのか、司書としての仕事が終わらないのかは解らない。
 調べ物は得意でも、データが何処にあるのか知らなければ意味がない。


「…誰か居ないかな…」


 とは言うものの、大河は期待していなかった。
 ひょっとしたら王都まで品物を物色しに行っているかもしれないのだ。
 現に図書館に行くまで、救世主クラスには一人も会わなかった。

 と、思ったら。


「…だっつーのに、どうして皆図書館に居るんだ?」


 普段人気のない図書館は、俄かに活気付いていたりする。
 救世主クラスが全員集合していたのだ。
 全員が本棚から本を抜き出しては斜め読みして戻し、また本を取るを繰り返していた。
 どうやら和の文化について調べているらしい。
 未亜とカエデは和の文化に生まれてから何度も触れているのだが、カエデは自分の文化と大河の言う和の文化が同じなのか確信が持てない。
 未亜はというと、ある程度は知っているものの、これと言ったアイデアが思いつかないのだ。
 どうにも自分の芸風はエロに走りがちなので、ここらでちょっと別の事を試してみようとしているらしい。


「ふぅ…まぁいいか。
 …今話しかけても、邪魔にしかならないかな?」


「…ご主人様?」


「ん?」


 手伝ってもらうか悩んでいた大河に、後ろから声がかけられる。
 振り返ると見慣れない本を抱えたリコが立っていた。


「ようリコ。
 …その本は?」


「これはご主人様の世界の文化を記した本です。
 …とは言っても、ご主人様の世界は未だに何処にあるのか解らないので…酷似している世界の文化、という事になりますが。
 楽しみにしていてください、張り切って和室を作りますから」


 むん、と小さな胸を張って気合を入れるリコ。
 大河は苦笑して、その頭を撫でた。
 頭をナデナデされ、ほふぅと幸せな溜息をつく。


「あー、ところでリコ。
 旧ホワイトカーパス州で信仰されていた宗教の事が知りたいんだけど、何処かに丁度いい本はないか?
 出来れば漫画で伝記を伝えているようなのがいいんだが」


「旧ホワイトカーパス州ですか?
 それならあの本棚の四段目に纏めてありますが…流石に漫画はありませんけど。
 どうかしたんですか?」


 二階にある本棚を指差すリコ。
 何を調べようとしているのか知らないが、場合によっては調べ物が不慣れであろう大河のサポートをしようと思っているらしい。
 前述した通り、大河は調べ物は不得意ではないのだが。

 まぁ、確かに分厚い歴史書やら聖典やらを調べるのは面倒臭い。
 手伝ってもらえるのは有難いが。


「いいのか?
 部屋の準備をするんだろ?」


「別に構いません。
 特に時間が必要な訳ではありませんから、日が暮れてから準備を始めても充分間に合います。
 それで、何が知りたいんですか?」


「ん、ありがとう…。
 えーとな、旧ホワイトカーパス州で信仰されていた邪神ってのがあっただろ。
 名前は……『アームウガンア=ザックトイ』。
 この名前そのものじゃなくて、多分変化してると思う」


「邪神…ですか…。
 旧ホワイトカーパス州の邪神と言うと、破滅に寝返った国を最後まで守護していたと言われ、元は護国の神だったのを後から邪神扱いされている神でしょうか?」


「そう、正にそれ。
 そいつの容姿とか性格とか…そういう事を知りたいんだよ」


 ふむ、とリコは頷いて2階の本棚に歩いていく。
 大河も続いた。


「それなら確か、聖典ではなく神の性質を記した一覧表のような本がありました。
 ……ところで、どうしていきなり邪神なんてモノに興味を持ったんです?」


 本棚の前に到着し、リコは目的の本を探す。
 大河はその後ろで、リコが歩くたびにヒラヒラ揺れる短い服に目を奪われていた。
 真っ白いお御足がまぶしい。


「いや、ちょっと……謎が色々解けるかもしれないんでな。
 それに……」


「それに?」


「ひょっとしたら、元の世界に帰る方法が見つかっても、帰るに帰れなくなるかもしれない」


「!?」


 本を探す手を止めて、リコは振り向いた。
 一体どういう事か。
 リコは今でも大河と未亜を元の世界に送り返す方法を模索しているが、その途中に暗鬱とした気持ちになる事がよくあった。
 2人を送り返してしまったら、どうにもならない程に寂しくなるだろう。
 またイムニティとも争う事になるかもしれない。
 2人の存在は、ある意味リコにとっては人生の鍵だったのである。
 それでも方法を探しているのは、仮に“破滅”に破れそうになった時に逃げ延びるためである。
 大河が帰らずにアヴァターに居てくれるのは嬉しいが…。


「それは…どういう事ですか?」


「ん…まぁ何だ、過去の因縁…いや腐れ縁とか、その辺が色々な…。
 ……あ、その本か?」


「え?
 ああ、この本です。
 えーと、旧ホワイトカーパス州の神は…このページからです。
 どうぞ」


「サンキュー」


 疑問を持ちながら大河に本を渡す。
 しかし大河はそれ以上語ろうとしない。
 無言でリコから渡された本を読んでいる。
 その表情は普段とは全く違い、戦闘中かと見紛うほどに真剣である。


(……ご主人様…カッコイイです……)


(………アヴァターの文字は読みにくい…)


 まぁ、何も言うまい。
 そのまま大河を眺めていたかったリコだが、俄かに下の階層が騒がしくなったのに気がついた。
 何事かと思って見てみると、ベリオとリリィが何やら牽制しあいながら本を借り、あっという間に図書館から出て行く所だった。
 未亜とカエデもそれに続き、さらにルビナスとナナシ、ミュリエルまで。
 どうやら和室を作るためのアイデアを思いついたらしい。


(しまった、先を越された!)


「ご主人様、私は準備があるので失礼します!」


「ん? ああ、わかった。
 忙しいのに有難うな」


「いえ、そんな…。
 それでは」


「ああ、ちょっと待て!」


「?」


「あのな、言い忘れてたけど、このまま俺の世界を探しても多分見つけられない。
 だから世界探しはついでか暇潰しくらいにしておいてくれ。
 それだけだ」


「むぅ、よく解らないけど解りました」


 小走りになって 受付に向かう。
 大河の言葉の意味は理解できなかったが、取り敢えず今はこっちが優先だ。
 騒がしく走れば、司書さんが何時の間にか後ろに立っているので気が抜けない。
 階段を下りるに至って、面倒臭くなってテレポートで飛ぶ。


(とにかく時間との勝負…急いで部屋に行かねば!)


 本を借りると、リコは超特急で自室に向かった。


「……………………やっぱりか…」


 大河は本を閉じた。
 本をあった場所に戻し、大河は顎の下に手を当てる。。


「……これで俺の周りで起きる魔力の衰退現象の説明はついた。
 しかし、アイツはもうとっくに……。
 いや待て、それならそれで……ああ、アレがアイツか。
 そうなると……待て待て、前提がおかしいぞ。
 アイツはアレを持っているはず…という事は…」


 大河はリコが居なくなった後も、真剣な顔でなにやら考察を続けていた。


「……話がややこしくなってきたな…。
 一度整理する必要がありそうだ。
 ……出来れば静かに考えたいな。
 ………………ムリだろうなぁ…」


 部屋選びのために、大騒ぎになる事を想像して大河は溜息をついた。


 結局、大河は夕食までは静かな時間を過す事が出来た。
 意外と言えば意外だが、どうやら部屋の演出に精魂篭め捲っているらしい。
 その静かな時間で、大河は自室に篭って机に向かっていた。
 …相変わらず部屋がブッ壊れているが、机周辺は綺麗なままである。
 屋根も破れたりしてないし、部屋の奥に向かわなければ特に問題はなかったりするのだ。

 大河の目の前には、図書館から借りてきた何冊かの本とノートが広がっている。
 考えに行き詰ったのか、ノートに何かを書き連ねていた手を休め、大きく伸びをする。


「さて…大体の仕掛けは読めたが……まだ矛盾が出るなぁ…。
 ……とにかく頭をすっきりさせなくちゃな…まだ夕食まで時間があるし」


 散歩にでも行こうか、と思う大河。
 その時、唐突にドアがノックされた。
 未亜達のような控えめだったり丁寧だったりするノックではなく、適当というか荒っぽいというか、気安い音がするノックである。


「セルか?」


「おう、入るぜ」


 ガチャリとドアを開けて、セルが入って来た。
 キョロキョロ部屋を見回して、救世主候補生が居ないか確認する。


「あいにく、今日は全員出払ってるよ」


「あぁ、何か放課後辺りから妙に殺気立って図書館に集まってたり、競うようにどこかに走って行ってたりしてたな。
 何かあったのか?」


「まぁ、あったと言えばあったんだが…いつもの大騒ぎだよ」


「あ、そ……。
 ………珍しいな、勉強か?」


「そんな所だ。
 ちょっと気になる事があるんで、旧ホワイトカーパス州の伝承を…」


「…………ホワイトカーパス、か…」


 急にセルの声が暗く沈む。
 何事かと思って視線を向ける大河。
 セルは無事な壁によりかかって座っていた。


「どうした?
 ホワイトカーパスに何かあるのか?」


「ああ…あのな、俺、明日から遠征に行くんだよ」


「…もうか」


 予想以上に事態は深刻らしい、と大河は苦々しく思った。
 ホワイトカーパス州ではまだ戦力に余裕があるはずだが、他はそうでもない。
 あちらこちらで頻発する“破滅”のモンスターらしきモノ達を討伐せねばならないのだ。
 そして最前線ではない場所には、セル達のような所謂使い捨ての傭兵が向けられる。


「……?
 待て、ひょっとしてホワイトカーパス州に遠征なのか?
 お前達みたいな、卒業もしてないヒヨっ子が?」


「ああ。
 本当なら、もう少し危険性の低い場所に送られて、1度か2度の実戦を経て前線へ…なんだけどな。
 実際、俺達以外の傭兵科の連中は大体そうだし。
 どうして俺達が、いきなり最前線に送られるのやら…」


 沈んだ表情のセル。
 遠征の命令を、理不尽に感じているのだろう。
 無理もない。
 自ら傭兵の道を歩んできたとはいえ、彼はまだ学生で、子供なのだ。
 戦争を実感した事も無いし、心の何処かで今までのような日々が続くと思っていた。

 大河は少し考えて、複雑な表情をセルに向けた。


「…あーセル、ひょっとしたら申し訳ない」


「? 何だよ」


「その遠征、俺のせいかもしれん」


「あぁ!?」


 セルは思わず腰を浮かせた。


「実を言うと、俺も明日から遠征なんだ。
 お前と同じホワイトカーパス州にな…。
 多分明日の朝から昼にかけて、一度王宮に向かってクレシーダ王女に会ってから、改めてホワイトカーパス州に向かうらしいんだけど」


「そ、それって…ひょっとして、俺と大河の仲がいいからサポート役を押し付けられたとか…」


「確信はないけど…目に見える事実を繋ぎ合わせると、そうならなくもないかなー、と…」


 セルは暫く唖然としていたが、やがて口を閉じてまた座り込んだ。


「ま、所詮は推測だしな…。
 それにお前も一緒に来るんなら、まぁ何とかなるだろ。
 そこらの戦場より安全かもしれねーし。
 ところで、未亜さん達も来るのか?」


「未亜?
 あいつらは……なぁ」


 大河は腕を組んで考え込む。
 昼間のチーム発表では、未亜のチームは大河チームと共にホワイトカーパスに向かう事になっていた。
 しかし、大河はそれにひっかかりを覚える。
 以前クレアから聞いた、大掛かりな計画。
 遠距離専門のみという極端なチーム構成。
 これらを組み合わせると、未亜チームは別行動だという可能性が出てくるのだ。
 しかし、セルにその事を話していいものだろうか?
 もし大河が考えている通りだとすれば、ミュリエルは嘘をついた事になる。
 当然といえば当然の行為で、秘密裏に進められている計画を必要以上の誰にも知らせないためだ。
 それをホイホイ話していいはずがない。
 よって大河は適当に誤魔化す事にした。


「あいつらは、よく分からない。
 遊撃部隊っつーか、便利屋扱いらしくてな。
 ホワイトカーパスがもっとヤバイ事態になったら出てくるかもしれん」


「そうか…こりゃ気合入れなきゃな。
 未亜さん達を最前線に送り込むのは気が引ける」


「そうだな…。
 お前は俺のせいで最前線行きになったかもしれないワケだが」


「いい迷惑だ。
 だから悪いと思っているなら、救世主クラスのスナップ写真とか着替え写真を」


「アルディアちゃんに言いつけるぞ」


「ゴメンナサイ」


 ふざけて土下座の真似までしてみせるセル。
 ヒョイと頭を上げて、ふと真面目な顔になった。


「あー、アルディアさんと言えば、最近ちょっと様子がおかしくってな」


「何?」


「ほら、一週間くらい前に大河達が遠征に行った時、アルディアさんも出掛けてたって言っただろ?
 帰ってきてから、どうも…なんと言うか、ちょっと情緒不安定になってるみたいなんだよ。
 執事長も色々と心配してるみたいだし、オマケにまた何処かに出掛けなけりゃならないんだってさ」


「…セルを置いていかなくちゃいけないから、寂しがってる…とかいう事じゃないよな?」


「だったらいいけどな。
 結局何処に何をしにいくのかも教えてもらえなかったし…。
 ……でも何より気になるのは執事長とかの……その、アルディアさんを見る目なんだよ。
 普通は情緒不安定になってたら心配するよな?
 でも、どっかで嬉しがってるような感じがするんだよ」


 大河は首を傾げた。
 数える程しか見た事がないが、あの妖怪のよーな執事長がアルディアの事を本当に大切にしているのは大河も知っている。
 まるで親が子を…いや、爺様が孫を見守るかのような視線を向けているのだ。
 だというのに、何故?


「…あの爺さん…確かジュウケイさんだっけ?
 ジュウケイさんが、実は昔アルディアちゃんの家系に酷い目に合わされて実は復讐のために潜り込んでいた、とかいうオチは?」


「どっかのドラマみたいだな。
 まぁ、それは無いらしい。
 俺もあんまり知らないけど、執事長の家系はずーっとアルディアさんの家に仕えていたんだとさ。
 先祖が返しきれない恩を受けたとか受けないとか…。
 それに、喜んでるのは………なんだ、その、えーと…そう、子供が成長するのを喜んでるような目なんだよ」


「???」


 どうにも理解しにくい。
 セルも上手い言葉が見つからないらしく、頭を掻き毟っている。
 暫く考えていたが、セルは諦めてしまった。


「まぁ、よく解らないけど…アレかな?
 反抗期が訪れた子供を見て、この子も年頃なんだなーって思うような」


「ジュウケイさんと直接話してない俺に言われてもな…。
 …………?
 あれ?
 そう言えば、アルディアちゃんのフルネームって何だ?」


 ふと思いつく大河。
 考えてみれば、聞いていない。


「フルネーム?
 俺も全部は教えてもらってないな…。
 なんか一族の当主にだけ受け継がれる名前があるらしくってな。
 そこの所だけは教えてもらってないんだ。
 だから俺が知ってる名前は…アルディア・なんたらかんたら・フィロソフィー。
 フィロソフィーは母親の姓で、父親の姓は事情があって名乗れないんだそうだ」


「…昼メロ的展開?」


「いや、そうじゃない。
 何か一族の大願成就のため、時が来るまではその名を隠し通すらしい。
 千年前から現当主以外は、一人しか名乗った事がないそうだ」


 ふーん、と気の無い返事をする大河。
 まぁ、セルとしてもそれほど話したい話題でもない。
 むしろ他人様の家の内部事情を話しすぎた、と戒める。


「ま、アレだな…。
 意外と長居しちまった」


「ん? もう行くのか?」


「ああ、明日出発するから、一応顔を合わせておこうと思っただけだしな。
 それに、こんな半壊した屋根裏部屋に居るのも心臓に悪い…」


「はは、そりゃそうだ。
 じゃ、ホワイトカーパスでもよろしくな。
 俺は一足遅れて行くかもしれんけど」


「おう、俺が死なない内に来てくれよ」


 セルは立ち上がり、床に負担をかけないようにソロリソロリと歩いて出て行った。
 大河はまた机に向かう。
 しかし、やはり集中できない。


「…今日はこの辺りにしておこうかな…」


 まだまだ気になる事はあるが、煮詰まった頭で考えても何も思い浮かばない。
 時計を見ると、夕食の時間にはまだ時間があった。
 寝転ぼうにも、この部屋のベッドはエライコトになってリコの部屋に放り込まれている。
 誰かの部屋に行ってベッドを使わせてもらおうにも、お邪魔すれば文字通り邪魔するなとばかり放り出されるか、そのままお泊りが決定してしまう。
 勿論後者の場合は、努力が無駄になった他の女性陣一同から八つ当たりが来るだろう。

 いっそ床にでも寝転がろうかと思ったとき、下で動く気配がした。


「大河お兄様ー?
 いらっしゃいますかー?」


「…?」


 下からの声を聞いて、大河は身を起こす。
 この世に大河を兄と呼ぶのは2人しかいない。
 未亜と同人少女…サリナ・エルニウムだった。


「どうしたー?」


「ちょっと相談があるのですー、降りてきていただけませんかー?」


 大穴から下を見ると、サリナが大河を見上げていた。
 周囲を確認し、床や壁が大河を支えられないほど弱っていない事を確かめる。
 大河はヒョイと飛び降りた。


「よっと…。
 どうかしたんか?」


 1階分の位置エネルギーを簡単に受け止め、大河は立ち上がる。
 サリナも特に驚きはしない。


「ええ、今夜の事で…」


「今夜?
 ああ、寝る場所か?
 すまんな、迷惑かけちまって」


 大河は周囲を見回す。
 すっかり忘れていたが、床をぶち抜いて落下したベッドは、サリナの部屋に突撃していたのだ。
 ベッド同士がぶつかって残骸が散らかり、砕けた壁があっちこっちに減り込み、エライコトになっている。
 これでは寝るスペースは確保できそうにない。

 確か彼女は、リリィの部屋に移りたいと熱望していた筈である。
 ちなみに彼女のルームメイトは、つい先日田舎に帰って行ったらしい。


「はい、名前持ちキャラにランクアップした事ですし、ここは一つ冒険してリリィお姉様の部屋がいいと希望したのですが、あの部屋は救世主クラス専用だと言われまして。
 まぁそれは仕方ありませんけど」


「あ、納得してるんだ」


「はい。
 大河お兄様には実感がないと思われますが、救世主候補生というのはそれだけ特別視されているんです。
 だから私のような一般生徒が寝泊りする事は出来ません。
 所謂イメージ戦略のようなものですね」


 要するに、救世主候補生はトイレも行かなければ食事もしないような、一昔前の漫画の中に出てくるようなアイドル系キャラクターだと思わせたいのだろう。
 ヘタに現実に触れさせると、特別扱いしにくくなる。


「ま、そうは言っても、その戦略は失敗していますけどね…。
 元々考え出したのは、5年ほど前に引退した王宮の役人だったそうです。
 なのですが、これを破ると学園長が鬱陶しい書類を相手にせねばならなくて」


「書類でしか人を見ない小役人らしい発想だこと。
 書類で記されない場所でも人は接触するって事を忘れてるな」


「ですね。
 それはともかく、大河お兄様……どうにかしてリリィお姉様の部屋に泊まれないでしょうか?」


 納得していたのではなかったのか?
 大河の視線を読み取って、サリナは少し恥ずかしそうな顔をした。


「ダメって言われると、余計に行きたくなるじゃないですか。
 それに私は救世主クラスの部屋に入った事もありませんから、好奇心が疼くんです。
 リリィお姉様の部屋で寝ると思うと、体も疼きますが」


「う〜む、実際問題重要ではあるよな。
 寮はもう一杯だし、残っているのは救世主クラスの部屋だけ…」


「一晩くらいなら、ここでも寝られるのですが…」


 そこまで考えて、大河はふと気付く。
 要するに、書類に残らなければいいのだ。
 たった数人が目を瞑れば、それで問題は片付く。
 ミュリエルは問題あるまい。
 今でさえ部屋が足りていないのに、サリナの一件である。
 解決方法があれば、すぐに飛びついてくるだろう。
 例えそれがイリーガルな事…そう大した事ではないが…でも。
 丁度よく、明日からはリリィの部屋が空く。
 本人の了承さえ得られれば、サリナが使っても問題ないだろう。
 …その了承が最大の問題点だったが。


「うーん…今日はともかく、明日からなら何とかなるかもしれん…」


「本当ですか!?」


「まぁ、試してみないと解らないけどな」


 目を輝かせるサリナ。
 その後すぐに両手を組んで、逝っちゃった瞳で虚空を見詰めてトリップしている。
 リリィの部屋で寝泊りする事を夢想しているようだ。


「そうなると差し当たり、今晩の寝床だが…」


「は? ああ、それは大丈夫です。
 王都の友人に頼み込んで、一晩なら泊めてもらえる事になりましたから」


「一晩だけ?」


「あちらも色々と事情があるのです。
 具体的に言うと、次のイベントの為のコスチュームとか原稿とか…。
 迂闊に泊まると手伝わされます。
 それは別にいいのですが、翌日からサークルの人達が泊まりに来ますので、もうスペースが無いのです」


「ああ、なるほど…」


 それだと一晩以上泊まると、確実に引きずり込まれるだろう。
 サリナは平気そうだが…。


「それでは、部屋の件はよろしくお願いします…。
 私はそろそろ王都に向かわねばならないので」


「ん、なんとかやってみる。
 気をつけてな」


 大河にペコリと頭を下げて、サリナは部屋を出て行った。
 ベッドが打ち付けられた衝撃でドアがまともに開かなくなっているので、2.3度ガチャガチャとノブを鳴らし、駄目だと見ると思いっきり蹴り破る。

バン!


「きゃっ!?」


「あ、すいません……あら、寮長」


 蹴り開かれたドアに驚いたのか、丁度廊下に居た誰かが悲鳴を上げる…と思ったらベリオだった。
 自分達がメチャクチャにしてしまった部屋の住人を見て、気まずい顔をする。
 と、思ったらその視線が大河を捉えた。


「大河君?
 なぜエルニウムさんの部屋に?」


「ん、ちょっと部屋の事で相談を受けてな。
 まぁ、学園長に一言言えばそれで片付くと思うけど」


「そうなのですか…。
 私はまたてっきり、エルニウムさんの趣味の世界に飲み込まれてしまったのかと」


 どうやらサリナの同人好きは結構有名らしい。
 実を言うと、彼女の持っているヤオイモノからパロディーモノの同人誌を借りに来る輩は結構多い。
 もし返さなかったり紛失したりるすと、どっかのドラまた魔導士張りの破壊神が降臨するため、又貸しの類は厳禁となっていたりする。
 フローリア学園が崖っぷちにあるのは、お気に入りの一冊を紛失されたサリナの怒りが山の半分を消し飛ばしてしまったからだ、などと言う冗句まである始末。
 ………本を全て燃やされたりした日には、本当にやりかねない。
 “破滅”が迫ってきた時、『このままでは本も聖地も蹂躙されてしまう』と告げれば彼女は立派な…立派すぎる戦力になるだろう。
 局地的な防衛にしか使えないかもしれないが、使いようによってはある意味救世主クラスよりも強いかもしれない。


「寮長、大河お兄様は最初から私と同じ領域にいます。
 方向性は違えども、寮長から見れば大差ないかと」


「…そうですね」


 あっさりと納得するベリオ。
 特に何も言わない大河。


「それでは、今度こそ私は失礼します。
 ごきげんよう」


 サリナは蹴り開けたドアから出て行った。
 そのまま王都に向かうのだろう。

 ベリオはサリナを見送って、大河に振り向いた。


「屋根裏部屋をノックしても出てこないから何処に行ったのかと思えば…。
 ま、いいです。
 それより、そろそろ夕食ですよ。
 行きましょう」


「あぁ、解った。
 ……ところで、準備はいいのか?」


「ええ、私はもう着替えるだけです。
 面倒なのは大体終わってますから……。

 …大河、楽しみにしておいておくれよ?」


 ブラックパピヨンが一瞬だけ出てきて、大河に寄り添って頬擦りする。
 大河は色々な所の感触を愉しんだ。
 パピヨンはすぐに引っ込み、またベリオが出てくる。
 何事もなかったかのようにすぐに離れたが、頬が赤くなっているのは隠せない。


「それじゃ、行きましょう。
 今日はいつもの食堂じゃなくて、学園長の部屋で食事だそうです。
 学園長と未亜さんとリリィとカエデさんが腕を奮ってますよ。
 勿論私も創りました」


「おぅ、そいつは楽しみ…って、何で学園長の部屋?」


「仕方ないじゃないですか。
 普段から学園長は一般の食堂には姿を見せませんから、ヘタに現れると注目を浴びちゃいます。
 それに、生徒達も緊張して食事どころじゃなくなるでしょうし…」


 ベリオは大河の腕を引いて歩く。
 生徒達はベリオに連行される大河を見ても、「また何かやったんだな」程度にしか思わない。
 救世主クラスのドタバタは、学園内ではメジャーなエンターテイメントになっているようだ。

 歩きながらベリオは少し考える。
 …チラリと大河の腕を見た。


「…大河君、早く行きませんか?」


「そうは言ってもな…ベリオだって、夕食が不安にならないか?
 牽制とか火花とか散りそうだと思わないか?」


「思います…私も参加するでしょうね。
 ……ゆっくり行きたいんですか?」


「少なくとも早く逝きたいとは思ってない」


 ちょっと字にすれ違いがあったようだが、本人からすれば間違ってはいない。

 それならば、とベリオは少し下がって大河と並び立つ。
 そして大河の左手に、自分の両腕を絡めてしまった。
 両側から大きなおっぱいの感触が、服越しにとはいえ大河の腕を包み込む。


「べ、ベリオ!?」


「ふふふ、一度やってみたかったんです。
 本当はデートの時がいいんですけどね。
 …ところで大河君、いつ私をデートに誘ってくれるんですか?
 ほら、会ったばかりで学園の案内をしている時に言いましたよね?
 『鉄人ランチを食べきったら、デートしてもいい』って。
 あの時は冗談でしたけど、ずっと楽しみにしてるんですよ?」


「う、ス、スマン…。
 いずれとは思ってたんだけど、あっちこっち女性関係以外でも忙しくって…」


「そのようですね…。
 ルビナスに何か言ってくれたのも大河君でしょう?
 あの子の為の体を作れって」


 腕を組んだまま、微妙にニヤけた顔でベリオは聞く。
 間近にあるベリオの顔にちょっとドキドキしながら、大河は自由な手で頭をかいた。


「バレてたか…。
 実を言うと、ブラックパピヨンの正体は随分前にバレててな…。
 専用の体を作るために、色々と交渉してたんだ」


「なるほど、一週間前の騒ぎの時にルビナスがあの子を見ても全然驚かなかったから、ひょっとしてと思ってたけど…。
 それで、どうなんですか?
 私とあの子は別人でありながらも不可分です。
 他の体に移すと、精神のバランスが崩壊してしまいます」


 不安そうなベリオ…あるいはブラックパピヨンの頭を撫でる大河。
 どうでもいいが、周りには誰も居ない訳ではない。
 たまに人が通るし、その度に嫉妬の篭った視線を投げかけてくる。
 スパっと無視する二人。


「大丈夫だよ。
 分割して移し変えようとするから精神のバランスが崩れるんだ。
 だから分割せずに移せばいい…いや、映すの方が適切か?
 ……そうだなぁ、文明が進んだ世界ではヴァーチャルリアリティってのがあるんだけど、それに近いか。
 電気信号とかによる刺激で、五感を騙して別の世界で動いているように感じさせるんだ。
 俺が発案して、ルビナスにも検証してもらったから多分上手くいくぜ。
 逆転ほーむらーん、だな」


「……??? …つまり?」


 機械文明に慣れてないベリオは、大河の言葉を理解しようとしたがすぐに放棄した。
 懸命な選択と言えるだろう。


「つまり…どっちかを剥ぎ取るんじゃなくて、専用の体が受けた刺激を引っ込んでる方の人格に転送すればいいんだよ。
 体の眼球が受け取った光はそのまま脳で処理されて、画像あるいは動画として送られる。
 他の4感も同じだ。
 ま、一言で言えば超高度な恒久的幻術って事だな。
 ルビナスとナナシの間でも、似たような事をやってる。

 そして体は意思…精神波を増幅して動かす。
 これで精神の平衡を崩す事なく、さも2人が独立しているかのように動けるって寸法だ。
 まぁ、精神波の強さの問題もあるから、動ける距離には制限があるけどな。
 それも今後の改良次第だ」


 ベリオは大河の顔を思わず見詰め、大河の言った事を自分なりに解釈して検討する。
 そして興奮して、一層強く大河の腕を抱きしめた。


「その手があったか!
 生身の体じゃないのが残念だけど、これでも充分…。
 やるじゃないか大河、惚れ直したよ!

 す、凄いです大河君!
 確かにこれなら問題なく2人で行動できます!」


 腕を麻痺させんばかりにギュ〜するベリオとブラックパピヨン。
 その柔らかい締め付けに陶然とする大河。
 何気にベリオの腕がグリグリ動いて大河の腕を胸で扱いているような形になっていたり、ちょっと硬くなった小さなさくらんぼが大河に触れているのは偶然だ…多分。
 柔らかい感触に若さが暴走しそうになりながらも、大河は我慢して学園長の部屋に歩を進める。
 ここで暴走すれば、ベリオとブラックパピヨンは悦んで受け入れてくれるだろうが、その後の事がよろしくない。


「体に関しては、実はもう7割くらい出来てるんだ。
 ちょっとした伝手があって、そこから貰った製品を改造してるだけだからな。
 流石に明日までには間に合わないけど…。
 じゃ、そろそろ行こうか」


「はい!」


 体全体で大河の腕にくっつくベリオ。
 その表情は本当に嬉しそうだ。
 それを見て、もっと強い嫉妬の視線が飛んでくる。
 男は大河に、女はベリオに。
 ただし偶に男女が逆転している事あり。

 夕食時なので、食堂に向かう生徒が多くなっている。
 その中を腕を組んで2人は歩く。


「…大河君」


「ん?」


「…会えてよかったです」(//////


「………(照)」


 顔を紅潮させながら、大河の耳元に囁くベリオ。
 ストレートな言葉を聞かされた大河は、どう反応していいのか解らなくなって無言を通す。
 しかしそれが照れ隠しだという事はベリオにもすぐ解る。
 2人の雰囲気が甘ったるくも硬直しかけていると、ふとベリオの顔が歪む。
 ブラックパピヨンが出てきたのだ。


「…アレだね」


「お?」


「いや、街中を腕を組んで歩くカップルとか見かけると、歩きにくくないのかとか思ってたけど…。
 意外と、イイもんだったんだ…」


「そ、そうだな…」


 またも沈黙。
 恥ずかしさで支配力が弱まった隙を突いて出てきたのだが、やっぱり自分も恥ずかしくなってしまったらしい。
 それでも2人は離れようとしない。

 しかしそれはそれ、きっちりオトシマエ…もといオチをつけるのがブラックパピヨンである。


「それに飛んでくる嫉妬の視線が心地よくて……う〜ん、優越感♪」


「ははは、俺も同感だわ」


「……それで、私にどうしろと?」


「ちょっと書類を改竄すれば…いや、見て見ぬフリをすればいいんだ。
 サリナがリリィの部屋に泊まっている、なんて事実は無い。
 ちょうどリリィも明日から当分遠征だし、留守中に誰かがその部屋に出入りしていたって誰も気付かない」


「…………いいでしょう、部屋の数も足りていませんでしたし…。
 渡りに船というべきでしょうか?」


 夕食前の一時、大河はミュリエルを捕まえてサリナに頼まれた事を実現しようとしていた。
 これは以外と簡単だった。
 ミュリエルも面倒な手続きは放り出してしまいたいのだろう。
 もともと救世主クラスの部屋に余人が入る事を許されないのは、単なる伝統…と言っても精々5年だが…のようなものだ。
 こんな伝統、破った所で問題はない。
 あるとすれば、報告を受けた王宮の査察官あたりである。
 その査察官にしても、『どーしてこんな無意味な規則を作ったんだ』などと毒づいていたので、ちょっと話を通せば問題ない。

 そんな訳で、サリナの部屋の問題はあっさり片付いた。


「さて、それではそろそろ夕食にしましょう。
 料理が冷めてしまいます」


「もう薬は混ぜないよーに」


「それはルビナスに言ってください」


「もう言った」


 軽口を叩きながら…実は両者とも結構真剣だったが…部屋に戻る。
 部屋の大きなテーブルの上には、和洋中の料理が所狭しと並んでいた。
 中には知らない料理も混じっているが、これは何処かの郷土料理のようだ。


「おお、随分豪華だな〜」


「あ、お兄ちゃん、お話終わったんだ?
 えへへ、久しぶりに料理が出来るから張り切っちゃった」


「拙者も、台所での料理は久々でござるよ。
 やはり魚は刺身が一番…アヴァターではこう言った料理は少ないでござるしな」


「………洗ったとはいえ、モンスターを切った刀で魚を切ろうとしておいて、何の反省も無しかい…」


 リリィが指先から出ている血を舐めとりながらボヤく。
 リリィにしてみれば、料理なぞ何年ぶりの事で、少々カンが鈍っているようだ。
 別に何度も手を切った、という訳ではない。
 これでもアヴァターに来る前は割りと貧しい村の出で、家事手伝いなども普通にやっていたのだ。
 当然料理だってお手の物だ。


「いいから早く食べましょう。
 お腹が空きました」


「リコ、摘み食いを隠そうとしているなら、ほっぺたが膨らむくらいに大きな食べ物を詰め込むのは止めなさい」


 ベリオがリコの頭をペチっと叩く。
 照れ笑いをして、リコは口の中の物を咀嚼して飲み込んだ。

 と、和気藹々としている部屋の片隅で、何かがジタバタ暴れている。


「ルビナスちゃん、大人しくするですの〜」


「む〜! むぅ〜〜!」


 ルビナスが猿轡された上に魔力の篭ったロープでぐるぐる巻きにされ、ロープの先をナナシに握られて放置されているのである。
 無論、料理に何かを混ぜるのを防ぐために満場一致でふん縛ったのだ。
 ナナシも最初は反対していたが、ルビナスがなにやら試験管を持ち出すに至っては流石に賛同した。


「プハッ!
 だから、アレは私が作った薬品じゃなくて単なるグルタミン酸ソーダだってば!
 そのお鍋の中には充分イノシン酸ソーダが出てるから、これを加えれば旨味成分として数倍の相乗効果に…」


「いくら美味しいからって、そんな試験管を使われたら食欲減退するわよっ!」


 どうやらルビナスは、調味料やら旨味成分やらをふんだんに使って味を上げる気だったらしい。
 確かに食事とは化学現象を利用してエネルギーを得る事なのだし、旨味とかも物理的成分であるけど、やはり試験管なんぞに入れてほしくはなかった。

 ミュリエルは2人のやり取りを見て笑っている。
 千年前にも、同じやり取りがあったものだ。
 ロベリアが激しくルビナスに突っかかり、その時ばかりはアルストロメリアとミュリエルも全力でロベリアに協力した。
 それこそ召喚器の使用も辞さないほどに。
 結局、いつまで経ってもまともな料理法を覚えないルビナスに根負けして、ロベリアでさえもブツブツ言いながら慣れてしまったのだが。
 ……思い返すと、何度か薬品を盛られたような気がする………。


「ほらほら、いい加減に席に着きなさい。
 料理が冷めますよ」


「「「「「「「「は〜い」」」」」」」」


 ルビナスも縄を解かれ、わらわらと席に群がる。
 大河の隣に誰が座るかで一瞬火花が散ったが、まず部屋の主のミュリエルがあっさりと腰を下ろし、さらに牽制なぞ知った事ではないナナシがもう一方に座った。
 こうなってしまっては、後からごねるのも格好が悪い。
 それぞれ適当に腰を下ろした。
 目の前には、実に美味そうな料理が陳列している。
 席順や今後のアピール合戦の事を差し引いても、充分に舌鼓を打てるというものだ。
 そして古今東西、美味いもの、楽しい事に勝てる人間は存在しない。
 大河の危惧とは反対に、実に和気藹々とした夕食になった………チッ。


「あ、これ美味いな」

「それ、私が作ったんですよ。
 丁度故郷の食材が置いてあったんです」

「ふ〜ん、ベリオの故郷の…。
 お、こっちは未亜が作ったんだな?」

「うん、よく解ったね?
 やっぱり付き合い長いもんね〜」

「師匠、こっちはどうでござるか?
 魚を捌いたんでござるが、実は河豚でも捌けるのでござるよ。
 サバイバルな技術の一環として習ったのでござる。
 ああ、今日は使ってないのでご安心を」

「そ、そうか…あーびっくりした…。
 あ、こらリコ、一気に食べるな俺のも残せ」

「ダメです、たとえ相手がご主人様と言えども食卓は戦場です。
 はむはむ……」

「やっぱりご飯の味が解るっていいですの〜♪」

「ナナシちゃん、ご飯粒ついてるわよ。
 ダーリンの前なんだし、淑女はお行儀よくしなさいな」

「そういう事はルビナス、懐の試験管を手放してから言いなさい。
 自分一人にだけ盛るのは構いませんが」

「でもアレですね、こうなると日本酒が飲みたくなってきました。
 お刺身食べたの、久しぶりですから…」

「未成年が何を言ってるんですか」


 実は、未亜は意外とイける口だったりする。
 大河と2人で暮らしていた頃は咎める人物も居なかったので、大河に付き合わされたり、好奇心で飲んだりしている内に味を覚えてしまったのだ。
 呆れるベリオを他所に、カエデもコクコク頷いている。


「では、ワインの上等なのを出しましょうか。
 ムーディーな雰囲気に浸りながら、その内一人で優雅に飲もうと思っていたのですが…。
 こういうのは、楽しく飲むのが一番ですしね」


 そう言って、本当に楽しそうな表情を見せるミュリエル。
 ここ数年、腹の探り合いもなく食卓を囲める事などなかったのだろう。
 …しかしその笑顔の裏に、『ここで酔い潰してしまえばライバルが減る』という思惑が見え隠れしていたようないないような。

 どこへともなく姿を消し、また戻ってくる。
 何処かにワインセラーでもあるのだろうか。


「相変わらずお酒が好きなのねぇ、ミュリエルは…」


「相変わらず…でござるか?」


「? あれ、まるでミュリエルの事を昔から知ってるみたな口振りね?」


 何気なく出した言葉に、自分で首を傾げるルビナス。
 しかしその思考が回り始める前に、ミュリエルがササっとワインを注いでしまった。


「難しい事は後にしなさい。
 折角の夕食なのだから、楽しい事だけを考えていてもバチは当たらないわ」


「…そうね。
 それじゃ、頂きまーす」


 あっさりミュリエルに流されるルビナスだった。


 夕食も終わり、それぞれ満腹になった胃袋を撫で下ろしている。
 味も満足いくものだったし、洗物は総出で片付けてしまっている。
 と言っても、台所がそれほど広くないためにローテーションだったが。


「さて、それでは待ちに待ったアピール合戦ですが」


 ミュリエルの声に、それぞれ身を起こした。
 ともすれば満腹感とアルコールで眠りに陥りそうなのを何とか堪えて、それぞれ立ち上がる。
 大河はさっさと逃げようかと思ったが、そういう訳にも行かない。
 このメンバーから逃げるなど夢のまた夢だし、仮に成功したとしてもその後がさらに酷くなる。


「まず順番ですが、私は最後で構いません。
 そうですね……大河君と関係を持った順、でいいでしょうか?」


 ミュリエルはぐるりと救世主候補生達を見回す。
 そこでヒョイ、と未亜が手を上げた。


「あのー、すいませんけど私は一番最後にしてもらえないでしょうか?
 ある意味、公平を期すためなんですけど」


「そうですか? まぁ、別に構いませんが……。
 他に順番の変更を望む人は?」


「関係を持った順というと……未亜さんは最初からで、ブラックパピヨン、私、カエデさん、リコ、ナナシちゃん、ルビナスさん、リリィ…です。
 学園長はどの辺りで?」


「禁書庫に潜ったすぐ後です。
 ですが、私は色々と問題のある手段を使いましたから…リリィの後でかまいません。
 誰か異論のある人は?」


 誰も手を挙げない。
 誰の前に、誰の後にアピールするかで成果は大きく変るだろう。
 しかし誰がどんな演出を考えているか解らない以上、考えた所で解るはずもない。


「では、順番はこれでいいですね。
 他の人がアピールしている間にずっと待っているのも暇でしょうし、希望者は他者のアピールを見学する事も可です」


「「「「げっ」」」」


 数人が悲鳴を漏らす。
 ミュリエルはそちらに目を向けた。


「リリィ、未亜さん、ルビナス、ベリオさん…何かまずい事でもあるのですか?」


「あ、いえその、まずいというか…」


「恥ずかしいです…」


 目をそらすリリィと、恥らうベリオ。
 ちょっと後ろめたい事があるようだが、ミュリエルは何も言わない。
 ここで追求するよりも、黙って見学に行った方が効果的だろう。


「それじゃ、まずはベリオとブラックパピヨンからだな。
 部屋に行こうか」


「あ、はい……。
 部屋に入る前にちょっと待っててくださいね、着替えますから。
 ちょっと時間がかかると思うけど…」


 何分不慣れな衣装なもので、と言ってベリオは先に立って歩き始めた。


 ベリオの部屋の前。
 廊下に大河を初めとし、救世主クラスと学園長がゾロゾロと。
 通行の邪魔になりそうだが、基本的に救世主クラスの部屋近辺には誰も立ち入らない。
 なお、ルビナスとリリィは準備があると言って自室に行ってしまった。


「…結構時間がかかってるんだな…」


「着物とかの着付けに戸惑っているんでしょう」


 大河の呟きにリコが答えた。


「着物?」


「はい、皆さん召喚の塔に保管されている色々な物品の中から、色々と持っていかれました。
 一応私が管理しているので、無断で持って行かせずにちょっとした交換条件を出しましたが…」


 してみると、女性陣は和服姿になるのだろうか。
 服の下に下着をつけるか否かは別問題として、まともに着られるのだろうか?
 一応教本はあるのだろうが…。


「準備が出来ました、入ってきてください〜」


「お、終わったか。
 それじゃ、失礼しまーす」


 律儀にも挨拶などしながら、大河はゆっくりドアを開けた。
 その後ろから、未亜やカエデが好奇心丸出しで覗き込もうとする。
 そして大河も未亜もカエデも固まった。

 ベリオ…あるいはブラックパピヨンの両腕が交差する。
 左手から離れたサイコロが、右腕の籠の中に納められる。
 右腕が弧を描き、勢いよく台座に打ち付けられた。
 見事な手際である。
 この手の技術は、ブラックパピヨンのものだろう。


「さあさあ入りやした!
 丁半お賭けなすってぇ!」


 ブラックパピヨンの後ろに壁に、大きな掛け軸が一枚下げられている。
 天上天下絶対無敵、などと書かれているのはともかくとして、正座をしているベリオの姿がまた尋常ではない。
 メガネはそのままだが、右半身の着物を肌蹴て露出し、豊満な胸はサラシで抑えている…が、そのあまりの大きさに大して意味を成してない。
 むしろ隠した事で別系統のエロスを演出している。
 着物は黄色を基調とした、ド派手な柄…極道の妻あたりが着ていそうだ。
 揃えられた白い太ももが着物の隙間から見えて、ちょっと近付いて視線をずらせば奥にある秘密の茂みまで見えそうだ。

 ブラックッパピヨンはにっこり笑う。


「本当は真っ白いキモノでやるのかもしれないけど、ベリオがこっちを着たがってね。
 それに召喚の塔にも無かったし…。 
 それはともかくとして、さぁ張った張った!
 賭ける物は大河の服、外れたら一枚脱いでもらうよ」


「勝ったら?」


「一枚一枚脱いでいくのと、一気にモノにするの、どっちがいい?」


 大河は思わず想像する。
 大河に負けて一枚一枚服を剥ぎ取られ、羞恥と期待に震えながらも必死でサイコロを振り続けるベリオ…。
 そして見せ付けるように服をずらしていき、肝心な所だけ髪とかで魅せないブラックパピヨン…。


「脱マーは漢のロマンだぜ!
 当然一枚ずつ剥いでいく方向で!」


 勿論サイコロに細工がしてあり、自在に目をコントロールできるのはヒミツである。
 自分の服と大河の服をバランスよく剥いで行き、大河の理性を奪う算段だった。

 今にも賭けようとする大河だが、後ろからカエデにペチンと叩かれた。


「あー、師匠師匠。
 気持ちは解るでござるが、次は拙者の番でござる。
 賭けるのは全員の演出を見てからにしてくだされ。
 あーブラックパピヨン殿。
 拙者も賭けに参加していいでござるか?」


「別にいいわよ。
 一人だけ素っ裸になりたければね」


 どうやらカエデを狙い撃ちする算段のようだ。


 ベリオの…と言うよりブラックパピヨンの演出は終わり、今度はカエデの部屋に向かう。
 ベリオは着物を脱ぐのにも少々手間取ったようだが、着るのに比べれば大した事はない。


「出来たでござるよ〜」


「お、早いな」


「それはもう、故郷では普段着同然だったからして。
 それに、着替えるのは拙者じゃないでござるよ〜」


 大河はカエデの部屋に入っていく。
 後ろからぞろぞろと続くベリオ達。

 そこには特に変った物はない。
 普段と同じ、和のニオイが殆ど感じられない洋室のままである。
 いや、3つほど大きな葛篭が置かれている。
 …中身はオバケだろうか?


「あのカエデさん、どういう事ですか?」


「いやいや、恐らく各々方は自分が着飾るであろうと予測したでござるからな。
 ここは一つ発想の転換で、師匠の衣装を用意してみたのでござるよ。
 ほら、これなんかどうでござる?
 拙者の世界で、一昔前に流行った柄の袴でござる」


 カエデは葛篭を一つ開けて、中から着物を取り出した。


「派手だな…バカ殿様みたいだ…。
 お、こっちの袴、陸奥○明流みたいな格好だ。
 うわ、鎖帷子に…忍者装束まであるのか?
 って、モノホンの鎧甲冑まで!?
 額の三日月がマニア心をくすぐるぜ…!」


「拙者の愛用のクナイや手裏剣も貸し出すでござるよ。
 そして、拙者は師匠の配下のクノイチ!
 それとも囚われた敵の間諜でござろうか?
 修行と称したエッチ…はいつもの事として、激しい尋問プレイとかにも応じるでござるよ…多少アブノーマルでも。
 勿論拙者用の衣装も容易しているでござる。
 姫君から、露出過多の実用性皆無の妄想用コスチュームまで何でもござれ。
 『にっぽんいち〜』とかも。
 …こういうの、『いめくら』というのでござったか?」


 自覚はあるらしい。
 その辺はともかくとして、自分達とは逆の発想を行ったカエデに未亜達は歓心していた。
 エロスや萌えは今はあまりないが、大河の好奇心を大いに刺激したようだ。

 …ちなみにナナシが大河にフンドシを付けさせようと迫った事を追記しておく。


「そうそう、召喚の塔にはまだまだ沢山の衣装があったでござるよ。
 着方が解らないものも多くありましたが」


 それを聞いて、色々な方の目がキラーンと光ったのは言うまでもない。
 後日、召喚の塔に入り浸ってバーゲンセールで暴れる主婦の如き救世主候補生その他の姿があったという。
 …これでコスプレの準備は整った。
 一段落ついたら、色々着せてみねば…。


「…忠犬ハチ公で放置プレイというのもアリでござるよ?
 ほらほら、イヌミミでござる。
 着けてほしければ、是非とも今宵は拙者と」


「でもそれって、実際には他の部屋で遊んでいるから独りでイヌの格好してろって事になるんじゃないか?」


「はぅ!?」


 また今度。


 時間が時間なので、一人一人にあまり時間をかけられない。
 長くやっていると、お楽しみの時間まで潰れてしまう。
 それは全員の本意ではないので、極力短めに、という事になった。
 具体的に言うと、表記は一人2KB前後が目安。

 次はリコの番である。
 リコはカエデやベリオと違い、あっさりと大河を中に招き入れた。


「ん? 未亜達は入らないのか?」


「私たちはもう見てるから…」


「ご主人様、早く…」


 首を傾げる大河。
 リコに急かされて扉を開けると、そこには独特の匂いが漂っていた。
 目を丸くする大河。
 リコの部屋には、畳が敷き詰められていたのである。
 絨毯の上から敷いたのだろう。
 屏風なんかも飾ってあった。


「おおぅ、これは懐かしい。
 どっかの旅館みたいだ……机とかベッドを除けば」


「流石にそれを移動させる時間はなかったので…。
 逆召喚を使おうかと思いましたが、丁度いい収納場所もありませんでした。
 そもそも畳を敷くの自体、着物と引き換えに皆さんに手伝ってもらったんですから」


「なるほど、だから皆リコの演出を知ってたんだな」


 思わず衝動のままに、畳にダイレクトダイヴをかます大河。
 鳩尾を打ち付けて息が詰まったが、それよりも畳独特の冷ややかさと匂いが堪らない。


「柔らかいベッドばかりじゃ背骨が曲がる気がするからなぁ…。
 こういう所で寝るのがまた…。
 …ところで、リコは着物を着ないのか?」


「……七五三みたいだと言われてしまうので…。
 いくら私の外見が幼いと言っても、そこまで言う事ないでしょう…。
 マスターが金太郎飴を持たせようとしてきました」


 ちょっとムクれるリコ。
 地雷を踏んでしまった大河だった。


「それでも見てみたいな、俺は。
 (それはそれで萌えるし)」


「……ご、ご主人様がそう仰るなら……。
 私の部屋を選んでくれれば、今夜にでも…」


 さりげなくアピールするリコである。
 しかしそうなった場合、折角の着物がグチャグチャになるのが目に見えている。

 着物を着たリコの姿を想像する大河。
 着物の柄は赤が基調で、リコの体からしてみると帯が少々大きい。
 髪を後頭部で纏め上げていて、簪なんぞ挿していた。
 なぜか手には羽子板を持っている。
 普段は髪で隠されている真っ白いウナジが眩しい。


「…是非とも!」


「ちょっとリコちゃん!
 そういうダイレクトな取引は禁止じゃなかったの!?」


「ちっ」


 乱入する未亜と、舌打ちするリコ。
 着物を着たリコを直接見ている未亜は、やっぱりもう一度着せてみたいなー、と思っていた。


 続いてナナシの部屋。
 入る前から、なんとな〜くイヤな予感がする。
 だってナナシである。
 和の文化を勘違いして解釈している確立はかなり高い。
 そしてその場合、まず間違いなく「お約束」が待っているのだ。


「準備できましたですの〜」


 扉の向こうから、ナナシの能天気な声が響く。
 大河は後ろを振り返って、ミュリエル達に目線で合図した。
 無言で頷く。

 場合によっては、速攻でナナシを止めねばならない。
 何気に戦闘体勢を取りながら、大河は扉を開けた。
 目に入って来たのは…白い裃を着たナナシの姿。
 サイズが合わずにブカブカで、帯を締め付けまくって強引に着ているらしい。
 そして、彼女の前に置いてある…短刀。


「それでは、切腹芸行きますの!」


「やっぱりこれかぁ!」


 大河の叫びとともに、一斉になだれ込む一同。
 が、何故か突然大河が急停止。
 しかもゴン、という音もした。


「んがっ!?」


「お兄ちゃんどいて!
 アダッ!
 な、ナニこれ!?
 透明な壁!?」


「それはニューボデーに付いている機能で、ガラスのように砕け散るバリアーですの」


「砕けないでござるよ!?」


「砕ける時にガラスみたいな壊れ方をするだけであって、別にガラスみたいに脆いとは言ってないですの。
 切腹を邪魔されるのは何だかとってもふめーよな事と書いてあったので、領地を確保してみたですの」


「ええい、要らん所にばかり要らん知恵を使ってこのオトボケ娘は!」


 それでは、とナナシは改めて短刀を手に取る。
 やめろ、と大河達が叫ぶ前に、ナナシは短刀を腹に向かって振り下ろした!


「「「「「「「 !!!!!!!!! 」」」」」」」


「げろ」


「……げろ?」


 無言の悲鳴を迸らせる大河達。
 …が、何処からともなく 響く謎の声。
 ナナシが顔を上げた。
 そこには痛みの類は見られない。

 そして…ナナシは裃の腹の部分を掴み、一気に開いた。
 まるで変質者のよーな挙動だが、そこで大河達が見たものは変質者どころではなかった。


「げろげろげろげろ」


「「「「「「く、く、く、口がある〜〜〜〜!!!???」」」」」


 そう、短刀を突き刺して切り開いたと思われる部分にでっかい口が出現していたのである!
 しかもご丁寧に長い舌がべろべろべろべろ、バカにするかのように揺れている。
 ナナシはというと、口の動きに合わせて何故か扇子を持って踊っていた。
 扇子から水まで出るという芸達者。


「切腹するとは言ってないですの。
 切腹芸をする、と言ったんですの」


 さよけ。
 でも大河達はメチャ怒っています。


 頭にでっかい達磨型タンコブなぞつけているナナシをつれて、今度はルビナスの部屋にやってきた。
 ナナシを除き、全員が緊張で身を固くしている。
 彼女の部屋に入ったら最後、最悪の場合全員が問答無用で洗脳されてしまいかねない。
 しかし入らない訳にも行かないだろう。

 いきなり入らずに、カエデがドアに 耳をくっつける。


「…どうです?」


「…妙でござるな…ジタバタ暴れているような気配がするのでござるが…一体何を?」


 首を傾げるカエデ。
 ミュリエルが防御魔法を発動させながら、ドアのノブに手をかけた。


「行くのか?」


「ええ、多分私が一番安全です。
 (付き合いが長いですから、ある程度手の内も読めますし)
 いつまでもこうしている訳にも行きません」


 ガチャリ、とドアを開けるミュリエル。
 その後ろに隠れるように、大河が部屋を覗き込む。


「ん〜! ん〜って、どうして解けないの!?
 あんっ、あ、暴れたらキツクなってきた……早くしないと、ダーリンが…って、ダーリン!?」


 手足を動かそうとするルビナス。
 しかし何をどうやったのか、全く成功していない。
 …ついでに言うと、今のルビナスの足は地面についていない。
 ぶっちゃけた話、宙吊り状態なのである。
 しかもただ宙吊りにされているのではない。
 部屋の隅から隅までに荒縄が張り巡らされ、まるで蜘蛛の巣のような形状になっている。
 その中心に、逆様になってルビナスは縛り付けられていた。

 重力にしたがってスカートが垂れ下がり、ちょっとアダルトな下着が丸見えだ。


「る、ルビナス…何をしているのです、貴方は…」


「あ、あはは…本に「日本文化緊迫娘集」ってのがあって、ダーリンの文化ではこういうのがソソルのかな〜、と…。
 最初は亀甲縛りとかその辺にしようと思ってたんだけど、ついつい大作を狙ったら…絡まっちゃった」


 笑って誤魔化すルビナス。
 顔が赤い。
 血が上っているのではなく、下着とかオヘソが丸見えだからだ。
 情事の時とは、また違った羞恥を感じる。

 未亜やリコも入ってきていた。
 ベリオは呆れていたが、未亜と大河は齧り付くようにルビナスを見詰めている。
 褐色の肌に食い込む荒縄。
 ムチムチになった体を強調するかのような緊縛の形。
 しかも、今のルビナスは限りなく無力だ。
 抵抗できない。
 つまり、俎板の上の鯉、どんな事をされても受け入れるしかない。

 …未亜の唇が吊りあがった。


「ちょうど弄りやすい所に、大事な場所がありますねー。
 ルビナスさん、これ狙ったんですか?」


「い、いえ別に…あ、ちょっと!?
 触っちゃダメだって、今日はダーリンとゆっくり…んんっ!
 ダーリンまで…ダーリンは大歓迎なんだけど」


 それから3分ほど、大河と未亜はルビナスの大事な所とかオヘソとかフトモモとかに指や舌を這わせていた。
 大河が舐めさせようと、ズボンのチャックを下げたあたりでようやくベリオのツッコミが決まったという。


「うう、面目ない…私まで暴走しちゃうなんて」


「そう?
 これぞ未亜さん、って印象だったけど」


「酷いです学園長…」


 どのツラ下げてそれを言うか。
 中途半端に止められたルビナスは不機嫌そうだ。
 ホーリースプラッシュ(小)を喰らった大河は、もう完全に復活している。
 最近富みに再生速度が上がっているようだ。
 実はこれにも理由があったりなかったり。


「さて、今度はリリィの番ですね。
 本作最大と言われる萌えキャラですから、心してかからねば」


「…自分の娘に対して何を言ってるんです…」


 流石にこのタイミングでネコりりぃに化けるとは思わないが…。
 化け猫を演じようにも、そこまでリリィは吹っ切れていない。
 素の状態ではまだ羞恥心が先に立つのだ。


「リリィ?
 準備はいいか〜?」


「ちょっと待ちなさい…いいわよ、入ってきて。
 でも他の人達は外で待ってね」


 大河のノックに答えて、リリィの声が返ってくる。
 大河がミュリエル達を見回すと、不本意ながらも邪魔する事は出来ない、と頷いた。

 ちょっと警戒しながらも、扉を開ける大河。


「お邪魔しまーす…おおっ!?」


 扉を開けると、そこは雅の世界だった…ような気がする。
 えらく豪華な服を着たリリィ。
 と言っても小林○子のよーなゴテゴテした服ではなく、色使いが華やかなのだ。
 ぶっちゃけた話、リリィは振袖なんぞ着ていたのである。
 基調となっている色は、彼女のイメージカラーでもある赤。

 そのリリィが、慣れないのを隠して正座している。
 目を閉じて両手を揃え、普段の活発な雰囲気を押さえ込んでいるようだ。
 実際の所は、足が痺れたりゆっくりとした動作が性に合わなくて今すぐ暴れだしたい。

 普段とは全く違う印象のリリィに、硬直する大河。
 それを見計らったように、リリィがゆっくり目を開けて手を伸ばす。


「…どうぞ、お掛けになってください」


「あ、ああ…どうも」


 リリィの正面にある座布団に、大河は同じように正座をして座る。
 内心では新たなリリィの発見に萌え転げている。
 そして部屋の外では、部屋に突入しかけた未亜を総がかりで押さえ込み、全員揃ってリリィの姿を覗き見ていた。
 ミュリエルに至っては、愛娘の艶姿を記録しようと幻影石まで持ち出している。

 外の喧騒と大河の戸惑いを他所に、リリィはゆっくり手を動かして紅茶を入れる。
 と、その時微かだがリリィの手が不振な動きをした。
 動揺していたとはいえ、大河はそれを見逃さない。


「…粗茶ですが」


「…どうも」


 どーしたモノかと思いつつも、取り敢えず受け取る大河。
 何かを混入したのは確実だろうが、今更リリィが何を盛るというのだろう。
 媚薬?
 ノー、大河にそんなモノを飲ませたら何が起こるか考えなくても解る。
 少なくとも任務どころではなくなってしまうだろう。
 流石にそれはノーサンキューだ。
 それくらいの事はリリィとて弁えている。

 なら何が入っているのか。
 粉末状の薬品なのは確かだが…。
 大河は考えあぐねた挙句、素直にカップに口をつける。
 しかし、つけただけだ。
 一滴も飲まずにリリィの前に戻す。


「…結構なお手前で。
(どうする? 屁理屈捏ねてリリィに飲ませるか、誰か他の人に飲ませるか…ま、いいか)
 それでは、ご返杯という事で」


 ズイ、とリリィに紅茶を勧めた。
 はっきり言って茶道の事は大河もリリィも全く知らないため、適当にそれっぽく振舞っているだけである。
 だから大河が口をつけたカップを進められる、という礼儀も何もない行為をされても特に何も思わない。
 これが作法だ、と言い切られるとあっさり信じてしまうのである。
 間接キスだと考えると多少照れくさくはあるが。


「…いただき「待ちなさい」…お義母様?」


 大河から戻された紅茶を今正に飲み干さんとした時、唐突にミュリエルが乱入してきた。
 その片手には幻影石が。
 厳しい表情のミュリエルを見て、リリィの頬が引き攣る。


(ヤバ……バレた?)


「リリィ、ちょっとじっとしていなさい」


 ヤバイなー、と思いつつもリリィはミュリエルに逆らえない。
 ミュリエルはリリィの振袖の袖に手を入れて、そこから何かを取り出した。
 それは紙に包まれた、粉末状の薬品だった。
 紅茶に入れたのは、間違いなくこれだろう。


「ルビナス、パス」


「はいな。
 ……あ、これ媚薬だわ。
 しかも即効性の」


 あっさりと粉末の正体を看破するルビナス。
 それを聞いて、ミュリエルはジロリとリリィを見た。
 めっちゃ脂汗を流している。


「…なるほど、大河君に見破られるのも計算の内という訳ね。
 大河君に飲ませてしまえば、なし崩しに乱交が始まってしまい、ヘタをすると任務に支障が出る。
 しかし薬を見破った大河君に付き返された紅茶を自分で飲めば、大河君は暴走せず、なおかつ自分は発情状態になる。
 発情したリリィを放っておけない大河君は自然とリリィを抱く事になり、それはつまりこの部屋に泊まるという事…。
 しかも媚薬の効果という大義名分があるため、自分を集中的に構ってもらえるという事ね」


「…参りました」


 企みを看破されて、リリィは諸手を上げる。
 まだまだ彼女は義母には及ばないようだ。
 ちなみに、媚薬入り紅茶は大河がこっそり流しに捨てた。
 何人か狙っていたようだが...。


「あのー、お義母さま゛っ!
 そ、そろそろ勘弁しでっ! ほ、ほしいのですがぁ〜っ!?
 ああっ、痺れてるから歩くのも一苦労〜!」


「そうね、今度は私の番だし…これくらいで許してあげましょう。
 ほら、カエデさんもベリオさんもリリィの足を突付かない」


「むぅ、古来からの伝統でござるのに…」


 リリィの策を見破ったミュリエルは、直接的な手段に訴えた罰として、痺れた足を突付きまくっていた。
 当然未亜や大河もそれに混ざる。
 リコだけは興味なさ気にしていたが、リリィが悶えるのは結構面白かったらしい。


「それじゃあ、私は着替えるから…覗いちゃダメですよ?」


 寮から離れて、ミュリエルの部屋まで歩いてきた一同。
 大河にウインクなぞして、ミュリエルは自室に入って行った。


「…学園長先生、何をするつもりなんでしょう?」


「さぁ……リコ殿、学園長は何を持っていったのでござる?」


「和服と灯篭と屏風…。
 後は用途がよく解らない物を幾つか…」


「お義母様の事だし、一筋縄では行かないに決まってるわ。
 私みたいに、何かしら仕掛けてくるわよ。
 みんな、油断しないでね」


「あーたが言いますか」


 投げ遣りな未亜のツッコミにちょっと目を逸らすリリィ。
 と、部屋の中から声が掛けられた。


「準備が出来ました。
 入ってもいいですよ。
 ああ、どうせだから全員でどうぞ」


 意外に早い。
 服を着替えるのに戸惑うかと思っていたが、この早さは和服の着替えに慣れているカエデから見ても充分早かった。


「失礼しまーす…お?」


 部屋に入る大河。
 それに続いて、未亜達もぞろぞろ入ってくる。
 ミュリエルの部屋は救世主候補生達の部屋と比べても広いので、狭いと思う事もない。
 その広い部屋の中心に、畳が1枚敷かれている。
 ミュリエルは着物を着て、扇を持ってその中心に立っていた。
 彼女の後ろには、金色の屏風が立てられている。
 そして畳の両脇に、一本ずつ灯篭が立っていた。

 リリィはミュリエルの堂に入ったその姿に感嘆している。
 魔法の腕だけではなく、ミュリエルには色々と特技があるようだ。
 そして優雅に扇を持った手を差し出して、一言。


「ちょいとそこ行くお坊ちゃん、舞を一刺しいかがかな?」


「どっかのでっかい扇を持ったジャパニーズかアンタは」


 ……ナンと言うか、台無しだった。
 ミュリエルは照れ笑いをして、扇を音もなく広げた。


「まぁ、とにかくそういう趣向です。
 実は日舞を習った事があるのですよ。
 皆伝とは行きませんが、見っとも無くない程には舞えるつもりです」


「世界を旅している間に覚えたんですか?」


「むぅ、この重心の置き方、脱力具合、扇の開閉の鮮やかさ……。
 色街でも、これほどの手練はそうそう居ないでござる」


 カエデは生まれ育った文化と環境のせいか、それとも忍びの鍛錬の一環として習ったのかは知らないが、結構目が肥えているようだ。
 ベリオとナナシとリコは、これから何が始まるのか興味津々だ。
 ルビナスは何やらモゾモゾやっている。


「ルビナス、準備は出来た?」


「ええ、何時でもいいわよ。
 暇潰し&リラックス、それに戦場高揚のために付けた内臓…もとい内蔵スピーカー。
 幻影石がなくても、使う楽器と音程さえ解ればシミュレートして演奏できる優れものよ。
 この曲を再生すればいいのね?」


 ルビナスは楽譜を見て、曲のシミュレートをしていたようだ。
 しかしこんな機能を付けてどうするつもりだったのだろうか。
 ひょっとしたら、何時かルビナスは戦場のど真ん中で「私の歌を聞け〜〜〜〜〜〜〜〜!」と叫ぶつもりかもしれない。


「それでは…3、2、1、ミュージックスタート!」


 パチンとルビナスの指が弾かれると、どこからともなく…ルビナスの体の何処から出ているのか解らない…から、雅な音楽が流れ始める。
 それに合わせて、ミュリエルはゆっくり体を動かした。
 響く三味線の音、音もなく歩を進める足、衣擦れの音すらも立てない体捌き。
 指先から髪の毛一本までに神経を張り巡らせ、軽やかに舞う。
 あまりに自然で、神々しくさえ写るその姿に大河達は息をする事すら忘れて魅入る。

 足を曲げる。
 腕を振るう。
 指を1本だけ伸ばす。
 扇を広げる。
 髪が円を描く様に揺れる。
 背筋を伸ばす。
 一瞬の停滞もなく、一瞬たりとも同じ速度で動かない。
 右へ左へ前へ後ろへ、たった一畳の足場の中で、だたっ広い舞台の上で踊っているかのような広がり。
 幻惑するかのような動きは、時の流れさえ忘れさせるかのよう。
 大河達の目に、桜吹雪が映ったような気さえした。

 しかし、どんな舞でも終局を迎えるものだ。
 ルビナスから発せられる音楽がサビを超え、やがて小さくなっていく。
 最後に両足を揃えて直立したミュリエルは、扇を持った手を真横に突き出した。

パン!

 甲高い音を立てて、扇が閉じられる。
 それを合図に、大河達の時間は元に戻った。
 自分が息をしていた事を思い出す。
 ここがアヴァターのフローリア学園で、ミュリエルの部屋の中に居るという現実を思い出すまで少々時間がかかった。

 静かにミュリエルが頭を下げた。
 それを見て、思い出したかのように拍手の音が響く。
 言葉もなく、ミュリエルは舞台袖…屏風の裏側だが…に下がった。
 大河達の拍手は、ミュリエルが普段着に着替えて出てくるまで続いた。


「す、凄いですお義母様! もう言葉も出せません!」


「そう? ありがとう、リリィ…」


「本職顔負けではござらぬか!
 見っとも無くない程度に、などで収めていいレベルではござらんよ!」


「ええ、誇っていいですよこれは」


 リコまでも興奮してミュリエルを褒め称える。
 ミュリエルは照れくさそうだったが、賞賛を素直に受け入れていた。
 一方、複雑なのは未亜である。
 これだけのモノを見せられては、自分のアピールに自信がなくなるのも道理。
 特に彼女のは、極力シンプルなやり方である。
 見劣りする感があるのは否めない。


「どうでしたか、大河君?」


「いや〜、まさかこれ程とは……いい物見せてもらいました。
 萌えとかエロとか、そういうの一切抜きで歓心したぜ」


「そう、それはよかった。
 どうです、大河君もやってみませんか?
 今夜なら手取り足取り腰取り教えてあげますよ。
 ああ、腰取りというのは別に怪しい意味ではなくて、重心の安定や移動に腰は重要なファクターだという事ですから」


 間違ってはいないが、それ以外の意図もある事は見え見えだ。
 しかしこれ以上引っ張るのはミュリエルの羞恥心が耐えられない。
 やはり人前で踊るのには慣れていないらしい。


「そ、それでは最後に、未亜さんの部屋に行きましょうか。
 そろそろ時間も無くなってきましたし」


 ワイワイ後ろで先ほどの舞について騒いでいるのを意図的に無視して、ミュリエルは部屋を出て行った。
 ルビナス達もそれに続く。
 …書き忘れましたが、救世主クラスの女性達は全員衣装を持って移動しています。


「さて、それでは最後に未亜さんの番ですが」


 大丈夫ですか、とベリオは言外に尋ねる。
 ミュリエルの舞を見せられた後では少々やりにくいだろう。
 未亜は笑って大丈夫、と答えた。


「私のアピールは至極単純明快だから、そんなに時間はとらせないよ。
 …あ、でも着替えに時間がかかるかも。
 気長に待ってね〜」


 そう言って部屋の中に消えていく。
 少々拍子抜けしたベリオだった。


「ちょっと以外ですね…未亜さんの事だから、物凄く手が込んでいるアピールを用意してると思ったんですが」


「あるいは大河君の性癖を知り抜いているため、完全なピンポイントシュートを狙っているかですね」


 ミュリエルが冷静に同意する。
 自分のアピールがかなりの好印象を与えた事を確信しているためか、その口調には若干の余裕が見られた。
 それがリリィにはちょっと面白くない。
 どっかの映画かドラマではあるまいし、自分の思い人(飼い主)を母親に取られるのは納得が行かない。
 他の女ならまだ納得が行くが…。


(とりあえず、お義母様の舞を上回るくらいの印象を頼むわよ、未亜…)


 ライバルを応援するリリィだった。
 どの道、自分のアピールは失敗に終わっているのだから。

 その向こうでは、カエデがなにやらリコにレクチャーを受けている。
 どうやら召喚の塔で見かけた服の着方を教わっているらしい。

 さらにルビナスとナナシは、ルビナスの腕についた縄の後を摩っている。
 縄はかなり敏感な部分も強く締め付けていたため、太ももや腹などにくっきりと痕が残っていた。
 それを2人で撫でているのだから、これはちょっと妖しい関係に見えたりする。

 ちょっと妄想していた大河は、部屋の中かから聞こえた未亜の声で我に返る。


「いいよー、入ってきてー。
 他の人も入っていいけど、最初はお兄ちゃんね」


「ん? あ、ああ」


 あらぬ妄想を心の底に封じ込めて、大河は扉を開ける。


 中は妙に暗かった。
 明かりを全て消しているらしい。
 その部屋の中心で、未亜が正座しているのが解る。
 なぜ明かりを消しているのかと首を捻る大河。
 それを見計らったかのように明かりが灯る。
 灯篭から漏れる、ぼんやりとした灯りが未亜を照らし出した。
 次の瞬間、大河の目が大きく開かれる。


「不束者ですが…」


 未亜は三つ指をついて、ゆっくり頭を下げた。
 真っ白い着物で、下着のラインは全く見られない。
 初夜装束、と呼ばれる着物である。
 それを着ている未亜の目に、少し哀しげな光が浮いているのを大河は見逃さなかった。


「これからも、末永くよろしくお願いします」


「未亜………こちらこそ」


 立ちすくんだ大河だが、同じように座って頭を下げる。


「これからも、末永くよろしくお願いします」


 そして、2人は顔を上げてぎゅっと抱き合った。


「あー、これはもう決まりでござるな」


「えぇ、ちゃんと着物を持って来ていてよかったわ。
 部屋が選ばれなかったとしても、コスプレと思えば使えますからね」


 カエデとミュリエルが、抱き合っている2人を見てボヤいている。
 その横で、リリィが未亜を見て首を傾げていた。


「気のせいかなぁ…さっきの未亜、ちょっと様子がおかしかったんだけど」


「あぁ、それは多分初夜装束を着たからでしょう。
 初夜装束とは、文字通り初夜に着る着物です」


「…それで?」


 リコの言葉に、リリィは首を傾げる。
 ポン、とルビナスが手を打った。


「なるほど、未亜ちゃんとダーリンは兄妹だから結婚できない、だから当然結婚しての初夜も無いし初夜装束も着ない。
 未亜ちゃんのあの格好は、届かない夢に手が届いたような気分になるんじゃないの?
 せめて今だけでも、って事で」


「あー、きっとそうですの。
 ナナシもとーってもよく解るですの。
 もしルビナスちゃんが眠ったままで、ナナシがゾンビだった時には、ナナシはダーリンと一つになれませんもの。
 それと同じだと思えば、納得が行きますの」


 ベリオはチラリと未亜を見た。
 そして出会ってからの行動を思い出し、解析する。
 …随分変ったなー、と思ったが今更だ。


「……思い返すと、未亜さんは大河君との仲を認める言葉…つまり恋人とか、そういう言葉に随分弱かった気がしますね。
 元の世界では誰にも知られないように関係を持っていたようですから、公然と誰かに認められた経験がなかったのでしょう。
 だから認められると、舞い上がってしまって落ち着いた判断が出来なくなる…」


「拙者の時も、モロにそれでござったな…」


 たとえ絆を信じていても、公然と認められて結婚式を挙げたい、というのは当然といえば当然の願いだろう。
 兄妹と言っても義理なので結婚できない事はない筈だが、リコ達はそれを知らなかった。

 未亜は何時の間にか、大河に押し倒されている。
 普段と違い、未亜の反応は初々しい。
 本当に初夜の気分に浸っているのだろう。
 それはいいのだが…。


「ですが、我々が乱入しない理由にはなりませんね」


「鬼ですね、ミュリエル」


「そう思いますか、リコ?
 手段はどうあれ、これは直接的な手段と大差ありません。
 そのような心理状態でこの演出をすれば、大河君は確実に未亜さんを選びます。
 公平を期すため最後にしてほしい、と言ったのはその確信の表れです。
 それに……このままおめおめと引き下がる気ですか?」


「「「「「そんな訳ないでしょう」」」」」


 …その五分後、未亜と大河の初夜モドキは色とりどりの衣装を纏ったミュリエル達に乱入を受けたそうな。




ただいまー。
つい2時間ほど前に帰ってきました。
いやぁ、東京で何が多いって人と電車と道が…。
都営新宿?
ソレって新宿駅と違うの?
なーんて思ってウロウロしてたらアンケートに掴まり30分ほどタイムロス、挙句適当に歩いていたら何故か目的地に着いていたというミステリー。
私の背中あたりに居られる守護霊さま、ありがとうございます。

晩飯を食いに行った焼き鳥屋で見知らぬオッチャンに何故か鍋を分けてもらい、色々と社会人になってからの心構え(微妙に腹黒)を説かれた時守です。
おっちゃーん、どうもありがとう!


あー、話は変りますが、時守はホワイトカーパスの邪神については、私達の世界の神話などを一切参考にしておりません。
ここは一つ、完全に異世界の神って事でご勘弁を。


1.博仏様
さて、今は格好よくてもこの後どうなるか…。
矛盾した言動を繰り返すナルシストになってしまうかも(汗)
ナルシスト属性のヤツはもう決めてるんだけどなぁ…。


2.鈴音様
独白時のダウニーは書きにくかった…。
なまじ原作の印象が拭えないだけに、どうしたものかと…。
あまつさえいきなりフリーズしやがって、3KBほど消えやがりました(涙)

あの北国のは本当に人気が続きますねぇ…それだけ名作だったって事でしょうけど。
ナナシが呼んだ6文字は、一応文章(?)にはなってますよ。
曰く、『ドッカーン!』。
オチの部分ですなw

原作のダウニーが何を考えていたのかは解りませんが、妹に対する思いが深すぎたって事でしょうか…。
もう少し進む方向が違っていれば、別の結末もあったかもしれません…。
今後の彼は、その可能性の一つという事で…。

いやぁ、就活するのにそんな事を考えるのは後でいいデショ。
とにかく内定を一つは貰わなきゃ…。


3.蓮葉 零士様
漢でも色々ありますねぇ。
萌えを突き進む漢、戦の道を突き進む漢、敢えて人のために泥を被る漢。
そして悪としての漢。

世界の敵はこうあるべし、みたいなキャラの方が物語りは盛り上がると思いました。
…別にペルシャネコを撫でつつワインを一杯、とかいうんじゃなくて。

生憎、今回はミミも萌えは無しでした。


4.黄色の13様
死亡するにしても当分先ですね。
今度からはまた何処かマヌケなダウニーでいてもらおうと思います。
やっぱり出番も当分先ですが。

クロニクルの方ですか。
時間と金がある時に買って読んでしまおう…。


5.3×3EVIL様
原作のダウニー先生は嫌いでも、こっちはOKですか。
ありがたいことです。
猛反対を喰らうんじゃないか、と密かに危惧してましたから…。

いやいや、ダウニー先生はハーレムなんか持った事ないですじょ?
……ある意味ではそれに近い状況に居た事もありますが、大河とは全然違いますじょ。

クレアとイムの出番はもうすぐですよ〜。


6.アレス=アンバー様
何だかんだ言っても、彼にはギャグをやってる姿が似合ってますw

天冥が発動してたら、本気で洒落になりません。
大河といえども、当分動けないくらいのダメージが…。
熱が入るにも程があるです。

ルビナスの怒りは、大河でも止められない事も結構…。
今回は試験管のみだったからまだ良かったですが、これが実験の邪魔をしたとなると…!

ゴルディオン?
勿論可能ですが何か?

罰ゲームでルビナスの薬ん実験台はヤバイでしょ。
チェミックを壊された怒りが存分にぶつけられます(汗)


7.カシス・ユウ・シンクレア様
今までで一番…と言っても、今までの扱いが扱いですしw

ダウニーも“破滅”の将に付いたのにはそれなりに動機があったんでしょうね。
妹を死なせた不条理への復讐とか、出来損ないの世界を壊してもっといい世界を作り出すとか。
それが受け入れられなかっただけで、妹のために動いていたのは変わりなかったのかもしれません。
ハーレムルートで言ってた『世界が破滅するのも結構ではありませんか』とかいう台詞を見てると、どうも説得力がないですが。

合体機能はやはり必須でしょう。
好都合な事に、ナナシの体は本人の希望でバラバラにできますから。

ま、アルディアとセルの事はノーコメントという事で。
結構重要なキャラになる予定ですから。


8.文駆様

大河のスペックは低くはありませんが、高いと言い切れる程でもありません。
体術の基礎が出来ていないので、全ては即興、又は知識の中にある駆け引きの猿真似です。
だからカエデのような『正統な』武術の使い手と正面からぶつかり合うと、どうしても押し切れません。
ある程度の実力を持っている相手…主に人間を相手にするには、どうしても奇策に頼らなければならないのですね。

ルビナスは…アレじゃないですか、自分がやるのはいいけど他人にやられると腹が立つってヤツ。


9.根無し草様
う〜ん、幸せと取るかは微妙ですが…一応結末は考えてあります。

ナナシとルビナスが全力を発揮する時はマジバトル中にやろうと思います。
…ギャグに一変する可能性もありますが。

もし内定もらったら、残った大学生活を遊んで過したいなぁ…。


10.神〔SIN〕様
巨大ゴーレムですか……どっちかと言うとマッドの作品っぽいですね。
召喚器がそこまで巨大だったら…周りで戦う仲間達の命が余波で危ない(汗)
小型化してウォードレスみたいに、鎧として使えば……しかしそれだと浪漫がッ!
…でも、召喚器と心を通わす能力は個人個人のもの…或いは精神的適性であって、血筋には関係ないと考えています。

あと、炎の凍気化は単なる魔法の技術だと思うんですがどうでしょう?
それとライテウスの和訳は正義ではないのでは?
いや、知りませんけど。

それと…掲示板のルールに当てはめると、この場合にありそうな原因は…過度の展開予測か、馴れ馴れしい文章…でしょうか?
前者は見方次第でしょうが、後者はそれほどでも…。
やはり過度の展開要望、にひっかかったのでは?
多分レスの最後に書かれていた、『是非使ってください』辺りがひっかかったんじゃないでしょうか?


11.悠真
真面目ダウニーがお気に召したのでしょーか?
意外な反響にビックリです。
ひょっとして今までのマヌケな姿で反感がちょっとずつ消えていたんでしょーか…。
今後ダウニーは修羅の刻…もとい道を歩く事になりそうですが、その時の反応を考えると胃が痛い…。
当分の間、やる事は原作と変りそうにありませんので。


12.くろこげ様
タダシアタマハソーラーデンチデス。
いやぁ、そろそろネタが尽きてきているので、ネタの供給はマジでありがたいです。

大河もまだまだ未熟ですからね。
戦い方を洗練させれば、もっと強くなるでしょう。


13.米田鷹雄(管理人)様
いつもご苦労さまです…。
今回ちょっと我が身を省みたのですが、無責任に『ネタ大歓迎』などと時守が放言するので、注意事項にひっかかるようなレスが増えてしまったのではないかと反省しました。
これからはもう少し考えてからレス返しをしようと思います<m(__)m>


14.なまけもの様
会えてよかった…かなぁ?
髪を引き千切られたり減給を喰らった事を考えると、やっぱりムカっ腹立てるんじゃないでしょーか?
それに、最終的なダウニーの目的が達成されれば、ダウニーもえらい事になるのが目に見えているし…。
妹の事を思えば、やはり会えてよかったのでしょうけど。

旧ホワイトカーパスの邪神は完全にオリジナルです。


15.試作弐号機様
当分ダウニー先生はギャグもシリアスも出番がありませんから、ここらで稼いでおこうとした次第です。
ダウニーはやはり“破滅”側です。
それは動かしようがありません。

時守的にはまだまだ戦闘シーンも未熟です…。
体の動きを一々描写すると冗長になりすぎるし、逆に書かなければ戦闘の流れが解らない。
それに自分が意図した通りの動きを伝えられている自信が全くありません。
精進あるのみ、です。

光になるのはゴルディオンですよー……絶対に使いますが。


16.ATK51様
ルビナスも大河も、これくらいしないと戦力のバランスが取れないんですよね…。
今後のパワーアップ計画を考えると、もっとバランスが…。
うう、何か一発逆転的な敵を出さないと…。
まぁ、一応考えてありますが。


17.竜神帝様
す、既に確定してるんデスカ!?
…いや、確かに確定は確定ですが…色々考えていますので、お楽しみに。

ホワイトカーパスの神は完全にオリジナルですよ。
名前も適当に決めました。


20.神曲様
あ、挨拶の元ネタわからねぇー!(挨拶)

やはり主要キャラたる者、こうでなくてはいけないでしょう。
足を引っ張るのが専門のキャラとかならともかく、ヒーローやダークヒーローがナヨっとしてたら話が中々盛り上がりませんしね。

そう、だから彼の頭も立派な信念の現われなのです!…多分。


22.K・K様
オギャンオス!

いやぁ、ルビナス戦は仕方ないでしょう…イカレる…もとい怒れるマッドを止められるのは、古来から同じマッドぐらいと決まってます。
やってはいけないとしても…の好例としては、部屋の中に自分と『押すな』と書かれたボタンが一つ…の状況でしょうか。

思いと思いのぶつかり合い…それはエゴと呼ばれるものでもあるでしょう。
ヒトの進化と成長を促すのと同時に、文字通りの破滅と争いの元になる…。
重要なのはバランス、という事でしょうね。

アヴァターへ召喚された理由は、多分ホワイトカーパスに行って戦いの最中辺りに明かされる…予定です。

では、オギャンバイ!


24.アルカンシェル様
同類というより、ナナシを経由してゼンジーの性格が伝染したのではw

…憧れないのかぁ。
ダウニーにもっと見せ場を作りたい…が、当分彼の出番はありません。

悪役には悪役の理念があり、それは彼らにとってある種の正義である事は否定できないでしょう。
許されないと解っていても進むのは、彼らが結論を曲りなりにも出して、それに殉じているからで、そこに一本筋が通っているのを感じても無理はないと思います。
多分、最終的には大河との一騎打ちになると思います。
そこまでどう持っていくのかは殆ど考えていませんが…。

あぁ、受験に失敗してしまいましたか…浪人も結構気楽で楽しかったですが。
一年余分に勉強したから、そこそこ頭に入りましたし…。
来年まで頑張ってください!

聖銃の撃ち合いか……キツいな…。


26.ナイトメア様
東京行ってて、レスを見逃しました…。
感想ありがとうございます!


27.なな月様
カツラネタはまだ続きがありますよ。
だって七変化がまだ完了していない!
ええ、やると決めたら何だかんだいいつつ実行しますよ、私は。

あー、その部屋にはきっと大仏とかが飾ってあるんですね。
しかも勢い余って廊下を改造し、ウグイス張りから竹槍まで…。
うう、ヘタに入ると死ぬ…。

八つ当たりで終わるかは今後次第ですね。
かなり残酷な役割を振る事になりそうですが…。

とりあえず…就職試験は受けてきましたが…なんと言うか、拍子抜けでした。
個人面接は次からだったよーです…。

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