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「ガンダムSEED Destiny――シン君の目指せ主人公奮闘記!!第二部――第三話 選択、そして始まり 後編(SEED運命)」

ANDY (2006-02-21 18:39)
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 過ち。
 人は生きていく中で、大なり小なり何か過ちを犯してしまう。
 それは、生きていく上で避けて通ることの出来ない業だ。
 だが、それは決して不利益になるものではない。
 その経験から得たものは、次の機会へと生かすことが出来るようになる。
 だが、そのためにはその過ちを犯してしまったという過去の事実を受け入れ、それを容認した上で行動を起こさなくてはならない。
 過去の過ちを認める。
 それは、人類全てに共通する、容易に容認することの出来ない事象なのではないだろうか。
 その事象を踏まえる事をしない、それもまた過ちではないだろうか。
 ならば、もし、過去を振り返ることなく、未来のみを、理想のみを語る存在がいたとしたら、それははたして、道化になりえるのだろうか。


「本当にお詫びの言葉もない」
 ミネルバ内の艦長室に通されたカガリに、デュランダル議長は滑らかな口調で謝罪の言葉を口にした。
「姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは…………。弁解の余地もありません。ですが、どうかご理解頂きたい」
 艦長室に通されて、デュランダル議長との面会を果たし、ようやく身の証を立てることの出来たカガリとアスランだったが、アスランの胸中は暗然たる思いだった。
 なぜなら、安全な場所と思って避難した先が、よりにもよってこれから戦闘に向かう艦だったのだから。
 その胸の内にうごめく感情は、筆舌に値しないほどのものだった。
―――今日の俺は、相当運が悪いらしい
 切るカード全てが悪い方へ、悪い方へと出続けているかのような状況に、アスランは密かに嘆息した。
 そのアスランの気分に当てられたわけではないだろうが、デュランダル議長の前に座したカガリも、心なしか青ざめた顔を俯けていた。
「あの部隊については、まだ何も分かっていないのか?」
 カガリは、青い顔をうつむかせたまま、アーモリーワン内で確認した強奪犯についての情報の有無を尋ねた。
「ええ、まあ………そうですね。はっきりと何かを示すようなものは………」
 デュランダル議長にしては随分と歯切れの悪い言葉だったが、それが意味する所をアスランはある程度読み取ることが出来た。
 それは、背後にあるものをなにかしら予想をすることが出来ているが、それを口にするだけの確固たる証拠がない以上、明言は出来ない、という事だ。
「しかし、だからこそ我々は、一刻も早くこの事態の収拾をしなくてはならないのです。そう、取り返しの付かない事になる前に」
「ああ、分かっている」
 沈鬱な表情で決意の程を述べるデュランダル議長に、カガリもやりきれない顔で同意するように頷いた。
「今は何であれ、世界を刺激するような事はあってはならないんだ。絶対に…………」
 祈るように両手を膝の上で硬く握り締めながら、カガリはどこか悲壮感を滲ませながらそう呟いた。
 カガリがそう口にした訳は明確であった。
 それは、軍部や政治に身を置くものなら誰でも知っている事だが、今、この世界はとても危ういバランスの上に成り立っている。
 限界ギリギリまで膨らませた風船のような緊張状態の上で、今の平和は成り立っているのだ。
 もし、そこに針の先ほどの刺激が加わったとしたらどうなるのだろうか。
 そうなったとしたら、あっけなく、仮初の平和は崩れ去ってしまう。
 世界はそのような儚いものの上で営みを広げているのだった。
 なぜならば、かつての戦争が停戦してからの二年間、地球もプラントも、自国が被った大戦のダメージから抜け出し、国力を回復させる事を最優先としてきたのだからだ。
 そのため、和平という仮面の下で申し合わせたように互いに他国への手出しを避け続け、自身の関心を自国だけに止める事にしてきたのだった。
 だが、その暗黙のルールは、アーモリーワン襲撃を以って崩れ去ろうとしていた。
 限界まで風船が膨らんでいるところに、何かしらの衝撃を加えるとどうなるか。想像に難くは無いのではないだろうか。
 この二年間、世界で深く静に淀み続けていた流れが、出口を求め彷徨い始め流れているのを、国際社会に身を置くカガリと、護衛役として共に行動をしているアスランはひしひしと肌に感じ取っていた。
 だからこそ、カガリの声は悲壮感を滲ませていたのだが。
 だが、デュランダルはカガリの言葉を聞くと、急に晴れやかな笑顔になった。
「ありがとうございます。姫ならばそう言っていただけると信じておりました」
 柔らかな笑みと共にかけられた言葉に、カガリと、後ろに立っていたアスランは驚いた。
 なぜなら、カガリの背後に控えているアスランにもデュランダル議長の言葉は向けられていたのだから。
 急に、柔らかな笑みを向けられ、アスランは少しだけ驚愕の表情を浮かべてしまった。
 議長職と言う職務に就いているのにこの気さくさ。
 自分の父とは異なるのだな。
 父だったら、ただの随員に目もくれないはずだ。
 そう埒でもない事を思い浮かべているアスランの耳に、また驚愕の言葉が飛び込んできた。
「よろしければ、まだ時間のある内に艦内をご覧になって下さい」
 また、やはり愛想よく差し出されたデュランダルの招待に、今度は艦長であるタリアがたじろいだ。
「議長!!」
 慌てて声を上げるタリアの心情としては、この艦はザフトの最新鋭艦であり、言うなれば機密の塊である。それを、いくら友好国であるとはいえ、他国の元首であるカガリに見せていいはずがない、と言う思いであった。
 その思いが正しいと言う風に、嘗てザフトに所属していたアスランや、一応の軍事教練を受けたカガリも唖然とした顔でデュランダルを見ていた。
 その、どこか正気を疑うような三対六つの瞳に見られながらも、デュランダルは平然とした態度で自分の考えを述べた。
「一時とはいえ、姫の命をお預け頂く事になるのです。姫の命を預けるにこの艦が値するかどうか納得していただけるよう説明すること、それが盟友としての、我が国の相応の誠意かと」
 デュランダルの述べる言葉を聞きながら、タリアは口角が引きつるのを押さえるのに精神の多くを動員していた。
 もし、この戯言を述べているのが一介の仕官や平の評議会議員の言葉であれば、艦長権限ですぐにでも撤回できた。
 だが、その戯けた言葉の主は最高評議会議長であり、たかだか一艦長に過ぎないタリアにとっては戦闘時でない限り意見を挟むことは早々出来ないので、ただただ口を噤むしかなかった。
 それに、デュランダルの言い回しに「盟友」とあるのもネックであった。
 もし、ここで艦長権限を振りかざしでもしたら、それは盟友関係をも否定しまう事に繋がることになってしまうのだ。
 一艦長の身分で、国際問題を発生させるリスクよりも、当たり障りの無い案内でとっとと士官室にでも篭ってもらった方が精神的に楽だろう、と結論付けて、タリアは口を噤むことにした。
 ただ、デュランダルの後頭部に鋭い視線を送る、と言うことは押さえることはできなかったが。
 そんなタリアに、アスランは胸中で同情の言葉を贈ると同時に、デュランダルと言う人物を改めて観察していた。
 だが、いくら観察をしても底が見えるわけではなく、ただただ器の違いを感じるだけであった。


「うぐ〜」
「…………大丈夫?」
「…………笑いを抑えている表情で気遣われると、どうしてこんなに悲しい気分になるんでしょう?」
 弛緩した体を机に預けながら、奇声を上げているなぞの物体Xに成っているシンに、白衣を見に纏った女性が、笑いを抑えた表情で声をかけていた。
 その女性は、白衣とは異なる色の褐色の肌に、肩まである白金色の髪を揺らしながら、シンにココアの入ったマグカップを差し出した。
「くすくす。でもね、戦闘で受けた傷じゃなく医務室に来るパイロットさんがいるなんて、聞いたことがないから」
「……………俺もないですよ。アリア先生」
「くすくす」
 憮然とした表情を浮かべつつ、差し出されたココアを飲みながらシンは、より落ち込んだ声で答えた。
 その様子を見て、また笑いながらアリアは手にした問診表にチェックを入れた。
 アリア・カミール。
 それが彼女の名であり、彼女は、ミネルバ専属の医師である。
 アリアは、シンと同じオーブ出身である第一世代のコーディネイターであった。
 オーブ解放戦線で、彼女は家族を失い、シンと同じように裸一貫でプラントに渡って来た過去を持っていた。
 だが、アリアはシンとは違い、すでに医師免許を持っており、また、コーディネイター達が疎かにしがちな内科系統を修め、それを専門に病院職についており、多くのナチュラル、コーディネイターの治療を経験していたのだった。
 その経歴のおかげで、彼女はすぐ職にありつくことが出来、また、オーブでは得ることの出来なかった最高の環境で自身の頭脳と腕を鍛えることが出来るようになり、その結果、内科、とりわけ免疫学・消化器官の専門家に僅か一年足らずで成ってしまったのだった。
 そして、今回最新鋭艦であるミネルバの医師として搭乗することになった。
 これは、ミネルバには、戦艦にしては多くの女性乗組員が存在しているため、従来の男性の軍医ではカバーしきれない、メンタルな部分を賄うためである。
 また、多くのナチュラルを診察してきたと言う経歴も関係していた。
 多くのコーディネイターは、体調を崩すということが極端に少ない。
 なぜなら、体調を崩す因子をコーディネイトする事を目的とした結果が、コーディネイターなのだからだ。
 だが、それはフィジカル面でのことであり、人間のメンタル面まではコーディネイトすることは出来なかった。
 古来より、「病は気から」という言葉があるように病気と言うものは精神的要因も関係しているものだ。
 その事を、古代の人々は感覚的に察しており、薬草などの内面的治療に平行して、祈祷や歌、念仏など多くの外的治療を行ったのだろう。
 だが、自らを新しい種と思い込んでいるコーディネイターたちの間には、精神的未熟性を残したまま成人し、社会に貢献する層が増えてきていた。
 精神が成熟するのに必要な時間を使わずに、短時間で能力の向上を測ることが出来てしまう、その結果、精神的未熟な人間が生まれてしまう、ある種の呪いとも呼べるであろう流れがプラントには存在するようになってしまったのだった。
 そのため、理論的にカウンセリングの出来る医師はいても、臨機応変に対応できる医師の存在はそうそういない、と言うのが現状だった。
 そんなところに、自分たちとは違いすぐに体調を崩すナチュラルを多く診断してきた医師が現れたら、どうするだろうか。
 その答えが、アリアのミネルバ搭乗へとつながるのだった。
 そのような経緯で搭乗したアリアだが、年のころは、艦長と同じくらいであろうかどこか落ち着いた感じがする、日向の匂いを纏った女性である。
 近くにいるだけで、何かほっとするような気分にさせてくれる雰囲気を持っていた。
 そんな、近所の優しい年上のお姉さん、的な空気を味わいながら、シンは月の猫様に思いっきり捻られた自分の両の頬を擦りながら、医療用ベッドの方へと視線を向けた。
 そのベッドの上には、頭部に包帯を巻き、怖い夢でも見たのだろうか、いく筋もの涙のあとを残しながら眠っている金髪の少女がいた。
(ステラ・ルーシュ、か。こうやって見ると、ただのかわいい、小さな女の子なんだよな)
 そんな事を考えながら、シンはマグカップに注がれてココアを口に含んだ。
 そのココアは、張り詰めていた気分をほぐす、優しい甘さで心を癒してくれた。
「…………気になる?」
 シンの視線に気がついたのか、アリアはどこかからかいの含んだ声で尋ねた。
「ええ、まあ。一応、救助した側としては、そうです、ね……………」
 その問いに、シンはどこかはぐらかす様な声で答えをごまかそうとしたが、振り返り見たアリアの顔を見て言葉尻を竦めてしまった。
 先ほどまで浮かべていた日向のような笑みは消えて、どのような現実も動じずに受け止めることの出来る、冷静で厳かな顔をしていたのだった。
「…………まず、これだけは確認させて。あの子とは知り合い?友人関係なの?」
「…………今日、オフの時に買出しに出た時に偶々出会って少し話をしただけの関係です。知り合い、とも、友人ともいえない曖昧な関係ですよ」
「…………そう。名前は知ってる?」
「……ステラ、って言ってましたよ」
「そう」
 どこか、こちらの心まで見通すような視線を正面から受けながら、シンは十全ではないが事実を淡々と答えた。
 それをどう受け止めたのかは、生憎分らなかったが、アリアはカルテの名前欄に「ステラ」と記入すると姿勢を正しシンに向かい合うように座りなおした。
 それに応じるように、シンも姿勢を正した。
 そして、アリアの口から、胸糞の悪くなる事実が紡ぎ出された。
「彼女、ステラちゃんは、重度の薬物中毒者よ」


「ヨウラーン!!左腕の反応がどうも鈍いんだけど。ちょっと見て〜」
「あいよ。…………少し反応係数を上げたけどどうだ?」
 赤い鋼の巨人の胸部から響く声に従うように、ヨウランと呼ばれた少年は手に持っていた端末を操作し、その結果を尋ねた。
「…………オッケー。これぐらいの反応が私的にはベストね」
 そう口にしながら、ルナマリアはチェックボードに確認の印を入れると、そのまま次の確認へと移った。
 ここは格納庫で、先の戦闘で損傷した自機の修理状況と、無重力空間戦闘へのOSの最適化をするために、レイと二人でザクに齧り付きながら作業を行っていた。
 OSの最適化を行いながら、ルナマリアは自分の機体の前に鎮座している、緑色のザクを見つめながら首をひねった。
「ねえ、レイ」
『なんだ?』
 いくら首をひねっても答えが出なかったため、ルナマリアは通信機を使い、自分の調整を行っているレイへと声をかけ、疑問を解消しようと思った。
「ミネルバに配置されるザクって、私とレイの二機だけよね」
『ああ。あとは、シンのインパルス、ゲイルとショーンのゲイツRが配置予定だったが』
「じゃあ、あの緑色のは?駆け込み乗車ならぬ、駆け込み乗艦?」
『さあな』
『ああ、あれならオーブの代表とそのSPだ、っていうのが乗り込んできて身柄の安全を求めてきたんだよ』
「は〜?オーブの代表?」
『ほ〜。本当か?ヴィーノ』
『本当も本当。あの強奪事件が起きてるときにいきなり乗り込んでくるもんだから、格納庫の中があの時は殺気で一杯になったんだぜ』
 レイのザクの調整を行っていたヴィーノが、レイに変わりルナマリアの質問に答えた。
 それを聞き、自分の機体の調整を行っているヨウランに尋ねると、肯定の返事を貰ったため、ルナマリアはその話をやっと信じた。
「でも、公式に訪問するなんて聞いてたっけ?」
『公式ではなかったのだろう』
 素朴な疑問を、ばっさりと斬り捨てるレイに恨みがましい視線を送りながら、思った事を口にした。
「公式でないって、助ける義理ってあるの?」
『義理って…………』
 その、余りにもドライな言葉に、レイの横で整備をしていたヴィーノの、どこか乾いた呟きが聞こえたが無視をすることにした。
『オーブ政府は、自国の代表がこちらに訪問している事を把握しているだろうからな。無駄な軋轢を生むよりは、と思ったのだろう』
「なるほどね〜」
 そう呟くと、その話題はもう終わりと言うかのように、二人はタイピングの速度を上げて調整を再開し始めた。
 ただ、どうして大西洋連合に尻尾を振らなくてはならないお国の代表がお忍びで来るんだろうか、と頭の片隅でルナマリアはそんな事を考えていた。


「しかしこの艦も、とんだ事になったものですよ」
 ミネルバ内の通路を、先導するように歩きながらデュランダル議長はそう口にした。
「進水式の前日に、いきなり実戦を経験する事態になろうとは……………運命と言うものは分らないものですね」
 そのような言葉を耳にしながら、カガリとアスランはどう返答をしたらよいのか分らずに沈黙を保っていた。
 そんな二人は、あの会合のあとタリアと分かれると同時に、デュランダル議長に伴われミネルバ艦内を案内されていた。
 なぜこの人は自分たちをここまで優遇してくれるのだろうか?
 そのような事を思いながら、アスランは、自分とカガリを挟んで議長の後ろ、自分たちの前を歩いている赤服の少年に目を向けた。
 その少年は、議長が呼び出した人物で、その物腰から見るになかなかの力量が伺え見れることから、護衛として呼ばれたのだろう。一応の対処法は取っているようだが、それでもこれは優遇しすぎではないだろうか。
 そう考えていると、アスランたち一行は通路で兵士達数人とすれ違うことになった。
 その兵士達が議長に対して敬礼するのに触発されたのか、アスランは反射的に見事なザフト式の敬礼で返してしまった。
 それを受けた兵士は、何故一般人がザフトの敬礼を知っているのか、と首を傾げて不思議がっていた。
 その兵士達を無視して歩き続けると、一基のエレベーターの前で議長は立ち止まり、赤服の少年―レイ―は開閉スイッチを押し、エレベーターのドアを開けながらこれから向かう先を告げた。
「ここからMSデッキに上がります」
「……………え?」
 その言葉を耳にした瞬間、アスランとカガリはつい顔を見合わせてしまった。
 自分たちの聞き間違いか、それともこの少年の勘違いかと思い、デュランダル議長を窺うが、当の本人は気にした様子もなく、彼らを促してエレベーターに乗り込んでいた。
 その様子を見て、いくら盟友関係にある国の元首とはいえ、これは大盤振る舞い過ぎるのではないだろうか。
 アスランは、常識から外れた待遇に驚きながらエレベーターに乗り込んだ。
 断る、政治的理由が無いのだから、ただの随員である自分が何も口にすることは無い。
 そんなことを自嘲的に思いながら、アスランは影のように後方へと下がった。
 そんなアスランの内情を知ることもなく、レイはこれから行くところの情報を、まるでカガリ達を牽制するかのように説明し始めた。
「これから向かう場所は、艦のほぼ中心に位置するとお考え下さい。搭載可能数等は、無論申し上げる事は出来ませんし、現在その数量が載っている訳でもありません」
 そのどこか、うやむやに伝えられる情報に、アスランは制限された情報であるはずなのになぜか、不安とは逆に安心を感じてしまった。
 そのような奇妙な安心感を胸に抱きながら、アスランは窺うようにデュランダルの横顔を見たが、依然として温和なその顔つきからは、何も読み取る事が出来なかった。
 なにか底意があるとは思えないものの、彼のやる事なす事には、何か深い意味がどこかに潜んでいるのではないかと思えてしまい、アスランは言いようの無い不安感を持っていた。
 なぜそのようなものを持ってしまうのだろうか。その滑らか過ぎる弁舌のせいか、それとも、最高評議会議長としての器の大きさのせいか。
 答えの出ない疑問を考えていたが、エレベーターの扉が開いた途端、アスランは目の前に広がる光景に息を呑んでしまい、その疑問は吹き飛んでしまった。
 眼前に広がる広々とした格納庫には、例のザクを含んだMSがずらりと並んでいたからだ。
「ZGMF-1000、ザクはもう既にご存知でしょう。現在のザフト軍主力の機体です。ああ。そういえば、君はザクを操縦したそうだが、どう感じたかね?」
「え、あ…………」
 解説を始めた議長に、急に話を振られてアスランは戸惑ったが、素直な感想を伝えることにした。
「………機動性、パワー、反応速度、操縦性。どれを取っても、従来の機体よりも上だと感じました」
「そうか。その様子だと、君もMSに関しては中々の知識があるように思えるが?」
「まぁ、人並み程度には…………」
 流石に、元ザフト軍人ですとは言えず言葉を濁し答えると、デュランダル議長は申し訳なさそうな顔になり謝罪の言葉を口にした。
「いや、言い難い事なら無理に言わなくてもいいよ。すまなかったね、急に話を振ってしまって」
「あ、いえ………お気遣いなく」
 自分より格の上の人物に謝られてしまい、アスランはどう答えればよいのか分らずに、少し言葉を濁しながら答えるしかなかった。
 その場に生じた妙な気まずさから視線を彷徨わせていたアスランだったが、ふと目に留まった光景に思わず感嘆の眼差しを向けた。
 それに触発されたと言うわけではないだろうが、MSに対する興味はアスランに劣らないカガリもまた、その空間を身を乗り出すようにして見ていた。
 二人の視線の先には、四層からなるデッキがあり、そこに、アーモリーワンで見た白いMS―インパルスのパーツが収容されていた。
「このミネルバ最大の特徴といえる、この発進システムを使う『ZGMF-X56S インパルス』。そういえば、工廠でご覧になったそうですが?」
「あ、はい」
 先ほどの話がまだ尾を引いているのか、話し掛けられたアスランは落ち着かない気分で頷くことしか出来なかった。
「技術者に言わせると、これは全く新しい、効率の良いMSシステムだそうです。もっとも、私にはあまり、専門的な事は分かりませんがね」
 どこかおどけた口調であるが、それでもその目には揺るがない自信と呼べるものが存在していた。デュランダル議長は得意げに言った後、カガリに対してからかうような視線を向けた。
「しかし、やはり姫はお気に召しませんか?」
 その言葉に、カガリは先ほど覚えた一瞬の熱意に対し、罪悪感を募らせたように硬い表情になってしまった。
「……………議長は、嬉しそうだな」
 その、あまりに単純で子供じみた言葉に、デュランダル議長は失笑を浮かべてしまった。
「うれしい、という訳ではありませんが。二年前のあの混乱の中から、みなで懸命に頑張り、ようやくここまでの力を持つ事が出来たというのは、やはり…………」
「力か…………」
 デュランダル議長の言葉を聞き、その中にあった単語をやりきれない表情で呟くと、カガリはキッとその目を上げ、デュランダル議長へと真っ直ぐ向けた。
「争いがなくならぬから、力が必要だと、そう仰ったな、議長は」
「ええ」
 どこまでも真っ直ぐで、硬質なカガリの視線を、デュランダル議長はあくまでも柔らかな物腰で受け止めながら応じた。
「だが!ではこの度の事はどうお考えになる!?あのたった三機のMSを奪おうとする連中の為に、貴国が被った被害の事は!?」
 カガリの感情に任せ、激した口調での問いかけに、デュランダル議長は笑みを依然と浮かべながら、それでも挑発するように聞き返してきた。
「だから、力など持つべきではない、と?」
「そもそも、何故必要なのだ!?そんなものが、いまさら!」
 声の変調を起こさずに尋ねるデュランダル議長に対し、次第に大きくなるカガリの声は、格納庫にいた整備員や兵士にも届いていた。
 何を叫んでいるんだ、と彼らは一様に奇異の視線を向けるが、それに気付かないままカガリはなおも叫び続けた。
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!」
 そう叫び訴えるカガリの後ろでは、アスランも苦い表情で立ち竦んでいた。
 そうだ。あの日、彼の母が死んだユニウスセブンで条約が結ばれたあの日、これで全てが終わると信じていたのに。
 だが、現実はどうだ。
 争いの芽は無くならず、今でも何処にでも芽吹こうとしているではないか。
 二年前、多くの苦しみを味わったはずなのに。
 なのに、何故人は同じ過ちを繰り返そうとする?
 何故。

        パチパチパチ

 そのような空気を打ち壊すように、乾いた拍手が突如鳴り響いた。
 その音に弾かれるように、アスランとカガリは振り向き見ると、そこには赤服を纏った黒髪赤目の少年が通路に立っていた。
(こいつは?)
 アスランは、通路に立ち拍手をまばらに送っている少年の、こちらを見つめる視線が自分の警戒域を刺激するのを感じた。
 なぜなら少年の目は、無機質そうでありながら、無理やり押さえ込まれた焔のような輝きを宿していたのだから。
「………シン」
 レイは拍手の送り主の名を呟いた。


 シンは、医務室から格納庫へと向かい歩いていたが、その胸中は吹きすさぶ嵐のように荒れていた。
 なぜ荒れているかと言うと、それは医務室でのアリアとの会話が関係していた。

『彼女、ステラちゃんの血液検査を行ったところ、複数の化学物質が確認されました。簡易検査の段階で、ですよ』
『………』
 簡易検査の段階で?
 こんな戦艦の医務室で出来る検査で?
『これから本格的に検査を行いますけど、発見される化学物質が増えることはあってもそのまま、という事はまずありえないでしょうね。次に、身体的影響だけど、筋組織の異常発達、触診したところ骨格に歪みがいくつか見られますし、それに、内臓もいくつか衰弱していて定期的に薬物を投与しないと日常生活に支障が出てしまうような状態です。それに―』
 そこから先は思い出したくも無い。
 なんなんだ。
 何でそんなことが出来るんだ。
 あの子が何をしたんだ。
 あんな小さくて、泣いてしまうような子が一体何をしたって言うんだ。
 誰も気づけなかったのか。
 俺に彼女達を助ける力は無いのは先刻承知している。
 でも、俺より力がある存在はたくさんいただろう。
 それなのに、誰も彼女達のような存在に気づいてやれなかったのか。
 誰も、彼女達の助けを呼ぶ声に耳を貸さなかったのか。
 わかってる。
 これがただの愚痴だって言うことは。
 でも、言わずにいられない。
 なぜこうも、世界って言うやつは不公平なんだろうか。
 そんな事を思いながら、格納庫でインフィに愚痴でもぶつけながら整備をしようと思っているところに、このようなセリフが耳に入ってきた。
「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!」
    プチン♪
 そのような音が自分の体のどこから聞こえるのを自覚しながら、シンは言いようの無い思いが沸き起こってきた。
――我々と言うのは、一体誰と誰だ?
――悲劇を繰り返さない?
――互いに手を取り合って歩む道を選ぶ?
――なら、なんでステラのような存在をお前は、オーブは察知することが出来なかった!
――地球にいながら、平和を謳いながらどうして平和を壊す片棒を担がされようとしている存在に気がついてやれなかった!!
――オーブの理念だけが守れればいいのか!!
――それ以外は関係ないのか!!
――あんたは一体、何なんだ!!正義の味方か!それとも、平和の使者のつもりか!!
 胸に渦巻く思いをぶつけたく、答えを聞きたいと思ったシンは、自分に注目を集めるために、相手を馬鹿にするために拍手をすることにした。
 それには、相手の神経を逆なでする事を願いながら、従来の拍手とはことなる思いを載せながら手を鳴らし合わせた。

 自分に視線が集まったのを感じると、シンは拍手をやめ、作り笑いだと分る笑みを顔につけ言葉を発した。
「さすがさすが。さすが中立を尊ぶオーブの代表。素晴らしいお高説です。あまりにも素晴らしかったものでつい賞賛の意を込めて手を鳴らしてしまいました。が、不躾に会話を中断させてしまったようで、ここに深くお詫びいたします」
「あ、いや、その……………」
 慇懃無礼な態度で謝罪する少年に、カガリはどう対応したらよいのか分らず意味の無い言葉を口にするしかできなかった。
「君は?」
 そんなカガリを庇うように、背に隠しながら、アスラン、いや護衛のアレックス・ディノは誰何の声をぶつけた。
 その声を無視するように、シンは議長の方へと視線を向けた。
「姫。彼はこのミネルバのパイロットで、先ほどのインパルスの専属パイロットでもあるのですよ」
 その視線の意味するところを理解したのか、すぐに議長はカガリ達にそう簡単に説明をすると、促すような視線をシンに送った。
「ご紹介に与った、インパルスのパイロットのシン・アスカです」
「君が…………」
 その紹介を聞いたアレックスであったが、それでもシンに対して警戒の姿勢は解こうとはしなかったが。
 そのようなアレックスの態度を気にした風にも見せずに、シンはにこやかに笑いながらカガリへと声をかけた。
「先ほど、代表はこのようにおっしゃられました。“力など持つべきではない、何故必要なのだ!そんなものが今更!”との事でしたが?」
 シンが、剣呑な光を瞳に宿しているのも気づかず、カガリは弾かれたようにその言葉に噛み付いた。
「当たり前だ!強すぎる力はまた争いを呼ぶ!!」
 その言葉に、シンは先ほどもよりも幾分か温度の下がった声音で応じた。
「なるほど。では、あなたが持っておられる“オーブ代表”という肩書きも一つの強すぎる“力”なのでは?もちろん、兵器と肩書きは次元が違う、などと言う子供の論理をかざされないですよね。あなたもご存知のはずだ。MSでも、政治家でも簡単に人の命を奪うことが出来ると。そこにいたる過程は違っても、行き着く結果は同じものができる、という事を」
 カガリは、シンから投げつけられた言葉にどう対処をしたらよいのか分らず、息をただ飲むしかなかった。
 そんなカガリの様子を気にすることなく、シンは言の刃をじわじわとカガリに向けて振り下ろした。
「もし、それが力だとすれば貴方の言っている事は矛盾になるのではないですか?それにこの艦はプラントの戦艦です。先ほど、あなたが声高に叫ばれていたことは、ここにいる、自分の仕事に誇りを、自信を持っている者たちに対しての最大級の侮蔑に他ならないのでは。ここは、オーブの戦艦ではないのをお忘れなきよう」
 にこやかに、それでいて毒を滲ませたシンの悪意を隠された言葉に、カガリはどう対応したらよいのか分らずに棒立ちの状態になってしまった。
 それを視界の端に収めながら、アレックスは抗議の声を相手にぶつけよとしたその瞬間、けたたましい音が格納庫内に響いた。
『敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ』
 その音が響き、染み込むと同時に先ほどまで大人しくなっていた空気が一瞬で慌しくなってしまった。
「最終チェック急げ!始まるぞ!」
 整備班長のマッド・エイブスの声に促され、整備班員達はそれぞれの仕事をこなすために動き始めた。
「議長。ここで失礼させていただきます。また、先ほどの私の発言に対しての処分は後ほど改めてお受けいたします」
 格納庫の空気に中てられたのか、シンは先ほどとは異なる瞳の色と精悍な顔つきでそういうと、パイロットスーツに着替えるためにロッカーへ向かった。
 真のその発言に頷くデュランダル議長に、レイも敬礼を送るとシンを先導するように格納庫へと飛び降りロッカーへと向かった。
「ああ。そういえば、最後に一つお聞きしたいのですが。代表、あなたは二年前一体どれほどの人間が亡くなり、悲しみを背負い、負の感情を胸に抱いたのか、もちろんご存知ですよね」
「………え?その、あ…………」
「失礼。聞き流していただければ幸いです。では」
 そういうとシンは今度こそロッカーへとその身を向けて飛んでいった。
 不可思議な言葉を置いていったシンの背中を、カガリとアレックスの二人は呆然と見送るしか出来ずにいた。
 そんな二人の耳に、デュランダル議長の耳心地の良い言葉が入ってきた。
「本当に申し訳ない姫」
「えっ」
「彼はオーブからの移住者なので…………」
 そう言葉を放ち、デュランダル議長は言葉をとめたが、そんなことはカガリにとっては関係なかった。
 先ほど、自分に対し非難をぶつけた相手がかつてオーブに住んでいたということが信じられなかった。
 だが、隣のデュランダル議長の顔を見る限り嘘を言っているようには見えない。
 それが、その言葉は真実だと肯定しているように思え、カガリはもう見えなくなったシンの背中を捜すように格納庫へと視線を向けた。


「シン!」
「ああ、言いたい事は分るさ。大人気なさ過ぎたって言うことも重々承知してる」
 ロッカーへと向かう道すがら、先に通路で待っていたレイはシンに先ほどのことについての弁明を求めた。
 返ってきたシンの言葉から、一時的なものであった事を感じ取ると、原因が何だったのかを尋ねることにした。
「……………なにがあった?」
「……………ただ、世界って言うものの不公平さを噛み締めていたところにあの代表様の声が聞こえて、な。こう、プチって………」
「そうか。いけるのか?」
「その辺は大丈夫。さっき言いたい事を言ったから、戦闘には支障は出ないさ」
 そう軽く笑いながら答えるシンの瞳を数秒見つめ、軽く息を吐くとレイはロッカーからパイロットスーツを取り出した。
「その言葉、信頼するぞ」
「信頼には必ず応えるのが俺だぞ」
「そうだったな」
「そうそう」
 二人は軽口を叩きながら、手際よくパイロットスーツに着替えると、ブリーフィングルームへとその脚を向けた。
 その時二人の顔は、戦士の顔であった。


「イエロー50マーク82チャーリーに大型の熱源! 距離8000!」
 センサーを読み取っていたクルーの言葉に、ガーティ・ルーの艦橋に緊張が走った。
「やはり来ましたか」
「ああ。ま、ザフトもそう寝ぼけてはいないって事だ」
 淡々と言うリーに、ネオは肩を竦めながら答えた。
「ここで一気に叩くぞ! 総員戦闘配備、パイロットをブリーフィングルームへ!」
 声を張り上げるネオの眼前の艦橋の窓からは、青い地球を取り巻くデブリの帯―コロニーやMS、戦艦の墓場―が目前に見えていた。


「向こうも、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど。危険な宙域での戦闘になるわ。操艦、頼むわよ」
「はいっ!」
 念を押すタリアの言葉に、操舵士のマリクが緊張した声で答えた。
 そんなミネルバの眼前に広がるデブリベルト。
 宇宙開発が始まって以来、廃棄された宇宙ゴミ、また小惑星の類が、地球の引力に引かれて辿り着いた領域であった。
 ここには、もちろん先の大戦の発端となった『ユニウスセブン』も、いまはこの帯の中に存在する。
 また、大戦の後に流れ着いたMSや戦艦の残骸も所々に漂っている、まさに宇宙の墓場と呼んでも遜色の無い場所だった。
「シンとルナマリア、それとゲイルとショーンのツーマンセル2チームで先制します。レイはいざと言うときに艦の護衛に当たらせます。準備はいいわね?」
「はいっ!」
 タリアの問いかけにメイリンが答え、バートが縮まっていく彼我の距離を読み上げた。
「目標まで6500!」
 その声に弾かれ、艦橋が慌しくなる中で背後のドアが開き、タリアはそこに立っているであろう人物を思い浮かべながら振り返った。
「いいかな、艦長?」
 最初に入ってきたのは、彼女の予想通りデュランダルだった。
 だが、その後ろに続く人物を見て、タリアは自分の予想が甘かった事を思い知った。
「私はオーブの方々にも艦橋に入って頂きたいと思うのだが」
「あ、いえ…………それは………」
 困惑しながら後ろの二人を見れば、明らかに歓迎されていない空気に居心地が悪そうにしていた。
 そんな二人の様子を見て、断固として反対しようとしたタリアだったが、先手を打つようにデュランダルが口を開いた。
「君も知っての通り、代表は先の大戦でも艦の指揮を執り、数多くの戦闘を経験してきた方だ。そうした視点から、この戦闘を見て頂こうと思ってね」
 そのような言葉を投げかけられ、タリアは気難しい表情のままカガリを見た。
 他国とはいえ、そこのトップが手放しで賞賛したにもかかわらず、当の本人はどこか意気消沈した様子で、居心地が悪そうにしていた。
(まあ、代表も実戦を経験しているのだし、指揮官の立場を尊重する事は知っているわよね………)
 まあ、どこかのトップは微妙に尊重してくれていないようだけど。
 そうひとしきり考えると、タリアは小さく溜息を吐いてデュランダルに向き直った。
「……分かりました。議長がそうお望みなのでしたら」
 もし、これで勝手に口を挟むようであれば、その時は艦橋の外に放り出し―――いやいや、丁重にお引取り願えばいいだけだ。
「ありがとう、タリア」
 そのような事をタリアが考えているとは思わないのか、デュランダルは親しげな笑みを浮かべて礼を述べると、未だ固まっている二人を促して後部の席に着いた。
「目標まで6000!」
「艦橋遮蔽!対艦、対MS戦闘用意!」
 タリアの声に応えて艦橋が遮蔽されると、カガリとアスランは驚いた顔になった。
 その中でも、アスランは軍人としての性か、このシステムが理に適っていると考えてしまっていた。
 艦橋部分というのは総じて突出した場所にあり、非常に狙われやすい箇所だ。
 だが、このシステムであれば、例え外から見える艦橋部の装甲を破られたとしても被害は出ない、例え出たとしても最小限に抑えられる。
 アスランがそんな感想を抱いている間にも、MSの発進シークエンスは着々と進んでいた。
「インパルス発進スタンバイ。モジュールはブラストを選択。シルエットハンガー三号を開放します」
「目標、進路そのまま。距離4700!」
 バートの報告を受け、タリアは命じた。
「MS、発進!」


『ルナマリア・ホーク、ザクウォーリア発進スタンバイ。全システムオンライン。』
 そのアナウンスと同時に、両肩をアームで固定されたザクウォーリアが宇宙服を着た整備員のガイドによって発進カタパルトへと移動していった。
『発進シークエンスを開始します』
 そのアナウンスの中、ルナマリアはザクウォーリアのコックピットでシステムの最終調整をしていた。
 その調整を行っている間も、発進準備は滞りなく進められ、発進用の台座にセットされていた。
『インパルス発進スタンバイ、モジュールはブラストを選択、シルエットハンガー3号を開放します。』
 そのアナウンスで3と書かれた最上段の扉が開き中から後部のミサイルランチャーとビーム砲が一体化した兵装が左右に1対接続された飛行体が取り出された。
『プラットホームにセットを完了、中央カタパルトオンライン、気密シャッターを閉鎖します。』
 そのアナウンスと同時に発進時のトラブルに影響が出ないためにと設置された透明なシャッターが閉まり完全に遮断された。
『コアスプレンダー全システムオンライン、発進シークエンスを開始します。ハッチ開放、射出システムのエンゲージを確認』
その言葉と同時にインパルスの発進準備が完了した。

 そのアナウンスを聞きながら、シンはコロニーでの戦闘の事を思い出していた。
「インフィ」
『なんだ?』
 シンの呟きに、コアスプレンダーのコックピットにシン以外の声が響いた。
 シンの相棒である、サポートAIのインフィニティーの声であった。
「あの黒いの、出て来ると思うよな」
『肯定だ。なぜなら、そこまでの痛手を我々は与えることができなかったのだからな』
「一言多いよ。で、だ。デブリ内での戦闘を考えると……………」
 シンの確認の声に、インフィはそう現実を突きつけるように応えた。
 それに苦笑しながら、シンはコロニー内での相手の機動性のよさを思い出していた。
 三機で相手にしても手傷らしい手傷を与えることが出来なかった。
 そんな相手にどうすればよいのか、と考えるシンにインフィは声をかけた。
『ブラストでは心許ないな』
「だよな〜。だから、インフィ、お前に頼みがあるんだけど」
『なんだ?』
 インフィの言葉に肯定を返すと、シンは自分が考え付いた事を話し、やってみる価値があるかどうかを尋ねた。
 それにインフィが肯定の声を返すと、シンは急いでメイリンへと自分の考えを伝えるために通信を繋げるのであった。

「スラッシュザクウォーリア、カタパルトエンゲージ」
 メイリンが告げ、赤いザクがカタパルトから射出された。
 MMI-M826「ハイドラ」ガトリングビーム砲を二門装備した、格闘戦仕様のスラッシュウィザードを装備したザクだった。
 これから向かう戦場が、デブリ帯という限定空間であることから、砲戦仕様の「ガナー」よりも機動性と攻撃力の安定したこのウィザートが本作戦では採用されたのだった。
「続いて、インパルス、どうぞ!」
 そのメイリンの声に弾かれるように、眼下から一機の戦闘機が、続けて三基のユニットが射出された。
 コアスプレンダーを中心に、チェストフライヤー、レッグフライヤーが合体して人型となり、その背面にブラストシルエットが装備される。
 それは、MSの身の丈ほどもある巨大な砲身を持つM2000F高エネルギー長射程ビーム砲『ケルベロス』を始め、レールガン、誘導ミサイル等を装備した砲戦仕様の装備であった。
 この装備から分るように、ルナマリアが前衛、シンが後衛であることがわかるだろう。
 シルエットが装備されると、インパルスは鉄灰色から暗緑色を基調とした色へと変化した。
 インパルスを始めとするセカンドステージシリーズは、VPS(可変相転移)装甲を採用している。
 これは電圧によってPS装甲の色を変えるもので、その強度もまた変化する。
 簡単にその強度を表すと、黒<青<赤といった形となり、赤に近い方が強度も増すが、その分消費電力も大きくなるのが特徴だ。
 そしてインパルスの場合、各シルエットによって消費エネルギー量が違う為、こうしてPS機能を制御する事で活動時間を延ばしている。
 そして、ザク、インパルスに続いて、二機のゲイツRと、中央カタパルトから飛び出た何かも発進し、デブリ帯へと向かって行った。
 その様子を見ながら、デュランダルはポツリと呟いた。
「ボギーワン、か………」
 突然、脈絡も無いことを語りだすデュランダルに、隣に座るアスランが奇異の目を向けるが、デュランダルは気にした様子もなく話を進めていった。
「あの艦の本当の名は、何と言うのだろうね?」
「は?」
 急に話を振られたアスランは戸惑った声を出すが、なおもデュランダルは言葉を続けた。
「名はその存在そのものを示すものだ。ならばもし、それが偽りだとしたら…………」
 急にこんな場所で実存主義的な事を言い出す彼を訝しく思っていたアスランだったが、それは次に彼が落とした爆弾で完全に吹き飛んでしまった。
「それは、その存在そのものも偽りという事になるのかな?アレックス……いや、アスラン・ザラ君?」
 その言葉にアスランが息を呑み、カガリが目を見開く中で、デュランダルは満足そうに正面モニターに視線を戻した。


―後書き―
 とある聖戦(口の悪い者達は“お菓子会社の陰謀”と言いますが)に参加していた者たちと、かなりエキサイトした一日を過ごしたANDYです。
 いや〜、生でパッパラ隊のノリを目に出来るとは思いませんでした。
 いえ、本当に変身しそうでしたよ。
 まあ、ウォッカや焼酎などをちゃんぽんしたのを飲めば変身してもしょうがないでしょうけどねw
 さてさて、今回は皆さんがお楽しみにしていたカガリとの初戦でしたが、どうでしたでしょうか?
 現状のうちのシン君ではそうそう突っかからないだろうな〜、と思ったために軍医さんに搭乗していただきました。
 女医さんです。皆さん、どうでした?
 まあ、彼女もこれからの物語では色々と頑張ってもらいますので、応援お願いいたします。

 では、恒例のレス返しを

>九重様
 感想ありがとうございます。
 お久しぶりですね。
 修羅場が楽しみって…………ガンバリマス、ハイ。
 これからも応援お願いいたします。

>シヴァやん様
 感想ありがとうございます。
 まあ、バタフライ効果はもう心配しない方向で行くようですよw
 ヴィーノ君ですが、彼っていらない一言で痛い目にあいそうなイメージを持ってしまったもので、あのような言葉が出てしまったんですw
 で、その素敵な自動翻訳機能は何とかした方がよいのではw
 そうしないと、私に悪影響を与えてピンクになってしまいそうではないですか!!(核爆)
 これからも応援お願いいたします。

>花鳥風月様
 感想ありがとうございます。
 よし、ついて来い部下一号!w
 というのは、冗談として。
 私のオリ設定に賛同していただきありがとうございます。
 まあ、色々と種をまいていますので、それが芽吹くのを楽しみにして置いてください。
 これからも応援お願いいたします。

>Ayaka様
 感想ありがとうございます。
 今回のカガリとの初戦はどうだったでしょうか。
 なにか、奇襲をした形になったので本当の勝利ではないかもしれませんが、こういう意見も出てもおかしくなかったのではないかと思いこうなりました。
 さてさて、護衛のアレックス氏はどういう意見を出してくれるのでしょうかね。
 これからも応援お願いいたします。

>へろ様
 感想ありがとうございます。
 ケーラ嬢にそのように感じていただけて私としてはうれしい限りです。
 彼女の素性や目的は、段々と明らかにしていきますのでお楽しみに。
 電波ですが、まあ、その辺はその内出すということでw
 これからも応援お願いいたします。

>3×3EVIL様
 感想ありがとうございます。
 なるほど。そのような見解の仕方もあるのですね。
 まあ、ケーラは色々と屈折しているところがありますので、あながち間違っていないですよ。
 これからも応援お願いいたします。

>御神様
 感想ありがとうございます。
 今回修羅場は発生しませんでしたw
 期待されていたら申し訳ないです。
 今回のカガリとの絡みはどうだったでしょうか。
 このようなやり取りもありでは?と思ったのですが。
 これからも応援お願いいたします。

>Kuriken様
 感想ありがとうございます。
 修羅場な雰囲気は維持したまま次回へと続くですw
 まあ、まだステラの意識が回復していないのでしょうがないですよね。
 ケーラ嬢の認識は、あながち間違っていないように思えたのでそのようにいたしました。
 まあ、実物を知っているのと書類上しか知らない者の違い、と思っていただければ幸いです。
 これからも応援お願いいたします。

>T城様
 感想ありがとうございます。
 今回のカガリとの絡みはどうだったでしょうか。
 あのような思いの基でカガリへと絡んでしまいました。
 ある種の八つ当たり、と言われてもしょうがないのですがね。
 これからも応援お願いいたします。

>TNZK様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 宇宙戦は次回ですのでお楽しみに。
 ケーラ嬢は、これからどのような運命を歩くのか、お楽しみにしていてください。
 これからも応援お願いいたします。

>輝翔様
 感想ありがとうございます。
 私の設定に嫌悪感を持っていただけたようで、うれしい限りです。
 まあ、ソキウスシリーズを造るぐらいな組織ですからね。人権?なにそれ、おいしいの?と言うノリなのでしょう。
 これからも応援お願いいたします。

>ダレカ様
 感想ありがとうございます。
 電波な方々は、まあ、そのうち再登場と言うことで。
 これからも応援お願いいたします。

>直樹様
 感想ありがとうございます。
 ステラはこれから一体どういった運命を歩くのか、私もどきどきしています。
 本編があまりにもあれだったので、幸せになってもらいたいと思っているのですがね。
 これからも応援お願いいたします。

>柿の種様
 感想ありがとうございます。
 突っ込みたいけど突っ込めない、これこそ論破ですよ!!(え?違う?w)
 また、今回の作戦は思いっきり国際法違反です。
 まあ、彼らの頭の中ではコーディネイターを同じ人間とは考えていないので違法行為とは思っていないのかもしれませんが。
 これからも応援お願いいたします。

>桑ジュン様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 これからも頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

>葱ンガーZ様
 感想ありがとうございます。
 母体云々についてですが、まあ、ここで大っぴらにいうと削除されかねないかも知れませんが、説明させてもらうと、大量の薬物を注入した結果できた卵子と精子を使うことで、初期段階で母体と似た能力を有するのか。また、もし有していた場合、それ以上の投薬等が可能になるのでは、という考えが研究者の間にはあるようなのです。
 また、成長促進の技術がある(その際たる例がラウ・ル・クルーゼです。彼はフラガ氏が十歳ぐらいの時にクローニングされたにもかかわらず、彼と初対面の時ほぼ同じ背丈に知性を有していました。このことから、人を大量生産するすべがある、と私は判断してそのような設定を生み出しました)ので、第二世代の製造はそう難しいことではないのではないでしょうか。
 なにか、長い文章になってしまいました。
 これからも頑張るので応援お願いいたします。

>蓮葉 零士様
 感想ありがとうございます。
 今月のアストレイは、本当にスパロボの乗りでしたねw
 ですが、ミナ様の組織がターミナルなのでしょうか。
 もしそうだとすると、デスティニー終了後どのような思いをもたれたのでしょうか。
 その辺は本当に千葉先生の手腕に期待ですよね。
 ステラですが、その設定を汲ませてもらいたいと思います。
 そうですね、私の設定だけではパンチが弱かったのでこれで何とかなりそうです。
 これからも応援お願いいたします。

>ATK51様
 感想ありがとうございます。
 ケーラですが、まあ、彼女の言葉に負けないように成長していけたらよいな、と思いますので。
 シンを応援してやってください。
 これからも応援お願いいたします。

>ユキカズ様
 感想ありがとうございます。
 ケーラに恐怖を感じていただけたようで、うれしい限りです。
 シンのラッキースケベイベントですが、まあ、その辺はお楽しみに、と言うことで。
 これからも応援お願いいたします。

>カシス・ユウ・シンクレア様
 感想ありがとうございます。
 エクステンドに対する考えが、同じようで少しうれしく思いました。
 まあ、彼等彼女達を人間と思っていたのが果たして何人ぐらいいたのでしょうかね。
 ケーラ嬢は、これからどのような運命を歩むのか。
 これからも応援お願いいたします。

>HAPPYEND至上主義者様
 感想ありがとうございます。
 今回の話はどうだったでしょうか。
 ご希望のルナマリアとステラの掛け合いはありませんでしたが、カガリとシンの絡みはどうだったでしょうか。
 また、ケーラ嬢の『闇』がどのようにして生じたかなどをこれからの話の中で明かしていきますので、楽しみにしてください。
 これからも応援お願いいたします。

>ひねくれちゃったカエル様
 初めまして。感想ありがとうございます。
 ご指摘の点、大変参考になりました。
 これからの作品作成のうえで参考にさせていただこうと思います。
 これからも応援お願いいたします。

 今回も多くの感想をいただけてうれしく思います。
 もう、二月も終わり三月が目前です。
 皆様それぞれ忙しい時期だと思いますが、体には気をつけてください。
 では、また次回もお楽しみに。

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