前回のあらすじ。
ちょっとだけ自分の所為な気もしなくは無い不条理展開によって部屋を失った俺、式森和樹。
空き部屋に移り住んだのはいいが、もれなく憑いてきた幽霊幼女は例によって災厄の種だった。
ノーマル嗜好の俺には毎朝の強制緊縛プレイは正直辛いっす。
――――誰かが言った、災厄は忘れた頃にやってくる。
それは朝のまどろみをぶち壊しながら登場した。
「先輩ッ!!」
「ど、どうしたの凛ちゃん?」
ドゴーン、といっそあり得ない擬音を伴って凛ちゃんが部屋に入って来る。
ずいっと突き出されたのは弁当箱。
「食べてください、私が作りました」
ひきっ、と顔が引きつる。
「………………何で?」
「一言で言うと毒味役です」
なあ、凛ちゃん。そこは普通味見役だと思うんだけど、もしかしてお兄さん耳がおかしくなっちゃったのかな?
「自分で味見は?」
「出来る筈無いではありませんか」
ちょっと待て。自分でおかしいと気付こうよ、そのセリフッ!
「前に誰かに味見してもらった事ある?」
「はい。以前父に味見して貰った所、一週間ほど昏睡状態に陥りました。それ以来誰かに食べさせた事はありません」
「そんな物捨てなさいッ!?」
「そんな……せっかく作ったのに……」
そう呟き、涙目で俯く凛ちゃん。
うわーい、めっさ卑怯くせー。
「……ちなみに食べさせたい相手って誰?」
無駄な努力と知りつつも、必死の話題変換を試みる俺。
「えっと……その、今度……と言うか、もう明日なんですが、転校する先輩にですね……その……部活の先輩なのですが……」
もじもじと顔を赤らめ俯くその姿は小動物系で非常に可愛い。ぶっちゃけ萌え。
が、だからと言って致死性毒物を食べるのはキツイ。
「おじさんが昏睡に陥ったんだよな……」
「大丈夫です。先輩ならきっと平気です!」
「だからその根拠の無い自身は止めてぇぇぇぇ!!」
そして弁当の方が大丈夫とは言わない所がとてもステキですよアナタッ!?
「食べてもらえないんですか……?」
凛ちゃんが上目遣いで見つめてくる。
ぐはっ、攻撃力高すぎッ!? い、いや、ここで負けたら俺の人生が終末風味に奈落へダイブしてしまう。耐えろ! 耐えるんだ俺!!
「……先輩」
ぐすっ、と涙ぐみながら俺の目を覗き込んでくる凛ちゃん。
「がふッ!?」
俺の脳髄にクリティカルヒットなその一撃は必中判定&防御貫通、AGI型でHPの低い俺には一撃すら耐えられる筈がありえねぇ!
「食ってやるさ、ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」
血の涙を流しながら箸を手に取り、おかずを口に放り込み――――
――――気付けば何処かの道場の中に居る俺。
何故に? と言うか、これって士郎ん家の道場だよな?
「おおカズキ、死んでしまうとは情けない!」
「あっさりポックリとデッドエンドを迎えた運命被虐体質な主人公の味方、タイガー道場へようこそ!」
そして唐突に現れる袴の虎とロリっ娘ブルマー。
「何してんだ、藤村&イリヤ」
思わず素で応える俺。
「師匠と呼ばんかバカモーン!」
バシーン!
「げふっ! ぶったね!? 父さんにもぶたれた事ないのに!」
なお、ぶたれた事は無いがぶった事はあるというのは公然の秘密だ。ちなみに相手は式森父。
「やっかましい! この道場では師範は絶対! わたくしイズルール!」
「なにゆえ!? と言うか、この理不尽さは……ま、まさか! ここがあの有名な不条理な結末と突然死の吹きだまり、Q&AとかFateの肝などと銘打っていながら実際には何の役にも立たないという全然幻じゃない幻のおまけコーナー、タイガー道場!」
「その通り、って言うか最初にタイガー道場って言ってるしね! それと例え事実でも改めて言われると腹が立つのよ。と言うわけで――――ちぇすと!」
バシーン!
「ぐはっ! なんたる横暴……流石はタイガー……」
「わたしを虎と呼ぶなー!!」
GAOOOOOOOOON!!
バシバシと乱れ飛ぶ竹刀、竹刀、竹刀。
「がふっ! げふっ! ごふっ! ぐふぉっ!?」
そして風に吹かれる柳の如く踊り狂う俺、俺、俺っていうか永久コンボって感じでむしろオーバーキル一直線!?
「あー、師しょー。話が進まないんでその辺にしておいた方がいいっす」
「む、確かにそうね」
「うむ。俺も既に若干貧血気味なので、これ以上の吐血は勘弁してプリーズ」
幾ら最近不死身属性が付いたとはいえ、流石にリカバリーが追いつかん。
「さて、今回カズッキーが死んだ理由だけど」
「ぶっちゃけ致死性毒物を食べた所為っす。言い換えるなら帯剣娘の上目遣いに負けたから。萌えか、萌えが悪いのか!?」
「つまり自業自得ね」
「色々とツッコミ所は多いが敢えて言わせて貰おう――不可抗力! と。って言うかあんなもんどうやって回避せーっちゅうねん!」
「甘いわぁぁぁ!!」
バシーン!
「ぐはっ!」
「そこをあえて切り捨ててこそ主人公! 帯剣娘はあくまでヒロイン”候補”だからフラグは幾ら潰してもモーマンタイ!」
「でも師しょー、読者様の意見を取り入れてヒロインに復活するかもーって作者が言ってたっす」
「なにー!? おのれ作者、それはヒロインに復帰できなかったわたしへの当てつけか!?」
「アンタがヒロインだった事など有史以来一度も無いぞ」
バッシーン!!
「ぐふぉっ!」
「はっはっは、正直者は叩かれるぞ?」
「叩いてる! 既に叩いてるよ!?」
「あれ、師しょー? 御上から指令書が届いてるっす」
「なんと! 読んでみるがいい弟子一号」
「はーい。えーと、『和樹のデッドエンドはまだ先なので適当に追い返しておいて』だそうです」
「既に俺デッドエンド確定済み!?」
「むむ、この根性なしを鍛え直してやりたかったが、御上の命とあらば致し方ない」
そう言って取り出されたのはやたらおぞましいフォルムの鎖付き鉄球。俗に言うモーニングスター。所々に付いた赤黒いシミが歴史と実績を感じさせてワンダフルかつデンジャラス。
「むぁじっくも〜にんぐすたー『おはようマイマザー☆一番星くんグレート』〜!!」
どことなくドラえもん風に掲げられるその凶器。滲み出す威容と禍々しいオーラはまさに特級の概念武装として恥じない!
「一番星くんグレート……聞いたことがある」
「知っているのか、テリーマン!」
向こうのイリヤでは考えられないノリの良さで応えるロリっ娘ブルマー。
「とある異世界の凶魔術師によって造られたマジックアイテム。その力はどんな深い魔法の眠りも覚ますが、対象が狸寝入りをしていた時は逆に永眠させるという……!」
「うむ。よく知っているな弟子二号(予定)」
「と言うかちょっと待て激しく待てものっそ待て! アンタの獲物は妖刀虎竹刀だろーが! 何で俺の時だけそんな物騒極まりないもんに変わる!?」
「うむ、よくぞ聞いた! 実はこれは作者お気に入りのアイテム。何処かで使いたいと思っていた所、ちょうどいいやと今回登場と相成った秘蔵の一品なのだ!」
「死にくされ作者ァァァァァァ!!」
「ふっ、何の因果かマッポの手先。所詮わたし達は御上には逆らえないのよ。――と言うわけで」
「逝って来い大霊界!」
「アビゲイルゥゥゥ…………ホォォォォォォォムランッ!!」
ドグシャ!!
「「あ」」
道場内に満ちる嫌な沈黙。
「死しょー、やりすぎっす。吹き飛ぶ前に砕け散っちゃいましたよ」
「うむ、仕方ないので黒いビニール袋に入れて表に出しときなさい。あと死しょー言うな」
バシーン!
「痛いっす、師しょー……」
「――ハッ!?」
「あ、気が付きましたか先輩?」
「うむ、気が付いた。そしてトンデモナイ夢を見た。もうとにかく支離滅裂で、トンデモナク楽しい夢な筈も無く、トンデモナク怖い夢というわけでもないかも知れない。それさえも確かじゃないぐらい、支離滅裂な夢を見た」
「…………何を言ってるんですか、先輩?」
「単なる電波だから気にしないように。それより俺は何ヶ月くらい昏睡してたんだ?」
「いえ、精々半日くらいです。やはり流石ですね、先輩」
「うむ、全く嬉しくないな。それより凛ちゃん」
「何でしょう先輩?」
「――――特訓しよう」
「と、言うわけで。凛ちゃんを殺人者にしない為の突発的料理教室。講師その一の式森和樹です」
「講師その二の宮間夕菜です」
「その三の風椿玖里子よ」
「よろしくお願いします!」
「さて、そうは言っても件の先輩が転校するのは何と明日。一晩で劇的に料理が上達するわけもない。よって、裏技を使います」
「裏技……ですか?」
怪訝そうな三人を捨て置いて調理に取りかかる。
「まず予め炒めておいたみじん切りの玉葱、挽肉、卵、パン粉、牛乳をボウルに入れて……はい凛ちゃん、手でこねる!」
「は、はい!」
材料の入ったボウルを凛ちゃんに渡し、こねている間にフライパンを火に掛ける。
「そして十分混ざったら小さく丸めて油を引いたフライパンに乗せます。凛ちゃんフライパン持って」
「わわ、判りました!」
ボウルから適当にタネを取り、丸めてフライパンへ。フライパンを凛ちゃんに持たせ、動かないように固定させる。
「…………で、適当な所で裏返して、焼き上がったら皿に移します」
フライ返しを使って適当にひっくり返し、焼き上がった所で凛ちゃんに皿へ移させる。
「フライパンに残った肉汁にウスターソースとケチャップを加え……はい凛ちゃんソースを混ぜる!」
「は、はいー!」
ガシュガシュと力みまくった仕草でソースを混ぜる凛ちゃん。それを尻目に塩胡椒で味を調える俺。
「それではソースを掛けて……ミニハンバーグ完成! さ、食べてみて」
「お、美味しいです!」
「そうだろう、そうだろう。何せ裏技だからな!」
「す、凄いです先輩!」
この裏技のポイントは味に関わる部分を凛ちゃんにやらせない事だ。我ながら画期的すぎて惚れ惚れする。
「ねえ玖里子さん、あれって……」
「言わぬが華よ、夕菜」
後ろで夕菜と玖里子先輩が微妙な会話をしていたが、それなら一晩で凛ちゃんに美味しい料理を仕込む方法を教えてくれと訴えたい。
「卵焼きが出来たぞ!」
「あむ……美味しいです先輩!」
ちなみにこのやり取りは弁当が完成する明け方まで続いたと言う。
「で。いいのか、渡さなくて」
「いいんです。部長の笑顔を見ていたら、渡す気が無くなってしまいました」
そう言って微笑む凛ちゃんの手には、夕べ(というかむしろ今朝)作った弁当。
結局原作通りに凛ちゃんは弁当を渡さなかった。
まあ、予定調和と言う事なのだろうか。
「先輩」
「あ、何?」
「これ、先輩が食べてください」
そう言って突き出される弁当箱。
何というか、妙な因果律でも働いてそうな程に予定調和デスネ?
「おっけ。ありがたく頂くよ、凛ちゃん」
(ほとんど自分で作ったので)安心して食べ始める……が、一口食べた途端違和感に気付く。
うん、おかしいな。何でこんなに不味いんだ、これ?
例えるならラー油と唐辛子を百年間ぐらい煮込んで合身事故のあげくオレ外道マーボー今後トモヨロシクみたいな。
――ってそれは泰山の麻婆だろうが。落ち着け俺、思考回路がオカシクなってるぞ。
夕べ味見した時は普通の味だったはずなのだが……もしや凛ちゃんは弁当箱に詰めるだけで料理を不味くするスキルでも持っているのか?
いや待て待て、ここは発想の転換をするべきだ。
曲がりなりにも人間の食べ物になっているだけで奇跡だと知れ。ちなみに判断基準は一口食べて倒れるか否か。
どのくらい奇跡かと言うと、何処かの雪国で羽付きリュックを背負った少女が消えてるかも知れないくらいだ。
「あ、わたしにも味見させてください」
「それじゃわたしも」
「あ、わたしも一つ……」
……止めといた方がいいと思うが。
「「「…………うぇ」」」
予想通り顔をしかめる三人。
「よく食べれるわね、それ……」
「まあ、凛ちゃんの手作りだから」
「先輩……」
妙に感慨深い声で呟く凛ちゃん。
背後では玖里子先輩が『ほとんど和樹が作ったような気が……』などと言っているがスルー。そんな事言う人、嫌いです。
で、残った夕菜はと言うと。
「…………凛さん、何赤くなってるんですか」
「え、赤くなって? ……って、わたしがですか?」
言われた凛ちゃんが頬に手を当てる。そこが微かに熱を持っている事に気付いたのだろう、不思議がる様子で首を傾げた。
……やっぱ小動物系だな、うん。
「そ、その反応……まさか…………」
で、こっちでは悪魔系とか破壊神とか例えられそうな人物が、俯いたままプルプルと震えているわけで。
まあ、一言で言うなら夕菜・ザ・デビルキシャー降臨間近! みたいな。
「和樹さんの浮気者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして吹き飛ぶ俺。
ワンパターン、カッコワルイ。
翌日。
「ぐぉ……ぉ……ま、まさか遅効性とは……」
緊急入院三日間。
何故弁当箱に詰めただけでここまでの破壊力を生み出せるのか不思議でならない。
「安心しろ式森。死んで幽霊になったら妾が家臣に取り立ててやるからな!」
――――誰かが言った、災厄は忘れた頃にやってくる。
<<補足という蛇足>>
今回はお休み
<<あとがきという言い訳>>
今までの憂さを晴らすが如きハイテンション――と言うより二回宙返り一回転捻り=ムーンサルトなテンションで第六夜をお贈りしました。
まずはレス返しです。
>3×3EVILさん
作者の意図を外れて玖里子先輩が作中唯一の良心になりつつあります。そして反比例するように壊れていく和樹。ああ和樹よ何処へ行く。
ちなみに本作、設定に関してはシリアス前提で作られていたり。何処でギャグ作品に変わったんだと自問自答。
>kjさん
まあぶっちゃけ意味はありません(ぉ
いえ、血文字自体には意味がありますが、内容がアレなのは単なるネタですのでー。
和樹の不幸スキルはEX++くらいにはしたいと作者は考えています。それもまたキャラに対する深き愛ゆえの事。
>D,さん
もれなく死徒化+魔法使いとの全面戦争が待ち受けてそうですが……はて、どちらの方がマシなのでしょう。
いっそ軽犯罪で少年院にでも行くのが一番幸せだったり?(激しくマテ
>芳紀さん
一言で言うならリスクマネージメント。無視した場合、(キシャー含めて)和樹の所に面倒事が大フィーバーすること間違い無しなので。まあ誤算の結果ああなりましたが。
等価交換に関してはブルーがそんな事守る筈が無い和樹は理念的には魔術使いなのであまり気にしては居ないのです。
>雷樹さん
流石に蛇語は無理ですが、何となく魂で会話とかしそう。バジリスクもヴォルデモートの手下として苦労してそうですし。
型月世界でバジリスクはかなり上位の幻想種ですから、かなり高く売れそうですね。そして黒桐くんの給料がまた未払いになる、と。
予告通り凛(お弁当)編……なのですが、はて、何故1/3がタイガー道場と化しているのでしょうか?(汗
それにしても今回ネタだらけと言うか、むしろそれだけで構成されてると言ってもいいくらいに寄せ集め。タイガー道場に至ってはFateを起動してタイガー道場全四十話を読み直しまでしたのに全く原型を留めていない。あとがきを書いていて思うことは『何でこんなテンションおかしいの自分?』。誰か助けてプリーズ。
ちなみに作中で和樹が凛の弁当を平気で食べてたのは、青子の料理で慣れている為。破壊に掛けては一級の魔法使いは料理も破壊的。
さて、次回は恐らくかなりシリアス寄りになるであろうベヒーモス編。
そして本編突入後初の本格的な型月キャラ登場回になる予定です。誰が登場するか予想してみてください……と言ってもバレバレかも知れませんが(汗
以上、あとがきという言い訳 by ドミニオでした。
BACK< >NEXT